説明

表面にコーティング膜が形成された燃料電池用金属分離板及びその製造方法

【課題】本発明では、初期のみならず、燃料電池の作動環境で長時間使用する場合にも、耐食性及び電気伝導性に優れた燃料電池用金属分離板の製造方法が提供される。
【解決手段】本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法は、ステンレス鋼板母材を用意すること;前記ステンレス鋼板母材の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つで不連続的なコーティング膜を形成すること;及び前記不連続的なコーティング膜が形成されたステンレス鋼板を熱処理し、前記コーティング膜が形成されていない部分に酸化膜を形成すること;を含む。
また、前記方法によって製造される表面にコーティング膜が形成された燃料電池用金属分離板も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用金属分離板及びその製造方法に関するもので、より詳細には、高分子電解質燃料電池(PEMFC)の分離板に使用され、耐食性、伝導性及びこれらに対する耐久性に優れる表面にコーティング膜が形成された高分子電解質燃料電池用金属分離板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の単位セルは、電圧が低いことから実用性に劣るので、一般に数個〜数百個の単位セルを積層して使用する。単位セルの積層時、単位セル間の電気的接続を行い、反応ガスを分離させる役割をするものが分離板である。
【0003】
分離板(bipolar plate)は、膜電極接合体(MEA)と共に、燃料電池の核心部品であって、膜電極接合体と気体拡散層(GDL)の構造的支持、発生した電流の収集及び伝達、反応ガスの輸送及び除去、反応熱を除去するための冷却水輸送などの多様な役割をする。
【0004】
これによって、分離板が持つべき素材特性としては、優れた電気伝導性、熱伝導性、ガス密閉性、及び化学的安定性などがある。
【0005】
このような分離板は、その素材として黒鉛系素材及び樹脂と黒鉛を混合した複合黒鉛材料を用いて製造してきた。
【0006】
しかし、黒鉛系分離板は、強度及び密閉性が金属系素材に比べて低い特性を示し、特に、これを用いた分離板の製造時における高い工程費用及び低い量産性のため、最近は金属系分離板に対する研究が活発に進行されている。
【0007】
分離板の素材として金属系を適用する場合、分離板の厚さ減少を通した燃料電池スタックの体積減少及び軽量化が可能であり、スタンピングなどを用いた製造が可能であるので、大量生産性を確保できるという長所がある。
【0008】
しかし、燃料電池の使用時に発生する金属の腐食は、膜電極接合体の汚染を誘発し、燃料電池スタックの性能を低下させる要因として作用し得る。また、長時間使用するときの金属表面での厚い酸化膜の成長は、燃料電池の内部抵抗を増加させる要因として作用し得る。
【0009】
燃料電池分離板用金属素材としては、ステンレス鋼、チタン合金、アルミニウム合金及びニッケル合金などが候補材料として検討されている。このうちステンレス鋼は、比較的低廉な素材原価及び優れた耐食性などによって分離板の素材として多く注目されているが、依然として耐食性及び電気伝導性の側面で満足するほどの水準に達していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、初期のみならず、高温―多湿な燃料電池の作動環境に長時間露出する場合にも、耐食性及び接触抵抗がDOE(米国エネルギー省)基準を満足できる燃料電池用金属分離板及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明が達成しようとする技術的課題は、以上の言及した各技術的課題に制限されず、言及していない他の技術的課題は、以下の記載から当業者に明確に理解されるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記燃料電池用金属分離板の製造方法は、ステンレス鋼板母材を用意すること、前記ステンレス鋼板母材の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つで不連続的なコーティング膜を形成すること、及び前記不連続的なコーティング膜が形成されたステンレス鋼板を熱処理し、前記コーティング膜が形成されていない部分に酸化膜を形成することを含むことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記不連続的なコーティング膜は、5〜500μg/cm2のコーティング密度を有することを特徴とし、前記熱処理は80〜300℃の温度範囲で行われることを特徴とし、前記不連続的なコーティング膜はナノパーティクルからなることを特徴とし、前記ステンレス鋼板母材は、炭素(C)0.08wt%以下、クロム(Cr)16〜28wt%、ニッケル(Ni)0.1〜20wt%、モリブデン(Mo)0.1〜6wt%、タングステン(W)0.1〜5wt%、スズ(Sn)0.1〜2wt%、銅(Cu)0.1〜2wt%及びその他残量として鉄(Fe)を含むことを特徴とし、前記熱処理は10分〜3時間の範囲で行われることを特徴とし、前記熱処理は、真空状態、大気中及び酸素雰囲気のうちいずれか一つの条件で行われることを特徴とする。
【0014】
併せて、本発明に係る燃料電池用金属分離板は、ステンレス鋼板母材と、前記ステンレス鋼板母材の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つの材質で形成される不連続的なコーティング膜と、前記コーティング膜が形成されていない部分に形成される酸化膜とを含むことを特徴とする。
【0015】
併せて、前記燃料電池用金属分離板の腐食電流は1μA/cm2以下で、接触抵抗は断面を基準にして10mΩ・cm2以下の値を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって製造される燃料電池用金属分離板は、初期のみならず、燃料電池の作動環境で長時間使用する場合にも、耐食性及び電気伝導性に非常に優れる。
【0017】
また、本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法は、価格が低廉な通常のステンレス鋼板母材を使用する場合にも、優れた耐久性を得られる表面処理が可能になり、金属分離板の製造単価を下げることができる。
【0018】
本発明によって製造される燃料電池用金属分離板は、1μA/cm2以下の腐食電流、断面を基準にして10mΩ・cm2以下の接触抵抗値を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【図2】図1の各工程段階の工程斜視図である。
【図3】図1の各工程段階の工程斜視図である。
【図4】図1の各工程段階の工程斜視図である。
【図5】図3の断面を示した断面図である。
【図6】図4の断面を示した断面図である。
【図7】本発明に係るステンレス鋼板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を示した概略図である。
【図8】本発明に係る燃料電池用金属分離板に対する接触抵抗評価を行った結果を示したグラフである。
【図9】本発明に係る燃料電池用金属分離板に対する腐食電流評価を行った結果を示したグラフである。
【図10】本発明に係る実施例と比較例に対する燃料電池シミュレーション環境の腐食電流評価を行った結果を示したグラフである。
【図11】本発明に係る実施例と比較例に対する燃料電池シミュレーション環境の接触抵抗評価を行った結果を示したグラフである。
【図12】本発明に係る実施例1と比較例2に対する燃料電池シミュレーション環境の長期耐久性評価を行った結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、その他の各実施例の具体的な事項は、詳細な説明及び添付の各図面に含まれている。
【0021】
また、図面において、層、膜又は各領域の大きさや厚さは、明細書の明確性のために誇張して記述したものであり、一つの膜又は層が他の膜又は層の「上に」形成されると記載した場合、前記一つの膜又は層が前記他の膜又は層の上に直接存在することもあり、それらの間に第3の他の膜又は層が介在することもある。
【0022】
図1は、本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法を説明するための工程フローチャートである。
【0023】
図1を参照すると、ステンレス鋼板からなる母材を用意する段階(S110)と、ステンレス鋼板母材の表面に不連続的なコーティング膜を形成する段階(S120)とを行う。このとき、不連続的なコーティング膜は、ナノパーティクルからなり、金属分離板の伝導性及び耐食性を向上させる役割をする。しかし、不連続的な形態によってステンレス鋼板が直接露出する部分が形成されることがあり、このような部分では耐食性が低下し得るので、ステンレス鋼板を熱処理する段階(S130)を行い、不連続的なコーティング膜が形成されていない領域、すなわち、不連続的なコーティング膜間の領域に酸化膜をさらに形成する。
【0024】
ここで、前記ナノパーティクルは10nm〜1μmの大きさを有する粒子をいい、伝導性向上のための経済的な側面を考慮して5〜500μg/cm2の密度を有するようにコーティングされたため、不可避に不連続的な形態を有するようになる。すなわち、ステンレス鋼板母材の表面に密度の高いコーティング膜をさらに形成する場合、その費用が増加するようになる。
【0025】
ところが、このような費用の最小化を目的とすると、不連続的なコーティング膜形態になる。
【0026】
これによって、ステンレス鋼板母材の表面が直接露出する部分が発生するようになる。
【0027】
併せて、ステンレス鋼板母材の表面が直接露出する部分に形成される酸化膜は、ステンレス鋼板内に含まれる各金属成分から選択された一つ以上の成分に対する酸化膜形態になる。
【0028】
次に、前記のような工程の流れによる具体的な実施例を説明する。
【0029】
まず、図2〜図4は、図1の各工程段階の工程斜視図である。併せて、図5は、図3の断面を示した断面図で、図6は、図4の断面を示した断面図である。
【0030】
図2を参照すると、本発明に係る燃料電池用金属分離板を製造するための最初の段階で、ステンレス鋼板母材200を用意する。
【0031】
本工程段階で使用されるステンレス鋼板母材200は、16〜28wt%のクロム成分を含むステンレス鋼板であることが望ましく、18wt%内外のクロム成分を含むステンレス鋼板であることがより望ましい。
【0032】
ステンレス鋼板母材200を構成する具体的な成分としては、0.08wt%以下の炭素(C)、16〜28wt%のクロム(Cr)、0.1〜20wt%のニッケル(Ni)、0.1〜6wt%のモリブデン(Mo)、0.1〜5wt%のタングステン(W)、0.1〜2wt%のスズ(Sn)、0.1〜2wt%の銅及びその他残量として含まれる鉄(Fe)を挙げることができる。そして、より具体的な実施例として、オーステナイト系ステンレスであるSUS 316L、0.2tを用いることが望ましい。
【0033】
次に、図3は、ステンレス鋼板母材200の表面に不連続的なコーティング膜220を形成する段階を行った状態を示したものである。以下では、不連続的なコーティング膜220を形成する理由を説明する。
【0034】
ステンレス鋼板母材200の表面が高温―多湿な燃料電池の作動環境で長時間露出する場合、ステンレス鋼板母材200の表面に金属酸化物成分が形成される。ところが、金属酸化物は、耐食性を維持できるが、伝導性には漸次悪影響を及ぼすようになる。したがって、本発明では、耐食性及び伝導度の両方に優れた物質を用いて不連続的なコーティング膜220を形成する。その結果、初期のみならず、長時間使用時にも優れた耐食性と伝導性を有する燃料電池分離板を製造できるようになった。
【0035】
本発明に適用された耐食性及び伝導度に優れた物質としては、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうちいずれか一つを使用することが望ましい。
【0036】
併せて、不連続的なコーティング膜220の製造方法に対する実施例では、電解めっき、無電解めっき及びPVD工程から選択されたいずれか一つを使用することができる。このとき、不連続的なコーティング膜220のコーティング密度は5〜500μg/cm2にすることが望ましい。
【0037】
コーティング密度が5μg/cm2未満である場合、目標とする伝導性を確保できないおそれがあり、コーティング密度が500μg/cm2を超える場合、コーティング量の増加分に比例するほどの伝導性向上効果が示されず、実効性が低下するという問題があり得る。したがって、本発明では、コーティング密度を決定する工程が重要な部分を占めており、その測定方法は下記のように行った。
【0038】
本発明に係る金(Au)コーティング密度は、金ナノパーティクルコーティング鋼板母材(金属分離板)を王水3リットルに溶解させ、AAS(Atomic Absorption Spectroscopy)装備を用いて金イオン濃度を測定した後、下記のような数学式1を用いて計算した。
【0039】
【数1】

【0040】
このとき、コーティング膜220は、図3及び図5に示したように不連続的な形態で形成される。一般には、図示した形態のみでも、分離板が要求する目標特性を確保可能である。しかし、本発明で要求する1μA/cm2以下の腐食電流、断面を基準にして10mΩ・cm2以下の接触抵抗値を安定的に確保するためには、熱処理工程による酸化膜形成工程を行わなければならない。
【0041】
図4は、酸化膜形成のために熱処理する工程を示した斜視図で、図6は図4の断面図である。
【0042】
図4及び図6を参照すると、不連続的なコーティング膜220が形成されていない部分のステンレス鋼板母材200の表面に熱処理工程による酸化膜230がさらに形成されたことが分かる。
【0043】
このように、本発明に係る燃料電池用金属分離板は、不連続的なコーティング膜220及び酸化膜230によって完璧に遮断された形態を有するので、優れた耐食性を確保できるようになる。
【0044】
ここで、熱処理工程は、80〜300℃の温度範囲で10分〜3時間行うことが望ましい。また、雰囲気ガスは、真空状態、大気状態及び酸素ガス雰囲気のうち少なくとも一つの条件範囲以内であることが望ましい。
【0045】
本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法は、以上説明した通りであり、上述した燃料電池用金属分離板の製造方法によると、初期のみならず、燃料電池の作動環境で長時間使用する場合にも、耐食性及び電気伝導性に非常に優れた分離板を製造することができる。
【0046】
それに対する結果として、ステンレス鋼板母材200と、ステンレス鋼板母材200の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つの材質で形成される不連続的なコーティング膜220と、不連続的なコーティング膜220が形成されていない部分に形成される酸化膜230とを含む燃料電池用金属分離板構造が完成する。
【0047】
以下では、本発明の実施例及び比較例に係る燃料電池用金属分離板及びその製造方法について説明する。そして、耐食性測定のために腐食電流を測定する方法及び伝導性測定のために接触抵抗を測定する方法について説明する。
【0048】
本発明に係るステンレス鋼板母材として316Lを使用し、ステンレス鋼板母材の表面に不連続的なコーティング膜を形成することによって伝導性を確保し、熱処理工程による酸化膜を形成することによって耐食性を確保できるようにする。このとき、経済的でありながらも最適の効率を得られるコーティング膜形成及び酸化膜形成条件を得るために、次のような実験をした。
【0049】
1.接触抵抗の測定
【0050】
まず、伝導性測定のために接触抵抗を測定し、次のような接触抵抗測定装置を用いた。
【0051】
図7は、本発明に係るステンレス鋼板の接触抵抗を測定する接触抵抗測定装置を示した概略図である。
【0052】
図7を参照すると、ステンレス鋼板500の接触抵抗を測定するとき、セル締結のための最適化された定数を得るために修正されたデイヴィス方法(Davies method)をステンレススチール(Stainless Steel:SS)とカーボンペーパーとの間の接触抵抗を測定するために使用した。
【0053】
接触抵抗は、4点法(four―wire current―voltage)測定原理を用いてZahner社のIM6装備で測定した。
【0054】
測定方法は、定電流モードで測定領域0.5Aの振幅及び25cm2の電極面積を有するDC電流を5Aとし、10kHzから10mHzまでの範囲で接触抵抗を測定した。
【0055】
カーボンペーパーとしてはSGL社の10BBを使用した。
【0056】
前記接触抵抗測定装置50は、カーボンペーパー520と、試片500を挟んでそれぞれ上下に設けられる金がめっきされた銅プレート510と、前記銅プレート510に連結される電流供給装置530及び電圧測定装置540とを含んでいる。
【0057】
前記試片500に電流を供給できる電流供給装置530(Zahner社のIM6)で、0.5Aの振幅及び25cm2の電極面積を有する5AのDC電流を印加して電圧を測定した。
【0058】
そして、前記接触抵抗測定装置50の銅プレート510の上下には、前記試片500、カーボンペーパー520及び銅プレート510が積層構造を有するように圧力を提供できる圧力器(Instron社のモデル5566、圧縮維持試験)を設ける。前記圧力器は、前記接触抵抗測定装置50に50〜150N/cm2の圧力を提供する。
【0059】
このように設けられた接触抵抗測定装置50で測定した結果は、下記の図8に示した。
【0060】
図8は、本発明に係る燃料電池用金属分離板に対する接触抵抗評価を行った結果を示したグラフである。
【0061】
図8では、本発明に係るコーティング膜による純粋な伝導特性を調査するために熱処理工程を行っていない。
【0062】
金属としては金(Au)を使用し、コーティング密度(Mass of Au deposit(μg/cm2))は3〜1000μg/cm2の範囲にし、接触抵抗(IRC)の目標値は100N/cm2の圧力で断面を基準にして10mΩ・cm2にした。
【0063】
図8を参照すると、金(Au)コーティング密度が5〜500μg/cm2の範囲で目標値範囲内の接触抵抗特性を示しており、500μg/cm2と1000μg/cm2を比較すると、抵抗減少値は極めて微々たるものであるので、金(Au)コーティング密度が500μg/cm2を超える場合、コーティング量の増加のための費用に対比して効率が低下することが分かる。
【0064】
したがって、本発明に係る不連続的なコーティング膜は、5〜500μg/cm2のコーティング密度を有するように形成することが望ましい。
【0065】
次に、本発明に係る燃料電池用金属分離板に熱処理工程が及ぼす影響を測定するために、次のような腐食電流密度を測定した。
【0066】
2.腐食電流密度の測定
【0067】
本発明に係る燃料電池用金属分離板の腐食電流密度(以下、「腐食電流」という。)を測定する測定装備としてはEG&G 273Aを使用した。腐食耐久性実験は、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)のシミュレーション環境下で行われた。
【0068】
本発明に係るステンレス鋼板を腐食させる実験溶液としては、80℃の0.1N H2SO4+2ppm HF溶液を使用し、O2バブリングを1時間行った後、OCP(Open Circuit Potential)−0.25V〜1V vs SCE範囲で測定した。
【0069】
そして、PEFCアノード環境に対して−0.24V vs SCE、カソード環境(SCE:Saturated Calomel Electrode)に対して0.6V vs SCEで物性測定をした。
【0070】
ここで、前記物性測定の比較は、燃料電池環境と類似したカソード環境の0.6V vs SCEの腐食電流データを通して比較・評価した。
【0071】
前記アノード環境は、水素が膜―電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)で水素イオンと電子に分離される反応が生じる環境であり、前記カソード環境は、酸素が水素イオン及び電子と結合して水を生成する反応が生じる環境である。
【0072】
ここで、前記のような条件のように、カソード環境は、その電位が高く、より苛酷な腐食条件であるので、カソード環境を基準にして耐食性を試験することが望ましい。
【0073】
そして、高分子電解質燃料電池に適用するためには、ステンレス鋼板の腐食電流密度が1μA/cm2以下であることが望ましい。
【0074】
図9は、本発明に係る燃料電池用金属分離板に対する腐食電流評価を行った結果を示したグラフである。
【0075】
図9では、純粋な耐食性特性を測定するために不連続的なコーティング膜は形成しておらず、50℃〜400℃の範囲内で30分間熱処理工程を行った。このとき、腐食電流密度の目標値を1μA/cm2以下の値に設定して測定した結果、50℃であるときに基準値を超えるようになり、80℃以上の温度で目標とした耐食性を得ることができた。
【0076】
併せて、300℃と400℃の温度を比較すると、腐食電流密度減少値が非常に微々たるものであった。熱処理工程で温度が増加するほど加熱のためのエネルギー消費が増加するが、300℃を超える熱処理工程の場合、腐食電流密度減少値の変化がほとんどないので、その実効性が低下することが分かる。したがって、本発明に係る熱処理温度の範囲は80〜300℃に設定することが望ましい。
【0077】
本発明では、前記のような実験を行い、本発明を実施するための最適な条件を確定し、以下では、前記条件を適用した具体的な実施例及び比較例を挙げてその適切性を評価する。
【0078】
<実施例及び比較例>
【0079】
実施例1
【0080】
ステンレス素材(316L)の金属分離板に形成される不連続的な形態の金(Au)コーティング膜のコーティング密度を5μg/cm2にした。そして、熱処理は80℃、150℃、200℃、300℃、400℃の温度でそれぞれ行い、コーティング密度を主要な特性とする意味で、これらを一つの実施例として表示した。最後に、熱処理は酸素雰囲気で30分間行った。
【0081】
実施例2
【0082】
金(Au)コーティング膜のコーティング密度を50μg/cm2にし、残りの条件は全て前記実施例1と同一にした。
【0083】
実施例3
【0084】
金(Au)コーティング膜のコーティング密度を100μg/cm2にし、残りの条件は全て前記実施例1と同一にした。
【0085】
実施例4〜6
【0086】
白金(Pt)(実施例4)、イリジウム(Ir)(実施例5)及びルテニウム(Ru)(実施例6)コーティング膜のコーティング密度を50μg/cm2にし、熱処理は、それぞれ真空雰囲気の80℃で10分間行った。
【0087】
実施例7及び8
【0088】
酸化イリジウム(Ir)(実施例7)及び酸化ルテニウム(Ru)(実施例8)コーティング膜のコーティング密度を50μg/cm2にし、熱処理は、それぞれ酸素雰囲気の100℃で3時間行った。
【0089】
比較例1
【0090】
金(Au)コーティング膜のコーティング密度を1000μg/cm2にし、残りの条件は全て前記実施例1と同一にした。
【0091】
比較例2
【0092】
金(Au)コーティング膜のコーティング密度を3μg/cm2にし、残りの条件は全て前記実施例1と同一にした。
【0093】
比較例3
【0094】
不連続的な形態の金(Au)コーティング膜のコーティング密度を50μg/cm2にし、熱処理は、大気雰囲気の50℃で30分間行った。
【0095】
A.燃料電池シミュレーション環境の腐食電流密度及び接触抵抗評価
【0096】
(A―1)シミュレーション環境の腐食電流密度評価
【0097】
上述した実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2に係る燃料電池金属分離板の腐食電流密度評価のための環境シミュレーションには、EG&G 273Aを使用した。図9を参照して説明したように、熱処理は80〜400℃の温度で行い、80℃の0.1N H2SO4+2ppm HF溶液に試片を装入し、O2バブリングを1時間行った後、試片に0.6V vs SCEの定電圧を印加した。一定時間の間定電圧を印加した後、試片の腐食電流密度を測定した。
【0098】
図10は、本発明に係る実施例と比較例に対する燃料電池シミュレーション環境の腐食電流評価を行った結果を示したグラフである。
【0099】
図10で全ての実施例及び比較例を比較すると、金コーティング膜を形成した後、熱処理工程を行う場合、燃料電池用金属分離板の特性が比較的安定的に示されることが分かる。
【0100】
また、比較例3の場合、図示してはいないが、腐食電流密度が1.7μA/cm2の値を示し、これは、各実施例の場合に比べて著しく高い腐食電流密度である。したがって、耐食性が著しく低下することが分かるが、その主要原因は、各実施例に比べて低い温度である50℃で熱処理したためである。
【0101】
そして、金コーティングを厚く行った比較例1の場合、実施例3とほぼ同一の数値範囲を示しているので、費用増加分に対比して効率が微々たるものであり、実効性が低下することが分かる。
【0102】
(A―2)シミュレーション環境の接触抵抗評価
【0103】
上述した実施例1、実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2に係る燃料電池金属分離板の接触抵抗評価のための環境シミュレーションは、図8の場合と同一に行い、その結果を下記の図11に示した。
【0104】
図11は、本発明に係る実施例と比較例に対する燃料電池シミュレーション環境の接触抵抗評価を行った結果を示したグラフである。
【0105】
図11を参照すると、本発明に係る不連続的なコーティング膜の形成時、コーティング密度の基準値を充足できなかった比較例2の場合、接触抵抗が非常に高く示されることから伝導性が非常に低下したことが分かる。
【0106】
また、本発明に係るコーティング密度の基準値を超えた比較例1の場合、実施例3の場合とほぼ同一の接触抵抗を示しているので、費用増加分に対比して効率が微々たるものであり、実効性が低下することが分かる。
【0107】
したがって、本発明では、上述した各評価結果を組み合わせ、燃料電池用金属分離板の製造に最適な条件を見出し、最終的に、それら結果を適用して製造した燃料電池用金属分離板の長期耐久性を評価した。
【0108】
B.燃料電池用金属分離板の長期耐久性評価
【0109】
(B―1)長期耐久性評価方法
【0110】
反応ガスの供給のためにサーペンタイン流路を有する分離板を使用し、分離板間に膜―電極接合体(Gore社のモデル5710)とガス拡散層(SGL社のモデル10BA)を置いた後、一定圧力で締結して燃料電池セルを製作した。
【0111】
燃料電池の性能評価は単位セルを用いて行ったが、燃料電池運転装置としてはNSE Test Station 700W classを使用し、燃料電池性能評価のための電子負荷装置としてKIKUSUI E―Loadを使用し、1A/cm2で15秒サイクルの電流を2000時間まで持続的に印加した。
【0112】
反応ガスとしては水素と空気を使用し、流量は、電流によって水素1.5、空気2.0の化学量論比を一定に維持し、100%の相対湿度で加湿した後で反応ガスを供給した。加湿器とセルの温度は65℃に一定に維持し、大気圧条件下で性能を評価した。このとき、作動面積は25cm2、作動圧力は1atmであった。
【0113】
(B―2)長期耐久性評価結果
【0114】
図12は、本発明に係る実施例及び比較例に対する燃料電池シミュレーション環境の長期耐久性評価を行った結果を示したグラフである。
【0115】
ここで、実施例2(コーティング密度50μg/cm2)では、150℃の酸素雰囲気で30分間熱処理した分離板を使用し、比較例2(コーティング密度3μg/cm2)では、150℃の酸素雰囲気で30分間熱処理した分離板を使用した。そして、比較例3に対する燃料電池シミュレーション環境の長期耐久性評価を行った結果を比較して下記の図12に示した。
【0116】
併せて、前記実施例4〜実施例8に対する長期耐久性評価を行い、その結果を下記の表1に示した。
【0117】
【表1】

【0118】
まず、図12を参照すると、比較例2の場合、電流密度1A/cm2を印加したときの発生電圧が0.59V程度であって、実施例2の0.69Vに比べて非常に低く、2,000時間が経過した後にも類似する発生電圧差を示す。これは、比較例2の伝導性が実施例2の伝導性より低いことから示される結果である。すなわち、比較例2の場合、接触抵抗が著しく高いので、初期から著しく低い燃料電池性能を示している。
【0119】
そして、比較例3の場合、初期には実施例2に準じる発生電圧を示すが、時間の経過とともに発生電圧の低下が著しく生じる。このような結果は、伝導性が類似する一方、耐食性が低いことから示される結果である。
【0120】
次に、前記表1に示した結果から分かるように、本発明に係る全ての実施例は、類似する耐久性を有している。これは、図12にも同一に示しており、各比較例と対比すると、著しく優れた燃料電池性能を示すことが分かる。
【0121】
したがって、本発明に係る燃料電池用金属分離板の製造方法は、価格が低廉な通常のステンレス鋼板母材を使用する場合にも、優れた耐久性を得られる表面処理が可能であり、金属分離板の製造単価を下げるとともに高効率の燃料電池を製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板母材を用意すること;
前記ステンレス鋼板母材の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つで不連続的なコーティング膜を形成すること;及び
前記不連続的なコーティング膜が形成されたステンレス鋼板を熱処理し、前記コーティング膜が形成されていない部分に酸化膜を形成すること;を含むことを特徴とする燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項2】
前記不連続的なコーティング膜は5〜500μg/cm2のコーティング密度を有することを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は80〜300℃の温度範囲で行われることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項4】
前記不連続的なコーティング膜はナノパーティクルからなることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項5】
前記ステンレス鋼板母材は、炭素(C)0.08wt%以下、クロム(Cr)16〜28wt%、ニッケル(Ni)0.1〜20wt%、モリブデン(Mo)0.1〜6wt%、タングステン(W)0.1〜5wt%、スズ(Sn)0.1〜2wt%、銅(Cu)0.1〜2wt%及びその他残量として鉄(Fe)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理は10分〜3時間の範囲で行われることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は、真空状態、大気中及び酸素雰囲気のうちいずれか一つの条件で行われることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用金属分離板の製造方法。
【請求項8】
ステンレス鋼板母材;
前記ステンレス鋼板母材の表面に金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、酸化ルテニウム(RuO2)及び酸化イリジウム(IrO2)のうち少なくとも一つの材質で形成される不連続的なコーティング膜;及び
前記コーティング膜が形成されていない部分に形成される酸化膜;を含むことを特徴とする燃料電池用金属分離板。
【請求項9】
前記不連続的なコーティング膜は5〜500μg/cm2のコーティング密度を有することを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項10】
前記不連続的なコーティング膜はナノパーティクルからなることを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池用金属分離板。
【請求項11】
前記ステンレス鋼板母材は、炭素(C)0.08wt%以下、クロム(Cr)16〜28wt%、ニッケル(Ni)0.1〜20wt%、モリブデン(Mo)0.1〜6wt%、タングステン(W)0.1〜5wt%、スズ(Sn)0.1〜2wt%、銅(Cu)0.1〜2wt%及びその他残量として鉄(Fe)を含むことを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池用金属分離板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−501340(P2013−501340A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523573(P2012−523573)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005525
【国際公開番号】WO2011/021881
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(509107932)ヒュンダイ ハイスコ (20)
【Fターム(参考)】