説明

被分析ガスの前処理装置及び前処理方法

【課題】コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とすると共に高精度の分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置及び前処理方法を提供する。
【解決手段】
前記前処理装置は、被分析ガス中の異物を除去するための異物除去手段と、前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させ、その後、吸着させた有機化合物を加熱脱着することで濃縮を行う濃縮手段とを備える。
また、前記前処理方法は、被分析ガス中の異物を除去する異物除去工程と、前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させる吸着工程と、前記吸着させた有機化合物の内の少なくとも分析対象の有機化合物を加熱脱着する脱着工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉で発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置及び前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉による製鉄プロセスにおいては、コークスは、高炉内におけるガス流れを確保することを目的に投入されるとともに、コークスそのものが鉄鉱石の還元材として働く。
【0003】
このようなコークスは、1000℃程度に熱せられたコークス炉内で石炭を乾留することにより、軟化、溶融、再固化の過程を通り、最終的には強固化したコークスとして得られる。そして、このときの、石炭コークス化過程で起こる熱分解反応においてガスが発生する。このガスの発生挙動の把握はコークスの品質を安定させる上で重要であると考えられる。
【0004】
コークス炉で発生するガスのうち、H、CO,CO、低級炭化水素などについては、すでに迅速な分析が可能となっている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかし、コークス炉で発生するガスは、H、CO,CO、低級炭化水素などの低分子化合物だけではなく、ナフタレン、ベンゼンといった芳香族有機化合物も含まれている。これらのタール成分と呼ばれる有機化合物は、コークス炉ガスを冷却することによりタールとして取り出した後、精製工程を経て得られる。
【特許文献1】特開2004−231680号公報
【非特許文献1】西藤将之、他、「石炭/コークス化反応の連続ガスモニタリングシステムの開発」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、2003年、Vol.89、p.114−119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石炭のコークス化過程で発生するガスのうち、低分子化合物については上記非特許文献1などでも詳細に調査されているが、高分子化合物である有機化合物についてはほとんど調査されていない。これらの有機化合物の発生挙動を詳細に解析し、低分子化合物の発生挙動とあわせることによって、より高度なコークス炉制御を行うことが可能となると考えられる。
【0006】
先の有機化合物についてはほとんど調査されていない原因として、水分や無機ガス成分を含んだ微量の有機化合物を迅速に且つ精度良く分析することが困難であることが考えられる。タール成分を含むガスのサンプリングは、上記特許文献1に記載されているように、ガスを保温することにより実現できるが、このとき、一部の水分や石炭に含まれている硫黄分や塩素などの無機ガスなどもサンプリングガス中に含まれている。これらのガスを分析装置で分析すると、不純物として分析精度に影響するばかりでなく、分析装置内の配管の腐食や吸着による詰まりといった影響を及ぼす。そのため、コークス炉で発生するガス中に含まれる有機化合物の、コークス炉の側においてするオンサイトでの分析を困難にしている。
【0007】
そこで、本発明は、コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とすると共に高精度の分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置及び前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するための方法について鋭意検討を行った。
上記問題を解決するために、本発明者らはコークス炉で発生するガスに含まれる有機化合物以外の成分除去方法について種々の検討を行った。
【0009】
その結果、一部の吸着剤に水分、無機ガスを吸着しないものがあり、有機化合物のみを吸着するものがあることを見い出した。さらに、この吸着剤は吸着した後、加熱することで、吸着した有機化合物を脱着し、必要な有機化合物のみを分析装置に送り込むことが可能であるという知見を得た。このとき、タール成分のうち分子量の比較的大きな有機化合物については吸着剤から脱着しないようにすることも可能であるため、分析装置内での析出も抑制可能となる。また、分析終了後に吸着剤を高温、例えば、350〜400℃の温度で焼成することで、吸着剤に残存する分子量の大きな有機化合物も除去することができ、吸着剤を繰り返し使用することが可能であることがわかった。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、以下のような特徴を有する。
[1]コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置であって、
被分析ガス中の異物を除去するための異物除去手段と、
前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させ、その後、吸着させた有機化合物を加熱脱着することで濃縮を行う濃縮手段とを備えることを特徴とする被分析ガスの前処理装置。
[2]コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とするための被分析ガスの前処理方法であって、
被分析ガス中の異物を除去する異物除去工程と、
前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させる吸着工程と、
前記吸着させた有機化合物の内の少なくとも分析対象の有機化合物を加熱脱着する脱着工程とを備えることを特徴とする被分析ガスの前処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とすると共に高精度の分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置及び前処理方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る被分析ガスの前処理装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【0014】
図1において、コークス炉1で石炭の乾留により発生するガス(コークス炉発生ガス)は、煙道20を通り、後段側のガス処理工程に向かう。この煙道20の途中からポンプ5によりサンプリングされたコークス炉発生ガス(被分析ガス)は、導入管21を通して異物除去手段2に導入され、そこで、前記被分析ガス中の異物である、ダスト類やミスト類等が除去される。
【0015】
ここで、前記異物除去手段2で用いられる異物除去用のフィルタとしては、通常使用される濾紙状のものを用いることができるが、高温のコークス炉発生ガス(被分析ガス)をある程度高温のまま処理できるようにセラミックス、ガラス繊維、ステンレスウール等の耐熱性の高い材料で構成したフィルタを用いることが好ましい。
【0016】
また、フィルタに付着した異物によるフィルタ目詰まりの影響を避けるため、複数個のフィルタを備え、フィルタが目詰まりしたら他の新しいフィルタへ順次切り換わるように構成しても良い。
【0017】
また、フィルタへのタール成分の液化付着や析出を防止するために、被分析ガスを加熱するための加熱手段を備えるようにしても良い。ここで、前記加熱手段としては、ヒーター等の一般の加熱手段を用いることができ、導入管21に前記加熱手段を取り付けて加熱を行うようにしてもよい。
【0018】
さらに、オンサイトでの分析を行うためには、連続的にガスのサンプリングを行う必要があり、フィルタに付着したダスト類やミスト類を定期的に除去することが好ましい。そのため、パルス空気などの逆洗手段を備えるようにしても良い。ここで、逆洗を行う場合の空気パルスの圧力は、コンマ数MPa程度の圧力で十分であり、差圧を管理しながら逆洗間隔を決定すればよい。
【0019】
前記異物除去手段2でダスト類やミスト類等の異物が除去された被分析ガスは、導入管22を通じて開閉弁11を開放することで、濃縮手段3に送られる。
【0020】
濃縮手段3は、被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させる吸着剤を備えた吸着剤部3aと、この吸着剤部3aの温度を所定の温度に加熱するためのヒーター等の加熱手段3bと、前記吸着剤に吸着された有機化合物を脱着させる際にキャリアガス6を導入するキャリアガス導入手段3cとを備えている。
【0021】
そして、この濃縮手段3では、異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物のみを吸着剤に吸着させ(吸着工程)、その後、前記吸着させた有機化合物の内の少なくとも分析対象の有機化合物を加熱脱着させる(脱着工程)ことで、前記被分析ガス中に含まれる有機化合物の濃縮を行う。
【0022】
前記吸着工程では、異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物のみを、前記吸着剤部3aに備える吸着剤に吸着させる。このとき、吸着剤に吸着されない水分や無機ガスなどの極性成分は開放された開放弁12を通り、ポンプ5を経由して排出管4から煙道20に排出される。なお、前記排出管4の煙道20への接続位置は、前記導入管21の煙道20への接続位置の下流側とする必要がある。
【0023】
ここで、前記吸着剤部3aに備える吸着剤としては、上述したように水分や無機ガスといった極性物質を吸着しない性質を持ったものであれば良く、例えば、TENAX(2,6−ジフェニレンオキシド)樹脂やXAD樹脂、炭素系吸着剤などを使用することができる。
【0024】
また、前記加熱手段3bは、サンプリングの際に吸着剤部3aの温度管理を行うとともに、濃縮後の加熱脱着時の吸着剤部3aの加熱を行う。サンプリング時の吸着剤部3aの温度は水分や無機ガスが凝縮しない温度とすることが好ましく、100℃程度が望ましい。
【0025】
前記脱着工程では、前記キャリアガス導入手段3cによりキャリアガスを吸着剤部3aに導入し、前記吸着剤に吸着させた有機化合物の内の少なくとも分析対象の有機化合物を加熱脱着させる。ここで、前記キャリアガス導入手段3cは、濃縮手段3にキャリアガスを導入するキャリアガス導入管23と、前記濃縮手段3に導入するキャリアガスの流量を調整するキャリアガス流量調整弁13と、前記濃縮手段3から脱着した有機化合物を含む脱着ガスを排出するための脱着ガス排出管24とにより構成される。また、前記キャリアガスとしては、不活性ガス、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素等を用いることができる。
【0026】
脱着工程では、まず、キャリアガス流量調整弁13及び脱着ガス流量調整弁14を開放すると同時に開放弁11、12を閉じてラインを切り替え、サンプリング時とは逆方向からキャリアガス導入管23を通じて所定量の分析用キャリアガス6を流しながら加熱を行い、吸着剤部3aに備える吸着剤に吸着した有機化合物を脱着させる。脱着を行う加熱温度については、分析に必要な有機化合物が脱着する温度とすればよく、例えば、200〜250℃程度が望ましい。
【0027】
脱着ガス排出管24から排出された脱着した有機化合物を含む脱着ガスは、前記脱着ガス排出管24の途中に設けた脱着ガス流量調整弁14により流量が調整され、後段側に設けられた分析装置7に送られ、そこで、定性或いは定量分析が行われる。
【0028】
なお、前記加熱脱着後の吸着剤は、次回の分析に備えて焼成処理される。この場合の焼成温度は高温ほど良いが吸着剤の機能が損なわれない程度の温度で行うことが好ましい。吸着剤がTENAX樹脂の場合には、例えば、350℃程度で焼成処理することが好ましい。
【0029】
以上のように、本発明に係る被分析ガスの前処理装置及び前処理方法を用いることで、コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガスをその場所においてオンサイトで分析する場合においても、まず、ガス中に含まれるダスト類やミスト類等の異物の除去が行われ、さらに、ガス中に含まれ、分析精度に悪影響を与えるような水分や無機ガス等を分離し、ガス中の分析対象となる有機化合物の濃縮が行われる。そして、この分析対象の有機化合物が濃縮されたガスを分析装置で分析することで、オンサイトで分析する場合であっても、安定した高精度な分析が可能となる。
【0030】
なお、前記分析装置7としては、公知の種々の分析装置を用いることができる。例えば、質量分析計のほか、水素炎イオン化検出器(FID)や電子捕獲型検出器(ECD)などの検出装置を用いてもよく、ガスクロマトグラフ装置を用いた各種有機化合物の分離手段を設けても良い。分析の迅速性を重視する場合には、超音速ジェット多光子共鳴イオン化法を用いたイオン化を行い、飛行時間型質量分析計(TOF-MS)での検出も可能である。また、非常に高感度なイオン化率増幅用多面鏡を有するイオン化法を用いても良い。
【実施例1】
【0031】
図1に示した、本発明に係る前処理装置を用いて、コークス炉発生ガスのオンサイトでの分析が可能であるかどうかの検証を行った。
【0032】
図1に示す装置において、異物除去手段2で用いるフィルタは、セラフィル社製のセラミックスフィルタを用いた。また、前記異物除去手段2には、逆洗を行うためのエアコンプレッサを具備し、0.5MPaの圧力で、フィルタ前後の差圧が10kPaとなったところで作動するように調整したものを用いた。
【0033】
コークス炉発生ガスの温度が150℃となるように加熱された導入管21を通じて、コークス炉発生ガスを異物除去手段2に導入して異物除去を行い、異物除去後のガスを濃縮手段3に導入した。
【0034】
前記濃縮手段3としては、吸着剤としてTENAX樹脂を用い、吸着剤部3aにこの吸着剤を2.0g充填したものを用いた。
【0035】
前記吸着剤部3aの温度は120℃に制御してサンプリングを実施した。サンプリング時間は5分間でガス流量は1L/分で行った。
【0036】
サンプリング終了後、吸着剤部3aを250℃に加熱して、キャリアガス(He)を10ml/分 流しながら加熱脱着を行った。加熱脱着時間は1分間であった。
【0037】
加熱脱着後のガスを分析装置に導入した。分析装置は超音速ジェット多光子共鳴イオン化質量分析装置を用いた。
【0038】
濃縮された有機化合物ガスはイオン化され、飛行時間型質量分析計で各質量ごとに分離され検出、定量した。ここで、分析時間は約1分間であった。なお、加熱脱着後の濃縮手段3は350℃で5分間焼成した。
【0039】
上記のサンプリングから分析までに要した時間は約7分間であり、焼成時間を考慮しても約10分間で測定が終了した。
【0040】
また、図2に、本実施例でオンサイト測定を行ったコークス炉発生ガス中のナフタレン(分子量128)のイオン強度の経時変化を示す。実験は600分(10時間)の連続運転で行った。
【0041】
この間、前記異物除去手段2でのフィルタの目詰まりは確認されなかった。また、図2に示されるように、コークス炉発生ガス中のナフタレン(分子量128)の経時変化も安定して測定できており良好な経過であった。
【0042】
以上のように、本発明の被分析ガスの前処理装置を用いることで、コークス炉発生ガス中の分析対象の有機化合物のみを分離、濃縮して、後段側の分析装置に被分析ガスを安定して導入することが可能となる。これにより、後段側の分析装置での高精度な測定を、安定して長期間連続して行うことが可能であることが実証され、オンサイトでの分析が可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る被分析ガスの前処理装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る実施例で、オンサイト測定を行ったコークス炉発生ガス中のナフタレンのイオン強度の経時変化を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 コークス炉
2 異物除去手段
3 濃縮手段
3a 吸着剤部
3b 加熱手段
3c キャリアガス導入手段
4 排出管
5 ポンプ
6 キャリアガス
7 分析装置
11 開閉弁
12 開放弁
13 キャリアガス流量調整弁
14 脱着ガス流量調整弁
20 煙道
21,22 導入管
23 キャリアガス導入管
24 脱着ガス排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とするための被分析ガスの前処理装置であって、
被分析ガス中の異物を除去するための異物除去手段と、
前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させ、その後、吸着させた有機化合物を加熱脱着することで濃縮を行う濃縮手段と
を備えることを特徴とする被分析ガスの前処理装置。
【請求項2】
コークス炉で石炭を乾留する際に発生するガス中に含まれる有機化合物のオンサイトでの分析を可能とするための被分析ガスの前処理方法であって、
被分析ガス中の異物を除去する異物除去工程と、
前記異物除去後の被分析ガス中に含まれる有機化合物を吸着させる吸着工程と、
前記吸着させた有機化合物の内の少なくとも分析対象の有機化合物を加熱脱着する脱着工程と
を備えることを特徴とする被分析ガスの前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−250738(P2006−250738A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68326(P2005−68326)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】