説明

表面保護用シート

【課題】エネルギー線硬化型粘着剤の密着性が高く、用いるコートされた芯材フィルムのブロッキングが発生しにくい表面保護用シートを提供する。
【解決手段】基材1の片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径のエネルギー線硬化型粘着剤層が形成されていない開口部と、該開口部を囲繞する少なくともエネルギー線硬化型粘着剤層21、アンカーコート層22および芯材フィルム23からなる貼着部2とを有し、アンカーコート層を形成する組成物が、共重合ポリエステルウレタン樹脂を含み、該樹脂が、特定のポリエステルジオール(a)、特定のポリアルキレンエーテルグリコール(b)及び多価イソシアナート化合物(c)の重縮合反応により得られる構造からなり、かつ、(a)成分100質量部に対し、(b)成分40〜80質量部、(c)成分20〜50質量部を含有し、数平均分子量が10,000〜100,000である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線硬化型粘着剤層の密着性に優れる表面保護用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護用テープとして、特許文献1には、本願明細書の図4に示すように、半導体ウエハ40の裏面研削を行う際に用いる表面保護用シート100であって、基材フィルム70の片面に、貼付するウエハ40の外径よりも小径の粘着剤層が形成されていない開口部と、その外周に形成された粘着剤層35の積層体30(図4においては3層)とが設けられている表面保護用シート100が開示されている。この表面保護用シート100は、リング状に打ち抜かれた粘着剤層35の積層体30が、基材フィルム70の片面に形成されてなる構造であり、バンプ50に当接する部分に粘着剤が設けられていない。そのため、バンプ50の根本部分に粘着剤が付着することがなく、それによるデバイスの信頼性不足は起こりえない。また、通常はウエハ40の端部を粘着剤層35の積層体30により密着固定できるので、回路面への洗浄水の侵入が防止され、ウエハの汚染を低減できる。
【0003】
特許文献1のような表面保護用シートでは、寸法安定性の点から、図4に示すように、開口部の外周に形成された粘着剤層と基材フィルムとの間にポリエチレンテレフタレートフィルムなどの芯材フィルムを設けることが好ましいことが、特許文献1の0026段落に開示されているが、芯材フィルムを設けずに、粘着剤単層の両面粘着シートを設けることもできる。近年では、半導体チップのバンプの高さは10μm程度〜数100μmと広範囲に渡っているが、ポリエチレンテレフタレートフィルムのようなポリエステルフィルムは厚み精度が高く、バンプの高さに合わせて種々厚さを変更することで、幅広いウエハに合わせた設計が可能である。そこで、このような開口部を有し、エネルギー線硬化型粘着剤層と基材フィルムの間にポリエステルフィルムのような芯材フィルムの設けられた表面保護用シートの有用性が認識されつつある。
【0004】
特許文献1に記載の表面保護用シートにおいて、粘着剤層を構成する粘着剤としてエネルギー線硬化型粘着剤を用いた場合、エネルギー線を照射して粘着剤層を硬化すると、たとえば芯材フィルムが上記のようにポリエステルフィルムのような粘着剤との密着性に劣る材料であった場合に、芯材フィルムと粘着剤層との密着性が低下することがあった。そのため、表面保護用シートをウエハから剥離する際に、ウエハに粘着剤が残留することがあった。ウエハ表面に残留した粘着剤は、デバイスの信頼性を低下させるおそれがある。
【0005】
また、従来より、芯材フィルムとエネルギー線硬化型粘着剤層との密着性を改善するために、芯材フィルムにおけるエネルギー線硬化型粘着剤層形成面にアンカーコート層を形成することで、密着性を向上できることが知られている。例えば、特許文献2には、ビニル芳香族化合物ブロック(A)と、部分的にエポキシ化された共役ジエン化合物ブロック(B)とからなるエポキシ変性ブロック重合体で構成されたアンカーコート層を有するアンカーコート層付きポリエステルフィルムが開示されている。しかし、アンカーコート層の存在により、アンカーコート層付きポリエステルフィルムを巻き取って保管した場合に、ポリエステルフィルムにおけるアンカーコート層形成面の反対面と、アンカーコート層とが付着し、ブロッキングが発生することがあった。前記文献のような芳香族−共役ジエンブロック共重合体を用いた組成物はゴム系粘着剤としても利用されるもので、タックをなくすことは困難であり、このようなアンカーコート層付きポリエステルフィルムを用いてブロッキングを抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−311514号公報
【特許文献2】特開2005−231119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、エネルギー線硬化型粘着剤の密着性を確保しつつ、用いるコートされた芯材フィルムのブロッキングを防止できる表面保護用シートが望まれていた。本発明は、エネルギー線硬化型粘着剤の密着性が高く、また、用いるコートされた芯材フィルムのブロッキングが発生しにくい表面保護用シートの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
〔1〕半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径のエネルギー線硬化型粘着剤層が形成されていない開口部と、該開口部を囲繞する少なくともエネルギー線硬化型粘着剤層、アンカーコート層、および芯材フィルムからなる貼着部とを有し、
アンカーコート層を形成するアンカーコート剤組成物が、共重合ポリエステルウレタン樹脂を含み、
共重合ポリエステルウレタン樹脂が、
全酸成分を100モル%としたとき芳香族ジカルボン酸成分を80モル%以上含有する酸成分と、全グリコール成分を100モル%としたとき脂肪族グリコール成分を40モル%以上含有するグリコール成分とからなる、数平均分子量が1500〜3000であるポリエステルジオール(a)、
数平均分子量が1000〜3000であるポリアルキレンエーテルグリコール(b)、及び
多価イソシアナート化合物(c)、
の重縮合反応により得られる構造からなり、かつ
前記(a)成分100質量部に対し、前記(b)成分40〜80質量部、前記(c)成分20〜50質量部を含有し、数平均分子量が10,000〜100,000である、表面保護用シート。
【0009】
〔2〕前記共重合ポリエステルウレタン樹脂100質量部に対して、非晶質ポリエステル樹脂を100質量部以下の割合で含む、〔1〕に記載の表面保護用シート。
【0010】
〔3〕さらに、前記共重合ポリエステルウレタン樹脂と前記非晶質ポリエステル樹脂の合計量100質量部に対して、架橋剤を0.1〜30質量部の割合で含む、〔2〕に記載の表面保護用シート。
【0011】
〔4〕アンカーコート層の表層から、該アンカーコート層厚の1/2の深さ(深さ(X))におけるナノインデンテーション試験により測定される硬度Aが、上記と同様にして測定される芯材フィルムの表層から深さ(X)における硬度Bよりも低く、かつ硬度Aと硬度Bとの差が0.35GPa以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の表面保護用シート。
【0012】
〔5〕アンカーコート層の厚さが0.1〜7μmである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の表面保護用シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面保護用シートは、厚み精度の高い芯材フィルムの表面に特定のアンカーコート層を設け、該アンカーコート層上にエネルギー線硬化型粘着剤からなる粘着剤層を形成している。そのため、エネルギー線硬化型粘着剤とアンカーコート層との親和性が高く、その結果、表面保護用シートにおけるエネルギー線硬化型粘着剤の密着性を改善させることができる。また、該アンカーコート層の形成された芯材フィルムは、巻き取って保管した場合であってもブロッキングが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る表面保護用シートの斜視図を示す。
【図2】図1のII−II線断面図を示す。
【図3】本発明に係る表面保護用シートをウエハのバンプ面に貼付しウエハ裏面研削を行う状態を示す。
【図4】従来の表面保護用シートの使用態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、図面を参照しながらさらに具体的に説明する。本発明に係る表面保護用シート10は、半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いられる。表面保護用シート10の斜視図を図1に示し、図1のII−II線断面図を図2に示す。
【0016】
表面保護用シート10は、図1および図2に示したように、基材シート1の片面に、貼付する半導体ウエハ4の外径よりも小径のエネルギー線硬化型粘着剤層が形成されていない開口部3と、該開口部を囲繞する少なくともエネルギー線硬化型粘着剤層21、アンカーコート層22、および芯材フィルム23からなる貼着部2とを有する。また、アンカーコート層22を形成するアンカーコート剤組成物は、共重合ポリエステルウレタン樹脂を含む。なお、貼着部と基材シート1を接着するための接着手段24を設けてもよい。
【0017】
まず、貼着部2について説明する。
[貼着部2]
本発明の表面保護用シート10の貼着部2は、図2に示すように、エネルギー線硬化型粘着剤層21、アンカーコート層22、および芯材フィルム23からなり、接着手段24を設けることが好ましい。エネルギー線硬化型粘着剤層21は貼着部2の最上部に位置し、半導体ウエハ4との接着に用いられ、貼着部2は、エネルギー線硬化型粘着剤層21、アンカーコート層22、芯材フィルム23、任意に設けられる接着手段24の順に積層されている。
【0018】
(アンカーコート層22)
アンカーコート層22は、共重合ポリエステルウレタン樹脂を含むアンカーコート剤組成物より形成される。まず、本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂について説明し、次いでアンカーコート剤組成物、次いでアンカーコート剤組成物より形成されるアンカーコート層22について説明する。
【0019】
[共重合ポリエステルウレタン樹脂]
本発明の表面保護シートのアンカーコート層を形成するアンカーコート剤組成物に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂は、以下に示すポリエステルジオール(a)、ポリアルキレンエーテルグリコール(b)、及び多価イソシアナート化合物(c)の重縮合反応により得られる構造を有する。
【0020】
(ポリエステルジオール(a))
本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂におけるポリエステルジオール(a)は、全酸成分を100モル%としたとき芳香族ジカルボン酸成分(芳香族二塩基酸成分)を80モル%以上含有する酸成分と、全グリコール成分を100モル%としたとき脂肪族グリコール成分を40モル%以上含有するグリコール成分とからなり、数平均分子量が1500〜3000である。
【0021】
上記ポリエステルジオール(a)は、全酸成分の80モル%以上が芳香族二塩基酸成分であることで、ウレタン結合により共重合される後述のポリアルキレンエーテルグリコール(b)との相溶性が適度に低くなり、(a)、(b)両成分に由来するセグメントがおのおの凝集してミクロ相分離構造を形成することで本発明の効果が発揮される。すなわち、芯材フィルム上に、本発明におけるアンカーコート剤組成物を用いてアンカーコート層を形成することで、アンカーコート層中において共重合ポリエステルウレタン樹脂中の(a)、(b)両成分に由来するセグメントが適度に非相溶状態で存在するため、芯材フィルムの背面とアンカーコート層を重ね合わせた際の耐ブロッキング性、及び芯材フィルムとエネルギー線硬化型粘着剤との密着性が同時に効果的に改善される。この理由は次のとおりと推察される。まず、(b)成分の凝集構造が室温で柔軟性を有し、いわばクッション性を示してエネルギー線硬化型粘着剤の収縮時の応力を吸収するとともに、エネルギー線硬化型粘着剤との親和性の作用により、密着性が向上する。また、(a)成分の凝集構造が全体としてアンカーコート層の粘弾性を弾性的なものとするので、芯材フィルム背面への癒着が起こりにくくなり、ブロッキングが抑制される。
【0022】
上記(a)成分における全酸成分中の芳香族二塩基酸成分の共重合比率は80モル%以上である。80モル%未満では(b)成分に由来するセグメントとの相溶性が高くなり、(a)、(b)両成分に由来するセグメントがミクロ相分離構造を形成せず、このため得られる共重合ポリエステルウレタン樹脂中の(b)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果であるエネルギー線硬化型粘着剤との親和性が発現せず、エネルギー線硬化型粘着剤の密着性が損なわれてしまう傾向にあり、さらに(a)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果である耐ブロッキング性も損なわれてしまう傾向にある。
【0023】
上記(a)成分における全グリコール成分を100モル%としたとき脂肪族グリコール成分を40モル%以上含有していることで、(a)成分の汎用溶剤への溶解性が向上し、本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂を汎用有機溶剤中で重合し易くなる。
【0024】
さらに、(a)成分の数平均分子量は1500〜3000である。数平均分子量が1500未満では(b)成分に由来するセグメントとの相溶性が高くなり、(a)、(b)両成分に由来するセグメントのミクロ相分離が生じず、このため得られる共重合ポリエステルウレタン樹脂中の(b)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果であるエネルギー線硬化型粘着剤との親和性が発現せず、エネルギー線硬化型粘着剤との密着性が損なわれてしまう傾向にあり、さらに(a)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果である耐ブロッキング性も損なわれてしまう傾向にある。一方、数平均分子量が3000を超えると(b)成分に由来するセグメントとの非相溶性が高まり過ぎ、(a)成分のカルボキシル基と(b)成分の水酸基の反応の進行速度が過度に低下し、重合が困難になる傾向にある。なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0025】
上記(a)成分を構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族二塩基酸及びこれらのエステル誘導体を挙げることができるが、(b)成分との非相溶性を発現させるためにはテレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウムがより好ましい。また、これら芳香族ジカルボン酸成分と組み合わせ、全酸成分中の20モル%未満で使用される芳香族ジカルボン酸成分以外の二塩基酸成分(その他のジカルボン酸成分)としてはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族二塩基酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式二塩基酸を挙げることができる。また、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、クエン酸、イソクエン酸等の3つ以上のカルボキシル基を有するものや、分子内に水酸基を有するものも適宜に用いることができる。
【0026】
上記(a)成分において芳香族ジカルボン酸成分と組み合わせて使用されるグリコール成分に含まれる脂肪族グリコール成分としては、下記一般式(1)及び/又は一般式(2)で表される脂肪族グリコール成分を含むことが好ましい。具体的には、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。これらの内、汎用溶剤に対する溶解性をより効果的に高めるという観点からネオペンチルグリコールが好ましい。またこれら脂肪族グリコールと共に共重合される、その他のグリコール成分としてはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の直鎖脂肪族グリコール成分が好適に用いられる。これらの内、エチレングリコールを用いると重合反応がより進みやすく好ましい。
【0027】
一般式(1):
【化1】

(但し、R1は炭素数1又は2のアルキル基である。)
【0028】
一般式(2):
【化2】

(但し、R2は炭素数1又は2のアルキル基、R3は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0029】
また、これら脂肪族グリコール成分と組み合わせ、全グリコール成分中の60モル%未満で使用される脂肪族グリコール成分以外のグリコール成分としては、アルキレングリコールエーテル等のエーテル結合を有するものや、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール等のフェノール性水酸基を有するもの、酒石酸等の分子内にカルボキシル基を有するものが挙げられる。
【0030】
(ポリアルキレンエーテルグリコール(b))
本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂におけるポリアルキレンエーテルグリコール(b)は、数平均分子量が1000〜3000である。また、ポリアルキレンエーテルグリコール(b)は、炭素数2〜4の脂肪族グリコールの脱水縮合により得られる構造からなることが好ましい。共重合ポリエステルウレタン樹脂の重縮合に用いるポリエステルジオール(a)以外のジオール化合物としてこのようなポリアルキレンエーテルグリコール(b)を用いることで、たとえば脂肪族ポリエステルジオールのような、オキシアルキレン基の連続構造を有していないジオール化合物を用いた場合よりも、ポリエステルジオール(a)と相溶性の差によるセグメントのミクロ相分離を生じやすい。その結果、本発明の所定の効果、特にポリエステルジオール(a)の凝集構造に由来する耐ブロッキング性が得られやすい。
【0031】
上記(b)成分の具体的な例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオール類が挙げられる。これらの内、(a)成分に由来するセグメントとの適度な非相溶性を発現させるためにはポリプロピレングリコールがより好ましい。また、(b)成分の数平均分子量は1000〜3000であり、この数平均分子量が1000未満では(a)成分に由来するセグメントとの相溶性が高くなり、(a)、(b)両成分に由来するセグメントのミクロ相分離が生じず、このため得られる共重合ポリエステルウレタン樹脂中の(b)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果であるエネルギー線硬化型粘着剤との親和性が発現せず、エネルギー線硬化型粘着剤との密着性が損なわれてしまう傾向にあり、さらに(a)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果である耐ブロッキング性も発揮されない傾向にある。一方、数平均分子量が3000を超えると(a)成分との非相溶性が高まり過ぎ、共重合ポリエステルウレタン樹脂の重合過程で(a)成分を高濃度で含有する樹脂と(b)成分を高濃度で含有する樹脂の2相に相分離が生じ、均一な樹脂を得ることが困難になる傾向にある。
【0032】
上記(a)成分と(b)成分の共重合比率は前記(a)成分100質量部に対し、前記(b)成分40〜80質量部である。(b)成分が40質量部未満では(b)成分に由来するセグメントの凝集構造の効果であるエネルギー線硬化型粘着剤との親和性が十分に発現されないことから、エネルギー線硬化型粘着剤との密着性が損なわれる。また、本発明におけるアンカーコート剤組成物の耐ブロッキング性は、(a)成分のセグメントの凝集構造における剛直な構造に起因するものと推察されるが、(b)成分が40質量部未満であると、このような(a)成分のセグメントの凝集構造が形成されにくくなるため、耐ブロッキング性が損なわれることがある。一方、(b)成分が80質量部を超えると共重合ポリエステルウレタン樹脂全体のガラス転移温度が低くなり、耐ブロッキング性が損なわれる。
【0033】
(多価イソシアナート化合物(c))
共重合ポリエステルウレタン樹脂に用いられる多価イソシアナート化合物(c)としては、芳香族、脂肪族、脂環族のいずれの多価イソシアナート化合物でもよく、ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、1,6−ヘキサンジイソシアナート等が挙げられるが、反応性の良さからジフェニルメタンジイソシアナートが好ましい。これら多価イソシアナート化合物の共重合量は、本発明に用いられる共重合ポリエステルウレタン樹脂における上記(a)成分100質量部に対し、20〜50質量部である。20質量部未満では共重合ポリエステルウレタン樹脂をコート層としたときに強靱性が発現せず、また50質量部を超えると生成する共重合ポリエステルウレタン樹脂の汎用溶剤に対する溶解性が低下する。
【0034】
また、本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂は、上記(a)〜(c)成分の他に、任意の成分として、脂肪族多価アルコール(d)を共重合モノマーとして含んでいてもよい。
【0035】
(脂肪族多価アルコール(d))
共重合ポリエステルウレタン樹脂における脂肪族多価アルコール(d)は、炭素数4〜6であることが好ましく、該共重合ポリエステルウレタン樹脂に用いることで、鎖延長剤として作用する。この(d)成分の具体例としては、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の直鎖脂肪族グリコール類や、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール等の分岐を有するグリコール類が挙げられる。また、架橋剤との反応性を向上させる目的で3官能以上の多価アルコールを用いても良く、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオール、ペンタエリスリトール等のテトラオールを挙げることができる。これら多価アルコールの内、得られる共重合ポリエステルウレタン樹脂の溶解性を向上させる意味からは分岐を有するグリコール類が好ましく、最も好ましくはネオペンチルグリコールである。
【0036】
これらの脂肪族多価アルコール(d)を共重合することにより、共重合ポリエステルウレタン樹脂中のウレタン結合基濃度を調整し、共重合ポリエステルウレタン樹脂のガラス転移温度等の物性を制御することができる。(d)成分は、上記(a)成分100質量部に対し、0〜8質量部の範囲で共重合することができ、6質量部以下であることがさらに好ましい。8質量部を超えると、上述した(c)成分と多数の分岐構造を有する架橋体を生じ、ポリエステルウレタン樹脂溶液中に沈殿したり、(c)成分と、(a)成分や(b)成分との反応が妨げられたりすることがあり、好ましくない。(d)成分は必須成分ではないが、使用する場合は、その使用量が過少であると効果を発揮しないので、(a)成分100質量部に対し、0.2質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上がより好ましく、1.6質量部以上がさらに好ましい。
【0037】
(共重合ポリエステルウレタン樹脂の性状)
本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂の数平均分子量は10,000〜100,000である。数平均分子量がこれよりも低いとエネルギー線硬化型粘着剤との密着性が不十分となり、数平均分子量がこれよりも高いとポリエステルウレタン樹脂溶液の粘度が高くなり、取り扱い作業性が悪くなる。
【0038】
本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂の動的粘弾性率測定におけるガラス転移温度は、40℃以上であることが好ましく、より好ましくは50〜75℃である。なお、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定において、損失正接tanδが最大になるときの温度を指す。ガラス転移温度がこのような範囲にあることで、十分な耐ブロッキング性と、芯材フィルムとエネルギー線硬化型粘着剤との密着性を有するアンカーコート層が得られやすい傾向がある。
【0039】
(共重合ポリエステルウレタン樹脂の重合)
本発明に用いる共重合ポリエステルウレタン樹脂は、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤中あるいはトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素系溶剤と上記ケトン系溶剤との混合溶剤中で、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分と、任意配合成分である(d)成分との重縮合反応により、重合されることが好ましい。重合触媒としては、例えば、ジブチル錫ラウレート等の有機錫錯体やトリエチレンジアミン等のアミン系触媒を用いることができる。
【0040】
次に、本発明に用いられるアンカーコート剤組成物について説明する。
[アンカーコート剤組成物]
本発明に用いられるアンカーコート剤組成物は、前述した共重合ポリエステルウレタン樹脂を含む。またアンカーコート剤組成物は、共重合ポリエステルウレタン樹脂の他に、非晶質ポリエステル樹脂や架橋剤を含むことが好ましい。
【0041】
(非晶質ポリエステル樹脂)
非晶質ポリエステル樹脂としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシドやプロピレンオキシド付加物などのアルコール成分の中から選ばれる少なくとも1種と、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその酸無水物などのカルボン酸成分の中から選ばれる少なくとも1種とを縮重合させて得られた重合体などを挙げることができる。
【0042】
非晶質ポリエステル樹脂は、固体状態で結晶性を示さないポリエステル樹脂である。ここでいう非晶質は、折りたたみ構造等の局所的な結晶部分と、分子鎖が等方性配向している部分が並存しているものも含む。非晶質ポリエステル樹脂を用いることで、本発明に用いられるアンカーコート剤組成物より形成されるアンカーコート層の表面硬度を低く保ち、該アンカーコート層と、該アンカーコート層上に設けられるエネルギー線硬化型粘着剤層との高い密着性が得られやすい。また、より効率的にブロッキングを防止することができる。特に、エネルギー線硬化型粘着剤の硬化時の収縮は大きいので、後述するようにアンカーコート層の厚みを例えば0.1〜7μmとした場合に、アンカーコート層の厚みが増すとブロッキングが発生しやすくなるが、非晶質ポリエステル樹脂をアンカーコート剤組成物に含有させることで、アンカーコート層の厚みが厚い場合であってもブロッキングを抑制しやすい。
【0043】
非晶質ポリエステル樹脂の配合量は、共重合ポリエステルウレタン樹脂100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、1〜50質量部であることがより好ましく、5〜25質量部であることがさらに好ましく、5〜15質量部であることが特に好ましい。非晶質ポリエステル樹脂の配合量をこのような範囲とすることで、後述する芯材フィルムに対する密着性が十分に得られやすくなるとともに、本発明に用いられるアンカーコート剤組成物より形成されるアンカーコート層の表面硬度を低く保ち、該アンカーコート層と、該アンカーコート層上に設けられるエネルギー線硬化型粘着剤層との高い密着性が得られやすい。また、ブロッキングを効率的に抑制できる。さらには、アンカーコート剤組成物中での共重合ポリエステルウレタン樹脂との相溶性が低下しにくいので、ヘイズ値が低く保たれ、アンカーコート層の透明性を高くしやすい。
【0044】
(架橋剤)
本発明におけるアンカーコート剤は、さらに架橋剤が加えられていてもよい。この架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤が好ましい。架橋剤は、共重合ポリエステルウレタン樹脂が有する水酸基等の活性水素基や非晶質ポリエステル樹脂が有する水酸基等の活性水素基との反応性を有する。この場合、共重合ポリエステルウレタン樹脂のポリマー鎖同士や非晶質ポリエステル樹脂のポリマー鎖同士、あるいは共重合ポリエステル樹脂のポリマー鎖と非晶質ポリエステル樹脂のポリマー鎖とが結合してアンカーコート剤組成物の凝集力が向上し、芯材フィルムとの密着性を向上させることができる。
【0045】
イソシアナート系化合物としては、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどの芳香族ポリイソシアナート;ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナート、シクロペンチレンジイソシアナート、シクロヘキシレンジイソシアナート、メチルシクロヘキシレンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナートなどの脂環式イソシアナート化合物;ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、リジンジイソシアナートなどの脂肪族イソシアナート;等が挙げられる。また、これらの化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体;や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体;などの変性体も用いることができる。
【0046】
イソシアナート系架橋剤の配合量は、共重合ポリエステルウレタン樹脂と非晶質ポリエステル樹脂の合計量100質量部(固形分)に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、特に0.25〜30質量部であることが好ましい。イソシアナート系架橋剤の配合量が上記範囲にあることで、アンカーコート層を適度な硬度に保ち、芯材フィルムに対して良好な密着性が得られやすい。
【0047】
(アンカーコート剤組成物の調製)
本発明に用いるアンカーコート剤組成物は、前述した共重合ポリエステルウレタン樹脂と、所望により用いられる前記非晶質ポリエステル樹脂、前記架橋剤及びその他添加剤と、溶媒とを混合・撹拌する公知の方法により調製することができる。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、粘着付与剤、顔料、染料、カップリング剤などを挙げることができる。
【0048】
溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類:N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸ホスホロアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;γ−ラクトン、δ−ラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
【0049】
溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、アンカーコート剤組成物の固形分濃度が10〜50質量%となる量が好ましい。
【0050】
アンカーコート層22は、上述したアンカーコート剤組成物によって形成されている。アンカーコート層22の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1〜7μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。このような厚さとすることで、アンカーコート層22がエネルギー線硬化型粘着剤層21のエネルギー線硬化時における収縮を効率的に吸収し、アンカーコート層22と芯材フィルム23の剥離を抑制することができ、また、ブロッキングが生じにくい。
【0051】
(エネルギー線硬化型粘着剤層21)
エネルギー線硬化型粘着剤層21は、従来より公知のガンマ線、電子線、UV、可視光等のエネルギー線の照射により硬化する種々のエネルギー線硬化型粘着剤により形成され得るが、特にUV硬化型粘着剤を用いることが好ましい。
【0052】
UV硬化型粘着剤としては、例えばアクリル系共重合体に、多官能紫外線硬化樹脂を混合した粘着剤が挙げられる。多官能紫外線硬化樹脂としては、(メタ)アクリロイル基を複数有する低分子化合物が挙げられる。また、側鎖に光重合性の官能基を有するアクリル系共重合体を含む粘着剤も用いることができる。光重合性の官能基としては(メタ)アクリロイル基が挙げられる。なお、ここに挙げた以外のものでも、UV硬化型粘着剤で硬化時に変形の生じるものであれば、アンカーコート層22上に形成されることで所定の効果が発現される。
【0053】
本発明においてエネルギー線硬化型粘着剤層21の厚さは特に限定されるものではないが、通常、3〜200μmの範囲内であり、特に5〜150μmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
(芯材フィルム23)
本発明における芯材フィルム23としては、厚み精度が高いことから、ポリエステルフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族二塩基酸またはそのエステル誘導体と、ジオールまたはそのエステル誘導体とから重縮合して得られる線状飽和ポリエステルである。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフテレート、ポリエチレン−2,6ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられ、これらの共重合体またはこれと小割合の他樹脂とのブレンド物等も含まれる。
【0055】
ポリエステルフィルムは、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエステルを乾燥後、Tm〜(Tm+70)℃の温度(Tm:ポリエステルの融点)で押出機にて溶融し、ダイ(例えばT−ダイ、I−ダイ等)から40〜90℃の回転冷却ドラム上に押出し、急冷して未延伸フィルムを製造し、次いで該未延伸フィルムを(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(Tg:ポリエステルのガラス転移温度)で縦方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、横方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、必要に応じて180〜250℃の温度で1〜60秒間熱固定することにより製造できる。芯材フィルム23の厚みは特に限定されない。
【0056】
また必要により、芯材フィルム23に適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来、芯材フィルムの滑り性付与剤として知られているものが挙げられ、その具体例としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、シリカ、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が挙げられる。さらに芯材フィルム中には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒なども適宜添加することができる。
【0057】
芯材フィルム23は、透明なものであっても、所望により着色又は蒸着されていてもよく、また紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。また、芯材フィルム23としては、上記の単層フィルムであってもよいし、積層フィルムであってもよい。
【0058】
(接着手段24)
貼着部2に任意に設けられる接着手段24は、強粘着性を有する粘着剤や熱可塑性樹脂等から形成されることが好ましい。接着手段24の厚みは特に限定されない。強粘着性を有する粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、例えばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系等の粘着剤が用いられる。熱可塑性樹脂としては、何ら限定されるものではないが、例えばポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、セルロース、ポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0059】
貼着部2の好ましい厚さは、貼付されるウエハ4に形成されたバンプ5の高さによって決定される。貼着部2の厚さ(Tt)は、貼着部2を構成するエネルギー線硬化型粘着剤層、アンカーコート層、芯材フィルム及び場合によって設けられる接着手段の合計厚みを意味する。貼着部2の厚さ(Tt)とバンプの高さ(Bh)との差(Bh−Tt)は、好ましくは−5〜+50μm、さらに好ましくは±0〜+40μmである。例えば、バンプ5の高さ(Bh)が100μmであった場合、貼着部2の厚さ(Tt)は50〜105μm、好ましくは60〜100μmである。このような厚さの関係とすれば、ウエハのバンプ5と、後述する基材シート1とが適度な圧力で接し、研削加工時に表面保護用シート10の剥がれや位置ずれ等が起きにくくなる。その差(Bh−Tt)の値が負であり、貼着部2の厚さがバンプの高さよりも大きく、隙間が開いていたといしても、その値が小さければ研削加工時の押し圧による半導体ウエハの撓みにより、適度な圧力が発生し、ウエハ全体が固定可能となる。芯材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いた場合には、厚み精度が高いため、上記のように貼着部2の厚さ(Tt)を好ましい厚さに調整することが容易である。
【0060】
貼着部2は、基材シート1と積層される前に打ち抜き等の加工が行われるので、その両面にはシリコーン系剥離剤等で処理が施された剥離フィルムが積層された形で供される。剥離フィルムは、エネルギー線硬化型粘着剤層21や接着手段24を保護し、自己支持性を付与する役割を担う。接着手段24が設けられている場合に、両面に積層される剥離フィルムは、軽剥離タイプ・重剥離タイプのように剥離力の差を付けて構成すれば、表面保護用シートの作成時の作業性が向上するため好ましい。軽剥離タイプの剥離フィルムが先に剥離できるので、軽剥離タイプの剥離フィルムを、基材シート1に積層される接着手段24に貼付する。また、重剥離タイプの剥離フィルムを、ウエハ4に貼付されるエネルギー線硬化型粘着剤層21に貼付する。
【0061】
その両面に剥離フィルムが積層された貼着部2を製造する方法は特に限定されない。一例として、まず、剥離フィルムに対して、接着手段24としての強粘着性を有する粘着剤層を構成する粘着剤層用組成物を塗布、乾燥し、接着手段24としての強粘着性を有する粘着剤層を形成する。また、芯材フィルム23に対してアンカーコート剤組成物を塗布、乾燥してアンカーコート層22を形成し、コートフィルムを作成する。次いで、強粘着性を有する粘着剤層上にコートフィルムの芯材フィルムを積層する。また、別の剥離フィルムに対して、エネルギー線硬化型粘着剤層を構成する粘着剤組成物を塗布、乾燥し、エネルギー線硬化型粘着剤層21を形成する。その後、エネルギー線硬化型粘着剤層21とコートフィルムのアンカーコート層とを積層することで、両面に剥離フィルムが積層された貼着部2が製造される。
【0062】
貼着部2を、接着手段24を設けない構成とした場合には、基材シート1の貼着部2の設けられる面の全面に予め粘着処理を施したり、該面を熱可塑性樹脂等により構成したりすることによって、貼着部2を基材シート1に押圧や加熱により接着することができる。粘着処理に用いる粘着剤や熱可塑性樹脂等として好ましいものは、接着手段24に用いられるものと同様である。ただし、基材シート1の貼着部2の設けられる面の全面に粘着処理が施されている場合は、粘着剤がバンプと接触する可能性があるので、粘着剤の金属への粘着性が強すぎないことが好ましい。
【0063】
上記各組成物の塗布は、常法によって行えばよく、例えば、バーコート法、ナイフコート法、マイヤーバー法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法によって行えばよい。アンカーコート層は、アンカーコート剤組成物を塗布し、芯材フィルムの片面に塗膜を形成したのち、塗膜を50〜120℃程度で乾燥し、アンカーコート層を形成することが好ましい。
【0064】
なお、上記の製法では、各層を各組成物の直接塗布、乾燥により形成しているが、別の工程フィルム上に各組成物を塗布、乾燥して各層を形成し、その後、転写することで積層してもよい。
【0065】
剥離フィルムは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。
【0066】
(コートフィルムの性状)
本発明の表面保護シートを作製するにあたって、芯材フィルム23にアンカーコート層22が積層されたフィルム(以下コートフィルムという)を用意してから製造を行うことができる。該コートフィルムにおいては、アンカーコート層の表層から、該アンカーコート層厚の1/2の深さ(深さ(X))におけるナノインデンテーション試験により測定される硬度Aが、上記と同様にして測定される芯材フィルムの表層から深さ(X)における硬度Bよりも低く、かつ硬度Aと硬度Bとの差が0.35GPa以下であることが好ましい。
【0067】
上記硬度Aと硬度Bとの差が0.35GPaより大きいと、耐ブロッキング性が低下する場合がある。また、半導体用途の観点から、硬度Aと硬度Bとの差の下限は0.01GPa程度とすることが好ましい。硬度Aと硬度Bとの差のより好ましい範囲は0.02〜0.3GPaであり、0.1〜0.3GPaであることが特に好ましい。なお、上記のナノインデンテーション試験による硬度測定試験は下記の方法で行う。
【0068】
<硬度測定試験>
コートフィルムを23℃、50%RH条件下で1週間調湿後、10mm×10mmサイズに裁断し、サンプルAを得る。また、芯材フィルムを23℃、50%RH条件下で1週間調湿後、10mm×10mmサイズに裁断し、サンプルBを得る。次いで、サンプルAの芯材フィルム面(アンカーコート層を有する面の反対面)と、サンプルBとを、アルミニウム製の台座に接着したガラス板上に、2液系のエポキシ接着剤で固定する。ナノインデンター[MTS社製、機種名「Nano Indenter SA2」]により、サンプルAについて、アンカーコート層の厚みの1/2の深さ(深さ(X))における硬度Aを測定する。次に、サンプルBについて、芯材フィルムの表層から深さ(X)(サンプルAのアンカーコート層の厚みの1/2の深さ)における硬度Bを測定する。
【0069】
次に、基材シート1について説明する。
[基材シート1]
本発明の表面保護用シート10に使用される基材シート1は、樹脂シートであれば、特に限定されず各種の樹脂シートが使用可能である。このような樹脂シートとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリルゴム、ポリアミド、ウレタン、ポリイミド等の樹脂フィルムが挙げられる。基材シート1はこれらの単層であってもよいし、積層体からなってもよい。また、架橋等の処理を施したフィルムであってもよい。
【0070】
このような基材シート1としては、熱可塑性樹脂を押出成形によりシート化したものが使用されてもよいし、硬化性樹脂を所定手段により薄膜化、硬化してフィルム化したものが使われてもよい。
【0071】
硬化性樹脂としては、たとえば、エネルギー線硬化性のウレタンアクリレート系オリゴマーを主剤とし、比較的嵩高い基を有するアクリレートモノマーを希釈剤とし、必要に応じて光重合開始剤を配合した樹脂組成物が用いられる。
【0072】
基材シート1の厚さは、好ましくは30〜1000μm、さらに好ましくは50〜500μm、特に好ましくは100〜300μmである。
【0073】
また、基材シート1は、図3に示したように、貼付される半導体ウエハ4の外径とほぼ等しい大きさに予め打ち抜かれていてもよく、また表面保護用シート10と半導体ウエハ4とを接着後、半導体ウエハ4の外径に合わせて基材シート1を切断してもよい。
【0074】
[表面保護用シート10]
(表面保護用シート10の作成)
表面保護用シート10は、その使用時において、図3に示すように、貼付されるウエハ4のバンプ5が設けられた回路形成部分には、貼着部2が形成されない基材シート面(開口部3)が対面し、回路が形成されていないウエハ4の外郭部分は貼着部2が対面するように構成されている。
【0075】
貼着部2は基材シート1に積層される前に、打ち抜き等の手段で略円形に切断除去して、貼着部が形成されない開口部3を形成する。このとき、貼着部と軽剥離タイプの剥離フィルムのみを打ち抜き、重剥離タイプの剥離フィルムは完全に打ち抜かないようにすれば、重剥離タイプの剥離フィルムが貼着部のキャリアとなり、以降の加工もroll−to−rollで連続して行えるので好ましい。続いて残りの軽剥離タイプの剥離フィルムを剥離しながら基材シート1に積層し、エネルギー線硬化型粘着剤層21の表面に重剥離タイプの剥離フィルムが積層した表面保護用シート10を作成する。なお、接着手段24が熱可塑性樹脂で形成された場合には、ヒートシールにより接着力が発現し、基材シート1と積層される。
【0076】
この段階の構成で本発明の表面保護用シート10として使用してもよい。この構成で使用する場合は、重剥離タイプの剥離フィルムを剥離し、表面保護用シート10の開口部3をウエハの回路面の位置に合わせつつ、貼着部2をウエハの外郭へ貼着する。そして、ウエハよりはみ出している表面保護用シートをウエハ4の外周に沿って切断分離して裏面研削に供する。
【0077】
本発明の表面保護用シートの好ましい態様としては、先に作成した段階の構成に続き、切断除去した貼着部と略同心円状に、かつ貼付するウエハの外径に合わせて貼着部の外周を打ち抜く構成である。このときも、重剥離タイプの剥離フィルムは打ち抜かないようにしておくことが好ましい。すなわち、予め基材シート1および貼着部2をウエハ4の外径に合わせて切断除去を行っておく。予めウエハと同形状にカットすることにより、ウエハに表面保護用シートを貼付する際、カッターで表面保護用シートを切除する工程を行わずに済む。このようにすれば、カッター刃によりウエハの端部に傷を付け、その後の加工でウエハの損傷を誘引するようなことがなくなる。
【0078】
(ウエハの裏面研削)
ウエハの裏面研削に際しては、図3に示すように表面保護用シート10の貼着部2が、ウエハ4のバンプ5に対面しないように精度よく位置合わせをした後、貼着部2の最上層であるエネルギー線硬化型粘着剤層21とウエハ4の外周端部とを圧着し、半導体ウエハを研削するための表面保護形態とする。
【0079】
なお、基材シート1、貼着部2が予めウエハと同形状にカットされていない場合には、ウエハに表面保護用シート10を貼付した後に、カッターで表面保護用シートの不要部(ウエハからはみ出した部分)を切除する。
【0080】
本発明に使用されるウエハは、回路面上にバンプが形成されるものであれば、いかなる構成のウエハであってもよいが、バンプの高さが50μm以上、好ましくは100μm以上であり、最も外に配置されるバンプの位置がウエハの外周から0.7〜30mm内側であるウエハが、従来の表面保護用粘着シートでの適用が困難であったが、本発明においてより好適に用いられる。
【0081】
上記のような表面保護形態としたウエハ4は、ウエハ研削装置のウエハ固定台(図示せず)に表面保護用シート10側を戴置し、グラインダー6などを用いた通常の研削手法で研削を行う。
【0082】
ウエハ4の外郭部には貼着部2が全周を囲って確実に接着しているため、研削加工時の洗浄水等の浸入は起こらずウエハの回路面を汚染することがない。また、ウエハ回路面に対してはバンプの頂点が適度な圧力で基材シートに接しているため、研削加工時に表面保護用シートの剥がれや位置ずれ等が起きにくくなる。
【0083】
その後、エネルギー線硬化型粘着剤層にエネルギー線を照射し、表面保護用シート10からウエハ4を分離する。ウエハ4は、図示したように、リング状の貼着部2において表面保護用シート10に固定されている。リング状の貼着部2の幅は狭く、したがって接着力も弱いため、ウエハ4の剥離は容易である。また、本発明の表面保護用シート10によれば、ウエハ表面から表面保護用シート10を剥離する際に、表面保護用シート由来の残渣物によるウエハ表面の汚染が極めて少なく、不良品の発生を抑制でき、また得られる半導体チップの品質も安定する。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明において採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0085】
(1)数平均分子量
ウォーターズ社製「ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)150C」を用い、テトラヒドロフランをキャリアー溶剤として流速1ml/分で測定した。カラムとして昭和電工(株)製「Shodex KF−802」、「KF−804」、「KF−806」を3本連結し、カラム温度は30℃に設定した。検出器にはRI検出器を用いた。分子量標準サンプルとしてはポリスチレン標準物質を用いた。
【0086】
(2)酸価
樹脂0.2gを20mlのクロロホルムに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定し、測定値を樹脂固形分1000kg中の当量で示した。
【0087】
(3)ガラス転移温度
動的粘弾性測定装置[アイティ−計測制御社製、「DVA−220」]を用い、得られたtanδの温度依存性曲線のピーク温度をガラス転移温度とした。測定サンプルは以下の様に調製し、下記測定条件で測定した。
共重合ポリエステルポリウレタン樹脂溶液を離型フィルム(OPP)に乾燥厚みが20μm厚になるように塗布し、120℃の熱風乾燥機で1時間乾燥させ、4mm×40mmの短冊状の測定サンプル片を切り取った。得られた測定用サンプル片を上記動的粘弾性測定装置を用い、周波数:10Hz、昇温速度:4℃/分、周波数:10Hzでtanδ値の温度依存性データを測定した。
【0088】
(4)樹脂組成
クロロホルム−dに樹脂を溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)「ジェミニ−200」を用い、H−NMRにより樹脂組成比を求めた。
【0089】
(5)硬度測定
明細書本文に記載の硬度測定試験により、芯材フィルム及びコートフィルムのアンカーコート層の硬度を測定した。
【0090】
(6)エネルギー線硬化型粘着剤の密着性
実施例および比較例で得られた表面保護用シートのエネルギー線硬化型粘着剤層をシリコンウエハに貼着し、エネルギー線(紫外線)照射(230mW/cm、190mJ/cm)後、シリコンウエハから粘着シートを剥離した。ウエハ上にエネルギー線硬化型粘着剤が残っているかを目視により確認し、下記判定基準で評価した。ウエハ上にエネルギー線硬化型粘着剤が残っていない程、エネルギー線硬化型粘着剤層とアンカーコート層との密着性に優れていることを示す。
A:全く残っていない
B:多少残っている
C:糊残りが顕著である
【0091】
(7)耐ブロッキング性
芯材フィルム上にアンカーコート層を形成して得られたコートフィルムを23℃、50%RH環境下で1週間放置後、該コートフィルムのアンカーコート層面と非コート面(芯材フィルム面)とを各5枚重ね合わせたのち、ガラス板にて挟んだ。次に、40℃、80%RH環境下又は、50℃、30%RH環境下に20g/cm2の荷重を加えて7日間放置した。その後23℃、50%RH環境下に24時間放置した後、重ね合わせたコートフィルムを剥がし、非コート面との耐ブロッキング性を、下記判定基準で評価した。
A:非コート面との接着が全くない。
B:非コート面とアンカーコート層面に若干の接着があるが、手で剥がすことができ、剥がした後のアンカーコート層表面に変化が見られない。
C:非コート面とアンカーコート層面が接着し、両者を手で剥がすことが不可能であるか、あるいは両者を手で剥がすことが可能であるが、剥がした後のアンカーコート層表面に変化が見られる。
【0092】
以下に本発明の実施例、比較例に使用した共重合ポリエステルウレタン樹脂の合成例、比較合成例を示す。
<合成例−1>
(ポリエステルジオールA1の合成)
温度計、撹拌翼、リービッヒ冷却管を具備した2Lの4つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル194質量部、イソフタル酸ジメチル194質量部、エチレングリコール161質量部、ネオペンチルグリコール146質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネート(TBT)を0.2質量部仕込み、190〜230℃で3時間、エステル交換反応を進行させた。次いで、250℃に昇温後、減圧下に20分間重合し、(a)成分であるポリエステルジオールA1を得た。得られたポリエステルジオールA1の組成、数平均分子量、酸価を表1に示した。
【0093】
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−1の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、メチルエチルケトンを45質量部、及びトルエンを55質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート32質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三洋化成工業製「ニューポールPP−1200」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量:1200)を67質量部添加し、70℃で30分間経過後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々76質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々60質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−1)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0094】
<合成例−2>
(ポリエステルジオールA2の合成)
温度計、撹拌翼、リービッヒ冷却管を具備した2Lの4つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル380質量部、5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム11.8質量部、1,2−プロピレングリコール274質量部、ネオペンチルグリコール42質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネート(TBT)を0.2質量部仕込み、190〜230℃で3時間、エステル交換反応を進行させた。次いで250℃に昇温後、減圧下に20分間重合し、(a)成分であるポリエステルジオールA2を得た。得られたポリエステルジオールA2の組成、数平均分子量、酸価を表1に示した。
【0095】
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−2の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−2で得られたポリエステルジオールA2を100質量部、メチルエチルケトンを45質量部、及びトルエンを55質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート32質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三洋化成工業製「ニューポールPP−1200」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量:1200)を67質量部添加し、70℃で30分経過後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々76質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々60質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−2)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0096】
<合成例−3>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−3の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート29質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三洋化成工業製「ニューポールPP−1200」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量:1200)を45質量部添加し、70℃で30分間経過後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々33質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々74質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−3)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0097】
<合成例−4>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−4の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート38質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三菱化学製「PTMG1000」(ポリテトラメチレングリコール、数平均分子量:1000)を75質量部添加し、70℃で30分間経過後、ジブチル錫ラウレート0.03質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々62質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々90質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−4)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0098】
<合成例−5>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−5の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート35質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三洋化成工業製「ニューポールPP−1200」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量:1200)を60質量部添加し、70℃で30分経過後、ジブチル錫ラウレート0.01質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。(d)成分として、ネオペンチルグリコール0.3質量部を投入してさらに30分間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈し、さらに(d)成分として、トリメチロールプロパンを5質量部添加した。70℃で30分経過後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々83質量部で希釈し反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−5)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0099】
<合成例−6>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−6の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した2Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、DIC製「ポリライトOD−X−688」(脂肪族系ポリエステルジオール、数平均分子量:2000)150質量部、(d)成分としてネオペンチルグリコール10質量部、メチルエチルケトンを200質量部、及びトルエンを200質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート55質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、ブチル錫ラウレート0.05質量部を添加し、70℃でさらに3時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々168質量部で希釈し反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−6)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0100】
<合成例−7>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−7の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−2で得られたポリエステルジオールA2を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート27質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三洋化成工業製「ニューポールPP−1200」(ポリプロピレングリコール、数平均分子量:1200)を30質量部添加し、70℃で30分経過後、ジブチル錫ラウレート0.01質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々20質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々67質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−7)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0101】
<合成例−8>
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−8の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、合成例−1で得られたポリエステルジオールA1を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート42質量部を添加し、70℃のまま1時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。(b)成分として、三菱化学製「PTMG1000」(ポリテトラメチレングリコール、数平均分子量:1000)を90質量部添加し、70℃で30分経過後、ジブチル錫ラウレート0.01質量部を添加し、70℃でさらに2時間反応させた。次いでメチルエチルケトン及びトルエン各々76質量部で希釈し、(d)成分として、ネオペンチルグリコール3質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々98質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−8)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0102】
<合成例−9>
(ポリエステルジオールA3の合成)
温度計、撹拌翼、リービッヒ冷却管を具備した2Lの4つ口フラスコに、テレフタル酸ジメチル262質量部、イソフタル酸ジメチル262質量部、ネオペンチルグリコール187質量部、エチレングリコール261質量部、及び触媒としてテトラブチルチタネート(TBT)を0.3質量部仕込み、190〜230℃で3時間、エステル交換反応を進行させた。次いで反応系を180℃に冷却し、セバシン酸60.6質量部を添加した。反応温度を約1時間で250℃に昇温後、減圧下に20分間重合し、(a)成分であるポリエステルジオールA3を得た。得られたポリエステルジオールA3の組成、数平均分子量、酸価を表1に示した。
【0103】
(共重合ポリエステルウレタン樹脂U−9の重合)
温度計、撹拌翼、コンデンサーを具備した1Lの4つ口フラスコに、(a)成分として、ポリエステルジオールA3を100質量部、メチルエチルケトンを50質量部、及びトルエンを50質量部仕込み、70℃で均一に溶解させた。次いで(c)成分として、ジフェニルメタンジイソシアナート20質量部及びジブチル錫ラウレート0.01質量部を添加し、70℃のまま2時間反応させ、メチルエチルケトン及びトルエン各々50質量部で希釈した。次いで(d)成分として、ネオペンチルグリコール4質量部を投入してさらに2時間反応させた後、メチルエチルケトン及びトルエン各々45質量部で希釈し、反応を終了した(固形分濃度30質量%)。得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂(U−9)の樹脂組成、数平均分子量、ガラス転移温度を表2にまとめた。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
(実施例1)
合成例−1で得られた共重合ポリエステルウレタン樹脂U−1 100質量部、架橋剤としてイソシアナート系化合物[日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL、固形分濃度75質量%」]3質量部、及び溶媒としてトルエン145質量部及びシクロヘキサン15質量部を混合・撹拌し、アンカーコート剤組成物を得た。
【0107】
芯材フィルムとして厚さ50μmのPETフィルム[東レ(株)社製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]に、上記で得られたアンカーコート剤組成物をグラビアロール方式により乾燥後の厚みが2μmとなるように塗布し、80℃で1分間乾燥させてアンカーコート層を形成し、コートフィルムを作製した。該コートフィルムの性能評価を表4に示す。
【0108】
軽剥離タイプの剥離フィルム(リンテック社製、商品名SP−PET3801、厚み38μm)の剥離処理面に、接着手段としての強粘着タイプのアクリル系粘着剤(リンテック社製、PA−T1)を乾燥膜厚が15μmとなるように塗布乾燥し、上記で得られたコートフィルムの非コート面と貼り合わせて片面粘着シートを得た。
【0109】
アクリル系粘着剤(n−ブチルアクリレートとアクリル酸との共重合体(n−ブチルアクリレート/アクリル酸=90/10(質量比)、重量平均分子量=600,000、ガラス転移温度=−44℃))100質量部と、分子量7000のウレタンアクリレートオリゴマー200質量部と、架橋剤(イソシアナート系)10質量部と、エネルギー線硬化反応開始剤(ベンゾフェノン系)10質量部とを混合し、エネルギー線硬化型粘着剤組成物を作成した。
【0110】
次いで、上記エネルギー線硬化型粘着剤組成物を重剥離タイプの剥離フィルム(リンテック社製、商品名SP−PET3811、厚み38μm)の剥離処理面に塗布、乾燥(90℃、1分)し、厚さ15μmのエネルギー線硬化型粘着剤層を得、上記の片面粘着シートのアンカーコート層面に貼り合わせて両面粘着シートを作製した。この両面粘着シートは後に貼着部となるものであり、その厚さは80μmである。
【0111】
次に、基材シートを作製した。重量平均分子量5000のウレタンアクリレート系オリゴマー(荒川化学社製)50重量部と、イソボルニルアクリレート25重量部と、フェニルヒドロキシプロピルアクリレート25重量部と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)2重量部と、フタロシアニン系顔料0.2重量部を配合して、基材シートをキャスト製膜するための光硬化性を有する樹脂組成物を得た。
【0112】
得られた樹脂組成物をファウンテンダイ方式により、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、厚み38μm)の上に厚みが160μmとなるように塗工し、塗布膜上にさらに同じPETフィルムをラミネートし、その後、高圧水銀ランプ(160W/cm、高さ10cm)を用いて、光量250mJ/cm2の条件で紫外線照射処理を行い、塗布膜を架橋・硬化させた。その後両面のPETフィルムを剥離して厚み160μmの基材シートを得た。
【0113】
両面粘着シートの剥離フィルム(軽剥離タイプ)からエネルギー線硬化性粘着剤層までの層を、剥離フィルム(重剥離タイプ)のみを残すようにして直径190mmの円形に打ち抜き、この円形部分を除去した。打ち抜かれた剥離フィルム(軽剥離タイプ)を剥離し、露出した強粘着タイプのアクリル系粘着剤面を上記の基材シートに貼り合わせた。
【0114】
続いて先に打ち抜いた円形部分に同心円になるように、基材シートからエネルギー線硬化性粘着剤層までの層を、剥離フィルム(重剥離タイプ)のみを残すようにして直径200mmの円形に打ち抜き、その外周部分を除去した。このようにして、基材シート上に外周に幅が5mmの貼着部が設けられており、直径190mmの開口部の設けられた直径200mmの表面保護用シートを作製した。
【0115】
(実施例2〜13ならびに比較例1〜4)
共重合ポリエステルウレタン樹脂、非晶質ポリエステル樹脂[東洋紡績(株)社製、商品名「バイロン200」、固形分濃度100質量%]及び架橋剤の組成および配合を表3に従って変更し、アンカーコート層の厚みを表4に従って変更した以外は、実施例1と同様にコートフィルムおよび表面保護用シートを作製し、性能評価を行った。なお、非晶質ポリエステル樹脂を添加したものについては、非晶質ポリエステル樹脂を、実施例1でポリエステルウレタン樹脂、架橋剤、および溶媒を混合・攪拌する際に、溶媒に表3記載の質量部を溶解させて添加した。結果を表4に示す。
【0116】
(比較例5)
芯材フィルムとして厚さ50μmのPETフィルム[東レ(株)社製、商品名「ルミラーPET50 T−60」]を用い、アンカーコート層を形成しなかった。芯材フィルムの性能評価を表4に示す。なお、芯材フィルムの表層から深さ1.0μmにおける硬度は0.289GPa、芯材フィルムの表層から深さ0.05μmにおける硬度は0.253GPa、芯材フィルムの表層から深さ3.5μmにおける硬度は0.283GPaであった。表4にはこれらの硬度を記載していない。
【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
表4から分かるように、実施例1〜13のコートフィルムは、いずれも耐ブロッキング性およびエネルギー線硬化型粘着剤の密着性の評価が良好である。これに対し、比較例1〜5のコートフィルムは、耐ブロッキング性、エネルギー線硬化型粘着剤の密着性のいずれか一つが不良である。
【符号の説明】
【0120】
1…基材シート
2…貼着部
3…開口部
4,40…半導体ウエハ
5,50…バンプ
10…表面保護用シート
6,60…グラインダー







【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径のエネルギー線硬化型粘着剤層が形成されていない開口部と、該開口部を囲繞する少なくともエネルギー線硬化型粘着剤層、アンカーコート層、および芯材フィルムからなる貼着部とを有し、
アンカーコート層を形成するアンカーコート剤組成物が、共重合ポリエステルウレタン樹脂を含み、
共重合ポリエステルウレタン樹脂が、
全酸成分を100モル%としたとき芳香族ジカルボン酸成分を80モル%以上含有する酸成分と、全グリコール成分を100モル%としたとき脂肪族グリコール成分を40モル%以上含有するグリコール成分とからなる、数平均分子量が1500〜3000であるポリエステルジオール(a)、
数平均分子量が1000〜3000であるポリアルキレンエーテルグリコール(b)、及び
多価イソシアナート化合物(c)、
の重縮合反応により得られる構造からなり、かつ
前記(a)成分100質量部に対し、前記(b)成分40〜80質量部、前記(c)成分20〜50質量部を含有し、数平均分子量が10,000〜100,000である、表面保護用シート。
【請求項2】
前記共重合ポリエステルウレタン樹脂100質量部に対して、非晶質ポリエステル樹脂を100質量部以下の割合で含む、請求項1に記載の表面保護用シート。
【請求項3】
さらに、前記共重合ポリエステルウレタン樹脂と前記非晶質ポリエステル樹脂の合計量100質量部に対して、架橋剤を0.1〜30質量部の割合で含む、請求項2に記載の表面保護用シート。
【請求項4】
アンカーコート層の表層から、該アンカーコート層厚の1/2の深さ(深さ(X))におけるナノインデンテーション試験により測定される硬度Aが、上記と同様にして測定される芯材フィルムの表層から深さ(X)における硬度Bよりも低く、かつ硬度Aと硬度Bとの差が0.35GPa以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面保護用シート。
【請求項5】
アンカーコート層の厚さが0.1〜7μmである請求項1〜4のいずれかに記載の表面保護用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216619(P2012−216619A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79921(P2011−79921)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】