説明

補強絶縁層の架橋方法及び補強絶縁層の架橋装置

【課題】ケーブル接続部の補強絶縁層の含有水分量をより一層低減し、その絶縁性能を向上させること。
【解決手段】ケーブル接続部の補強絶縁層10を架橋する際、架橋用金型19内に加圧ガスとして窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを供給することで、補強絶縁層10に含まれる架橋剤が分解して生成したクミルアルコールを酸素ガスによって2次分解することを促進することができる。更にクミルアルコールの2次分解で生じた水分の乾燥を行うことによって補強絶縁層10に残留するクミルアルコールの量及び水分量の双方を低減させることができるため、ケーブルの経年使用に対して補強絶縁層10中のクミルアルコールの2次分解による水分の発生を抑えることができる。従って、ケーブル接続部の補強絶縁層10の含有水分量をより一層低減し、そのケーブル接続部における補強絶縁層10の絶縁性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電力ケーブル接続部を構成する補強絶縁層の架橋方法及びこれに用いる架橋装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架橋ポリエチレンで絶縁されたケーブル同士を接続する手法として、互いの中心導体を接続した導体接続部を補強絶縁層で被覆し、次いで補強絶縁層を架橋処理するジョイント技術が知られている。
そして、補強絶縁層の材料には、架橋剤であるジクミルパーオキサイド(DCP)が添加されたポリエチレンが用いられている。
ところで、この補強絶縁層を架橋する際、DCPの分解反応により水が生成するため、架橋した補強絶縁層に水分が含まれることがあり、含有する水分量が多い場合には補強絶縁層の絶縁性能が低下してしまう問題がある。
【0003】
こうした補強絶縁層の架橋処理する時に水分が発生する問題に対して、例えば、図7に示すように、架橋装置55の架橋用金型19内に不活性ガス(窒素ガス)を加圧しながら流し、不活性ガスの気流下で補強絶縁層10を架橋することにより、発生した水分を架橋用金型19の外に排出させて補強絶縁層10中の残存水分量を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
また、架橋の前処理に架橋用金型19内の真空引きを行った後、架橋用金型19内に不活性ガスを注入させることで、補強絶縁層10中の残存水分量を低減する方法も知られている(例えば、特許文献4参照。)。
また、架橋モールド工程後に加熱処理を行い、架橋モールドに伴い発生した架橋剤分解残渣の除去と水分の乾燥を行い、補強絶縁層10中の残存水分量を低減する方法も知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2892384号公報
【特許文献2】特許第2892385号公報
【特許文献3】特許第3059537号公報
【特許文献4】特許第2903215号公報
【特許文献5】特許第2999670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、補強絶縁層を架橋する際のDCPの分解反応によって、アセトフェノン、メタンガス、クミルアルコールなどの架橋剤分解残渣が生成され、このうちのクミルアルコールがさらに2次分解して、α−メチルスチレンと水が生成する。そのため、補強絶縁層から一旦水分を除去してもクミルアルコールが残留している場合には、残留したクミルアルコールの2次分解によって補強絶縁層中に水分が再度発生してしまうことがある。
クミルアルコールの2次分解は酸素の存在下において著しく促進されるのであるが、上記特許文献1〜4に記載された架橋方法のように、補強絶縁層などの酸化劣化を防止するために、不活性ガス雰囲気下で架橋反応を行う場合にはクミルアルコールの2次分解が抑制されるためにクミルアルコールが残留しやすい。そして、ケーブル接続部においてクミルアルコールが残留した状態で、絶縁ケーブルを経年使用した場合、徐々にクミルアルコールの分解反応が進行し、補強絶縁層中の水分量が増加してしまうことで補強絶縁層の絶縁性能が低下し、絶縁ケーブルにも不具合が生じてしまう問題がある。
【0006】
また、上記特許文献5のように、架橋反応に伴い生成した残渣中のクミルアルコールを分解するとともに水分を乾燥させる技術では、その一連の作業に、例えば、約10日間の日数を要してしまうので、作業時間が増大する問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ケーブル接続部の補強絶縁層の含有水分量をより一層低減し、その絶縁性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、本発明の一の態様は、
ケーブルの導体接続部上に両ケーブルのケーブル絶縁体に跨って形成した架橋可能な補強絶縁層の外側にガス透過性のチューブ層を設け、それらを架橋用金型内に収容して前記補強絶縁層を架橋するケーブル接続部の補強絶縁層の架橋方法であって、
前記補強絶縁層を前記架橋用金型内で加熱および加圧することで架橋反応させる架橋反応工程を備え、
前記架橋反応工程において前記架橋用金型内を加圧するために供給する加圧ガスとして不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを用い、前記混合ガスにおける酸素ガスの分圧比を空気における酸素ガスの分圧比よりも小さくしたことを特徴としている。
【0009】
本発明に係る補強絶縁層の架橋方法によれば、架橋反応工程において架橋用金型内に供給する加圧ガスが酸素ガスを含有する混合ガスであるので、補強絶縁層に含まれる架橋剤が分解して生成された残渣(架橋剤分解残渣)のうちのアルコール類の2次分解を混合ガス中の酸素ガスによって促進することができる。そして、補強絶縁層に残留するアルコール類の量を低減することで、電力ケーブルの経年使用に対してアルコール類の2次分解による経時的な水分の発生を抑え、ケーブル接続部の補強絶縁層の含有水分量をより一層低減し、その絶縁性能を向上させることができる。
また、酸素ガスの分圧比が空気における酸素ガスの分圧比よりも小さい混合ガスを用いるので、架橋処理時のケーブルの酸化劣化問題も回避できる。
【0010】
また、好ましくは、前記架橋反応工程のうち、前記補強絶縁層の架橋反応が進行するまでの第1段階では前記加圧ガスとして不活性ガスを用い、前記補強絶縁層の架橋反応が進行してその架橋反応に伴う架橋剤の分解残渣が生成する第2段階では前記加圧ガスとして前記混合ガスを用いる。
【0011】
補強絶縁層の架橋反応が進行するまでの第1段階では、加温当初に架橋反応はほとんど起こらず、架橋剤の分解残渣(特に、アルコール類)の発生は僅かであるので、ケーブルにおいて酸化劣化の問題が生じないように、架橋反応が盛んになるまでは加圧ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。
そして、第2段階では、補強絶縁層の架橋反応が盛んに進行し、架橋剤の分解残渣が多く発生するので、酸素ガスを含有する混合ガスを用いて架橋剤残渣のうちのアルコール類の2次分解を促進することで、水に分解してしまうようなアルコール類の量を効率的に低減することができる。
【0012】
また、好ましくは、本発明の架橋方法は、前記架橋反応工程における前記架橋反応に伴い生成した前記分解残渣(特にアルコール類)を除去する分解残渣除去工程を更に備え、
前記分解残渣除去工程は、加圧ガスとして前記混合ガスを前記架橋用金型内に供給するとともに加熱処理し、前記分解残渣中のアルコール類を水に分解する第一段階と、前記加圧ガスとして不活性ガスを前記架橋用金型内に供給するとともに加熱処理し、分解生成された水を除去する第二段階と、を有する。
【0013】
架橋反応工程中も、架橋剤の分解残渣であるアルコール類は2次分解されるが、補強絶縁層に残留するアルコール類の量を可能な限り低減するために、架橋反応工程の後に分解残渣除去工程を行うことが望ましい。分解残渣除去工程の第一段階では、酸素ガスを含有する混合ガスを用いて加熱処理を行ってアルコール類を水に分解する。そして、第二段階では、前記分解生成された水を乾燥させることができるので、補強絶縁層に残留するアルコール類と水分の双方を効率的に低減することができる。
【0014】
また、好ましくは、前記チューブ層の内側に、前記ケーブルおよびケーブル接続部の長手方向にガスが通過可能なガス流通層を設けるとともに、前記ガス流通層の両方の端部を前記架橋用金型の外側に配する。
【0015】
このようなガス流通層を設ければ、架橋剤が分解するときに発生するガス(架橋剤分解残渣や水は沸点を超える高温域ではガスとして存在)を、ガス流通層を通じて架橋用金型の外に速やかに排出することができるので、接続部外部半導電層とチューブ層との間に架橋剤分解残渣ガス等が滞留することによって生じるガス圧の上昇で補強絶縁層が変形することを防止できる利点がある。
また、架橋用金型の外の空気(酸素ガスを含む)を、ガス流通層を通じて架橋用金型内に取り込んで、架橋剤の分解残渣であるアルコール類の2次分解を促進することができる。
【0016】
また、好ましくは、前記ガス流通層と前記チューブ層の間であって、前記ガス流通層の端部が前記架橋用金型の外側に露出する部分に、前記架橋用金型の内側と外側とに連通する通気孔を有するシール部材を設ける。
【0017】
通気孔のあるシール部材を設ければ、架橋剤が分解するときに発生するガス(架橋剤分解残渣や水は沸点を超える高温域ではガスとして存在)を、シール部材の通気孔を通じて架橋用金型の外により速やかに排出することができる。
また、架橋用金型の外の空気(酸素ガスを含む)を、シール部材の通気孔を通じて架橋用金型内に取り込んで、架橋剤の分解残渣であるアルコール類の2次分解を促進することができる。
【0018】
また、好ましくは、前記加圧ガスの供給と排出はガス圧を維持した状態で連続的あるいは断続的に行い、前記架橋用金型内のガス置換を連続的あるいは断続的に行う。
【0019】
架橋用金型内のガス置換を連続的あるいは断続的に行うことによれば、補強絶縁層の架橋に伴い生成した分解残渣であるアルコール類や水分を効率的に架橋用金型の外に排出することができ、架橋用金型内の水蒸気圧や架橋剤分解残渣ガス圧(特にアルコール類)が上昇することを防止して、補強絶縁層中の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にアルコール類)が接続部外部半導電層、ガス流通層、チューブ層を順次拡散して架橋用金型内の加圧ガスに加わることを一層促進することができ、したがって補強絶縁層中の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にアルコール類)の乾燥、除去を一層促進することができる。
【0020】
また、本発明の他の態様は、
ケーブルの導体接続部上に両ケーブルのケーブル絶縁体に跨って形成した架橋可能な補強絶縁層の外側を覆うガス透過性のチューブ層と、
前記チューブ層で覆った前記補強絶縁層を内部に収容して、前記補強絶縁層を架橋するために加熱処理および加圧処理を施す架橋用金型と、
前記架橋用金型の内部を加圧するために、不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを供給するガス供給部と、
前記チューブ層の内側に設けるとともにその両端部を前記架橋用金型の外側に配したガス流通層と、
を備えることを特徴としている。
【0021】
本発明に係る補強絶縁層の架橋装置においては、補強絶縁層をガス透過性のチューブ層で覆うとともにその内側にガス流通路を設けたので、架橋用金型内に供給する酸素ガスおよび架橋用金型の外側の空気に含まれる酸素ガスを効率よく補強絶縁層内に拡散させ、補強絶縁層に含まれる架橋剤分解残渣のうちのアルコール類を効率よく酸素ガスによって2次分解させることができる。そして、2次分解で生じた水分を架橋用金型の外に効率よく排出することができる。このため、この架橋装置によれば、ケーブル接続部の補強絶縁層の含有水分量をより一層低減し、その絶縁性能を向上させることができる。
【0022】
好ましくは、前記架橋用金型の内側における前記ガス流通層と前記チューブ層の間のガスと、前記架橋用金型の外側の空気とを交換可能に通気させる通気孔を有するシール部材を、前記ガス流通層の端部が前記架橋用金型の外側に露出する部分の前記ガス流通層と前記チューブ層の間に設ける。
【0023】
通気孔のあるシール部材を設ければ、補強絶縁層の架橋に伴い生成した分解残渣であるアルコール類や水分を、シール部材の通気孔を通じて架橋用金型の外に排出することができる。
また、架橋用金型の外の空気(酸素ガスを含む)を、シール部材の通気孔を通じて架橋用金型内に取り込んで、架橋剤の分解残渣であるアルコール類の2次分解を促進することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ケーブル接続部の補強絶縁層の架橋を行う際、架橋用金型内に加圧ガスとして不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを供給することで、補強絶縁層に含まれる架橋剤が分解して生成された残渣のうちのアルコール類を酸素ガスによって2次分解することを促進することができる。
そして、補強絶縁層に残留するアルコール類の量および水分量の双方を低減することで、電力線路運用時における残留アルコール類の2次分解による水分発生を抑え、補強絶縁層の絶縁性能低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る架橋装置を一部断面視して示す側面図である。
【図2】本発明の実施例1に関する架橋装置を一部断面視して示す側面図である。
【図3】ガス流通層に関する説明図である。
【図4】本発明の実施例2に関する架橋装置を一部断面視して示す側面図である。
【図5】架橋モールドを実施した補強絶縁層中のクミルアルコール量の測定結果を示す説明図である。
【図6】架橋モールドを実施した補強絶縁層中の水分量の測定結果を示す説明図である。
【図7】従来の架橋装置を一部断面視して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態)
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0027】
図1は、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100同士を接続したケーブル接続部を架橋用金型19内に収容して、そのケーブル接続部の補強絶縁層10を架橋する状態を一部断面視して示す側面図である。
【0028】
架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100は、例えば、図1に示すように、中心導体1と、中心導体1を被覆する内部半導電層2と、内部半導電層2を被覆するケーブル絶縁体3と、ケーブル絶縁体3を被覆する外部半導電層4と、外部半導電層4を被覆する半導電クッション層5と、半導電クッション層5を被覆する金属遮蔽層6と、金属遮蔽層6を被覆する防食層7と、を備えている。
この架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100は、例えば、中心導体1の断面積が500[mm]で、架橋ポリエチレン製のケーブル絶縁体3の厚さが12[mm]の絶縁ケーブルである。
【0029】
そして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部では、図1に示すように、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100の端部を順次段剥ぎして露出させた中心導体1同士を導体接続部8で接続している。ここで、中心導体1を接続する手法としては、溶接接続や、導体接続管を用いた圧縮接続などがあるが、本発明では導体接続部8を形成する接続手法は問わない。
中心導体1と導体接続部8の外周には、例えば、半導電性テープを巻き付けるなどして接続部内部半導電層9を設け、両ケーブルの内部半導電層2同士を電気的に接続している。接続部内部半導電層9は、半導電性テープ巻き後に加熱モールドして形成してもよい。
さらに、接続部内部半導電層9およびケーブル絶縁体3の外周には、例えば、絶縁テープを巻き付けるなどして、両ケーブルのケーブル絶縁体3に跨るように補強絶縁層10を設けている。この絶縁テープは、架橋剤としてDCPが添加されている未架橋のポリエチレンテープである。なお、補強絶縁層10の形成方法としては、絶縁テープ巻きによって形成する手法(テープ巻き架橋モールド工法)の他に、架橋剤としてDCPが添加された未架橋のポリエチレン樹脂を、接続部内部半導電層9やケーブル絶縁体3の外周に押出機にて押し出して成形し補強絶縁層10を形成する手法(押出架橋モールド工法)などもあるが、本発明では架橋前の補強絶縁層10の形成手法は問わない。この補強絶縁層10の最小厚さは、例えば15[mm]である。
さらに、補強絶縁層10とケーブル絶縁体3の外周には、半導電性樹脂で製造された熱収縮チューブなどを用いて接続部外部半導電層11を形成し、両ケーブルの外部半導電層4同士を電気的に接続する。
このように、接続部内部半導電層9、補強絶縁層10、接続部外部半導電層11を形成したケーブル接続部を架橋装置50の架橋用金型19内に収容して、補強絶縁層10を架橋する。
【0030】
次に、ケーブル接続部の補強絶縁層10を架橋する架橋装置50について説明する。
【0031】
架橋装置50は、図1に示すように、ケーブル接続部(8,9,10,11)とその両側のケーブルの外部半導電層4、4を覆う熱収縮チューブ層13と、この熱収縮チューブ層13の両端部外周を覆うシール部材14と、ケーブル接続部を内部に収容する架橋用金型19とを備え、架橋用金型19の両端部は両側のシール部材14の外周上に配置されている。
また、架橋装置50は、架橋用金型19の内部を加熱するための加熱用ヒータ18と、架橋用金型19の内部の温度むらを低減するための均熱用パイプ16と、ケーブル接続部を下支えする偏芯防止用スペーサ17とを備えている。
また、架橋装置50は、架橋用金型19の内部に加圧ガスを供給するガス供給管20と、ガス供給管20に設けられた供給バルブ22と、ガス供給管20に繋がれた不活性ガスボンベ24と乾燥空気ボンベ25と、架橋装置50の内部のガスを装置外に排出するガス排出配管21と、ガス排出配管21に設けられた排出バルブ23とを備えている。
【0032】
熱収縮チューブ層13は、例えば、熱収縮性のシリコーンゴムからなり、ガス透過性が良好なチューブ状部材である。ガス透過性は、例えば、架橋用金型19内に供給される混合ガス中の酸素ガスや、補強絶縁層10の架橋反応に伴い生成する水分(水蒸気)や架橋分解残渣ガス(特にクミルアルコールなど)が透過できる程度である。
シール部材14は、例えば、アルミ、鉄、ステンレスなどの金属材からなり、架橋用金型19とシール部材14の間のシールには必要に応じてゴムパッキンなどを使用する。架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100が熱膨張する際には、熱収縮チューブ層13がケーブル外部半導電層4とシール部材14の間の緩衝材の役割をするため、ケーブル外部半導電層4およびその内側のケーブル絶縁体3の変形などによる損傷を防止することができる。なお、シール部材14は、金属材の他に弾性変形可能な材料で形成してもよい。
架橋用金型19は、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100の補強絶縁層10に加熱処理および加圧処理を施すために密閉可能なケース体である。
この架橋用金型19内に設けられた均熱用パイプ16は、熱伝導性が良好な金属材料からなり、加熱用ヒータ18によって加熱された架橋用金型19内の熱を拡散させる機能を有し、架橋用金型19内の温度の均一化を図る。
偏芯防止用スペーサ17は、例えば、発泡シリコーンゴムシートであり、架橋用金型19内でケーブル接続部を加熱処理する際に、ケーブル接続部が重力により偏芯することを防止するためのものである。
【0033】
不活性ガスボンベ24には、例えば、不活性ガスとして、窒素ガスが充填されている。
乾燥空気ボンベ25には、乾燥空気が充填されている。乾燥空気ボンベ25に代えて、酸素ガスが充填されたボンベを用いてもよい。
そして、供給バルブ22と排出バルブ23の開閉程度を調整することによって、架橋用金型19内への供給ガス量と、架橋用金型19からの排出ガス量を調節し、架橋用金型19内への加圧ガスの供給を調節する。また、不活性ガスボンベ24と乾燥空気ボンベ25にそれぞれ対応している供給バルブ22の開閉程度を調整することによって、架橋用金型19内へ供給する窒素ガスと乾燥空気(酸素ガス)との割合を所望の値に調整する。つまり、ガス供給管20、ガス排出配管21、供給バルブ22、排出バルブ23、不活性ガスボンベ24、乾燥空気ボンベ25等を協働させることで、架橋用金型19内に加圧ガスを供給するガス供給部として機能させることができる。
【0034】
次に、架橋装置50を用いた、ケーブル接続部の補強絶縁層10の架橋方法について説明する。
【0035】
<準備工程>
まず、図1に示すように、熱収縮チューブ層13を被せ熱収縮させることにより装着したケーブル接続部(8,9,10,11)を架橋装置50にセットする。
【0036】
<換気工程>
次いで、不活性ガスボンベ24側の供給バルブ22を開けて、架橋用金型19内のガス圧が6.5[kgf/cm]となるまで窒素ガスを充填する。
なお、窒素ガス充填前に架橋用金型19内には大気圧の空気が存在しているので、窒素ガスを架橋用金型19内に流入させて内部の空気をガス排出配管21から吹き流し、架橋用金型19内に予め存在していた空気を窒素ガスに置換した後、排出バルブ23を閉じることが好ましい。また、窒素ガス充填前に予め真空ポンプ等を用いて架橋用金型19内の空気を排出して真空状態とした後に、不活性ガスボンベ24側の供給バルブ22を開けて窒素ガスを充填してもよい。
こうして、架橋用金型19内の酸素ガスの量を限りなくゼロと見なせる状態にする。
【0037】
<架橋反応工程>
次いで、不活性ガスボンベ24側の供給バルブ22を調節して、架橋用金型19内の窒素ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]から4.5[kgf/cm]に減圧し、続いて、乾燥空気ガスボンベ25側の供給バルブ22を開けて架橋用金型19内に乾燥空気を供給し、架橋用金型19内における窒素ガスと乾燥空気(特に酸素ガス)との混合ガスのガス圧が6.5[kgf/cm]となるように調節する。ここで、乾燥空気に含まれる窒素ガスと酸素ガスの分圧比を約4:1とすると、混合ガスにおける窒素ガスと酸素ガスの分圧比は約17.8:1となり、混合ガスにおける酸素の分圧比は空気の四分の一以下となる(混合ガス中、窒素ガス6.15[kgf/cm]、酸素ガス0.35[kgf/cm])。酸素ガスの分圧比がこの程度小さい混合ガスは、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100において酸化劣化の問題が生じないレベルの酸素混合ガスである。
そして、6.5[kgf/cm]のガス圧で混合ガスを架橋用金型19内に密閉した状態で、加熱用ヒータ18の設定温度を270℃にして、4時間の加熱・加圧処理を行い、補強絶縁層10の架橋反応を進行させる(架橋反応工程)。
この架橋反応工程において、酸素ガスが含まれている混合ガスを加圧ガスとして用いているので、補強絶縁層10の架橋に伴い生成したクミルアルコールの2次分解が促進される。なお、クミルアルコールの2次分解反応により生成した水分(水蒸気)は、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を順次透過(拡散)して架橋用金型19内の加圧ガス中に移動する。また、補強絶縁層10の架橋に伴い生成したクミルアルコールを含む架橋剤分解残渣ガスの一部も、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を順次透過(拡散)して、架橋用金型19内の加圧ガス中に移動する。
なお、本実施形態では、混合ガスを架橋用金型19内に密閉した状態で架橋反応工程を行っているが、連続的あるいは断続的に混合ガスの供給と排出を行うことで、架橋用金型19内のガス置換をしつつ架橋反応工程を行うようにしてもよい。ガス置換を行うことにより、架橋用金型19内の加圧ガス中に加わった水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)を架橋用金型19の外に効率的に排出させて水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス圧の上昇を抑制させることができるため、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を介して架橋用金型19の加圧ガス中へ拡散することを促進させることができる。すなわち、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の残留量を効果的に低減させることができる。
【0038】
<冷却工程>
次いで、その架橋反応工程後、架橋用金型19内の混合ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]に維持した状態で、混合ガスの吹き流し量が5[l/min]となるように、架橋用金型19内への混合ガスの供給と架橋用金型19内からのガスの排出を連続的あるいは断続的に行いガス置換する。そして、架橋用金型19内のガス置換を連続的あるいは断続的に行うとともに、加熱用ヒータ18の温度が270℃から50℃以下となるまで温度制御しながら7時間かけてゆっくりと冷却する(冷却工程)。
この冷却工程における7時間の徐冷中、架橋用金型19内の混合ガスは置換され続けているので、クミルアルコールの2次分解によって発生した水分は、架橋用金型19の外に効率的に排出される。
こうして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部の架橋モールド処理が完了する。
【0039】
このように、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部における補強絶縁層10を架橋装置50で架橋する際、架橋用金型19内に供給する加圧ガスを窒素ガスと酸素ガスの混合ガスにすることによって、補強絶縁層10の架橋に伴い生成するクミルアルコールの2次分解反応を促進することができる。
そして、クミルアルコールの2次分解反応を促進して、補強絶縁層10に残留するクミルアルコール量を管理基準値以下(例えば、0.4wt%以下)にすることによれば、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100を経年使用する場合に、残留クミルアルコールが分解反応してしまっても、補強絶縁層10中の水分量を管理基準値以下(例えば、200ppm以下)に維持できるので、ケーブル接続部の絶縁性能の低下や、その絶縁性能の低下に伴う絶縁ケーブル100の不具合を低減することができる。補強絶縁層10中のクミルアルコール量の管理基準値および水分量の管理基準値は、架橋ポリエチレンに含まれる添加剤や充填材にも依存する値であり、具体的な管理基準値は問わない。クミルアルコール量の管理基準値の考え方は、例えば、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100の経年使用中に残留クミルアルコールの全てが2次分解して水分が発生し、その発生した水分が補強絶縁層10中に均一に分布すると考えた場合に水分量の管理基準値を上回らないようなクミルアルコール量である。
【0040】
なお、以上の実施の形態において、架橋装置50を用いた補強絶縁層10の架橋方法における架橋反応工程では、混合ガスを架橋用金型19内に供給したが、架橋反応工程を第1段階と第2段階に分けて、第1段階では窒素ガス(不活性ガス)、第2段階では窒素ガス(不活性ガス)と酸素ガスの混合ガスを架橋用金型19内に供給するようにしてもよい。
さらに、後述するように、架橋反応工程の第2段階の後に、架橋剤の分解残渣除去工程を加え、前記分解残渣除去工程はクミルアルコールを2次分解する段階(分解残渣除去工程の第一段階)と、この2次分解で生じる水分を乾燥する段階(分解残渣除去工程の第二段階)とに分かれた一連の工程であり、分解残渣除去工程の後に冷却工程に移行するようにしてもよい。
【0041】
(実施例1)
次に、本発明に係るケーブル接続部の補強絶縁層の架橋方法に関し、より実用的な架橋装置51と、その架橋装置51を用いた架橋方法の実施例について説明する。
なお、上記実施形態の架橋装置50と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0042】
架橋装置51は、図2に示すように、熱収縮チューブ層13の内側に、ケーブル100の長手方向にガスが通過可能なガス流通層12を備えている。また、ガス流通層12と熱収縮チューブ層13の間であって、ガス流通層12の端部が架橋用金型19の外側に露出する部分に、架橋用金型19の内側と外側とに連通する通気孔15を有するシール部材14を備えている。
【0043】
ガス流通層12は、図2に示すように、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部(8,9,10,11)および両ケーブルの外部半導電層4を覆っており、そのガス流通層12の両端部は、架橋用金型19の外側に露出している。
具体的に、ガス流通層12は、接続部外部半導電層11と外部半導電層4の外周に、図3に示すように、テフロン(登録商標)テープをラップ巻きすることによって形成しており、テフロンテープがオーバーラップしている部分に生じる空間が螺旋状に連続する通気路12aを成している。テフロンテープ自体およびテフロンテープのラップ部界面にもガス透過性(拡散性)があるため、通気路12aを含めるとテフロンテープをラップ巻きして形成したガス流通層はその厚さ方向と長さ方向の双方にガス透過性(拡散性)がある。更に前記通気路12aのガス透過性は、テフロンテープ自体およびテフロンテープのラップ部界面のガス透過性よりも高く、したがってガス流通層はその厚さ方向よりもその長手方向にガスが透過(拡散)しやすい性質を有している。そのため、ガス流通層12は、架橋用金型19内のケーブル接続部における補強絶縁層10の周囲のガスと、架橋用金型19の外側の空気とを、通気路12aを通じて交換可能に流通させる機能を有している。つまり、ガス流通層12は、補強絶縁層10の架橋に伴い生成した水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)を架橋用金型19の外側に排気したり、架橋用金型19の外側の空気(酸素ガス含む)をガス流通層12、接続部外部半導電層11を介して補強絶縁層10に送り込んだりする機能を有している。また、架橋装置51のガス供給管20から架橋用金型19に供給された加圧ガス(混合ガス)は、その一部が熱収縮チューブ13を透過(拡散)し、前記熱収縮チューブ13を透過(拡散)したガスの一部はガス流通路12および外部半導電層11を透過(拡散)して補強絶縁層10に浸透し、残部がガス流通路12の通気路12aを介して架橋装置51の外側に排出される。なお、熱収縮チューブ13の厚さ方向のガス透過性は、長手方向に通気路12aを有するガス流通層12の長手方向のガス透過性よりも小さいため、加圧ガス(窒素ガスあるいは窒素ガスと酸素ガスの混合ガス)が熱収縮チューブ13を透過(拡散)して接続部外部半導電層11の外周上に位置するガス流通層12に到達する量(あるいは到達した加圧ガスの圧力)は、架橋用金型19の外側の空気がガス流通層12(通気路12a)を介して接続部外部半導電層11の外周上に位置するガス流通層12に到達する量(あるいは到達した空気の圧力)と比較して小さい。したがって、熱収縮チューブ13を透過(拡散)してきた加圧ガスは、ガス流通層の長手方向への拡散はし難く、その大部分はガス流通層12の厚さ方向に拡散していき、接続部外部半導電層11を介して補強絶縁層10へ拡散していく。
【0044】
シール部材14は、図2に示すように、架橋用金型19の内側と外側とに連通する通気孔15を備えており、架橋用金型19の内側におけるガス流通層12と熱収縮チューブ層13の間のガスと、架橋用金型19の外側の空気とを、通気孔15を通じて交換可能に通気させる機能を有している。そして、シール部材14の通気孔15は、補強絶縁層10の架橋に伴い生成した水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)をガス流通層12、通気孔15を介して架橋用金型19の外側に排気したり、架橋用金型19の外側の空気を通気孔15、ガス流通層12を介して補強絶縁層10に送り込んだりすることで、ガス流通層12の機能を補助する。
【0045】
なお、架橋装置51の熱収縮チューブ層13は、ケーブル100およびケーブル接続部を被覆したガス流通層12の外周を覆っており、熱収縮チューブ層13の端部はガス流通層12の端部の外周上に設けられたシール部材14を覆う配置に設けられている。
【0046】
次に、架橋装置51を用いた、ケーブル接続部の補強絶縁層10の架橋方法について説明する。
【0047】
<準備工程>
まず、図2に示すように、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100およびケーブル接続部(8,9,10,11)の外周にガス流通層12を形成し、ガス流通層12の両端部の外周上にシール部材14を配置し、ガス流通層12と両端部のシール部材14とを覆うように熱収縮チューブ層13を装着するとともに熱収縮チューブ層13を熱収縮させて、架橋用金型19の両端部が熱収縮チューブ層を挟んでシール部材14の上方に配置するようにケーブル接続部を架橋装置51にセットする。
【0048】
<換気工程>
次いで、不活性ガス(窒素ガス)ボンベ24側の供給バルブ22を開けて、架橋用金型19内のガス圧が6.5[kgf/cm]となるまで窒素ガスを充填する。
なお、上述した(実施形態)の欄の<換気工程>で説明したようにして、架橋用金型19内の酸素ガスの量を限りなくゼロと見なせる状態にする。
【0049】
<架橋反応工程の第1段階>
そして、6.5[kgf/cm]のガス圧で窒素ガスを架橋用金型19内に密閉した状態で、加熱用ヒータ18の設定温度を270℃にして、3時間の加熱・加圧処理を行い、補強絶縁層10の架橋反応を進行させる(架橋反応工程の第1段階)。
補強絶縁層10の架橋反応は、温度の上昇とともに反応速度が指数関数的に速まるので、加温当初架橋反応はほとんど起こらず、クミルアルコールの発生は僅かである。そこで、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100に酸化劣化の問題が生じないように、架橋反応が盛んになるまでの架橋反応工程の第1段階では、酸素を含まない加圧ガスを用いる。すなわち、加圧ガスとして窒素ガスのみを用いる。
【0050】
<架橋反応工程の第2段階>
次いで、不活性ガス(窒素ガス)ボンベ24側の供給バルブ22を調節して、架橋用金型19内の窒素ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]から4.5[kgf/cm]に減圧し、続いて、乾燥空気ガスボンベ25側の供給バルブ22を開けて架橋用金型19内に乾燥空気を供給し、架橋用金型19内における窒素ガスと乾燥空気(特に酸素ガス)との混合ガスのガス圧が6.5[kgf/cm]となるように調節する。ここで、乾燥空気に含まれる窒素ガスと酸素ガスの分圧比を約4:1とすると、混合ガスにおける窒素ガスと酸素ガスの分圧比は約17.8:1となり、混合ガスにおける酸素の分圧比は空気の四分の一以下となる(混合ガス中、窒素ガス6.15[kgf/cm]、酸素ガス0.35[kgf/cm])。酸素ガスの分圧比がこの程度小さい混合ガスであれば、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100に酸化劣化の問題が生じない。
そして、6.5[kgf/cm]のガス圧で混合ガスを架橋用金型19内に密閉した状態で、加熱用ヒータ18の設定温度は270℃のまま、1時間の加熱・加圧処理を行い、補強絶縁層10の架橋反応を一層進行させる(架橋反応工程の第2段階)。
この架橋反応工程の第2段階では、補強絶縁層10の架橋反応が進行して、架橋反応が盛んに起こることで、架橋反応に伴う架橋剤(DCP)の分解残渣が多く生成する。この架橋反応工程の第2段階で、補強絶縁層10の架橋反応に伴いDCPが分解してクミルアルコールが盛んに発生するので、発生したクミルアルコールの2次分解を促進させるために、架橋反応工程の第2段階では加圧ガスとして窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いる。つまり、架橋反応工程の第2段階では、架橋用金型19内に供給する加圧ガスとして、ケーブルに酸化劣化の問題が生じないレベルの酸素ガスを含む混合ガスを用いることによって、補強絶縁層10の架橋に伴い生成したクミルアルコールの2次分解を促進させる。
そして、クミルアルコールの2次分解反応により生成した水分(水蒸気)および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部は、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を透過(拡散)して架橋用金型19内の加圧ガス中に移動する。
特に、架橋装置51において、補強絶縁層10の架橋に伴い生成した水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部は、接続部外部半導電層11、ガス流通層12(通気路12a)、通気孔15を通じて架橋用金型19の外側に排出される。また、架橋用金型19の外側の空気中の酸素ガスが、通気孔15、ガス流通層12(通気路12a)、接続部外部半導電層11を通じて補強絶縁層10中に拡散して、クミルアルコールの2次分解反応をより一層促進させる。
なお、本実施形態では、混合ガスを密閉された架橋用金型19内に充填した状態で架橋反応工程を行っているが、連続的あるいは断続的に混合ガスの供給と排出を行うことで、架橋用金型19内のガス置換をしつつ架橋反応工程を行うようにしてもよい。ガス置換を行うことにより、架橋用金型19内の加圧ガス中に加わった水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)を架橋用金型19の外に効率的に排出させて水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス圧の上昇を抑制させることができるため、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を介して架橋用金型19の加圧ガス中へ拡散することを促進させることができる。すなわち、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の残留量を効果的に低減させることができる。
【0051】
<分解残渣除去工程の第一段階>
次いで、架橋用金型19内の混合ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]に維持した密閉状態で、加熱用ヒータ18の設定温度を260℃に下げて、9時間の加熱・加圧処理を行い、補強絶縁層10の架橋反応に伴い生成した架橋剤の分解残渣(特に、クミルアルコール)を除去する(分解残渣除去工程の第一段階)。
この分解残渣除去工程の第一段階では、架橋反応工程の第2段階と同様に、加圧ガスとしての窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを架橋用金型19内に供給するとともに加熱処理し、特に分解残渣中のアルコール類であるクミルアルコールを水に分解して除去する。この分解残渣除去工程の第一段階では、加熱用ヒータ18の温度を架橋反応工程の第2段階より下げることによって、架橋用金型19内のケーブル接続部の温度が必要以上に上昇することを防いでいる。
特に、分解残渣除去工程の第一段階では、加圧ガス中の酸素ガスが熱収縮チューブ層13、ガス流通層12、接続部外部半導電層11を順次介して補強絶縁層10中へ拡散していき、クミルアルコールの2次分解反応を促進させ、その2次分解反応によって水分が生成される。そして、補強絶縁層10中においてクミルアルコールの2次分解で生じた水分および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部が補強絶縁層10から接続部外部半導電層11、ガス流通層12、熱収縮チューブ層13を順次拡散して架橋用金型19内の加圧ガスに水蒸気および架橋剤分解残渣ガスとして加わる。さらに、架橋装置51において、クミルアルコールの分解に伴い生成した水分(水蒸気)および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部は、補強絶縁層10から接続部外部半導電層11、ガス流通層12(通気路12a)、通気孔15を通じて架橋用金型19の外側に排出される。また、架橋用金型19の外側の空気中の酸素ガスが、通気孔15、ガス流通層12(通気路12a)、接続部外部半導電層11を通じて架橋用金型19内の補強絶縁層10中へ拡散して、クミルアルコールの2次分解反応をより一層促進させる。
この分解残渣除去工程の第一段階にて、補強絶縁層10中に含まれるクミルアルコールの含有量を管理基準値以下(例えば、0.4wt%以下)まで低減させる。
なお、本実施例1では、架橋用金型19内に充填した加圧ガス(混合ガス)を置換しない状態でクミルアルコールの2次分解反応を行っているが、連続的あるいは断続的に混合ガスの供給と排出を行うことで、架橋用金型19内のガス置換をしつつ分解残渣除去工程の第一段階を行うようにしてもよい。混合ガスを連続的あるいは断続的に置換する効果としては、補強絶縁層10から加圧ガス中へ移行してきた水分(水蒸気)および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)を架橋用金型19の外に効率よく排出し、架橋用金型19内の水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス圧の上昇を防止することで補強絶縁層10中の水分の乾燥および架橋剤分解残渣(特にクミルアルコール)の拡散による低減を促進できることが挙げられる。
【0052】
<分解残渣除去工程の第二段階>
次いで、乾燥空気ボンベ25側の供給バルブ22を閉じ、不活性ガス(窒素ガス)ボンベ24側の供給バルブ22を調節して、架橋用金型19内の加圧ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]に維持した状態で、窒素ガスの吹き流し量が5[l/min]となるように、架橋用金型19内への窒素ガスの供給と架橋用金型19内からのガスの排出を連続的あるいは断続的に行い窒素ガスでガス置換する。そして、架橋用金型19内のガス置換を連続的あるいは断続的に行うとともに、加熱用ヒータ18の設定温度は260℃のまま、7時間の加熱・加圧処理を行い、クミルアルコールの2次分解により生成した補強絶縁層10中の水分を乾燥させて除去する(分解残渣除去工程の第二段階)。
この分解残渣除去工程の第二段階では、架橋剤(DCP)の分解残渣であるクミルアルコールが2次分解して生成した補強絶縁層10の水分を乾燥させることにより、補強絶縁層10中から除去する。特に、連続的あるいは断続的に窒素ガスの供給と排出を行うことで、架橋用金型19内のガス置換をしつつ分解残渣除去工程の第二段階を行うことによって、架橋用金型19内の加圧ガス中に加わった水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)を架橋用金型19の外に効率的に排出させて架橋用金型19内の水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス圧の上昇を抑制させることができるため、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が、接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を介して架橋用金型19の加圧ガス中へ拡散することを促進させることができる。すなわち、補強絶縁層10内の水分や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の残留量を効果的に低減させることができる。
そして、この分解残渣除去工程の第二段階は、補強絶縁層10中の水分を乾燥する工程であり、補強絶縁層10中のクミルアルコールの2次分解を積極的に行う必要がないため、酸素ガスが不要である。そこで、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100およびケーブル接続部において酸化劣化が極力生じないように、この分解残渣除去工程の第二段階では、加圧ガスとして窒素ガスのみを用いる。
なお、架橋装置51においては、クミルアルコールの分解に伴い生成した水分(水蒸気)および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部は、接続部半導電層11、ガス流通層12(通気路12a)、通気孔15を通じて架橋用金型19の外側に排出される。
【0053】
以上のように、架橋反応工程(第1段階、第2段階)後、補強絶縁層10の架橋反応に伴い生成した分解残渣(特に、クミルアルコール)とクミルアルコールが2次分解して生成された水分とを除去する分解残渣除去工程(第一段階、第二段階)を実行する。
【0054】
<冷却工程>
次いで、分解残渣除去工程の第二段階後、架橋用金型19内の窒素ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]、窒素ガスの吹き流し量を5[l/min]に維持して、架橋用金型19内のガス置換を継続しつつ、加熱用ヒータ18の温度が260℃から50℃以下となるまで温度制御しながら7時間かけてゆっくりと冷却する(冷却工程)。
この冷却工程における7時間の徐冷中、架橋用金型19内の混合ガスは置換され続けているので、クミルアルコールの2次分解によって発生した補強絶縁層10中の水分および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)は、架橋用金型19の外に効率的に排出される。
【0055】
こうした一連の工程を経て、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部の架橋モールド処理が完了する。
この実施例1の架橋装置51を用いた架橋方法によって形成した補強絶縁層10の内層(より導体接続部8に近い部分)、外層(より接続部外部半導電層11に近い外側部分)、内層と外層の間の中層部分における、クミルアルコールと水分の含有量を測定した結果を図5、図6に示す。なお、本実施例において、架橋モールド後に補強絶縁層10に残留するクミルアルコール量の管理基準値は0.4wt%以下、また、水分量の管理基準値は200ppm以下としている。補強絶縁層10中のクミルアルコール量の管理基準値および水分量の管理基準値は、架橋ポリエチレンに含まれる添加剤や充填材にも依存する値であり、具体的な管理基準値は問わない。クミルアルコール量の管理基準値の考え方は、例えば、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100の経年使用中に残留クミルアルコールの全てが2次分解して水分が発生し、その発生した水分が補強絶縁層10中に均一に分布すると考えた場合に水分量の管理基準値を上回らないようなクミルアルコール量である。
図5に示すように、実施例1の架橋方法によって形成した補強絶縁層10における残留クミルアルコール量は、内層、中層、外層のいずれも管理基準値以下(0.4wt%以下)になっている。また、図6に示すように、実施例1の架橋方法によって形成した補強絶縁層10が含有する水分量は、内層、中層、外層のいずれも150ppm程度で、管理基準値以下(200ppm以下)になっており、乾燥状態がよいことがわかる。
【0056】
このように、実施例1の架橋装置51による補強絶縁層10の架橋方法は、架橋用金型19内に供給する加圧ガスを、窒素ガスのみの場合と、窒素ガスと乾燥空気(酸素ガス)の混合ガスの場合とを、工程ごと段階ごとに使い分けることによって、クミルアルコールの2次分解を促進しつつも、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100およびケーブル接続部の酸化劣化を防止している。具体的に、補強絶縁層10の架橋反応が盛んに起こる架橋反応工程の第2段階と、架橋反応工程の第2段階で発生したクミルアルコールを2次分解する分解残渣除去工程の第一段階において、架橋用金型19内に酸素ガスを含んだ混合ガスを加圧ガスとして供給することによって、クミルアルコールの2次分解を一層促進することができる。
【0057】
また、架橋装置51は、ガス流通層12と通気孔15を有するシール部材14を備えているので、架橋反応に伴い補強絶縁層10中に生成した架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)や、そのクミルアルコールの分解に伴い生成した水分(水蒸気)の一部を、接続部外部半導電層11、ガス流通層12(通気路12a)、シール部材14の通気孔15を通じて架橋用金型19の外側に排出することができる。また、架橋用金型19の外側の空気中の酸素ガスが、通気孔15、ガス流通層12、接続部半導電層11を通じて補強絶縁層10中へ拡散され、クミルアルコールの2次分解反応をより一層促進させることができる。
【0058】
そして、本実施例1では、補強絶縁層10の架橋反応が盛んな架橋反応工程の第2段階と、これに続く分解残渣除去工程の第一段階で、酸素ガスを含む混合ガスを加圧ガスとして用いて補強絶縁層10中のクミルアルコールを水に2次分解させ、クミルアルコールの2次分解で生成した補強絶縁層10中の水分を分解残渣除去工程の第二段階で乾燥させるので、正味27時間で補強絶縁層10内のクミルアルコールと水分の双方の含有量を管理基準値以下まで効果的に低減させることができる。
これに対し、特許文献5に記載の従来技術の場合、補強絶縁層10中のクミルアルコール及び水分を低減するための作業時間は、正味10日間であるので、本発明による作業時間の短縮は、著しい効果であるといえる。
【0059】
以上のように、補強絶縁層10の架橋モールドを行う際に、クミルアルコールの2次分解反応を促進することによって、補強絶縁層10に残留するクミルアルコール量を管理基準値以下(例えば、0.4wt%以下)にすることができる。同時に補強絶縁層10中に残留する水分量も管理基準値以下(例えば、200ppm以下)にすることができる。そして、クミルアルコールの残留量を管理基準値以下にしておけば、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100を経年使用する場合に、残留クミルアルコールが分解反応して補強絶縁層10中に水分が発生しても、補強絶縁層10中の水分量を管理基準値以下に維持することができる。その結果、ケーブル接続部の絶縁性能の低下や、その絶縁性能の低下に伴う絶縁ケーブル100の不具合を低減することができ、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部の品質低下の防止を図ることができる。
【0060】
(実施例2)
次に、本発明に係るケーブル接続部の補強絶縁層の架橋方法に関し、図4に沿って、架橋装置52と、その架橋装置52を用いた架橋方法の実施例について説明する。
なお、上記実施形態の架橋装置50、51と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
架橋装置52は、図4に示すように、熱収縮チューブ層13の内側に、ケーブル100およびケーブル接続部の長手方向にガスが通過可能なガス流通層12を備えている。また、ガス流通層12と熱収縮チューブ層13の間であって、ガス流通層12の端部が架橋用金型19の外側に露出する部分に、シール部材14を備えている。
この実施例2では通気孔の無いシール部材14を用いている。これ以外の構成は、架橋装置51と同様のものである。
【0062】
この架橋装置52を用いて、実施例1と同様に、架橋反応工程から冷却工程までの連続した一連の工程によって、補強絶縁層10を架橋モールド処理した。
この実施例2の架橋装置52を用いた架橋方法によって形成した補強絶縁層10の内層、外層およびこれらの間の中層部分における、クミルアルコールと水分の含有量を測定した結果を図5、図6に示す。
図5に示すように、実施例2の架橋方法によって形成した補強絶縁層10における残留クミルアルコール量は、内層、中層、外層のいずれも管理基準値以下(0.4wt%以下)になっている。また、図6に示すように、補強絶縁層10中の水分量は、内層、中層、外層のいずれも150ppm以下で、管理基準値以下(200ppm以下)になっており、乾燥状態がよいことがわかる。
【0063】
このように、実施例2の架橋装置52による架橋方法によれば、補強絶縁層10に残留するクミルアルコール量を管理基準値以下(例えば、0.4wt%以下)にすることができる。同時に補強絶縁層10中に残留する水分量も管理基準値以下(例えば、200ppm以下)にすることができる。その結果、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100を経年使用する場合に、補強絶縁層10中の残留クミルアルコールが2次分解して水分が発生しても、補強絶縁層10中の水分量が管理基準値を超えて増加することがないので、ケーブル接続部の絶縁性能の低下や、その絶縁性能の低下に伴う絶縁ケーブル100の不具合を低減することができる。
【0064】
ところで、この実施例2の結果を実施例1の結果と比較すると、水分量はほぼ同等であるものの、残留クミルアルコール量が増加傾向にある(図5、図6参照)。これは、シール部材14に通気孔があるか否かの差で生じた結果である。
本発明者は、通気孔の作用効果を次のように考察している。
まず、ケーブル絶縁体3と外部半導電層4が加熱されて熱膨張すると、ガス流通層12は外部半導電層4とシール部材14との間で圧迫され、ガス流通層12の通気路12aの空隙が減少する。したがって、シール部材14の直下に位置するガス流通層12(通気路12a)における長手方向のガス透過性(拡散性)は著しく低下する。
実施例1のように、シール部材14に通気孔15が形成されている場合には、前記のようにシール部材14の直下に位置するガス流通層12の長手方向のガス透過性(拡散性)が低下しても通気孔15を介してガスの流通が可能なため、架橋用金型19の外側の空気中の酸素ガスが通気孔15、ガス流通層12、接続部半導電層11を介して補強絶縁層10中へ拡散し、クミルアルコールの2次分解反応を促進させる。さらには、補強絶縁層10中に架橋反応で生じた架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部は、接続部外部半導電層11、ガス流通層12、通気孔15を介して架橋用金型19の外側に排出される。
これに対して、実施例2のように、シール部材14に通気孔がない場合には、上述のようにシール部材14の直下に位置するガス流通層12の長手方向のガス透過性(拡散性)が著しく低下することにより、架橋用金型19の外側の空気中の酸素ガスが補強絶縁層10中へ拡散することが妨げられるため、クミルアルコールの2次分解反応が抑制され、残留クミルアルコール量が増加する。さらには、補強絶縁層10中に架橋反応で生じた架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の一部が、接続部外部半導電層11、ガス流通層12を介して架橋用金型19の外側に排出されることが妨げられるため、残留クミルアルコール量が増加する。
この実施例1と実施例2の比較から、架橋装置のシール部材14には通気孔を設けることが好ましいといえる。
【0065】
次に、本発明の効果を確認するために実施した、比較例(比較例1〜3)について説明する。
【0066】
(比較例1)
架橋用金型19内に供給する加圧ガスを窒素ガスのみにした(混合ガスを用いない)点が上記実施例1と異なる方法で比較例1の架橋処理を実施した。架橋用金型19に充填した窒素ガスの置換はしなかった。なお、その他の条件は、実施例1と同じである。
【0067】
この比較例1の架橋方法によって形成した補強絶縁層10の内層、外層およびこれらの間の中層部分における、クミルアルコールと水分の含有量を測定した結果を図5、図6に示す。
図5に示すように、比較例1の架橋方法によって形成した補強絶縁層10における残留クミルアルコール量は、内層および中層にて管理基準値(0.4wt%)を上回っており、クミルアルコールの2次分解が不十分であることがわかる。
また、図6に示すように、水分量は、内層、中層、外層のいずれも300ppm程で管理基準値(200ppm)を上回っており、乾燥が不十分であることがわかる。
【0068】
クミルアルコール量および水分量がいずれも管理基準値を超えてしまった理由は、加圧ガスとして窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いなかったため、補強絶縁層10が架橋した際に生成したクミルアルコールを2次分解させるために必要な酸素ガスを供給できなかったことが挙げられる。また、架橋用金型19内のガス置換を行わなかったため、架橋用金型19内の加圧ガス中に加わった水分(水蒸気)や架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が架橋用金型19内に滞留して水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス圧が上昇してしまい、補強絶縁層10中の水分および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が補強絶縁層10の外側へ拡散することが抑制されたことが挙げられる。
この2点が補強絶縁層10中のクミルアルコール量および水分量が管理基準値を超えた原因と考察する。
【0069】
(比較例2)
上記実施例1と比較して、架橋用金型19内に供給する加圧ガスを窒素ガスのみにした(混合ガスを用いない)点が異なる方法で比較例2の架橋処理を実施した。この比較例2では、窒素ガスのガス圧を6.5[kgf/cm]に維持し、窒素ガスの吹き流し量が5[l/min]となる連続的なガス置換を行った点が比較例1(加圧ガスのガス置換なし)と異なる。なお、その他の条件は、実施例1および比較例1と同じである。
【0070】
この比較例2の架橋方法によって形成した補強絶縁層10の、外層およびこれらの間の中層部分における、クミルアルコールと水分の含有量を測定した結果を図5、図6に示す。
図5に示すように、比較例2の架橋方法によって形成した補強絶縁層10における残留クミルアルコール量は、内層および中層にて管理基準値(0.4wt%)を上回っており、クミルアルコールの2次分解が不十分であることがわかる。
また、図6に示すように、補強絶縁層10中の水分量は、内層、中層、外層のいずれも160ppm程度であり、管理基準値以下(200ppm以下)まで乾燥が進んでいることがわかる。
【0071】
クミルアルコール量が管理基準値を超えてしまった理由は、比較例1と同様であり、加圧ガスとして窒素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いなかったため、補強絶縁層10が架橋した際に生成したクミルアルコールを2次分解させるために必要な酸素ガスを供給できなかったことが挙げられる。
一方、補強絶縁層10の水分の乾燥が進んだ理由は、架橋用金型19内の加圧ガスのガス置換が継続して行われたことにより、架橋用金型19内の加圧ガス中に加わった水分(水蒸気)が架橋用金型19の外に効率的に排出されて架橋用金型19内の水蒸気圧の上昇が抑制されたため、補強絶縁層10内の水分が接続部外部半導電層11、熱収縮チューブ層13を介して架橋用金型19の加圧ガス中へ拡散することが促進され、したがって補強絶縁層10中の水分の乾燥が促進されたことによる。
【0072】
(比較例3)
上記実施例2とは、分解残渣除去工程を省略し、架橋反応工程と冷却工程とからなる連続した工程中、架橋用金型19内に供給する加圧ガスを窒素ガスのみにした点が異なる比較例3の架橋処理を実施した。架橋用金型19に充填した窒素ガスの置換はしなかった。なお、その他の条件は、実施例2と同じである(シール部材14に通気孔がない架橋装置52での補強絶縁層10の架橋モールド)。
【0073】
この比較例3の架橋方法によって形成した補強絶縁層10の内層、外層およびこれらの間の中層部分における、クミルアルコールと水分の含有量を測定した結果を図5、図6に示す。
図5に示すように、比較例3の架橋方法によって形成した補強絶縁層10における残留クミルアルコール量は、内層、中層、外層のいずれも管理基準値(0.4wt%)を上回っており、クミルアルコールの2次分解が不十分であることがわかる。
また、図6に示すように、水分量は、内層、中層、外層のいずれも300ppm以上で管理基準値(200ppm)を上回っており、乾燥が不十分であることがわかる。
【0074】
そして、この比較例3は、比較例1と比較例2と比べても、残留クミルアルコール量と残留水分量がともに一段と多い。
これは、クミルアルコールを2次分解させるために必要な酸素ガスが供給されなかったことと、加圧ガスのガス置換をしなかったことにより架橋用金型19内の水蒸気圧および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)の圧力が上昇して補強絶縁層10中の水分および架橋剤分解残渣ガス(特にクミルアルコール)が補強絶縁層10の外側へ拡散することが抑制されたことに加え、補強絶縁層10中でのクミルアルコールの2次分解と水分乾燥をする分解残渣除去工程が省かれたためである。
【0075】
以上のように、本発明(実施例1,2)に係るケーブル接続部の補強絶縁層10の架橋方法によって、補強絶縁層10の架橋反応が盛んに起こる架橋反応工程の第2段階と、この架橋反応工程の第2段階で発生したクミルアルコールを2次分解する分解残渣除去工程の第一段階とにおいて、架橋用金型19内に加圧ガスとして酸素ガスを含んだ混合ガスを供給することによって、クミルアルコールの2次分解を一層促進することができる。また、架橋装置にガス流通層12を設けることと、より好ましくは実施例1のように通気孔15を有するシール部材14を設けることによって、クミルアルコールの2次分解をより一層促進することができる。そして、補強絶縁層10に残留するクミルアルコール量を管理基準値以下(例えば、0.4wt%以下)にすることができる。
更に、分解残渣除去工程の第一段階で補強絶縁層10中のクミルアルコールを2次分解した後に、2次分解によって生成した補強絶縁層10中の水分を乾燥させるための分解残渣除去工程の第二段階を、架橋用金型19内に加圧ガスとして供給する窒素ガスを吹き流して連続的あるいは断続的にガス置換しつつ行うことによって、補強絶縁層10中の水分の乾燥を一層進めることができる。
このように、上記架橋方法(実施例1,2)によって、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部を架橋処理することによれば、ケーブル100の経年使用時も含めて補強絶縁層10の含有水分量が管理基準値を超えてしまうことがないので、ケーブル接続部の絶縁性能の低下や、その絶縁性能の低下に伴う絶縁ケーブル100の不具合を低減することができ、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル100のケーブル接続部の品質向上を図ることができる。
【0076】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
1 中心導体
2 内部半導電層
3 ケーブル絶縁体
4 外部半導電層
5 半導電クッション層
6 金属遮蔽層
7 防食層
8 導体接続部
9 接続部内部半導電層
10 補強絶縁層
11 接続部外部半導電層
12 ガス流通層
12a 通気路
13 熱収縮チューブ層
14 シール部材
15 通気孔
16 均熱用パイプ
17 偏芯防止用スペーサ
18 加熱用ヒータ
19 架橋用金型
20 ガス供給管(ガス供給部)
21 ガス排出配管(ガス供給部)
22 供給バルブ(ガス供給部)
23 排出バルブ(ガス供給部)
24 不活性ガスボンベ(ガス供給部)
25 乾燥空気ボンベ(ガス供給部)
50、51、52 架橋装置
100 架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(ケーブル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの導体接続部上に両ケーブルのケーブル絶縁体に跨って形成した架橋可能な補強絶縁層の外側にガス透過性のチューブ層を設け、それらを架橋用金型内に収容して前記補強絶縁層を架橋する補強絶縁層の架橋方法であって、
前記補強絶縁層を前記架橋用金型内で加熱および加圧することで架橋反応させる架橋反応工程を備え、
前記架橋反応工程において前記架橋用金型内を加圧するために供給する加圧ガスとして不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを用い、前記混合ガスにおける酸素ガスの分圧比を空気における酸素ガスの分圧比よりも小さくしたことを特徴とする補強絶縁層の架橋方法。
【請求項2】
前記架橋反応工程のうち、前記補強絶縁層の架橋反応が進行するまでの第1段階では前記加圧ガスとして不活性ガスを用い、前記架橋反応が進行してその架橋反応に伴う架橋剤の分解残渣が生成する第2段階では前記加圧ガスとして前記混合ガスを用いることを特徴とする請求項1に記載の補強絶縁層の架橋方法。
【請求項3】
前記架橋反応工程における前記架橋反応に伴い生成した前記分解残渣を除去する分解残渣除去工程を更に備え、
前記分解残渣除去工程は、加圧ガスとして不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを前記架橋用金型内に供給するとともに加熱処理し、前記分解残渣中のアルコール類を水に分解する第一段階と、前記加圧ガスとして不活性ガスを前記架橋用金型内に供給するとともに加熱処理し、分解生成した水を除去する第二段階と、を有することを特徴とする請求項2に記載の補強絶縁層の架橋方法。
【請求項4】
前記チューブ層の内側に、前記ケーブルおよびケーブル接続部の長手方向にガスが通過可能なガス流通層を設けるとともに、前記ガス流通層の両方の端部を前記架橋用金型の外側に配したことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の補強絶縁層の架橋方法。
【請求項5】
前記ガス流通層と前記チューブ層の間であって、前記ガス流通層の端部が前記架橋用金型の外側に露出する部分に、前記架橋用金型の内側と外側とに連通する通気孔を有するシール部材を設けたことを特徴とする請求項4に記載の補強絶縁層の架橋方法。
【請求項6】
前記加圧ガスの供給は連続的あるいは断続的に行い、前記架橋用金型内のガス置換を連続的あるいは断続的に行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の補強絶縁層の架橋方法。
【請求項7】
ケーブルの導体接続部上に両ケーブルのケーブル絶縁体に跨って形成した架橋可能な補強絶縁層の外側を覆うガス透過性のチューブ層と、
前記チューブ層で覆った前記補強絶縁層を内部に収容して、前記補強絶縁層を架橋するために加熱処理および加圧処理を施す架橋用金型と、
前記架橋用金型の内部を加圧するために、不活性ガスと酸素ガスの混合ガスを供給するガス供給部と、
前記チューブ層の内側に設けるとともにその両端部を前記架橋用金型の外側に配したガス流通層と、
を備えることを特徴とする補強絶縁層の架橋装置。
【請求項8】
前記架橋用金型の内側における前記ガス流通層と前記チューブ層の間のガスと、前記架橋用金型の外側の空気とを交換可能に通気させる通気孔を有するシール部材を、前記ガス流通層と前記チューブ層の間に設けたことを特徴とする請求項7に記載の補強絶縁層の架橋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−39703(P2012−39703A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175832(P2010−175832)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】