説明

被覆工法、及び被覆構造体

【課題】高い剥落防止性が確保できているか否かを簡単にチェック出来、従って被覆材の剥落防止が一層確実で、かつ、その実施コストが低廉な剥落防止被覆技術を提供する。
【解決手段】構造物1に設けられたタッピン螺子5に掛止された被覆材剥落防止材2の少なくとも一部が覆われるように被覆材4が被覆される構造物表面の被覆工法であって、構造物1にタッピン螺子5が設けられる工程aと、被覆材剥落防止材2がタッピン螺子5に掛止されて固定される工程bと、被覆材剥落防止材2の少なくとも一部が覆われるように被覆材4が設けられる工程cとを具備し、被覆材4が設けられる前であって、かつ、タッピン螺子5が設けられた後において、構造物1に設けられたタッピン螺子5が、予め求められているタッピン螺子5の貫入指数閾値の条件を満たし、所定の引抜強度を保持しているか否かを、測定する測定工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被覆構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや高架橋等の構造物には、鉄(例えば、鋼、鋳鉄)が使用されている。そして、前記構造物の表面は、構造材(構成材)である鉄材が露出していることも多かった。ところで、火災に遭った場合、鉄の強度低下は甚だしい。又、鉄は熱が伝わり易い。このようなことに鑑み、セメント系軽量被覆材が、鉄製構造物(鉄を構成材料とした構造物)の表面に被覆されることも多い。
【0003】
ところで、表面を被覆しているセメント系軽量被覆材が剥落する虞が考えられる。そこで、被覆したセメント系軽量被覆材が鉄製構造物の表面から剥離しても、当該セメント系軽量被覆材が剥落しないようにする為の技術が提案された。すなわち、網状、棒状又はメッシュ状の剥落防止材が鉄製構造物の表面に取り付けられ、前記剥落防止材が埋設されるようにセメント系軽量被覆材を被覆することが提案された。
【0004】
特開2009−235890号公報では、剥落防止材を鉄製構造物の表面に取り付ける方法が提案されている。例えば、鉄製構造物に孔を設け、この孔に後打ちアンカ(ボルト)を固定し、このボルトに通したナットにより剥落防止材を鉄製構造物の表面に締め付けて止める方法が提案されている。或いは、ネジ山を設けた孔を鉄製構造物に設け、この孔にボルトを螺合させ、このボルトに通したナットにより剥落防止材を鉄製構造物の表面に締め付けて止める方法が提案されている。又は、ボルト止め用インサートやナットを鉄製構造物に設けた孔の裏側に固定し、このボルト止め用インサート等にボルトを螺合させ、このボルトに通したナットにより剥落防止材を鉄製構造物の表面に締め付けて止める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−235890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の剥落防止材を鉄製構造物の表面に取り付ける方法は、手間が掛かる。従って、施工が簡単な技術が求められる。
【0007】
ところで、剥落防止材が設けられている場合において、剥落防止材と鉄製構造物との接触箇所近傍において、腐食現象が起きていることが判って来た。この腐食現象についての考察が行われた結果、これは、次のようなことに基づくであろうことも判って来た。すなわち、鉄製構造物と、剥落防止材または剥落防止材固定金具とは、殆どの場合において、異種金属であった。言うよりも、鉄製構造物の構成素材と剥落防止材や剥落防止材固定金具の構成素材とが同一素材であった場合は無いと言っても過言では無い。因みに、鉄製構造物の素材は炭素鋼(普通鋼)又は鋳鉄であり、剥落防止材や剥落防止材固定金具の素材はステンレス鋼である。しかしながら、単に、異種金属であると言うのみでは、腐食現象は起きない。すなわち、構成素材が異種金属であり、かつ、水が介在した場合に、両者の間で局部電池が形成され、腐食現象が起きる。この結果、鉄製構造物に腐食が起き易い。尚、鉄製構造物の表面は、一般的には、防食塗装が施されている。しかしながら、前記防食塗装は一般的な防食の観点からなされているに過ぎない。すなわち、鉄製構造物と剥落防止材や剥落防止材固定金具との接合箇所における腐食防止と言った観点からの防食塗装ではなかったことから、現実には、ボルト等を通す為に設けられた孔(貫通孔)の内部まで確実な防食塗装が行われてなかった。しかも、孔内部までの完全な防食塗装は非常に手間が掛り、注意力も要求される。従って、このような処理はコストが掛かり、現実には、行われ難い。
【0008】
そこで、本発明者等によって、火災に遭った場合でも、火が鉄製構造物の鉄材に直接に当たることは無く、鉄材の機械的強度の著しい低下が起きないようにする為、鉄製構造物表面にセメント系軽量被覆材が被覆された場合において、かつ、前記セメント系軽量被覆材の剥落防止の為に、剥落防止材や剥落防止材固定金具が用いられた場合において、腐食現象が起き難く、しかも前記腐食現象防止の為の作業が簡単な技術が提供されるに至った。
【0009】
すなわち、鉄製構造物表面に設けられた剥落防止材が埋設されるよう該鉄製構造物表面にセメント系軽量被覆材が被覆される鉄製構造物表面の被覆方法であって、前記鉄製構造物に未貫通穴が設けられる工程Aと、前記未貫通穴にタッピン螺子が捻じ込まれる工程Bと、前記捻じ込まれたタッピン螺子と前記鉄製構造物表面とによって前記剥落防止材が挟持され、該剥落防止材が該鉄製構造物表面に固定される工程Cと、前記剥落防止材が埋設されるよう前記鉄製構造物表面にセメント系軽量被覆材が被覆される工程Dとを具備する鉄製構造物表面の被覆方法が提案された。
【0010】
さて、この提案の技術にも改善点が求められるに至った。すなわち、捻じ込んだタッピン螺子が強固に捻じ込まれているか否かが判り難いことであった。捻じ込まれたタッピン螺子が容易に引き抜かれる場合には、鉄製構造物表面に被覆されたセメント系軽量被覆材の剥落防止が不十分であると考えられる。ところが、捻じ込まれたタッピン螺子が、剥落防止材が内在するセメント系軽量被覆材の重量により構造物表面から剥落することを防ぐことが出来るものであるか否かを確認する為には、所定の荷重を掛けてタッピン螺子が抜けないものであるか否かを確認するしかなかった。ここで、所定の荷重とは、セメント系軽量被覆材が鉄製構造物表面から剥離した場合に、1個のタッピン螺子が受ける被覆材及び剥落防止材の重量の合計に安全率を掛けた力である。
【0011】
しかしながら、捻じ込まれた全てのタッピン螺子に所定の荷重を掛けて抜けないことを確認するのは実に大変である。時間と労力が掛かり過ぎる。更には、全てのタッピン螺子が抜けなかったとしても、前記安全性を調べる為に加えた引抜力によって、タッピン螺子が僅かと雖も抜け易くなってしまったかも知れないと言う懸念が残る。捻じ込まれた全てのタッピン螺子について調査するのは大変であるからとして、抜き取り検査が行われた場合には、検査されなかったタッピン螺子については不具合の懸念が残ってしまう。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、前記問題点を解決することである。すなわち、高い剥落防止性が確保できているか否かを簡単にチェック出来、従って被覆材の剥落防止が一層確実で、かつ、その実施コストが低廉な剥落防止被覆技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題は、
構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆される構造物表面の被覆工法であって、
構造物にタッピン螺子が設けられる工程aと、
被覆材剥落防止材がタッピン螺子に掛止されて固定される工程bと、
前記被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が設けられる工程c
とを具備してなり、
被覆材が設けられる前であって、かつ、タッピン螺子が設けられた後において、
前記構造物に設けられたタッピン螺子が、予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たし、所定の引抜強度を保持しているか否かを、測定する測定工程
を具備することを特徴とする構造物表面の被覆工法によって解決される。
【0014】
好ましくは、前記構造物表面の被覆工法であって、更に、構造物に設けられたタッピン螺子が予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たしていない場合には、工程cに先立って、前記タッピン螺子が前記貫入指数閾値の条件を満たすまで更に捻じ込まれる工程を具備することを特徴とする構造物表面の被覆工法によって解決される。
【0015】
前記構造物表面の被覆工法において、前記測定工程は、例えば、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の所定箇所までの突出高さが測定される工程である。例えば、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の突出高さが測定される工程である。或いは、構造物に設けられたタッピン螺子の頭部と該構造物表面との間の距離が測定される工程である。
【0016】
前記の課題は、
前記構造物表面の被覆工法が実施され、構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆されてなる構造物によって解決される。
【発明の効果】
【0017】
剥落防止確実性の高い被覆材が被覆されてなる構造物が低廉なコストで得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】タッピン螺子の引抜き荷重を測定する際の概略図
【図2】タッピン螺子の引抜き荷重とタッピン螺子の突出高さとの関係を示すグラフ
【図3】タッピン螺子の引抜き荷重とタッピン螺子が捻じ込まれる穴径(ドリル径)との関係を示すグラフ
【図4】タッピン螺子の突出高さを測定する際の概略図
【図5】タッピン螺子の概略図
【図6】本発明の工法の概略工程図
【図7】被覆材剥落防止材の概略図
【図8】被覆材剥落防止材の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の本発明は被覆工法である。特に、構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆される構造物表面の被覆工法である。構造物は、例えば鉄製構造物である。被覆材は、例えばセメント系軽量被覆材である。従って、例えばセメント系軽量被覆材によって鉄製構造物表面が被覆される被覆工法である。前記構造物表面には被覆材剥落防止材が設けられており、前記被覆されたセメント系軽量被覆材によって前記被覆材剥落防止材は埋設される。尚、この埋設は完全な埋設が好ましいものの、一部露出・一部埋設の場合も考えられる。勿論、全埋設が好ましい。本工法は工程aを具備する。本工程aでは、構造物にタッピン螺子が設けられる。例えば、構造物に穿設された下穴(貫通孔または未貫通穴)にタッピン螺子が捻じ込まれる。従って、本工程は、場合によっては、構造物に下穴を設ける工程と、前記下穴にタッピン螺子が捻じ込まれる工程とを有する。本工法は工程bを具備する。本工程bでは、被覆材剥落防止材がタッピン螺子に掛止されて固定される。被覆材剥落防止材は、例えば網状、棒状、線状、メッシュ状又はシート状のものである。この被覆材剥落防止材(場合によっては固定材とも表記される。)が、構造物との間に空隙(間隙:隙間)を持たせて、タッピン螺子で取り付けられる(固定される:掛止される)。特に、捻じ込まれたタッピン螺子と構造物表面とによって被覆材剥落防止材が挟持され、該剥落防止材が該構造物表面に固定される。剥落防止材の取付部は、剥落防止材の一部分であっても良い。取り付けに際しては、金具や、樹脂製又はセラミック製の取付用部材が用いられても良い。本工法は工程cを具備する。本工程cでは、前記被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が設けられる。被覆材は、例えばセメント系軽量被覆材である。本工法は、好ましくは、前記下穴と前記タッピン螺子との螺合部分が防水処理される工程を具備する。例えば、防水性の弾性パッキングが、構造物表面と取付部との間、及び/又は取付部とタッピン螺子の頭部との間に挟まれる工程を、好ましくは、具備する。
【0020】
本工法は次の測定工程を具備する。この測定工程は、被覆材が設けられる前であって、かつ、タッピン螺子が設けられた後に行われる。本測定工程は、構造物に設けられたタッピン螺子が、予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たし、所定の引抜強度を保持しているか否かを判断する為に行われる工程である。例えば、測定工程は、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の所定箇所(目印となる位置(箇所)。頭頂からxmmの位置と決めても良い。)までの突出高さが測定される工程である。例えば、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の突出高さが測定される工程である。或いは、構造物に設けられたタッピン螺子の頭部と該構造物表面との間の距離が測定される工程である。そして、好ましくは、構造物に設けられたタッピン螺子が予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たしていない場合(所定の引抜強度を保持していない場合)には、工程cに先立って、前記タッピン螺子が前記貫入指数閾値(所定の引抜強度)の条件を満たすまで更に捻じ込まれる工程を具備する。
【0021】
第2の本発明は構造物である。この構造物は、前記構造物表面の被覆工法が実施されたものである。すなわち、前記被覆工法が実施され、構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆されてなる構造物である。
【0022】
以下更に詳しく説明される。
【0023】
本発明における構造物は、例えば鉄製構造物である。鋼製(特に普通鋼製)構造物である。或いは、鋳鉄製構造物である。又は、コンクリート製構造物である。その他にも、木製構造物、石製構造物、樹脂製構造物が挙げられる。或いは、前記素材が適宜組み合わされた複合材製の構造物等も挙げられる。具体的には、例えば普通鋼製セグメント、鋳鉄製セグメント、鋼材とコンクリートとからなる合成セグメント、鋳鉄とコンクリートとからなる合成セグメントが挙げられる。前記の一種又は二種以上のセグメントからなるシールドトンネル、或いは鋼殻コンクリート製沈埋トンネル等の金属を構造用部材として用いたトンネル、コンクリートと鋼材とからなる山岳トンネル、鋼製タンク、鉄筋コンクリート製タンク、鋼製の橋脚、鋼製の高架橋、鉄筋コンクリート製高架橋、鋼管、鉄骨、鋼板或いは鋼管充填コンクリートからなる壁、屋根、柱、梁又は床を備える建物、鋼殻の内部にコンクリートが充填された沈埋トンネル、木造住宅、鉄骨製住宅、コンクリート製住宅等が挙げられる。
【0024】
構造物に予め穿設される下穴は、その内径が用いるタッピン螺子の直径よりも小さなものである。構造物が鉄製構造物の場合は、下穴は未貫通穴であることが好ましい。貫通させてしまうと、下穴(貫通孔)を穿設した部分の構造物の裏面に地下水が在る場合等ではここから水が浸み込み、金属に腐食が引き起こされる虞が有る。
【0025】
タッピン螺子の形状や大きさは、構造物に形成された下穴の内径や深さによって決まる。好ましくは、下穴に捻じ込まれたタッピン螺子によって、被覆されたセメント系軽量被覆材と剥落防止材との合計重量を持ち耐えることが出来るものであれば良い。
【0026】
腐食防止の観点から、剥落防止材の素材とタッピン螺子の素材とは同じ(同一・同等)であることが好ましい。同系統のものであれば、電位差が小さく、接触していても腐食が起こり難い。因みに、剥落防止材はステンレス鋼で出来ていることが多い。従って、タッピン螺子の材質も、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0027】
剥落防止材は、金属、セラミック、樹脂、ガラス、炭素から選ばれる一種又は二種以上を主材として構成されていることが多い。具体的には、ステンレス鋼、防錆処理した金属、樹脂、耐アルカリ性ガラス、炭素等の腐食や発錆が起こり難い素材である。耐火性の観点から、不燃性(難燃性)のものが好ましい。このようなことから、ステンレス鋼、防錆処理した金属、セラミック、耐アルカリ性ガラス等が特に好ましい。中でも、ステンレス鋼は好ましい。
【0028】
剥落防止材の形状は、網状、棒状、線状、メッシュ状又は有孔シート状から選ばれる何れでもよい。尚、セメント系被覆材を吹付工法により構造物表面に配置する場合、セメント系被覆材の吹付性から、剥落防止材の形状は、網状、棒状、又は線状のものが好ましい。
【0029】
被覆材(例えば、セメント系軽量被覆材)としては、セメントと、水と、混和材料と、軽量骨材等からなる耐火被覆モルタルが好ましい例として挙げられる。同様な組成の断熱性モルタルも挙げられる。ロックウール吹付け材に代表される、ロックウール等の鉱物質繊維と、セメントと、水と、必要により混和される混和材との混合物からなる耐火被覆材、断熱材、保温材又は吸音材等も挙げられる。セメントと、水と、細骨材と、混和材とが混合されたセメントモルタルに起泡剤により泡立てた気泡を有する気泡モルタルも挙げられる。セメントと、水と、発泡剤と、他の混和材が混合された軽量モルタルなども挙げられる。勿論、これ等に限られない
【0030】
本工法における重要必須工程、即ち、測定工程は、前述の通り、構造物に設けられたタッピン螺子が、予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たし、所定の引抜強度を保持しているか否かを、測定する工程である。例えば、予め、タッピン螺子の貫入深さを表す指標と引抜荷重(強度)との関係が求められている。例えば、工事が行われる箇所における構造物(模擬構造物)にタッピン螺子が捻じ込まれ、図1のような形態にて引抜荷重が求められ、図2,3に示される如くのデータが求められている。これによれば、下穴の径(ドリル径)がXXmmで、軸径がYYmm、長さがZZmmのタッピン螺子が構造物の下穴に捻じ込まれた場合において、この捻じ込まれたタッピン螺子の構造物表面からの突出高さと引抜荷重との関係が判っている。従って、タッピン螺子突出高さが測定されたならば、このタッピン螺子を引き抜く為にはWWの荷重を要することが判る。すなわち、タッピン螺子の引抜荷重が幾ら確保されておれば良いかは被覆材や剥落防止材の合計重量から計算できることから、被覆材や剥落防止材の剥落を防止する為には、タッピン螺子突出高さを測定し、これが基準値(閾値)より小さければ合格と判定することが出来る。タッピン螺子突出高さを測定するのみで判定できるから、非常に、スムーズ、かつ、簡単に、実施できる。そして、タッピン螺子突出高さが基準値(閾値)を越えておれば、これが所定値になるまでタッピン螺子を捻じ込む。タッピン螺子を捻じ込む強さ(トルク)については、構造物に形成された下穴の内径(ドリル径)、タッピン螺子の形状や大きさによって決まる。従って、タッピン螺子を捻じ込む強さはタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たす強さであって、かつ、タッピン螺子を捻じ込む際に構造物に形成された下穴の破壊が発生しない強さであることが好ましい。
【0031】
本発明の測定工程は次のように行われる。タッピン螺子の貫入深さを表す指標は、捻じ込まれたタッピン螺子の貫入深さである。タッピン螺子の貫入深さに換算できる指標であればどのようなものでもよい。タッピン螺子の貫入深さ(D)を表す指標としては、例えば構造物表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)又は構造物表面とタッピン螺子の頭部との距離(D)等が挙げられる。すなわち、タッピン螺子の長さが決まっておれば、前記Dは前記HやDで以って代用できる。これらの指標と、タッピン螺子の長さ(全長)(L)との関係は、次式(1)〜(3)のようになる。タッピン螺子の頭部の高さは(H)、首下長さ(軸長)は(L)である。
式(1) D=L−H
式(2) D=L−(D+H
式(3) D=L−D
【0032】
この時、構造物表面に防食塗装などが施されている場合には、その塗装の膜厚(T)も考慮に入れて前記HまたはDで前記Dを代用することが好ましい。前記Tを考慮するとき、前記式(1)〜(3)は、それぞれ次式(4)〜(6)のようになる。また、構造物表面に施される塗料の膜厚(T)が薄く、タッピン螺子の貫入深さ(D)を前記HまたはDで代用するときへの影響が軽微であると判断できれば、補正は省略してもよい。
式(4) D=L−H−T
式(5) D=L−(D+H+T)
式(6) D=L−D−T

【0033】
前記H,D等のタッピン螺子の貫入深さを表す指標を測定する方法は特に限定されない。例えば、ノギス、マイクロメータ、定規、隙間ゲージ等が適宜用いられる。図4には、下穴が設けられた鋼板にタッピン螺子を捻じ込んだ時、構造物表面とタッピン螺子の突出高さ(H)がマイクロメータで測定される模式図が示されている。
【0034】
以下、具体的な実施例が挙げられて説明される。勿論、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0035】
図5は用いられたタッピン螺子の概略図である。図6(a)(b)(c)(d)は本発明になる被覆工法の工程図である。図7はステンレス鋼製金網からなる剥落防止材の概略平面図である。図8は鋼製構造物表面にステンレス製金網からなる剥落防止材が取り付けられた状態の概略平面図である。
【0036】
各図中、1は、建物やトンネルと言った各種の構築物における鉄製構造物である。2は金網(剥落防止材)である。3は、鉄製構造物1の所望の箇所に形成された未貫通穴(下穴)である。4はセメント系軽量被覆材である。5はタッピン螺子である。6は平ワッシャである。7は防水性・絶縁性の弾性パッキングである。8は金網2の取付部である。尚、取付部8は、図8からも判る通り、線材の一部分を折り曲げ突出させるとともに、線材と線材との幅を短くすることによって構成されたものである。すなわち、線材と線材との幅を平ワッシャ6の径またはタッピン螺子5の頭部の幅よりも短く構成することにより、タッピン螺子5で金網2を取り付けることが出来るようになっている。9は鉄製構造物1の表面である。10は、未貫通穴(下穴)3とタッピン螺子5との螺合部分である。11はタッピン螺子5の頭部である。12はねじ穴(十字穴)である。22はタッピングする為に設けられている溝である。
【0037】
先ず、図6(a)に示される如く、鉄製構造物を構成する鋼板等の鉄材を貫通しない下穴(未貫通穴)3が、鉄製構造物1の所望箇所に形成される。この工程は、鉄製構造物に未貫通穴が設けられる工程である。この下穴3の深さは、タッピン螺子5の軸長(L)によっても左右されるが、前記軸長より多少長くても短くても差し支えない。但し、タッピン螺子5を捻じ込んだ際、下穴3が未貫通穴であった場合には、タッピン螺子の先端が下穴の底に接触しないことが好ましい。この意味では、タッピン螺子5の軸長(L)は、鉄製構造物1の鉄材の厚さと、剥落防止材の取付部の厚さ(金網取付部の線材の太さ)と、平ワッシャ6の厚さとの合計値よりも短いものが好ましい。下穴3を未貫通穴としたから、鉄製構造物1の背面側(図6中、鉄製構造物1の左側)からの水分が、鉄製構造物1の正面側(図6中、鉄製構造物1の右側)に進入して来ることが無い。因みに、下穴3が未貫通穴では無く、貫通孔であったとすると、鉄製構造物1の背面側(図6中、鉄製構造物1の左側)からの水分が、鉄製構造物1の正面側(図6中、鉄製構造物1の右側)に浸入して来る虞が高い。
【0038】
次に、図6(b)に示される如く、鉄製構造物1に対して、弾性パッキング7、金網2、及び平ワッシャ6が配置される。この工程は、未貫通穴とタッピン螺子との螺合部分が防水処理される工程の予備(前)工程である。ここで用いられた弾性パッキング7は、その厚さが、金網2の線材の太さより大きなものである。
【0039】
そして、図6(b)(c)に示される如く、タッピン螺子5が配置され、タッピン螺子5が下穴3内に捻じ込まれる。これによって、金網2が固定されることになる。この工程は、下穴にタッピン螺子が捻じ込まれる工程と、捻じ込まれたタッピン螺子と鉄製構造物表面とによって剥落防止材(金網2)が挟持され、剥落防止材2が鉄製構造物1表面に固定される工程である。更には、この工程によって、下穴とタッピン螺子との螺合部分が防水処理される工程が完了する。すなわち、鉄製構造物1の表面9に圧接された弾性パッキング7と平ワッシャ6との間に金網2が挟まれ、平ワッシャ6には未貫通穴3内に捻じ込まれたタッピン螺子5からの力が作用している。従って、金網2は鉄製構造物1に強固に固定されていることになる。しかも、結果的に、防水処理が施されたものになる。よって、鉄製構造物1と金網2とが異種金属であっても、両者の間には、絶縁性(非金属性)の弾性パッキング7が存在しているから、仮に、水分が存在していたとしても、局部電池が形成され難い。つまり、腐食が起き難い。そして、下穴3の開口部は弾性パッキング7、平ワッシャ6及びタッピン螺子5の頭部11によって封鎖されており、下穴3内に水分が浸入する虞が無い。このことは、タッピン螺子5と鉄製構造物1とが異種金属で構成されていても、かつ、下穴3内においてタッピン螺子5と鉄製構造物1とが結合(接合)していても、局部電池が形成され難い。つまり、腐食が起き難い。そして、金網2とタッピン螺子5と平ワッシャ6とが同等な素材で構成されておれば、ここに水分が存在したとしても、局部電池が形成され難い。つまり、腐食が起き難い。
【0040】
さて、図6(c)及び図4に示される如く、構造物1表面からのタッピン螺子5の突出高さHがマイクロメータで測定される。先に、予め、タッピン螺子突出高さHとタッピン螺子引抜荷重との関係が求められている(図2参照)。従って、この関係から、所定の引抜荷重が得られる時のタッピン螺子突出高さHが、予め、求められている。そこで、図6(c)の工程にて、構造物1表面からのタッピン螺子突出高さHが測定される。そして、この測定値Hが基準値H(予め求められている所定の引抜荷重を確保するタッピン螺子突出高さH)より大きいか否かが判定される。この工程は、下穴に捻じ込んだタッピン螺子のタッピン螺子の貫入深さを表す指標が、所定の引抜荷重が得られるタッピン螺子の貫入深さを表す指標であるか否かを確認する工程である。仮に、構造物1表面からのタッピン螺子5の突出高さHがHを越えている場合は、構造物1表面からのタッピン螺子5の突出高さHがHに達する(HがH以下となる)まで、タッピン螺子5が更に捻じ込まれる。この工程は、下穴3に捻じ込まれたタッピン螺子5のタッピン螺子貫入深さを表す指標が、所定の引き抜き荷重が得られるタッピン螺子の貫入深さを表す指標に達していない場合に、所定の引き抜き荷重が得られるタッピン螺子の貫入深さを表す指標に達するまで、タッピン螺子を更に捻じ込む工程である。
【0041】
前記工程(c)の後、即ち、全てのタッピン螺子の突出高さHが基準値H以下であることが確認された(基準値Hを越えている場合には、そのタッピン螺子の突出高さが基準値H以下となるように更に捻じ込まれた)後、図6(d)に示される如く、金網2が埋設されるように耐火被覆モルタル等のセメント系軽量被覆材が塗設され、鉄製構造物1の表面9がセメント系軽量被覆材4によって被覆される。この工程は、剥落防止材が埋設されるよう鉄製構造物表面にセメント系軽量被覆材が被覆される工程である。
【0042】
以下、更に具体的な例が挙げられる。
厚さ9mmの鋼板に、径が4.5mm、4.6mm、4.7mmの削孔用ドリルを用いて、深さ約8mmとなるように各20箇所ずつ下穴3が設けられた。直径5mm、首下長さ(L)9.7mm、頭部の高さ(H)3.1mmのタッピン螺子が用意された。このタッピン螺子が、厚さ1mmのステンレス鋼製ワッシャ及び引抜試験用冶具を挟み込みながら各下穴に捻じ込まれた。この時、挟み込むワッシャの枚数を調整することで、タッピン螺子の貫入深さ(D)、鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)、及び鋼板表面とタッピン螺子の頭部との距離(D)を調整した。
【0043】
この時の鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)は、ワッシャの枚数が0枚のとき(ワッシャを挟み込まないとき)は5.7mm、1枚のときは6.7mm、2枚のときは7.7mm、3枚のときは8.7mmである。貫入深さ(D)は、各々、表1の通りである。
【0044】
表1

【0045】
万能試験機を用いて捻じ込まれたタッピン螺子の引抜き試験を実施した。すなわち、引抜荷重(タッピン螺子が引き抜けた時の引張応力)が測定された。引抜試験の概略が図1に示される。図1において、タッピン螺子の螺子山は省略されている。この結果が図2,3に示される。図2は、ドリル径毎の引抜荷重と鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)との関係を示すグラフである。図3は、鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)毎の引抜荷重とドリル径との関係を示すグラフである。
【0046】
そして、タッピン螺子に要求される特性、即ち、タッピン螺子が剥落防止材(金網2)及びセメント系軽量被覆材4の合計重量を越える荷重を支える力に安全率を掛けた値(引抜荷重)が3000Nであったとすると、図2から、鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)を、ドリル径がφ4.5mmならば7.9mm以内、ドリル径がφ4.6ならば7.7mm以内、ドリル径がφ4.7ならば6.7mm以内であれば良いことが判る。従って、図6(c)の工程で測定される長さが上記値のものであるか否かを判定し、鋼板表面からのタッピン螺子の突出高さ(H)が上記値よりも大きければ、タッピン螺子の更なる捻じ込みが行われる。
【符号の説明】
【0047】
1 構造物
2 金網(被覆材剥落防止材)
3 下穴(未貫通穴)
4 セメント系軽量被覆材
5 タッピン螺子
6 平ワッシャ
7 防水性・絶縁性の弾性パッキング
8 金網取付部
9 鉄製構造物表面
10 下穴(未貫通穴)とタッピン螺子との螺合部分
11 タッピン螺子の頭部
12 ねじ穴(十字穴)
19 マイクロメータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆される構造物表面の被覆工法であって、
構造物にタッピン螺子が設けられる工程aと、
被覆材剥落防止材がタッピン螺子に掛止されて固定される工程bと、
前記被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が設けられる工程c
とを具備してなり、
被覆材が設けられる前であって、かつ、タッピン螺子が設けられた後において、
前記構造物に設けられたタッピン螺子が、予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たし、所定の引抜強度を保持しているか否かを、測定する測定工程を具備する
ことを特徴とする構造物表面の被覆工法。
【請求項2】
構造物に設けられたタッピン螺子が予め求められているタッピン螺子の貫入指数閾値の条件を満たしていない場合には、工程cに先立って、前記タッピン螺子が前記貫入指数閾値の条件を満たすまで更に捻じ込まれる工程を具備する
ことを特徴とする請求項1の構造物表面の被覆工法。
【請求項3】
測定工程は、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の所定箇所までの突出高さが測定される工程である
ことを特徴とする請求項1の構造物表面の被覆工法。
【請求項4】
測定工程は、構造物に設けられたタッピン螺子の該構造物表面から該タッピン螺子の突出高さが測定される工程である
ことを特徴とする請求項3の構造物表面の被覆工法。
【請求項5】
測定工程は、構造物に設けられたタッピン螺子の頭部と該構造物表面との間の距離が測定される工程である
ことを特徴とする請求項3の構造物表面の被覆工法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5いずれかの構造物表面の被覆工法が実施され、構造物に設けられたタッピン螺子に掛止された被覆材剥落防止材の少なくとも一部が覆われるように被覆材が被覆されてなる構造物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−132191(P2012−132191A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284443(P2010−284443)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(595002661)ナイガイ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】