説明

被覆用樹脂組成物およびその積層成形品

【課題】耐候性、成形性、流動性、低温下における耐衝撃性に優れた積層成形品を得る為に有用な被覆用樹脂組成物およびその積層成形品を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)1〜80質量%と、ポリオルガノシロキサン(b-1)およびポリアルキルアクリレート(b-2)を重合し、質量平均粒子径50nm〜400nmである重合体(A)を得て、その重合体(A)100質量部の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル50〜100質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル0〜50質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなり、FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20〜80℃となる単量体成分(B)30〜100質量部を重合して得られるグラフト共重合体(II)20〜99質量%とを含有する被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐候性、成形性、流動性および低温下における耐衝撃性に優れた表層を形成する為に用いられる被覆用樹脂組成物、およびその被覆用樹脂組成物を用いて樹脂基材の表面上に表層を積層形成して得られる積層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窓枠、壁材、化粧板等の建築用材料には、形状の自由度や加工性の観点から塩化ビニル系樹脂が広く使用されている。しかしながら、この塩化ビニル系樹脂の成形品を屋外で使用する場合は、塩化ビニル系樹脂の耐候性不良による表面白化、光沢低下、黄変色が問題となる。
【0003】
この問題を解決する方法として、例えば、メタクリル系樹脂を塩化ビニル系樹脂と共押出成形するなどして、塩化ビニル系樹脂の成形品の表面に耐候性に優れたメタクリル系樹脂層を形成する方法がある(例えば、特許文献1、特許文献2)。しかし、メタクリル系樹脂は耐衝撃性が低い。したがって、この積層成形品の表層に衝撃を加えると破壊が生じる場合がある。特に、メタクリル系樹脂は室温以下の低温での耐衝撃性が劣るので、使用できる用途が制限されてしまう。
【0004】
一方、メタクリル系樹脂の耐衝撃性を向上させる方法として、ポリブタジエン系ゴムを配合する方法がある(例えば、特許文献3、特許文献4)。ただし、ポリブタジエン系ゴムは耐候性が劣る。したがって、メタクリル系樹脂とポリブタジエン系ゴムの組成物からなる表層は、太陽光に曝されると黄変色し易く、窓枠、外壁材等の高い耐候性が要求される屋外用途では使用が困難である。
【0005】
また、耐候性を損なうことなく、アクリル樹脂/塩化ビニル系樹脂共押出成形品の耐衝撃性を向上させる方法として、例えば、ポリオルガノシロキサンとポリアルキルアクリレートとからなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた単量体混合物をグラフト重合してなるグラフト共重合体、並びに、アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする架橋微粒子を、メタクリル系樹脂に配合することが提案されている(例えば、特許文献5)。しかしながら、この方法については、耐候性および共押出成形における樹脂の流動性について更なる改善が望まれている。
【特許文献1】特開平5−93122号公報
【特許文献2】特開平9−59473号公報
【特許文献3】特開平5−339459号公報
【特許文献4】特開平6−285943号公報
【特許文献5】特開2003−335912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した各課題を解決すべくなされたものである。すなわち、本発明の目的は、耐候性、成形性、流動性および低温下における耐衝撃性に優れた積層成形品を得る為に有用な被覆用樹脂組成物、および、その積層成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)1〜80質量%と、ポリオルガノシロキサン(b−1)およびポリアルキルアクリレート(b−2)を重合し、質量平均粒子径50nm〜400nmである重合体(A)を得て、その重合体(A)100質量部の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル50〜100質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル0〜50質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなり、FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20〜80℃となる単量体成分(B)30〜100質量部を重合して得られるグラフト共重合体(II)20〜99質量%とを含有する被覆用樹脂組成物である。
【0008】
さらに本発明は、樹脂基材と、該樹脂基材の表面上に積層された上記被覆用樹脂組成物からなる表層とを有する積層成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆用樹脂組成物は特定の成分組成からなるので、耐候性、成形性、流動性および低温下における耐衝撃性に優れた積層成形品を得る為に非常に有用である。
【0010】
さらに本発明の成形品は、上記各特性に優れた積層成形品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、被覆用樹脂組成物(メタクリル系樹脂組成物)は、メタクリル酸メチル系重合体(I)と、グラフト共重合体(II)とを含有する組成物である。両者の合計量を100質量部基準とした場合、メタクリル酸メチル系重合体(I)の含有量は1〜80質量部、グラフト共重合体(II)の含有量は20〜99質量部である。グラフト共重合体(II)の含有量が20質量部以上であれば、良好な低温耐衝撃性が得られる。また、99質量部以下であれば、押出加工等の成形加工の際に良好な流動性が得られる。被覆用樹脂組成物は、低温衝撃性や流動性等の所望の特性が損われない範囲内で、他の成分を含有しても良い。他の成分の含有量は、樹脂組成物の全量100質量%を基準として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0012】
本発明において、メタクリル酸メチル系重合体(I)は、メタクリル酸メチル単位を主成分とする重合体であり、メタクリル酸メチル単独重合体、あるいは、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体との共重合体である。特に、単量体総量100質量%中、メタクリル酸メチル50質量%以上(より好ましくは70質量%以上)と、共重合可能な他の単量体50質量%以下(より好ましくは30質量%以下)の(共)重合体が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体の具体例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸、アクリル酸、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは必要に応じて、2種以上併用することもできる。
【0013】
メタクリル酸メチル系重合体(I)の製造方法は、特に制限されない。溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合法を採用できる。それら重合法には、アゾ系化合物、過酸化物等の公知の重合開始剤、メルカプタン化合物等の公知の分子量調節剤を適宜使用できる。
【0014】
本発明において、グラフト共重合体(II)は、2段階以上の段階的重合で得られるグラフト共重合体である。すなわち、グラフト共重合体(II)は、重合体(A)の存在下、単量体成分(B)を重合して得られるグラフト共重合体である。ここで、重合体(A)を100質量部基準とした場合、重合する単量体成分(B)は30〜100質量部である。1段目の重合により重合体(A)を形成し、2段目の重合として単量体成分(B)を重合するが、単量体成分(B)を重合する前にこれとは単量体組成の異なる単量体成分を重合してもよい。このように3段階以上の段階的重合を行う場合、本発明の単量体成分(B)は、前記3段階以上の段階的重合における最終段目に重合を行うことが好ましい。
【0015】
グラフト共重合体(II)の重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(b−1)とポリアルキルアクリレート(b−2)とからなる複合ゴムである。ポリオルガノシロキサン(b−1)とポリアルキルアクリレート(b−2)の合計量を100質量部基準とした場合、ポリオルガノシロキサン(b−1)の量は、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは3〜30質量部、特に好ましくは5〜30質量部である。上記各範囲の下限値は、樹脂組成物の耐衝撃性の点で意義がある。また、上限値は、樹脂組成物の顔料着色性の点で意義がある。
【0016】
重合体(A)を得る為に用いるポリオルガノシロキサン(b−1)の種類は特に限定されないが、ビニル重合性官能基を含有するポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0017】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造方法も特に限定されないが、乳化重合法が好ましい。乳化重合法としては、例えば、ジメチルシロキサン系化合物とビニル重合性官能基含有シロキサン系化合物からなる混合物、または、さらにシロキサン系架橋剤を含む混合物を、乳化剤によって水中で乳化させてラテックスとし、このラテックスを、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーや高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用して微粒子化し、酸触媒を用いて高温下でラテックス中の単量体を重合させ、次いでアルカリ性物質により酸を中和する方法が挙げられる。その酸触媒の添加方法としては、例えば、シロキサン混合物、乳化剤および水と共に混合する方法や、シロキサン混合物が微粒子化したラテックスを高温の酸水溶液中に一定速度で滴下する方法等がある。特に、ポリオルガノシロキサンの粒子径制御のし易さを考慮すると、前者の方法が好ましい。
【0018】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の為に用いるジメチルシロキサン系化合物としては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられる。特に、3〜7員環のものが好ましい。具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上混合して用いられる。
【0019】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の為に用いるビニル重合性官能基含有シロキサン系化合物は、ビニル重合性官能基を含有し、かつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合し得る化合物である。特にジメチルシロキサンとの反応性を考慮すると、ビニル重合性官能基を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。具体例としては、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシランおよびδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシロキサン、テトラδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、さらにγ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。これらは単独でまたは二種以上の混合物として用いることができる。
【0020】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の為に用いるシロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤が好ましい。具体例としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられる。
【0021】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の為に用いる酸触媒としては、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類;が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリオルガノシロキサンラテックスの安定化作用に優れている点で、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、n−ドデシルベンゼンスルホン酸と硫酸などの鉱酸を併用すると、ポリオルガノシロキサンラテックスの乳化剤成分に起因する樹脂組成物の着色を低減できる。
【0022】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の為に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましい。具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、硫酸エステルナトリウムが挙げられる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系乳化剤が好ましい。乳化剤の添加量は、分散状態の安定性と乳化剤に起因する着色防止のバランスの点から、シロキサン混合物100質量部に対して0.05〜5質量部程度が好ましい。
【0023】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造において、シロキサン混合物、乳化剤、水および/または酸触媒を混合する方法としては、例えば、高速攪拌による混合、ホモジナイザーなどの高圧乳化装置による混合が挙げられる。中でも、ホモジナイザーによる混合方法は、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径の分布が小さくなるので好ましい。
【0024】
ポリオルガノシロキサン(b−1)の製造の際の重合温度は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。重合時間については、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤および水と共に混合、微粒子化させる場合は2時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましい。また、酸触媒の水溶液中にシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを滴下する場合は、ラテックスの滴下終了後1時間程度保持することが好ましい。重合の停止は、反応液を冷却し、さらにラテックスを苛性ソーダ、苛性カリ、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性物質で中和することにより行うことができる。
【0025】
以上説明したポリオルガノシロキサン(b−1)の存在下に、例えば、アルキルアクリレートを主成分とする単量体混合物(以下「ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物」という)を重合してポリアルキルアクリレート(b−2)を生成することにより、複合ゴムである重合体(A)が得られる。
【0026】
重合体(A)の製造方法は特に制限はないが、例えば、ポリオルガノシロキサン(b−1)のラテックス中に、ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物を添加し、これらをラテックス中のポリオルガノシロキサン(b−1)に含浸させた後、ラジカル重合開始剤を作用させて重合する方法がある。ポリオルガノシロキサン(b−1)のラテックスへポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物を添加する方法としては、ラテックスと単量体混合物を一括で混合する方法と、ラテックス中に単量体混合物を一定速度で滴下する方法がある。特に、単量体混合物に芳香族ビニル単量体を含有させて共重合する場合は、発色性の観点から、ラテックス中に単量体混合物を一定速度で滴下する方法が好ましい。
【0027】
ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物は、アルキルアクリレートを主成分とするものであればよい。さらに、多官能性アルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。また、アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレート以外に、その他のビニル系単量体を共重合させることもできる。
【0028】
ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物に用いるアルキルアクリレートの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−i−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上併用することができる。特に、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。
【0029】
ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物に用いる多官能性アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上併用することができる。特に、アリルメタクリレートと1,3−ブチレングリコールジメタクリレートを併用することが好ましい。多官能性アルキル(メタ)アクリレートの使用量は、アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートの合計量を100質量部基準とした場合、0.1〜20質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましく、0.2〜1質量%が特に好ましい。
【0030】
ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物に用いるその他のビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;メタクリル酸単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル単量体が挙げられる。
【0031】
ポリアルキルアクリレート(b−2)用単量体混合物の重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス開始剤を用いることができる。中でも、レドックス開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ナトリウム−ホルムアルデヒドスルホキシレート・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系レドックス開始剤が好ましい。
【0032】
以上のようにして得られる複合ゴムとしての重合体(A)の質量平均粒子径は、50〜400nmであり、より好ましくは60〜300nmである。上記各範囲の下限値は樹脂組成物の耐衝撃性の点で意義があり、上限値は樹脂組成物の透明性の点で意義がある。これらの質量平均粒子径は、乳化剤量の変更等、公知の方法により適宜調整することができる。
【0033】
重合体(A)の含有量は、メタクリル酸メチル系重合体(I)とグラフト共重合体(II)の合計量を100質量部基準とした場合、20〜40質量部が好ましい。この含有量が20質量部以上あると低温衝撃が良好となり、40質量部以下であると流動性が良好となる。
【0034】
本発明においては、上述した重合体(A)の存在下に、単量体成分(B)を重合してグラフト共重合体(II)が得られる。この単量体成分(B)は、単量体成分の全量を100質量部基準として、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル50〜100質量部(好ましくは60〜85質量部)、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル0〜50質量部(好ましくは15〜40質量部)、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量部(好ましくは0〜10質量部)からなる。各単量体成分の量を上記各範囲内にすることにより、生産性、加工性、耐衝撃性に優れた樹脂組成物が得られる。また、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステルを使用した場合は、所望のガラス転移温度(Tg)を得やすくなり、その結果、生産性・加工性、耐衝撃性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0035】
FOXの式で計算される単量体成分(B)のガラス転移温度(Tg)は20〜80℃、好ましくは20〜70℃である。上記各範囲の下限値は、グラフト共重合体(II)を粉体として回収した時の耐ブロッキング性、取り扱い性の点で意義がある。上記各範囲の上限値は、樹脂組成物の流動性の点で意義がある。
【0036】
本発明において、Tgは、FOXの式:
1/Tg=a1/Tg1+a2/Tg2+a3/Tg3+・・・
に従い計算により求めたものである。上記FOXの式中のTg1、Tg2、Tg3・・・は共重合体に用いた各単量体を夫々単独で重合した場合に得られるホモポリマーのTgを表す。具体的には、「ポリマーハンドブック第3版」(POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION), John Wiley & Sons, Inc(1989)に記載のTgの値を引用した。上記FOXの式中のa1、a2、a3・・・は、共重合体に用いた各単量体の夫々の質量分率を表す。
【0037】
単量体成分(B)を構成するアルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−ブチル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0038】
単量体成分(B)を構成するアルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−i−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、Tgの制御、コストおよび反応性の観点から、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。
【0039】
単量体成分(B)を構成するその他の共重合可能な単量体は、特に制限されず、炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル(および炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル)と共重合可能な単量体であればよい。その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
単量体成分(B)の重合には、アルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を用いることが好ましい。アルキルメルカプタンの具体例としては、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等が挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、単量体成分100質量部に対して0.1〜2質量部が好ましい。
【0041】
グラフト共重合体(II)は、重合体(A)の存在下、該重合体(A)を100質量部基準とした場合、単量体成分(B)を30〜100質量部重合して得られるものであり、好ましくは50〜80質量部重合して得られるものである。上記各範囲の下限値は、樹脂組成物の耐衝撃性の点で意義がある。また、上限値は、その含有量に応じた効果が発現し易くなる点で意義がある。
【0042】
例えば、重合体(A)を含むラテックス中で単量体成分(B)を乳化重合することにより、グラフト共重合体(II)のラテックスを製造し、このラテックスからグラフト共重合体(II)を回収することができる。この乳化重合法は、公知の方法で行なえばよい。
【0043】
グラフト共重合体(II)を製造する為の多段重合を乳化重合法により行なう場合、そこで使用する乳化剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の何れの乳化剤でもよい。特に、アニオン系の乳化剤が好ましい。アニオン系の乳化剤の具体例としては、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩が挙げられる。乳化剤の量は、使用する乳化剤および単量体成分の種類や配合比、重合条件によって適宜決めればよい。具体的には、単量体成分100質量部に対して通常0.1質量部以上、特に0.5質量部以上であることが好ましい。また、重合体への残存量を抑えるために、単量体成分100質量部に対して通常10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0044】
グラフト共重合体(II)を製造する為の多段重合に使用する重合開始剤は、特に限定されない。ラジカル重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物;過塩素酸化合物;過ホウ酸化合物;過酸化物と還元性スルホキシ化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤などが挙げられる。重合開始剤の添加量は、用いる重合開始剤や単量体成分の種類や配合比によって異なるが、単量体成分100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。
【0045】
グラフト共重合体(II)を製造する為の多段重合において、単量体成分、重合開始剤およびその他の成分の添加法としては、一括添加法、分割添加法、連続添加法、モノマー添加法、エマルション添加法等の各種の方法が挙げられる。反応を円滑に進めるために反応系を窒素置換したり、残存単量体を除去するために反応終了後に必要に応じて触媒を添加することもできる。
【0046】
グラフト共重合体(II)を製造する為の多段重合においては、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を共存させて重合を行うことができる。
【0047】
グラフト共重合体(II)のラテックス中の固形分量は、重合体の生産性を高くするために、10質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましい。またラテックスの安定性を損なわないために、60質量%以下、特に50質量%以下であることが好ましい。
【0048】
このラテックスからグラフト共重合体(II)を回収する方法としては、例えば、酸凝固法、塩凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法等の各種の方法が挙げられる。塩凝固法で用いる回収剤としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、酢酸カルシウム等の無機塩が挙げられる。これらの中では樹脂組成物の成形品の着色を抑える観点から、酢酸カルシウムが特に好ましい。
【0049】
回収剤は通常水溶液として使用される。回収剤水溶液の濃度は、回収の安定性と着色等の特性の低下防止の点から、0.1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。
【0050】
ラテックスから析出した重合体を回収し、その後、洗浄、脱水、乾燥することにより、粉体状のグラフト共重合体(II)が得られる。また、乾燥後のグラフト共重合体(II)に、シリカゲル微粒子などの滑剤を添加すると、重合体のブロッキングが生じ難くなり、取り扱い性が向上する。
【0051】
以上説明したグラフト共重合体(II)と、メタクリル酸メチル系重合体(I)を所定比率で混合することにより、本発明の被覆用樹脂組成物(メタクリル系樹脂組成物)が得られる。混合方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサー等でブレンドし、次いで一軸または二軸の押出機や各種ニーダー等を用いて溶融混練し、ペレット化する方法が挙げられる。
【0052】
本発明の被覆用樹脂組成物には、さらにアクリル系高分子滑剤(C)を配合することができる。この場合、押出成形等の成形時の溶融張力を向上する効果が得られる。アクリル系高分子滑剤(C)の配合量は、メタクリル酸メチル系重合体(I)とグラフト共重合体(II)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.1〜1質量部である。上記各範囲の下限値は、成形時の溶融張力を十分にして均一な厚みの積層成形品を得る点で意義がある。また、上限値は、耐衝撃性などの所望特性の点で意義がある。
【0053】
アクリル系高分子滑剤(C)は、アクリル系単量体単位を主成分とする重合体からなる滑剤である。特に、重合体(I)および(II)との相溶性、成形品の外観の観点から、メタクリル酸メチル単量体単位を30〜70質量%含む共重合体からなる滑剤が好ましい。この共重合体において、メタクリル酸メチル以外の単量体単位としては、メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体単位であればよい。他のビニル系単量体単位としては、特に、アルキル基の炭素数が2〜18のメタクリル酸アルキルエステル単位が好ましい。アクリル系高分子滑剤(C)は、特に、単量体または単量体混合物を乳化重合して得たものであることが好ましい。
【0054】
アクリル系高分子滑剤(C)の還元粘度は、好ましくは0.01〜0.25L/g、より好ましくは0.05〜0.15L/gである。上記各範囲の下限値は、耐衝撃性等の物性の向上およびダイライン防止の点で意義がある。また、上限値は、成形加工性(特にダイライン防止)の点で意義がある。本発明において、還元粘度(ηsp/c)は、100mLのクロロホルム中に試料0.1gを溶解し、25℃にて測定した。
【0055】
本発明の被覆用樹脂組成物には、メタクリル酸メチル単量体単位を30〜70質量%含有し[この重合体の単量体単位の総量を100質量%基準とした場合]、且つ還元粘度が0.3〜1.5L/gの範囲であるメタクリル系重合体(D)を配合することができる。この場合、成形時の溶融粘度の調整あるいは成形品の外観向上の効果が得られる。このメタクリル系重合体(D)としては、例えば、三菱レイヨン(株)製、商品名メタブレンP530A等が挙げられる。メタクリル系重合体(D)の配合量は、メタクリル酸メチル系重合体(I)とグラフト共重合体(II)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.1〜1質量部である。
【0056】
本発明の被覆用樹脂組成物には、さらに必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、顔料、染料等を配合することができる。
【0057】
本発明の被覆用樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠し、試験温度230℃、荷重3.8kgの条件で測定した値が、好ましくは5.0〜30g/10min、より好ましくは6.0〜25g/10min、特に好ましくは7.0〜20g/10minである。上記各範囲は、押出加工等の成形加工の際、成形厚みの均一性、外観、耐衝撃性の点で意義がある。
【0058】
本発明の被覆用樹脂組成物は、樹脂基材の表面上に表層を形成する為に用いられる。樹脂基材としては、形状の自由度や加工性の点から、塩化ビニル系樹脂を好適に用いることができる。また例えば、建築用材料等の各種成形材料に使用されているABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂やASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0059】
塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニル単独重合体、あるいは、塩化ビニルと他の共重合可能な単量体との共重合体である。単独重合体あるいは共重合体は、単独でまたは混合して用いることができる。塩化ビニル系樹脂が共重合体の場合は、単量体単位総量100質量%中、塩化ビニル単位が80質量%以上であることが好ましい。共重合可能な単量体の具体例としては、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、α−オレフィン、塩化オレフィン等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、600〜1100程度が好ましい。塩化ビニル系樹脂には、必要に応じて、各種添加剤、例えばポリブタジエン等の耐衝撃改良剤、アクリル樹脂系の加工助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、酸化チタン等の充填剤、着色剤、発泡剤等を配合してもよい。
【0060】
本発明の積層成形品は、樹脂基材と、この樹脂基材の表面上に積層された上記被覆用樹脂組成物からなる表層とを有する成形品である。
【0061】
積層成形品を製造する方法は、樹脂基材と被覆用樹脂組成物とを一体成形する方法であればよい。例えば、共押出成形による積層化する方法が挙げられる。具体的には、複数の押出機にてそれぞれの樹脂を溶融し、これらの溶解樹脂をダイス等の積層化装置を通して積層成形品を得る方法がある。また例えば、樹脂組成物を押出成形等により予めフィルム化しておき、このフィルムを、別に押出成形等で製造した塩化ビニル系樹脂成形品に重ねて、これをプレス成形して積層化する方法がある。
【0062】
積層成形品は、例えば、樹脂基材からなる層と、被覆用樹脂組成物からなる表層の2層で構成される。ただし必要に応じて、これらの一方または両方が複数積層された3層以上の積層体にしても良い。3層以上の積層体においては、少なくとも一層の被覆用樹脂組成物からなる層が最外層(表層)となるように構成することが好ましい。
【0063】
積層成形品の各層の厚みは製品の用途によって適宜設定されるが、積層成形品の被覆用樹脂組成物からなる表層の厚みは、0.05〜1mmが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例および比較例における試験片作製方法および評価方法を以下に示す。また、以下の記載において「部」は「質量部」を意味する。
【0065】
(1)積層成形品の作製:
被覆用樹脂組成物のペレットを、Tダイ(幅100mm)および冷却ロール(2本)を備えたφ25mm単軸押出機にて、シリンダー温度240℃、ロール温度90℃で押出して、厚み0.4mmのフィルムを作製した。このフィルムを市販の塩化ビニル系樹脂シート(タキロン(株)製、商品名タキロンプレートET1980、厚み2mm)に重ねて、プレス成形機にて140℃で加圧融着して積層成形品を得た。
【0066】
(2)積層成形品の低温耐衝撃性評価:
上記(1)で得た積層成形品を、100mm×100mmに切り出し、高速計装化面衝撃装置(島津製作所製、ハイドロショットHTM−1)を用い、耐面衝撃性試験を行った。条件は、落錘速度1.0m/sec、ポンチ先端径1/2inch、サンプル受部口径3inch、サンプル数n=20、試験温度−10℃とした。試験後の破壊形態を以下のように分類し、その内、延性破壊の枚数を測定した。ここでは、板が割れて砕けたものは脆性破壊とし、ポンチの抜けた穴が開き、その破断面が白くなったものを延性破壊とした。なお、延性破壊の枚数が多い程、低温耐衝撃性能が高いことを意味する。
【0067】
(3)積層成形品の耐候性評価:
上記(1)で得た積層成形品を50×50mmに切り出し、メタルウェザー試験機KU−R4CI−A(ダイプラウィンテス(株)社製)にて、照射強度80mW/cm2、63℃、50%RHで200時間暴露した。暴露後の外観を目視評価し、結果を以下のように分類した。
「○」:外観変化(黄変色、白化、光沢低下、肌荒れ等)が小さい。
「×」:外観変化(黄変色、白化、光沢低下、肌荒れ等)が大きい。
【0068】
(4)成形厚み安定性:
上記(1)においてφ25mm単軸押出機を用いてフィルムを作製する際、マイクロメータを用いてフィルム中央部を長手方向に厚みを測定し、設定厚みに対しての変動の割合を求めた。その結果を以下のように分類した。
「○」:設定厚みに対して変動が10%未満。
「△」:設定厚みに対して変動が10%以上〜20%未満。
「×」:設定厚みに対して変動が20%以上。
【0069】
(5)成形品の外観:
上記(1)においてφ25mm単軸押出機を用いてフィルムを作製する際、フィルムの表面外観を目視により観察した。その結果を以下のように分類した。
「○」:表面光沢に優れ、ひだ状の模様が無く良好な外観である。
「△」:表面光沢に優れるが、表面にひだ状の模様が残存する。
「×」:表面光沢が低く、ひだ状の模様が有る。
【0070】
(6)流動性:
JIS K7210に準拠し、試験温度230℃、荷重3.8kgの条件にてMFRの測定を行った。
【0071】
(7)質量平均粒子径の測定:
得られたラテックスを蒸留水で希釈し、濃度約3%の希釈ラテックス0.1mlを試料とし、米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布測定装置を用い、流速1.4ml/min、圧力約2.76MPa(約4000psi)、温度35℃の条件下で測定した。測定では、粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を用い、液性はほぼ中性にした。なお、測定前には、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを標準粒子径物質とし、0.02μmから0.8μmの範囲にある合計12点の粒子径を測定して、検量線を作製した。
【0072】
(製造例1)グラフト共重合体(II−1)の製造:
[ポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)の製造]
ジメチルシクロシロキサン(商品名XF40−B4810、GE東芝シリコーン(株)製)98部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部を溶解した蒸留水300部を添加し、ホモミキサーにて9000回転/分で5分間攪拌した。その後、ホモジナイザーに30MPaの圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
【0073】
一方、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、ドデシルベンゼンスルホン酸10部と蒸留水90部とを注入し、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を85℃に加熱した状態で、上記予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間に亘って滴下した。滴下終了後1時間温度を維持し、冷却した。次いで、この反応物を苛性ソーダ水溶液で中和してポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)を得た。このラテックスを170℃で30分間乾燥して固形分を求めたところ、18.0質量%であった。また、ラテックス中のポリオルガノシロキサン粒子の質量平均粒子径は70nmであった。
【0074】
[1段目重合体(F−1)ラテックスの製造]
次に、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、前記ポリオルガノシロキサンラテックス(L−1)38.9部(ポリマー純分として7.0部)、アルケニルコハク酸カリウムを主成分とするラテムルASK(商品名、花王(株)社製)0.20部を仕込み、これに蒸留水150部を添加混合した。その後、アクリル酸n−ブチル43部、アリルメタクリレート0.6部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート0.2部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.17部の混合物を添加した。そして、この反応器に窒素気流を通じることによって雰囲気の窒素置換を行い、65℃まで昇温した。
【0075】
内部の液温が65℃となった時点で、硫酸第一鉄0.000075部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.000225部およびナトリウム−ホルムアルデヒドスルホキシレート(以下「ロンガリット」という)0.2部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。1時間この状態を維持し、アクリレート成分の重合を完結させてポリオルガノシロキサンとポリアクリルアクリレートとの複合ゴムである1段目重合体(F−1)ラテックスを得た。ラテックスの一部をサンプリングし、得られた1段目重合体(F−1)の質量平均粒子径を測定した結果、85nmであった。
【0076】
[グラフト共重合体(II−1)の製造]
前記1段目重合体(F−1)ラテックスの液温が反応器内部で65℃まで低下した後、ロンガリット0.10部を蒸留水10部に溶解した水溶液を添加し、次いで下記混合物(g−1):
混合物(g−1)
メタクリル酸メチル 41.0部
アクリル酸n−ブチル 7.5部
スチレン 1.5部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.075部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.208部
を120分かけて滴下し、1時間保持してグラフト重合体の重合を完結させて、最終ラテックスを得た。得られたグラフト共重合体(II−1)のラテックスの重合率は99%以上、ラテックス粒子の質量平均粒子径は110nm、混合物(g−1)の各単量体から計算される2段目重合体のTgは67℃であった。
【0077】
続いて、ステンレス製の容器に回収剤水溶液として2.0質量%酢酸カルシウム水溶液300部を仕込み、混合攪拌下60℃に昇温し、ラテックス(II−1)300部を10分にわたって、連続的に添加した。その後90℃に昇温し、5分間保持した。室温まで冷却し、脱イオン水で洗浄しながら遠心脱水機(1300G、3分間)でろ別して湿潤状の樹脂を得た。次いで、75℃で48時間乾燥させて、白色粉体状のグラフト共重合体(II−1)を得た。
【0078】
(製造例2)グラフト共重合体(II−2)の製造:
まず、製造例1と同様にして1段目重合体(F−1)ラテックスを製造した。次いで、製造例1のグラフト共重合体(II−1)の製造方法に代えて、以下の方法を実施した。
【0079】
前記1段目重合体(F−1)ラテックスの液温が反応器内部で60℃まで低下した後、ロンガリット0.25部を蒸留水10部に溶解した水溶液を添加した。次いで、アクリロニトリル2.5部、スチレン7.5部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.05部の混合物(g−2)を2時間にわたって滴下し重合した。滴下終了後、温度60℃の状態を1時間保持した。その後、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.2部およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエ−テル硫酸ナトリウムを主成分とするエマールNC−35(商品名、花王(株)社製)0.18部を蒸留水10部に溶解させた水溶液を添加した。次いで、アクリロニトリル10部、スチレン30部およびt−ブチルハイドロパーオキサイド0.2部の混合液を2時間にわたって滴下し重合した。滴下終了後、温度60℃の状態を0.5時間保持した。その後、キュメンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し、さらに温度60℃の状態を0.5時間保持した後冷却し、最終ラテックスを得た。得られたグラフト共重合体(II−2)のラテックスの重合率は99%以上、ラテックス粒子の質量平均粒子径は100nm、混合物(g−2)の各単量体から計算される2段目重合体のTgは106℃であった。
【0080】
続いて、製造例1と同様に酢酸カルシウム水溶液で凝固、脱水、乾燥させることにより、グラフト共重合体(II−2)を得た。
【0081】
(製造例3)グラフト共重合体(II−3)の製造:
まず、製造例1と同様にして1段目重合体(F−1)ラテックスを製造した。次いで、製造例1の混合物(g−1)に代えて、下記混合物(g−3):
混合物(g−3)
メタクリル酸メチル 49.0部
アクリル酸n−ブチル 1.0部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.075部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.104部
を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、最終ラテックスを得た。得られたグラフト共重合体(II−3)のラテックスの重合率は99%以上、ラテックス粒子の質量平均粒子径は105nm、混合物(g−3)の各単量体から計算される2段目重合体のTgは99.5℃であった。
【0082】
続いて、製造例1と同様に酢酸カルシウム水溶液で凝固、脱水、乾燥させることにより、グラフト共重合体(II−3)を得た。
【0083】
(製造例4)グラフト共重合体(II−4)の製造:
まず、製造例1と同様にして1段目重合体(F−1)ラテックスを製造した。次いで、製造例1の混合物(g−1)に代えて、下記混合物(g−4):
混合物(g−4)
メタクリル酸メチル 50部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.075部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.104部
を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、最終ラテックスを得た。得られたグラフト共重合体(II−4)のラテックスの重合率は99%以上、ラテックス粒子の質量平均粒子径は115nm、混合物(g−4)の各単量体から計算される2段目重合体のTgは105℃であった。
【0084】
続いて、製造例1と同様に酢酸カルシウム水溶液で凝固、脱水、乾燥させることにより、グラフト共重合体(II−4)を得た。
【0085】
(製造例5)グラフト共重合体(II−5)の製造:
[第一段階の製造]
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、脱イオン水156.2部、N−ラウロイルザルコシンナトリウム(以下「S−LN」という)0.050部、硼酸0.625部、炭酸ナトリウム0.0625部、硫酸第一鉄0.0000625部、エチレンジアミン−4−酢酸−2ナトリウム(以下「EDTA」という)0.000250部を入れ、攪拌しながら下記混合物(g−5):
混合物(g−5)
アクリル酸n−ブチル 5.0部
スチレン 1.1875部
メタクリル酸メチル 6.125部
1,4−ブタンジオールジメタクリレート 0.047部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.015部
の40%を一括で投入し、窒素ガスを吹き込み実質的に酸素の影響のない状態とした。その後、70℃に昇温して、脱イオン水3.12部、ロンガリット0.250部を添加して60分間重合を行った。その後、前記混合物(g−5)の60%を30分にわたって連続的に添加して重合させ、添加終了後、更に90分間重合を継続して、半硬質状架橋樹脂ラテックスを得た。
【0086】
[第二段階の製造]
得られた半硬質状架橋樹脂ラテックスの入った容器に、脱イオン水3.125部、S−LN0.3125部、ロンガリット0.125部の混合水溶液を加え、内温を80℃に昇温した。その後、下記混合物(g−6):
混合物(g−6)
アクリル酸n−ブチル 40.5部
スチレン 8.75部
トリアリルイソシアネート 0.73部
1,4−ブタンジオールジメタクリレート 0.27部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
を150分間にわたって連続的に添加しながら重合させた。添加後、180分間重合を継続して、第一段階の樹脂を粒子内部に含有するエラストマー層の第二段階のラテックスを得た。得られたラテックス中の粒子の粒子径は250nmであった。
【0087】
[第三段階の製造]
得られた前記ラテックスに、脱イオン水3.125部、S−LN0.25部を添加し、80℃に内温を保持し、下記混合物(g−7):
混合物(g−7)
メタクリル酸メチル 35.625部
アクリル酸メチル 1.875部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.08625部
ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド 0.05625部
を56分にわたって連続的に添加しながら重合させた。添加後、60分間重合を継続した。得られたグラフト共重合体(II−5)ラテックスの重合率は99.5%で、混合物(g−7)の各単量体から計算される3段目重合体のTgは98.6℃であった。
【0088】
続いて、製造例1と同様に酢酸カルシウム水溶液で凝固、脱水、乾燥させることにより、グラフト共重合体(II−5)を得た。
【0089】
(製造例6)アクリル系高分子滑剤(C)の製造:
まず、以下の混合物1、混合物2、混合物3を用意した。
【0090】
混合物1:
メタクリル酸メチル 30部
n−オクチルメルカプタン 0.03部
混合物2:
メタクリル酸n−ブチル 20部
アクリル酸n−ブチル 30部
n−オクチルメルカプタン 0.25部
混合物3:
メタクリル酸メチル 20部
n−オクチルメルカプタン 0.05部
次に、攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、脱イオン水280部、ビニルコハク酸カリウムおよびアリルコハク酸カリウムの混合物1.5部、過硫酸アンモニウム2部、および前記混合物1を投入し、窒素置換後60℃に昇温し2時間過熱攪拌した。続いて、前記混合物2を1時間にわたり滴下し、2時間攪拌した。その後、前記混合物3を30分にわたり添加し、2時間攪拌して、共重合ラテックスを得た。
【0091】
得られた共重合体ラテックスを0.5%硫酸水溶液200部に50℃で滴下し、凝固、分離し、洗浄後、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリル系高分子滑材(C−1)を得た。このアクリル系高分子滑材(C−1)の還元粘度は(ηsp/c)は、0.1L/gであった。
【0092】
[実施例1]
メタクリル酸メチル重合体(商品名アクリペットSV、三菱レイヨン(株)製)50部と、製造例1で得たグラフト共重合体(II−1)50部を混合し、さらに、安定剤として、旭電化(株)社製商品名アデカスタブ2112を0.10部、アデカスタブAO−60を0.50部、アデカスタブLA−57を0.10部、紫外線吸収剤として、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製LA−31を0.60部、メタクリル系重合物(D)(三菱レイヨン(株)製、商品名メタブレンP530A)を0.50部、製造例6で得られたアクリル系高分子滑剤(C)を0.50部加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物を、230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練して、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
【0093】
このペレット状のメタクリル樹脂組成物を80℃で一昼夜乾燥し、φ25mm単軸押出機(サーモプラスチクス工業(株)製)を用いて、シリンダー温度220℃で、厚み0.4mmのフィルムを作製した。作製時に成形外観、成形厚み依存性を確認した。得られたフィルムをプレス成形機で塩化ビニル系樹脂シート(タキロン(株)製、商品名タキロンプレートET1980、厚み2mm)に積層した。この積層成形品を用いて、低温衝撃性、耐侯性、成形厚み安定性、および成形品の外観を評価した。その結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2および比較例1〜5]
配合組成を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層成形品を作製し、物性を評価した。
【0095】
以上の各結果を表1に示す。各実施例および比較例より以下のことが分かる。
【0096】
実施例1〜2のグラフト共重合体(II−1)を含有した被覆用樹脂組成物(メタクリル系樹脂組成物)を塩化ビニル系樹脂に積層した成形品は、塩化ビニル樹脂の耐衝撃性をあまり低下させることがなく、特に、低温環境下において十分に耐衝撃性を確保している。また、成形品の厚み、成形外観、流動性および耐侯性が良好である。このような効果は、アクリル系耐衝撃性改質剤を用いた成形品に比べ大幅に向上している。
【0097】
一方、比較例1〜5の積層成形品は、上記の物性バランスに劣るため、工業的利用価値が低い。
【0098】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の積層成形品は、耐候性、成形性、流動性および低温耐衝撃性に優れているため窓枠や外壁材等の屋外用途の建築用材料等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)1〜80質量%と、ポリオルガノシロキサン(b−1)およびポリアルキルアクリレート(b−2)を重合し、質量平均粒子径50nm〜400nmである重合体(A)を得て、その重合体(A)100質量部の存在下に、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル50〜100質量%、アルキル基の炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルエステル0〜50質量%、および、その他の共重合可能な単量体0〜20質量%からなり、FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20〜80℃となる単量体成分(B)30〜100質量部を重合して得られるグラフト共重合体(II)20〜99質量%とを含有する被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル系高分子滑剤(C)を、メタクリル酸メチル系重合体(I)とグラフト共重合体(II)の合計量を100質量部基準として、0.1〜10質量部含有する請求項1記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
メタクリル酸メチル単量体単位を30〜70質量%含有し[この重合体の単量体単位の総量を100質量%基準とした場合]、且つ還元粘度が0.3〜1.5L/gの範囲であるメタクリル系重合体(D)を、メタクリル酸メチル系重合体(I)とグラフト共重合体(II)の合計量を100質量部基準として、0.1〜10重量部含有する請求項1または2記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂基材と、該樹脂基材の表面上に積層された請求項1〜3の何れか一項記載の被覆用樹脂組成物からなる表層とを有する積層成形品。
【請求項5】
樹脂基材が、塩化ビニル系樹脂からなる請求項4記載の積層成形品。

【公開番号】特開2009−96913(P2009−96913A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271195(P2007−271195)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】