説明

補助トルク発生装置および補助トルク制御方法

【課題】歩行ロボットの関節に発生させる補助トルクの最大値を歩行中の任意の時点で変化させること。
【解決手段】バネスイッチのシリンダ51内をスライドするスライド部52にバネの一端を連結し、シリンダ51内表面に窪み61を設けるとともにシリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積を変えることによって、バネをバネスイッチでロックする。スライド部52は、S極部62と、N極部63と、コイル64とを有し、コイル64が発生する磁界によりS極部62とN極部63をくっ付けたり離したりすることによってシリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積を変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行ロボットの関節に補助トルクを発生する技術に関し、特に、関節に作用するトルクの変化に対応して発生トルクの最大値を変化させることができる補助トルク発生装置および補助トルク制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行ロボットでは、歩行中に膝などの関節に大きなトルクが作用するため、関節を動かすためのモータに対して、作用するトルクに抗する大きなトルクを発生させる必要がある。しかし、モータだけで大きなトルクを発生しようとするとモータが大きくなるため、モータトルクを補助する補助トルクを発生する補助トルク発生機構が設けられている。
【0003】
図10は、補助トルク発生機構を説明するための説明図である。図10(a)は空気バネを用いた補助トルク発生機構を示し、図10(b)は固体バネを用いた補助トルク発生機構を示す。図10(a)に示す補助トルク発生機構では、シリンダ11内をスライドするピストン12によってシリンダ11内の空気13を圧縮することにより、関節10に作用するトルクに抗するトルクを発生する。図10(b)に示す補助トルク発生機構では、固体バネ21を伸縮することにより、関節20に作用するトルクに抗するトルクを発生する。このような補助トルク発生機構は、図11に示す2脚歩行ロボットの膝関節、股関節などに設けられている。
【0004】
しかし、膝関節に補助トルク発生機構を設けると、ロボットの歩行中に、発生させるべきトルクと逆向きのトルクを発生する場合がある。そこで、発生させるべきトルクと逆向きのトルクを発生する場合には、補助トルク発生機構を機能させないようにする技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−103480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、歩行中のロボットに荷物を手渡すような場合、手渡された荷物により膝関節に作用するトルクが変わり、補助トルク発生機構が発生する最大トルクを変化させる必要があるという課題がある。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による課題を解決するためになされたものであり、関節に作用するトルクの変化に対応して発生トルクの最大値を変化させることができる補助トルク発生装置および補助トルク制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明の一つの態様では、補助トルク発生が、ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値をロボットの動作中の任意の時点で変更可能な可変トルク発生手段を備える。
【0009】
また、本発明の他の態様では、補助トルク制御方法が、動作中のロボットの関節に作用するトルクの大きさを検出するトルク変化検出ステップと、前記トルク変化検出ステップにより検出されたトルクの大きさが所定の閾値以上である場合に、前記ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値を検出トルクの大きさに基づいて変化させる発生トルク変化ステップとを含む。
【0010】
これらの態様によれば、ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値をロボットの動作中の任意の時点で変更することができる。
【0011】
なお、本発明の構成要素、表現または構成要素の任意の組合せを、方法、装置、システム、コンピュータプログラム、記録媒体、データ構造などに適用したものも上述した課題を解決するために有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一つの態様によれば、荷物を受け取ったときなどの負荷の変化にロボットを対応させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る補助トルク発生装置および補助トルク制御方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、本実施例では、本発明を2脚歩行ロボットの膝関節に適用した場合を中心に説明する。
【実施例】
【0014】
まず、本実施例に係るロボットについて説明する。図1は、本実施例に係るロボットの模式図である。図1に示すように、本実施例に係るロボット30は、胴体部31と脚部32とを有する。なお、図1では、1本の脚部32だけが示されているが、ロボット30は2本の脚部を有する2脚歩行ロボットである。
【0015】
脚部32は、大腿部33と、下腿部34と、膝関節35と、足裏36とを有する。また、膝関節35に作用するトルクに抗するトルクを発生する補助トルク発生機構37を有し、図示しない股関節、足首関節に作用するトルクに抗するトルクをそれぞれ発生する補助トルク発生機構38および39を有する。
【0016】
補助トルク発生機構37は、複数のバネ43と、バネスイッチ40と、連結部41とを有し、各バネ43の一端はバネスイッチ40によって下腿部34に固定され、各バネ43の他端は連結部41によって大腿部33に固定される。足裏36には力センサ42が取り付けられており、歩行面から脚に作用する力、すなわちロボット30にかかる負荷を検出する。
【0017】
胴体部31は、ロボット30の歩行を制御する制御部100を備える。制御部100は、力センサ42を用いてロボット30に加えられる負荷を検出し、負荷に基づいてバネスイッチ40を制御することによって負荷変化に対応するトルクを補助トルク発生機構37に発生させる。
【0018】
次に、バネスイッチ40の詳細について説明する。図2は、バネスイッチ40の機能を説明するための説明図である。バネスイッチ40は、バネ43の一端のロックと解放を行う。バネ43が解放された状態では、バネ43の一端は伸縮方向に自由に移動することができ、バネ43は補助トルクを発生しない。一方、バネ43がバネスイッチ40によりロックされると、バネ43は膝関節35に作用するトルクに抗するトルクを発生する。
【0019】
図3は、バネスイッチ40の構造を示す図である。図3に示すように、バネスイッチ40は、シリンダ51とシリンダ51内をスライドするスライド部52の組が複数個集まって形成される。スライド部52はバネ43の一端と連結され、スライド部52がシリンダ51にロックされることによって、バネ43がバネスイッチ40にロックされる。
【0020】
なお、図3では、1組のバネ43、スライド部52を示すが、補助トルク発生機構37の1つのバネ43が1つのスライド部52に連結される。また、図3では、5つのシリンダ51を示すが、シリンダ51の数は任意とすることができる。
【0021】
図4は、バネスイッチ40によるバネトルクの最大値の変化を説明するための説明図である。図4に示すように、各バネ43が伸縮することによって膝関節35に対してトルクを発生する。したがって、バネ43の個数に比例して発生するトルクの最大値を増やすことができる。すなわち、バネスイッチ40にロックするバネ43の数を変化させることによって、補助トルク発生機構37が発生するトルクの最大値を変化させることができる。
【0022】
図5は、バネスイッチ40のロック機構を説明するための説明図である。図5に示すように、シリンダ51の内面には多数の窪み61が刻まれている。一方、スライド部52は、S極部62とN極部63とコイル64とを有し、S極部62とN極部63の形状は、図5に示すように略馬蹄形である。
【0023】
S極部62とN極部63の端部同士を組み合わせた場合に形成される内部空間にコイル64が配置される。したがって、コイル64に流す電流の方向を変えることによってコイル64の周りに発生する磁界を変えることができ、S極部62とN極部63をくっ付けたり離したりすることができる。
【0024】
その結果、シリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積を変えることができ、スライド部52をシリンダ51内の任意の位置でロックすることができる。すなわち、S極部62とN極部63をくっ付けた場合には、シリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積が小さくなり、スライド部52はシリンダ51内を自由に動くことができる。一方、S極部62とN極部63を離した場合には、シリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積が大きくなり、スライド部52はシリンダ51内の窪み61によってロックされる。
【0025】
図6は、スライド部52の構造を示す図である。図6に示すように、S極部62とN極部63を2つの部材65、66の間にボルト67を用いて挟みこむことによって、コイル64の周りに発生する磁界によってS極部62とN極部63が可動な構造を実現することができる。
【0026】
次に、制御部100によるバネスイッチ制御の処理手順について説明する。図7は、制御部100によるバネスイッチ制御の処理手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、ロボット30が歩行中に右脚で支持されているときに荷物を受け取るなど負荷がかかった場合の処理手順を示す。
【0027】
図7に示すように、このバネスイッチ制御では、制御部100は、右足裏の力センサ42によってロボット30にかかる負荷を測定し(ステップS1)、負荷が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0028】
その結果、負荷が所定の閾値以上でない場合には、引き続き負荷の測定を繰り返す。一方、負荷が所定の閾値以上である場合には、負荷の大きさに基づいて、両脚のバネスイッチ40でロックするバネ43の個数を増加する(ステップS3)。すなわち、増加するバネ43の個数を負荷の大きさに基づいて算出し、算出した個数のバネ43に対して、スライド部52のS極部62とN極部63が離れるようにコイル64に電流を流す。
【0029】
なお、左脚については、歩行距離を最大にできるように、バネスイッチ40でロックするバネ43の個数をスイングフェーズで元に戻す(ステップS4)。
【0030】
このように、バネスイッチ40でロックするバネ43の個数を増加することによって、歩行中の負荷の増加に対応して、膝関節35の補助トルクの最大値を増加させることができる。
【0031】
図8は、支持脚の膝関節35に働くトルクの変動例を示す図である。図8(a)は、支持脚の膝関節35に働くトルクCMを示し、図8(b)は、補助トルク発生機構37が発生するバネトルクCSを示し、図8(c)は、膝関節35を動作させるモータのトルクCTを示し、図8(d)は、バネスイッチ40でロックするバネ43の個数を示す。図8(d)に示すように、支持脚の膝関節35に働くトルクCMが一定の値になると、バネスイッチ40でロックするバネ43の個数をN0からN1に増加させることによって、バネトルクCSを増加させている。
【0032】
上述してきたように、本実施例では、バネスイッチ40のシリンダ51内をスライドするスライド部52にバネ43の一端を連結し、シリンダ51内表面に窪み61を設けるとともにシリンダ51の中心軸68に垂直な断面でのスライド部52の断面積を変えることによって、バネ43をバネスイッチ40でロックすることとしたので、補助トルク発生機構37が発生するトルクの最大値を任意の時点で変えることができ、膝関節35に働くトルクの大きな変化にロボット30を対応させることができる。
【0033】
ところで、上記実施例では、大腿部33および下腿部34に連結された補助トルク発生機構37が発生するトルクの最大値を変化させる場合について説明した。しかしながら、大腿部33および下腿部34に補助トルク発生機構を連結する代わりに、膝関節35を動作させるモータに補助トルク発生機構を連結するようにすることもできる。
【0034】
図9は、関節を動作させるモータに連結する補助トルク発生機構の模式図である。図9では、ねじりバネまたは渦巻きバネ71の一端をモータ72の回転軸に固定し、他端をバネスイッチ73を用いてモータにロックまたは解放することによって、発生するトルクを変化させることができる。
【0035】
このように、関節を動作させるモータに補助トルク発生機構を連結することによって、ロボットをコンパクトにすることができる。
【0036】
なお、本実施例では、膝関節35に用いられる補助トルク発生機構を中心に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の関節に用いられる補助トルク発生機構にも同様に適用することができる。
【0037】
なお、本実施例では、2脚歩行ロボットに用いられる補助トルク発生機構を中心に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、4脚歩行ロボットなど他のロボットの関節に用いられる補助トルク発生機構にも同様に適用することができる。
【0038】
また、以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0039】
(付記1)ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値をロボットの動作中の任意の時点で変更可能な可変トルク発生手段を備えたことを特徴とする補助トルク発生装置。
【0040】
(付記2)前記可変トルク発生手段は、
関節に連結された第1の部位に連結するシリンダと、
関節に連結された第2の部位にバネ機構を介して連結し、前記シリンダ内をスライドするスライド部とを備え、
前記スライド部を前記シリンダ内の任意の位置でロックすることにより、補助トルクの最大値を変更することを特徴とする付記1に記載の補助トルク発生装置。
【0041】
(付記3)前記シリンダの内面には窪みが形成され、
前記スライド部は、前記シリンダの軸に垂直な断面の面積を拡大することによって前記窪みで支持されることにより、シリンダにロックされることを特徴とする付記2に記載の補助トルク発生装置。
【0042】
(付記4)前記スライド部は、コイルに発生する磁界により相互に離反する2つの磁石を用いて前記面積を拡大することを特徴とする付記3に記載の補助トルク発生装置。
【0043】
(付記5)前記シリンダとスライド部の対を複数備え、ロックするスライド部の個数を変更することにより補助トルクの最大値を変更することを特徴とする付記2、3または4に記載の補助トルク発生装置。
【0044】
(付記6)前記可変トルク発生手段は、関節を動かすモータの回転軸に一端が取り付けられたバネ機構の他端をロックすることにより補助トルクの最大値を変更することを特徴とする付記1に記載の補助トルク発生装置。
【0045】
(付記7)動作中のロボットの関節に作用するトルクの大きさを検出するトルク変化検出ステップと、
前記トルク変化検出ステップにより検出されたトルクの大きさが所定の閾値以上である場合に、前記ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値を検出トルクの大きさに基づいて変化させる発生トルク変化ステップと
を含んだことを特徴とする補助トルク制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施例に係るロボットの模式図である。
【図2】バネスイッチの機能を説明するための説明図である。
【図3】バネスイッチの構造を示す図である。
【図4】バネスイッチによるバネトルクの最大値の変化を説明するための説明図である。
【図5】バネスイッチのロック機構を説明するための説明図である。
【図6】スライド部の構造を示す図である。
【図7】制御部によるバネスイッチ制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】支持脚の膝関節に働くトルクの変動例を示す図である。
【図9】他の補助トルク発生機構の模式図である。
【図10】補助トルク発生機構を説明するための説明図である。
【図11】2脚歩行ロボットを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10,20 関節
11 シリンダ
12 ピストン
13 空気
21 固体バネ
30 ロボット
31 胴体部
32 脚部
33 大腿部
34 下腿部
35 膝関節
36 足裏
37,38,39 補助トルク発生機構
40 バネスイッチ
41 連結部
42 力センサ
43 バネ
51 シリンダ
52 スライド部
61 窪み
62 S極部
63 N極部
64 コイル
65、66 部材
67 ボルト
68 シリンダの中心軸
71 ねじりバネまたは渦巻きバネ
72 モータ
73 バネスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値をロボットの動作中の任意の時点で変更可能な可変トルク発生手段を備えたことを特徴とする補助トルク発生装置。
【請求項2】
前記可変トルク発生手段は、
関節に連結された第1の部位に連結するシリンダと、
関節に連結された第2の部位にバネ機構を介して連結し、前記シリンダ内をスライドするスライド部とを備え、
前記スライド部を前記シリンダ内の任意の位置でロックすることにより、補助トルクの最大値を変更することを特徴とする請求項1に記載の補助トルク発生装置。
【請求項3】
前記シリンダの内面には窪みが形成され、
前記スライド部は、前記シリンダの軸に垂直な断面の面積を拡大することによって前記窪みで支持されることにより、シリンダにロックされることを特徴とする請求項2に記載の補助トルク発生装置。
【請求項4】
前記シリンダとスライド部の対を複数備え、ロックするスライド部の個数を変更することにより補助トルクの最大値を変更することを特徴とする請求項2または3に記載の補助トルク発生装置。
【請求項5】
前記可変トルク発生手段は、関節を動かすモータの回転軸に一端が取り付けられたバネ機構の他端をロックすることにより補助トルクの最大値を変更することを特徴とする請求項1に記載の補助トルク発生装置。
【請求項6】
動作中のロボットの関節に作用するトルクの大きさを検出するトルク変化検出ステップと、
前記トルク変化検出ステップにより検出されたトルクの大きさが所定の閾値以上である場合に、前記ロボットの関節に発生する補助トルクの最大値を検出トルクの大きさに基づいて変化させる発生トルク変化ステップと
を含んだことを特徴とする補助トルク制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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