説明

製鋼スラグによる堆肥化促進法、及びこれにより得られる堆肥

【課題】家畜排せつ物の処理に関し、短期間で良質な堆肥を提供するシステムが必要であった。
【解決手段】従来有効活用されていなかった製鉄業の副産物である製鋼スラグを、家畜排せつ物の混合原料として再利用し、堆肥化を促進すると共に、製鋼スラグに含まれている可溶性ケイ酸、石灰、鉄分などを肥料資源として効率的に活用する。これにより、堆肥化開始時の温度上昇を促進し、家畜排せつ物と製鋼スラグの混合物の温度を混合後48時間以内に少なくとも50℃に到達させるとともに、含水率を30〜50%とし、堆肥作成期間を短縮することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄業の製鋼工程から発生する副産物である製鋼スラグを用いて、家畜排せつ物の堆肥化を促進する方法及び本方法により作成される製鋼スラグを含む堆肥に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜排せつ物は、これまで農産物及び飼料作物生産に有効に利用されてきたが、近年経営規模の拡大や高齢化に伴う労働力の不足等を背景に、自己経営内・地域における家畜排せつ物の有効利用が難しくなりつつある。
【0003】
また、家畜排せつ物の管理状況は、糞については8割の農家が堆肥盤を有しているものの、屋根等に雨水の流入防止対策が不十分な状況にあり、尿及びスラリーについては2割の農家が素掘り貯留となっていた。「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号。)における管理の対象となる畜産農家は、これまで家畜排せつ物の処理施設の整備や管理の改善等により、全ての農家において管理基準が遵守されることとなった。「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の施行状況調査(平成21年12月1日時点)の結果は、以下のとおりであった。「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」に基づく管理基準が適用される一定規模以上の畜産農家は、全国で56184戸である。この内、99.96%が管理基準に適合している(農林水産省調べ)。しかし、現状では、家畜排せつ物は、まだ有効に利用されているとは言い難い状況にある。特に、家畜排せつ物の中でも牛ふんは、国内で年間約5193万トン発生しており、鶏ふん(国内年間発生量約1285万トン)、豚ぷん(国内年間発生量約2291万トン)よりも発生量が多い。そのため、牛ふんの有効活用は非常に重要である(非特許文献1)。
【0004】
一方、製鉄業においては、転炉等の製鋼工程で生成される製鋼スラグは、年間1000万トン程度発生し、CaO、FeO、Fe、SiOを主成分とし、石灰の脱リン作用より生成されたリン成分等を含んでいる。この製鋼スラグには、酸化鉄の他に塩基性成分(CaO)が多量に含まれており、SiOやPやFe等と結合していない、いわゆるフリーライムが存在する。製鋼スラグは、フリーライムを含有するために、水和や炭酸化による膨張崩壊を生じることから、有効利用が阻まれていた。これに対して、同じ製鉄業の製銑工程から発生する高炉スラグは、種々な用途で活用されている。例えば、高炉スラグは、セメント用材、コンクリート用細骨材等に用いられて、有効活用されている。
【0005】
製鉄業から発生するスラグの堆肥化への適用としては、非特許文献2において、乳牛ふんを堆肥化する際に、高炉スラグを乳牛ふんに加えて、堆肥化促進を試みたことが報告されている。また、非特許文献2では、乳牛ふんに大鋸屑と高炉スラグを加えることで、堆肥化促進を試みたことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】農林水産省ホームページ/家畜排せつ物の発生と管理の状況(http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/02_kanri/)
【非特許文献2】伊藤健一・古本史、関西畜産学会報、154、1〜6(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の家畜排せつ物の堆肥化については、以下に示す課題があるものと考えられる。
【0008】
家畜排せつ物として牛ふんを例にすると、通常、牛ふんの含水率は70〜80%程度であるが、堆肥化に適切な含水率は50%程度である。牛ふんの堆肥化では、好気性微生物の働きにより、温度が上昇することによって牛ふんから水が蒸発し、堆肥化に適する50%程度の含水率にすることができる。しかし、好気性微生物による温度上昇はそれほど速やかに進むものではなく、牛ふんの堆肥化には通常3ヶ月〜6ヶ月程度の長期間を要する。堆肥作成に長期間を要することは、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号)に基づいて、屋根のついた屋内施設に作成中の堆肥を長期間保管する必要を生じることになる。牛ふんを屋内施設で長期間保管、管理することは、畜産農家にとって大きな経済的な負担になる課題がある。また、堆肥化に伴って発生するアンモニア等の悪臭物質による環境への影響も長期間配慮しなければならない課題がある。
【0009】
非特許文献2では、乳牛ふんを堆肥化する際に、製鉄業の製銑工程から発生する高炉スラグを乳牛ふんに加えて、堆肥化促進を試みたことが報告されている。しかしながら、乳牛ふんに高炉スラグを加えて堆肥化を行ったのみでは、高炉スラグを加えない場合と比較して、乳牛ふんの温度上昇に変化は見られず、発酵が促進されなかったことが報告されている。また、非特許文献2では、乳牛ふんに大鋸屑と高炉スラグを層状に加えて切り返しを行うことで、これらを加えない場合と比較して、堆肥化の際に温度上昇がおきたことから、堆肥化を促進できたことが報告されている。したがって、高炉スラグを用いた場合、少なくとも大鋸屑を一緒に層状に加えることが必要であることが示された。また、非特許文献2では、高炉スラグの一種である水砕スラグを用いた場合にも、乳牛ふんに大鋸屑と水砕スラグを層状に加えて切り返しを行うことで、堆肥化を促進できたことが報告されている。
【0010】
以上のように、従来の知見では、製鉄業の製銑工程から発生する、高炉スラグ及び高炉スラグの一種である水砕スラグを乳牛ふんに加えて堆肥化促進が試みられたのみであり、高炉スラグを単独で牛ふんに加えても堆肥化を促進できない課題があった。したがって、大鋸屑を層状に加えなくても堆肥化を単独で促進できる資材の開発が求められている。また、製鉄業の製銑工程から発生する高炉スラグとは全く性状が異なる、製鋼工程から発生する製鋼スラグを、家畜排せつ物に加えて堆肥化を促進する試みはこれまでに報告がない。
【0011】
また、家畜排せつ物の中でも、牛ふん堆肥は鶏ふん堆肥と比較して、リン酸、石灰の含有量が低いため、肥料効果が低いことが知られている。このため、鶏ふん堆肥のように化学肥料の代替に牛ふん堆肥を用いることはほとんど行われていない。
【0012】
そこで、本発明では、上記のような状況に鑑み、家畜排せつ物の堆肥化を促進する方法及びこれにより得られる堆肥を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下のように、家畜排せつ物に製鋼スラグを加えて、家畜排せつ物と製鋼スラグとを混合することによって、製鋼スラグ単独で堆肥化を促進することに成功し、本発明を完成させた。
(1)家畜排せつ物に製鋼スラグを混合することにより、家畜排せつ物と製鋼スラグの混合物の温度を混合後48時間以内に少なくとも50℃に到達させ、含水率を30〜50%とする、製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(2)前記製鋼スラグの組成が、質量%にて、CaO:20%以上50%以下、全鉄:8%以上25%以下、MgO:1%以上8%以下、SiO:10%以上30%以下、MnO:2%以上10%以下、全硫黄分(T−S):1%以下(0%を含む)、P:1%以上20%以下である、(1)に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(3)家畜排せつ物と混合する製鋼スラグの質量割合の下限を次式により算出する、(1)又は(2)に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
Y ≧ 10×(0.7×X+0.3)/(270×Z−2.4)
Y;家畜排せつ物の質量を1とした場合に加える製鋼スラグの質量割合
X;家畜排せつ物の含水率
Z;製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合
(4)家畜排せつ物に製鋼スラグを混合する際に、家畜排せつ物と製鋼スラグの混合物のpHが9になる量を、家畜排せつ物への製鋼スラグ添加量の上限とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(5)前記家畜排せつ物と前記製鋼スラグとの混合物との温度を、60℃〜75℃に到達させ、当該60℃〜75℃の温度が3日以上継続する、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(6)前記家畜排せつ物が牛ふんである、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(7)前記製鋼スラグの粒径が3mm以下である、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
(8)(1)〜(7)のいずれか1つに記載の堆肥化促進法で得られる堆肥であって、堆肥中に製鋼スラグを含有する、堆肥。
(9)(8)に記載の堆肥であって、製鋼スラグを含有することによって、製鋼スラグを含有しない場合と比較して、可溶性ケイ酸を10倍以上、石灰を3倍以上、鉄分を50倍以上多く含有する、堆肥。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、製鉄業の製鋼工程から発生する製鋼スラグを用いて、家畜排せつ物を短期間で堆肥化することが可能になるため、家畜排せつ物の有効利用が促進される。畜産農家、酪農家の負担軽減と、悪臭防止等の環境改善効果も期待できる。また、製鋼スラグを含む家畜排せつ物堆肥(特に牛ふん堆肥)は農作物の栽培に対して肥料効果をもたらすことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における堆肥作成時の温度測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例4における堆肥作成時の温度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明が対象とする家畜排せつ物は、畜産業、酪農業等の家畜飼育で発生する牛ふん、豚ぷん、鶏ふん、馬ふん、羊ふん等である。特に、牛は大規模な飼育がなされており、そこで発生する大量の牛ふんを得ることは容易であるため好ましい。通常、牛ふんの含水率は、70〜80%程度であるが、堆肥化に適切な含水率は50%程度である。牛ふんの堆肥化では、好気性微生物の働きにより、温度が上昇する。しかしながら、好気性微生物の作用のみでは、温度上昇に時間が掛かってしまうため、水の蒸発が進まず、堆肥化に適する50%程度の含水率に到達するのにも時間が掛かってしまい、堆肥化が効率的に進まないという課題がある。
【0018】
そこで、本発明では、家畜排せつ物(特に牛ふん)と製鉄業の製鋼工程から発生する副産物である製鋼スラグとを混合することにより、製鋼スラグを混合しない場合と比較して、短時間に家畜排せつ物の温度を上昇させ、家畜排せつ物から効率的に水を蒸発させることによって、堆肥化に適する50%程度の含水率に短時間で到達させることを可能とし、安価かつ副産物資源を有効に再利用することにより、堆肥化を促進することを可能にしたのである。
【0019】
ここで、堆肥とは、有機物を微生物によって完全に分化した肥料のことである。有機資材(有機肥料)と同義で用いられる場合もあるが、有機資材が易分解性有機物や未分解の有機物残渣も含むのに対し、堆肥は易分解性有機物を完全に分解したものを指し、コンポスト(compost)とも呼ばれる。一方で、昔ながらの植物系残渣を自然に堆積発酵させたものが堆肥であり、強制的に急速に発酵させたものがコンポストであるとする意見もある。本発明では、堆肥、コンポストを同義として扱う。
【0020】
そして、有機物の分解は、主に大量に酸素を消費する好気性微生物によって行われる。堆肥原料中の酸素は好気生微生物により大量に消費されるため、堆肥原料に酸素を供給することが重要になる。仮に原料に酸素が供給されない場合には、嫌気性微生物が増殖する。嫌気性微生物は、好気性微生物の呼吸代謝による有機物分解とは異なり、主に発酵代謝により有機物を分解する。発酵代謝は、分解速度の低下、温度上昇の抑制、酢酸や酪酸等の酸の生成による原料pHの低下、悪臭源の生成等を行うため、嫌気性微生物は堆肥化には不向きである。そこで、好気性微生物が増殖し易いように、藁等の混合による通気性の確保や、送風による通気性の確保を行う必要がある。また、堆肥原料の水分量(含水率)が多い場合、堆肥原料の通気性が確保されず、酸素が供給し難いという問題がある。また、堆肥原料の粒度が大きい場合も粒の内部まで酸素が到達せず、内部の分解が十分に行われないという問題がある。
【0021】
ところで、微生物は、水の中で生息し増殖する。そのため、基本的には、家畜排せつ物の水分量(含水率)は高い方が良い。しかし、水分量が多いと通気性の確保が困難となるため、水分量を多くし過ぎると結果的に分解速度が低下してしまう。一般的には、50%程度の含水率が良いと言われている。適正な含水率に保つため、水分が少ない場合は加水を行い、水分が多い場合は藁等の副資材の混合や加熱を行うことで、含水率の調整を行う。特に、牛ふん等の高含水率の原料は、機械的に圧力を加えて搾り、固液分離を行う場合もある。
【0022】
また、堆肥化が活発に行われる温度帯は二つあり、これには2種類の微生物群が関係している。一つは、中温域(30〜50℃)で活性を持つ中温菌群であり、活性のピークは40℃前後にある。もう一つは、高温域(50〜80℃)で活性を持つ高温菌群であり、活性のピークは60〜75℃にある。分解の速度は高温域の方が高く、衛生面からも高温域まで温度を上昇させ、病原細菌、病虫卵、ウイルス、雑草種子の不活性化を行うことが好ましい。アメリカ環境保護庁では、55℃以上の温度に3日間以上曝すことを求めている。コンポスターや堆肥化施設で堆肥化を行う時、加熱を行うことで強制的に温度を上げる場合がある。加熱を行わない場合には、堆肥を堆積させ堆肥による断熱を行うことで、高温域まで温度が上昇し易い。また、温度が順調に上昇しない場合は、他の環境因子が適切でない可能性がある。このことから、温度は、堆肥化が適切に行われているかを調査する指標の一つになっている。
【0023】
まず、本発明で使用する製鋼スラグについて説明する。
本発明で使用する製鋼スラグは、製鉄業の製鋼工程から、転炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、脱リンスラグ等として得られるものである。これらを単独、あるいは適宜組み合わせて混合したものを、本発明では製鋼スラグとして使用することが可能である。
【0024】
次に、本発明で使用する製鋼スラグの組成と、製鋼スラグを家畜排せつ物と混合することで、堆肥化開始時に短時間で温度上昇するメカニズムについて説明する。
【0025】
本発明で使用する製鋼スラグの組成は、質量%で、CaO:20%以上50%以下、全鉄:8%以上25%以下、MgO:1%以上8%以下、SiO:10%以上30%以下、MnO:2%以上10%以下、全硫黄分(T−S):1%以下(0%を含む)、P:1%以上20%以下からなる組成を有する製鋼スラグである。
【0026】
製鋼スラグに含まれるCaについて説明する。
製鋼スラグに含まれるCaは、生石灰CaO、ダイカルシウムシリケート2CaOSiO、トリカルシウムシリケート3CaOSiO等の化学形態で存在する。通常、製鋼スラグの組成を表す場合には、全CaをCaO含有量として表示する。生石灰CaOは、家畜排せつ物に含まれる水と反応して消石灰Ca(OH)となる際に発熱し、堆肥化の初期における温度上昇促進に寄与する。また、生石灰CaOが水と反応した後に生ずる消石灰Ca(OH)は、製鋼スラグによるアルカリ化の主要な原因成分である。通常、家畜排せつ物の堆肥化では、酸素を十分供給した条件で堆肥化を実施すると好気性微生物の働きでタンパク質等の分解が進み、アンモニアが発生することで堆肥のpHが8〜9程度のアルカリ性に保たれて、良質な堆肥ができることが報告されている。一方、酸素の供給が不十分な場合には、嫌気性微生物の働きにより有機酸等が発生して堆肥が酸性化してしまい、品質の悪い堆肥ができることも報告されている。したがって、製鋼スラグに含まれるCaOは、pH調整の点からも、好気性微生物による良質な堆肥作成に寄与する。
【0027】
なお、堆肥原料のpHの影響については、pHが約5以下になると分解が殆ど止まり、pHの上昇と共に分解速度が大きくなり、pH8〜9で最大となる。pHを変化させる要因は、酸性の場合、嫌気状態によって嫌気性微生物が乳酸や酢酸等の酸を生成することである。アルカリ性に傾く場合は、良好な堆肥化が起きている時である。この時は、乳酸や酢酸は分解され、また、タンパク質は、アルカリ性を示すアンモニアに分解されるため、堆肥はアルカリ性になる。大規模な堆肥化処理施設では、原料に消石灰を混合したり、完全に堆肥化されアルカリ性になった堆肥を混合したりして、強制的にアルカリ性にする場合もある。
【0028】
CaO含有量が20質量%未満の製鋼スラグでは、製鋼スラグに含まれる生石灰CaOによる温度上昇効果が不十分となる可能性がある。また、CaO含有量が20質量%未満の製鋼スラグでは、製鋼スラグに含まれる生石灰CaOが水と反応することで発生するCa(OH)によるアルカリ化の効果が弱くなり、好気性微生物による良質な堆肥作成を促進できなくなる可能性がある。
【0029】
また、CaO含有量が50質量%を超える製鋼スラグは、製鉄工程で殆ど発生しないため、入手が困難である。したがって、本発明で使用する製鋼スラグのCaO含有量は、20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。また、製鋼スラグのCaO含有量は、更に好ましくは、40質量%以上50質量%である。
【0030】
尚、製鋼スラグのCaO含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0031】
次に、製鋼スラグに含まれる鉄について説明する。
製鋼スラグは、鉄をFe、FeO、金属鉄として含む。堆肥化の促進では、製鋼スラグに含まれる金属鉄及びFeOも、酸化によって初期の温度上昇促進に寄与する特長がある。したがって、金属鉄、FeOの含有量が高い製鋼スラグを用いることが好ましいが、製鋼スラグの鉄の含有量は、塩化チタン(III)還元二クロム酸カリウム滴定法により全鉄分を測定するため、ここでは全鉄含有量で組成を記述する。
【0032】
製鋼スラグの全鉄の含有量が8質量%未満の場合には、堆肥化の温度上昇に寄与する十分な量の金属鉄、FeOを供給することができない可能性がある。したがって、製鋼スラグの全鉄の含有量は、8質量%以上であることが好ましい。一方、全鉄の含有量が25質量%を超えるような製鋼スラグは製鉄工程で殆ど発生せず、入手が困難である。したがって、全鉄:8質量%以上25質量%以下の製鋼スラグを用いることが好ましい。
【0033】
次に、製鋼スラグに含まれるMgについて説明する。
製鋼スラグは、Mgを酸化マグネシウムMgOとして含む。MgOは、生石灰CaOと同様に水と反応して、Mg(OH)となる。Mg(OH)は、アルカリ化の原因物質である。前記のように堆肥のpHを8〜9の弱アルカリ性に保つことにより、好気性微生物により良質な堆肥ができることが報告されている。したがって、製鋼スラグに含まれるMgOは、pH調整の点からも、好気性微生物による良質な堆肥作成に寄与する。また、Mgは、堆肥化を担う好気性微生物の栄養塩としても重要である。製鋼スラグのMgO含有量が1質量%未満の場合には、これらMgOによるpH調整効果、堆肥化を担う好気性微生物へのMg供給効果が、不十分となる可能性がある。
【0034】
また、MgO含有量が8質量%を超える製鋼スラグは、製鉄工程で殆ど発生しないため、入手が困難である。したがって、MgO含有量は1質量%以上8質量%以下となることが好ましい。尚、製鋼スラグのMgO含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0035】
次に、製鋼スラグに含まれるSiについて説明する。
Siは、製鋼スラグ中で主にSiOとして存在する。SiO含有量が10質量%未満、あるいは、30質量%を超えるような製鋼スラグは、製鉄工程で殆ど発生しないため、入手することが容易でない。したがって、SiO含有量は、10質量%未満30質量%以下が好ましい。尚、製鋼スラグに含まれるSiOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0036】
次に、製鋼スラグに含まれるMnについて説明する。
Mnは、製鋼スラグ中で主にMnOとして存在する。MnO含有量が2質量%未満、あるいは、10質量%を超える製鋼スラグは、製鉄工程で殆ど発生しないため、入手が困難である。したがって、MnO含有量は2質量%以上10質量%以下が好ましい。尚、製鋼スラグのMnO含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0037】
次に、製鋼スラグに含まれるSについて説明する。
Sは、製鋼スラグには殆ど含まれない。但し、脱硫スラグとして硫化物S2−の含有量を高めた製鋼スラグがある。S2−は強力な還元剤であり、酸化還元電位を低下させることにより、嫌気性微生物にとって有利な環境を形成する要因となる。好気性微生物による堆肥化を促進するためには、硫化物S2−の含有量がなるべく低い製鋼スラグを用いることが好ましい。したがって、本発明では、このようなS2−による悪影響を防止するため、製鋼スラグのT−S含有量を、1質量%以下とした。尚、製鋼スラグのT−S含有量は、例えば、酸素気流中高周波加熱燃焼−赤外線吸収法により測定可能である。
【0038】
次に、製鋼スラグに含まれるリン(P)について説明する。
リン(P)は、製鋼スラグで主にPの組成で表される。リンは、堆肥化を担う微生物の栄養成分としても重要である。P含有量が1質量%未満の製鋼スラグ、あるいは、P含有量が20質量%を超える製鋼スラグは、製鉄工程で殆ど発生しないため、入手が困難である。したがって、P含有量は1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。尚、製鋼スラグのP含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
【0039】
家畜排せつ物の堆肥化では、前記の製鋼スラグ含有成分の生石灰や金属鉄に起因する温度上昇の他に、家畜排せつ物に存在する好気性微生物による有機物の酸化分解により、温度が上昇する。製鋼スラグに含まれるリン、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン等の各種ミネラルも、これら好気性微生物に必須の元素である。家畜排せつ物に製鋼スラグを混合することによって、これらミネラルが好気性微生物に供給されて、好気性微生物の増殖、有機物分解活性を促進することによっても、家畜排せつ物の堆肥化に伴う温度上昇が促進されると考えられる。
【0040】
温度が上昇することで家畜排せつ物から水が蒸発することによって、含水率を堆肥化に適する30%〜50%程度の含水率により短時間で到達することができる。このように好気性微生物による温度上昇により堆肥化を進めるための目安として、堆肥化を開始してから50℃以上の高温域に到達するために要する時間を使用することができる。そこで、本発明は、家畜排せつ物からの脱水と堆肥化が効率よく進む、50℃以上の高温域に家畜排せつ物の温度が到達する時間に着目して、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物の温度が混合後48時間以内に50℃に到達することを堆肥化促進の指標として用いた。勿論、50℃以上の温度の到達するために要する時間は、堆肥作成開始時の初期温度や周囲の大気の温度によっても影響を受ける。しかしながら、堆肥作成開始時の初期温度や周囲の大気の温度が同じ条件で比べた場合、家畜排せつ物と製鋼スラグとを混合することによって、混合しない場合と比較して、50℃以上の温度に到達するために要する時間を短縮することが可能である。概ね、家畜排せつ物と製鋼スラグを混合した場合、48時間以内に50℃に到達できる。
【0041】
尚、製鋼スラグには吸湿性があるため、前記のように発熱による温度上昇に起因する水の蒸発のみならず、家畜排せつ物に含まれる水が、製鋼スラグと混合することで製鋼スラグに吸湿される効果によっても、家畜排せつ物の含水率を下げることが可能である。
【0042】
家畜排せつ物に対する製鋼スラグの混合量についてであるが、本発明では次式に基づき、家畜排せつ物と混合する製鋼スラグの質量割合の下限を算出することが好ましい。
Y ≧ 10×(0.7×X+0.3)/(270×Z−2.4)
Y;家畜排せつ物の質量を1とした場合に加える製鋼スラグの質量割合
X;家畜排せつ物の含水率
Z;製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合
【0043】
本式の意味について、以下説明する。
【0044】
本発明で、堆肥化の初期の温度上昇で利用する反応は、製鋼スラグに含まれる生石灰CaOが家畜排せつ物に含まれる水と反応する際に発生する発熱反応と、製鋼スラグに含まれる金属鉄が酸化する際に発生する発熱反応である。但し、後者に関しては、製鋼スラグを大気中に保管することで反応が進んでしまうため、製鋼スラグを酸素のない条件で保管するか、あるいは、粉砕後直ちに使用する場合に発熱が期待できる。
【0045】
したがって、通常の使用条件では、製鋼スラグに含まれる生石灰CaOが家畜排せつ物に含まれる水と反応する際に発生する発熱反応が、主要な反応となる。
【0046】
生石灰CaOが水と反応して消石灰Ca(OH)になる反応は、
CaO + HO → Ca(OH)
ΔH=−15036[Cal/mol]=−270[kCal/kg]
である。
【0047】
家畜排せつ物の質量をW[kg]、含水率をXとすると、家畜排せつ物に含まれる水の質量はWX[kg]となり、家畜排せつ物の乾物の質量はW(1−X)[kg]となる。
【0048】
また、生石灰CaOを質量割合でZ含む製鋼スラグを前記家畜排せつ物の質量を1とした場合に、質量割合でY加えるとすると、質量W[kg]の家畜排せつ物に加える製鋼スラグの質量は、WY[kg]となる。また、家畜排せつ物に加えられた生石灰CaOの質量は、WYZ[kg]となる。
【0049】
水の比熱を1、家畜排せつ物の乾物の比熱をCd、製鋼スラグの比熱をCsとして、W[kg]の家畜排せつ物とWY[kg]の製鋼スラグとの混合物の温度を10℃高めるために必要な熱量を表すと、以下のようになる。
10WX + 10CdW(1−X) + 10CsWY
= 10W{(1−Cd)X + CsY + Cd} [kcal]
【0050】
CaOのWZY[kg]の発熱により、温度を10℃高めようとすると、CaO1[kg]当たり270[kcal]の発熱より、
270WZY ≧ 10W{(1−Cd)X + CsY + Cd}
Y ≧ 10{(1−Cd)X + Cd}/(270Z − 10Cs)
となる。
【0051】
ここで、家畜排せつ物の乾物の比熱Cd=0.3、製鋼スラグの比熱Cs=0.24を代入すると、
Y ≧ 10×(0.7X + 0.3)/(270Z − 2.4)
となる。したがって、上式により、家畜排せつ物の含水率(X)、製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合(Z)を用いて、堆肥化の初期に家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物の温度を10℃高めるために必要な製鋼スラグの最小添加量を、計算することができる。但し、製鋼スラグとの混合による堆肥化の初期温度上昇促進効果を安定化させるため、上式から計算される家畜排せつ物と混合する製鋼スラグの質量割合の下限の2倍程度の製鋼スラグを、家畜排せつ物と混合することがより望ましい。
【0052】
次に、家畜排せつ物と混合する製鋼スラグ量の上限について説明する。
【0053】
本発明では、家畜排せつ物に製鋼スラグを混合する際に、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物のpHが9になる量を、家畜排せつ物への製鋼スラグの添加量の上限とすることが好ましい。製鋼スラグはCaOやMgOのようなアルカリ性物質を含むため、製鋼スラグ単体でpH9.5〜12.5程度のアルカリ性を示す。通常、家畜排せつ物のpHは6程度であるが、家畜排せつ物に製鋼スラグを混合することによって、堆肥化を促進できるpH条件であるpH7〜9にすることが可能である。しかしながら、製鋼スラグを加え過ぎると、pHが9を超えてしまうため、堆肥化を促進するpH条件から外れてしまう。したがって、本発明では、家畜排せつ物に製鋼スラグを混合する際に、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物のpHが9になる量を、家畜排せつ物への製鋼スラグ添加量の上限とすることが好ましい。
【0054】
尚、前述のように家畜排せつ物の含水量は70〜80%程度であるが、より望ましくは、原料となる家畜排せつ物の含水量を70質量%以上72質量%以下の範囲に調整後、製鋼スラグを家畜排せつ物に対して例えば15質量%程度混合することで、効率的な堆肥化促進を行うことが可能である。但し、本発明はこの条件のみに限られるものではない。
【0055】
次に、家畜排せつ物に製鋼スラグを混合する方法について説明する。
【0056】
家畜排せつ物と製鋼スラグとを混合する方法は、家畜排せつ物と製鋼スラグとを混合することができる方法であれば、如何なる方法で混合しても構わない。例えば、ホイルローダやマニュアスプレッダを用いて混合すること等も可能である。
【0057】
尚、本発明が対象とする家畜排せつ物として、牛ふんが最も好ましい。牛ふんは発生量が多いこと、豚ぷんや鶏ふんと比較して、リンや窒素の含有量が少ないため、堆肥としての利用が進んでいないからである。勿論、本発明は、牛ふん以外の、豚ぷん、馬ふん等についても適用可能である。
【0058】
尚、本発明で使用する製鋼スラグの粒径についてであるが、本発明で使用する製鋼スラグの粒径は、3mm以下であることが好ましい。製鋼スラグの粒径が3mmを超える場合は、粒径が3mm以下の場合と比較して、製鋼スラグの比表面積が小さくなるため、製鋼スラグに含まれるCaOの加水反応や、製鋼スラグに含まれるFeの酸化反応が起こり難くなるため、これらの化学反応による発熱が抑えられて、堆肥作成開始初期の温度上昇効果が小さくなるからである。また、製鋼スラグ含有成分の溶出効率が高いことや、家畜排せつ物との混合で操作性が良いことからも小さな粒径ほど好ましいため、製鋼スラグ粒の粒径は3mm以下であることが望ましい。尚、製鋼スラグの粒径は、例えば、網目間隔の異なるふるいを用いることにより、どの粒径の範囲にある製鋼スラグであるか測定することが可能である。
【0059】
また、本発明で使用する製鋼スラグの形態についてであるが、製鋼スラグのままでもよいが、製鋼スラグを破砕して得られる粉体、もしくは、製鋼スラグを破砕して得られる粉体を結合剤により粒状にしたものであってもよい。結合剤は、肥料の造粒に用いるものであれば、どのようなものでも構わないが、例えば、リグニンスルホン酸等を利用できる。
【0060】
堆肥作成方法としては、例えば、堆積方式、開放型攪拌方式、密閉型攪拌方式等があるが、いずれの方式でも構わない。堆肥の作成において重要なことは、酸素の供給である。堆積方式では、少なくとも1週間に1回以上、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物に対して、切り返しを行うことによって、堆肥化に必要な酸素を堆積物の内部に供給することが可能となる。開放型攪拌方式では、ロータリー・スクープ等を用いて家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物を攪拌することによって、酸素を供給することが可能である。また、密閉型攪拌方式においては、攪拌プロペラ等による攪拌によって、酸素を供給することが可能である。
【0061】
堆肥化の進行は、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物中の温度を経時的に測定することで確認することが可能である。家畜排せつ物と製鋼スラグとを混合した場合には、48時間以内に温度が50℃以上の高温に達する。
【0062】
尚、家畜排せつ物と製鋼スラグの他に、好気性微生物への酸素供給のため、通気を良くするためのオガクズ、モミ殻等を加えたものも、本発明の堆肥化促進法に使用することも勿論可能である。
【0063】
堆肥が完成したことは、例えば以下の方法により、確認することが可能である。例えば、易分解性物質を分解する発酵が終了するため、切り返し等により酸素を供給した直後の温度上昇が鈍化することで確認することができる。あるいは、堆肥の温度が、切り返し等により酸素を供給した直後であっても50℃以上に上がらないことで確認することができる。
【0064】
以上のようにしてでき上がった堆肥は、製鋼スラグを含んだ含水率50%未満の堆肥である。でき上がった堆肥は、製鋼スラグを加えないで作成した堆肥に比べて、可溶性ケイ酸、石灰、鉄分の含有量がそれぞれ、10倍以上、3倍以上、50倍以上高まっており、これらの成分を必要とする作物の生長促進、収量増加等への寄与が期待できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0066】
{実施例1}
含水率80%の牛ふん26tを13tずつ2つに分けた。一方の牛ふん13tは、表1に記載の組成の製鋼スラグを加えて堆肥化するために、牛ふんに加える製鋼スラグの量を、以下に記載の式に基づき、以下のように決定した。
Y ≧ 10×(0.7X+0.3)/(270Z−2.4)
Y;牛ふんの質量を1とした場合に加える製鋼スラグの質量割合
X;牛ふんの含水率
Z;製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合
【0067】
牛ふんの含水率は80%程度のため、X=0.8とした。
表1に記載の製鋼スラグに含まれるCaOは41%のため、Z=0.41とした。
【0068】
【表1】

【0069】
この条件で計算すると、
Y≧0.08
となる。
【0070】
したがって、牛ふんの質量を1とした場合、製鋼スラグを0.08以上加えればよい計算になる。そこで、本試験では、牛ふんの質量1に対して、製鋼スラグを0.15加えることにした。
【0071】
その結果、含水率80%の牛ふん13tに、表1に記載の組成の製鋼スラグ(粒径3mm以下)を1.95t(牛ふんの質量を1とした場合、加えた製鋼スラグの質量は0.15)加えて、混合した。混合後に混合物のpHを測定したところ、pH8.6であり、pH9未満であることを確認した。
【0072】
温度を測定しながら、10日間毎に30日までの期間は、切り返し混合させて、51日間腐熟させて、堆肥化させた。
【0073】
残ったもう一方の牛ふん13tについては、製鋼スラグを加えない条件で同様に並行して堆肥化を行い、対照とした。
【0074】
温度の測定結果を図1に示す。製鋼スラグを加えた場合、試験開始後24時間で牛ふんと製鋼スラグとの混合物の温度は50℃以上になった。一方、製鋼スラグを加えない場合には、試験開始後72時間で温度が50℃以上になった。したがって、製鋼スラグを牛ふんに加えたことで、堆肥化開始時の初期温度上昇効果が確認できた。
【0075】
さらに、初期の温度上昇促進に引き続き、牛ふんと製鋼スラグとの混合物では、対照の牛ふんに製鋼スラグを加えない場合と比較して、堆肥化開始後30日間の間、温度が約10℃高い60〜72℃の状態に維持されていた。
【0076】
また、堆肥化を開始して30日後の切り返し以降、対照の牛ふんに製鋼スラグを加えない系では温度上昇が見られなくなったのに対して、製鋼スラグを加えた系では再び約65℃まで温度上昇が確認され、その後徐々に温度低下した。堆肥化開始後40日以降は、製鋼スラグを加えた系も対照の製鋼スラグを加えない系も、ほぼ同じ温度で推移した。
【0077】
51日間の堆肥化試験後、作成された製鋼スラグを含む堆肥と、含まない堆肥の分析結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
製鋼スラグを加えた系の方が、高温に維持されたため、対照の製鋼スラグを加えない系よりも水の蒸発が進んだ。表2に示したように、製鋼スラグを加えた堆肥の含水率は48%であり、堆肥として取り扱いやすい含水率(30%〜50%)となった。しかし、対照の製鋼スラグを加えなかった堆肥の含水率は56%であり、堆肥として使用するには含水率がまだ高い状態にあることが明らかになった。
【0080】
以上の結果により、牛ふんに製鋼スラグを単独で加えて混合することにより、堆肥化初期の温度上昇が促進されて48時間以内に50℃以上に達すると共に、高温が維持されることで水の蒸発が促進されて、堆肥作成が促進されることが確認された。
【0081】
また、表3に示したように、製鋼スラグを加えて作成した堆肥には、可溶性ケイ酸は3.8%、石灰は18.8%、鉄分は3.66%含まれていた。これに対して、製鋼スラグを加えなかった対照の堆肥では、可溶性ケイ酸は0.15%、石灰は2.9%、鉄分は0.02%であった。可溶性ケイ酸は25倍、石灰は6.4倍、鉄分は180倍高い含有量であった。したがって、製鋼スラグを加えて作成した堆肥では、製鋼スラグを加えずに作成した堆肥と比較して、可溶性ケイ酸が10倍以上、石灰が3倍以上、鉄分が50倍以上多く含まれていることを確認できた。
【0082】
【表3】

【0083】
{実施例2} 製鋼スラグを含む堆肥の肥料効果
実施例1で作成した製鋼スラグを含む堆肥、及び、対照の製鋼スラグを含まない堆肥を用いて、水稲(品種 コシヒカリ)を栽培して、水稲収量への影響を調べた。
【0084】
各5m×4mの乾田になっている水田に、実施例1で作成した製鋼スラグを含む堆肥、及び、対照の製鋼スラグを含まない堆肥をそれぞれ10t/ha(1ha=10000m)ずつ施肥した試験区を設けた。両試験区共に、耕起と代掻きをして、さらに2週間後、水稲苗を植えて田植えをして湛水し、水稲を生育させた。両試験区共、田植え後40日以内に、追肥として、硫酸アンモニウムを100kg/ha施肥した。田植え後120日目に、製鋼スラグを含む堆肥を施用した試験区と製鋼スラグを含まない堆肥を施用した試験区それぞれについて、倒伏した稲の割合(倒伏率)を調べると共に、稲刈りをして収穫した米の収量(14%湿質量)を測定した。
【0085】
表4は、倒伏率の結果である。製鋼スラグを含む堆肥で栽培した試験区では倒伏がみられなかったのに対して、製鋼スラグを含まない堆肥で栽培した試験区では倒伏が18%みられた。製鋼スラグを含む堆肥に含まれるケイ酸等が有効に作用して、水稲の耐倒伏性を高めていると考えられる。
【0086】
【表4】

【0087】
表5は収量(14%湿質量)の結果である。製鋼スラグを含む堆肥を施用した場合には、6.2t/haの収穫が得られたのに対して、製鋼スラグを含まない堆肥を施用した場合の収量は5.2t/haであった。
【0088】
【表5】

【0089】
以上の結果により、製鋼スラグを含む堆肥を施用する場合、製鋼スラグを含まない堆肥を施用した場合よりも水稲の耐倒伏性を高め、かつ収量も高くなることが確認できた。
【0090】
{実施例3} 製鋼スラグを含む堆肥の肥料効果
実施例1で作成した製鋼スラグを含む堆肥、及び、対照の製鋼スラグを含まない堆肥を用いて、キャベツを栽培して、キャベツ収量及び結球葉中の還元糖、ビタミンC含有量への影響を調べた。
【0091】
各5m×2mの畑に、実施例1で作成した製鋼スラグを含む堆肥、及び、対照の製鋼スラグを含まない堆肥をそれぞれ10t/haずつ施肥した試験区を設けた。また、尿素をそれぞれ窒素として300kg/haずつ施肥した。結果を表6に示す。
【0092】
【表6】

【0093】
製鋼スラグを含む堆肥を施用した場合、製鋼スラグを含まない堆肥を施用した場合と比較して、キャベツの収量は12%増加した。結球葉中の鉄分含有量も40%、還元糖含有量も20%、結球葉中のビタミンC含有量も21%増加した。
【0094】
以上の結果から、製鋼スラグを含む堆肥を使用することによって、製鋼スラグを含まない堆肥を使用する場合と比較して、収量が高くなるのみならず、結球葉中の鉄分含有量、還元糖含有量、ビタミンC含有量もそれぞれ高くなることが確認された。
【0095】
{実施例4}
含水率71%の牛ふん20tを10tずつ2つに分けた。一方の牛ふん10tは、表7に記載の組成の製鋼スラグを加えて堆肥化するために、牛ふんに加える製鋼スラグの量を、以下に記載の式に基づき、以下のように決定した。
Y ≧ 10×(0.7X+0.3)/(270Z−2.4)
Y;牛ふんの質量を1とした場合に加える製鋼スラグの質量割合
X;牛ふんの含水率
Z;製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合
【0096】
牛ふんの含水率は71%程度のため、X=0.71とした。
表7に記載の製鋼スラグに含まれるCaOは45%のため、Z=0.45とした。
【0097】
【表7】

【0098】
この条件で計算すると、
Y≧0.07
となる。
【0099】
したがって、牛ふんの質量を1とした場合、製鋼スラグを0.07以上加えればよい計算になる。そこで、本試験では、牛ふんの質量1に対して、製鋼スラグを0.15加えることにした。
【0100】
その結果、含水率71%の牛ふん10tに、表7に記載の組成の製鋼スラグ(粒径3mm以下)を1.5t(牛ふんの質量を1とした場合、加えた製鋼スラグの質量は0.15)加えて、混合した。混合後に混合物のpHを測定したところ、pH8.6であり、pH9未満であることを確認した。
【0101】
温度を測定しながら、9日間毎に、切り返し混合させて、23日間腐熟させて、堆肥化させた。
【0102】
残ったもう一方の牛ふん10tについては、製鋼スラグを加えない条件で同様に並行して堆肥化を行い、対照とした。
【0103】
温度の測定結果を図2に示す。製鋼スラグを加えた場合、試験開始後24時間で牛ふんと製鋼スラグとの混合物の温度は50℃以上になった。一方、製鋼スラグを加えない場合には、試験開始後72時間で温度が50℃以上になった。したがって、製鋼スラグを牛ふんに加えたことで、堆肥化開始時の初期温度上昇効果が確認できた。
【0104】
さらに、初期の温度上昇促進に引き続き、牛ふんと製鋼スラグとの混合物では、対照の牛ふんに製鋼スラグを加えない場合と比較して、堆肥化開始後16日間の間、温度が約10℃高い60〜72℃の状態に維持されていた。
【0105】
23日間の堆肥化試験後、作成された製鋼スラグを含む堆肥と、含まない堆肥の分析結果を表8に示す。
【0106】
【表8】

【0107】
製鋼スラグを加えた系の方が、高温に維持されたため、対照の製鋼スラグを加えない系よりも水の蒸発が進んだ。表8に示したように、製鋼スラグを加えた堆肥の含水率は32%であり、堆肥として取り扱いやすい含水率(30%〜50%)となった。しかし、対照の製鋼スラグを加えなかった堆肥の含水率は52%であり、堆肥として使用するには含水率がまだ高い状態にあることが明らかになった。
【0108】
また、実施例1では、含水率80%の牛ふんに製鋼スラグを15質量%添加した場合、51日間の堆肥化で堆肥の含水率が48%となったのに対して、本実施例では、含水率71%の牛ふんに製鋼スラグを15質量%添加した場合、23日間の堆肥化で堆肥の含水率が32%となった。したがって、含水率が70質量%以上72質量%以下の範囲の家畜排せつ物に、製鋼スラグを15質量%程度混合することで、より効率的に堆肥化促進を行うことが可能であることがわかった。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜排せつ物に製鋼スラグを混合することにより、家畜排せつ物と製鋼スラグとの混合物の温度を混合後48時間以内に少なくとも50℃に到達させ、含水率を30〜50%とする、製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項2】
前記製鋼スラグの組成が、質量%にて、
CaO:20%以上50%以下、
全鉄:8%以上25%以下、
MgO:1%以上8%以下、
SiO:10%以上30%以下、
MnO:2%以上10%以下、
全硫黄分(T−S):1%以下(0%を含む)、
:1%以上20%以下である、請求項1に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項3】
家畜排せつ物と混合する製鋼スラグの質量割合の下限を、次式により算出する、請求項1又は2に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
Y ≧ 10×(0.7×X+0.3)/(270×Z−2.4)
Y;家畜排せつ物の質量を1とした場合に加える製鋼スラグの質量割合
X;家畜排せつ物の含水率
Z;製鋼スラグに含まれるCaOの質量割合
【請求項4】
家畜排せつ物に製鋼スラグを混合する際に、家畜排せつ物と製鋼スラグの混合物のpHが9になる量を、家畜排せつ物への製鋼スラグ添加量の上限とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項5】
前記家畜排せつ物と前記製鋼スラグとの混合物との温度を、60℃〜75℃に到達させ、当該60℃〜75℃の温度が3日以上継続する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項6】
前記家畜排せつ物が牛ふんである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項7】
前記製鋼スラグの粒径が3mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製鋼スラグによる堆肥化促進法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の堆肥化促進法で得られる堆肥であって、堆肥中に製鋼スラグを含有する、堆肥。
【請求項9】
請求項8に記載の堆肥であって、製鋼スラグを含有することによって、製鋼スラグを含有しない場合と比較して、可溶性ケイ酸を10倍以上、石灰を3倍以上、鉄分を50倍以上多く含有する、堆肥。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180266(P2012−180266A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26115(P2012−26115)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(591063202)産業振興株式会社 (10)
【Fターム(参考)】