説明

表面改質された無機化合物微粒子及びその分散体

【課題】有機媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できる表面改質された無機化合物微粒子を提供すること。
【解決手段】本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子は、無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、下記一般式(1):


{式中、R1〜R5は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R1〜R5は互いに同一でも異なっていてもよく、R6は2価の連結基を示し、a≧1であり、そしてSi*で表されるケイ素原子の3つの結合手の内の少なくとも1つは、酸素原子を介して無機化合物微粒子の表面の金属原子と結合している。}で表される基が結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質された無機化合物微粒子とその分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機化合物粒子は、その特徴的な化学的、物理的特性から、顔料、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、触媒担体、吸着剤、脱臭剤、バイオリアクター、充填剤、化粧品、コート剤、帯電防止剤、防菌剤、防汚剤、光学材料、電子・電気材料、光電変換材料等の種々の材料に用いられている。こうした中、無機化合物粒子を分散した複合材料への関心が集まっている。例えば、高分子材料に無機化合物粒子を分散することにより、高分子材料の電磁気的、光学的、機械的、熱的機能の飛躍的向上が期待できる点、金属やガラスをマトリックスにする場合に比べ、複合材料の製造、加工が容易である点等が注目されている。
【0003】
ところが、一般的な無機化合物粒子は、粒子表面の水酸基の存在により親水性を有しており、有機媒体中では粒子同士が凝集し易く、分散安定性が極めて悪い。そこで、有機媒体中での分散安定性を改善するため、シランカップリング剤を無機化合物粒子の表面の水酸基等と反応させて、該無機化合物粒子の表面を改質する方法が提案されている(以下、非特許文献1を参照のこと)。しかしながら、この方法でも、シリコーン等の低極性媒体中に分散させることは極めて困難である。また、無機化合物粒子の表面をカルボン酸により改質する方法も提案されているが(以下、特許文献1を参照のこと)、粒子表面との結合安定性が低いという問題があり、経時的に分散性が悪くなってしまう。そのため、有機媒体、特には低極性媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できるような無機化合物微粒子の開発が強く望まれている。
【0004】
【非特許文献1】「有機、無機材料における表面処理・改質の上手な方法とその評価」、技術情報協会社、2004年11月、p.18
【特許文献1】特開2007−70603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機媒体、特には低極性媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できるような無機化合物微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の表面改質を行うことによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、具体的には、以下の[1]〜[9]の通りである。
【0007】
[1]無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、下記一般式(1):
【化1】

{式中、R1〜R5は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R1〜R5は互いに同一でも異なっていてもよく、R6は2価の連結基を示し、a≧1であり、そしてSi*で表されるケイ素原子の3つの結合手の内の少なくとも1つは、酸素原子を介して無機化合物微粒子の表面の金属原子と結合している。}で表される基が結合している表面改質された無機化合物微粒子。
【0008】
[2]下記一般式(2):
【化2】

{式中、R7〜R11は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R7〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、R12は2価の連結基を示し、R13は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基を示し、ここで、XはR7〜R11と同一ではなく、b≧1、0≦c≦2、1≦d≦3、そしてc+d=3である。}で表される化合物(A)を、無機化合物微粒子の表面と反応させて得られうる、前記[1]に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0009】
[3]前記化合物(A)が、一般式(2)においてc=0、かつ、d=3で表される化合物である、前記[2]に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0010】
[4]前記化合物(A)が、下記一般式(3):
【化3】

{式中、R14〜R18は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R14〜R18は互いに同一でも異なっていてもよく、R19は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R20は炭素数1〜4のアルキル基を示し、ここで、複数のR20は互いに同一でも異なっていてもよく、e≧3、0≦f≦2、1≦g≦3、そしてf+g=3である。}で表される化合物である、前記[2]に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0011】
[5]前記化合物(A)が、一般式(3)においてf=0、かつ、g=3で表される化合物である、前記[4]に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0012】
[6]前記無機化合物微粒子が無機酸化物微粒子である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0013】
[7]前記無機酸化物微粒子が酸化チタン微粒子である、前記[6]に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【0014】
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の表面改質された無機化合物微粒子を含有することを特徴とする無機化合物微粒子分散体。
【0015】
[9]前記無機化合物微粒子分散体の分散媒体が有機物及び/又はSi含有有機物である、前記[8]に記載の無機化合物微粒子分散体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機媒体、特には低極性媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できる表面改質された無機化合物微粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子は、無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、下記一般式(1):
【化4】

{式中、R1〜R5は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R1〜R5は互いに同一でも異なっていてもよく、R6は2価の連結基を示し、a≧1であり、そしてSi*で表されるケイ素原子の3つの結合手の内の少なくとも1つは、酸素原子を介して無機化合物微粒子の表面の金属原子と結合している。}で表される基が結合していることを特徴としている。
【0018】
無機化合物としては、ケイ素、2族のマグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、3族のアルミニウム、ガリウム、希土類等、4族のチタン、ジルコニウム等、5族のリン、バナジウム等、6族のクロム、モリブデン等、7族のマンガン等、8族の鉄、コバルト等の無機酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物、硫化亜鉛や硫化鉛などの硫化物、粘土等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0019】
無機化合物としては、微粒子表面に水酸基が存在し、改質し易い点で無機酸化物が好ましい。なお、無機酸化物は無機複合酸化物であってもよい。無機酸化物としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウム、シリカ、アルミナ、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化スズ、ITO、酸化亜鉛等が挙げられ、非常に大きな屈折率を有しており、さらに可視光領域での吸収も小さいことから、無色の透明性が要求される光学材料への利用に適している点で、酸化チタンや酸化ジルコニウムがより好ましい。さらに、屈折率が特に大きく、粒子表面の水酸基が無触媒においても改質剤と速やかに反応することから、無機酸化物としては、酸化チタンが特に好ましい。
【0020】
無機化合物微粒子の大きさは、平均一次粒子径として、無機化合物微粒子本来の特性を発現できる点で0.1nm以上が好ましく、分散体としたときの透明性が上がる点で10mm以下が好ましい。同様の観点で、1nm〜1μmがより好ましく、1nm〜100nmが更に好ましく、2nm〜50nmが特に好ましく、2nm〜20nmが最も好ましい。用いる無機化合物微粒子としては、凝集体であってもよい。無機化合物微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状粒子、針状粒子、鱗片状粒子、板状粒子、不定形粒子、中空状粒子等が挙げられる。
【0021】
一般式(1)において、R1は水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、具体的には、炭素数1〜20の置換若しくは非置換の直鎖状アルキル基、炭素数3〜20の置換若しくは非置換の分岐鎖状アルキル基、炭素数4〜20の置換若しくは非置換のシクロアルキル基、炭素数6〜20の置換若しくは非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換若しくは非置換のアラルキル基、又は以下の一般式(4):
【化5】

{式中、R21〜R23は炭素数1〜20の置換若しくは非置換の直鎖状アルキル基、炭素数3〜20の置換若しくは非置換の分岐鎖状アルキル基、炭素数4〜20の置換若しくは非置換のシクロアルキル基、炭素数6〜20の置換若しくは非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換若しくは非置換のアラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、そしてR21〜R23は互いに同一でも異なっていてもよい。}で表されるトリアルキルシロキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基又は一般式(4)で表されるトリアルキルシロキシ基がより好ましく、n−ブチル基が特に好ましい。また、R1が反応性基を有していてもよい。
【0022】
一般式(1)において、R2〜R5は水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、具体的には、水素原子、炭素数1〜20の置換若しくは非置換の直鎖状アルキル基、炭素数3〜20の置換若しくは非置換の分岐鎖状アルキル基、炭素数4〜20の置換若しくは非置換のシクロアルキル基、炭素数6〜20の置換若しくは非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換若しくは非置換のアラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示す。
【0023】
直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、ブチル(n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、sec−ブチル)、ペンチル(n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル等)、ヘキシル(n−ヘキシル、i−ヘキシル等)、ヘプチル(n−ヘプチル、i−ヘプチル等)、オクチル(n−オクチル、i−オクチル、t−オクチル等)、ノニル(n−ノニル、i−ノニル等)、デシル(n−デシル、i−デシル等)、ドデシル(n−ドデシル、i−ドデシル等)等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、アリール基としてはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられ、アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0024】
また、これらの水素原子又は主鎖骨格の一部又は全部が、エーテル基、エステル基、カルボニル基、シリル基、シロキサン基、フッ素等のハロゲン原子、メタクリル基、アクリル基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、ヒドロキシル基等で置換されていてもよい。これらの置換基としては、耐熱性や耐光性が要求される用途においてはメチル基、エチル基が好ましく、高屈折率が要求される用途においてはフェニル基が好ましい。さらには、入手容易性等も考慮すると、メチル基が特に好ましい。
【0025】
一般式(1)において、R6は2価の連結基を示し、酸素原子又は2価の炭化水素基であると好ましい。なお、2価の炭化水素基は、酸素原子や窒素原子を含有していてもよい。また、aは、a≧1であるが、本発明の無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体としたときの分散性に優れる点でa≧3、改質基濃度を低減できる点でa≦1000が好ましい。同様の観点で、5〜100がより好ましく、7〜50が更に好ましく、9〜30が特に好ましく、10〜20が最も好ましい。一般式(1)で表される改質基の分子量としては、aの値に連動しており、300〜80000が好ましく、500〜20000がより好ましく、700〜10000が更に好ましく、800〜5000が特に好ましく、900〜2500が最も好ましい。
【0026】
一般式(1)において、Si*で表されるケイ素原子の3つの結合手のうちの少なくとも1つは、酸素原子を介して無機化合物微粒子の表面の金属原子(M)と結合し、M−O−Si結合を生成している。つまり、無機化合物微粒子と結合している結合手の数としては、1〜3個である。無機化合物微粒子と結合していない結合手がある場合、この結合手は、後述の一般式(2)のようにSi−R13やSi−Xとなっていてもよいし、加水分解されてSi−OHとなっていてもよいし、隣の一般式(1)で表される基のケイ素原子と、酸素原子を介して結合していてもよい。
【0027】
加水分解に対する結合安定性が優れている点で、無機化合物微粒子と結合している結合手の数としては1個よりも2個が好ましく、3個がより好ましい。また、無機化合物微粒子と結合していない結合手がある場合、この結合手は、隣の一般式(1)で表される基のケイ素原子と酸素原子を介して結合していることが好ましい。なお、M−O−Si結合の加水分解に対する結合安定性については、置換基の種類等も影響していると考えられる。置換基の種類については、疎水性の置換基や、立体障害の大きな置換基の場合に、結合安定性が向上する傾向がある。
【0028】
本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子としては、下記一般式(2):
【化6】

{式中、R7〜R11は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R7〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、R12は2価の連結基を示し、R13は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基を示し、ここで、XはR7〜R11と同一ではなく、b≧1、0≦c≦2、1≦d≦3、そしてc+d=3である。}で表される化合物(A)を、無機化合物微粒子の表面と反応させて得られうる表面改質された無機化合物微粒子であることが好ましい。
【0029】
一般式(2)におけるR7は、一般式(1)におけるR1と同じである。一般式(2)におけるR8〜R11は、一般式(1)におけるR2〜R5と同じである。一般式(2)におけるR12は、一般式(1)におけるR6と同じである。また、一般式(2)におけるbは、一般式(1)におけるaと同じであり、化合物(A)の分子量はbの値に連動しており、一般式(1)で表される改質基の分子量と同じである。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定から求められる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である分子量分布(Mw/Mnの値)は、無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体における分散性等の特性を再現性よく得られる点で、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下が更に好ましく、1.5以下が特に好ましく、1.3以下が最も好ましい。
【0030】
一般式(2)において、R13は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、具体的には、炭素数1〜20の置換若しくは非置換の直鎖状アルキル基、炭素数3〜20の置換若しくは非置換の分岐鎖状アルキル基、炭素数4〜20の置換若しくは非置換のシクロアルキル基、炭素数6〜20の置換若しくは非置換のアリール基、炭素数7〜20の置換若しくは非置換のアラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示す。
【0031】
直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、ブチル(n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、sec−ブチル)、ペンチル(n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル等)、ヘキシル(n−ヘキシル、i−ヘキシル等)、ヘプチル(n−ヘプチル、i−ヘプチル等)、オクチル(n−オクチル、i−オクチル、t−オクチル等)、ノニル(n−ノニル、i−ノニル等)、デシル(n−デシル、i−デシル等)、ドデシル(n−ドデシル、i−ドデシル等)等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、アリール基としてはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられ、アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0032】
また、これらの水素原子又は主鎖骨格の一部又は全部が、エーテル基、エステル基、カルボニル基、シリル基、シロキサン基、フッ素等のハロゲン原子、メタクリル基、アクリル基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、ヒドロキシル基等で置換されていてもよい。これらの置換基としては、耐熱性や耐光性が要求される用途においてはメチル基、エチル基が好ましく、高屈折率が要求される用途においてはフェニル基が好ましい。更には、入手性等も考慮すると、メチル基が特に好ましい。
【0033】
一般式(2)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基を示す。一般式(2)で表される化合物(A)を無機化合物微粒子と反応させると、無機化合物微粒子の表面に水酸基(M−OH)が存在する場合、水酸基とSi−X基が反応して、M−O−Si結合を形成する。この結合により、無機化合物微粒子の表面を化合物(A)で改質することができる。前記Xの例の中では、無機化合物微粒子との反応時における脱離成分の観点、化合物(A)の安定性の観点で、水素原子、アルコキシ基が好ましく、化合物(A)の合成のし易さの観点、無機化合物微粒子との反応時における脱離成分の観点等から、アルコキシ基が特に好ましい。また、XはR7〜R11と同一ではなく、つまり、化合物(A)の片末端側のみにSi−X基が存在することにより、無機化合物微粒子の改質反応時において、微粒子間を架橋してしまうことや、同一粒子表面でループを形成してしまうことを防ぐことができ、結果的に、無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体とした場合、該分散体の分散性を上げることができる。
【0034】
一般式(2)におけるcとdは、0≦c≦2、1≦d≦3、c+d=3を満たす。無機化合物微粒子と化合物(A)の反応後における、加水分解に対する結合安定性が優れている点で、c=2、d=1が好ましく、c=1、d=2がより好ましく、そしてc=0、d=3が特に好ましい。
【0035】
化合物(A)としては、下記一般式(3):
【化7】

{式中、R14〜R18は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R14〜R18は互いに同一でも異なっていてもよく、R19は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R20は炭素数1〜4のアルキル基を示し、ここで、複数のR20は互いに同一でも異なっていてもよく、e≧3、0≦f≦2、1≦g≦3、そしてf+g=3である。}で表される化合物であると好ましい。化合物(A)が一般式(3)で表される化合物であることの利点としては、化合物(A)の片末端側のみにアルコキシシリル基が存在することにより、無機化合物微粒子の改質反応時において、微粒子間を架橋してしまうことや、同一粒子表面でループを形成してしまうことを防ぐことができ、結果的に、無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体とした場合、該分散体の分散性を上げることができる。また、分子量分布の狭い化合物として容易に得ることができるため、無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体における分散性等の特性を再現性よく得られる点、アルコキシシラン基周りの立体障害が少ないためと想定される要因により、無機化合物微粒子との反応性が高い傾向にあり、その結果、無機化合物分散体の分散性に優れる点が挙げられる。
【0036】
一般式(3)におけるR14は、一般式(1)におけるR1と同じである。一般式(3)におけるR15〜R18は、一般式(1)におけるR2〜R5と同じである。一般式(3)におけるR19は、一般式(2)におけるR13と同じである。また、一般式(3)におけるeは、e≧3であるが、本発明の無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体としたときの分散性に優れる点でe≧5、改質基濃度を低減できる点でe≦1000が好ましい。一般式(3)におけるeは、同様の観点で、7〜100がより好ましく、8〜50が更に好ましく、9〜30が特に好ましく、10〜20が最も好ましい。一般式(3)で表される化合物の分子量としては、eの値に連動しており、400〜80000が好ましく、600〜20000がより好ましく、700〜10000が更に好ましく、800〜5000が特に好ましく、900〜2500が最も好ましい。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定から求められる重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である分子量分布(Mw/Mnの値)は、無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体における分散性等の特性を再現性よく得られる点で、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下が更に好ましく、1.5以下が特に好ましく、1.3以下が最も好ましい。
【0037】
一般式(3)において、R20は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R20の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ブチル基(n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基)等が挙げられ、無機化合物微粒子との反応性等の観点から、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0038】
一般式(3)におけるf、gは、0≦f≦2、1≦g≦3、f+g=3を満たし、無機化合物微粒子と化合物(A)の反応後における、加水分解に対する結合安定性が優れている点で、f=2、g=1が好ましく、f=1、g=2がより好ましく、そしてf=0、g=3が特に好ましい。
【0039】
化合物(A)により無機化合物微粒子の表面を改質する場合、その方法としては特に限定されるものではないが、液状媒体中での反応が好ましく、該液状媒体が有機物及び/又はSi含有有機物であることがより好ましい。これにより、改質反応を制御よく、再現性よく行うことができる。
液状媒体となる有機物やSi含有有機物としては、化合物(A)自身を液状媒体としてもよい。改質反応を制御よく、再現性よく行うことができるという点では、新たに溶媒を添加することが好ましい。新たに添加する溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール系溶媒、反応性又は未反応性のシリコーン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種又は2種以上の混合物として用いることが可能である。これらの溶媒の中では、無機化合物微粒子に吸着せず、化合物(A)の導入を阻害しない点で、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒又はシリコーンが好ましく、脂肪族炭化水素系溶媒又は芳香族炭化水素系溶媒がより好ましい。
【0040】
化合物(A)により無機化合物微粒子の表面を改質する場合、使用する無機化合物微粒子は、粉体の状態であっても分散液の状態であってもよい。分散液の状態の場合、そのときの分散媒体をそのまま反応溶媒として用いてもよく、該分散液に新たな溶媒を添加してもよく、該分散液の分散媒体を新たな溶媒に置換してもよい。
【0041】
化合物(A)を無機化合物微粒子表面の水酸基と反応させる場合、反応が水酸基との脱離反応で進行する場合には、Xが水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基であれば、各々、水素、ハロゲン化水素、アルコール、水を脱離して反応が進行する。ただし、反応系内に水が存在していると、Xが水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基の場合には、Si−Xが加水分解を受けてSi−OHとなる可能性がある。このSi−OHも無機化合物微粒子の表面の水酸基と反応するが、Si−OHの場合にはSi−OH同士の縮合反応が起きる可能性があり、Si−OH同士の縮合反応が起き易いと、無機化合物微粒子と化合物(A)の反応が阻害され得る。
【0042】
以上の理由により、反応系内における水分量としては、無機化合物微粒子と化合物(A)の反応を制御よく進行させる点、また、無機化合物微粒子の表面の反応性を上げる点で、無機化合物微粒子の質量に対する反応系内の水分量が、0〜50質量%であると好ましく、0〜10質量%であるとより好ましく、0〜2質量%であると更に好ましく、0〜0.5質量%であると特に好ましい。これは、一般式(3)で表される化合物(A)を無機化合物微粒子の表面の水酸基と反応させる場合も、同様である。水分量を低減する方法としては、原材料を蒸留、脱水剤の添加、加熱乾燥、真空乾燥、加熱真空乾燥等が挙げられる。
【0043】
同様の観点で、化合物(A)により無機化合物微粒子の表面を改質する場合の雰囲気は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、炭酸ガス等の不活性ガス、或いは乾燥空気等の雰囲気下、流通下、減圧下又は加圧下で行うことが好ましい。より好ましいガスは不活性ガスであり、更に好ましくは窒素である。
【0044】
化合物(A)により無機化合物微粒子の表面を改質する場合、無機化合物微粒子の表面への化合物(A)の導入量Pは、『化合物(A)の導入mol数(mol)×106/[無機化合物微粒子の比表面積(m2/g)×無機化合物微粒子の重量(g)]』で定義することとする。なお、化合物(A)の導入mol数の求め方としては、特に限定されるものではないが、液状媒体中で反応させた場合においては、濾過や遠心分離等により固体と液体を分離し、固体をICP、TGA、炭素分析、FT−IR、XRF等で分析することにより定量することができ、液体側をICP、GC、GPC、NMR、XRF等で分析して未反応mol数を求め、仕込み量から引き算することによっても定量することができる。また、用いる無機化合物微粒子の比表面積は、粉体の窒素吸着量を分析し、BET式により求めることができる。
【0045】
化合物(A)の導入量Pの値としては、化合物(A)の種類によっても異なるが、該無機化合物微粒子を含有する無機化合物分散体としたときの分散性に優れる点で0.001以上、改質基濃度を低減できる点で30以下が好ましい。同様の観点で、0.01〜10がより好ましく、0.1〜5が更に好ましく、0.5〜3が特に好ましく、0.8〜2.5が最も好ましい。なお、改質基濃度を低減する利点としては、無機化合物微粒子自体の濃度を上げることができるので、無機化合物微粒子本来の性能を発現し易くなる点である。
【0046】
無機化合物微粒子の表面に化合物(A)を反応させる場合、反応触媒を用いてもよい。例えば、一般式(2)におけるXが水素原子の場合、脱水素縮合反応触媒を用いてもよい。このとき、脱水素縮合反応触媒を無機化合物微粒子に固定させておいてもよく、脱水素縮合触媒を添加するだけでもよい。該脱水素縮合触媒としては、錫、亜鉛、鉄、銀、銅、コバルト、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、チタン、アルミニウム等の単体及びその化合物が挙げられ、反応性や可使時間等の点で有機錫化合物が好ましい。なお、無機化合物微粒子が酸化チタン等の場合には該脱水素縮合触媒を用いなくてもよく、無機化合物微粒子がシリカ等の場合には該脱水素縮合触媒を用いることが好ましい。
【0047】
また、一般式(2)におけるXがアルコキシ基又は水酸基の場合、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸等の酸触媒、アンモニア、トリアルキルアミン、エタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、尿素、コリン、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性触媒、ジラウリン酸ジブチルスズなどのスズ化合物等を用いてもよい。なお、無機化合物微粒子が酸化チタン等の場合には該触媒を用いなくてもよく、無機化合物微粒子がシリカ等の場合には該触媒を用いることが好ましい。
【0048】
無機化合物微粒子の表面に化合物(A)を反応させる場合の温度としては、冷却下であってもよく、室温(例えば、10〜30℃)であってもよく、加熱下であってもよい。無機化合物微粒子の種類、化合物(A)の種類、反応条件等によっても異なるが、約−20℃〜180℃が好ましく、約10℃〜150℃がより好ましく、そして約30℃〜120℃が特に好ましい。
【0049】
無機化合物微粒子の表面に化合物(A)を反応させる場合の攪拌方法としては、特に限定されるものではないが、通常の攪拌方法以外に、ボールミル、振動ミル、アトライター、ニーダー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、高圧分散機、ビーズミル等を用いてもよい。反応性を高める観点においては、特に原料として使用している無機化合物微粒子が凝集粉体の場合、より高い攪拌エネルギーをかけることが好ましい。
【0050】
一般式(2)で表される化合物の合成法としては、例えば、下記一般式(5):
【化8】

{式中、R24は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示す。}で表される化合物を開始剤として、下記一般式(6):
【化9】

{式中、R25とR26は、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、ここで、R25とR26は互いに同一でも異なっていてもよく、また、hは3又は4である。}で表される環状シロキサン化合物を、アニオンリビング重合して、下記一般式(7):
【化10】

{式中、R27とR28は、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、ここで、R27とR28は互いに同一でも異なっていてもよい。}で表されるクロロシラン誘導体により、アニオンリビング重合反応を停止することにより、一般式(2)においてR12が酸素原子で、かつ、Xが水素原子である化合物を得ることができる。
【0051】
アニオンリビング重合反応の開始剤としては、一般式(5)で表されるアルキルリチウム又はリチウムトリアルキルシラノレートが用いられ、具体的には、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等のアルキルリチウム、或いはリチウムのトリメチルシラノレート、トリエチルシラノレート、トリプロピルシラノレート、トリブチルシラノレート等が挙げられ、n−ブチルリチウム又はリチウムトリメチルシラノレートが好ましい。
【0052】
また、一般式(6)で表される環状シロキサン化合物としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサエチルシクロトリシロキサン、オクタエチルシクロテトラシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられ、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが好ましく、ヘキサメチルシクロトリシロキサンがより好ましい。
【0053】
このアニオンリビング重合反応により得られる化合物の重合度は、一般式(5)で表される開始剤と一般式(6)で表される環状シロキサン化合物のmol比によって決まる。該mol比としては、[一般式(6)で表される環状シロキサン化合物のmol数/一般式(5)で表される開始剤のmol数]の値において、0より大きく、1〜500であることが好ましく、1.5〜100であることがより好ましく、2〜30であることが更に好ましく、2.5〜12であることが特に好ましく、3〜6であることが最も好ましい。
【0054】
アニオンリビング重合反応に用いられる溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール系溶媒等が挙げられ、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0055】
アニオンリビング重合反応時の雰囲気は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、炭酸ガス等の不活性ガス、或いは乾燥空気等の雰囲気下、流通下、減圧下、又は加圧下で行うことが好ましい。より好ましいガスは不活性ガスであり、更に好ましくは窒素である。
【0056】
反応温度は、反応速度の観点、及び分子量分布を狭くできる点で、約−80〜60℃が好ましく、そして約−10〜30℃がより好ましい。
【0057】
一般式(7)におけるR27とR28としては、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、一般式(7)で表されるクロロシラン誘導体によりアニオンリビング重合反応を停止する際、一般式(7)で表されるクロロシラン誘導体の使用量としては、一般式(5)で表される開始剤に対して1〜10倍molが好ましく、1.1〜6倍molがより好ましく、1.2〜3倍molが更に好ましい。
【0058】
一般式(2)で表される化合物の中でも、一般式(3)で表される化合物の合成法としては、例えば、一般式(2)においてR12が酸素原子であり、かつ、Xが水素原子である化合物と、下記一般式(8):
【化11】

{式中、R29は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基、又は有機シロキシ基を示し、R30は炭素数1〜4のアルキル基を示し、ここで、複数のR29とR30は互いに同一でも異なっていてもよく、0≦i≦2、1≦j≦3、そしてi+j=3である。}で表される化合物を、ヒドロシリル化反応により反応させればよい。
【0059】
また、下記一般式(9):
【化12】

{式中、R31〜R35は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、ここで、R31〜R35は互いに同一でも異なっていてもよく、そしてk≧3である。}で表される化合物と、下記一般式(10):
【化13】

{式中、R36は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R37は炭素数1〜4のアルキル基を示し、ここで、複数のR36とR37は互いに同一でも異なっていてもよく、0≦l≦2、1≦m≦3、そしてl+m=3である。}で表される化合物を、ヒドロシリル化反応により反応させてもよい。
【0060】
ヒドロシリル化反応を実施する場合の触媒としては、公知のものが使用可能である。例えば、周期表第8族の金属の単体、該金属固体をアルミナ、シリカ、酸化チタン、カーボンブラック等の担体に担持させたもの、該金属の塩、或いは該金属の錯体等が例示される。周期表第8族の金属としては、白金、ロジウム、ルテニウムが好ましく、特に白金が好ましい。白金を用いた触媒としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトンとの錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体、ジカルボニルジクロロ白金、ジシクロペンタジエニルジクロロ白金等が挙げられる。
【0061】
ヒドロシリル化反応の際に用いる触媒の量としては、用いる原料の総質量に対し、周期表第8族の金属原子として、0.1ppm以上であると反応性の点で、2000ppm以下であると着色の少ない化合物を得られる点で好ましい。同様の観点で、1〜500ppmであるとより好ましく、3〜100ppmであると更に好ましく、4〜50ppmであると特に好ましく、5〜20ppmであると最も好ましい。なお、ヒドロシリル化反応の際に用いる触媒の量は、反応途中において変化させてもよい。
【0062】
ヒドロシリル化反応の際、溶媒は用いても用いなくてもよいが、溶媒を使用する場合には、溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種又は2種以上の混合物として用いることが可能である。これらの中では、反応速度が比較的大きく、原料の溶解性及び/又は溶媒回収性の観点から、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0063】
ヒドロシリル化反応の際の反応温度は、用いる原料、用いる溶媒、その他反応条件によっても異なるが、反応速度を高め、効率的に反応を進行させる観点において、約0〜200℃が好ましく、約10〜150℃がより好ましく、約20〜120℃が更に好ましく、約30〜100℃が特に好ましい。なお、反応温度は反応途中において変化させてもよい。
【0064】
ヒドロシリル化反応の際の雰囲気は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、炭酸ガス等の不活性ガス、或いは乾燥空気等の雰囲気下、流通下、減圧下又は加圧下で行うことが好ましい。より好ましいガスは不活性ガスであり、更に好ましくは窒素である。
【0065】
本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子は、無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、一般式(1)で表される基が結合しているが、その他の表面改質剤を無機化合物微粒子の表面に導入していてもよい。その他の表面改質剤を併用することにより、改質基濃度を低減することができ、場合によっては分散性を向上させることもできる。その他の表面改質剤としては例えば、一般的なシランカップリング剤やSiH基を有する化合物、カルボン酸化合物、アルコール化合物、リン酸化合物、リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、スルホン酸化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物等が挙げられる。これらの中では、加水分解に対する安定性、着色のし難さ、反応制御のし易さ等の観点から、シランカップリング剤、SiH基を有する化合物、リン酸化合物、リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物が好ましい。その他の表面改質剤を併用する場合には、化合物(A)の導入量は当然ながら減ることになる。
【0066】
無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、一般式(1)で表される基が結合している本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子の形態としては、溶媒を用いた場合においては、該溶媒中に分散した分散液の形態でよく、該溶媒を留去させた後の固体又は液体の形態でもよく、濾過により液相を除去した後の固体の形態でもよく、遠心分離により液相を除去した後の固体の形態でもよい。また、溶媒を用いない場合においては、固体又は液体の形態でもよい。なお、溶媒のない状態においては、通常は固体となるが、反応時に化合物(A)を過剰に使用した場合には、化合物(A)に該無機化合物微粒子が分散した液体として得ることもでき、また、化合物(A)の種類や導入量によっては該無機化合物微粒子自身が流動性を持ち、液体として得ることもできる。
【0067】
本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子においては、該無機化合物微粒子を分散媒体中に分散させ、無機化合物分散体を得ることが好ましい。無機化合物分散体の分散媒体としては、有機物及び/又はSi含有有機物が好ましく、得られる無機化合物分散体は液体であっても固体であってもよい。該無機化合物分散体を得る方法としては、該無機化合物微粒子を製造する過程で用いた媒体をそのまま分散媒体とする方法(方法1)、方法1の分散体に新たな分散媒体を添加する方法(方法2)、方法1の分散体に新たな分散媒体を添加した後に元の媒体を留去する方法(方法3)、方法1の媒体を留去又は遠心分離により除いた後に新たな分散媒体を添加する方法(方法4)、無機化合物微粒子の表面に導入した置換基が分散媒体の役割を演じ、分散媒体を含有させない方法(方法5)、方法1〜方法5における分散媒体又は無機化合物微粒子の表面に導入した置換基が反応性基を有しており、該反応性基を反応させてなるオリゴマー、ポリマー等を分散媒体とする方法(方法6)等を挙げることができる。なお、いずれの方法においても、分散させる過程で各種攪拌処理を行ってもよい。
【0068】
無機化合物分散体の分散媒体としては、有機物及び/又はSi含有有機物が好ましく、例として、一般的に使われる溶媒としては、水、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。
【0069】
成形性、接着性、可撓性等を付与する目的で有機樹脂を分散媒体として用いることができ、有機樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。また、これら有機樹脂のモノマー化合物を分散媒体として用いてもよい。分散媒体に用いられるSi含有有機物としては、シランカップリング剤、反応性又は未反応性のシリコーン等が挙げられる。これらの分散媒体は、1種又は2種以上の混合物として用いることが可能である。
【0070】
本発明に係る無機化合物微粒子及び/又は無機化合物分散体には、本発明の範囲を逸脱しない量的質的範囲内で、染料、色素、劣化防止剤、離型剤、希釈剤、粘度調整剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、レベリング剤、触媒、重合開始剤、重合禁止剤、ワックス類、スリップ剤、腐食防止剤、防錆剤、難燃剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を配合することができる。
【0071】
本発明に係る無機化合物微粒子及び/又は無機化合物分散体は、顔料、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、触媒担体、吸着剤、脱臭剤、バイオリアクター、充填剤、研磨剤、接着剤、インキ、塗料、樹脂のフィラー、化粧品、コート剤、帯電防止剤、防菌剤、防汚剤、機械部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成型材料、また、光学部品用又は電子部品用に、接着剤、コート材、フォトレジスト、シール材、封止材、絶縁材、レンズ材、基板材、太陽電池等の用途に利用可能である。光学部品用又は電子部品としては、具体的には、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、CDやDVDのピックアップ用レンズ、自動車ヘッドランプ用レンズ、プロジェクター用レンズ等のレンズ材料、光ファイバー、光導波路、カラーフィルター等の光フィルター、光学用接着剤、光ディスク基板、光ディスクの光透過層、色素増感太陽電池、CMP用スラリー、層間絶縁層、プリント配線板、銅張積層板等の積層板、ディスプレイ基板、導光板、拡散板、反射防止膜等、また、半導体、光半導体、液晶、有機EL等の封止材等が挙げられる。
【実施例】
【0072】
本発明を、以下の非制限的実施例により具体的に説明する。
本実施例において、1H−NMR測定には、JEOL GSX−400を用いた。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定には、カラムとしてShodex KF−804L(昭和電工社製)、ポンプとしてLC−10AT(島津製作所社製)、検出器としてRID−6A(RI:示差屈折計、島津製作所社製)、移動相としてトルエンを用いた。炭素分析には、EMIA−920V(堀場製作所社製)を用いた。ガスクロマトグラフィー測定には、GC−1700(島津製作所社製)、カラムとしてはDB−1(J&W Scientific社製)を用いた。
【0073】
また、本実施例における物性評価は次の方法で実施した。
(1)加水分解に対する結合安定性
無機化合物微粒子の表面の改質後における、M−O−Si結合の加水分解に対する結合安定性を調べる。表面改質された無機化合物微粒子100質量部に、トルエン10000質量部及び水20質量部を加えた後、60℃で30分攪拌した。この処理液を濾過洗浄することにより処理後粉体を得た。処理前と処理後各々の粉体のFT−IR測定を行い、処理後においても改質基量があまり変わっていないとき3、処理後には改質基量が減っている場合を2、処理後には改質基が全く残っていない場合を1とした。
【0074】
(2)分散性
表面改質された無機化合物微粒子の懸濁液(又は分散液)の分散性を目視で経時的に評価し、1ヶ月後においても上澄み液に微粒子が分散していて濁っているとき「4」、1ヶ月後には上澄み液が無色透明になるとき「3」、1日後には上澄み液が無色透明になるとき「2」、表面改質反応の2時間後には上澄み液が無色透明になるとき「1」とした。
【0075】
[合成例1]
窒素雰囲気下、滴下ロート及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、n−ブチルリチウム・ヘキサン溶液(1.6mol/l)10mlを入れ、滴下ロート内にヘキサメチルシクロトリシロキサン14.2gと脱水テトラヒドロフラン60mlの溶液を入れた。氷浴下、フラスコ内に脱水テトラヒドロフラン10mlを入れ、50分攪拌した後、徐々に滴下を行った。滴下終了後、室温にて6時間攪拌した後、ジメチルクロロシラン3.26gを入れ、室温で20分攪拌した。ここに、水29g、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液19.8gを入れて中和した。この反応液中のテトラヒドロフラン及びヘキサンを減圧留去した後、分液ロートを用いて水/ヘキサンでの洗浄を行い、無水硫酸マグネシウムを添加して1晩静置した。得られた処理液を減圧濾過し、濾液を加熱減圧処理により溶媒留去してから、更に150℃で3時間真空乾燥を行い、ほぼ無色透明の液体化合物を得た。得られた化合物は、1H−NMR測定より、一般式(2)においてR7=n−ブチル基、R8=R9=R10=R11=R13=メチル基、R12が−O−結合、X=水素原子、b=16.3、c=2、d=1で表される化合物であることが分かった。また、GPC測定より、Mn=1982、Mw/Mn=1.13であった。
【0076】
[合成例2]
窒素雰囲気下、滴下ロート及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、n−ブチルリチウム・ヘキサン溶液(1.6mol/l)25mlを入れ、滴下ロート内にヘキサメチルシクロトリシロキサン35.5gと脱水テトラヒドロフラン150mlの溶液を入れた。氷浴下、フラスコ内に脱水テトラヒドロフラン25mlを入れ、30分攪拌した後、徐々に滴下を行った。滴下終了後、室温にて4時間攪拌した後、ジメチルビニルクロロシラン9.62gを入れ、室温で1時間攪拌した。ここに、水72g、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液50.3gを入れて中和した。この反応液中のテトラヒドロフラン及びヘキサンを減圧留去した後、分液ロートを用いて水/ヘキサンでの洗浄を行い、無水硫酸マグネシウムを添加して1晩静置した。得られた処理液を減圧濾過し、濾液を加熱減圧処理により溶媒留去してから、更に150℃で4時間真空乾燥を行い、ほぼ無色透明の液体化合物を得た。得られた化合物は、1H−NMR測定より、一般式(9)においてR31=n−ブチル基、R32=R33=R34=R35=メチル基、k=15.0で表される化合物であることが分かった。また、GPC測定より、Mn=1892、Mw/Mn=1.17であった。
【0077】
[合成例3]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、[合成例2]で得られた化合物11.0g、トリエトキシシラン1.59g、脱水ヘキサン50.4g、白金元素換算で500ppmの白金を含有する白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のヘキサン溶液0.50gを添加し、60℃で5時間攪拌した。反応液を活性炭処理した後、加熱減圧処理により溶媒留去を行い、ほぼ無色透明の液体化合物を得た。得られた化合物は、1H−NMR測定より、一般式(3)においてR14=n−ブチル基、R15=R16=R17=R18=メチル基、R20=エチル基、e=15.2、f=0、g=3で表される化合物であることが分かった。また、GPC測定より、Mn=2048、Mw/Mn=1.14であった。
【0078】
[実施例1]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、120℃で2時間真空乾燥させた酸化チタン粉体ST−01(一次粒子径7nm、石原産業社製)0.545g、[合成例3]で得られた化合物1.18g、脱水トルエン11.7gを添加し、80℃で4時間攪拌することにより、表面改質された無機化合物微粒子の懸濁液を得た。該懸濁液を濾過洗浄することにより採取した粉体について炭素分析を行い、導入量Pは0.94であることが分かった。そして、該粉体の加水分解に対する結合安定性の評価を実施したところ、「3」の結果であった。また、本実施例において得られた懸濁液の分散性評価は「4」であった。そして、該懸濁液の上澄み分散液100質量部とDMS−V05(両末端ビニルシリコーン、Gelest社製)100質量部を混合した後、トルエンを減圧留去することにより、分散媒体をシリコーンに置換した。この液の分散性評価は「4」であった。
【0079】
[実施例2]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、120℃で2時間真空乾燥させた酸化チタン粉体ST−01(一次粒子径7nm、石原産業社製)0.882g、[合成例1]で得られた化合物1.85g、脱水トルエン21.1gを添加し、60℃で9時間攪拌することにより、表面改質された無機化合物微粒子の懸濁液を得た。該懸濁液を濾過洗浄することにより採取した粉体について炭素分析を行い、導入量Pは0.20であることが分かった。そして、該粉体の加水分解に対する結合安定性の評価を実施したところ、「2」の結果であった。また、本実施例において得られた懸濁液の分散性評価は「3」であった。
【0080】
[比較例1]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、120℃で2時間真空乾燥させた酸化チタン粉体ST−01(一次粒子径7nm、石原産業社製)2g、脱水トルエン38gを入れた後、60℃で2時間攪拌した。得られた懸濁液の分散性評価は「1」であった。
【0081】
[比較例2]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、120℃で2時間真空乾燥させた酸化チタン粉体ST−01(一次粒子径7nm、石原産業社製)1.64g、ステアリン酸0.78g、脱水ヘキサン34.6gを入れた後、60℃で2時間攪拌した。得られた懸濁液を濾過洗浄することにより採取した粉体についてTGA分析を行い、導入量Pは3.33であることが分かった。そして、該粉体の加水分解に対する結合安定性の評価を実施したところ、「1」の結果であった。また、本実施例において得られた懸濁液の分散性評価は「2」であった。
【0082】
[比較例3]
窒素雰囲気下、還流管及びスターラーバーを備えた3口フラスコ内に、120℃で2時間真空乾燥させた酸化チタン粉体ST−01(一次粒子径7nm、石原産業社製)1.92g、ヘキシルトリメトキシシラン2.49g、脱水トルエン41.5gを入れた後、80℃で4時間攪拌した。得られた懸濁液から濾過により採取した濾液をガスクロマトグラフィーで分析することにより、化合物(A)の導入量Pは4.64であることが分かった。また、本実施例において得られた懸濁液の分散性評価は「2」であった。
【0083】
以上の結果から、実施例1や実施例2おいて、無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、一般式(1)で表される基を導入できており、また、加水分解に対する結合安定性や低極性媒体に対する分散性に優れていることが分かる。それに比べ、比較例1〜比較例3では低極性媒体に対する分散性が劣っており、比較例2では加水分解に対する結合安定性も悪い。また、実施例1及び実施例2の結果から、実施例1のように、化合物(A)として一般式(3)で表される化合物を用いると、導入量Pを多くすることができ、また、加水分解に対する結合安定性や低極性媒体に対する分散性にも優れていて、より好ましいことが分かる。
以上のことから、本発明によれば、有機媒体、特には低極性媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できるような無機化合物微粒子を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る表面改質された無機化合物微粒子は、有機媒体への分散性に優れ、長期に分散安定性を保持できることから、電子材料用途や光学材料用途等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物微粒子の表面の金属原子に、酸素原子を介して、下記一般式(1):
【化1】

{式中、R1〜R5は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R1〜R5は互いに同一でも異なっていてもよく、R6は2価の連結基を示し、a≧1であり、そしてSi*で表されるケイ素原子の3つの結合手の内の少なくとも1つは、酸素原子を介して無機化合物微粒子の表面の金属原子と結合している。}で表される基が結合している表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】

{式中、R7〜R11は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R7〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、R12は2価の連結基を示し、R13は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又は水酸基を示し、ここで、XはR7〜R11と同一ではなく、b≧1、0≦c≦2、1≦d≦3、そしてc+d=3である。}で表される化合物(A)を、無機化合物微粒子の表面と反応させて得られうる、請求項1に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項3】
前記化合物(A)が、一般式(2)においてc=0、かつ、d=3で表される化合物である、請求項2に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項4】
前記化合物(A)が、下記一般式(3):
【化3】

{式中、R14〜R18は、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R14〜R18は互いに同一でも異なっていてもよく、R19は置換若しくは非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、有機シリル基又は有機シロキシ基を示し、R20は炭素数1〜4のアルキル基を示し、ここで、複数のR20は互いに同一でも異なっていてもよく、e≧3、0≦f≦2、1≦g≦3、そしてf+g=3である。}で表される化合物である、請求項2に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項5】
前記化合物(A)が、一般式(3)においてf=0、かつ、g=3で表される化合物である、請求項4に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項6】
前記無機化合物微粒子が無機酸化物微粒子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項7】
前記無機酸化物微粒子が酸化チタン微粒子である、請求項6に記載の表面改質された無機化合物微粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面改質された無機化合物微粒子を含有することを特徴とする無機化合物微粒子分散体。
【請求項9】
前記無機化合物微粒子分散体の分散媒体が有機物及び/又はSi含有有機物である、請求項8に記載の無機化合物微粒子分散体。

【公開番号】特開2010−100784(P2010−100784A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275938(P2008−275938)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】