説明

複合フィルムおよび磁気記録媒体

【課題】磁性層に十分な走行性を具備させつつ、温度や湿度といった環境変化に対するテープ幅の寸法変化を小さくすることができる複合フィルムの提供。
【解決手段】(i)ジカルボン酸成分として5モル%以上50モル%未満の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および50モル%を超え95モル%以下のベンゼンジカルボン酸またはナフタレンジカルボン酸成分を含有し、(ii)ジオール成分として90〜100モル%の炭素数2〜10アルキレングリコール成分を含有するポリエステル共重合体からなる二軸配向ポリエステルフィルムと、その少なくとも片面に設けられた平均粒径10〜80nmの不活性粒子を含有する、該不活性粒子による微細突起を1×10個/mm以上1×1010個/mm以下の範囲で有する皮膜層とからなる複合フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合フィルム、特に強磁性金属薄膜型磁気記録媒体の支持体に適した複合フィルムおよびそれを用いた磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度磁気記録媒体として、非磁性フィルム支持体上に強磁性金属薄膜を真空蒸着やスパッタリングの如き物理沈着法あるいはメッキ法によって形成した強磁性金属薄膜磁気記録媒体が知られている。例えば、Coを蒸着した磁気テープ(特開昭54−147010号公報)、Co−Cr合金を用いた垂直磁気記録媒体(特開昭52−134706号公報)等が知られている。このような蒸着、スパッタ又はイオンプレーティング等の薄膜形成手段によって形成される金属薄膜は膜厚が薄いことから、従来の塗布型磁気記録媒体(非磁性フィルム支持体上に、磁性体粉末を有機高分子バインダーに混入させた磁性塗料を塗布してなる磁気記録媒体)に比べ、優れた電磁変換特性を有している。
【0003】
しかしながら、金属薄膜型の磁気記録媒体は、非磁性フィルム支持体表面に形成される金属薄膜層の厚さが薄く、該フィルム支持体の表面状態(表面凹凸)がそのまま磁気記録層表面の凹凸として発現し、電磁変換特性を悪化させやすい。そのため、非磁性フィルム支持体の表面性はできるだけ平坦であることが好ましい。一方、フィルム支持体の巻取り、巻出しといったハンドリングの観点からは、フィルム表面が平坦であると、フィルム相互の滑り性が悪くなる。そのため、ハンドリングの観点からはフィルム支持体の表面は粗いことが好ましい。このように、非磁性フィルム支持体の表面は、電磁変換特性という観点からは平坦であることが要求され、一方ハンドリング性の観点からは粗面であることが要求される。そこで、これら両者の二律背反する性質を同時に満足することが必要となる。
【0004】
また、QIC、DLT、更に高容量のスーパーDLT、LTO等、リニアトラック方式を採用するデータストレージ用途では、テープの高容量化を実現するために、トラックピッチを非常に狭くしており、テープ幅方向の寸法変化によって、トラックずれを引き起こし、エラーが発生するという問題をかかえている。
【0005】
この寸法変化は、温湿度変化によるものと、走行時にかかる張力の変動によるもの、高張力下で巻き取られた状態で保管されたときに生じる幅の経時変化によるものとがある。この寸法変化が大きいと、トラックずれを引き起こし、電磁変換時のエラーが発生する。このうち張力による寸法変化は、フィルム支持体の縦方向ヤング率を大きくすることで良化できる。しかし、ポリマー特性と製膜性の点から縦方向のヤング率を大きくすればする程、横方向のヤング率は小さくなり、結果として、前者の温湿度変化による寸法変化が大きくなってしまう。そのため、寸法変化においても、両者の二律背反する性質を同時に満足することが必要となる。
【0006】
これらの問題を解決する手法として、特定の温度膨張係数、湿度膨張係数、熱収縮率及びヤング率を有するポリエチレン−2,6−ナフタレートの二軸配向ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献5:特開2005−153322号公報)。このポリエステルフィルムは、優れた寸法安定性を有するフィルムではあるものの、従来よりも更に高容量化されたデータストレージ用磁気記録媒体用としては、湿度膨張係数が大き過ぎ、そのためトラックずれによるエラーが発生するという新たな問題が潜在し、その解決がのぞまれている。
【0007】
一方、特許文献6〜9には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主とする酸成分と、ジオール成分とのエステル単位からなるポリエステルが提案されている。該文献には、結晶性で、融点が294℃のポリエステルが開示されている。これらの特許文献6〜9に開示されたポリエステルは、融点が非常に高く、また結晶性も非常に高く、フィルムなどに成形しようとすると、溶融状態での流動性が乏しく、押出しが不均一化したり、押出した後に延伸しようとしても結晶化が進んで高倍率で延伸すると破断したりするなどの問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開昭54−147010号公報
【特許文献2】特開昭52−134706号公報
【特許文献3】特開2003−132524号公報
【特許文献4】国際公開第02/47889号パンフレット
【特許文献5】特開2005−153322号公報
【特許文献6】特開昭60−135428号公報
【特許文献7】特開昭60−221420号公報
【特許文献8】特開昭61−145724号公報
【特許文献9】特開平6−145323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる問題を解消し、磁性層が強磁性金属薄膜である磁気記録媒体のベースフィルムに用いたとき、磁性層に十分な走行性を具備させつつ、温度や湿度といった環境変化に対するテープ幅の寸法変化を小さくすることができる複合フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のポリエステルからなる二軸配向ポリエステルフィルムの表面に特定の皮膜層を設けることで、特に強磁性金属薄膜型磁気記録媒体のベースフィルムとして用いることで、目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、(i)ジカルボン酸成分として5モル%以上50モル%未満の下記式(A)で表される繰り返し単位および50モル%を超え95モル%以下の下記式(B)で表される繰り返し単位を含有し、(ii)ジオール成分として90〜100モル%の下記式(C)で表される繰り返し単位を含有するポリエステル共重合体からなる二軸配向ポリエステルフィルムと、その少なくとも片面に設けられた平均粒径10〜80nmの不活性粒子を含有する、該不活性粒子による微細突起を1×10個/mm以上1×1010個/mm以下の範囲で有する皮膜層とからなる複合フィルムが提供される。
【0012】
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。)
【0013】
さらに、本発明のより好ましい態様として、複合フィルムの厚みが2〜10μmの範囲である前記複合フィルム、強磁性金属薄膜型磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる前記複合フィルムが、また、前記複合フィルムと、その皮膜層の表面に設けられた強磁性金属薄膜とからなることを特徴とする磁気記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、複合フィルムの表面に平均粒径10〜80nmの不活性粒子を特定の頻度で有する皮膜層が設けられていることから、その上に強磁性金属薄膜からなる磁性層を形成したときに十分な走行性を具備させることができ、しかも複合フィルムを構成する二軸配向ポリエステルフィルムが優れた寸法安定性、特に低湿度膨張係数を具備することから、それを強磁性金属薄膜型磁気記録媒体としたときに、テープ幅の寸法変化によるトラックずれが発生し難い磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、フィルムの面方向とはフィルムの厚みに直交する面の方向であり、フィルムの製膜方向(縦方向)をMachine Direction(MD)ということがある。また、フィルムの幅方向(横方向)とはフィルムの製膜方向(MD)に直交する方向であり、Transverse Direction(TD)方向ということがある。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分およびジオール成分からなるポリエステルであって、(i)ジカルボン酸成分が5モル%以上50モル%未満の前記式(A)および50モル%を超え95モル%以下の前記式(B)で表される繰り返し単位を含有し、(ii)ジオール成分が90〜100モル%の前記式(C)で表される繰り返し単位を含有するポリエステル共重合体(以下「CoPEs」ということがある)であり、下記の芳香族ジカルボン酸成分およびジオール成分からなる。
【0017】
〔ジカルボン酸成分〕
式(A)で表される繰り返し単位の含有量の上限は、50モル%(50モル%を含まず)、好ましくは45モル%、より好ましくは40モル%、さらに好ましくは35モル%、特に好ましくは30モル%である。下限は、好ましくは5モル%、より好ましくは7モル%、さらに好ましくは10モル%、特に好ましくは15モル%である。従って、式(A)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは5〜45モル%、より好ましくは7〜40モル%、さらに好ましくは10〜35モル%、特に好ましくは15〜30モル%である。
【0018】
式(A)で表される繰り返し単位は、Rが炭素数2〜10のアルキレン基のものであり、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来の単位が好ましい。これらの中でも式(A)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来の単位が好ましい。
【0019】
本発明におけるCoPEsは、ジカルボン酸成分が5モル%以上50モル%未満の式(A)で示される単位を含有することを特徴とする。式(A)で示される単位の割合が下限未満では湿度膨張係数の低減効果が発現し難い。また上限よりも少なくすることで製膜性を向上できるという利点もある。
【0020】
つぎに、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基である。このうち、Rがナフタレンジイル基であることが、フィルムの耐熱寸法安定性が優れるので好ましい。
【0021】
また、式(B)で表される繰り返し単位として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位、またはこれらの組み合わせが挙げられる。これらのうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸が上記と同じ理由で好ましい。
【0022】
〔ジオール成分〕
ジオール成分は、90〜100モル%の前記式(C)で表される繰り返し単位を含有する。式(C)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%である。
【0023】
式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。Rのアルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられる。これらの中でも式(C)で表されるジオール成分として、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等に由来する単位が好ましく挙げられる。これらの中でもエチレングリコールに由来する単位が特に好ましい。ジオール成分におけるエチレングリコール由来の単位の含有量は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは90〜100モル%、さらに好ましくは95〜100モル%、最も好ましくは98〜100モル%である。
【0024】
〔CoPEs〕
本発明におけるCoPEsは、式(A)で表される繰り返し単位と、式(C)で表される繰り返し単位で構成されるエステル単位(−(A)−(C)−)の含有量は、全繰り返し単位の好ましくは5モル%以上50モル%未満、より好ましくは5〜45モル%、さらに好ましくは10〜40モル%である。
【0025】
他のエステル単位として、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなどのアルキレンテレフタレート単位、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのアルキレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましく挙げられる。これらの中でも機械的特性などの点からエチレンテレフタレート単位やエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましい。
【0026】
本発明におけるCoPEsは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3、好ましくは0.4〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.5〜1.2dl/gである。
【0027】
本発明におけるCoPEsの融点は、200〜260℃の範囲、好ましくは205〜257℃の範囲、より好ましくは210〜255℃の範囲である。融点はDSCで測定する。
【0028】
融点が上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0029】
一般的に共重合体は単独重合体に比べ融点が低く、機械的強度が低下する傾向にある。しかし、本発明のCoPEsは、式(A)の単位および式(B)の単位を含有する共重合体であり、式(A)の単位を有する単独重合体に比べ、融点が低いが機械的強度は同じ程度であるという優れた特性を有する。
【0030】
本発明におけるCoPEsのDSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは80〜125℃、より好ましくは95〜123℃、さらに好ましくは110〜120℃の範囲にある。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムが得られる。融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0031】
ところで、本発明におけるポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有する繰り返し単位と6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有しない繰り返し単位とが隣接する割合を抑制することで、より高温加工時の伸びを抑制できる。そういった観点から、所定の共重合量となるように1段階で重合したものよりも、式(A)で表される繰り返し単位の含有量が多いポリエステルと、式(A)で表される繰り返し単位の含有量が少ないもしくは含有しないポリエステルとを用意し、これらを溶融混練して所定の共重合量としたポリエステルが好ましく、また種々の共重合量のポリエステルを例えば2種類のポリエステルの割合を調整するだけで準備できるという利点もある。
【0032】
〔二軸配向ポリエステルフィルム〕
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、前述のCoPEsからなる2軸に配向したフィルムである。二軸配向ポリエステルフィルムが2層以上のフィルム層を有する積層フィルムの場合は、これを構成する少なくとも1つのフィルム層が前述のCoPEsからなる二軸配向ポリエステルフィルムからなる層であればよい。
【0033】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、前述のCoPEsを溶融状態でシート状に押出し、二軸方向に延伸することで得られる。そして、前述のCoPEsは、溶融時の流動性、その後の結晶性、製膜性に優れ、厚み斑の均一なフィルムとなる。さらに本発明のフィルムは、6、6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸以外の芳香族ジカルボン酸を含有する芳香族ポリエステルの優れた機械的特性を有する。
【0034】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムの中には、その取扱い性を向上させるために、それ自体公知のポリエステル重合時に析出させた内部析出粒子や、製膜までに添加した不活性粒子例えば、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、球状シリカ粒子、酸化チタン粒子に代表される不活性無機粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等に代表される有機粒子等を含んでいても良い。
【0035】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、高密度磁気記録媒体用ベースフィルム、特に長時間記録が可能なリニア記録方式の磁気記録媒体用ベースフィルムとして用いるので、フィルムの厚みは2〜10μm、さらに3〜9μm、特に3.5〜5μmであることが好ましい。厚みが上限を超えると、磁気テープ厚みが厚くなりすぎ、例えばカセットに収納するテープ長さが短くなり、十分な磁気記録容量が得られない。一方、下限未満では、フィルムの製膜時にフィルム破断が多発することがある。
【0036】
〔皮膜層〕
本発明の複合フィルムは、基材である二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片面に平均粒径が10〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは15〜30nmの不活性粒子を含有している厚みが3〜50nm、好ましくは5〜40nmの皮膜層が塗設されている。皮膜層中の不活性粒子の平均粒径が上記範囲内にあることで、強磁性金属薄膜型磁気記録媒体としたときに、磁性層の表面に十分な走行性を付与しつつ、出力特性をも維持することができる。また、皮膜層の厚みが上記範囲内にあることで、強磁性金属薄膜型磁気記録媒体にしたときに、磁性層の表面に十分な走行性を付与しつつ、皮膜層中の不活性粒子の脱落を防止することができる。
【0037】
皮膜層に含有させる不活性粒子としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート共重合架橋体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン樹脂等の如き有機微粒子、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、タルク、グラファイト、炭酸カルシウム、長石、二硫化モリブデン、カーボンブラック、硫酸バリウム等の如き無機微粒子のいずれを用いてもよい。これらは乳化剤等を用いて水性分散液としたものであってもよく、また微粉末状で水性塗液に添加し、均一に分散できるものであってもよい。
【0038】
本発明における皮膜層は、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂)、フェノール樹脂、アミノ樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル―酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル―ポリエステル樹脂などからなり、これらの樹脂は単一重合体でも共重合体でもよく、また混合体でもよい。これらの中でも、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂)、アクリル樹脂およびアクリル―ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0039】
本発明における皮膜層の形成は、二軸配向ポリエステルフィルムの製造後でも製造中でもよいが、二軸配向ポリエステルフィルムの製造過程で行うのが好ましい。例えば、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの表面に水性塗液を塗布するのが好ましい。
【0040】
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、ポリエステルを溶融押出してそのままフィルム状となした未延伸フィルム、該未延伸フィルムを製膜方向(以下、縦方向または長手方向と称することがある。)または製膜方向に直交する方向(以下、横方向または幅方向と称することがある。)の何れか一方に延伸配向せしめた一軸延伸フィルム、更には二軸方向に延伸配向されているが、少なくとも一方向は低倍率延伸であって、再度該方向の延伸を要する二軸延伸フィルム(最終的に縦方向及び/又は横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。
【0041】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法などを単独又は組合せて適用するとよい。
【0042】
また、同時二軸延伸法においては、未延伸フィルムに塗布するのが好ましい。その場合、一軸延伸後に塗布する場合の塗液濃度より、一軸延伸倍率に相当する倍率で塗液がさらにひろげられることを考慮して高濃度の塗液を塗布するようにすることが好ましい。
【0043】
このようにして形成された皮膜層は、その表面に皮膜層中の不活性粒子による微細突起を1×10個/mm以上、1×1010個/mm以下の範囲で含有することが好ましく、さらに3×10個/mm以上、6×10個/mmの範囲で含有することが好ましい。微細突起の頻度が下限未満であると、該皮膜層の上に強磁性金属薄膜層を形成した場合、磁性層の表面が平滑すぎて記録、再生時に磁気ヘッドにより磁気テープの強磁性金属薄膜が摩耗しやすくなる。一方、微細突起の頻度が上限を超える場合は、該強磁性金属薄膜層が粗面すぎて、磁気テープの出力特性が低下することがある。上記微細突起の平均突起高さは、3nm以上50nm以下、さらに5nm以上40nm以下の範囲であることが好ましい。平均突起高さが3nm未満であると、該皮膜層の上に強磁性金属薄膜層を形成した場合、磁性層の表面が平滑すぎて、強磁性薄膜の耐久性が低下しやすい。一方、平均突起高さが50nmを超えると、該強磁性金属薄膜層が粗面になりすぎて、磁気テープの出力特性が低下しやすい。なお、微細突起の頻度を増やすには、皮膜層中の不活性粒子の割合を多くするか、不活性粒子の平均粒径を小さくすればよく、微細突起の平均突起高さを高くするには、皮膜層中の不活性粒子を平均粒径の大きなものに変更すればよい。
【0044】
〔複合フィルム〕
本発明の複合フィルムは、前述の二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片面に前述の皮膜層を設けたものであり、フィルム両面の長手方向における中心線平均粗さ(Ra)がそれぞれ1〜10nmであることが好ましい。この中心線平均粗さ(Ra)は、好ましくは1〜8nm、さらに好ましくは1〜7nmである。この中心線平均粗さ(Ra)が下限未満ではフィルム製造時に極端に傷が発生しやすく、一方上限を超えると、磁気記録媒体に用いたとき記録出力が低下する。なお、中心線平均粗さ(Ra)について、皮膜層がフィルム表面に積層されている場合は該皮膜層表面を測定した値を意味する。
【0045】
本発明の複合フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)が、好ましくは15×10−6/℃以下、より好ましくは10×10−6/℃以下、さらに好ましくは7×10−6/℃以下、特に好ましくは5×10−6/℃以下の範囲であることが、雰囲気の温度変化による寸法変化に対して優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0046】
本発明における複合フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)の下限は、好ましくは−15×10−6/℃、より好ましくは−10×10−6/℃、さらに好ましくは−7×10−6/℃である。フィルムの幅方向の温度膨張係数が上記範囲であることで、磁気記録媒体にしたときの寸法変化を抑制しやすくなる。
【0047】
また、本発明の複合フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数(αh)が0.1×10−6〜10×10−6/%RH、さらに1×10−6〜7×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。αhがこの範囲にあると、磁気記録媒体にしたときの寸法安定性が良好となる。
【0048】
本発明の複合フィルムは、フィルムの製膜方向および幅方向のヤング率がともに4GPa以上であることが好ましい。好ましいヤング率の下限は、4.5GPa以上、さらに5GPa以上である。ヤング率が下限未満では、寸法安定性の向上効果が乏しくなる。他方ヤング率の上限は、製膜方向および幅方向のヤング率の合計として、22GPa以下であることが必要である。好ましい製膜方向および幅方向のヤング率の合計の上限は、20GPa以下、さらに18GPa以下である。製膜方向および幅方向のヤング率の合計が上限を超えると、製膜時に破断が多発し、歩留まりが低下することがある。
【0049】
〔複合フィルムの製造方法〕
本発明におけるCoPEsは、以下の方法で製造することができる。例えば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸およびナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコール等のジオール成分とを反応させポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在下で重合して製造できる。その後、必要に応じて固相重合などを施しても良い。また、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の割合が異なる複数の樹脂を用意し、それらを所望の濃度となるように混ぜ合わせても良い。
【0050】
このようにして得られたCoPEsを乾燥後、CoPEsの融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。そして、この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとする。
【0051】
前述のαt、αh、ヤング率などを達成するためには、その後の延伸を進行させやすくすることが必要であり、そのような観点から冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましい。そのような観点から、特許文献3に記載されるような80℃といった高温ではなく、20〜60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行うことが可能となる。
【0052】
続いて得られた未延伸フィルムを二軸延伸する。二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステル共重合体のガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜10倍、好ましくは3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜10倍に延伸し、さらに熱処理としてポリエステル共重合体の融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒間、さらに1〜15秒間、熱固定処理するのが好ましい。
【0053】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されているCoPEsを成分として含むことから極めて延伸性に富む反面、同じ延伸倍率ではヤング率が低くなる傾向があり、目的とするヤング率を得るにはより高めの延伸倍率で延伸することが必要である。通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明では6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されているので延伸性が非常に高く、そのような問題は無い。
【0054】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも製造できる。その条件は前述の延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0055】
また、本発明における二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出すことができる。また2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとすることもできる。押し出し温度は、好ましくはそれぞれの層を構成するポリマーの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度である。ついで、前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。
【0056】
そして、本発明の複合フィルムは、上述の二軸配向ポリエステルフィルムの製造過程における未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に、前述の所望の塗布液を塗布し、二軸延伸および熱処理を行うことなどで製造することができる。
【0057】
<磁性層>
本発明の複合フィルムをベースフィルムに用いた磁気記録媒体は、磁性層が強磁性金属薄膜層であることが、高度の寸法安定性を有する磁気記録媒体を得られることから好ましい。
【0058】
本発明における磁性層は、例えば、複合フィルムの皮膜層の表面に、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知の方法により、鉄、コバルト、クロムまたはこれらを主成分とする合金もしくは酸化物より成る強磁性金属薄膜層を形成させることにより得られる。磁性層の厚みは、100〜300nmであることが好ましい。
【0059】
またその磁性層の表面に、目的や用途などの必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層やフッ素カルボン酸系潤滑層を順次設けることができる。更に磁性層を設けた反対側の表面に公知のバックコート層を設けることにより、優れた走行性を付与することができる。このようにして得られた磁気記録媒体は、特に短波長領域の出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、高度の寸法安定性を有し、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用磁気記録媒体として用いることができ、リニア記録方式の磁気記録媒体およびヘリカル方式の磁気記録媒体のいずれにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
実施例によってさらに本発明を説明するが、特にこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明における種々の特性は、以下の方法にて測定・評価した。また、特に断らない限り、「部」および「%」はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
【0061】
〔1〕固有粘度
ポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0062】
〔2〕皮膜層中の粒子の平均粒径
光散乱法により求められる全粒子の50重量%の点にある粒子の「等価球形直径」をもって表示する。
【0063】
〔3〕突起の高さ、頻度
Digital Instruments社製の原子間力顕微鏡 NanoScopeIII、AFMのJスキャナーを使用し、以下の条件で2μm×2μmの範囲を10ケ所測定し、AFM像より高さが1nm〜100nmの各々の突起の数をカウントし、その平均値を面積換算により個/mm当たりの突起個数として算出する。またカウントした各々の突起の高さを測定し、その平均値をもって突起の平均高さとする。
深針:単結晶シリコンナイトライド
走査モード;タッピングモード
面素数;256×256 データポイント
スキャン速度;2.0Hz
測定環境;室温、大気中
【0064】
〔4〕ヤング率
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引張り、得られる荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0065】
〔5〕幅方向の温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0066】
〔6〕幅方向の湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0067】
〔7〕磁気記録媒体の作成
複合フィルムの皮膜層側の表面に、連続真空蒸着装置を用いて、微量の酸素の存在下において、コバルト−酸素薄膜を150nmの膜厚で形成した。次にコバルト−酸素薄膜上にスパッタリング法により、ダイアモンド状カーボン保護膜を10nmの厚みとなるように常法で形成させ、フッ素含有脂肪酸エステル系潤滑剤を3nmの厚みで塗布した。続いて、他方の表面に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を500nmの厚みで設け、スリッターにより幅6.35mmにスリットし、リールに巻き取って磁気記録テープを作成した。
【0068】
〔8〕耐久性
耐久性は上記〔7〕で作成した磁気テープを市販のカメラ一体型デジタルビデオテープレコーダーを用い、40℃、相対湿度90%の環境下にて300回再生を実施し、出力特性を測定して以下の基準で判断した。
◎:初期出力特性との差が1dB未満
○:初期出力特性との差が1dB以上3dB未満
×:初期出力特性との差が3dB以上
【0069】
〔9〕トラックずれ
上記〔7〕で作成した磁気テープを、恒温恒湿槽内へ入れ、長手方向に1Nの張力を掛けた状態で各環境(環境A:10℃10%RH、環境B:29℃80%RH)にて5時間静置した後、それぞれレーザー寸法測定機によって幅を測定した。そして、下記式によりトラックずれ率を算出した。
トラックずれ率(ppm)=((LB−LA)/LA)*106−7×(29−10)
上記式中のLBは環境Bで測定した幅、LAは環境Aで測定した幅、7は磁気ヘッドの温度膨張係数、(29−10)は温度の変化量である。ちなみに、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHとした。
そして、トラックずれ率の絶対値が少ないほど良好であり、以下の基準により評価した。
◎ : ずれ幅200ppm未満(トラックずれ極めて良好)
○ : ずれ幅200ppm以上、500ppm未満(トラックずれ良好)
× : ずれ幅500ppm以上(トラックずれ不良)
【0070】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PB1)を得た。
【0071】
[参考例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の99.5モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の0.5モル%が6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA1)を得た。
【0072】
[参考例3]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を加えなかった以外は参考例2と同様な操作を繰り返して、固有粘度0.62dl/gで、酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA2)を得た。
【0073】
[実施例1]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、重量比で66:34、押し出し機に供給し、300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が135℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度135℃で横延伸倍率8.5倍、熱固定処理(205℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
この際、横延伸前の一軸延伸フィルムに次の組成の塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この皮膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
【0074】
〔塗液の組成〕
下記方法で作成した水性エマルジョンの1.5wt%溶液 81.0部、ポリメタクリル酸メチル微粒子(日本触媒化学工業(株)製 エポスターMA)の1.5wt%液4.0部(但し、この微粒子の平均粒径は0.03μmである)、ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成社製 商品名ナロアクティーN−70)の1.5wt%溶液 15部、塗布量はウェットで2.1g/mである。
【0075】
〔水性エマルジョンの合成〕
酸成分がテレフタル酸(45mol%)とイソフタル酸(55mol%)からなり、グリコール成分がジエチレングリコールからなるポリエステル(35℃のO―クロロフェノール中で測定した固有粘度0.40)100部をテトラヒドロフラン900部に常圧下64℃に加熱しながら溶解させた。その後、脱イオン水900部を高速攪拌しながら徐々に添加した。全量添加後、再び80℃に加熱してテトラヒドロフランを蒸発除去させて、10wt%のポリエステルの水分散体を得た。この水分散体を常圧下で60℃に加熱して過硫酸アンモニウム1部を添加した。その後80℃に加熱して、メタクリル酸メチル90部、アクリル酸エチル39部、メタクリル酸20部及びt―ドデシルメルカプタン1部の混合物を徐々に添加した。次いで脱イオン水100部に過硫酸アンモニウム1部及び炭酸水素ナトリウム2部を含有させたものを徐々に添加した。添加完了後、更に3時間反応を続けた後、室温に冷却した。
この反応生成物は固形分含有率20wt%、粒径35nmを有する安定な水性エマルジョンであった。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、重量比で52:48、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が130℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.7倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度130℃で横延伸倍率8.3倍、熱固定処理(194℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
この際、皮膜層中の不活性粒子を平均粒径が20nmのものに変更した以外は実施例1と同様にして横延伸前の一軸延伸フィルムに塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この塗膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、重量比で40:60、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が125℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率6.2倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度125℃で横延伸倍率9.5倍、熱固定処理(190℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
この際、皮膜層中の不活性粒子を平均粒径が35nmのものに変更した以外は実施例1と同様にして横延伸前の一軸延伸フィルムに塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この塗膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、重量比で80:20、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が138℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.8倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度138℃で横延伸倍率8.0倍、熱固定処理(214℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを構成するポリエステル樹脂の特性を表1に示す。
この際、実施例1と同様にして横延伸前の一軸延伸フィルムに塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この塗膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0079】
[実施例5]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、重量比で61:39、押し出し機に供給して295℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が133℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度135℃で横延伸倍率8.3倍、熱固定処理(202℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
この際、実施例1と同様にして横延伸前の一軸延伸フィルムに塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この塗膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
参考例3で得られた芳香族ポリエステル(PA2)自体をポリエステル樹脂として用い、該PA2を押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度60℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率3.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度140℃で横延伸倍率4.3倍、熱固定処理(200℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。
この際、皮膜層中の不活性粒子を平均粒径が5nmのものに変更し、かつ粒子量が表1の突起頻度となるように調整した以外は実施例1と同様にして横延伸前の一軸延伸フィルムに塗液をロールコート法でフィルムの片面に塗布した。この塗膜層の表面は磁性層を形成する側の表面となる。
得られた複合フィルムの特性を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
実施例1において、PA1とPB1の代わりに、PB1のみを用いた以外は同様な操作を繰り返したが、製膜中の破断が多く、その後の評価は中止とした。
【0082】
【表1】

【0083】
尚、表1において、Cは2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の割合、Cは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の割合、MDは製膜方向、TDは幅方向をそれぞれ表わす。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリエステルフィルムは、機械的特性、耐熱寸法安定性、耐湿寸法安定性に優れ、トラックずれの発生が少なく、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ジカルボン酸成分として5モル%以上50モル%未満の下記式(A)で表される繰り返し単位および50モル%を超え95モル%以下の下記式(B)で表される繰り返し単位を含有し、(ii)ジオール成分として90〜100モル%の下記式(C)で表される繰り返し単位を含有するポリエステル共重合体からなる二軸配向ポリエステルフィルムと、その少なくとも片面に設けられた平均粒径10〜80nmの不活性粒子を含有する、該不活性粒子による微細突起を1×10個/mm以上1×1010個/mm以下の範囲で有する皮膜層とからなることを特徴とする複合フィルム。
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。)
【請求項2】
複合フィルムの厚みが2〜10μmの範囲である請求項1記載の複合フィルム。
【請求項3】
強磁性金属薄膜型磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる請求項1記載の複合フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の複合フィルムと、その皮膜層の表面に設けられた強磁性金属薄膜とからなることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2010−30255(P2010−30255A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197747(P2008−197747)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】