説明

被覆材層の劣化評価方法

【課題】トンネル内壁面等に施工される耐火被覆材層等の劣化度を明確に判定することができると共に、現場において比較的簡単な測定治具を用いて簡易に短時間に劣化度を判定することができる被覆材層の劣化評価方法を提供する。
【解決手段】耐火被覆材層2に表面から所定深さまでドリル等により下孔10を穿設し、この下孔10に吊りフック11の雄ねじ11aをねじ込み、引き抜き荷重計12のフック13をフック11bに接続して引き抜き、引抜荷重すなわち耐火被覆材層2の引抜強度を計測する。圧縮強度と比べて被覆材層の劣化の度合いに応じて大きな差がある引抜強度と劣化度の関係を予め実験等で求めておき、引き抜き荷重計12の計測値と劣化度を比較照合し、耐火被覆材層2の劣化度を判定する。トンネル内等の小規模火災による被災においては、火災温度と引抜強度の関係を用い、火災温度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内壁面等に施工される耐火被覆材層等の被覆材層の劣化評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルや山岳トンネル等においては、トンネル内壁面に施工された耐火被覆材層の経時的劣化やトンネル火災後の劣化の程度等を診断することが行われており、例えば特許文献1では、貫入針を有する貫入抵抗測定具(プッシュプルゲージ)によって湿式耐火被覆材層の貫入抵抗値を測定し、この貫入抵抗値に基づいて、(a)湿式耐火被覆材層が健全な場合の貫入抵抗値を基準値とする貫入抵抗値比、および/または、(b) 予め求めておいた貫入抵抗値と圧縮強度との相関関係から定められる圧縮強度の推定値を求め、これら貫入抵抗値比および/または圧縮強度の推定値から健全度を診断する方法が提案されている。
【0003】
また、コンクリートの劣化度の診断に関する先行技術文献として、例えば特許文献2、3がある。特許文献2の発明は、コンクリート表層部の耐凍害性評価手法に関するものであり、コンクリート表層部にボーリングしたコアに引張試験機を接続して引張試験を実施し、任意深さの引張強度より凍害劣化度を評価するものである。
【0004】
特許文献3の発明は、現場におけるALCパネルの劣化度推定方法に関するものであり、ALCパネル自体にビスを打設し、ビス引抜き試験方法(建研式の引張試験機)により当該ビスの引抜き強度を測定し、該ビス引抜き強度と炭酸化度の関係より当該ALCパネルの劣化度を推定するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−294154号公報
【特許文献2】特開2007−47133号公報
【特許文献3】特開2003−177083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の貫入抵抗値または圧縮強度を用いる湿式耐火被覆材層の健全度診断の場合、小規模火災による被災状況において例えば300℃と400℃とで圧縮強度の差があまりなく、健全度の評価を明確に行うことができないなどの課題があった。また、小規模火災後、現場において簡易に短時間に被災状況を確認できる手法が望まれている。
【0007】
本発明は、トンネル内壁面等に施工される耐火被覆材層等の劣化度を明確に判定することができると共に、現場において比較的簡単な測定治具を用いて簡易に短時間に劣化度を判定することができる被覆材層の劣化評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、構造物の被覆材層の劣化度を評価する方法であって、前記被覆材層に表面から所定深さまで棒状体の先端部を埋入し、前記棒状体の頭部に引き抜き荷重計を接続して引き抜くことにより引抜強度を計測し、前記引抜強度から被覆材層の劣化度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0009】
本発明は、トンネル内壁面に施工される湿式や乾式の耐火被覆材層やその他の被覆材層の劣化度の判定に適用される。引抜強度と被覆材層の劣化度との関係を予め求めておき、計測された引抜強度と比較照合することにより被覆材層の劣化度が判定される。引抜強度は圧縮強度と比べて被覆材層の劣化の度合いに応じて大きな差があり、被覆材層の劣化度を明確に判定することができる(表1参照)。また、棒状体と引き抜き荷重計による比較的簡単な測定治具により現場において簡易に短時間に劣化度を判定することができる。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、構造物の被覆材層の劣化度を評価する方法であって、前記被覆材層に表面から所定深さまで棒状体の先端部を埋入し、前記棒状体の頭部に引き抜き冶具を接続して引き抜き、前記頭部の変形の有無により引抜強度を推定し、前記引抜強度から被覆材層の劣化度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0011】
請求項1の計測に代えて棒状体の頭部の変形を利用する場合である。棒状体には真鍮などの変形しやすい材料を用い、設定した引抜荷重(引抜強度)で棒状体の頭部が変形するように構成する。頭部の変形の有無により劣化度を判定することができる。頭部が変形する場合は、引抜強度が大きいため健全と判定することができ、頭部が変形しない場合は、引抜強度が小さいため劣化度が大きいと判定することができる(表1参照)。この場合も、引抜強度は圧縮強度と比べて被覆材層の劣化の度合いに応じて大きな差があり、被覆材層の劣化度を明確に判定することができる。また、棒状体を工具で引き抜くだけでよく、比較的簡単な測定治具により簡易に短時間に劣化度を判定することができる。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載の劣化評価方法において、被覆材層に表面から所定深さまで下孔を穿設し、前記下孔に下孔の径より径の大きい棒状体の先端部を押し込むことを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0013】
円柱状等の棒状体の先端部を下孔に押し込み、引き抜き抵抗が得られるようにした場合であり、被覆材層の劣化度に応じた引抜荷重(引抜強度)が得られる。
【0014】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の先端部には雄ねじが設けられており、回転させてねじ込むことを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0015】
ねじで引き抜き抵抗が得られるようにした場合であり、被覆材層の劣化度に応じた引抜荷重(引抜強度)が得られる。雄ねじの外径よりも若干小さい径の下孔にねじ込んでもよいし、下孔を設けず直接タッピングねじ方式でねじ込んでもよい。
【0016】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、被覆材層は耐火被覆材層であり、引抜強度から火災による被災の程度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0017】
トンネル内の小規模火災等による被災の程度を判定する場合である。引抜強度と火災温度との関係を予め求めておき、計測された引抜強度と比較照合することにより被覆材層表層部の火災温度を判定することができる。これにより被覆材層の交換の有無を現場において簡易に短時間に判断することができる。
【0018】
なお、被覆材層の表層部の劣化度の判定であり、また健全部に損傷を与えないようにするため、棒状体の埋入深さは浅い方が好ましい。
【0019】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の先端部の径が3mm以下であることを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0020】
被覆材層が健全と判断された場合、棒状体を引き抜いた後に形成される孔の径が3mm以下であれば、孔を埋める補修を要しないため、より簡易で短時間の判定が可能となる。
【0021】
本発明の請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の頭部はフックであり、前記フックに引き抜き荷重計または引き抜き治具の先端を接続することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法である。
【0022】
棒状体のフックに引っ掛けるだけで引き抜きを行うことができ、より簡易で短時間の判定作業が可能となる。ねじ式の場合、市販の吊りフックを用いることができ、低コストの判定作業が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0024】
(1) 棒状体による引抜強度により被覆材層の劣化度を判定し、引抜強度は圧縮強度と比べて被覆材層の劣化の度合いに応じて大きな差があるため、被覆材層の劣化度を明確に判定することができる。
【0025】
(2) 比較的簡単な測定治具により現場において簡易に短時間に劣化度を判定することができる。
【0026】
(3) トンネル内の小規模火災に適用した場合には、火災温度を現場において明確に簡易に短時間に判定することができ、耐火被覆材の交換の有無を即座に判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。図1は本発明の被覆材層の劣化評価方法とこれに用いる測定装置の一例を示す鉛直断面図である。
【0028】
図1の実施形態において、トンネル等のコンクリート1の内面には、湿式耐火被覆材層2が例えば層厚30mm程度で吹き付けにより施工されており、このような湿式耐火被覆材層2の小規模火災後の表層部の劣化度を本発明の劣化評価方法により現場において簡易に短時間に判定する。なお、湿式に限らず、乾式の耐火被覆材層にも適用できる。
【0029】
先ず、耐火被覆材層2に表面から所定深さまでドリル等により下孔10を穿設する。耐火被覆材層2の表層部の劣化度の測定であり、また耐火被覆材層2の健全部に損傷を与えないように、雄ねじ11aのねじ孔深さ(脚長)は、層厚tの1/2以下とするのが好ましい。
【0030】
この下孔10に埋入する測定端子としての棒状体には吊りフック11を用いる。吊りフック11は、先端部の雄ねじ11aと頭部のフック11bからなる。雄ねじ11aの外径は下孔10の径よりも若干大きいものを用い、下孔10に人力や電動工具等で回転させてねじ込み、引き抜き抵抗が得られるようにする。
【0031】
この吊りフック11のフック11bに引き抜き荷重計12の先端部を接続して引き抜くことにより引抜荷重すなわち耐火被覆材層2の引抜強度を計測する。引き抜き荷重計12には市販の荷重計(デジタルフォースゲージ等)を用いることができ、先端軸部にフック13を取り付け、このフック13を吊りフック11のフック11bに引っ掛けるようにする。
【0032】
耐火被覆材層の引抜強度と劣化度の関係を予め実験等で求めておき、引き抜き荷重計12の計測値と劣化度を比較照合し、耐火被覆材層2の劣化度を判定する(表1参照)。トンネル内等の小規模火災による被災においては、火災温度と引抜強度の関係を用いることができ、火災温度を判定することができる。これにより、耐火被覆材層2の交換の目安とすることができる。
【0033】
上記のように引抜強度を計測する場合に限らず、吊りフック11のフック11bの変形を利用することができる。引き抜きには、フック11bに引っ掛けて引っ張ることのできる工具を用いることができる。前者の計測の場合、吊りフック11にはステンレス鋼等が用いるのが好ましいが、後者の変形利用の場合には真鍮などの比較的変形しやすい材料を用い、所定の引抜荷重(引抜強度)でフック11bが変形するようにする。フック11bの変形の有無により劣化度を判定することができる。フック11bが変形する場合は、引抜強度が大きいため健全と判定することができ、フック11bが変形しない場合は、引抜強度が小さいため劣化度が大きいと判定することができる(表1参照)。
【0034】
棒状体11の先端部は、図示例の雄ねじに限らず、円柱状の軸などとすることができる。この場合、棒状体11の先端部の外径は下孔10の径より若干大きくし、下孔10に押し込み、引き抜き抵抗が得られるようにする。また、雄ねじの場合、下孔10を設けずに、タッピングねじ方式で直接ねじ込むこともできる。
【0035】
吊りフック11を引き抜いた後には、耐火被覆材層2に孔が残る。耐火被覆材層2が上記の判定で健全と判断された場合、孔の径が大きいと、この孔を埋める補修が必要となる。しかし、この孔の径が3mm以下の場合は、前記のような補修は不要とすることができる。即ち、トンネル内面にパネルを貼る場合、パネル間の隙間は3mm以下であれば許容されるため、同様に径3mm以下の孔も許容される。
【0036】
次に、耐火被覆材の試験体を用い加熱温度を変えて加熱し、それぞれ加熱後の圧縮強度を測定し、加熱温度の差による強度の劣化状況を確認し、また実際のトンネル内での小規模火災を想定した、現場で即応可能な簡便な本発明に係る強度判定方法を実施した例について説明する。
【0037】
(1)耐火被覆材
結合材:ポルトランドセメント・アルミナセメント(強度維持と耐火性)
骨材:アルミナ系骨材・シリカ系骨材・有機骨材等(耐火性と強度維持)
微粉骨材:水酸化アルミニウム・炭酸カルシュウム等(吸熱効果等)
【0038】
(2)試験体
40×40×160mmのJIS型枠と500×500×30mmの型枠に上記被覆材を鋳込み成型し、材齢14日まで20℃60%RHの環境で養生を行った。
【0039】
(3)試験方法
500×500×30mm品は250×100mm程度に切断加工し、JIS成型供試体と共に電気炉にて所定の温度で2時間加熱する。加熱温度は、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃とし、110℃で24時間乾燥した絶乾品との圧縮強度比較をJIS型枠品で行った。
所定の温度で加熱した250×100×30mm切断加工供試体にφ2.5mmの鋼製ドリルで下孔を深さ20mm開け、φ2.8mm、脚長12mmの吊りフックを3箇所取り付け、引抜強度を測定した。
【0040】
(4)試験結果
次表に試験結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、平均圧縮強度は各温度で差があまりなく、例えば、被覆材交換の目安となる300℃と400℃で明確に判別することができない。これに対して、本発明の引抜強度の場合、比較的大きな差があり、明確に判別できることがわかる。
【0043】
なお、上記耐火被覆材の有機系原料および吸熱材の温度による変性は260℃頃から開始されるため本確認試験における300℃および400℃近辺の値が交換の目安として参考になると考えられる。
【0044】
なお、フックの脚長(ねじ長さ)と下孔の径を変えて上記と同様の引抜試験を行った結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
フックの脚長や下孔の径を変えても、本発明では明確に判別できることがわかる。
【0047】
なお、以上はトンネル内壁面の耐火被覆材の小規模火災による被災の程度に適用した場合について説明したが、その他の被覆材の劣化度の判定にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の被覆材層の劣化評価方法とこれに用いる測定装置の一例を示す鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1…コンクリート
2…耐火被覆材層
10…下孔
11…吊りフック(棒状体)
11a…雄ねじ(先端部)
11b…フック(頭部)
12…引き抜き荷重計
13…フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の被覆材層の劣化度を評価する方法であって、前記被覆材層に表面から所定深さまで棒状体の先端部を埋入し、前記棒状体の頭部に引き抜き荷重計を接続して引き抜くことにより引抜強度を計測し、前記引抜強度から被覆材層の劣化度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項2】
構造物の被覆材層の劣化度を評価する方法であって、前記被覆材層に表面から所定深さまで棒状体の先端部を埋入し、前記棒状体の頭部に引き抜き冶具を接続して引き抜き、前記頭部の変形の有無により引抜強度を推定し、前記引抜強度から被覆材層の劣化度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の劣化評価方法において、被覆材層に表面から所定深さまで下孔を穿設し、前記下孔に下孔の径より径の大きい棒状体の先端部を押し込むことを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の先端部には雄ねじが設けられており、回転させてねじ込むことを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、被覆材層は耐火被覆材層であり、引抜強度から火災による被災の程度を判定することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の先端部の径が3mm以下であることを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の劣化評価方法において、棒状体の頭部はフックであり、前記フックに引き抜き荷重計または引き抜き治具の先端を接続することを特徴とする被覆材層の劣化評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−174858(P2009−174858A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10569(P2008−10569)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000223159)東和耐火工業株式会社 (5)
【出願人】(594087447)宝菱産業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】