表面コートフッ化金属電極活物質
【課題】 フッ化金属の特長を活かした新規な非電解質二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】 炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成る非水電解質二次電池用正極活物質。好適な例として、フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてリチウムまたはナトリウムとともに用いられる二次電池用正極活物質がある。該正極活物質は、原料のフッ化金属と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合することによって製造される。
【解決手段】 炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成る非水電解質二次電池用正極活物質。好適な例として、フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてリチウムまたはナトリウムとともに用いられる二次電池用正極活物質がある。該正極活物質は、原料のフッ化金属と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合することによって製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な非水電解質二次電池の技術分野に属し、特に、非水電解質二次電池のエネルギー密度などの特性を著しく向上させる正極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代リチウム電池用正極活物質として各種の正極材料が報告され、その中でもLiFePO4が電気自動車電池用正極として最有力視されているが、その理論エネルギー密度は170mAh/gで頭打ち状態であった。
【0003】
本発明者らは、先に非電解質二次電池の正極活物質としてフッ化金属を用いることを案出した〔特開平9−22698号公報(特許文献1);特開平9−55201号公報(特許文献2)〕。このフッ化金属は、LiFePO4のようなオリビン系正極よりも理論エネルギー密度(可逆容量)が高く、例えば、FeF3/Li電池は約240mAh/gもの理論エネルギー密度を有するとされている〔H. Arai, et al., J.Power Sources, 68, 716 (1997)(非特許文献1)〕。しかしながら、フッ化物はイオン性化合物なので、電解液に含まれる極性溶媒に溶解し易いと考えられ実用に供されるには到らなかった。
【特許文献1】特開平9−22698号公報
【特許文献2】特開平9−55201号公報
【非特許文献2】H. Arai, et al., J.Power Sources,68, 716 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フッ化金属の特長を活かした新規な非電解質二次電池用正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、フッ化金属を炭素質材料と充分に混練して正極活物質とすることにより、フッ化金属の本質的に有する理論エネルギー密度の維持された二次電池が得られることを見出し本発明を導き出した。
【0006】
かくして、本発明は、炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質を構成する炭素コートされたフッ化金属MF3において、Mで示される金属元素としては、3価の金属であればいずれも適用可能である。適用される金属の例として、Fe(鉄)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)等が挙げられ、それぞれ、コートされたFeF3、VF3、TiF3、CoF3、MnF3が正極活物質に用いられる。
【0008】
非水電解質二次電池において如上の正極活物質とともに用いられる負極活物質としては、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物が用いられるが、一般的には、リチウム(Li)またはナトリウム(Na)である。本発明の炭素コートされたフッ化金属MF3を正極活物質とする系は、Liに対して容量の大きい可逆な充放電特性を示すのみならず、Naに対しても同様に可逆な充放電特性を示す。
【0009】
例えば、Li電池において炭素コートされたFeF3を正極活物質として用いると200mAh/g以上の可逆容量(エネルギー密度)が実現されており、また、Liだけでなく安価なNa電池用正極としてもエネルギー密度の大きい可逆充放電反応が得られる(後述の実施例参照)。
【0010】
本発明が適用される特に好ましい例は、フッ化金属MF3としてVF3を用いる場合であり、炭素コートされたVF3を正極活物質とするリチウム電池では、充電特性と放電特性の差が殆どなく、きわめて効率的で且つ200mAh/gを超える高エネルギー密度の二次電池が実現される(後述の実施例参照)。
【0011】
その他、例えば、炭素コートされたTiF3、CoF3、MnF3などを正極活物質として用いることにより可逆な充放電特性を示しエネルギー密度の良好なLi電池またはNa電池が得られる。
【0012】
本発明に従う炭素コートされたフッ化金属MF3は、原料となるフッ化金属試薬(添川理化学株式会社製)と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合することにより製造される。
【0013】
機械的混合手段として好ましく、一般的に用いられるのは、ボールミル、特に遊星型ボールミル(planetary ball milling)である。遊星型ボールミルは、自転・公転運動による粉砕エネルギーにより原料フッ化金属MF3と炭素質材料とを充分に粉砕・混合することができる点から特に好ましい。
混合時間は、4時間以上であり、一般的には20〜30時間であるが、正極活物質と負極活物質の組合せによっては、短い混合時間(例えば、4時間)が好適な場合もある。混合は、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下に乾式で行う。
【0014】
上記の工程において、フッ化金属MF3とともに混合される炭素質材料としては、導電性のある炭素系物質であればいずれも適用可能であり、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭などを用いることができる。フッ化金属MF3:炭素質材料の比は、一般に、重量基準で50:50から90:10であり、例えば、70:25である。
【0015】
以上のような操作に従い、フッ化金属MF3と炭素質材料とを充分に混和することにより、該フッ化金属の表面を炭素が均一にコートしていることは、SEM(走査型電子顕微鏡)やEDS(エネルギー分散型X線分光)を用いる観察により確認されている。
【0016】
かくして、本発明は、フッ化金属MF3をベースとし、その微粒子の表面に炭素をコートすることによる導電性付与と電解質液への溶出抑制の双方の効果によってきわめて可逆容量(エネルギー密度)の高い非電解質二次電池を実現したものである。
以下、本発明の特徴を更に具体的に示すために炭素コートされた各種のフッ化金属MF3を正極活物質とするリチウム電池(Liセル)およびナトリウム電池(Naセル)について行った充放電測定の実施例を記す。
【0017】
<炭素コートされたフッ化金属の調製>
遊星型ボールミル(伊藤製作所製、LA−PO4)を用い、200rpm、Ar雰囲気下に、所定時間、フッ化金属とアセチレンブラックを結着剤として少量のフッ素ポリマー(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)とともに混合した。
【0018】
<電池の構造・組成>
電池の1例として用いたのは図1に示すコイン型電池(宝泉製、R2032)である。図1において、1は正極、2は負極、3は正極容器、4は負極蓋、5はセパレーターと電解液を表す。
正極は、直径1.0cmであり、上記のように調製した活物質(フッ化金属):アセチレンブラック:PTFE=70:25:5から成る。アセチレンブラックは電気化学工業製、また、PTFEはダイキン製のものを用いた。
負極は、直径1.5cmであり、Liセルの場合はLiメタル(本城金属製)、Naセルの場合はNaメタル(Aldrich製)を用いた。
電解液は、Liセルの場合は、1M LiPF6/EC:DMC(1:1vol%)(富山薬品工業製)であり、また、Naセルの場合は、1M NaClO4/PC(富山薬品工業製)である。セパレーターはポリプロピレン微多孔体(セルガード社製)である。
【0019】
<充放電測定>
測定に用いた装置は、NAGANO BTS−2004(株式会社ナガノ製)である。測定温度は25℃であり、電圧範囲は2.0〜4.5V(Liセル)、1.5〜4.0V(Naセル)とし、電流密度は、原則として0.2mA/cm2とした。
【実施例1】
【0020】
炭素コートされたFeF3
図2に、既述のように調製された炭素コートFeF3を正極とするLiセルおよびNaセルを例に、ボールミル混合時間による放電容量の比較を示している。参考のために手動による混合(manual mix)の場合も示す。図に示されるように、4時間以上、特に10時間以上程度の混合により良好な放電容量が得られることが理解される。
【0021】
図3は、上記のFeF3について24時間混合した場合の試料のSEM写真とEDS写真を示す。F(フッ素)のEDS画像(ロ)とC(炭素)のEDS画像(ハ)の画像がSEMの画像(イ)とよく対応しており、正極となるFeF3の表面を炭素が均一にコートしていることを示している。
【0022】
図4は、炭素コートされたFeF3を正極活物質とするLiセル(リチウム電池)の充放電プロフィルを示す。炭素コートすることにより200mAh/g以上の可逆容量が得られることが理解される。
【0023】
図5は、炭素コートされたFeF3を正極活物質とするNaセル(ナトリウム電池)の充放電プロフィルを示す。Liだけでなく、より安価なNaを負極とする場合においても高い可逆容量が得られることが理解される。図6は、この炭素コートFeF3/Na電池のレート特性を示すものであり、高い可逆容量を保持しながら安定な電圧を呈する領域が認められる。図7は、同じく炭素コートFeF3/Na電池の放電深度依存性を示すものであり、充放電サイクルを経るに従い充放電効率が高くなることが理解される。
【実施例2】
【0024】
炭素コートされたVF3
図8は、既述のように調製された炭素コートVF3を正極とするLiセルおよびNaセルについて、ボールミル混合時間による放電容量の比較を示している。Naセルの場合、4時間のボールミル混合時間で極めて良好な結果が得られている。
図9は、炭素コートされたVF3を正極活物質とするLiセルの充放電プロフィルを示すものである。図に示されるように、200mAh/gを以上の可逆容量が得られ、しかも、充電時と放電時のセル電圧の差がきわめて少なく、きわめて効率的な電池であることが理解される。
【0025】
図10は、同じく炭素コートVF3(ボールミル混合時間は4時間)を正極とするNaセルの充放電プロフィルを示す。図8に関連して既述したように、4時間のボールミル混合時間で得られた炭素コートVF3を正極活物質として用いることにより、160mAh/gの初期容量、140mAh/gの可逆容量と極めて良好なナトリウム電池が得られる。
【実施例3】
【0026】
炭素コートされたTiF3
図11は、既述のように調製された炭素コートTiF3(ボールミル混合時間:24時間)を正極とするLiセル(A)およびNaセル(B)の充放電プロフィルを示す。ある程度高い可逆充放電容量が得られており、相応する電解液を用いることにより、さらに高い可逆容量も実現可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、安価なNa電池を含む非水電解質二次電池について高い可逆充放電容量(エネルギー密度)を可能にしたものであり、本発明の正極活物質は、産業の種々の分野における電池、例えば、経済性、安全性および容量の並立が必要な大型ロードレベリング用電源や電気自動車用電池の正極材料への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の正極活物質が用いられる電池を例示する。
【図2】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルにおけるボールミル混合時間による放電容量の比較を例示する。
【図3】本発明の正極活物質として用いられる試料のSEM写真とEDS写真を例示する。
【図4】本発明の正極活物質を用いたLiセルの充放電プロフィルを例示する。
【図5】本発明の正極活物質を用いたNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【図6】本発明の正極活物質を用いたNaセルのレート特性を例示する。
【図7】本発明の正極活物質を用いたNaセルの放電深度依存性を例示する。
【図8】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルにおけるボールミル混合時間による放電容量の比較を例示する。
【図9】本発明の正極活物質を用いたLiセルの充放電プロフィルを例示する。
【図10】本発明の正極活物質を用いたNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【図11】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な非水電解質二次電池の技術分野に属し、特に、非水電解質二次電池のエネルギー密度などの特性を著しく向上させる正極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代リチウム電池用正極活物質として各種の正極材料が報告され、その中でもLiFePO4が電気自動車電池用正極として最有力視されているが、その理論エネルギー密度は170mAh/gで頭打ち状態であった。
【0003】
本発明者らは、先に非電解質二次電池の正極活物質としてフッ化金属を用いることを案出した〔特開平9−22698号公報(特許文献1);特開平9−55201号公報(特許文献2)〕。このフッ化金属は、LiFePO4のようなオリビン系正極よりも理論エネルギー密度(可逆容量)が高く、例えば、FeF3/Li電池は約240mAh/gもの理論エネルギー密度を有するとされている〔H. Arai, et al., J.Power Sources, 68, 716 (1997)(非特許文献1)〕。しかしながら、フッ化物はイオン性化合物なので、電解液に含まれる極性溶媒に溶解し易いと考えられ実用に供されるには到らなかった。
【特許文献1】特開平9−22698号公報
【特許文献2】特開平9−55201号公報
【非特許文献2】H. Arai, et al., J.Power Sources,68, 716 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フッ化金属の特長を活かした新規な非電解質二次電池用正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、フッ化金属を炭素質材料と充分に混練して正極活物質とすることにより、フッ化金属の本質的に有する理論エネルギー密度の維持された二次電池が得られることを見出し本発明を導き出した。
【0006】
かくして、本発明は、炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質を構成する炭素コートされたフッ化金属MF3において、Mで示される金属元素としては、3価の金属であればいずれも適用可能である。適用される金属の例として、Fe(鉄)、V(バナジウム)、Ti(チタン)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)等が挙げられ、それぞれ、コートされたFeF3、VF3、TiF3、CoF3、MnF3が正極活物質に用いられる。
【0008】
非水電解質二次電池において如上の正極活物質とともに用いられる負極活物質としては、アルカリ金属またはアルカリ金属化合物が用いられるが、一般的には、リチウム(Li)またはナトリウム(Na)である。本発明の炭素コートされたフッ化金属MF3を正極活物質とする系は、Liに対して容量の大きい可逆な充放電特性を示すのみならず、Naに対しても同様に可逆な充放電特性を示す。
【0009】
例えば、Li電池において炭素コートされたFeF3を正極活物質として用いると200mAh/g以上の可逆容量(エネルギー密度)が実現されており、また、Liだけでなく安価なNa電池用正極としてもエネルギー密度の大きい可逆充放電反応が得られる(後述の実施例参照)。
【0010】
本発明が適用される特に好ましい例は、フッ化金属MF3としてVF3を用いる場合であり、炭素コートされたVF3を正極活物質とするリチウム電池では、充電特性と放電特性の差が殆どなく、きわめて効率的で且つ200mAh/gを超える高エネルギー密度の二次電池が実現される(後述の実施例参照)。
【0011】
その他、例えば、炭素コートされたTiF3、CoF3、MnF3などを正極活物質として用いることにより可逆な充放電特性を示しエネルギー密度の良好なLi電池またはNa電池が得られる。
【0012】
本発明に従う炭素コートされたフッ化金属MF3は、原料となるフッ化金属試薬(添川理化学株式会社製)と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合することにより製造される。
【0013】
機械的混合手段として好ましく、一般的に用いられるのは、ボールミル、特に遊星型ボールミル(planetary ball milling)である。遊星型ボールミルは、自転・公転運動による粉砕エネルギーにより原料フッ化金属MF3と炭素質材料とを充分に粉砕・混合することができる点から特に好ましい。
混合時間は、4時間以上であり、一般的には20〜30時間であるが、正極活物質と負極活物質の組合せによっては、短い混合時間(例えば、4時間)が好適な場合もある。混合は、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下に乾式で行う。
【0014】
上記の工程において、フッ化金属MF3とともに混合される炭素質材料としては、導電性のある炭素系物質であればいずれも適用可能であり、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭などを用いることができる。フッ化金属MF3:炭素質材料の比は、一般に、重量基準で50:50から90:10であり、例えば、70:25である。
【0015】
以上のような操作に従い、フッ化金属MF3と炭素質材料とを充分に混和することにより、該フッ化金属の表面を炭素が均一にコートしていることは、SEM(走査型電子顕微鏡)やEDS(エネルギー分散型X線分光)を用いる観察により確認されている。
【0016】
かくして、本発明は、フッ化金属MF3をベースとし、その微粒子の表面に炭素をコートすることによる導電性付与と電解質液への溶出抑制の双方の効果によってきわめて可逆容量(エネルギー密度)の高い非電解質二次電池を実現したものである。
以下、本発明の特徴を更に具体的に示すために炭素コートされた各種のフッ化金属MF3を正極活物質とするリチウム電池(Liセル)およびナトリウム電池(Naセル)について行った充放電測定の実施例を記す。
【0017】
<炭素コートされたフッ化金属の調製>
遊星型ボールミル(伊藤製作所製、LA−PO4)を用い、200rpm、Ar雰囲気下に、所定時間、フッ化金属とアセチレンブラックを結着剤として少量のフッ素ポリマー(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)とともに混合した。
【0018】
<電池の構造・組成>
電池の1例として用いたのは図1に示すコイン型電池(宝泉製、R2032)である。図1において、1は正極、2は負極、3は正極容器、4は負極蓋、5はセパレーターと電解液を表す。
正極は、直径1.0cmであり、上記のように調製した活物質(フッ化金属):アセチレンブラック:PTFE=70:25:5から成る。アセチレンブラックは電気化学工業製、また、PTFEはダイキン製のものを用いた。
負極は、直径1.5cmであり、Liセルの場合はLiメタル(本城金属製)、Naセルの場合はNaメタル(Aldrich製)を用いた。
電解液は、Liセルの場合は、1M LiPF6/EC:DMC(1:1vol%)(富山薬品工業製)であり、また、Naセルの場合は、1M NaClO4/PC(富山薬品工業製)である。セパレーターはポリプロピレン微多孔体(セルガード社製)である。
【0019】
<充放電測定>
測定に用いた装置は、NAGANO BTS−2004(株式会社ナガノ製)である。測定温度は25℃であり、電圧範囲は2.0〜4.5V(Liセル)、1.5〜4.0V(Naセル)とし、電流密度は、原則として0.2mA/cm2とした。
【実施例1】
【0020】
炭素コートされたFeF3
図2に、既述のように調製された炭素コートFeF3を正極とするLiセルおよびNaセルを例に、ボールミル混合時間による放電容量の比較を示している。参考のために手動による混合(manual mix)の場合も示す。図に示されるように、4時間以上、特に10時間以上程度の混合により良好な放電容量が得られることが理解される。
【0021】
図3は、上記のFeF3について24時間混合した場合の試料のSEM写真とEDS写真を示す。F(フッ素)のEDS画像(ロ)とC(炭素)のEDS画像(ハ)の画像がSEMの画像(イ)とよく対応しており、正極となるFeF3の表面を炭素が均一にコートしていることを示している。
【0022】
図4は、炭素コートされたFeF3を正極活物質とするLiセル(リチウム電池)の充放電プロフィルを示す。炭素コートすることにより200mAh/g以上の可逆容量が得られることが理解される。
【0023】
図5は、炭素コートされたFeF3を正極活物質とするNaセル(ナトリウム電池)の充放電プロフィルを示す。Liだけでなく、より安価なNaを負極とする場合においても高い可逆容量が得られることが理解される。図6は、この炭素コートFeF3/Na電池のレート特性を示すものであり、高い可逆容量を保持しながら安定な電圧を呈する領域が認められる。図7は、同じく炭素コートFeF3/Na電池の放電深度依存性を示すものであり、充放電サイクルを経るに従い充放電効率が高くなることが理解される。
【実施例2】
【0024】
炭素コートされたVF3
図8は、既述のように調製された炭素コートVF3を正極とするLiセルおよびNaセルについて、ボールミル混合時間による放電容量の比較を示している。Naセルの場合、4時間のボールミル混合時間で極めて良好な結果が得られている。
図9は、炭素コートされたVF3を正極活物質とするLiセルの充放電プロフィルを示すものである。図に示されるように、200mAh/gを以上の可逆容量が得られ、しかも、充電時と放電時のセル電圧の差がきわめて少なく、きわめて効率的な電池であることが理解される。
【0025】
図10は、同じく炭素コートVF3(ボールミル混合時間は4時間)を正極とするNaセルの充放電プロフィルを示す。図8に関連して既述したように、4時間のボールミル混合時間で得られた炭素コートVF3を正極活物質として用いることにより、160mAh/gの初期容量、140mAh/gの可逆容量と極めて良好なナトリウム電池が得られる。
【実施例3】
【0026】
炭素コートされたTiF3
図11は、既述のように調製された炭素コートTiF3(ボールミル混合時間:24時間)を正極とするLiセル(A)およびNaセル(B)の充放電プロフィルを示す。ある程度高い可逆充放電容量が得られており、相応する電解液を用いることにより、さらに高い可逆容量も実現可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、安価なNa電池を含む非水電解質二次電池について高い可逆充放電容量(エネルギー密度)を可能にしたものであり、本発明の正極活物質は、産業の種々の分野における電池、例えば、経済性、安全性および容量の並立が必要な大型ロードレベリング用電源や電気自動車用電池の正極材料への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の正極活物質が用いられる電池を例示する。
【図2】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルにおけるボールミル混合時間による放電容量の比較を例示する。
【図3】本発明の正極活物質として用いられる試料のSEM写真とEDS写真を例示する。
【図4】本発明の正極活物質を用いたLiセルの充放電プロフィルを例示する。
【図5】本発明の正極活物質を用いたNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【図6】本発明の正極活物質を用いたNaセルのレート特性を例示する。
【図7】本発明の正極活物質を用いたNaセルの放電深度依存性を例示する。
【図8】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルにおけるボールミル混合時間による放電容量の比較を例示する。
【図9】本発明の正極活物質を用いたLiセルの充放電プロフィルを例示する。
【図10】本発明の正極活物質を用いたNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【図11】本発明の正極活物質を用いたLiセルおよびNaセルの充放電プロフィルを例示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
フッ化金属MF3がFeF3であり、負極活物質としてリチウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
フッ化金属MF3がFeF3であり、負極活物質としてナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてリチウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
フッ化金属MF3が、TiF3、CoF3またはMnF3であり、負極活物質としてリチウムまたはナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項1に記載の炭素でコートされたフッ化金属MF3を製造する方法であって、原料のフッ化金属と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
炭素でコートされた一般式MF3で表されるフッ化金属(Mは金属元素を示す)から成ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
フッ化金属MF3がFeF3であり、負極活物質としてリチウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
フッ化金属MF3がFeF3であり、負極活物質としてナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてリチウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
フッ化金属MF3がVF3であり、負極活物質としてナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
フッ化金属MF3が、TiF3、CoF3またはMnF3であり、負極活物質としてリチウムまたはナトリウムとともに用いられることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電極活物質を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項1に記載の炭素でコートされたフッ化金属MF3を製造する方法であって、原料のフッ化金属と炭素質材料とを不活性ガスの雰囲気下に機械的混合手段により4時間以上、乾式で混合する工程を含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【公開番号】特開2008−130265(P2008−130265A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311126(P2006−311126)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]