説明

被覆用組成物及び該被覆用組成物の硬化被膜を有する物品

【課題】家電製品、台所製品等の金属表面、プラスチック表面等を塗装して、油性ペン、油等による汚染を乾拭き等の簡単な方法で除去することを可能とし且つその除去機能を長期間維持し得る塗膜を形成するための貯蔵安定性に優れた被覆用組成物及び該被覆用組成物の硬化被膜を有する物品を提供すること。
【解決手段】ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂2〜50質量%、特定の構造式を有する片末端ラジカル重合性ポリシロキサン5〜40質量%、水酸基を有するラジカル重合性単量体5〜50質量%、及び上記の成分とはラジカル重合するがその他の反応は生じない官能基を有する単量体0〜70質量%の共重合体からなる基体樹脂、及び該基体樹脂と架橋反応することが可能な硬化剤を含有する被覆用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貯蔵安定性に優れた被覆用組成物及び該被覆用組成物の硬化被膜を有する物品に関し、より詳しくは、家電製品、台所製品等の金属表面、プラスチック表面等を塗装して、油性ペン、油等による汚染を乾拭き等の簡単な方法で除去することを可能とし且つその除去機能を長期間維持し得る塗膜を形成するための貯蔵安定性に優れた被覆用組成物及び該被覆用組成物の硬化被膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、台所製品等の金属表面、プラスチック表面等を被覆用組成物で塗装することにより、外観の美しさのみでなく、防錆性、抗菌性等の機能も付与することができる。また、塗装表面に汚れが付きにくく、汚れが付いても簡易に拭き取れる耐汚染性塗膜仕様も存在している。しかし、それらはいずれも、拭き取る際にシンナーを使用する必要があったり、繰り返し除去性が劣っていたりすると言う問題がある。
【0003】
そこで、油汚れ除去を容易にすることに関して、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等の潤滑性を有する物質を添加した被覆用組成物を用いて塗装し、油汚れの除去を簡単にする方法が提案されている。しかし、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等を添加した被覆用組成物を用いて塗装した塗膜では経時的にそれらの添加物がブリードアウトしてくるため油汚れ除去の機能を長期にわたって維持することは困難である。また、往々にして被覆用組成物とそれらの添加物との相溶性が悪く、塗膜の透明性が低下し美麗さが損なわれたり、表面に粘着性が生じたりする場合があった。
【0004】
また、アゾ基、パーオキシ基等のラジカル発生可能なポリジメチルシロキサン化合物を用いて(メタ)アクリル酸エステルを共重合し、分子鎖中にポリジメチルシロキサンをブロック型に配した基体樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、アゾ基、パーオキシ基等のラジカル発生可能なポリジメチルシロキサン化合物は非常に高価であるが故に樹脂そのものが非常に高価となる。このラジカル発生可能なポリジメチルシロキサンの使用量を減少せしめて安価にしようとすれば、油汚れ除去機能が低下してしまうという欠点があった。
【0005】
上記の諸問題を解決する手段として、ラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂の存在下においてラジカル重合性不飽和結合を有するポリジメチルシロキサン及びその他の単量体を重合し、ポリジメチルシロキサンを"幹−枝−葉"の"葉"の部分に配した基体樹脂が提案されている(特許文献2参照。)。しかし、このような基体樹脂はその表面上での水や油の接触角の長期間維持性は良好であったものの、依然として、油汚れ除去機能の長期間維持という観点からみると必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
更に、(a)ラジカル重合性を有するフッ素樹脂の存在下に片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、アルコキシシリル基を有する単量体、水酸基を有する単量体、及び上記成分とラジカル重合以外に実質的に反応しない官能基を有する単量体を共重合してなる基体樹脂及び(b)該基体樹脂と架橋反応可能な硬化剤より構成される被覆用組成物が提案されている(特許文献3参照。)。この被覆用組成物は上記の諸問題を解決する点では優れているが、貯蔵安定性の点では必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−100445号公報
【特許文献2】特開2000−119354号公報
【特許文献3】特開2003−292870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、家電製品、台所製品等の金属表面、プラスチック表面等、具体的には、電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫等の電気機器の外板、台所レンジフード、換気扇又は自動車、鉄道車輌、その他の車輌等を塗装して、油性ペン、油等による汚染を乾拭き等の簡単な方法で除去することを可能とし且つその除去機能を長期間維持し得る塗膜を形成するための貯蔵安定性に優れた被覆用組成物及び該被覆用組成物の硬化被膜を有する物品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の被覆用組成物は、
(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂2〜50質量%、
(B)一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、nは2以上の整数である。)
で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン及び/又は一般式(2)
【0011】
【化2】

(式中、R7、R8、R9、R10、R11及びR12はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、pは0〜10の整数であり、qは2以上の整数である。)
で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン5〜40質量%、
(C)水酸基を有するラジカル重合性単量体5〜50質量%、及び
(D)上記の成分(A)〜(C)とはラジカル重合するがその他の反応は生じない官能基を有する単量体0〜70質量%
の共重合体からなる基体樹脂(a)、及び該基体樹脂(a)と架橋反応することが可能な硬化剤(b)を含有することを特徴とする。
【0012】
なお、本発明の被覆用組成物においては上記の成分(D)は必須の成分ではないが、上記の成分(A)〜(D)の各々の配合量を表す質量%は(A)+(B)+(C)+(D)の総和、即ち基体樹脂(a)の全質量に基づく質量%である。
【0013】
また、本発明の硬化被膜を有する物品は、上記の被覆用組成物で被覆し、該組成物を硬化させることにより得られるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の被覆用組成物は貯蔵安定性に優れており、家電製品、台所製品等の金属表面、プラスチック表面等、具体的には、電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫等の電気機器の外板、台所レンジフード、換気扇又は自動車、鉄道車輌、その他の車輌等を塗装して、油性ペン、油等による汚染を乾拭き等の簡単な方法で除去することを可能とし且つその除去機能を長期間維持し得る塗膜を形成することができ、本発明の硬化被膜を有する物品は油性ペン、油等による汚染を乾拭き等の簡単な方法で除去することを可能とし且つその除去機能を長期間維持し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の被覆用組成物の調製に用いられるウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(A)は、水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)とを反応させることによって得られる。水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)との反応は、触媒の不存在下あるいは触媒の存在下で、室温〜80℃で実施することができる。
【0016】
水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)の水酸基1当量あたりイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)0.001モル以上0.1モル未満の量比で、好ましくは0.01〜0.08モルの量比で水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)とを反応させる。このイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)の量比が0.001モル未満である場合にはグラフト共重合が困難となり、反応混合物が濁るおそれがある。また、0.1モル以上である場合にはグラフト共重合の際にゲル化が起こりやすくなり好ましくない。
【0017】
上記の水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)はその水酸基価が5〜250であることが好ましく、10〜200であることがより好ましく、20〜150であることが更に好ましい。その水酸基価が5未満である場合には、水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)へのイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)の結合量が少なくなるのでグラフト化が十分に進行せず、反応混合物が濁る傾向にある。また、その水酸基価が小さい場合には基体樹脂(a)の水酸基価も小さくなるので油汚れ除去機能が低下する。一方、その水酸基価が250を越える場合には、後記の片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)との相溶性が悪化して相分離を起こし、グラフト共重合自体が進行しなくなる場合がある。
【0018】
このような水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)は公知の方法で調製することができるが、市販品を用いることもできる。市販品として、ルミフロン(登録商標)LF−100、LF−200、LF−302、LF−400、LF−554、LF−600、LF−986N(旭硝子株式会社製)、セフラルコート(登録商標)PX−40、A606X、A202B、CF−803(セントラル硝子株式会社製)、ザフロン(登録商標)FC−110、FC−220、FC−250、FC−275、FC−310、FC−575、XFC−973(東亞合成株式会社製)、ゼッフル(登録商標)GK−510(ダイキン工業株式会社製)、フルオネート(登録商標)K−700、K−702、K−703、K−704、K−705(大日本インキ化学工業株式会社製)等を挙げることができる。これらの水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
上記のイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)として、ジイソシアネート(A−2−1)と水酸基を有するラジカル重合性単量体(A−2−2)との反応生成物(ジイソシアネート(A−2−1)と水酸基を有するラジカル重合性単量体(A−2−2)との反応は公知の方法によりモル比1/1にて実施することができる。)、メタクリロイルイソシアネート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、及びm−又はp−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートから1種又は2種以上を選択して用いることができ、好ましくはメタクリロイルイソシアネート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、及びm−又はp−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートの1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0020】
上記のジイソシアネート(A−2−1)として、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(ジイソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアナトメチル)ベンゼン、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート等を挙げることができ、それらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
また、上記の水酸基を有するラジカル重合性単量体(A−2−2)として、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン等を挙げることができ、それらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の被覆用組成物の調製においては、ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(A)は、基体樹脂(a)の質量に基づいて2〜50質量%の範囲、好ましくは5〜40質量%の範囲で用いる。ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(A)の使用量が2質量%未満である場合には、塗膜としたときの耐候性が低下することがあり、50重量%を越える場合には、グラフト共重合時にゲル化を起こすことがある。
【0023】
本発明の被覆用組成物の調製に用いられる片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)は一般式(1)
【0024】
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、又はシクロヘキシル基であり、それらは同一であっても異なっていてもよいが、R1は好ましくは水素原子又はメチル基であり、R2、R3、R4、R5は好ましくはそれぞれメチル基又はフェニル基であり、R6は好ましくはメチル基、ブチル基又はフェニル基であり、nは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数であり、より好ましくは30以上の整数である。)
及び/又は一般式(2)
【0025】
【化4】

(式中、R7、R8、R9、R10、R11及びR12はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、又はシクロヘキシル基であり、それらは同一であっても異なっていてもよいが、R7は好ましくは水素原子又はメチル基であり、R8、R9、R10、R11は好ましくはそれぞれメチル基又はフェニル基であり、R12は好ましくはメチル基、ブチル基又はフェニル基であり、pは0〜10の整数であり、好ましくは3であり、qは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数であり、より好ましくは30以上の整数である。)
で示される。
【0026】
このような片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)は公知の方法で調製することができるが、市販品を用いることもできる。市販品として、サイラプレーン(登録商標)FM−0711(数平均分子量1,000)、FM−0721(数平均分子量5,000)、FM−0725(数平均分子量10,000)(以上、チッソ株式会社製)、X−22−174DX(数平均分子量4,600、信越化学工業株式会社製)等を挙げることができる。これらの片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の被覆用組成物の調製においては、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)は基体樹脂(a)の質量に基づいて5〜40質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いる。片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B)の使用量が5質量%未満である場合には、油汚れ除去機能が不十分であり且つ/又は油汚れ除去機能の維持性が悪化し、40質量%を越える場合には、被覆用組成物の単位体積あたりの架橋密度が低下するために油性ペン、油汚れ等のしみ込みが起こりやすくなり、結果的に初期の油汚れ除去機能が不十分となり、また硬化被膜の強度が低下して維持性が不十分となる。
【0028】
本発明の被覆用組成物の調製に用いられる水酸基を有するラジカル重合性単量体(C)としては、水酸基及びラジカル重合性二重結合を有するものであれば特に制限はなく、例えば、p−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレートをはじめ、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、又はこれらのε−カプロラクトン付加物、プラクセル(登録商標)FM乃至FAシリーズ(ダイセル化学株式会社製、カプロラクトン付加単量体)等の各種のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とε−カプロラクトンとの付加物、又はこれらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、カージュラ(登録商標)E(シェル化学株式会社製)等のエポキシ化合物との付加物等を挙げることができる。中でも、主として重合体のTg調整という観点から2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらの水酸基を有するラジカル重合性単量体(C)は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の被覆用組成物の調製においては、水酸基を有するラジカル重合性単量体(C)は、油汚れ除去機能を達成するために、基体樹脂(a)の質量に基づいて5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜40質量%の範囲で用いる。水酸基を有するラジカル重合性単量体(C)の使用量が5質量%未満である場合には、被覆用組成物の架橋密度が不十分なため初期の油汚れ除去機能が低下し、また、硬化被膜の強度や耐溶剤性も低下する。一方、50質量%を越える場合には、後記の硬化剤(b)の添加量が必然的に増えるため硬化被膜の単位体積あたりの親水部が増加する。なお、40質量%を越えると架橋密度が上がりすぎて硬化被膜が脆くなったり、基体樹脂(a)が分子ミセルを形成して濁ってしまい、硬化被膜外観が低下することがある。
【0030】
本発明の被覆用組成物の調製においては、成分(A)と成分(B)+(C)との比率[(A)/((B)+(C))、以下ベースグラフト比と略記する]が70/30〜2/98の範囲内となることが好ましい。成分(A)の量が多くなってベースグラフト比が70/30を越える場合には、その結果として成分(B)+(C)の量が少なくなるため、硬化被膜の光沢が低下し、また、油汚れ除去機能が低下する傾向がある。また、成分(A)の量が少なくなってベースグラフト比が2/98よりも小さい場合には、硬化被膜の耐候性及び接触角維持性が低下し、また、油汚れ除去機能の維持性が低下する傾向がある。
【0031】
本発明の被覆用組成物の調製に用いられる、上記の成分(A)〜(C)とはラジカル重合するがその他の反応は生じない官能基を有する単量体(D)は、ラジカル重合するときの反応温度、反応条件において成分(A)〜(C)と反応するものが選ばれ、その例として、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基をもつ(メタ)アクリレート類、これらの化合物の水素原子をフッ素、塩素、臭素等の原子で置換した(メタ)アクリレート類、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ベオバ(登録商標)(シェル化学株式会社製、分岐状モノカルボン酸のビニルエステル)等のビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル類、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、これらの水素原子をフッ素、塩素、臭素等の原子で置換したビニルエーテル類、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド類、これらの水素原子をフッ素、塩素、臭素等の原子で置換したアクリルアミド類、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン等のエポキシ基含有ビニル化合物類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン類、その他マレイミド、ビニルスルホン等を挙げることができ、これらは2種以上を適宜組み合わせて用いられるが、共重合性の観点から主として(メタ)アクリレート類が好ましく用いられる。
【0032】
一方、成分(D)として好ましくないものとしては、ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、N−{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}ピペリジン等の塩基性窒素含有ビニル化合物類、(メタ)アクリル酸、アンゲリカ酸、クロトン酸、マレイン酸、4−ビニル安息香酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、モノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等の酸性ビニル化合物類が挙げられる。
【0033】
本発明の被覆用組成物の調製においては、成分(D)は油汚れ除去機能を達成するための必須成分ではないが、基体樹脂(a)の質量に基づいて0〜70質量%の範囲で用いる。成分(D)の使用量が70質量%を越えると他の成分、特に架橋密度を上げるための成分(C)の結合量が低下するため油汚れ除去機能あるいはその維持性が不十分となる。成分(D)は、最終的な基体樹脂(a)のTgが40℃以上となるように組み合わせて用いることが好ましい。最終的な基体樹脂(a)のTgが40℃未満の場合には該被覆用組成物が硬化した後の被膜のTgがあまり上がらないため、硬化被膜が高温にさらされた場合に油汚れ除去機能が低下する場合がある。
【0034】
以上に説明した各成分を用いて基体樹脂(a)を調製する重合方法として、公知慣用の重合方法のうち、溶液ラジカル重合法又は非水分散ラジカル重合法を用いることが最も簡便であり、特に推奨される。
【0035】
重合の際に用る溶剤として、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ(登録商標)100(エッソ石油株式会社製)等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット、ケロシン等の脂肪族、脂環族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル,ブチルセロソルブアセテート等のエステル類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコール又はグリコールエーテル類を挙げることができ、それらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
重合はアゾ系又は過酸化物のような公知慣用の種々のラジカル重合開始剤を用いて常法により実施できる。重合時間は特に制限されないが、通常は工業的には1〜48時間の範囲内で選ばれる。また、重合温度は通常は30〜150℃、好ましくは60〜120℃である。重合時、更に必要に応じて、公知慣用の連鎖移動剤、例えばブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー等を添加することもできる。
【0037】
本発明における基体樹脂(a)はその質量平均分子量がポリスチレン換算のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で約5,000〜200,000であることが適切である。5,000未満である場合には、造膜性、硬化被膜の耐候性及び耐薬品性が悪化する傾向があり、結果的に油汚れ除去機能の維持性が低下し、また、200,000を越える場合には、その重合時にゲル化する危険性があるので好ましくない。
【0038】
基体樹脂(a)と架橋反応することが可能な硬化剤(b)としては、基体樹脂(a)の水酸基と反応できる硬化剤から適宜選ばれ、一般にアクリル硬化型塗料の硬化剤として知られているものを使用することができる。そのような硬化剤として、例えば、アニリンアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート等を挙げることができる。被塗装物が電化製品、台所製品等の場合には、一般に表面硬度を必要とすることが多いため、そのような場合にはメラミン樹脂が選択される。メラミン樹脂の添加量としては、基体樹脂(a)の固形分100質量部に対し好ましくは10〜40質量部、より好ましくは15〜30質量部である。
【0039】
本発明の被覆用組成物は必要に応じて本発明の趣旨を損なわない範囲でその他の樹脂、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂等を含有することもできる。更に、本発明の被覆用組成物は必要に応じて本発明の趣旨を損なわない範囲で各種の添加剤、例えば、界面活性剤、増量剤、着色顔料、防錆顔料、フッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、防錆剤、染料、ワックス等を含有することもできる。しかしながら、一般的には、上記の添加剤を含有することにより硬化被膜の単位体積あたりの架橋密度が低下し、ラッカースプレー、フェルトペン等のラッカーやインキがしみ込みやすくなるので、油汚れ除去機能を確保するためには、添加剤の配合量を必要最小限の量に留めるべきである。
【0040】
また、本発明の被覆用組成物は公知の任意の塗装方法で塗布することができ、また、その不揮発分の量については特に制限されるものではなく、適宜選択できるが、通常30〜50質量%とすることが好ましい。
【0041】
また、本発明の「硬化被膜を有する物品」とは本発明の被覆用組成物を被覆し、該組成物を硬化させることにより得られるものであり、汚染除去機能が必要とされる物であれば特に制限されないが、電子レンジ、洗濯機、冷蔵庫等の電気機器の外板、台所レンジフード、換気扇あるいは自動車、鉄道車輌、その他の車輌等の屋内又は屋外仕様も含むものである。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を参考例、製造例、実施例及び比較例により説明するが、本発明はそれらによって何ら限定されるものではない。以下の参考例、製造例、実施例及び比較例で用いた材料の市販品名を次に示す。
水酸基を有するフッ素樹脂(A−1):セフラルコート(商標)CF−803(セントラル硝子株式会社製、水酸基価60、数平均分子量15,000)
片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B):サイラプレーン(登録商標)FM−0721(チッソ株式会社製、数平均分子量5,000)
ラジカル重合開始剤:パーブチル(登録商標)O(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日本油脂株式会社製)
硬化剤(b):サイメル(登録商標)303(ヘキサメトキシメチロールメラミン、三井サイテック株式会社製)
【0043】
参考例1<ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(A)の合成例>
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、1,554部のセフラルコートCF−803、233部のキシレン及び6.3部の2−イソシアナトエチルメタクリレートを入れ、乾燥窒素雰囲気下で80℃に加熱した。80℃で2時間反応させ、赤外吸収スペクトルによりサンプリング物のイソシアネートの吸収が消失したことを確認した後、反応混合物を取り出し、不揮発分50質量%の成分(A)を得た。
【0044】
製造例1〜9<基体樹脂(a)及び比較例用樹脂の合成例>
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、それぞれ第1表に示す量(質量部)の参考例1で合成した成分(A)及び酢酸n−ブチルを入れ、窒素雰囲気中で90℃まで加熱した後、予め混合しておいたそれぞれ第1表に示す量(質量部)のメチルメタクリレート(MMA)、2−エチルヘキシルメタクリレート(2−EMA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)、サイラプレーン(登録商標)FM−0721、パーブチルO、γ−γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−MTPMS)及びキシレンの混合物を同温度で2時間かけて滴下した。2時間同温度で保持した後第1表に示す量(質量部)のパーブチルOを追加し、更に90℃で5時間保持することによって、それぞれ第1表に示す値の質量平均分子量及び不揮発分量を有する基体樹脂(a)又は比較例用樹脂の溶液を得た。
【0045】
【表1】

【0046】
なお、製造例1〜3は基体樹脂(a)に合致した例であり、製造例4は成分(A)が入っていない場合であり、製造例5及び6は成分(B)の量が本発明の範囲外の場合であり、製造例7及び8は成分(C)の量が本発明の範囲外の場合であり、製造例9はγ−MTPMSを含有する本発明の範囲外の場合である。
【0047】
実施例1〜3及び比較例1〜6
クロメート処理を施した電気亜鉛めっき鋼板(50×150mm)上に、1液型アクリル樹脂塗料であるアクローゼ(登録商標)#6000(白色)(大日本塗料株式会社製)を、バーコーター#50を用いて乾燥膜厚約25μmとなるように塗装し、150℃で20分間焼き付けて白色塗膜を形成した。製造例1〜9で得た基体樹脂(a)又は比較例用樹脂の溶液にそれらの樹脂の固形分100質量部当り20質量部のサイメル303を加え、更に塗料中の不揮発分が40質量%になるように酢酸n−ブチルで希釈して、被覆用組成物を調製し、上記白色塗膜上に塗装し、更に、160℃で20分間焼き付けて硬化被膜を形成した。
【0048】
各々の硬化被膜を有する鋼板について下記の特性の観察、測定を実施した。
<硬化被膜の外観>
硬化被膜の異常の有無、異常の状態を目視で確認した。
【0049】
<油汚れ除去性(初期)>
硬化被膜の表面上に黒色のマジックインキ(株式会社内田洋行の登録商標、寺西化学工業株式会社製フェルトペン)で線を引き、室温で24時間乾燥させた後、布で乾拭きし、下記の評価基準で評価した。
○:マジックインキ(登録商標)の跡が全く残らない場合
△:僅かに跡が残る場合
×:はっきりと跡が残る場合。
【0050】
<油汚れ除去性(曝露後)>
ATLAS社製Ci4000サンシャインウェザオメーターを用い、キセノンを光源とし、ISO 11341 method 1 屋外(塗料、ワニスの促進耐候性試験法)に従って600時間曝露した硬化被膜の表面に、黒色のマジックインキ(登録商標)で線を引いてマジックインキ(登録商標)の溶剤が十分に乾燥した後(約2時間後)、その表面を上記と同様に乾拭きし、上記の同じ評価基準で評価した。
【0051】
<撥水性(初期、曝露後)>
協和界面科学株式会社製CA−W型自動接触角計を用い、硬化被膜上に約5μLの脱イオン水を載せ、このときの接触角を測定した。載せる位置を変えて6点測定し、最も小さい値と最も大きい値を除いた4点で平均値を計算して四捨五入によって整数値に丸めた。また、ATLAS社製Ci4000サンシャインウェザオメーターを用い、キセノンを光源とし、ISO 11341 method 1 屋外(塗料、ワニスの促進耐候性試験法)に従って硬化被膜を曝露した。最大600時間まで、100時間経過する毎に硬化被膜をとりだし、十分に水分を取り除いた後、上記と同様に接触角の測定を行った。
【0052】
<貯蔵安定性>
密封した状態の塗料を50℃の高温槽中に20日間放置し、増粘の変化状態を下記の評価基準で評価した。
○:異常なし
△:増粘傾向あり
×:著しく増粘傾向あり。
上記の観察及び測定の結果は第2表及び第3表(撥水性、接触角)に示す通りであった。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
実施例1〜3においては全ての評価項目において良好なる結果を示した。しかし、比較例1においては初期の油汚れ除去性は良好なるものの、曝露後の油汚れ除去性維持性に難点がみられ、また、接触角も曝露によって大きく低下した。比較例2においては初期より汚染物質のしみ込みがみられ、接触角も曝露によって大きく低下した。比較例3においては硬化被膜表面に未反応残存モノマーのブリードがみられ、べたつく上に、硬化被膜の単位体積あたりの架橋密度が低下するため汚染物質のしみ込みがみられた。同様に比較例4でも初期より汚染物質のしみ込みがみられた。比較例5では基体樹脂がミセルを形成して濁ってしまい、このため硬化被膜外観も濁り外観不良を呈した。比較例6においては増粘傾向があり、貯蔵安定性が満足できるものではなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂2〜50質量%、
(B)一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、nは2以上の整数である。)
で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン及び/又は一般式(2)
【化2】

(式中、R7、R8、R9、R10、R11及びR12はそれぞれ水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、それらは同一であっても異なっていてもよく、pは0〜10の整数であり、qは2以上の整数である。)
で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン5〜40質量%、
(C)水酸基を有するラジカル重合性単量体5〜50質量%、及び
(D)上記の成分(A)〜(C)とはラジカル重合するがその他の反応は生じない官能基を有する単量体0〜70質量%
の共重合体からなる基体樹脂(a)、及び該基体樹脂(a)と架橋反応することが可能な硬化剤(b)を含有することを特徴とする被覆用組成物。
【請求項2】
ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(A)が、水酸基を有するフッ素樹脂(A−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(A−2)との反応生成物である請求項1記載の被覆用組成物。
【請求項3】
基体樹脂(a)と架橋反応することが可能な硬化剤(b)がメラミン樹脂である請求項1又は2記載の被覆用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の被覆用組成物で被覆し、該組成物を硬化させることにより得られる硬化被膜を有する物品。

【公開番号】特開2006−131809(P2006−131809A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324264(P2004−324264)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】