説明

表面処理金属材料

【課題】廉価で耐食性および導電性に優れたクロメートフリー表面処理を施した金属材料を提供することを目的とする。
【解決手段】皮膜量が1.0〜5.0g/mであり、めっき中のコバルト含有率が0.2〜1.0mass%である亜鉛−コバルトめっき皮膜からなる第一層と、第一層上に形成され、皮膜量が0.05〜0.5g/mであり、皮膜中のケイ素含有率が0.2〜20mass%であるケイ素含有後処理皮膜からなる第二層と、を有する表面処理金属材料。また、上記の金属材料が亜鉛系めっき鋼板である表面処理金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理金属材料に関し、より詳細には、耐食性および導電性に優れたクロメートフリー表面処理を施した金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系金属めっき鋼板、アルミニウム板等の金属材料は、自動車、建材並びに家電関係等の広い分野で使用されている。しかし、これらの金属材料に用いられる亜鉛やアルミニウムは、大気環境中で腐食して、白錆と言われる腐食生成物を生成させ、この腐食生成物が、金属材料の外観を低下させる欠点を有している。このような耐食性に関する課題は、特に家電分野において問題となる。一方、デジタル家電、精密機器、OA機器、白物家電等の汎用家電分野において、上記の金属材料を使用する際には、耐食性に加え、溶接性や電磁波シールド性の観点から、導電性が要求される。
【0003】
これまでに、金属材料表面に耐食性や導電性などを付与する技術として、金属材料表面に、クロム酸や重クロム酸、更にそれらの塩を主成分とする処理液を用いたクロメート処理方法や、リン酸塩処理方法や、各種シランカップリング剤単体による被覆処理方法や、有機樹脂皮膜の被覆方法等が知られており、そのいくつかの処理方法は、実用化されている。近年、RoHSやELV指令に代表されるように六価クロムの使用規制に始まり、現在、クロメート表面処理を施された金属材料から、クロメートフリー表面処理を施された金属材料へと、転換が進みつつある。
【0004】
上記各種処理方法において、主として無機成分を用いる技術に関し、耐食性、塗装密着性を改善する方法としては、希薄な水ガラス溶液やケイ酸ナトリウム溶液、またはそれらの混合液に、特定量の有機シランカップリング剤を添加した処理液を、鋼材に塗布乾燥する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
上記で特にシランカップリング剤を主体に使用する技術としては、一時的な防食効果を付与するために、低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板の処理が示されており、架橋剤として有機シラン化合物を架橋することによって、稠密なシロキサン・フィルムを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
更にまた、特定の樹脂化合物(A)と、第1〜3アミノ基及び第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤(C)と、特定の酸化合物(E)とを含有し、かつカチオン性ウレタン樹脂(B)及びシランカップリング剤(C)の含有量が所定の範囲内である表面処理剤を用いて、耐食性に優れ、さらに耐指紋性、耐黒変性および塗装密着性に優れたクロムフリーの表面処理鋼板及びその製造方法が、開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
しかしながら、これらの処理方法によって作製された皮膜を有する金属材料は、クロメート処理された金属材料同等以上の耐食性を発現させようとすると、上記処理皮膜厚みを厚くしなければならず、他方、クロメート処理された金属材料同等以上の導電性を発現させようとすると、上記処理皮膜厚みを薄くなければならないという、皮膜厚みに対して相反する性能の両立が、大きな技術課題であった。
【0008】
上記のごとく、いずれの方法においても、クロメート皮膜の代替として使用できるような表面処理剤を得られていないのが現状であり、製造コストメリットがあり、従来のクロメート処理された金属材料同等以上の耐食性および導電性を満足できるクロメートフリー表面処理を施した金属材料の開発が、強く要求されている。
【0009】
他方、亜鉛(Zn)−コバルト(Co)めっきについての従来技術は、以下のようなものが開示されている。
【0010】
亜鉛系めっき鋼板の上にZn−Coめっきする技術としては、自動車車体用途を目指し、耐水密着性を改善する方法として、リン酸亜鉛皮膜中にCoを添加させるためにCo含有率15〜30mass%のZn−Coめっきを用いる手法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0011】
上記と同様に、自動車車体用途を目指し、亜鉛系めっき鋼板の上にCo含有率3〜99mass%のZn−Coめっきを被覆する技術が示されており、Co含有率の下限は潤滑性、上限は耐チッピング性の発現限界で決まるとする方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0012】
更にまた、主に自動車車体用途を目指し、有機複合被覆鋼板(亜鉛系めっき鋼板+クロメート皮膜+有機皮膜)の裸耐食性(無塗装状態での耐食性)と塗装後耐食性とを向上させるために、母材めっき層とクロメート皮膜層との間にフラッシュめっきと呼ばれる低付着量のめっき層を設け、このフラッシュめっき層を、デキストリンおよび/またはデキストランとコバルト化合物とを含有することを必須とする亜鉛系めっき浴からの電気Zn−Coめっきにより形成することが有効であるということが、示されている。フラッシュめっき層としては、Zn−Coめっき中デキストリンおよび/またはデキストランの含有率が0.05(塗装後耐食性下限)〜10(めっき外観起因による上限)mass%、かつ、Co含有率が0.01(塗装後耐食性下限)〜10(製造コストによる上限)mass%で付着量が0.5(塗装後耐食性下限)〜20(製造コストと加工性起因による上限)g/mであることが開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0013】
これらの処理方法によって作製された皮膜を有する金属材料は、自動車車体用途を中心に設計されており、特に耐食性の観点からは、塩害地での鋼板の耐孔開き性や塗装後耐食性を重視した皮膜設計であるため、めっき中のCo含有率が3mass%以上、あるいは1mass%以下の微量Co含有率では、デキストリン等の有機添加物を同時にめっき中に含有しないと、耐食性が発現されない。しかしながら、めっき中のCo含有率が3mass%以上、あるいは1mass%以下の微量Co含有率で、かつデキストリン等の有機添加物を含有するようなめっきは、製造コストが高く、特にデキストリン等の有機添加物をめっき浴に添加すると、操業時に有機添加物の分解が起こるため、めっき液のコンタミが起こり、正常なめっきができなくなったり、めっき液の浴寿命が短くなったりという、いくつかの課題が発生することが知られている。
【0014】
【特許文献1】特開昭58−15541号公報
【特許文献2】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献3】特開2003−105562号公報
【特許文献4】特開昭60−215789号公報
【特許文献5】特開平03−158494号公報
【特許文献6】特開平08−218193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、上記の現状に鑑み、廉価で耐食性および導電性に優れたクロメートフリー表面処理を施した金属材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、これらの従来技術の抱える問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、金属材料の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、更にその上にケイ素含有後処理皮膜を薄く被覆させることで、耐食性を担保しつつ導電性にも優れた皮膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の技術が従来と大きく異なる点は、これまで着目されなかった微量Co含有領域のZn−Coめっき皮膜でも、ケイ素含有後処理皮膜と併用することで、格段の耐食性向上が起こり、このためケイ素含有後処理皮膜の薄膜化が可能となり、良好な導電性も同時に得ることができることを見出した点にある。
【0018】
すなわち、本発明は、皮膜量が1.0〜5.0g/mであり、めっき中のコバルト含有率が0.2〜1.0mass%である亜鉛−コバルトめっき皮膜からなる第一層と、第一層上に形成され、皮膜量が0.05〜0.5g/mであり、皮膜中のケイ素含有率が0.2〜20mass%であるケイ素含有後処理皮膜からなる第二層と、を有することを特徴とする表面処理金属材料である。
【0019】
本発明はまた、上記の金属材料が亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする表面処理金属材料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のクロメートフリー表面処理金属材料は、上述した金属材料の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、更にその上にケイ素含有後処理皮膜を薄く被覆させることにより、金属材料表面に、耐食性および導電性に優れた皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の第1の実施形態に係るクロメートフリー表面処理金属材料は、金属材料の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、更にその上にケイ素含有後処理皮膜を薄く被覆させることで、耐食性を担保しつつ導電性にも優れた皮膜を形成するものである。
本実施形態はまた、上記の金属材料が亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする表面処理金属材料に関するものである。
【0022】
本実施形態に係るクロメートフリー表面処理金属材料の金属材料の表面に、低Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、極薄膜のケイ素含有後処理皮膜を被覆することで、更なる導電性と耐食性の格段の向上がなされる。この性能の発現機構については定かではないが、推定されうる発現機構について、以下に説明する。ただし、本実施形態は、この発現機構に限定されるものではない。金属材料の表面に、第一層としてZn−Coめっき皮膜を形成し、第二層としてケイ素含有後処理皮膜を形成することで、金属材料が優れた耐食性能を発揮するのは、以下の機構によると推定される。
【0023】
まず、Zn−Coめっき皮膜の上にケイ素含有後処理剤を塗布し、焼き付けを行う際に、Zn−Coめっき皮膜上のCo−OH(水酸基)と、ケイ素含有後処理皮膜上のSi(ケイ素)−OHとが、脱水縮合によりCo−O−Si結合を形成する。ポーリングの電気陰性度によると、Coは1.88、Siは1.90、Oは3.44、Znは1.65であり、CoとSiはほぼ等しい値であることから、Co−O−Si結合は、Si−O−Siで示されるシロキサン結合に相当する安定な結合状態となり、Zn−Coめっき皮膜/ケイ素含有後処理皮膜界面の強固な密着が起こるものと考えられる。
【0024】
界面の密着性が良いということは、水、塩分等の腐食因子が、界面へ侵入しづらくなるということであり、この界面の密着性の向上が、Zn−Coめっき皮膜の腐食抑制に大きく寄与しているものと考えられる。加えて、ケイ素含有後処理皮膜自体の腐食因子のバリア効果や、ケイ素含有後処理皮膜中のSi以外の無機塩、有機化合物の官能基が、めっき表面の−O、−OH基と水素結合やファンデルワールス力を介して架橋構造を形成していることも、腐食因子の侵入を抑制する観点から、Zn−Coめっき皮膜の腐食開始の遅延に寄与していると考えられる。
【0025】
更に、腐食因子が、Zn−Coめっき皮膜/ケイ素含有後処理皮膜界面に侵入し始めると、Zn−Coめっき皮膜の腐食が開始する。このとき、環境中から供給された水、塩化物イオンや炭酸などの腐食因子が腐食に関与し、めっきの腐食による亜鉛の腐食初期生成物である塩基性塩化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛が、Zn−Coめっき皮膜/ケイ素含有後処理皮膜界面に堆積する。上記亜鉛の腐食初期生成物は、腐食因子のバリア効果を有しているが、大気環境にそのまま曝されると、すぐにバリア効果のない亜鉛の酸化物に変態する。しかし、めっき中にCoがあることによる腐食初期生成物の変態抑制作用と、上層にケイ素含有後処理皮膜があることによる腐食初期生成物の大気との遮蔽効果の相乗効果により、上記亜鉛の腐食初期生成物の変態抑制が起こるため、腐食初期生成物の腐食因子のバリア効果が、長期に持続されることになる。結果として、白錆発生が抑制されると推定される。
【0026】
本実施形態において、めっき成分にCoを選択した理由は、主に、電気陰性度がSiとほぼ同値であること加え、めっき中に微量含有させるだけで、腐食初期生成物の変態抑制作用が最も発現しやすい元素であることを見出したからである。併せて、この耐食性発現には、上層にケイ素含有後処理皮膜が必須である。本実施形態の皮膜構成により、良好な耐食性発現が得られることから、ケイ素含有後処理皮膜の薄膜化が可能となり、良好な導電性も同時に得ることができる。
【0027】
上記のZn−Coめっき皮膜は、下限1.0g/m、上限5.0g/mの皮膜量で、かつ、下限0.2mass%、上限1.0mass%のめっき中Co含有率で形成されたものである。皮膜量および組成が下限1.0g/m未満かつ下限Co含有率0.2mass%未満であると、白錆が発生し易くなり、耐食性は低下する。この理由としては、主にZn−Coめっき皮膜量とCo含有率が少なく、Co−O−Si結合による界面密着力が低下し、かつCo溶出量も極めて少ないため、充分なめっき腐食初期生成物の保持効果が発揮できないことにより、めっきの腐食抑制効果が低下したためと考えられる。一方、上限皮膜量および組成の根拠として、製造コストの観点から5.0g/mの皮膜量、1.0mass%のCo含有率を上限値とした。安定した耐食性の確保と製造コストの最小化を図るためには、上記皮膜量下限は1.2g/m、Co含有率下限は0.22mass%であることがより好ましく、上記皮膜量上限は4.8g/m、Co含有率上限は0.98mass%であることがより好ましい。
【0028】
上記Zn−Coめっきの亜鉛系メッキ鋼板へのめっき方法としては、電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、置換めっき、溶融塩電解めっき法等を利用することが可能であり、所定のめっき組成およびめっき付着量が確保できれば、上記のめっき方法に限定されるわけではなく、いずれの方法を使用しても良い。
【0029】
本実施形態に係るケイ素含有後処理皮膜がZn−Coめっき皮膜を介して被覆される、複層皮膜の皮膜構成としては、Zn−Coめっき皮膜が、下限1.0g/m、上限5.0g/mの皮膜量で、めっき中Co含有率が下限0.2mass%、上限1.0mass%で形成され、かつ、ケイ素含有後処理皮膜が、下限0.05g/m、上限0.5g/mの皮膜量で、皮膜中ケイ素含有率が0.2〜20mass%で形成される。
【0030】
Zn−Coめっき皮膜量が下限1.0g/mから上限5.0g/mの皮膜量で、かつめっき中Co含有率が下限0.2mass%から上限1.0mass%の範囲において、耐食性は、Co含有率なしに比べやや良好であるが、更にケイ素含有後処理皮膜が下限0.05g/m以上、かつ皮膜中ケイ素含有率が0.2mass%以上となることで、耐白錆性は格段と向上し、また上限0.3g/m以下、かつ皮膜中ケイ素含有率が20mass%以下の皮膜量となることで、導電性も良好となる。
【0031】
この理由としては、複層皮膜が、主にZn−Coめっき皮膜とケイ素含有後処理皮膜との界面におけるCo−O−Si結合形成に起因する強固な界面密着力による界面への腐食因子の侵入遮蔽効果と、めっき腐食開始後のめっき腐食初期生成物のCoによる変態抑制効果(化学的作用)と、に加え、極薄膜でもケイ素含有後処理皮膜の腐食因子のバリア効果およびめっき腐食初期生成物の界面保持効果(物理的作用)を有するため、耐食性が著しく向上することが考えられる。
【0032】
従って、ケイ素含有後処理皮膜単層の場合に比べ、Zn−Coめっき皮膜があることで耐食性が格段と向上するため、その分、良伝導性でないケイ素含有後処理皮膜の極薄膜化が可能となり、電磁波の不要輻射ノイズ漏れを防止するために必要とされる導電性も、飛躍的に向上できると考えられる。
【0033】
安定した耐食性と導電性の確保と製造コストの最小化を図るためには、Zn−Coめっき皮膜量の下限は1.2g/m、Co含有率の下限は0.22mass%であり、皮膜量の上限は4.8g/m、Co含有率上限は0.98mass%であることが好ましく、かつ、ケイ素含有後処理皮膜の下限が0.1g/m、ケイ素含有率の下限が0.3mass%で上限が0.45g/m、ケイ素含有率の上限が15mass%であることがより好ましい。
【0034】
上記ケイ素含有後処理皮膜は、例えば、シリカ、シランカップリング剤、シリコーン樹脂等のケイ素化合物を含有し、残部は、無機塩および有機化合物を含む。
【0035】
シリカとしては、微粒子シリカおよびシリカゾルなど、特に限定されない。シリカ単独は勿論のこと、シリカにアルミナ等の無機化合物や金属化合物を混合した混合物であってもよい。
【0036】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロルプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)―2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を例として挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
シリコーン樹脂は、いわゆる有機ケイ素化合物(オルガノポリシロキサン)であり、特に限定するものではない。
【0038】
無機塩の種類としては、例えば、ケイ酸塩も含み、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩など特に限定されることはないが、無機塩中のカチオン成分は、例えば、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオンが好ましい。
【0039】
上記の無機塩の具体例として、例えば、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、バナジン酸アンモニウム、オキシニ塩化バナジウム、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、オキシシュウ酸バナジウム、チッ化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩化チタン、チタン酸バリウム、チタンフッ化水素酸、塩化マンガン、硫酸マンガン、炭酸マンガン、四三酸化マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、二酸化マンガン、五塩化ニオブ、オキシ塩酸ニオブ、五酸化ニオブ、シュウ酸水素ニオブ、ニオブ酸バリウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン、三酸化タングステン、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、酸化バリウム、硫酸バリウム、過酸化バリウム等を挙げることができるが、本実施形態に係る無機塩としては、特に限定されるわけではない。
【0040】
また、成膜性向上の観点から、上記ケイ素含有後処理皮膜中に、有機化合物を含有させている。有機化合物としては、例えば、シリコーン樹脂も含みエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル酸系樹脂が好ましく、上記無機塩と混合するか脱水縮合等の化学結合を用いて、複合化しても良い。有機化合物の有機系官能基としては、脂肪族および芳香族炭化水素系官能基であれば、特に限定されることはなく、上記無機塩と脱水縮合等の化学結合を用いて複合化されることが望ましい。成膜性を向上させるために、有機系官能基の末端にアミノ基、エポキシ基等の反応性の異なる単独または二種類以上の官能基を導入すると、更に好適である。
【0041】
上記の有機化合物の具体例として、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート、チタンアシレート、水溶性チタン化合物等の有機チタン化合物、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等を挙げることができる。
【0042】
上記ケイ素含有後処理皮膜は、耐食性向上の観点から、防錆処理剤に使用されうる防錆インヒビターを、適宜含有してもよい。防錆インヒビターとしては、特に限定されることはないが、例えば、亜鉛、ケイ素、リン、マグネシウム、ジルコニウム、硫黄、バナジウム、アルミニウム、コバルト、チタン、マンガン、ニオブ、モリブデン、バリウム、タングステンの単体またはこれらを含有する酸化物、フッ化物、窒化物等の化合物の単独または二種以上が配合されていることが好ましい。更に、必要に応じて、例えば、有機防錆剤、染料、界面活性剤、潤滑剤等の他の添加剤の単独または二種以上が配合されていてもよい。ここで、添加剤の材質等は、特に限定されるわけではない。
【0043】
上記ケイ素含有後処理皮膜を形成する処理液としては、上記シリカ、シランカップリング剤、シリコーン樹脂等のケイ素化合物、上記無機塩、上記有機化合物を主成分として、更に、必要に応じて防錆インヒビター、有機防錆剤、染料、界面活性剤、潤滑剤等の他の添加剤の単独または二種以上が配合されていてもよい。
【0044】
上記ケイ素含有後処理剤によるZn−Coめっき上への処理方法としては、浸漬型処理、塗布型処理のいずれの方法によっても上記ケイ素含有後処理皮膜を形成させることが可能である。浸漬型処理としては、たとえば、Zn−Coめっきを被覆した亜鉛系めっき鋼板の脱脂、水洗を行った後に、上記ケイ素含有後処理液と接触させ、リンガーロール法やエアナイフ法等によって膜厚を制御した後に乾燥を行うことにより、上記ケイ素含有後処理皮膜を形成することができる。上記ケイ素含有後処理皮膜の皮膜量は、たとえばリンガーロール法であればロール押し付け圧、エアナイフ法ではエア圧の調整により、それぞれ制御が可能である。
【0045】
塗布型処理としては、例えば、Zn−Coめっきを被覆した亜鉛系めっき鋼板に、必要な皮膜量に応じた量の上記ケイ素含有後処理液を、ロールコート法により必要な塗布量に調整する方法がある。上記ケイ素含有後処理液をZn−Coめっきを被覆した亜鉛系めっき鋼板に塗布した後、乾燥炉等を用いて乾燥させることにより、皮膜を形成させる。
【0046】
なお、上記のZn−Coめっき皮膜やケイ素含有後処理皮膜の付着量は、例えば皮膜形成前および皮膜形成後のめっき鋼板の質量をそれぞれ測定し、皮膜形成前後での質量差を被覆面積で除することで決定することができる。
【0047】
また、上記のZn−Coめっき皮膜やケイ素含有後処理皮膜を形成するための塗布液は、例えば蒸留水に所定比率の成分を固形分濃度が所定範囲(例えば、10〜20質量%)になるように添加し、常温で均一分散するまで撹拌を行うことで製造することができる。
【0048】
また、上記のZn−Coめっき皮膜におけるCo含有率は、例えば以下のような方法を用いることで測定することができる。まず、所定面積の試料上のZn−Coめっきを、所定量の酸溶液で完全に溶解させた後、Zn−Coめっきが溶けた溶液を化学分析し、Zn、Co濃度(g/リットル)を求める。これより、溶液中に溶解したZn、Co量(g)=所定量の酸溶液(リットル)×Zn、Co濃度(g/リットル)の関係を用いて、溶液中に溶解したZn,Co量(g)を求める。続いて、得られた溶液中に溶解したZn、Co量(g)を試料面積(m)で除することで、単位面積あたりのZn,Co付着量(g/m)を求める。ここで、Co含有率(mass%)=Co付着量/(Zn付着量+Co付着量)×100の関係を用いることで、Co含留率を決定することができる。ここで、上記の化学分析を行う機器として、例えば原子吸光光度計(ICP)を用いることができる。
【0049】
また、上記のケイ素含有後処理皮膜におけるケイ素含有率は、めっき鋼板への塗布前後の質量差を被覆面積で除して皮膜付着量とし、次に皮膜中のケイ素量をICP等の化学分析法で測定し被覆面積で除してケイ素付着量とすると、ケイ素含有率(mass%)=(ケイ素付着量/皮膜付着量)×100の式で算出することができる。
【0050】
本実施形態に係るクロメートフリー表面処理を施した金属材料に使用する亜鉛系めっき鋼板としては、特に限定されず、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板等の亜鉛系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき、置換めっき鋼板等の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等を挙げることができる。勿論のことであるが、本実施形態に係る皮膜構成と機能を鑑みると、金属材料としては、鋼やアルミニウム、マグネシウムおよびその合金などZn−Coめっきが可能な金属材料ならば、全て発明の効果は有効である。
【0051】
本実施形態は、金属材料の片面または両面の表面に、第一層として皮膜量が1.0〜5.0g/mであり、めっき中Co含有率が0.2〜1.0mass%であるZn−Coめっき皮膜が形成され、第二層として皮膜量が0.05〜0.5g/mであり、皮膜中ケイ素含有率が0.2〜20mass%であるケイ素含有後処理皮膜が形成されることにより得られるものであることから、鋼板の全面を均一皮膜で覆うことができる。これにより、Zn−Coめっきのめっき表面とケイ素含有後処理皮膜の界面の密着力を向上させることが可能となり、汎用家電用途で具備すべき主たる性能要件である導電性と耐食性とを、同時に確保できる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
用いためっき鋼板を表1、Zn−Coめっき作製水準を表2、ケイ素含有後処理皮膜中ケイ素含有化合物の水準を表3−1、ケイ素含有後処理皮膜中無機塩および有機化合物の混合水準を表3−2にそれぞれ示す。更に、ケイ素含有後処理皮膜を構成するケイ素含有化合物と無機塩および有機化合物の混合物の組み合わせ水準を、表4−1、4−2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】



【0058】
これらの組み合わせによって、本実施例に示すクロメートフリー表面処理金属材料を作製し、導電性および耐食性を調査した。なお、各組成のZn−Coめっき皮膜は、表2の作製水準を用いて、所定時間の通電を行い作製した。また、各皮膜の付着量は、皮膜形成前後の質量差を被覆面積で除することで決定した。なお、表3−2に示したM1〜M17の塗布液の無機系成分と有機系成分との質量比等は、表3−2に記載の通りである。各種評価内容および基準は次の通りである。
【0059】
(導電性評価方法)
平滑で所定サイズの平板表面について、層間抵抗測定機を用いて、層間抵抗(JIS C2550に準ずる)を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0060】
導電性(評価4点以上が合格)
評点5:1.0Ω未満
4:1.0Ω以上2.0Ω未満
3:2.0Ω以上3.0Ω未満
2:3.0Ω以上4.0Ω未満
1:4.0Ω以上
以上の評価結果を、表4−1、4−2に示した。
【0061】
(耐食性評価方法)
平板を150mm(長手)×70mm(幅)サイズに切断し、板端面部と裏面部を市販の防錆テープでシーリングした後で、塩水噴霧試験SST(JIS Z2371)環境に仰角60°で放置し、3日後の腐食外観を下記の評点で評価した。評価基準は以下の通りである。百分率は、部位の錆発生面積率を表す。耐食性評価4点以上が合格である。
【0062】
耐食性(評価4点以上が合格)
評点5:白錆発生なし
4:白錆発生50%未満
3:全面白錆発生
2:白錆発生多、赤錆発生微少
1:赤錆発生多
以上の評価結果を、表4−1、4−2に示した。
【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
表4−1、4−2の評価結果に示す通り、本実施形態に係る製造方法で作製した鋼板(実施例No.1〜48)は、導電性と耐食性が良好であることがわかった。それに比較して、本実施形態に係る範囲を逸脱する場合(比較例No.1〜20)は、導電性および/または耐食性が不良であることがわかった。
【0066】
上記の結果より、本発明に係る表面処理金属材料は、金属材料表面にそれぞれ前出の構成からなる皮膜を所定量有することで、優れた導電性と耐食性を具備できることがわかった。
【0067】
以上説明したように、本発明は、環境保全などの社会問題の対策案の一つであり、かつ、低皮膜厚みによる低製造コスト化を実現でき、実用上極めて有効な価値ある技術と言える。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のクロメートフリー表面処理金属材料は、上述した金属材料の上に微量Co含有Zn−Coめっき皮膜を被覆し、更にその上にケイ素含有後処理皮膜を薄く被覆させることにより、金属材料表面に耐食性および導電性に優れた皮膜を形成させることができる。かかる本発明は、環境保全などの社会問題の対策案の一つであり、かつ、低皮膜厚みによる低製造コスト化を実現でき実用上極めて有効な価値ある技術と言える。本発明は、デジタル家電、精密機器、OA機器、白物家電等の汎用家電分野での今後の波及効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の片面または両面の表面に、
皮膜量が1.0〜5.0g/mであり、めっき中のコバルト含有率が0.2〜1.0mass%である亜鉛−コバルトめっき皮膜からなる第一層と、
前記第一層上に形成され、皮膜量が0.05〜0.5g/mであり、皮膜中のケイ素含有率が0.2〜20mass%であるケイ素含有後処理皮膜からなる第二層と、
を有することを特徴とする、表面処理金属材料。
【請求項2】
前記金属材料は、亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属材料。

【公開番号】特開2008−101251(P2008−101251A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285555(P2006−285555)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】