説明

被測定物の測定方法

【課題】凝集性のある被測定物を高感度に測定することのできる測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属からなり、複数の空隙部が少なくとも1つの配列方向に規則的に配列された空隙配置構造体の少なくとも一方の主面側に、凝集性を有する被測定物を保持し、上記空隙配置構造体に対して一方の主面側から電磁波を照射し、上記空隙配置構造体を透過した電磁波、または、上記空隙配置構造体で反射された電磁波を検出し、検出された電磁波の周波数特性から上記被測定物の物質量を測定する測定方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の微量物質検出技術として、ラベル法を用いた検出技術、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)のような蛍光標識2次抗体を用いた検出技術が知られている。例えば、特許文献1(特表平5−502368号公報)には、ELISA等の測定方法を、アルツハイマー病の指標となるアミロイドタンパクの測定に用いることが開示されている。
【0003】
図11に示すように、従来技術のラベル法は、吸着用皮膜(ホスト分子)に特異吸着した被測定物(ゲスト分子)に、さらに蛍光発光などの機能を有するラベル分子を特異吸着させて、ラベル分子からのラベル信号(例えば蛍光強度)を測定する技術である。この測定法は、被測定物(ゲスト分子)とラベル分子の比率が一定になっていることを前提としており、それが故に、ラベル分子からの信号を計測することで、被測定物を定量することが可能となる。
【0004】
被測定物が非凝集性である場合は、図11(a)に示されるように、この被測定物とラベル分子の比率は一定(図11(a)では、1:1)に保たれる。しかし、被測定物が凝集性である場合は、図11(b)に示すように、凝集によって、ラベル分子が特異吸着する部分が凝集によって隠れたり、変形したりするために、ラベル分子の吸着比率が変化してしまう。
【0005】
すなわち、凝集性を有する被測定物を従来技術のラベル法で測定した場合、凝集状態によってラベル信号の強度が変化するため、測定バラツキが大きく、微量物質の検出が困難になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平5−502368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、凝集性のある被測定物を高感度に測定することのできる測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属からなり、複数の空隙部が少なくとも1つの配列方向に規則的に配列された空隙配置構造体の少なくとも一方の主面側に、凝集性を有する被測定物を保持し、
上記空隙配置構造体に対して一方の主面側から電磁波を照射し、
上記空隙配置構造体を透過した電磁波、または、上記空隙配置構造体で反射された電磁波を検出し、
検出された電磁波の周波数特性から上記被測定物の物質量を測定する測定方法に関する。
【0009】
上記電磁波の波長をλとしたとき、上記凝集性を有する被測定物が凝集してなる凝集体の最大の大きさがλ/15以下であることが好ましい。
【0010】
上記電磁波の波長をλとしたとき、上記電磁波が前記空隙配置構造体に照射された時に生じるビームスポットの径が、19λ〜1000λであることが好ましい。
【0011】
上記空隙配置構造体の少なくとも一方の主面上に、特定の物質と特異的に結合するようなホスト分子が保持されていることが好ましい。
【0012】
上記被測定物はペプチドまたはタンパクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
被測定物の物質量を、ラベル分子の発光量等として検出するのではなく、電磁波を照射して、その透過波または反射波の周波数特性を読み取ることにより、被測定物の物質量を検出するため、被測定物が凝集性を有するものであっても正確で、かつ高感度な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の測定方法の概要を説明するための模式図である。
【図2】本発明で用いる空隙配置構造体の構造を説明するための模式図である。
【図3】(a)は、本発明に用いる空隙配置構造体の一例における基本格子の斜視図である。(b)は、(a)に示す基本格子からなる空隙配置構造体における透過率[%]の周波数特性の計算結果を示す。
【図4】図3(b)のグラフのデイップ周波数(0.966THz)における共振時の空隙配置構造体の厚さ方向の電界強度分布を示すグラフである。
【図5】本発明の測定方法における被測定物の状態を説明するための模式図である。
【図6】試験例1の電磁界シミュレーションのモデルを説明するための模式図である。
【図7】試験例1の電磁界シミュレーションの条件を説明するための模式図である。(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図8】試験例1において、被測定物の有無による透過率スペクトルの違いを示す説明図である。
【図9】試験例2で実際の測定により求めた透過率スペクトルを示す図である。
【図10】従来の測定方法(ELISA)を用いた凝集前後のタンパク濃度の測定結果を示すグラフである。
【図11】従来の測定方法(ラベル法)における被測定物の状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、臨床検査に応用されるもので、特に、イムノアッセイのようにホスト−ゲストの特異吸着を利用したバイオセンシングに応用される。例えば、アルツハイマー病の関連物質として知られているアミロイドベータ(Aβ)タンパク質の測定に用いることができる。Aβは凝集して多量体化し、さらにはアミロイド繊維化することで、アルツハイマー病を発症させると言われている。本発明は、このような凝集性を有する被測定物(ゲスト)を検出する技術について記載している。
【0016】
まず、本発明の測定方法の一例の概略を図1を用いて説明する。図1は、本発明の測定方法に用いられる測定装置の全体構造を模式的に示す図である。この測定装置は、レーザ2(例えば、短光パルスレーザ)から照射されるレーザ光を半導体材料に照射することで発生する電磁波(例えば、20GHz〜120THzの周波数を有するテラヘルツ波)パルスを利用するものである。
【0017】
図1の構成において、レーザ2から出射したレーザ光を、ハーフミラー20で2つの経路に分岐する。一方は、電磁波発生側の光伝導素子71に照射され、もう一方は、複数のミラー21(同様の機能のものは付番を省略)を用いることで、時間遅延ステージ26を経て受信側の光伝導素子72に照射される。光伝導素子71、72としては、LT−GaAs(低温成長GaAs)にギャップ部をもつダイポールアンテナを形成した一般的なものを用いることができる。また、レーザ2としては、ファイバー型レーザやチタンサファイアなどの固体を用いたレーザなどを使用できる。さらに、電磁波の発生、検出には、半導体表面をアンテナなしで用いたり、ZnTe結晶の様な電気光学結晶を用いたりしてもよい。ここで、発生側となる光伝導素子71のギャップ部には、電源3により適切なバイアス電圧が印加されている。
【0018】
発生した電磁波は放物面ミラー22で平行ビームにされ、放物面ミラー23によって、空隙配置構造体1に照射される。空隙配置構造体1を透過したテラヘルツ波は、放物面ミラー24,25によって光伝導素子72で受信される。光伝導素子72で受信された電磁波信号は、アンプ6で増幅されたのちロックインアンプ4で時間波形として取得される。そして、算出手段を含むPC(パーソナルコンピュータ)5でフーリエ変換などの信号処理された後に、空隙配置構造体1の透過率スペクトルなどが算出される。ロックインアンプ4で取得するために、発振器8の信号で発生側の光伝導素子71のギャップに印加する電源3からのバイアス電圧を変調(振幅5V〜30V)している。これにより同期検波を行うことでS/N比を向上させることができる。
【0019】
以上に説明した測定方法は、一般にテラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)と呼ばれる方法である。
【0020】
図1では、電磁波の透過率を測定する場合を示しているが、本発明においては電磁波の反射率を測定してもよい。好ましくは、0次方向の透過や0次方向の反射について測定が行われる。
【0021】
なお、一般的に、回折格子の格子間隔をd(本明細書では空隙部の間隔)、入射角をi、回折角をθ、波長をλとしたとき、回折格子によって回折されたスペクトルは、
d(sin i −sin θ)=nλ …(1)
と表すことができる。上記「0次方向」の0次とは、上記式(1)のnが0の場合を指す。dおよびλは0となり得ないため、n=0が成立するのは、sin i− sin θ=0の場合のみである。従って、上記「0次方向」とは、入射角と回折角が等しいとき、つまり電磁波の進行方向が変わらないような方向を意味する。
【0022】
このような、本発明の測定方法で用いられる電磁波は、空隙配置構造体の構造に応じて散乱を生じさせることのできる電磁波であれば特に限定されず、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等のいずれも使用することができ、その周波数も特に限定されるものではないが、好ましくは1GHz〜1PHzであり、さらに好ましくは20GHz〜120THzの周波数を有するテラヘルツ波である。また、本発明で用いられる電磁波は、直線偏光の電磁波として、短光パルスレーザを光源としてZnTe等の電気光学結晶の光整流効果により発生するテラヘルツ波や、半導体レーザから出射される可視光や、光伝導アンテナから放射される電磁波等が挙げられ、無偏光の電磁波として、高圧水銀ランプやセラミックランプから放射される赤外光等が挙げられる。
【0023】
本発明において、被測定物の特性を測定するとは、被測定物となる化合物の定量や誘電率等の各種の定性などを行うことであり、例えば、溶液中等の微量の被測定物の含有量を測定する場合や、被測定物の同定を行う場合が挙げられる。具体的には、例えば、被測定物の溶解した溶液に空隙配置構造体を浸漬し、被測定物を空隙配置構造体の表面に付着させた後に溶媒や余分な被測定物を洗浄し、空隙配置構造体を乾燥してから、上述のような測定装置を用いて被測定物の特性を測定する方法が挙げられる。またポリマーなどで構成されたシート状の基材に被測定物を付着させ、シート状の基材に空隙配置構造体を密着させてから、上述のような測定装置を用いて被測定物の特性を測定する方法が挙げられる。
【0024】
本発明の測定対象となる被測定物は、凝集性を有するものである。空隙配置構造体に照射する電磁波の波長をλとしたとき、該被測定物が凝集してなる凝集体の最大の大きさがλ/15以下である。ここで、「凝集体の大きさ」とは、凝集体の外周上の2点を結ぶ最大の長さである。被測定物は、ペプチドまたはタンパクであることが好ましい。
【0025】
本発明において用いられる「空隙配置構造体」は金属からなり、複数の空隙部が少なくとも1つの配列方向に規則的に配列されている。例えば、その主面に垂直な方向に貫通した少なくとも1つの空隙部が上記主面上の少なくとも一方向に周期的に配置された構造体である。ただし、空隙部は、その全てが周期的に配置されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、一部の空隙部が周期的に配置され、他の空隙部が非周期的に配置されていてもよい。
【0026】
空隙配置構造体は、好ましくは準周期構造体や周期構造体である。準周期構造体とは、並進対称性は持たないが配列には秩序性が保たれている構造体のことである。準周期構造体としては、例えば、1次元準周期構造体としてフィボナッチ構造、2次元準周期構造体としてペンローズ構造が挙げられる。周期構造体とは、並進対称性に代表される様な空間対称性を持つ構造体のことであり、その対称の次元に応じて1次元周期構造体、2次元周期構造体、3次元周期構造体に分類される。1次元周期構造体は、例えば、ワイヤーグリッド構造、1次元回折格子などが挙げられる。2次元周期構造体は、例えば、メッシュフィルタ、2次元回折格子などが挙げられる。これらの周期構造体のうちでも、2次元周期構造体が好適に用いられる。
【0027】
2次元周期構造体としては、例えば、図2に示すようなマトリックス状に一定の間隔で空隙部が配置された板状構造体(格子状構造体)が挙げられる。図2(a)に示す空隙配置構造体1は、その主面10a側からみて正方形の空隙部11が、該正方形の各辺と平行な2つの配列方向(図中の縦方向と横方向)に等しい間隔で設けられた板状構造体である。
【0028】
また、空隙配置構造体に設けられる空隙部の形状は、個々の空隙部を導波管とみなした場合に、電磁波を照射することによりTE11モード様共振を生じるような形状であることが好ましい。ここで、TE11モード様共振には、TE11モードの共振およびTE11モードに類似したモードの共振を含まれる。空隙部の形状が、TE11モード様共振を生じるような形状であることにより、前方散乱した電磁波の周波数特性における鋭いディップ波形、または、後方散乱した電磁波の周波数特性における鋭いピーク波形を得ることができるという利点がある。
【0029】
ここで、ディップ波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の透過率)が相対的に大きくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、透過率スペクトル)に部分的に見られる谷型(下に凸)の部分の波形である。また、ピーク波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の反射率)が相対的に小さくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、反射率スペクトル)に部分的に見られる山型(上に凸)の波形である。
【0030】
TE11モード様共振を生じる空隙部の形状として、好適には、電磁波が照射される際の配置状態において、電磁波の偏光面と直交する仮想面に対して鏡映対称とならない形状が挙げられる。具体的な空隙部の形状としては、例えば、空隙配置構造体の主面に垂直な方向から見た形状が、台形、凸型、凹型、または、星型であるような空隙部の形状が挙げられる。多角形として、好ましくは、正多角形以外の多角形や、奇数角を有する正多角形(正三角形、正五角形など)が挙げられる。これらのうち、好ましくは凹型や台形であり、加工の容易性の点で、より好ましくは台形である。なお、例えば、正三角形の空隙部が設けられた空隙配置構造体の場合、照射される電磁波の偏光面の方向によっては、その偏光面に垂直な仮想面に対して空隙部の形状が鏡像対称になってしまう場合があるが、電磁波の偏光面の方向を調整し、空隙部の形状が仮想面に対して鏡像対称とならないようにすることで、本発明の測定方法を実施することができる。
【0031】
また、空隙部を電磁波の偏光面と直交する仮想面に対して鏡映対称とならない形状とするために、上記空隙配置構造体の上記空隙部を形成する部分に、突起部または切欠部を有することが好ましい。ここで、突起部は、空隙配置構造体において、TE11モード様共振が生じた際に電界強度が相対的に強くなる(電界ベクトルが相対的に大きくなる)位置に設けられることが好ましい。また、切欠部は、空隙配置構造体において、TE11モード様共振が生じた際に電界強度が相対的に弱くなる(電界ベクトルが相対的に小さくなる)位置に設けられることが好ましい。このような位置に突起部または切欠部を設けることによって、前方散乱した電磁波の周波数特性における鋭いディップ波形、または、後方散乱した電磁波の周波数特性における鋭いピーク波形を得ることができるという利点がある。
【0032】
空隙部の寸法は、測定方法や、空隙配置構造体の材質特性、使用する電磁波の周波数等に応じて適宜設計されるものであり、その範囲を一般化するのは難しいが、透過した電磁波を検出する場合、空隙部が図2(a)に示すように縦横に規則的に配置された空隙配置構造体1では、図2(b)にsで示される空隙部の格子間隔が、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。空隙部の格子間隔sがこの範囲以外になると、散乱が生じにくくなる場合がある。また、空隙部の孔サイズとしては、図2(b)にdで示される空隙部の孔サイズが、測定に用いる電磁波の波長の10分の1以上、10倍以下であることが好ましい。空隙部の孔サイズがこの範囲以外になると、透過する電磁波の強度が弱くなって信号を検出することが難しくなる場合がある。
【0033】
また、空隙配置構造体の平均的な厚みは、測定方法や、空隙配置構造体の材質特性、使用する電磁波の周波数等に応じて適宜設計されるものであり、その範囲を一般化するのは難しいが、透過した電磁波を検出する場合、測定に用いる電磁波の波長の数倍以下であることが好ましい。構造体の平均的な厚みがこの範囲よりも大きくなると、透過する電磁波の強度が弱くなって信号を検出することが難しくなる場合がある。
【0034】
空隙配置構造体の全体の寸法は、特に制限されないが、照射される電磁波のビームスポットの面積に応じて決定される。
【0035】
本発明において、空隙配置構造体に被測定物を保持する方法としては、種々公知の方法を使用することができ、例えば、空隙配置構造体に直接付着させてもよく、支持膜等を介して付着させてもよい。測定感度を向上させ、測定のばらつきを抑えることにより再現性の高い測定を行う観点からは、空隙配置構造体の表面に直接被測定物を付着させることが好ましい。
【0036】
空隙配置構造体に被測定物を直接付着させる場合としては、空隙配置構造体の表面と被測定物との間で直接的に化学結合等が形成される場合だけでなく、予め表面にホスト分子が結合された空隙配置構造体に対して、該ホスト分子に被測定物が結合されるような場合も含まれる。化学結合としては、共有結合(例えば、金属―チオール基間の共有結合など)、ファンデルワールス結合、イオン結合、金属結合、水素結合などが挙げられ、好ましくは共有結合である。また、ホスト分子とは、被測定物などの特定の物質を特異的に結合させることのできる分子などであり、ホスト分子と被測定物の組み合わせとしては、例えば、抗原と抗体、糖鎖とタンパク質、脂質とタンパク質、低分子化合物(リガンド)とタンパク質、タンパク質とタンパク質、一本鎖DNAと一本鎖DNAなどが挙げられる。
【0037】
空隙配置構造体に被測定物を直接付着させる場合、空隙配置構造体を構成する金属としては、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物の官能基と結合することのできる金属や、ヒドロキシ基、アミノ基などの官能基を表面にコーティングできる金属、ならびに、これらの金属の合金を挙げることができる。具体的には、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム、シリコン、ゲルマニウムなどが挙げられ、好ましくは金、銀、銅、ニッケル、クロムであり、さらに好ましくは金である。金、ニッケルを用いた場合、特に被測定物がチオール基(−SH基)を有する場合に該チオール基を空隙配置構造体の表面に結合させることができるため有利である。また、ニッケルを用いた場合、特に被測定物がヒドロキシ基(―OH)やカルボキシル基(―COOH)を有する場合に該官能基を空隙配置構造体の表面に結合させることができるため有利である。また、半導体としては、例えば、IV族半導体(Si、Geなど)や、II−VI族半導体(ZnSe、CdS、ZnOなど)、III−V族半導体(GaAs、InP、GaNなど)、IV族化合物半導体(SiC、SiGeなど)、I−III−VI族半導体(CuInSe2など)などの化合物半導体、有機半導体が挙げられる。
【0038】
また、支持膜等を介して付着させる場合として、具体的には、空隙配置構造体の表面にポリアミド樹脂等の支持膜を貼付して被測定物を該支持膜に付着させる方法や、支持膜に換えて、気密または液密な容器を用いて、流体または流体に分散させた物質を測定する方法が挙げられる。
【0039】
本発明の測定方法においては、上述のようにして求められる空隙配置構造体において分散した電磁波の周波数特性に関する、少なくとも1つのパラメータに基づいて、被測定物の特性が測定される。例えば、空隙配置構造体1において前方分散(透過)した電磁波の周波数特性に生じたディップ波形や、後方分散(反射)した電磁波の周波数特性に生じたピーク波形などが、被測定物の存在により変化することに基づいて被測定物の特性を測定することができる。
【0040】
本発明の測定方法においては、上記電磁波が上記空隙配置構造体に照射された時に生じるビームスポットの径が、上記空隙部のうち20行×20列以上を覆う大きさを有する。具体的には、空隙配置構造体に照射される電磁波の波長をλ(μm)としたとき、ビームスポットの径が19λ〜1000λ(μm)であることが好ましい。
【0041】
ここで、「ビームスポット」とは、例えば、(1)レンズやミラーで集光する場合は、ビーム中心強度の1/e2(=13.5%)強度で描かれるスポット面積の平均径であり、(2)アパーチャーで光線の一部を遮断する場合は、そのアパーチャー径などであり、広義には、空隙配置構造体の主面に照射されている電磁波が主面に当たっている面積を示す。
【0042】
また、上記電磁波は、無偏波、または、直線偏波で任意の偏波方向を有する電磁波であってもよく、この場合でも、上記ディップ波形やピーク波形を得ることができる。
【0043】
透過(前方散乱)した電磁波の周波数特性に生じるディップ波形(または、反射(後方散乱)された電磁波の周波数特性に生じるピーク波形)は、空隙配置構造体の個々の空隙部を導波管とみなした場合におけるTE11モード様共振(TE11モードライクな共振)により生じたものであることが好ましい。
【0044】
ここで、TE11モード様共振には、TE11モードの共振およびTE11モードに類似したモードの共振が含まれる。空隙部の形状が、TE11モード様共振を生じるような形状であることにより、透過した電磁波の周波数特性における鋭いディップ波形、または、後方散乱した電磁波の周波数特性における鋭いピーク波形を得ることができるという利点がある。また、空隙配置構造体に被測定物が保持される前後における、ディップ波形またはピーク波形の周波数シフト量が大きくなるため、被測定物の測定感度を向上させることができる。
【0045】
ここで、ディップ波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の透過率)が相対的に大きくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、透過率スペクトル)に部分的に見られる谷型(下に凸)の部分の波形である。また、ピーク波形とは、照射した電磁波に対する検出した電磁波の比率(例えば、電磁波の反射率)が相対的に小さくなる周波数範囲において、空隙配置構造体の周波数特性(例えば、反射率スペクトル)に部分的に見られる山型(上に凸)の波形である。
【0046】
図3(a)に、本発明に用いる空隙配置構造体の一例の基本格子の構造を示す。図3(a)に示す基本格子100は、空隙部側面の1面の中央部付近に突起部101が配置されている。
【0047】
図3(a)に示す空隙部を有する空隙配置構造体について、空隙配置構造体1の主面に対して垂直な方向から電磁波を照射した場合における、電磁界シミュレーションにより計算した透過率の周波数特性の一例を図3(b)に示す。図3(b)に示すように、空隙部の形状が、電磁波の偏光面と直交する仮想面に対して鏡映対称とならないように、空隙部の一部に突起部を付加した空隙配置構造体を用いることによって、空隙配置構造体1の主面に対して垂直な方向から電磁波を照射した場合でも、TE11モード様共振に由来するディップ波形が生じることが分かる。
【0048】
また、図4に、電磁界シミュレーション(Micro−stripes)により求めた、図3(b)のグラフのデイップ周波数(0.966THz)における共振空間の空隙配置構造体の厚さ方向(Z方向)の電界強度分布を示す。図4から、空隙配置構造体の空隙内部(金属メッシュのZ方向(厚さ方向)の中心からのZ方向の距離が、0〜30μmである範囲)、あるいは、主面近傍(金属メッシュのZ方向(厚さ方向)の中心からのZ方向の距離が、30μm付近である範囲))に共振空間(共振電界強度が強い空間)が形成されていることが分かる。
【0049】
本願の測定方法では、共振空間に被測定物が入ることによる空隙配置構造体の共振特性の変化を測定するため、図5(a)に示す非凝集性の被測定物でも、図5(b)に示す凝集性の被測定物でも、それらが共振空間内にあれば、同様に測定することが可能となる。
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
(試験例1)
試験例1として、電磁界シミュレーション(Micro−stripes)による凝集体の測定に関する計算結果を示す。
【0052】
図4に示す空隙配置構造体の厚さ方向の電界強度分布のグラフから、電界強度がピークの値から1/eに減衰する位置は、空隙配置構造体の主面から約20μmの位置になることがわかる。そして、20μmの距離は、電磁波の波長λの約1/15に相当する。このことより、空隙配置構造体の主面から概ねλ/15までの位置に凝集体を配置すれば、共振空間(電解強度が高い空間)内に凝集体が入ることを確認した。
【0053】
図6に示されるように、ピッチ260μm角、開口180μm角、厚み60μm、突起20μm角の基本格子100(突起部101を有する)の主面上に凝集体をランダムに配置したモデルについて、計算を行った。具体的には、被測定物の総量が50ngになるように、被測定物を小片9に均等分割し、その小片9が凝集性を有する場合を想定して計算を行った。
【0054】
小片9(被測定物)の比誘電率は2.4、比重を1g/cm3とした。そして、(1)サイズがX10μm×Y10μm×Z20μmの小片が25個で50ngになる場合(実施例1)と、(2)サイズが10μm×Y10μm×Z10μmの小片が50個で50ngになる場合(実施例2)、について、金属メッシュの主面上に小片をランダム配置(配置位置を乱数で決定)した。上記(1)と(2)の2つの分割方法において、各々10パターンのランダム配置を設定し、それらについての透過率スペクトルを計算した。
【0055】
比較例1として、被測定物の凝集がない状態を想定し、50ngの被測定物(比誘電率2.4、比重1g/cm3)を空隙配置構造体の主面上に均一配置した場合、すなわち、サイズがX260μm×Y260μm×Z0.74μmであるフィルム状の被測定物を空隙配置構造体の主面に貼り付けたモデルについて、透過率スペクトルを計算した。なお、対照として、被測定物が何も付着していない場合についても透過率スペクトルを計算した。
【0056】
電磁波(平行光)は、空隙配置構造体主面に対し、Y偏波を垂直入射した状態を想定して計算を行った。図6において、Eは電界方向を示す。
【0057】
電磁界シミュレーションの条件は、図7(b)に示されるように、空隙配置構造体1の基本格子の主面を入射面、その反対面を観測面とし、それら以外の面を周期境界とした。さらに、空隙配置構造体(基本格子)の材料はAuとした。
【0058】
図7(a)に示されるように、電磁波は、波源27から、偏光面(電界面)が図7(a)のY方向となるような平面波(直線偏光波)を格子単位100の主面に対して垂直に入射した。また、空隙配置構造体を透過した電磁波は、平面波の波源とは逆側に設けた観測面28で透過した電磁波が検出されるものとした。平面波の波源27と基本格子100との距離は270μmとし、基本格子100と観測面28との間の距離は270μmとした。
【0059】
図8に示すように、被測定物がない場合に対して、被測定物を空隙配置構造体(金属メッシュ)の主面上に配置した場合は、透過率スペクトルにおけるディップ周波数は低周波側にシフトする。以上の計算により、各状態におけるディップ周波数を計算し、それら状態間のシフト量の差を比較した。
【0060】
次に、実施例1、実施例2、比較例1、対照について計算により求めた各透過率スペクトルのディップ周波数を表1にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す結果から、比較例1の均一配置(被測定物の凝集がない状態を想定)の場合と、実施例1および2の小片をランダム配置した場合(被測定物が凝集した状態を想定)との間で有意な差はなく、本発明の方法で凝集性を有する被測定物の測定ができることがわかった。
【0063】
(試験例2)
本試験例では、凝集性を有する被測定物のモデルとしてラテックス粒子を空隙配置構造体に固定化し、THz−TDSを用いた測定を行った。
【0064】
本試験例で用いた空隙配置構造体は、フォトリソグラフィーにより形成したレジストパターンを用いて、エレクトロフォーミング(電鋳メッキ)により作製した金属メッシュである。具体的には、外形が直径10mm、厚み20μmの円盤状であり、空隙部の孔サイズ(図2(b)に示す孔サイズd)が180μmである正方形状であり、該空隙部がピッチ(図2(b)に示す格子間隔s)260μmで正方格子状に設けられたNi製の金属メッシュを作製した。
【0065】
まず、ラテックス粒子を固定化する前に、THz−TDSを用いて、電磁波を上記金属メッシュの主面に対して斜め入射(入射角8deg)し、金属メッシュ単体についての透過率スペクトルと、被測定物として厚み10μmのラップフィルム(ポリエチレン製)を金属メッシュ主面に密着させた場合についての透過率スペクトルを測定した。図9に、得られた透過率スペクトルを示す。図9に破線で示すスペクトルは、金属メッシュ単体についての透過率スペクトルであり、実線で示すスペクトルは、被測定物として、厚み10μmのラップフィルム(ポリエチレン製)を金属メッシュ主面に密着させた場合についての透過率スペクトルである。
【0066】
このような透過率の周波数特性を有する金属メッシュに対して、直径10μmのラテックス粒子(凝集性を有する被測定物のモデル)を固定化し、THz−TDSを用いた透過率スペクトルの測定を行った。
【0067】
まず、ビオチン分子が固定化された金属メッシュを作製した。具体的には、エタノールにチオール末端を有するビオチン分子を1mg/mLの濃度で溶かした溶液を調製し、その溶液2mL中に上記Ni製の金属メッシュを浸漬して約16時間放置した。これにより、ビオチン分子のチオール基とNiが結合し、ビオチン分子が金属メッシュ上に固定化された。固定化後、金属メッシュを超純水で洗浄し、自然乾燥させた。
【0068】
このようにして得られたビオチン固定化後の金属メッシュを10枚用意した。直径が1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmの9種類のアパーチャーを用い、それぞれのアパーチャーについて、上記10枚の金属メッシュに対してTHz−TDSで電磁波を金属メッシュ主面に対して斜め入射(入射角8deg)したときのディップ周波数を測定した。
【0069】
次に、ストレプトアビジンで表面修飾された直径10μmのラテックス粒子を用意し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に15mg/mLの濃度で混合し、該混合液5mL中にビオチン固定化済みの金属メッシュを浸漬し、揺動器にて揺動させながら約4時間放置し、ビオチン分子とストレプトアビジンの特異吸着を利用して、ラテックス粒子を金属メッシュ表面に固定化した。
【0070】
このようにして得られたラテックス粒子固定化後の金属メッシュを10枚用意した。直径が1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmの9種類のアパーチャーを用いて、それぞれのアパーチャーについて、上記10枚の金属メッシュに対してTHz−TDSで電磁波を金属メッシュ主面に対して斜め入射(入射角8deg)したときのディップ周波数を測定した。
【0071】
ラテックス粒子固定化後のディップ周波数からラテックス粒子固定化後のディップ周波数への周波数変化量の10枚の平均と分散をアパーチャー径毎にまとめた結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示す結果から、CV(変動係数)はアパーチャー径が大きくなるにしたがって小さくなる傾向にあるが、CVの下限は約0.5%前後であり、CVをそれより小さくすることは難しいと考えられる。このため、本試験例において、高い測定精度を得るためには、アパーチャー径を6mm以上にすることが好ましいと考えられる。
【0074】
ここで、周波数0.966THzの電磁波の波長(λ)は約309μmであり、6mmは19.4λに相当する。このため、本発明においては、アパーチャー径を19λ以上にすることが好ましい。また、被測定物が少量であっても測定できるようにするためにはアパーチャー径が小さいことが好ましいため、アパーチャー径を19λ〜1000λにすることがより好ましい。
【0075】
なお、本試験例において、この6mmのアパーチャー径は、金属メッシュの基本格子数に換算すると、約400個に相当する。このことから、20行×20列程度の基本格子をカバーするビームスポット面積があれば、基本格子当たりの凝集体の付着の偏りは平均化され、測定における凝集体の付着の偏りの影響を小さく(CV値を小さく)できることがわかる。
【0076】
(比較試験例1)
従来の測定方法(ELISA)を用いた凝集前後のタンパク濃度の測定を行った。タンパクとしては、アルツハイマー病の関連物質であるアミロイドベータ(Aβ)のペプチド鎖Aβ(1−40)を用いた。Aβは、血中で凝集する性質を有するタンパクである。500pMのAβ(1−40)を含むリン酸緩衝液を調製し、それを2つに分けて、一方は凝集化処理(前記のAβ溶液に事前に凝集状態のAβ seedを少量加え、37℃で9日間インキュベートした)を行い、他方は何も処理を行わなかった。凝集化処理したサンプルと、未処理のサンプルの2つをAβ(1−40)用のELISA kitを用いて定量測定した(N=4)。図10に、2つのサンプルについてのタンパク濃度の測定結果を示す。
【0077】
図10に示されるように、未処理の(凝集していない)サンプルの測定値は、Aβ(1−40)の添加量である500pMに近い値であるが、凝集化処理したサンプルの測定値は約100pMであり、本来の濃度よりも5倍程度低下してしまっている。このことから、ELISAでは被測定物が凝集化した場合に正確な測定を行えないことが分かる。
【0078】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 空隙配置構造体、10a 主面、100 基本格子、101 突起部、11 空隙部、2 レーザ、20 ハーフミラー、21 ミラー、22,23,24,25 放物面ミラー、26 時間遅延ステージ、27 波源、28 観測面、3 電源、4 ロックインアンプ、5 PC(パーソナルコンピュータ)、6 アンプ、71,72 光電導素子、8 発振器、9 小片(被測定物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなり、複数の空隙部が少なくとも1つの配列方向に規則的に配列された空隙配置構造体の少なくとも一方の主面側に、凝集性を有する被測定物を保持し、
前記空隙配置構造体に対して一方の主面側から電磁波を照射し、
前記空隙配置構造体を透過した電磁波、または、前記空隙配置構造体で反射された電磁波を検出し、
検出された電磁波の周波数特性から前記被測定物の物質量を測定する測定方法。
【請求項2】
前記電磁波の波長をλとしたとき、前記凝集性を有する被測定物が凝集してなる凝集体の最大の大きさがλ/15以下である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記電磁波の波長をλとしたとき、前記電磁波が前記空隙配置構造体に照射された時に生じるビームスポットの径が、19λ〜1000λである、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記空隙配置構造体の少なくとも一方の主面上に、特定の物質と特異的に結合するようなホスト分子が保持されている、請求項1〜3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
前記被測定物はペプチドまたはタンパクである、請求項1〜4のいずれかに記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−24639(P2013−24639A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157846(P2011−157846)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】