説明

被覆粒子の製造方法、及び被覆粒子の製造装置

【課題】内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造方法であって、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する流体を得る工程と、流体の圧力を下げて、粒子の表面に金属錯体を析出させる工程と、流体の温度を上げて、粒子の表面に析出させた金属錯体を分解し、粒子の表面を金属膜で被覆して被覆粒子を得る工程と、を有する、被覆粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆粒子の製造方法、及び被覆粒子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品や製品の製造に原料として被覆粒子が用いられる場合がある。被覆粒子としては、金属材料や有機・無機材料などの材料からなる粒子と、その粒子の周囲を粒子とは異なる材料で被覆したものが知られている。このような被覆粒子の材料の選択を適切に行うことによって、得られる部品や製品等を高機能化することが期待される。
【0003】
ところで、電子部品の分野では、電子部品の軽薄短小化に伴って、原料として用いられる粒子も微細化することが要求されている。このような微細化の要求に応えるため、微細な被覆粒子を製造する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、粒子と有機金属錯体を、超臨界状態の流体中に分散させて粒子の表面をコーティングする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−541320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の微細粒子のコーティング方法では、粒子の表面に形成されるコーティング(被膜)の連続性が十分ではない。従来の方法では、例えば、図5に示すように被覆物18が粒子状となり、内部の粒子12のかなりの部分が被覆粒子20の表面に露出してしまう。このように、内部の粒子12が被覆粒子20の表面に露出してしまうと、被覆粒子20としてのパフォーマンスを十分に発揮できないこと、及び特性がばらついてしまうことが懸念される。このような事情の下、粒子を微細化しても被膜の連続性が保たれて、被覆粒子の表面における内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子を製造する技術が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、一つの側面において、粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造方法であって、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する流体を得る工程と、流体の圧力を下げて、粒子の表面に金属錯体を析出させる工程と、流体の温度を上げて、粒子の表面に析出させた金属錯体を分解し、粒子の表面を金属膜で被覆して被覆粒子を得る工程と、を有する、被覆粒子の製造方法を提供する。
【0008】
上記本発明の被覆粒子の製造方法では、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む分散媒中に分散させた粒子の表面に金属錯体を析出させた後、その金属錯体を分解させて粒子の表面を金属膜で被覆している。このような方法を採用することによって、金属錯体を分解させた後に分解によって生じた粒状の金属を粒子の表面に付着させて被覆する方法に比べて、金属膜の連続性が向上し、内部の粒子の露出を十分に低減することができる。
【0009】
本発明では、別の側面において、粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造装置であって、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する流体を収容する容器と、流体の圧力を下げて粒子の表面に金属錯体を析出させる圧力調整部と、流体を加熱して粒子の表面に析出した金属錯体を分解し被覆粒子を生成させる加熱部と、を備える、被覆粒子の製造装置を提供する。
【0010】
上記本発明の製造装置では、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む分散媒中に分散させた粒子の表面に金属錯体を析出させた後、その金属錯体を分解させて粒子の表面を金属膜で被覆することができる。これによって、金属膜の連続性が向上し、内部の粒子の露出が十分に低減された被覆粒子を製造することができる。また、このような被覆粒子を連続的に製造することが可能になるため、被覆粒子の生産性を向上することができる。さらに、分散媒における金属錯体の含有量を高くして、膜の厚みを大きくすることができる。
【0011】
本発明では、さらに別の側面において、粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造装置であって、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する第1の流体を収容する第1の容器と、第1の容器に連結され、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む分散媒と該分散媒の中に粒子と該粒子の表面に付着した金属錯体とを含有する第2の流体を収容する第2の容器と、第2の流体を加熱して金属錯体を分解し、被覆粒子を生成させる加熱部と、を備える、被覆装置の製造装置を提供する。
【0012】
上記本発明の製造装置では、分散媒と粒子と該粒子表面に付着した金属錯体とを含む第2の流体を収容する第2の容器を有する。このような第2の容器に収容された第2の流体を加熱する加熱部を有することから、金属錯体を分解させて粒子の表面を金属膜で被覆することができる。これによって、金属膜の連続性が向上し、内部の粒子の露出が十分に低減された被覆粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子の製造方法を提供することができる。また、内部の粒子の露出を十分に低減することが可能な被覆粒子の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法によって得られる被覆粒子の好適な実施形態を模式的に示す拡大断面図である。
【図2】本発明の被覆粒子の製造装置の好適な実施形態を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の製造方法によって得られる被覆粒子の好適な実施形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】図3の電子顕微鏡写真に示された被覆粒子において、矢印Pに沿って行った元素分析の結果を示すグラフである。
【図5】従来の被覆粒子の一例を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態の被覆粒子の製造方法は、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒を調製する調製工程と、分散媒と粒子とを混合及び撹拌して、分散媒中に分散質である粒子が分散した、所定の温度及び圧力を有する流体を得る分散工程と、流体の圧力を下げて、粒子の表面に金属錯体を析出させる析出工程と、流体の温度を上げて、粒子の表面に析出させた金属錯体を分解し、粒子の表面を金属膜で被覆して被覆粒子を得る被覆工程と、を有する。以下、各工程の詳細を説明する。
【0016】
調製工程は、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒を調製する工程である。金属錯体としては、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素に溶解し、且つ熱分解するものを用いることができる。好ましい金属錯体としては、熱分解の温度が110〜160℃のものが挙げられる。具体的には、一層均一性に優れた金属膜を得る観点から、各種金属のアセチルアセトネートが好ましく、銅(II)アセチルアセトネートまたは銅(II)ヘキサフルオロアセチルアセトネートがより好ましい。
【0017】
二酸化炭素は、金属錯体の溶解性を向上する観点から、超臨界状態であることが好ましい。二酸化炭素における金属錯体の溶解量は、粒子上に形成される金属膜を厚くする観点から、高い方が好ましい。金属錯体が溶解した超臨界又亜臨界状態の二酸化炭素は、次の分散工程において、分散質を分散させる分散媒として機能する。
【0018】
分散工程は、分散媒と粒子とを混合及び撹拌して、分散媒中に分散質である粒子が分散した流体(場合により、「第1の流体」という。)を得る工程である。粒子としては、市販の金属粒子又はセラミック粒子を用いることができる。セラミック粒子としては、金属酸化物粒子及び金属窒化物粒子等が挙げられる。これらの種類の粒子は通常の方法で調製してもよい。
【0019】
粒子の平均粒径は、分散媒中における分散性を良好に維持する観点から、好ましくは0.1〜10μmである。なお、本明細書における平均粒径は、市販の粒度分布測定装置を用いて測定された粒度分布におけるD50である。本実施形態の製造方法によれば、このように微細な粒子を用いても、内部の粒子の露出が十分に低減された被覆粒子を製造することができる。
【0020】
分散媒に対する粒子の混合比率は、良好な分散性を維持しつつ十分に均一な金属膜を形成する観点から、分散媒を基準として好ましくは1〜5体積%である。流体の圧力及び温度は、二酸化炭素が超臨界状態となるように調整することが好ましい。例えば、流体の圧力は例えば15〜45MPa、流体の温度は例えば30〜80℃とする。この流体は、分散媒中に分散質である粒子の分散性を良好にするために、例えば撹拌翼やスターラーを用いて十分に撹拌することが好ましい。
【0021】
析出工程は、流体の圧力を下げて、粒子の表面に金属錯体を析出させる工程である。流体の圧力を下げると、超臨界又は亜臨界状態にある二酸化炭素の密度が下がって金属錯体の溶解度(溶解可能量)が減少する。これに伴って、粒子の表面に金属錯体が析出する。圧力低下後の流体の圧力は、例えば10〜30MPa、流体の温度は例えば30〜80℃とすることができる。
【0022】
流体の減圧速度は、例えば、10〜50MPa/時間とすることができる。このような減圧速度で流体の圧力を下げることによって、工程を過度に長くすることなく、粒子の表面に金属錯体を効率よく析出させることができる。この工程においても、流体を継続的に撹拌することが好ましい。この工程では、超臨界又は亜臨界状態にある二酸化炭素を含む分散媒と、該分散媒の中に分散した粒子と、該粒子の表面に付着した金属錯体と、を含む流体(以下、場合により「第2の流体」という。)が得られる。この第2の流体における分散媒には、一部の金属錯体が溶解していてもよい。
【0023】
被覆工程は、流体を加熱して流体の温度を上げて、粒子の表面に析出させた金属錯体を分解し、粒子の表面を金属膜で被覆して被覆粒子を得る工程である。流体の温度は、少なくとも、粒子の表面に析出させた金属錯体が熱分解する温度にまで上げる。これによって、粒子に付着していた金属錯体が分解して金属膜を形成し、粒子の表面を、連続性を有する金属膜で被覆することができる。
【0024】
加熱後の流体の温度は特に限定されず、用いる金属錯体の種類に応じて調整することが好ましい。加熱後の流体の温度は、例えば120〜400℃である。通常の溶媒は気化してしまうため、溶媒中に分散した状態で金属錯体を熱分解させることは困難である。しかしながら、本実施形態では、分散媒として超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を用いているため、金属錯体を分散した状態で熱分解させることができる。なお、この工程においても、流体を継続的に撹拌することが好ましい。これによって、粒子同士、及び被覆粒子同士が凝集することを抑制することができる。
【0025】
被覆工程では、超臨界又は亜臨界状態にある二酸化炭素を含む分散媒と、該分散媒の中に分散した被覆粒子と、を含む流体(以下、場合により「第3の流体」という。)が得られる。この第3の流体における分散媒には、一部の金属錯体が溶解していてもよい。
【0026】
以上の工程によって、粒子と該粒子の表面を被覆する金属膜とを有する被覆粒子を製造することができる。
【0027】
図1は、上記実施形態の製造方法によって得られる被覆粒子の一例を模式的に示す拡大断面図である。被覆粒子10は、粒子12(コア粒子)と該粒子12の表面を被覆する金属膜14(シェル)とを有している。被覆粒子10の平均粒径は、例えば0.1〜10μmである。金属膜14の厚みは、好ましくは0.1〜10nmであり、より好ましくは0.5〜8nmである。上記実施形態の製造方法では、金属膜14の厚みのばらつきを低減することができる。また、図1に示すように、粒子12の表面全体を金属膜14で覆われたコアシェル構造を有する被覆粒子10を得ることも可能である。
【0028】
また、本実施形態の製造方法によれば、上述の一連の工程を、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を用いて行っている。すなわち、液相と気相との間の相転移を伴うことなく、分散媒中に溶解している金属錯体を粒子12の表面に析出させた後、該金属錯体を熱分解させて金属膜14を有する被覆粒子10を得ることができる。したがって、流体中における粒子12の良好な分散状態を維持した状態で被覆粒子10を得ることができるため、粒径の小さい粒子12を用いても粒子12同士及び被覆粒子10同士の凝集の発生を十分に抑制することができる。このため、本実施形態の製造方法によって得られる被覆粒子10は、気相中においても、優れた分散性を維持することができる。
【0029】
本実施形態の製造方法によれば、機械的な手法を採用せずに製造することができるため、粒子12の変形も十分に抑制することができる。また、液体を用いずに被覆粒子10を製造することができるため、粒子12や金属膜14の酸化を抑制することが可能である。また、電気めっき工程のように、製造時における水素の発生も抑制することができる。例えば、ニッケル粒子に銅めっきを施す場合、ニッケル粒子が水素を吸蔵する現象があるが、本実施形態の製造方法によればそのような現象は生じない。
【0030】
被覆粒子10は、被覆粒子10表面における粒子12の露出が十分に低減されているため、例えば電子部品の内部電極用の被覆粒子として、または端子電極用の被覆粒子として好適に用いることができる。粒子12と金属膜14の好適な組み合わせとしては、ニッケル粒子と銅膜、ニッケル粒子と銀膜、及びニッケル粒子とパラジウム膜などが挙げられる。このうち、ニッケル粒子と銅膜は、電子部品の端子電極用に特に好適に用いることができる。
【0031】
次に、本発明の被覆粒子の製造装置の好適な実施形態を説明する。
【0032】
図2は、本実施形態の被覆粒子の製造装置を模式的に示す説明図である。製造装置100は、粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造装置であり、二酸化炭素ボンベ1と、第1の流体101を収容する第1の容器3と、第1の容器3の下流側に配置され、第2の流体102を収容する第2の容器4と、ボンベ1と第1の容器3とを連結するラインL1と、第1の容器3と第2の容器4とを連結するラインL2と、第2の容器4に連結されたラインL3と、を備える。
【0033】
ボンベ1内に収容された二酸化炭素は、ラインL1を通じて第1の容器3に供給できるようになっている。ラインL1の途中(ボンベ1と第1の容器3の間)には、チラー2、ポンプ(加圧手段)7及びバルブV1が配設されている。ラインL1としては、金属製の配管を用いることができる。ラインL2,L3も金属製の配管を用いることができる。
【0034】
第1の容器3は、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒に分散された粒子と、を含有する第1の流体101を収容する。第1の容器3の内部には、超臨界状態又は亜臨界状態にある第1の流体101を攪拌するためのスターラー3aが配置されている。なお、スターラー3aに代えて、例えば攪拌翼を用いてもよい。
【0035】
第1の容器3の内部は、超臨界又は亜臨界状態にある第1の流体101を収容することから、優れた耐圧性を有することが求められる。このため、例えば金属製のものを用いることができる。第1の容器3は、その内部にある第1の流体101の圧力を調整するために、圧力調整部を備えていてもよい。この圧力調整部は、例えば圧力計、第1の容器3に連結された配管、及びバルブを有する。
【0036】
第1の容器3は、第1の流体101の温度を調節するために、例えば湯浴や水浴などの恒温槽(温度調整部)内に配置することが好ましい。第1の容器3の内部の圧力は、圧力調整部を用いて、例えば15〜45MPaに調整することが好ましい。第1の容器3の内部の温度は、温度調整部を用いて、例えば30〜80℃に調整することが好ましい。この第1の容器3を用いて、上述の分散工程を行うことができる。なお、分散工程を行う前に、第1の容器3を用いて調製工程を行ってもよい。
【0037】
調製工程を行う場合、原料である金属錯体と粒子とを入れた第1の容器3を密閉した後、ボンベ1からラインL1を経由して二酸化炭素を第1の容器3内に導入する。そして、ポンプ7を用いて、二酸化炭素が超臨界状態又は亜臨界状態となるまで加圧する。これによって、第1の流体101が得られる。ポンプ7を使用する際にチラー2を用いて二酸化炭素を冷却すればポンプ7の空転を抑制することができる。分散工程では、第1の流体101を、スターラー3aを用いて攪拌する。
【0038】
第1の容器3に収容された第1の流体101は、圧力差によって、ラインL2を通じて第2の容器4に移送することができる。すなわち、第2の容器4の圧力を第1の容器3の圧力よりも低く設定することによって、第1の容器3に収容された第1の流体101を第2の容器4に移送することができる。これによって析出工程を開始することができる。すなわち、閉止されていたバルブV2を開放することによって、析出工程を開始することができる。析出工程に伴い、第2の容器4は、第1の流体101の圧力を低減することによって得られる第2の流体102を収容する。
【0039】
第2の容器4は、第2の流体102の圧力を調整するために、第1の容器3と同様に圧力調整部を備えることが好ましい。圧力計に加えて、ラインL3,バルブV3を圧力調整部とすることもできる。この場合、第2の容器4の圧力は、例えばバルブV3の開度を変えて調整することができる。第2の容器4の圧力は、分散媒に溶解していた金属錯体を十分に析出させる観点から、好ましくは10〜30MPaである。
【0040】
析出工程によって得られる第2の流体102は、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む分散媒と、該二酸化炭素中に分散した分散質である粒子と、該粒子の表面に析出した金属錯体と、を含有する。このときの第2の流体102の圧力は、例えば10〜30MPa、第2の流体102の温度は、例えば30〜80℃に調整することが好ましい。
【0041】
第2の容器4の内部は、超臨界又は亜臨界状態にある第2の流体102を収容することから、優れた耐圧性を有することが求められる。このため、例えば金属製のものを用いることができる。
【0042】
第2の容器4の周囲には、加熱部5が設けられる。加熱部5としては、通常の電気炉を用いることができる。加熱部5によって、第2の容器4及び第2の流体102を加熱し、第2の流体102の温度が、金属錯体の分解温度に到達すると、粒子の表面に析出(付着)していた金属錯体が分解する。これによって、粒子の表面に連続性を有する金属膜を形成することができる。すなわち、加熱部5は、第2の流体102を加熱して粒子の表面に付着した金属錯体を分解し、被覆粒子を生成させる機能を有する。このように、第2の容器4及び加熱部5を用いて、上述の被覆工程を行うことができる。
【0043】
すなわち、被覆工程の前には、第2の容器4は、超臨界又は亜臨界状態にある二酸化炭素を含む分散媒と、該分散媒中に分散した粒子と、該粒子の表面に付着した金属錯体と、を含有する第2の流体102を収容する。一方、被覆工程の後には、第2の容器4は、超臨界又は亜臨界状態にある二酸化炭素を含む分散媒と、該分散媒中に分散した被覆粒子と、を含有する第3の流体103を含有することとなる。なお、被覆工程中には、第2の容器は、第2の流体102と第3の流体103の混合物を含有することもある。第2の容器4は、内部の流体を混合するための撹拌翼4aを有している。析出工程開始時から被覆工程終了時まで、この撹拌翼4aを用いて、第2の流体102及び第3の流体103を撹拌することが好ましい。
【0044】
被覆工程まで終了した後、バルブV3を開放して第2の容器4を減圧し、生成した被覆粒子を回収する。これによって、図1に示すような被覆粒子10を得ることができる。このように本実施形態の被覆粒子の製造装置100を用いれば、上記実施形態の被覆粒子の製造方法を容易に実施することができる。
【0045】
被覆粒子の製造装置100を用いれば、被覆粒子10の表面における粒子12の露出が十分に低減された被覆粒子10を得ることができる。また、粒子12の表面全体が金属膜14で覆われた被覆粒子10を得ることも可能である。さらに、製造装置100を用いれば、金属膜14の厚みのばらつきが十分に低減された被覆粒子10を得ることができる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、被覆粒子の製造装置100は、2つの容器を備えているが、1つの容器のみを用いて、上記実施形態の被覆粒子の製造方法を行ってもよい。この場合の製造装置は、例えば、二酸化炭素が収容されたボンベ1と、第1の流体101、第2の流体102及び第3の流体103の少なくとも一つを収容する容器と、ボンベ1と当該容器とを連結するラインと、容器内の圧力を調整する圧力調整部と、当該容器を加熱する加熱部と、を備えるものが挙げられる。圧力調整部としては、製造装置100における第1の容器3又は第2の容器4と同様に、容器に連結された配管、圧力計、及びバルブなどで構成することができる。
【0047】
このように、一つの容器を用いて、上記実施形態の被覆粒子の製造方法を行うと、容器内には、第1の流体101、第2の流体102及び第3の流体103が順次生成することとなる。したがって、装置の部品数を低減することができる。
【実施例】
【0048】
実施例及び比較例を用いて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<被覆粒子の調製>
図2に示す被覆粒子の製造装置100を準備した。第1の容器3及び第2の容器4としては、内容積300mlの耐圧性容器を用いた。また、これとは別に、市販の球状ニッケル粒子(平均粒子径:0.5μm)30gと、銅(II)アセチルアセトネート[Cu(C、分子量:261.7]を準備した。
【0050】
第1の容器3に、超臨界状態の二酸化炭素と該二酸化炭素に溶解した銅(II)アセチルアセトネートを含む分散媒と球状ニッケル粒子とを導入し、スターラー3aで撹拌して第1の流体101を調整した。第1の容器3の内部の圧力は30MPa、内部の温度は60℃に調整した。なお、第1の流体101には未溶の銅(II)アセチルアセトネートが含まれていた。
【0051】
第2の容器4に、超臨界状態の二酸化炭素を導入し、第2の容器4の内部の圧力を25MPa、内部の温度を60℃に調整した。そして、バルブV2を開けて第1の流体101を第1の容器3から第2の容器4にラインL2を経由して移送した。移送は1時間行った。これによって、超臨界状態の二酸化炭素に溶解していた銅(II)アセチルアセトネートが、球状ニッケル粒子の表面に析出した。このようにして、第2の流体102を得た。
【0052】
次に、加熱部5を用いて第2の容器4を加熱し、第2の流体102の温度を400℃まで上げた。このとき、第2の容器4の圧力は、25MPaに維持した。これによって、粒子の表面に析出していた銅(II)アセチルアセトネートが分解し、粒子の表面に連続性を有する銅膜を有する被覆粒子を得た。超臨界状態の二酸化炭素と、該二酸化炭素中に分散した被覆粒子を含む第3の流体103を第2の容器4の外部に排出して、被覆粒子を回収した。
【0053】
<被覆粒子の分析>
回収した被覆粒子の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM、倍率:400000倍)を用いて観察した。図3は、実施例1の被覆粒子の断面の電子顕微鏡写真である。この電子顕微鏡観察の結果から、球状ニッケル粒子の表面が連続性を有する銅膜で被覆されていることが確認された。この被覆粒子は、図1に示すように内部にニッケル粒子(コア)、その外側に銅膜(シェル)を有する、所謂コアシェル構造を有していた。次に、図3に示す電子顕微鏡の画像において、矢印Pに沿って透過型電気顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて元素分析を行った。
【0054】
図4は、矢印Pの始点を0とし、始点から被覆粒子の中心部に向かって(つまり、矢印Pの方向)測定位置を移動したときの検出元素の強度変化を示すグラフである。図4の横軸は矢印Pの始点からの距離を示し、縦軸は各元素の検出強度(X線のカウント数)を示す。図4における線31(一点鎖線)は、ニッケルの検出強度を示し、線32(実線)は、銅の検出強度を示す。図4に示す結果から明らかなように、ニッケル粒子の表面上に銅膜が形成されていることが確認された。
【0055】
(実施例2)
第1の容器3から第2の容器4への第1の流体101の移送を、1時間から24時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして被覆粒子を調製し、被覆粒子の分析を行った。実施例2でも、実施例1と同様に球状ニッケル粒子の表面が連続性を有する銅膜で被覆された被覆粒子が得られた。この被覆粒子は、図1に示すように内部に球状ニッケル粒子(コア)、その外側に銅膜(シェル)を有する、所謂コアシェル構造を有していた。なお、実施例2で得た被覆粒子の銅膜の厚みの方が、実施例1で得た被覆粒子の銅膜の厚みよりも大きかった。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様にして第1の流体101を調製した。そして、この流体101の圧力を30MPaに維持したまま、流体101の温度を400℃に上げて、銅(II)アセチルアセトネートを分解させた。これによって、球状ニッケル粒子の表面に銅が付着した。このようにして被覆粒子を調製した。
【0057】
実施例1と同様にして、被覆粒子の走査型電子顕微鏡観察を行った。その結果、球状ニッケル粒子の表面には、図5に示すように微粒子状の銅粒子が付着していた。このように、ニッケル粒子の表面に銅(II)アセチルアセトネートを析出させることなく、銅(II)アセチルアセトネートの分解により生じた粒状の銅をニッケル粒子の表面に付着させる手法では、連続性を有する銅膜を形成できないことが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1…ボンベ、2…チラー、3…第1の容器、3a…スターラー、4…第2の容器、5…加熱部、7…ポンプ、10,20…被覆粒子、12…粒子、14…金属膜、18…被覆物、20…被覆粒子、100…製造装置、101…第1の流体、102…第2の流体、103…第3の流体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造方法であって、
超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に前記粒子と、を含有する流体を得る工程と、
前記流体の圧力を下げて、前記粒子の表面に前記金属錯体を析出させる工程と、
前記流体の温度を上げて、前記粒子の表面に析出させた前記金属錯体を分解し、前記粒子の表面を金属膜で被覆して被覆粒子を得る工程と、を有する、被覆粒子の製造方法。
【請求項2】
粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造装置であって、
超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する流体を収容する容器と、
前記流体の圧力を下げて前記粒子の表面に前記金属錯体を析出させる圧力調整部と、
前記流体を加熱して前記粒子の表面に析出した前記金属錯体を分解し、被覆粒子を生成させる加熱部と、を備える、被覆粒子の製造装置。
【請求項3】
粒子と該粒子を被覆する金属膜とを有する被覆粒子の製造装置であって、
超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素及び該二酸化炭素に溶解した金属錯体を含む分散媒と、該分散媒の中に粒子と、を含有する第1の流体を収容する第1の容器と、
前記第1の容器に連結され、超臨界又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む分散媒と該分散媒の中に粒子と該粒子の表面に付着した前記金属錯体とを含有する第2の流体を収容する第2の容器と、
前記第2の流体を加熱して前記金属錯体を分解し、被覆粒子を生成させる加熱部と、を備える、被覆粒子の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−172189(P2012−172189A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34696(P2011−34696)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】