説明

複合フィルム及びその製造方法

【課題】表面層と基材層との優れた密着性を有する複合フィルムを無溶剤工程により環境負荷を低減させつつ高い生産性で提供すること。
【解決手段】本発明の複合フィルムは、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程を経て得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルム及びその製造方法に関し、詳細には、少なくとも一層にフッ素系ポリマーと重合性モノマーとを含むエネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化層を有する複合フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着テープ又はシートは、一般的にフィルム基材に粘着剤層を形成した構造を有しており、表面保護材、保持固定材、導電性フィルム等、各種用途への展開が進められている。例えば、風雨や鳥類の汚物等に曝される鋼橋や鉄塔等の構造物や、粉塵や小石等の飛来物が塗装面に衝突することがある自動車や飛行機等の輸送用機器において、塗膜の劣化や塗装面の損傷部分から錆が発生するといった問題がある。こうした問題への対応策の1つとして、粘着テープ又はシートを塗膜の保護材として用いることが提案されている。
【0003】
粘着テープ又はシート用の基材に対する要求機能が高まるにつれて、その要求を満たすために種々のポリマー層を貼り合せた基材を用いる製品が数多く上市されている。しかしながら、近年、基材層に薄手の表面機能層を設けた機能化基材が要望されるものの、別々のポリマー層を貼り合わせる手法だけでは克服できない事例も多くなっている。
【0004】
すなわち、例えば上記のような塗膜保護用途で利用される粘着テープ又はシートには、塗膜損傷を防ぐために基材層表面にフッ素樹脂を含む層が表面層ないし表面機能層として積層されることがある。このような用途では、強靭性や柔軟性等の基材層物性を維持したまま表面機能を得るために、表面機能層の厚さは薄いことが望まれる。
【0005】
また、飛来物の衝突や洗浄作業等により表面機能層の剥離がないように基材層との高い密着性も求められる。
【0006】
表面に保護機能層を有する粘着テープ又はシートの作製には、フッ素樹脂やシリカ粒子等の保護機能を有する物質で薄い表面層を形成するため、保護機能を有する物質を有機溶剤へ溶解した非水性組成物が利用される。従来法では、これらの非水性組成物を基材フィルム(基材層)上に塗布及び乾燥することで、粘着テープ又はシート用の表面層付き基材を得ていた(特許文献1)。しかし、この方法得られる複合フィルムは、表面層と基材フィルムの密着性が不十分であった。
【0007】
これを解決するために、例えば特定の構造を有するフルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体を用いてなる表面層を基材フィルムに架橋する手法で、表面層と基材フィルムの密着性の改善にはかなりの成果が収められている(特許文献2)。
【0008】
この他、基材フィルムの表面処理(コロナ処理、プラズマ処理、プライマー塗布等)を行う手法によっても、複合フィルムの表面層と基材フィルムの密着性改善は期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−299035号公報
【特許文献2】特開2009−299053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来法における組成物は塗工後に蒸発される必要がある溶剤を含有しており、環境負荷低減の観点から好ましくないと考えられる。
【0011】
また、前記従来法及び表面処理技術を用いる手法では、複数のポリマー層を作製する工程やフィルムの表面処理工程等必要な複合フィルムを得るために煩雑な操作や多くの工程を要し、生産性が低いという課題がある。
【0012】
さらに、塗膜保護用粘着テープ又はシート用基材として広く利用するためには、表面層と基材層とのより高い密着性等が求められる。
【0013】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、表面層と基材層との優れた密着性を有する複合フィルムを無溶剤工程により環境負荷を低減させつつ、かつ高い生産性で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、下記の製造方法よって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0015】
本発明の複合フィルムは、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程
を経て得られる。
【0016】
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記フッ素系ポリマー(P)及び前記重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するフッ素系ポリマー(P)の濃度が5重量%以上80重量%以下であり、
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度が20重量%以上100重量%未満であり、かつ
前記総量(PM)に対する前記ポリマー(P)の濃度は前記総量(PM)に対する前記フッ素系ポリマー(P)の濃度より高く、前記ポリマー(P)の濃度と前記フッ素系ポリマー(P)の濃度との差が15重量%以上95重量%未満であることが好ましい。
【0017】
当該複合フィルムでは、前記積層体形成工程において、前記フッ素系ポリマー(P)が前記第1未硬化層における前記第2未硬化層とは反対側の界面に偏在していることが好ましい。
【0018】
当該複合フィルムでは、前記ポリマー(P)がウレタンポリマー及びアクリロイル基末端ウレタンポリマーの少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
当該複合フィルムは、粘着テープ又はシートの基材として好適に用いることができる。
【0020】
本発明には、当該複合フィルムと、該複合フィルム上に形成された粘着剤層とを備える塗膜保護用粘着テープ又はシートが含まれる。
【0021】
当該塗膜保護用粘着テープ又はシートは、自動車の外装塗膜面又は航空機の外装塗膜面の保護材として好適に用いることができる。
【0022】
本発明の複合フィルムの製造方法は、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程
を有する。
【0023】
当該複合フィルムの製造方法では、前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記フッ素系ポリマー(P)及び前記重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するフッ素系ポリマー(P)の濃度が5重量%以上80重量%以下であり、
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度が20重量%以上100重量%未満であり、かつ
前記総量(PM)に対する前記ポリマー(P)の濃度は前記総量(PM)に対する前記フッ素系ポリマー(P)の濃度より高く、前記ポリマー(P)の濃度と前記フッ素系ポリマー(P)の濃度との差が15重量%以上95重量%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、表面層と基材層との優れた密着性を有する複合フィルムを無溶剤工程により環境負荷を低減しつつ高い生産性で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1の複合フィルムの断面の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【図2】比較例1の複合フィルムの断面の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【図3】実施例1の複合フィルムの断面の光学顕微鏡による観察像である。
【図4】実施例1の複合フィルムの断面の顕微FT−IR測定による観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の複合フィルムは、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程
を経て得られる。
【0027】
このような工程を経て得られる複合フィルムは、フッ素系ポリマー(P)を含む積層体であって、フッ素系ポリマー(P)が、重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層をUV等のエネルギー線により硬化させた第1硬化層中に偏って含まれる。
【0028】
また、第1未硬化層と第2未硬化層との積層により、両層の界面では重合性モノマーの微視的な拡散が生じることとなる。これにより、エネルギー線照射による積層体の硬化を経ることで、第1未硬化層における重合性モノマー(M)同士の重合反応や、第2未硬化層における重合性モノマー(M)同士の重合反応のみならず、第1未硬化層における重合性モノマー(M)と第2未硬化層における重合性モノマー(M)との重合反応が生じる。その結果、第1未硬化層に由来するフッ素系ポリマー(P)が存在する第1硬化層と第2未硬化層に由来する第2硬化層との密着性を向上させることができる。
【0029】
以下、各エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる成分について説明し、その後、複合フィルム製造のための各工程について説明する。
【0030】
[エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)]
エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)は、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含む。エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)はさらに重合開始剤を含んでいてもよく、エネルギー線の照射によりラジカル種、アニオン種又はカチオン種等を生成する光重合開始剤を含んでいてもよい。
【0031】
[フッ素系ポリマー(P)]
フッ素系ポリマー(P)としては、フッ素原子を含むポリマーであれば特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロエチレンビニルエーテル共重合体等が挙げられる。
【0032】
本発明において、フルオロエチレンビニルエーテル共重合体は、フルオロエチレン単位とビニルエーテル単位とが交互に並んだフルオロエチレンビニルエーテル交互重合体であり、下記式で表されるものが好ましい。
【化1】

【0033】
式中、Xはフッ素原子、塩素原子又は臭素原子を表し、Raは水素原子又はC1〜C10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)を表し、RbはC1〜C16のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等)を表し、RcはC1〜C16のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等)を表し、m及びnは、それぞれ0以上の整数であり、フルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体の重量平均分子量が1,000〜2,000,000となる範囲で選択される。
【0034】
フルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体に代表されるフッ素系ポリマー(P)の重量平均分子量は、1,000〜2,000,000、好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000である。
【0035】
フッ素系ポリマー(P)の重量平均分子量は、GPC法により測定することができる。GPC法の測定方法を以下に示す。すなわち、フッ素系ポリマー(P)を、THF溶液を用いて2.0g/Lとなるように調整した後、12時間静置する。その後、この溶液を0.45μmメンブレンフィルターでろ過し、分析装置として東ソー(株)製の「HLC−8120GPC」を用い、下記測定条件の下、ろ液についてGPC測定を行う。
測定条件:
カラム TSKgel GMH−H(S)×2
カラムサイズ 7.8mmI.D.×300mm
溶離液 THF
流量 0.5mL/min
検出器 RI
カラム温度 40℃
注入量 100μL
【0036】
[重合性モノマー(M)]
重合性モノマー(M)は、ラジカル重合やカチオン重合等の反応機構を問わず、光エネルギーを利用して重合可能な化合物であることが重要である。このような重合性モノマーは、例えば、アクリル系ポリマーを形成するアクリル系モノマー等のラジカル重合性モノマー、エポキシ系樹脂を形成するエポキシ系モノマー、オキセタン系樹脂を形成するオキセタン系モノマー、ビニルエーテル系樹脂を形成するビニルエーテル系モノマー等のカチオン重合性モノマー等が挙げられる。中でも、アクリル系モノマーが好適に用いられる。また、重合性モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
このようなアクリル系モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4ーヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート等の脂環式構造を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の燐酸含有モノマー等が挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー、N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミド等のスクシンイミド系モノマー、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルボン酸アミド類、N−ビニルカプロラクタム等のビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノアクリレート系モノマー、(メタ)アクリル酸グリシジル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル系モノマー;メチル(メタ)アクリレートやオクタデシル(メタ)アクリレート等のモノマーが挙げられる。これらのモノマーを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの(メタ)アクリル系モノマーは、エネルギー線照射による硬化時の重合性や、得られる高分子量体の特性を考慮して、種類、組合せ、使用量等が適宜決定される。
【0038】
また前記重合性モノマー成分として、多官能性モノマーが用いられていてもよい。モノマー成分として多官能性モノマーを用いることにより、例えば凝集力を高めたりすることができ、所望の物性とすることができる。
【0039】
前記多官能性モノマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
多官能性モノマーの使用量としては、得られる複合フィルムの目的、用途によって適宜調整することができるが、例えば粘着特性が求められる用途で用いる場合、モノマー成分全量に対して2重量%以下(例えば、0.01〜2重量%)であり、好ましくは、0.02〜1重量%である。多官能性モノマーの使用量が、モノマー成分全量に対して2重量%を超えると、例えば、凝集力が高くなりすぎ、感圧接着性が低下するおそれがある。なお、多官能性モノマーの使用量が少なすぎると(例えば、モノマー成分全量に対して0.01重量%未満であると)、凝集力を上げる効果が得られない場合がある。
【0041】
また、例えば硬い物性が求められる用途(例えば、フィルム用途やハードコート用途等)で用いる場合、多官能性モノマーの使用量としては、モノマー成分全量に対して95重量%以下(例えば、0.01〜95重量%)であり、好ましくは、1〜70重量%である。多官能性モノマーの使用量がモノマー成分全量に対して95重量%を超えると、重合時の硬化収縮が大きくなり均一なフィルム状あるいはシート状の複合フィルムを得られなくなるおそれや、得られた複合フィルムが脆くなりすぎるおそれがある。また、多官能性モノマーの使用量が少なすぎると(例えば0.01重量%以下であると)、十分な耐熱性を有する複合フィルムを得られなくなるおそれがある。
【0042】
本発明においては、フッ素系ポリマー(P)として用いるフルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体に水酸基が残存している場合、イソシアネート基含有アクリル系モノマーと反応させることで、重合性フッ素系ポリマーとすることもできる。
【0043】
[重合開始剤]
重合開始剤は必要に応じて用いてもよく、例えば光重合開始剤(光開始剤)を用いる。本発明では、光重合開始剤(光開始剤)を用いた活性エネルギー光線による硬化反応を好適に利用することができる。
【0044】
光重合開始剤としては、特に制限されず、例えばベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α−ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤等を用いることができる。光重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
具体的には、ケタール系光重合開始剤には、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン[例えば、商品名「イルガキュア651」(チバスペシャリティーケミカル社製)等]等が含まれる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア184」(チバスペシャリティーケミカル社製)等]、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−(t−ブチル)ジクロロアセトフェノン等が挙げられる。ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、商品名「ルシリンTPO」(BASF社製)等が使用できる。α−ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、例えば、2−ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシム等が挙げられる。ベンゾイン系光重合開始剤には、例えば、ベンゾイン等が含まれる。ベンジル系光重合開始剤には、例えば、ベンジル等が含まれる。ベンゾフェノン系光重合開始剤は、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が含まれる。チオキサントン系光重合開始剤には、例えば、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が含まれる。
【0046】
光重合開始剤の使用量としては、特に制限されないが、例えば、各エネルギー線硬化性樹脂組成物の全モノマー成分100重量部に対して0.01〜5重量部(好ましくは0.05〜3重量部)の範囲から選択することができる。
【0047】
エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)には、必要に応じて、適宜な添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤(例えば、イオン性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤など)、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、シリコーン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アルキルエーテル化メラミン系架橋剤など)、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤(顔料や染料など)、溶剤(有機溶剤)などが挙げられる。
【0048】
例えば、第1未硬化層を硬化させた第1硬化層の意匠性、光学特性等の観点から、光重合反応等の重合反応を阻害しない程度の顔料(着色顔料)を使用することができる。黒色が望まれる場合には、着色顔料として、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックの使用量としては、着色度合いや上記光重合反応を阻害しない観点から、例えば、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)の重合性モノマー(M)100重量部又はその部分重合物に対して0.15重量部以下が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.15重量部、さらには好ましくは0.02〜0.1重量部である。
【0049】
エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)は、上記各成分を均一に混合・分散させることにより調製することができる。エネルギー線硬化性樹脂組成物は、通常、支持基材上に塗布する等してシート状に形成するので、塗布作業に適した適度な粘度を持たせておくのがよい。エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば、アクリルゴム、増粘性添加剤等の各種ポリマーを配合することや、エネルギー線硬化性樹脂組成物中の重合性モノマーや重合性モノマーを光の照射や加熱等により一部重合させることにより調整することができる。なお、望ましい粘度は、BH粘度計を用いて、ローター:No.5ローター、回転数:10rpm、測定温度:30℃の条件で設定された粘度として、5〜50Pa・sであり、より好ましくは10〜40Pa・sである。粘度が5Pa・s未満であると、基材上に塗布したときに液が流れてしまい、50Pa・sを超えていると、粘度が高すぎて塗布が困難となる。
【0050】
[エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)]
エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)は、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含む。なお、重合性モノマー(M)としては、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)における重合性モノマー(M)と同様のものを用いることができる。
【0051】
前記ポリマー(P)は前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマーであれば特に限定されずアクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系、シリコーン系、ポリアミド系等各種ポリマーを用いることができる。特に本発明の複合フィルムを粘着シートの基材とし用いる場合、強度と柔軟性を両立できるという点から、ウレタン系ポリマーを用いることが好ましい。
【0052】
本発明においてポリマー(P)は、重合可能な重合性ポリマーであってもよい。重合性ポリマーとしては、ラジカル重合やカチオン重合等の反応機構を問わず、光エネルギーや熱エネルギーを利用して重合可能なポリマー及びオリゴマーであることが重要である。このような重合性ポリマーとしては、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分を付加反応したウレタンポリマーに水酸基含有アクリルモノマーを付加反応して得られるウレタンアクリレート、アクリル系モノマーやビニルモノマーを重合した共重合アクリルポリマーにアクリロイル基をペンダントさせて得られるポリアクリルアクリレート、エポキシ化合物とアクリル酸の付加反応によって得られるエポキシアクリレート、ジオールとフマル酸やマレイン酸等の不飽和ニ塩基酸との組合せで得られる不飽和ポリエステル、ハイパーブランチポリマー、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。中でも、ウレタンアクリレートが好適に用いられる。また、重合性ポリマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
前記重合性ポリマーであるウレタンアクリレートは、アクリルモノマー中で作製したウレタンアクリレートをエネルギー線硬化性樹脂組成物としてそのまま使用することもできる。一般的に、市販のウレタンアクリレートは粘度が高くハンドリング性が悪いことから、溶剤もしくは重合性モノマーで希釈し使用する場合が多い。この方法によれば、溶剤もしくは重合性モノマーで希釈する必要がなく、アクリルモノマー中で作製することからアクリルモノマーとの相溶性、及びシートの物性を任意に変化させることもできる。具体的な方法としては、アクリルモノマー中でポリオールとポリイソシアネートを付加反応してウレタンポリマーを作製し、水酸基含有アクリルモノマー等を付加反応して作製する方法である。
【0054】
本発明におけるポリマー(P)としてのウレタンポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる。ポリオールの水酸基とポリイソシアネートとの反応には、触媒を用いても良い。例えば、ジブチルスズジラウレート、オクトエ酸スズ、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン等の、ウレタン反応において一般的に使用される触媒を用いることができる。
【0055】
ポリオールとしては、1分子中に2個又はそれ以上の水酸基を有するものが望ましい。低分子のポリオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の2価のアルコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価又は4価のアルコール等が挙げられる。
【0056】
また、高分子のポリオールとしてはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、カーボネートポリオール、カプロラクトンポリオール等がある。これらの中では、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、カーボネートポリオールが好ましい。ポリエ−テルポリオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては上記の2価のアルコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルコールとアジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の2塩基酸との重縮合物が挙げられる。その他、ポリカプロラクトン等のラクトン系開環重合体ポリオールポリカーボネートジオール等がある。アクリルポリオールとしてはヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマーの共重合体の他、水酸基含有物とアクリル系モノマーとの共重合体等が挙げられる。エポキシポリオールとしてはアミン変性エポキシ樹脂等がある。これらのポリオール類は単独あるいは2種以上併用して使用することができる。
【0057】
ポリイソシアネートとしては芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネート、これらのジイソシアネートの二量体、三量体等が挙げられる。芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの二量体、三量体や、ポリフェニルメタンポリイソシアネートが用いられる。三量体としては、イソシアヌレート型、ビューレット型、アロファネート型等が挙げられ、適宜、使用することができる。これらのポリイソシアネート類は単独あるいは併用で使用することができる。ウレタン反応性、アクリルとの相溶性等の観点から、ポリイソシアネートの種類、組合せ等を適宜選択することができる。
【0058】
ウレタンポリマーを形成するためのポリオール成分とポリイソシアネート成分の使用量は特に限定されるものではないが、例えば、ポリオール成分の使用量は、ポリイソシアネート成分に対し、NCO/OH(当量比)が0.8〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがさらに好ましい。NCO/OHが0.8未満、あるいは3.0より大きいと、分子量が低下し易く、本発明の目的である機能性複合フィルムが得られない場合がある。
【0059】
前記ウレタンポリマーに対し、水酸基含有アクリルモノマーを添加し、ポリマー末端をアクリルロイル基とすることが好ましい。水酸基含有アクリルポリマーを添加することにより、ウレタンポリマーの分子内にアクリロイル基を導入することができ、アクリルモノマーとの共重合性が付与することができる。水酸基含有アクリルモノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等が用いられる。水酸基含有アクリルモノマーの使用量は、ウレタンポリマー100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが望ましく、さらに望ましくは0.1〜5重量部である。
【0060】
なお、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)は、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)で例示した重合開始剤、添加剤を、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)と同様の範囲で用いることができる。ただし、使用量の基準は、ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)である。
【0061】
エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)は、上記各成分を均一に混合・分散させることにより調製することができる。エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)もエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)と同様の粘度を有していることが好ましい。
【0062】
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記フッ素系ポリマー(P)及び前記重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するフッ素系ポリマー(P)の濃度が5重量%以上80重量%以下であることが好ましく、5重量%以上70重量%以下であることがより好ましく、10重量%以上60重量%以下であることがさらに好ましい。フッ素系ポリマー(P)の濃度を5重量%以上とすることにより、得られる複合フィルムにおけるフッ素系ポリマーに基づく表面機能を十分に発揮させることができる。また、フッ素系ポリマー(P)の濃度を80重量%以下とすることにより、第2未硬化層中の重合性モノマー(M)との重合反応に寄与する重合性モノマー(M)の量を十分に確保し、第1未硬化層の硬化層と第2未硬化層の硬化層との密着性を確保することができる。
【0063】
また、前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度は、20重量%以上100重量%未満であることが好ましく、25重量%以上95重量%以下であることがより好ましく、30重量%以上90重量%以下であることがさらに好ましい。前記総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度を20重量%以上とすることにより、当該組成物(C)に適度な粘度を付与して作業性を向上させることができる。また、前記総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度を100重量%未満とすることにより、第1未硬化層中の重合性モノマー(M)との重合反応に寄与する重合性モノマー(M)の量を確保し、第1硬化層と第2硬化層との密着性を確保することができる。
【0064】
またエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)におけるフッ素系ポリマー(P)とモノマー(M)の総量(PM)中のフッ素系ポリマー(P)濃度とエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)におけるポリマー(P)とモノマー(M)の総量(PM)中のポリマー(P)濃度に差を設けることで表面が機能化された複合フィルムを簡便に作製することができる。濃度差の設け方としては、前記総量(PM)に対する前記ポリマー(P)の濃度は前記総量(PM)に対する前記フッ素系ポリマー(P)の濃度より高いことが好ましく、このポリマー濃度の差([PM中のP濃度]−[PM中のP濃度])としては、15重量%以上95重量%未満であり、20重量%以上90重量%以下であることが好ましく、25重量%以上80重量%以下であることがさらに好ましい。ポリマー濃度の差が15重量%以上95重量%未満のときに、複合フィルムの表面にフッ素系ポリマーを密に偏在させることができ、高度に表面機能化された複合フィルムも作製できる。
【0065】
[複合フィルムの製造方法]
本発明の複合フィルムの製造方法は、フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程を有する。
【0066】
本発明の複合フィルムは、例えば前記フッ素系ポリマー(P)と重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)とポリマー(P)と(メタ)アクリルモノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を各々塗工し、第1未硬化層と第2未硬化層とが隣接するように積層された積層体にエネルギー線を照射して積層体を一括硬化する工程により作製できる。
【0067】
また、本発明の複合フィルムは、前記フッ素系ポリマー(P)と重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)とポリマー(P)と(メタ)アクリルモノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を各々塗工し、第1未硬化層と第2未硬化層とが隣接するように積層され、第1未硬化層においてフッ素系ポリマー(P)が第2未硬化層とは反対側の界面に偏って分布する形態で含まれる積層体にエネルギー線を照射して複合フィルムを一括硬化する工程により作製することもできる。このようなフッ素系ポリマー(P)の第1未硬化層における偏在は、例えばエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及び(C)に含まれる各成分同士、又はその後含まれることになる各成分同士の相溶性を調整すること等により達成することができる。具体的には、フッ素系ポリマー(P)以外の成分(各重合性モノマーから得られるオリゴマーないしポリマーも含む。以下、同様。)同士が相溶性を有し、かつフッ素系ポリマー(P)とフッ素系ポリマー(P)以外の成分とが相溶性を有さないように各成分を選択することにより、フッ素系ポリマー(P)を偏在させることができる。
【0068】
[積層体形成工程]
前記積層体の作製方法は特に限定されないが、例えば、(I)多層ダイスにより、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及びエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を一括で支持基材上に塗布して、第1未硬化層及び第2未硬化層を一括で形成する方法;(II)エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)又はエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を支持基材上に塗布して、第1未硬化層又は第2未硬化層を形成した後、さらにその層に、当該層とは別の層に係るエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)又はエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を塗布して、第2未硬化層又は第1未硬化層を形成する方法;(III)エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及びエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を、それぞれ別の支持基材上に塗布して、第1未硬化層及び第2未硬化層を形成した後、それらの層を貼り合わせて積層する方法、等が挙げられる。
【0069】
上記方法(I)はいわゆる共押出法であり、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及びエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)を並行して押出しながら第1未硬化層と第2未硬化層とを互いに隣接させて一括で形成することができる。共押出法は、押出成形機及び共押出し用ダイを用いて、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及びエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)をそれぞれ供給しつつインフレーション法、Tダイ法等に準じて行うことができる。
【0070】
上記方法(II)及び(III)において、エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)及びエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)の塗布に際しては、例えば、慣用のコーター(例えば、コンマロールコーター、ダイロールコーター、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなど)を用いることができる。
【0071】
なお、上記方法(I)〜(III)等により、第1未硬化層及び第2未硬化層を積層した後、直ちに積層体の硬化工程を行ってもよいが、必要に応じて積層体形成工程と硬化工程との間に、積層した各層をそのままの状態で放置する放置工程を設けてもよい。その際の放置時間としては特に限定されないものの、10〜500秒が好ましく、60〜300秒がより好ましい。
【0072】
第1未硬化層及び第2未硬化層の各層の厚さは特に限定されないが、例えば、20〜2000μm(好ましくは30〜1500μm、さらに好ましくは50〜900μm)の範囲から選択することができる。
【0073】
上記積層体の厚さは特に限定されないが、例えば、40〜3000μm(好ましくは60〜2000μm、さらに好ましくは100〜1000μm)の範囲から選択することができる。
【0074】
また、第1未硬化層と第2未硬化層との厚さの比は、特に限定されないが、例えば、第1未硬化層の厚さ/第2未硬化層の厚さの比として1/3以上1000/1以下であることが好ましく、1/1以上50/1以下であることが更に好ましい。
【0075】
(支持基材)
前記積層体の作製に用いられる支持基材は、剥離性を有していてもよいし、あるいは剥離性を有していなくてもよい。なお、得られる複合フィルムにおいて、第1未硬化層から得られる第1硬化層の表面及び第2未硬化層から得られる第2硬化層の表面は支持基材で保護されていてもよい。
【0076】
支持基材としては、硬化工程において、活性エネルギー線の透過を阻害しないものを使用することが好ましい。また、支持基材の表面は、慣用の表面処理、例えば、コロナ処理、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的方法による酸化処理等が施されていてもよく、下塗り剤や剥離剤等によるコーティング処理等が施されていてもよい。
【0077】
支持基材の厚さは、強度や柔軟性、使用目的などに応じて適宜に選択でき、例えば、一般的に、1〜1000μmであり、好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは3〜300μm程度であるが、これらに限定されない。なお、基材は単層、積層の何れの形態を有していてもよい。
【0078】
複合フィルムを使用する際、支持基材は、剥がされてもよいし、あるいは剥がされることなくそのままの状態を維持し、複合フィルムの一部を構成していてもよい。なお、本発明において、光重合法を用いる場合、空気中の酸素により反応が阻害されるため、硬化工程では、支持基材としてカバーフィルムを用いて空気中の酸素と遮断することが好ましい。
【0079】
このようなカバーフィルムとしては、酸素を透過し難い薄葉体であれば特に制限されないが、光重合反応を用いる場合は透明なものが好ましく、例えば慣用の剥離紙などを使用することができる。具体的には、カバーフィルムとしては、例えば離型処理剤(剥離処理剤)による離型処理層(剥離処理層)を少なくとも一方の表面に有する基材の他、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等)からなる低接着性基材や、無極性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂など)からなる低接着性基材などを用いることができる。なお、低接着性基材では、両面が離型面と利用することができ、一方、離型処理層を有する基材では、離型処理層表面を離型面(離型処理面)として利用することができる。
【0080】
カバーフィルムとしては、例えば、カバーフィルム用基材の少なくとも一方の面に離型処理層が形成されているカバーフィルム(離型処理層を有する基材)を用いてもよいし、カバーフィルム用基材をそのまま用いてもよい。
【0081】
このようなカバーフィルム用基材としては、ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム等)、オレフィン系樹脂フィルム(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム(ナイロンフィルム)、レーヨンフィルム等のプラスチック系基材フィルム(合成樹脂フィルム)や、紙類(上質紙、和紙、クラフト紙、グラシン紙、合成紙、トップコート紙など)の他、これらを、ラミネートや共押し出しなどにより、複層化したもの(2〜3層の複合体)等が挙げられる。カバーフィルム用基材としては、透明性の高いプラスチック系基材フィルム(特に、ポリエチレンテレフタレートフィルム)が用いられたカバーフィルム用基材を好適に用いることができる。
【0082】
離型処理剤としては、特に制限されず、例えば、シリコーン系離型処理剤、フッ素系離型処理剤、長鎖アルキル系離型処理剤などを用いることができる。離型処理剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。なお、離型処理剤により離型処理が施されたカバーフィルムは、例えば、公知の形成方法により、形成される。
【0083】
[積層体硬化工程]
本発明で積層体の硬化に用いるエネルギー線としては、活性エネルギー光線が挙げられる。活性エネルギー光線としては、例えば、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線や、紫外線等が挙げられ、特に、紫外線が好適である。なお、活性エネルギー光線の照射エネルギー、照射時間、照射方法等は、エネルギー線硬化性樹脂組成物の積層体を硬化させて複合フィルムを形成することができる限り、特に制限されることはない。
【0084】
本発明において紫外線や電子線を照射する装置としては特に制限はないが、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、殺菌ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、EB照射装置等があげられる。
【0085】
[複合フィルム]
上記のようにして得られた本発明の複合フィルムは、第1未硬化層から得られる第1硬化層(例えば、粘着テープ形成の際の表面層)及び第2未硬化層から得られる第2硬化層(例えば、粘着テープ形成の際の基材層)の2層からなる。
【0086】
本発明に係る複合フィルムの厚さは特に限定されず、目的等に応じて、例えば被覆保護する対象物の種類や箇所等に応じて適宜選択することができる。複合フィルムの厚さの下限値は40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることが更に好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。また、厚さの上限値は3000μm程度であることが好ましい。また、複合フィルムを前記粘着テープ又はシート(後述)の基材として用いる場合の複合フィルムの厚さは、例えば、自動車のボディーを保護するために用いられるチッピング用途の場合には、50〜800μm程度であることが好ましく、更に好ましくは100〜600μm程度であることが好ましい。また、航空機用途の場合には、50〜1,000μm程度、更に好ましくは200〜800μm程度である。また、自動二輪用途の場合には、好ましくは50〜800μm程度、更に好ましくは100〜600μm程度である。
【0087】
[粘着テープ又はシート]
当該複合フィルムに公知の粘着剤(感圧性接着剤)(例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤など)による粘着剤層(感圧性接着剤層)を設けることで、複合フィルムを粘着テープ又は粘着シートとして用いることができる。なお、粘着剤層は通常、複合フィルムの第2硬化層上に設けられる。
【0088】
当該粘着テープ又は粘着シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、複合フィルムと前記粘着剤層との間に他の層(例えば、中間層、下塗り層など)を有していてもよい。
【0089】
粘着テープ又はシートは、上述のように自動車、航空機、自動二輪車、鉄道等の高速移動手段や、鋼橋や鉄塔、高層建築物等の構造物の外層塗膜の保護用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
次に本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。なお本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0091】
<エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)の調製>
(製造例1)
イソボルニルアクリレート(IBXA)64重量部とブチルアクリレート(BA)16重量部に、フッ素系ポリマーとしてフルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体(商品名「ルミフロン LF710F」、旭硝子(株)製)を20重量部、イソシアネート基含有アクリル系モノマーとして2−アクロイルオキシエチルイソシアネート(商品名「カレンズAOI」、昭和電工(株)製)を1.25重量部、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名「イルガキュア651」、チバスペシャリティーケミカル(株)製)を0.08重量部、溶解させて、シロップAを得た。
【0092】
(製造例2)
ジメチルアクリルアミド(DMAA)80重量部に、フッ素系ポリマーとしてフルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体(商品名「ルミフロン LF710F」、旭硝子株式会社製)を20重量部、イソシアネート基含有アクリル系モノマーとして2−アクロイルオキシエチルイソシアネート(商品名「カレンズAOI」、昭和電工株式会社製)を1.25重量部、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名「イルガキュア651」、チバスペシャリティーケミカル(株)製)を0.08重量部、溶解させて、シロップBを得た。
【0093】
(製造例3)
フルオロエチレンビニルエーテル交互共重合体(商品名「LF600」、旭硝子(株)製)のキシレン及びトルエンによる50%濃度溶解液100部に、硬化剤としてイソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン(株)製)を10.15部と、触媒としてジブチル錫ラウリン酸(商品名「OL1」、東京ファインケミカル(株)製)のキシレン希釈液(固形分濃度が0.01%)を3.5部と、希釈溶媒として、101部のトルエンとを添加してシロップC(固形分率28%)を作製した。
【0094】
<エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)の調製>
(製造例4)
冷却管、温度計、及び攪拌装置を備えた反応容器に、(メタ)アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレート(IBXA)を71重量部、BAを19重量部、アクリル酸(AA)を10重量部、ポリオールとして、数平均分子量650のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG650、三菱化学(株)製)を70重量部、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(DBTL)0.01重量部を投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI、三井化学ポリウレタン(株)製)を26.1重量部滴下し、65℃で5時間反応させ、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。その後、さらに4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA、日本化成(株)製)3.9重量部を投入し、65℃で1時間反応することでアクリロイル基末端ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。その後、架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、大阪有機化学工業(株)製)を3重量部添加し、光重合開始剤としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル−フォスフィンオキシド(商品名「イルガキュア819」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を0.3重量部、紫外線吸収剤として2,5−ヒドロキシフェニルとオキシラン1−メトキシ−2−プロパノール(商品名「TINUVIN 400」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を1.25重量部、及び光安定剤としてデカン二酸ビスエステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンのヒンダードアミン光安定剤(商品名「TINUVIN 123」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を1.25重量部添加して、シロップDを得た。なお、ポリイソシアネート成分及びポリオール成分の使用量は、NCO/OH(当量比)=1.25、ポリマー濃度は50wt%であった。
【0095】
(製造例5)
冷却管、温度計、及び攪拌装置を備えた反応容器に、(メタ)アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレート(IBXA)を71重量部、BAを19重量部、アクリル酸(AA)を10重量部、ポリオールとして、数平均分子量650のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(商品名「PTMG650」、三菱化学(株)製)を62.8重量部、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(DBTL)0.01重量部を投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(商品名「HXDI」、三井化学ポリウレタン(株)製)を33.5重量部滴下し、65℃で1.5時間反応させた。さらに、この反応液に1,4−ブタンジオールを3.7重量部滴下し、65℃で3.5時間反応させ、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。その後、さらに4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA、日本化成(株)製)6.2重量部を投入し、65℃で1時間反応することでアクリロイル基末端ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。その後、光重合開始剤としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル−フォスフィンオキシド(商品名「イルガキュア819」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を0.3重量部、紫外線吸収剤として2,5−ヒドロキシフェニルとオキシラン1−メトキシ−2−プロパノール(商品名「TINUVIN 400」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を1.25重量部、及び光安定剤としてデカン二酸ビスエステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンのヒンダードアミン光安定剤(商品名「TINUVIN 123」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を1.25重量部添加して、シロップEを得た。なお、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の使用量は、NCO/OH(当量比)=1.30、ポリマー濃度は50wt%であった。
【0096】
<複合フィルムの製造>
(実施例1)
シロップAを、厚さ38μmの剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)上に、硬化後の厚さが20μmになるように塗布した。別にシロップDを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが280μmになるように塗布した。これら両層を気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させて、剥離処理したPETに挟まれた複合フィルムを形成した。
【0097】
(実施例2)
シロップAを、厚さ38μmの剥離処理したPETに、硬化後の厚さが20μmになるように塗布した。別にシロップEを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが280μmになるように塗布した。これら両層を気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させて、剥離処理したPETに挟まれた複合フィルムを形成した。
【0098】
(実施例3)
シロップBを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが20μmになるように塗布した。別にシロップDを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが280μmになるように塗布した。これら両層を気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させて、剥離処理したPETに挟まれた複合フィルムを形成した。
【0099】
(比較例1)
シロップCを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが10μmになるように塗布し、温度140℃で3分間乾燥及び硬化させることでフッ素系ポリマー皮膜を形成した。この皮膜上に、シロップDを硬化後の厚さが290μmになるように塗布し、厚さ38μmの剥離処理したPETを気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させて、剥離処理したPETに挟まれた複合フィルムを形成した。
【0100】
(比較例2)
シロップAを、厚さ38μmの剥離処理したPET上に、硬化後の厚さが20μmになるように塗布し、厚さ38μmの剥離処理したPETを気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させ、剥離処理したPETに挟まれたフッ素系ポリマー含有アクリルフィルム(表面層フィルム)を形成した。別に、シロップDを硬化後の厚さが280μmになるように厚さ38μmの剥離処理したPET上に塗布し、厚さ38μmの剥離処理したPETを気泡が入らないように貼りあわせ、ブラックライト及びメタルハライドランプを用いて紫外線(照度9mW/cm、光量1200mJ/cm)を照射して硬化させ、剥離処理したPETに挟まれたウレタンーアクリルポリマーフィルム(UAフィルム)を形成した。剥離処理したPETに挟まれた表面層フィルムとUAフィルムそれぞれの一方の剥離処理したPETを剥がして、二つのフィルムを貼りあわせて複合フィルムを形成した。
【0101】
(耐摩耗性の評価方法)
複合フィルムのフッ素系ポリマーを含む第1硬化層とは反対側の第2硬化層の表面に、厚さ38μmの剥離処理したPETフィルム上に形成したアクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸との共重合体からなる粘着剤層(厚さ50μm)を貼り合わせて、粘着テープ(又はシート)を形成した。得られた粘着テープから試験片を直径105mmの円形に切り出し所定の台紙に貼り付け、テーバー摩耗試験機((株)東洋精機製作所製)にて摩耗試験を行い、試験後の外観を確認した(摩耗輪:CS#10、荷重:1kg、100回実施)。試験後に下地(すなわち、フッ素系ポリマーを含まない第2硬化層)が露出しないものを「○」、下地が露出するものを「×」として評価した。
【0102】
(密着性の評価方法)
複合フィルムのフッ素系ポリマーを含む第1硬化層とは反対側の第2硬化層の表面に、厚さ38μmの剥離処理したPETフィルム上に形成したアクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸との共重合体からなる粘着剤層(厚さ50μm)を貼り合わせて、粘着テープ(又はシート)を形成した。この粘着テープを塗板に貼着し、テープをカッタ−で縦横11本ずつの2mm間隔の平行線で切断した。その上にセロハンテープを貼り、30度に近い角度で瞬間的に剥離し、フッ素系ポリマーを含む層が剥離せずに残った領域が全体の100%であるものを「○」、90%以上100%未満のものを「△」、90%未満のものを「×」として評価した。
各評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
表1から分かるように、実施例1〜3の複合フィルムでは、耐摩耗性、密着性に問題はなかった。一方、従来法を利用したサンプル(比較例1)や予め硬化しておいた表面層と基材層を貼りあわせたサンプル(比較例2)では、密着性試験において表面層が基材層から剥離した。このことから、表面層と基材層を同時硬化することにより密着性が向上することが明らかとなった。
【0105】
<追加評価結果>
(走査型電子顕微鏡による断面観察)
実施例1及び比較例1の複合フィルムをそれぞれ5mm×10mm角程度に切り出し、片刃トリミングカミソリをフィルムTD方向と平行にして厚さ方向に切断して断面観察用サンプルを作製した。このサンプルの断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S−3400N、倍率:270倍)で観察した。図1は、実施例1の複合フィルムの断面の走査型電子顕微鏡による観察像であり、図2は、比較例1の複合フィルムの断面の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【0106】
(顕微FT−IRによるフィルム断面フッ素成分分布評価)
実施例1の複合フィルムを切り出して厚さ1μmの試験片を作製し、光学顕微鏡(Nikon製、OPTIPHOTO2−X2UWTT−NR、倍率:160倍)により観察した。図3は、実施例1の複合フィルムの断面の光学顕微鏡による観察像である。また、試験片をBaFセル上にサンプリングしたものについて顕微FT−IR測定(Varian製、FTS 3000 + UMA600)を行った。図4は、実施例1の複合フィルムの断面の顕微FT−IR測定による観察像である。
【0107】
フィルム断面フッ素成分分布は、1114cm−1(フッ素ポリマー由来)/2858cm−1(ウレタン)由来の相対吸度比(高さ)により表した。図3及び4より、フッ素ポリマーは、表面近傍のみに偏って存在していることが分かる。
【0108】
(X線光電子分光分析装置によるフィルム表面フッ素濃度の測定方法)
実施例1並びに比較例1及び2の複合フィルムをそれぞれ5mm角程度に切り出し、セパレータ剥離後にMo板で試料台に固定した。この試料の任意2点をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、Quantum 2000)でワイドスキャン測定し、検出された元素に対してナロースキャン測定を行い、元素比率(atomic%)を算出した。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】

【0110】
表2から明らかなように、実施例1と比較例2の複合フィルムでは、表面層形成用のシロップとして同じシロップAを用いているが、実施例1の複合フィルムではフッ素系ポリマーが表面に偏って存在しているため(ポリマー濃度が高くなっているため)、フッ素原子の割合が比較例2の複合フィルムより高い。なお、比較例1の表面ではフッ素原子の割合が最も高くなっているが、これはフッ素系ポリマーのみを硬化させた表面層を形成しているためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程
を経て得られる複合フィルム。
【請求項2】
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記フッ素系ポリマー(P)及び前記重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するフッ素系ポリマー(P)の濃度が5重量%以上80重量%以下であり、
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度が20重量%以上100重量%未満であり、かつ
前記総量(PM)に対する前記ポリマー(P)の濃度は前記総量(PM)に対する前記フッ素系ポリマー(P)の濃度より高く、前記ポリマー(P)の濃度と前記フッ素系ポリマー(P)の濃度との差が15重量%以上95重量%未満である請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項3】
前記積層体形成工程において、前記フッ素系ポリマー(P)が前記第1未硬化層における前記第2未硬化層とは反対側の界面に偏在している請求項1又は2に記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記ポリマー(P)がウレタンポリマー及びアクリロイル基末端ウレタンポリマーの少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項5】
粘着テープ又はシートの基材として用いられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の複合フィルムと、該複合フィルム上に形成された粘着剤層とを備える塗膜保護用粘着テープ又はシート。
【請求項7】
自動車の外装塗膜面又は航空機の外装塗膜面の保護材として用いられる請求項6に記載の塗膜保護用粘着テープ又はシート。
【請求項8】
フッ素系ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第1未硬化層と、前記フッ素系ポリマー(P)以外のポリマー(P)及び重合性モノマー(M)を含むエネルギー線硬化性樹脂組成物(C)により形成された第2未硬化層とを前記第1未硬化層と前記第2未硬化層とを隣接するように積層して積層体を形成する工程、並びに
前記積層体にエネルギー線を照射して前記積層体を硬化する工程
を有する複合フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記フッ素系ポリマー(P)及び前記重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するフッ素系ポリマー(P)の濃度が5重量%以上80重量%以下であり、
前記エネルギー線硬化性樹脂組成物(C)において、前記ポリマー(P)及び重合性モノマー(M)の総量(PM)に対するポリマー(P)の濃度が20重量%以上100重量%未満であり、かつ
前記総量(PM)に対する前記ポリマー(P)の濃度は前記総量(PM)に対する前記フッ素系ポリマー(P)の濃度より高く、前記ポリマー(P)の濃度と前記フッ素系ポリマー(P)の濃度との差が15重量%以上95重量%未満である請求項8に記載の複合フィルムの製造方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18236(P2013−18236A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154939(P2011−154939)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】