説明

被膜形成装置

【課題】円周曲面を有する基材にノズルからエアロゾルを吐出するときエアロゾルの相互干渉を低減可能な被膜形成装置を提供する。
【解決手段】微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、真空チャンバー5内でエアロゾル吐出ノズルから円周曲面を有する基材8上に吐出し衝突させて成膜を行なう被膜形成装置4であって、上記エアロゾル吐出ノズル1a、1b、1c、1d、1eを複数設け、上記基材8の径方向断面の円周上に少なくとも一つ以上重ならないように割付けて配置して、かつ、同時に吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子を含むエアロゾルを、円周曲面を有する基材等に吹付け、被膜や構造物を基材上に形成するエアロゾルデポジション(以下、ADと記す)法において使用される被膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上の膜の形成方法として、微粒子ビーム堆積法あるいはAD法と呼ばれる脆性材料の膜や構造物の形成方法がある。AD法は、脆性材料の微粒子を含むエアロゾルをノズルから基板に向けて吐出し、基板に微粒子を衝突させて、その機械的衝撃力を利用して脆性材料の多結晶構造物を基板上にダイレクトに形成する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
AD法によって構造物を作製する場合、エアロゾルを吐出させるための矩形の吐出開口の長辺方向を拡大し、かつ吐出開口から吐出されるエアロゾル濃度が均一になるように、エアロゾルが通過するエアロゾル通過空間を有するノズル本体の内部形状を工夫することによって、均一な膜厚の構造物を短時間で作製する方法が知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献1ではこれらの成膜は平面基板相手に行なわれており、円筒形状物への成膜例はない。軸受外輪のような円筒形状の場合、成膜効率の向上のためには複数個のノズルを使用するのが望ましい。しかし、複数のノズルを用いた場合の配置方法に関しては従来検討されていない。
【特許文献1】特開平11−21677号公報
【特許文献2】特開2003−247080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、円周曲面を有する基材に複数のノズルからエアロゾルを吐出するときエアロゾルの相互干渉を低減可能な被膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の被膜形成装置は微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、真空チャンバー内でエアロゾル吐出ノズルから円周曲面を有する基材上に吐出し衝突させて成膜を行なう被膜形成装置であって、上記エアロゾル吐出ノズルを複数設け、上記基材の径方向断面の円周上に少なくとも一つ以上重ならないように割付けて配置して、かつ、同時に吐出することを特徴とする。
【0006】
上記円周曲面を有する基材は軸受外輪であり、該軸受外輪の外径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けたことを特徴とする。
また、上記円周曲面を有する基材は軸受内輪であり、該軸受内輪の外径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けたことを特徴とする。
また、上記円周曲面を有する基材は軸受用ころであり、該軸受用ころの外周面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けられていることを特徴とする。
また、上記微粒子はセラミックス微粒子であり、平均粒子径が 0.01μm〜2μm であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の被膜形成装置は、微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、真空チャンバー内でエアロゾル吐出ノズルから円周曲面を有する基材上に吐出し衝突させて成膜を行なう被膜形成装置であって、上記エアロゾル吐出ノズルを複数設け、上記基材の径方向断面の円周上に少なくとも一つ以上重ならないように割付けて配置して、かつ、同時に吐出するので、各ノズルから吐出されたエアロゾル気流は基材に衝突して、反射する気流と、隣接するエアロゾル吐出ノズルから吐出されるエアロゾルとが衝突する相互干渉を低減できる。その結果、基材に対する微粒子の衝突速度の低下を防止でき、成膜効率や密着性を向上させることができる。
【0008】
複数のエアロゾル吐出ノズルが、上記基材の径方向断面の円周上に均等に割付けて配置されるので、各ノズル間で相互に均等な距離が確保される。このためエアロゾルが基材に衝突して反射する気流と、隣接するエアロゾル吐出ノズルから吐出されるエアロゾルとが衝突する相互干渉を低減できる。
【0009】
上記円周曲面を有する基材は軸受外輪であり、該軸受外輪の外径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別に吐出・衝突させるように設けたので、軸受外輪の円周曲面に対応するエアロゾル吐出を行なうことができる。
【0010】
上記円周曲面を有する基材は軸受内輪であり、該軸受内輪の外径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別に吐出・衝突させるように設けたので、軸受内輪の円周曲面に対応するエアロゾル吐出を行なうことができる。
【0011】
上記円周曲面を有する基材は軸受用ころであり、該軸受用ころの外周面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別に吐出・衝突させるように設けたので、軸受用ころの円周曲面に対応するエアロゾル吐出を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においてAD法は、セラミックス等の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に向けてエアロゾル吐出ノズルより吐出し、エアロゾルを円周曲面を有する基材に高速で衝突させ、微粒子の構成材料からなる被膜を基材上に形成させる方法である。
円周曲面を有する基材への成膜例として、例えば、軸受外輪へ成膜する場合、成膜効率を考慮すると外径面用、両側端面用、両チャンファー面用に、それぞれ専用のノズルを使用するのが好ましい。
【0013】
図3(a)は、従来のエアロゾル吐出ノズルの配置を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の軸方向からみた正面図である。図4は、図3(a)の軸幅方向からみた部分拡大模式図である。
図3および図4に示すように軸受外輪8の表面形状に合わせて、軸受外輪8の外径面8aに対して外径面用エアロゾル吐出ノズル11a、チャンファー面8b、8dに対してチャンファー面用エアロゾル吐出ノズル11b、11d、側端面8c、8eに対して側端面用エアロゾル吐出ノズル11c、11e、の計 5 本のノズルを使用したものである。図4に示すC、D、E、F部分は隣り合う外径面8aと、チャンファー面8b、8dと、側端面8c、8eとが相互に交わる境界部分である。
【0014】
この場合、各ノズルは軸方向に対して一列に配置されているために、各ノズル間の距離が近接し、軸方向で軸幅という比較的狭い範囲に 5 本のノズルからエアロゾルが同時に吐出される。境界部分であるC、D、E、F部分において基材表面に衝突し反射する気流が、隣接のエアロゾル吐出ノズルから吐出されるエアロゾルと干渉し、エアロゾルの流れが乱れ、基材表面に衝突する微粒子密度が低下する。このため、成膜効率の低下や密着性の低下による剥がれが生じるので好ましくない。
【0015】
本発明の被膜形成装置において使用するエアロゾル吐出ノズルを図1により説明する。図1(a)は本発明においてエアロゾル吐出ノズルの配置を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)の軸方向からみた正面図である。
図1(a)および図1(b)に示すように、軸受外輪8へ成膜する場合、円筒形状に応じて、外径面用1a、両側端面用1c、1e、両チャンファー面用1b、1dの計 5 本のノズルを使用したものである。これら各ノズルは軸受外輪8の径方向断面の円周上に均等に割り付けて配置されているので、各ノズル間で相互に均等な距離が確保される。このため、エアロゾルが基材8に衝突して反射する気流と、隣接のエアロゾル吐出ノズルから吐出されるエアロゾルとが衝突する相互干渉を低減できる。
【0016】
本発明の被膜形成装置において使用できる微粒子としては被膜形成可能なものであればよく、主にセラミックス微粒子が挙げられる。セラミックス微粒子としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の微粒子が挙げられる。これらの中で、それぞれのセラミックスの高純度グレードにおいて、真比重が小さい方がエアロゾル化しやすいことから、アルミナ微粒子が好ましい。
セラミックス微粒子以外でも、シリコン、ゲルマニウムなどのへき開性の強い脆性材料の微粒子を使用することも可能である。
【0017】
本発明の被膜形成装置において使用する微粒子の平均粒子径は、0.01〜 2μm であることが好ましい。0.01μm 未満では凝集しやすくエアロゾル化は困難であり、2μm をこえるとAD法での膜形成はできない(膜成長しない)。なお、本発明において平均粒子径は日機装株式会社製:レーザー式粒度分析計マイクロトラックMT3000によって測定した値である。
また、被膜形成を良好に行なうため、基材への衝突時に微粒子が容易に粉砕するように、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて微粒子にクラックを予め形成しておくことが好ましい。
【0018】
本発明の一実施例に係る被膜形成装置を図2に基づいて説明する。図2は軸受外輪上にセラミックス被膜を形成する場合の被膜形成装置を示す図である。
図2に示すように、AD法による被膜形成装置4は、エアロゾル発生装置7と、真空チャンバー5を有する。真空チャンバー5内には、セラミックス被膜形成対象である外輪8と、上述した複数のエアロゾル吐出ノズルとが配設されている。エアロゾル吐出ノズルは軸受外輪8の外表面形状に応じて、外径面用1a、チャンファー面用1b、1d、側端面用1c、1eの計 5 本のノズルを使用したものである。これら各ノズルは軸受外輪8の径方向断面の円周上に均等に割り付けて配置されている(図1参照)ので、各ノズル間で相互に均等な距離が確保される。このため、エアロゾルが基材8に衝突して反射する気流と、隣接のエアロゾル吐出ノズルから吐出されるエアロゾルとが衝突する相互干渉を低減できる。
【0019】
真空チャンバー5の内部は真空ポンプ12によって減圧されるとともに、セラミックス微粒子の混入を防止するため、真空ポンプ12の直前に微粒子フィルター11が設けられている。外輪8は、真空チャンバー5内において、対象物回転用モータ10によって回転(図中A)させられながら、外径面用エアロゾル吐出ノズル1aから軸受外径面に、チャンファー面用エアロゾル吐出ノズル1b、1dから軸受両チャンファー面に、側端面エアロゾル吐出ノズル1c、1eから軸受両側端面に、それぞれエアロゾルが同時に吹付けられる。
【0020】
内部にセラミックス微粒子を有するエアロゾル発生装置7は、外部にガス供給設備6を備え、ガス供給設備6から供給される搬送ガスによってセラミックス微粒子と搬送ガスとからなるエアロゾルを発生する。発生したエアロゾルは搬送ガスの流れと真空ポンプ12の吸引とにより真空チャンバー5内の分配器3および案内配管2を経てエアロゾル吐出ノズル1a、1b、1c、1d、1eに供給される。エアロゾルの搬送ガスとしては、不活性ガスを使用する。使用可能な不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
なお、以上の構成において、エアロゾル吐出ノズル以外のエアロゾル発生装置等については、AD法において通常使用される任意の装置・部品等を利用できる。
【0021】
本発明の被膜形成装置において、側端面エアロゾル吐出ノズル1c、1eと軸受両側端面との距離、チャンファー面用エアロゾル吐出ノズル1b、1dと軸受両チャンファー面との距離はXYテーブル9によって基材8を水平方向(図中B)に移動させることにより調整できる。
また、案内配管2にフレキシブル配管を採用して軸受との距離を変更する等により、サイズの異なる軸受への被膜形成にも適用することができる。また、分配器3にノズル別の遮断機構や流量調整機構を設けることにより、軸受の部位別に吹付けるエアロゾルの量を調整することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1
図2に示す被膜形成装置4を用いて、基材8である軸受6203の外輪の表面にアルミナ微粒子(住友化学社製AKP−50 平均粒子径 0.20μm )からなる被膜をAD法により形成した。用いたエアロゾル吐出ノズルの詳細は以下のとおりである。
外径面用( 1 本:開口部 2 mm×10 mm )、両側端面用( 2 本:2 mm×2 mm )、両チャンファー面用( 2 本2 mm×2 mm )の計 5 本のノズルを使用した。各ノズルの開口部と基材との距離は 5 mm とし、外径面用のノズル位置を基準として、両側端面用の各ノズルを回転軸芯中心部と外径面用ノズル開口部の中心部と結んだ直線に対して、相互に 72°ずらして配置した。さらに両チャンファー面用ノズルも同様に相互に 72°ずらして配置した(図1(b)に示すように回転軸に対して軸受外輪を軸方向に 5 等分し、各ノズルをずらして配置した)。
【0023】
AD法は、真空チャンバー5内において 100 Pa 以下の減圧下で、固定した各エアロゾル吐出ノズルからアルミナ微粒子を含むエアロゾルを、上記基材8に向けて同時に吐出して被膜形成を行なった。基材8は 10 rpm の速度で回転させて 60 分間成膜した。なお、搬送ガスには窒素ガスを使用した。
【0024】
成膜終了後、軸受表面に形成された被膜には剥がれもなく、以下に示す比較例1よりも成膜効率が良好であった。
【0025】
比較例1
使用した 5 本のノズルを図3および図4に示すように各ノズルを軸方向に対して一列に配置したこと以外は、実施例1と同様にAD法により被膜を形成した。
成膜終了後、軸受表面に形成された被膜には、異なる表面形状が交わる境界部分(図4のC、D、E、F部分)で剥がれが認められ、実施例1よりも成膜効率に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の被膜形成装置は、基材に対する微粒子の衝突密度の低下を防止でき成膜効率や密着性を向上させることができるので、円周曲面を有する各種産業部品等へのセラミックス被膜形成等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は本発明においてエアロゾル吐出ノズルの配置を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)の軸方向からみた正面図である。
【図2】本発明の被膜形成装置の一実施例を示す図である。
【図3】図3(a)は従来のエアロゾル吐出ノズルの配置を示す斜視図であり、図3(b)は図3(a)の軸方向からみた正面図である。
【図4】図3(a)の軸幅方向からみた部分拡大模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1a 外径面用エアロゾル吐出ノズル
1b、1d チャンファー面用エアロゾル吐出ノズル
1c、1e 側端面用エアロゾル吐出ノズル
2 案内配管
3 分配器
4 被膜形成装置
5 真空チャンバー
6 ガス供給設備
7 エアロゾル発生装置
8 外輪(基材)
9 XYテーブル
10 対象物回転用モータ
11 微粒子フィルター
12 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、真空チャンバー内でエアロゾル吐出ノズルから円周曲面を有する基材上に吐出し衝突させて成膜を行なう被膜形成装置であって、
前記エアロゾル吐出ノズルを複数設け、前記基材の径方向断面の円周上に少なくとも一つ以上重ならないように割付けて配置して、かつ、同時に吐出することを特徴とする被膜形成装置。
【請求項2】
前記基材の径方向断面の円周上に均等に割付けて配置して同時に吐出することを特徴とする請求項1記載の被膜形成装置。
【請求項3】
前記円周曲面を有する基材は軸受外輪であり、該軸受外輪の外径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の被膜形成装置。
【請求項4】
前記円周曲面を有する基材は軸受内輪であり、該軸受内輪の内径面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の被膜形成装置。
【請求項5】
前記円周曲面を有する基材は軸受用ころであり、該軸受用ころの外周面と、チャンファー面と、側端面とに、それぞれエアロゾルを個別、かつ、同時に吐出・衝突させるように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の被膜形成装置。
【請求項6】
前記微粒子はセラミックス微粒子であり、平均粒子径が 0.01〜2μm であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の被膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291285(P2008−291285A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135489(P2007−135489)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】