説明

被加工体の加工方法、ガラス又は樹脂の成型方法、金型、及びガラス又は樹脂の成型体

【課題】精度よく微細な加工を行うことができる被加工体の加工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る被加工体の加工方法は、ガラス状カーボンからなる被加工体10上にHSQ膜20を形成する工程と、HSQ膜20を電子線描画し、その後HSQ膜20を現像することにより、被加工体10上に位置していてパターンを有するマスク膜22を形成する工程と、マスク膜22をマスクとして被加工体10をドライエッチングすることにより、被加工体10を加工する工程とを具備する。HSQは酸素プラズマにエッチングされ難い為、被加工体10を加工する工程は、酸素を含むプラズマを用いてドライエッチングする工程であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工体の加工方法、ガラス又は樹脂の成型方法、金型、及びガラス又は樹脂の成型体に関する。特に本発明は、精度よく微細な加工を行うことができる被加工体の加工方法、ガラス又は樹脂の成型方法、金型、及びガラス又は樹脂の成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガラスや樹脂の表面に無反射構造体を形成する場合、又はガラスや樹脂を用いてワイヤーグリッドを形成する場合、表面に微細構造を形成する必要がある。表面に微細構造を形成する方法の一つに、微細構造を有する金型にガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂を導入し、冷却して固化した後にガラス又は樹脂を剥離させる方法がある。この方法によれば、金型が有する微細構造がガラス又は樹脂に転写される。微細構造を有する金型の材料としては、例えばガラス状カーボンがある。ガラス状カーボンを加工して金型の微細構造を形成する方法には、例えば酸素プラズマを利用してドライエッチングを行う方法がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−191327号公報(第2乃至第4段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライエッチング法によりガラス状カーボンなどの被加工体(例えば金型)を加工する場合、被加工体上にパターンを有するマスク膜を形成する必要がある。従来は厚いフォトレジスト膜、又はリフトオフ法によって形成されたメタルがマスク膜として使用されていた。しかし、厚いフォトレジスト膜をマスク膜として使用した場合、マスク膜に微細パターンを形成することは難しく、その結果、被加工体に微細な加工を行うことは難しかった。また、リフトオフ法によって形成されたメタルをマスク膜として使用した場合、マスク膜形成時にマスク側面にメタルのバリが生じやすく、このためリフトオフ時にラフネスが生じやすく(例えば10nm程度)、被加工体の加工精度が低下しやすかった。
【0005】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、精度よく微細な加工を行うことができる被加工体の加工方法、ガラス又は樹脂の成型方法、金型、及びガラス又は樹脂の成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る被加工体の加工方法は、ガラス状カーボンからなる被加工体上に水素化シルセシキオキサン(Hydrogen silsesquioxane:以下HSQと記載)膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工する工程とを具備する。
【0007】
この被加工体の加工方法によれば、前記HSQ膜に電子線描画を行うことにより、前記マスク膜のパターンを形成している。このため、光学的な露光工程を用いる場合と比較して、前記被加工体の表面に微細なパターンを形成することができる。また、前記マスク膜を形成するときにリフトオフ法を用いていない為、前記マスク膜のエッジのラフネスも小さくなり、その結果、前記被加工体に形成されたパターンのエッジのラフネスも低くなる。従って、前記被加工体に精度よく微細な加工を行うことができる。
【0008】
前記被加工体を加工する工程は、酸素を含むプラズマを用いてドライエッチングする工程を含んでもよい。この場合においても前記マスク膜はHSQ膜により形成されているため、ドライエッチングされ難く、その結果、前記被加工体の加工精度が低下することを抑制できる。
【0009】
前記被加工体を加工する工程は、例えば誘導結合プラズマを用いてドライエッチングする工程である。
【0010】
本発明に係るガラス又は樹脂の成型方法は、金型を準備する工程と、
前記金型に、ガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂を導入して冷却し、その後前記ガラス又は樹脂を前記金型から剥離することによりガラス又は樹脂の成型体を形成する工程と、
を具備し、
前記金型は、
ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、
を経て形成されている。
【0011】
前記ガラス又は樹脂の成型体は、例えば表面に周期的な凹凸を有するレンズである。
【0012】
本発明に係る金型は、ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、を経て形成されている。
【0013】
本発明に係るガラス又は樹脂の成型体は、ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、その後前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置していてパターンを有するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、
前記マスク膜を除去する工程と、
を経て形成された金型を準備する工程と、
前記金型に、ガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂を導入して冷却し、その後前記ガラス又は樹脂を前記金型から剥離することによりガラス又は樹脂の成型体を形成する工程とを経て形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記被加工体に、精度よく微細な加工を行うことができる。また、前記被加工体がガラス又は樹脂を成型する金型である場合、ガラス又は樹脂の成型体に、高い精度の微細構造物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1及び図2は、本発明の実施形態に係るガラスの成型方法を説明するための断面図である。まず図1(A)に示すように、金型となる被加工体10の表面上にHSQ(水素化シルセシキオキサン:Hydrogen silsesquioxane)膜20を、例えばスピンコーティング法により塗布し、その後熱処理する。熱処理後のHSQ膜20の膜厚は、例えば200nm以上400nm以下である。被加工体10は、例えばガラス状カーボンである。
【0016】
次いで、電子銃30を用いてHSQ膜20を電子線描画する。電子線の加速電圧は、例えば10kV以上100kV以下であり、電子線のドーズ量は、例えば125μC/cm以上500μC/cm以下である。これにより、HSQ膜20のうち電子線が照射された部分は硬化する。
【0017】
次いで図1(B)に示すように、現像液を用いてHSQ膜20を現像し、その後純水で洗浄する。これにより、HSQ膜20のうち硬化していない部分が除去され、パターンを有するマスク膜22が形成される。マスク膜22は、例えば周期構造、例えば複数の線状パターンが互いに並行に配置された構造を有している。上記したように、マスク膜22の露光には電子線を用いている為、マスク膜22は微細パターンを有することができる。またリフトオフ法を用いていない為、マスク膜22のエッジ22aのラフネスも小さくなる。
【0018】
次いで図1(C)に示すように、マスク膜22をマスクとして被加工体10をドライエッチングする。エッチングガスには酸素が含まれる。エッチングガスは、酸素ガスが100%であってもよい。また、ドライエッチングの最初から最後までエッチングガスに酸素が含まれていても良いし、一部の時間にのみ酸素ガスが含まれていても良い。このとき、エッチングに異方性を持たせるために、被加工体10にバイアス電位を印加する。これにより被加工体10の表面には微細パターンが形成される。この微細パターンは周期的な凹凸を有しており、例えば複数の直線状の凹部12を互いに並行に配置した構造を有している。なお、ドライエッチングには並行平板型のプラズマを用いてもよいが、高密度プラズマ、例えば誘導結合プラズマやECRプラズマを用いるのが好ましい。例えば誘導結合プラズマを用いる場合、プラズマ入力は200W以上1000W以下、基板入力は5W以上300W以下である。
【0019】
このエッチング工程において、マスク膜22はHSQ膜により形成されているため、エッチングガスに酸素が含まれていて酸素ラジカルや酸素イオンが形成されても、マスク膜22はエッチングされ難く、被加工体10に対して高い選択比を有する。この選択比は、例えば被加工体10がガラス状カーボンである場合、30以上になる。このため、被加工体10の表面に形成された微細パターンは高い精度を有する。
【0020】
その後図2(A)に示すように、マスク膜22を、フッ酸を用いて除去する。このようにして、被加工体10は、ガラス又は樹脂の表面に微細パターンを形成するための金型に加工される。
【0021】
次いで図2(B)に示すように、被加工体10の表面に、ガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂40を導入する。この導入にはナノインプリント法を用いることができる。このときガラス又は樹脂40は、凹部12の内部にも導入される。
【0022】
次いで図2(C)に示すように、ガラス又は樹脂40を冷却した後、被加工体10からガラス又は樹脂40の成型体を剥離する。このようにして、ガラス又は樹脂40の成型体の表面には、微細構造が形成される。ガラス又は樹脂40の成型体がレンズである場合、この微細構造は周期的な凹凸(例えば線状の凹凸が一定間隔ごとに配置される構造)であり、これによりレンズ表面には無反射構造体が形成される。また、周期的な凹凸のパターンを適切なパターンにすることにより、ガラス又は樹脂40の成型体をワイヤーグリッドとすることもできる。
【0023】
以上、本実施形態によれば、電子線描画によりHSQ膜20にパターンを形成し、このパターンを、被加工体10をドライエッチングする際のマスク膜22として利用している。マスク膜22のパターンを形成する際に電子線描画を用いている為、光学的な露光工程を用いる場合と比較して、被加工体10の表面に微細なパターンを形成することができる。また、マスク膜22を形成するときにリフトオフ法を用いていない為、マスク膜22のエッジ22aのラフネスも小さくなり、その結果、被加工体10に形成された微細パターンのエッジ12aのラフネスも小さくなる。従って、被加工体10を金型としてガラス又は樹脂40の成型体を形成した場合、ガラス又は樹脂40の表面に微細な構造体を精度よく形成することができる。
【0024】
また、直接マスク膜22を電子線露光及び現像するため、リフトオフ法を用いてメタルマスクを形成する場合と比較して工程が少なくなる。
【0025】
また、HSQ膜20を用いてマスク膜22を形成しているため、酸素を含むエッチングガスを用いて被加工体10をドライエッチングしても、マスク膜22はエッチングされ難い。従って、被加工体10に形成された微細パターンの精度が低下することを抑制できる。
【0026】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0027】
ガラス状カーボンからなる基板の上にHSQ膜を形成した。HSQとしては、東レ・ダウコーニング社製「FOx14」を使用した。そしてHSQ膜を180℃で10分間熱処理した。熱処理後のHSQ膜の厚さは300μmであった。
【0028】
次いで、株式会社エリオニクス社製「ELS−6600」を用いてHSQ膜に対して電子線描画を行った。電子線の加速電圧は20kVであり、電子線のドーズ量は137μC/cmであった。その後、東京応化工業株式会社製「NMD−W」を用いてHSQ膜を現像し、その後純水で洗浄することにより、基板上に位置するマスク膜を形成した。マスク膜は、幅100nmの直線状の凸状パターンを300nm間隔で複数配置した構造を有している。
【0029】
図3に、形成したマスク膜のSEM写真を示す。本写真から、マスク膜のエッジのラフネスが十分低いことが分かる。
【0030】
次いで、マスク膜をマスクとして、誘導結合プラズマを用いて基板をドライエッチングした。ドライエッチング装置には、株式会社エリオニクス社製「EIS−700」を用いた。エッチングガスは酸素ガス100%であり、酸素ガスの流量は50sccmであった。また、誘導結合プラズマのプラズマ入力は500Wであり、ドライエッチングに異方性を持たせるための基板バイアスは100Vであった。これにより、基板の表面に微細パターンが形成された。この微細パターンは、幅200nmの直線状の凸状パターンを400nm間隔で複数配置した構造を有している。
【0031】
図4に、基板の表面に形成された微細パターンのSEM写真を示す。本写真から、微細パターンのエッジのラフネスが十分低いことが分かる。
【0032】
次いで、表面に微細パターンが形成された基板を金型としてナノインプリント法を行うことにより、表面に微細パターンを有するガラス成型体を形成した。成型温度は630℃であり、成型圧力は0.31MPaであった。ガラス成型体が有する微細パターンは、幅150nmの直線状の凹状パターンを450nm間隔で複数配置した構造を有している。
【0033】
図5に、ガラス成型体のSEM写真を示す。本写真から、微細パターンのエッジのラフネスが十分低いことが分かる。
【0034】
以上から、HSQ膜をマスクとしてガラス状カーボンをドライエッチングすることにより、高い精度の微細パターンを有する金型を作製できることが示された。また、この金型を用いてガラスを成型することにより、ガラス成型体の表面に高い精度の微細パターンを形成できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】各図は本発明の実施形態に係るガラスの成型方法を説明するための断面図。
【図2】各図は図1の次の工程を説明するための断面図。
【図3】形成したマスク膜のSEM写真。
【図4】形成した被加工体のSEM写真
【図5】成型したガラス成型体のSEM写真。
【符号の説明】
【0036】
10…被加工体、12…凹部、12a,22a…エッジ、20…HSQ膜、22…マスク膜、30…電子銃、40…ガラス又は樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状カーボンからなる被加工体上に水素化シルセシキオキサン(Hydrogen silsesquioxane:以下HSQと記載)膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工する工程と、
を具備する被加工体の加工方法。
【請求項2】
前記被加工体を加工する工程は、酸素を含むプラズマを用いてドライエッチングする工程を含む請求項1に記載の被加工体の加工方法。
【請求項3】
前記被加工体を加工する工程は、誘導結合プラズマを用いてドライエッチングする工程である請求項1又は2に記載の被加工体の加工方法。
【請求項4】
金型を準備する工程と、
前記金型に、ガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂を導入して冷却し、その後前記ガラス又は樹脂を前記金型から剥離することによりガラス又は樹脂の成型体を形成する工程と、
を具備し、
前記金型は、
ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、
を経て形成されているガラス又は樹脂の成型方法。
【請求項5】
前記ガラス又は樹脂の成型体は、表面に周期的な凹凸を有するレンズである請求項4に記載のガラス又は樹脂の成型方法。
【請求項6】
ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、
を経て形成された金型。
【請求項7】
ガラス状カーボンからなる被加工体上にHSQ膜を形成する工程と、
前記HSQ膜を電子線描画し、その後前記HSQ膜を現像することにより、前記被加工体上に位置していてパターンを有するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記被加工体をドライエッチングすることにより、前記被加工体を加工して金型を形成する工程と、
前記マスク膜を除去する工程と、
を経て形成された金型を準備する工程と、
前記金型に、ガラス転移点以上に加熱したガラス又は樹脂を導入して冷却し、その後前記ガラス又は樹脂を前記金型から剥離することによりガラス又は樹脂の成型体を形成する工程と、
を経て形成されたガラス又は樹脂の成型体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−155167(P2009−155167A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335757(P2007−335757)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月5日に社団法人応用物理学会主催のDigest of Papers Microprocesses and Nanotechnology 2007(マイクロプロセスとナノテクノロジー2007の論文概要)にて発表。
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【出願人】(391004137)株式会社エリオニクス (4)
【Fターム(参考)】