説明

表面処理装置、表面処理方法

【課題】基板表面における薬液の古液の排出性、液交換性が向上した表面処理装置、表面処理方法を提供すること。
【解決手段】本適用例の表面処理装置は、フレキシブル回路基板10の基材1を第1の方向(X方向)に搬送する搬送機構と、搬送機構に対向すると共に、第1の方向と交差する第2の方向(Y方向)に配列した複数の薬液噴射部101L,101C,101Rと、複数の薬液噴射部101L,101C,101Rを第2の方向に往復移動させる移動機構106と、複数の薬液噴射部101L,101C,101Rからの薬液の噴射を制御する噴射制御部と、を備え、噴射制御部は、往復移動に伴って複数の薬液噴射部101L,101C,101Rにおける薬液の噴射条件を第2の方向における配列順に順次可変させた。噴射条件としては、噴射圧力、噴射流量、噴射タイミングが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板を製造するための表面処理装置、表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配線基板の製造方法として、プリント配線板製造用基板にエッチング液をスプレー方式を用いて噴き付けるエッチング方法およびエッチング装置が知られている(例えば、特許文献1)。
上記エッチング装置は、エッチング液を複数のスプレーヘッドから噴射すると共に、プリント配線板製造用基板の搬送方向に対して直交する方向にスプレーヘッドを往復移動(揺動)させている。
また、コンベアロール上にプリント配線板製造用基板を載せ押さえローラで上側から押さえつつ搬送しており、該押さえローラがプリント配線板製造用基板の上面のエッチング液を搬送方向に対して通過不能な形態としている。
これにより、エッチング液が到達する噴射領域と押さえローラとの間に、古液搬出経路を形成している。
【0003】
【特許文献1】特開2002−76572号公報(4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7は、従来のエッチング装置によるエッチングの状況の一例を表した概略図である。図7に示すように、上記従来のエッチング装置では、プリント配線板製造用基板の搬送方向に対して直交する方向に往復移動する2つのスプレーヘッドからエッチング液が噴射される。2つのスプレーヘッド間において相互に噴射されたエッチング液は、基板表面において液溜りが生ずる。
一方、エッチングが進行するに連れてエッチングされた導電膜成分を含みエッチング機能が低下してゆく。エッチング機能が低下したエッチング液(古液)は、当然ながら液溜りにも含まれる。前述したように、エッチング液が到達する噴射領域と押さえローラとの間に、古液搬出経路が形成されたとしても、2つのスプレーヘッドの往復移動の距離Kがあまりにも短いと、この液溜りが基板上からスムーズに排出されない。それゆえに、液溜りが生じた部分では古液の滞留によってエッチングスピードが低下して、エッチングばらつきが生ずるという課題があった。エッチングばらつきは、言うまでもなく、配線幅のバラツキや配線間の短絡などを発生させるという課題があった。
この課題を改善するために、往復移動の距離Kを大きくすると、エッチング装置における搬送方向に対する幅をさらに大きくする必要が生ずるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものである。以下の形態または適用例により実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例の表面処理装置は、薬液を基板に向けて噴射することにより、基板表面の表面処理を行う表面処理装置であって、前記基板を第1の方向に搬送する搬送機構と、前記搬送機構に対向すると共に、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部と、前記複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させる移動機構と、前記複数の薬液噴射部からの前記薬液の噴射を制御する噴射制御部と、を備え、前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部における前記薬液の噴射条件を前記第2の方向における配列順に順次可変することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、複数の薬液噴射部において、薬液の噴射条件が第2の方向における配列順に順次可変されるので、基板表面に噴き付けられた薬液は、第2の方向における薬液噴射部の往復移動に伴って往動または復動方向への流動が促進される。したがって、基板表面に薬液が滞留し難く、処理機能が低下した古い薬液を上記往復移動に伴ってスムーズに排出することができる。よって、古い薬液が残留することによる表面処理のばらつきを低減することができる。すなわち、安定した表面処理を可能とする表面処理装置を提供することができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例の表面処理装置において、前記噴射条件は、前記薬液の噴射圧力または噴射流量であることを特徴とする。
この構成によれば、複数の薬液噴射部間で薬液の噴射圧力または噴射流量が順次可変されるので、基板表面に低い圧力または少ない流量で噴き付けられた薬液は、高い圧力または多い流量で噴き付けられた薬液により第2の方向に押し流される。したがって、基板表面に薬液が滞留し難く、処理機能が低下した古い薬液を上記往復移動に伴ってスムーズに排出することができる。
【0009】
[適用例3]上記適用例の表面処理装置において、前記噴射条件は、前記薬液の噴射タイミングであるとしてもよい。
この構成によれば、複数の薬液噴射部間で薬液の噴射タイミングが順次可変されるので、基板表面に先に噴き付けられた薬液は、後から噴き付けられた薬液により第2の方向に押し流される。したがって、基板表面に薬液が滞留し難く、処理機能が低下した古い薬液を上記往復移動に伴ってスムーズに排出することができる。
【0010】
[適用例4]上記適用例の表面処理装置において、前記薬液噴射部は、前記薬液を所定の方向に噴射するためのスプレーノズルを備え、前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記スプレーノズルの噴射方向が往動方向または復動方向に向くように制御することが好ましい。
この構成によれば、噴射制御部が上記往復移動に伴って往動方向または復動方向にスプレーノズルを向けて薬液を噴射させるので、処理機能が低下した古い薬液を上記往復移動に伴ってよりスムーズに排出することができる。
【0011】
[適用例5]上記適用例の表面処理装置において、前記薬液噴射部は、前記第2の方向において前記往動方向と前記復動方向とに向いて取り付けられた少なくとも2つのスプレーノズルを備え、前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記少なくとも2つのスプレーノズルのうちの1つを選択して前記薬液を噴射するように制御してもよい。
この構成によれば、噴射制御部が上記往復移動に伴って往動方向または復動方向に向いたスプレーノズルを選択して薬液を噴射させるので、処理機能が低下した古い薬液を上記往復移動に伴ってよりスムーズに排出することができる。
【0012】
[適用例6]上記適用例の表面処理装置において、前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆したレジスト膜とを有し、前記薬液が前記レジスト膜の現像液であることを特徴とする。
この構成によれば、レジスト膜を安定して現像でき、安定したパターニング精度を有するレジスト膜を備えた基板を製造可能な表面処理装置としての現像装置を提供することができる。
【0013】
[適用例7]上記適用例の表面処理装置において、前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆して所定のパターンに形成されたレジスト膜とを有し、前記薬液が前記導電膜のエッチング液であることを特徴とする。
この構成によれば、導電膜を安定してエッチングでき、安定したパターニング精度を有する導電膜を備えた基板を製造可能な表面処理装置としてのエッチング装置を提供することができる。
【0014】
[適用例8]本適用例の表面処理方法は、基板を第1の方向に移動しつつ、移動中の前記基板に対向し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させながら、前記複数の薬液噴射部から薬液を基板表面に向けて噴射して表面処理を行う表面処理工程を備え、前記表面処理工程は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部から噴射する前記薬液の噴射圧力または噴射流量を前記第2の方向における配列順に順次可変して前記薬液を噴射することを特徴とする。
【0015】
この方法によれば、複数の薬液噴射部における薬液の噴射圧力または噴射流量が、複数の薬液噴射部の上記往復移動に伴って順次可変され薬液が基板表面に向けて噴射される。噴き付けられた薬液は、往動方向または復動方向への流動が促進され、基板表面における薬液の滞留がし難くなる。したがって、処理機能が低下した古い薬液を往復移動に伴ってスムーズに排出することができる。ゆえに、古い薬液の滞留による表面処理のばらつきを低減することができる。すなわち、安定した表面処理を可能とする表面処理方法を提供することができる。
【0016】
[適用例9]本適用例の他の表面処理方法は、基板を第1の方向に移動しつつ、移動中の前記基板に対向し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させながら、前記複数の薬液噴射部から薬液を基板表面に向けて噴射して表面処理を行う表面処理工程を備え、前記表面処理工程は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部の前記薬液の噴射タイミングを前記第2の方向における配列順に順次可変して前記薬液を噴射することを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、第2の方向への往復移動に伴って複数の薬液噴射部から噴射タイミングがずれた状態で薬液が基板表面に向けて噴射される。先に噴き付けられた薬液は、後から噴き付けられた薬液によって往動方向または復動方向へ押し流される。したがって、基板表面における薬液の滞留がし難くなる。よって、処理機能が低下した古い薬液を往復移動に伴ってスムーズに排出することができる。ゆえに、古い薬液の滞留による表面処理のばらつきを低減することができる。すなわち、安定した表面処理を可能とする表面処理方法を提供することができる。
【0018】
[適用例10]上記適用例の表面処理方法において、前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆したレジスト膜とを有し、前記薬液が前記レジスト膜の現像液であることを特徴とする。
この方法によれば、レジスト膜が安定して現像され、安定したパターニング精度を有するレジスト膜を備えた基板を製造可能な表面処理方法としての現像方法を提供することができる。
【0019】
[適用例11]上記適用例の表面処理方法において、前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆して所定のパターンに形成されたレジスト膜とを有し、前記薬液が前記導電膜のエッチング液であることを特徴とする。
この方法によれば、導電膜が安定してエッチングされ、安定したパターニング精度を有する導電膜を備えた基板を製造可能な表面処理方法としてのエッチング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本実施形態について、フレキシブル回路基板の製造方法を例に挙げて説明する。
まず、本実施形態の基板としてのフレキシブル回路基板について、図1を参照して簡単に説明する。なお、説明に用いる図において、各種構成要素は、その配置および寸法などについて、説明を分りやすくするために、適宜拡大または縮尺して表示している。
【0021】
図1(a)は、フレキシブル回路基板の構成を示す概略平面図、同図(b)は、半導体装置が実装されたフレキシブル回路基板を示す概略断面図である。
【0022】
図1(a)に示すように、本実施形態におけるフレキシブル回路基板10は、長尺の基材1に個別の配線パターンECが複数形成されたものである。
【0023】
この場合、各配線パターンECは、入力端子3aに繋がる配線3と、出力端子4aに繋がる配線4と、各配線3,4の電気的な接続に用いられる部分を除いてこれらを覆う絶縁膜5と、一対のアライメントマークAL1,AL2と、を有している。各入力端子3aと各出力端子4aは、それぞれ基材1の幅方向に配列している。
【0024】
長尺の基材1は、その幅方向の両端側において対に設けられ、且つ長尺方向において所定の配置ピッチで四角形に穿孔された複数のパイロットホール2を有している。各配線パターンECは、この対のパイロットホール2を基準として、基材1の長尺方向に所定の間隔で形成されている。
【0025】
このようなフレキシブル回路基板10は、例えば、図1(b)に示すように、絶縁膜5の開口部分5aに半導体装置(IC)が面実装(フェイスダウンボンディング)されて、接着機能を有するモールド材8により実装面が封着され、COF(Chip on Film)7として用いられる。ここで言う、実装面とは、IC側のバンプと各配線3,4の接合面だけでなく、バンプが設けられたICの能動面をも含む。
【0026】
基材1は、例えば、ポリイミドなどの絶縁性を有する樹脂材料フィルムからなり、形成される配線パターンECのサイズや配置に対応して、35mm、48mm、72mm、105mm、150mmなど種々の幅が用意されている。
【0027】
このようなフレキシブル回路基板10の製造方法は、まず、予めパイロットホール2が形成された基材1に銅箔などの導電膜6を積層して接着する。続いて、導電膜6を覆うように感光性樹脂材料をコーティング(塗布)して乾燥させ、レジスト膜を形成する。そして、フォトリソグラフィー法により、パイロットホール2を基準として所望のパターン形状となるように、レジスト膜を現像し、導電膜6をエッチングする。これにより、複数の配線3,4やアライメントマークAL1,AL2を形成する。最後にスクリーン印刷法やオフセット印刷法などにより、絶縁材料を所望の領域に塗布して絶縁膜5を形成する。なお、絶縁膜5は、所望の形状を有する絶縁フィルムを基材1にラミネートする方法を採用して装着してもよい。
【0028】
150mmなどの幅広の基材1の場合は、上記のような所謂1本加工の方法を取るが、例えば、35mmなどの狭い幅の場合は、幅広の基材1に複数本分の配線パターンECを面付けし、それぞれ絶縁膜5を形成した後に、スリット加工して複数本に分割する。
【0029】
このようにしてできあがったフレキシブル回路基板10は、長尺の状態で半導体装置(IC)が実装され、モールド(封着)された後に、金型などを用いて打ち抜きプレス加工され、個々のCOF7が取り出される。なお、半導体装置(IC)に限らず、抵抗やコンデンサなどのチップ型の電子部品もフレキシブル回路基板10に実装されることがある。アライメントマークAL1,AL2は、これらの電子部品を実装する際の位置基準として利用される。
【0030】
近年、液晶装置などの表示装置に用いられるドライバICは、半導体製造工程の微細化の進行により、1Chipで数多くの入出力電極を有している。したがって、このようなドライバICが実装されるCOF7にも、配線パターンECの微細化が要求され、安定したパターン形成が可能なフレキシブル回路基板10の製造装置が求められている。後述する表面処理装置としてのエッチング装置は、このようなフレキシブル回路基板10の製造に適用することを目的の1つとして開発された。
【0031】
<表面処理装置>
次に、本実施形態の表面処理装置としてのエッチング装置について、図2および図3を参照して説明する。図2(a)はエッチング装置の構成を示す概略平面図、同図(b)はエッチング装置の内部を示す側面から見た概略断面図である。
【0032】
図2(a)に示すように、本実施形態のエッチング装置100は、平面視で長方形の筐体103を有している。筐体103は長手方向においてエッチング室と液切り室とに分かれており、エッチング前のフレキシブル回路基板10の基材1が、エッチング室、液切り室の順に通過するように搬送される。
【0033】
エッチング室内には、薬液としてのエッチング液を噴射する薬液噴射部101が設けられている。薬液噴射部101は、基材1の第1の方向としての搬送方向(X方向)と、搬送方向に対して直交(交差)する第2の方向(Y方向)とに所定の間隔をおいて複数設けられている。
【0034】
また、第2の方向に配列した複数(3つ)の薬液噴射部101を1つの段(群)として、複数(3つ)の薬液噴射部101を第2の方向に往復移動させる移動機構106を備えている。各段に設けられた移動機構106は、それぞれ独立してその往復移動が制御されている。
【0035】
薬液噴射部101の搬送方向における配置間隔Sxは、エッチング条件のうち少なくとも基材1の搬送速度とエッチング時間(エッチング速度)との関係において設定されている。この場合、配置間隔Sxは、およそ100mmである。
【0036】
薬液噴射部101の搬送方向と直交(交差)する方向における配置間隔Syは、基材1の幅と薬液噴射部101がエッチング液を噴き付け可能な噴射領域(図面には薬液噴射部101を囲む破線で表示した)との関係において、エッチング液が万遍なく基材1上に行き渡るように設定されている。具体的には、Y方向に配列する3つの薬液噴射部101のうち、1つは基材1の幅におけるほぼ中央に位置し、配置間隔Syはおよそ60mmである。薬液噴射部101と基材1との距離(言い換えれば薬液噴射部101の高さh)は、およそ150mmである。
【0037】
筐体103の液切り室には、基材1上に残留するエッチング液を液切りするために、基材1の幅に亘ってエアーナイフ102が取り付けられている。
【0038】
図2(b)に示すように、エッチング装置100は、基材1を搬送方向(X方向)に搬送する搬送機構105を備えている。搬送機構105は、搬送ローラ104を回転駆動する。これにより搬送ローラ104上の基材1が筐体103の入口103aから出口103bへと所定の搬送速度で搬送される。なお、基材1に設けられたパイロットホール2を利用して基材1を搬送するように搬送ローラ104をスプロケット状としてもよい。
【0039】
基材1がエッチング室を通過する間に、搬送機構105に対向し、第2の方向に往復移動する複数の薬液噴射部101からエッチング液が、基材1の基板表面に向けて噴射される。基板表面では、エッチング液と導電膜6との化学反応により、レジスト膜で覆われていない部分の導電膜6がエッチング(溶解)される。それゆえに、化学反応後のエッチング液には、溶解した導電膜6の成分が含まれる。
【0040】
液切り室に設けられたエアーナイフ102からは、圧空が基板表面に向けて噴射され、基板表面から化学反応後のエッチング液が吹き飛ばされ除去される。筐体103には、吹き飛ばされたエッチング液がエッチング室に入らないように仕切り壁が設けられている。
【0041】
基板表面から排出されたエッチング液は、筐体103の底部に設けられた斜面を伝って流れ排出口から外部に排出される。
【0042】
エッチング装置100は、上記の各構成以外に、図示省略したが、エッチング液を供給するポンプなどの供給系、エッチング液の回収系、捲回されたエッチング前の長尺の基材1を供給する供給系、エッチング後の長尺の基材1を捲き取る回収系などの装置を備えている。
【0043】
図3は、エッチング装置の制御系を示すブロック図である。図3に示すように、エッチング装置100は、各部を統括的に制御する制御装置110を備えている。
【0044】
制御装置110は、薬液噴射部101からの薬液の噴射や噴射条件を制御する噴射制御部111と、基材1の搬送機構105や供給系および回収系を制御する搬送機構制御部112と、移動機構106の往復移動を制御する移動機構制御部113と、薬液としてのエッチング液の供給系および回収系を制御する薬液制御部114と、エアーナイフ102への圧空の供給を制御する圧空制御部115とを有している。
【0045】
噴射制御部111は、薬液噴射部101ごとに設けられた薬液の供給系に繋がるバルブを制御して、エッチング液の噴射開始・停止、噴射圧力や噴射流量の調整を行うことができるようになっている。また、これらの制御は、薬液噴射部101ごとに行うことができるだけでなく、図2(a)に示したように、搬送方向に並列する3つの薬液噴射部101を1つの段として、各段の制御も行えるようになっている。具体的な制御方法については、後述する表面処理方法において説明する。
【0046】
移動機構制御部113は、各段ごとの移動機構106を制御する。例えば、往復移動の距離や速度、各段ごとの往復移動の周期を制御することができる。
【0047】
<表面処理方法>
次に、本実施形態の表面処理方法としてのエッチング方法について、図4および図5を参照して説明する。図4(a)〜(d)は表面処理方法を示す概略図である。
【0048】
図4(a)〜(d)において、基材1は、紙面に垂直な方向(X方向)に搬送されている。1つの段の薬液噴射部101は、3つの薬液噴射部101R,101C,101Lからなり、それぞれエッチング液を拡散噴射するスプレーノズル101aが下方に向けて設けられている。
【0049】
エッチング液としては、基材1の導電膜6が銅箔である場合、例えば、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液を用いることができる。エッチング液は、化学反応速度を考慮して40℃から50℃程度に加温することが好ましい。
【0050】
本実施形態では、噴射制御部111は、1つの段の薬液噴射部101において、移動機構106による往復移動に伴って複数の薬液噴射部101R,101C,101Lから噴射されるエッチング液の噴射圧力または噴射流量をY方向における配列順に順次可変してエッチング液を噴射させる。
【0051】
例えば、図4(a)に示すように、右側の薬液噴射部101Rに着目して見ると、移動機構106による往動(図面上では左側に進む)時には、噴射圧力が高いまたは噴射流量が多い状態(以降、図面上では「大」として表わす)で噴射が始まる。次に、同図(c)に示すように、復動(図面上では右側に進む)時には、隣接する薬液噴射部101Cに比べて噴射圧力がさらに低いまたは噴射流量がさらに少ない状態(以降、図面上では「小」として表わす)に変化する。
【0052】
中央の薬液噴射部101Cは、同図(a)に示すように、隣接する薬液噴射部101Rに比べて噴射圧力が低いまたは噴射流量が少ない状態(以降、図面上では「中」として表わす)で噴射が始まる。この場合、同図(c)に示すように、復動時も噴射圧力または噴射量が「中」の状態を維持している。
【0053】
左側の薬液噴射部101Lは、同図(a)に示すように、移動機構106による往動時には、隣接する薬液噴射部101Cに比べて噴射圧力がさらに低いまたは噴射流量がさらに少ない状態(以降、図面上では「小」として表わす)で始まり、同図(c)に示すように、復動時には、隣接する薬液噴射部101Cに比べて噴射圧力が高いまたは噴射流量が多い「大」の状態に変化する。
【0054】
薬液噴射部101R,101Lの上記噴射条件の変化は移動機構106の往復移動に同期して繰り返される。
【0055】
このような噴射条件の変化は、同図(a)〜(d)を1つの段として行うだけでなく、同図(a)〜(d)を搬送方向から見た異なる段間の変化として行ってもよい。言い換えれば、段ごとに噴射条件を変えてもよい。
【0056】
同図(a)に示すように、3つの薬液噴射部101R,101C,101Lから互いに噴射条件を変えてエッチング液を噴射すると、最も噴射圧力が高いまたは噴射流量が多い状態の薬液噴射部101Rと薬液噴射部101Cとの間では、大きな液溜り21ができる。
同様にして薬液噴射部101Cと薬液噴射部101Lとの間でも液溜り22ができるが、相互の噴射圧力または噴射流量が薬液噴射部101Rに比べれば小さいので、成長し難い。
【0057】
液溜り21,22には、エッチング液と導電膜6との化学反応により、エッチングされた導電膜6の成分が含まれるエッチング液(以降、古液と呼ぶ)が集まる。したがって、古液が滞留し易い。よって、液溜り21,22はエッチング機能(能力)が低下し易い。基板表面においていつも同じ場所に液溜り21,22ができると、新しいエッチング液(以降、新液と呼ぶ)が供給され難くなるので、エッチングばらつきが生じて、安定的に配線パターンECを形成できなくなる。
【0058】
本実施形態では、エッチング液の噴射によって大きくなった液溜り21は、往復移動に伴って隣の液溜り22の方(噴射圧力がより低いまたは噴射流量がより少ない方)へと押しやられる。
そして、同図(b)に示すように、往動が極大になった時点では、液溜り22がさらに左側に押しやられてエッチング液が排出される。復動時には、これとは逆に、最も噴射圧力が高いまたは噴射流量が多い状態の薬液噴射部101Lと薬液噴射部101Cとの間で、大きな液溜り21ができるが、同図(d)に示すように、復動が極大になった時点では、液溜り21が液溜り22の方へさらに押しやられてエッチング液が排出される。
【0059】
上記の表面処理方法において、搬送方向から見て中央に位置する薬液噴射部101Cは、同図(b)や同図(d)に示す往復移動の極大時には、噴射圧力または噴射流量を「中」から「小」に変化させてもよい。これにより、噴射制御部111の制御が複雑になるものの、古液の排出性や基板表面における新液と古液の液交換性をさらに改善できる。
【0060】
上記実施形態のエッチング方法によれば、噴射制御部111は、複数の薬液噴射部101R,101C,101Lから噴射されるエッチング液の噴射圧力または噴射流量をY方向における配列順に順次可変してエッチング液を噴射させる。したがって、往復移動に伴って噴射されたエッチング液の第2の方向における流動性が促進され、液溜り21,22が基板表面に滞留せずにスムーズに排出される。つまり、基板表面におけるエッチング液の液交換性が向上し、古液が効率よく排出され、エッチングばらつきが低減して、安定的に配線パターンECを形成することができる。
【0061】
なお、図4(a)〜(d)において、各スプレーノズル101aから噴射されたエッチング液のスプレー状態が基材1の搬送方向(X方向)から見て重なり合うように、エッチング液を噴射してもよい。その場合にも、重なった部分にできる液溜りは、スムーズに排出される。
【0062】
次に、スプレーノズル101aの噴射条件について図5を参照してさらに詳しく述べる。図5はスプレーノズルにおける噴射条件を説明する概略図である。
【0063】
図5に示すように、スプレーノズル101aから噴射されたエッチング液(薬液)は、拡散して基材1の表面に噴き付けられる。スプレーノズル101aの噴射領域すなわちスプレー径Dは、スプレーノズル101aと基板表面とを結ぶ噴射軸に対する噴射角度θと、スプレーノズル101aと基板表面との距離すなわちスプレーノズル101aの高さhとによって決まる。
【0064】
一方で噴射角度θは、噴射圧力が高ければ高いほど大きくなるとは限らない。スプレーノズル101aのノズル形状によっては、噴射圧力が高くなるとスプレー径Dが小さくなることもある。したがって、基板表面にエッチング液を万遍なく行き渡らせるためには、スプレーノズル101aの性能をよく見極めて、噴射圧力と噴射流量の双方を調整する必要がある。
【0065】
具体的には、例えば、スプレーノズル101aとして、株式会社いけうち製のJJXP−020充円錐型のノズルを用いた場合、エッチング液の噴射圧力と、噴射角度θおよびスプレー径D並びに噴射流量との関係は、以下の通りであった。なお、高さhは、150mmである。
・圧力 0.05MPaでは、θ=65度、D=191mm、流量1.06L/分
・圧力 0.20MPaでは、θ=60度、D=173mm、流量2.00L/分
・圧力 0.50MPaでは、θ=55度、D=156mm、流量2.91L/分
JJXP−020充円錐型ノズルを用いた場合には、上記のように圧力を可変してもスプレー径Dはあまり変化しない。また、噴射圧力と噴射流量とは相関関係にある。
そこで、本実施形態では、エッチング液の供給系における供給圧力を一定とし、各薬液噴射部101に圧力調整用のバルブを設け、噴射制御部111が各薬液噴射部101の噴射圧力を0.05MPa〜0.5MPaの間で制御する構成とした。詳しくは、噴射圧力が0.05MPaのときの噴射状態が「小」、噴射圧力が0.2MPaのときの噴射状態が「中」、噴射圧力が0.5MPaのときの噴射状態が「大」である(図4参照)。
【0066】
複数の薬液噴射部101において、前述したような噴射圧力または噴射流量を可変して古液の排出性(液溜り21,22の液交換性)を改善する方法に限らず、噴射圧力または噴射流量を一定としておき、噴射するか噴射しないかの噴射タイミングをY方向における配列順に順次可変するように制御する方法も採用することができる。
【0067】
例えば、図4(a)〜(d)において、複数の薬液噴射部101R,101C,101Lの往復移動に同期してエッチング液を噴射する薬液噴射部101R,101C,101Lの選択を制御し、薬液噴射部101R、薬液噴射部101C、薬液噴射部101Lの順またはその逆に噴射タイミングをずらしてエッチング液を噴射する。これにより、先に噴き付けられたエッチング液は、後から噴き付けられたエッチング液によって第2の方向に押しやられる。すなわち、エッチング液の排出性、液交換性が向上する。この場合も前述したように、周期的には搬送方向から見た異なる段間で噴射制御してもよい。なぜならば、基材1の搬送に伴って液溜り21,22は搬送方向にも見かけ上移動するからである。当然ながらこのような異なる段間での噴射制御は、搬送速度を考慮して行う。
【0068】
上記実施形態の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態のエッチング装置100およびエッチング方法によれば、噴射制御部111は、複数の薬液噴射部101R,101C,101Lの往復移動に同期して、複数の薬液噴射部101R,101C,101Lから噴射されるエッチング液の噴射圧力または噴射流量をY方向における配列順に順次可変してエッチング液を噴射させる。したがって、液溜り21,22が基板表面に滞留せずに、古液の排出性、エッチング液の液交換性が向上するので、エッチングばらつきを低減して、安定的に配線パターンECを形成可能なエッチング装置100およびエッチング方法を提供することができる。ゆえに、パターニング不良(エッチング不良)の発生を低減して、高い歩留りでフレキシブル回路基板10を製造することができる。
【0069】
(2)上記実施形態のエッチング装置100およびエッチング方法によれば、移動機構106による複数の薬液噴射部101の往復移動の距離を大きくしなくても、古液の排出性、液溜り21,22の液交換性を向上させることができるので、装置構成を簡略化(小型化)できる。
【0070】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0071】
(変形例1)上記実施形態のエッチング装置100において、薬液噴射部101の形態は、これに限定されない。図6(a)〜(c)は、変形例の薬液噴射部の形態を示す概略図である。例えば、同図(a)および(b)に示すように、スプレーノズル121aの噴射方向を変えることができる複数の薬液噴射部121の構成とする。そして、移動機構106による往復移動に同期して、スプレーノズル121aの噴射方向を往動方向あるいは復動方向に向けてエッチング液を噴射してもよい。これによれば、液溜りの排出性をさらに向上させることができる。
また、同図(c)に示すように、薬液噴射部131のそれぞれに噴射方向が異なる例えば3つのスプレーノズル131a,131b,131cを設け、移動機構106による往復移動に同期して、スプレーノズル131a,131b,131cのうちから往復移動の進行方向に沿って順次1つを選択して噴射するように噴射制御する。これによれば、噴射方向をコントロールして液溜りをよりスムーズに排出することができる。あるいは、基板表面の液溜りを常に左右に分けて効率的に排出することも可能である。
【0072】
(変形例2)上記実施形態のエッチング装置100およびエッチング方法を適用できるのは、フレキシブル回路基板10のエッチング工程に限定されない。例えば、フレキシブル回路基板10の製造工程において、現像工程にも適用できる。すなわち、薬液として現像液を用い、薬液噴射部101から現像液を被処理対象物としてのレジスト膜(露光済み)を有する基材1に噴射してレジスト膜を現像する現像装置および現像方法にも適用することができる。これによれば、安定してレジスト膜をパターニング可能な現像装置および現像方法を提供することができる。
【0073】
(変形例3)上記実施形態のエッチング装置100およびエッチング方法において、処理対象の基板は、基材1に限定されない。例えば、リジットなガラスエポキシ樹脂やセラミックなどを材料とする基材上に配線パターンが設けられるプリント配線基板、液晶表示装置などの電気光学装置を構成する電極基板の製造装置および製造方法においても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)はフレキシブル回路基板の構成を示す概略平面図、(b)は半導体装置が実装されたフレキシブル回路基板を示す概略断面図。
【図2】(a)はエッチング装置の構成を示す概略平面図、(b)はエッチング装置の内部を示す側面から見た概略断面図。
【図3】エッチング装置の制御系を示すブロック図。
【図4】(a)〜(d)は表面処理方法を示す概略図。
【図5】スプレーノズルにおける噴射条件を説明する概略図。
【図6】(a)〜(c)は、変形例の薬液噴射部の形態を示す概略図。
【図7】従来のエッチング装置によるエッチングの状況の一例を表した概略図。
【符号の説明】
【0075】
1…基材、6…導電膜、10…基板としてのフレキシブル回路基板、100…表面処理装置としてのエッチング装置、101,101L,101C,101R…薬液噴射部、101a…スプレーノズル、105…搬送機構、106…移動機構、111…噴射制御部、121…薬液噴射部、121a…スプレーノズル、131…薬液噴射部、131a,131b,131c…スプレーノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を基板に向けて噴射することにより、基板表面の表面処理を行う表面処理装置であって、
前記基板を第1の方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送機構に対向すると共に、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部と、
前記複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させる移動機構と、
前記複数の薬液噴射部からの前記薬液の噴射を制御する噴射制御部と、を備え、
前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部における前記薬液の噴射条件を前記第2の方向における配列順に順次可変することを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記噴射条件は、前記薬液の噴射圧力または噴射流量であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記噴射条件は、前記薬液の噴射タイミングであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記薬液噴射部は、前記薬液を所定の方向に噴射するためのスプレーノズルを備え、
前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記スプレーノズルの噴射方向が往動方向または復動方向に向くように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記薬液噴射部は、前記第2の方向において前記往動方向と前記復動方向とに向いて取り付けられた少なくとも2つのスプレーノズルを備え、
前記噴射制御部は、前記往復移動に伴って前記少なくとも2つのスプレーノズルのうちの1つを選択して前記薬液を噴射するように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆したレジスト膜とを有し、
前記薬液が前記レジスト膜の現像液であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆して所定のパターンに形成されたレジスト膜とを有し、
前記薬液が前記導電膜のエッチング液であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
基板を第1の方向に移動しつつ、移動中の前記基板に対向し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させながら、前記複数の薬液噴射部から薬液を基板表面に向けて噴射して表面処理を行う表面処理工程を備え、
前記表面処理工程は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部から噴射する前記薬液の噴射圧力または噴射流量を前記第2の方向における配列順に順次可変して前記薬液を噴射することを特徴とする表面処理方法。
【請求項9】
基板を第1の方向に移動しつつ、移動中の前記基板に対向し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配列した複数の薬液噴射部を前記第2の方向に往復移動させながら、前記複数の薬液噴射部から薬液を基板表面に向けて噴射して表面処理を行う表面処理工程を備え、
前記表面処理工程は、前記往復移動に伴って前記複数の薬液噴射部の前記薬液の噴射タイミングを前記第2の方向における配列順に順次可変して前記薬液を噴射することを特徴とする表面処理方法。
【請求項10】
前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆したレジスト膜とを有し、
前記薬液が前記レジスト膜の現像液であることを特徴とする請求項8または9に記載の表面処理方法。
【請求項11】
前記基板は、前記基板表面に導電膜と、前記導電膜を被覆して所定のパターンに形成されたレジスト膜とを有し、
前記薬液が前記導電膜のエッチング液であることを特徴とする請求項8または9に記載の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−206393(P2009−206393A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49290(P2008−49290)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】