表面が親水化された部材の製造方法
【課題】対象となる部材の表面を迅速かつ簡便に親水化させ、しかもその親水性を半永久的に継続させることのできる表面親水化部材の製造方法を提供する。
【解決手段】部材1の表面を、プラズマ処理4などによって改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物5を塗布し、紫外線を照射する方法であり、θ/2法を用いて測定した表面の接触角が40°未満である親水化部材を製造することが可能となる。
【解決手段】部材1の表面を、プラズマ処理4などによって改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物5を塗布し、紫外線を照射する方法であり、θ/2法を用いて測定した表面の接触角が40°未満である親水化部材を製造することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が親水化された部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂やガラス等の部材表面を親水化する方法として、プラズマ処理やコロナ放電処理が利用されている。コロナ放電とは、高周波高電圧の気中で、電解内にて起きる、原子、分子、電子イオン間でのそれぞれの衝突などによって、電子エネルギーの励起、さらに光子の放出が起こり、電極の近傍にて発光・放電する現象を示すが、このコロナ放電のエネルギーを物質の表面で作用させた場合、その表面がエネルギーを受け、表面エネルギーが高くなり活性化された状態になる。プラスチックなどでは、コロナ放電によって表面にカルボニル基等の極性基が生成され、親水性が向上する。具体的な例として、ポリカーボネート延伸フィルムのような疎水性プラスチックフィルムの表面にコロナ放電処理を施して親水化したコロナ放電処理フィルムを用いた液晶ディスプレイ用位相差板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光触媒をコーティングした部材表面に対し、紫外線照射又は高電圧を印加することによって部材表面の親水性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。ここで光触媒とは光を吸収することによって触媒作用を示す物質の総称であり、代表的な光触媒物質としては光を吸収すると酸化作用、親水作用を示す酸化チタン(TiO2)が例示できる。酸化作用は光を照射した際に表面に発生する活性酸素によるものであり、有機物を分解することから、抗菌、消臭、防汚、空気浄化など様々な分野で使用されている。また、酸化チタンは光を当てない状態では疎水性であるが、紫外線を照射することによって酸化チタン表面の親水基である−OH基が増加し、親水性を示すことから自動車のドアミラーフィルムや自動車のボディーコートに利用されている。
【0004】
また、化学修飾による部材表面の親水化方法が知られている。この方法は、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを部材表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に無機質材料と化学的結合をする反応基と有機質材料と化学的結合をする反応基の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、親水基を有するシランカップリング剤を使用し、希薄溶液に部材を浸漬すれば、容易に部材表面を均一に親水化することが可能である。
【0005】
さらに、グラフト法によって部材表面を親水化する方法がある。この方法は、部材に対し、例えばポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのような水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物を塗布し、紫外線照射することで部材の表面から重合を行い、部材にポリマーを結合させることで親水層を形成する方法である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平4−347802号公報
【特許文献2】特開2000−178529号公報
【特許文献3】特開2005−316010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したプラズマ処理やコロナ放電処理による親水化方法では、親水化処理効果の程度および寿命が短く、その親水化効果・寿命を長くするために処理強度を上げるとフィルムシートなどを処理した場合、フィルムにピンホールが発生する、温度上昇によってしわが発生する等、フィルムが傷むという課題がある。前記した光触媒を用いた親水化法では、親水化処理効果の寿命が短いという課題がある。また前記したシランカップリング剤等による化学修飾は、部材洗浄、浸漬、高温乾燥等の処理が必要であるため、処理に数時間要するという課題や、処理されるべき部材が制限されるという課題がある。そしてグラフト法では、部材によっては部材表面と塗料との接着性が低く、塗膜が剥離する場合があるなど、処理されるべき部材が制限されるという課題や、処理に時間を要するという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、対象となる部材の表面を迅速かつ簡便に親水化させ、しかもその親水性を半永久的に継続させることのできる、表面親水化部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明は、部材の表面を改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射することを特徴とする表面親水化部材の製造方法である。そしてかかる本発明によれば、θ/2法を用いて測定した表面の接触角が40°未満であることを特徴とする親水化部材を製造することが可能となる。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、本来は親水性ではない部材表面を親水化するものである。即ち、部材は少なくともその表面が疎水性であれば本発明の対象とすることができ、かかる部材としては特に制限はないが、樹脂、セラミックス又はガラス等を例示することができる。例えば金属等の表面に疎水性のレジストやフィルムが成膜されたものも、本発明の部材として使用することができる。ここで、本発明における親水性とは、部材表面に滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、部材表面に対する角度からθ/2法によって算出される角度(以下、「接触角」という)が50°以下、好ましくは40°以下であるものを意味し、本発明における疎水性とは、前記接触角が50°より大きいものを意味する。
【0011】
表面が疎水性の部材は、未処理のままでは濡れ性に乏しく、コーティング、印刷、ラミネーション等の用途において接着性に課題があるため、本発明では、当該部材の表面を、予め改質処理する。表面の改質処理は、具体的に、部材の表面に物理的又は化学的に極性基を導入する、表面張力を向上させる、又は部材の表面に微細な凹凸を形成する、等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
部材の表面に微細な凹凸を形成する場合には、その凹凸の度合い(部材表面の「粗さ」)、即ち凸部と凹部の高低の差の最大値、が20nm未満だと部材と後述する重合性基を有する水溶性モノマーとの接着性が低くなって撥水し、均一塗布ができないという事態が生じる可能性があり、また、高低の差の最大値が1μm以上だと塗布表面の平坦性が得られないという事態が生じる可能性があるため、表面改質処理後の部材表面の粗さが20nm以上1μm未満とすることが好ましい。
【0013】
本発明で採用する表面改質処理としては、部材への影響が少なく、しかも短時間に実施可能で処理自体が容易であることが好ましい。中でも、以下の理由から、高エネルギー線を照射するプラズマによる処理が特に好ましい表面改質処理として例示できる。なお、本発明者らは、部材の表面をITOで被覆しておくと、該面にプラズマ照射してもPEGDAと光重合開始剤の混合物との密着性が上がらないことを見出した。
【0014】
これを利用することにより、表面改質処理として部材表面に凹凸を形成するプラズマ処理等を採用する場合には、後の実施例に示したように、予め部材表面の親水化したくない部分の表面をITOで被覆しておくことにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物の当該皮膜部位への密着性を下げて、紫外線照射後の純水による洗浄等によって硬化皮膜を除去して当該部分の表面が親水化されることを防止することが可能である。
【0015】
これにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物の当該部材表面との密着性の差を利用して、意図的に、部材表面の一部分を親水化し、他の部分を親水化せずに疎水性のままに維持するという、表面の一部が親水化された部材の製造方法を提供することが可能となる。
【0016】
プラズマ処理は、電子、イオン、ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を部材の表面に照射することにより、部材表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、部材表面を改質する処理である。プラズマ処理としては、非重合性ガス(ArやO2等)を用いるプラズマ表面処理と、有機モノマーを用いて部材の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合のいずれも採用することができる。より詳しくは、プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、部材表面の親水性を向上させる方法であるが、イオンエネルギーによる物理的エッチング及び活性な酸素プラズマによる化学的エッチングによって部材表面に微細な凹凸が形成され、レジスト材などの塗料との密着性が向上する効果も知られている。本発明においてプラズマ処理を採用する場合には、大気圧付近の圧力下または準常圧下で、少なくともArガス、N2ガス、O2ガス、H2ガス、水蒸気及びクリーンエアーからなる群から選択される一種により構成される単体ガス又は前記群から選択される二種以上により構成される混合ガスをプラズマ処理して生成されるArラジカル、Nラジカル、Oラジカル、Hラジカル又はOHラジカルのいずれかを部材表面に接触させることが特に好ましい。
【0017】
次に、上記のようにして改質処理を行った部材の表面に、重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射する。本発明で用いる重合性基を有する水溶性モノマーは、例えば、当該モノマーの水に対する溶解度(水100gに溶解するグラム数)が5以上であり、分子全体として電気的に中性であることが好ましい。分子全体として電気的に中性である、とは、中性付近のpHの水溶液中で電離してイオンになる基を有さない又は有していても陽イオンになるものと陰イオンになるものの両者を有し、モノマー1分子における電荷の合計が実質的に0になることをいう。
【0018】
当該モノマーが水溶性であり、かつ、分子全体として電気的に中性であることは、当該モノマーの重合により形成される重合体の親水性が高く、更には非特異吸着抑制効果が高いからである。重合性基としては、例えば、二重結合や三重結合を有するものを例示できる。より具体的には、(ジ)アクリレート基、ビニル基、アクリル基、アクリロイル基、メタクリルオキシ基、メタクリルアミド基、アクリルオキシ基、アクリルアミド基、スチリルオキシ基又はスチリルアミド基を例示することができる。
【0019】
なお、本発明において、(ジ)アクリレートとは、アクリレートまたはジアクリレートを意味する。以上のような重合性基を有する水溶性モノマーとしては、例えば、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、メチルメタクリレート又はブチルアクリレート等が例示できる。これらの中でも、ポリエチレングリコール系モノマー(ポリエチレングリコール部分を有するビニルモノマー)、特にポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)は、本発明の重合性基を有する水溶性モノマーとして好適である。
【0020】
ポリエチレングリコール(PEG)は高い親水性を有し、また特に生体毒性がなく、生体物質との特異的相互作用もないため、生体試料の非特異吸着がほとんど起きないことから、後述した実施例における細胞等を操作装置の部材として用いる上で極めて好ましいからである。またPEGDAは、親水性ではない部材を高度に親水化するとともに非特異吸着を有効に防止することができるからである。
【0021】
本発明で使用する光重合開始剤は、紫外線の照射によりラジカルを発生する性質を有し、更には重合後の成分や残留物が部材表面を覆う親水性の層から実質的に浸出しないものである限り、多種多様な公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0022】
本発明に使用することができる公知の光重合開始剤として、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(1−hydroxy−cyclohexyl−phenylketone)、4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン(4,4'−diethylaminobenzophenone)又はベンゾインイソブチルエーテル(benzoin isobutylether)等を例示することができる。光重合開始剤と前記重合性基を有する水溶性モノマーの混合の割合は、重合性基を有する水溶性モノマーに対し、光重合開始剤を0.05〜10wt%混合すれば良い。
【0023】
上記の混合物の、改質処理を行った部材の表面への塗布は、塗布層が1μmから5μm程度の膜厚となるように、例えばスピンコーター等を用いて塗布すれば良い。塗布後、UV露光機等を用いて紫外線を照射することにより塗布層を硬化するが、前記した本発明の実施に好ましい光重合開始剤を使用する場合には、通常波長の紫外線、即ち10から400nmの波長の紫外線を照射すれば良い。
【0024】
以上に説明した各工程の概略を図1に示す。図1に示したように、部材1の親水化する表面に対し、まず、プラズマ処理4によって表面の改質処理を行い、次に、表面改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物5を塗布し、UV露光機6にて露光し、塗膜の硬化を行う。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明によれば、表面が親水化された部材を簡便に製造することが可能になる。
(2)本発明の表面親水化部材の製造方法によれば、製造された親水化部材の表面の親水性は半永久的に継続し、例え当該表面に対して超音波処理等を施しても、表面の親水性は失われない。
(3)本発明の表面親水化部材の製造方法によって製造された部材を用いることで、細胞のような疎水性の微粒子を扱う微粒子操作容器及び微粒子操作装置において、微粒子操作容器を洗浄した際に、再度親水化処理を施すことなく、繰り返し使用することが可能となる。
(4)部材表面の改質をプラズマ処理により実施する場合、後の実施例に示したように、予め部材表面の親水化したくない部分の表面をITOで被覆しておくことにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物を塗布して紫外線を照射した後に、当該部分の表面が親水化されることを防止することが可能となる。これにより、意図的に、部材表面の一部分を親水化し、他の部分を親水化せずに疎水性のままに維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0027】
図2に示したように、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラス7の片面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストには疎水性のエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。この段階で、部材表面に形成される液滴と親水化部材表面との接触角を測定したところ、接触角は79°であり、疎水性であった。
【0028】
このようにして製造した疎水性レジスト成膜部材3にプラズマ処理4を行い、部材の表面改質を行った。部材表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。プラズマ処理後の部材の接触角は50°であった。次に、プラズマ処理による表面改質を行った疎水性レジスト成膜部材に、光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材を露光6することによって塗膜の硬化を行い、親水化部材を得た。このようにして製造された親水化部材に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0029】
比較例1
ガラス7の表面にITO18を成膜し、当該成膜の上面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストには疎水性のエポキシ系レジストを用いた。続いて、疎水性レジスト成膜部材に光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDAをスピンコーターにて塗布したところ、部材がPEGDA溶液を撥水してしまい、部材への塗布ができなかった。
【実施例2】
【0030】
図3に、実施例2に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は、微粒子懸濁液を入れて微粒子の操作を行う微粒子操作容器13と、微粒子を操作するための電圧を微粒子操作容器に設置された電極間に印加するよう導電線42を介し接続された電源14から構成される。
【0031】
この微粒子操作容器は、図3に示すように上部電極8と下部電極9の間にスペーサー10を配置し、複数の微細孔17をアレイ状に形成した絶縁体11をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラスに、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図3に示すように、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口15と排出口16を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体11は、図4に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0032】
はじめに、ITO 18を成膜したガラス7のITO成膜面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク19を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液21で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行い、レジストを固めることで微細孔付き絶縁体一体型下部電極12を作製した。
【0033】
以上に続き、微細孔付き絶縁体一体型下部電極にプラズマ処理を行い、部材の表面改質を行った。部材表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。次に、プラズマ処理による表面改質を行った疎水性レジスト成膜部材に、光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材を露光6することによって塗膜の硬化を行い、純水23にて洗浄することでPEGDAコーティング微細孔付き下部電極22を得た。このようにして製造された親水化部材に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0034】
上部電極8、スペーサー10、PEGDAコーティング微細孔付き下部電極を図5のように積層し圧着し、微粒子操作容器を製作した。図5は、図3に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。なお、スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0035】
上記親水化処理したPEGDAコーティング微細孔付き下部電極で構成した微粒子操作容器に、実際に微粒子懸濁液を導入し、微細孔に微粒子を電気的な力(誘電泳動力)により引き寄せる微粒子操作を行った。本実施例では、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。なお誘電泳動力とは、電圧が集中した部位に細胞等の誘電体微粒子が引き寄せられる力である。よって、本実施例のように、電圧を印加した電極間に設置した微細孔において電圧が集中し、細胞が微細孔の部位に引き寄せられ固定される。一般に、誘電泳動力の大きさは、微粒子の大きさと印加する電圧及び、微粒子の誘電率と微粒子を含有する懸濁液の誘電率の差に比例する。
【0036】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0037】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を10回以上繰り返したところ、PEGDAコーティング微細孔付き下部電極について再度親水化処理を行わなくとも、いずれも、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能であった。
【0038】
比較例2
PEGDAコーティングしていない微細孔付き絶縁体一体型下部電極を用いた微粒子操作装置にて以下の比較例2の実験を行った。ただし、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をウシ血清アルブミン(BSA(1mg/mL))含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、絶縁体表面に純水を滴下し、表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約48°であり、親水性であった。
【0039】
上記親水化処理した微細孔付き絶縁体一体型下部電極で構成した微粒子操作容器に、実際に微粒子懸濁液を導入し、微細孔に微粒子を電気的な力(誘電泳動力)により引き寄せる微粒子操作を行った。本比較例では、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0040】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を繰り返したところ、徐々に細胞が微細孔に引き寄せられなくなり、同様の操作を10回繰り返した時点で、微細孔付き絶縁体に細胞が非特異的に吸着してしまい、誘電泳動力により細胞を微細孔に引き寄せて固定するという微粒子操作ができなくなった。このときの微細孔付き絶縁体の絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約83°であり、疎水性に戻っていた。
【実施例3】
【0041】
図6に、実施例3に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は、大きく分けて、微粒子操作容器20と電源14から構成される。微粒子操作容器は、下部部材28の微粒子操作領域24に面した平面上に、複数の正極25と複数の負極26を交互に配置した一対の櫛状電極27を備えており、この櫛状電極を形成する導電部材の真上に位置し櫛状電極の方向に貫通した複数のアレイ状の微細孔17を有した平板状の絶縁体11と、絶縁体上に配置された平板上のスペーサー10で構成されている。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部部材28と櫛状電極27、及び複数の微細孔をアレイ状に形成した平板状の絶縁体11を一体形成した。
【0042】
下部部材には、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラスを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、実施例2の図3と同様に、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口15と排出口16を設けた。櫛状電極27と複数の微細孔を有する絶縁体11は、図7から図9に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部部材に一体形成することで作製した。
【0043】
図7に示すように、ガラス7の片面に、膜厚1nmのCr 29をスパッタにより成膜し、さらにその上に膜厚150nmのAu 30をスパッタにより成膜した。なおCrは、Auとガラスの密着性を高めるために成膜している。次に、成膜したAuの上にレジスト31を1μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(105℃、15分)を行った。
【0044】
レジストにはポジ型のものを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、幅10μmの正極と幅10μmの負極を50μm間隔で形成した櫛状電極パターンを描いた露光用フォトマスク32を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液33で現像した。露光時間と現像時間は、現像により剥離する膜厚がレジストの膜厚と等しい1μmになるように調整し、微細孔の底面にAuが露出するようにした。現像後、3%ヨウ素ヨウ化アンモニウム液34により露出したAu膜を剥離し、次に30%硝酸二アンモニアセリウム液35によりAu膜剥離後に露出したCr膜を剥離した。最後に、レジストをリムーバーにより剥離し、櫛状電極27を形成した。
【0045】
このようにして作製した下部部材上の櫛状電極27の上に、図8に示すようにレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、直径φ8.5μmの円形の微細孔パターンを微細孔と微細孔の縦と横の間隔が50μmでアレイ状に並べた描いた露光用フォトマスク36を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液21で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面の櫛状電極が露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行い、レジストを固めることで微細孔付き絶縁体一体型櫛状電極37を作製した。
【0046】
続いて、図9に示したように、微細孔付き絶縁体一体型下部電極にプラズマ処理を行い、部材の表面改質を行った。表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。次に、表面改質処理を行った疎水性レジスト成膜部材に光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材に紫外線を照射するによって塗膜の硬化を行った後、純水23にて洗浄することでPEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極38を得た。上記処理を実施した後、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0047】
次に、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極38、スペーサー10を図10のように積層し圧着し、微粒子操作容器を製作した。図10は、図6に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約16万個である。
【0048】
マウスミエローマ細胞(φ10μm)を、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、2.7×105個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。そして実施例2と同様に、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約16万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧2Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0049】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約16万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧2Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を10回以上繰り返したところ、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極について再度親水化処理を行わなくとも、いずれも、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能であった。
【0050】
引き続き図11に示すように、微粒子操作容器に微粒子採取手段39を設置した。微粒子採取手段には、電気浸透流を利用して精密に微粒子を採取可能なピペットを用い、顕微鏡40で観察しながら、微細孔に固定した特定の細胞41を採取した。また、電源14により櫛状電極間に交流電圧(2Vpp、3MHz)を印加しつづけ、細胞を微細孔に固定する方向に誘電泳動力を作用させ続けることで、採取した以外の細胞は微細孔に固定されたままで微細孔からの脱離は確認されなかった。引き続き、交流電圧として信号発生器により電圧2Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から容易に取り出すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明における親水化処理方法の概念図である。
【図2】本発明及び実施例1に用いた親水化処理方法の概念図である。
【図3】本発明及び実施例2に用いた微粒子操作容器及び微粒子操作装置の概念図である。
【図4】実施例2で用いたPEGDAコーティング微細孔付き下部電極を製作するための一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を示す概略図である。
【図5】図3に示したAA’断面図である。
【図6】本発明及び実施例3に用いた微粒子操作容器及び微粒子操作装置の概念図である。
【図7】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いて櫛状電極を作製する工程の概略図である。
【図8】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いて微細孔付き櫛状電極を作製する工程の概略図である。
【図9】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いてPEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極を製作する工程の概略図である。
【図10】図6で示した各部材が集合して組みあがった装置のBB’断面図である。
【図11】本発明の微粒子操作装置と、微細孔に固定した特定の微粒子を採取する微粒子採取手段として、マイクロピペットを設置した場合の概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1:部材
2:レジスト(エポキシ系レジスト)
3:疎水性レジスト成膜部材
4:プラズマ処理
5:重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物
6:露光
7:パイレックス(登録商標)ガラス
8:上部電極
9:下部電極
10:スペーサー
11:絶縁体
12:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
13:微粒子操作容器(実施例2)
14:電源
15:導入口
16:排出口
17:微細孔
18:ITO
19:露光用フォトマスク(微細孔パターン1)
20:微粒子操作容器(実施例3)
21:現像液(エポキシ系レジスト用)
22:PEGDAコーティング微細孔付き下部電極
23:純水
24:微粒子操作領域
25:正極
26:負極
27:櫛状電極
28:下部部材
29:Cr
30:Au
31:レジスト(ポジ型レジスト)
32:露光用フォトマスク(櫛状電極パターン)
33:現像液(ポジ型レジスト用)
34:3%ヨウ素ヨウ化アンモニウム液
35:30%硝酸二アンモニウムセリウム液
36:露光用フォトマスク(微細孔パターン2)
37:微細孔付き絶縁体一体型櫛状電極
38:PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極
39:微粒子採取手段
40:顕微鏡
41:細胞
42:導電線
43:PEGDA
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が親水化された部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂やガラス等の部材表面を親水化する方法として、プラズマ処理やコロナ放電処理が利用されている。コロナ放電とは、高周波高電圧の気中で、電解内にて起きる、原子、分子、電子イオン間でのそれぞれの衝突などによって、電子エネルギーの励起、さらに光子の放出が起こり、電極の近傍にて発光・放電する現象を示すが、このコロナ放電のエネルギーを物質の表面で作用させた場合、その表面がエネルギーを受け、表面エネルギーが高くなり活性化された状態になる。プラスチックなどでは、コロナ放電によって表面にカルボニル基等の極性基が生成され、親水性が向上する。具体的な例として、ポリカーボネート延伸フィルムのような疎水性プラスチックフィルムの表面にコロナ放電処理を施して親水化したコロナ放電処理フィルムを用いた液晶ディスプレイ用位相差板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光触媒をコーティングした部材表面に対し、紫外線照射又は高電圧を印加することによって部材表面の親水性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。ここで光触媒とは光を吸収することによって触媒作用を示す物質の総称であり、代表的な光触媒物質としては光を吸収すると酸化作用、親水作用を示す酸化チタン(TiO2)が例示できる。酸化作用は光を照射した際に表面に発生する活性酸素によるものであり、有機物を分解することから、抗菌、消臭、防汚、空気浄化など様々な分野で使用されている。また、酸化チタンは光を当てない状態では疎水性であるが、紫外線を照射することによって酸化チタン表面の親水基である−OH基が増加し、親水性を示すことから自動車のドアミラーフィルムや自動車のボディーコートに利用されている。
【0004】
また、化学修飾による部材表面の親水化方法が知られている。この方法は、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを部材表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に無機質材料と化学的結合をする反応基と有機質材料と化学的結合をする反応基の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、親水基を有するシランカップリング剤を使用し、希薄溶液に部材を浸漬すれば、容易に部材表面を均一に親水化することが可能である。
【0005】
さらに、グラフト法によって部材表面を親水化する方法がある。この方法は、部材に対し、例えばポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのような水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物を塗布し、紫外線照射することで部材の表面から重合を行い、部材にポリマーを結合させることで親水層を形成する方法である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平4−347802号公報
【特許文献2】特開2000−178529号公報
【特許文献3】特開2005−316010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したプラズマ処理やコロナ放電処理による親水化方法では、親水化処理効果の程度および寿命が短く、その親水化効果・寿命を長くするために処理強度を上げるとフィルムシートなどを処理した場合、フィルムにピンホールが発生する、温度上昇によってしわが発生する等、フィルムが傷むという課題がある。前記した光触媒を用いた親水化法では、親水化処理効果の寿命が短いという課題がある。また前記したシランカップリング剤等による化学修飾は、部材洗浄、浸漬、高温乾燥等の処理が必要であるため、処理に数時間要するという課題や、処理されるべき部材が制限されるという課題がある。そしてグラフト法では、部材によっては部材表面と塗料との接着性が低く、塗膜が剥離する場合があるなど、処理されるべき部材が制限されるという課題や、処理に時間を要するという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、対象となる部材の表面を迅速かつ簡便に親水化させ、しかもその親水性を半永久的に継続させることのできる、表面親水化部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明は、部材の表面を改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射することを特徴とする表面親水化部材の製造方法である。そしてかかる本発明によれば、θ/2法を用いて測定した表面の接触角が40°未満であることを特徴とする親水化部材を製造することが可能となる。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、本来は親水性ではない部材表面を親水化するものである。即ち、部材は少なくともその表面が疎水性であれば本発明の対象とすることができ、かかる部材としては特に制限はないが、樹脂、セラミックス又はガラス等を例示することができる。例えば金属等の表面に疎水性のレジストやフィルムが成膜されたものも、本発明の部材として使用することができる。ここで、本発明における親水性とは、部材表面に滴下した液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、部材表面に対する角度からθ/2法によって算出される角度(以下、「接触角」という)が50°以下、好ましくは40°以下であるものを意味し、本発明における疎水性とは、前記接触角が50°より大きいものを意味する。
【0011】
表面が疎水性の部材は、未処理のままでは濡れ性に乏しく、コーティング、印刷、ラミネーション等の用途において接着性に課題があるため、本発明では、当該部材の表面を、予め改質処理する。表面の改質処理は、具体的に、部材の表面に物理的又は化学的に極性基を導入する、表面張力を向上させる、又は部材の表面に微細な凹凸を形成する、等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
部材の表面に微細な凹凸を形成する場合には、その凹凸の度合い(部材表面の「粗さ」)、即ち凸部と凹部の高低の差の最大値、が20nm未満だと部材と後述する重合性基を有する水溶性モノマーとの接着性が低くなって撥水し、均一塗布ができないという事態が生じる可能性があり、また、高低の差の最大値が1μm以上だと塗布表面の平坦性が得られないという事態が生じる可能性があるため、表面改質処理後の部材表面の粗さが20nm以上1μm未満とすることが好ましい。
【0013】
本発明で採用する表面改質処理としては、部材への影響が少なく、しかも短時間に実施可能で処理自体が容易であることが好ましい。中でも、以下の理由から、高エネルギー線を照射するプラズマによる処理が特に好ましい表面改質処理として例示できる。なお、本発明者らは、部材の表面をITOで被覆しておくと、該面にプラズマ照射してもPEGDAと光重合開始剤の混合物との密着性が上がらないことを見出した。
【0014】
これを利用することにより、表面改質処理として部材表面に凹凸を形成するプラズマ処理等を採用する場合には、後の実施例に示したように、予め部材表面の親水化したくない部分の表面をITOで被覆しておくことにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物の当該皮膜部位への密着性を下げて、紫外線照射後の純水による洗浄等によって硬化皮膜を除去して当該部分の表面が親水化されることを防止することが可能である。
【0015】
これにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物の当該部材表面との密着性の差を利用して、意図的に、部材表面の一部分を親水化し、他の部分を親水化せずに疎水性のままに維持するという、表面の一部が親水化された部材の製造方法を提供することが可能となる。
【0016】
プラズマ処理は、電子、イオン、ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を部材の表面に照射することにより、部材表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、部材表面を改質する処理である。プラズマ処理としては、非重合性ガス(ArやO2等)を用いるプラズマ表面処理と、有機モノマーを用いて部材の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合のいずれも採用することができる。より詳しくは、プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、部材表面の親水性を向上させる方法であるが、イオンエネルギーによる物理的エッチング及び活性な酸素プラズマによる化学的エッチングによって部材表面に微細な凹凸が形成され、レジスト材などの塗料との密着性が向上する効果も知られている。本発明においてプラズマ処理を採用する場合には、大気圧付近の圧力下または準常圧下で、少なくともArガス、N2ガス、O2ガス、H2ガス、水蒸気及びクリーンエアーからなる群から選択される一種により構成される単体ガス又は前記群から選択される二種以上により構成される混合ガスをプラズマ処理して生成されるArラジカル、Nラジカル、Oラジカル、Hラジカル又はOHラジカルのいずれかを部材表面に接触させることが特に好ましい。
【0017】
次に、上記のようにして改質処理を行った部材の表面に、重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射する。本発明で用いる重合性基を有する水溶性モノマーは、例えば、当該モノマーの水に対する溶解度(水100gに溶解するグラム数)が5以上であり、分子全体として電気的に中性であることが好ましい。分子全体として電気的に中性である、とは、中性付近のpHの水溶液中で電離してイオンになる基を有さない又は有していても陽イオンになるものと陰イオンになるものの両者を有し、モノマー1分子における電荷の合計が実質的に0になることをいう。
【0018】
当該モノマーが水溶性であり、かつ、分子全体として電気的に中性であることは、当該モノマーの重合により形成される重合体の親水性が高く、更には非特異吸着抑制効果が高いからである。重合性基としては、例えば、二重結合や三重結合を有するものを例示できる。より具体的には、(ジ)アクリレート基、ビニル基、アクリル基、アクリロイル基、メタクリルオキシ基、メタクリルアミド基、アクリルオキシ基、アクリルアミド基、スチリルオキシ基又はスチリルアミド基を例示することができる。
【0019】
なお、本発明において、(ジ)アクリレートとは、アクリレートまたはジアクリレートを意味する。以上のような重合性基を有する水溶性モノマーとしては、例えば、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、メチルメタクリレート又はブチルアクリレート等が例示できる。これらの中でも、ポリエチレングリコール系モノマー(ポリエチレングリコール部分を有するビニルモノマー)、特にポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)は、本発明の重合性基を有する水溶性モノマーとして好適である。
【0020】
ポリエチレングリコール(PEG)は高い親水性を有し、また特に生体毒性がなく、生体物質との特異的相互作用もないため、生体試料の非特異吸着がほとんど起きないことから、後述した実施例における細胞等を操作装置の部材として用いる上で極めて好ましいからである。またPEGDAは、親水性ではない部材を高度に親水化するとともに非特異吸着を有効に防止することができるからである。
【0021】
本発明で使用する光重合開始剤は、紫外線の照射によりラジカルを発生する性質を有し、更には重合後の成分や残留物が部材表面を覆う親水性の層から実質的に浸出しないものである限り、多種多様な公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0022】
本発明に使用することができる公知の光重合開始剤として、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(1−hydroxy−cyclohexyl−phenylketone)、4,4'−ジエチルアミノベンゾフェノン(4,4'−diethylaminobenzophenone)又はベンゾインイソブチルエーテル(benzoin isobutylether)等を例示することができる。光重合開始剤と前記重合性基を有する水溶性モノマーの混合の割合は、重合性基を有する水溶性モノマーに対し、光重合開始剤を0.05〜10wt%混合すれば良い。
【0023】
上記の混合物の、改質処理を行った部材の表面への塗布は、塗布層が1μmから5μm程度の膜厚となるように、例えばスピンコーター等を用いて塗布すれば良い。塗布後、UV露光機等を用いて紫外線を照射することにより塗布層を硬化するが、前記した本発明の実施に好ましい光重合開始剤を使用する場合には、通常波長の紫外線、即ち10から400nmの波長の紫外線を照射すれば良い。
【0024】
以上に説明した各工程の概略を図1に示す。図1に示したように、部材1の親水化する表面に対し、まず、プラズマ処理4によって表面の改質処理を行い、次に、表面改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物5を塗布し、UV露光機6にて露光し、塗膜の硬化を行う。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明によれば、表面が親水化された部材を簡便に製造することが可能になる。
(2)本発明の表面親水化部材の製造方法によれば、製造された親水化部材の表面の親水性は半永久的に継続し、例え当該表面に対して超音波処理等を施しても、表面の親水性は失われない。
(3)本発明の表面親水化部材の製造方法によって製造された部材を用いることで、細胞のような疎水性の微粒子を扱う微粒子操作容器及び微粒子操作装置において、微粒子操作容器を洗浄した際に、再度親水化処理を施すことなく、繰り返し使用することが可能となる。
(4)部材表面の改質をプラズマ処理により実施する場合、後の実施例に示したように、予め部材表面の親水化したくない部分の表面をITOで被覆しておくことにより、PEGDAと光重合開始剤の混合物を塗布して紫外線を照射した後に、当該部分の表面が親水化されることを防止することが可能となる。これにより、意図的に、部材表面の一部分を親水化し、他の部分を親水化せずに疎水性のままに維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0027】
図2に示したように、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラス7の片面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストには疎水性のエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。この段階で、部材表面に形成される液滴と親水化部材表面との接触角を測定したところ、接触角は79°であり、疎水性であった。
【0028】
このようにして製造した疎水性レジスト成膜部材3にプラズマ処理4を行い、部材の表面改質を行った。部材表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。プラズマ処理後の部材の接触角は50°であった。次に、プラズマ処理による表面改質を行った疎水性レジスト成膜部材に、光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材を露光6することによって塗膜の硬化を行い、親水化部材を得た。このようにして製造された親水化部材に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0029】
比較例1
ガラス7の表面にITO18を成膜し、当該成膜の上面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストには疎水性のエポキシ系レジストを用いた。続いて、疎水性レジスト成膜部材に光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDAをスピンコーターにて塗布したところ、部材がPEGDA溶液を撥水してしまい、部材への塗布ができなかった。
【実施例2】
【0030】
図3に、実施例2に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は、微粒子懸濁液を入れて微粒子の操作を行う微粒子操作容器13と、微粒子を操作するための電圧を微粒子操作容器に設置された電極間に印加するよう導電線42を介し接続された電源14から構成される。
【0031】
この微粒子操作容器は、図3に示すように上部電極8と下部電極9の間にスペーサー10を配置し、複数の微細孔17をアレイ状に形成した絶縁体11をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラスに、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、図3に示すように、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口15と排出口16を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体11は、図4に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0032】
はじめに、ITO 18を成膜したガラス7のITO成膜面にレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク19を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液21で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行い、レジストを固めることで微細孔付き絶縁体一体型下部電極12を作製した。
【0033】
以上に続き、微細孔付き絶縁体一体型下部電極にプラズマ処理を行い、部材の表面改質を行った。部材表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。次に、プラズマ処理による表面改質を行った疎水性レジスト成膜部材に、光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材を露光6することによって塗膜の硬化を行い、純水23にて洗浄することでPEGDAコーティング微細孔付き下部電極22を得た。このようにして製造された親水化部材に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0034】
上部電極8、スペーサー10、PEGDAコーティング微細孔付き下部電極を図5のように積層し圧着し、微粒子操作容器を製作した。図5は、図3に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。なお、スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。
【0035】
上記親水化処理したPEGDAコーティング微細孔付き下部電極で構成した微粒子操作容器に、実際に微粒子懸濁液を導入し、微細孔に微粒子を電気的な力(誘電泳動力)により引き寄せる微粒子操作を行った。本実施例では、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。なお誘電泳動力とは、電圧が集中した部位に細胞等の誘電体微粒子が引き寄せられる力である。よって、本実施例のように、電圧を印加した電極間に設置した微細孔において電圧が集中し、細胞が微細孔の部位に引き寄せられ固定される。一般に、誘電泳動力の大きさは、微粒子の大きさと印加する電圧及び、微粒子の誘電率と微粒子を含有する懸濁液の誘電率の差に比例する。
【0036】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0037】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を10回以上繰り返したところ、PEGDAコーティング微細孔付き下部電極について再度親水化処理を行わなくとも、いずれも、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能であった。
【0038】
比較例2
PEGDAコーティングしていない微細孔付き絶縁体一体型下部電極を用いた微粒子操作装置にて以下の比較例2の実験を行った。ただし、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をウシ血清アルブミン(BSA(1mg/mL))含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、絶縁体表面に純水を滴下し、表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約48°であり、親水性であった。
【0039】
上記親水化処理した微細孔付き絶縁体一体型下部電極で構成した微粒子操作容器に、実際に微粒子懸濁液を導入し、微細孔に微粒子を電気的な力(誘電泳動力)により引き寄せる微粒子操作を行った。本比較例では、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0040】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧10Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を繰り返したところ、徐々に細胞が微細孔に引き寄せられなくなり、同様の操作を10回繰り返した時点で、微細孔付き絶縁体に細胞が非特異的に吸着してしまい、誘電泳動力により細胞を微細孔に引き寄せて固定するという微粒子操作ができなくなった。このときの微細孔付き絶縁体の絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約83°であり、疎水性に戻っていた。
【実施例3】
【0041】
図6に、実施例3に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は、大きく分けて、微粒子操作容器20と電源14から構成される。微粒子操作容器は、下部部材28の微粒子操作領域24に面した平面上に、複数の正極25と複数の負極26を交互に配置した一対の櫛状電極27を備えており、この櫛状電極を形成する導電部材の真上に位置し櫛状電極の方向に貫通した複数のアレイ状の微細孔17を有した平板状の絶縁体11と、絶縁体上に配置された平板上のスペーサー10で構成されている。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部部材28と櫛状電極27、及び複数の微細孔をアレイ状に形成した平板状の絶縁体11を一体形成した。
【0042】
下部部材には、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのガラスを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。また、実施例2の図3と同様に、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口15と排出口16を設けた。櫛状電極27と複数の微細孔を有する絶縁体11は、図7から図9に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部部材に一体形成することで作製した。
【0043】
図7に示すように、ガラス7の片面に、膜厚1nmのCr 29をスパッタにより成膜し、さらにその上に膜厚150nmのAu 30をスパッタにより成膜した。なおCrは、Auとガラスの密着性を高めるために成膜している。次に、成膜したAuの上にレジスト31を1μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(105℃、15分)を行った。
【0044】
レジストにはポジ型のものを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、幅10μmの正極と幅10μmの負極を50μm間隔で形成した櫛状電極パターンを描いた露光用フォトマスク32を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液33で現像した。露光時間と現像時間は、現像により剥離する膜厚がレジストの膜厚と等しい1μmになるように調整し、微細孔の底面にAuが露出するようにした。現像後、3%ヨウ素ヨウ化アンモニウム液34により露出したAu膜を剥離し、次に30%硝酸二アンモニアセリウム液35によりAu膜剥離後に露出したCr膜を剥離した。最後に、レジストをリムーバーにより剥離し、櫛状電極27を形成した。
【0045】
このようにして作製した下部部材上の櫛状電極27の上に、図8に示すようにレジスト2を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分→95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストを用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、直径φ8.5μmの円形の微細孔パターンを微細孔と微細孔の縦と横の間隔が50μmでアレイ状に並べた描いた露光用フォトマスク36を用いて、UV露光機にてレジストを露光6し、現像液21で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面の櫛状電極が露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行い、レジストを固めることで微細孔付き絶縁体一体型櫛状電極37を作製した。
【0046】
続いて、図9に示したように、微細孔付き絶縁体一体型下部電極にプラズマ処理を行い、部材の表面改質を行った。表面改質のためのプラズマ処理は、Arプラズマを用い、出力300Wで20分照射した。次に、表面改質処理を行った疎水性レジスト成膜部材に光重合開始剤である2,2−Dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPA)を1%含んだPEGDA 43をスピンコーターにて塗布し、PEGDAコーティング部材を得た。最後に、UV露光機にてPEGDAコーティング部材に紫外線を照射するによって塗膜の硬化を行った後、純水23にて洗浄することでPEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極38を得た。上記処理を実施した後、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極に純水を滴下し、接触角を測定したところ、接触角35°であり、十分に親水化されていた。
【0047】
次に、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極38、スペーサー10を図10のように積層し圧着し、微粒子操作容器を製作した。図10は、図6に示した細胞融合容器のB−B’断面図である。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約16万個である。
【0048】
マウスミエローマ細胞(φ10μm)を、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、2.7×105個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。そして実施例2と同様に、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約16万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧2Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能となった。
【0049】
実験後、微粒子操作容器を超音波洗浄して乾燥し、再度、上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約16万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、交流電源により電圧2Vpp、周波数3MHzの正弦波交流電圧を電極間に印加し、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する実験を10回以上繰り返したところ、PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極について再度親水化処理を行わなくとも、いずれも、誘電泳動力によりアレイ状に形成した微細孔に細胞を引き寄せて固定する微粒子操作が可能であった。
【0050】
引き続き図11に示すように、微粒子操作容器に微粒子採取手段39を設置した。微粒子採取手段には、電気浸透流を利用して精密に微粒子を採取可能なピペットを用い、顕微鏡40で観察しながら、微細孔に固定した特定の細胞41を採取した。また、電源14により櫛状電極間に交流電圧(2Vpp、3MHz)を印加しつづけ、細胞を微細孔に固定する方向に誘電泳動力を作用させ続けることで、採取した以外の細胞は微細孔に固定されたままで微細孔からの脱離は確認されなかった。引き続き、交流電圧として信号発生器により電圧2Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から容易に取り出すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明における親水化処理方法の概念図である。
【図2】本発明及び実施例1に用いた親水化処理方法の概念図である。
【図3】本発明及び実施例2に用いた微粒子操作容器及び微粒子操作装置の概念図である。
【図4】実施例2で用いたPEGDAコーティング微細孔付き下部電極を製作するための一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を示す概略図である。
【図5】図3に示したAA’断面図である。
【図6】本発明及び実施例3に用いた微粒子操作容器及び微粒子操作装置の概念図である。
【図7】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いて櫛状電極を作製する工程の概略図である。
【図8】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いて微細孔付き櫛状電極を作製する工程の概略図である。
【図9】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法を用いてPEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極を製作する工程の概略図である。
【図10】図6で示した各部材が集合して組みあがった装置のBB’断面図である。
【図11】本発明の微粒子操作装置と、微細孔に固定した特定の微粒子を採取する微粒子採取手段として、マイクロピペットを設置した場合の概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1:部材
2:レジスト(エポキシ系レジスト)
3:疎水性レジスト成膜部材
4:プラズマ処理
5:重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤の混合物
6:露光
7:パイレックス(登録商標)ガラス
8:上部電極
9:下部電極
10:スペーサー
11:絶縁体
12:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
13:微粒子操作容器(実施例2)
14:電源
15:導入口
16:排出口
17:微細孔
18:ITO
19:露光用フォトマスク(微細孔パターン1)
20:微粒子操作容器(実施例3)
21:現像液(エポキシ系レジスト用)
22:PEGDAコーティング微細孔付き下部電極
23:純水
24:微粒子操作領域
25:正極
26:負極
27:櫛状電極
28:下部部材
29:Cr
30:Au
31:レジスト(ポジ型レジスト)
32:露光用フォトマスク(櫛状電極パターン)
33:現像液(ポジ型レジスト用)
34:3%ヨウ素ヨウ化アンモニウム液
35:30%硝酸二アンモニウムセリウム液
36:露光用フォトマスク(微細孔パターン2)
37:微細孔付き絶縁体一体型櫛状電極
38:PEGDAコーティング微細孔付き櫛状電極
39:微粒子採取手段
40:顕微鏡
41:細胞
42:導電線
43:PEGDA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面を改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射することを特徴とする表面親水化部材の製造方法。
【請求項2】
重合性基は(ジ)アクリレート基である請求項1に記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項3】
重合性基を有する水溶性モノマーはポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)である請求項1又は2のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項4】
表面改質処理後の部材表面の粗さが20nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項5】
表面改質処理はプラズマ処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項6】
プラズマ処理は、大気圧付近の圧力下または準常圧下で、少なくともArガス、N2ガス、O2ガス、H2ガス、水蒸気及びクリーンエアーからなる群から選択される一種により構成される単体ガス又は前記群から選択される二種以上により構成される混合ガスをプラズマ処理して生成されるArラジカル、Nラジカル、Oラジカル、Hラジカル又はOHラジカルのいずれかを部材表面に接触させるものであることを特徴とする請求項5に記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項1】
部材の表面を改質処理し、次いで前記部材の前記改質処理を行った表面に重合性基を有する水溶性モノマーと光重合開始剤との混合物を塗布し、紫外線を照射することを特徴とする表面親水化部材の製造方法。
【請求項2】
重合性基は(ジ)アクリレート基である請求項1に記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項3】
重合性基を有する水溶性モノマーはポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)である請求項1又は2のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項4】
表面改質処理後の部材表面の粗さが20nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項5】
表面改質処理はプラズマ処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面親水化部材の製造方法。
【請求項6】
プラズマ処理は、大気圧付近の圧力下または準常圧下で、少なくともArガス、N2ガス、O2ガス、H2ガス、水蒸気及びクリーンエアーからなる群から選択される一種により構成される単体ガス又は前記群から選択される二種以上により構成される混合ガスをプラズマ処理して生成されるArラジカル、Nラジカル、Oラジカル、Hラジカル又はOHラジカルのいずれかを部材表面に接触させるものであることを特徴とする請求項5に記載の表面親水化部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−111373(P2011−111373A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270771(P2009−270771)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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