説明

製鉄/製鋼用設備の耐火性補修材原料、その製造方法及びそれを含む補修材

【課題】本発明は、焼結特性及び耐食性の優れた製鉄/製鋼用設備の耐火性補修材原料の合成方法、及びこのように合成された原料を含む製鉄/製鋼用設備を保護するための不定形補修材を提供することを目的とする。
【解決手段】マグネシア(MgO)原とシリカ(SiO2)原を含んだ原料を粉末化して補修材原料のマグネシア(MgO)含量が50〜80重量%になるよう調合して混練、高温焼成するか溶融して原料を合成し、この合成原料を用いて対象物に対する付着強度、耐食性、及び焼結性の優れた製鋼、製鉄/製鋼用設備を保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄/製鋼用設備の耐火性補修材原料、その製造方法及びそれを含む補修材に関する。より詳しくは、本発明は製鉄及び製鋼に用いられる炉、レイドル(ladle)、タンディッシュ(tundish)などの各種設備の内部を補修するための耐火性補修材の原料を製造する方法、この製造方法から製造された原料及びこの原料を含む補修材組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
転炉、電気炉などのような各種炉は容器状の金属製ケーシングないしはフレームの内部に耐火物等が築造され、一旦稼動が始まれば新しく築造されるまで消えない高炉を除いては、一定量の熔鋼を処理した後には前記耐火物を保護するか損傷された部位を補修するため炉内壁に周期的に補修を行うことになる。
【0003】
炉内には1500℃以上の熔鋼が満たされるようになり、脱炭反応、脱酸反応など各種化学反応等が起きるので、前記熔鋼と接触している炉壁は熔鋼による浸食作用により損傷され、これを適宜補修しなければ炉全体が破損するなどの事故が発生することがある。
【0004】
前記のように、熔鋼に接触することになる炉壁は一般的に耐火レンガを築造して作られており、このような耐火レンガは少なくとも1,500℃以上の高温で軟化せず、その強度を充分維持しなければならないだけでなく、化学的作用などにも耐えられなければならない。
【0005】
即ち、耐火レンガは耐火度が高く、強度や熱衝撃抵抗が大きく、化学的浸食に強くなければならないなどの具備条件が必要であり、このような条件を満たす耐火レンガでなる炉壁の補修は、浸食及び損傷程度に応じて再築造と部分補修に区分され得る。再築造とは、一部部位の損傷程度が激しく表面補修だけでは損傷部位を正常化することができないとき、その損傷部位を完全に取り除いた後、新しい耐火レンガで再築造するか耐火レンガの臨界寿命が尽き全面的な補修が必要になる場合に行い、部分補修とは炉壁の表面部位だけが損傷し表面部位の補修だけで炉壁の正常化が可能な場合に行われる。
【0006】
特に、前記部分補修の場合には炉が加熱された熱間の状態で行われるところ、このように熱間補修作業が行われるのは、作業していた炉を完全に冷却させることになれば、補修後これを加熱するため相当のエネルギーと時間が必要になるためである。
【0007】
前記のように炉壁補修の二つの場合のうち部分または全面的な再築造は、新しい耐火レンガを用いて炉壁を再び築造するため再築造後に問題点がないが、部分補修の場合には耐火材を熱間状態でスプレーして炉壁に撒布することになるため、損傷された元々の炉壁と覆われた補修層との結合力が完全ではない場合には、熔鋼により前記補修層が容易に剥離されていくので、部分補修前に損傷されていた部位が急激に追加損傷され炉壁の破損にまで繋がり得る問題がある。
【0008】
なお、前記スプレー方式で行われる炉壁補修は損傷された炉壁を育成する役割だけでなく、前記のように損傷された炉壁の補修の他にも、高温の熔鋼による正常的な炉壁の損傷や浸食などを防止するため周期的に行われることにより、炉壁の表面に炉壁保護用コーティング層を形成させ炉壁の寿命を延長させる役割もすることになる。
【0009】
前記のように正常的か損傷された各種炉壁の寿命延長のため熱間で行われるスプレー方式の部分補修に用いられるスプレー材は、スプレーガンを用いて高圧の水とともに混練されながら炉壁にスプレーされることにより、炉壁表面に付着される耐火材であって、炉壁を成す耐火レンガとの接着性と耐食性が優れなければならないだけでなく、スプレー後の爆裂及び剥離が起きてはならず、養生時間が短くなければならない。
【0010】
前記スプレー材として以前に広く用いられてきたシリカ系無機結合剤は、鉄鋼品質の向上のため炉の操業条件が徐々に過酷化されるに伴いその効果が落ち、近来にはマグネシア(MgO)またはドロマイトに高融解性結合剤を添加したスプレー材が開発されたが、これもまた耐食性と付着性が低い短所がある。
【0011】
即ち、前記マグネシアまたはドロマイト類でなるスプレー材は、焼結性が不足し熱間スプレーにより炉壁に付着される瞬間、急激に水分が蒸発しながら炉壁との付着力が落ちるようになる。
【0012】
なお、前記スプレー材は炉壁の温度によりその付着は大きく左右されるところ、スプレーが800℃以上の温度で行われるので、スプレー材とともに噴射される水が急激に蒸発することにより生成される高い蒸気圧の反撥によりスプレー材が炉壁に付着されず、炉壁表面で跳ねるようになる割合が高い。
【0013】
さらに、前記蒸気圧による反撥力により炉壁に付着したスプレー材の状態が不安定で、施工後古鉄などの投入衝撃や熔鋼渦流により容易に脱落しやすい。
【0014】
即ち、熱間スプレーされ付着強度の弱いスプレー材は、炉壁の熱により焼結されながら、炉壁の表面と強力なセラミックス結合を成す前までは損傷されやすい状態なので、焼結が速やかに行わなければならないが、従来、広く用いられているマグネシアまたはドロマイトを主原料にしたスプレー材は、焼結時間が長く施工後の初期脱落率が高いので、炉壁保護効率が落ちる短所がある。
【0015】
なお、前記マグネシアまたはドロマイトを主原料にしたスプレー材の短所を解決するため、スプレー後炉熱により結合剤が炭化することにより、耐食性及び接着強度が優れたカーボンボンドを生成することになるカーボン系スプレー材等が開発されたが、これらはカーボンボンドを生成するため用いられる樹脂やピッチなどが施工時に水分と混合され難く、炭化して炉壁に付着される時間、即ち、養生時間が長いだけでなく、水と空気などにより酸化される問題点がある。
【0016】
一方、製鉄/製鋼用各種設備に用いられる既存のフォルステライト(forsterite)系不定形補修材は天然オリビン、橄欖石、蛇紋石、滑石などのMgO-SiO2系原料を焼成なしにまたは焼成して適用しているが、Fe2O3など不純物の量が多く原料で全体的にフォルステライト結晶相を成すことができず、緻密性が低いので一般的なマグネシア系不定形補修材に比べ耐食性側面で脆く常用化されるに困難な実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明は上述した諸般の問題を解決することのできる、フォルステライトを主鉱物相とする補修材原料の製造方法、及びこの製造方法により得られた原料を用いた製鉄/製鋼用設備の補修材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、天然のフォルステライト系鉱物を用いるのではなく、必要な材料を調合して理論的にフォルステライト鉱物相を有するよう合成することにより、製鉄/製鋼用設備の補修材原料を製造する方法を提供する。
【0019】
本発明では、(A) マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、下記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を焼成または溶融する段階を含む製鉄または製鋼用設備の補修材原料の製造方法を提供する。
【0020】
このとき、焼成マグネシアとしては死焼マグネシア(Dead Burned Magnesia:DBM)などを挙げることができ、前記(B)はオリビン、蛇紋石、滑石及び輝石でなる群より選ばれる一つ以上の鉱物であり、(C)は硅石及び硅砂でなる群より選ばれる一つ以上の鉱物である。
【0021】
前記方法のうち、焼成工程を用いた製鉄または製鋼用設備の補修材原料の製造方法は次のような段階を含む。
【0022】
(A)マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、前記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を粉砕及び混合する段階と、
前記混合及び粉砕物を成形して乾燥する段階と、
前記乾燥された成形物を焼成する段階。
【0023】
さらに、前記方法のうち、溶融工程を用いた製鉄または製鋼用設備の補修材原料の製造方法は次のような段階を含む。
【0024】
(A)マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、 前記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を粉砕及び混合する段階と、 前記混合及び粉砕物を溶融する段階。
【0025】
前記粉砕及び混合する段階では製造される原料の最終マグネシア含量が50〜80重量%、望ましくは60〜70重量%になるよう粉砕した後で混合するか、混合した後で粉砕することができる。
【0026】
前記製造された補修材原料はフォルステライトが主鉱物相であり、ペリクレース(periclase)が副鉱物相である。
【0027】
具体的に、本発明の補修材原料を製造するため、前述した出発原料等を粉砕するのに、焼成工程を用いる場合には微粉に粉砕するのが望ましく、溶融工程を用いる場合には粗砕程度(粒径10mm以下)の粉砕のみしても良い。
【0028】
次は、最終補修材原料のマグネシア含量が50〜80重量%、望ましくは60〜70%になるよう前記出発原料等を計量した後、混練機で水分を添加して偏在が生じないよう20分以上混練を行う。
【0029】
次に、焼成工程を用いる場合にはよく混練された混練物を、成形器を用いて球状またはレンガ状に成形した後で乾燥を行う。乾燥温度は、水分を取り除くほどに110℃以上で10時間以上行う。
【0030】
乾燥した球またはレンガ状の成形体を焼成炉に装入して1500℃以上、望ましくは1500〜1800℃の温度で3時間以上維持して緻密な焼成体の形成とフォルステライト鉱物相の形成が成るようにする。
【0031】
一方、溶融工程を用いる場合には前記よく混練された混練物を電融炉に投入して溶融を行った後、自然乾燥などの方法で冷却し、溶融されたインゴット(ingot)を必要な大きさに粉砕または切断して補修材原料として用いることができる。
【0032】
溶融温度は混合物の組成に従い差があるが、おおよそ1850〜2200℃である。
【0033】
さらに、本発明では前述した製造方法により製造された炉壁補修材原料を提供する。
【0034】
さらに、本発明では前述した炉壁補修材原料及び選択的にマグネシアをさらに含んでなる製鉄または製鋼用設備の補修材を提供する。
【0035】
前記補修材は、硅酸系バインダーまたはリン酸系バインダーをさらに含むことができる。
【0036】
補修材を製造するとき、前記焼成して製造された補修材原料を粉砕してマグネシアまたはバインダーと混合するのである。
【0037】
前記製鉄または製鋼用設備は、電気炉、転炉、レイドル、RH(Rheinstahl Heraeus)浸漬管またはタンディッシュなどを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、高温の熔鋼などにより補修が必要な設備にはいずれにも適用することができる。
【0038】
前記補修材は、スプレー材またはコーティング材など前記設備の内壁などに容易に付着され得る形態に適用することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係るフォルステライト系原料の合成方法で製造された原料を用いて作った不定形補修材は、焼結性及び耐食性が優れ、製鋼、製鉄の耐火物内装材の寿命向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、前述したようにマグネシア(MgO)原とシリカ(SiO2)原で、マグネサイト(MgCO3)、軽焼(light burned)マグネシア、焼成マグネシア、オリビン、橄欖石、蛇紋石、輝石、硅石、硅砂などを用いて理論的にフォルステライト鉱物相が生成するマグネシア(MgO)含量が50〜80重量%、望ましくは60〜70%になるよう調合して粉砕、高温焼成または溶融して製鉄/製鋼用設備の補修材原料を合成製造する方法である。
【0041】
この製造方法で作られた合成原料を適用した不定形補修材は、従来のMgO-SiO2系原料を適用した不定形補修材より耐食性が優れ、一般的なマグネシア系不定形補修材より焼結性及び耐食性が優れたので、耐火物内装材の寿命向上をもたらすことができる製品を製造することができる。
【0042】
従来のオリビン系原料は、表1に示されたように、融点が低いので、製鋼、製鉄の操業温度1550〜1700℃程度の温度に適用すれば浸食が増加され得るので、フォルステライト系原料を合成して耐食性の向上を図ろうとした。
【0043】
【表1】

【0044】
以下、本発明を下記実施例によりさらに詳しく説明する。下記実施例は本発明を例示するものだけで、本発明の内容が下記実施例により限定されるものではない。
【0045】
先ず、本発明の補修材原料を製造するための出発物質等の化学成分を下記表2に例示する。
【0046】
【表2】

【0047】
下記表3には、従来例、実施例、比較例の出発物質等の組合せ比を表わした。従来例は従来に補修材原料として用いられてきたものであり、比較例は最終マグネシア含量を本発明の範囲外としたものである。
【0048】
下記表3の出発原料等を組み合わせた後、微粉砕して230×114×65mmの大きさに成形し、試験用乾燥炉に入れ110℃で24時間乾燥した後、シャトルキルン(Shuttle Kiln)に入れて1,500℃で3時間焼成した。合成された原料の物性の結果も表3に表わした。
【0049】
【表3】

【0050】
表4に合成された原料を電気炉補修用スプレー材に適用して製造した例を表わし、これらを比べた結果もともに表わした。
【0051】
【表4】

【0052】
前記表4で、圧縮強度と残存線膨脹変化率はそれぞれKSL 3503及びKSL 3117により試験、計算されており、付着強度は製鋼炉壁用耐火レンガの表面に前記各組成物を 5mmの厚さで塗布して1350℃で焼成、付着させた後、その表面に1Kgの鋼球を 50cmの高さで10回繰り返して落下し、焼成された組成物層に発生するクラックを観察し、このとき完全なクラックが発生した場合を「×」、クラックが進められる状態を 「〇」、異常がないか鋼球の落下した地点でのみ微細なクラックが発生した場合を 「◎」に示した。
【0053】
前記表4で分かるように、本発明に従い製造された合成原料を適用した電気炉スプレー材耐火物で付着強度及び耐食性が優れた特性を表わした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、下記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を焼成または溶融する段階を含む製鉄または製鋼用設備の補修材原料の製造方法:
(B)オリビン、蛇紋石、滑石及び輝石でなる群より選ばれる一つ以上の鉱物、
(C)硅石及び硅砂でなる群より選ばれる一つ以上の鉱物。
【請求項2】
前記製造方法は、
(A)マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、前記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を粉砕及び混合する段階と、
前記混合及び粉砕物を成形して乾燥する段階と、
前記乾燥された成形物を焼成する段階と、
を含む請求項1に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、
(A)マグネサイト、軽焼マグネシア及び焼成マグネシアでなる群より選ばれる一つ以上を含み、前記(B)及び(C)より選ばれる一つ以上の鉱物を粉砕及び混合する段階と、
前記混合及び粉砕物を溶融する段階と、
を含む請求項1に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕及び混合する段階は、製造される原料の最終マグネシア含量が50〜80重量%になるよう材料を計量して行うことを特徴とする請求項2または3に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕及び混合する段階は、製造される原料の最終マグネシア含量が60〜70重量%になるよう材料を計量して行うことを特徴とする請求項4に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項6】
前記製造された補修材原料はフォルステライトが主鉱物相であり、ペリクレースが副鉱物相であることを特徴とする請求項1に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項7】
前記焼成は、1500〜1800℃温度で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項8】
前記溶融は、1850〜2200℃温度で行うことを特徴とする請求項1または3に記載の補修材原料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から3の何れか一項に記載された製造方法により製造された製鉄または製鋼用設備の補修材原料。
【請求項10】
請求項9に記載の補修材原料、及び選択的にマグネシアをさらに含んでなる製鉄または製鋼用設備の補修材。
【請求項11】
前記補修材は、硅酸系バインダーまたはリン酸系バインダーをさらに含む請求項10に記載の補修材。
【請求項12】
前記製鉄または製鋼用設備は、電気炉、転炉、レイドル、RH浸漬管及びタンディッシュでなる群より選ばれる何れか一つの設備であることを特徴とする請求項10に記載の補修材。
【請求項13】
前記補修材は、スプレー材またはコーティング材であることを特徴とする請求項10に記載の補修材。

【公開番号】特開2010−53012(P2010−53012A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285167(P2008−285167)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508331017)株式会社元進ワールドワイド (1)
【Fターム(参考)】