説明

表面処理槽のワーク搬送方法及び搬送用治具

【課題】ワークを平面状態で搬送方向に沿って水平搬送する場合に、ワークに弛みや蛇行が生じないようにする。
【解決手段】上下に対向する搬送ローラ15、16を両側に備え、左右一対の搬送ローラ装置11とし、上下のローラ軸芯21、22を搬送幅方向の内側が先行するように傾斜させ、搬送ローラ15、16間で略矩形状のワークWの幅方向両端部を搬送用治具18を介して上下から把持し、略水平状態で搬送する。ワーク搬送経路の幅方向の両側のうち、少なくとも一方に、ワーク搬送経路と略平行に延びる搬送ガイド60を敷設し、搬送ガイド60側の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧を、他方の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧よりも高く設定することで、ローラ挟持圧に差を発生させ、ワークWを搬送ガイド60側に引き寄せると共に、搬送ガイド60に押し当てて搬送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄槽あるいはめっき処理槽等の表面処理槽内で、プリント基板等のワークを、略水平状態で搬送するワーク搬送方法及びその搬送に用いる搬送用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられているプリント基板等のワークの製造過程では、各種洗浄槽あるいはめっき槽等の表面処理槽が用いられており、ワークは、各表面処理槽内において、各種薬液、洗浄液あるいは水等により、表面処理される。
【0003】
上記表面処理槽内でワークを搬送する方法として、上下の搬送ローラで構成される搬送ローラ対により、ワークの幅方向の両端部を挟持し、搬送ローラの回転により、ワークを水平状態で搬送する方法が採用されている。すなわち、ワークを表面処理槽内で水平搬送し、搬送中に、上下のノズルから洗浄液、薬液あるいは水を噴射したり、貯留されているめっき液中を通過させたりする(特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−285323号公報
【特許文献2】特開2008−85119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器に用いられる昨今のプリント基板等は、極薄化及びフレキシブル化が進んでいるため、ワークの幅方向の両端部を、単に、搬送ローラにより挟持して搬送方向に水平搬送する方法では、噴射される処理液の勢いや、処理液の重みにより、ワークに弛みが生じ、処理液が均一にワーク全面に行き渡らず、表面処理の品質が低下したり、また、左右の搬送ローラ対の挟持圧あるいは摩擦力のばらつきにより、ワークが蛇行し、これによっても、品質が低下するおそれがあった。
【0006】
これに対し、前記各先行技術文献に開示された技術では、搬送ローラの軸芯を、搬送方向と直角な幅方向に対して傾斜させることにより、搬送中のワークに対して幅方向の外方への引張力を付与し、これにより、ワークの弛み等を防止するようにしている。
【0007】
ところが、前記いずれの先行文献の技術においても、ワークの弛み及びワークの蛇行を確実に阻止することは不可能であった。また、搬送ローラ対とワークとの接触面を増加させるために、搬送ローラ対の配置密度を増加させることが考えられるが、部品点数が増えると共に、コストが高くなる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、ワークを、弛みが生じることなく、かつ、蛇行することなく、平面状態で搬送方向に沿って水平搬送することができるようにすることを目的としている。さらに、極薄でフレキシブルなワークであっても、搬送ローラ対の数を増やすことなく、水平搬送できるようにすることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、上下に対向する搬送ローラからなる搬送ローラ対がワーク搬送方向に所定間隔をおいて複数配設された搬送ローラ装置を、ワーク搬送経路の幅方向の両側に備え、前記各搬送ローラ対のローラ軸芯を、上方から見て、上記幅方向の内方側が搬送方向側にくるように傾斜させ、上記両搬送ローラ装置により、略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から挟持し、ワークを略水平状態で搬送する表面処理槽のワーク搬送方法において、ワーク搬送経路の幅方向の両側のうち、少なくとも一方に、ワーク搬送経路と略平行に延びる搬送ガイドが敷設され、前記一対の搬送ローラ装置のうち、前記搬送ガイドが配置されている側の搬送ローラ装置のローラ挟持圧を、他方の搬送ローラ装置のローラ挟持圧よりも高く設定し、上記ローラ挟持圧の差によって、ワークを搬送ガイド側に引き寄せると共に、前記搬送ガイドに押し当て、搬送方向にガイドする。
【0010】
上記搬送方法において、好ましくは、前記ワークの幅方向の両端部を、ワークの搬送方向の略全長に亘って搬送用治具により上下から挟持し、各搬送用治具をそれぞれ対応する側の搬送ローラ装置の搬送ローラ対で上下から挟持し、各各搬送ローラ対の回転により、幅方向両側の搬送用治具を介してワークを幅方向の外方に引っ張りつつ、搬送する。
【0011】
また、本発明は、上記搬送方法に用いる搬送用治具を提供するものである。この搬送用治具は、略水平姿勢に配置された略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から挟持する搬送用治具であって、上側治具部材と下側治具部材とを備え、両治具部材は、ワークの幅方向の端部の上下面にそれぞれ当接する摩擦係数の高い挟持面を有し、一方の治具部材には、ワーク搬送方向に間隔を置いて配置された突起部が形成され、他方の治具部材には、上記突起部が嵌合する嵌合孔が形成され、上記各突起部は、ワークの幅方向の端縁に当接して前記端縁を搬送方向と略平行に位置決めする。
【0012】
上記搬送用治具において、好ましくは、前記突起は円柱状に形成され、前記嵌合孔は円形に形成されている。
【0013】
また、別の搬送用治具として、略水平姿勢に配置された略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から挟持する搬送用治具であって、上側治具部材と下側治具部材とを備え、両治具部材は、ワークの幅方向の端部の上下面にそれぞれ当接する摩擦係数の高い挟持面を有し、一方の治具部材には、該治具部材のワーク搬送方向の全長に亘って延びる筋状の段部が形成され、他方の治具部材には、上記段部が嵌合する嵌合溝が形成され、上記段部は、ワークの幅方向の端縁に当接して前記端縁を搬送方向と略平行に位置決めすることを特徴とする搬送用治具を提供する。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明による搬送方法によると、ワークの幅方向の両端部を、傾斜姿勢の搬送ローラにより上下から挟持し、かつ、両搬送ローラ装置のローラ挟持圧に差を持たせることにより、ワークを、幅方向の外方に引っ張りつつ、ローラ挟持圧の高い搬送ローラ装置側に引き寄せ、搬送ガイドに押し当てて搬送するので、ワークを、弛みが生じることなく、かつ、蛇行することなく、平面状態で、確実に搬送方向に沿って搬送することができ、搬送が円滑に行える。これにより、ワーク全面を均一に表面処理することができると共に、ワークの表面処理の品質を向上させることができる。
【0015】
(2)ワークの幅方向の両端部を、ワークの搬送方向の略全長に亘る搬送用治具で上下から挟持して、搬送することにより、極薄のワークであっても、搬送ローラ対の数を多く設置しなくとも、ワークの弛みを確実に防止し、平面状態で搬送することができる。
【0016】
(3)搬送用治具は、好ましくは、突起と嵌合孔とで相互に位置決めされる上側治具部材と下側治具部材を備え、上記突起を利用して、ワークの端縁の位置決めを行う構造としていると、簡単な構造で、所定の固定位置に、確実にワークを位置決めすることができる。
【0017】
(4)また、搬送用治具は、ワークに対して着脱自在に装着することが可能であるので、繰り返して利用することができ、コストの低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る搬送方法が実施される表面処理槽(洗浄槽)の概略断面図である。
【図2】図1のII-II断面拡大図である。
【図3】図2のIII-III断面拡大図である。
【図4】図1の矢印IV部分の拡大断面図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【図6】搬送ローラ装置の軸受の分解斜視図である。
【図7】搬送用治具の分解斜視図である。
【図8】図7の搬送用治具の正面図である。
【図9】搬送ローラ装置の変形例を示す平面図である。
【図10】本発明に係るワーク搬送方法における各工程を示す斜視図である。
【図11】搬送用治具の変形例を示す分解斜視図である。
【図12】図11の搬送用治具の正面図である。
【図13】搬送ローラ装置の変形例を示す平面図である。
【図14】本発明に係る別の搬送方法が実施される表面処理槽の図2と同様の断面拡大図、
【図15】本発明の実験例に用いる搬送ローラ装置の平面略図、
【図16】図15の装置に基づく実験結果を表すグラフ、
【図17】本発明の別の実験例に用いる搬送ローラ装置の断面拡大略図、
【図18】図17の装置に基づく実験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至図8は、本発明に係るワーク搬送方法を実施するための表面処理槽と、ワーク搬送用治具であり、まず、これらの図面に基づいて表面処理装置の一例を説明する。
【0020】
図1は表面処理槽全体の縦断面略図であり、表面処理槽として、プリント基板等の薄物ワークを連続的に洗浄する洗浄槽1を備えている。矢印Fがワーク搬送方向であり、また、説明の都合上、ワーク搬送方向と直交する水平方向を、「幅方向」あるいは「左右方向」と称し、以下説明する。
【0021】
洗浄槽1のワーク搬送方向Fの後端と前端には、ワーク入口2とワーク出口3とが設けられると共に、ローディング槽4とアンローディング槽5が接続されており、ローディング槽4内とアンローディング槽5内には、それぞれワークWを水平状態で搬入及び搬出するための搬送ローラ6,7が配置されている。
【0022】
洗浄槽1内には、複数の搬送ローラ対10を有するワーク搬送装置11と、複数の上側洗浄液ノズル12と、複数の下側洗浄液ノズル13と、が配置されている。前記搬送ローラ対10は、搬送方向Fに所定間隔を置いて配置されると共に、上下方向に対向する上側搬送ローラ15と下側搬送ローラ16から構成されており、両搬送ローラ15,16間で、ワークWが水平姿勢で通過するワーク搬送経路Aを構成している。ワーク搬送装置11の搬送速度は、たとえば、毎分0.5m〜2mである。なお、図1では、記載スペースの都合上、複数の搬送ローラ対10及び複数の洗浄液ノズル12,13の一部のみ符号を附し、残りは符号を省略している。
【0023】
各洗浄液ノズル12,13は、図示しないが複数の配管を介して洗浄液供給部に連通し、搬送経路A内を水平搬送されるワークWに対し、上側と下側から洗浄液を噴射し、ワークWの両面を洗浄するようになっている。洗浄槽1の下端部には、噴射された洗浄液がレベルL1まで溜まっている。
【0024】
図2は、図1のII-II断面拡大図、図3は図2のIII-III断面図であり、図3においては、前記図1と同様に、記載スペースの都合上、多数記載されている搬送ローラ15等に対し、一部のみに符号を附し、残りは符号を省略している。図2において、搬送ローラ装置11は、搬送方向Fと直交する幅方向(左右方向)の両側に配置されており、各搬送装置11は、ワークWの左右両端部を、搬送用治具18を介して上下の搬送ローラ15,16間で上下から挟持し、搬送するように構成されている。搬送ローラ15,16の材質は、たとえばゴムであり、エストラマ又は天然ゴムでも可能である。耐薬液性を有していることが好ましいので、金属あるいはテフロン樹脂(登録商標)でも可能である。
【0025】
搬送ローラ装置11の支持構造及び駆動構造を説明する。洗浄槽1内には、左右方向に間隔を置いて一対の内側支持壁41が立設されると共に、各内側支持壁41からそれぞれ左右方向の外方に間隔を置いた位置に、外側支持壁42が立設されている。前記各搬送ローラ15,16のローラ軸21,22は、前記内外の両支持壁41,42に、内外の軸受43,44を介して回転自在に支持されている。前記内側支持壁41には、上下の搬送ローラ15,16間のすき間(ローラ挟持圧)を調節するための隙間調節機構(ローラ圧調節機構)45が設けられている。
【0026】
各上側搬送ローラ軸21とこれに対応する各下側搬送ローラ軸22とは、それぞれ平ギヤ23、24を介して連動連結されている。
【0027】
各下側搬送ローラ軸22の下方には、左右の支持壁41,42に亘って動力伝達軸34が回転自在に架設されており、該動力伝達軸34の左右両端部近傍に設けられた複数の平ギヤ25に、各下側搬送ローラ軸22の平ギヤ24が噛み合っている。
【0028】
図3において、洗浄槽1内の左右方向の一端部、たとえば図3の左端部には、搬送方向Fと平行に延びる駆動軸31が配置されており、この駆動軸31の長さ方向の一端部は、動力伝達機構(図示せず)を介して駆動モータ等の駆動源に連結している。前記駆動軸31の途中には、搬送方向Fに等間隔を置いて各搬送ローラ対10に略対応する位置にベベルギヤ32が固着されており、各ベベルギヤ32は、前記各動力伝達軸34の左端部に固着されたベベルギヤ33に噛み合っている。
【0029】
すなわち、駆動モータ等により回転する駆動軸31の回転は、各ベベルギヤ32,33を介して動力伝達軸34に伝達され、該動力伝達軸34の左右両端部から、図2に示す平ギヤ24及び25を介して、下側搬送ローラ軸22及び上側搬送ローラ軸21にそれぞれ伝達され、各搬送ローラ15,16を、互いに反対方向に回転する。
【0030】
図3において、左右の上側搬送ローラ軸21の軸芯は、搬送方向Fと直角な幅方向(左右方向)に対して、左右方向の内方側が搬送方向F側にくるように、所定角度θ1でもって傾斜している。図2に示す各下側搬送ローラ軸22の軸芯も、前記上側搬送ローラ軸21と同じ角度θ1で持って、幅方向(左右方向)に対して傾斜している。
【0031】
搬送ローラ軸21,22を上記のように傾けた状態に支持するために、各軸受43,44に形成される軸受孔の中心線も、幅方向(左右方向)に対して前記所定角度θ1で傾斜しており、かつ、各外側軸受44に対し、各内側軸受43は、搬送方向F側にずれた位置に配置されている。
【0032】
また、各搬送ローラ軸21、22の途中には、外側軸受44の左右方向の内面に当接可能なストッパー46が固着されており、これにより、搬送ローラ軸21,22がローラ軸芯方向に移動するのを防止している。
【0033】
図4は、図1の矢印IV部分の拡大断面図であり、前記隙間調節機構45の構造を示している。内側軸受43には、下側搬送ローラ軸22用の円形の軸受孔47と、上側搬送ローラ軸21用の上下方向に長い軸受孔48とが形成されており、下側搬送ローラ軸22は径方向に移動不能に下側の軸受孔47に支持されているが、上側搬送ローラ軸21は、上下方向移動可能に上側の軸受孔48に支持されている。
【0034】
隙間調節機構45は、内側支持壁41の上面に取付ボルト55により固定されたケース51と、該ケース51の下壁を貫通して前記上側軸受孔48に上下方向移動可能に突入する押さえロッド52と、該押さえロッド52の上端面に連結されたコイルばね53と、該コイルばね53の上端に連結すると共にケース51の上壁のめねじ孔に螺挿された調節ねじ54と、を備えている。
【0035】
押えロッド52の下端は円弧形凹面に形成され、上側搬送ローラ軸21の上面に当接可能となっている。前記調節ねじ54の締め込み量を変更することにより、押えロッド52の上下方向の位置を調節し、これにより、上下の搬送ローラ15,16の隙間(ローラ挟持圧)を調節できるようになっている。
【0036】
図5は図4のV-V端面図であり、左右の搬送ローラ装置11は、それぞれローラ隙間調節機構45を備えているが、ローラ挟持圧を異なる値に設定している。該実施の形態では、左側の搬送ローラ装置11の上下の搬送ローラ15,16間の隙間が、右側の搬送ローラ装置11の上下の搬送ローラ15,16間の隙間よりも小さくなるように、調節されている。すなわち、左側の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧が右側搬送ローラ装置11のローラ挟持圧よりも大きくなるように、左右の前記隙間が設定されている。
【0037】
上記のように、左側の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧を高く設定している場合において、左側の内側軸受43の右端面には、搬送ガイドとして、摩擦係数の小さい、滑らかな面を有するガイドテープ60が貼付されている。すなわち、ローラ挟持圧を高く設定している側の内側軸受43の端面に、ガイドテープ60を貼り付けている。このガイドテープ60は、搬送経路Aを含む高さに配置されている。
【0038】
図6は、内側軸受43の分解斜視図であり、内側支持壁41には、上下方向に長く、上端が開口した軸受取付孔70が形成され、内側軸受43のワーク搬送方向Fの両端面には、前記軸受取付孔70の内周面に嵌合可能な溝71が形成されている。内側軸受43を上方から軸受取付孔70に嵌合し、図4のように、内側軸受43の上端面を、前記隙間調節機構45のケース51の下端面により、押さえ付けている。
【0039】
図7及び図8により、ワークWを保持するための搬送用治具18の構造を説明する。図7は搬送用治具18の分解斜視図であり、搬送用治具18は、ワーク搬送方向Fに細長い上側治具部材72と下側治具部材73とから構成されており、各治具部材72,73の長さは、ワークWの搬送方向の長さに略等しく設定されている。各治具部材72,73の材質は、たとえば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂であり、耐薬品性及び耐久性があるものが好ましい。
【0040】
下側治具部材73の上面には、下側治具部材73の長さ方向(ワーク搬送方向)に等間隔を置いて複数の円柱突起74が形成されている。各円柱突起74は、同一の形状及び同位置の大きさに形成されると共に、それらの中心が下側治具部材73の長さ方向と平行な一直線上に揃うように、下側治具部材73の幅方向の中央に配置されている。これにより、総ての円柱突起74の右端縁と左端縁とは、それぞれ下側治具部材73の長さ方向と平行な一直線上に位置している。各円柱突起74の左右の端縁と下側治具部材73の左右の端縁との間には、摩擦係数の大きい滑り止めテープ(摩擦テープ)75がそれぞれ貼り付けられている。滑り止めテープ75の幅は、ワークWの挟持幅となるものであり、ワークWの幅が400mm程度であれば、十分な挟持状態を維持するためには、滑り止めテープ75の幅(挟持幅)は、たとえば5mm〜10mm程度が必要である。この滑り止めテープ75の材質は、たとえば、軟質ポリ塩化ビニル(PVC)シリコンゴム又はゴム等の樹脂であり、耐薬品性及び耐久性に優れたものが好ましい。
【0041】
上側治具部材72には、前記下側治具部材73の各円柱突起74が嵌合する複数の嵌合孔76が、上側治具部材72の長さ方向(ワーク搬送方向)に等間隔を置いて形成されている。また、上側治具部材72の下面の左右両端部には、前記下側治具部材73の滑り止めテープ75と同様の滑り止めテープ77が貼り付けられている。
【0042】
なお、図示しないが、上下の治具部材72,73の四隅には、R面が形成されている。
【0043】
図9は、搬送ローラ装置11の変形例を示しており、駆動系を少し簡略化し、ワーク搬送方向Fにおけるローラ間隔を狭めると共に、動力伝達軸の数を減らしている。すなわち、前記図3の構造と比較して、左右の搬送ローラ装置11間を連結する動力伝達軸34を、一つ置きに間引くと共に、ワーク搬送方向Fに隣り合う下側搬送ローラ軸22(図9でな上側ローラ軸21の下側に隠れている)間を、一対のギヤ68,68及び中間ギヤ69により連結した構造である。その他の構造は、前記図1乃至図9の構造と同じである。
【0044】
[表面処理作業の全体の流れ]
図1において、プリント基板等の矩形状のワークWは、自動ローディング機構により、あるいは手動により、ローディング槽4の搬送ローラ6上に水平状態に供給され、該搬送ローラ6により、入口2を通って洗浄槽1内に搬送される。
【0045】
洗浄槽1内において、ワークWは、左右の搬送ローラ装置11により搬送方向Fに搬送され、上下の洗浄液ノズル12,13から噴射される洗浄液により洗浄され、出口3を通過してアンローディング槽5に排出される。アンローディング槽5では、ワークWは、自動アンローディング機構により、あるいは手動により、取り出され、たとえば次の工程に供給される。
【0046】
[ワーク搬送方法の一具体例及びその効果]
上記のような表面処理作業における具体的なワーク搬送方法を、図10等により説明する。なお、図10は、前記変形例で説明した搬送装置11を備えている場合の搬送過程を示している。
【0047】
(1)ローディング作業の前工程として、図10の右上端に示すように、矩形状ワークWの左右両端部を、それぞれ搬送用治具18により上下から挟持する。この挟持作業は、自動ローディング機構に付設される自動取付機構により自動で行うことも、手動で行うことも可能である。この挟持作業において、図8に示すように、ワークWの左右の端縁を下側治具部材73の円柱突起74に当接させることにより、ワークWと搬送用治具18との相対的な位置決めを行う。そして、円柱突起74を嵌合孔76に嵌合すると共に、上側治具部材72を下側治具部材73に重ね合わせることにより、上下の滑り止めテープ77,75間でワークWの左右の端部を挟持する。
【0048】
(2)図10に戻り、搬送用治具18により左右端部が挟持されたワークWは、ローディング槽4から洗浄槽1内に搬入され、左右の搬送用治具18が上下の搬送ローラ15,16間に挟持され、搬送ローラ15,16の回転により搬送方向Fに搬送される。この搬送過程において、図3のように、左右の搬送ローラ対10の軸芯は、左右方向の内方側が搬送方向F側にくるように所定角度θ1で傾斜しているので、ワークWは、左右の搬送用治具18を介して左右方向の外方に張力を受けた状態で搬送される。
【0049】
これにより、ワークWは、水平な平面状態を保ちながら搬送され、上下から洗浄液が勢いよく衝突しても、ワークが弛んだり、皺になったり、外れたりすることがない。また、水平な平面状態に維持されることにより、洗浄液が略均一にワーク全面に行き渡り、高品質の洗浄性能を得ることができる。
【0050】
特に、ワークWの左右両端部を、ワークの搬送方向Fの略全長に亘って搬送用治具18で挟持し、この搬送用治具18を上下の搬送ローラ15,16で挟持して搬送するので、各搬送ローラ装置11内での各搬送ローラ対10のローラ挟持圧に、若干のばらつきがあても、ワークWの搬送方向の全長を、均一に挟持することができ、これによって、ワークWの皺の発生、脱落及び蛇行を防止できる。
【0051】
(3)図5において、該実施の形態では、左側の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧を、右側の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧よりも大きくし、かつ、左側の内側軸受43の右端面に、摩擦係数の小さいガイドテープ60を貼り付けているので、ワーク搬送中、ワークWは、ローラ挟持圧の強い左側に引き寄せられ、ワークWの左側の搬送用治具18がガイドテープ60に当接した状態が維持される。すなわち、ワークWはガイドテープ60により正確に搬送方向Fにガイドされ、斜行することなく、正確に搬送経路A中を搬送される。
【0052】
また、該実施の形態では、内側軸受部材43毎にガイドテープ60を貼り付けているが、搬送治具18の四隅にR面を形成しているので、搬送用治具18が、一つの内側軸受43から次の内側軸受43に移行する時に該次の内側軸受43の端縁に当接しても、前記R面により、円滑に通過することができ、引っ掛かることがない。
【0053】
(4)図10において、洗浄後のワークWは、出口3からアンローディング槽5に排出され、排出されたワークWから搬送用治具18が外される。この搬送用治具18は、繰り返し、ワークWの搬送に利用される。
【0054】
[その他の実施の形態]
(1)図11及び図12は搬送用治具18の変形例である。前記図7及び図8に示す構造と同様に、細長い上側治具部材72と細長い下側治具部材73とから構成され、下側治具部材73には複数の円柱突起74が形成され、上側治具部材72には複数の円形の嵌合孔76が形成されており、これらの構成に加え、下側治具部材73の上面には左右幅の中央部に治具部材長さ方向に直線状に延びる筋状の段部80が形成され、上側治具部材72の下面には、前記段部80が嵌合する直線状の嵌合溝81が形成されている。また、段部80の左右両側方と嵌合溝81に左右両側方には、摩擦係数の高い滑り止めテープ75,77が貼り付けられている。
【0055】
前記円柱突起74及び嵌合孔76は、それぞれ段部80の上面と嵌合溝81の底面に形成されている。
【0056】
該変形例の搬送用治具18でワークWを挟持する場合には、図12に示すように、段部80の左右方向の一方の端面にワークWの左右の端縁を当接させることにより、ワークWと搬送用治具18との相対的な位置決めを行う。また、上下の治具部材72,73間の位置決めは、円柱突起74と嵌合孔76との嵌合構造に加え、段部80と嵌合溝81との嵌合によっても実施され、上下の治具部材72,93は強固に結合される。
【0057】
(2)前記図1等の例では、表面処理槽として、洗浄液ノズル12,13を有する洗浄槽を用いているが、無電解めっき用あるいは電気めっき用のめっき液が貯留されためっき槽、エッチング、剥離あるいは現像に利用する薬液が貯留された薬液槽におけるワーク搬送にも適用できる。
【0058】
(3)ワークの種類としては、主としてプリント基板が適用されるが、本発明は、特に、フレキシブル基板や厚さ0.06mm以下の極薄板等の表面処理の搬送に適している。
【0059】
(4)図13は、搬送ローラ対10の支持構造の変形例であり、前記図3の構造と比較して、内側軸受43(図3)を省略し、内側支持壁41に搬送ローラ軸21,22を直接支持する構造となっている。
【0060】
(5)搬送ガイドとして、内側軸受43の左右方向に内面にガイドテープ60を貼る構造の他に、搬送経路の略全長に亘る一本のガイド板を配置することも可能である。勿論このガイド板は、摩擦係数の低い、表面が滑らかな部材であって、耐久性及び耐薬品性の高い部材が使用される。なお、ガイドテープ60やガイド板を設けず、内側軸受43自体を搬送ガイドとすることも可能である。
【0061】
(6)図7及び図8のように、搬送用治具18の各治具部材72,73の挟持面に、摩擦係数の高い滑り止めテープ75,77を貼る代わりに、各治具部材72,73の表面に、細かい凹凸を設けたり、多数の微粒子を付着させたり、あるいは、面粗度を高く(粗く)することにより、滑り止め機能を発揮させることもできる。
【0062】
(7)図14は、搬送治具を用いない搬送方法を示しており、前記図2と同様の断面拡大図であり、図2と同じ部品には同じ符号を附してある。この図14に示す搬送方法は、ワークWの幅方向の両端部を、直接、上下の搬送ローラ15,16で挟持し、搬送する。搬送治具を用いないこと以外は、前記図1乃至図13の方法と同様であり、同様の効果がある。この方法は、厚みが、たとえば500μm以上の剛性の高いワークWを搬送する場合に適している。
【0063】
(8)前記図1等の例では、上下の搬送ローラ15,16の総てに挟持圧が設定されているが、一部の搬送ローラ15,16だけに前記挟持圧の設定を適用することもできる。たとえば、挟持圧が設定される搬送ローラ対10が、搬送治具又はワークに少なくとも2対ずつ常に接するようにすることもできる。
【0064】
[実験例]
本願発明による効果を立証するために、次の実験1及び2を行った。
(実験1)
図15は実験1の実験装置の平面略図を示し、図16は図15の実験装置を使用した実験結果を示している。この実験1は、左右の搬送ローラ装置11の挟持圧に差を付けることにより、ワークWが一方の搬送ガイド60側に引き寄せられることを実証する実験である。具体的には、左右の搬送ローラ装置11の挟持圧差と、ワークWの幅方向の移動量との関係を、実験により求めたものである。
【0065】
図15において、実験装置は、基本的には、前記図1乃至図13と同様な構造の左右一対の傾斜状の搬送ローラ装置11を備えており、図1乃至図13と同じ部品には同じ符号を附している。また、搬送ローラ対10の数は一対のみ表示し、残りは省略してある。
【0066】
図15において、実験条件は、以下の通りである。
(1)左側の搬送ローラ装置11の挟持圧を、50Nに固定し、右搬の送ローラ装置11の挟持圧を、左側の搬送ローラ装置11の挟持圧よりも低く、25N〜47Nの間で5段階に変化させる。
【0067】
(2)ワークWのローディング位置(LP)において、左側の搬送ガイド(ガイドテープ)60から左側搬送治具72(73)の左端までの距離B1を、6mmにセットする。
【0068】
(3)ワークWの搬送距離Aを3mとする。
【0069】
(4)ワークWの厚みを、50μmとする。
【0070】
(5)ローディング位置LPからアンローディング位置ULPまでの上記距離Aを搬送後、ワークWが左側に移動した量(距離)B2を測定する。
【0071】
(6)上記搬送実験を5回ずつ繰り返し、その平均値を図16の表にプロットする。
【0072】
(実験2)
図17は実験2の実験装置の断面略図を示し、図18は図17の実験装置を使用した実験結果を示している。この実験2は、ワーク搬送中、ワークWの表裏両面にシャワー水を当て、ワークWの幅方向の中央の撓み量δを測定する実験である。
【0073】
図17において、実験条件は、以下の通りである。
(1)左側の搬送ローラ装置11の挟持圧を、50Nに固定し、右側の搬送ローラ装置11の挟持圧を、左側の搬送ローラ装置11の挟持圧よりも低く、25N〜47Nの間で5段階に変化させる。
【0074】
(2)ワーク搬送中、12メガパスカルのシャワー水をワークWの表裏全面に吹き付ける。
【0075】
(3)ワークWの搬送距離Aを3mとする(図15参照)。
【0076】
(4)ワークWの厚みを、50μmとする。
【0077】
(5)前記図15のローディング位置LPからアンローディング位置ULPまでの距離Aを搬送後、図17のように、ワークWの幅方向の中央部の撓み量δを測定する。
【0078】
(6)上記搬送実験を5回ずつ繰り返し、その平均値を図18の表にプロットする。
【0079】
(実験1及び2の実験結果に基づく結論)
(1)図16に示すように、片方(右側)のローラ挟持圧を低くする程、搬送距離当たりのワークWの幅方向の移動量B2は大きくなるが、一方、図18に示すように、ワークWの中央部の撓み量δも大きくなることが分かる。
【0080】
(2)前記実験1及び2の結果を考慮すると、左右の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧(N)の比が、左側:右側=1:0.9〜1:0.4程度であるのが好適であり、この範囲においては、ワークWの幅方向の移動が速やかに行われ、かつ、ワークWの中央部の撓み量δも小さく保つことができる。
【0081】
(3)なお、左右の搬送ローラ装置11のローラ挟持圧、ワークの厚み、ワークの外径寸法、ワークの性質、シャワー圧、搬送治具の有無等の要因を考慮して、ワークが押し潰されず、なおかつ、ワークが搬送ローラ15,16から滑落しない程度の範囲で設定される。
【符号の説明】
【0082】
1 洗浄槽(表面処理槽の一例)
10 搬送ローラ対
11 搬送ローラ装置
15 上側搬送ローラ
16 下側搬送ローラ
18 搬送用治具
45 隙間調節機構
60 ガイドテープ(搬送ガイド)
72 上側治具部材
73 下側治具部材
74 円柱突起
75,77 滑り止めテープ
76 嵌合孔
80 段部
81 嵌合溝
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に対向する搬送ローラからなる搬送ローラ対がワーク搬送方向に所定間隔をおいて、複数配設された搬送ローラ装置を、ワーク搬送経路の幅方向の両側に備え、前記各搬送ローラ対のローラ軸芯を、上方から見て、上記幅方向の内方側が搬送方向側にくるように傾斜させ、上記両搬送ローラ装置により、略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から把持し、ワークを略水平状態で搬送する表面処理槽のワーク搬送方法において、
前記ワーク搬送経路の幅方向の両側のうち、少なくとも一方に、ワーク搬送経路と略平行に延びる搬送ガイドが敷設され、
前記一対の搬送ローラ装置のうち、前記搬送ガイドが配置されている側の搬送ローラ装置のローラ挟持圧を、他方の搬送ローラ装置のローラ挟持圧よりも高く設定し、
上記ローラ挟持圧の差によって、ワークを搬送ガイド側に引き寄せると共に、前記搬送ガイドに押し当て、搬送方向にガイドする表面処理槽のワーク搬送方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理槽のワーク搬送方法において、
前記ワークの幅方向の両端部を、ワークの搬送方向の略全長に亘って搬送用治具により上下から挟持し、
各搬送用治具をそれぞれ対応する側の搬送ローラ装置の搬送ローラ対で上下から挟持し、
各各搬送ローラ対の回転により、幅方向両側の両搬送用治具を介してワークを幅方向の外方に引っ張りつつ、搬送することを特徴する表面処理槽のワーク搬送方法。
【請求項3】
略水平姿勢に配置された略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から挟持する搬送用治具であって、
上側治具部材と下側治具部材とを備え、
両治具部材は、ワークの幅方向の端部の上下面にそれぞれ当接する摩擦係数の高い挟持面を有し、
一方の治具部材には、ワーク搬送方向に間隔を置いて配置された突起部が形成され、他方の治具部材には、上記突起部が嵌合する嵌合孔が形成され、
上記各突起部は、ワークの幅方向の端縁に当接して前記端縁を搬送方向と略平行に位置決めすることを特徴とする搬送用治具。
【請求項4】
請求項3に記載の搬送用治具において、
前記突起は円柱状に形成され、前記嵌合孔は円形に形成されている搬送用治具。
【請求項5】
略水平姿勢に配置された略矩形状のワークの幅方向の両端部を上下から挟持する搬送用治具であって、
上側治具部材と下側治具部材とを備え、
両治具部材は、ワークの幅方向の端部の上下面にそれぞれ当接する摩擦係数の高い挟持面を有し、
一方の治具部材には、該治具部材のワーク搬送方向の全長に亘って延びる筋状の段部が形成され、他方の治具部材には、上記段部が嵌合する嵌合溝が形成され、
上記段部は、ワークの幅方向の端縁に当接して前記端縁を搬送方向と略平行に位置決めすることを特徴とする搬送用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−6183(P2011−6183A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150001(P2009−150001)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【出願人】(504455610)ヘルミューラー マシネンバウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】