説明

被膜形成装置、被膜形成方法、電池用極板、並びに非水電解液二次電池

【課題】帯状の基材を複数のロールに掛け渡して一方向に送りながらその表面に塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する場合に、生産性が高く、且つ各回の塗工の開始端と終了端とを精密に制御することができる被膜形成装置および膜形成方法を提供する。
【解決手段】被膜形成装置は、帯状の基材10を、所定のテンションで複数のロールに掛け渡して一方向に送りながら、塗布ロール1bと間欠的に接触させ、基材10に塗料2を部分的に塗布して薄膜を形成する。ここで、複数のロールは、一方向に送られる基材10の姿勢を、塗布ロール1bと接触する接触姿勢と、塗布ロール1bと接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動される作動ロール3と、作動ロール3と機械的に接続され、作動ロール3が移動したときの基材10のテンションの変動を抑えるように作動ロール3と連動して移動するテンションロール5とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成装置、被膜形成方法、電池用極板、並びに非水電解液二次電池に関し、さらに詳しくは、電池用極板等の基材の表面に、耐熱性を有する保護膜などの薄膜を形成するための被膜形成装置および被膜形成方法、それにより製造された電池用極板、並びに非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、正極活物質(リチウム含有酸化物など)、負極活物質(炭素質材料やSi化合物など)ともに容量密度が高いので、あらゆる機器の電源として用途が拡大している。近年、さらなる高容量化、高出力化、大型化が求められる一方、このような電池が不慮の事態により異常短絡が発生した場合の過熱が懸念されている。
【0003】
現在、正極板と負極板とを電子的に絶縁するセパレータとして、主にポリオレフィンなどの樹脂からなる微多孔質フィルムが用いられている。この微多孔質フィルムは非水電解質を保持する能力に優れる反面、高温下で変形しやすいので、電池内部で異常短絡が発生すると、過熱によって短絡箇所を中心に欠損が拡大し、さらなる過熱を招く虞がある。
【0004】
そこで特許文献1のように、負極板の表面に酸化マグネシウムを含む多孔質耐熱層(保護膜)を形成することにより、高熱が発生してセパレータが溶融しても、正極板と負極板とが直接接触することを防ぐ短絡防止技術が提案されている。
【0005】
このような保護膜を形成するための被膜形成装置の一例を図7に示す(また、特許文献2参照)。この被膜形成装置は、長尺帯状の基材34に上記保護膜の原料である塗料32を塗布するための塗布ロール33を備えている。塗布ロール33は、容器31に保持された塗料32に下部が浸かるように配設されるとともに、上部が帯状の基材34と接触しながら矢印35Aの方向に回転駆動される。基材34は、作動ロール36、テンションロール37、基準ロール38、並びにガイドロール39を含む複数のロールに掛け渡され、一定のテンションを付与されて矢印35Bの方向に送られる。ここで、基材34は、作動ロール36と基準ロール38とに掛け渡された部分の下面が塗布ロール33と接触している。
【0006】
そして、作動ロール36が図に実線により示す位置から上方(図に想像線により示している)に移動することによって、塗布ロール33と接している基材34の下面が塗布ロール33から離れる。基材34を一方向に送りながら、作動ロール36を、所定のタイミングで、上記実線により示す位置と想像線により示す位置との間で移動させることによって、塗料32が基材34に間欠的に塗布される。ここで、テンションロール37は、作動ロール36の移動による基材34のテンションの変動を抑えるよう付勢部材40により付勢されて、基材34と接しながら移動するように設けられている。
【特許文献1】特開2003−142078号公報
【特許文献2】特開2007−117973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の被膜形成装置においては、付勢部材により付勢されたテンションロールによって基材にたるみが発生するのが防止される。このため、上記従来装置においては、塗料の間欠塗工は、テンションロールが十分に追随し得る速度で行われる必要がある。テンションロールが追随し得ない速度で間欠塗工を行うと、各回の塗工が終了して基材を塗布ロールから離すよう作動ロールを移動させるときに基材に弛みが生じてしまう。これにより、塗工の終端部が直線状とはならず、波状等に形成されてしまうという不都合が生じる。つまり、1回の塗工の始端と終端とを精密に制御できないという不都合がある。
したがって、上記従来例においては、基材の送り速度、つまり塗工速度はテンションロールが追随し得る速度に制限されることになり、このことが、生産性を向上させるための障害となっている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、帯状の基材を複数のロールに掛け渡して一方向に送りながらその表面に塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する場合に、生産性が高く、且つ各回の塗工の開始端と終了端とを精密に制御することができる被膜形成装置および膜形成方法を提供することを目的としている。また、本発明は、そのような被膜形成装置により保護膜が形成された電池用極板およびそれを備えた非水電解液二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の被膜形成装置は、帯状の基材を、所定のテンションで複数のロールに掛け渡して一方向に送りながら、塗料を保持する塗工具と間欠的に接触させ、前記基材に前記塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する被膜形成装置であって、
前記複数のロールが、
前記一方向に送られる基材の姿勢を、前記基材が前記塗工具と接触する接触姿勢と前記塗工具と接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動される作動ロールと、
前記作動ロールと機械的に接続され、前記作動ロールが移動したときに前記基材のテンションが変動しないように前記作動ロールと連動して移動するテンションロールと、を含む。
【0010】
ここで、前記基材は、前記塗工具と一方の面で接触し、
前記作動ロールおよび前記テンションロールは、それぞれの軸から等距離にある軸を中心として回動する接続部材にそれぞれが軸支され、
前記接続部材は、前記作動ロールおよび前記テンションロールが前記基材の他方の面と常に接触する範囲で回動するのが好ましい。
【0011】
また、前記基材は、前記塗工具と一方の面で接触し、
前記作動ロールおよび前記テンションロールは、互いに平行な直線に沿って反対方向にそれぞれのロールを同じ距離だけ移動させるリンク機構にそれぞれが軸支されており、前記基材の他方の面とそれぞれが常に接触する範囲で前記リンク機構により移動されるのも好ましい。
【0012】
また、前記複数のロールが、
前記基材の送りの方向における前記作動ロールの直前に設けられ、前記作動ロールと協働して、前記基材の姿勢を、前記接触姿勢と前記非接触姿勢とに切り替える、固定された基準ロールと、
前記基材の送りの方向における前記テンションロールの直後に設けられ、前記テンションロールを通過した前記基材をガイドするガイドロールと、を含み、
前記基準ロールおよび前記ガイドロールは、前記作動ロールおよび前記テンションロールの軸との距離が常に等しい平面に対して対称の位置に、それぞれの軸が設けられるのが好ましい。
【0013】
前記基材は、前記塗料の塗布領域に対応して形成された下地層を有しており、
前記基材の姿勢を前記接触姿勢と前記非接触姿勢との間で切り替えるべく、前記作動ロールおよび前記テンションロールを移動させるように前記接続部材または前記リンク機構を駆動する駆動手段と、
前記基材上で下地層を検出する下地層検出手段と、
前記下地層検出手段の検出結果に基づいて、前記駆動手段を制御する制御手段と、を備えるのも好ましい。
【0014】
前記基材は、金属箔に、電極活物質を含む電極合剤層を前記下地層として形成したものであり、
前記薄膜は、前記電極合剤層を覆う多孔性の保護膜であり、
前記保護膜は、前記電極合剤層の全表面を覆うとともに、前記電極合剤層が形成されていない露出した金属箔の表面のうち、前記電極合剤層に隣接した所定領域を覆うのも好ましい。
【0015】
前記薄膜の前記基材が送られる方向における終端が、前記送られる方向に対して垂直に延びる直線状となっており、
前記薄膜の前記終端の膜厚が、それ以外の部分の膜厚よりも大きくなっているのも好ましい。
【0016】
また、上記目的を達成するために、本発明の被膜形成方法は、帯状の基材を、所定のテンションで、作動ロールおよびテンションロールを含む複数のロールに掛け渡して一方向に送り、塗料を保持する塗工具と間欠的に接触させ、前記基材に前記塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する被膜形成方法であって、
前記作動ロールが、前記一方向に送られる基材の姿勢を、前記基材が前記塗工具と接触する接触姿勢と前記塗工具と接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動されるとともに、
前記テンションロールが、前記作動ロールと機械的に接続され、前記作動ロールの移動により前記基材のテンションが変動しないように前記作動ロールと連動して移動する。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明の電池用極板は、上記被膜形成装置により保護膜が形成されている。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本発明の非水電解液二次電池は、上記被膜形成装置により保護膜が形成された電池用極板を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、テンションロールは、作動ロールと機械的に接続されており、作動ロールが移動したときに基材のテンションが変動しないように作動ロールと連動して移動するので、基材を従来装置における速度よりも高速で送っても、作動ロールの移動により基材に弛みが発生するのを防止することができる。したがって、生産性を高めることができる。
また、基材に弛みが生じないために、間欠塗工の各回の始端および終端をより精密に制御することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〈実施の形態1〉
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る被膜形成装置の概略図である。
【0021】
図1の被被膜形成装置は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池の正極および負極を構成するシート状極板の少なくとも一方の製造に使用することができるものである。この被膜形成装置は、一方向に送られる長尺帯状の基材10の表面に例えば耐熱性を有する多孔質の保護膜11(図2参照)を形成するように、基材10に保護膜11の原料である所定組成の塗料2を塗工する塗工部1を備えている。
【0022】
また、被膜形成装置は、一方向に送られる基材10が、所定のテンションで掛け渡される複数のロールを備えている。この複数のロールには、図に示す、基準ロール4、作動ロール3、テンションロール5、およびガイドロール6が少なくとも含まれている。
また、被膜形成装置は、後で詳述するセンサ21および制御部22、並びに図示しない塗布ロール駆動モータ、巻き出しロール駆動モータ、巻き取りロール駆動モータ、および接続部材駆動モータ等を備えている。
【0023】
図2に示すように、基材10は、銅箔またはアルミニウム箔などの金属箔からなる金属基盤10aと、その表面に電極活物質を主成分とする電極用合剤を塗工して形成される下地層としての極板合剤層10bとから構成されている。
ここで、基材10は、図3に示すように、極板合剤層10bが、金属基盤10aの全長に亘って形成されるのではなく、金属基盤10aが露出している所定長さの露出部10cを間に挟んで一定の長さの極板合剤層10bが金属基盤10aの片面または両面に途切れ途切れに形成されている。
【0024】
塗工部1は、無機酸化物からなるフィラーを少量の結合剤とともにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の液状成分に分散させたスラリーからなる塗料2が入れられる容器1aと、塗料2を周面に保持した状態で基材10と接触し、基材10に塗料2を塗布する塗工具としての塗布ロール1bとから構成される。
【0025】
塗布ロール1bは、容器1a内の塗料2に一部分、例えば下部のみが浸かるように配設される。塗料2に浸かった塗布ロール1bの周面には塗料2が付着する。塗布ロール1bは、図示しない塗布ロール駆動モータにより回転駆動されて、極板合剤層10bと対応する位置において塗料2の付着した部分が基材10の一方の面と間欠的に接触する。これにより、塗料2が基材10の一方の面に間欠的に塗布される。
【0026】
ここで、長尺帯状の基材10は、作動ロール3、基準ロール4、テンションロール5、およびガイドロール6に所定のテンションで掛け渡されて、矢印7Bにより示す方向に送られる。作動ロール3、基準ロール4、テンションロール5、およびガイドロール6は、自由に回転するように設けられたロールであり、基材10の塗料2が塗布される面の反対側の面と常に接触するように配設される。また、基材10は、図示しない巻き出しロール駆動モータにより回転駆動される巻き出しロールから巻き出され、基準ロール4、作動ロール3、テンションロール5、およびガイドロール6をこの順序で通過した後、図示しない巻き取りロール駆動モータにより回転駆動される巻き取りロールにより巻き取られる。そして、基材10は、基準ロール4と作動ロール3とに掛け渡された部分の中間位置において、上記一方の面(図の下側面)が塗布ロール1bと接触して、塗料2がその面に塗布される。
【0027】
ここで、作動ロール3およびテンションロール5は、それぞれの軸I1、I2から等距離の位置にある軸I3を中心に所定範囲で回動される接続部材8にそれぞれが軸支されている。接続部材8は、十分な剛性を有するようにスチール等から構成されており、作動ロール3およびテンションロール5は接続部材8の回動と完全に連動してその軸I1、I2が移動する。
【0028】
作動ロール3は、固定ロールである基準ロール4との間に掛け渡された部分の基材10の姿勢を、基材10が塗布ロール1bと接触する接触姿勢と接触しない非接触姿勢とに切り替えるように、接続部材8の回動により移動される。このとき、テンションロール5は、作動ロール3が下側に移動すれば同じ距離だけ上側に同時に移動し、作動ロール3が上側に移動すれば同じ距離だけ下側に同時に移動する。このように、テンションロール5の移動は、作動ロール3の移動と完全に連動している。
【0029】
ここで、ガイドロール6および基準ロール4は、その径が互いに等しく、且つそれぞれの軸I4、I5が、作動ロール3およびテンションロール5のそれぞれの軸I1、I2からの距離が常に等しい平面9に対して対称の位置となるように設けられる。このように、基材10の送りの方向においてテンションロール5の直後に位置するガイドロール6と作動ロール3の直前に位置する基準ロール4とが上記平面に対して対象となるように設けられているために、基準ロール4から作動ロール3およびテンションロール5を経てガイドロール6まで掛け渡されている部分の基材10の長さは、接続部材8の回動により作動ロール3およびテンションロール5が移動しても変化しない。
【0030】
したがって、基材10の姿勢を、上記接触姿勢と上記非接触姿勢とに切り替えるように接続部材8を回動しても、原理的に基材10のテンションの変動は発生せず、基材10の弛みも生じない。これにより、速い速度で間欠塗工を行っても、間欠塗工の各回の塗工の開始時および終了時に基材10に弛みが発生するのを防止することができる。したがって、各回の塗工の始端および終端、特に終端が直線状とはならず波状となるなどの不都合を回避することができる。つまり、各回の塗工の始端または終端を精密に制御することができる。したがって、テンションロールを付勢部材により付勢して基材10のテンションの変動を抑えるような場合と比較して、格段に速い速度で基材10を送りながら間欠塗工を行うことが可能となる。これにより、生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0031】
ここで、基準ロール4および作動ロール3の軸間距離は、塗布ロール1bの直径の1.2倍以上2.5倍以下とするのが好ましい。そのように、基準ロール4と作動ロール3とを近接配置することによって、基材10に小さなテンションを付与するだけで基準ロール4と作動ロール3との間の基材10の張架状態を良好なものとすることができる。これにより、基材10に付与されるテンションが大き過ぎて、薄い基材10が切断されてしまったり、基材10に伸びやしわ、或いは引きつりなどが生じたりするのを防止することができる。
【0032】
また、基準ロール4と作動ロール3の軸間距離を塗布ロールの直径の1.2倍以上とするのは、作動ロール3が円滑に移動できるようにするためである。このためにも、基準ロール4および作動ロール3は、比較的小径のロールとするのが好ましく、後述する塗布ロール1bの好ましい径と同程度とするのが特に好ましい。
【0033】
塗布ロール1bは、周面に凹部(グラビアパターン)が彫刻されたいわゆるグラビアロールとして構成してもよい。この場合は、図示しないドクターブレードを塗布ロール1bの周面に定圧で押し付けて、余分の塗料2を掻き落とすようにするのが、塗布量を均一にする上で好ましい。また、ドクターブレードは、塗布ロール1bの磨耗を抑えるために、樹脂製であることが更に好ましい。
【0034】
図4は、塗布ロール1bをグラビアロールとして構成する場合のグラビアパターンの一例である。この塗布ロール1bは、グラビアパターンである多数の塗料溜め溝12が、間に平坦部13を挟んで、互いに平行且つ塗布ロール1bの径方向に対して所定角度θ(例えば、θ=45°)傾斜して、周面全体に等ピッチで刻設されている。
【0035】
ここで、図1に矢印7Aにより示すように、塗布ロール1bは、基材10との接触部位が基材10の送りの方向と逆方向に移動するように回転駆動されるのが好ましい。これにより、塗布ロール1bの基材10との接触面には、塗布ロール1bの回転方向と逆方向の滑りが生じる。このとき、基材10の送りの方向における塗布ロール1bと基材10との接触点よりも後側に小さな塗料溜まりが生じる。この塗料溜まりの塗料は、塗布ロール1bの回転により誘導されて均一に引き延ばされる。これにより、塗料溜め溝12の溝跡が保護膜11の表面に付くことが防止される。したがって、精密な平滑表面を有する保護膜11を形成することが可能となる。
【0036】
また、上記グラビアパターンによれば、塗料溜め溝12から基材10に転写された塗料2は平坦面部13により薄く均等に引き延ばされる。したがって、膜厚の均一な極めて薄い、例えば、20μm以下の保護膜11を基材10の表面に形成することができる。
【0037】
また、塗布ロール1bは、直径が40〜60mmの比較的径の小さいロールを用いるのが、塗布ロール1bと基材10との接触面積が極めて小さくなることから、基材10に塗料を薄い厚みで、且つ均一となるように正確に塗布する上で好ましい。また、そのようなロールを用いることによって、基材10の塗布ロール1bとの接離の際の安定性が向上し、塗料の塗布開始および塗布停止の位置を正確に設定することができる。また、塗布ロール1bの直径を40mm以上とするのは、良好な剛性および加工精度を得るためである。
【0038】
また、電池用極板を製造する場合には、厚みが10μm程度の銅箔またはアルミニウム箔からなる集電体が基材10の金属基盤10aとして用いられる。そのような厚みの薄い金属基盤10aを用いた基材10に、塗料2を、塗布量が均一となるように塗布するためには、少なくとも塗布ロール1bと接触する部位において基材10に伸びやしわ或いは引きつりなどが生じないように、一定のテンションを掛けた状態で基材10を送る必要がある。これにより、塗料2の塗布量が不均一となる塗布むらの発生が防止されるからである。
【0039】
この点に関連して、基材10を塗布ロール1bの回転方向と逆方向に送る場合には、基材10と塗布ロール1bとの間の摩擦力が大きくなって、厚みの薄い基材10に伸びやしわ或いは引きつりなどが生じ易くなる。そこで、直径が40〜60mmの比較的径の小さいロールを用いて、基材10と塗布ロール1bとの接触面積を小さくし、これにより、基材10と塗布ロール1bとの間に生じる摩擦力を抑制する必要性はますます大きくなる。
【0040】
以下、制御部22を説明する。
制御部22は、例えばマイクロコンピュータから構成されており、少なくとも上記接続部材駆動モータを制御する。上記接続部材駆動モータは、サーボモータから構成され、制御部22により制御されて、作動ロール3が、基材10が図1に実線で示す接触姿勢となる塗工実行位置と、基材10が図1に想像線で示す非接触姿勢となる塗工非実行位置との間を所定のタイミングで移動するように、接続部材8を駆動する。
【0041】
このとき、図5に示すように、例えば反射式光電センサからなるセンサ21が、一方向に送られる基材10上の各電極合剤層10bの始端P1と終端P2とを検出する。制御部22は、センサ21の検出結果に基づき、電極合剤層10bの形成ピッチを算出し、その形成ピッチに基づいて、塗料2を、電極合剤層10bの始端P1の手前位置から終端P2の後方位置まで塗布するように上記接続部材駆動モータを制御する。これにより、各電極合剤層10bの全体を被覆する多孔性の保護膜11が形成されて、電池用極板が完成する。保護膜11は、塗料2の乾燥後において6μm程度の極めて薄い膜厚を有するものであるのがよく、このような薄い膜厚の保護膜11であっても、上記構成の被膜形成装置を用いることにより、始端P1と終端P2が波線状とならず、正確な直線状となるように保護膜11を形成することができる。
【0042】
ここで、制御部22は、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)とメモリとを含んでおり、上記メモリには、基材10の種類および塗料2の種類に応じた接続部材8の回動範囲および回動速度などのデータが予め記憶されている。制御部22の中央処理装置は、上記メモリから読み出したデータを参照しながら、所定のタイミングで接続部材8を所定角度回転させるように、上記接続部材駆動モータを制御する。
【0043】
ところで、上述した間欠塗工においては、保護膜11の終端P3は、他の部分よりも僅かに膜厚が大きくなるように盛り上がった形状となる。終端P3がこのような形状となるのは、上述したとおり、基材10の送りの方向における塗布ロール1bと基材10との接触点よりも後側に小さな塗料溜まりが生じるからである。この塗料溜まりは、通常は塗布ロール1bにより引き伸ばされて消滅するが、各回の塗工が終了して塗布ロール1bと基材10とが離れる際には、引き伸ばされることなく存置される。それが、終端P3が上述した形状となる原因である。
【0044】
ここで、本実施の形態においては、保護膜11の終端P3が、下地層である電極合剤層10bの終端P2よりも後側となるように設定され、保護膜11の終端P3が金属基盤10aの上に直接的に形成される。しがたって、保護膜11の終端P3における厚みが他の部分の厚みより大きくなっても、その部分が他の部分よりも高くなることがない。これにより、極板を渦巻き状に捲回したり、折りたたんで積層したりして、電極群として構成する場合にも、部分的に極板の厚みが大きくなっている部分がないことから、電極群をより精密に構成することができる。
【0045】
また、制御部22は、接続部材駆動モータを制御するとともに、上記塗布ロール駆動モータを制御するように構成されてもよいし、上記巻き取りロール駆動モータおよび巻き出しロール駆動モータを制御するように構成されてもよい。
【0046】
ここで、薄膜(保護膜11)の膜厚は、塗布ロール1bの回転速度と塗料溜め溝12の深さを変えることにより、調節することができる。このとき、塗布ロール1bの回転速度を上げる程に塗料2の供給量が増大して薄膜の膜厚が大きくなる。同様に、塗料溜め溝12の深さを大きくする程に塗料塗料2の供給量が増大して薄膜の膜厚が大きくなる。このとき、塗布ロール1bの周速の、基材10の送りの速度に対する比率は200〜500%とするのが好ましい。上記比率が200%より小さいと、塗布ロール1b周面のグラビアパターンが、形成された膜の表面に現れて膜厚が不均一となる一方、上記比率が500%よりも大きいと、回転の遠心力により塗料2が飛散する等の不都合が発生するからである。上記比率を上記範囲に設定することにより、極めて薄い膜厚であっても、膜厚が正確に均一化された薄膜を高精度に形成することができる。
【0047】
また、塗料2に含ませるフィラーとして無機酸化物を用いるのは、電池用極板に使用するためには耐熱性が必要とされる上に、例えばリチウムイオン二次電池の使用範囲内において電気化学的に安定していることが必要とされるからである。さらに、無機酸化物は、電気化学的安定性の観点から、アルミナが最も好ましく、このアルミナの1.2μm程度の粒子に少量の結着剤を加えて混練した塗料2を用いるの最も好ましい。
【0048】
また、電極合剤層10bは、正極の場合、活物質として、例えばコバルト酸リチウムおよびその変性体(アルミニウムやマグネシウムを固溶させたものなど)などの複合酸化物を用いて、この活物質に結着剤および導電剤を混合して最適な粘度になるように混練した合剤スラリーを金属基盤10aに塗布して形成する。負極の場合、活物質として、例えば各種天然黒鉛および人造黒鉛、シリサイドなどのシリコン系複合材料を用い、この活物質に結着剤および導電剤を混合して最適な粘度になるように混練した合剤スラリーを金属基盤10aに塗布して形成する。
【0049】
〈実施の形態2〉
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態2に係る被膜形成装置を説明する。図6は、実施の形態2の被膜形成装置の要部の概略図である。
図6に示すように、実施の形態2の被膜形成装置においては、作動ロール3およびテンションロール5は、リンク機構14により機械的に接続されている。ここで、リンク機構14は、作動ロール3およびテンションロール5を、実施の形態1の平面9と平行である、互いに平行な直線9Aおよび9Bに沿って、逆方向に同じ距離だけ移動させる機構である。実施の形態2のその他の構成は実施の形態1と同様である。
【0050】
そのようなリンク機構14は、作動ロール3とテンションロール5の中央に配設されるピニオン14aと、ピニオン14aと噛み合って、上記直線9A、9Bと平行に移動するように設けられた2つのラック14b、14cと、ラック14b、14cとそれぞれ連結され、それぞれのロールの軸を支持する2つの支持部材14d、14eとから構成することができる。ここで、ピニオン14aは、図示しないピニオン駆動モータにより正逆方向に回転駆動されるものであり、制御部22が実施の形態1におけると同様にして、基材10に間欠塗工を行うようにピニオン駆動モータを制御する。
【0051】
実施の形態2の被膜形成装置においても、作動ロール3が、基材10の姿勢を、基材10が塗布ロール1bと接触する接触姿勢と塗布ロール1bと接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動しても、その移動により基材10のテンションが変動しないようにテンションロール5が、作動ロール3と完全に連動して移動するので、実施の形態1におけると同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の被膜形成装置は、例えば20μm以下の極めて薄い膜厚の薄膜を高い生産性で間欠的に塗着形成しながらも、塗布終端が優れた直線性を有する高精度な形状に形成することができるので、特に、電池用極板の活物質層およびこれの多孔性保護膜の形成工程に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係る被膜形成装置の概略図である。
【図2】図1の被膜形成装置により基材に保護膜が形成された状態の断面図である。
【図3】図1の被膜形成装置により保護膜が形成される電池用極板の基材の斜視図である。
【図4】グラビアパターンが形成された塗布ロールの平面図である。
【図5】図1の被膜形成装置により基材に保護膜を形成するプロセスを示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る被膜形成装置の要部の概略図である。
【図7】従来の被膜形成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1 塗工部
1b 塗布ロール(塗工具)
2 塗料
3 作動ロール
4 基準ロール
5 テンションロール
6 ガイドロール
8 接続部材
9 平面
10 基材
11 保護膜(薄膜)
14 リンク機構
21 センサ
22 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の基材を、所定のテンションで複数のロールに掛け渡して一方向に送りながら、塗料を保持する塗工具と間欠的に接触させ、前記基材に前記塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する被膜形成装置であって、
前記複数のロールが、
前記一方向に送られる基材の姿勢を、前記基材が前記塗工具と接触する接触姿勢と前記塗工具と接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動される作動ロールと、
前記作動ロールと機械的に接続され、前記作動ロールが移動したときに前記基材のテンションが変動しないように前記作動ロールと連動して移動するテンションロールと、を含む、
被膜形成装置。
【請求項2】
前記基材は、前記塗工具と一方の面で接触し、
前記作動ロールおよび前記テンションロールは、それぞれの軸から等距離にある軸を中心として回動する接続部材にそれぞれが軸支され、
前記接続部材は、前記作動ロールおよび前記テンションロールが前記基材の他方の面と常に接触する範囲で回動する請求項1記載の被膜形成装置。
【請求項3】
前記基材は、前記塗工具と一方の面で接触し、
前記作動ロールおよび前記テンションロールは、互いに平行な直線に沿って反対方向にそれぞれのロールを同じ距離だけ移動させるリンク機構にそれぞれが軸支されており、前記基材の他方の面とそれぞれが常に接触する範囲で前記リンク機構により移動される請求項1記載の被膜形成装置。
【請求項4】
前記複数のロールが、
前記基材の送りの方向における前記作動ロールの直前に設けられ、前記作動ロールと協働して、前記基材の姿勢を、前記接触姿勢と前記非接触姿勢とに切り替える、固定された基準ロールと、
前記基材の送りの方向における前記テンションロールの直後に設けられ、前記テンションロールを通過した前記基材をガイドするガイドロールと、を含み、
前記基準ロールおよび前記ガイドロールは、前記作動ロールおよび前記テンションロールの軸との距離が常に等しい平面に対して対称の位置に、それぞれの軸が設けられる請求項2または3記載の被膜形成装置。
【請求項5】
前記基材は、前記塗料の塗布領域に対応して形成された下地層を有しており、
前記基材の姿勢を前記接触姿勢と前記非接触姿勢との間で切り替えるべく、前記作動ロールおよび前記テンションロールを移動させるように前記接続部材または前記リンク機構を駆動する駆動手段と、
前記基材上で下地層を検出する下地層検出手段と、
前記下地層検出手段の検出結果に基づいて、前記駆動手段を制御する制御手段と、を備える請求項2〜4のいずれかに記載の被膜形成装置。
【請求項6】
前記基材は、金属箔に、電極活物質を含む電極合剤層を前記下地層として形成したものであり、
前記薄膜は、前記電極合剤層を覆う多孔性の保護膜であり、
前記保護膜は、前記電極合剤層の全表面を覆うとともに、前記電極合剤層が形成されていない露出した金属箔の表面のうち、前記電極合剤層に隣接した所定領域を覆う請求項5記載の被膜形成装置。
【請求項7】
前記薄膜の前記基材が送られる方向における終端が、前記送られる方向に対して垂直に延びる直線状となっており、
前記薄膜の前記終端の膜厚が、それ以外の部分の膜厚よりも大きくなっている請求項6記載の被膜形成装置。
【請求項8】
帯状の基材を、所定のテンションで、作動ロールおよびテンションロールを含む複数のロールに掛け渡して一方向に送りながら、塗料を保持する塗工具と間欠的に接触させ、前記基材に前記塗料を間欠的に塗布して薄膜を形成する被膜形成方法であって、
前記作動ロールが、前記一方向に送られる基材の姿勢を、前記基材が前記塗工具と接触する接触姿勢と前記塗工具と接触しない非接触姿勢とに切り替えるように移動されるとともに、
前記テンションロールが、前記作動ロールと機械的に接続され、前記作動ロールの移動により前記基材のテンションが変動しないように前記作動ロールと連動して移動する被膜形成方法。
【請求項9】
請求項6または7記載の被膜形成装置により保護膜が形成された電池用極板。
【請求項10】
請求項6または7記載の被膜形成装置により保護膜が形成された電池用極板を備える非水電解液二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−262070(P2009−262070A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115789(P2008−115789)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】