表示装置
【課題】耐圧の限られたTFTをスイッチング素子として用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能な表示装置を提供する。
【解決手段】各表示素子について、2つの信号線S1およびS2を設ける。そして、素子容量Cpを構成する一方の電極4と他方の電極5とを異なるスイッチング素子を介して異なる配線に接続する。また、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質を用い、両基板に互いの吸収軸方向が直交するようにそれぞれ偏光板を設け、両偏光板の吸収軸方向を電極4および電極5の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度とする。
【解決手段】各表示素子について、2つの信号線S1およびS2を設ける。そして、素子容量Cpを構成する一方の電極4と他方の電極5とを異なるスイッチング素子を介して異なる配線に接続する。また、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質を用い、両基板に互いの吸収軸方向が直交するようにそれぞれ偏光板を設け、両偏光板の吸収軸方向を電極4および電極5の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧駆動が可能な表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、各種表示素子のなかでも薄型で軽量かつ消費電力が小さいといった利点を有している。このため、テレビやモニター等の画像表示装置や、ワープロ、パーソナルコンピュータ等のOA(Office Automation)機器、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の情報端末などに備えられる画像表示装置に広く用いられている。
【0003】
液晶表示素子の液晶表示方式としては、従来、例えば、ネマチック(ネマティック)液晶を用いたツイステッドネマチック(TN)モ−ドや、強誘電性液晶(FLC)あるいは反強誘電性液晶(AFLC)を用いた表示モード、高分子分散型液晶表示モ−ド等が知られている。また、基板面に対して平行な方向の電界を用いて表示を行うIPS(In-Plane Switching)モード(横電界駆動方式)が知られている。
【0004】
これらの液晶表示素子において、応答速度を向上させるためには、駆動電圧を高くすることが有効である。特に、IPSモードでは、開口率や応答速度を向上させるために、駆動電圧を高くする傾向にある。
【0005】
ところが、従来の液晶表示装置に適用されているTFT(スイッチング素子)構造(TFTを含む回路構成)は、高駆動電圧には不向きである。
【0006】
ここで、従来の液晶表示装置における回路構成が、高電圧駆動に適さない理由について説明する。図17は、従来のIPS方式の液晶表示装置に備えられる表示素子100の概略構成を示す断面図である。この図に示すように、表示素子100は、2枚のガラス基板(基板101および102)の間に挟持された誘電性物質層103に、液晶(図示せず)が封入されてなる。また、基板101における基板102との対向面には、誘電性物質層103に電界を印加するための信号電極104および対向電極105が互いに対向配置されている。さらに、基板101および102における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板106および107が備えられている。そして、この液晶表示装置は、両電極間に電圧を印加することによって形成される電界により、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行うようになっている。
【0007】
また、図18は、上記の液晶表示装置に備えられる、スイッチング素子TFTを用いた画素等価回路図であり、図19は、表示素子100の画素構造の模式図である。これらの図に示すように、上記の液晶表示装置では、信号電極104と対向電極105とが素子容量Cpを構成しており、信号電極104はスイッチング素子TFTを介して信号線Sに接続され、対向電極105は対向電極線Cに接続されている。また、スイッチング素子TFTのゲート電極は、走査線Gに接続されている。なお、図19に示すように、両基板101・102にそれぞれ設けられた偏光板106・107は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と両電極104・105の対向方向(電界方向)とが約45度の角度をなすように備えられている。
【0008】
このような構成からなる従来の液晶表示素子において、対向電極線Cに印加する電圧をDC(直流、一定)とし、信号線Sに印加できる電圧のダイナミックレンジをVppとすると、表示素子100(素子容量(素子)Cp)の安定駆動を意図した交流駆動を行うことにより、表示素子100に±Vpp/2の電圧を印加できる。すなわち、対向電極線Cに印加する電位を一定(Vpp/2)とし、信号線SにVpp〜Vpp/2の範囲の電圧を印加した場合には、表示素子100にVpp/2〜0(=信号線Sの電圧−対向電極線Cの電圧)の電圧が印加され、信号線SにVpp/2〜0の範囲の電圧を印加した場合には、表示素子100に0〜−Vpp/2の電圧が印加される。
【0009】
ところで、このような液晶表示装置において、表示素子100に印加できる電圧を大きくし、駆動電圧を高めたい場合、対向電極線Cに印加する電圧をAC(交流)にすることが考えられる。例えば、対向電極105(対向電極線C)に印加する電圧を0〜Vppで交流化する。この場合、信号線Sに印加される電圧をVpp〜0とし、対向電極線Cに印加される電圧を0とすると、表示素子100にVpp〜0の電圧が印加される。一方、信号線Sに印加する電圧をVpp〜0とし、対向電極線Cに印加される電圧をVppとすると、表示素子100に0〜−Vppの電圧が印加される。すなわち、対向電極線Cに印加する電圧を0〜Vppの範囲で交流化することにより、0〜±Vppの範囲の電圧を表示素子100に印加でき、表示素子100に印加する電圧を都合2倍にできる。
【0010】
なお、対向電極線Cに印加する電圧をACにしても、駆動電圧が不足する場合には、信号線Sから供給することができる電圧のダイナミックレンジVppを増強する必要がある。つまり、対向電極105に印加する電圧の交流化および信号線Sに印加する電圧のダイナミックレンジVppの増強により、表示素子100の高電圧駆動化を図ることができる。
【0011】
しかしながら、この場合には、走査線Gに印加する電圧が大きくなってしまい、スイッチング素子TFTの耐久性が低下するという問題がある。この問題について、図20および図21を用いて説明する。図20は、上記従来の液晶表示装置における、異なる走査線Gに接続された、隣接する2つの画素(画素11および画素12)についての等価回路図である。また、図21は、画素11および画素12における、各部の電圧状態の一例を示したタイミングチャートである。
【0012】
図20に示す構成では、図18に示した表示素子100の回路構成からなる画素(表示素子)11および画素(表示素子)12が隣接して配置されている。そして、この画素11および12における素子容量Cpは、一方の電極がスイッチング素子TFTを介して共通の信号線Sに接続されており、他方の電極が共通の対向電極線Cに接続されている。
【0013】
このような構成では、例えば、図21に示すように、画素11において、対向電極105の電位(対向電極線Cの電位)が0、信号電圧(信号線Sに印加されている電圧)がVppの状態で、スイッチング素子TFTをオンにすると、ドレインDの電位がVppとなり、Vppが書き込まれる。そして、この状態からスイッチング素子TFTをオフにしても、隣接する画素12に対して逆極性で書き込んでいない場合、すなわち、対向電極線Cの電位が0のままの場合には、ドレインDと対向電極線C(対応電極)の電位差は、Vppで保たれる。
【0014】
しかしながら、隣接する画素12において、逆極性での書き込みが行われる場合、すなわち、対向電位(対向電極線Cの電位)がVpp、信号電圧が0の状態でスイッチング素子TFTをオンにした場合、画素11におけるドレインDの電位は2Vppとなる。これは、画素11と画素12とで対向電極線Cが共有されており、また、画素11における素子容量(画素容量)Cpの両端子間の電位差は不変であるためである。
【0015】
つまり、画素12を書き込むために対向電極線Cの電位をVppとすると、画素11および画素12における対向電極線Cは共通(すべてつながっている)なので、画素11の素子容量Cpにおける対向電極線C側の端子の電位はVppとなる。一方、画素11はスイッチング素子TFTがオフとなっているので、素子容量Cpに充電された電荷はどこにも逃げ場がなく、素子容量Cpの両端子間の電位差は一定に保たれる。このため、対向電極線C側の端子における電位が変動すると、その変動幅と同じ分だけドレインD側の端子の電位が変動してしまう。
【0016】
なお、図21に示したように、画素12に0を書き込んだ後、スイッチング素子TFTをオフにした状態において、他の画素にVppを書き込むために対向電極線Cの電位が0とされると、画素12におけるドレインDの電位は−Vppに下がってしまう。
【0017】
このように、従来の液晶表示装置に備えられる回路構成では、他の画素を逆の極性で書き込む場合に、ドレインDの電位が、書き込み時の電位(上記の例では、Vppまたは0)から大きく変動する(上記の例では、2Vppまたは−Vppに変動する)という問題がある。
【0018】
なお、各画素を正確に駆動させるためには、上記のようにドレイン電位(ドレインDの電位)が変動しても、スイッチング素子TFTを正確にオンおよびオフさせる必要がある。このため、走査線Gに印加する、スイッチング素子TFTをオンするための電圧(ゲートオン電圧)とオフにするための電圧(ゲートオフ電圧)との差を、ドレイン電位の変動分だけ大きくする必要がある。
【0019】
しかしながら、走査線Gに印加する電圧が大きくなると、スイッチング素子TFTの耐久性が大きく低下してしまう(例えば、チャネル部のオフ電流が上昇する)。したがって、特に、信号線Sに印加する電圧のダイナミックレンジVppを増強した場合には、スイッチング素子TFTに与えるダメージが大きくなるという問題がある。
【0020】
したがって、従来の液晶表示素子において液晶層に印加できる駆動電圧は、スイッチング素子としてのTFT(thin film transistor、薄膜トランジスタ)の耐圧特性によって制限される。特に、近年では、各画素のスイッチング素子としてポリシリコンからなるTFTを用いた、ポリシリコンパネル(例えば、基板上に画素とその駆動回路とを一括して形成するモノリシックポリシリコンパネル)が多用されているが、この場合、ポリシリコンからなるTFTは耐圧が低いので、駆動電圧の上限も低くなってしまう。
【0021】
このため、液晶表示素子(液晶パネル)に備えられるスイッチング素子として耐圧の限られたTFTを用いる場合でも、液晶に印加できる電圧(駆動電圧、電界)を大きくする技術が求められている。
【0022】
ところで、上記した各液晶表示方式のうち、例えば、TNモードの液晶表示素子は、従来から実用化されている。しかしながら、TNモードを用いた液晶表示素子には、応答が遅い、視野角が狭い等の欠点があり、これらの欠点は、CRT(cathode ray tube)を凌駕する上で大きな妨げとなっている。
【0023】
また、FLCあるいはAFLCを用いた表示モ−ドは、応答が速く、視野角が広いといった利点を有してはいるものの、耐ショック性、温度特性等の面で大きな欠点があり、広く実用化されるまでには至っていない。
【0024】
さらに、光散乱を利用する高分子分散型液晶表示モ−ドは、偏光板を必要とせず、高輝度表示が可能であるが、本質的に位相板による視角制御ができない上、応答特性の面で課題を有しており、TNモードに対する優位性は少ない。
【0025】
これら表示方式は、何れも、液晶分子が一定方向に整列した状態にあり、液晶分子に対する角度によって見え方が異なるため、視角制限がある。また、これら表示方式は、何れも、電界印加による液晶分子の回転を利用するものであり、液晶分子が整列したまま揃って回転するため、応答に時間を要する。なお、FLCやAFLCを用いた表示モードの場合、応答速度や視野角の面では有利であるが、外力による非可逆的な配向破壊が問題となる。
【0026】
一方、電界印加による液晶分子の回転を利用するこれらの表示方式に対して、二次の電気光学効果を利用した電子分極による表示方式が提案されている。
【0027】
電気光学効果とは、物質の屈折率が外部電界によって変化する現象である。電気光学効果には、電界の一次に比例する効果と二次に比例する効果とがあり、それぞれポッケルス効果、カー効果と呼ばれている。特に、二次の電気光学効果であるカー効果は、高速の光シャッターへの応用が早くから進められており、特殊な計測機器において実用化されている。
【0028】
カー効果は、1875年にJ. Kerr(カー)によって発見されたものであり、これまでに、カー効果を示す材料としては、ニトロベンゼンや二硫化炭素等の有機液体が知られている。これら材料は、例えば、前記した光シャッター、光変調素子、光偏光素子、あるいは、電力ケーブル等の高電界強度測定等に利用されている。
【0029】
その後、液晶材料が大きなカー定数を有することが示され、光変調素子、光偏向素子、さらには光集積回路応用に向けての基礎検討が行われ、前記ニトロベンゼンの200倍を越えるカー定数を示す液晶化合物も報告されている。
【0030】
このような状況において、カー効果の表示装置への応用が検討され始めている。カー効果は、電界の二次に比例するため、電界の一次に比例するポッケルス効果と比較して、相対的に低電圧駆動を見込むことができる上、本質的に、数マイクロ秒〜数ミリ秒の応答特性を示すため、高速応答表示装置への応用が期待される。
【0031】
例えば、特許文献1には、カー効果を用いた表示装置として、少なくとも一方が透明な一対の基板と、該一対の基板間に挟持された等方相状態の有極性分子を含む媒体と、上記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の外側に配設された偏光板と、上記媒体に電界を印加するための電界印加手段とを備えた表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2001−249363号公報(公開日2001年9月14日)
【特許文献2】特開平11−183937号公報(公開日1999年7月9日)
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】斉藤 一弥、徂徠 道夫,「光学的に等方性である珍しいサーモトロピック液晶の熱力学」,液晶,第5巻,第1号,p.20−27,2001年
【非特許文献2】山本 潤,「液晶マイクロエマルション」,液晶,第4巻,第3号,p.248−254,2000年
【非特許文献3】白石 幸英、外4名,「液晶分子で保護したパラジウムナノ粒子−調製とゲスト-ホストモード液晶表示素子への応用」,高分子論文集,Vol.59,No.12,p.753−759,2002年12月
【非特許文献4】「Handbook of Liquid Crystals」, Vol.1, p.484-485, Wiley-VCH ,1998
【非特許文献5】米谷 慎,「分子シミュレーションでナノ構造液晶相を探る」,液晶,第7巻,第3号,p.238−245,2003年
【非特許文献6】「Handbook of Liquid Crystals」, Vol.2B, p.887-900, Wiley-VCH,1998
【非特許文献7】山本 潤,「液晶科学実験講座第1回:液晶相の同定:(4)リオトロピック液晶」,液晶,第6巻,第1号,p.72−82
【非特許文献8】Eric Grelet、外3名「Structural Investigations on Smectic Blue Phases」,PHYSICAL REVIEW LETTERS, The American Physical Society,23 APRIL 2001,VOLUME 86,NUMBER 17,p.3791-3794
【非特許文献9】Shiro Matsumoto、外3名「Fine droplets of liquid crystals in a transparent polymer and their response to an electric field」,1996,Appl. Phys. Lett., Vol.69, p.1044-1046
【非特許文献10】Norihiro Mizoshita、Kenji Hanabusa、Takashi Kato「Fast and High-Contrast Elecro-optical Switching of Liquid-Crystalline Physical Gels:Formation of Oriented Microphase-Separated Structures」,Advanced Functional Materials, APRIL 2003,Vol.13, No.4, p313-317)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
しかしながら、上記特許公報に開示されている表示装置は、駆動電圧が高いという問題がある。このため、上記特許公報に開示されている表示装置を、従来の液晶表示装置に適用されているTFT(thin film transistor、スイッチング素子)構造(TFTを含む回路構成)を用いて駆動することができない。したがって、上記特許公報に開示されているようなカー効果を用いた表示装置を駆動するためには、従来の液晶表示装置に適用されているTFTを用いる場合でも駆動可能な、高駆動電圧に適した回路構成が必要である。
【0035】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐圧の限られたTFTをスイッチング素子として用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能な表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の表示装置は、少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、複数のデータ信号線と各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記データ信号線と上記走査信号線との組み合わせ毎に設けられており、複数の上記表示素子について共通に設けられた対向電極線を備えており、上記第1電極はスイッチング素子を介して上記データ信号線に接続されており、上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されており、上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴としている。
【0037】
また、本発明の第2の表示装置は、なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を複数備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、互いに平行かつ交互に配置された複数の第1信号線および第2信号線と、上記第1信号線および上記第2信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記第1信号線、上記第2信号線、および上記走査信号線の組み合わせ毎に設けられており、上記第1電極はスイッチング素子を介して上記第1信号線に接続されており、上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記第2信号線に接続されており、上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
上記の構成によれば、上記第1電極および第2電極が接続されたスイッチング素子がオフとなっている場合には、上記両電極がどの電極線にも接続されない。このため、他の表示素子に対して、当該表示素子に書き込まれた極性とは逆の極性で書き込む場合でも、当該表示素子における第1電極および第2電極の電位を一定に保つことができる。したがって、スイッチング素子を駆動するための電圧を小さく抑えることができ、スイッチング素子の耐久性を向上させることができる。
【0039】
また、上記の構成によれば、駆動電圧を高くするために、第1電極および第2電極に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制することができる。したがって、高電圧駆動を行う場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制できる。すなわち、耐圧の限られたスイッチング素子を用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能となる。
【0040】
また、上記第2の表示装置によれば、上記両電極間に信号電圧を印加する場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオンとする一方、上記両電極間に信号電圧を印加しない場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオフとすることになる。したがって、スイッチング素子の寄生容量による両電極の電圧変動が、同様の傾向で発生する。このため、両電極における電圧変動は相殺される傾向となり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図2】(a)は、電圧(電界)無印加状態における、本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子の断面図である。(b)は、電圧(電界)印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子における、電極および偏光板の配置を説明するための説明図である。
【図4】(a)は電圧(電界)無印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置における表示素子の断面図であり、(b)は電圧(電界)印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置における表示素子の断面図であり、(c)は本発明の一実施の形態にかかる表示装置における電圧透過率曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる各表示素子において、一方の基板上に備えられる回路構成を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子において、水平配向膜およびカラーフィルタを設けた場合の構成例を示す断面図である。
【図7】各種液晶相の構造モデルである。
【図8】キュービック相の構造モデル(ロッドネットワークモデル)である。
【図9】キュービック相の構造モデルである。
【図10】誘電性物質層に封入する媒質としてBABH8を用いた場合の本発明の表示装置に備えられる表示素子と、従来の液晶表示素子とにおける、表示原理の違いを説明するための説明図である。
【図11】液晶マイクロエマルションの構造を示す模式図である。
【図12】液晶マイクロエマルションの構造を示す模式図である。
【図13】リオトロピック液晶相の分類図である。
【図14】本発明の他の実施の形態にかかる表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図15】本発明の一実施の形態にかかる表示装置において、補助容量を設けた場合の各表示素子に対応する回路構成の一例を示す等価回路図である。
【図16】本発明の一実施の形態にかかる表示装置において、補助容量を設けた場合の各表示素子に対応する回路構成の他の例を示す等価回路図である。
【図17】従来の液晶表示装置に備えられる表示素子の構成を示す断面図である。
【図18】従来の液晶表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図19】従来の液晶表示装置に備えられる各表示素子において、一方の基板上に備えられる回路構成を示す模式図である。
【図20】従来の液晶表示装置における、異なる走査線に接続された、隣接する2つの画素についての等価回路図である。
【図21】従来の液晶表示装置における、異なる走査線に接続された、隣接する2つの画素についての、各部の電圧状態の一例を示したタイミングチャートである。
【図22】本発明の表示装置において、2つの電極を異なる基板にそれぞれ設けた場合の回路構成の一例を示す等価回路図である。
【図23】(a)は図22の表示装置における、一方の基板側の配線模式図であり、(b)は図22の表示装置における、他方の基板側の配線模式図であり、(c)は図22の表示装置における、一方の基板側から見た場合の両電極の位置関係を示す配線模式図である。
【図24】本発明の実施の一形態にかかる表示素子について測定した電圧−透過率特性から見積もった、透過率が最大となる電圧値と、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
〔実施の形態1〕
〔実施例1〕
本発明の実施の一形態について図に基づいて説明する。
図2(a)および図2(b)は、本実施の形態にかかる表示装置(本表示装置)に備えられる表示素子(画素)10の概略構成を示す断面図である。本表示装置は、このような表示素子10が、駆動回路や信号線(データ信号線)、走査線(走査信号線)などとともに複数備えられてなる。すなわち、本表示装置には複数のデータ信号線と、各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とが設けられており、これらデータ信号線および走査信号線の組み合わせ毎に、表示素子10を備えた画素が設けられている。
【0043】
表示素子10は、対向する2枚の基板(基板1および2)間に、光学変調層である誘電性物質層3が挟持されてなる。また、基板1における基板2との対向面には、誘電性物質層3に電界を印加するための電界印加手段である電極(信号電極)4および電極(対向電極)5が互いに対向配置されている。さらに、基板1および2における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板6および7が備えられている。
【0044】
なお、図2(a)は電極4・5間に電圧(電界)が印加されていない状態(電圧(電界)無印加状態(OFF状態))を表しており、図2(b)は電極4・5間に電圧(電界)が印加されている状態(電圧(電界)印加状態(ON状態))を表している。
【0045】
基板1および2は、ガラス基板で構成されている。ただし、基板1および2の材質はこれに限るものではなく、基板1および2のうち、少なくとも一方が透明な基板であればよい。なお、表示素子10における両基板間の間隔、すなわち誘電性物質層3の厚みは10μmである。ただし、両基板間の間隔はこれに限定されるものではなく、任意に設定すればよい。
【0046】
図3は、電極4・5の配置および偏光板6・7の吸収軸方向を説明するための説明図である。この図に示すように、表示素子10における電極4および電極5は、櫛歯状に形成された櫛形電極からなり、互いに対向配置されている。なお、表示素子10では、電極4・5は、線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μmで形成されているが、これに限らず、例えば、基板1と基板2との間のギャップに応じて任意に設定することができる。また、電極4・5の材料としては、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料、アルミニウム等の金属電極材料等、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。また、両電極の形状は、櫛形電極に限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0047】
また、図3に示すように、両基板にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向(電界印加方向に直交する方向)とが約45度の角度をなすように備えられている。このため、各偏光板における吸収軸は、電極4・5による電界印加方向に対して、約45度の角度をなす。
【0048】
誘電性物質層3には、下記の構造式(1)を有する化合物(以下、化合物Aという)が封入されている。
【0049】
【化1】
【0050】
この化合物Aは、33.3℃未満でネマチック相を示し、それ以上の温度では、液晶分子の配向方向が等方的となり、等方相を示す。
【0051】
また、本表示装置は、誘電性物質層3の温度を所定の温度、すなわち、化合物Aのネマチック相−等方相相転移温度(液晶−等方相相転移温度)以上の温度に加熱する加熱手段(図示せず)を備えている。この加熱手段は、例えば、表示素子10の周辺に設けられるヒータであってもよく、表示素子10に直接貼合されるシート状ヒータ等であってもよい。
【0052】
また、両基板1・2の対向面上に、ラビング処理が施された配向膜を、必要に応じて形成してもよい。この場合、基板1側に形成される配向膜は、電極4・5を覆うように形成してもよい。
【0053】
図4(a)は、本表示装置において、誘電性物質層3をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に電界を印加しない場合の、液晶分子の配向状態を示す説明図である。また、図4(b)は、本表示装置において、ネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に電界を印加した状態における液晶分子の配向状態を示す説明図である。
【0054】
これらの図に示したように、本表示装置では、誘電性物質層3を加熱手段によってネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度(相転移温度よりもわずかに高い温度、たとえば+0.1K)に保ち、電界印加を行うことにより、透過率を変化させることができる。すなわち、図4(a)に示すように、電界無印加状態では、化合物Aからなる誘電性物質層3は等方相であるため、光学的に等方的であり、黒表示状態となる。一方、電界印加時には図4(b)に示すように、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物Aの分子の長軸方向が配向して複屈折が発現するので、透過率を変調できる。
【0055】
図4(c)は、本表示装置において、誘電性物質層3をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に印加する電圧(電界)を変化させた場合の、電圧透過率曲線を示すグラフである。この図に示すように、本表示装置では、印加する電圧に応じて透過率を変化させることができる。
【0056】
なお、誘電性物質層3の温度を相転移点直上に保つ場合、0V〜100V前後の電圧で、実用上十分な程度に透過率を変調させることができる。しかしながら、相転移温度から十分に遠い温度(相転移温度よりも十分に高い温度)においては、以下に説明するように、必要な電圧が大きくなる。
【0057】
すなわち、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折は、
△n=λBE2
で記述できる。なお、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
【0058】
そして、このカー定数Bは、
B∝(T−Tni)−1
に比例する。ここで、Tniは転移点の温度であり、Tは媒質の温度である。
【0059】
したがって、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができるが、相転移温度から十分遠い温度では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなる。したがって、上述の相転移温度直上のカー効果を利用した表示素子では、高精度な温度制御が必要であり、温度制御の精度が低くなるほど、駆動電圧を高くすることが必要となる。
【0060】
図1は、本表示装置における、各表示素子10に対応する回路構成を示す等価回路図である。また、図5は、各表示素子10において、基板1上に備えられた回路の構成を示す模式図である。
これらの図に示すように、本表示装置では、電極4および5が素子容量Cpを構成しており、電極4がスイッチング素子TFT1を介して信号線S1に接続され、電極5がスイッチング素子TFT2を介して信号線Sに接続されている。すなわち、本表示装置には、対向電極線が備えられておらず、同一画素(同一表示素子)に2つの信号線(信号電極線)S1・S2が備えられている。このため、本表示装置では、信号電極と対向電極との区別が、もはやなくなっていると言うこともできる。
【0061】
このように、本表示装置では、誘電性物質層3に封入された媒質に電圧を印加するための両方の電極(電極4・5)が、それぞれスイッチング素子TFT1・TFT2のドレインD1・D2側に接続されている。
【0062】
このような構成とすることにより、本表示装置では、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオンの時には両電極4・5間に信号が書き込まれる一方、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオフの時には両電極4・5が、どの電極線(信号線)にも接続されない。すなわち、本表示装置では、素子容量Cpの両側の端子(電極4・5)が、それぞれスイッチング素子TFT1・TFT2を介して信号線S1・S2に接続されているために、素子容量Cpの両側の端子を、信号線S1・S2に対してハイインピーダンス(絶縁状態)にすることが可能となる。
【0063】
その結果、他の走査線(例えば走査線G2)に接続されている他の表示素子の電極を逆の極性で書き込んでいても、当該表示素子10(走査線G1に接続されている表示素子10)における電極4・5の電位は一定に保たれる。すなわち、上記した従来の液晶表示装置のように、ドレイン電位が変動するといった問題は生じず、スイッチング素子TFTを駆動するためのゲート電圧を大きくする必要がなくなる。
【0064】
この結果、本表示装置では、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線S1およびS2に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0065】
したがって、本表示装置によれば、高電圧駆動が可能となる。特に、本表示装置では、電気光学効果を用いた表示装置においても、高電圧駆動が可能となるので、高速応答特性と高視野角特性とを備えた表示装置を実現できる。
【0066】
なお、本表示装置では、素子容量Cp(電極4・5間)に信号電圧を印加する場合には、電極4・5に接続されているスイッチング素子TFT1・TFT2を共にオンとする一方、電極4・5間に信号電圧を印加しない場合には、電極4・5に接続されているスイッチング素子TFT1・TFT2を共にオフとすることになる。このため、スイッチング素子TFT1のドレインと走査線Gとの間に存在する寄生容量による電極4の電圧シフト(電圧変動)が、スイッチング素子TFT2のドレインと走査線Gとの間に存在する寄生容量による電極5の電圧シフトと常に同様の傾向で発生する。したがって、両者の電圧シフトは相殺される傾向になり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【0067】
ここで、寄生容量は、例えば、スイッチング素子(TFT)におけるドレイン電極と走査線とが重なり合う領域、すなわち、スイッチング素子(TFT)のドレイン電極とゲート電極との間に形成される絶縁層に存在する。あるいは、スイッチング素子(TFT)以外の箇所においても、例えば、ドレイン電極と走査線とが水平位置で最隣接する箇所などにも存在する。
【0068】
また、スイッチング素子TFT1およびTFT2は、同様の構成であることが好ましい。すなわち、両者のドレイン電極−ゲート電極間に発生する寄生容量は、同様であることが好ましい。また、電極4・5、スイッチング素子TFT1・TFT2、走査線Gの配置は、電極4・5と走査線との間に発生する寄生容量が同様となるように配置されることが好ましい。これらの構成では、両者の寄生容量に伴う電極4・5の電圧シフトが同様の大きさとなり、互いにキャンセルされるので、電圧シフトの問題を考慮する必要がなくなる。
【0069】
なお、一般的に、画素数が多いパネル(例えばテレビなど)では充電能力を高めるためにスイッチング素子(TFT)のサイズを大きくする必要があるが、このとき寄生容量も増大する。すなわち、充電能力と寄生容量とはトレードオフの関係がある。このため、本表示装置の構成は、画素数が多いパネルに特に好適である。
【0070】
また、本表示装置は、図1に示した本表示装置の回路構成に加えて、各表示素子10に補助容量を設ける構成としてもよい。例えば、図15に示すように、補助容量Csを、素子容量Cp(電極4および5)に並列に接続してもよい。あるいは、図16に示すように、図1に示した構成に加えて補助容量配線C’と、2つの補助容量Cs1・Cs2とを設け、素子容量Cpにおける電極4・5を、それぞれ異なる補助容量Cs1・Cs2を介して補助容量配線C’に接続する構成としてもよい。このように、補助容量を設けることにより、スイッチング素子TFT1およびTFT2におけるリーク電流の影響を小さくできる。
【0071】
本表示装置は、大きな極性を有する物質を用いたほうが駆動電圧を低減できるという利点を有する。この場合、不純物イオンなどが多く含まれやすく、画素容量にもリーク電流が発生しやすいが、補助容量の付加はこの影響も小さくすることができるため好適である。
【0072】
また、本表示装置では、基板1にのみ電極4・5が形成されているが、これに限らず、電極4・5を基板1・2のそれぞれに設けてもよい。
【0073】
また、本表示装置では、誘電性物質層3に封入する媒質として上記化合物Aを用いているが、これに限るものではない。例えば、他の液晶性物質であってもよい。この場合、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
【0074】
例えば、上記特許文献1に記載してあるような液晶性物質、すなわち、5CB(4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル)、5OCB(4−シアノ−4’−n−ペンチルオキシビフェニル)、3OCB(4−シアノ−4’−n−プロピルオキシビフェニル)と5OCBと7OCB(4−シアノ−4’−n−ヘプチルオキシビフェニル)との等量混合物、PCH5(トランス−4−ヘプチル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン)、3HPFFと5HPFFと7HPFFとの混合物(1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)とよりなる混合物)などを適用してもよい。あるいは、これらの液晶性物質に溶媒を添加したものを適用してもよい。
【0075】
また、特許文献2に記載してあるように、液晶性物質を、網目状高分子、マイクロカプセル、多孔質無機質などで小区域に分割したものを適用することもできる。
【0076】
また、非特許文献9に記載してあるような高分子・液晶分散系(ネマチック液晶/高分子複合系)を適用することもできる。また、非特許文献10に記載してあるようなゲル化剤を添加しても良い。
【0077】
また、基板(誘電性物質層3)に封入する媒質は、例えば、PLZT(ジルコン酸鉛とチタン酸鉛との固溶体にランタンを添加した金属酸化物)のように、カー効果(電気光学効果)を示すものであってもよい。また、誘電性物質層3に封入する媒質としては、例えば、ニトロベンゼンなどのように、有極性分子を含有するものであってもよい。これらの媒質は、典型的には、電界無印加時には光学的に概ね等方であり、電界印加により光学変調を誘起される媒質である。すなわち、これらの媒質は、典型的には、電界印加に伴い分子、または分子集合体(クラスター)の配向秩序度が上昇する物質である。なお、誘電性物質層3に封入する媒質は、特に、電界印加により複屈折が上昇することが望ましい。
【0078】
また、誘電性物質層3に封入する媒質は、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する他の媒質であってもよい。ここで、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質とは、例えば、電界無印加時には光学的等方性を示し、電界印加により光学的異方性が発現する媒質であってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には球状であり、電界を印加することによって楕円に変化する。あるいは、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質であってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって球状に変化する。また、上記媒質は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって形状が変化した楕円に変化する。
【0079】
例えば、ナノスケールの構造を有する液晶相であり、光学的には等方的に見える液晶相を適用することができる。これらに電界を印加することにより、ナノスケールの微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。
【0080】
あるいは、液晶分子が光の波長未満のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いてもよい。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体にひずみが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
【0081】
以下に、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として利用可能な媒質の例を、媒質例として記載する。ただし、以下に示す媒質例は、利用可能な媒質の一例を示すものであり、本表示装置に利用可能な媒質を限定するものではない。
【0082】
〔媒質例1〕
例えば、従来のIPS方式(IPSモード)による液晶表示装置に用いられている液晶(例えば、ネマチック液晶など)を用いることができる。すなわち、本表示装置の構成は、IPS方式を用いた液晶表示素子にも適用できる。
【0083】
この場合、例えば、本表示装置に備えられる表示素子を、図6に示す表示素子20のような構成としてもよい。
【0084】
図6に示すように、表示素子20は、図2(a)および図2(b)の構成に加えて、基板2の内側にカラーフィルタ層(CF層)21を備えている。また、基板1および2の内側には、電極(画素電極)4・5の伸長方向(電界方向に垂直な方向)に対して10度程度斜めの方向(右回りまたは左回りのどちらでもよい)ラビングを施した水平配向膜22・23がそれぞれ備えられている。
【0085】
なお、基板1および2は、両基板の間隙(誘電性物質層3の幅)が5μmとなるように貼り合わされており、誘電性物質層3には、ネマチック液晶が封入されている。また、この構成では、基板1をTFT基板と表現し、基板2をCF基板と表現することもできる。
【0086】
このように、本表示装置を、IPS方式の液晶表示装置として構成した場合でも、化合物Aを用いた上記の構成と略同様の効果を得ることができる。すなわち、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1および2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線S1およびS2に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1および2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0087】
また、このような構成の本表示装置では、従来のIPS方式の液晶表示装置と比較して、高電圧駆動を行うことが可能である。このため、応答速度の高速化が可能となる。また、電極間ギャップ(電極4と電極5との間隔)を広げることができるので、高開口率化を図ることができる。
【0088】
なお、上記の例では、電極4・5の伸長方向に対して10度程度斜めの方向にラビングを施した水平配向膜22・23を備えているとしたが、これに限るものではない。例えば、電極4・5に対するラビング方向の傾斜角度は、任意に設定すればよい。また、基板1および2は、両基板の間隙が5μmとなるように貼り合わされているとしたが、これに限らず、両基板の間隙は任意に設定すればよい。
【0089】
〔媒質例2〕
また、図2(a)および図2(b)に示した本表示装置の構成において、誘電性物質層3に封入される媒質として、化合物Aではなく、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する他の媒質を用いてもよい。
【0090】
このような媒質として、例えば、非特許文献5および非特許文献6に記載されているBABH8を用いることができる。このBABH8の構造式は、下記構造式(2)で表わされる。
【0091】
【化2】
【0092】
ここで、誘電性物質層3に封入する物質としてBABH8を用いた場合、すなわち、図2(a)および図2(b)の構成において、誘電性物質層3にBABH8を封入した場合の本表示装置における表示原理について説明する。
【0093】
このような構成の本表示装置において、誘電性物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御する。この温度範囲では、BABH8は、格子定数が約6nmと光学波長より1桁以上も小さく、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの、キュービック対称性(立方晶の対称性)を有する秩序構造(配向秩序)からなるキュービック相(cubic phase,立方晶相)を示す。なお、上記「分子シミュレーションでナノ構造液晶相を探る」には、図7〜図9に示すような、キュービック相の構造モデルが示されている。
【0094】
上記したように、BABH8は、秩序構造が光学波長未満であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、電界無印加の場合には、誘電性物質層3は光学的に等方性を示す(巨視的に見て等方であればよい)。したがって、BABH8を用いた本表示装置では、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
【0095】
一方、誘電性物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御しながら、電極4・5間に電界を印加すると、キュービック対称性を有する構造に歪が生じ、光学的異方性が発現する。すなわち、BABH8は、上記の温度範囲において、電界無印加状態では光学的に等方性であり、電界印加により光学的異方性が発現する。
【0096】
このように、上記の構成の本表示装置では、電界を印加することによってキュービック対称性を有する構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電界印加によって変化する。また、電極4・5間に印加する電圧(電界)と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、上記のような広い温度範囲において、安定した曲線となる。すなわち、上記構成の本表示装置では、136.7℃以上161℃以下の約20Kの温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができ、温度制御が極めて容易となる。
【0097】
ここで、BABH8を用いた場合の本表示装置と、従来の表示方式の液晶表示装置との、表示原理の相違点について説明する。
【0098】
図10は、BABH8を用いた場合の本表示装置および従来の表示方式の液晶表示素子における、表示原理の違いを説明するための説明図であり、電界印加時および電界無印加時における屈折率楕円体の形状および方向を模式的に表したものである。なお、図10では、従来の表示方式として、TN方式、VA(Vertical Alignment、垂直配向)方式、IPS(In Plane Switchig、面内応答)方式における表示原理を示している。
【0099】
この図に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。そして、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図10に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化する。すなわち、屈折率楕円体が回転する。なお、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
【0100】
また、VA方式の液晶表示素子は、TN方式と同様、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。ただし、VA方式の液晶表示素子では、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図10に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面法線を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
【0101】
また、IPS方式の液晶表示素子は、1つの基板上に対向する1対の電極が備えられており、両電極間の領域に液晶層が形成される構成である。そして、電界印加によって液晶分子の配向方向を変化させ、電界無印加時と電界印加字とで、異なる表示状態を実現できるようになっている。したがって、IPS方式の液晶表示素子でも、図10に示すように、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形は、ほぼ変わらない。
【0102】
このように、従来の表示方式の液晶表示素子では、電界無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電界を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の形は変化しないが、屈折率楕円体の方向が電界印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形はほぼ変わらない。つまり、従来の表示方式の液晶表示素子では、液晶分子の可視光以上における配向秩序度は一定であり、配向方向を変化させることによって表示を行っている。
【0103】
なお、BABH8を用いた場合の本表示装置は、等方相(いわゆる液体相)を用いない点が、従来の液晶表示装置と異なっている。等方相とは、分子の配向方向が等方的である相を意味する。
【0104】
これらの表示方式に対して、BABH8を用いた本表示装置では、図10に示すように、電界無印加時には屈折率楕円体が、従来の液晶表示素子とは異なり、球状となる。すなわち、電界無印加時には等方的(可視光以上における配向秩序度=0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さい))である。そして、電界を印加することによって光学的異方性(可視光以上における配向秩序度>0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して影響を与える大きさ))が発現して、屈折率楕円体が楕円になる。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、電界無印加時には屈折率楕円体の形が等方的(nx=ny=nz)であり、電界印加によって屈折率楕円体の形に異方性(nx>ny)が発現する。ここで、nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行であって両電極の対向方向に平行な方向、基板面に平行であって両電極の対向方向に直交する方向、基板面に垂直な方向に対する、屈折率を表している。
【0105】
また、上記電界印加時の屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に平行(誘電異方性が正の媒質の場合)または垂直(誘電異方性が負の媒質を用いる場合)となる。
【0106】
これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に平行または垂直になるとは限らない。
【0107】
このように、BABH8を用いた本表示装置では、光学的異方性の方向は一定(電界印加方向は変化しない)であり、可視光以上における配向秩序度を変調させることによって表示を行っている。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、媒質そのものの光学的異方性(または配向秩序)の程度が変化する。したがって、BABH8を用いた本表示装置の表示原理は、他の表示方式の液晶表示装置と大きく異なっている。
【0108】
また、BABH8を用いた本表示装置では、キュービック対称性を有する構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の表示方式の液晶表示装置よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、BABH8を用いた本表示装置では、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
【0109】
また、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する光学的異方性を用いて表示を行っている。このため、従来方式の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来方式の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。このため、BABH8を用いた本表示装置は、例えば、高速応答性が要求されるフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置にも好適である。
【0110】
なお、上記の説明では、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質の例としてBABH8を用いる場合を説明したが、これに限らず、例えば、BABH8以外の、キュービック相を示す分子からなる媒質を用いてもよい。
【0111】
〔媒質例3〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶相の一つであるスメクチックD相(SmD)を示す分子からなる媒質を適用できる。
【0112】
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、ANBC16がある。なお、ANBC16については、非特許文献1のp.21,図1構造1(n=16)や、非特許文献6のp.888,Table1,化合物(compound no.)1,化合物1a,化合物1a−1に記載されている。これらの分子構造を、以下に記載する。
【0113】
【化3】
【0114】
【化4】
【0115】
4’n-alkoxy-3’-nitro-biphenyl-4-carboxylic acids X=NO2
n-15 Cr 127 SmC 187 Cub 198 SmA 204 I
この液晶性物質(ANBC16、上記化学構造式(3)においてn=16)は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相を示す。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数は数十nm以下であり、光学波長未満である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有しており、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。なお、本実施形態に示したANBC16の格子定数は約6nmである。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
【0116】
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16からなる誘電性物質層3に電界を印加すれば、分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、誘電性物質層3に光学的異方性が発現する。
【0117】
したがって、ANBC16を本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化するので、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0118】
〔媒質例4〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶マイクロエマルションを適用できる。ここで、液晶マイクロエマルションとは、山本らによって名づけられた、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である(非特許文献2参照)。
【0119】
液晶マイクロエマルションの具体例として、例えば、上記「液晶マイクロエマルション」に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶(温度転移形液晶)であるPentylcyanobiphenyl(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal,濃度転移形液晶、ライオトロピック液晶)であるDidodecyl ammonium bromide(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図11および図12のような模式図で表される構造を有している。
【0120】
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光学波長より一桁程度小さい。すなわち、上記の混合系(液晶マイクロエマルション)は光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、上記の混合系は、光学的には等方性を示す。
【0121】
そして、上記の混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。したがって、上記の混合系を本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、上記の混合系に限らず、電界無印加と電界印加時とで光学的異方性の程度が変化する液晶マイクロエマルションであれば、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0122】
〔媒質例5〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、特定の相を有するリオトロピック液晶(ライオトロピック液晶)を適用できる。ここで、リオトロピック液晶とは、一般に液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味するものとする。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電界無印加時とで、光学的異方性の程度が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献7に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図13に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
【0123】
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液などは球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
【0124】
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキングして(分子集合体を形成して)球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長未満であるため、光学波長領域では光学的異方性を示さず等方的に見える。すなわち、球状ミセルは、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため光学的異方性を発現する。よって、球状ミセル相を示すリオトロピック液晶を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相などを示すリオトロピック液晶を誘電性物質層3に封入しても、略同様の効果を得ることができる。
【0125】
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基が入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶を、誘電性物質層3に封入する媒質として適用することにより、ミセル相を示すリオトロピック液晶を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、媒質例2で説明した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を示すリオトロピック液晶の一例である。
【0126】
また、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液には、図13に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電界を印加すると、秩序構造(配向秩序)に歪が生じて光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を示すリオトロピック液晶も、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0127】
〔媒質例6〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化する相を示す液晶微粒子分散系を適用できる。ここで、液晶微粒子分散系とは、溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系である。
【0128】
このような液晶微粒子分散系としては、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系がある。この液晶微粒子分散系では、スポンジ相が発現する。また、このスポンジ相の配向秩序(秩序構造)は光学波長未満である。したがって、上記媒質例3の場合と同様、上記の液晶微粒子分散系を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0129】
なお、上記のラッテックス粒子を媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABと置き換えることによって、媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
【0130】
また、溶媒中に分散させる微粒子は、1種または2種以上のものにより構成されることが好ましい。
【0131】
また、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、誘電性物質層3内における微粒子の分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり、相が分離したりしない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示素子としてムラが生じることを充分に抑制できる。
【0132】
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
【0133】
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示素子のコントラストが上昇する。
【0134】
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
【0135】
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
【0136】
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
【0137】
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
【0138】
また、誘電性物質層3における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と誘電性物質層3に封入される媒質との総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。誘電性物質層3における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
【0139】
なお、誘電性物質層3に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもよい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
【0140】
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
【0141】
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅が好ましく、これらの金属あるいはこれら金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成してもよい。例えば、銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示素子の特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化が防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。例えば下記の構造式(5)からなる化合物が好ましい。
【0142】
【化5】
【0143】
ここで、nは0〜2の整数である。
また、6員環Aは、下記の官能基のいずれかが好ましい。
【0144】
【化6】
【0145】
また、6員環B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環B,Cは、上記例示の置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
【0146】
【化7】
【0147】
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
【0148】
また、上記構造式(5)におけるY1、Y2およびY3は、それぞれ、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および/または−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、Y1、Y2およびY3は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0149】
また、上記構造式(5)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。
【0150】
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
【0151】
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
【0152】
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
【0153】
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
【0154】
〔媒質例7〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、デンドリマー(デンドリマー分子)を適用できる。ここで、デンドリマーとは、モノマー単位ごとに枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。
【0155】
デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。したがって、デンドリマーを、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0156】
また、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABを、デンドリマー物質に置き換えることにより、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができ、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0157】
〔媒質例8〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図13には、コレステリックブルー相の概略構造が示されている。
【0158】
図13に示したように、コレステリックブルー相は、高い対称性の構造を有している。また、コレステリックブルー相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0159】
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を48.2mol%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を47.4mol%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を4.4mol%混合した物質がある。この物質は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
【0160】
また、コレステリックブルー相を示す他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、P8PIMB(1,3-phenylene bis[4-(4-8-alkylphenyliminomethyl-benzoate、バナナ型(屈曲型)液晶、下記構造式(6)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、77.2℃から82.1℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0161】
【化8】
【0162】
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、P8PIMBを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は80.8℃から81.6℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0163】
また、コレステリックブルー相を示すさらに他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、MHPOBC(4-(1-methylheptyloxycarbonyl)phenyl-4’-octylcarboxybiphenyl-4-carboxylate、直線状液晶、下記構造式(7)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、83.6℃から87.9℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0164】
【化9】
【0165】
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、MHPOBCを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は87.8℃から88.4℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0166】
なお、ZLI−2293とMLC−6248とを混合するだけではコレステリックブルー相を発現させることはできなかったが、バナナ型(屈曲型)をした液晶P8PIMBや直線状液晶MHPOBCを添加することによりコレステリックブルー相を示した。
【0167】
また、上記の例では、直線状液晶としてラセミ体を用いたが、必ずしもラセミ体に限定されるものではなく、カイラル体を用いてもよい。またカイラル炭素を1つ、あるいは複数以上含んでいてよい。また、直線状液晶を用いる場合、直線状液晶MHPOBCのように反傾構造(一層ごとに異なる方向を向いている)を持つものを用いることが好ましい。
【0168】
また、直線状液晶とは、化学構造式においてほぼ横長の直線に近い液晶分子を表すために用いた総称であり、実際の立体配置は化学構造式のように一平面内にあるとは限らず、折れ曲がっていることがあることはいうまでもない。
【0169】
また、バナナ型(屈曲型)液晶とは、化学構造式において屈曲部を有する液晶分子を表わすために用いた総称であり、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(8)〜(11)に示す化合物が挙げられる。
【0170】
【化10】
【0171】
【化11】
【0172】
【化12】
【0173】
【化13】
【0174】
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(12)に示す化合物などが挙げられる。
【0175】
【化14】
【0176】
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶は結合部(屈曲部)の左右で対称的な化学構造を持っているが、これに限らず、結合部の左右で非対称な化学構造を持っていてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(13)に示す化合物が挙げられる。
【0177】
【化15】
【0178】
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(14)に示す化合物が挙げられる。
【0179】
【化16】
【0180】
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
【0181】
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリックブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示素子でフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
【0182】
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
【0183】
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
【0184】
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
【0185】
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
【0186】
Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記誘電性物質層3に封入する物質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
【0187】
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記ような呈色を確実に防止することができる。
【0188】
例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を50.0wt%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を38.5wt%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を11.5wt%混合した物質がある。この物質は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域以下にあるために呈色しなかった。
【0189】
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。
【0190】
カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが、8wt%または4mol%以上であることが好ましい。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上とすることにより、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなった。
【0191】
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%以上の場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
【0192】
また、カイラル剤の濃度は15wt%以上であることが、さらに好ましい。バナナ型(屈曲型)液晶や反傾構造をもつ直線状液晶を添加することによりコレステリックブルー相を発現させる場合、カイラル剤の濃度が15wt%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃になった。また、カイラル剤の濃度を17.9wt%に増やすことにより、コレステリックブルー相の温度範囲はさらに広がった。
【0193】
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
【0194】
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、誘電性物質層3全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電界印加時における光学的異方性の発生度合いの低下に繋がり、表示素子としての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。このため、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
【0195】
また、本実施の形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。一例として、S811(E.Merck社製)など市販品を用いてもよい。また、軸不斉のカイラル剤を用いても良い。軸不斉のカイラル剤としては、例えば、軸不斉ビナフチル誘導体(下記化合物(15)参照)を用いることができる。
【0196】
【化17】
【0197】
ここで、nは4〜14の整数である。
【0198】
なお、この化合物(15)はnが奇数の時に単独でブルー相を示すことがある。例えば、n=7の場合には約103℃から約94℃の範囲でブルー相を示す。したがって、この化合物(15)が単独でブルー相を示す(液晶性がある)場合には、誘電性物質層3に封入する媒質として、この化合物(15)を単独で用いても良いし、また、化合物(15)をカイラル剤として用いても良い。
【0199】
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
【0200】
〔媒質例9〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、スメクチックブルー(BPSm)相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図13には、スメクチックブルー相の概略構造が示されている。
【0201】
図13に示したように、スメクチックブルー相は、コレステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している。また、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、スメクチックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0202】
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献8に記載されているFH/FH/HH−14BTMHCがある。この物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。
【0203】
また、スメクチックブルー相を示す媒質を用いる場合には、コレステリックブルー相を示す媒質を用いる場合と同様、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましく、380nm以下であることがより好ましい。さらに、螺旋ピッチは253nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましい。
【0204】
また、本表示素子の誘電性物質3に用いる媒質としては、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有していて、電界印加により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよく、スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を持つ物質でもよい。
【0205】
スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を示す物質としては、例えば下記の化合物(16)および(17)の混合物があげられる。
【0206】
【化18】
【0207】
【化19】
【0208】
ここで、Lは2〜10の整数を表し、mは2〜14の整数を表し、nは0〜6の整数である。
【0209】
なお、化合物(16)と化合物(17)とを混合する場合には、2×(n+1)=mの関係を満たすように混合することが好ましい。また、化合物(16)と化合物(17)との混合割合は、適宜設定すればよい。例えばL=6、m=6、n=2の場合、化合物(16)と化合物(17)とを等量混合すると、スメクチックブルー相に類似した相(光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相)を約143℃から約130℃の範囲で示す。また、L=6、m=6、n=2の場合に、化合物(16)を30%、化合物(17)を70%の割合で混合したときには、約132℃から約120℃の範囲で光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相を示す。
【0210】
また、誘電性物質(誘電性物質層3に封入する媒質)のネマティック相状態における、550nmでの屈折率異方性をΔnとし、1kHzでの誘電率異方性をΔεとすると、Δn×Δεが2.9以上であることが好ましい。
【0211】
ここで、屈折率異方性(Δn)は、電界印加時の楕円(屈折率楕円体)の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率(常光屈折率)をnoとすると、Δn=ne−noで表される。すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示す。
【0212】
また、誘電率異方性(誘電率変化)(Δε)は、誘電率の異方性を示し、液晶分子の長軸方向における誘電率をεe、液晶分子の短軸方向における誘電率をεoとすると、Δε=εe−εoで表される値である。
【0213】
次に、誘電性物質層3に上記媒質例4の液晶微粒子分散系を封入した本表示素子について行った、駆動電圧の測定結果について説明する。
【0214】
溶媒としては上記化合物(1)を用いた。この誘電性物質(液晶微粒子分散系)のΔn×Δεは約2.2であった。また、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmで形成した。なお、上記屈折率異方性Δnは、アッベ屈折計(アタゴ製「4T(商品名)」)を使用し、波長550nmにて測定した。また、上記誘電率異方性Δεは、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「SI1260(商品名)」)を使用し、周波数1kHzにて測定した。
【0215】
このように形成した本表示素子について、駆動電圧を変化させながら透過率を測定したところ、透過率が最大となる駆動電圧は約28Vであった(図24参照)。
【0216】
ところで、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折△n(E)は、
△n(E)=λBE2
で記述できる。ここで、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
【0217】
また、複屈折が変化することにより透過率Tは下式のように変化する。
T=sin2(π×Δn(E)×d/λ)=sin2(πBE2d)
ここで、dは誘電性物質層3の厚さである。
【0218】
したがって、上式より、透過率が最大になるのは、πBE2d=π/2
の場合である。
【0219】
また、上式よりΔB=Δn(E)/λE2=ΔnQ(E)/λE2
である。ここで、Q(E)は配向秩序パラメータである。
【0220】
また、非特許文献4によると、Q∝Δε×E2である。
【0221】
よって、透過率が最大となる駆動電圧Vは、櫛型電極4・5の電極間距離をSとすると、
V=ES=S×sqrt(1/(2×B×d))∝S×sqrt(1/(Δn×Δε)×d)
になる。
【0222】
以上の結果をもとに、上記誘電性物質を本表示素子に封入して測定した電圧−透過率特性、及び、上記駆動電圧とΔn×Δεの関係式から見積もった、透過率が最大となる電圧値(V(V))と、Δn×Δεとの関係を図24に示す。
【0223】
図24に示すように、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用し、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとした場合、透過率が最大となる駆動電圧は24Vになる。
【0224】
本表示素子をアクティブマトリクス駆動の表示装置に適用する場合には、櫛歯電極4・5に印加する電圧(電界)のON/OFFを切り替えるスイッチング素子(TFT素子)を用いる。スイッチング素子(TFT素子)のゲート電極の膜厚と膜質とを最適化した場合に、ゲート電極に印加することが可能な耐圧(電圧)を測定したところ、最大で63Vであった。したがって、この耐圧からゲート電極の電位がHigh(すなわち、ゲート電極ON)のときの電圧10Vおよびゲート電極の電位がLow(すなわち、ゲート電極OFF)のときの電圧−5V分を差し引いた48Vpp(63−10−5=48Vpp(peak-to-peak))が、誘電性物質層3に印加することができる最大限の電圧値である。この電圧値は、実効値(rms:root-mean-square)で言えば±24Vになる。
【0225】
したがって、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとする場合には、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用することにより、スイッチング素子の耐圧範囲内で、透過率を最大とすることができる。
【0226】
なお、Δn×Δεが2.9以上の誘電率物質としては、例えば、化合物(18)があげられる。
【0227】
【化20】
【0228】
ここで、Rはアルキル基を表す。化合物(18)はΔεが約25、Δnが約0.15であり、Δn×Δε=3.75になる。
【0229】
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに透過率が最大となる駆動電圧を下げるためには、櫛歯電極間隔を狭くすることが考えられるが、製造上の精度やプロセスマージン、プロセスコスト等の制限から、櫛歯電極間隔を狭くすることには限界がある。
【0230】
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに駆動電圧を下げるためには、誘電性物質層3の厚さをさらに厚くすることも考えられる。しかしながら、誘電性物質層の厚さを単純に厚くしても、電界が印加される厚みは、必ずしも誘電性物質層の厚さの増加分だけ増えるわけではない。このため、誘電性物質層3の厚みを10μmから、さらに厚くしても駆動電圧の低減には効果的ではない。
【0231】
〔実施例2〕
本表示装置において、誘電性物質層3に封入する媒質を、透明な誘電性物質である4’-n-alkoxy-3’-nitrobiphenyl-4-carboxylic acids (ANBC−22)とした。ANBC−22の化学構造は化合物(3)(n=22)である。
【0232】
なお、基板1および2には、ガラス基板を用いた。また、両基板間の間隔は、ビーズをあらかじめ散布しておくことにより、4μmになるように調整した。すなわち、誘電性物質層3の厚さを4μmとした。
【0233】
電極4・5は、ITOからなる透明電極とした。また、両基板の内側(対向面)には、ラビング処理を施したポリイミドからなる配向膜をそれぞれ形成した。ここで、両配向膜に施すラビング方向は、スメクチックC相において明状態となる方向であることが望ましく、典型的には偏光板6・7の吸収軸方向と45度の角度をなしていることが望ましい。なお、基板1側の配向膜については、電極4・5を覆うように形成した。
【0234】
偏光板6・7は、図2(a)および図2(b)に示したように、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向とが約45度の角度をなすように、それぞれ基板1および2の外側(対向面の反対側)に設けた。
【0235】
このような構成では、上記媒質は、スメクチックC相―キュービック相相転移温度よりも低温側の温度において、スメクチックC相を示す。なお、スメクチックC相は、電界無印加状態において光学的異方性を示す。
【0236】
そして、誘電性物質層3の温度を、加熱装置によってスメクチックC相−キュービック相の相転移近傍の温度(相相転移温度の低温側10K程度まで)に保ち、電界印加(電圧50V程度の交流電場(0より大きく数百kHzまで))を行ったところ、透過率を変化させることができた。すなわち、電界無印加時に光学的異方性を示すスメクチックC相(明状態)に、電界を印加することにより、等方的なキュービック相(暗状態)に変化させることができた。つまり、上記の表示装置は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示す。なお、この場合、屈折率楕円体は楕円(電界無印加時)から球状(電界印加時)に変化する。
【0237】
このように、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質を用いた場合にも、良好な表示を実現することができた。
【0238】
なお、各偏光板6.7の吸収軸と櫛形電極4・5がなす角度は45度に限らず、0〜90度のあらゆる角度で表示を行うことが出来た。これは、明状態の表示は電界無印加時で実現しているので、ラビング方向と偏光板吸収軸方向の関係だけで達成でき、また、暗状態の表示は電界印加による媒質の光学的等方相への電界誘起相転移で実現しているので、各偏光板吸収軸が互いに直交していればよく、偏光板吸収軸方向と櫛型電極方向との関係によらないためである。また、配向処理は必ずしも必要ではなく、アモルファス配向状態(ランダム配向状態)でも表示を行うことが出来た。
【0239】
また、本発明の表示素子において用いられる媒質は、従来の液晶表示素子に用いられている媒質であってもよく、あるいは、電界(外場)の印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質であってもよい。
【0240】
光学的異方性の程度が変化する媒質としては、例えば、電界(外場)を印加することによって秩序構造(配向秩序)が変化し、光学的異方性の程度が変化するものを用いることができる。例えば、電界(外場)印加時または無印加時に光学波長以下の秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。あるいは、電界(外場)無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。
【0241】
このような光学的異方性の程度が変化する媒質を用いる場合、液晶分子の配向方向の変化を利用する従来の液晶表示素子のように液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響することがないので、従来の液晶表示素子よりも高速応答を実現できる。また、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態(外場を印加することによって秩序構造に歪みが生じ、光学的異方性の程度が変化する状態)となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。例えば、上記した特許文献1に記載されているような、電界印加による有極性分子における電子の偏りを利用する従来の電気光学効果を利用した表示装置では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
【0242】
例えば、上記したBABH8を上記媒質として用いる場合、24.3Kの温度範囲(136.7℃〜161℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。また、上記したANBC16を上記媒質として用いる場合、26.2Kの温度範囲(171.0℃〜197.2℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。なお、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の上限は特に限定されるものではなく、上記した各媒質よりもさらに広い温度範囲で所定の秩序構造を示す媒質を用いてもよい。また、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の下限は0.1Kよりも大きいことが好ましく、1K以上であることがより好ましい。
【0243】
〔実施の形態2〕
本発明の表示装置に関する他の実施形態について、図14を用いて説明する。なお、説明の便宜上、実施の形態1と同様の機能を有する部材については、実施の形態1と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0244】
本実施の形態にかかる表示装置は、図2(a)、図2(b)、および図3に示した表示素子10と略同様の断面構造を備えている。ただし、電極4・5に接続される回路構成、すなわち、スイッチング素子TFT1・TFT2および信号線、走査線の構成が異なっている。なお、本実施の形態にかかる表示装置は、電極4・5が、それぞれ異なるスイッチング素子TFT1・TFT2を介して他の配線に接続されているという点においては、実施の形態1にかかる表示装置と同様である。また、誘電性物質層3に封入する媒質には、実施の形態1と同様の媒質を用いることができる。
【0245】
図14は、本実施の形態にかかる表示装置における回路構成を示す等価回路図である。この図に示すように、本実施の形態にかかる表示装置では、電極4および5が素子容量Cpを構成している。そして、電極4がスイッチング素子TFT1を介して信号線Sに接続され、電極5がスイッチング素子TFT2を介して対向電極線Cに接続されている。すなわち、本実施の形態にかかる表示装置では、電極4および5が、それぞれ異なるスイッチング素子TFT1およびTFT2を介して信号線Sおよび対向電極線Cに接続されている。また、本実施の形態にかかる表示装置は、信号線Sおよび対向電極線Cに電圧を印加することにより、誘電性物質層3に電界を発現させ、表示を行うようになっている。なお、信号線Sおよび対向電極線Cに印加する電圧については、上記した従来の液晶表示装置と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0246】
本実施の形態にかかる表示装置では、スイッチング素子TFT1およびTFT2をオンとすることにより、素子容量Cp(表示素子)の両電極間に信号を書き込むようになっている。そして、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオフとなっている場合には、対向電極線Cの電位が変動したとしても、素子容量Cpの電極4・5間の電位差は一定に保たれる。すなわち、他の走査線(図示せず)に接続されている電極を逆の極性で書き込む場合でも、素子容量Cpにおける電極4・5の電位差は一定に保たれる。
【0247】
したがって、上記した従来の液晶表示装置のように、ドレイン電位が変動するといった問題が生じず、スイッチング素子TFTを駆動するためのゲート電圧を大きくする必要がなくなる。
【0248】
この結果、本実施の形態にかかる表示装置では、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線Sに印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0249】
したがって、本実施の形態にかかる表示装置によれば、高電圧駆動が可能であり、高速応答特性と高視野角特性とを備えた表示装置を実現することができる。
【0250】
また、本実施の形態にかかる表示装置では、実施の形態1にかかる表示装置のように、全表示素子(全画素)について信号線を2本備える必要がない。したがって、実施の形態1と比較して必要な信号線の数が1/2となるので、構造を単純化できるとともに、製造時の良品率を向上させることができる。
【0251】
なお、本実施の形態にかかる表示装置において、補助容量をさらに備えてもよい。この場合、例えば、素子容量Cp(電極4および5)に対して並列となるように補助容量を接続すればよい。あるいは、電極4に一方の電極を接続される補助容量Cs1と、電極5に一方の電極を接続される補助容量Cs2と、補助容量Cs1およびCs2における他方の電極が接続される補助容量配線とを備える構成としてもよい。このように、補助容量を設けることにより、スイッチング素子TFT1およびTFT2のリーク電流の影響を小さくすることができる。
【0252】
また、本表示装置では、基板1にのみ電極4・5が形成されているが、これに限らず、電極4・5を基板1・2のそれぞれに設けてもよい。例えば、図14の構成における対向電極5を基板2側に設けてもよい。図22は、この場合の等価回路図である。
【0253】
この図に示す例では、対向電極5を基板2側に設ける場合、スイッチング素子TFT2および走査線Gcを基板2に設けている。
【0254】
図23(a)〜図23(c)は、この場合の配線模式図である。すなわち、図23(a)は、信号線(信号配線)Sが配設される側の基板である基板1側の配線模式図である。図23(b)は、対向電極線(対向電極配線)Cが配設される側の基板である基板2側の配線模式図である。図23(c)は、基板1側から見た場合の信号電極4と対向電極5との位置関係を示す配線模式図である。
【0255】
図23(a)に示すように、基板1側は、例えば従来のTN型の基板(従来のTFT基板)と同等である。また、図23(b)および図23(c)に示すように、基板2側には、基板1側の電極(画素電極)4に対応して対向電極5が個々に設けられている。なお、図23(b)に示すように、対向電極5はスイッチング素子TFT2を介して、各画素について同一の対向電極線Cに接続されている。また、スイッチング素子TFT2のゲート電極は、走査線Gcに接続されている。
【0256】
この構成では、基板2に設けられるスイッチング素子TFT2が各画素について共通の対向電極線Cに接続される。したがって、基板2では、信号線を各画素に備えられるスイッチング素子TFT2に個別に配線する必要がない。このため、良品率を向上させることができる。また、基板2にソースドライバを接続する必要がない。
【0257】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0258】
すなわち、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【0259】
なお、本発明に係る表示装置は、少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記第1電極および第2電極が、それぞれ異なるスイッチング素子に接続されている構成としてもよい。
【0260】
上記の構成によれば、上記第1電極および第2電極が接続されたスイッチング素子がオフとなっている場合には、上記両電極がどの電極線にも接続されない。このため、他の表示素子に対して、当該表示素子に書き込まれた極性とは逆の極性で書き込む場合でも、当該表示素子における第1電極および第2電極の電位を一定に保つことができる。したがって、スイッチング素子を駆動するための電圧を小さく抑えることができ、スイッチング素子の耐久性を向上させることができる。
【0261】
また、上記の構成によれば、駆動電圧を高くするために、第1電極および第2電極に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制することができる。したがって、高電圧駆動を行う場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制できる。すなわち、耐圧の限られたスイッチング素子を用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能となる。
【0262】
また、本発明の表示装置は、上記表示素子を複数備えるとともに、各表示素子について第1信号線および第2信号線が設けられており、上記第1電極および第2電極が、それぞれ異なるスイッチング素子を介して、異なる信号線に接続されている構成としてもよい。
【0263】
上記の構成によれば、上記両電極間に信号電圧を印加する場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオンとする一方、上記両電極間に信号電圧を印加しない場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオフとすることになる。したがって、スイッチング素子の寄生容量による両電極の電圧変動が、同様の傾向で発生する。このため、両電極における電圧変動は相殺される傾向となり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【0264】
また、本発明の表示装置は、上記表示素子を複数備えるとともに、上記各表示素子について設けられた信号線と、複数の表示素子について共通に設けられた対向電極線とを備えており、上記第1電極は、スイッチング素子を介して上記信号線に接続されており、上記第2電極は、上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されている構成としてもよい。
【0265】
上記の構成によれば、各表示素子について信号線を2本備える必要がない。すなわち、信号線の数を増加させる必要がない。このため、構造を単純化できるとともに、製造時の良品率を向上させることができる。
【0266】
また、本発明の表示装置は、上記媒質が、電界の2次に比例して屈折率が変化する媒質を含む構成であってもよい。また、上記媒質が、液晶性物質を含有する媒質を含む構成であってもよい。また、上記媒質が、有極性分子を含有する媒質を含む構成であってもよい。
【0267】
また、上記媒質が、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する構成であってもよい。ここで、光学的異方性の程度が変化するということは、屈折率楕円体の形状が変わることを意味する。すなわち、本発明の表示素子では、電界無印加時と電界印加時における屈折率楕円体の形状の変化を利用することで、異なる表示状態を実現することができる。
【0268】
一方、従来の液晶表示素子では、電界印加時と電界無印加時とで、屈折率楕円体は楕円のままであり、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化(回転)する。すなわち、電界無印加時と電界印加時とにおける屈折率楕円体の長軸方向が変化(回転)することで、異なる表示状態を実現していた。
【0269】
従来の液晶表示素子では、液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していた。これに対して、上記の構成では、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行う。したがって、上記の構成によれば、従来の液晶表示素子のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がないので、高速応答を実現することができる。また、本発明の表示素子は高速応答性を備えているので、例えば、フィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置に利用することもできる。
【0270】
また、従来の電気光学効果を利用した液晶表示素子では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
【0271】
また、上記の構成では、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の液晶表示素子よりも、広視野角特性を実現できる。
【0272】
また、この場合、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示すものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には球状であり、電界を印加することによって楕円に変化する。あるいは、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示すものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって球状に変化する。また、上記媒質は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって形状が変化した楕円に変化する。
【0273】
また、上記媒質を構成する分子は、電界印加時または電界無印加時に、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有するものであってもよい。つまり、上記媒質は、光学波長未満では液体的な等方相ではなく秩序(秩序構造、配向秩序)を持っていてもよい。この秩序構造が光学波長未満であれば、光学的には等方性を示す。したがって、電界印加時または電界無印加時に、秩序構造が光学波長未満となる媒質を用いることにより、電界無印加時と電界印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
【0274】
また、上記媒質、すなわち、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する媒質は、例えば、分子の配列がキュービック対称性を示す秩序構造(配向秩序)を有する媒質であってもよい。あるいは、キュービック相またはスメクチックD相を示す分子からなる媒質であってもよい。あるいは、液晶マイクロエマルションからなる媒質であってもよい。あるいは、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相のいずれかを示すリオトロピック液晶からなる媒質であってもよい。あるいは、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相のいずれかを示す液晶微粒子分散系からなる媒質であってもよい。あるいは、デンドリマーからなるものであってもよい。あるいは、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質であってもよい。あるいは、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質であってもよい。
【0275】
上記したいずれかの媒質を用いることにより、電界印加時と電界無印加時とで、異なる表示状態を実現できる。
【0276】
また、上記媒質は、400nm以下の選択反射波長域または螺旋ピッチを有するものであってもよい。上記媒質が400nmより大きい螺旋ピッチを有する場合、その螺旋ピッチを反映した色に呈色してしまう場合がある。つまり、上記媒質が400nmより大きい場合には、その螺旋ピッチを反映した波長の光が選択的に反射されてしまい、表示素子の表示色が螺旋ピッチを反映した色に呈色してしまう場合がある。このような螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。
【0277】
そこで、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチを、400nm以下とすることにより、このような呈色を防止することができる。すなわち、400nm以下の光は、人間の目ではほとんど認識できないので、上記のような呈色が問題になることはない。
【0278】
なお、選択反射波長は上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の有する秩序構造が一次元的な構造ではない場合、例えば三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。よって、選択反射波長域全体が400nm以下であることが好ましい。
【0279】
また、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチは380nm以下であることがさらに好ましい。国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。したがって、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であれば、上記呈色を確実に防止することができる。
【0280】
また、上記媒質の螺旋ピッチは253nm以下であることがさらに好ましい。上記呈色は螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質(媒質)の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は、波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。
ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
【0281】
Δnは、誘電性物質(媒質)によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記媒質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率nは1.5程度、Δnは0.1程度である。この場合、呈色する色を可視域外とするためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、400/1.5=267nmになる。また、Δλは0.1×267=26.7nmになる。したがって、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下とすることにより、このような呈色を防止することができる。
【0282】
また、上記媒質の螺旋ピッチは240nm以下であることがさらに好ましい。上記ではλ=nPの関係において、λを400nm(人間の目が概ね認識できない波長)としたが、λを380nm(人間の目が確実に認識できない波長)とした場合には、誘電性媒質(媒質)の平均屈折率を考慮した場合に上記のような呈色を防止するための上記媒質の螺旋ピッチは240nm以下となる。したがって、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記のような呈色を確実に防止することができる。
【0283】
また、本表示装置は、上記第1電極および第2電極に並列に接続された補助容量を備えている構成としてもよい。あるいは、上記第1電極に一方の電極を接続される第1補助容量と、上記第2電極に一方の電極を接続される第2補助容量と、上記第1補助容量の他方の電極および上記第2補助容量の他方の電極が接続される補助容量配線とを備えている構成としてもよい。
【0284】
上記いずれかの構成のように、補助容量を備えることにより、上記スイッチング素子におけるリーク電流の影響を小さくできる。
【0285】
また、本表示装置は、上記第1電極および上記第2電極が、上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されていてもよい。
【0286】
一般的に、基板面に略平行な方向に電界を印加する横電界駆動方式の表示装置では、開口率や応答速度を向上させるために、駆動電圧を高くする傾向にある。上記の構成によれば、このような横電界駆動方式の表示装置において、スイッチング素子の耐圧が限られている場合でも、駆動電圧を増大させることができる。
【0287】
また、上記の構成では、上記第1電極とそれに接続されるスイッチング素子、および、上記第2電極とそれに接続されるスイッチング素子が、同一の基板上に形成されることになる。この場合、各画素について1つのスイッチング素子を設けた従来の横電界駆動方式の表示装置、あるいは、両基板間(両基板にそれぞれ設けられた電極間)に電界を印加する縦電界駆動方式の表示装置において両基板にそれぞれスイッチング素子を設け、両基板に備えられる電極をそれぞれ異なるスイッチング素子に接続する場合に比べて、以下のような利点がある。
(a)従来の横電界方式の表示装置と略同様の製造プロセス(TFT基板製造工程)によって製造できるので、製造コストの増大を招くことがない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれTFT(スイッチング素子)を形成する必要があるので、工程数が大幅に増加する。
(b)従来の横電界方式の表示装置と同様、ドライバ(ソース(信号)ドライバ、ゲートドライバ)を一方の基板に接続するだけでよい。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれドライバを接続する必要があり、パネル構造が複雑になる。
(c)カラーフィルタを、必ずしもTFTが形成される基板側に設ける必要がない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれTFTを形成する必要があるので、カラーフィルタをTFTが形成される基板側に設けることになる。このため、良品率の低下や製造コストの増加、パネル信頼性の低下を招く。
(d)TFTを従来の横電界方式の表示装置と同様の向きに形成すればよいので、バックライトによって光電流が生じることを防止できる。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、一方の基板側に設けられるTFTのチャネルがバックライトと正対するので、光電流によるオフ不良が発生してしまう場合がある。
(e)各TFTに接続されるゲートを共通にできるので、ゲートドライバの数が増加することがない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板に設けられるTFTごとにそれぞれゲート線を設ける必要があるので、ゲートドライバの数が増加(倍増)してしまう。また、ソースドライバの数についても同様に増加(倍増)する。
(f)TFTを一方の基板にのみ形成すればよいので、基板上に画素とその駆動回路とを一括して形成するモノリシック構造(例えば低温ポリシリコンモノリシックパネル)にすることにより、良品率を低下させることなくドライバ数を削減できる。すなわち、上記の構成は、モノリシック構造と相性がよい。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置においてモノリシック構造を採用することも可能であるが、その場合、良品率が大幅に低下するという問題がある。すなわち、モノリシック構造の場合には一般的に良品率が低いが、上記縦電界駆動方式の表示装置ではモノリシック構造の基板を2枚組み合わせる必要があり、良品率は一方の基板をモノリシック構造とする場合の2乗となる。
【0288】
ただし、本発明の表示装置は、横電界駆動方式の表示装置に限定されるものではなく、縦電界駆動方式の表示装置であってもよい。すなわち、上記第1電極および上記第2電極が、互いに異なる基板に形成されている構成であってもよい。なお、この場合、上記表示素子を複数備えるとともに、上記各表示素子について設けられた信号線と、複数の表示素子について共通に設けられた対向電極線とを備えており、上記第1電極は、スイッチング素子を介して上記信号線に接続されており、上記第2電極は、上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されていることが好ましい。
【0289】
上記の構成によれば、一方の基板に設けられるTFTが各画素について共通の対向電極線に接続される。したがって、上記一方の基板において、信号線を各画素に備えられるTFTに個別に配線する必要がない。このため、良品率を向上させることができる。また、上記一方の基板にソースドライバを接続する必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0290】
本発明の表示装置は、テレビやモニター等の画像表示装置や、ワープロやパーソナルコンピュータ等のOA機器、あるいは、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の情報端末等に備えられる画像表示装置に、広く適用することができる。また、本表示装置は、高速応答性を有しているので、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0291】
1、2 基板
3 誘電性物質層
4、5 電極
6、7 偏光板
21 カラーフィルタ
22、23 水平配向膜
C 対向電極線
Cp 素子容量
C’ 補助容量配線
Cs 補助容量
Cs1 補助容量(第1補助容量)
Cs2 補助容量(第2補助容量)
D、D1、D2 ドレイン
G、G1、G2、Gc 走査線(走査信号線)
S 信号線(データ信号線)
S1 信号線(第1信号線)
S2 信号線(第2信号線)
TFT、TFT1、TFT2 スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧駆動が可能な表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、各種表示素子のなかでも薄型で軽量かつ消費電力が小さいといった利点を有している。このため、テレビやモニター等の画像表示装置や、ワープロ、パーソナルコンピュータ等のOA(Office Automation)機器、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の情報端末などに備えられる画像表示装置に広く用いられている。
【0003】
液晶表示素子の液晶表示方式としては、従来、例えば、ネマチック(ネマティック)液晶を用いたツイステッドネマチック(TN)モ−ドや、強誘電性液晶(FLC)あるいは反強誘電性液晶(AFLC)を用いた表示モード、高分子分散型液晶表示モ−ド等が知られている。また、基板面に対して平行な方向の電界を用いて表示を行うIPS(In-Plane Switching)モード(横電界駆動方式)が知られている。
【0004】
これらの液晶表示素子において、応答速度を向上させるためには、駆動電圧を高くすることが有効である。特に、IPSモードでは、開口率や応答速度を向上させるために、駆動電圧を高くする傾向にある。
【0005】
ところが、従来の液晶表示装置に適用されているTFT(スイッチング素子)構造(TFTを含む回路構成)は、高駆動電圧には不向きである。
【0006】
ここで、従来の液晶表示装置における回路構成が、高電圧駆動に適さない理由について説明する。図17は、従来のIPS方式の液晶表示装置に備えられる表示素子100の概略構成を示す断面図である。この図に示すように、表示素子100は、2枚のガラス基板(基板101および102)の間に挟持された誘電性物質層103に、液晶(図示せず)が封入されてなる。また、基板101における基板102との対向面には、誘電性物質層103に電界を印加するための信号電極104および対向電極105が互いに対向配置されている。さらに、基板101および102における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板106および107が備えられている。そして、この液晶表示装置は、両電極間に電圧を印加することによって形成される電界により、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行うようになっている。
【0007】
また、図18は、上記の液晶表示装置に備えられる、スイッチング素子TFTを用いた画素等価回路図であり、図19は、表示素子100の画素構造の模式図である。これらの図に示すように、上記の液晶表示装置では、信号電極104と対向電極105とが素子容量Cpを構成しており、信号電極104はスイッチング素子TFTを介して信号線Sに接続され、対向電極105は対向電極線Cに接続されている。また、スイッチング素子TFTのゲート電極は、走査線Gに接続されている。なお、図19に示すように、両基板101・102にそれぞれ設けられた偏光板106・107は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と両電極104・105の対向方向(電界方向)とが約45度の角度をなすように備えられている。
【0008】
このような構成からなる従来の液晶表示素子において、対向電極線Cに印加する電圧をDC(直流、一定)とし、信号線Sに印加できる電圧のダイナミックレンジをVppとすると、表示素子100(素子容量(素子)Cp)の安定駆動を意図した交流駆動を行うことにより、表示素子100に±Vpp/2の電圧を印加できる。すなわち、対向電極線Cに印加する電位を一定(Vpp/2)とし、信号線SにVpp〜Vpp/2の範囲の電圧を印加した場合には、表示素子100にVpp/2〜0(=信号線Sの電圧−対向電極線Cの電圧)の電圧が印加され、信号線SにVpp/2〜0の範囲の電圧を印加した場合には、表示素子100に0〜−Vpp/2の電圧が印加される。
【0009】
ところで、このような液晶表示装置において、表示素子100に印加できる電圧を大きくし、駆動電圧を高めたい場合、対向電極線Cに印加する電圧をAC(交流)にすることが考えられる。例えば、対向電極105(対向電極線C)に印加する電圧を0〜Vppで交流化する。この場合、信号線Sに印加される電圧をVpp〜0とし、対向電極線Cに印加される電圧を0とすると、表示素子100にVpp〜0の電圧が印加される。一方、信号線Sに印加する電圧をVpp〜0とし、対向電極線Cに印加される電圧をVppとすると、表示素子100に0〜−Vppの電圧が印加される。すなわち、対向電極線Cに印加する電圧を0〜Vppの範囲で交流化することにより、0〜±Vppの範囲の電圧を表示素子100に印加でき、表示素子100に印加する電圧を都合2倍にできる。
【0010】
なお、対向電極線Cに印加する電圧をACにしても、駆動電圧が不足する場合には、信号線Sから供給することができる電圧のダイナミックレンジVppを増強する必要がある。つまり、対向電極105に印加する電圧の交流化および信号線Sに印加する電圧のダイナミックレンジVppの増強により、表示素子100の高電圧駆動化を図ることができる。
【0011】
しかしながら、この場合には、走査線Gに印加する電圧が大きくなってしまい、スイッチング素子TFTの耐久性が低下するという問題がある。この問題について、図20および図21を用いて説明する。図20は、上記従来の液晶表示装置における、異なる走査線Gに接続された、隣接する2つの画素(画素11および画素12)についての等価回路図である。また、図21は、画素11および画素12における、各部の電圧状態の一例を示したタイミングチャートである。
【0012】
図20に示す構成では、図18に示した表示素子100の回路構成からなる画素(表示素子)11および画素(表示素子)12が隣接して配置されている。そして、この画素11および12における素子容量Cpは、一方の電極がスイッチング素子TFTを介して共通の信号線Sに接続されており、他方の電極が共通の対向電極線Cに接続されている。
【0013】
このような構成では、例えば、図21に示すように、画素11において、対向電極105の電位(対向電極線Cの電位)が0、信号電圧(信号線Sに印加されている電圧)がVppの状態で、スイッチング素子TFTをオンにすると、ドレインDの電位がVppとなり、Vppが書き込まれる。そして、この状態からスイッチング素子TFTをオフにしても、隣接する画素12に対して逆極性で書き込んでいない場合、すなわち、対向電極線Cの電位が0のままの場合には、ドレインDと対向電極線C(対応電極)の電位差は、Vppで保たれる。
【0014】
しかしながら、隣接する画素12において、逆極性での書き込みが行われる場合、すなわち、対向電位(対向電極線Cの電位)がVpp、信号電圧が0の状態でスイッチング素子TFTをオンにした場合、画素11におけるドレインDの電位は2Vppとなる。これは、画素11と画素12とで対向電極線Cが共有されており、また、画素11における素子容量(画素容量)Cpの両端子間の電位差は不変であるためである。
【0015】
つまり、画素12を書き込むために対向電極線Cの電位をVppとすると、画素11および画素12における対向電極線Cは共通(すべてつながっている)なので、画素11の素子容量Cpにおける対向電極線C側の端子の電位はVppとなる。一方、画素11はスイッチング素子TFTがオフとなっているので、素子容量Cpに充電された電荷はどこにも逃げ場がなく、素子容量Cpの両端子間の電位差は一定に保たれる。このため、対向電極線C側の端子における電位が変動すると、その変動幅と同じ分だけドレインD側の端子の電位が変動してしまう。
【0016】
なお、図21に示したように、画素12に0を書き込んだ後、スイッチング素子TFTをオフにした状態において、他の画素にVppを書き込むために対向電極線Cの電位が0とされると、画素12におけるドレインDの電位は−Vppに下がってしまう。
【0017】
このように、従来の液晶表示装置に備えられる回路構成では、他の画素を逆の極性で書き込む場合に、ドレインDの電位が、書き込み時の電位(上記の例では、Vppまたは0)から大きく変動する(上記の例では、2Vppまたは−Vppに変動する)という問題がある。
【0018】
なお、各画素を正確に駆動させるためには、上記のようにドレイン電位(ドレインDの電位)が変動しても、スイッチング素子TFTを正確にオンおよびオフさせる必要がある。このため、走査線Gに印加する、スイッチング素子TFTをオンするための電圧(ゲートオン電圧)とオフにするための電圧(ゲートオフ電圧)との差を、ドレイン電位の変動分だけ大きくする必要がある。
【0019】
しかしながら、走査線Gに印加する電圧が大きくなると、スイッチング素子TFTの耐久性が大きく低下してしまう(例えば、チャネル部のオフ電流が上昇する)。したがって、特に、信号線Sに印加する電圧のダイナミックレンジVppを増強した場合には、スイッチング素子TFTに与えるダメージが大きくなるという問題がある。
【0020】
したがって、従来の液晶表示素子において液晶層に印加できる駆動電圧は、スイッチング素子としてのTFT(thin film transistor、薄膜トランジスタ)の耐圧特性によって制限される。特に、近年では、各画素のスイッチング素子としてポリシリコンからなるTFTを用いた、ポリシリコンパネル(例えば、基板上に画素とその駆動回路とを一括して形成するモノリシックポリシリコンパネル)が多用されているが、この場合、ポリシリコンからなるTFTは耐圧が低いので、駆動電圧の上限も低くなってしまう。
【0021】
このため、液晶表示素子(液晶パネル)に備えられるスイッチング素子として耐圧の限られたTFTを用いる場合でも、液晶に印加できる電圧(駆動電圧、電界)を大きくする技術が求められている。
【0022】
ところで、上記した各液晶表示方式のうち、例えば、TNモードの液晶表示素子は、従来から実用化されている。しかしながら、TNモードを用いた液晶表示素子には、応答が遅い、視野角が狭い等の欠点があり、これらの欠点は、CRT(cathode ray tube)を凌駕する上で大きな妨げとなっている。
【0023】
また、FLCあるいはAFLCを用いた表示モ−ドは、応答が速く、視野角が広いといった利点を有してはいるものの、耐ショック性、温度特性等の面で大きな欠点があり、広く実用化されるまでには至っていない。
【0024】
さらに、光散乱を利用する高分子分散型液晶表示モ−ドは、偏光板を必要とせず、高輝度表示が可能であるが、本質的に位相板による視角制御ができない上、応答特性の面で課題を有しており、TNモードに対する優位性は少ない。
【0025】
これら表示方式は、何れも、液晶分子が一定方向に整列した状態にあり、液晶分子に対する角度によって見え方が異なるため、視角制限がある。また、これら表示方式は、何れも、電界印加による液晶分子の回転を利用するものであり、液晶分子が整列したまま揃って回転するため、応答に時間を要する。なお、FLCやAFLCを用いた表示モードの場合、応答速度や視野角の面では有利であるが、外力による非可逆的な配向破壊が問題となる。
【0026】
一方、電界印加による液晶分子の回転を利用するこれらの表示方式に対して、二次の電気光学効果を利用した電子分極による表示方式が提案されている。
【0027】
電気光学効果とは、物質の屈折率が外部電界によって変化する現象である。電気光学効果には、電界の一次に比例する効果と二次に比例する効果とがあり、それぞれポッケルス効果、カー効果と呼ばれている。特に、二次の電気光学効果であるカー効果は、高速の光シャッターへの応用が早くから進められており、特殊な計測機器において実用化されている。
【0028】
カー効果は、1875年にJ. Kerr(カー)によって発見されたものであり、これまでに、カー効果を示す材料としては、ニトロベンゼンや二硫化炭素等の有機液体が知られている。これら材料は、例えば、前記した光シャッター、光変調素子、光偏光素子、あるいは、電力ケーブル等の高電界強度測定等に利用されている。
【0029】
その後、液晶材料が大きなカー定数を有することが示され、光変調素子、光偏向素子、さらには光集積回路応用に向けての基礎検討が行われ、前記ニトロベンゼンの200倍を越えるカー定数を示す液晶化合物も報告されている。
【0030】
このような状況において、カー効果の表示装置への応用が検討され始めている。カー効果は、電界の二次に比例するため、電界の一次に比例するポッケルス効果と比較して、相対的に低電圧駆動を見込むことができる上、本質的に、数マイクロ秒〜数ミリ秒の応答特性を示すため、高速応答表示装置への応用が期待される。
【0031】
例えば、特許文献1には、カー効果を用いた表示装置として、少なくとも一方が透明な一対の基板と、該一対の基板間に挟持された等方相状態の有極性分子を含む媒体と、上記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の外側に配設された偏光板と、上記媒体に電界を印加するための電界印加手段とを備えた表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2001−249363号公報(公開日2001年9月14日)
【特許文献2】特開平11−183937号公報(公開日1999年7月9日)
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】斉藤 一弥、徂徠 道夫,「光学的に等方性である珍しいサーモトロピック液晶の熱力学」,液晶,第5巻,第1号,p.20−27,2001年
【非特許文献2】山本 潤,「液晶マイクロエマルション」,液晶,第4巻,第3号,p.248−254,2000年
【非特許文献3】白石 幸英、外4名,「液晶分子で保護したパラジウムナノ粒子−調製とゲスト-ホストモード液晶表示素子への応用」,高分子論文集,Vol.59,No.12,p.753−759,2002年12月
【非特許文献4】「Handbook of Liquid Crystals」, Vol.1, p.484-485, Wiley-VCH ,1998
【非特許文献5】米谷 慎,「分子シミュレーションでナノ構造液晶相を探る」,液晶,第7巻,第3号,p.238−245,2003年
【非特許文献6】「Handbook of Liquid Crystals」, Vol.2B, p.887-900, Wiley-VCH,1998
【非特許文献7】山本 潤,「液晶科学実験講座第1回:液晶相の同定:(4)リオトロピック液晶」,液晶,第6巻,第1号,p.72−82
【非特許文献8】Eric Grelet、外3名「Structural Investigations on Smectic Blue Phases」,PHYSICAL REVIEW LETTERS, The American Physical Society,23 APRIL 2001,VOLUME 86,NUMBER 17,p.3791-3794
【非特許文献9】Shiro Matsumoto、外3名「Fine droplets of liquid crystals in a transparent polymer and their response to an electric field」,1996,Appl. Phys. Lett., Vol.69, p.1044-1046
【非特許文献10】Norihiro Mizoshita、Kenji Hanabusa、Takashi Kato「Fast and High-Contrast Elecro-optical Switching of Liquid-Crystalline Physical Gels:Formation of Oriented Microphase-Separated Structures」,Advanced Functional Materials, APRIL 2003,Vol.13, No.4, p313-317)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
しかしながら、上記特許公報に開示されている表示装置は、駆動電圧が高いという問題がある。このため、上記特許公報に開示されている表示装置を、従来の液晶表示装置に適用されているTFT(thin film transistor、スイッチング素子)構造(TFTを含む回路構成)を用いて駆動することができない。したがって、上記特許公報に開示されているようなカー効果を用いた表示装置を駆動するためには、従来の液晶表示装置に適用されているTFTを用いる場合でも駆動可能な、高駆動電圧に適した回路構成が必要である。
【0035】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐圧の限られたTFTをスイッチング素子として用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能な表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の表示装置は、少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、複数のデータ信号線と各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記データ信号線と上記走査信号線との組み合わせ毎に設けられており、複数の上記表示素子について共通に設けられた対向電極線を備えており、上記第1電極はスイッチング素子を介して上記データ信号線に接続されており、上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されており、上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴としている。
【0037】
また、本発明の第2の表示装置は、なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を複数備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、互いに平行かつ交互に配置された複数の第1信号線および第2信号線と、上記第1信号線および上記第2信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記第1信号線、上記第2信号線、および上記走査信号線の組み合わせ毎に設けられており、上記第1電極はスイッチング素子を介して上記第1信号線に接続されており、上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記第2信号線に接続されており、上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
上記の構成によれば、上記第1電極および第2電極が接続されたスイッチング素子がオフとなっている場合には、上記両電極がどの電極線にも接続されない。このため、他の表示素子に対して、当該表示素子に書き込まれた極性とは逆の極性で書き込む場合でも、当該表示素子における第1電極および第2電極の電位を一定に保つことができる。したがって、スイッチング素子を駆動するための電圧を小さく抑えることができ、スイッチング素子の耐久性を向上させることができる。
【0039】
また、上記の構成によれば、駆動電圧を高くするために、第1電極および第2電極に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制することができる。したがって、高電圧駆動を行う場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制できる。すなわち、耐圧の限られたスイッチング素子を用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能となる。
【0040】
また、上記第2の表示装置によれば、上記両電極間に信号電圧を印加する場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオンとする一方、上記両電極間に信号電圧を印加しない場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオフとすることになる。したがって、スイッチング素子の寄生容量による両電極の電圧変動が、同様の傾向で発生する。このため、両電極における電圧変動は相殺される傾向となり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図2】(a)は、電圧(電界)無印加状態における、本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子の断面図である。(b)は、電圧(電界)印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子における、電極および偏光板の配置を説明するための説明図である。
【図4】(a)は電圧(電界)無印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置における表示素子の断面図であり、(b)は電圧(電界)印加状態における本発明の一実施の形態にかかる表示装置における表示素子の断面図であり、(c)は本発明の一実施の形態にかかる表示装置における電圧透過率曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる各表示素子において、一方の基板上に備えられる回路構成を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施の形態にかかる表示装置に備えられる表示素子において、水平配向膜およびカラーフィルタを設けた場合の構成例を示す断面図である。
【図7】各種液晶相の構造モデルである。
【図8】キュービック相の構造モデル(ロッドネットワークモデル)である。
【図9】キュービック相の構造モデルである。
【図10】誘電性物質層に封入する媒質としてBABH8を用いた場合の本発明の表示装置に備えられる表示素子と、従来の液晶表示素子とにおける、表示原理の違いを説明するための説明図である。
【図11】液晶マイクロエマルションの構造を示す模式図である。
【図12】液晶マイクロエマルションの構造を示す模式図である。
【図13】リオトロピック液晶相の分類図である。
【図14】本発明の他の実施の形態にかかる表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図15】本発明の一実施の形態にかかる表示装置において、補助容量を設けた場合の各表示素子に対応する回路構成の一例を示す等価回路図である。
【図16】本発明の一実施の形態にかかる表示装置において、補助容量を設けた場合の各表示素子に対応する回路構成の他の例を示す等価回路図である。
【図17】従来の液晶表示装置に備えられる表示素子の構成を示す断面図である。
【図18】従来の液晶表示装置における、各表示素子に対応する回路構成を示す等価回路図である。
【図19】従来の液晶表示装置に備えられる各表示素子において、一方の基板上に備えられる回路構成を示す模式図である。
【図20】従来の液晶表示装置における、異なる走査線に接続された、隣接する2つの画素についての等価回路図である。
【図21】従来の液晶表示装置における、異なる走査線に接続された、隣接する2つの画素についての、各部の電圧状態の一例を示したタイミングチャートである。
【図22】本発明の表示装置において、2つの電極を異なる基板にそれぞれ設けた場合の回路構成の一例を示す等価回路図である。
【図23】(a)は図22の表示装置における、一方の基板側の配線模式図であり、(b)は図22の表示装置における、他方の基板側の配線模式図であり、(c)は図22の表示装置における、一方の基板側から見た場合の両電極の位置関係を示す配線模式図である。
【図24】本発明の実施の一形態にかかる表示素子について測定した電圧−透過率特性から見積もった、透過率が最大となる電圧値と、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
〔実施の形態1〕
〔実施例1〕
本発明の実施の一形態について図に基づいて説明する。
図2(a)および図2(b)は、本実施の形態にかかる表示装置(本表示装置)に備えられる表示素子(画素)10の概略構成を示す断面図である。本表示装置は、このような表示素子10が、駆動回路や信号線(データ信号線)、走査線(走査信号線)などとともに複数備えられてなる。すなわち、本表示装置には複数のデータ信号線と、各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とが設けられており、これらデータ信号線および走査信号線の組み合わせ毎に、表示素子10を備えた画素が設けられている。
【0043】
表示素子10は、対向する2枚の基板(基板1および2)間に、光学変調層である誘電性物質層3が挟持されてなる。また、基板1における基板2との対向面には、誘電性物質層3に電界を印加するための電界印加手段である電極(信号電極)4および電極(対向電極)5が互いに対向配置されている。さらに、基板1および2における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板6および7が備えられている。
【0044】
なお、図2(a)は電極4・5間に電圧(電界)が印加されていない状態(電圧(電界)無印加状態(OFF状態))を表しており、図2(b)は電極4・5間に電圧(電界)が印加されている状態(電圧(電界)印加状態(ON状態))を表している。
【0045】
基板1および2は、ガラス基板で構成されている。ただし、基板1および2の材質はこれに限るものではなく、基板1および2のうち、少なくとも一方が透明な基板であればよい。なお、表示素子10における両基板間の間隔、すなわち誘電性物質層3の厚みは10μmである。ただし、両基板間の間隔はこれに限定されるものではなく、任意に設定すればよい。
【0046】
図3は、電極4・5の配置および偏光板6・7の吸収軸方向を説明するための説明図である。この図に示すように、表示素子10における電極4および電極5は、櫛歯状に形成された櫛形電極からなり、互いに対向配置されている。なお、表示素子10では、電極4・5は、線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μmで形成されているが、これに限らず、例えば、基板1と基板2との間のギャップに応じて任意に設定することができる。また、電極4・5の材料としては、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料、アルミニウム等の金属電極材料等、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。また、両電極の形状は、櫛形電極に限るものではなく、適宜変更してもよい。
【0047】
また、図3に示すように、両基板にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向(電界印加方向に直交する方向)とが約45度の角度をなすように備えられている。このため、各偏光板における吸収軸は、電極4・5による電界印加方向に対して、約45度の角度をなす。
【0048】
誘電性物質層3には、下記の構造式(1)を有する化合物(以下、化合物Aという)が封入されている。
【0049】
【化1】
【0050】
この化合物Aは、33.3℃未満でネマチック相を示し、それ以上の温度では、液晶分子の配向方向が等方的となり、等方相を示す。
【0051】
また、本表示装置は、誘電性物質層3の温度を所定の温度、すなわち、化合物Aのネマチック相−等方相相転移温度(液晶−等方相相転移温度)以上の温度に加熱する加熱手段(図示せず)を備えている。この加熱手段は、例えば、表示素子10の周辺に設けられるヒータであってもよく、表示素子10に直接貼合されるシート状ヒータ等であってもよい。
【0052】
また、両基板1・2の対向面上に、ラビング処理が施された配向膜を、必要に応じて形成してもよい。この場合、基板1側に形成される配向膜は、電極4・5を覆うように形成してもよい。
【0053】
図4(a)は、本表示装置において、誘電性物質層3をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に電界を印加しない場合の、液晶分子の配向状態を示す説明図である。また、図4(b)は、本表示装置において、ネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に電界を印加した状態における液晶分子の配向状態を示す説明図である。
【0054】
これらの図に示したように、本表示装置では、誘電性物質層3を加熱手段によってネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度(相転移温度よりもわずかに高い温度、たとえば+0.1K)に保ち、電界印加を行うことにより、透過率を変化させることができる。すなわち、図4(a)に示すように、電界無印加状態では、化合物Aからなる誘電性物質層3は等方相であるため、光学的に等方的であり、黒表示状態となる。一方、電界印加時には図4(b)に示すように、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物Aの分子の長軸方向が配向して複屈折が発現するので、透過率を変調できる。
【0055】
図4(c)は、本表示装置において、誘電性物質層3をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電極4・5間に印加する電圧(電界)を変化させた場合の、電圧透過率曲線を示すグラフである。この図に示すように、本表示装置では、印加する電圧に応じて透過率を変化させることができる。
【0056】
なお、誘電性物質層3の温度を相転移点直上に保つ場合、0V〜100V前後の電圧で、実用上十分な程度に透過率を変調させることができる。しかしながら、相転移温度から十分に遠い温度(相転移温度よりも十分に高い温度)においては、以下に説明するように、必要な電圧が大きくなる。
【0057】
すなわち、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折は、
△n=λBE2
で記述できる。なお、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
【0058】
そして、このカー定数Bは、
B∝(T−Tni)−1
に比例する。ここで、Tniは転移点の温度であり、Tは媒質の温度である。
【0059】
したがって、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができるが、相転移温度から十分遠い温度では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなる。したがって、上述の相転移温度直上のカー効果を利用した表示素子では、高精度な温度制御が必要であり、温度制御の精度が低くなるほど、駆動電圧を高くすることが必要となる。
【0060】
図1は、本表示装置における、各表示素子10に対応する回路構成を示す等価回路図である。また、図5は、各表示素子10において、基板1上に備えられた回路の構成を示す模式図である。
これらの図に示すように、本表示装置では、電極4および5が素子容量Cpを構成しており、電極4がスイッチング素子TFT1を介して信号線S1に接続され、電極5がスイッチング素子TFT2を介して信号線Sに接続されている。すなわち、本表示装置には、対向電極線が備えられておらず、同一画素(同一表示素子)に2つの信号線(信号電極線)S1・S2が備えられている。このため、本表示装置では、信号電極と対向電極との区別が、もはやなくなっていると言うこともできる。
【0061】
このように、本表示装置では、誘電性物質層3に封入された媒質に電圧を印加するための両方の電極(電極4・5)が、それぞれスイッチング素子TFT1・TFT2のドレインD1・D2側に接続されている。
【0062】
このような構成とすることにより、本表示装置では、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオンの時には両電極4・5間に信号が書き込まれる一方、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオフの時には両電極4・5が、どの電極線(信号線)にも接続されない。すなわち、本表示装置では、素子容量Cpの両側の端子(電極4・5)が、それぞれスイッチング素子TFT1・TFT2を介して信号線S1・S2に接続されているために、素子容量Cpの両側の端子を、信号線S1・S2に対してハイインピーダンス(絶縁状態)にすることが可能となる。
【0063】
その結果、他の走査線(例えば走査線G2)に接続されている他の表示素子の電極を逆の極性で書き込んでいても、当該表示素子10(走査線G1に接続されている表示素子10)における電極4・5の電位は一定に保たれる。すなわち、上記した従来の液晶表示装置のように、ドレイン電位が変動するといった問題は生じず、スイッチング素子TFTを駆動するためのゲート電圧を大きくする必要がなくなる。
【0064】
この結果、本表示装置では、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線S1およびS2に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0065】
したがって、本表示装置によれば、高電圧駆動が可能となる。特に、本表示装置では、電気光学効果を用いた表示装置においても、高電圧駆動が可能となるので、高速応答特性と高視野角特性とを備えた表示装置を実現できる。
【0066】
なお、本表示装置では、素子容量Cp(電極4・5間)に信号電圧を印加する場合には、電極4・5に接続されているスイッチング素子TFT1・TFT2を共にオンとする一方、電極4・5間に信号電圧を印加しない場合には、電極4・5に接続されているスイッチング素子TFT1・TFT2を共にオフとすることになる。このため、スイッチング素子TFT1のドレインと走査線Gとの間に存在する寄生容量による電極4の電圧シフト(電圧変動)が、スイッチング素子TFT2のドレインと走査線Gとの間に存在する寄生容量による電極5の電圧シフトと常に同様の傾向で発生する。したがって、両者の電圧シフトは相殺される傾向になり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【0067】
ここで、寄生容量は、例えば、スイッチング素子(TFT)におけるドレイン電極と走査線とが重なり合う領域、すなわち、スイッチング素子(TFT)のドレイン電極とゲート電極との間に形成される絶縁層に存在する。あるいは、スイッチング素子(TFT)以外の箇所においても、例えば、ドレイン電極と走査線とが水平位置で最隣接する箇所などにも存在する。
【0068】
また、スイッチング素子TFT1およびTFT2は、同様の構成であることが好ましい。すなわち、両者のドレイン電極−ゲート電極間に発生する寄生容量は、同様であることが好ましい。また、電極4・5、スイッチング素子TFT1・TFT2、走査線Gの配置は、電極4・5と走査線との間に発生する寄生容量が同様となるように配置されることが好ましい。これらの構成では、両者の寄生容量に伴う電極4・5の電圧シフトが同様の大きさとなり、互いにキャンセルされるので、電圧シフトの問題を考慮する必要がなくなる。
【0069】
なお、一般的に、画素数が多いパネル(例えばテレビなど)では充電能力を高めるためにスイッチング素子(TFT)のサイズを大きくする必要があるが、このとき寄生容量も増大する。すなわち、充電能力と寄生容量とはトレードオフの関係がある。このため、本表示装置の構成は、画素数が多いパネルに特に好適である。
【0070】
また、本表示装置は、図1に示した本表示装置の回路構成に加えて、各表示素子10に補助容量を設ける構成としてもよい。例えば、図15に示すように、補助容量Csを、素子容量Cp(電極4および5)に並列に接続してもよい。あるいは、図16に示すように、図1に示した構成に加えて補助容量配線C’と、2つの補助容量Cs1・Cs2とを設け、素子容量Cpにおける電極4・5を、それぞれ異なる補助容量Cs1・Cs2を介して補助容量配線C’に接続する構成としてもよい。このように、補助容量を設けることにより、スイッチング素子TFT1およびTFT2におけるリーク電流の影響を小さくできる。
【0071】
本表示装置は、大きな極性を有する物質を用いたほうが駆動電圧を低減できるという利点を有する。この場合、不純物イオンなどが多く含まれやすく、画素容量にもリーク電流が発生しやすいが、補助容量の付加はこの影響も小さくすることができるため好適である。
【0072】
また、本表示装置では、基板1にのみ電極4・5が形成されているが、これに限らず、電極4・5を基板1・2のそれぞれに設けてもよい。
【0073】
また、本表示装置では、誘電性物質層3に封入する媒質として上記化合物Aを用いているが、これに限るものではない。例えば、他の液晶性物質であってもよい。この場合、単一化合物で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質の混合により液晶性を示すものでもよい。あるいは、これらに他の非液晶性物質が混入されていてもよい。
【0074】
例えば、上記特許文献1に記載してあるような液晶性物質、すなわち、5CB(4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル)、5OCB(4−シアノ−4’−n−ペンチルオキシビフェニル)、3OCB(4−シアノ−4’−n−プロピルオキシビフェニル)と5OCBと7OCB(4−シアノ−4’−n−ヘプチルオキシビフェニル)との等量混合物、PCH5(トランス−4−ヘプチル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン)、3HPFFと5HPFFと7HPFFとの混合物(1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼンと、1,2−ジフルオロ−4−[トランス−4−(トランス−4−n−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゼン)とよりなる混合物)などを適用してもよい。あるいは、これらの液晶性物質に溶媒を添加したものを適用してもよい。
【0075】
また、特許文献2に記載してあるように、液晶性物質を、網目状高分子、マイクロカプセル、多孔質無機質などで小区域に分割したものを適用することもできる。
【0076】
また、非特許文献9に記載してあるような高分子・液晶分散系(ネマチック液晶/高分子複合系)を適用することもできる。また、非特許文献10に記載してあるようなゲル化剤を添加しても良い。
【0077】
また、基板(誘電性物質層3)に封入する媒質は、例えば、PLZT(ジルコン酸鉛とチタン酸鉛との固溶体にランタンを添加した金属酸化物)のように、カー効果(電気光学効果)を示すものであってもよい。また、誘電性物質層3に封入する媒質としては、例えば、ニトロベンゼンなどのように、有極性分子を含有するものであってもよい。これらの媒質は、典型的には、電界無印加時には光学的に概ね等方であり、電界印加により光学変調を誘起される媒質である。すなわち、これらの媒質は、典型的には、電界印加に伴い分子、または分子集合体(クラスター)の配向秩序度が上昇する物質である。なお、誘電性物質層3に封入する媒質は、特に、電界印加により複屈折が上昇することが望ましい。
【0078】
また、誘電性物質層3に封入する媒質は、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する他の媒質であってもよい。ここで、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質とは、例えば、電界無印加時には光学的等方性を示し、電界印加により光学的異方性が発現する媒質であってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には球状であり、電界を印加することによって楕円に変化する。あるいは、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質であってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって球状に変化する。また、上記媒質は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって形状が変化した楕円に変化する。
【0079】
例えば、ナノスケールの構造を有する液晶相であり、光学的には等方的に見える液晶相を適用することができる。これらに電界を印加することにより、ナノスケールの微細構造にひずみを与え、光学変調を誘起させることができる。
【0080】
あるいは、液晶分子が光の波長未満のサイズで放射状に配向している集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を用いてもよい。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体にひずみが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
【0081】
以下に、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として利用可能な媒質の例を、媒質例として記載する。ただし、以下に示す媒質例は、利用可能な媒質の一例を示すものであり、本表示装置に利用可能な媒質を限定するものではない。
【0082】
〔媒質例1〕
例えば、従来のIPS方式(IPSモード)による液晶表示装置に用いられている液晶(例えば、ネマチック液晶など)を用いることができる。すなわち、本表示装置の構成は、IPS方式を用いた液晶表示素子にも適用できる。
【0083】
この場合、例えば、本表示装置に備えられる表示素子を、図6に示す表示素子20のような構成としてもよい。
【0084】
図6に示すように、表示素子20は、図2(a)および図2(b)の構成に加えて、基板2の内側にカラーフィルタ層(CF層)21を備えている。また、基板1および2の内側には、電極(画素電極)4・5の伸長方向(電界方向に垂直な方向)に対して10度程度斜めの方向(右回りまたは左回りのどちらでもよい)ラビングを施した水平配向膜22・23がそれぞれ備えられている。
【0085】
なお、基板1および2は、両基板の間隙(誘電性物質層3の幅)が5μmとなるように貼り合わされており、誘電性物質層3には、ネマチック液晶が封入されている。また、この構成では、基板1をTFT基板と表現し、基板2をCF基板と表現することもできる。
【0086】
このように、本表示装置を、IPS方式の液晶表示装置として構成した場合でも、化合物Aを用いた上記の構成と略同様の効果を得ることができる。すなわち、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1および2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線S1およびS2に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1および2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0087】
また、このような構成の本表示装置では、従来のIPS方式の液晶表示装置と比較して、高電圧駆動を行うことが可能である。このため、応答速度の高速化が可能となる。また、電極間ギャップ(電極4と電極5との間隔)を広げることができるので、高開口率化を図ることができる。
【0088】
なお、上記の例では、電極4・5の伸長方向に対して10度程度斜めの方向にラビングを施した水平配向膜22・23を備えているとしたが、これに限るものではない。例えば、電極4・5に対するラビング方向の傾斜角度は、任意に設定すればよい。また、基板1および2は、両基板の間隙が5μmとなるように貼り合わされているとしたが、これに限らず、両基板の間隙は任意に設定すればよい。
【0089】
〔媒質例2〕
また、図2(a)および図2(b)に示した本表示装置の構成において、誘電性物質層3に封入される媒質として、化合物Aではなく、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する他の媒質を用いてもよい。
【0090】
このような媒質として、例えば、非特許文献5および非特許文献6に記載されているBABH8を用いることができる。このBABH8の構造式は、下記構造式(2)で表わされる。
【0091】
【化2】
【0092】
ここで、誘電性物質層3に封入する物質としてBABH8を用いた場合、すなわち、図2(a)および図2(b)の構成において、誘電性物質層3にBABH8を封入した場合の本表示装置における表示原理について説明する。
【0093】
このような構成の本表示装置において、誘電性物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御する。この温度範囲では、BABH8は、格子定数が約6nmと光学波長より1桁以上も小さく、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの、キュービック対称性(立方晶の対称性)を有する秩序構造(配向秩序)からなるキュービック相(cubic phase,立方晶相)を示す。なお、上記「分子シミュレーションでナノ構造液晶相を探る」には、図7〜図9に示すような、キュービック相の構造モデルが示されている。
【0094】
上記したように、BABH8は、秩序構造が光学波長未満であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、電界無印加の場合には、誘電性物質層3は光学的に等方性を示す(巨視的に見て等方であればよい)。したがって、BABH8を用いた本表示装置では、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
【0095】
一方、誘電性物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御しながら、電極4・5間に電界を印加すると、キュービック対称性を有する構造に歪が生じ、光学的異方性が発現する。すなわち、BABH8は、上記の温度範囲において、電界無印加状態では光学的に等方性であり、電界印加により光学的異方性が発現する。
【0096】
このように、上記の構成の本表示装置では、電界を印加することによってキュービック対称性を有する構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電界印加によって変化する。また、電極4・5間に印加する電圧(電界)と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、上記のような広い温度範囲において、安定した曲線となる。すなわち、上記構成の本表示装置では、136.7℃以上161℃以下の約20Kの温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができ、温度制御が極めて容易となる。
【0097】
ここで、BABH8を用いた場合の本表示装置と、従来の表示方式の液晶表示装置との、表示原理の相違点について説明する。
【0098】
図10は、BABH8を用いた場合の本表示装置および従来の表示方式の液晶表示素子における、表示原理の違いを説明するための説明図であり、電界印加時および電界無印加時における屈折率楕円体の形状および方向を模式的に表したものである。なお、図10では、従来の表示方式として、TN方式、VA(Vertical Alignment、垂直配向)方式、IPS(In Plane Switchig、面内応答)方式における表示原理を示している。
【0099】
この図に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。そして、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図10に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化する。すなわち、屈折率楕円体が回転する。なお、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
【0100】
また、VA方式の液晶表示素子は、TN方式と同様、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。ただし、VA方式の液晶表示素子では、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図10に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面法線を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
【0101】
また、IPS方式の液晶表示素子は、1つの基板上に対向する1対の電極が備えられており、両電極間の領域に液晶層が形成される構成である。そして、電界印加によって液晶分子の配向方向を変化させ、電界無印加時と電界印加字とで、異なる表示状態を実現できるようになっている。したがって、IPS方式の液晶表示素子でも、図10に示すように、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形は、ほぼ変わらない。
【0102】
このように、従来の表示方式の液晶表示素子では、電界無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電界を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の形は変化しないが、屈折率楕円体の方向が電界印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形はほぼ変わらない。つまり、従来の表示方式の液晶表示素子では、液晶分子の可視光以上における配向秩序度は一定であり、配向方向を変化させることによって表示を行っている。
【0103】
なお、BABH8を用いた場合の本表示装置は、等方相(いわゆる液体相)を用いない点が、従来の液晶表示装置と異なっている。等方相とは、分子の配向方向が等方的である相を意味する。
【0104】
これらの表示方式に対して、BABH8を用いた本表示装置では、図10に示すように、電界無印加時には屈折率楕円体が、従来の液晶表示素子とは異なり、球状となる。すなわち、電界無印加時には等方的(可視光以上における配向秩序度=0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さい))である。そして、電界を印加することによって光学的異方性(可視光以上における配向秩序度>0(配向秩序度が、可視光波長域および可視光波長域より大きい波長の光に対して影響を与える大きさ))が発現して、屈折率楕円体が楕円になる。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、電界無印加時には屈折率楕円体の形が等方的(nx=ny=nz)であり、電界印加によって屈折率楕円体の形に異方性(nx>ny)が発現する。ここで、nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行であって両電極の対向方向に平行な方向、基板面に平行であって両電極の対向方向に直交する方向、基板面に垂直な方向に対する、屈折率を表している。
【0105】
また、上記電界印加時の屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に平行(誘電異方性が正の媒質の場合)または垂直(誘電異方性が負の媒質を用いる場合)となる。
【0106】
これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して常に平行または垂直になるとは限らない。
【0107】
このように、BABH8を用いた本表示装置では、光学的異方性の方向は一定(電界印加方向は変化しない)であり、可視光以上における配向秩序度を変調させることによって表示を行っている。すなわち、BABH8を用いた本表示装置では、媒質そのものの光学的異方性(または配向秩序)の程度が変化する。したがって、BABH8を用いた本表示装置の表示原理は、他の表示方式の液晶表示装置と大きく異なっている。
【0108】
また、BABH8を用いた本表示装置では、キュービック対称性を有する構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の表示方式の液晶表示装置よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、BABH8を用いた本表示装置では、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
【0109】
また、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する光学的異方性を用いて表示を行っている。このため、従来方式の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来方式の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、BABH8を用いた本表示装置では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。このため、BABH8を用いた本表示装置は、例えば、高速応答性が要求されるフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置にも好適である。
【0110】
なお、上記の説明では、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質の例としてBABH8を用いる場合を説明したが、これに限らず、例えば、BABH8以外の、キュービック相を示す分子からなる媒質を用いてもよい。
【0111】
〔媒質例3〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶相の一つであるスメクチックD相(SmD)を示す分子からなる媒質を適用できる。
【0112】
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、ANBC16がある。なお、ANBC16については、非特許文献1のp.21,図1構造1(n=16)や、非特許文献6のp.888,Table1,化合物(compound no.)1,化合物1a,化合物1a−1に記載されている。これらの分子構造を、以下に記載する。
【0113】
【化3】
【0114】
【化4】
【0115】
4’n-alkoxy-3’-nitro-biphenyl-4-carboxylic acids X=NO2
n-15 Cr 127 SmC 187 Cub 198 SmA 204 I
この液晶性物質(ANBC16、上記化学構造式(3)においてn=16)は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相を示す。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数は数十nm以下であり、光学波長未満である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有しており、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。なお、本実施形態に示したANBC16の格子定数は約6nmである。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
【0116】
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16からなる誘電性物質層3に電界を印加すれば、分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、誘電性物質層3に光学的異方性が発現する。
【0117】
したがって、ANBC16を本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化するので、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0118】
〔媒質例4〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶マイクロエマルションを適用できる。ここで、液晶マイクロエマルションとは、山本らによって名づけられた、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である(非特許文献2参照)。
【0119】
液晶マイクロエマルションの具体例として、例えば、上記「液晶マイクロエマルション」に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶(温度転移形液晶)であるPentylcyanobiphenyl(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal,濃度転移形液晶、ライオトロピック液晶)であるDidodecyl ammonium bromide(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図11および図12のような模式図で表される構造を有している。
【0120】
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光学波長より一桁程度小さい。すなわち、上記の混合系(液晶マイクロエマルション)は光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、上記の混合系は、光学的には等方性を示す。
【0121】
そして、上記の混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。したがって、上記の混合系を本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、上記の混合系に限らず、電界無印加と電界印加時とで光学的異方性の程度が変化する液晶マイクロエマルションであれば、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0122】
〔媒質例5〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、特定の相を有するリオトロピック液晶(ライオトロピック液晶)を適用できる。ここで、リオトロピック液晶とは、一般に液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味するものとする。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電界無印加時とで、光学的異方性の程度が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献7に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図13に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
【0123】
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液などは球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
【0124】
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキングして(分子集合体を形成して)球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長未満であるため、光学波長領域では光学的異方性を示さず等方的に見える。すなわち、球状ミセルは、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため光学的異方性を発現する。よって、球状ミセル相を示すリオトロピック液晶を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相などを示すリオトロピック液晶を誘電性物質層3に封入しても、略同様の効果を得ることができる。
【0125】
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基が入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶を、誘電性物質層3に封入する媒質として適用することにより、ミセル相を示すリオトロピック液晶を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、媒質例2で説明した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を示すリオトロピック液晶の一例である。
【0126】
また、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液には、図13に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電界を印加すると、秩序構造(配向秩序)に歪が生じて光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を示すリオトロピック液晶も、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0127】
〔媒質例6〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化する相を示す液晶微粒子分散系を適用できる。ここで、液晶微粒子分散系とは、溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系である。
【0128】
このような液晶微粒子分散系としては、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系がある。この液晶微粒子分散系では、スポンジ相が発現する。また、このスポンジ相の配向秩序(秩序構造)は光学波長未満である。したがって、上記媒質例3の場合と同様、上記の液晶微粒子分散系を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0129】
なお、上記のラッテックス粒子を媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABと置き換えることによって、媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
【0130】
また、溶媒中に分散させる微粒子は、1種または2種以上のものにより構成されることが好ましい。
【0131】
また、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、誘電性物質層3内における微粒子の分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり、相が分離したりしない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示素子としてムラが生じることを充分に抑制できる。
【0132】
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
【0133】
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示素子のコントラストが上昇する。
【0134】
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
【0135】
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
【0136】
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
【0137】
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
【0138】
また、誘電性物質層3における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と誘電性物質層3に封入される媒質との総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。誘電性物質層3における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
【0139】
なお、誘電性物質層3に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもよい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
【0140】
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
【0141】
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅が好ましく、これらの金属あるいはこれら金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成してもよい。例えば、銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示素子の特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化が防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。例えば下記の構造式(5)からなる化合物が好ましい。
【0142】
【化5】
【0143】
ここで、nは0〜2の整数である。
また、6員環Aは、下記の官能基のいずれかが好ましい。
【0144】
【化6】
【0145】
また、6員環B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環B,Cは、上記例示の置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
【0146】
【化7】
【0147】
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
【0148】
また、上記構造式(5)におけるY1、Y2およびY3は、それぞれ、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および/または−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、Y1、Y2およびY3は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0149】
また、上記構造式(5)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。
【0150】
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
【0151】
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
【0152】
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
【0153】
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
【0154】
〔媒質例7〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、デンドリマー(デンドリマー分子)を適用できる。ここで、デンドリマーとは、モノマー単位ごとに枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。
【0155】
デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。したがって、デンドリマーを、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0156】
また、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABを、デンドリマー物質に置き換えることにより、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができ、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0157】
〔媒質例8〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図13には、コレステリックブルー相の概略構造が示されている。
【0158】
図13に示したように、コレステリックブルー相は、高い対称性の構造を有している。また、コレステリックブルー相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0159】
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を48.2mol%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を47.4mol%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を4.4mol%混合した物質がある。この物質は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
【0160】
また、コレステリックブルー相を示す他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、P8PIMB(1,3-phenylene bis[4-(4-8-alkylphenyliminomethyl-benzoate、バナナ型(屈曲型)液晶、下記構造式(6)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、77.2℃から82.1℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0161】
【化8】
【0162】
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、P8PIMBを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は80.8℃から81.6℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0163】
また、コレステリックブルー相を示すさらに他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、MHPOBC(4-(1-methylheptyloxycarbonyl)phenyl-4’-octylcarboxybiphenyl-4-carboxylate、直線状液晶、下記構造式(7)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、83.6℃から87.9℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0164】
【化9】
【0165】
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、MHPOBCを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は87.8℃から88.4℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
【0166】
なお、ZLI−2293とMLC−6248とを混合するだけではコレステリックブルー相を発現させることはできなかったが、バナナ型(屈曲型)をした液晶P8PIMBや直線状液晶MHPOBCを添加することによりコレステリックブルー相を示した。
【0167】
また、上記の例では、直線状液晶としてラセミ体を用いたが、必ずしもラセミ体に限定されるものではなく、カイラル体を用いてもよい。またカイラル炭素を1つ、あるいは複数以上含んでいてよい。また、直線状液晶を用いる場合、直線状液晶MHPOBCのように反傾構造(一層ごとに異なる方向を向いている)を持つものを用いることが好ましい。
【0168】
また、直線状液晶とは、化学構造式においてほぼ横長の直線に近い液晶分子を表すために用いた総称であり、実際の立体配置は化学構造式のように一平面内にあるとは限らず、折れ曲がっていることがあることはいうまでもない。
【0169】
また、バナナ型(屈曲型)液晶とは、化学構造式において屈曲部を有する液晶分子を表わすために用いた総称であり、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(8)〜(11)に示す化合物が挙げられる。
【0170】
【化10】
【0171】
【化11】
【0172】
【化12】
【0173】
【化13】
【0174】
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(12)に示す化合物などが挙げられる。
【0175】
【化14】
【0176】
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶は結合部(屈曲部)の左右で対称的な化学構造を持っているが、これに限らず、結合部の左右で非対称な化学構造を持っていてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(13)に示す化合物が挙げられる。
【0177】
【化15】
【0178】
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(14)に示す化合物が挙げられる。
【0179】
【化16】
【0180】
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
【0181】
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリックブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示素子でフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
【0182】
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
【0183】
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
【0184】
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
【0185】
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
【0186】
Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記誘電性物質層3に封入する物質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
【0187】
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記ような呈色を確実に防止することができる。
【0188】
例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を50.0wt%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を38.5wt%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を11.5wt%混合した物質がある。この物質は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域以下にあるために呈色しなかった。
【0189】
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。
【0190】
カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが、8wt%または4mol%以上であることが好ましい。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上とすることにより、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなった。
【0191】
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%以上の場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
【0192】
また、カイラル剤の濃度は15wt%以上であることが、さらに好ましい。バナナ型(屈曲型)液晶や反傾構造をもつ直線状液晶を添加することによりコレステリックブルー相を発現させる場合、カイラル剤の濃度が15wt%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃になった。また、カイラル剤の濃度を17.9wt%に増やすことにより、コレステリックブルー相の温度範囲はさらに広がった。
【0193】
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
【0194】
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、誘電性物質層3全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電界印加時における光学的異方性の発生度合いの低下に繋がり、表示素子としての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。このため、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
【0195】
また、本実施の形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。一例として、S811(E.Merck社製)など市販品を用いてもよい。また、軸不斉のカイラル剤を用いても良い。軸不斉のカイラル剤としては、例えば、軸不斉ビナフチル誘導体(下記化合物(15)参照)を用いることができる。
【0196】
【化17】
【0197】
ここで、nは4〜14の整数である。
【0198】
なお、この化合物(15)はnが奇数の時に単独でブルー相を示すことがある。例えば、n=7の場合には約103℃から約94℃の範囲でブルー相を示す。したがって、この化合物(15)が単独でブルー相を示す(液晶性がある)場合には、誘電性物質層3に封入する媒質として、この化合物(15)を単独で用いても良いし、また、化合物(15)をカイラル剤として用いても良い。
【0199】
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
【0200】
〔媒質例9〕
本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、スメクチックブルー(BPSm)相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図13には、スメクチックブルー相の概略構造が示されている。
【0201】
図13に示したように、スメクチックブルー相は、コレステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している。また、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、スメクチックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
【0202】
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献8に記載されているFH/FH/HH−14BTMHCがある。この物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。
【0203】
また、スメクチックブルー相を示す媒質を用いる場合には、コレステリックブルー相を示す媒質を用いる場合と同様、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましく、380nm以下であることがより好ましい。さらに、螺旋ピッチは253nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましい。
【0204】
また、本表示素子の誘電性物質3に用いる媒質としては、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有していて、電界印加により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよく、スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を持つ物質でもよい。
【0205】
スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を示す物質としては、例えば下記の化合物(16)および(17)の混合物があげられる。
【0206】
【化18】
【0207】
【化19】
【0208】
ここで、Lは2〜10の整数を表し、mは2〜14の整数を表し、nは0〜6の整数である。
【0209】
なお、化合物(16)と化合物(17)とを混合する場合には、2×(n+1)=mの関係を満たすように混合することが好ましい。また、化合物(16)と化合物(17)との混合割合は、適宜設定すればよい。例えばL=6、m=6、n=2の場合、化合物(16)と化合物(17)とを等量混合すると、スメクチックブルー相に類似した相(光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相)を約143℃から約130℃の範囲で示す。また、L=6、m=6、n=2の場合に、化合物(16)を30%、化合物(17)を70%の割合で混合したときには、約132℃から約120℃の範囲で光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相を示す。
【0210】
また、誘電性物質(誘電性物質層3に封入する媒質)のネマティック相状態における、550nmでの屈折率異方性をΔnとし、1kHzでの誘電率異方性をΔεとすると、Δn×Δεが2.9以上であることが好ましい。
【0211】
ここで、屈折率異方性(Δn)は、電界印加時の楕円(屈折率楕円体)の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率(常光屈折率)をnoとすると、Δn=ne−noで表される。すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示す。
【0212】
また、誘電率異方性(誘電率変化)(Δε)は、誘電率の異方性を示し、液晶分子の長軸方向における誘電率をεe、液晶分子の短軸方向における誘電率をεoとすると、Δε=εe−εoで表される値である。
【0213】
次に、誘電性物質層3に上記媒質例4の液晶微粒子分散系を封入した本表示素子について行った、駆動電圧の測定結果について説明する。
【0214】
溶媒としては上記化合物(1)を用いた。この誘電性物質(液晶微粒子分散系)のΔn×Δεは約2.2であった。また、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmで形成した。なお、上記屈折率異方性Δnは、アッベ屈折計(アタゴ製「4T(商品名)」)を使用し、波長550nmにて測定した。また、上記誘電率異方性Δεは、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「SI1260(商品名)」)を使用し、周波数1kHzにて測定した。
【0215】
このように形成した本表示素子について、駆動電圧を変化させながら透過率を測定したところ、透過率が最大となる駆動電圧は約28Vであった(図24参照)。
【0216】
ところで、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折△n(E)は、
△n(E)=λBE2
で記述できる。ここで、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
【0217】
また、複屈折が変化することにより透過率Tは下式のように変化する。
T=sin2(π×Δn(E)×d/λ)=sin2(πBE2d)
ここで、dは誘電性物質層3の厚さである。
【0218】
したがって、上式より、透過率が最大になるのは、πBE2d=π/2
の場合である。
【0219】
また、上式よりΔB=Δn(E)/λE2=ΔnQ(E)/λE2
である。ここで、Q(E)は配向秩序パラメータである。
【0220】
また、非特許文献4によると、Q∝Δε×E2である。
【0221】
よって、透過率が最大となる駆動電圧Vは、櫛型電極4・5の電極間距離をSとすると、
V=ES=S×sqrt(1/(2×B×d))∝S×sqrt(1/(Δn×Δε)×d)
になる。
【0222】
以上の結果をもとに、上記誘電性物質を本表示素子に封入して測定した電圧−透過率特性、及び、上記駆動電圧とΔn×Δεの関係式から見積もった、透過率が最大となる電圧値(V(V))と、Δn×Δεとの関係を図24に示す。
【0223】
図24に示すように、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用し、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとした場合、透過率が最大となる駆動電圧は24Vになる。
【0224】
本表示素子をアクティブマトリクス駆動の表示装置に適用する場合には、櫛歯電極4・5に印加する電圧(電界)のON/OFFを切り替えるスイッチング素子(TFT素子)を用いる。スイッチング素子(TFT素子)のゲート電極の膜厚と膜質とを最適化した場合に、ゲート電極に印加することが可能な耐圧(電圧)を測定したところ、最大で63Vであった。したがって、この耐圧からゲート電極の電位がHigh(すなわち、ゲート電極ON)のときの電圧10Vおよびゲート電極の電位がLow(すなわち、ゲート電極OFF)のときの電圧−5V分を差し引いた48Vpp(63−10−5=48Vpp(peak-to-peak))が、誘電性物質層3に印加することができる最大限の電圧値である。この電圧値は、実効値(rms:root-mean-square)で言えば±24Vになる。
【0225】
したがって、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとする場合には、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用することにより、スイッチング素子の耐圧範囲内で、透過率を最大とすることができる。
【0226】
なお、Δn×Δεが2.9以上の誘電率物質としては、例えば、化合物(18)があげられる。
【0227】
【化20】
【0228】
ここで、Rはアルキル基を表す。化合物(18)はΔεが約25、Δnが約0.15であり、Δn×Δε=3.75になる。
【0229】
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに透過率が最大となる駆動電圧を下げるためには、櫛歯電極間隔を狭くすることが考えられるが、製造上の精度やプロセスマージン、プロセスコスト等の制限から、櫛歯電極間隔を狭くすることには限界がある。
【0230】
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに駆動電圧を下げるためには、誘電性物質層3の厚さをさらに厚くすることも考えられる。しかしながら、誘電性物質層の厚さを単純に厚くしても、電界が印加される厚みは、必ずしも誘電性物質層の厚さの増加分だけ増えるわけではない。このため、誘電性物質層3の厚みを10μmから、さらに厚くしても駆動電圧の低減には効果的ではない。
【0231】
〔実施例2〕
本表示装置において、誘電性物質層3に封入する媒質を、透明な誘電性物質である4’-n-alkoxy-3’-nitrobiphenyl-4-carboxylic acids (ANBC−22)とした。ANBC−22の化学構造は化合物(3)(n=22)である。
【0232】
なお、基板1および2には、ガラス基板を用いた。また、両基板間の間隔は、ビーズをあらかじめ散布しておくことにより、4μmになるように調整した。すなわち、誘電性物質層3の厚さを4μmとした。
【0233】
電極4・5は、ITOからなる透明電極とした。また、両基板の内側(対向面)には、ラビング処理を施したポリイミドからなる配向膜をそれぞれ形成した。ここで、両配向膜に施すラビング方向は、スメクチックC相において明状態となる方向であることが望ましく、典型的には偏光板6・7の吸収軸方向と45度の角度をなしていることが望ましい。なお、基板1側の配向膜については、電極4・5を覆うように形成した。
【0234】
偏光板6・7は、図2(a)および図2(b)に示したように、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向とが約45度の角度をなすように、それぞれ基板1および2の外側(対向面の反対側)に設けた。
【0235】
このような構成では、上記媒質は、スメクチックC相―キュービック相相転移温度よりも低温側の温度において、スメクチックC相を示す。なお、スメクチックC相は、電界無印加状態において光学的異方性を示す。
【0236】
そして、誘電性物質層3の温度を、加熱装置によってスメクチックC相−キュービック相の相転移近傍の温度(相相転移温度の低温側10K程度まで)に保ち、電界印加(電圧50V程度の交流電場(0より大きく数百kHzまで))を行ったところ、透過率を変化させることができた。すなわち、電界無印加時に光学的異方性を示すスメクチックC相(明状態)に、電界を印加することにより、等方的なキュービック相(暗状態)に変化させることができた。つまり、上記の表示装置は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示す。なお、この場合、屈折率楕円体は楕円(電界無印加時)から球状(電界印加時)に変化する。
【0237】
このように、本表示装置の誘電性物質層3に封入する媒質として、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質を用いた場合にも、良好な表示を実現することができた。
【0238】
なお、各偏光板6.7の吸収軸と櫛形電極4・5がなす角度は45度に限らず、0〜90度のあらゆる角度で表示を行うことが出来た。これは、明状態の表示は電界無印加時で実現しているので、ラビング方向と偏光板吸収軸方向の関係だけで達成でき、また、暗状態の表示は電界印加による媒質の光学的等方相への電界誘起相転移で実現しているので、各偏光板吸収軸が互いに直交していればよく、偏光板吸収軸方向と櫛型電極方向との関係によらないためである。また、配向処理は必ずしも必要ではなく、アモルファス配向状態(ランダム配向状態)でも表示を行うことが出来た。
【0239】
また、本発明の表示素子において用いられる媒質は、従来の液晶表示素子に用いられている媒質であってもよく、あるいは、電界(外場)の印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質であってもよい。
【0240】
光学的異方性の程度が変化する媒質としては、例えば、電界(外場)を印加することによって秩序構造(配向秩序)が変化し、光学的異方性の程度が変化するものを用いることができる。例えば、電界(外場)印加時または無印加時に光学波長以下の秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。あるいは、電界(外場)無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。
【0241】
このような光学的異方性の程度が変化する媒質を用いる場合、液晶分子の配向方向の変化を利用する従来の液晶表示素子のように液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響することがないので、従来の液晶表示素子よりも高速応答を実現できる。また、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態(外場を印加することによって秩序構造に歪みが生じ、光学的異方性の程度が変化する状態)となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。例えば、上記した特許文献1に記載されているような、電界印加による有極性分子における電子の偏りを利用する従来の電気光学効果を利用した表示装置では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
【0242】
例えば、上記したBABH8を上記媒質として用いる場合、24.3Kの温度範囲(136.7℃〜161℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。また、上記したANBC16を上記媒質として用いる場合、26.2Kの温度範囲(171.0℃〜197.2℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。なお、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の上限は特に限定されるものではなく、上記した各媒質よりもさらに広い温度範囲で所定の秩序構造を示す媒質を用いてもよい。また、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の下限は0.1Kよりも大きいことが好ましく、1K以上であることがより好ましい。
【0243】
〔実施の形態2〕
本発明の表示装置に関する他の実施形態について、図14を用いて説明する。なお、説明の便宜上、実施の形態1と同様の機能を有する部材については、実施の形態1と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0244】
本実施の形態にかかる表示装置は、図2(a)、図2(b)、および図3に示した表示素子10と略同様の断面構造を備えている。ただし、電極4・5に接続される回路構成、すなわち、スイッチング素子TFT1・TFT2および信号線、走査線の構成が異なっている。なお、本実施の形態にかかる表示装置は、電極4・5が、それぞれ異なるスイッチング素子TFT1・TFT2を介して他の配線に接続されているという点においては、実施の形態1にかかる表示装置と同様である。また、誘電性物質層3に封入する媒質には、実施の形態1と同様の媒質を用いることができる。
【0245】
図14は、本実施の形態にかかる表示装置における回路構成を示す等価回路図である。この図に示すように、本実施の形態にかかる表示装置では、電極4および5が素子容量Cpを構成している。そして、電極4がスイッチング素子TFT1を介して信号線Sに接続され、電極5がスイッチング素子TFT2を介して対向電極線Cに接続されている。すなわち、本実施の形態にかかる表示装置では、電極4および5が、それぞれ異なるスイッチング素子TFT1およびTFT2を介して信号線Sおよび対向電極線Cに接続されている。また、本実施の形態にかかる表示装置は、信号線Sおよび対向電極線Cに電圧を印加することにより、誘電性物質層3に電界を発現させ、表示を行うようになっている。なお、信号線Sおよび対向電極線Cに印加する電圧については、上記した従来の液晶表示装置と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0246】
本実施の形態にかかる表示装置では、スイッチング素子TFT1およびTFT2をオンとすることにより、素子容量Cp(表示素子)の両電極間に信号を書き込むようになっている。そして、スイッチング素子TFT1およびTFT2がオフとなっている場合には、対向電極線Cの電位が変動したとしても、素子容量Cpの電極4・5間の電位差は一定に保たれる。すなわち、他の走査線(図示せず)に接続されている電極を逆の極性で書き込む場合でも、素子容量Cpにおける電極4・5の電位差は一定に保たれる。
【0247】
したがって、上記した従来の液晶表示装置のように、ドレイン電位が変動するといった問題が生じず、スイッチング素子TFTを駆動するためのゲート電圧を大きくする必要がなくなる。
【0248】
この結果、本実施の形態にかかる表示装置では、走査線Gに印加する電圧を小さく抑えることが可能となり、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性を向上させることができる。また、例えば、駆動電圧を高くするために、信号線Sに印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子TFT1およびTFT2の耐久性の低下を抑制することができる。
【0249】
したがって、本実施の形態にかかる表示装置によれば、高電圧駆動が可能であり、高速応答特性と高視野角特性とを備えた表示装置を実現することができる。
【0250】
また、本実施の形態にかかる表示装置では、実施の形態1にかかる表示装置のように、全表示素子(全画素)について信号線を2本備える必要がない。したがって、実施の形態1と比較して必要な信号線の数が1/2となるので、構造を単純化できるとともに、製造時の良品率を向上させることができる。
【0251】
なお、本実施の形態にかかる表示装置において、補助容量をさらに備えてもよい。この場合、例えば、素子容量Cp(電極4および5)に対して並列となるように補助容量を接続すればよい。あるいは、電極4に一方の電極を接続される補助容量Cs1と、電極5に一方の電極を接続される補助容量Cs2と、補助容量Cs1およびCs2における他方の電極が接続される補助容量配線とを備える構成としてもよい。このように、補助容量を設けることにより、スイッチング素子TFT1およびTFT2のリーク電流の影響を小さくすることができる。
【0252】
また、本表示装置では、基板1にのみ電極4・5が形成されているが、これに限らず、電極4・5を基板1・2のそれぞれに設けてもよい。例えば、図14の構成における対向電極5を基板2側に設けてもよい。図22は、この場合の等価回路図である。
【0253】
この図に示す例では、対向電極5を基板2側に設ける場合、スイッチング素子TFT2および走査線Gcを基板2に設けている。
【0254】
図23(a)〜図23(c)は、この場合の配線模式図である。すなわち、図23(a)は、信号線(信号配線)Sが配設される側の基板である基板1側の配線模式図である。図23(b)は、対向電極線(対向電極配線)Cが配設される側の基板である基板2側の配線模式図である。図23(c)は、基板1側から見た場合の信号電極4と対向電極5との位置関係を示す配線模式図である。
【0255】
図23(a)に示すように、基板1側は、例えば従来のTN型の基板(従来のTFT基板)と同等である。また、図23(b)および図23(c)に示すように、基板2側には、基板1側の電極(画素電極)4に対応して対向電極5が個々に設けられている。なお、図23(b)に示すように、対向電極5はスイッチング素子TFT2を介して、各画素について同一の対向電極線Cに接続されている。また、スイッチング素子TFT2のゲート電極は、走査線Gcに接続されている。
【0256】
この構成では、基板2に設けられるスイッチング素子TFT2が各画素について共通の対向電極線Cに接続される。したがって、基板2では、信号線を各画素に備えられるスイッチング素子TFT2に個別に配線する必要がない。このため、良品率を向上させることができる。また、基板2にソースドライバを接続する必要がない。
【0257】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0258】
すなわち、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【0259】
なお、本発明に係る表示装置は、少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、上記第1電極および第2電極が、それぞれ異なるスイッチング素子に接続されている構成としてもよい。
【0260】
上記の構成によれば、上記第1電極および第2電極が接続されたスイッチング素子がオフとなっている場合には、上記両電極がどの電極線にも接続されない。このため、他の表示素子に対して、当該表示素子に書き込まれた極性とは逆の極性で書き込む場合でも、当該表示素子における第1電極および第2電極の電位を一定に保つことができる。したがって、スイッチング素子を駆動するための電圧を小さく抑えることができ、スイッチング素子の耐久性を向上させることができる。
【0261】
また、上記の構成によれば、駆動電圧を高くするために、第1電極および第2電極に印加する電圧を大きくした場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制することができる。したがって、高電圧駆動を行う場合でも、スイッチング素子の耐久性の低下を抑制できる。すなわち、耐圧の限られたスイッチング素子を用いる場合でも、駆動電圧を増加させることが可能となる。
【0262】
また、本発明の表示装置は、上記表示素子を複数備えるとともに、各表示素子について第1信号線および第2信号線が設けられており、上記第1電極および第2電極が、それぞれ異なるスイッチング素子を介して、異なる信号線に接続されている構成としてもよい。
【0263】
上記の構成によれば、上記両電極間に信号電圧を印加する場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオンとする一方、上記両電極間に信号電圧を印加しない場合には、両電極に接続されているスイッチング素子を共にオフとすることになる。したがって、スイッチング素子の寄生容量による両電極の電圧変動が、同様の傾向で発生する。このため、両電極における電圧変動は相殺される傾向となり、両電極における電圧シフトの問題を軽減できる。
【0264】
また、本発明の表示装置は、上記表示素子を複数備えるとともに、上記各表示素子について設けられた信号線と、複数の表示素子について共通に設けられた対向電極線とを備えており、上記第1電極は、スイッチング素子を介して上記信号線に接続されており、上記第2電極は、上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されている構成としてもよい。
【0265】
上記の構成によれば、各表示素子について信号線を2本備える必要がない。すなわち、信号線の数を増加させる必要がない。このため、構造を単純化できるとともに、製造時の良品率を向上させることができる。
【0266】
また、本発明の表示装置は、上記媒質が、電界の2次に比例して屈折率が変化する媒質を含む構成であってもよい。また、上記媒質が、液晶性物質を含有する媒質を含む構成であってもよい。また、上記媒質が、有極性分子を含有する媒質を含む構成であってもよい。
【0267】
また、上記媒質が、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する構成であってもよい。ここで、光学的異方性の程度が変化するということは、屈折率楕円体の形状が変わることを意味する。すなわち、本発明の表示素子では、電界無印加時と電界印加時における屈折率楕円体の形状の変化を利用することで、異なる表示状態を実現することができる。
【0268】
一方、従来の液晶表示素子では、電界印加時と電界無印加時とで、屈折率楕円体は楕円のままであり、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化(回転)する。すなわち、電界無印加時と電界印加時とにおける屈折率楕円体の長軸方向が変化(回転)することで、異なる表示状態を実現していた。
【0269】
従来の液晶表示素子では、液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していた。これに対して、上記の構成では、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行う。したがって、上記の構成によれば、従来の液晶表示素子のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がないので、高速応答を実現することができる。また、本発明の表示素子は高速応答性を備えているので、例えば、フィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置に利用することもできる。
【0270】
また、従来の電気光学効果を利用した液晶表示素子では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
【0271】
また、上記の構成では、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の液晶表示素子よりも、広視野角特性を実現できる。
【0272】
また、この場合、上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示すものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には球状であり、電界を印加することによって楕円に変化する。あるいは、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示すものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって球状に変化する。また、上記媒質は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。この場合、屈折率楕円体の形状は、電界無印加時には楕円であり、電界を印加することによって形状が変化した楕円に変化する。
【0273】
また、上記媒質を構成する分子は、電界印加時または電界無印加時に、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有するものであってもよい。つまり、上記媒質は、光学波長未満では液体的な等方相ではなく秩序(秩序構造、配向秩序)を持っていてもよい。この秩序構造が光学波長未満であれば、光学的には等方性を示す。したがって、電界印加時または電界無印加時に、秩序構造が光学波長未満となる媒質を用いることにより、電界無印加時と電界印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
【0274】
また、上記媒質、すなわち、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する媒質は、例えば、分子の配列がキュービック対称性を示す秩序構造(配向秩序)を有する媒質であってもよい。あるいは、キュービック相またはスメクチックD相を示す分子からなる媒質であってもよい。あるいは、液晶マイクロエマルションからなる媒質であってもよい。あるいは、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相のいずれかを示すリオトロピック液晶からなる媒質であってもよい。あるいは、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相のいずれかを示す液晶微粒子分散系からなる媒質であってもよい。あるいは、デンドリマーからなるものであってもよい。あるいは、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質であってもよい。あるいは、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質であってもよい。
【0275】
上記したいずれかの媒質を用いることにより、電界印加時と電界無印加時とで、異なる表示状態を実現できる。
【0276】
また、上記媒質は、400nm以下の選択反射波長域または螺旋ピッチを有するものであってもよい。上記媒質が400nmより大きい螺旋ピッチを有する場合、その螺旋ピッチを反映した色に呈色してしまう場合がある。つまり、上記媒質が400nmより大きい場合には、その螺旋ピッチを反映した波長の光が選択的に反射されてしまい、表示素子の表示色が螺旋ピッチを反映した色に呈色してしまう場合がある。このような螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。
【0277】
そこで、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチを、400nm以下とすることにより、このような呈色を防止することができる。すなわち、400nm以下の光は、人間の目ではほとんど認識できないので、上記のような呈色が問題になることはない。
【0278】
なお、選択反射波長は上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の有する秩序構造が一次元的な構造ではない場合、例えば三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。よって、選択反射波長域全体が400nm以下であることが好ましい。
【0279】
また、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチは380nm以下であることがさらに好ましい。国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。したがって、上記媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であれば、上記呈色を確実に防止することができる。
【0280】
また、上記媒質の螺旋ピッチは253nm以下であることがさらに好ましい。上記呈色は螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質(媒質)の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は、波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。
ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
【0281】
Δnは、誘電性物質(媒質)によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記媒質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率nは1.5程度、Δnは0.1程度である。この場合、呈色する色を可視域外とするためには、螺旋ピッチPは、λ=400とすると、400/1.5=267nmになる。また、Δλは0.1×267=26.7nmになる。したがって、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下とすることにより、このような呈色を防止することができる。
【0282】
また、上記媒質の螺旋ピッチは240nm以下であることがさらに好ましい。上記ではλ=nPの関係において、λを400nm(人間の目が概ね認識できない波長)としたが、λを380nm(人間の目が確実に認識できない波長)とした場合には、誘電性媒質(媒質)の平均屈折率を考慮した場合に上記のような呈色を防止するための上記媒質の螺旋ピッチは240nm以下となる。したがって、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記のような呈色を確実に防止することができる。
【0283】
また、本表示装置は、上記第1電極および第2電極に並列に接続された補助容量を備えている構成としてもよい。あるいは、上記第1電極に一方の電極を接続される第1補助容量と、上記第2電極に一方の電極を接続される第2補助容量と、上記第1補助容量の他方の電極および上記第2補助容量の他方の電極が接続される補助容量配線とを備えている構成としてもよい。
【0284】
上記いずれかの構成のように、補助容量を備えることにより、上記スイッチング素子におけるリーク電流の影響を小さくできる。
【0285】
また、本表示装置は、上記第1電極および上記第2電極が、上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されていてもよい。
【0286】
一般的に、基板面に略平行な方向に電界を印加する横電界駆動方式の表示装置では、開口率や応答速度を向上させるために、駆動電圧を高くする傾向にある。上記の構成によれば、このような横電界駆動方式の表示装置において、スイッチング素子の耐圧が限られている場合でも、駆動電圧を増大させることができる。
【0287】
また、上記の構成では、上記第1電極とそれに接続されるスイッチング素子、および、上記第2電極とそれに接続されるスイッチング素子が、同一の基板上に形成されることになる。この場合、各画素について1つのスイッチング素子を設けた従来の横電界駆動方式の表示装置、あるいは、両基板間(両基板にそれぞれ設けられた電極間)に電界を印加する縦電界駆動方式の表示装置において両基板にそれぞれスイッチング素子を設け、両基板に備えられる電極をそれぞれ異なるスイッチング素子に接続する場合に比べて、以下のような利点がある。
(a)従来の横電界方式の表示装置と略同様の製造プロセス(TFT基板製造工程)によって製造できるので、製造コストの増大を招くことがない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれTFT(スイッチング素子)を形成する必要があるので、工程数が大幅に増加する。
(b)従来の横電界方式の表示装置と同様、ドライバ(ソース(信号)ドライバ、ゲートドライバ)を一方の基板に接続するだけでよい。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれドライバを接続する必要があり、パネル構造が複雑になる。
(c)カラーフィルタを、必ずしもTFTが形成される基板側に設ける必要がない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板についてそれぞれTFTを形成する必要があるので、カラーフィルタをTFTが形成される基板側に設けることになる。このため、良品率の低下や製造コストの増加、パネル信頼性の低下を招く。
(d)TFTを従来の横電界方式の表示装置と同様の向きに形成すればよいので、バックライトによって光電流が生じることを防止できる。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、一方の基板側に設けられるTFTのチャネルがバックライトと正対するので、光電流によるオフ不良が発生してしまう場合がある。
(e)各TFTに接続されるゲートを共通にできるので、ゲートドライバの数が増加することがない。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置では、両基板に設けられるTFTごとにそれぞれゲート線を設ける必要があるので、ゲートドライバの数が増加(倍増)してしまう。また、ソースドライバの数についても同様に増加(倍増)する。
(f)TFTを一方の基板にのみ形成すればよいので、基板上に画素とその駆動回路とを一括して形成するモノリシック構造(例えば低温ポリシリコンモノリシックパネル)にすることにより、良品率を低下させることなくドライバ数を削減できる。すなわち、上記の構成は、モノリシック構造と相性がよい。なお、上記縦電界駆動方式の表示装置においてモノリシック構造を採用することも可能であるが、その場合、良品率が大幅に低下するという問題がある。すなわち、モノリシック構造の場合には一般的に良品率が低いが、上記縦電界駆動方式の表示装置ではモノリシック構造の基板を2枚組み合わせる必要があり、良品率は一方の基板をモノリシック構造とする場合の2乗となる。
【0288】
ただし、本発明の表示装置は、横電界駆動方式の表示装置に限定されるものではなく、縦電界駆動方式の表示装置であってもよい。すなわち、上記第1電極および上記第2電極が、互いに異なる基板に形成されている構成であってもよい。なお、この場合、上記表示素子を複数備えるとともに、上記各表示素子について設けられた信号線と、複数の表示素子について共通に設けられた対向電極線とを備えており、上記第1電極は、スイッチング素子を介して上記信号線に接続されており、上記第2電極は、上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されていることが好ましい。
【0289】
上記の構成によれば、一方の基板に設けられるTFTが各画素について共通の対向電極線に接続される。したがって、上記一方の基板において、信号線を各画素に備えられるTFTに個別に配線する必要がない。このため、良品率を向上させることができる。また、上記一方の基板にソースドライバを接続する必要がない。
【産業上の利用可能性】
【0290】
本発明の表示装置は、テレビやモニター等の画像表示装置や、ワープロやパーソナルコンピュータ等のOA機器、あるいは、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話等の情報端末等に備えられる画像表示装置に、広く適用することができる。また、本表示装置は、高速応答性を有しているので、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0291】
1、2 基板
3 誘電性物質層
4、5 電極
6、7 偏光板
21 カラーフィルタ
22、23 水平配向膜
C 対向電極線
Cp 素子容量
C’ 補助容量配線
Cs 補助容量
Cs1 補助容量(第1補助容量)
Cs2 補助容量(第2補助容量)
D、D1、D2 ドレイン
G、G1、G2、Gc 走査線(走査信号線)
S 信号線(データ信号線)
S1 信号線(第1信号線)
S2 信号線(第2信号線)
TFT、TFT1、TFT2 スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、
上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、
複数のデータ信号線と各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記データ信号線と上記走査信号線との組み合わせ毎に設けられており、
複数の上記表示素子について共通に設けられた対向電極線を備えており、
上記第1電極はスイッチング素子を介して上記データ信号線に接続されており、
上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されており、
上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、
上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、
上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を複数備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、
上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、
互いに平行かつ交互に配置された複数の第1信号線および第2信号線と、上記第1信号線および上記第2信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記第1信号線、上記第2信号線、および上記走査信号線の組み合わせ毎に設けられており、
上記第1電極はスイッチング素子を介して上記第1信号線に接続されており、
上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記第2信号線に接続されており、
上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、
上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、
上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
上記媒質が、400nm以下の選択反射波長域または螺旋ピッチを有する請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
上記第1電極および第2電極に並列に接続された補助容量を備えている請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項5】
上記第1電極に一方の電極が接続される第1補助容量と、上記第2電極に一方の電極が接続される第2補助容量と、上記第1補助容量の他方の電極および上記第2補助容量の他方の電極が接続される補助容量配線とを備えている請求項2に記載の表示装置。
【請求項6】
一方の電極が上記第1電極に接続され、他方の電極が上記第2電極に接続された補助容量を備えていることを特徴とする請求項2に記載の表示装置。
【請求項1】
少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、
上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、
複数のデータ信号線と各データ信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記データ信号線と上記走査信号線との組み合わせ毎に設けられており、
複数の上記表示素子について共通に設けられた対向電極線を備えており、
上記第1電極はスイッチング素子を介して上記データ信号線に接続されており、
上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記対向電極線に接続されており、
上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、
上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、
上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
少なくとも一方が透明な一対の基板と、上記一対の基板間に挟持された媒質と、上記媒質に電界を印加するための第1電極および第2電極とを有する表示素子を複数備え、上記媒質に電界を印加することによって表示を行う表示装置であって、
上記媒質は、電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性を示す媒質であり、
互いに平行かつ交互に配置された複数の第1信号線および第2信号線と、上記第1信号線および上記第2信号線にそれぞれ交差する複数の走査信号線とを備え、上記表示素子が上記第1信号線、上記第2信号線、および上記走査信号線の組み合わせ毎に設けられており、
上記第1電極はスイッチング素子を介して上記第1信号線に接続されており、
上記第2電極は上記第1電極が接続されているスイッチング素子とは異なるスイッチング素子を介して上記第2信号線に接続されており、
上記第1電極および上記第2電極は、互いに平行な方向に延伸する櫛歯部分を有する櫛歯電極であり、上記両電極の各櫛歯部分が当該各櫛歯部分の延伸方向に垂直な方向に対向し、かつ上記基板の基板面に対して略平行な方向に電界を印加するように配設されており、
上記両基板には互いの吸収軸方向が直交するように配置された偏光板がそれぞれ設けられており、
上記両偏光板の吸収軸方向は、上記第1電極および上記第2電極の櫛歯部分の延伸方向に対して45度の角度をなすことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
上記媒質が、400nm以下の選択反射波長域または螺旋ピッチを有する請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
上記第1電極および第2電極に並列に接続された補助容量を備えている請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項5】
上記第1電極に一方の電極が接続される第1補助容量と、上記第2電極に一方の電極が接続される第2補助容量と、上記第1補助容量の他方の電極および上記第2補助容量の他方の電極が接続される補助容量配線とを備えている請求項2に記載の表示装置。
【請求項6】
一方の電極が上記第1電極に接続され、他方の電極が上記第2電極に接続された補助容量を備えていることを特徴とする請求項2に記載の表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−244068(P2010−244068A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137489(P2010−137489)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2005−516368(P2005−516368)の分割
【原出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2005−516368(P2005−516368)の分割
【原出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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