説明

表面処理用治具及び表面処理方法

【課題】 作業効率の向上と歩留まりの向上を両立できる表面処理用治具及びこれを用いた表面処理方法を提供すること。
【解決手段】複数の被処理用素体1の表面処理に用いる表面処理用治具10であって、複数の被処理用素体1をそれぞれ収容し一定方向Aに沿って直列に配列される複数の素体収容部2、複数の素体収容部2を隣接する素体収容部2の境目で折曲げ可能に連結する連結部5a,5bを備え、複数の素体収容部2が開口4bを有する。表面処理用治具10が表面処理液に浸漬されると、表面処理液が各素体収容部2の開口4bを通して素体収容部2に入り込み、被処理用素体1が表面処理液中に浸漬される。これにより、被処理用素体1の全面を一度に表面処理液で表面処理可能となる。また、各被処理用素体1は各素体収容部2に収容されているので、被処理用素体1同士の衝突が十分に防止され、被処理用素体1の欠けを十分防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば希土類磁石を構成する磁石素体等の被処理用素体を表面処理する表面処理用治具及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高性能を有する永久磁石として希土類磁石が知られている。これらは、従来の空調機、冷蔵庫のような家庭用電化製品のみならず、産業機械、ロボット、燃料電池車やハイブリッドカー等の駆動用モータへの応用が検討されており、これらの小型化、省エネルギー化を実現し得るものとして期待されている。このような希土類磁石のなかでも、R−Fe−B(Rは希土類元素)系の磁石は、特に高い磁気特性を有することから注目を集めている。かかるR−Fe−B系の希土類磁石としては、例えば、下記特許文献1や下記特許文献2に記載されたものが公知である。
【0003】
これらのR−Fe−B系の希土類磁石は、25MGOeを超えるような高いエネルギー積を示す高性能磁石である。しかしながら、磁石の主成分として希土類元素及び鉄を含有していることから極めて酸化されやすく、また、温度に対する耐性が低いという性質を有していた。このため、これらの磁石は耐食性が低い傾向にあり、長期使用による経時的な磁気特性の劣化を避けることが困難であった。
【0004】
そこで、近年では、このようなR−Fe−B系の希土類磁石の耐食性を向上させることを目的として、磁石素体の表面に保護層を形成することが試みられている。例えば、下記特許文献3には、磁石素体の表面にめっきにより耐酸化性金属被膜を形成し、これにより磁石の耐酸化性を向上させた希土類磁石が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献4には、磁石素体の表面に樹脂被膜を形成させ、これにより磁石の耐酸化性を向上させた希土類磁石が記載されている。さらに、下記特許文献5には、磁石素体の表面にゾル−ゲル法により金属酸化物からなる緻密な被膜を形成させ、これにより磁石の耐食性や耐アルカリ性を向上させた希土類磁石が記載されている。
【0006】
そして、上記のように磁石素体の全表面を処理して磁石素体の表面に保護層を形成する方法として、例えばシリコーン中に金属フレーク、錯化剤を分散させた処理液をスプレー状に塗布する、いわゆるスプレー塗布法が知られている(例えば特許文献6参照)。
【特許文献1】特開昭59−46008号公報
【特許文献2】特開昭60−9852号公報
【特許文献3】特開昭60−54406号公報
【特許文献4】特開昭60−63901号公報
【特許文献5】特開2001−76914号公報
【特許文献6】特開2003−158006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、磁石素体を処理液によって表面処理する場合、得られる磁石において、例えば形状寸法、表面硬度、耐食性、接着剤使用時の接着性等の特性むらを低減するため、磁石素体の全面に処理液を均一に塗布することが必要である。
【0008】
しかしながら、上述したスプレー塗布法では、磁石素体の全面に処理液を均一に塗布しようとすると、磁石素体の全面を同時に塗布することはできない。このため、各面に処理液を塗布する作業が必要となり、作業に多大な時間がかかり、作業効率が著しく低くなる。また素体部分以外への噴霧が生じるため処理液のロスが大きい。
【0009】
ここで、表面処理の作業効率および処理液の使用効率を向上させるために、複数の磁石素体に対し、バレルめっき、バレルスプレー、ディップスピン等により一括して表面処理を行うことも考えられる。しかし、これでは磁石素体同士の衝突により欠けが生じたり、磁石素体同士が平面あるいは凹凸が一致するような曲面をもつ場合に貼り付くなどの不都合があり、磁石素体の全表面を均一に処理することができない。すなわち、バレルめっき等の方法で磁石素体の表面処理を行うと、作業効率は向上するものの、製品の歩留まりが低下する。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、作業効率の向上と歩留まりの向上を両立させることができる表面処理用治具及びこれを用いた表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の被処理用素体の表面処理に用いる表面処理用治具であって、複数の被処理用素体をそれぞれ収容し且つ一定方向に沿って直列に配列される複数の素体収容部と、複数の素体収容部を隣接する素体収容部同士の境目で折曲げ可能に連結する連結部とを備え、複数の素体収容部がそれぞれ少なくとも1つの開口を有する。
【0012】
この表面処理用治具によれば、複数の被処理用素体が素体収容部に収容される。そして、素体収容部を表面処理液に浸漬すると、表面処理液が各素体収容部の開口を通して素体収容部に入り込み、被処理用素体が表面処理液中に浸漬される。これにより、被処理用素体の全面を一度に表面処理液で表面処理することが可能となる。また、各被処理用素体は各素体収容部に収容されているので、被処理用素体同士の衝突が十分に防止され、被処理用素体の欠けを十分に防止することが可能となる。
【0013】
本発明の表面処理用治具においては、具体的には、連結部が可撓性を有し且つ複数の素体収容部の配列方向に沿って延びている。
【0014】
本発明の表面処理用治具においては、被処理用素体が板状体である場合に、素体収容部が湾曲部を有することが好ましい。この場合、被処理用素体と素体収容部との接触部分を十分に低減することができ、被処理用素体の表面をより均一に処理することができる。
【0015】
また本発明の表面処理方法は、上記表面処理用治具の複数の素体収容部に被処理用素体を収容する素体収容工程と、複数の素体収容部に収容された被処理用素体を表面処理液中に浸漬して被処理用素体の表面に表面処理液を塗布する浸漬塗布工程と、表面処理用治具を、回転軸を囲むように湾曲形状又は渦巻き形状にした状態で被処理用素体を遠心分離し、表面処理液の一部を除去する遠心分離工程と、表面処理液を熱処理する熱処理工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
この表面処理方法によれば、被処理用素体を表面処理用治具の各素体収容部に収容して表面処理液中に浸漬させるため、表面処理液が各素体収容部の開口を通して素体収容部に入り込み、被処理用素体が表面処理液中に浸漬される。これにより、被処理用素体の全面を一度に表面処理液で表面処理することが可能となる。また、遠心分離後に、表面処理用治具を、湾曲した形状又は渦巻き形状からフラット形状に容易に変形させることができるため、被処理用素体を1つずつ取り出し、再配列する作業を省略することができる。更に、各被処理用素体は各素体収容部に収容されているので、被処理用素体同士の衝突が十分に防止され、被処理用素体の欠けを十分に防止することが可能となる。また表面処理用治具を、回転軸を囲むように湾曲させ又は渦巻き形状にした状態で表面処理用治具を遠心分離することで、例えば表面処理用治具をフラット形状に展開した状態で遠心分離を行う場合や表面処理用治具に複数の被処理用素体を碁盤目状に配列した状態で遠心分離を行うような場合に比べて、各被処理用素体に加わる遠心力の差を小さくすることができ、複数の被処理用素体の表面を表面処理液で均一に処理することができる。
【0017】
上記表面処理方法は、上記表面処理液がゾル液、樹脂塗料及び水ガラスからなる群より選ばれる1種である場合に、特に有効である。
【0018】
上記表面処理方法は、被処理用素体が金属磁石である場合に特に有効である。即ち、被処理用素体が金属磁石である場合、金属磁石は、比較的大きな平面あるいは凹凸が一致するような曲面をもつため、表面処理に際して、被処理用素体同士が貼り付きやすくなるが、上記表面処理方法によれば、そのような事態を防止でき、被処理用素体を均一に表面処理できる。また、複数の被処理用素体を表面処理する場合でも、複数の被処理用素体同士の衝突を十分に防止できるので、上記表面処理方法は、被処理用素体が、特に衝突による欠けを生じやすい金属磁石である場合に有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の表面処理用治具及びこれを用いた表面処理方法によれば、作業効率の向上と歩留まりの向上を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(表面処理用治具)
まず本発明の表面処理方法の実施形態についての説明に先立ち、表面処理方法に使用する本発明の表面処理用治具の一実施形態について詳細に説明する。ここでは、被処理用素体として平板状の希土類金属磁石素体を用いる場合を例として説明する。
【0022】
図1は、本発明の表面処理用治具の一実施形態を示す平面図、図2は、図1の表面処理用治具を示す正面図、図3は、図1の表面処理用治具を示す側面図である。
【0023】
図1〜図3に示すように、本実施形態の表面処理用治具10は、磁石素体1を収容する素体収容部2を複数備えており、複数の素体収容部2は、一定方向Aに沿って直列に配列されている。各素体収容部2は、矩形状の素体収容口4aを有するメッシュ状のバスケット4で構成されており、複数の開口4bを有している。バスケット4は、例えば複数本の棒状部材を格子状に組み立てることによって構成されている。従って、表面処理用治具10が液体中に浸漬されると、液体が素体収容口4a及び開口4bから入り込み、磁石素体1が液体中に浸漬される。バスケット4は、強靭で成形が容易な点からSUSで構成されることが好ましいが、SUS以外の金属、樹脂、繊維強化プラスチックで構成されてもよい。なお、バスケット4は、浸漬塗布工程中に液体が入り込み且つ遠心分離工程中に液体が排出されるように少なくとも1つの開口を有していればメッシュ状に限られず、例えばスリット状、孔の開いた板状であっても構わない。
【0024】
ここで、バスケット4は湾曲部4cを有することが好ましい。この場合、平板状の磁石素体1が素体収容部2に収容されても、平板状の磁石素体1と湾曲部4cとが点接触又は線接触するため、磁石素体1とバスケット4の湾曲部4cとの接触部分の面積を十分に低減することができ、磁石素体1の表面処理に際して、磁石素体1の表面を均一に処理することができるという利点がある。
【0025】
複数の素体収容部2は連結部5によって連結されている。連結部5は、例えば可とう性を有する一対のワイヤ5a,5bによって構成されている。ワイヤ5a,5bは、素体収容部5の配列方向Aに沿って延びており、各素体収容部5に固定されている。ワイヤ5a,5bは、具体的には、各素体収容部2に設けられるアンカー6に引っ掛けられることによって各素体収容部2に固定されている。アンカー6は環状となっており、ワイヤ5a,5bを挿入することが可能となっている。このようなワイヤ5a,5bは、複数の素体収容部2を、隣接する素体収容部2同士の境目で折曲げ可能に連結している。従って、表面処理用治具10は、全体として湾曲した形状や渦巻き状に変形することが可能となっている。ワイヤ5a,5bはいずれも、例えば複数の細線をよったSUSロープ(例:1×7構成の公称径0.6mmφ)や超弾性ニッケルチタン合金線で構成される。
【0026】
(整列治具)
次に、表面処理用治具10の整列治具について説明する。図4は、表面処理用治具10の整列治具の一例を示す斜視図、図5は、図4の整列治具に図1の表面処理用治具を巻き付けた状態を示す斜視図である。図6は、図4の整列治具に図1の表面処理用治具を渦巻き状に巻き付けた状態を示す平面図である。
【0027】
図4に示すように、整列治具20は、表面処理用治具10を載置する載置面21aを有する円板状の鍔部21と、鍔部21の中央から載置面21aに垂直に延びる円筒状又は円柱状の整列部22と、整列部22に設けられるハンドル23とを備えて構成されている。この整列治具20を用いると、表面処理用治具10を載置面21a上に載置して整列部22に巻き付けることにより、表面処理用治具10を、整列部22の中心軸線を囲むように湾曲させたり、渦巻形状にすることが容易となる(図5、図6参照)。また整列治具20はハンドル23を有するため、整列治具20を液体へ浸漬する作業や、整列治具20を液体中に浸漬した後遠心分離するまでの作業が容易となる。尚、鍔部21および整列部22は、磁石素体1を液体中に効率よく浸漬させる観点からは、例えばメッシュ状となっていることが好ましい。
【0028】
(表面処理方法)
次に、上述した表面処理用治具10及び整列治具20を用いた磁石素体1の表面処理方法について説明する。
【0029】
まず被処理用素体として平板状の磁石素体1を準備する。
【0030】
次に、磁石素体1を、表面処理用治具10の複数の素体収容部2に収容する(素体収容工程)。この場合、磁石素体1を素体収容口4aから収容すればよい。
【0031】
次に、表面処理用治具10を、整列治具20の載置面21a上に載置して整列部22に渦巻き状に巻き付ける。そして、ハンドル23を持ち、整列治具20を表面処理液に浸漬させることで複数の磁石素体1を表面処理液中に浸漬させて磁石素体1の表面に表面処理液を塗布する(浸漬塗布工程)。
【0032】
続いて、整列治具20を表面処理液から引き上げ、整列治具20を、整列部22の中心軸線と、遠心分離機の回転中心軸とが一致するように遠心分離機に固定する。この状態で遠心分離機を作動させると、遠心分離により磁石素体1の表面に塗布された表面処理液の一部が除去される。
【0033】
遠心分離終了後又は遠心分離と同時に、磁石素体1を表面処理用治具10に収容した状態で熱処理する(熱処理工程)。これにより磁石素体1を乾燥させる。なお、磁石素体1の乾燥後、更に必要に応じて焼成又は加熱硬化処理を行ってもよい。この場合、磁石素体1を均一に加熱するために、整列治具20から表面処理用治具10を取り外し、表面処理用治具10をフラット形状に変形させる。こうして磁石素体1の表面処理が完了する。
【0034】
上記のような磁石素体1の表面処理方法によれば、磁石素体1を表面処理用治具10の各素体収容部2に収容して表面処理液中に浸漬させるため、表面処理液が各素体収容部2の開口を通して素体収容部2に入り込み、磁石素体1が表面処理液中に浸漬される。これにより、磁石素体1の全面を一度に表面処理液で表面処理することが可能となる。また、上記表面処理方法によれば、遠心分離後に、表面処理用治具10を、渦巻き状からフラット形状に容易に変形させることができるため、磁石素体1を1枚ずつ取り出し、再配列する作業を省略することができる。このため、磁石素体1の表面処理作業の効率を十分に向上させることができる。
【0035】
更に、各磁石素体1は各素体収容部2に収容されているので、磁石素体1同士の衝突が十分に防止され、磁石素体1の欠けを十分に防止することが可能となる。このため、得られる磁石の歩留まりを向上させることができる。
【0036】
また表面処理用治具10は、整列治具20により整列治具20の整列部22の中心軸を囲むように渦巻き形状とされており、遠心分離機において、整列部22の中心軸と、遠心分離機の回転軸とが一致されている。このため、表面処理用治具10を遠心分離することで、例えば表面処理用治具をフラット形状に展開した状態で遠心分離を行う場合や表面処理用治具に複数の被処理用素体を碁盤目状に配列した状態で遠心分離を行うような場合に比べて、複数の磁石素体1に加わる遠心力の差を小さくすることができ、複数の磁石素体1の表面を表面処理液で均一に処理することができる。
【0037】
表面処理液としては、ゾル液、樹脂塗料、水ガラス、洗浄液又はエッチング液が挙げられる。これらのうち、上記表面処理方法は、表面処理液がゾル液、樹脂塗料、水ガラスのいずれかである場合に特に有効である。これは、ゾル液、樹脂塗料、水ガラスは、磁石素体1の酸化、腐食を防止するために磁石素体1の表面に膜を形成するものであり、このような膜の厚さの均一性が、磁石の耐食性に直接的に影響を与えるためである。但し、表面処理液は洗浄液又はエッチング液であってもよい。これは、磁石素体1の表面に膜は形成されないが、磁石素体1の洗浄度合や磁石素体1へのエッチング度合が間接的に磁石の性能に影響を与えるためである。
【0038】
ゾル液は、磁石素体1の耐食性を向上させるための金属酸化物層の形成に使用され、かかるゾル液としては、例えばSi、B、Al、Mg、Ti、Zrのうちの1種又は2種以上の金属元素を主成分とする金属アルコキシドを含むものを用いることができる。この場合、熱処理において、表面処理液の乾燥及び焼成が行われる。これにより、磁石素体1の表面上に金属酸化物層が形成される。
【0039】
樹脂塗料は、磁石素体1の耐食性を向上させるための樹脂層の形成に使用され、かかる樹脂塗料としては、例えば耐食性及び耐熱性を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メラニン樹脂、ウレタン樹脂から選択される1種または2種以上の樹脂成分を含有する塗料が用いられる。この場合、熱処理において、表面処理液の乾燥及び加熱硬化が行われ、磁石素体1の表面に樹脂層が形成される。ここで、樹脂層の厚さは例えば3〜20μmである。
【0040】
洗浄液は、磁石素体1の表面汚染物質の除去に使用され、かかる洗浄液としては、純水又はアルコールなどの溶媒に数%程度の洗剤を添加したもの、あるいはアルカリ、有機溶剤等の脱脂処理剤などが用いられる。
【0041】
エッチング液は、磁石素体1の表面における加工歪層や反応層といった表面変質層の除去に使用され、かかるエッチング液としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸又はこれらの混酸やこれらの水溶液、あるいは有機酸が用いられる。
【0042】
表面処理液の粘度は通常、0.1〜30mPa・sである。粘度が30mPa・sを超えると、粘度が上記範囲内にある場合に比べて、磁石素体1の表面に対して均一に処理又は成膜を行うことが困難となる傾向がある。一方、粘度が0.1mPa・s未満では、粘度が上記範囲内にある場合に比べて、素体の耐食性を満たすために必要な膜厚が得られない傾向がある。特に、表面処理液がゾル液や樹脂塗料である場合、所望の耐食性能を満たすためには、ある一定以上の膜厚が必要とされるため、粘度が上記範囲内の値となるように固形分濃度をなるべく高くする必要がある。この場合、固形分濃度は通常は、1〜50質量%である。
【0043】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、連結部5は、例えば可とう性を有する一対のワイヤ5a,5bによって構成され、ワイヤ5a,5bは、素体収容部2の配列方向Aに沿って延びているが、連結部は、隣接する素体収容部2同士の間にそれぞれ設けられてもよい。この場合、一方の素体収容部2に軸を設け、他方の素体収容部2に軸を挿入する受け部を設け、受け部に対して軸を回転可能に構成することによって連結部が構成される。または、連結部は、隣接する素体収容部2同士を直接連結するものであってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、被処理用素体として、希土類金属磁石素体1を例にして説明したが、被処理用素体は、希土類金属磁石素体1以外のものであっても構わない。このような被処理用素体としては、例えば圧電素子、磁歪素子、ハイブリッドICなどの複合モジュール素子などが挙げられる。また磁石素体1の形状も平板状に限られるものではなく、例えば湾曲した板状であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
まず幅25mm×長さ55mm×厚さ5mmの平板状R−Fe−B系金属磁石を磁石素体として用意した。
【0047】
一方、樹脂として、JIS K5554 フェノール樹脂系雲母状酸化鉄塗料(商品名:関西ペイント社製フェロドールF33)を用意し、シンナーとしてメチルエチルケトン40質量%、メチルイソブチルケトン40質量%及びキシレン20質量%の混合液を用意した。そして、これらを以下の割合となるように容器中で混合した後、攪拌機にて十分に攪拌して表面処理液としての樹脂塗料を得た。
樹脂:20質量部
溶剤:80質量部
【0048】
次に、図1〜3に示す構成の表面処理用治具を用意した。ここで、素体収容部の個数は、150個とした。また素体収容部はSUSで構成し、連結部としてのワイヤはφ0.5mmの超弾性ニッケルチタン合金線で構成した。そして、各素体収容部に上記磁石素体を収容した。
【0049】
また図4に示す構成の整列治具を用意した。
【0050】
次に、表面処理用治具を、整列治具の載置面上に載置して整列部に渦巻き状に巻き付けた。そして、整列治具を樹脂塗料に5秒間浸漬させることで複数の磁石素体を樹脂塗料中に浸漬させて磁石素体の表面に樹脂塗料を塗布した。
【0051】
続いて、整列治具を樹脂塗料から引き上げ、整列治具を、整列部の中心軸線と、遠心分離乾燥機の回転中心軸とが一致するように遠心分離乾燥機に固定した。この状態で遠心分離乾燥機を作動させ、遠心分離を行い、樹脂塗料の一部を除去した。このとき、樹脂塗料の乾燥も行った。遠心分離乾燥機の回転数は500rpmで遠心分離の時間は20秒間とした。
【0052】
遠心分離終了後、整列治具を遠心分離機から取り出し、整列治具から表面処理用治具を取り外し、表面処理用治具をフラット形状に展開させた。そして、表面処理用治具から、樹脂塗料が塗布された磁石素体をトレー上にあけた。
【0053】
続いて、150℃で20分間、樹脂塗料の加熱硬化処理を施した。そして、この磁石素体に対し、樹脂塗料への浸漬から加熱硬化処理までの工程を再度行った。つまり、磁石素体に対して合計2回の塗装を施した。
【0054】
こうして磁石素体の表面上に樹脂層を形成し、希土類磁石を得た。
【0055】
(比較例1)
幅25mm×長さ55mm×厚さ5mmの平板状R−Fe−B系金属磁石を磁石素体として用意した。
【0056】
一方、樹脂として、JIS K5554 フェノール樹脂系雲母状酸化鉄塗量(商品名:関西ペイント社製フェロドールF33)を用意し、シンナーとしてメチルエチルケトン40質量%、メチルイソブチルケトン40質量%及びキシレン20質量%の混合液を用意した。そして、これらを以下の割合となるように容器中で混合した後、攪拌機にて十分に攪拌して表面処理液としての樹脂塗料を得た。
樹脂:40質量部
溶剤:60質量部
【0057】
次に、磁石素体150個をSUS網トレー上に25個×6列に配置した。
【0058】
次に、磁石素体上に樹脂塗料をスプレー噴霧した。スプレー条件を以下に示す。
スプレーガンと素体の距離:25cm、
吐出量 :100cc/min、
霧化圧 :1.0kgf、
スプレーガンスピード :100mm/sec
【0059】
次に、レベリング時間を1分間おいた後、即ち、レべリングのために磁石素体を1分間放置した後、150℃で20分間、樹脂塗料の加熱硬化処理を施した。加熱硬化工程後、すべての磁石素体を反転して、樹脂塗料のスプレー噴霧から加熱硬化処理までの工程を再度行った。つまり、磁石素体に対して合計2回の塗装を施した。
【0060】
実施例1及び比較例1で得られた希土類磁石については、いずれも加熱ムラが低減されていたが、実施例1では、乾燥工程を除く磁石素体のセットから樹脂塗装までのトータルの作業時間は5分であったのに対し、比較例1ではトータルの作業時間は15分であった。このことから、実施例1の表面処理方法よれば、比較例1の表面処理方法に比べて製品の歩留まりが改善され且つ作業効率が大幅に改善されることが分かった。
【0061】
従って、本発明の表面処理用治具及びこれを用いた表面処理方法によれば、作業効率の向上と歩留まりの向上を両立させることができることが確認された。
【0062】
更に実施例1において塗料の使用効率は60%、比較例1において塗料の使用効率は20%と、塗料使用効率も大幅に改善されることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の表面処理用治具の一実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明の表面処理用治具の一実施形態を示す正面図である。
【図3】本発明の表面処理用治具の一実施形態を示す側面図である。
【図4】図1の表面処理用治具の整列を補助する整列治具の一例を示す斜視図である。
【図5】図4の整列治具に図1の表面処理用治具を巻き付けた状態を示す斜視図である。
【図6】図4の整列治具に図1の表面処理用治具を巻き付けた状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…磁石素体(被処理用素体)、2…素体収容部、4a,4b…開口、4c…湾曲部、5a,5b,5…連結部、10…表面処理用治具、A…一定方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被処理用素体の表面処理に用いる表面処理用治具であって、
前記複数の被処理用素体をそれぞれ収容し且つ一定方向に沿って直列に配列される複数の素体収容部と、
前記複数の素体収容部を隣接する素体収容部の境目で折曲げ可能に連結する連結部とを備え、
前記複数の素体収容部がそれぞれ少なくとも1つの開口を有する、
表面処理用治具。
【請求項2】
前記連結部が可撓性を有し且つ前記複数の素体収容部の配列方向に沿って延びている、請求項1に記載の表面処理用治具。
【請求項3】
前記素体収容部が湾曲部を有する、請求項1又は2に記載の表面処理用治具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理用治具の前記複数の素体収容部に前記被処理用素体を収容する素体収容工程と、
前記複数の素体収容部に収容された被処理用素体を表面処理液中に浸漬して前記被処理用素体の表面に前記表面処理液を塗布する浸漬塗布工程と、
前記表面処理用治具を、回転軸を囲むように湾曲形状又は渦巻き形状にした状態で前記被処理用素体を遠心分離し、前記表面処理液の一部を除去する遠心分離工程と、
前記表面処理液を熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項5】
前記表面処理液が、ゾル液、樹脂塗料及び水ガラスからなる群より選ばれる1種である、請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記被処理用素体が金属磁石である、請求項4又は5に記載の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−239487(P2006−239487A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55009(P2005−55009)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】