説明

複合エステル含有滑剤組成物

基油および合成複合エステルを含有する、100℃での動粘度の損失により測定される良好な剪断安定性を有する滑剤組成物であって、該複合エステルが、400超〜50,000mm/秒までの40℃での動粘度を有し、a)ポリオール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸、またはb)ポリオールおよびモノアルコール並びにジカルボン酸、またはc)ポリオールおよびモノアルコール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸の転化により得られる、組成物を提案する。加えて、前記した複合エステル含有滑剤組成物の、乗物用トランスミッション油、車軸油、工業用トランスミッション油、コンプレッサー油、タービン油またはモーター油としての使用を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑剤の分野に関する。本発明は、高粘性複合エステルを含んでなる滑剤組成物、および該滑剤組成物の、例えば、トランスミッション油、工業用油またはモーター油としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
商業的に入手可能な滑剤組成物またはその他の滑剤は、複数の異なった天然または合成成分から調製される。所望の特性を改良するため、使用分野に従って、添加物および/または更なる添加剤を添加する。基油は、しばしば、鉱油、高精製鉱油、アルキル化鉱油、ポリ−α−オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール、ホスフェートエステル、シリコーン油、多価アルコールのジエステルおよびエステルからなる。特に、Solvent Neutral類の鉱油、およびXHVI、VHVI、群IIおよび群III類の鉱油を使用する。
【0003】
モーター油、タービン油、作動液、トランスミッション油、コンプレッサー油などのような種々の滑剤は、高い粘度指数、良好な潤滑性能、高い酸化感受性、良好な熱安定性または同程度の特性のような極めて高い基準を満たさなければならない。
【0004】
トランスミッション油、工業用油またはモーター油として使用される高性能潤滑油配合物は、特に、剪断安定性、低温粘度、長寿命、蒸発損失、燃料効率、シーリング材適合性および摩耗保護に関して高い性能プロフィールを有する油である。そのような油は、一般に、選択的に、通常の添加剤成分に加えて、キャリヤー流体としてのPAO(特にPAO 6)或いは群II鉱油または群III鉱油と、増粘剤または粘度指数改良剤としての特定ポリマー(ポリイソブチレン=PIB、オレフィンコポリマー=エチレン/プロピレンコポリマー=OCP、ポリアルキルメタクリレート=PMA)とを用いて配合される。PAOと一緒に、低粘性エステル、例えば、DIDA(ジイソデシルアジペート)、DITA(ジイソトリデシルアジペート)またはTMTC(トリメチロールプロパンカプリレート)も、特に極性添加剤種のための安定剤として、およびシーリング材適合性を最適化するため、一般に使用される。PAOまたはポリマーを使用する場合の欠点は、一般に、高いコスト、低い剪断安定性であり、ポリマーを使用する場合は滑剤の低温粘度も欠点である。
【0005】
エステル系潤滑油は、それ自体既知であり、以前から既に使用されている(Ullmanns Encyklopaedie der technischen Chemie, 第3版、第15巻、1964年、第285〜294頁を参照)。通常のエステルは、ジカルボン酸とアルコール(例えば2−エチルヘキサノール)との反応生成物、またはポリオール(例えばトリメチロールプロパン)と脂肪酸(例えば、オレイン酸、またはn−オクタン酸とn−デカン酸との混合物)との反応生成物である。エステル調製において、例えば、モノカルボン酸およびポリオールに加えて、ジカルボン酸を使用する場合、ジカルボン酸は架橋作用を有する。これにより、エステルの分子量が増加し、最終的に粘度が上昇し、滑剤組成物における増粘作用が向上する。そのようなエステルは、一般に、複合エステルと称される。エステルを用いて調製され、それ故に低温での取扱いが改善される、配合物の低温粘度は、特に、分枝アルキル鎖含有エステルに対して記載されている。
【0006】
潤滑油に対する工業上の必要条件は、分類に従った一般仕様書に反映されており、例えば、トランスミッション油のための粘度分類SAE 75−W90、或いはモーター油のためのO−W20またはO−W30を満たすマルチ領域油は、四季を通して実質的に使用できる。
【0007】
広い範囲で使用できる非常に剪断安定な滑剤組成物に対する要求を満足するために寄与する、添加剤として使用される、ポリマー種またはオリゴマー種の添加に対する特定の要求がなお存在している。更に、これらの添加剤は、粘度指数を少なくとも低下させるべきでない。幾つかの粘度指数改良剤が知られているが、それらは、例えばUS 4,156,673に示されているように、良好な剪断安定性を示さない。EP 488432(=US 5070131)は、ポリ(ポリアルケニル)カップリングから調製される、良好な剪断安定性を有するポリマーを開示している。
【0008】
DE 3544061(=US 4822508)は、アクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルに基づいた粘度指数改良添加剤を含んでなる、高剪断安定性トランスミッション油を記載している。
【0009】
US 5,451,630は、良好な剪断安定性を有するオレフィンコポリマー(OCP)を記載している。加えて、良好な剪断安定性は、分子の大きさに伴って、従って粘度上昇に伴って、低減することが記載されている。高剪断力を受けたことによるポリマーのこの分解は、滑剤における粘度低下を招く。
【0010】
最適な粘度指数改良剤は、低温で滑剤の粘度に対してほとんど寄与せず、運転温度で主に寄与する。更に、高剪断力の下、高い安定性も存在すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 4,156,673
【特許文献2】EP 488432(=US 5070131)
【特許文献3】DE 3544061(=US 4822508)
【特許文献4】US 5,451,630
【特許文献5】EP 1281701
【特許文献6】EP 938536
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ullmanns Encyklopaedie der technischen Chemie, 第3版、第15巻、1964年、第285〜294頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、滑剤組成物の剪断安定性を増すこと、および良好な低温粘度を達成することであった。剪断安定性および低温粘度の両方は、一般に、ポリマー添加剤またはオリゴマー添加剤、例えば、増粘剤、粘度指数改良剤またはポリマー分散剤により低減される。
【0014】
EP 1281701は、ポリネオペンチルポリオール、並びに直鎖および分枝酸の混合物から調製される合成滑剤を開示しており、該エステルは、40℃で68〜400mm/秒の粘度を有する。該滑剤は、冷却コンプレッサー流体に使用するために開発されている。
【0015】
EP 938536は、ポリオールと、モノカルボン酸および任意に多塩基酸の混合物との反応により得られる合成エステルを含んでなり、高い熱安定性および酸化安定性を有する、滑剤を開示している。100℃でのエステルの粘度は、約80mm/秒以下である。剪断安定性に関する記載はなかった。
【0016】
第一に、本発明の目的は、粘度指数を少なくとも低下せず、かつ広い範囲で使用できる新規な増粘剤系を含んでなる、高剪断安定性滑剤組成物を提供することであった。低温粘度および/または剪断安定性は、通常の増粘剤または従来技術に対応するVI改良剤と比較して改善されるべきであり、特に比較的低温での、滑剤配合物の残りの成分との増粘剤系の適合性は、変わらず保証されるべきである。本発明の更なる目的は、滑剤組成物における通常のポリマー増粘剤および/またはオリゴマー増粘剤或いはVI改良剤(例えば、OCP、PIB、ポリアルキルメタクリレート)の含有量を削減またはなくし、PAOのような高価なキャリヤー成分を群II油または群III油に置き換えることであった。一方、群II油または群III油を用いて既に配合されている潤滑油については、これらの群II油および群III油を、より安価な群I油に置き換えることが望ましかった。産業において、通常のポリマーの削減または除外は、剪断安定性および低温粘度に関して利点を生む。
【0017】
高い酸化安定性および低温粘度に加えて、滑剤がシーリング材に対する改善された適合性を有さなければならない場合、特定の問題が存在する。良好な酸化安定性を有する既知の直鎖エステル系滑剤は、本質的に飽和されているが、通常のシーリング材の軟化をもたらす。逆に、例えばオレイン酸から生じる不飽和エステル型は、シーリング材に対してより良好な挙動を有するが、著しく低減した酸化安定性を有する。NBR(ニトリルブチルゴム)およびその水素化変異体(HNBR)のようなシーリング材については、特にこの問題が生じる。
【0018】
高い生分解性を有する改善された滑剤に対する必要性が、なお存在する。本発明の更なる目的は、記載した特性に加えて、シーリング材に対する良好な適合性を有する滑剤を提供することであった。同時に、滑剤の他の特性、特に潤滑性および流動学的性質は、悪影響を受けてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
特定の高粘性エステルが、先に概説した問題を良好に解決することが見出された。
【0020】
本発明は、基油および合成複合エステルを含んでなる、100℃での動粘度の損失により測定される良好な剪断安定性を有する滑剤組成物であって、前記複合エステルが、400超〜50,000mm/秒までの40℃での動粘度を有し、
a)ポリオール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸、または
b)ポリオールおよびモノアルコール並びにジカルボン酸、または
c)ポリオールおよびモノアルコール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸
の反応により得られる、組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
記載した複合エステルについて、該エステルを含んでなる滑剤組成物の剪断安定性が、非常に良好な結果を達成し、粘度を僅かしか低下させないことが見出された。更に、ポリマー含有量を削減することができた。動粘度の損失は、100℃で、
i)自動トランスミッションおよび手動トランスミッション用のトランスミッション油、車軸油およびクラッチ油について、CEC L−45−T−93(20時間)に従って測定され、8%未満、好ましくは5%未満、特に好ましくは4%未満であり、
ii)作動液、固定使用での工業用トランスミッション油、風力タービン潤滑油、ガスタービン油、コンプレッサー油および緩衝吸収流体について、CEC L−45−T−93(20時間)に従って測定され、15%未満、好ましくは8%未満であり、
iii)2サイクルエンジン油および4サイクルエンジン油、並びにジーゼルモーター油およびガソリンモーター油について、ASTM D 3945(30サイクル)に従って剪断作用後に測定され、15%未満、好ましくは10%未満、特に好ましくは7%未満である。
【0022】
本発明において、剪断作用は、永久剪断作用であると考えられる。基油の粘度は、剪断作用を受けて、仮にあったとしても極めて僅かな程度しか低下しないので、剪断作用後の粘度の損失の測定は、複合エステルに対するパラメーターとして意味がある。
【0023】
更に、意外にも、高粘性複合エステルを用いて滑剤を配合すると、トランスミッション用途または車軸用途における油温がより低くなることが見出された。このことは、工業規格ARKL試験(VW PV 1454)により見出された。
【0024】
加えて、比較的高粘性のエステルを含んでなる、滑剤組成物における極性ポリマー(例えば、アルキルフマレート−α−オレフィン、ポリアルキルメタクリレート、またはアルキルメタクリレート−α−オレフィン系)の低濃度での更なる使用は、多くの場合、エステルのための安定化剤として作用し、相乗的に滑剤組成物の低温粘度を低下することができる。
【0025】
更に、本発明に従って存在して同程度に良好な特性または改善された特性をもたらすために、高価な高粘性PAO型(例えばPAO 60またはPAO 100)、或いは増粘剤として滑剤に添加されるOCPまたはPIBのような通常の増粘剤に代えて、複合エステルを用いて配合できることが見出された。更なる成分として、極性ポリマー、例えば上記したものを同時に添加することが好ましい。
【0026】
使用する複合エステルの動粘度は、800〜25,000mm/秒、特に1200〜10,000mm/秒、より好ましくは1300〜5000mm/秒、最も好ましくは1500〜3000mm/秒である。意外にも、これらエステルの使用が、永久剪断作用後の滑剤組成物の動粘度における極めて低い損失をもたらすことが見出された。この特性は、高剪断応力に暴露される滑剤への使用を可能にする。
【0027】
本発明によれば、滑剤組成物の総量に基づいて3〜90重量%の濃度で複合エステルを含んでなる滑剤組成物が好ましい。7〜50重量%の濃度が特に好ましく、10〜34重量%の濃度がより好ましい。
【0028】
更に好ましい態様では、滑剤組成物は、a)に従った反応で使用されるモノカルボン酸が、分枝モノカルボン酸、または直鎖および分枝モノカルボン酸の混合物であり、それらの各々が5〜40炭素原子の炭素数を有し、分枝モノ酸の含有量が好ましくは酸混合物の合計含有量に基づいて90mol%を超えることを特徴とする。モノカルボン酸は、好ましくは、8〜30個の炭素原子、特に10〜18個の炭素原子を含有する。とりわけ、モノカルボン酸は、以下の分枝酸からなる群から選択される:2,2−ジメチルプロパン酸、ネオヘプタン酸、ネオオクタン酸、ネオノナン酸、イソヘキサン酸、ネオデカン酸、2−エチルヘキサン酸、3−プロピルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソヘプタン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、イソステアリン酸、イソパルミチン酸、ゲルベ酸C32、ゲルベ酸C34またはゲルベ酸C36、およびイソデカン酸。直鎖酸は、好ましくは、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリスチン酸、セロチン酸、メリシン酸、トリコサン酸およびペンタコサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エラエオステアリン酸、ガドレイン酸およびエルカ酸、並びにそれらの工業用混合物からなる群から選択される。好ましい分枝モノカルボン酸は、イソノナン酸、イソステアリン酸および2−エチルヘキサン酸である。
【0029】
ポリオールとジカルボン酸および分枝モノカルボン酸との反応により得られる複合エステルを含んでなる滑剤組成物が好ましい。ポリオール、ジカルボン酸および分枝モノカルボン酸から生成される、これらの好ましいエステルは、好適には1300〜5000mm/秒、最も好ましくは1500〜3000mm/秒の粘度を有する。
【0030】
本発明において、滑剤組成物中に存在する基油は、鉱油、高精製鉱油、アルキル化鉱油、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、ホスフェートエステル、シリコーン油、多価アルコールのジエステルおよびエステル、Solvent Neutral類の鉱油、並びにXHVI、VHVI、群IIおよび群IIIおよびGTL basestock(gas−to−liquid基油)類の鉱油からなる群から選択される油を意味すると理解される。ポリ−α−オレフィンは、好ましくは、C6〜C18−α−オレフィンおよびその混合物からなり得る。ポリ−α−デセンが特に好ましい。
【0031】
本発明によれば、ポリオールは、一般式(I):R(OH)[式中、Rは2〜20個の炭素原子を含有する脂肪族または脂環式の基であり、nは少なくとも2である。]で示される分枝または直鎖アルコールである。ポリオールは、好ましくは、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチロールブタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールおよびグリセロールからなる群から選択される。トリメチロールプロパン、モノペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールが特に好ましい。
【0032】
更に好ましい態様では、滑剤組成物は、b)に従った反応において使用されるモノアルコールが、一般式(II):ROH[式中、Rは、2〜24個の炭素原子を含有する脂肪族または脂環式の基であり、0および/または1、2または3個の二重結合を有する。]で示される分枝または直鎖アルコールであることを特徴とする。モノアルコールは、好ましくは、カプロンアルコール、カプリルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、ペトロセリニルアルコール、リノリルアルコール、リノレニルアルコール、エラエオステアリルアルコール、アラキルアルコール、ガドレイルアルコール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコールおよびブラシジルアルコール、並びにそれらの工業用混合物からなる群から選択される。
【0033】
複合エステルを調製するために本発明に従って使用されるジカルボン酸は、好ましくは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、タブス酸およびフェロゲン酸である。本発明によれば、ジカルボン酸無水物も反応に適している。アゼライン酸またはセバシン酸、およびそれらの無水物が特に好ましい。
【0034】
複合エステル反応生成物への転化は、エステルを調製するためのそれ自体既知の合成法で行われる。本発明によれば、エステルの調製は、遊離カルボキシル基および/または遊離ヒドロキシル基が制御されて存在するように、既知の方法により実施することもでき、遊離カルボキシル基および/または遊離ヒドロキシル基を含有するこれらの生成物を、滑剤組成物に使用する。本発明によれば、存在する遊離カルボキシル基は、アミンと更に反応してアミドを生じることができ、得られる化合物は、本発明における複合エステルとして、滑剤組成物中に存在できる。
【0035】
更に好ましい態様では、本発明の滑剤組成物は、更なる成分として、極性ポリマーを、滑剤組成物の総量に基づいて0.5〜30重量%の濃度で含んでなる。1〜18重量%の濃度が好ましく、2〜12重量%がより好ましい。
【0036】
本発明に従って使用される極性ポリマーは、好ましくは、アルキルフマレート−α−オレフィンコポリマー、アルキルマレエート−α−オレフィンコポリマー、ポリアルキルメタクリレート、プロピレンオキシドポリマー、エチレンオキシド−プロピレンオキシドコポリマーおよびアルキルメタクリレート−α−オレフィンコポリマーからなる群から選択される。
【0037】
本発明に従って使用される複合エステルは、良好な剪断安定性に加えて、一般に使用されているシーリング材に対する高い適合性を示す。シーリング材に対する適合性試験は、例えば標準試験ASTM D 471に従って、例えば100℃で168時間にわたって実施され得る。この試験によれば、本発明に従って使用される複合エステルは、シーリング材について、20%以下、好ましくは10%以下の体積増加、15%未満、好ましくは10%未満の硬度損失、50%未満、好ましくは30%未満の破断点伸び低下を示す。
【0038】
エステル系滑剤組成物に対するシーリング材の安定性の問題は、特に、ニトリルゴムまたはアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素化変異体を使用する場合に生じる。一般に、これらのシーリング材は、滑剤としてのエステルにより軟化され、この軟化は、体積増加により明らかになる。この軟化は、硬度低下、および破断強さ低下または破断点伸び低下をもたらす。
【0039】
本発明の好ましい態様では、使用される複合エステルは、NR(天然ゴム)、NBR(ニトリル−ブタジエンゴム)、HMBR(水素化ニトリルブチルゴム)、FPM(フッ素ゴム)、ACM(アクリレートゴム)、PTFE(Teflon)、PU(ポリウレタン)、シリコーン、ポリアクリレートおよびネオプレンからなる群から選択されるシーリング材に対して、より好ましくはNBR、HNBRおよびACMに対して適合性である。
【0040】
本発明の使用の好ましい態様では、分枝アルキル基含有エステルに対するシーリング材の安定性は、上記したASTM D 471試験により測定され、定められた基準を満たす。
【0041】
本発明に従って使用される複合エステルは、先に記載した特性に加えて、良好な酸化安定性および熱安定性も示す。これは、DIN EN ISO 4263−3に従って測定される。
【0042】
本発明において、用語「滑剤組成物」、「滑剤」、「潤滑油」および「配合物」は、同義語として使用する。
【0043】
記載した更なる成分に加えて、本発明の滑剤組成物は、ポリマー増粘剤、粘度指数改良剤、酸化防止剤、腐食防止剤、洗剤、分散剤、解乳化剤、消泡剤、染料、摩耗保護添加剤、極圧(EP)添加剤および耐摩耗(AW)添加剤、並びに摩擦緩和剤からなる群から選択される更なる添加剤を含有してよい。
【0044】
本発明は更に、本発明の滑剤組成物の、特に好ましい態様では乗物用トランスミッション油、車軸油、工業用トランスミッション油、コンプレッサー油、タービン油またはモーター油としての、使用を提供する。乗物用トランスミッション油、車軸油、クラッチ油、または工業用トランスミッション油としての使用が特に好ましい。
【実施例】
【0045】
実施例1〜10(E1〜E10):種々の滑剤組成物の比較
表1は、実施例配合物および比較例配合物の一覧を示す。
高粘性エステルHVE IまたはHVE IIに基づいたSAE class 75W−90のトランスミッション油は、良好な低温特性(−40℃での測定で全て300,000mPa・s未満の低い動力学粘度)を伴って配合できたことが明らかに見出される。注目に値することは、比較例(CE1)と比較して、向上した実施例配合物の剪断安定性である(E5およびE6は別として、低温特性の改善、およびPAO 6の代わりに群III鉱油を使用する可能性といった1つの本発明の効果がもっぱら意図されている)。この効果は、CE1が特に剪断安定であると分類されているPIBおよびOCP系を用いて配合されていると考えると、ますます明らかである。高粘性エステルの使用により、PAO 6を用いる代わりにPAO 8または群III鉱油を用いても良好な低温粘度を有する配合物を入手できることは注目に値する(E4、E5、E6を参照)。比較的低濃度での特定ポリマーの使用が、低温粘度の向上について相乗効果を有することが見出される(E3と比較してE2、E7と比較してE2、E10と比較してE2、およびE6と比較してE5を参照)。このことは、アルキルメタクリレートポリマー(E5およびE6を参照)、アルキルメタクリレート−α−オレフィンコポリマー(E3を参照)、アルキルマレエート−α−オレフィンコポリマー(E7を参照)を用いることにより、およびアルキルフマレート−α−オレフィンコポリマー(E10を参照)を用いることにより示された。アルキルメタクリレートポリマーを使用した場合、配合物の剪断安定性が低減することが見出された(E5およびE6を参照)。これは、アルキルメタクリレートポリマーの剪断応力に帰因する。同様に、HVE IIに基づく配合物が、ARKL試験(VW PV 1454)における平均試験終了温度に利益をもたらすことが明らかである(E8およびE9と比較してCE1を参照)。この試験は、トランスミッション用途および車軸用途における運転油温を反映しており、得られた温度が低いほど、ますます肯定的である。同様に、本発明の油を使用したことにより耐摩耗性を有するので、摩擦値が低下したことが明らかになった。このことは、工業規格SRV試験を用いて示された(E2と比較してCE1を参照)。
【0046】
使用した方法の全ておよび使用した原料の正確な名称を、表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
PAO 4:Neste Oil Corp.からのNexbase 2004
PAO 6:Neste Oil Corp.からのNexbase 2006
PAO 8:Neste Oil Corp.からのNexbase 2008
HVE I:445mm/秒の40℃で測定された動粘度を有する市販高粘性エステル(例えばCognisからのSynative ES 3237)
HVE II:2000mm/秒の40℃で測定された動粘度を有する高粘性エステル;ペンタエリスリトール、イソステアリン酸およびセバシン酸を反応させることによって既知の方法により得られる。
DIDA:ジイソデシルアジペート、例えばCognis Deutschland Gmbh & Co. KGからのSynative ES DIDA
群III鉱油:Neste Oil Corp.からのNexbase 3043
アルキルメタクリレート―α−オレフィンコポリマーI:RohMaxからのViscobase 11−574
アルキルメタクリレートI:RohMaxからのViscoplex 0-101
アルキルマレエート−α−オレフィンコポリマーI:Gear-Lube 7930
アルキルフマレート−α−オレフィンコポリマーI:Gear-Lube 7960
添加剤パッケージI:LubrizolからのAnglamol 6004 J
PIB I:LubrizolからのLubrizol 8406
OCP I:LubrizolからのLubrizol 8407
SRV試験条件:
・Optimol Instruments Prueftechnik GmbHからのSRV1機器
・負荷を、22分以内に200Nまで、更なる5分間に300Nまで、残りの43分間に600Nまで増加した。;試験時間:70分間
・温度:100℃
・球の滑り軌道:1.00mm
・周波数:50Hz
・材料対:粗研磨された表面を有する円筒体上の直径10mmの球
【0049】
本発明のエステルを使用して複数のモーター油(E13〜E15)を調製し、それらの特性を試験した。比較のために、同等の従来品であるモーター油(E11およびE12)に対する試験結果を同様に示す。結果は、以下の表2に見られる。
【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油および合成複合エステルを含んでなる、100℃での動粘度の損失により測定される良好な剪断安定性を有する滑剤組成物であって、前記複合エステルが、400超〜50,000mm/秒までの40℃での動粘度を有し、
a)ポリオール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸、または
b)ポリオールおよびモノアルコール並びにジカルボン酸、または
c)ポリオールおよびモノアルコール並びにモノカルボン酸およびジカルボン酸
の反応により得られる、組成物。
【請求項2】
100℃での動粘度の損失が、
i)CEC L−45−T−93(20時間)に従って測定された、自動トランスミッションおよび手動トランスミッション用のトランスミッション油、車軸油およびクラッチ油について、8%未満である、
ii)CEC L−45−T−93(20時間)に従って測定された、作動液、固定使用での工業用トランスミッション油、風力タービン潤滑油、ガスタービン油、コンプレッサー油および緩衝吸収流体について、15%未満である、
iii)ASTM D 3945(30サイクル)に従って測定された、2サイクルエンジン油および4サイクルエンジン油、並びにジーゼルモーター油およびガソリンモーター油について、15%未満である
ことを特徴とする、請求項1に記載の滑剤組成物。
【請求項3】
複合エステルが滑剤組成物の総量に基づいて3〜90重量%の濃度で存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の滑剤組成物。
【請求項4】
請求項1のa)に従った反応で使用されるモノカルボン酸が、分枝モノカルボン酸、または直鎖および分枝モノカルボン酸の混合物であり、それらの各々が5〜40炭素原子の炭素数を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項5】
ポリオールが一般式(I):R(OH)[式中、Rは2〜20個の炭素原子を含有する脂肪族または脂環式の基であり、nは少なくとも2である。]で示される分枝または直鎖アルコールであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項6】
モノアルコールが一般式(II):ROH[式中、Rは2〜20個の炭素原子を含有する脂肪族または脂環式の基である。]で示される分枝または直鎖アルコールであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項7】
ジカルボン酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、タブス酸およびフェロゲン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項8】
更なる成分として、極性ポリマーが滑剤組成物の総量に基づいて0.5〜30重量%(特に1〜18重量%、より好ましくは2〜12重量%)の濃度で存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項9】
極性ポリマーが、ポリアルキルメタクリレート、アルキルフマレート−α−オレフィンコポリマー、アルキルマレエート−α−オレフィンコポリマー、プロピレンオキシドポリマー、エチレンオキシド−プロピレンオキシドコポリマーおよびアルキルメタクリレート−α−オレフィンコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項10】
更なる添加剤が存在してよく、前記添加剤が、ポリマー増粘剤、粘度指数改良剤、酸化防止剤、腐食防止剤、洗剤、分散剤、解乳化剤、消泡剤、染料、摩耗保護添加剤、極圧(EP)添加剤および耐摩耗(AW)添加剤、並びに摩擦緩和剤からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の滑剤組成物。
【請求項11】
乗物用トランスミッション油、車軸油、工業用トランスミッション油、コンプレッサー油、タービン油またはモーター油としての、請求項1〜10のいずれかに記載の滑剤組成物の使用。

【公表番号】特表2009−540070(P2009−540070A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514660(P2009−514660)
【出願日】平成19年6月2日(2007.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004908
【国際公開番号】WO2007/144079
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】