装飾部品用セラミックスおよび装飾部品
【課題】 優れた耐磨耗性および高い硬度に加えて高い剛性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスを提供する。
【解決手段】 窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含む装飾部品用セラミックスである。これによれば、装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を上記酸化物が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、上記チタン化合物を強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度を維持することができる。
【解決手段】 窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含む装飾部品用セラミックスである。これによれば、装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を上記酸化物が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、上記チタン化合物を強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度を維持することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金色の色調を醸し出す装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる装飾部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾部品に用いられる金色の色調が求められる部分には、純金やこれらの合金,黄銅等の各種金属が使用されていたが、いずれも硬度が低いため硬質物質との接触により傷が生じやすかった。また、基材の表面に金メッキが施されたものも使用されていたが、硬質物質との接触や摩擦により、金メッキが剥離しやすかった。
【0003】
また、基材の表面に下地層を形成し、ガスをプラズマ状態に励起するCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)によってDLC(Diamond Like Carbon)皮膜を形成させる硬質コーティングにより、表面における耐磨耗性や硬度を向上させることができるものの、耐磨耗性や硬度が十分でないために装飾部品の表面に傷が生じやすく、次第に装飾性が損なわれるという問題があった。
【0004】
そのため、このような問題を解決するために、機械的特性に優れたセラミックスが用いられるようになりつつあり、本願出願人は、特許文献1に示すように、少なくともチタン,窒素,ホウ素を構成元素とし、チタンが全量中80〜95重量%、ホウ素が全量中3〜12重量%、窒素が全量中2〜8重量%からなる焼結体であって、該焼結体中にTiN相およびTiB相を主結晶相として含む金色焼結体を提案した。これによれば、高い強度および硬度を有するとともに、高い靱性および耐食性に優れ、また、焼結性の向上により金色の鏡面が容易に現出し、アレルギーを引き起こす金属の溶出がないため、長期間にわたり腐食や傷が発生せず、しかも人に対して害のない金色装飾品として、例えば、釣糸案内用装飾部品や時計用装飾部品に適用できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−157027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願出願人が特許文献1にて提案した金色焼結体は、ニッケルやクロム等の金属が低減されていることから、金属アレルギーを引き起こしにくく、TiB相によって抗折強度,ビッカース硬度,破壊靱性等の機械的特性は向上しているものの、釣糸案内用装飾部品に用いようとすると、現在、釣糸案内用装飾部品はさらなる耐磨耗性の向上が要求されており、このような要求に十分応えられるものではなかった。さらに、この金色焼結体を装飾部品として用いるには、上記機械的特性とともに、高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる金色の色調を有していることが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、優れた機械特性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる装飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記構成において、前記酸化ジルコニウムおよび前記酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、前記硼素の含有量および前記硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の複合装飾部品は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなる装飾部品と、装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の装飾部品用セラミックスによれば、窒化チタンを主成分とし、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種と、硼化チタンと、硼素とを含むことから、装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、窒化チタン結晶粒子同士および窒化チタン結晶粒子と硼化チタン結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度を維持することができる。また、硼化チタンは硬度が高いので、耐磨耗性を向上させることができるとともに、導電性が高いので、硼化チタンを含むことにより、他の物質との接触による静電気の発生を抑制できることから、パーティクルが付着することを抑えることができる。
【0015】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であるときには、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種は、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むときには、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0017】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であるときには、程良い明るさと鮮やかさを有する黄金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え続けることができる。
【0018】
また、本発明の装飾部品用セラミックスからなる本発明の釣糸案内用装飾部品によれば、釣糸を案内するときに釣糸に付着した細かい砂等に擦られても高い硬度を有しているので表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を維持しつつ、長期間の使用に耐えるものとすることができる。
また、本発明の複合装飾部品によれば、本発明の装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されているときには、例えば、異なる色調が紫色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の黄金色との組み合わせによって、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。また、異なる色調が黒色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の黄金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、異なる色調が銀色であれば、より高級感に溢れ装飾性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示す、(a)は釣糸用ガイドリングの斜視図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【図2】本発明の複合装飾部品の一例を示す装飾面を平面視した模式図である。
【図3】本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣竿の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性を評価するための耐磨耗性評価装置の概略構成図である。
【図5】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示す、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。
【図6】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの他の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の筐体が開いた状態の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品を用いた石鹸ケースの構成の一例を示す模式図である。
【図11】本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品であるコーヒーカップセットの一例を示す斜視図である。
【図12】本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を取り付けた車体の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を用いたコーナーポールの一例を示す正面図である。
【図14】本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたゴルフクラブの一例を示す正面図である。
【図15】本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたスパイクシューズの一例を示す底面図である。
【図16】本発明の装飾部品用セラミックスからなる楽器用装飾部品を用いたギターの一例を示す斜視図である。
【図17】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いた人工歯冠の一例を示す模式図である。
【図18】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【図19】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いためがねの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の装飾部品用セラミックスの実施の形態の例について説明する。
【0021】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むものである。なお、ここでいう主成分とは、装飾部品用セラミックスを構成する全成分100質量%に対して50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾部品として良好な金色の色調を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特長を有していることから、本発明の装飾部品用セラミックスにおいては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
【0022】
また、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種を含むことにより、耐磨耗性を向上させることができる。窒化チタンを主成分とし、硼素と、硼化チタンとを含み、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種が含まれていないセラミックスに汗や泥水等が付着すると、表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されて酸化チタンとなるときに体積膨張して脱粒しやすい状態となる。一方、窒化チタンを主成分とし、硼素と、硼化チタンとを含み、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種を含むセラミックスに汗や泥水等が付着しても、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種の結晶粒子が、このセラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を抑えて脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。
【0023】
また、硼素を含むことにより、この硼素が窒化チタン結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性および剛性を向上させることができる。また、硼化チタンは硬度,熱伝導性,導電性および耐食性とも高いので、硼化チタンを含むことにより、これらの特性を向上させることができる。
【0024】
なお、硼素(B)は、非晶質硼素,結晶質硼素のいずれでもよいが、非晶質硼素は結晶質硼素より小さな粒子が多く充填された状態の硼素であるため、機械的強度を向上させることができる。
【0025】
このように、本発明の装飾部品用セラミックスは、特に、高い剛性を有しているので、装飾的価値を高めようと複雑な形状に加工を施しても、かかる大きな力によっても変形することなく精密に加工することができる。そのため、本発明の装飾部品用セラミックスは、耐磨耗性,破壊靱性に優れ、高い硬度および剛性を有するとともに、装飾的価値の高い金色の色調となるので、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与えることができる。
【0026】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることが好適である。
【0027】
酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウム少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素および硼化チタンを構成する硼素を合わせた含有量が3質量%以上14質量%以下であるときには、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種は、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素の含有量が上記範囲内にあれば、鮮やかさが損なわれないので、高い硬度と鮮やかさを兼ね備えることができる。
【0028】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことが好適である。この範囲のマンガンを含むことにより、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0029】
また、本発明の装飾用部品セラミックスは、さらにニッケルの含有量が2質量%以上10質量%以下であって、クロムを炭化物換算したときの含有量が1質量%以上5質量%以下であることが好適である。
【0030】
また、ニッケルの含有量が2質量%以上10質量%以下であれば、装飾部品用セラミックスの硬度をほとんど低下させることなく、窒化チタンの結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性および剛性を向上させることができる。
【0031】
また、クロムを炭化物換算したときの含有量が1質量%以上5質量%以下であれば、ニッケルと反応して化合物を生成し、ニッケルがイオン化して流出するのを抑制するとともに、装飾部品用セラミックの色調に鮮やかさを与えることができる。
【0032】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタンの窒素は熱伝導度法により求め,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,硼素およびマンガンの各含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、窒化チタンについては、元素Nの含有量を測定して窒化物に換算し、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムについては、各元素Al,Zrの含有量を測定して酸化物に換算すればよい。また、硼素およびマンガンについては、各元素B,Mnの測定値が含有量となる。なお、窒化チタンについては、測定を行なわず、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,硼素およびマンガンの各含有量の和を100質量%として、この値から差し引いた値を窒化チタンの含有量としてもよい。
【0033】
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスがニッケルや炭化クロムを含むときは、ニッケルおよび炭化クロムの各含有量も蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、ニッケルについては、元素Niの測定値が含有量となり、炭化クロムについては、元素Crの含有量を測定して炭化物に換算すればよい。
【0034】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*およびb*の値がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることが好適である。この範囲であれば、程良い明るさと鮮やかさとを有する金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続けることができる。
【0035】
ここで、本発明の装飾部品用セラミックスにおける装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、装飾的価値が要求されない面を含む必要はないので、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部品用セラミックスを時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものであり装飾的価値が要求されるので装飾面であるが、時計の駆動機構が嵌め込まれる内側の面等は、通常は装飾的価値を要求されないので装飾面ではない。
【0036】
そして、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
【0037】
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0038】
また、装飾面の算術平均高さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均高さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均高さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
【0039】
この光とは、波長域380〜780nmの可視光線の集合であり、算術平均高さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
【0040】
なお、算術平均高さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用セラミックスの装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均高さRaの値とする。
【0041】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面における開気孔率が明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。そのため、装飾面における開気孔率は2.5%以下であることが好ましく、開気孔率が1.1%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置(ニレコ製 LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm2,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mm2における開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
【0043】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96であることが好ましい。組成式をTiNxとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は黄金色から薄い黄金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い黄金色になる。このような観点から組成式をTiNxとしたときの原子数xの値は、0.8以上0.96以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
【0044】
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンを構成する窒素の一部が硼素に置換され、窒化チタンの組成式がTiB1−xNx(但し、xは0.8≦x≦0.96である。)であることが好ましい。窒素の原子数xが上記範囲でそれ自体硬度の高い硼素に置換されることにより、硬度が高くなるため耐磨耗性が向上するとともに、酸化開始温度も高くなるため、酸化に伴って発生するおそれのある色調のばらつきも生じにくくなる。
【0045】
そして、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体的な例としては、釣糸用ガイドリングおよびこれを備えた釣糸用ガイドがある。
【0046】
図1は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示しており、(a)は釣糸用ガイドリングの平面図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【0047】
図1に示す例の釣糸用ガイドリング1は、その内周側に釣糸(図示しない)を挿通して案内するものであり、釣糸用ガイド6は、釣糸用ガイドリング1を保持する保持部2を備え、この保持部2の支持部3および釣竿(図示しない)に固定する固定部4が一体的に形成された枠体5に釣糸用ガイドリング1を備えたものである。この釣糸用ガイドリング1を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0048】
また、黄金色の色調の釣糸用ガイドリング1と、釣糸用ガイド6や釣竿の色調との調和がよいので釣具に好適に用いることができる。特に、黄金色の色調を呈することから、嗜好品に高級感を求める人の好む釣具とすることができる。なお、釣糸用ガイドリング1の表面を透明な耐磨耗性の高い膜、例えば、非晶質硬質炭素からなる膜で被覆して、耐磨耗性をさらに向上させてもよい。
【0049】
次に、図2(a)〜(f)は、本発明の複合装飾部品の一例を示す装飾面を平面視した模式図である。
【0050】
図2(a)〜(f)に示す複合装飾部品10は、装飾面を平面視して、黄金色を呈する本発明の装飾部品用セラミックス11と、装飾部品用セラミックス11と異なる色調の装飾面を有する装飾部品12とが並べて配置されているものの例である。装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状として、図2(a)はいずれも三角形状であり、(b)はいずれも四角形状であり、(c)はいずれも平行四辺形状であり、(d)は六角形状と三角形状との組み合わせであり、(e)は八角形状と四角形状との組み合わせであり、(f)は四角形状の装飾部品12と装飾部品12の周囲を囲んだ装飾部品用セラミックス11との組み合わせである。
【0051】
そして、装飾部品用セラミックス11と異なる色調として、具体的には、装飾部品12の色調が紫色であれば、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。
【0052】
また、装飾部品12の色調が黒色であれば、本発明の装飾部品用セラミックス11の呈する色調の黄金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、装飾部品2の色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【0053】
なお、装飾部品12は、本発明の装飾部品用セラミックス11と異なる色調で装飾性を高めるものであればよいため、材質は問わず、また、装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状や組み合わせについては、これらの図2(a)〜(f)に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0054】
図3は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣竿の一例を示す斜視図である。
【0055】
図3に示す釣竿20は、例えば、1aおよび1cを本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングとして、1bおよび1dを色調が紫色または黒色である釣糸用ガイドリングを備えた釣竿でもよく、あるいは1bおよび1dを本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングとして、1aおよび1bを色調が紫色または黒色である釣糸用ガイドリングを備えた釣竿としてもよい。このように隣り合う釣糸用ガイドリングを異なる色調を有する釣糸用ガイドリングとすることで、釣りそのものを楽しむ以外に、色調を楽しむこともできる。
【0056】
なお、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性は、以下に示す構成の耐磨耗性評価装置を作製し、これを用いることにより評価することができる。
【0057】
図4は、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。この耐磨耗性評価装置30は、ナイロン製の糸32と、所定位置で糸32に張力を与える複数のプーリー33と、プーリー33の1つであるプーリー33aに連結して糸32を矢印の向きに走行させるモーター(図示しない)と、糸32に泥水を付着させる水槽34とからなり、おもり35の質量分の荷重が与えられ、水槽34を通って泥水が付着した糸32が、所定位置に治具(図示しない)等で固定された円柱状の装飾部品用セラミックス31の外周面を摺動する構造となっており、ナイロン製の糸32の号数は、例えば3号とすればよい。
【0058】
この耐磨耗性評価装置30を用いて装飾部品用セラミックス31の耐磨耗性を評価する際の条件は、例えば、おもり35の質量を500gとし、糸32が円柱状の装飾部品用セラミックス31の外周を摺動する速度を60m/分とし、糸32の走行距離が3000m以上になるように設定すればよい。そして、モーターを駆動し糸32を摺動させた後に、円柱状の装飾部品用セラミックス31が磨耗して生じた傷の最も深い部分を表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて測定し、この測定値を比較することにより耐磨耗性を評価することができる。
【0059】
図5は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図6は、本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図7は、本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。なお、これらの図において同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
【0060】
図5に示す例の時計用ケース40Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部41と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部42とを備えており、凹部41は厚みの薄い底部43と厚みの厚い胴部44とからなる。また、図6に示す例の時計用ケース40Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部45と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する、胴部44に形成された足部42とを備えている。
【0061】
そして、図7に示す例の時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン55が挿入される貫通孔53を有する中駒52と、中駒52を挟むようにして配置され、ピン55の両端が差し込まれるピン穴54を有する外駒51とから構成されており、中駒52の貫通孔53にピン55が挿入され、挿入されたピン55の両端が外駒51のピン穴54に差し込まれることにより、中駒52と外駒51とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
【0062】
また、中駒52には、引張荷重が頻繁にかかるため、196N以上の引張強度が求められる。この引張強度を求めるには、貫通孔53の長さより長い、超硬製のピン(図示しない)を中駒52の貫通孔53a,53bに挿入した後、このピンを引き離す方向に引っ張り、中駒52が破壊したときの強度をロードセルで読み取ればよい。
【0063】
これら、時計用ケース40A,40Bおよび時計用バンド50を構成するバンド駒として用いられる本発明の時計用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。
【0064】
次に、図8は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図であり、図9は、図8に示す例の携帯電話機の筐体を開いた状態を示す斜視図である。
【0065】
本発明の携帯端末機用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体例としては、図8,9に示す、押して操作する各種キー,ケース等がある。
【0066】
図8に示す例の携帯電話機60は、携帯電話機60のモードを、ラジオを聴くモードであるラジオモードや音楽を聴くモードである音楽モードなどに変更するモードキー61aと、携帯電話機60をマナーモードにするマナーキー61bとを第1の筐体62に備え、指などの接触を検知してこの接触により入力が行なわれるタッチセンサ63と、被写体を撮像するカメラ64と、ライト65と、タッチセンサ63等の入力の有効または無効を設定するスライドスイッチ66とを第2の筐体67に備えている。
【0067】
そして、図9に示す例の携帯電話機60は、第2の筐体67を開いた状態を示すものであり、第1の筐体62と第2の筐体67とはヒンジ68を介して連結されており、これにより第2の筐体67は自在に開閉することができる。また、第2の筐体67は、フロントケース69aとリアケース69bとを有しており、フロントケース69aには液晶表示ユニット70が設けられている。
【0068】
また、第1の筐体62もフロントケース71aとリアケース71bとを有しており、フロントケース71aには押して操作する各種キーが設けられている。このキーには、電話番号等を入力するテンキー72a,各種機能のメニューについてカーソルを移動するカーソル移動キー72b,着信時に押すことによって通話を開始する通話キー72c,電源のオンオフおよび通話中に押すことによって通話を終了する電源/終話キー72d,カーソル移動キー72bの中心に配置されたセンターキー72fの左右に配置されたファンクションキー73L,73R等がある。
【0069】
上術のケースであるフロントケース69aや71a,リアケース69bや71b,押して操作するキーであるテンキー72a,カーソル移動キー72b,通話キー72c,電源/終話キー72d,センターキー72f,ファンクションキー73LやR等の少なくともいずれか1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え、このような色調を呈する携帯電話を所有することによる満足感を感じさせることができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスは、他の色調との相性がよいことから、様々な色調の部材と組み合わせて用いることもできるので、需要者の嗜好の多様化に応えることができる。
【0070】
なお、携帯端末機の一例として携帯電話機を用いて説明したが、本発明の携帯端末機が用いられる携帯端末機は携帯電話機に限定されるものではなく、携帯情報端末(PDA),携帯型のカーナビゲーションやオーディオプレーヤー等の携帯型の端末機であって、部品に装飾性が求められるものであれば、様々な携帯端末機が該当する。
【0071】
次に、図10は、本発明の生活用品用装飾部品を用いた石鹸ケースの構成の一例を示す模式図である。
【0072】
この石鹸ケース80は、本体83と蓋82とからなり、本体83の石鹸81の載置面84には、石鹸81の表面に付着している水を切るための排出孔85が形成されている。石鹸81を使用しないときには、本体83の載置面84に石鹸81は載置され、蓋82を本体83に嵌め合わすことにより収納されており、石鹸81を使用するときには、本体83から蓋82を外して石鹸81を取り出して使用する。そして、使用後の石鹸81を本体83の載置面84に載置することにより、排出孔85により石鹸81の表面に付着している水を切ることができ、石鹸81が溶けるのを防ぐことができるものである。
【0073】
この石鹸ケース80である本体83と蓋82とを本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、多くの需要者に所有することによる満足感および使用の際に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。また、石鹸ケース80だけではなく、ハブラシやカミソリの柄,耳かきおよびハサミ等の生活用品用装飾部品に好適に用いることができる。特に、高級ホテルの浴室や洗面所において、各種ロゴ等のマーキングされたアメニティーグッズに本発明の装飾部品用セラミックスを用いることにより、非日常感が強く演出された高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0074】
次に、図11は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品であるコーヒーカップセットの一例を示す斜視図である。
【0075】
図11に示すコーヒーカップセット90は、コーヒーカップ91とソーサー92とスプーン93とからなり、このコーヒーカップ91,ソーサー92およびスプーン93を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、多くの需要者に対し、所有することによる満足感および使用の際に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0076】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは他の色調との相性がよいので、コーヒーカップ91,ソーサー92またはスプーン93の少なくとも1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成し、他種を異なる色調として組み合わせて用いることもできる。
【0077】
また、本発明の生活用品用装飾部品は、石鹸ケース80やコーヒーカップセット90だけではなく、ハブラシやカミソリの柄,耳かきおよびハサミ等の生活用品用装飾部品に好適に用いることができる。特に、高級ホテルの浴室や洗面所において、各種ロゴ等のマーキングされたアメニティーグッズに本発明の装飾部品用セラミックスを用いることにより、非日常感が強く演出された高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0078】
次に、図12は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を取り付けた車体の一例を示す斜視図である。
【0079】
図12に示す車体100には、車両用品用装飾部品であるエンブレム101が取り付けられており、このエンブレム101を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に対し、視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができるので、車体100の装飾的価値を高めることができる。なお、図12では車体100の前方に取り付けたエンブレム101を示したが、車体100の後方に本発明の装飾部品用セラミックスで形成したメーカー名や車種名等のエンブレム101を取り付けることによっても、車体100の装飾的価値を高めることができる。
【0080】
また、図13は、本発明の車両用品用装飾部品を用いたコーナーポールの一例を示す正面図である。
【0081】
図13に示すコーナーポール102は、駐車場における車両の出し入れ時等に運転席から見えにくい車体の左前方(右ハンドル車の場合)の目印とするために取り付けられるものであり、車体への取り付け部103とポール部104とLED等からなる点灯部105と、を有している。このコーナーポール102のポール部104を本発明の装飾部品用セラミックスで形成したり、点灯部105に替えて本発明の装飾部品用セラミックスで形成したエンブレムを取り付けたりすることにより、コーナーポール102はもとより車体の装飾的価値が向上するので好適である。
【0082】
また、本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用装飾部品は、エンブレム101やコーナーポール102だけでなく、ホイールキャップの一部や車体のボンネット上に設けられるフードオーナメントの一部、さらに車内に取り付ける小物やアクセサリーまたはこれらの一部として用いても、装飾的価値が向上するので好適である。
【0083】
次に、図14は、本発明のスポーツ用品用装飾部品を用いたゴルフクラブの一例を示す正面図である。
【0084】
図14に示すゴルフクラブ110は、シャフト111と、このシャフト111の一端に取り付けられたグリップ112と、シャフト110の他端に取り付けられたヘッド113と、を備えている。ヘッド113は、ゴルフボールを捉える部分であるフェース面113Fや地面に接する部分となるソール面113Sを有しており、図14に示すように、本発明の装飾部品用セラミックスで形成したアクセサリー114がフェース面113Fに埋め込まれていれば装飾的価値が向上するので好適である。
【0085】
また、本発明のスポーツ用品用装飾部品は、フェース面113Fだけではなく、ソール面113Sやグリップ112に本発明の装飾部品用セラミックスで形成したアクセサリー114が埋め込まれていても好適である。
【0086】
図15は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたスパイクシューズの一例を示す底面図である。
【0087】
図15に示すスパイクシューズ120は、例えば、サッカーやラグビーに用いられるものであり、靴底121にはボールを蹴るときに軸足を固定するための突起状に形成されたスタッド122が複数装着されている。本発明の装飾部品用セラミックスがこのスタッド122として用いられると、装飾的価値が向上することに加え、従来から用いられているアルミニウム合金製のスタッドよりも耐磨耗性が優れているので、スタッド122の交換頻度を少なくできるため、交換によるコストを低減することができる。なお、競技中に発生するおそれがあるスタッド122の欠けを防止するために、透明な樹脂でスタッド122の表面を被覆してもよい。
【0088】
次に、図16は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる楽器用装飾部品を用いたギターの一例を示す斜視図である。
【0089】
図16に示すギター130の主な構成は、本体131と、本体131から前方に延設されたネック132とからなる。ネック132の先端部にはナット133が配設され、ナット133より前方には、弦134の張力を調整することができるチューニングベグ135がそれぞれの弦134毎に設けられている。また、弦134を保持してナット133に対して動かないようにするためのクランプ機構136がナット133の近くに配設されている。
【0090】
一方、本体131には、弦134の張力を同時に増大、あるいは減少させて印象的な音効果を与えるためのトレモロ装置137が取り付けられている。トレモロ装置137は、本体131に取り付けられているベースプレート138と、このベースプレート138に保持されて弦134を調律可能に保持するブリッジサドル139と、トレモロ装置を稼働させるトレモロバー140と、により構成されている。このギター130のベースプレート138,ブリッジサドル139,トレモロバー140等を、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、ギター130の装飾的価値が向上するため、このギター130を所有することによる満足感を感じさせることができるとともに、多くの観客を魅了することができる。
【0091】
次に、図17は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いた人工歯冠の一例を示す模式図である。
【0092】
図17の模式図は、歯肉145の内部の顎骨142に埋め込まれた人工歯根(インプラント)143に固定された支台(アパットメント)144に装着された人工歯冠141を示すものである。この人工歯冠141を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、歯が金色の輝きを放つため、歯の装飾を好む需要者に高い陶酔感を与えることができる。
【0093】
また、顎骨142に埋め込まれる人工歯根143がスクリュー状に形成され、このスクリュー状に形成された部分に、新成骨の生成を誘導する能力が高いキチン,コラーゲンおよびこれらの誘導体の少なくともいずれか1種を含む生体分解性基材からなる硬質の接合層が形成されていてもよい。また、支台144の基部には、架橋された上記生体分解性基材よりなる軟質の接合層が、顎骨142の上側に位置する歯肉145に当接するように形成されていてもよい。
【0094】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタン質焼結体からなるので、生体に適合しやすく、この利点を生かして、人工歯冠141だけでなく、人工歯根143や支台144に用いても好適である。
【0095】
また、図18は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【0096】
図18に示すイヤホンユニット150は、聴取者の耳殻内に挿入されて音波を生成するスピーカ151と、このスピーカ151を内蔵するケース152と、このケース152に当接するコード導出部153を介してスピーカ151に電気信号を供給するコード154と、を備えている。
【0097】
このイヤホンユニット150のケース152を、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、装飾的価値が高まり、多くの需要者に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えられる装身具用装飾部品とすることができる。
【0098】
さらに、図19は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いためがねの一例を示す斜視図である。
【0099】
図16に示すめがね160は、視力を矯正したり、紫外線から目を保護したりするための一対のレンズ161a,161bと、一対のレンズ161a,161bを連結するブリッジ162と、それぞれのレンズ161a,161bに連結される鎧163a,163bと、ヒンジを介して回動することができるように鎧163a,163bに連結されるテンプル164a,164bと、レンズ161a,161bにそれぞれノーズパッド連結部材を介して取り付けられるノーズパッド165と、を備えている。
【0100】
このめがね160のブリッジ162、テンプル164a,164bおよびノーズパッド165の少なくとも1つを、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、装飾的価値が高まり、多くの需要者に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えられる装身具用装飾部品とすることができる。
【0101】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスのビッカース硬度および破壊靭性は、JIS R 1610−2003およびJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定することができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスの剛性については、JIS R 1602−1995に規定される超音波パルス法で測定した動的弾性率の値で確認することができる。
【0102】
次に、本発明の装飾部品用セラミックスの製造方法の一例を説明する。
【0103】
本発明の装飾部品用セラミックスを得るには、まず、主成分である窒化チタンと、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種と、硼素と、硼化チタンとからなる各粉末を所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10μm以上30μm以下の窒化チタンの粉末と、平均粒径が0.8μm以上5μm以下の酸化アルミニウムの粉末および平均粒径が1μm以上2μm以下の酸化ジルコニウムの粉末の少なくとも1種と、平均粒径が1μm以上4μm以下の硼素の粉末と、平均粒径が1μm以上4μm以下の硼化チタンとを準備する。なお硼素(B)の粉末は、非晶質硼素の粉末,結晶質硼素の粉末のいずれでもよいが、焼結性および反応性の活性化の点から非晶質硼素の粉末が好適である。
【0104】
そして、例えば、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの粉末の少なくとも1種が7質量%以上18質量%以下、硼素の粉末が2質量%以上10質量%以下、硼化チタンの粉末が1質量%以上6質量%以下であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
【0105】
さらに、マンガンを含む装飾部品用セラミックスを得るには、平均粒径が13μm以上23μm以下のマンガンの粉末または組成式がMnCO3として表される、平均粒径が13μm以上23μm以下の炭酸マンガンの粉末を調合原料の一部とし、マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.2質量%以上2質量%以下とし、炭酸マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.1質量%以上1質量%以下、調合原料に加えればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0106】
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiNx(0<x<1)であってもよいが、耐磨耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、特に、装飾部品用セラミックスの主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNxとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
【0107】
次いで、調合原料に有機溶媒として、例えばイソプロパノールを加え、ミルを用いて150時間以上かけて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等により円板,平板,円環体等の所望形状に成形する。なお、調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0108】
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることが好適である。成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、成形型の寿命を長くすることができるとともに、相対密度が95%以上であり,開気孔率が2.5%以下であり,ビッカース硬度(Hv)が10.5GPa以上の焼結体を得ることができる。
【0109】
そして、得られた成形体を必要に応じて窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂した後、窒素雰囲気中で焼成し、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、窒素雰囲気中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiO2で表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用セラミックスの全体の色調が白っぽくかすむからである。
【0110】
さらに、焼成温度を1950℃以上2100℃以下とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるからである。
【0111】
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、ラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用セラミックスを得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
【0112】
装飾部品用セラミックスからなる製品の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法,射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形し、焼結した後に、製品形状になるように研削加工を施した後、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
【0113】
ここで、装飾面となる表面の算術平均高さRaを0.03μm以下とするには、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で24時間行なえばよい。
【0114】
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用セラミックスは、高い硬度および剛性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる黄金色の色調を有するので、上述のように、釣糸用ガイドリング等の釣糸案内用装飾部品、腕時計用ケースや時計用バンド駒等の時計用装飾部品、押して操作する各種キーやケース等の携帯端末機用装飾部品、石鹸ケースやコーヒーカップセット,ナイフ,フォーク,ハブラシやカミソリの柄,耳かき,ハサミ,印材や名刺等の生活用品用装飾部品、メーカーや車種名等のエンブレムやコーナーポール等の車両用品用装飾部品、ゴルフクラブのアクセサリーやスパイクシューズのスタッド等のスポーツ用品用装飾部品、ギターのベースプレート等の楽器用装飾部品、人工歯冠やイヤホンユニットのケースやめがねのブリッジ等の装身具用装飾部品に好適に用いることができる。
【0115】
また、この他にも、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ブレスレット,アンクレット,ネクタイピン,タイタック,メダル,ボタン等や、床,壁,天井を飾るタイルあるいはドアの取手等の建材用装飾部品および宗教用工芸品用装飾部品としても好適に用いることができる。
【実施例1】
【0116】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
まず、窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化アルミニウム(Al2O3),硼素(B)および硼化チタン(TiB2)の各粉末を用いて表1に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。
【0118】
次に、上記各調合原料に有機溶媒としてイソプロパノールを加え、振動ミルを用いて150時間粉砕・混合した後、ポリエチレングリコール等のバインダを調合原料に対して3質量%添加し混合して、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し顆粒とした。そして、得られた顆粒を成形型に充填し、98MPaの圧力で加圧成形して、それぞれ円板状および円柱状の成形体を作製した。これら成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂した後、窒素雰囲気中にて1970℃で2時間保持することで焼結体を得た。
【0119】
そして、JIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)を用いて円板状の焼結体の破壊靱性を測定した。また、JIS R 1602−1995に規定される超音波パルス法を用いて円板状の焼結体の動的弾性率を測定した。
【0120】
また、これらの焼結体を構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,硼素および硼化チタンのそれぞれの同定は、X線回折法によって行ない、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの各含有量はICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。また、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計もICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。そして、ZrおよびAlは酸化物であるZrO2およびAl2O3に換算して求め、Bは測定値を含有量とした。
【0121】
なお、窒化チタンについては、測定を行なわず、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび硼素の各含有量の和を100質量%として、この値から差し引いた値を窒化チタンの含有量とした。
【0122】
そして、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の色調を測定した。
【0123】
また、耐磨耗性の評価については、図4に示す例の耐磨耗性評価装置を用いて、得られた円柱状の焼結体を所定位置(図4において、装飾部品用セラミックス31の位置)に治具で固定した後、水0.001m3に対して半磁器土(粘土の中に磁器土(陶石)を配合した粘土)を10g投入し混合して水槽34中に泥水を準備した。そして、おもり35の質量を500gに、糸32が円柱状の焼結体の外周側を摺動する速度を60m/分に、糸32の走行距離を3000mとなるように設定し、泥水が付着したナイロン製(東レ製 銀鱗Σ3号)の糸32を、円柱状の焼結体の外周側で摺動させた。その後、表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて、糸32を摺動させることによって円柱状の焼結体が磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定した。
【0124】
さらに、色調については、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目でアンケート調査を実施した。高級感,美的満足感,精神的安らぎの3項目の調査結果に対して、「得られる」と回答したモニターの比率がいずれも90%以上のものは「優」、上記3項目のうち1項目でも70%以上90%未満があるものは「良」と評価した。この結果を表1および表2に示す。なお、表2に記載した○は各成分が確認されたことを意味し、×は各成分が確認されなかったことを意味する。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表2に示す結果から分かるように、本発明の装飾部品用セラミックスに対し、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種を含んでいない試料No.1は、耐磨耗性が劣っていた。また、硼素を含んでいない試料No.2は、破壊靭性が低く、動的弾性率の値も小さく剛性が劣っていた。また、硼化チタンを含んでいない試料No.3は、耐食性が十分ではないために、耐磨耗性が劣っていた。
【0128】
一方、本発明の試料である試料No.4〜42は、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことから装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性が向上していることが分かる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、窒化チタン結晶粒子同士および窒化チタン結晶粒子と硼化チタン結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度が維持されていることが分かる。また、硼化チタンは耐食性が高いので、耐磨耗性が向上していることが分かる。
【0129】
特に、試料No.9〜11,22〜26,35〜39は、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることから、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上していることが分かる。
【0130】
また、試料No5〜15,18〜28,31〜41.は、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることから、程良い明るさと鮮やかさを有する黄金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え続けることができるといえる。
【実施例2】
【0131】
マンガンの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化アルミニウム(Al2O3),硼素(B),硼化チタン(TiB2)および炭酸マンガン(MnCO3)の各粉末を用いて表3に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.43〜46の円板状の本発明の装飾部品用セラミックスを得た。
【0132】
また、これらの焼結体を構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,硼素,硼化チタンおよびマンガンのそれぞれの同定は、X線回折法によって行ない、これら成分の各含有量はICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。そして、Tiは窒化物であるTiNに換算し、Zrは酸化物であるZrO2に換算して求め、BおよびMnは測定値を含有量とした。
【0133】
そして、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の中央部1箇所および周辺部4箇所の計5箇所における色調を測定し、平均値ならびに標準偏差を算出した。この結果を表3に示す。なお、表3に記載した○は各成分が確認されたことを意味し、×は各成分が確認されなかったことを意味する。
【0134】
【表3】
【0135】
表3に示す通り、マンガンを含まない試料No.43に比べて、マンガンを含む試料No.44〜46は、噴霧乾燥によって得られた顆粒がほとんど酸化されていないので、表面
における色調のばらつきが少なく、良好であることが分かった。
【0136】
また、本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリング,時計用装飾部品である時計用ケースや時計バンド駒,携帯端末機用装飾部品である携帯電話の各種操作キーやケース,生活用品用装飾部品である石鹸ケースやコーヒーカップセット,車両用品用装飾部品であるエンブレムやコーナーポール,スポーツ用品用部品であるゴルフクラブのアクセサリーやスパイクシューズのスタッド,楽器用装飾部品であるギターのベースプレート,装身具用装飾部品である人工歯冠やイヤホンユニットのケースやめがねのブリッジを作製したところ、いずれの場合にも耐磨耗性に優れ、高い硬度および剛性を有していることから表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を長期にわたり維持することができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続ける魅力的な商品を得ることができた。
【符号の説明】
【0137】
1:釣糸用ガイドリング
6:釣糸用ガイド
10:複合装飾部品
20:釣竿
40A,40B:時計用ケース
50:時計用バンド
51:外駒
52:中駒
55:ピン
60:携帯電話機
80:石鹸ケース
90:コーヒーカップ
101:エンブレム
102:コーナーポール
110:ゴルフクラブ
120:シューズ
130:ギター
141:人工歯冠
150:イヤホンユニット
160:めがね
【技術分野】
【0001】
本発明は、金色の色調を醸し出す装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる装飾部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾部品に用いられる金色の色調が求められる部分には、純金やこれらの合金,黄銅等の各種金属が使用されていたが、いずれも硬度が低いため硬質物質との接触により傷が生じやすかった。また、基材の表面に金メッキが施されたものも使用されていたが、硬質物質との接触や摩擦により、金メッキが剥離しやすかった。
【0003】
また、基材の表面に下地層を形成し、ガスをプラズマ状態に励起するCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長法)によってDLC(Diamond Like Carbon)皮膜を形成させる硬質コーティングにより、表面における耐磨耗性や硬度を向上させることができるものの、耐磨耗性や硬度が十分でないために装飾部品の表面に傷が生じやすく、次第に装飾性が損なわれるという問題があった。
【0004】
そのため、このような問題を解決するために、機械的特性に優れたセラミックスが用いられるようになりつつあり、本願出願人は、特許文献1に示すように、少なくともチタン,窒素,ホウ素を構成元素とし、チタンが全量中80〜95重量%、ホウ素が全量中3〜12重量%、窒素が全量中2〜8重量%からなる焼結体であって、該焼結体中にTiN相およびTiB相を主結晶相として含む金色焼結体を提案した。これによれば、高い強度および硬度を有するとともに、高い靱性および耐食性に優れ、また、焼結性の向上により金色の鏡面が容易に現出し、アレルギーを引き起こす金属の溶出がないため、長期間にわたり腐食や傷が発生せず、しかも人に対して害のない金色装飾品として、例えば、釣糸案内用装飾部品や時計用装飾部品に適用できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−157027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願出願人が特許文献1にて提案した金色焼結体は、ニッケルやクロム等の金属が低減されていることから、金属アレルギーを引き起こしにくく、TiB相によって抗折強度,ビッカース硬度,破壊靱性等の機械的特性は向上しているものの、釣糸案内用装飾部品に用いようとすると、現在、釣糸案内用装飾部品はさらなる耐磨耗性の向上が要求されており、このような要求に十分応えられるものではなかった。さらに、この金色焼結体を装飾部品として用いるには、上記機械的特性とともに、高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる金色の色調を有していることが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、優れた機械特性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる金色の色調を有する装飾部品用セラミックスおよびこの装飾部品用セラミックスからなる装飾部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記構成において、前記酸化ジルコニウムおよび前記酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、前記硼素の含有量および前記硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、上記いずれかの構成において、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の複合装飾部品は、上記いずれかの構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなる装飾部品と、装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の装飾部品用セラミックスによれば、窒化チタンを主成分とし、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種と、硼化チタンと、硼素とを含むことから、装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、窒化チタン結晶粒子同士および窒化チタン結晶粒子と硼化チタン結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度を維持することができる。また、硼化チタンは硬度が高いので、耐磨耗性を向上させることができるとともに、導電性が高いので、硼化チタンを含むことにより、他の物質との接触による静電気の発生を抑制できることから、パーティクルが付着することを抑えることができる。
【0015】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であるときには、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種は、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むときには、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0017】
また、本発明の装飾部品用セラミックスによれば、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であるときには、程良い明るさと鮮やかさを有する黄金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え続けることができる。
【0018】
また、本発明の装飾部品用セラミックスからなる本発明の釣糸案内用装飾部品によれば、釣糸を案内するときに釣糸に付着した細かい砂等に擦られても高い硬度を有しているので表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を維持しつつ、長期間の使用に耐えるものとすることができる。
また、本発明の複合装飾部品によれば、本発明の装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されているときには、例えば、異なる色調が紫色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の黄金色との組み合わせによって、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。また、異なる色調が黒色であると、本発明の装飾部品用セラミックスの呈する色調の黄金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、異なる色調が銀色であれば、より高級感に溢れ装飾性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示す、(a)は釣糸用ガイドリングの斜視図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【図2】本発明の複合装飾部品の一例を示す装飾面を平面視した模式図である。
【図3】本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣竿の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性を評価するための耐磨耗性評価装置の概略構成図である。
【図5】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示す、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。
【図6】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの他の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の筐体が開いた状態の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品を用いた石鹸ケースの構成の一例を示す模式図である。
【図11】本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品であるコーヒーカップセットの一例を示す斜視図である。
【図12】本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を取り付けた車体の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を用いたコーナーポールの一例を示す正面図である。
【図14】本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたゴルフクラブの一例を示す正面図である。
【図15】本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたスパイクシューズの一例を示す底面図である。
【図16】本発明の装飾部品用セラミックスからなる楽器用装飾部品を用いたギターの一例を示す斜視図である。
【図17】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いた人工歯冠の一例を示す模式図である。
【図18】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【図19】本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いためがねの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の装飾部品用セラミックスの実施の形態の例について説明する。
【0021】
本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むものである。なお、ここでいう主成分とは、装飾部品用セラミックスを構成する全成分100質量%に対して50質量%以上を占める成分である。この主成分である窒化チタンは、装飾部品として良好な金色の色調を呈するとともに、強度や硬度等の機械的特性が高いという特長を有していることから、本発明の装飾部品用セラミックスにおいては、窒化チタンを70質量%以上の含有量で含有させることが好適である。
【0022】
また、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種を含むことにより、耐磨耗性を向上させることができる。窒化チタンを主成分とし、硼素と、硼化チタンとを含み、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種が含まれていないセラミックスに汗や泥水等が付着すると、表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されて酸化チタンとなるときに体積膨張して脱粒しやすい状態となる。一方、窒化チタンを主成分とし、硼素と、硼化チタンとを含み、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種を含むセラミックスに汗や泥水等が付着しても、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種の結晶粒子が、このセラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を抑えて脱粒を抑制することができるので耐磨耗性を向上させることができる。
【0023】
また、硼素を含むことにより、この硼素が窒化チタン結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性および剛性を向上させることができる。また、硼化チタンは硬度,熱伝導性,導電性および耐食性とも高いので、硼化チタンを含むことにより、これらの特性を向上させることができる。
【0024】
なお、硼素(B)は、非晶質硼素,結晶質硼素のいずれでもよいが、非晶質硼素は結晶質硼素より小さな粒子が多く充填された状態の硼素であるため、機械的強度を向上させることができる。
【0025】
このように、本発明の装飾部品用セラミックスは、特に、高い剛性を有しているので、装飾的価値を高めようと複雑な形状に加工を施しても、かかる大きな力によっても変形することなく精密に加工することができる。そのため、本発明の装飾部品用セラミックスは、耐磨耗性,破壊靱性に優れ、高い硬度および剛性を有するとともに、装飾的価値の高い金色の色調となるので、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与えることができる。
【0026】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることが好適である。
【0027】
酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウム少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素および硼化チタンを構成する硼素を合わせた含有量が3質量%以上14質量%以下であるときには、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種は、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上させることができる。また、硼素の含有量が上記範囲内にあれば、鮮やかさが損なわれないので、高い硬度と鮮やかさを兼ね備えることができる。
【0028】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことが好適である。この範囲のマンガンを含むことにより、イオン化傾向が大きく、強い酸素吸着作用により、噴霧乾燥によって得られた顆粒の酸化を抑制し、装飾面の色調のばらつきを抑えることができる。
【0029】
また、本発明の装飾用部品セラミックスは、さらにニッケルの含有量が2質量%以上10質量%以下であって、クロムを炭化物換算したときの含有量が1質量%以上5質量%以下であることが好適である。
【0030】
また、ニッケルの含有量が2質量%以上10質量%以下であれば、装飾部品用セラミックスの硬度をほとんど低下させることなく、窒化チタンの結晶粒子同士を強固に結合する結合剤として作用し破壊靱性および剛性を向上させることができる。
【0031】
また、クロムを炭化物換算したときの含有量が1質量%以上5質量%以下であれば、ニッケルと反応して化合物を生成し、ニッケルがイオン化して流出するのを抑制するとともに、装飾部品用セラミックの色調に鮮やかさを与えることができる。
【0032】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスを構成する窒化チタンの窒素は熱伝導度法により求め,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,硼素およびマンガンの各含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、窒化チタンについては、元素Nの含有量を測定して窒化物に換算し、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムについては、各元素Al,Zrの含有量を測定して酸化物に換算すればよい。また、硼素およびマンガンについては、各元素B,Mnの測定値が含有量となる。なお、窒化チタンについては、測定を行なわず、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム,硼素およびマンガンの各含有量の和を100質量%として、この値から差し引いた値を窒化チタンの含有量としてもよい。
【0033】
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスがニッケルや炭化クロムを含むときは、ニッケルおよび炭化クロムの各含有量も蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、ニッケルについては、元素Niの測定値が含有量となり、炭化クロムについては、元素Crの含有量を測定して炭化物に換算すればよい。
【0034】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*およびb*の値がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることが好適である。この範囲であれば、程良い明るさと鮮やかさとを有する金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続けることができる。
【0035】
ここで、本発明の装飾部品用セラミックスにおける装飾面とは、装飾部品の装飾的価値が要求される面を指し、装飾的価値が要求されない面を含む必要はないので、全ての面を指すものではない。例えば、本発明の装飾部品用セラミックスを時計用ケースに用いる場合では、この時計用ケースの外側の面は、鑑賞の対象となるものであり装飾的価値が要求されるので装飾面であるが、時計の駆動機構が嵌め込まれる内側の面等は、通常は装飾的価値を要求されないので装飾面ではない。
【0036】
そして、明度指数L*とは色調の明暗を示す指数であり、明度指数L*の値が大きいと色調は明るく、明度指数L*の値が小さいと色調は暗くなる。また、クロマティクネス指数a*は色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、a*の値がプラス方向に大きいと色調は赤色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、a*の値がマイナス方向に大きいと色調は緑色になる。さらに、クロマティクネス指数b*は色調の黄から青の度合いを示す指数であり、b*の値がプラス方向に大きいと色調は黄色になり、その絶対値が小さくなるにつれて色調は鮮やかさに欠けたくすんだ色調になり、b*の値がマイナス方向に大きいと色調は青色になる。
【0037】
そして、このような装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0038】
また、装飾面の算術平均高さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、装飾面の算術平均高さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。これにより、光の反射率が高くなり、明度指数L*の値を上昇させることができる。この算術平均高さRaが0.03μmを超えると、明度指数L*の値が低下し、色調は暗くなり高級感が低下するおそれがある。
【0039】
この光とは、波長域380〜780nmの可視光線の集合であり、算術平均高さRaを0.03μm以下とすることによって、可視光線を分光し、青色を示す波長域450〜500nmの光の反射を少なくするとともに、黄色を示す波長域570〜590nmの光の反射を多くするように作用するので、高級感,美的満足感および精神的安らぎ等を与える黄金色を呈することができる。特に、波長域570〜700nmの光に対する装飾面の反射率は、50%以上であることが好適である。
【0040】
なお、算術平均高さRaはJIS B 0601−2001に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、装飾部品用セラミックスの装飾面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均高さRaの値とする。
【0041】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、装飾面における開気孔率が明度指数L*の値に影響を及ぼし、開気孔率が高いと明度指数L*の値は小さくなり、開気孔率が低いと明度指数L*の値は大きくなる。そのため、装飾面における開気孔率は2.5%以下であることが好ましく、開気孔率が1.1%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
なお、装飾面における開気孔率は、金属顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込み、画像解析装置(ニレコ製 LUZEX−FS等)により画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm2,測定視野数を20,つまり測定総面積が4.5×10−1mm2における開気孔の面積を求めて測定総面積における割合を装飾面の開気孔率とすればよい。
【0043】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96であることが好ましい。組成式をTiNxとしたときの原子数xの値により、その色調は影響を受ける。原子数xが小さくなると色調は黄金色から薄い黄金色になり、原子数xが大きくなると色調はくすんだ濃い黄金色になる。このような観点から組成式をTiNxとしたときの原子数xの値は、0.8以上0.96以下であることが好ましく、原子数xの値がこの範囲であるときには、光沢のある色調感がさらに増すため、より高い高級感および美的満足感を得ることができる。
【0044】
さらに、本発明の装飾部品用セラミックスは、主成分である窒化チタンを構成する窒素の一部が硼素に置換され、窒化チタンの組成式がTiB1−xNx(但し、xは0.8≦x≦0.96である。)であることが好ましい。窒素の原子数xが上記範囲でそれ自体硬度の高い硼素に置換されることにより、硬度が高くなるため耐磨耗性が向上するとともに、酸化開始温度も高くなるため、酸化に伴って発生するおそれのある色調のばらつきも生じにくくなる。
【0045】
そして、本発明の釣糸案内用装飾部品は、上記構成の本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体的な例としては、釣糸用ガイドリングおよびこれを備えた釣糸用ガイドがある。
【0046】
図1は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの一例を示しており、(a)は釣糸用ガイドリングの平面図であり、(b)は(a)の釣糸用ガイドリングを備えた釣糸用ガイドの斜視図である。
【0047】
図1に示す例の釣糸用ガイドリング1は、その内周側に釣糸(図示しない)を挿通して案内するものであり、釣糸用ガイド6は、釣糸用ガイドリング1を保持する保持部2を備え、この保持部2の支持部3および釣竿(図示しない)に固定する固定部4が一体的に形成された枠体5に釣糸用ガイドリング1を備えたものである。この釣糸用ガイドリング1を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0048】
また、黄金色の色調の釣糸用ガイドリング1と、釣糸用ガイド6や釣竿の色調との調和がよいので釣具に好適に用いることができる。特に、黄金色の色調を呈することから、嗜好品に高級感を求める人の好む釣具とすることができる。なお、釣糸用ガイドリング1の表面を透明な耐磨耗性の高い膜、例えば、非晶質硬質炭素からなる膜で被覆して、耐磨耗性をさらに向上させてもよい。
【0049】
次に、図2(a)〜(f)は、本発明の複合装飾部品の一例を示す装飾面を平面視した模式図である。
【0050】
図2(a)〜(f)に示す複合装飾部品10は、装飾面を平面視して、黄金色を呈する本発明の装飾部品用セラミックス11と、装飾部品用セラミックス11と異なる色調の装飾面を有する装飾部品12とが並べて配置されているものの例である。装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状として、図2(a)はいずれも三角形状であり、(b)はいずれも四角形状であり、(c)はいずれも平行四辺形状であり、(d)は六角形状と三角形状との組み合わせであり、(e)は八角形状と四角形状との組み合わせであり、(f)は四角形状の装飾部品12と装飾部品12の周囲を囲んだ装飾部品用セラミックス11との組み合わせである。
【0051】
そして、装飾部品用セラミックス11と異なる色調として、具体的には、装飾部品12の色調が紫色であれば、装飾が求められる店頭広告やインテリア雑貨に用いたときに、消費者の購買意欲を刺激することができる。
【0052】
また、装飾部品12の色調が黒色であれば、本発明の装飾部品用セラミックス11の呈する色調の黄金色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、装飾部品2の色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【0053】
なお、装飾部品12は、本発明の装飾部品用セラミックス11と異なる色調で装飾性を高めるものであればよいため、材質は問わず、また、装飾部品用セラミックス11および装飾部品12の形状や組み合わせについては、これらの図2(a)〜(f)に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0054】
図3は、本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングおよびこの釣糸用ガイドリングを備えた釣竿の一例を示す斜視図である。
【0055】
図3に示す釣竿20は、例えば、1aおよび1cを本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングとして、1bおよび1dを色調が紫色または黒色である釣糸用ガイドリングを備えた釣竿でもよく、あるいは1bおよび1dを本発明の釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリングとして、1aおよび1bを色調が紫色または黒色である釣糸用ガイドリングを備えた釣竿としてもよい。このように隣り合う釣糸用ガイドリングを異なる色調を有する釣糸用ガイドリングとすることで、釣りそのものを楽しむ以外に、色調を楽しむこともできる。
【0056】
なお、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性は、以下に示す構成の耐磨耗性評価装置を作製し、これを用いることにより評価することができる。
【0057】
図4は、本発明の装飾部品用セラミックスの耐磨耗性の評価に用いる耐磨耗性評価装置の概略構成図である。この耐磨耗性評価装置30は、ナイロン製の糸32と、所定位置で糸32に張力を与える複数のプーリー33と、プーリー33の1つであるプーリー33aに連結して糸32を矢印の向きに走行させるモーター(図示しない)と、糸32に泥水を付着させる水槽34とからなり、おもり35の質量分の荷重が与えられ、水槽34を通って泥水が付着した糸32が、所定位置に治具(図示しない)等で固定された円柱状の装飾部品用セラミックス31の外周面を摺動する構造となっており、ナイロン製の糸32の号数は、例えば3号とすればよい。
【0058】
この耐磨耗性評価装置30を用いて装飾部品用セラミックス31の耐磨耗性を評価する際の条件は、例えば、おもり35の質量を500gとし、糸32が円柱状の装飾部品用セラミックス31の外周を摺動する速度を60m/分とし、糸32の走行距離が3000m以上になるように設定すればよい。そして、モーターを駆動し糸32を摺動させた後に、円柱状の装飾部品用セラミックス31が磨耗して生じた傷の最も深い部分を表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて測定し、この測定値を比較することにより耐磨耗性を評価することができる。
【0059】
図5は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図6は、本発明の時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図7は、本発明の時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。なお、これらの図において同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
【0060】
図5に示す例の時計用ケース40Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部41と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部42とを備えており、凹部41は厚みの薄い底部43と厚みの厚い胴部44とからなる。また、図6に示す例の時計用ケース40Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部45と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する、胴部44に形成された足部42とを備えている。
【0061】
そして、図7に示す例の時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン55が挿入される貫通孔53を有する中駒52と、中駒52を挟むようにして配置され、ピン55の両端が差し込まれるピン穴54を有する外駒51とから構成されており、中駒52の貫通孔53にピン55が挿入され、挿入されたピン55の両端が外駒51のピン穴54に差し込まれることにより、中駒52と外駒51とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
【0062】
また、中駒52には、引張荷重が頻繁にかかるため、196N以上の引張強度が求められる。この引張強度を求めるには、貫通孔53の長さより長い、超硬製のピン(図示しない)を中駒52の貫通孔53a,53bに挿入した後、このピンを引き離す方向に引っ張り、中駒52が破壊したときの強度をロードセルで読み取ればよい。
【0063】
これら、時計用ケース40A,40Bおよび時計用バンド50を構成するバンド駒として用いられる本発明の時計用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができる。
【0064】
次に、図8は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる携帯端末機用装飾部品を用いた携帯電話機の一例を示す斜視図であり、図9は、図8に示す例の携帯電話機の筐体を開いた状態を示す斜視図である。
【0065】
本発明の携帯端末機用装飾部品は、本発明の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とし、その具体例としては、図8,9に示す、押して操作する各種キー,ケース等がある。
【0066】
図8に示す例の携帯電話機60は、携帯電話機60のモードを、ラジオを聴くモードであるラジオモードや音楽を聴くモードである音楽モードなどに変更するモードキー61aと、携帯電話機60をマナーモードにするマナーキー61bとを第1の筐体62に備え、指などの接触を検知してこの接触により入力が行なわれるタッチセンサ63と、被写体を撮像するカメラ64と、ライト65と、タッチセンサ63等の入力の有効または無効を設定するスライドスイッチ66とを第2の筐体67に備えている。
【0067】
そして、図9に示す例の携帯電話機60は、第2の筐体67を開いた状態を示すものであり、第1の筐体62と第2の筐体67とはヒンジ68を介して連結されており、これにより第2の筐体67は自在に開閉することができる。また、第2の筐体67は、フロントケース69aとリアケース69bとを有しており、フロントケース69aには液晶表示ユニット70が設けられている。
【0068】
また、第1の筐体62もフロントケース71aとリアケース71bとを有しており、フロントケース71aには押して操作する各種キーが設けられている。このキーには、電話番号等を入力するテンキー72a,各種機能のメニューについてカーソルを移動するカーソル移動キー72b,着信時に押すことによって通話を開始する通話キー72c,電源のオンオフおよび通話中に押すことによって通話を終了する電源/終話キー72d,カーソル移動キー72bの中心に配置されたセンターキー72fの左右に配置されたファンクションキー73L,73R等がある。
【0069】
上術のケースであるフロントケース69aや71a,リアケース69bや71b,押して操作するキーであるテンキー72a,カーソル移動キー72b,通話キー72c,電源/終話キー72d,センターキー72f,ファンクションキー73LやR等の少なくともいずれか1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え、このような色調を呈する携帯電話を所有することによる満足感を感じさせることができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスは、他の色調との相性がよいことから、様々な色調の部材と組み合わせて用いることもできるので、需要者の嗜好の多様化に応えることができる。
【0070】
なお、携帯端末機の一例として携帯電話機を用いて説明したが、本発明の携帯端末機が用いられる携帯端末機は携帯電話機に限定されるものではなく、携帯情報端末(PDA),携帯型のカーナビゲーションやオーディオプレーヤー等の携帯型の端末機であって、部品に装飾性が求められるものであれば、様々な携帯端末機が該当する。
【0071】
次に、図10は、本発明の生活用品用装飾部品を用いた石鹸ケースの構成の一例を示す模式図である。
【0072】
この石鹸ケース80は、本体83と蓋82とからなり、本体83の石鹸81の載置面84には、石鹸81の表面に付着している水を切るための排出孔85が形成されている。石鹸81を使用しないときには、本体83の載置面84に石鹸81は載置され、蓋82を本体83に嵌め合わすことにより収納されており、石鹸81を使用するときには、本体83から蓋82を外して石鹸81を取り出して使用する。そして、使用後の石鹸81を本体83の載置面84に載置することにより、排出孔85により石鹸81の表面に付着している水を切ることができ、石鹸81が溶けるのを防ぐことができるものである。
【0073】
この石鹸ケース80である本体83と蓋82とを本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、多くの需要者に所有することによる満足感および使用の際に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。また、石鹸ケース80だけではなく、ハブラシやカミソリの柄,耳かきおよびハサミ等の生活用品用装飾部品に好適に用いることができる。特に、高級ホテルの浴室や洗面所において、各種ロゴ等のマーキングされたアメニティーグッズに本発明の装飾部品用セラミックスを用いることにより、非日常感が強く演出された高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0074】
次に、図11は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる生活用品用装飾部品であるコーヒーカップセットの一例を示す斜視図である。
【0075】
図11に示すコーヒーカップセット90は、コーヒーカップ91とソーサー92とスプーン93とからなり、このコーヒーカップ91,ソーサー92およびスプーン93を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、多くの需要者に対し、所有することによる満足感および使用の際に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0076】
また、本発明の装飾部品用セラミックスは他の色調との相性がよいので、コーヒーカップ91,ソーサー92またはスプーン93の少なくとも1種を本発明の装飾部品用セラミックスで形成し、他種を異なる色調として組み合わせて用いることもできる。
【0077】
また、本発明の生活用品用装飾部品は、石鹸ケース80やコーヒーカップセット90だけではなく、ハブラシやカミソリの柄,耳かきおよびハサミ等の生活用品用装飾部品に好適に用いることができる。特に、高級ホテルの浴室や洗面所において、各種ロゴ等のマーキングされたアメニティーグッズに本発明の装飾部品用セラミックスを用いることにより、非日常感が強く演出された高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができる。
【0078】
次に、図12は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用品用装飾部品を取り付けた車体の一例を示す斜視図である。
【0079】
図12に示す車体100には、車両用品用装飾部品であるエンブレム101が取り付けられており、このエンブレム101を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、需要者に対し、視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えることができるので、車体100の装飾的価値を高めることができる。なお、図12では車体100の前方に取り付けたエンブレム101を示したが、車体100の後方に本発明の装飾部品用セラミックスで形成したメーカー名や車種名等のエンブレム101を取り付けることによっても、車体100の装飾的価値を高めることができる。
【0080】
また、図13は、本発明の車両用品用装飾部品を用いたコーナーポールの一例を示す正面図である。
【0081】
図13に示すコーナーポール102は、駐車場における車両の出し入れ時等に運転席から見えにくい車体の左前方(右ハンドル車の場合)の目印とするために取り付けられるものであり、車体への取り付け部103とポール部104とLED等からなる点灯部105と、を有している。このコーナーポール102のポール部104を本発明の装飾部品用セラミックスで形成したり、点灯部105に替えて本発明の装飾部品用セラミックスで形成したエンブレムを取り付けたりすることにより、コーナーポール102はもとより車体の装飾的価値が向上するので好適である。
【0082】
また、本発明の装飾部品用セラミックスからなる車両用装飾部品は、エンブレム101やコーナーポール102だけでなく、ホイールキャップの一部や車体のボンネット上に設けられるフードオーナメントの一部、さらに車内に取り付ける小物やアクセサリーまたはこれらの一部として用いても、装飾的価値が向上するので好適である。
【0083】
次に、図14は、本発明のスポーツ用品用装飾部品を用いたゴルフクラブの一例を示す正面図である。
【0084】
図14に示すゴルフクラブ110は、シャフト111と、このシャフト111の一端に取り付けられたグリップ112と、シャフト110の他端に取り付けられたヘッド113と、を備えている。ヘッド113は、ゴルフボールを捉える部分であるフェース面113Fや地面に接する部分となるソール面113Sを有しており、図14に示すように、本発明の装飾部品用セラミックスで形成したアクセサリー114がフェース面113Fに埋め込まれていれば装飾的価値が向上するので好適である。
【0085】
また、本発明のスポーツ用品用装飾部品は、フェース面113Fだけではなく、ソール面113Sやグリップ112に本発明の装飾部品用セラミックスで形成したアクセサリー114が埋め込まれていても好適である。
【0086】
図15は、本発明の装飾部品用セラミックスからなるスポーツ用品用装飾部品を用いたスパイクシューズの一例を示す底面図である。
【0087】
図15に示すスパイクシューズ120は、例えば、サッカーやラグビーに用いられるものであり、靴底121にはボールを蹴るときに軸足を固定するための突起状に形成されたスタッド122が複数装着されている。本発明の装飾部品用セラミックスがこのスタッド122として用いられると、装飾的価値が向上することに加え、従来から用いられているアルミニウム合金製のスタッドよりも耐磨耗性が優れているので、スタッド122の交換頻度を少なくできるため、交換によるコストを低減することができる。なお、競技中に発生するおそれがあるスタッド122の欠けを防止するために、透明な樹脂でスタッド122の表面を被覆してもよい。
【0088】
次に、図16は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる楽器用装飾部品を用いたギターの一例を示す斜視図である。
【0089】
図16に示すギター130の主な構成は、本体131と、本体131から前方に延設されたネック132とからなる。ネック132の先端部にはナット133が配設され、ナット133より前方には、弦134の張力を調整することができるチューニングベグ135がそれぞれの弦134毎に設けられている。また、弦134を保持してナット133に対して動かないようにするためのクランプ機構136がナット133の近くに配設されている。
【0090】
一方、本体131には、弦134の張力を同時に増大、あるいは減少させて印象的な音効果を与えるためのトレモロ装置137が取り付けられている。トレモロ装置137は、本体131に取り付けられているベースプレート138と、このベースプレート138に保持されて弦134を調律可能に保持するブリッジサドル139と、トレモロ装置を稼働させるトレモロバー140と、により構成されている。このギター130のベースプレート138,ブリッジサドル139,トレモロバー140等を、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、ギター130の装飾的価値が向上するため、このギター130を所有することによる満足感を感じさせることができるとともに、多くの観客を魅了することができる。
【0091】
次に、図17は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いた人工歯冠の一例を示す模式図である。
【0092】
図17の模式図は、歯肉145の内部の顎骨142に埋め込まれた人工歯根(インプラント)143に固定された支台(アパットメント)144に装着された人工歯冠141を示すものである。この人工歯冠141を本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、歯が金色の輝きを放つため、歯の装飾を好む需要者に高い陶酔感を与えることができる。
【0093】
また、顎骨142に埋め込まれる人工歯根143がスクリュー状に形成され、このスクリュー状に形成された部分に、新成骨の生成を誘導する能力が高いキチン,コラーゲンおよびこれらの誘導体の少なくともいずれか1種を含む生体分解性基材からなる硬質の接合層が形成されていてもよい。また、支台144の基部には、架橋された上記生体分解性基材よりなる軟質の接合層が、顎骨142の上側に位置する歯肉145に当接するように形成されていてもよい。
【0094】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスは、窒化チタン質焼結体からなるので、生体に適合しやすく、この利点を生かして、人工歯冠141だけでなく、人工歯根143や支台144に用いても好適である。
【0095】
また、図18は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いたイヤホンユニットの一例を示す正面図である。
【0096】
図18に示すイヤホンユニット150は、聴取者の耳殻内に挿入されて音波を生成するスピーカ151と、このスピーカ151を内蔵するケース152と、このケース152に当接するコード導出部153を介してスピーカ151に電気信号を供給するコード154と、を備えている。
【0097】
このイヤホンユニット150のケース152を、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、装飾的価値が高まり、多くの需要者に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えられる装身具用装飾部品とすることができる。
【0098】
さらに、図19は、本発明の装飾部品用セラミックスからなる装身具用装飾部品を用いためがねの一例を示す斜視図である。
【0099】
図16に示すめがね160は、視力を矯正したり、紫外線から目を保護したりするための一対のレンズ161a,161bと、一対のレンズ161a,161bを連結するブリッジ162と、それぞれのレンズ161a,161bに連結される鎧163a,163bと、ヒンジを介して回動することができるように鎧163a,163bに連結されるテンプル164a,164bと、レンズ161a,161bにそれぞれノーズパッド連結部材を介して取り付けられるノーズパッド165と、を備えている。
【0100】
このめがね160のブリッジ162、テンプル164a,164bおよびノーズパッド165の少なくとも1つを、本発明の装飾部品用セラミックスで形成することにより、装飾的価値が高まり、多くの需要者に視覚を通じて高級感,美的満足感および精神的安らぎを与えられる装身具用装飾部品とすることができる。
【0101】
そして、本発明の装飾部品用セラミックスのビッカース硬度および破壊靭性は、JIS R 1610−2003およびJIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)で測定することができる。また、本発明の装飾部品用セラミックスの剛性については、JIS R 1602−1995に規定される超音波パルス法で測定した動的弾性率の値で確認することができる。
【0102】
次に、本発明の装飾部品用セラミックスの製造方法の一例を説明する。
【0103】
本発明の装飾部品用セラミックスを得るには、まず、主成分である窒化チタンと、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種と、硼素と、硼化チタンとからなる各粉末を所定量秤量し、粉砕・混合して調合原料とする。より具体的には、平均粒径が10μm以上30μm以下の窒化チタンの粉末と、平均粒径が0.8μm以上5μm以下の酸化アルミニウムの粉末および平均粒径が1μm以上2μm以下の酸化ジルコニウムの粉末の少なくとも1種と、平均粒径が1μm以上4μm以下の硼素の粉末と、平均粒径が1μm以上4μm以下の硼化チタンとを準備する。なお硼素(B)の粉末は、非晶質硼素の粉末,結晶質硼素の粉末のいずれでもよいが、焼結性および反応性の活性化の点から非晶質硼素の粉末が好適である。
【0104】
そして、例えば、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの粉末の少なくとも1種が7質量%以上18質量%以下、硼素の粉末が2質量%以上10質量%以下、硼化チタンの粉末が1質量%以上6質量%以下であって、残部が窒化チタンの粉末となるように秤量して粉砕・混合すればよい。
【0105】
さらに、マンガンを含む装飾部品用セラミックスを得るには、平均粒径が13μm以上23μm以下のマンガンの粉末または組成式がMnCO3として表される、平均粒径が13μm以上23μm以下の炭酸マンガンの粉末を調合原料の一部とし、マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.2質量%以上2質量%以下とし、炭酸マンガンの粉末を用いる場合には、その比率を0.1質量%以上1質量%以下、調合原料に加えればよい。このとき、この調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0106】
また、窒化チタンの粉末は化学量論的組成のTiNであっても、あるいは非化学量論的組成のTiNx(0<x<1)であってもよいが、耐磨耗性および装飾的価値が高い色調という観点からは、各粉末の純度は99%以上であることが好ましく、特に、装飾部品用セラミックスの主成分である窒化チタンの組成式をTiNxとしたときに0.8≦x≦0.96とするには、窒化チタンの粉末は組成式をTiNxとしたときに0.7≦x≦0.9のものを用いればよい。
【0107】
次いで、調合原料に有機溶媒として、例えばイソプロパノールを加え、ミルを用いて150時間以上かけて混合粉砕した後、結合剤としてパラフィンワックスを所定量添加し、所望の成形法、例えば、乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法等により円板,平板,円環体等の所望形状に成形する。なお、調合原料における不可避不純物としては珪素,リン,イオウ,鉄等が挙げられるが、これらは装飾面の色調に悪影響を及ぼすおそれがあるので、各々0.5質量%未満であることが好適である。
【0108】
また、成形法として乾式加圧を選択した場合は、成形圧力は装飾面における開気孔率およびビッカース硬度(Hv)に影響を与えることから、成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることが好適である。成形圧力を49MPa以上196MPa以下とすることにより、成形型の寿命を長くすることができるとともに、相対密度が95%以上であり,開気孔率が2.5%以下であり,ビッカース硬度(Hv)が10.5GPa以上の焼結体を得ることができる。
【0109】
そして、得られた成形体を必要に応じて窒素雰囲気または不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で脱脂した後、窒素雰囲気中で焼成し、理論密度に対する相対密度が95%以上の焼結体を得る。なお、窒素雰囲気中で焼成するのは、酸化性雰囲気中で焼成すると、チタンが酸化してそのほとんどが組成式TiO2で表される酸化チタンとなり、この酸化チタンが本質的に備えている白色の色調の影響を受けてしまい、装飾部品用セラミックスの全体の色調が白っぽくかすむからである。
【0110】
さらに、焼成温度を1950℃以上2100℃以下とすることが好適である。これにより、相対密度が95%以上で開気孔率が2.5%以下の焼結体を得ることができるからである。
【0111】
そして得られた焼結体の装飾的価値が求められる面に、ラップ盤を用いてラップ加工を行なった後、バレル研磨を行なうことにより、焼結体のその表面は黄金色の色調を有する装飾面となって、本発明の装飾部品用セラミックスを得ることができる。なお、このような装飾面に現れる気孔は、その開口部の最大径を30μm以下にすることが好適で、この範囲にすることで、気孔内への雑菌,異物や汚染物等の凝着を低減することができる。
【0112】
装飾部品用セラミックスからなる製品の形状が複雑な形状の場合には、予め乾式加圧成形法,冷間静水圧加圧成形法,押し出し成形法,射出成形法等によってブロック形状または製品形状に近い形状に成形し、焼結した後に、製品形状になるように研削加工を施した後、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよく、あるいは最初から射出成形法によって製品形状とし、焼成後に、順次ラップ加工,バレル研磨を行なってもよい。
【0113】
ここで、装飾面となる表面の算術平均高さRaを0.03μm以下とするには、錫製のラップ盤に平均粒径の小さいダイヤモンド砥粒を供給してラップ加工すればよく、例えば平均粒径1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いればよい。また、バレル研磨では、回転バレル研磨機を用い、メディアとしてグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で24時間行なえばよい。
【0114】
以上のようにして得られる本発明の装飾部品用セラミックスは、高い硬度および剛性を有するとともに、需要者に高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与えることができる黄金色の色調を有するので、上述のように、釣糸用ガイドリング等の釣糸案内用装飾部品、腕時計用ケースや時計用バンド駒等の時計用装飾部品、押して操作する各種キーやケース等の携帯端末機用装飾部品、石鹸ケースやコーヒーカップセット,ナイフ,フォーク,ハブラシやカミソリの柄,耳かき,ハサミ,印材や名刺等の生活用品用装飾部品、メーカーや車種名等のエンブレムやコーナーポール等の車両用品用装飾部品、ゴルフクラブのアクセサリーやスパイクシューズのスタッド等のスポーツ用品用装飾部品、ギターのベースプレート等の楽器用装飾部品、人工歯冠やイヤホンユニットのケースやめがねのブリッジ等の装身具用装飾部品に好適に用いることができる。
【0115】
また、この他にも、ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ブレスレット,アンクレット,ネクタイピン,タイタック,メダル,ボタン等や、床,壁,天井を飾るタイルあるいはドアの取手等の建材用装飾部品および宗教用工芸品用装飾部品としても好適に用いることができる。
【実施例1】
【0116】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
まず、窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化アルミニウム(Al2O3),硼素(B)および硼化チタン(TiB2)の各粉末を用いて表1に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。
【0118】
次に、上記各調合原料に有機溶媒としてイソプロパノールを加え、振動ミルを用いて150時間粉砕・混合した後、ポリエチレングリコール等のバインダを調合原料に対して3質量%添加し混合して、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し顆粒とした。そして、得られた顆粒を成形型に充填し、98MPaの圧力で加圧成形して、それぞれ円板状および円柱状の成形体を作製した。これら成形体を窒素雰囲気中にて600℃で脱脂した後、窒素雰囲気中にて1970℃で2時間保持することで焼結体を得た。
【0119】
そして、JIS R 1607−1995に規定される圧子圧入法(IF法)を用いて円板状の焼結体の破壊靱性を測定した。また、JIS R 1602−1995に規定される超音波パルス法を用いて円板状の焼結体の動的弾性率を測定した。
【0120】
また、これらの焼結体を構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,酸化アルミニウム,硼素および硼化チタンのそれぞれの同定は、X線回折法によって行ない、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの各含有量はICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。また、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計もICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。そして、ZrおよびAlは酸化物であるZrO2およびAl2O3に換算して求め、Bは測定値を含有量とした。
【0121】
なお、窒化チタンについては、測定を行なわず、酸化アルミニウム,酸化ジルコニウムおよび硼素の各含有量の和を100質量%として、この値から差し引いた値を窒化チタンの含有量とした。
【0122】
そして、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の色調を測定した。
【0123】
また、耐磨耗性の評価については、図4に示す例の耐磨耗性評価装置を用いて、得られた円柱状の焼結体を所定位置(図4において、装飾部品用セラミックス31の位置)に治具で固定した後、水0.001m3に対して半磁器土(粘土の中に磁器土(陶石)を配合した粘土)を10g投入し混合して水槽34中に泥水を準備した。そして、おもり35の質量を500gに、糸32が円柱状の焼結体の外周側を摺動する速度を60m/分に、糸32の走行距離を3000mとなるように設定し、泥水が付着したナイロン製(東レ製 銀鱗Σ3号)の糸32を、円柱状の焼結体の外周側で摺動させた。その後、表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 測定部VF−7510/コントローラVF−7500)を用いて、糸32を摺動させることによって円柱状の焼結体が磨耗して生じた傷の最も深い部分を測定した。
【0124】
さらに、色調については、20歳代〜50歳代の各年代について男女5名ずつ計40名のモニターに、高級感,美的満足感および精神的安らぎの3項目でアンケート調査を実施した。高級感,美的満足感,精神的安らぎの3項目の調査結果に対して、「得られる」と回答したモニターの比率がいずれも90%以上のものは「優」、上記3項目のうち1項目でも70%以上90%未満があるものは「良」と評価した。この結果を表1および表2に示す。なお、表2に記載した○は各成分が確認されたことを意味し、×は各成分が確認されなかったことを意味する。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表2に示す結果から分かるように、本発明の装飾部品用セラミックスに対し、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種を含んでいない試料No.1は、耐磨耗性が劣っていた。また、硼素を含んでいない試料No.2は、破壊靭性が低く、動的弾性率の値も小さく剛性が劣っていた。また、硼化チタンを含んでいない試料No.3は、耐食性が十分ではないために、耐磨耗性が劣っていた。
【0128】
一方、本発明の試料である試料No.4〜42は、窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことから装飾部品用セラミックスの表層の窒化チタンの結晶粒子が酸化されるときの体積膨張を酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種が抑えて、結晶粒子の脱粒を抑制することができるので耐磨耗性が向上していることが分かる。また、硼素を含むことにより、硼素は窒化チタン,硼化チタンに対する濡れ性が良好なので、窒化チタン結晶粒子同士および窒化チタン結晶粒子と硼化チタン結晶粒子とを強固に結合する結合剤として作用するとともに、硬度の高い硼化チタンの分解を抑制して高い硬度が維持されていることが分かる。また、硼化チタンは耐食性が高いので、耐磨耗性が向上していることが分かる。
【0129】
特に、試料No.9〜11,22〜26,35〜39は、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、硼素の含有量および硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることから、窒化チタンの結晶粒子内に十分固溶することができるので、窒化チタンの結晶粒子がさらに脱粒しにくくなるため、耐磨耗性を向上していることが分かる。
【0130】
また、試料No5〜15,18〜28,31〜41.は、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることから、程良い明るさと鮮やかさを有する黄金色の色調となり、高級感、美的満足感および精神的安らぎを長期間にわたって与え続けることができるといえる。
【実施例2】
【0131】
マンガンの含有量の違いによる特性の変化を確認する試験を行なった。
まず、窒化チタン(TiN),酸化ジルコニウム(ZrO2),酸化アルミニウム(Al2O3),硼素(B),硼化チタン(TiB2)および炭酸マンガン(MnCO3)の各粉末を用いて表3に示す含有量となるように秤量し、混合して調合原料とした。次に、実施例1と同様の製造方法にて試料No.43〜46の円板状の本発明の装飾部品用セラミックスを得た。
【0132】
また、これらの焼結体を構成する窒化チタン,酸化ジルコニウム,硼素,硼化チタンおよびマンガンのそれぞれの同定は、X線回折法によって行ない、これら成分の各含有量はICP発光分光分析法により元素の含有量を測定した。そして、Tiは窒化物であるTiNに換算し、Zrは酸化物であるZrO2に換算して求め、BおよびMnは測定値を含有量とした。
【0133】
そして、JIS Z 8722−2000に準拠して分光測色計(コニカミノルタ製 CM−3700d)を用い、光源にCIE標準光源D65を用い、視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して、円板状の装飾部品用セラミックスの表面の中央部1箇所および周辺部4箇所の計5箇所における色調を測定し、平均値ならびに標準偏差を算出した。この結果を表3に示す。なお、表3に記載した○は各成分が確認されたことを意味し、×は各成分が確認されなかったことを意味する。
【0134】
【表3】
【0135】
表3に示す通り、マンガンを含まない試料No.43に比べて、マンガンを含む試料No.44〜46は、噴霧乾燥によって得られた顆粒がほとんど酸化されていないので、表面
における色調のばらつきが少なく、良好であることが分かった。
【0136】
また、本発明の装飾部品用セラミックスを用いて、釣糸案内用装飾部品である釣糸用ガイドリング,時計用装飾部品である時計用ケースや時計バンド駒,携帯端末機用装飾部品である携帯電話の各種操作キーやケース,生活用品用装飾部品である石鹸ケースやコーヒーカップセット,車両用品用装飾部品であるエンブレムやコーナーポール,スポーツ用品用部品であるゴルフクラブのアクセサリーやスパイクシューズのスタッド,楽器用装飾部品であるギターのベースプレート,装身具用装飾部品である人工歯冠やイヤホンユニットのケースやめがねのブリッジを作製したところ、いずれの場合にも耐磨耗性に優れ、高い硬度および剛性を有していることから表面に傷が付きにくく、黄金色の色調を長期にわたり維持することができるので、高級感,美的満足感および精神的安らぎを長期間与え続ける魅力的な商品を得ることができた。
【符号の説明】
【0137】
1:釣糸用ガイドリング
6:釣糸用ガイド
10:複合装飾部品
20:釣竿
40A,40B:時計用ケース
50:時計用バンド
51:外駒
52:中駒
55:ピン
60:携帯電話機
80:石鹸ケース
90:コーヒーカップ
101:エンブレム
102:コーナーポール
110:ゴルフクラブ
120:シューズ
130:ギター
141:人工歯冠
150:イヤホンユニット
160:めがね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことを特徴とする装飾部品用セラミックス。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウムおよび前記酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、前記硼素の含有量および前記硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項3】
さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項4】
装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とする釣糸案内用装飾部品。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスからなる装飾部品と、該装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とする複合装飾部品。
【請求項1】
窒化チタンを主成分とし、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種と、硼素と、硼化チタンとを含むことを特徴とする装飾部品用セラミックス。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウムおよび前記酸化アルミニウムの少なくともいずれか1種の含有量が7質量%以上18質量%以下であり、前記硼素の含有量および前記硼化チタンを構成する硼素の含有量の合計が3質量%以上14質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項3】
さらにマンガンを0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項4】
装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が63以上75以下であり、クロマティクネス指数a*,b*がそれぞれ4以上7以下,13以上23以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の装飾部品用セラミックス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスからなることを特徴とする釣糸案内用装飾部品。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装飾部品用セラミックスからなる装飾部品と、該装飾部品用セラミックスと異なる色調の装飾面を有する装飾部品とが並べて配置されていることを特徴とする複合装飾部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−93725(P2011−93725A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247274(P2009−247274)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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