説明

表面処理鋼板および電子機器筐体

【課題】成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性に優れた、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に6価クロムを含まない化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成し、前記合金化溶融亜鉛めっき層に、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有させ、かつ、前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、6価クロムを含まない0.2〜3μm厚の化成処理皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波をシールドする電子機器の筐体に用いて好適な、成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性に優れる、合金化溶融亜鉛めっき層の表面に6価クロムを含まない化成処理を施した表面処理鋼板に関するものである。また、本発明は、上記の表面処理鋼板を用いて成形加工した、電磁波シールド性および耐食性に優れる電子機器の筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄型テレビやパソコンなどの電子機器に搭載される部品から発生する電磁波が、筐体から漏洩して人体へ影響を及ぼすことを抑制する、あるいは、外部から侵入する電磁波によって、電子機器が誤動作することを防止するため、これらの電子機器の筐体(以下、電子機器筐体という)には、電磁波シールド性が求められる。
【0003】
電子機器筐体を金属製とすることで、電磁波をシールドすることができることは良く知られている。また、電子機器筐体を構成する金属の導電性が高まると、電磁波のシールド性も向上する。しかしながら、金属製電子機器筐体は、成形加工した金属板を、フランジを介して締結して製作されることが一般的であることから、多くの継目や接合部を有し、これらの継目や接合部に存在する隙間から電磁波が漏洩または侵入する問題があった。この隙間からの電磁波の漏洩または侵入を防止する方法として、継目や接合部にガスケットを挿入して隙間を埋めるガスケット法と、電子機器筐体を構成する金属板の導電性をさらに向上させて、金属板の電磁波吸収能力をさらに高め、継目や接合部に隙間があっても電磁波が漏洩または侵入しないようにする非ガスケット法がある。ガスケットの使用は、電子機器筐体を構成する部品の増加を招き、電子機器筐体の製造コストの上昇につながることから、近年では、非ガスケット法が好まれている。
【0004】
従来、電子機器筐体の金属板には、亜鉛系めっき層の上にクロメート処理皮膜を有する表面処理鋼板(以下、クロメート処理亜鉛系めっき鋼板という)が広く使用されていた。クロメート処理皮膜は膜厚が薄いため、クロメート処理亜鉛系めっき鋼板の導電性は、ほとんど阻害されなかった。しかしながら、クロメート処理液には、環境負荷物質である6価クロムを含有するため、クロメート処理亜鉛系めっき鋼板の使用は、制限されるようになった。そこで、亜鉛系めっき層の上に6価クロムを含まない、いわゆるクロメートフリー化成処理皮膜を有する表面処理鋼板(以下、クロメートフリー化成処理亜鉛系めっき鋼板)が使用されるようになった。しかしながら、クロメート処理皮膜と同等の耐食性を有するクロメートフリー処理皮膜の膜厚は厚いため、クロメートフリー化成処理亜鉛系めっき鋼板の導電性は低く、クロメートフリー化成処理亜鉛系めっき鋼板を使用して製作された電子機器筐体は、ガスケットを用いなければ電磁波をシールドすることができないことが多かった。
なお、「6価クロムを含まない、いわゆるクロメートフリー」とは、不可避的不純物として存在する極微量の6価クロムまでも含まないという趣旨ではなく、また、必要に応じて3価クロムの含有を許容するものとする。
【0005】
クロメートフリー化成処理亜鉛系めっき鋼板の導電性を向上させる方法として、表面全体に微細な凹凸を有する亜鉛系めっき層の上に、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する技術がある。かような技術に従う表面処理鋼板は、亜鉛系めっき層の凹部ではクロメートフリー化成処理皮膜の膜厚が局所的に厚く、亜鉛系めっき層の凸部ではクロメートフリー化成処理皮膜から凸部が局所的に露出し、これらの微細な凹部および凸部を亜鉛系めっき層の表面全体に分布させることで、耐食性に対しては膜厚の厚いクロメートフリー化成処理皮膜有する表面処理鋼板として、導電性に対してはクロメートフリー化成処理皮膜から局所的に露出した凸部が導通点として機能し、クロメート処理亜鉛系めっき鋼板と同等の耐食性と導電性を有する。従って、表面全体に微細な凹凸を有する亜鉛系めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を有する表面処理鋼板を用いて製作された電子機器筐体は、一定の電磁波シールド性を確保できるようになった。
【0006】
しかしながら、亜鉛系めっき層の表面全体に微細な凹凸を、溶融亜鉛めっき鋼板ではめっき後に、電気亜鉛めっきの場合にはめっき前に、ダル加工したロールで鋼板を調質圧延することによって形成した場合、製作コストが嵩むだけではなく、このようにして製作されたクロメートフリー化成処理皮膜を有する表面処理鋼板を用いた非ガスケット法による電子機器筐体では、ますます厳しくなる電磁シールド性の要求に応えられなくなってきていた。そこで、クロメートフリー化成処理亜鉛系めっき鋼板の導電性を、低コストで、さらに高めることが望まれていた。
【0007】
このような問題を解決する技術として、例えば、特許文献1には、合金化処理された溶融亜鉛めっき鋼板(以下、合金化溶融亜鉛めっき鋼板という)の少なくとも一方の面のめっき皮膜の上に、クロメートフリーの防錆処理皮膜を具える表面処理鋼板が開示されている。
【特許文献1】特開2006−257456号公報
【0008】
特許文献1に開示される表面処理鋼板は、ダル加工したロールなどで調質圧延してもつぶしきれない、合金化溶融亜鉛めっき層の表面特有の微細な凹凸を利用して、導電性を向上させたものである。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の表面処理鋼板は、ZnリッチなFeZn13の柱状晶(ζ相)上に化成皮膜が形成された後、化成皮膜層から露出した凸部は成形加工された際の摺動により変形し易く、皮膜面より露出した導通部の比率が低くなり、導電性の向上が十分ではなかった。
【0010】
また、特許文献1に記載の表面処理鋼板は、防錆処理液と合金化溶融亜鉛めっき層との反応性が低いため、防錆処理皮膜と合金化溶融亜鉛めっき層との密着性が低く、耐食性に劣っていた。
【0011】
電子部品筐体は、鋼板を成形加工して製作されるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に防錆処理皮膜を形成した表面処理鋼板を使用する場合、合金化溶融亜鉛めっき層が、高い耐フレーキング性を有する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の表面処理鋼板の場合、合金化溶融亜鉛めっき層にζ相を有するため、耐フレーキング性に劣っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するもので、成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性に優れた、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板を提供することを目的とする。
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した、部品の電磁波シールド性および耐食性に優れる電子機器筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決すべく、発明者らは、素地鋼板の両面に、種々の合金化溶融亜鉛めっき層を形成し、さらに、合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に種々のクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板を作製し、その成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性を鋭意調査した。
その結果、合金化溶融亜鉛めっき層が、ζ相を含まず、実質的にΓ相およびδ1相を具え、合金化溶融亜鉛めっき層中のFeおよびAlの含有量が一定範囲内であり、かつ合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に所定の化成処理皮膜を所定の膜厚で形成した表面処理鋼板が、所望の成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性を有し、併せて高い熱放射率も有することを見出した。
【0014】
本発明は、上記の知見にさらに検討を重ねてなされたもので、その要旨構成は、次のとおりである。
1.素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を具え、
前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、
前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、6価クロムを含まない0.2〜3μm厚の化成処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【0015】
2.前記合金化溶融亜鉛めっき層の表面が、算術平均粗さ:Raで0.5〜1.5μm、かつ、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIで150〜350を満足することを特徴とする上記1に記載の表面処理鋼板。
【0016】
3.前記合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下であることを特徴とする上記1または2に記載の表面処理鋼板。
【0017】
4.上記1〜3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板を用いて成形加工したことを特徴とする電子機器筐体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性に優れる、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に6価クロムを含まない化成処理を施した表面処理鋼板を得ることができる。
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した電子機器筐体は、優れた電磁波シールド性および耐食性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の詳細と限定理由を説明する。
本発明の表面処理鋼板は、素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を具え、前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、膜厚が0.2〜3μmのクロメートフリー化成処理皮膜を有する鋼板である。以下、素地鋼板、合金化溶融亜鉛めっき層およびクロメートフリー化成処理皮膜に分けて説明する。
【0020】
(素地鋼板)
素地鋼板の種類は、電子部品筐体を成形加工する際に割れなどが発生しない強度を有すれば特に限定されるものではないが、引張強さ(TS):270MPa相当の軟鋼板が好ましい。また、絞り比の大きい形状に成形加工する場合には、加工性の良い極低炭素IF鋼相当の鋼板が好ましい。
【0021】
(合金化溶融亜鉛めっき層)
素地鋼板の両面には、合金化溶融亜鉛めっき層が形成される。合金化溶融亜鉛めっき層は、素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を施すことで形成されるが、本発明の表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層は、実質的にΓ相(Fe3Zn10)およびδ1相(FeZn7)からなるように合金化処理される。合金化処理が不十分であると、合金化溶融亜鉛めっき層の表面にζ相(FeZn13)が残る。表面にζ相が残った合金化溶融亜鉛めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板の成形前における導電性は充分なレベルにある。しかしながら、成形加工された後、特に成形時における摺動部の導電性が劣る。ζ相は、Γ相やδ1相に比較してZnリッチな相で柔軟であり、成形時の摺動により凸部がつぶれて変形しやすく、導通点が充分に確保できないためである。従って、かような表面処理鋼板を成形加工して製作した電子機器筐体は、電磁波シールド性に劣る。
【0022】
また、表面にζ相が、残った合金化溶融亜鉛めっき層は、合金化処理後に施されるクロメートフリー化成処理で、ζ相とクロメートフリー化成処理液との反応性が良好でないことから、クロメートフリー化成処理皮膜と合金化溶融亜鉛めっきとの密着性に劣り、その結果、耐食性の低下を招く。また、ζ相が存在する合金化溶融亜鉛めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板を成形加工すると、Znリッチなζ相がΓ相やδ1相に比べ柔軟なため、フレーキングと呼ばれるめっき剥離が発生し易い。また、ζ相が柔軟であることにより、成形時の動摩擦係数が高くなり成形性が劣化する。
【0023】
一方、合金化処理が過剰であると、δ1相が少なく、Γ相が多い合金化溶融亜鉛めっき層となる。Γ相が多い合金化溶融亜鉛めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板を成形加工すると、Feリッチで脆い相であるΓ相に起因したパウダリングが発生し易い。
【0024】
従って、合金化溶融亜鉛めっき層は、実質的にΓ1相(18.5〜23.5mol%Fe)を主体としたΓ相およびδ1相からなるものとする。なお、不可避的に形成される極微量の合金相の含有は許容するものとする。本発明において、実質的にΓ相およびδ1相からなる旨は後述するX線回折のΓ相、δ1相およびζ相のピーク強度比により決定されるものとする。
【0025】
さらに、本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量およびAl含有量は、以下の条件を満足する必要がある。
・Fe含有量:10.5〜15質量%
Fe含有量が10.5質量%未満では、ζ相を含む合金化溶融亜鉛めっき層となり、耐フレーキング性が劣化するだけでなく、摺動不足による成形時の割れやシワの原因となる。一方、Fe含有量が15質量%を超えると、Γ相が過剰に生成した合金化溶融亜鉛めっき層となり、パウダリング性が劣化する。また、合金化処理時に、合金化温度を高くする必要があり、長い合金化時間を要することからラインスピードの低下を招き、生産性を阻害する。従って、Fe含有量は、10.5〜15質量%の範囲とする。好ましくは、11.0〜14.0質量%の範囲である。
【0026】
・Al含有量:0.15〜0.30質量%
Al含有量が0.15質量%未満の場合には、熱力学的にζ相が安定となり、ζ相が生成し易いだけでなく、合金化速度が速いためにFe含有量の制御が困難となる。一方、Al含有量が0.30質量%を超えると、合金化が極端に遅くなるため、合金化温度を高くし合金化時間を長くする必要があり生産性を阻害する。さらには、合金化を均一に行うための制御が困難となり、鋼板の一部でη相が残存する、いわゆる生焼け状態となる問題が生じる。従って、Al含有量は、0.15〜0.30質量%の範囲とする。好ましくは、0.18〜0.25質量%の範囲である。
【0027】
次に、合金化処理条件について説明する。実質的にΓ相およびδ1相からなり、Fe含有量およびAl含有量が上記した範囲となる合金化溶融亜鉛めっき層を得るには、素地鋼板が軟鋼である場合、合金化処理条件を次のようにすることが好ましい。
【0028】
・亜鉛付着量:片面あたり25〜60g/m2
亜鉛付着量は合金化速度に大きな影響を与える。亜鉛付着量が片面あたり25g/m2未満であると、合金化の進行が速く、めっき層中のFe含有量が過剰となり、めっき層の耐パウダリング性が劣化し、一方、片面あたり60g/m2を超えると、合金化の進行が遅く、めっき層中のFe含有量が不充分となり、耐フレーキング性が劣化する。従って、亜鉛付着量は、片面あたり25〜60g/m2の範囲とすることが好ましい。特に電子機器筐体として使用することを考慮すると、35〜50g/m2の範囲とすることが好ましい。
【0029】
・合金化処理温度:450〜530℃
合金化処理温度が450℃未満では、ζ相が生成し易くなり、耐フレーキング性が劣化し、また、合金化速度が遅いことから、所望のFe含有量を得るためには、長時間の合金化処理が必要となる。また、鋼板の一部にη相が残存する問題も生じる。一方、合金化処理温度が530℃を超えると、急速な合金化により高いFe含有量になり易く、Γ相の生成量が過剰となり、耐パウダリング性が劣化する。従って、合金化処理温度は、450〜530℃の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは470〜510℃の範囲である。なお、合金化処理のために用いる熱源は、η相が生成し易い低温域での合金化時間を短くするため、急速加熱が可能な誘導加熱とすることが好ましい。
【0030】
上記した条件で合金化された合金化溶融亜鉛めっき層が、実質的にΓ相およびδ1相からなることは、ディフラクトメータ法によるX線回折で、Γ相のd(Å)=2.592(ただし、d(Å)は格子面間隔)、δ1相のd(Å)=2.136およびζ相のd(Å)=3.025のピークの強度(cps)をそれぞれ、(a)、(b)および(c)としたとき、
(b)/(a)>50かつ(c)/(a)<1.2
を満足することから確認することができる。
【0031】
(クロメートフリー化成処理皮膜)
本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面には、クロメートフリー化成処理皮膜を有する。耐食性の要求がそれほど高くない場合には、一方の面のみにクロメートフリー化成処理膜を形成し、特に電磁波シールド性に優れる表面処理鋼板として提供できる。一方、耐食性の要求が非常に高い場合には、両面にクロメートフリー化成処理膜を形成することによって、特に耐食性に優れる表面処理鋼板として提供することができる。
【0032】
上述したように、本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層の表面にはζ相が存在しないことから、クロメートフリー化成処理液との反応性が良い。従って、クロメートフリー化成処理液の種類は特に限定されないが、例えば、リン酸、フッ化物、硝酸等のZnまたはZnリッチであるZn−Fe化合物の溶解性に富む物質を含むクロメートフリー化成処理液が好ましく、Γ相およびδ1相との密着性に優れるクロメートフリー化成処理皮膜を得ることができる。これらの処理で形成されるクロメートフリー化成処理皮膜の膜厚が0.2μm未満であると、耐食性に不利となり、一方、3μmを超えると、電磁波シールド性に不利となる。従って、クロメートフリー化成処理皮膜の膜厚は、0.2〜3μmの範囲とする。好ましくは、0.5〜1.5μmの範囲である。
【0033】
なお、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する方法としては、通常行われている方法を用いればよい。例えば、塗布法、浸漬法、スプレー法により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面をクロメートフリー化成処理液で処理した後、加熱乾燥を行う。塗布法としては、ロールコーター(例えば、3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、バーコーター、スプレーコーターなどいずれの方法でもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、あるいは浸漬処理、スプレー処理の後に、エアーナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行ってもよい。
加熱乾燥を行う加熱手段としては、特に制限はないが、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱乾燥温度は到達板温で50〜250℃が好ましい。250℃を超えると皮膜にクラックが入り、耐食性を低下させることがある。一方、50℃より低い温度では皮膜中の水分残存が多くなり、やはり耐食性が低下することがある。このような観点から、より好ましい加熱乾燥温度は60〜200℃であり、特に好ましくは60〜180℃である。
【0034】
以上が、本発明の表面処理鋼板の基本構成であるが、必要に応じて次の構成を加えても良い。
【0035】
本発明に従う表面処理鋼板の合金化溶融亜鉛めっき層の表面が、算術平均粗さ:Raで0.5〜1.5μm、かつ、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIで150〜350であることが好ましい。また、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下であることが好ましい。
以下、算術平均粗さ:Ra、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPI、およびの合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比の限定理由について説明する。
【0036】
(算術平均粗さ:Ra 0.5〜1.5μm)
算術平均粗さ:Raは、JIS B 0601−1994に準拠するものとする。Raが0.5μm未満の場合、クロメートフリー化成処理皮膜を塗布した状態でのめっき凸部の被膜率が高くなるため、導通点の比率が低下し導電性が劣化することが問題となる。一方、Raが1.5μmを超えると、クロメートフリー化成処理皮膜を塗布した状態でのめっき凸部の露出率が高いため、導電性は良好であるが耐食性の劣化が問題となる。従って、Raは、0.5〜1.5μmの範囲が好ましい。より好ましくは、0.7〜1.3μmの範囲である。
【0037】
(粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPI 150〜350)
粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIは、ピークカウントインデックスと呼ばれるもので、米国のSAE規格で定められたものであり、この値が小さくなると1山の断面積(縦断面積)が大きくなることを意味する。なお、図1に、米国のThe Engineering Society for Advancing Mobility Land Sea Air and Space:SAE J911-JUN 86 「SURFACE TEXTURE MEASUREMENT OF COLD ROLLED SHEET STEEL」で定められたPPIを測定する際の表面粗さの粗さ曲線を示す。図1において、粗さ曲線の平均線から、正負、両方向に一定の基準レベルHを設け、負の基準レベルを超えたあと、正の基準レベルを超えたとき、1カウントする。このカウントを評価長さ:Lnに達するまで繰り返し、数えた個数で表示したものをPPIとする。なお、本発明においては、Lnを25.4mm(1インチ)、2H(ピークカウントレベル:正負の基準レベル間の幅)を1.27μm(50マイクロインチ)とする。
【0038】
PPIが150未満の場合、クロメートフリー化成処理皮膜を塗布した面の一定面積内でのめっき被覆率が高いため、導電性が劣化する。一方、PPIが350を超えると、クロメートフリー化成処理皮膜を塗布した面の一定面積内でのめっき露出率が高いため、導電性は良好であるが耐食性が劣化する。従って、PPIは、150〜350の範囲が好ましい。より好ましくは、170〜330の範囲である。
【0039】
(合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比:3以下)
合金化溶融亜鉛めっき層表面に存在する結晶のうち、垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したときに、アスペクト比(最長辺長さ/最短辺長さ)の大きい方から10個の結晶を選択し、この10個の結晶のアスペクト比の平均値を平均アスペクト比とする。図2は、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前の合金化溶融亜鉛めっき層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で観察した結果を示す写真であって、(a)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下である一例を、(b)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3を超える一例を示す図である。
【0040】
合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3を超えると、合金化溶融亜鉛めっき層中にZnリッチで柔軟なζ相が存在するため、プレス等の成形時の摺動により凸部がつぶれて変形しやすいため、成形加工部の導電性が不十分となる問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比は3以下が好ましい。より好ましくは、2以下である。なお、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比の下限値については、特に制限はない。
【0041】
なお、上述したところは、本発明の実施形態の一例に過ぎず、請求の範囲において種々変更を加えることができる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例について説明する。以下に示すように各サンプルを作製した。
(サンプルNo.1〜12)
素地鋼板として準備した、板厚:1.0mmの極低炭素IF鋼板を、溶融亜鉛めっき浴中に浸入させ、ガスワイピングで亜鉛付着量を片面あたり40g/mに調整した。めっき浴中の溶解Al量は、合金化溶融亜鉛めっき層中のAl含有量が表1に示す0.10〜0.40質量%の範囲となるように、0.110〜0.150質量%の範囲で変化させた。また、めっき浴の温度は、500℃とした。
【0043】
ついで、合金化処理は、熱源として誘導加熱装置を用い、表1に示すように合金化処理温度を470〜500℃の範囲に設定して行った。
【0044】
【表1】

【0045】
その後、素地鋼板の両面に合金化溶融亜鉛めっき層を形成した鋼板に脱脂処理を行い、表2に示すクロメートフリー化成処理液をロールコート塗布装置を用いて塗布し、加熱開始から5秒後に到達板温90℃となるように加熱し、クロメートフリー化成処理皮膜を形成した。なお、クロメートフリー化成処理液は、サンプルNo.1〜11については、加熱後のクロメートフリー化成処理皮膜の膜厚が、一方の面および他方の面それぞれについて表1に示した膜厚になるように、片面ずつ両面に塗布し、サンプルNo.12については、任意の一方の面にのみについて表1に示した膜厚になるように塗布した。
【0046】
【表2】

【0047】
(サンプルNo.13および14)
亜鉛付着量を、サンプルNo.13は片面あたり70g/mに、サンプルNo.14は片面あたり30g/mに調整した以外は、サンプルNo.1と同様の方法でサンプルを作製した。
【0048】
(サンプルNo.15〜17)
合金化溶融亜鉛めっき層の上にクロメートフリー化成処理皮膜を形成しないか、またはクロメートフリー化成処理皮膜の膜厚が、0.2〜3μmの範囲外であること以外は、サンプルNo.1と同様の方法でサンプルを作製した。
【0049】
(サンプルNo.18)
合金化溶融亜鉛めっき層がζ相を有するようにしたこと以外は、サンプルNo.1と同様の方法でサンプルNo.18を作製した。
【0050】
(サンプルNo.19〜23)
参考例として、素地鋼板の両面に合金化溶融亜鉛めっき層以外の亜鉛系めっきを形成し、クロメートフリー化成処理皮膜の膜厚を1.2μmとしたこと以外は、サンプルNo.1と同様の方法でサンプルNo.19〜23を作製した。なお、サンプルNo.19〜23に形成した亜鉛系めっき層の種類は、表1の「合金化溶融亜鉛めっき」の欄に記載した。
【0051】
なお、各サンプルの作製にあたり、合金化溶融亜鉛めっき層中の合金相の同定、Fe含有量およびAl含有量は、以下のように測定した。また、合金化溶融亜鉛めっき層表面の算術平均粗さ:Raおよび粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIは、以下のように測定した。さらに、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比は、以下のように測定した。
【0052】
(合金化溶融亜鉛めっき層中の合金相の同定)
合金化処理の完了した各サンプルを、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前にディフラクトメータ法によるX線回折で、合金化溶融亜鉛めっき層中の合金相を同定した。X線回折条件は次のとおりである。
装置:理学電機社製RU−300
X線源:Co−Kα
管球電圧:30kV
管球電流:100mA
照射時間:30分
速度:2deg/分
ステップ:0.05
スリット:DS=SS=1°、RS=0.3°
回転:なし
ピーク強度:最大値
バックグラウンド処理:スムージング
【0053】
上記した方法で、合金相のピーク強度を測定して、Γ相のd(Å)=2.592、δ1相のd(Å)=2.136およびζ相のd(Å)=3.025のピークの強度をそれぞれ、(a)、(b)および(c)とし、(b)/(a)>50かつ(c)/(a)<1.2を満足したとき、合金化溶融亜鉛めっき層は、実質的にΓ相およびδ1相のみが存在し、ζ相を含まないと判断した。
【0054】
(合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量およびAl含有量)
合金化処理を完了し、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前の各サンプルから試料を切り出し、JIS H 0401:2007、5.付着量試験方法、5.2間接法に規定される試験液を用いて合金化溶融亜鉛めっき層を溶解した溶液の湿式化学分析(ICP分析)を行い合金化溶融亜鉛めっき層中のFe含有量およびAl含有量を測定した。
【0055】
(算術平均粗さ:Ra)
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、JIS B 0601−1994に準拠して、算術平均粗さ:Raを測定した。
【0056】
(粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPI)
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、上述したSAE規格に準拠して、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIを測定した。
【0057】
(合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比)
合金化処理の完了した各サンプルについて、クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前に、次の要領で平均アスペクト比を求めた。
合金化溶融亜鉛めっき層表面に存在する結晶のうち、垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で観察したときに、アスペクト比(最長辺長さ/最短辺長さ)の大きい方から10個の結晶を選択し、この10個の結晶のアスペクト比の平均値を平均アスペクト比とした。
【0058】
かくして得られた各サンプルの成形加工部の導電性、耐食性、耐フレーキング性、耐パウダリング性および熱放射率を以下のように評価した。
【0059】
(成形加工部の導電性)
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルの両面の表面抵抗値をそれぞれ測定し、各面の表面抵抗値の平均値で各サンプルの導電性を評価した。具体的には、低抵抗測定装置(ロレスタGP:三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、各サンプル表面の表面抵抗値を測定した。その際、プローブ先端にかける荷重を変化させ、導通時の荷重を測定した。さらに加圧力:98kPa(1kgf/cm2)、摺動速度:20mm/sで平面金型にて摺動後、同様に表面抵抗を測定した。評価基準は次のとおりである。評価結果は表1に併記した。
◎:2.9N(300gf)以下
○:2.9N(300gf)を超え4.9N(500gf)以下
△:4.9N(500gf)を超え6.9N(700gf)以下
×:6.9N(700gf)を超える。
【0060】
(耐食性)
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルの一方の面について、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、120時間後の耐白錆性で評価した。評価基準は以下のとおりである。評価結果は、表1に併記した。
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上
【0061】
(耐フレーキング性)
耐フレーキング性は、限界絞り比で評価した。合金化溶融亜鉛めっき層中に、Γ相やδ1相に比べてFe含有量の低いζ相が多く含有すると、成形時に金型ダイスと合金化溶融亜鉛めっき層表面との摩擦係数が高くなりフレーキングが発生するため限界絞り比が低下する。
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、パンチ径:33mm、しわ押え荷重:9.8kN(1tf)、成形荷重:9.8kN(1tf)および成形速度300mm/sにて同筒カップ絞り試験を行い、限界絞り比を調査した。評価基準は以下のとおりである。評価結果は、表1に併記した。
◎:2.0以上
○:1.9以上2.0未満
△:1.8以上1.9未満
×:1.7以上1.8未満
【0062】
(耐パウダリング性)
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、幅:40mmのセロハン粘着テープを貼り、先端Rが1mmの90度曲げ金型(凹凸)を使用し、セロハン粘着テープを貼った面が凹部となるように曲げ加工した後、セロハン粘着テープを剥離し、セロハン粘着テープに付着した付着物を、蛍光X線分析装置を用いて測定し、ZnのKα線強度(cps)を25倍してパウダリング指数とし、耐パウダリング性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評価結果は表1に併記した。
◎:3000以上4000未満
○:4000以上5000未満
△:5000以上6000未満
×:6000以上
【0063】
(熱放射率)
クロメートフリー化成処理皮膜を形成した各サンプルについて、ブルカーオプティクス社製の赤外吸収スペクトル測定装置(IFS66/S)を使用して、2.5〜25μmの波長領域の分光反射スペクトル(R(λ))を測定した。なお、測定には積分球を使用した。この分光反射スペクトル(R(λ))を次式に代入して熱放射率とした。評価結果は、表1に併記した。
【0064】
【数1】

【0065】
表1から明らかなように、サンプルNo.1および6〜14の発明例で示す本発明の表面処理鋼板はいずれも、小さい表面抵抗値、すなわち導電性に優れ、耐食性、耐フレーキング性および耐パウダリング性にも優れることが確認できた。特に、本発明の表面処理鋼板は、成形加工の前後で導電性が劣化しないことも併せて確認できた。また、高い熱放射率を有することも確認できた。
これに対し、サンプルNo.2〜5および15〜18の比較例並びにサンプルNo.19〜23の参考例は、導電性、耐食性、耐フレーキング性、耐パウダリング性および熱放射率のうち少なくとも1つが劣ることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、成形加工部の導電性、耐食性および耐フレーキング性に優れる、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に化成処理を施した表面処理鋼板を得ることができる。
また、本発明の表面処理鋼板を用いて成形加工した電子機器筐体は、優れた電磁波シールド性および耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】SAE規格で定められたPPIの定義に関する表面粗さの粗さ曲線を示すグラフである。
【図2】クロメートフリー化成処理皮膜を形成する前の合金化溶融亜鉛めっき層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で観察した結果を示す写真であって、(a)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下である一例を、(b)は、合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3を超える一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板の両面に、実質的にΓ相およびδ1相からなる合金化溶融亜鉛めっき層を具え、
前記合金化溶融亜鉛めっき層が、Feを10.5〜15質量%、Alを0.15〜0.30質量%含有し、かつ、
前記合金化溶融亜鉛めっき層の少なくとも一方の表面に、6価クロムを含まない0.2〜3μm厚の化成処理皮膜を有することを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項2】
前記合金化溶融亜鉛めっき層の表面が、算術平均粗さ:Raで0.5〜1.5μm、かつ、粗さ曲線の平均線方向の長さ25.4mmあたりの山の数:PPIで150〜350を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記合金化溶融亜鉛めっき層表面の結晶の平均アスペクト比が3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板を用いて成形加工したことを特徴とする電子機器筐体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53428(P2010−53428A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222320(P2008−222320)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】