説明

製紙用表面サイズ剤

【課題】優れたサイズ効果を維持しつつ、塗工作業時の発泡を低減させることができる水溶性の製紙用表面サイズ剤を提供する。
【解決手段】少なくとも、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分と、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分と、架橋性モノマー成分からなるモノマー成分を、全モノマー成分100重量部に対し、0.01〜20重量部の連鎖移動剤を存在下で共重合させて得られる共重合体を含有する製紙用表面サイズ剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙用表面サイズ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用表面サイズ剤は、紙に塗工することで、サイズ効果(紙の液体吸収性をコントロールし、インクの滲みなどを抑える)を付与することができる薬品であり、紙のステキヒトサイズ度や筆記適性などのサイズ効果を向上させることができる。このような表面サイズ剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分等の疎水性不飽和モノマーと(メタ)アクリル酸等のアニオン性ビニルモノマーを主成分とする共重合体を含有する表面サイズ剤(特許文献1参照)や、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分等の疎水性不飽和モノマーとジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性ビニルモノマーを主成分とする共重合体を含有する表面サイズ剤(特許文献2参照)が知られている。
【0003】
この製紙用表面サイズ剤は、単独で紙への塗工に供されることもあるが、多くの場合、澱粉、無機塩類など他の成分を混合して塗工液を調製し、紙への塗工に供されるものである。
しかし、このサイズ剤自体は、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分等の疎水性基とアクリル酸やジメチルアミノプロピルアクリルアミド等の親水基とを併せ持つ共重合体であるため、界面活性作用を有することから、塗工液を発泡させてしまい、紙への塗工作業に悪影響を与えてしまうという問題がある。特に、水溶性の製紙用表面サイズ剤は、サイズ効果の面ではエマルジョン型に比べて有利であるものの、発泡する傾向が強く、このため、種々の塗工方式のうち、ゲートロール塗工などの発泡しやすい方式を採用することが困難となり、塗工方法の制約を受けるという問題がある。このため、通常、発泡を低減させるために、塗工液に消泡剤を添加することなどが行われているが、消泡剤は、サイズ効果に悪影響を与えることが多いため、優れたサイズ効果を有しつつ、塗工時の発泡を低減できる水溶性の製紙用表面サイズ剤が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−232932
【特許文献2】特開2007−119944
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高いサイズ性能を維持したままで、紙への塗工作業時における発泡を低減した製紙用表面サイズ剤、特に、水溶性の製紙用表面サイズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討を行った結果、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分を主成分とし、特定のビニルモノマー成分と、架橋性モノマー成分を連鎖移動剤の存在下で重合して得られる共重合体を含有するサイズ剤とすれば、前記の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分と、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分と、ならびに架橋性モノマー成分を含有するモノマー成分を、全モノマー成分100重量部に対し、0.01〜20重量部の連鎖移動剤の存在下で共重合させて得られる共重合体を含有する製紙用表面サイズ剤;全モノマー成分中(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分の含有量が40〜85モル%、アニオン性ビニルモノマーおよび/またはカチオン性ビニルモノマー成分が14〜59モル%、架橋性モノマー成分0.0001〜10モル%含有する前記の製紙用表面サイズ剤;連鎖移動剤が、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、nは1〜8の整数)の化合物である前記の製紙用表面サイズ剤;架橋性モノマーがビス(メタ)アクリルアミド類である前記記載の製紙用表面サイズ剤;前記共重合体の重量平均分子量が、5000〜500000である前記記載の製紙用表面サイズ剤;水溶性である前記記載の製紙用表面サイズ剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いサイズ性能を維持したままで、紙への塗工作業時における製紙用表面サイズ剤又はそれを含む塗工液の発泡を低減することができる。特に、本発明の水溶性の製紙用表面サイズ剤は、従来、発泡しやすいために適用が困難とされたゲートロール塗工方法などにおいても、発泡が低減され、塗工方式の制約を受けることなく、塗工プロセスに供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製紙用表面サイズ剤は、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分とおよび架橋性モノマー成分を連鎖移動剤の存在下で重合して得られる共重合体を含有するものである。
本発明の共重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。以下、同様。)と1価の各種アルコールとのエステルであり、1分子中に(メタ)アクリル酸由来の重合性二重結合を1つ有するものである。当該エステルの置換基としては、炭素数が1 〜 1 8 程度の直鎖状、分岐鎖状あるいは環状のアルキル基を例示でき、たとえば( メタ) アクリル酸メチル、(
メタ) アクリル酸エチル、( メタ) アクリル酸プロピル( n − プロピル、i s o -プロピル) 、( メタ)アクリル酸ブチル(
n − ブチル、i s o -ブチル、t e r t − ブチル) 、( メタ) アクリル酸ネオペンチル、( メタ) アクリル酸ヘキシル( n − ヘキシル、シクロヘキシル)、アクリル酸2 −エチルヘキシル等 、( メタ) アクリル酸デシル、( メタ) アクリル酸パルミチル、( メタ) アクリル酸ステアリル基等が挙げられる。
【0010】
本発明の共重合体を構成するアニオン性ビニルモノマーとしては、分子内にアニオン性官能基又はその塩を有するラジカル重合性官能基を1つ有するものであって、アリル基を有するスルホン酸基含有不飽和モノマー以外のものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリル酸等のモノカルボン酸およびマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、ムコン酸等のジカルボン酸またはその無水物、ならびにこれらと各アルコールとからなる半エステル;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−メチル−プロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有不飽和モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基含有不飽和モノマー;および、これらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機塩基類等が挙げられる。なお、当該半エステルの置換基としては、炭素数が1〜18程度の直鎖または分岐鎖のアルキル基を例示でき、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2エチルヘキシル基、デシル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられる。その他のエステル置換基としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基、さらには、ベンジル基、アリル基等が挙げられる。なお、これらエステル置換基の中でも、炭素数は1〜12程度のアルキル基が好ましい。本発明に係る製紙用表面サイズ剤水溶液の粘度が高くなり、塗工時の安定性(粘着物等の発生)が悪くなるためである。以上に例示したアニオン性モノマー中では(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸中和塩が(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分との共重合性に優れサイズ効果が良好であるため、好ましい。
【0011】
本発明の共重合体を構成するカチオン性ビニルモノマーとしては、3級アミノ基または4級アミノ基を有するビニルモノマー成分をいう。
3級アミノ基を有するビニルモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、およびジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどがジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0012】
4級アミノ基を有するビニルモノマーとしては、前記の3級アミノ基を有するビニルモノマー成分に4級化剤を反応させて4級化したものが挙げられる。また、前記3級アミノ基を有するビニルモノマー成分を使用して得られた共重合体に4級化剤を反応させることによっても得ることができる。4級アミノ基を有するビニルモノマーの共重合体とすることによりアルカリ側を含めた広いpH領域で良好なサイズ効果を発揮できる。
4級化剤としては、オキシド類、有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸、並びにジエチル硫酸等など従来公知のものを挙げることができる。オキシド類として、具体的にはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びブチレンオキシド等のアルキレンオキシド、並びにスチレンオキシド等を挙げることができる。有機ハロゲン化物としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、エピクロルヒドリン、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、及び3−クロル−2−ヒドロキシアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0013】
本発明の共重合体を構成する架橋性モノマーとしては、分子内に複数のラジカル重合性官能基を有するものや、分子中のメチル基またはメチレン基の水素が引き抜かれることを利用して、共重合体に多くの分岐構造を導入させるものであれば、特に制限なく使用できる。
分子内に複数のラジカル重合性官能基を有するものとしては、2〜4官能性の架橋性モノマーが挙げられ、具体的には、2官能性の架橋性モノマーとしては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンビス(メタ)アクリルアミドなどビス(メタ)アクリルアミド類、エチレングリコールジ(メタ)アクリルエステル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリルエステル、等のジ(メタ)アクリルエステル類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルフタレート、ジアリルクロレンデート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
3官能性のモノマーとしては、1,3,5トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、トリアリルトリメリテート、N,N−ジアリルアクリルアミド等が挙げられる。
4官能性モノマーとしては、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラアリルピロメリテート、N,N,N’,N’−テトラアリル−1,4ジアミノブタン、テトラアリルアミン塩、テトラアリルオキシエタン等があげられる。
また、分子中のメチル基またはメチレン基の水素が引き抜かれることを利用するものとしては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸およびこれらの炭素数1〜4のアルキルエステル等も架橋性モノマーとして使用することができる。これらは、一種を単独でまた二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、製造時の反応制御が容易なことから、ビス(メタ)アクリルアミド類とジ(メタ)アクリルエステル類が好ましい。
このような架橋性モノマー使用することで共重合体中に適度な分岐構造が形成されることにより、得られるサイズ剤の粘度が低く抑えられ、発泡性が低減されるものと推察される。
【0014】
本発明の製紙用サイズ剤の主成分である共重合体のモノマー成分の使用割合としては、十分なサイズ効果の確保と発泡の低減の観点から、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分が全モノマー成分中40〜85モル%、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分(併用の場合は、その合計量)が14〜59モル%、架橋性モノマー成分が0.0001〜10モル%であり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分が45〜80モル%程度、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性モノマー成分が19〜54モル%程度架橋性モノマー成分が0.001〜3モル%程度である。
【0015】
前記(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分を40モル%以上とすることにより、サイズ効果が向上するため好ましく、85モル%以下とすることにより適度の水溶性を付与でき、均一な製紙用表面サイズ剤とすることができるため好ましい。
架橋性モノマー成分が0.0001モル%以上、10モル%以下とすることにより、共重合体の各ポリマー間に均一かつ十分な架橋構造を安定して形成させることができる点において好ましい。
【0016】
本発明の共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記共重合体を構成するモノマー成分らと共重合可能なその他の任意のモノマーを併用することができる。このような任意のモノマーとしては、例えば、スチレン類、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、炭素数6〜22のα−オレフィン、ビニルピロリドンなどが挙げられる。また、該モノマーの使用割合は、共重合体中、通常20モル%未満、好ましくは10モル%未満である。
【0017】
本発明に使用する連鎖移動剤としては特に限定されず公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸ドデシルエステル、クメン、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等、メルカプトエタノール、チオグリコール酸、及びその塩、ペンタノール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリグリセリン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合化合物等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミン、ポリアクリル酸又は、その塩等のアクリル類、スチレン−マレイン酸共重合体または、そのエステル類等、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類、ポリエステル類、ポリアミドポリアミン類等のポリアミド類、及び下記一般式(1)
一般式(1)
【化1】

(式中Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、nは1〜8の整数)の化合物が挙げられる。
具体例としては、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸塩アンモニウムなどのアリル基を有するスルホン酸基含有不飽和モノマーである。以上に例示した連鎖移動剤の中でも、アリル基を有するスルホン酸基含有不飽和モノマーが、連鎖移動効果が最も高く好ましい。
【0018】
連鎖移動剤の使用量としては、共重合体を構成する全モノマー量、すなわち、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分と、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分と、ならびに架橋性モノマー成分の合計量(その他の任意のモノマー成分を併用する場合は、それらを含む。)100重量部に対して、0.01〜20重量部の範囲で使用することが必要であり、さらに、好ましくは、0.1〜5重量部である。連鎖移動剤の使用量が、0.01重量部未満の場合、共重合体の分子量が高くなりすぎ、水溶液がゲル化してしまい、20重量部を超えると、分子量が低くなりすぎ、サイズ効果が悪くなる。
【0019】
本発明の共重合体の製造方法は、特に限定されないが、溶液重合、懸濁重合、など各種公知の重合方法を採用することができる。
【0020】
例えば、溶液重合法によって製造する場合には、適当な加熱装置と攪拌機を備えた反応容器に、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分、アニオン性ビニルモノマーおよび/またはカチオン性ビニルモノマー成分、架橋性モノマー、連鎖移動剤、および必要に応じて用いるその他の任意のモノマーを所定量仕込み、ついで当該容器に水、有機溶剤を仕込みこれらのモノマー成分を溶解させる。さらに、公知の重合開始剤を添加して混合し、窒素気流中で反応系内を、80〜130℃程度に昇温し、還流化で4時間程度重合反応をし、有機溶剤を留去する。
【0021】
溶液重合に使用する有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールなどのアルコール類等を使用することができる。重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−メチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、また過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどの有機過酸化物、また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、または、これらと亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤のいずれも採用することができる。重合開始剤の使用量としては、重合速度や、得られる共重合体の分子量などを考慮して適宜決定すればよいが、通常は、共重合体を構成する各モノマー全量に対して、0.1〜10重量%程度が好適である。
【0022】
本発明の共重合体の重量平均分子量は、十分なサイズ効果と塗工作業性の確保の観点から、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法による、ポリスチレン換算値で5000〜500000程度であることが好ましい。
【0023】
こうして得られた共重合体は、固形分濃度が通常15〜30重量%、固形分濃度が25重量%における粘度(B型粘度計:25℃)が通常10〜50000mPa・s、pHがアニオン性モノマーを重合して得られたポリマーの場合は通常8.0〜10.0、カチオン性ポリマーまたはアニオン性モノマーとカチオン性モノマーを併用して重合して得られたポリマーの場合はpH2.0〜6.0となるように調整され、製紙用表面サイズ剤として使用される。
【0024】
また、本発明の製紙用表面サイズ剤は、単独で塗工に供することもできるが、澱粉、カルボキシメチルセルロース、アクリルアミド系ポリマー、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤、増膜助剤、顔料、染料と混合して塗工液として使用することもできる。
【0025】
また、本発明の製紙用表面サイズ剤は、上記各種の原紙に対して従来公知の塗布方法、例えば含浸法、サイズプレス法、カレンダー法、スプレー法、ゲートロールコーターなどを用いて塗工される。その塗布量は通常は0.001〜5g/m2(固形分)程度、好ましくは0.005〜1g/m2である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を限定するものではない。なお、以下「部」とは重量部を示す。
【0027】
(実施例1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコにイソプロピルアルコール 94部、イオン交換水 47部、メタクリル酸ブチル 144部、80%アクリル酸 45部、メチレンビスアクリルアミド 0.0003部、メタアリルスルホン酸ナトリウム 1部を混合したモノマー混合液を、窒素気流下に攪拌しながら、70℃まで昇温し、t-ブチルパーオキシ-2エチルヘキサノエート(商品名「パーブチルO」日本油脂株式会社製)を 7.2部仕込んだ。更に80〜90℃まで昇温させ、4時間保温した。ついで、イオン交換水200部、および48%水酸化カリウム水溶液 52.5部を仕込み中和し、イソプロピルアルコールを留去し共重合体の固形分濃度が25%になるように調整し、これを水溶性製紙用表面サイズ剤とした。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表1に示す。
なお、表1中の共重合体の各モノマー成分(モノマー組成)は、全モノマー成分を100とした場合における各モノマー成分の使用割合をモル%で表示したものであり、連鎖移動剤の部数は、共重合体のモノマー成分を100重量部とした場合に使用した重量部数を表す(表2〜5も同様である)。
【0028】
(実施例2〜5)
架橋性モノマー成分であるメチレンビスアクリルアミドの使用量(モル%)を表1記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表1に示す。
【0029】
(実施例6〜9)
連鎖移動剤の使用量(部)または架橋性モノマー成分の種類と量(モル%)を表1及び表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表1及び2に示す。
【0030】
(実施例10)
アクリル酸エステルモノマー成分であるメタクリル酸ブチルとアニオン性ビニルモノマー成分であるアクリル酸、メチレンビスアクリルアミドの使用量(モル%)を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。
【0031】
(実施例11)
共重合可能なその他の任意のモノマーとしてスチレンを併用し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表2に示す。
【0032】
(実施例12)
(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分であるメタクリル酸ブチルをアクリル酸ブチルに変更し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表2に示す。
【0033】
(実施例13)
アニオン性ビニルモノマー成分であるアクリル酸をメタクリル酸に変更し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表2に示す。
【0034】
(実施例14)
アニオン性ビニルモノマー成分であるアクリル酸とメタクリル酸を併用し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表2に示す。
【0035】
(実施例15)
(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分であるメタクリル酸ブチルとアクリル酸ブチルを併用し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表2に示す。
【0036】
(実施例16)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコにイソプロピルアルコール 100部、イオン交換水 50部、メタクリル酸ブチル 117部、カチオン性ビニルモノマーとしてジメチルアミノプロピルアクリルアミド 63部、メチレンビスアクリルアミド 0.0002部、メタアリルスルホン酸ナトリウム 1部を混合したモノマー混合液を、窒素気流下に攪拌しながら、70℃まで昇温し、t-ブチルパーオキシ-2エチルヘキサノエート(商品名「パーブチルO」日本油脂株式会社製)を 7.2部仕込んだ。更に80〜90℃まで昇温させ、4時間保温した。ついで、イオン交換水200部、および氷酢酸 24.2部を仕込み中和し、イソプロピルアルコールを留去し共重合体の固形分濃度が25%になるように調整し、これを水溶性製紙用表面サイズ剤とした。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表3に示す。
【0037】
(実施例17〜20)
架橋性モノマー成分であるメチレンビスアクリルアミドと連鎖移動剤の使用量(モル%)を表3記載のものに変更した以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表3に示す。
【0038】
(実施例21〜24)
連鎖移動剤の使用量(部)または架橋性モノマーの種類と量(モル%)を表3及び表4記載のものに変更した以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表3及び4に示す。
【0039】
(実施例25)
(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分であるメタクリル酸ブチルとカチオン性ビニルモノマー成分であるジメチルアミノプロピルアクリルアミドとメチレンビスアクリルアミドの使用量(モル%)を表3記載のものに変更した以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表4に示す。
【0040】
(実施例26)
共重合可能なその他の任意のモノマーとしてスチレンを併用し、各成分の使用量を表2記載のものに変更した以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表4に示す。
【0041】
(実施例27)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコにイソプロピルアルコール 100部、イオン交換水 50部、メタクリル酸ブチル 117部、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド 63部、メチレンビスアクリルアミド 0.019部、メタアリルスルホン酸ナトリウム 1部を混合したモノマー混合液を、窒素気流下に攪拌しながら、70℃まで昇温し、t-ブチルパーオキシ-2エチルヘキサノエート(商品名「パーブチルO」日本油脂株式会社製)を 7.3部仕込んだ。更に80〜90℃まで昇温させ、4時間保温した。ついで、イオン交換水200部、および氷酢酸 24.2部を仕込み中和し、イソプロピルアルコールを留去し、その後、60℃でエピクロロヒドリン(4級化剤)37.4部を加えて3時間反応し、固形分濃度が25%になるように調整し、これを水溶性製紙用表面サイズ剤とした。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表4に示す。
【0042】
(実施例28)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたフラスコにイソプロピルアルコール 98部、イオン交換水 49部、メタクリル酸ブチル 125.1部、カチオン性ビニルモノマーとしてジメチルアミノプロピルアクリルアミド 41.8部、アニオン性ビニルモノマーとして80%アクリル酸 15.1部、メチレンビスアクリルアミド 0.02部、メタアリルスルホン酸ナトリウム 1部を混合したモノマー混合液を、窒素気流下に攪拌しながら、70℃まで昇温し、t-ブチルパーオキシ-2エチルヘキサノエート(商品名「パーブチルO」日本油脂株式会社製)を 7.3部仕込んだ。更に80〜90℃まで昇温させ、4時間保温した。ついで、イオン交換水200部、および氷酢酸 16.1部を仕込み中和し、イソプロピルアルコールを留去し、固形分濃度が25%になるように調整し、これを水溶性製紙用表面サイズ剤とした。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表4に示す。
【0043】
(比較例1)
メチレンビスアクリルアミドおよび連鎖移動剤のメタリルスルホン酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0044】
(比較例2)
メチレンビスアクリルアミドを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0045】
(比較例3及び4)
架橋性モノマー成分であるメチレンビスアクリルアミドの使用量を0.008モル%に変更し、連鎖移動剤のメタリルスルホン酸ナトリウムの量を表5記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0046】
(比較例5)
メチレンビスアクリルアミドおよび連鎖移動剤のメタリルスルホン酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0047】
(比較例6)
メチレンビスアクリルアミドを使用しなかったこと以外は、実施例16と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0048】
(比較例7及び8)
架橋性モノマー成分であるメチレンビスアクリルアミドの使用量を0.008モル%に変更し、連鎖移動剤のメタリルスルホン酸ナトリウムの量を表3記載のものに変更した以外は、実施例12と同様にして製造した。得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値を表5に示す。
【0049】
以下に、各実施例および比較例によって得られた水溶性の製紙用表面サイズ剤の特性値の測定方法について説明する。
なお、比較例3と比較例7は、得られた共重合体がゲル化したため、特性値の測定することができなかった。
(分子量)
実施例1〜15、比較例1〜4で得られた表面サイズ剤(アニオン性ビニルモノマーを使用したもの)では、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(HLC8120GPC、使用カラムTSKgel SuperH−RC、TSKgel SuperHM−L、展開溶媒 THF)にて重量平均分子量をポリスチレン換算値として測定した。実施例16〜28、比較例5〜8で得られた表面サイズ剤(カチオン性ビニルモノマー、およびアニオン性ビニルモノマーとカチオン性ビニルモノマーを併用したもの)では、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(ShodexGPCシステム−21H、使用カラムGF−7M、GF−310、展開溶媒 DMF)にて重量平均分子量をポリスチレン換算値として測定した。
(粘度)
225mlのマヨネーズ瓶に製品を入れ、25℃でB型粘度計を使用して、測定した。
【0050】
上記により得られた各水溶性の表面サイズ剤を用いて塗工液を調製し、これを未塗工紙に塗工して、そのサイズ効果と発泡性についての性能を試験した。
なお、比較例3と比較例7は、得られた共重合体がゲル化したため、以下の試験を行うことができなかった。
(表面サイズ剤の性能試験)
サイズ剤、澱粉(商品名「王子エースA」、王子コーンスターチ株式会社製)、無機塩類として塩化ナトリウムとをそれぞれ0.4:5.0:1.0(重量比)の割合で混合して塗工液を調製した。次に、未塗工の中性上質原紙(坪量65g/m、ステキヒトサイズ度5秒)を用意し、塗工液をバーコーターで片面に吸液量12g/m塗工し、105℃の回転式ドラムドライヤーに1分間通して乾燥し、塗工紙を作成して、以下の性能試験に供した。
【0051】
(ステキヒトサイズ度)
前記サイズ処理をした塗工紙を、JIS P−8122に準拠して、ステキヒトサイズ度(秒)を測定した。数値が大きいほど良好なサイズ度を表す。
(ペン書きサイズ度)
前記サイズ処理をした塗工紙について、J.Tappi No.12に準拠してペン書きサイズ度を測定した。数値が大きいほど良好なサイズ度を表す。
(発泡性)
40℃に加温した塗工液250gを容量1250mlの家庭用ミキサーに入れて1分間攪拌し、ミキサーが停止した後、直後の泡高さを測定した。数値が小さい程、発泡性が低い事を示す。なお、塗工液の処理前の泡高さは70mmであった。
以上の各サイズ剤特性及びサイズ性能の試験結果を表1〜表5に示す。
【0052】
【表1】

(表中の各記号)
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPAA4級化物:DMAPAAをエピクロロヒドリンにより4級化したもの
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
DMAA:N,Nジメチルアクリルアミド
TMMTA:テトラメチロールメタンテトラアクリレート
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0053】
【表2】

(表中の各記号)
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPAA4級化物:DMAPAAをエピクロロヒドリンにより4級化したもの
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
DMAA:N,Nジメチルアクリルアミド
TMMTA:テトラメチロールメタンテトラアクリレート
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0054】
【表3】

(表中の各記号)
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPAA4級化物:DMAPAAをエピクロロヒドリンにより4級化したもの
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
DMAA:N,Nジメチルアクリルアミド
TMMTA:テトラメチロールメタンテトラアクリレート
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0055】
【表4】

(表中の各記号)
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPAA4級化物:DMAPAAをエピクロロヒドリンにより4級化したもの
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
DMAA:N,Nジメチルアクリルアミド
TMMTA:テトラメチロールメタンテトラアクリレート
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0056】
【表5】

(表中の各記号)
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAPAA4級化物:DMAPAAをエピクロロヒドリンにより4級化したもの
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
DMAA:N,Nジメチルアクリルアミド
TMMTA:テトラメチロールメタンテトラアクリレート
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
* :得られた共重合体がゲル化したため、測定することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分と、アニオン性ビニルモノマー成分および/またはカチオン性ビニルモノマー成分と、ならびに架橋性モノマー成分を含有するモノマー成分を、全モノマー成分100重量部に対し、0.01〜20重量部の連鎖移動剤の存在下で共重合させて得られる共重合体を含有する製紙用表面サイズ剤。
【請求項2】
全モノマー成分中(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分が40〜85モル%、アニオン性ビニルモノマーおよび/またはカチオン性ビニルモノマー成分が14〜59モル%、架橋性モノマー成分0.0001〜10モル%含有する請求項1記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項3】
連鎖移動剤が、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、nは1〜8の整数)の化合物である請求項1または2記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項4】
架橋性モノマーがビス(メタ)アクリルアミド類および/またはジ(メタ)アクリルエステル類である請求項1〜3のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項5】
前記共重合体の重量平均分子量が、5000〜500000である請求項1〜4のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項6】
前記製紙用表面サイズ剤が、水溶性である請求項1〜5のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。


【公開番号】特開2009−79338(P2009−79338A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251449(P2007−251449)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】