説明

補填材充填器具

【課題】容器内の補填材の補填最終段におけるプランジャの飛び出しを防止し、補填材の飛散や患部への衝撃を未然に防止する。
【解決手段】多孔質材料を含む補填材Aを収容する両端を開放された直管状の外筒2と、該外筒2の後端の開口2bから該外筒2内に挿入されるプランジャ4とを備え、該プランジャ4が、半径方向に圧縮された状態で外筒2内に配置されるガスケット4bと、該ガスケット4bの先端面が外筒2のほぼ先端に配置されたときに外筒2の後端に突き当たるストッパ12とを備える補填材充填器具1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料を含む補填材を患部に充填するための補填材充填器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の器具として、例えば、特許文献1に示される補填装置がある。
この補填装置は、シリンジ状の装置であって、多孔質材料からなる補填材料を収容する略円筒状の容器の一端を移動可能なプランジャにより密閉し、他端を着脱可能なキャップで閉塞している。キャップには穿刺針が取り付けられるようになっている。
【0003】
この補填装置によれば、容器内に多孔質材料からなる補填材料を収容しておき、キャップに取り付けた穿刺針を腸骨等の髄腔に刺し、プランジャを引いて容器内を減圧することにより、髄腔内の骨髄液等の体液を容器内に吸引し、容器内に収容されている補填材料と混合することができる。この状態で、容器先端のキャップを取り外し、プランジャを押し込むことで、容器内の補填材料と体液との混合物を容器外に押し出し、骨欠損部等に補填するようになっている。
【特許文献1】米国特許第6736799号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される構造の補填装置は、容器の内部の補填材料をスムーズに吐出させるために、容器の先端が、通常のシリンジのバレルのように絞られることなく、直管状に開放されている。このため、プランジャを押し込んで、補填材料を吐出し切ると、プランジャの先端が容器の開口部から飛び出す構造になっている。
【0005】
しかしながら、プランジャの先端には、容器内の体液を漏れなく吐出させるために、ゴム等の弾性材料からなるガスケットが取り付けられており、半径方向に圧縮された状態で容器内に挿入されている。このため、プランジャの先端が容器の開口部から飛び出す従来の構造であると、圧縮されていたガスケットが勢いよく復元して、補填材料が飛散したり、プランジャが勢いよく飛び出して骨欠損部等に衝撃を与えたりする不都合が考えられる。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、容器内の補填材の補填最終段におけるプランジャの飛び出しを防止し、補填材の飛散や患部への衝撃を未然に防止することができる補填材充填器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、多孔質材料を含む補填材を収容する両端を開放された直管状の外筒と、該外筒の後端の開口部から該外筒内に挿入されるプランジャとを備え、該プランジャが、半径方向に圧縮された状態で外筒内に配置されるガスケットと、該ガスケットの先端面が外筒のほぼ先端に配置されたときに外筒の後端に突き当たるストッパとを備える補填材充填器具を提供する。
【0008】
本発明によれば、外筒内に補填材を充填し、外筒の後端の開口部から挿入されたプランジャを押し込むことで、外筒内の補填材が先端の開口部から吐出され、患部に補填される。プランジャの先端にはガスケットが半径方向に圧縮された状態で外筒内に配置されているので、ガスケットが外筒の内面に密着させられて、補填材に液体が含まれていても外筒内から漏れなく吐出させ、無駄なく補填することができる。
【0009】
この場合において、ガスケットの先端面が外筒のほぼ先端に配置されたときにプランジャに設けられたストッパが外筒の後端に突き当たる。したがって、外筒内に収容されていた補填材を全て吐出させることができるとともに、それ以上のプランジャの押し込みが禁止され、ガスケットの圧縮状態が突然解放されることが未然に防止される。その結果、ガスケットの復元による補填材の飛散や患部への衝撃の付与を防止することができる。
【0010】
上記発明においては、前記外筒の先端に着脱可能に取り付けられ、該先端の開口部を密封する蓋部材を備え、前記外筒の先端の開口部に先端に向かって漸次広がるテーパ内面が設けられ、前記蓋部材に、前記外筒に取り付けられたときに、前記テーパ内面に密着するテーパ面が設けられていることとしてもよい。
【0011】
このようにすることで、蓋部材のテーパ面を外筒のテーパ内面に密着させるだけで外筒を蓋部材で容易に密封することができる。この場合に、外筒の先端に設けたテーパ内面にプランジャのガスケットが差し掛かると、半径方向外方に復元しようとするガスケットがテーパ内面を滑ることで開口部から飛び出す方向に移動する。本発明によれば、ストッパによりプランジャの移動が制限されるので、テーパ内面を設けてもガスケットの突然の飛び出しを防止できる。
【0012】
また、上記発明においては、前記蓋部材に、前記外筒の先端に取り付けられた状態で、外筒の内外に連通する注入口が設けられ、該注入口に着脱可能に取り付けられ、該注入口を密封するキャップを備えることとしてもよい。
このようにすることで、外筒の先端に取り付けた蓋部材の注入口からキャップを取り外し、開口した注入口から体液等の液体を外筒内に容易に注入することができる。液体の注入後は、再度、キャップを注入口に取り付けることで、注入口を密封し、外筒内の補填材が漏れないように保持することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記注入口に、開口方向に向かって漸次広がるテーパ内面が設けられ、前記キャップに、前記注入口に取り付けられたときに、前記テーパ内面に密着するテーパ面が設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、注入口のテーパ内面とキャップのテーパ面とを密着させて、簡易に注入口を密封することができる。また、注入口から取り外したキャップに代えて、他のシリンジを注入口に挿入する際に、注入口のテーパ面にシリンジの射出口を密着させて、液体を漏れなく外筒内に注入することが可能となる。
また、上記発明においては、前記多孔質材料が、リン酸カルシウム系セラミック材料からなることとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、容器内の補填材の補填最終段におけるプランジャの飛び出しを防止し、補填材の飛散や患部への衝撃を未然に防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る補填材充填器具1について、図1〜図9を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る補填材充填器具1は、図1に示されるように、シリンジ状の充填器具であって、両端に開口する直管状のバレル(外筒)2と、該バレル2の一端に着脱可能に取り付けられるコネクタ(蓋部材)3と、バレル2の他端から挿入されるプランジャ4とを備えている。
【0016】
前記バレル2は先端開口2aと後端開口2bとを備えている。先端開口2aの外面には雄ネジ5が形成されている。先端開口2aの内面の先端部には、バレル2の円筒内面2cから開口方向に向かって漸次広がるテーパ内面2dが設けられている。後端開口2bの外部には、プランジャ4を操作する際に指をかけるためのフランジ6が半径方向に突出して設けられている。また、後端開口2bの内面の先端部には、半径方向内方に全周にわたって突出する環状突起2eと、該環状突起2eから開口方向に向かって漸次広がるテーパ内面2fとが設けられている。
【0017】
バレル2は、透明な材質、例えば、ポリプロピレンにより構成されている。
なお、バレル2の材質は、これに限定されるものではなく、ポリプロピレンより硬度の高い材質、例えば、環状ポリオレフィン樹脂やポリカーボネート樹脂により構成されていることが好ましい。あるいは、ポリプロピレン製のバレル2の円筒内面2cにダイヤモンドコーティングやDLCコーティング等の表面処理を施すこととしてもよい。
【0018】
前記コネクタ3は、図2に示されるように、前記バレル2の先端開口2a外面に設けられた雄ネジ5に締結する雌ネジ7と、該雌ネジ7がバレル2の雄ネジ5に十分に締結された状態で、バレル2の先端開口2a内面に設けられたテーパ内面2dに密着するテーパ面3aと、バレル2の先端開口2aに取り付けられた状態でバレル2の内部空間に連通する注入口3bと、該注入口3bに着脱可能に取り付けられるキャップ8とを備えている。
【0019】
注入口3bは、他のシリンジ9(図5(b)参照。)の射出口9aの着脱を容易にし、かつ密封状態に取り付けるために開口方向に向かって漸次広がるテーパ内面3cを有している。
また、前記キャップ8は、注入口3bのテーパ内面3cに密着する形状のテーパ面8aを有するとともに、バレル2に取り付けられたコネクタ3の注入口3bに取り付けた状態で、その先端8bが、バレル2のほぼ先端位置に到達する位置まで延びる長さ寸法を有している。キャップ8の先端8bは、凹みを有しない形状を備え、後述するようにバレル2内に充填された補填材Aが注入口3b内に進入しないように構成されている。
【0020】
前記プランジャ4は、前記バレル2の後端開口2bから挿入される棒状のプランジャ本体4aと、該プランジャ本体4aの一端に取り付けられ、バレル2内に摺動可能に挿入されるガスケット4bとを備えている。プランジャ本体4aの他端には、該プランジャ4を押し引きする際に操作する操作部13が備えられている。操作部13は、半径方向外方に突出するフランジ状に形成されている。
【0021】
前記ガスケット4bは、弾性変形可能なエラストマー材料により構成され、バレル2の内径より若干大きな外径寸法を有し、図3に示されるように、半径方向内方に圧縮された状態でバレル2内に挿入されるようになっている。これにより、ガスケット4bの外周面はバレル2の円筒内面2cに密着して、バレル2との間を密封しつつ、プランジャ本体4aの操作に応じて長手方向に摺動することができるようになっている。また、ガスケット4bの中央には、軸線方向に沿って貫通する貫通穴4cが設けられている。
【0022】
前記プランジャ本体4aは、透明な材質、例えば、ポリプロピレンにより構成されている。プランジャ本体4aには、長手方向の両端に開口する貫通穴4dが設けられている。プランジャ本体4aと前記ガスケット4bとの間には、前記貫通穴4dの前端開口を塞ぐ位置にフィルタ10が配置されている。また、前記貫通穴4dの後端開口は、操作部13の略中央位置に開口しており、プランジャ4をバレル2内に押し込む際に、操作者が貫通穴4dの後端開口を容易に指で塞ぐことができるようになっている。
【0023】
フィルタ10は、例えば、ポリエチレンテレフタラート製であり、約10〜250μmの連通孔を有するメッシュ状に形成されている。これにより、フィルタ10は、補填材Aの通過を禁止し、液体や気体等の流体の流通を許容するようになっている。
【0024】
また、プランジャ本体4aには、ガスケット4bが取り付けられている端部近傍に、半径方向に突出する係合突起11が周方向に間隔をあけて複数設けられている。これらの係合突起11は、プランジャ4をバレル2内に挿入する際にバレル2の後端開口1bに設けられた環状突起2eを乗り越えてバレル2内に配置されるようになっている。
【0025】
これにより、係合突起11は、プランジャ4がバレル2内から抜き出される際に環状突起2eに突き当たって、プランジャ4が一気に抜き出されてしまうことを防止することができるようになっている。
係合突起11は、ガスケット4b側に、長手方向後方に向かって次第に半径方向外方に広がる斜面11aを有し、該斜面11aによって環状突起2eを容易に乗り越えることができるようになっている。
【0026】
また、プランジャ本体4aには、操作部13が設けられている端部近傍に、半径方向に突出するフランジ状のストッパ突起12が設けられている。ストッパ突起12は、プランジャ4をバレル2内に押し込んだときにバレル2の後端に突き当たり、プランジャ4のそれ以上の前進を防止するようになっている。このとき、プランジャ4の先端に取り付けたガスケット4bの先端面がバレル2の先端開口2aから若干突出する位置に配されるようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る補填材充填器具1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る補填材充填器具1を用いて補填材料を患部に充填するには、まず、図4に示されるような補填材充填キット20を構成する。バレル2の後端開口2bからプランジャ4を挿入した状態で、バレル2の先端開口2aからバレル2内に、顆粒状の補填材Aを充填する。補填材Aは、例えば、βリン酸三カルシウム多孔体等のリン酸カルシウム多孔体である。補填材Aの粒径は、約100μm〜5mmである。
【0028】
本実施形態によれば、バレル2に挿入したプランジャ4をバレル2から引き出す方向に移動させると、バレル2の後端開口2bの内面に設けられた環状突起2eとプランジャ本体4aのガスケット4b近傍に設けられた係合突起11とが突き当たるので、補填材Aを最大限に収容できる位置にプランジャ4を容易に配置することができる。また、補填材Aの充填中に、プランジャ4がバレル2の後端開口2bから誤って抜け落ちてしまうことを防止できる。
【0029】
また、本実施形態によれば、プランジャ本体4aに貫通穴4dが設けられ、バレル2内の空気が貫通穴4dを介して外部に放出されるので、従来のようにプランジャを引いてバレル内を減圧することでバレル内に液体を吸引する場合と異なり、バレル2内に空気層を形成するスペースを残す必要がない。したがって、係合突起11が環状突起2eに突き当たる最後端までプランジャ4を引いて、補填材Aを多量に収容することができるという利点がある。
【0030】
次に、補填材Aのバレル2内への充填が終了した状態で、バレル2の先端開口2aにコネクタ3を取り付ける。具体的には、図5(a)に示されるように、バレル2先端の雄ネジ5にコネクタ3の雌ネジ7を締結し、コネクタ3に設けられたテーパ面3aをバレル2先端のテーパ内面2dに密着させる。このとき、コネクタ3の注入口3bにはキャップ8を取り付けておく。これにより、コネクタ3とプランジャ4とにより挟まれたバレル2内の空間に補填材Aが充填された状態の補填材充填キット20が構成される。
【0031】
コネクタ3の注入口3bはキャップ8により密封されているので、バレル2内の空間は、プランジャ4に設けられた貫通穴4dのみにより外部空間と連絡するようになる。
この場合において、本実施形態に係る補填材充填器具1によれば、コネクタ3の注入口3bを密封している状態のキャップ8の先端8bが、バレル2の先端部まで延びて配置されているので、バレル2内に充填される補填材Aが注入口3b内まで進入することが防止される。したがって、図5(b)に示されるように、キャップ8を取り外して、他のシリンジ9の射出口9aを注入口3bに挿入する際に、内部の補填材Aが挿入の邪魔となることを防止し、注入口3bに密封状態にシリンジ9の射出口9aを取り付けることができる。
【0032】
なお、バレル2内への補填材Aの充填は、最初にバレル2の先端開口2aをキャップ8付コネクタ3によって閉塞しておき、後端開口2bから行うこととしてもよい。この場合、ガスケット4bの収容スペースを残してバレル2内に補填材Aを充填した後に、プランジャ4を挿入することとすればよい。
【0033】
次に、このように構成された補填材充填キット20のバレル2内の空間に患者から採取した骨髄液Bあるいは血液等の液体(以下、液体Bとも言う。)を充填する。この場合には、図5(b)に示されるように、コネクタ3のキャップ8を外すことにより開放された注入口3bに、骨髄液B等を採取した他のシリンジ9の射出口9aを差し込む。このとき注入口3bのテーパ内面3cに、前記他のシリンジ9の射出口9a外面が密着することで両者間が密封される。これにより、他のシリンジ9のプランジャ(図示略)を押し込むことにより、骨髄液B等が漏れることなく補填材充填器具1のバレル2内に注入される。
【0034】
骨髄液B等が注入されると、バレル2内に進入した骨髄液等Bがバレル2内の補填材Aに接触してこれに浸透していく。コネクタ3とプランジャ4とにより挟まれたバレル2内の空間には、補填材Aの隙間に空気が存在しているので、骨髄液等Bが注入されていくと、図6に示されるように、空気Gは骨髄液Bに押されてプランジャ4の貫通穴4c,4dから外部に放出される。貫通穴4dの先端開口にはフィルタ10が配置されているので、補填材Aはフィルタ10を通過することができずにバレル2内に保持され、空気Gおよび骨髄液Bがフィルタ10を通過して貫通穴4d内に進入する。
【0035】
骨髄液B等に押されて空気Gが補填材A間の空間を勢いよく通過する際に、気泡が発生する場合があるが、本実施形態によれば、発生した気泡は、バレル2内の空間に留まることなくフィルタ10を介して貫通穴4c,4d内に押し出される。すなわち、本実施形態によれば、気泡のない骨髄液B等の液体内に補填材Aを十分に浸漬させることができる。
【0036】
この場合において、本実施形態に係る補填材充填器具1は、貫通穴4dがプランジャ本体4aの長手方向に沿って形成され、かつ、プランジャ本体4aが透明材料により構成されている。したがって、図7に示されるように、コネクタ3とプランジャ4とにより挟まれたバレル2内の空間に充満した骨髄液B等の液体の一部がフィルタ10を介して貫通穴4d内に進入すると、液面が貫通穴4d内をプランジャ本体4aの後端部に向かって移動するのを外部から目視することができる。
【0037】
特に、注入する液体Bが骨髄液あるいは血液のような有色の液体である場合には、その液面の移動を明確に確認することができる。また、液体Bが無色透明の場合であっても、その屈折率差により液面の移動を確認することができる。
したがって、操作者は、貫通穴4d内を移動する液体Bの液面を目視することで、補填材Aが液体B内に十分に浸漬されたことを容易に確認することができ、液体Bの注入作業を止めて、補填作業を開始することができる。
【0038】
補填作業は、図8に示されるように、コネクタ3をバレル2の先端から取り外すことによって、バレル2の先端開口2aを開放し、開放された先端開口2aを患部に近接させて、プランジャ4の操作部4bを押圧することにより行われる。プランジャ4の操作部13を押圧して、ガスケット4bをバレル2内で先端開口2a側に向けて移動させることにより、補填材Aに骨髄液等の液体Bを浸透させた補填材料を押し出すことができ、先端開口2aに近接する患部に補填材料を補填することができる。
【0039】
この場合において、本実施形態に係る補填材充填器具1によれば、バレル2内の空間に存在していた空気Gが、液体Bによりプランジャ本体4aの貫通穴4d内に追い出されているので、プランジャ4を押したときに、補填材Aに含浸されている液体Bが補填材Aよりも先にバレル2の先端開口2aから吐出されてしまう不都合を防止することができる。
【0040】
すなわち、リン酸カルシウム多孔体顆粒からなる補填材Aは、バレル2の内面に所定の摩擦力で静止されようとする。このため、補填材Aガスケット4bとの間に空気層が存在する場合には、補填材Aがガスケット4bにより押される前に液体Bが空気層により押し出されてしまうという不都合がある。本実施形態によれば、補填材Aとガスケット4との間の空気Gを貫通穴4dに追い出して、ガスケット4bにより直に補填材Aに押圧力を加えることができる。その結果、液体Bを含浸させた補填材Aを液体Bと分離させることなく押し出して充填することができる。
【0041】
特に、切開された皮下に存在する患部に補填材料を充填する場合、バレル2を細く長く形成することが望まれるが、この場合には、補填材Aとバレル2の円筒内面2aとの間の摩擦力が大きくなるので、上記不都合が顕著となる。本実施形態によれば、空気層を介在させることなく、直接、補填材Aに押圧力を付与することができ、液体Bを含浸した補填材Aを容易に押し出すことができるという利点がある。
【0042】
また、本実施形態によれば、プランジャ4を押して補填材料を充填していくと、プランジャ本体4aに設けられたストッパ突起12が、図9(b)に示されるように、バレル2の後端に突き当たって、バレル2に対するプランジャ4のそれ以上の前進移動が制限される。このとき、ガスケット4bの先端が、図9(a)に示されるように、バレル2の先端開口2aから若干突出する位置に配置されるので、バレル2内に存在していた補填材料は全て押し出されることになる。
【0043】
ストッパ突起12が存在しない場合、バレル2内に圧縮状態で挿入されているガスケット4bは、バレル2の先端開口2aに差し掛かると、その圧縮状態を解放する方向に一気に移動してバレル2の先端開口2aから飛び出す虞があるが、本実施形態によれば、ストッパ突起12がバレル2の後端に突き当たることで、ガスケット4bの飛び出しが防止される。特に、バレル2の先端開口2aには、コネクタ3のテーパ面3aに密着するテーパ内面2dが設けられているので、ガスケット4bはテーパ内面2dを滑って先端開口2aから飛び出す方向に移動しようとするが、ストッパ突起12によってその動きが制限される。
【0044】
したがって、補填材料の充填末期にガスケット4bの飛び出しにより補填材料が飛散したり、あるいは、切開された皮下の患部、例えば、骨組織に生じた腫瘍を掻爬して形成された骨欠損部への補填材料の充填時に、飛び出したガスケット4bで骨欠損部に衝撃を与えたりする不都合を未然に防止することができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、ポリプロピレンによりバレル2を構成したが、これに代えて、ポリカーボネート樹脂や環状ポリオレフィン樹脂のように、より硬質の樹脂を使用したり、内面にダイヤモンドコーティングやDLCコーティングを施したりすることにより、補填材Aとバレル2との間の摩擦を低減することとしてもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、プランジャ本体4aの貫通穴4dに流入する液体Bの液面を目視することで液体が補填材Aに十分に含浸されたことを確認することとしたが、図10に示されるように、貫通穴4d内に摺動体21を配置することとしてもよい。摺動体21は、気体Gを通過させるが液体Bを通過させ難い材質により構成され、軽い摩擦力で貫通穴4dの内面に接触している。また、摺動体21には、プランジャ本体4aを透過して外部から視認し易い着色が施されている。
【0047】
これにより、液体Bが摺動体21に到達するまで摺動体21は移動することなくその場に保持され、液体Bが到達すると液体Bに押されて液体Bとともに移動するようになっている。
このようにすることで、液体Bが無色透明な場合でも、その液面位置をプランジャ4の外部から容易に確認することができ、液体Bの注入作業の停止時期を迅速に判断することができる。
【0048】
また、コネクタ3のバレル2への着脱をバレル2の雄ネジ5とコネクタ3の雌ネジ7とにより行うこととしたが、これに代えて、ルアーロック等の他の任意の着脱機構を採用することとしてもよい。また、プランジャ本体4aの貫通穴4dとして、プランジャ本体4aの全長にわたって延び、両端に開口するものを例示したが、これに代えて、図11に示されるように、プランジャ本体4aのガスケット4b側の端部から所定距離だけ長手方向に延び、プランジャ本体4aの長手方向の途中位置で長手方向に屈曲して外周面に開口するものを採用してもよい。
【0049】
この場合に、図11に示されるように、図10と同様の摺動体21を貫通穴4d内に配置することにより、図11(a)、(b)のように、摺動体21が液体Bとともに移動し、液面位置をプランジャ4の外部から容易に確認することができる。また、図11(c)に示されるように、摺動体21が貫通穴4dの終端位置に達すると、摺動体21のそれ以上の移動が抑止されるので、シリンジ9からの液体Bの注入ができなくなり、注入の終了を操作者に知らせることができる。
【0050】
また、図12および図13に示されるように、貫通穴4dがプランジャ本体4aの全長にわたって延びる場合においても、その長手方向の途中位置、あるいは、終端位置に突当部22,23を配置しておくことにより、摺動体21を突当部22,23に突き当ててそれ以上の移動を抑止し、上記と同様の効果を達成することができる。
【0051】
また、貫通穴4dの外側の開口部を、コネクタ3の注入口3bを閉塞していたキャップ8を取付可能な形状に構成し、補填材料の充填時には注入口3bから取り外したキャップ8により貫通穴4dの外側の開口部を閉塞することとしてもよい。
【0052】
また、本実施形態においては、貫通穴4dのガスケット4b側の開口部を閉塞する位置に配置されるフィルタ10として、メッシュ状のフィルタ10を採用したが、これに代えて、同等の口径の連通孔を有する焼結体により構成してもよい。特に、フィルタ10をリン酸カルシウム多孔体等の生体親和性材料からなる焼結体により構成することで、万一、プランジャ4から脱落して、補填材料とともに患部に補填されてしまっても、患部から取り出す必要がないという利点がある。また、充填されている補填材Aと同じリン酸カルシウム多孔体であることが好ましい。
【0053】
また、本実施形態においては、図1に示されるようなガスケット4bを採用したが、これに代えて、図14に示されるように長手方向に短いガスケット4b′を採用することとしてもよい。このようにすることで、ガスケット4b′が圧縮されてバレル2内に収容されたときに、バレル2の円筒内面2cと密着する面積を低減することで、摺動抵抗を低減し、補填材料の押し出し易さを向上することができるという利点がある。
【0054】
また、プランジャ本体4aの材質はポリプロピレンに限定されるものではなく、所定の強度を有する他の任意の材質を採用してもよい。また、無色透明な材質に限られず、有色透明な材質あるいは半透明な材質を用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態においては、プランジャ本体4aに貫通穴4dを有する補填材充填器具1を例示したが、これに限定されるものではなく、貫通穴4dを有しない場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る補填材充填器具を示す縦断面図である。
【図2】図1の補填材充填器具の先端部のコネクタを示す縦断面図である。
【図3】図1の補填材充填器具のバレルの後端部を示す縦断面図である。
【図4】図1の補填材充填器具に補填材を充填した補填材充填キットを示す縦断面図である。
【図5】図4の補填材充填キットの先端部のコネクタを示す縦断面図であり、(a)コネクタの注入口をキャップで閉塞した状態、(b)キャップに代えてシリンジを挿入した状態をそれぞれ示す図である。
【図6】図4の補填材充填キットのバレルの後端部を示す縦断面図である。
【図7】図4の補填材充填キットのコネクタの注入口から液体を注入する作業を示す縦断面図である。
【図8】図4の補填材充填キットを用いた補填材料の補填作業を説明する縦断面図である。
【図9】図4の補填材充填キットによる補填材料の充填終了時の状態を説明する縦断面図であり、(a)バレルの先端部、(b)バレルの後端部を示す図である。
【図10】図1の補填材充填器具の変形例であって、貫通穴に摺動体を配置した縦断面図であり、(a)摺動体を気体が透過する状態、(b)摺動体が液体により移動させられる状態をそれぞれ示す図である。
【図11】図10の補填材充填器具の変形例であって、貫通穴がプランジャ本体の途中位置まで形成されている補填材充填器具であり、(a)摺動体の移動開始、(b)摺動体の移動途中、(c)摺動体の移動終了をそれぞれ示す部分的な縦断面図である。
【図12】図10の補填材充填器具の変形例であって、プランジャ本体の貫通穴の途中位置に突当部が設けられた補填材充填器具であり、(a)摺動体の移動開始、(b)摺動体の移動終了をそれぞれ示す部分的な縦断面図である。
【図13】図10の補填材充填器具の変形例であって、プランジャ本体の貫通穴の終端位置に突当部が設けられた補填材充填器具であり、(a)摺動体の移動開始、(b)摺動体の移動終了をそれぞれ示す部分的な縦断面図である。
【図14】図1の補填材充填器具の変形例であって、プランジャ先端に短いガスケットを取り付けた縦断面図である。
【符号の説明】
【0057】
A 補填材
1 補填材充填器具
2 バレル(外筒)
2a 先端開口(開口部)
2b 後端開口(開口部)
2d テーパ内面
3 コネクタ(蓋部材)
3a テーパ面
3b 注入口
3c テーパ内面
4 プランジャ
4b,4b′ ガスケット
8 キャップ
8a テーパ面
10 フィルタ
12 ストッパ突起(ストッパ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料を含む補填材を収容する両端を開放された直管状の外筒と、
該外筒の後端の開口部から該外筒内に挿入されるプランジャとを備え、
該プランジャが、半径方向に圧縮された状態で外筒内に配置されるガスケットと、該ガスケットの先端面が外筒のほぼ先端に配置されたときに外筒の後端に突き当たるストッパとを備える補填材充填器具。
【請求項2】
前記外筒の先端に着脱可能に取り付けられ、該先端の開口部を密封する蓋部材を備え、
前記外筒の先端の開口部に先端に向かって漸次広がるテーパ内面が設けられ、
前記蓋部材に、前記外筒に取り付けられたときに、前記テーパ内面に密着するテーパ面が設けられている請求項1に記載の補填材充填器具。
【請求項3】
前記蓋部材に、前記外筒の先端に取り付けられた状態で、外筒の内外に連通する注入口が設けられ、
該注入口に着脱可能に取り付けられ、該注入口を密封するキャップを備える請求項2に記載の補填材充填器具。
【請求項4】
前記注入口に、開口方向に向かって漸次広がるテーパ内面が設けられ、
前記キャップに、前記注入口に取り付けられたときに、前記テーパ内面に密着するテーパ面が設けられている請求項3に記載の補填材充填器具。
【請求項5】
前記多孔質材料が、リン酸カルシウム系セラミック材料からなる請求項1から請求項4のいずれかに記載の補填材充填器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−17994(P2008−17994A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191554(P2006−191554)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】