説明

製鋼スラグの溶融改質処理方法

【課題】本発明は、高い効率で製鋼スラグを溶融改質処理する方法を提供し、f.CaOをほとんど含まず体積安定性が良好な高品質スラグを得る事を目的とする。
【解決手段】燃料と支燃性ガスをバーナーへ供給して燃焼させながら、改質材として珪酸含有物質を気流搬送によりバーナーへ供給し、バーナー直下に配置されたスラグ鍋内の溶融状態の製鋼スラグに、該珪酸含有物質を添加して製鋼スラグの溶融改質処理を行うに際し、珪酸含有物質、燃料、バーナーへの供給ガスのそれぞれの性状および供給量に関して、予定されている処理条件に応じて、溶射バーナーの火炎温度が最高となる位置のバーナー噴出口からの距離(P)、珪酸含有物質が溶融状態を維持しているバーナー噴出口からの距離(M)、を事前に求めておき、バーナー噴出口からスラグ面までの距離(J)を、P<J≦Mの範囲となる様にバーナーの位置を設定して、溶融改質処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,製鋼スラグの処理方法に関し,特に,製鋼工程の精錬処理時に発生する製鋼スラグを溶融状態で改質処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑予備処理および脱炭処理等の製鋼工程の精錬処理により生成される製鋼スラグは,遊離CaO(f.CaOと記載することがある。)を含み,このf.CaOの水和反応により体積が膨張し,多くの微小な亀裂や開気孔を発生する場合がある。このようなf.CaOを多く含む製鋼スラグは体積安定性が低い。また,溶融状態の製鋼スラグは気泡(主としてCOガス)を多く含んでいる。このような気泡を含む溶融製鋼スラグを冷却すると気泡を含んだ状態で凝固してしまうため,吸水率が高い低品質のものとなる。
【0003】
そのため,製鋼スラグは,土木工事用の仮設材,道路の地盤改良材,下層路盤材等の低級用途に専ら使用され,より高級用途である上層路盤材,コンクリート用骨材,石材原料等には用いられにくい。
【0004】
これに対して,製鋼スラグを,上層路盤材,コンクリート用骨材,石材原料等の用途に有効利用すべく,従来から,製鋼スラグの高品質化を図り商品価値を高めるために,製鋼スラグ中のf.CaOを低減させたり,溶融製鋼スラグ中の気泡を低減させたりすることが行われている。例えば、上層路盤材やコンクリート用骨材として利用する場合には、スラグ中のf.CaOは0.1%以下、吸水率を3.0%以下とすることが改質処理の目安とされている。
【0005】
例えば,非特許文献1には,転炉から排出された脱炭スラグを溶融状態のまま改質する方法が記載されている。この方法は,溶融スラグ中に酸素と珪酸(SiO)含有改質材を浸漬ランスを通じて吹き込み,スラグ中のFeOをFeに酸化させて,その際の反応熱で昇熱し,溶融状態を維持しながら改質材によってスラグの塩基度(CaO/SiO)を低減し,未滓化石灰を体積安定性のある化合物(2CaO・SiO)に変化させるものである。
【0006】
また,例えば,特許文献1および特許文献2には,溶銑予備処理や脱炭処理を行う精錬炉からスラグ鍋に排出された製鋼スラグに、酸素バーナーを用いて改質材を溶射することによりスラグを改質することを特徴とする製鋼スラグの溶融改質方法が開示されている。
【0007】
【非特許文献1】M.Kuehn, et al., 2nd European Steelmaking Congress, Taranto(1997年)p445〜453
【特許文献1】特開2004−331449号公報
【特許文献2】特開2006−169089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の非特許文献1の方法では、脱炭処理後のスラグの様に1600℃以上の高温で流動性が確保されている場合には効果的である一方、スラグ温度やスラグ中のT.Fe(トータルのFe量)が低位である場合にはスラグ顕熱が不足するため、また、スラグの塩基度が高い場合は低い場合よりも同一温度における粘度が増すために、スラグの流動性が低下し改質効果が低下する。すなわち、スラグ温度やスラグ組成の制約を受けるという問題がある。
【0009】
一方、特許文献1および特許文献2は、酸素バーナーでスラグを外部から加熱するため、非特許文献1の上記の問題は解消できる。
【0010】
すなわち、精錬炉から排出された溶融スラグのスラグ顕熱だけでは溶融改質処理を行うための熱量が不足するという点については、酸素バーナーを用いて熱源を供給することで、解消できる。例えば、1600℃未満の高粘性スラグでも、酸素バーナーで十分に加熱すればスラグの流動性を改善する事ができる。
【0011】
同時に改質材を溶射してスラグの塩基度を低減して融点を低下させることで、スラグの溶融促進、およびf・CaOの2CaO・SiOへの反応促進を図っている。酸素バーナーから溶射した改質材は、改質作用に加えて、バーナー火炎中で溶融した後にスラグ表面に付着するため、スラグの着熱効率を向上させることができる。
【0012】
この様に、スラグ外部から酸素バーナーで加熱する事により、スラグ温度や組成の制約を低減できる。また、流動性改善後に改質材を添加すれば、スラグ全体を均質に効率的に改質できる。
【0013】
但し、バーナー火炎中での改質材の溶融が不充分であることにより、未溶融の改質材がスラグに添加される際には、逆にスラグの顕熱を奪ってスラグ温度を低下させることになり、スラグの溶融状態が維持できなくなることが懸念されるため、さらなる改善が望まれている。
【0014】
しかし、特許文献1では、実施例で、酸素バーナーを下降させてスラグ面上に照射した事が開示されているが、具体的な高さ条件の記載はない。そして、改質材を溶融状態でスラグ液面に溶射するためのバーナー条件や改質材添加条件は不明である。また、特許文献2には、バーナー下端の噴出口から噴出される火炎の温度が最も高くなる位置が、溶融スラグの液面付近となる様に設定する事が好ましい事が開示されているのみで、火炎の温度が最も高くなる位置の具体的条件は記載されていない。
【0015】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、高い効率で製鋼スラグを溶融改質処理する方法を提供し、f.CaOをほとんど含まず体積安定性が良好な高品質スラグを得る事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、バーナー条件と改質材の溶融状態との関係を調査した。その知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)バーナーを燃焼させながら、改質材として珪酸含有物質を搬送ガスにより前記バーナーへ供給し、該バーナー直下に配置されたスラグ鍋内の溶融状態の製鋼スラグに、前記珪酸含有物質を添加して製鋼スラグの溶融改質処理を行うに際し、予定されている前記バーナー燃焼条件および前記珪酸含有物質供給条件に応じて、前記バーナー噴出口から前記バーナーの火炎温度が最高となる位置までの距離(P)と、前記珪酸含有物質が溶融状態を維持している前記バーナー噴出口からの最大距離(M)と、を事前に求めておき、前記バーナー噴出口から前記製鋼スラグの表面までの距離(J)を、P<J≦Mの範囲となる様に設定して溶融改質処理を行うことを特徴とする、製鋼スラグの溶融改質処理方法。
(2)予定されている前記バーナー燃焼条件および前記珪酸含有物質供給条件に応じて、さらに、前記バーナーの火炎長(L)の変動長(△L)を事前に求めておき、前記バーナー噴出口から前記製鋼スラグの表面までの距離(J)を、(P+△L/2)<J≦Mの範囲とすることを特徴とする、(1)に記載の製鋼スラグの溶融改質処理方法。
(3)前記珪酸含有物質が、石炭灰であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の製鋼スラグの溶融改質処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製鋼スラグ(以降、単に「スラグ」と記載する場合がある。)の溶融改質処理を高い効率で行うことができ、f.CaOをほとんど含まない高品質のスラグを高効率で得る事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
(改質処理対象)
本発明は製鋼スラグを改質処理の対象としており、改質対象の製鋼スラグとしては特に限定されるものではなく、例えば、脱炭スラグ、溶銑予備処理スラグ、電気炉スラグ等を使用することが出来る。
【0021】
(改質対象スラグの溶融状態維持の必要性)
本発明では、溶融状態の製鋼スラグを使用して、溶融状態を維持しながら、改質処理を行う。溶融状態で処理を行うのは、流動性を良好にしてf.CaOの低減を促進するためである。溶融状態のスラグに珪酸含有改質材を添加することにより、スラグ中の未反応のf.CaOとSiOを反応させてf.CaOを低減させることができる。したがって、f.CaOの水和反応(CaO+HO→Ca(OH))による体積膨張を防止することが出来る。溶融温度未満のスラグでは、流動性が悪いため、固相スラグ中のf.CaOと改質材のSiOとの反応が十分に進行せず、その結果、f.CaOを低減することができない。
【0022】
(スラグの溶融状態の定義)
なお、「溶融状態のスラグ」とは流動性を有する状態のスラグであれば良く、必ずしも改質処理開始前から完全液相である必要はない。具体的な指標としては、市販の熱力学計算モデルソフト(例えば、SOLGASMIX)で求めた推定値で表すと、液相率30%以上であれば良い。改質処理を継続していくうちに、加熱、および改質材溶射による低塩基度化が進行するために固相率が低下する結果、流動性がさらに向上し改質が促進される。
【0023】
(改質材の溶融状態の必要性)
上記のとおり、スラグの溶融改質処理では、スラグの溶融状態を維持すること、f.CaOと改質材のSiOとの反応を促進すること、の2点の理由のため、バーナーから溶射される珪酸含有改質材も溶融状態でスラグ表面に付着・添加されることが重要である。なぜなら、改質材が未溶融状態のままで、または一旦バーナー火炎中で溶融状態となったとしても温度が低下して凝固した後にスラグに添加された場合は、これらの改質材がスラグから顕熱を奪うため、逆にスラグ温度の低下を招き、スラグの溶融状態維持ができなくなるためである。さらに、未溶融状態の改質材、または一旦溶融した後に凝固した改質材では、スラグ中のf.CaOとの反応速度が遅く、効率的な改質を行えない。
【0024】
(バーナー噴出口からスラグ湯面までの距離について)
そこで、本発明者は、バーナーから溶射した珪酸含有改質材を溶融状態のままスラグ湯面に添加することにより、従来よりもさらに高い効率で製鋼スラグを溶融改質処理し、f.CaOをほとんど含まず体積安定性が良好な高品質スラグを得ることを目的として、この条件を見出すために、バーナー条件と改質材の溶融状態との関係を調査した。そして、その結果に基づき、バーナー噴出口からスラグ湯面までの距離についての本発明の要件を決定した。以下に添付図面も用いて、両者の関係を調査した結果を説明する。
【0025】
様々なバーナー燃焼条件で珪酸含有改質材を下方へ溶射し、バーナー噴出口からの直下の距離を段階的に大きくする様に変化させて、改質材の採取状況を確認するとともに、採取した改質材の断面を観察して溶融状態を調査した。
【0026】
実験に用いたバーナーは灯油バーナーであり、燃料として灯油、支燃性ガスとして純酸素、改質材である珪酸含有物質として石炭灰をそれぞれ用い、そして改質材の気流搬送用ガスとして空気を供給した。
【0027】
バーナー出力100%での灯油供給量は200リットル/分で、酸素比は1.0(すなわち灯油燃焼に化学量論的に必要な当量)で酸素を供給した。なお、酸素比には改質材搬送用の空気中の酸素も含まれている。珪酸含有物質を搬送ガスにより供給するが、この珪酸含有物質供給条件については、搬送空気中に対する改質材の質量比、すなわち(単位時間あたりの改質材供給質量)/(単位時間あたりの搬送空気供給質量、搬送空気の密度1.293g/リットル)を固気比と定義し、固気比とバーナー出力を変えて、バーナー噴出口からの距離と改質材の溶融状態、バーナー火炎長(L)、火炎長の変動長(△L)、火炎温度分布、および火炎温度がピークを示す距離(P)、そして改質材が溶融状態を維持できる最大距離(「最大溶融距離」という場合がある)(M)の関係を調査した。
【0028】
バーナー火炎長(L)はビデオ画面で評価した。バーナー火炎長(L)は瞬間的に変動しているが、変動幅の中心位置で平均長を評価した。
【0029】
火炎の変動長(△L)は、瞬間的に最も短くなる長さと、最も長くなる長さの差で定義した。したがって、瞬間的な火炎長はL±△L/2の範囲内となる。
【0030】
また、火炎温度は熱電対を用いて測定した。火炎温度は火炎の径方向に分布があるので、この径方向で最も高い温度を、火炎方向の温度測定位置における火炎温度とした。そして、バーナー噴出口からの距離と火炎温度の関係を求め、火炎温度がピークを示す距離をピーク温度距離(P)とした。
【0031】
バーナーから溶射された珪酸含有改質材が溶融状態か否かを評価する際に、未溶融状態と溶融状態との判別、および溶融状態と再凝固状態との判別の2つのケースについて、判断指標が必要となる。
【0032】
改質材の溶融状態は以下の方法で評価した。改質材を下方へ溶射しているバーナー噴出口からの直下の距離を段階的に大きくする様に変化させて、鉄板を一定時間(本実験では10秒間)挿入して、改質材を採取し、その採取状況について確認した。
【0033】
具体的には、バーナー噴出口からの改質材採取の距離が小さい場合は、改質材が未溶融状態のため、鉄板に採取しづらかったが、この距離が所定の大きさ(A)以上では、改質材が溶融状態となるため、鉄板へ付着して採取される。しかし、この距離をさらに大きくしていくと、別の所定の大きさ(B)以上で、一旦、溶融した改質材が再凝固状態となるため、再度、鉄板に採取しづらくなった。
【0034】
改質材の採取状況については、上記の所定の距離(A)、あるいは別の所定の距離(B)のそれぞれについて、急激に採取状況が変化することが判明したことから、この手法を用いて、改質材の溶融状態の判断を行うことができる。
【0035】
ちなみに、未溶融状態と溶融状態との判別については、改質材の性状を観察することに着目し、採取した改質材を樹脂に埋め込んだ後に研磨し、断面を走査型電子顕微鏡で観察することでも、溶融状態を評価した。
【0036】
その結果、未溶融の改質材は、表面および内部に微細孔が多数分布する多孔質であり、その断面も多孔質であった。
【0037】
一方、溶融した改質材の個々の粒は球状(完全な球体ではないが、滑らかな曲面に覆われた形状)であり、凝集合体してクラスターを形成している場合が多く、その断面は緻密で均質である。これは、改質材が熱を受けて溶融した際に、液相で微細孔が埋まった、あるいは微細孔としての気泡が外部へ抜けたことによるものである。また、溶融部断面の一部に空隙が残存している場合も見られるが、溶融時に元の微細孔が合体したものであり、未溶融部の微細孔の数倍以上の大きさであることが確認された。
【0038】
従って、上記の観点から、改質材の溶融部と未溶融部の区別は容易であるため、改質材の溶融/未溶融の状態の判断について、改質材断面の溶融部の面積率でも評価できることがわかった。
【0039】
そこで、上述の実験で、バーナー噴出口からの改質材採取の距離がA以上の場合で、鉄板に採取した改質材の各粒について、その断面を観察すると、中心部に未溶融部が残存している場合も見られたが、大部分は溶融しており、改質材の各粒において、溶融部の面積率は90%以上であることが確認された。従って、1つの粒において、改質材断面の溶融部の面積率が90%以上であれば、溶融状態の改質材粒であると判断できることがわかった。
【0040】
そこで、少なくとも改質材100粒(クラスターを形成している場合は、クラスターを構成している個々の粒を1個とする)の改質材粒断面を観察し、溶融状態の改質材粒の面積率である、
{(溶融状態の改質材粒の断面積の合計)/(全改質材粒の断面積の総和)}×100(%)
が90%以上となる場合を、溶融状態と判定する手法を用いても良い。ここで、観察する改質材の個数を少なくとも100粒としたのは、別途、実験により、溶融状態の判断の信頼性が確認されているためである。
【0041】
なお、未溶融状態と溶融状態との判別については、先に述べた鉄板への採取状況の手法に代えて、あるいは併用して、この手法を判断指標に用いても良い。
【0042】
以上、述べてきた改質材の溶融状態の判断指標に基づき、評価した結果を図1、図2に示す。
【0043】
図1は固気比が20.5と大きい場合の評価結果である。図1の縦軸はバーナー噴出口からの距離(m)であり、横軸はバーナー出力(%)である。火炎長Lと、火炎温度がピークとなる距離Pは、出力が高くなるとともに増加している。火炎温度がピークとなる距離Pは、ほぼL/2であった。
【0044】
改質材が溶融状態と評価できたのは、火炎温度がピークとなる距離Pを超えた位置であることがわかった。ちなみに、未溶融状態と溶融状態との判別については、改質材断面の溶融部の面積率で評価を行い、その面積率が90%以上であるものを、溶融状態と評価した。これは、改質材が火炎から熱を受けてから、温度が上昇するので、火炎温度がピークとなる距離Pで最大の熱量を受けた時点よりも後に、溶融状態に達するためであると考えられる。
【0045】
次に、溶融状態と再凝固状態との判別については、改質材の鉄板への採取状況により評価を行い、改質材の最大溶融距離Mを測定した。図1より、最大溶融距離Mは、火炎長Lよりも短いことがわかる。
【0046】
さらに、未溶融状態と溶融状態との関係については、火炎の変動長を△Lとすると、P+△L/2を超えた位置では確実に溶融状態にあることが判明した。
【0047】
具体的には、P+△L/2を超えた位置では、改質材断面の溶融部の面積率が95%以上であることが確認され、十分に溶融していることがわかった。
【0048】
火炎の変動長△Lは、瞬間的に最も短くなる長さと、最も長くなる長さの差と定義する。前述の火炎長Lは平均距離であるので、瞬間的にはピーク温度位置も最大でP±△L/2の間で変動する。したがって、改質材がP+△L/2を超えた位置まで移動する間には、常にピーク温度部を通過できる事になり、溶融状態がより確実に維持できる。
【0049】
一方、図2は固気比を0.5と小さくした場合の評価結果である。出力が高くなるとともに、火炎長Lと、温度ピーク距離Pが増加する傾向は図1と同様である。
【0050】
また、改質材が溶融状態と評価できたのは、火炎温度がピークとなる距離Pを超えた位置であり、改質材断面の溶融部の面積率が90%以上であること、P+△L/2を超えた位置であれば確実に溶融状態にあり、改質材断面の溶融部の面積率が95%以上であることは、上記の固気比が20.5の場合(図1参照)と同様であった。
【0051】
しかし、改質材の最大溶融距離Mについて、上記と同様に、改質材の鉄板への採取状況により評価を行ったところ、最大溶融位置Mが火炎長Lより長くなる点が図1と異なっていた。
【0052】
この理由は、固気比が小さい場合は、吹き込む改質材の量が少ないので、同じ火炎条件でも単位質量あたりの改質材に与えられる熱量が大きくなり、火炎温度がピークとなる距離Pを超えた時点で、改質材の温度が図1の場合よりも高温に達するためである。
【0053】
以上の理由より、本発明では、改質材が溶射されるバーナー噴出口からスラグ表面までの距離(J)は、溶射バーナーの火炎温度が最高となる位置のバーナー噴出口からの距離(P)、珪酸含有物質が溶融状態を維持しているバーナー噴出口からの距離(M)とすると、P<J≦Mと設定することで、溶融状態の改質材をスラグに供給できる。
【0054】
さらに、(P+△L/2)<J≦Mとすると、より確実に溶融状態の改質材をスラグに供給できるため、さらに望ましい。
【0055】
また、以上の通り、固気比に応じて最大溶融距離Mが火炎長Lに対して変化することから、バーナー設置位置に制限がある場合は、固気比を調整して溶融状態の改質材をスラグに供給してもよい。
【0056】
(あらかじめ改質処理条件と各種指標を明らかにしておくことの必要性)
本発明においては、スラグ改質処理に先立ち、珪酸含有改質材、燃料、バーナーへの供給ガスのそれぞれの性状、および供給量に関して、予定されている処理条件に対応して、事前に、バーナー火炎長L、火炎長の変動長△L、火炎温度がピークを示す距離P、改質材が溶融状態を維持しているバーナー噴出口からの最大溶融距離M、を求めておくこととする。なお、この事前の検討については、前記の実験手法を用いることで実施できる。
【0057】
ちなみに、上記のL、△L、P、Mには、バーナー出力や固気比が大きく影響するが、この2つの要因以外(例えば、燃料の種類、改質材のサイズ等)も影響するので、実際の改質処理設備を使用して、改質処理条件(バーナー条件)とL、△L、P、Mの関係を明らかにしておくと、より好ましい。
【0058】
(火炎長Lの評価法)
バーナー火炎長Lの評価法としては、例えば、目視、またはビデオ画面で評価すれば良い。実際の火炎先端は一定幅で変動しているが、その変動幅の中心位置(平均位置)で評価すれば良い。写真や静止画ではある瞬間の火炎長を捉えるので、一定時間の変動を評価することが好ましい。
【0059】
(ピーク温度距離Pの評価法)
火炎温度分布は、例えば、熱電対、あるいは高温用放射温度計を用いて測定すれば良い。上述の通り、火炎温度は径方向に分布があるので、火炎の径方向で最も高い温度を、その位置における火炎温度とする。そして、バーナー噴出口からの距離と火炎温度の関係を求め、火炎温度がピークを示す距離をピーク温度距離Pとする。一定範囲にわたってピーク温度が続く場合は、バーナー噴出口から最も遠い位置をPとする。
【0060】
(改質材の要件)
改質材としては、珪酸含有物質、つまりSiOを含有しているものであれば良い。このSiOは、製鋼スラグの塩基度(質量ベースでCaO/SiO)を低減し、スラグ中のf.CaOと反応して、体積安定性の良好な化合物(2CaO・SiO)を形成するために必要である。例えば、石炭灰、ケイ砂などが例示できるが、これらに限定するものではない。また、改質材のサイズについても、例えば石炭灰は数十μm以下が大半を占める微細粉末であるが、バーナーから溶射できるサイズであれば、特に限定するものではない。
【0061】
(バーナーの要件)
バーナーの燃料としては、例えば、灯油、重油、LPG、微粉炭などを用いる事ができる。また、改質処理は、複数のバーナーで実施しても良い。その場合、個々のバーナーで本発明の要件を満足すれば良く、それぞれのバーナー条件が異なっても良い。
【0062】
また、バーナー用の支燃性ガスとしては、酸素が用いられるが、純酸素でも空気でも良い。
【0063】
さらに、改質材を気流搬送するための気体としては、空気が推奨されるが、これに限定するものでなく、燃焼に必要な酸素に混合したり、あるいは、燃焼に無関係な搬送気体を用いても良い。
【0064】
従って、支燃性ガスと改質材を気流搬送するためのガスを総称して、バーナーへの供給ガスと呼称している。
【0065】
ちなみに、固気比は、(単位時間あたりの改質材供給質量)/(単位時間あたりの搬送気体供給質量)で定義している。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0067】
(実施例1)
溶銑予備処理スラグ20トンを改質処理用鍋に装入し、溶融状態のまま、バーナー下に移送し、以下の条件で改質処理を行った。バーナーの燃料は灯油を用いて、酸素、搬送空気、改質材として石炭灰を供給した。灯油供給量は500リットル/時、酸素比は1.0、固気比は20.1とした。処理時間は50分である。このバーナー燃焼・溶射条件における、火炎長L、火炎長の変動長△L、ピーク温度距離P、改質材の最大溶融距離Mを、改質処理に先立ち、実機設備を用いて予定されている条件と同一条件で実験を行った。また、改質材の溶融状態と未溶融状態との判断については、改質材断面の溶融部の面積率で評価を行った。具体的には、上述した[0039]及び[0040]に記載した評価法に準拠して、改質材100粒の改質材粒断面を観察し、単独の改質材粒の断面で溶融部の面積率が90%以上である改質材粒を「溶融状態の改質材粒」とし、全改質材粒の断面積に占める「溶融状態の改質材粒」の面積率が90%以上となる場合を、溶融状態と判断した。溶融状態と再凝固状態との判断については、鉄板への採取状況で評価を行うことで、あらかじめ調査した結果、L=5.2m、△L=0.6m、P=2.7m、M=4.4mであった。
【0068】
改質処理前のスラグ、溶射した石炭灰の成分を下記表1、2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
以上の条件で、バーナー噴出口から製鋼スラグ液面までの距離Jを複数の水準で変えて、改質処理を行った。
【0072】
改質処理中は、製鋼スラグが溶融状態を維持するか、また、バーナーから溶射した改質材が十分にスラグ液面に付着するかを目視で評価した。
【0073】
また、改質処理後は鍋を傾転して別容器に排出して凝固させ、f.CaOを分析し、吸水率を評価した。
【0074】
その結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
No.1の距離Jは2.8mであり、Pより遠く、M以下にスラグ液面を保持するとの本願の第1の発明の要件を満たしている。そして、No.2とNo.3の距離Jはそれぞれ、3.4m、4.4mであり、P+△L/2より遠く、M以下にスラグ液面を保持するとの、本願の第2の発明の要件を満たしている。この場合には、スラグの溶融状態は常に維持されており、改質材はスラグ液面に良好に付着しスラグ内に溶融した。特に、No.2とNo.3は付着後直ちにスラグ内に溶融した点で付着状況は非常に良好であった。改質処理後のスラグのf.CaOは0.1質量%以下、吸水率3.0質量%以下を達成したため、上層路盤材やコンクリート骨材として利用可能なものとすることができた。
【0077】
一方、No.4は距離Jが2.5mでピーク温度距離Pよりも近いため、そして、No.5の距離Jが4.6mでMよりも遠いため、本発明の要件を満たしていない。この場合には、未溶融状態または再凝固状態で改質材がスラグ液面に到達したため、スラグ温度が低下し、スラグの溶融状態が維持されず凝固が進行した。改質材が未溶融または再凝固状態でスラグ液面に到達した上、スラグ液面が凝固したため、改質材の付着状況は悪かった。その結果、改質反応が進行しなかったため、処理後のスラグのf.CaOは改善されず、吸水率も5質量%以上であり、所望するレベルの特性は得られなかった。
【0078】
(実施例2)
溶銑予備処理スラグ20トンを改質処理用鍋に装入し、溶融状態のまま、バーナー下に移送し、以下の条件で改質処理を行った。バーナーの燃料はLPGを用いて、酸素、搬送空気、改質材としてケイ砂を供給した。処理時間は35分とした。灯油供給量は700リットル/時、酸素比は1.0、固気比は0.9とした。このバーナー燃焼・溶射条件における、火炎長L、火炎長の変動長△L、ピーク温度距離P、改質材の最大溶融距離Mを、改質処理に先立ち、実施例1と同様の手法で、あらかじめ調査した結果、L=6.4m、△L=0.9m、P=3.3m、M=7.4mであった。
【0079】
改質処理前のスラグ、溶射した石炭灰の成分を下記表4、5に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
以上の条件で、バーナー噴出口から製鋼スラグ液面までの距離Jを表6に示す水準で変えて、改質処理を行った。改質処理中の状況、改質処理後のスラグ特性を実施例1と同様に評価した。その結果を表6に示す。
【0083】
【表6】

【0084】
No.6は距離Jが3.4mであり、Pより遠く、M以下にスラグ液面を保持するとの本願の第1の発明の要件を満たしている。また、No.7とNo.8の距離Jはそれぞれ、3.8m、6.4mであり、P+△L/2より遠く、M以下にスラグ液面を保持するとの本願の第2の発明の要件を満たした実施例である。この場合には、スラグの溶融状態は常に維持されており、スラグ液面に改質材が良好に付着した後スラグ内に溶融した。特に、No.7とNo.8は付着後直ちにスラグ内に溶融した点で付着状況は非常に良好であった。改質処理後のスラグのf.CaOは0.1質量%以下、吸水率3.0質量%以下を達成したため、上層路盤材やコンクリート骨材として利用可能なものとすることができた。
【0085】
一方、No.9は距離Jが3.1mでピーク温度距離Pよりも近いため、そしてNo.10は距離Jが7.5mでMより遠いために、本発明要件を満たしていない。この場合には、未溶融状態または再凝固状態で改質材がスラグ液面に到達したため、スラグ温度が低下し、スラグの溶融状態が維持されず凝固が進行した。改質材が未溶融または再凝固状態でスラグ液面に到達した上、スラグ液面が凝固したため、改質材の付着状況は悪かった。その結果、改質反応が進行しなかったため、処理後のスラグのf.CaOは改善されず、吸水率も3質量%を超えており、所望するレベルの特性は得られなかった。
【0086】
以上、比較例と共に、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記の例に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された範疇において、当業者であれば容易に推定し得る様な、各種の変更例または修正例についても、当然本発明の技術的範囲に属すると了解される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】バーナー出力と、改質材の溶融状況、バーナー火炎長の関係(固気比20.5の場合)を示す説明図である。
【図2】バーナー出力と、改質材の溶融状況、バーナー火炎長の関係(固気比0.5の場合)を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナーを燃焼させながら、改質材として珪酸含有物質を搬送ガスにより前記バーナーへ供給し、該バーナー直下に配置されたスラグ鍋内の溶融状態の製鋼スラグに、前記珪酸含有物質を添加して製鋼スラグの溶融改質処理を行うに際し、
予定されている前記バーナー燃焼条件および前記珪酸含有物質供給条件に応じて、前記バーナー噴出口から前記バーナーの火炎温度が最高となる位置までの距離(P)と、前記珪酸含有物質が溶融状態を維持している前記バーナー噴出口からの最大距離(M)と、を事前に求めておき、
前記バーナー噴出口から前記製鋼スラグの表面までの距離(J)を、P<J≦Mの範囲となる様に設定して溶融改質処理を行うことを特徴とする、製鋼スラグの溶融改質処理方法。
【請求項2】
予定されている前記バーナー燃焼条件および前記珪酸含有物質供給条件に応じて、さらに、前記バーナーの火炎長(L)の変動長(△L)を事前に求めておき、
前記バーナー噴出口から前記製鋼スラグの表面までの距離(J)を、(P+△L/2)<J≦Mの範囲とすることを特徴とする、請求項1に記載の製鋼スラグの溶融改質処理方法。
【請求項3】
前記珪酸含有物質が、石炭灰であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製鋼スラグの溶融改質処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−261038(P2008−261038A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106444(P2007−106444)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】