説明

複合ワクチン

【課題】個体への投与により免疫応答を調節するのに有用な抗原複合体である複合ワクチンと、その利用方法の提供。
【解決手段】15又はそれ以上の異なる抗原を含む抗原足場複合体であって、それぞれの抗原は少なくとも1つのMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープを含む抗原足場複合体。抗原ペプチドは、タンパク分解性基質を含むリンカーで、アガロース等の足場分子と結合する。また、該複合体組成物を投与する、T細胞性免疫の刺激方法と、癌の治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、免疫応答を調節することにおいて有用な抗原複合体に関する。より詳しくは、本発明は、15又はそれ以上、場合によっては15〜100又はそれ以上の異なる抗原を含有する抗原複合体及び/又は当該抗原複合体を含有する組成物であって、15又はそれ以上、場合によっては15〜100又はそれ以上の異なる抗原を含有する組成物に関する。本発明は、前記複合体の個体への投与により免疫応答を調節する方法、及び前記抗原複合体を使用して免疫優性エピトープ(immunodominant epitopes)を同定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は多くの免疫応答に介在し、これには一般的に、細胞内病原体、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞のクリアランスの原因となるもの、並びに移植片拒絶及び自己免疫の原因となるものが含まれる。T細胞免疫系は、変質した自己細胞を認識すること、及び身体からこれらの自己細胞を排除することに適している。自己免疫疾患では、自己寛容が失われ、免疫系が「自己(self)」組織を、それがあたかも外来組織(foreign target)であるかのように攻撃する。
【0003】
ペプチド抗原のT細胞認識は、T細胞レセプター(TCR)によって生じ、この認識においては、そのような抗原が、例えば抗原提示細胞(antigen presenting cell)(APC)の表面上に、位置している主要組織適合複合体(major histocompatibility complex)(MHC)分子によってTCRに提示されることが必要となる。ヒトのMHC分子はヒト組織適合性白血球抗原(human histocompatibility leukocyte antigen)(HLA)と称され、マウスのMHC分子はH2分子と称される。ペプチド抗原は、T細胞レセプターがMHC分子と特異ペプチド(specific peptide)との組み合わせにより形成された特有の構造を認識するように、MHC分子によって保持される。MHC分子の多型や、MHC分子と結合することができる特有のペプチドの広範なスペクトルは、与えられたMHC−ペプチドの組み合わせをT細胞クローンのわずかに数パーセントだけが認識するような、非常に多岐にわたる認識パターンを生ずる。
【0004】
抗原提示に関与する二つの一次型(primary type)MHC分子:クラスI及びクラスIIがある。MHCクラスI分子は、3つのドメイン(α1、α2、及びα3)と共に、膜貫通及び細胞質ドメインから構成される一つのアルファ鎖を含む。α1及びα2ドメインは多型性を有する。非多型タンパク質、すなわちβ2−ミクログロブリンはアルファ鎖と自己会合し、安定な構造に必要である。MHCクラスI分子は広く分布し、全ての有核細胞に存在する。MHCクラスII分子はアルファ鎖及びベータ鎖から構成されるが、これらの鎖は自己会合してヘテロ二量体を形成する。各鎖は二つの細胞外ドメイン(α1、α2及びβ1、β2)、並びに膜貫通及び細胞内ドメインを有する。α1及びβ1ドメインは多型的である。MHCクラスII分子は、クラスI分子よりも限定的に分布し、例えばAPCに存在する。
【0005】
特定の抗原に対して特異的に活性化されている細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte)(「CTL」)には、抗原を含有又は発現する細胞を死滅させる能力がある。CTLのTCRは、MHCクラスI分子と関連して抗原を認識する。Tヘルパーリンパ球(T helper lymphocytes)(「Th細胞(Th cells)」)にとっての重要な役割は、CTL応答の最適な誘導であるが、Th細胞は、CTL記憶の維持においても役割を果たす可能性がある。Th細胞のTCRは、MHCクラスII分子と関連して抗原を認識する。
【0006】
T細胞機能を調節するための現在の方法では、特異性の欠如等、多くの制限を受ける。例えば、T細胞機能を増強する療法(ある一定の感染及び悪性(malignancies)の場合等)は、多くの場合、適当な免疫応答を誘導するには不十分である。ペプチド単独による免疫は、多くの場合、臨床的に十分なT細胞応答を誘導することに成功していなかった。
【0007】
二又はそれ以上の抗原性ペプチドを併用する多価ワクチン(multivalent vaccin)が従来技術として記載されている。例えば、樹状核(dendritic core)に付着したT細胞エピトープ及びB細胞エピトープを含む多価抗原ペプチドシステムが米国特許第5,229,490号及び第5,580,563号並びにPCT公報第WO 90/11778号に記載されている(特許文献1、2及び3)。CTLエピトープとThエピトープとの組み合わせ(併用)によって、感染防御CTL媒介性免疫(protective CTL-mediated immunity)の誘導がなされる。例えば、Ossendorpら(1998) J.Exp.Med.187:693−702を参照すべきである。しかしながら、公知の多価ワクチンは、一般的にはわずかの異なる抗原を含むだけであり、したがって、このようなワクチンは、治療を必要とする個体に対して効果的な治療をするため、いくつかの特定の抗原に対して生じた免疫応答に依存する。
【0008】
同様に、T細胞機能を抑制する療法(自己免疫の場合又は移植片拒絶を防止するため等)では、多くの場合全身免疫抑制(generalized immunosuppression)が起こるが、患者がその生命を危うくする感染を起こす危険にさらされうる。抗T細胞免疫抑制療法の最終目的は、T細胞の大部分に十分な機能を残すと同時に、特定のT細胞のアロ反応性又は自己反応性クローンを阻害することである。特定の免疫抑制療法では、特定のMHC/ペプチド組成物を認識するT細胞クローンを標的化することが必要となる。数名の研究者によって、可溶性のクラスI MHC分子を使用してインビトロ又はインビボで同種T細胞(allogeneic T cell)応答を阻害する試みがなされている。一般に、可溶性のクラスI MHC分子によって、アロ反応性T細胞応答は効果的に阻害されない。可溶性のクラスI MHC分子を用いてT細胞機能の阻害を観察できないことは、T細胞アネルギーを誘導するためには二価性(divalency)が必要であることに関係があるかもしれない。
【0009】
MHC分子の二価性は、活性化及び抑制の両方のシグナルを含むT細胞のシグナル送達にとって重要であると思われる。さらに、T細胞の初回抗原刺激では、TCRを介した刺激、及び抗原提示細胞によって一般に送達される追加の二次シグナルが必要となる。二次シグナルがない場合には、T細胞の反応性低下が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,229,490号
【特許文献2】米国特許第5,580,563号
【特許文献3】PCT公報第WO 90/11778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
T細胞媒介免疫の調節(例えば、増強又は抑制)のための、より効果的な免疫療法が依然として要求されている。感染又は腫瘍等の疾患プロセスの定着を防止するか、或いは個体において既に定着している感染又は腫瘍の症状を除去する又は回復させるであろう、十分に強力な、抗原特異性の、細胞媒介性免疫応答を誘導するために、療法が必要とされる。療法は、自己免疫応答又は疾患を防止或いは抑制するため、さらに個体における移植片拒絶を防止或いは抑制するためにも必要とされる。
【0012】
本願において引用した全ての公報及び特許出願は参照により本願にそっくりそのまま組み込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、15又はそれ以上の異なる抗原を含有し、前記抗原のそれぞれが少なくとも一つのMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープを含有する抗原足場複合体(antigen-scaffold complex)に関する。したがって、一つの形態において、前記抗原足場複合体は100を超える異なる抗原で複合体を形成する。
【0014】
いくつかの形態において、前記抗原足場複合体は、足場分子(scaffold molecular)、例えば、アガロース、デキストラン又はポリリジンの足場分子等と結合した抗原を含有する。他の形態において、前記抗原足場複合体は、リポソームに包まれた(リポソームでカプセル化した)又はマイクロキャリア(microcarrier)粒子の表面と結合した抗原を含有する。
【0015】
いくつかの形態において、前記抗原足場複合体の抗原は、ペプチドである。他の形態において、前記複合体の抗原ペプチドには、例えば、カルボキシ末端の追加的な疎水性アミノ酸残基又は追加的な塩基性アミノ酸残基、追加的な1〜3リジン残基、追加的なアラニン−プロリン配列及び/又はタンパク分解性の基質を含むリンカー配列等、細胞内プロセッシング(intracellular processing)を生じさせる特定のアミノ酸残基が含まれる。
【0016】
いくつかの形態において、前記抗原足場複合体は、例えば、ランゲリン(langerin)、DEC−205、DC−SIGN、TLR−3及びTLR−9からなる群から選択される分子と結合する標的化リガンドのような標的化リガンドをさらに含有する。いくつかの形態において、前記抗原足場複合体は、D型免疫賦活性オリゴヌクレオチド(D-type immunostimulatory oligonucleotide)をさらに含有する。
【0017】
別の視点において、本発明は、多数の抗原足場複合体を含有し、当該複合体と結合した15又はそれ以上の異なる抗原を含有し、それぞれの抗原が少なくとも一つのMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープを含有する組成物に関する。したがって、一つの形態において、前記抗原足場複合体を含有する組成物は、100を超える異なる抗原を含有する。
【0018】
いくつかの形態において、本発明は、前記抗原足場複合体を含有し、さらに医薬的に許容し得る賦形剤及び/又はアジュバント(adjuvant)若しくは免疫賦活剤(immunostimulatory agent)を含有する組成物に関する。
【0019】
別の視点において、本発明は、前記抗原足場複合体の投与により及び/又は本発明の抗原足場複合体で刺激された細胞の投与により免疫応答を調節する方法に関する。
【0020】
したがって、いくつかの形態において、本発明には、抗原が感染性病原体の抗原である抗原足場複合体を投与することにより、個体の感染症を治療する方法及び感染性病原体の免疫になるように個体に予防(ワクチン)接種をする方法が含まれる。なお、前記複合体は感染性病原体に対するT細胞応答を刺激するのに効果的な量で投与される。
【0021】
他の形態において、本発明には、抗原が癌細胞において発現される抗原足場複合体を投与することにより、個体の癌を治療する方法及び癌の免疫になるように個体に予防(ワクチン)接種をする方法が含まれる。なお、前記複合体は癌細胞に対するT細胞応答を刺激するのに効果的な量で投与される。
【0022】
他の形態において、本発明には、細胞の集団を単離及び培養してその集団内の樹状細胞(dendritic cell)増殖及び成熟を刺激すること、癌において発現される抗原を含有する抗原足場複合体と前記樹状細胞とを接触させること、CD25+/CD4+細胞を前記細胞の集団から除去すること、並びにCD25+/CD4+細胞を含まない前記細胞の集団を癌細胞に対するT細胞応答を刺激するのに効果的な量で個体に投与することを含む個体の癌を治療する方法が含まれる。
【0023】
他の形態において、本発明には、細胞の集団を単離及び培養してその集団内の樹状細胞(dendritic cell)増殖及び成熟を刺激すること、自己抗原を含有する抗原足場複合体と前記樹状細胞とを接触させること、CD25+/CD4+細胞を前記細胞の集団から回収すること、並びにCD25+/CD4+細胞を自己免疫疾患の症状を抑制するのに効果的な量で個体に投与することを含む個体の自己免疫疾患を治療する方法が含まれる。
【0024】
別の視点において、本発明は、抗原の集団中の免疫優性エピトープ(immundominant epitopes)を同定する方法に関する。いくつかの形態において、これらの方法は、抗原足場複合体と前記樹状細胞とを接触させること、前記細胞の集団を回収すること、その細胞の集団の表面から抗原を溶出させること、並びに溶出した抗原を精製することを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明者らは、抗原ペプチド等の多くの異なる抗原の同時投与が、抗原及び/又は当該抗原を発現する細胞に対する目的とする免疫応答を調節するのに効果的な方法であることを見出した。したがって、本発明は、少なくとも15の異なるMHCクラスI及び/又はMHCクラスII抗原に拘束された抗原(restricted antigen)を含有する複合体を提供する。この複合体は抗原ペプチドを含み、複数抗原の同時投与を可能にし、結果として単一の抗原の投与又は複合体に含まれない同一の抗原の投与と比較して免疫応答を調節(例えば、増強又は抑制)することになる。本発明の複合体中の抗原は、Tヘルパー(CD4+)細胞、T細胞傷害性(CD8+)細胞及びT制御(CD4+/CD25+)細胞を区別して活性化する。この識別的な活性化は、さらに1以上のプロフェッショナル抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、ランゲルハンス細胞(Langerhans cell)、指状嵌入細胞(interdigitating cell)、及び形質細胞様細胞(plasmacytoid cell))の活性化及び成熟において生じる。
【0026】
目的とする免疫応答を誘導する能力の高い抗原複合体の使用によって、より少量の抗原の投与又は複合体を含まない抗原の投与にとって際立った利点及び優位性が得られる。前記複合体によって、多くの異なるMHCクラスI及び/又はクラスII拘束抗原を、樹状細胞等の抗原提示細胞へ同時送達することが可能となる。いくつかの形態において、標的化リガンドは、抗原複合体を細胞の特定のサブセットへ誘導するように、当該複合体と結合される。例えば、樹状細胞の特定のサブセットと特異的に相互に作用する標的化リガンドは、抗原複合体が標的化細胞に誘導されてこの標的化細胞によって吸収される可能性が上昇するように、直接又は間接的に、複合体と結合する。
【0027】
複合体における抗原の結合のため足場又は組織化を与える各種の材料と共に製剤化した複合体に、多数(15又はそれ以上)の抗原を、同時投与することができる。例えば、抗原足場複合体を、多価足場分子、リポソーム、ミクロスフィア、ISCOMS、又は高能力キャリア複合体(high capacity carrier complexes)を用いて作成することができる。したがって、本発明の複合体では、抗原、特に抗原ペプチドを、多くの抗原を個体に投与することができるような濃度にすることが可能である。
【0028】
一般に、抗原足場複合体の抗原には、細胞のMHC分子と関連して抗原の提示のため適当な細胞成分への抗原の送達及びプロセッシングを促進するタンパク質分解性の基質部位又はリンカーが含まれる。例えば、MHCクラスI拘束抗原は、一般にプロテオソーム中でプロセッシングされるので、MHCクラスIエピトープを含む抗原には、プロテオソームプロテアーゼのための基質である部位又はリンカーを含めてもよい。MHCクラスII拘束抗原は、一般にエンドソーム中でプロセッシングされるので、MHCクラスIIエピトープを含む抗原には、エンドソームプロテアーゼのための基質である部位又はリンカーを含めてもよい。
【0029】
本発明は、抗原足場複合体の投与により及び/又は本発明の抗原足場複合体で刺激された細胞の投与により免疫応答を調節する方法にも関する。いくつかの形態において、前記方法は、抗原足場複合体の添加前、添加中及び/又は添加後に、アジュバント又は免疫刺激剤と共に個体に投与すること(インビボ)或いは細胞を処理すること(インビトロ)も含む。いくつかの形態において、本発明の方法によって、Tヘルパー及びT細胞傷害性細胞の両方を含む目的とする免疫応答が誘導され、さらに提示樹状細胞及び抗原足場複合体に対する炎症反応が起こることが防止される。
【0030】
免疫応答を増強又は抑制する方法並びに組成物は、個体が調節を必要とする特定の免疫応答に依存するであろう。例えば、本発明の特定の方法は、抗癌応答及び抗病原菌応答を増強する際に使用される。本発明のその他の方法は、自己免疫応答及び/又は疾患の抑制或いは移植片拒絶の防止に関する。
【0031】
本発明の複合体及び方法を、免疫優性MHCエピトープの同定において使用することもできる。例えば、細胞を本発明の多抗原複合体(multi-antigen complexes)で処理した後、処理した細胞のMHCクラスI及びクラスII分子と結合した抗原ペプチドを回収することができ、さらにペプチドを分析して免疫優性MHCエピトープを同定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(本発明の組成物)
本発明の抗原足場複合体及び/又は抗原足場複合体を含む組成物は、多くの異なる抗原を細胞、組織及び/又は個体に送達するようデザインされる。したがって、前記複合体及び/又は複合体を含む組成物は、15を超える異なる抗原を含有する。いくつかの形態において、前記複合体及び/又は組成物は、30を超える異なる抗原、40を超える異なる抗原、50を超える異なる抗原又は100を超える異なる抗原を含有する。いくつかの形態において、前記複合体及び/又は組成物は、15から約100の異なる抗原、約20から約100の異なる抗原、約30から約90の異なる抗原、約40から約80の異なる抗原、又は約40から約60の異なる抗原を含有する。
【0033】
本発明の抗原足場複合体は、各種の形態をとりうる。いくつかの形態において、抗原は、共通の足場分子とのカップリングにより互いに結合する。「足場分子(scaffold molecule)」又は「多価足場分子(multivalent scaffold molecule)」は、抗原の付着を考慮した多くの部位を含む分子である。他の形態において、前記抗原足場複合体は、マイクロキャリア粒子等、表面上への吸着により互いに結合した抗原を含有する。他の形態において、前記抗原足場複合体は、リポソーム若しくはISCOM中、又はリポソーム若しくはISCOM上で互いに結合した抗原を含有する。
【0034】
前記抗原足場複合体が多価足場分子と結合した抗原からなる形態では、多価足場分子は、一般に抗原の結合のため15又はそれ以上の部位を有するので、15又はそれ以上の抗原を含む複合体を調製することができる。多価足場分子の例には、アガロース、デキストラン、ポリリジン、ポリアルギニン、フィコール、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、並びにそれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
多価足場分子を使用する原理は、従来技術としてよく理解されている。一般に、足場分子は、抗原に対する適当な結合部位を含むか、又は含むように誘導体化される。さらに、又は代わりに、抗原は、適当な結合基(linkage group)を与えるよう誘導体化されてもよく、又は誘導体化されている。好ましい結合基の例は、以下に記載する。
【0036】
足場分子を、生物学的に安定化させてもよい、すなわち足場分子は、多くの場合数時間から数日から数ヶ月の生体内排出半減期(in vivo excretion half-life)を示して治療効果を与え、好ましくは規定した化合物の合成単鎖から構成される。これらの足場分子は、約200〜約1,000,000、好ましくは下記範囲の何れかの範囲の分子量を有する:約200〜約500,000;約200〜約200,000;約200〜約50,000(又はより少ない、30,000等)。
【0037】
一般に、これらの足場分子は、標準的な化学合成技術により作成される。いくつかの足場分子は、誘導体化されて、多価に作成されなければならないが、標準的な技術を用いて行われる。抗原足場複合体の合成に適した物質は、市販されている。
【0038】
抗原の多価足場分子との結合は、かなり多数の方法で行うことができ、これには、共有結合及び/又は非共有結合的な相互作用を含めることができる。典型的には、結合には、1又はそれ以上の架橋剤(cross-linking agent)及び/又は抗原及び足場分子における官能基が含まれる。足場及び抗原は適当な(例えば、協同的な)結合基を有しなければならない。結合基は、標準的な合成化学技術を用いて足場に付加される。結合基を、標準的な固相合成技術又は組換え技術を用いてポリペプチド抗原に付加させてもよい。組換えのアプローチでは、結合基を付着させるため翻訳後修飾を必要とするかもしれない。そのような方法は、公知である。
【0039】
結合基の例として、ポリペプチドには、ポリペプチドを足場と結合させるための部位として役立つアミノ、カルボキシル又はスルフヒドリル基等の官能基を含むアミノ酸側鎖成分が含まれる。ポリペプチドにこれらの基がもはや含まれていない場合には、そのような官能基を有する残基が、ポリペプチドに付加されてもよい。そのような残基は、固相合成技術又は組換え技術によって組み込まれうるが、双方の技術は、ペプチド合成技術としてよく知られている。ポリペプチド抗原が糖側鎖(carbohydrate side chain)(又は複数の糖側鎖)を有する場合(或いはその抗原が糖である場合)には、官能アミノ、スルフヒドリル及び/又はアルデヒド基が従来の化学作用によってそれに組み込まれてもよい。例えば、一級アミノ基(primary amino groups)が、シアノボロ水素化ナトリウムの存在下酸化糖(oxidized sugar)のエチレンジアミンとの反応によって組み込まれてもよく、スルフヒドリルが、システアミン二塩酸塩の反応(cysteamine dihydrochloride)、これに続くジスルフィド還元剤を用いる還元によって導入されてもよく、一方、アルデヒド基が、過ヨウ素酸酸化によって発生されてもよい。同様に、足場分子がもはや適当な官能基を有しない場合には、足場分子を、官能基を含むように誘導体化してもよい。
【0040】
抗原の抗原足場複合体との共有結合を形成させるための典型的な方法には、カルボジアミドを用いるアミド形成、或いはマレイミド等の不飽和成分を用いるスルフィド結合形成が含まれる。他の結合(カップリング)剤には、例えば、グルタルアルデヒド、プロパンジアル又はブタンジアル、2−イミノチオラン塩酸塩、スベリン酸ジスクシンイミジル及び酒石酸ジスクシンイミジル等の二官能性N−ヒドロキシスクシンイミドエステルが含まれる。結合を、アシル化、スルホン化、及び還元的アミノ化によって行うこともできる。
目的とする抗原を足場複合体の1又はそれ以上の成分と共有結合させる非常に多数の方法が、技術としてよく知られている。さらに、抗原が足場複合体と直接吸着する能力がある場合には、これによって、その結合もまた、生じるであろう
【0041】
本発明において有用なペプチドを、本願においてさらに記載した、天然の配列からのアミノ酸、別のペプチドとの又は脂質との結合を容易にするために付加されるアミノ酸、他のN及びC末端修飾物(N- and C-terminal modifications)、キャリアとの結合物等によって、望み通りに、N及びC末端の一方又は両方で任意に隣接及び/又は修飾することができる。追加のアミノ酸をペプチドの末端に付加して、ペプチド等の物理的又は化学的特性の改変に対応することができる。チロシン、システイン、リジン、或いはグルタミン又はアスパラギン酸等のアミノ酸を、ペプチド若しくはオリゴペプチドのC又はN末端に導入することができる。さらに、ペプチド配列は、末端NHアシル化により、例えばアルカノイル(C−C20)又はチオグリコリルアセチル化、末端カルボキシアミノ化、例えば、アンモニア、メチルアミン等により、修飾されていることによって、天然の配列とは異なる可能性がある。場合によっては、これらの修飾によって、担体(support)又は他の分子と結合するための部位を与えてもよい。
【0042】
場合によっては、可変長の親水性リンカーが、足場分子と抗原とを結合させるのに有用である。適当なリンカーには、エチレングリコールの直鎖オリゴマー又はポリマーが含まれる。そのようなリンカーには、式
S(CHCHO)CHCHO(CHCO
(ただし、n=0−200、m=1又は2、R=H又はトリチル等の保護基、R=H又はアルキル又はアリール、例えば4−ニトロフェニルエステル)のリンカーが含まれる。これらのリンカーは、ハロアセチル(haloaceyl)、マレイミド(maleiamide)等のチオール反応性基を含む一つの分子のチオエーテルを、アミド結合によりアミノ基を含む第二の分子と連結させることにおいて有用である。これらのリンカーは、付着の順序に関して柔軟である、すなわちチオエーテルを、最初又は最後に形成させることができる。
【0043】
場合によっては、アビジン−ビオチン相互作用が、抗原を足場分子と結合させることにおいて有用である。ビオチン基を、例えば、足場分子の成分に付着させることができ、アビジン又はストレプトアビジンを、抗原中に組み込み、或いは抗原上に付着させることができる。これに代えて、ビオチン基を、抗原に付着させることができ、アビジン又はストレプトアビジンを、足場分子に付着させることができる。何れの場合においても、一方の成分をビオチンで標識し、他方の成分をアビジン又はストレプトアビジンで標識することによって、抗原が、足場分子と結合するビオチン−(ストレプト)アビジンリンカーと結合する、非共有結合複合体が形成される。ビオチン、アビジン及びストレプトアビジンを分子及び細胞に付着させる方法並びに技術は、従来技術としてよく知られている。例えば、O’Shannesseyら(1984)Immunol.Lett.8:273−277;O’Shannesseyら(1985)J.Appl.Biochem.7:347−355を参照すべきである。
【0044】
抗原が表面上への吸着によって抗原足場複合体と結合した形態では、当該表面は、無機又は有機核の何れかを用いて作成されるキャリア粒子(例えば、マイクロキャリア又はナノパーティクル)の形態にある。
【0045】
用語「マイクロキャリア(microcarrier)」とは、水に不溶であり、さらに約100μm未満、好ましくは約50−60μm未満、好ましくは約10μm未満、好ましくは約5μm未満の大きさを有する粒子組成物をいう。マイクロキャリアには、約1μm未満、好ましくは約500nm未満の大きさを有するマイクロキャリアである「ナノキャリア(nanocarriers)」が含まれる。マイクロキャリアには、アガロース若しくは架橋アガロース等の生体適合性の天然のポリマー、合成ポリマー又は合成コポリマーから形成した粒子等の固相粒子が含まれる。固相マイクロキャリアは、ポリスチレン、ポリプロピレン、シリカ、セラミック、ポリアクリルアミド、金、ラテックス、ハイドロキシアパタイト、デキストラン、並びに強磁性及び常磁性金属等、哺乳類の生理学的条件下で非腐食性及び/又は非分解性であるポリマー或いは他の材料から形成される。生分解性固相マイクロキャリアは、哺乳類の生理学的条件下で分解性(例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)及びそれらのコポリマー)或いは腐食性(例えば、ポリ(3,9−ジエチリデン-2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(3,9-diethylodene-2,4,8,10-tetraoxaspiro[5.5]undecane)(DETOSU)等のオルトエステル)又はセバシン酸のポリ(無水物)等のポリ(無水物))であるポリマーから形成されてもよい。マイクロキャリアは、リポソーム、抗原を含まないiscoms(コレステロール、リン脂質及びアジュバント活性サポニン(adjuvant-active saponin)の安定な複合体である免疫刺激複合体(immune-stimulating complexes))、或いは水中油型若しくは油中水型エマルジョンに認められる液滴又はミセル等の液相であってもよい。生分解性液相マイクロキャリアには、典型的には生分解性油、スクワレン及び植物油等の多数の公知の油が組み込まれる。マイクロキャリアは典型的に形状において球状であるが、球形状から逸脱したマイクロキャリアも使用できる(楕円、棒状等)。それらの不溶性の性質により、マイクロキャリアは、水及び水ベース(水系)の溶液から濾過できる。
【0046】
ナノパーティクルの例には、ナノ結晶パーティクル、アルキルシアノアクリレート(alkylcyanoacrylate)の重合によって製造したナノパーティクル及びメチリデンマロネート(methylidene malonate)の重合によって製造したナノパーティクルが含まれるが、これらに限定されない。抗原が吸着されうる追加の表面には、活性炭粒子及びタンパク質−セラミックナノプレート(protein-ceramic nanoplate)が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
吸着分子の細胞への送達を目的とするポリペプチドの表面への吸着は、従来技術としてよく知られている。例えば、Douglasら(1987)Crit.Rev.Ther.Drug.Carrier Syst.3:233−261;Hagiwaraら(1987)In Vivo 1:241−252;Bousquetら(1999)Pharm Res.16:141−147を参照すべきである。好ましくは、吸着性表面を含む材料は、生分解性である。抗原の表面への吸着は、イオン及び/又は疎水性相互作用等の非共有結合的な相互作用により生じさせてもよい。
【0048】
一般に、ナノパーティクルの表面電荷、粒子径及び分子量等の特性は、重合条件、モノマー濃度及び重合プロセス中の安定剤の存在に左右される(Douglasら、Supra、1987)。例えば、負電荷の抗原は、マイクロパーティクルのカチオン表面に直接吸着することができる。キャリア粒子の表面を、例えば、表面コーティング(被覆)で改変させて、抗原の吸着を可能とし又は増強してもよい。吸着した抗原を含むキャリア粒子を、さらに他の物質で被覆してもよい。そのような他の物質の付加によって、本願に記載したように、例えば、被検体に一旦投与した粒子の半減期が延長される可能性、及び/又は粒子が特異的細胞型又は組織への標的になる可能性がある。
【0049】
抗原が吸着されうるナノ結晶表面が記載されている。別の吸着性表面は、アルキルシアノアクリレートの重合によって製造されるナノパーティクルである。アルキルシアノアクリレートを、アニオン性重合によって酸性化した水性媒体中で重合することができる。重合条件に依存して、小さい粒子は、20から3000nmの範囲内の大きさを有する傾向があり、特異的表面特性及び特異的表面電荷をもつナノパーティクルを製造することができる(Douglasら、Supra、1987)。別の吸着性表面は、メチリデンマロネートの重合によって製造されるナノパーティクルである。例えば、Bousquetら、Supra、1999に記載されているように、ポリ(メチリデンマロネート 2.1.2)ナノパーティクルに吸着したポリペプチドは、先ず静電気力により、次いで疎水性の力による安定化によりそのようにすると思われる。
【0050】
いくつかの形態において、抗原足場複合体が標的にとって利用できるまで抗原の結合(会合)を維持することができるカプセル化剤(encapsulating agent)の使用により、抗原が複合体に結合(会合)される。場合によっては、抗原及びカプセル化剤を含む抗原足場複合体は、水中油型エマルジョン、マイクロパーティクル及び/又はリポソームの形態にある。場合によっては、抗原を内包する水中油型エマルジョン、マイクロパーティクル及び/又はリポソームは、大きさ約0.04μmから約100μm、好ましくは下記範囲の何れかの粒子の形態にある:約0.15μmから約10μm;約0.05μmから約1.00μm;約0.05μmから約0.5μm。
【0051】
ミクロスフィア、ビーズ、マクロ分子複合体、ナノカプセル並びに水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソーム等の脂質ベース系等のコロイド分散系によって、効果的な抗原足場複合体を与えることができる。
【0052】
カプセル化組成物(encapsulation composition)は、さらに任意の多種多様な成分を含有する。これらには、ミョウバン、脂質、リン脂質、脂質膜構造物(lipid membrane structures)(LMS)、ポリエチレングリコール(polyethyleneglycol)(PEG)並びにポリペプチド、糖ペプチド、及び多糖類等の他のポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
カプセル化成分に適しているポリペプチドには、任意の公知のものが含まれ、脂肪酸結合タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。改質ポリペプチド(modified polypeptides)には、糖鎖形成物、リン酸化物、ミリスチル化物、硫酸化物及び水酸化物等であるがこれらに限定されない任意の各種の修飾物が含まれる。本願において使用する適当なポリペプチドは、抗原足場複合体をその免疫調節活性を保存するように保護するであろうポリペプチドである。結合タンパク質の例として、アルブミンが挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
他の適当なポリマーは、任意の公知の医薬品でありうるが、これには、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、及び多糖類等の天然の高分子、並びに合成高分子が含まれるが、これらに限定されない。天然の高分子の例として、タンパク質、糖ペプチド、多糖類、デキストラン及び脂質が挙げられる。その他のポリマーは合成ポリマーでありうる。本発明において使用するのに適した合成ポリマーの例として、PEG等のポリアルキルグリコール(polyalkyl glycols)(PAG)、ポリオキシエチル化グリセロール(polyoxyethylated glycerol)(POG)、ポリトリメチレングリコール(polytrimethylene glycol)(PTG)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)(PPG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)(PVA)、ポリアクリル酸、ポリエチルオキサゾリン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)(PVP)、ポリアミノ酸、ポリウレタン及びポリホスファゼン等のポリオキシエチル化ポリオール(polyoxyethylated polyols)(POP)が挙げられるが、これらに限定されない。前記合成ポリマーは、直鎖状又は分岐鎖状、飽和又は不飽和、ホモポリマー、コポリマー、又は2若しくはそれ以上の異なる合成モノマーのブロックコポリマーとすることもできる。本発明のカプセル化組成物において使用するためのPEGは、化学メーカーから購入されるか、又は当業者において公知の技術を用いて合成される。
【0055】
本願において使用する、用語「LMS」は、極性脂質(polar lipid)の極性ヘッド基(polar head group)が膜構造を形成するように界面の水相に面して配される層状脂質粒子(lamellar lipid particle)を意味する。LMSの例として、リポソーム、ミセル、蝸牛殻状物(cochleates)(すなわち、一般に円柱状リポソーム(cylindrical liposomes))、ミクロエマルジョン、単層ベシクル(unilamellar vesicles)、及び多層ベシクル等が挙げられる。
【0056】
本願において使用する、「リポソーム(liposome)」又は「脂質ベシクル(lipid vesicle)」は、少なくとも一つ、おそらく一を超える脂質二分子膜(bilayer lipid membrane)によって結合した小ベシクル(small vesicle)である。リポソームは、脂質−界面活性剤複合体(lipid-detergent complexes)からの界面活性剤(detergent)の超音波処理、押し出し(extrusion)、又は除去等であるがこれらに限定されない任意の公知の技術によって、リン脂質、糖脂質、脂質、コレステロール等のステロイド、関連分子(related molecules)、又はこれらの組み合わせから人工的に製造される。リポソームは、組織標的化成分等の追加の成分も任意に含むことができる。「脂質膜(lipid membrane」又は「脂質二分子膜(lipid bilayer)」は、脂質のみからなる必要はなく、コレステロール及び他のステロイド、脂質溶性化学製品(lipid-soluble chemicals)、任意の長さのタンパク質、並びに他の両親媒性分子等であるがこれらに限定されない任意の適当な他の化合物をさらに(追加として)含むことができ、当該膜の一般的な構造を与えるのが疎水性核を間にはさむ二つの親水性表面のシートであると理解される。
【0057】
抗原を含有するリポソームを調製するプロセスは、公知である。脂質ベシクルを、公知の任意の適当な技術によって調製することができる。方法には、マイクロカプセル化(microencapsulation)、顕微溶液化(microfluidization)、LLC法、エタノール注入(ethanol injection)、フレオン注入(freon injection)、「バブル(bubble)」法、界面活性剤透析法(detergent dialysis)、水和作用、超音波処理、及び逆相エバポレーション(reverse-phase evaporation)が含まれるが、これらに限定されない。Watweら(1995)Curr.Sci. 68:715−724に概説されている。技術を、最も好ましい特性をもつベシクルを得るために、組み合わせてもよい。抗原の特性が適当である場合には、当該抗原が、リポソーム膜中に含まれてもよい。例えば、抗原が高親油性部分を含む場合には、抗原がそれ自体、リポソームの表面に埋め込まれてもよい。
【0058】
本発明の複合体の抗原を、抗原プロセッシング及び長寿命を促進するため、並びに細胞表面における抗原提示を増大させるために、修飾してもよい。
【0059】
例えば、本発明の抗原足場複合体において使用する抗原及び抗原ペプチドには、好ましくはタンパク分解性の基質である特定の配列又はリンカー部分が含まれるであろう。タンパク分解性の基質配列又はリンカーを使用して、抗原の適当な細胞区画(又は適当な複数の細胞区画)(cellular compartment(s))への送達及び抗原の細胞のMHC分子と関連した提示のためのプロセッシングが容易になる。MHCクラスI拘束抗原は、一般的には、プロテオソーム中でプロセッシングされ、その後MHCクラスI分子と、さらにβ2ミクログロブリンと結合される。この三分子複合体は、その後細胞表面に輸送され、そこで抗原提示が起こる。したがって、キモトリプシン、トリプシン及びカスパーゼ等のプロテオソームプロテアーゼのための基質であるペプチド配列又はリンカーは、MHCクラスI拘束エピトープを含む抗原ペプチド及び/又は抗原に存在するか、或いは添加される。MHCクラスII拘束抗原は、一般的には、エンドソーム中でプロセッシングされ、その後MHCクラスII分子と結合される。当該MHCクラスII抗原複合体は、その後細胞表面に輸送され、そこで抗原提示が起こる。したがって、エンドソームプロテアーゼ(エンドペプチデート(endopeptidates))のための基質であるペプチド配列又はリンカーは、MHCクラスII拘束エピトープを含む抗原ペプチド及び/又は抗原に存在するか、或いは添加される。エンドソームプロテアーゼの例として、カテプシンD、カテプシンS及びカテプシンLが挙げられる。カテプシンSは、一般的には、樹状細胞における優性エンドソームプロテアーゼ(predominant endosomal protease)である。
【0060】
プロテオソームプロテアーゼ及びエンドソームプロテアーゼのためのタンパク分解性の基質であるペプチド配列は、公知である。例えば、プロテオソームプロテアーゼのためのタンパク分解性の基質リンカーとして使用するための配列には、Suc−Ala−Gluペプチド、Leu−Leu−Leuペプチド及びLeu−Leu−Gluペプチドが含まれるが、これらに限定されない。例えば、Akiら(1994)J.Biochem.115:257−269;Tsubukiら(1993)Biochem.Biophys.Res.Commun.196:1195−1201を参照すべきである。したがって、そのような配列は、クラスIエピトープを含む抗原のためのタンパク分解性リンカーに含まれるか、又はクラスIエピトープを含む抗原において認められる。エンドソームプロテアーゼのためのタンパク分解性の基質リンカーとして使用するための配列には、Arg−Gly−PhePhe−ペプチド及びArg−Gly−PhePhe−Ala−Pro−ペプチド(カテプシンDのための基質)、Val−Val−Argペプチド及びVal−Val−ArgAla−Pro−ペプチド(カテプシンSのための基質)並びにLeu−Phe−Argペプチド及びLeu−Phe−ArgAla−Pro−ペプチド(カテプシンLのための基質)が含まれるが、これらに限定されない。例えば、Scarboroughら(1993)Protein Sci.2:264−276;Clausら(1998)J.Biol.Chem.273:9842−9851を参照すべきである。したがって、そのような配列は、クラスIIエピトープを含む抗原のためのタンパク分解性リンカーに含まれるか、又はクラスIIエピトープを含む抗原において認められる。上記列挙した配列において、記号「」は、プロテアーゼ切断部位を示す。場合によっては、Gly又はAlaが切断部位の後に加えられてもよい。
【0061】
抗原足場複合体において、抗原は、他の抗原との結合を介した複合体の一部であってもよい。例えば、連結抗原ペプチド(concatenated antigen peptides)、特にそれらの間で切断可能なリンカーを含むものは、足場分子と結合されうるか、又は抗原足場複合体と共に別の手段で含まれうる。抗原と抗原とを結合させることによって、複合体の量当たりの抗原の濃度をより高くすることができるであろう。
【0062】
前記記載した特定の部位でのタンパク質分解性の切断が本発明の抗原にとって好ましいのに対して、抗原又は抗原ペプチドの一般的なタンパク質分解性の分解は一般的には好ましくない。したがって、抗原及び抗原ペプチドは、一般的なタンパク質分解性の分解を阻害するように修飾されうる。例えば、複合体の抗原は、MHCクラスI又はIIエピトープの前に配列Ala−Proを含んでもよく、或いは含むように修飾されてもよい。Ala−Pro配列の力によって、ペプチドの分解が防止され、それに伴ってエピトープの寿命が延び、細胞表面における提示時間が増加する。タンパク質分解性リンカーと組み合わせて抗原に使用した場合には、Ala−Pro配列は、MHCエピトープとタンパク質分解性リンカーとの間に位置しているであろう。タンパク質分解性リンカー及び/又はAla−Pro配列を含むそのような抗原ペプチドの例は、以下に認められる。
【0063】
いくつかの形態において、特にMHCクラスI拘束抗原に関し、抗原は、ユビキチン化のための部位を含むように修飾又は選択されうる。多ユビキチン化した抗原(multiubiquinated antigens)は、ペプチドへの切断のため及びMHCクラスI分子との衝突(encounter)のためプロテオソームに対して誘導される。Hershkoら(1998)Annu.Rev.Biochem.67:425−530を参照すべきである。結合酵素がユビキチンと標的ポリペプチドのリジン残基の側鎖−NHとの間のペプチド結合の形成に触媒作用を及ぼすときにポリペプチドのユビキチン化が起こる。追加のユビキチン分子をその後添加して、多ユビキチン化ポリペプチドを形成してもよい。したがって、抗原は、1から3のリジン残基の添加によって修飾されてもよく、及び/又は1から3のリジン残基を含むように選択されてもよく、その結果ユビキチン化を起こすことができ、抗原をプロテオソームに対して誘導することができる。
【0064】
MHCクラスI抗原を、そのカルボキシ末端に追加の疎水性又は塩基性アミノ酸残基を含むように修飾又は選択してもよい。そのような残基は、例えば、Goldbergら(2002)Mol.Immunol.39:147−164に記載されているように、抗原プロセッシング関連輸送体(transporter associated with antigen processing)(TAP)経路によってプロセッシングを有利にするのを助ける。
【0065】
(抗原)
本願において使用する、用語「抗原(antigen)」は、抗体によって又はT細胞抗原レセプター(T cell antigen receptor)によって特異的に認識及び結合される物質を意味する。抗原には、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類、複合糖質(complex carbohydrate)、糖、ガングリオシド、脂質及びリン脂質;これらの部分並びにこれらの組み合わせを含めることができる。抗原は、天然に見出されるものであってもよく、或いは合成物であってもよい。好ましくは、前記複合体における投与に適している抗原には、任意のMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープが含まれる。ハプテンは、「抗原」の範囲内に含まれる。ハプテンは、それ自体では免疫原性ではないが抗原決定基を含む免疫原性分子と結合したときに免疫原性となる低分子量化合物である。小さい分子は、抗原性にするため、ハプテン化される必要があるかもしれない。好ましくは、本発明の抗原には、ペプチド、脂質(例えば、ステロイド、脂肪酸、及びリン脂質)、多糖類、ガングリオシド及び糖タンパク質が含まれる。
【0066】
本願において使用する、用語「ペプチド(peptide)」は、十分な長さのものであり、かつ当該ペプチドがハプテンであろうとなかろうと、生体応答(biological response)、例えば抗体生成又はサイトカイン活性、或いはMHC分子と関連して提示を引き起こす組成物であるポリペプチドである。典型的には、前記ペプチドは、長さにおいて少なくとも6のアミノ酸残基である。用語「ペプチド」には、さらに、リン酸化、糖鎖付加、PEG修飾(pegylation)、脂質化(lipidization)及びメチル化等であるがこれらに限定されない修飾(変性)等の変性アミノ酸(天然又は非天然に存在してもしなくても)が含まれる。
【0067】
「抗原性ペプチド(antigenic peptides)」又は「抗原ペプチド(antigen peptides)」には、精製した天然ペプチド、合成ペプチド、組換えタンパク質、粗タンパク質抽出物(crude protein extracts)、弱毒又は失活ウイルス、細胞、微生物、或いはそのようなペプチドのフラグメントを含めることができる。したがって、「抗原性ペプチド」又は「抗原ペプチド」は、1又はそれ以上の抗原特性(例えば、抗体又はT細胞レセプターとの特異的結合)を示すポリペプチドの全部或いは部分を意味する。
【0068】
多くのMHCクラスI及びクラスII抗原性ペプチド並びにポリペプチドが従来技術として知られ、利用できる(例えば、米国特許第6,419,931号参照);その他については、従来技術として知られている、及び本願において記載されている、従来技術を用いて同定することができる。腫瘍形成に対する免疫化又は存在する腫瘍の治療に関し、抗原には、腫瘍細胞(生又は放射線照射のもの)、腫瘍細胞抽出物、或いはHer−2/neu、Mart 1、癌胎児抗原(carcinoembryonic antigen)(CEA)、ガングリオシド、ヒト乳脂肪球(human milk fat globule)(HMFG)、ムチン(MUC 1)、MAGE抗原、BAGE抗原、GAGE抗原、gp100、前立腺特異抗原(prostate specific antigen)(PSA)、及びチロシナーゼ等の腫瘍抗原のタンパク質サブユニット又はペプチドを含めることができる。
【0069】
典型的な腫瘍抗原ペプチド、及びそれらが提示されるMHC分子が、表1及び2に列挙されている。本発明において使用する追加的な腫瘍抗原は公知であり、例えば、Renkvistら(2001)Cancer Immunol.Immunother.50:3−15;Robbinsら(1996)Curr.Opin.Immunol.8:628−636;Scanlanetら(2002)Immunol.Rev.188:22−32;Wang(1999)J.Mol.Med.77:640−655に記載されている。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
いくつかの形態において、前記抗原は、原虫、細菌、真菌(単細胞及び多細胞を含む)、及びウイルスの感染性病原体等、感染性病原体由来のものである。適当なウイルス抗原の例が本願において記載され、これらは公知である。細菌には、インフルエンザ菌(Hemophilus influenza)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)及び百日咳菌(Bordetella pertussis)が含まれる。原虫の感染性病原体には、マラリア原虫(plasmodia)、リーシュマニア種(Leishmania species)、トリパノソーマ種(Trypanosoma species)及び住血吸虫種(Schistosoma species)が含まれる。真菌には、カンジダアルビカンス(Candida albicans)が含まれる。
【0073】
いくつかの形態において、前記抗原は、ウイルスタンパク質及び/又はペプチドを含むウイルス抗原である。ウイルスポリペプチド抗原には、HIV gagタンパク質(膜アンカータンパク質(membrane anchoring protein)、コアカプシドタンパク質(core capsid protain)、及びヌクレオカプシドタンパク質(nucleocapsid protein)を含むが、これらに限定されない)等のHIVタンパク質、HIVポリメラーゼ、B型肝炎ポリメラーゼ、B型肝炎コアタンパク質(hepatitis B core protein)、B型肝炎外被タンパク質(hepatitis B envelope protein)、C型肝炎コア抗原(hepatitis C core antigen)、C型肝炎NS1、NS3、NS4及びNS5抗原、C型肝炎外被抗原(hepatitis C envelope antigen)、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus)(HPV)E6及びE7抗原(HPV16−E6及びHPV−16−E7ポリペプチドを含むが、これらに限定されない)等が含まれるが、これらに限定されない。抗原ポリペプチドのその他の例は、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus)及びポックスウイルス(poxvirus)等であるがこれらに限定されない、多数の感染性病原体として知られているグループ又はサブグループ特異的抗原(group- or sub-group specific antigens)である。例えば、米国特許第6,419,931号も参照すべきである。
【0074】
弱毒及び失活ウイルスは、本願において抗原として使用するのに適している。これらのウイルスの調製は、従来技術としてよく知られており、例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス及び風疹ウイルス等、多くのものが市販されている(例えば、Physiciabs’ Desk Reference(1998)、第52版、Medical Economics Company社参照。)。さらに、HIV−1、HIV−2、単純ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、ヒト及び非ヒトパピローマウイルス並びに遅発性脳ウイルス(slow brain viruses)等の弱毒及び失活ウイルスによって、ペプチド抗原が与えられる。
【0075】
本発明の抗原を用いて症状を軽減し、発症若しくは再発症を治療又防止しうる自己免疫関連疾患には、例えば、多発硬化(multiple sclerosis)(MS)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)(RA)、シェーグレン症候群(Sjogren syndrome)、強皮症(scleroderma)、多発性筋炎(polymyositis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus)、若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis)、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)、重症筋無力症(myasthenia gravis)(MG)、類天疱瘡(bullous pemphigoid)(真皮−表皮の接合部での基底膜(basement membrane)に対する抗体)、天疱瘡(pemphigus)(ムコ多糖タンパク質複合体(mucopolysaccharide protein complex)又は細胞内セメント物質(intracellular cement substance)に対する抗体)、糸球体腎炎(glomerulonephritis)(糸球体基底膜(glomerular basement membrane)に対する抗体)、グッドパスチャー症候群(Goodpasture's syndrome)、自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia)(赤血球に対する抗体)、橋本病(Hashimoto's disease)(甲状腺に対する抗体)、悪性貧血(pernicious anemia)(内因子に対する抗体)、特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)(血小板に対する抗体)、グレーブス病(Grave's diseas)、及びアジソン病(Addison's disease)(チログロブリンに対する抗体)等が含まれる。
【0076】
これらの多数の疾患と付随した自己抗原が、同定されている。例えば、実験的に誘発した自己免疫疾患では、病原に関与した抗原が特性づけられている:ラット及びマウスにおける関節炎では、天然II型コラーゲン(native type-II collagen)がコラーゲン誘発関節炎において同定され、アジュバント関節炎においてミコバクテリア熱ショックタンパク質(mycobacterial heat shock protein)が同定されている;チログロブリンが、マウスの実験的なアレルギー性甲状腺炎(experimental allergic thyroiditis)(EAT)において;実験的なアレルギー性重症筋無力症(experimental allergic myasthenia gravis)(EAMG)においてアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor)(AChR)が;並びにマウス及びラットの実験的なアレルギー性脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis)(EAE)においてミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein)(MBP)及びプロテオリピドタンパク質(proteolipid protein)(PLP)が同定されている。さらに、自己抗原はヒトにおいても同定されている:ヒト関節リウマチにおいてII型コラーゲン;重症筋無力症においてアセチルコリン受容体が同定されている。
【0077】
好ましくは、前記抗原はペプチドである。しかしながら、いくつかの形態において、抗原は脂質(例えば、コレステロールを除くステロール、脂肪酸、及びリン脂質)、H.インフルエンザワクチンにおいて使用される多糖体等の多糖体、ガングリオシド及び糖タンパク質であってもよい。これらは、化学的及び酵素的な方法を用いる単離並びに合成等、いくつかの公知の方法により得ることができる。ステロール、脂肪酸及びリン脂質のため等、ある一定の場合では、分子の抗原性部位が市販されている。
【0078】
抗原性ペプチドは、天然のもの、或いは化学的又は酵素的に合成したものであってもよい。任意の公知の化学合成の方法が適当である。溶液相ペプチド合成(solution phase peptide synthesis)を用いて、中程度の大きさのペプチドを構築することができ、ペプチドの化学的構築のため、固相合成を用いることができる。Athertonら(1981)Hoppe Seylers Z.Physiol.Chem.362:833−839。タンパク質分解酵素を利用して、アミノ酸を結合させて、ペプチドを生成させることもできる。Kullmann(1987)酵素ペプチド合成(Enzymatic Peptide Synthesis)、CRC出版社。これに代えて、前記ペプチドを、細胞の生化学的機構を利用することによって又は生物学的ソースからの単離によって得ることができる。組換えDNA技術を、ペプチドの生成のために使用することができる。Hamesら(1987)転写及び翻訳(Transcription and Translation):実施のアプローチ(A Practical Approach)、IRL出版。ペプチドを、アフィニティークロマトグラフィー(affinity chromatography)のような標準的な技術を使用することによって単離することもできる。MHCクラスI及びIIエピトープを修飾して、それらの生物学的効果を増強することもできる。例えば、ペプチドにD−アミノ酸を含有させて、それらのプロテアーゼに対する抵抗性を増強し、それによってそれらの血清半減期を延ばすことができる。
【0079】
いくつかの場合において、前記ペプチドには、好ましくは、他の天然のウイルス性、細菌性、寄生虫性、腫瘍又は自己タンパク質及びこれらのフラグメントが実質的に存在しないであろうが、いくつかの形態において、前記ペプチドは、天然のフラグメント又は粒子と合成して結合されうる。用語ペプチドは、アルファ−アミノ酸と隣接アミノ酸のアルファ−カルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに結合した一連のアミノ酸を示すため、本願明細書においてポリペプチドと区別なく用いられる。ポリペプチド及びペプチドを、それらの中性(無電荷)の形態又は塩である形態の何れかにおいては、各種の長さにすることができ、さらに糖鎖形成、側鎖酸化(side chain oxdation)、又はリン酸化等の修飾がないものとし、或いは本願において記載したポリペプチドの生理活性を破壊しない修飾条件に付すことができる。
【0080】
本願において使用する用語「相同性の(homologous)」、「実質的に相同性の(substantially homologous)」、及び「実質的な相同性(substantial homology)」は、一つの配列がアミノ酸の参照配列と比較される場合に少なくとも50%の同一性を有するアミノ酸の配列を意味する。配列同一性又は相同性の割合は、参照配列の対応する部分と並べたときに互いを比較することによって求められる。
【0081】
場合によっては、より大きいペプチドの生理活性のうち実質的に全部をまだ維持している間に、抗原性ペプチドは、できる限り小さくされるであろう。場合によっては、本発明のペプチドを、細胞表面においてMHCクラスI分子と結合される内因的にプロセッシングした抗原ペプチドと同程度の大きさの8から12アミノ酸残基、通常8又は9アミノ酸残基の長さに最適化することが好ましいかもしれない。MHCクラスIIペプチドは、典型的には約6から約30のアミノ酸を含むであろうし、エピトープを誘導するTヘルパー細胞を含むであろう。一般的には、Schumacherら(1991)Nature 350:703−706;Van Bleekら(1990)Nature 348:213−216;Rotzschkeら(1990)Nature 348:252−254;及びFalkら(1991)Nature 351:290−296を参照すべきである。ペプチドを誘導するCTLの生理活性によって、適当なMHC分子と結合する能力、CTL応答を刺激するのに有用なペプチドの場合には、選択した抗原又は抗原ミメティックに対するCTL応答を誘導する能力が示される。CTL応答によって、CD+8、MHCクラスI拘束Tリンパ球が活性化される、対象の抗原に特異的なCD+8 Tリンパ球応答が示される。Tヘルパー細胞応答によって、CD4+ Tリンパ球が活性化されるCD4+ Tリンパ球応答が示される。Tヘルパー細胞誘導ペプチドによって刺激されたTヘルパー細胞は、例えば、Tヘルパー1(T helper 1)(Th1)及び/又はTヘルパー2(T helper 2)(Th2)でありうる。活性化Tヘルパーリンパ球は、T細胞レセプターの発現を容易にし、活性化したCTLによる認識を促進しうる、例えば、インターロイキン−2等の各種産物を分泌するであろう。
【0082】
本願において記載した各種の部位又はアミノ酸残基を含む合成した抗原ペプチドの例として、以下の段落に列挙した抗原ペプチドが挙げられる。HLA−DR4拘束エピトープに加えて、これらのペプチドには、本願において記載したように、タンパク質分解性の基質リンカー(proteolytic substrate linker)、追加のGly又はAla及び/又は追加のAla−Pro配列が含まれる。これらのペプチドを、同様に、公知の固相合成法(solid phase synthesis methodology)のために使用されるレジン、すなわちRinkレジン又はWangレジンを含めて列挙する。下記抗原ペプチドは、抗原チロシナーゼ由来のものであり、MHC対立遺伝子HLA−DR4で表されている:
G−VVRQNILLSNAPLGPQFP−Rinkレジン;G−VVRQNILLSNAPLGPQFP(F[Br])−Rinkレジン;G−VVRQNILLSNAPLGPQFP−Wangレジン;G−VVRQNILLSNAPLGPQFP(F[Br])−Wangレジン;G−VVR(AP)QNILLSNAPLGPQFP−Rinkレジン;
G−VVR(AP)QNILLSNAPLGPQFP(F[Br])−Rinkレジン;
G−VVR(AP)QNILLSNAPLGPQFP−Wangレジン;
G−VVR(AP)QNILLSNAPLGPQFP(F[Br])−Wangレジン;
G−VVRSYLQDSDPDSFQD−Rinkレジン;G−VVRSYLQDSDPDSFQD(F[Br])−Rinkレジン;
G−VVRSYLQDSDPDSFQD−Wangレジン;G−VVRSYLQDSDPDSFQD(F[Br])−Wangレジン;
G−VVR(AP)SYLQDSDPDSFQD−Rinkレジン;G−VVR(AP)SYLQDSDPDSFQD(F[Br])−Rinkレジン;G−VVR(AP)SYLQDSDPDSFQD−Wangレジン;及び
G−VVR(AP)SYLQDSDPDSFQD(F[Br])−Wangレジン。下記抗原ペプチドは、抗原MAGE−A3由来のものであり、MHC対立遺伝子HLA−DR4で表されている:
G−VVRVIFSKASSSLQL−Rinkレジン;G−VVRVIFSKASSSLQL(F[Br])−Rinkレジン;
G−VVRVIFSKASSSLQL−Wangレジン;G−VVRVIFSKASSSLQL(F[Br])−Wangレジン;
G−VVR(AP)VIFSKASSSLQL−Rinkレジン;G−VVR(AP)VIFSKASSSLQL(F[Br])−Rinkレジン;
G−VVR(AP)VIFSKASSSLQL−Wangレジン;及びG−VVR(AP)VIFSKASSSLQL(F[Br])−Wangレジン。上記列挙した配列において、記号「」は、プロテアーゼ切断部位を示す。
【0083】
概して、ペプチドが、MHCエピトープを同定するために使用される方法又は複数の方法にかかわらず、本発明の方法又は組成物において使用される。ペプチドに含まれるMHCクラスI及び/又はクラスIIエピトープ(或いは複数のエピトープ)を、いくつかの公知の方法の一つで同定することができる。抗原特異性T細胞株又はクローンが利用できるような場合、例えば、腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte)(TIL)又はウイルス特異性CTLの場合には、これらの細胞を、特異性抗原を用いて調製した標的細胞を使用して関連するエピトープの存在についてスクリーニングするために、使用することができる。そのような標的を、例えば、CTLによる溶解のための標的細胞を感作させるために利用されるであろう無作為、又は選択合成ペプチドライブラリーを用いて調製することができる。T細胞が利用できるときに関連するMHCエピトープを同定する別のアプローチは、組換え遺伝子法(recombinant DNA methodologies)を使用することである。T細胞応答性標的(T cell responsive targets)若しくはT細胞感受性標的(T cell-susceptible targets)からの遺伝子、又は好ましくはcDNA、ライブラリーが、第一に調製され、非応答性又は非感受性標的細胞に形質移入される。これによって、MHCエピトープを含むペプチドに対してタンパク質前駆体をコードする遺伝子の同定及びクローニングが可能となる。このプロセスにおける第二のステップは、MHCエピトープに対してコード化する領域を絞り込むため、関連するクローン化遺伝子から切断遺伝子(truncated gene)を調製することである。このステップは、遺伝子が長すぎない場合には、任意である。第三のステップは、T細胞のための標的を感作させるために使用される、5アミノ酸残基でオーバーラップしている、長さ約10−20アミノ酸の合成ペプチドを調製することである。ペプチド又は複数のペプチドが関連したMHCエピトープを含むことが示されるときには、より小さいペプチドを調製して、MHCエピトープを含む最小限の大きさのペプチドを確立することができる。これらのMHCクラスIエピトープは多くの場合9−10残基の範囲内で含まれる。
【0084】
MHCエピトープを含むペプチドを同定する別の方法は、T細胞が存在するときに、酸又は塩基を用いてペプチドを溶出することである。MHC分子と結合したペプチドは、例えば、抗原提示細胞、及びCTLによって溶解した細胞に存在する。溶出したペプチドは、HPLC等の精製方法を用いて分離され、個々の画分は、それらのCTL溶解のための標的を感作させる能力又はTヘルパー細胞を活性化する能力についてテストされる。画分がMHCペプチドを含むと同定されている場合には、さらに精製され、配列分析にかけられる。前記ペプチド配列を、タンデム型質量分析を用いて決定することもできる。合成ペプチドをその後、調製し、正しい配列及びペプチドが同定されたことを実証するためにT細胞を用いてテストしてもよい。
【0085】
T細胞が利用できない状況下では、可能性のあるMHCエピトープを同定する他の手段がある。これらの方法は、MHC結合ペプチドの公知のタンパク質配列からの同定に頼る。例えば、米国特許第5,662,907号及び第6,037,135号を参照すべきである。簡便には、例えばウイルス又は腫瘍細胞成分からのタンパク質配列が、MHC結合モチーフの存在について試験される。各MHC対立遺伝子について存在するこれらの結合モチーフは、通常9−10アミノ酸残基長のペプチドの2(又は3)及び9(又は10)の位置で、保存されたアミノ酸残基である。合成ペプチドが、その後MHC結合モチーフを有している配列につき調製され、次いで、MHC分子と結合する能力についてテストされる。MHC結合アッセイ(MHC binding assay)は、かなり多数の空のMHC分子を発現する細胞(細胞結合アッセイ)か、又は精製MHC分子の何れかを用いてなされる。最後に、MHC結合ペプチドが、その後、未処置個体におけるCTL応答又はTヘルパー細胞応答を誘導する能力について、ヒトリンパ球を用いてインビトロで又はHLA遺伝子組換え動物を用いてインビボで、試験される。これらのCTLは、ウイルス感染細胞又は腫瘍細胞等のペプチド感作標的細胞(peptide-sensitized target cell)及び抗原を自然にプロセッシングする標的を用いてテストされる。例えば、腫瘍関連抗原MAGE−3に対するHLA−A1拘束CTLエピトープがこのアプローチを用いて同定されている(米国特許第5,662,907号)。関連するMHCクラスIエピトープを同定する別のアプローチは、例えば、Petersら(2003)J.Immunol.171:1741−1749によって記載されているように、MHCクラスI結合親和力の予測とTAP経路輸送効率の予測とを組み合わせることによるものである。
【0086】
標的化リガンド(Targeting ligands)
ある実施形態において、本発明は組織又は細胞標的化リガンドを含む抗原足場複合体を指向する。このような標的化リガンドは、無処置の動物、組織又は細胞培養(物)に抗原足場複合体が投与された場合に、特定の組織又は細胞部位に対し、その他の組織又は細胞部位よりも該複合体の集積を高めるような該抗原足場複合体の構成要素である。前記複合体への標的化リガンドの含有は、分子エピトープ(すなわち、受容体、ペプチド、細胞接着分子、多糖類、及び、生体高分子等であり、標的細胞若しくは組織の表面膜上、又は、細胞外若しくは細胞内マトリックス内に現れている)への局在化及び結合をもたらす。一般に、前記リガンドは細胞性のエピトープ又は受容体に特異的に結合する。広範な種類の標的化リガンドが使用することができ、それらには抗体、抗体断片、低分子オリゴペプチド、高分子ポリペプチド若しくは3次構造を有するタンパク質のようなポリペプチド、ペプチド模倣、多糖体、アプタマー、脂質、炭水化物、核酸、薬剤、ホルモン若しくはハプテンのような低分子、レクチン、又は、それらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。細胞型特異的細胞表面マーカーに対して特異性のある抗体は当業者既知であり、当業者に知られた方法により容易に調製される。前記複合体がリポソームと共に作成された場合、標的化構成要素は一般にリポソームの外側から接近し易いので、好ましくは、外側表面に結合するか或いは外側脂質二重層に挿入される。
【0087】
抗原足場複合体は任意の細胞型に対して標的とされ得るもので、該細胞型に向けて該複合体が向けられる、例えば、抗原を提示及び/又は免疫応答に関与し得る細胞型。このような標的細胞及び組織には、樹状細胞、リンパ球及びマクロファージのような抗原提示細胞(APCs)、リンパ節及び脾臓のようなリンパ系組織、並びに、非リンパ系組織が含まれ、これらに限定されるものではないが、とりわけ樹状細胞中に見出される。ある実施形態では、前記抗原足場複合体は、好ましくは樹状細胞又は樹状細胞の亜集団、例えば、ランゲルハンス細胞、形質細胞様細胞、嵌合細胞(interdigitating cells)及び/又は間質細胞、の標的となり取り込まれる。ある実施形態では、前記抗原足場複合体はマクロファージには優先的に向かわない。
【0088】
用語「リガンド」とは、抗原足場複合体自体と別個で区別される他の生物学的標的分子と特異的に結合する標的化分子を指す。前記反応は、金属原子の配位複合体と配位共有結合を形成する電子対を供与又は受容する分子を要求もしないし排除もしない。故に、リガンドは抗原足場複合体に共有結合的に直接コンジュゲーションしてもよいし、又は、非共有結合的に間接的にコンジュゲーションしてもよい。
【0089】
従って、標的組織又は細胞上の分子エピトープと相互作用する標的化リガンドには、該分子エピトープの天然若しくは非天然リガンド(例えば受容体)、及び、該分子エピトープと結合する抗体を含むがこれらに限定されない。本発明の標的化リガンドには、ランゲリン(CD207)、マルチレクチン受容体(マウスにおけるDEC‐205のようなもの)、DC‐SIGN(非‐インテグリンを取り込む樹状細胞特異的ICAM‐3)、Fc受容体、及び、Toll様受容体(TLR)と相互作用するものを含むがこれらに限定されるものではない。従って、これらの分子と相互作用する標的化リガンドには、抗ランゲリン抗体(DCGM4 (Valladeau et al. (1999) Eur. J. Immunol. 29-2695-2704)など)、マンノース、マンナン、抗マルチレクチン受容体抗体、抗DEC‐205抗体、抗DC‐SIGN抗体、抗Fc受容体抗体、FcγRII(CD32)、FcαR(CD89)、FcγRI、FcεRI/IL‐3Rα(CD123)、TLR‐3リガンド及びCpG含有オリゴヌクレオチドのようなTLR‐9リガンドを含むがこれらに限定されるものではない。マンノースの使用及びDEC‐205若しくはDC‐SIGNと相互作用する標的化リガンドの使用は、種々の樹状細胞との複合体を優先的に標的とする(Bonifaz et al. (2002) J. Exp. Med. 196:1627-1638; Engering et al. (2002) J. Immunol. 168:2118-2126)。ランゲリンと相互作用する標的化リガンドの使用は、ランゲルハンス細胞との複合体を優先的に標的とする(Takahara et al. (2002) Int. Immunol. 14:433-444)。Fc受容体と相互作用するリガンドとしてのFcγRII(CD32)又はFcαR(CD89)の使用は、単球由来細胞との複合体を優先的に標的とする。FcγRI、FcεRI/IL‐3Rα(CD123)の使用は、ランゲルハンス細胞との複合体を優先的に標的とする(Guermonprez et al. (2002) Ann. Rev. Immunol. 20:621-667)。TLR‐3リガンド及びポリイソシン‐ポリシチジル酸(ポリI:C)のようなTLR‐3と相互作用するリガンドの使用は、種々の樹状細胞との複合体を優先的に標的とする(Alexopoulou et al. (2001) Nature 413:732-738)。非メチル化CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチドとりわけ「D」型オリゴヌクレオチドのような、TLR‐9と相互作用するリガンドの使用は、種々の樹状細胞、単球及びその他の免疫系細胞との複合体を優先的に標的とする(Klinman et al. (2002) Microbes and Infection 4:897-901)。D型オリゴヌクレオチド含有CpGには、例えば、5’‐GGTGCATCGATGCAGGGGGG‐3’(D19)、及び、5’‐GGTGCACCGGTGCAGGGGGG‐3’(D29)を含む。前記複合体とD型オリゴヌクレオチドとの会合は、前記複合体を標的とするだけでなく、前記複合体のエンドサイトーシスを促進し単球がCD83+/CD86+樹状細胞へ成熟するよう刺激する。Klinmanらの上記文献。
【0090】
抗体とりわけモノクローナル抗体は、所望の分子エピトープの任意のスペクトラムを指向する標的化リガンドとして使用されてもよい。免疫グロブリンγ(IgG)モノクローナル抗体が、有効な部位特異的標的化を実現するためにリポソーム、エマルジョン、及び、その他の粒子と会合される。一般に、これらのタンパク質は、同一組の重鎖と軽鎖の一組から構成される対称性の糖タンパク質(分子量約150,000ダルトン)である。二つの腕の各末端にある高頻度可変領域は、同一の抗原結合領域を提供する。可変サイズの分枝状糖鎖結合領域は補体活性化領域に接続されており、また、ヒンジ領域は、とりわけ接近し易くする鎖間のジスルフィド結合(該結合はより小さい断片を産生するために減少されてもよい)を含む。
【0091】
好ましくは、モノクローナル抗体が本発明の抗体組成物の中で使用される。細胞表面の選択された抗原に特異的なモノクローナル抗体を、常套的な技術を用いて容易に生成させてもよい(例えば、米国特許第RE32,011、4,902,614、4,543,439、及び、4,411,993を参照)。ハイブリドーマ細胞は、抗原と特異的に反応する抗体産生について免疫化学的にスクリーニングされ得、そして、モノクローナル抗体が単離され得る。モノクローナル抗体を構築するためのその他の技術が利用されてもよい(例えば、Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281; Sastry et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:5728-5732; Alting-Mees et al. (1990) Strategies in Molecular Biology 3:1-9を参照)。
【0092】
本発明の文脈において、抗体は、種々の種類の抗体を含むものと理解されるが、以下を含むが必ずしも限定されるものではない:天然の抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗原結合特異性を保持する抗体フラグメント(例えばFab、及び、F(ab’))、及び、組換え的に生成した結合パートナー、単一ドメイン抗体、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト抗体、及び、ヒト化抗体など。一般に、10‐1より大きいか又は等しい親和性(結合定数)で抗体が結合する場合、細胞の選択された抗原に対して反応性があるものと理解されている。前記複合体と共に使用する選択された抗原に対する抗体は、市販されたものから入手してもよい。
【0093】
多様な種類の抗体の標的化リガンドとしての使用についての更なる記載が、本書で、とりわけ、後の「本発明の化合物」のセクションにおいて提供される。
【0094】
本発明の抗原足場複合体はまた、抗体又はそのフラグメント以外の標的化リガンドも使用する。例えば、抗体のようなポリペプチドは、標的とされる抗原足場複合体に対する標的化リガンドとしての使用のための、高い特異性とエピトープ親和性を有していてもよい。これらは、低分子オリゴペプチドであってもよく、例えば、独特な受容体配列又はより大きなポリペプチドに対して特異的な5から10アミノ酸を有している。より小さいペプチドは、潜在的に、非ヒト化マウス抗体よりも固有の免疫原性が少ない。特定の細胞接着分子、サイトカイン、セレクチン、カドヘドリンス(cadhedrins)、及び、Igスーパーファミリー等のペプチド又はペプチド類似物(非ペプチド)が、前記複合体の標的化送達に使用されてもよい。「非ペプチド」成分は一般に、単純なアミノ酸重合体(遺伝子でコード化されているか又は非遺伝子でコード化されている)である化合物とは異なるものである。それゆえ、「非ペプチドリガンド」は、一般には、重合体の特徴が欠如している「低分子」とされ、及び、アミノ酸重合体以外の中核構造が要求されることによって特徴付けられる成分である。本発明において有用な非ペプチドリガンドは、ペプチドと結合してもよいし、又は、標的部位との親和性に反応性のある該リガンドの一部分と結合したペプチドを含んでいてもよいが、それはその結合能力を説明する本リガンドの非ペプチド領域である。
【0095】
炭水化物含有脂質は、例えば、米国特許第4,310,505に記載されているように、前記複合体の標的化に使用されてもよい。
【0096】
本発明の抗原足場複合体の幾つかにおいては、標的化リガンドは、該複合体の表面と直接又は間接の何れかにより結合している。標的化リガンドが複合体の表面と直接結合している場合、標的化リガンドは該抗原足場複合体の表面に、共有結合的又は非共有結合的の何れかにより付着している。複合体表面への標的化リガンドの結合は、ここに記載された技術分野で周知の技術を用いて達成され得、以下を含むがこれらに限定されるものではない:直接共有結合性連結、クロスリンカー成分を介した共有結合性コンジュゲーション、及び、非共有結合性コンジュゲーション(例えば、特異的結合対を介して、静電気的結合を介して、又は、疎水結合を介する)。
【0097】
標的化リガンドが抗原足場複合体の表面に間接的に結合している場合、該標的化リガンドはリガンドリンカーに連結されており、且つ、該リンカーは該複合体表面の成分と直接又は間接の何れかにより連結している。前記リガンドリンカーへの標的化リガンドの結合は、ここに記載された技術分野で周知の技術を用いて達成され得、以下を含むがこれらに限定されるものではない:直接共有結合性連結、クロスリンカー成分を介した共有結合性コンジュゲーション(スペーサーアームを含んでもよい)、及び、非共有結合性コンジュゲーション(例えば、特異的結合対(例えばビオチン及びアビジン)を介して、静電気的結合を介して、又は、疎水結合を介して)。前記リガンドリンカーは複合体表面の成分と、直接的若しくは間接的の何れかにより、及び、共有結合的若しくは非共有結合的の何れかにより、ここに記載された技術分野で周知の技術を用いて連結され、以下を含むがこれらに限定されるものではない:直接共有結合性連結、クロスリンカー成分を介した共有結合性コンジュゲーション(スペーサーアームを含んでもよい)、特異的結合対を介した非共有結合性コンジュゲーション(例えば、特異的結合対(例えばビオチン及びアビジン)を介して、静電気的結合を介して、又は、疎水結合を介して)。
【0098】
アビジン‐ビオチン相互作用は、有用な非共有結合性標的化システムであり、多くの生物学的及び分析的システムに組み込まれ、個体への適用においても選択されてきたものである。アビジンは、生理学的条件下で急速且つ安定な結合を促進するビオチン(凡そ10‐15M)への高い親和性を有する。例えば、標的化リガンドは、ビオチン及びアビジン若しくはストレプトアビジンのような特異的結合対から構成されるリンカーを介して抗原足場複合体の表面に連結される。ビオチン基は、例えば、抗原足場複合体の表面成分、及び、標的化リガンドに組み込まれたか若しくは連結されたアビジン若しくはストレプトアビジンに、連結され得る。或いは、ビオチン基は、標的化リガンド、及び、抗原足場複合体の表面に連結されたアビジン若しくはストレプトアビジンに、連結され得る。どちらの場合においても、一の構成要素をビオチンで標識し、他方をアビジン又はストレプトアビジンで標識することにより非共有結合複合体の編成(但し、標的化細胞リガンドは抗原足場複合体と結合されているビオチン‐(ストレプト)アビジンリンカーに結合されている)を許容する。ビオチン、アビジン、及び、ストレプトアビジンを分子及び細胞に連結する方法及び技術は、技術分野で周知されている。例えば、O'Shannesseyらの(1984)上記文献;O'Shannessyらの(1985)上記文献を、参照。
【0099】
或いは、このアプローチを用いる幾つかの標的化システムは、剤形に応じて、2又は3ステップで投与される。このシステムでは典型的には、モノクローナル抗体のようなビオチン化リガンドが、最初に投与され、特定の分子エピトープへ「予め標的化」される。次いで、アビジンが投与され、それが「予め標的化」されたリガンドのビオチン成分と結合する。最後に、ビオチン化された抗原足場複合体が添加され、アビジン上に残る占有されていないビオチン結合部位に結合し、それにより、リガンド‐アビジン‐複合体「サンドイッチ」が完成する。アビジン‐ビオチンのアプローチは、表面抗体の存在に続く細網内皮系による標的薬剤の促進された成熟前クリアランスを回避し得る。更に、4つの独立したビオチン結合部位を有するアビジンは、シグナルの増幅をもたらし、検出感度を改善する。
【0100】
本書で使用される場合、用語「ビオチン化」とは、ビオチン剤との結合に関するもので、該ビオチン剤にはビオチンアミドカプロアートN‐ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチン4‐アミド安息香酸、ビオチンアミドカプロイルヒドラジド並びに他のビオチン誘導体及び抱合体のような、ビオチン、ビオサイチン並びに他のビオチン誘導体及び類似体を含むことが意図されている。その他の誘導体には、ビオチン‐デキストラン、ビオチン‐ジスルフィドN‐ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチン−6アミドキノリン、ビオチンヒドラジド、d‐ビオチン‐Nヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチンマレイミド、d‐ビオチンポリペプチド‐ニトロフェニルエステル、ビオチン化ヌクレオチド、及び、N,ε‐ビオチニル‐1‐リジンのようなビオチン化アミノ酸を含む。用語「アビジン化」とはアビジン剤との結合に関するもので、該アビジン剤には、ストレプトアビジン若しくはアビジン抱合体、高度に精製され分画された種類のアビジン若しくはストレプトアビジン、及び、非アミノ酸若しくは部分的アミノ酸変異体、組換え型若しくは化学合成されたアビジンのような、アビジン、ストレプトアビジン及びその他のアビジン類似体を含むことが意図されている。
【0101】
幾つかの実施形態において、リガンドリンカーは、少なくとも一つの抗体又はその抗原結合部位を含み得る。リガンドリンカーとして供される抗体は、標的化リガンド及び抗原足場複合体上の成分若しくは抗原の双方と結合し得る。一つの抗体が標的化リガンド及び第二の抗体の双方と結合し、そして第二の抗体が抗原足場複合体上の成分と結合し得るので、リガンドリンカーは1以上の抗体を含み得る。
【0102】
非共有結合性の会合は、標的化リガンドと抗原足場複合体表面の成分内の残基とに関わるイオン性相互作用を介しても生じ得る。非共有結合性の会合は、標的化リガンドと荷電したアミノ酸のようなリガンドリンカー内の残基とに関わるイオン性相互作用を介して、又は、標的化リガンド及び抗原足場複合体の双方と相互作用し得る荷電した残基を含むリンカー部分の使用を介しても生じ得る。例えば、非共有結合性コンジュゲーションは、一般的に負に荷電した標的化リガンド若しくは抗原足場複合体上の成分と正に荷電したリンカーのアミノ酸残基(例えばポリリジン、ポリアルギニン及びポリヒスチジン残基)との間で生じ得る。
【0103】
リガンドリンカーへの標的化リガンドの、又は、抗原足場複合体上の成分への標的化リガンドの共有結合性コンジュゲーションは、多くの方法により成し得るもので、典型的には、1以上のクロスリンク剤、及び、標的化リガンド、リンカー分子及び/又は抗原足場複合体上の成分における官能基が関与する。
【0104】
ポリペプチドである標的化リガンドは、アミノ、カルボキシル又はスルフヒドリル基のような官能基含有アミノ酸側鎖を含むであろう(但し、該官能基は、標的化リガンドがリガンドリンカーに会合する部位として役立つであろう)。仮に前記標的化リガンドがこのような官能基をまだ含んでいない場合、該官能基を有する残基を該標的化リガンドに付加してもよい。そのような残基は、固相合成法又は組換え法によって組み込まれてもよく、両技法はペプチド合成技術において周知されている。炭水化物又は脂質である標的化リガンドの場合には、官能基及びスルフヒドリル基がその中に、常套的な化学により組み入れられてもよい。例えば、一級アミノ基は、シアノホウ水素化ナトリウムの存在下でエチレンジアミンとの反応により組み込まれてもよく、また、スルフヒドリルは、システアミン二塩酸塩の反応後に標準的ジスルフィド還元剤での還元により組み込んでもよい。同様の様式で、仮にリンカー分子又は抗原足場複合体上の成分が適当な官能基をまだ有していないのであれば、それらが該官能基を含むように誘導体化されてもよい。
【0105】
種々の長さの親水性リンカーはリンカー分子にペプチド又は他の生理活性分子を連結するのに有用である。好適なリンカーには、エチレングリコールの直鎖状オリゴマー又はポリマーを含む。そのようなリンカーには、式RS(CHCHO)CHCHO(CHCO(但し、n=0‐200、m=1又は2、R=H又はトリチルのような保護基、R=H又はアルキル又はアリール、例えば、4‐ニトロフェニル エステル)を含む。アミド結合を介したアミノ基を含む第二の分子とのチオエーテルを介した、ハロアセチル、マレイミドなどのようなチオール反応基含有分子の連結に有用である。接続の順番に関しては一般に融通性がある―すなわち、チオエーテルは最初でも又は最後に形成されてもよい。
【0106】
標的化リガンドは、抗原足場複合体の表面に、該複合体の性質に依存して種々の方法により化学的に連結されてもよい。使用される前記リガンドに依存して、コンジュゲーションが、抗原足場複合体の形成される前又は後になされてもよい。タンパク質性剤へのリガンドの直接的化学コンジュゲーションは、前記表面内に固有に存在する多数のアミノ基(例えばリジン)を利用する。或いは、ピリジルジチオプロピオン酸、マレイミド又はアルデヒドのような機能的に活性な化学基が、前記粒子が形成された後に、リガンドコンジュゲーションのための化学的「フック」として前記表面に組み込まれてもよい。もう1つの一般的な処理後アプローチは、リガンド添加の前に、カルボジイミドで表面カルボン酸塩を活性化するものである。選択される共有結合のストラテジーは、第一に前記リガンドの化学的性質によって決定される。抗体その他の大きなタンパク質を厳格な処理条件下で変性させてもよい;カルボン酸塩、短いペプチド、アプタマー、薬剤、又は、ペプチド模倣は、しばしば、保存されたままでもよい。高いリガンド結合の完全性を確かなものにし、標的化された複合体の結合活性を最大化するために、可動性ポリマーのスペーサー腕、例えばポリエチレングリコール又は単純なカプロン酸架橋が、活性化複合体官能基と標的化リガンドとの間に挿入され得る。これらの伸展は、10nm又はそれより長いものであり得、粒子表面の相互作用によるリガンド結合の干渉を最小化し得る。
【0107】
本書の他の箇所で記述されたのに加え、本発明の抗原足場複合体の中で、及び/又は、該抗原足場複合体と共に、標的化リガンドとして使用されるのに適当な多様な種類の抗体について、以下に更に記述する。
【0108】
二価のF(ab’)及び一価のF(ab)フラグメントは、リガンドとして使用し得、これらは、各々、ペプシン又はパパイン消化による完全抗体(whole antibody)の選択的切断に由来する。抗体は常套的な技術により断片化され得、そして、該フラグメント(「Fab」フラグメントを含む)は、完全抗体についての上述の記載と同様の方法により有用性についてスクリーニングされ得る。「Fab」領域は、重鎖及び軽鎖の枝部分を含む配列と大体等価又は類似である重鎖及び軽鎖部分を言い、特定抗原に対する免疫学的結合能を示すがエフェクターFc部分を欠く。「Fab」は、1つの重鎖及び1つの軽鎖の凝集体(一般にFab’として知られている)並びに2H及び2Lを含有する4量体(F(ab)と言われる)を含み、それらは、指定された抗原又は抗原ファミリーと選択的に反応し得る。抗体のFabフラグメントを生産する方法は、当業者に周知されており、例えば、タンパク分解および組換え技法による合成を含む。例えば、F(ab’)フラグメントは、抗体をペプシンで処理することにより産生し得る。得られたF(ab’)フラグメントは、Fab’フラグメント産生のためにジスルフィド架橋を還元するよう処理され得る。「Fab」抗体は、本書で記述されたもの、すなわち「ハイブリッドFab」、「キメラFab」及び「改変Fab」に類似したサブセットに分割されてもよい。Fc領域の除去は前記分子の免疫原性を大幅に減少させ、結合された炭水化物の2次的な非特異的肝臓取り込みを減少させ、並びに、補体の活性化及びその結果としての抗体依存性の細胞毒性を減少させる。標的となる細胞又は組織が保存されねばならない場合、補体固定化及び関連した細胞障害性は有害となり得る。
【0109】
大部分のモノクローナル抗体はマウス由来であり、他の種において異なる程度において本質的に免疫原性を有する。遺伝子工学によるマウス抗体のヒト化は、生体適合性の改善及び循環半減期の増大を伴うキメラリガンドの開発へと到達した。本発明で使用される抗体は、ヒト化されたもの又は投与されるべき個体と更に適合させられたものを含む。ある事例では、標的分子エピトープへの組換え抗体の結合親和性が、結合イディオタイプの選択的部位特異的変異誘発で改善され得た。このような抗体分子の遺伝子工学についての方法及び技術は当業者既知である。「ヒト化された」とは、ヒトに該ヒト化抗体が投与された場合に、該ヒト化抗体に対して、より少ない抗体及び/又は免疫応答が惹起されるように、抗体のアミノ酸配列の意味ある改変を言う。ヒト以外の哺乳動物においての前記抗体の使用については、抗体はその種の形式に転換されてもよい。
【0110】
ファージディスプレイ技術が、抗体産生動物の関与無しに、多種類の抗原に対する組み換えヒトモノクローナル抗体断片を生産するのに使用されてもよい。一般に、クローニングは、ヒトBリンパ球の総mRNAから「逆転写酵素」によって導かれ、かつ合成された相補的DNA(cDNA)の大規模な遺伝子ライブラリーを創生する。例として、免疫グロブリンcDNA鎖がポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により増幅され、そして、所与の抗原に対して特異的な軽鎖及び重鎖がファージミドベクター中に導入される。このファージミドベクターを適切な細菌に形質移入することにより、バクテリオファージの表面に、scFv免疫グロブリンの発現が得られる。特異的免疫グロブリンを発現するバクテリオファージは、所望の抗原(例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、及び、糖)に対する免疫吸着/ファージ増殖サイクルの反復によって選択される。標的抗原に厳密に特異的なバクテリオファージは、適切なベクター(例えば、大腸菌、酵母、細胞)中に導入され、そして、大量のヒト抗体断片(一般に天然抗体に非常によく似た構造である)を生産するために発酵により増幅される。ファージディスプレイ技術は、本技術分野で周知されており、標的化及び治療用の用途のための独自のリガンドの生産を可能としている。
【0111】
選択された抗原に対するポリクローナル抗体は、ウマ、ウシ、種々の家禽、ウサギ、マウス、又は、ラットのような温血動物から、当業者により容易に生産されてもよい。場合によっては、選択された抗原に対するヒトポリクローナル抗体が、ヒト資源から精製されてもよい。
【0112】
本書で使用される場合、「単一ドメイン抗体」(dAb)は、指定の抗原と免疫学的に反応するVドメインから構成される抗体である。dAbはVドメインを含まないが抗体中に存在することが知られている他の抗原結合ドメイン、例えばκ及びλドメインを含んでいてもよい。dAbを調製する方法は、当業者既知である。例えば、Ward et al. (1989) Nature 341:544-546を参照。抗体は、V及びVドメイン並びに他の既知の抗原結合ドメインから構成されていてもよい。これらの型の抗体の例とそれらの調整法は、当業者に周知されている(例えば、米国特許第4,816,467号を参照)。
【0113】
更に模範的な抗体は、二番目の重鎖のFc(即ち定常性の)領域と結合した重鎖/軽鎖二量体から構成される凝集体である「一価の抗体」を含む。この型の抗体は、一般に、抗原性の調節を回避する。例えば、Glennie et al. (1982) Nature 295:712-714を参照。
【0114】
「ハイブリッド抗体」は、一組の重鎖と軽鎖が一番目の抗体のそれらに相同性であり、他の組の重鎖と軽鎖が二番目の抗体のそれらに相同性であるような、抗体である。典型的には、これら二組の各々が異なるエピトープとりわけ異なる抗原上に結合するであろう。この結果、「二価」すなわち同時に二つの抗原に結合可能な特性をもたらす。そのようなハイブリッドは、本書で説明されるようなキメラ鎖を用いて形成されてもよい。
【0115】
本発明は、「改変抗体」すなわち哺乳類抗体における天然のアミノ酸配列が改変された抗体をも包含する。組み換えDNA技術を用いて、抗体は所望の特性を獲得するように再設計され得る。可能な変化は多くあり、その範囲は、1又はそれ以上のアミノ酸の変化から領域(たとえば定常領域)の完全な再設計まである。抗原結合特性を変えるために、可変領域の変化が施されてもよい。抗体は、特異的細胞又は組織部位に対し、複合体の特異的送達を助けるように設計されてもよい。好適な改変は分子生物学の既知の技術、例えば、組換え技術、部位特異的変異誘発、及び、その他の技術によりなされてもよい。
【0116】
「キメラ抗体」は、重鎖、及び/又は、軽鎖が融合タンパク質である抗体である。典型的には、鎖の定常領域がある特定の種類及び/又はクラスからのものであり、そして、可変領域は、異なる種類及び/又はクラスからのものである。本発明は、キメラ抗体誘導体すなわち非ヒト動物の可変領域とヒトの定常領域を組み合わせた抗体分子を含む。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラット、又は、他の種からの抗原結合領域と、ヒトの定常領域を含んでいてもよい。キメラ抗体を作成するための種々の方法が記述されており、標的細胞及び/又は組織の表面の選択された抗体を認識する免疫グロブリン可変領域を含むキメラ抗体を作成するために使用し得る。例えば、Morrison et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81:6851; Takeda et al. (1985) Nature 314:452; 米国特許第4,816,567及び4,816,397; 欧州特許公報EP171496及びEP173494; 英国特許GB2177096Bを参照。
【0117】
2方向特異性(bispecific)抗体は、抗標的部位抗体の可変領域と抗原足場複合体上の少なくとも一つの抗原に特異的な可変領域とを含み得る。他の場合には、2方向特異性(bispecific)抗体は、可変領域と抗標的部位抗体とリガンドリンカー分子に特異的な可変領域とを含み得る。2方向特異性(bispecific)抗体は、雑種のハイブリドーマを形成によって、例えば、体細胞雑種によって、得られてもよい。雑種のハイブリドーマはStaerzらの(1986, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83:1453)及びStaerzらの(1986, Immunology Today 7:241)によって開示されているような当該技術分野で既知の手法を用いて調製されてもよい。体細胞雑種形成は、クアドローマを生成する二つの確立されたハイブリドーマの融合(Milstein et al. (1983) Nature 305:537-540)、又は、トリオーマを生成する二番目の抗原で免疫されたマウス由来のリンパ球と一つの確立されたハイブリドーマの融合を含む。雑種のハイブリドーマの選別は、特異的薬剤耐性マーカーに対する各ハイブリドーマ細胞株の耐性を得るか(De Lau et al. (1989) J. Immunol. Methods 117:1-8)、又は、各ハイブリドーマを異なる蛍光色素で標識しそしてヘテロの蛍光性細胞を選り分ける(Karawajew et al. (1987) J. Immunol. Methods 96:265-270)、ことによって行う。
【0118】
2方向特異性(bispecific)抗体は、Staerz et al. (1985) Nature 314:628 and Perez et al. (1985) Nature 316:354において記述された手順のような手順を用いる化学的方法により構築されてもよい。化学的抱合は、例えば、E−アミノ基又はヒンジ領域チオール基と、ホモ及びヘテロの二機能性試薬の使用に基づいてもよい。5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DNTB)のようなホモの二機能性試薬は、二つのFabの間のジスルフィド結合を生成し、そして、0-フェニレンジマレイミド(O‐PDM)は、二つのFabの間のチオエーテル結合を生成する(Brenner et al. (1985) Cell 40:183-190, Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139:2367-2375)。N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)のようなヘテロの二機能性試薬は、クラス又はイソタイプに関わり無く、抗体の露出したアミノ基とFab断片とを結合させる(Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 44:738-743)。
【0119】
二機能性抗体は、遺伝子工学技術を用いて調製されてもよい。遺伝子工学は、プラスミドに抗体の特異的断片をコードするDNA配列を連結するための組み換えDNA技術の使用に関わり、そして組み換えタンパク質を発現させる。2方向特異性(bispecific)抗体は、リンカーを用いて二つの単鎖Fv(scFv)を結合させることによる単独の共有結合性構造として(Winter et al. (1991) Nature 349:293-299); 転写因子fos及びjun由来配列を共発現するロイシンジッパーとして(Kostelny et al. (1992) J. Immunol. 148:1547-1553); p53の相互作用ドメインを共発現するヘリックス‐ターン‐ヘリックスとして(Rheinnecker et al. (1996) J. Immunol. 157:2989-2997);又は、二重特異性抗体断片(diabody)として(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6444-6448)も作成され得る。
【0120】
本発明のキット
本発明はキットも提供する。ある実施形態において、本発明のキットは、本発明の抗原足場複合体を含む1又はそれ以上の容器を含む。他の実施形態において、本発明のキットは、前記複合体に使用する抗原を含む1又はそれ以上の容器、及び/又は、前記複合体に使用する足場分子のための試薬を含む1又はそれ以上の容器、を含む。前記キットは、使用説明の好適なセット、一般的には文書の使用説明書で、意図した治療(例えば、免疫調節、感染症の寛解症状、癌の寛解症状、自己免疫疾患の寛解症状)のための抗原足場複合体の使用に関連している、を更に含んでいてもよい。
【0121】
前記キットは、抗原足場複合体、又は、抗原足場複合体を形成するための構成要素が、任意の簡便で適切な包装中に包装されて、含んでいてもよい。例えば、抗原足場複合体が乾燥形態(例えば、凍結乾燥又は乾燥粉末)であるならば、抗原足場複合体が弾性のある栓を介して注射液で容易に再懸濁されてもいいように、弾性のある栓のバイアルが通常は使用される。抗原足場複合体の液体製剤に対しては、非弾性の取り除ける閉め具(例えば、密閉されたガラス)の、又は、弾性の栓の、アンプルがたいていは常套的に使用される。
【0122】
抗原足場複合体の使用に関する使用説明は、一般に、意図する治療のための、用量、投薬スケジュール、及び、投与経路についての情報を含んでいる。抗原足場複合体の容器は、単位用量、バルク包装(例えば、マルチ用量包装)、又は、半単位用量であってもよい。本発明のキットで提供される使用説明は、典型的にはラベル又は添付書類上に書かれた説明(例えば、キット内に含まれる紙のシート)であるが、機械で読み取れる使用説明(例えば、磁気又は光学的記憶ディスクの使用説明)も許容される。
【0123】
組成物の使用方法
本発明は、本書で記述されたように、個体への抗原足場複合体、及び/又は、抗原足場複合体で処理された細胞の投与を含む、個体の免疫応答を調節する方法を提供する。特定の方法及び該方法で使用される抗原足場複合体は、レシピエント個体の必要性及び望まれる免疫調節の型(例えば、亢進又は抑制)に依存する。
【0124】
多数の個体が本書で記載の抗原足場複合体を受容するのに好適である。好ましくは個体は哺乳動物であり、より好ましくは(必ずしもそうでなくてもよいが)個体はヒトである。本書で使用される場合、また当業者に周知されているが、「治療(treatment)」は、有利な又は望ましい結果(臨床的な結果を含む)を得るためのアプローチである。本発明の目的のための、有利な又は望ましい臨床結果は、以下を含むがこれらに限定されるものではない:検出可能か又は検出不可能かの何れかの、1以上の症状の軽減若しくは寛解、疾病の程度の減少、疾病の状態の安定化(即ち悪化はしない)、疾病の伝播の防止、疾病の進行の防止若しくは遅延化若しくは緩徐化、疾病状態の寛解(amelioration)若しくは緩和(palliation)、及び、緩解(remission)(部分的に又は全部の何れか)。「治療(treatment)」は、もし治療を受けなかった場合に予想される寿命と比較して寿命が延長されることをも意味され得る。疾病又は疾患が「緩和する(palliating)」とは、疾患を治療していない場合と比較して、疾患若しくは疾病状態の程度及び/又は望ましくない臨床症状を減少させ、及び/又は、進行の時間経過を減速若しくは遅らせることを意味する。更に、緩和(palliation)は、必ずしも一回の用量の投与で起こる必要は無く、しばしば、一連の用量の投与によって起こる。よって、応答又は疾患を緩和するのに十分な量は、1又はそれ以上の投与により、投与されてよい。
【0125】
ある実施形態においては、本発明の免疫調節方法を受ける個体は、ワクチンとして抗原足場複合体を受ける個体である。前記ワクチンは、予防的ワクチン又は治療的ワクチンであってよい。予防的ワクチンは、個体が危険に置かれるような疾患と関連した抗原の抗原足場複合体を含む(例えば、HIV関連疾患の予防ワクチンとしてのHIV抗原;結核予防ワクチンとしての結核菌抗原)。治療的ワクチンは、個体を冒す特定の疾患と関連した抗原(例えば、結核患者の結核菌表面抗原又は癌患者の癌関連抗原)の抗原足場複合体を含む。ワクチンとしての抗原足場複合体の投与は、該抗原及び該抗原を発現する細胞への免疫応答、とりわけT細胞免疫応答をもたらす。
【0126】
治療的ワクチンの場合には、抗原足場複合体の投与は、ワクチンにより治療しようと意図した疾患の、1以上の症状の寛解も生じる。当業者には明白であろうが、それら改善の症状及び様式は、治療されようとする疾患に依存するであろう。例えば治療的ワクチンの対象が肝炎である場合、抗原足場複合体は肝炎感染の1以上の症状の減少をもたらす(例えば、黄疸、疲労、腹痛、ウイルス血症、門脈の高血圧症、硬変、及び/又は、肝臓酵素の血中濃度)。
【0127】
それゆえ、本発明の実施形態は、癌又は感染症のような既存の疾病又は疾患を有する個体の治療と関連している。ほとんどの癌は癌関連抗原及び/又は癌特異的抗原を発現しているので、癌は本発明の抗原足場複合体に対する標的として魅力的である。癌細胞に対してのT細胞の刺激及び/又は増強は、免疫系による癌細胞の直接又は間接(bystander)的殺傷をもたらし、癌細胞の減少と症状の減少へと導く。癌を有する個体への抗原足場複合体の投与は、癌細胞に対して、免疫応答とりわけT細胞反応の刺激をもたらす。そのような免疫応答は、細胞性免疫系細胞(例えばCTL)若しくは液性免疫系の構成成分の直接作用を介して、又は、該免疫系の標的となる細胞の近位の細胞への傍観者的効果を介して、癌細胞を殺傷し得る。
【0128】
本発明の抗原足場複合体への、又は、後述する抗原足場複合体に感作されたAPCへの反応性を有する癌は、以下を含むがこれらに限定されるものではない:ヒトの肉腫及び悪性腫瘍、例えば、黒色腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、造骨性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ脈管肉腫、リンパ脈管内皮肉腫、滑膜種、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、延髄癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞腫、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮性癌、神経膠腫、星状腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管細胞芽腫 、聴覚性 神経腫、乏突起細胞腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫;白血病、例えば、急性リンパ性白血病及び急性骨髄球性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球の、骨髄単球性、単球の、及び、赤血白血病);慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球の)白血病、及び、慢性リンパ性白血病);並びに、真性赤血球増多症、リンパ腫(ホジキン病、及び、非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及び、重鎖病(heavy chain disease)。
【0129】
本発明による治療的ワクチン及び治療は、感染症とりわけ液性免疫応答に抵抗性の感染症を有する個体にとって有用でもある(例えば、放線菌感染及び細胞内病原体によって誘発された疾病)。抗原足場複合体療法は、細胞性病原体(例えば、細菌又は原虫)によって又は細胞内病原体(例えばウイルス)によって誘発される感染症の治療にも使用し得る。抗原足場複合体療法は、結核(例えば、結核菌及び/又はマイコバクテリウムボビス感染)、ライ病(すなわちライ菌感染)、又は、マイコバクテリウムマリナム(M. marinum)若しくはマイコバクテリウムアルセランス(M. ulcerans)感染のような放線菌疾患に苦しむ個体に投与されてもよい。抗原足場複合体療法は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、肝炎ウイルスB、肝炎ウイルスC、疱疹ウイルスとりわけ単純ヘルペスウイルス、及び、乳頭腫ウイルスを含むウイルス感染の治療にも有用である。マラリア(例えば、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、熱帯熱マラリア原虫、及び/又は、四日熱マラリア原虫による感染)、レーシュマニア症(例えば、Leishmania donovani、L. tropica、L.mexicana、L. braziliensis、L. peruviana、L. infantum、L. chagasi、及び/又は、L. aethiopicaによる感染)、及び、トキソプラスマ症(すなわちトキソプラスマ原虫による感染)のような細胞内寄生虫が原因となっている疾病も、抗原足場複合体療法の利益を受ける。抗原足場複合体療法は、住血吸虫症(すなわち、S. haematobium, S. mansoni, S. japonicum, and S. mekongiandのようなSchistosoma属の血吸虫による感染)、及び、肝吸虫症(すなわちClonorchis sinensisによる感染)のような寄生虫疾病の治療にも有用である。感染症に苦しむ個体への抗原足場複合体の投与は、感染症の症状の寛解をもたらす。
【0130】
ある実施形態においては、本発明の免疫調節方法を受ける個体は、本書に記載された抗原足場複合体で生体外にて処理された細胞を受ける個体である。こららの実施形態は、抗原足場複合体による体外での細胞(とりわけPBMCs更にとりわけ樹状細胞)の処理、及び、該処理された細胞の個体への投与(但し、該細胞は個体内で免疫応答を増強するのに役立つ)を含む。該複合体で処理された細胞集団は、個体への投与前にはCD4+/CD25+T細胞が除去されているであろうことが好ましい。レシピエント個体へ投与される前のCD4+/CD25+T細胞の除去は、レシピエントにおける抗原寛容及び生じる免疫応答の抑圧を、減弱又は抑制する。Onizuka et al. (1999) Cancer Res. 59:3128-3133; Shimizu et al. (1999) J. Immunol. 163:5211-5218。
【0131】
生体外方法のための前記細胞は、一個体から収集され、必要とされる培養条件下に置かれる。例えば、T細胞及び/又は樹状細胞は、末梢血単核細胞(PBMCs)、リンパ節、及び/又は、骨髄から得ることが可能である。そのような細胞の収集及び培養法は、当業者既知である。単離及び成熟化法を含む単球由来樹状細胞の大量調整法が、例えば、Thurner et al. (1999) J. Immunol. Methods 223:1-15及びPullarkat et al. (2002) J. Immunol. Methods 267:173-183で記載されている。APCs例えば樹状細胞は、抗原足場複合体とインビトロでインキュベーションされることにより該複合体の抗原に感作される。
【0132】
本発明の生体外方法に適する個体は、インビボワクチン法が適するのと同じ型の個体、すなわち、増強されたT細胞免疫応答の利益を享受する疾患によるリスクのある又は苦しむ個体(例えば感染症及び/又は癌によるリスクのある又は苦しむ個体)である。
【0133】
抗原足場複合体が生体内で、生体外で、又は、試験管内の何れの方法で使用されようと、該方法の実施形態において、前記個体に投与される及び/又は前記細胞に添加される該複合体は、エピトープを有する抗原ペプチド(但し、該抗原ペプチドは、レシピエント個体、及び/又は、細胞のMHCクラスI又はクラスII分子により特異的に提示される)を含む。例えば、HLA―A2、HLA―A3、HLA―DR1、HLA―DR4アレルを有するレシピエント細胞集団に対し、これら特定のMHC分子によって提示される抗原ペプチドを含有する抗原足場複合体が使用される。
【0134】
抗原足場複合体が生体内で、生体外(エキソビボ)で、又は、試験管内(インビトロ)の何れの方法で使用されようと、ある実施形態においては、該抗原足場複合体は、サイトカイン及びケモカインのようなアジュバント又は他の免疫刺激剤と結合させて使用される。「アジュバント」とは、抗原のような免疫原性物質に添加された場合に、混合物への暴露によりレシピエント宿主における該免疫原性物質への免疫応答を非特異的に高めるか又は増強する物質を言う。好適な免疫刺激剤には、免疫刺激性ポリヌクレオチド、Flt―3リガンド、CD40リガンド、OX40(CD134)、Trance/RankL、TNFα、IL―1、IL―2、及び、CCR7プラスミドを含むがこれらに限定されない。当業者に周知され且つ本書で記載されているように、非メチル化CpGジヌクレオチドを含む免疫刺激性ポリヌクレオチドは、樹状細胞及び他の免疫細胞に該複合体を標的化するための該複合体の構成要素として有用である。そのような免疫刺激性ポリヌクレオチドは、必ずしも抗原足場複合体の構成要素としてではなく、該複合体と共投与される際にアジュバントとしても使用される。D型免疫刺激性オリゴヌクレオチドは、単球を成熟細胞に分化するよう刺激もし(本書に記載されているように)、これら分子は本発明の前記複合体と共に特定の使用がなされる。Klinman et al. (2002)の上記文献。アジュバントは、周知されているが水内の油の乳濁液、油内の水の乳濁液、ミョウバン(アルミニウム塩)、リポソーム、及び、マイクロ粒子を含むがこれらに限定されず、ポリスチレン、デンプン、ポリホスファゼン(polyphosphazene)、及び、ポリ乳酸/polyglycosidesを含むがこれらに限定されない。他の好適なアジュバントには、MF59、DETOX(商標)(Ribi)、スクアレン混合物(SAF‐1)、ムラミルペプチド、サポニン誘導体、放線菌細胞壁調製物、一リン酸化脂質A、ミコール酸誘導体、非イオン性ブロック共重合体界面活性物質、Quil A、コレラ毒素Bサブユニット、ポリホスファゼン(polyphosphazene)及び誘導体、並びに、免疫刺激複合体(ISCOMs)も含むがこれらに限定されない。使用される特定のアジュバント又は剤は、前記複合体が標的とする細胞の型、及び、所望の免疫応答の型に依存するであろう。例えば、樹状細胞は、抗原足場複合体と、及び、CD40Lと、最終的には、T細胞とインキュベーションされ得る。CD40L(CD40リガンド:TNFファミリーの一員)は、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)上のCD40に結合し、該抗原提示細胞はT細胞に活性化シグナルを伝達し且つAPCが共刺激B7分子を発現するように活性化し、そして更に、T細胞増殖を刺激する。よって、抗原足場複合体を処理する細胞へのCD40Lの添加は、活性化T細胞へ共刺激シグナルを提供し、該T細胞のクローン増殖及び分化をもたらす。
【0135】
ある実施形態において、本発明の方法は、自己免疫疾患に苦しむ個体、又は、特異的な免疫抑制を必要とする個体(例えば、移植のレシピエント)の処置を指向する。これらの方法は、T調節性細胞(CD4+/CD25+)が自己反応性細胞の活性を抑制する能力に基づいており、そして、自己免疫応答又は疾患を抑制又は阻害するか或いは移植拒絶を抑制する。理論的な裏付けを望まなくとも、そのようなT調節性細胞は、腫瘍成長因子β(TGF‐β)のようなサイトカインの放出を介して作用すると信じられている(該TGF‐βは、)自己反応性T細胞を特異的に抑制する。例えば、Jiang et al. (1992) Science 256:1213; Miller et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:421-425を参照。
【0136】
これらの実施形態は、抗原足場複合体による、細胞(とりわけPBMCs更にとりわけ樹状細胞)の生体外処理、及び、それに続く処理した細胞集団からのCD4+/CD25+T細胞の回収を含む。これら活性化したT調節性細胞は、それから個体に投与され、該個体中で該細胞は自己免疫応答を抑制するのに寄与する。ある実施形態においては、本方法に使用される前記細胞は、最終的に再投与される個体から単離されたものである。他の実施形態においては、本方法に使用される前記細胞は、レシピエント個体と同種であろう。ある実施形態においては、抗原足場複合体で処理される細胞は、アジュバントと共に処理されもするだろう。前記処理された集団からのCD4+/CD25+T細胞の回収は、当業者に周知された方法―CD4+/CD25+T細胞に特異的に反応する薬剤による該細胞のポジティブ選択、及び、CD4+/CD8+細胞を除去するネガティブ選択を含むがこれらに限定されない―を用いて行い得る。ポジティブ及びネガティブ細胞選択のための技術及び試薬は、当業者に周知されており、また、例えばMiltenyi Biotech社から市販されている。
【0137】
本発明の抗原足場複合体及び抗原足場複合体で処理された細胞が症状を緩和させ、その発生又は再発生を治療又は予防するのに寄与してもよい自己免疫疾患には、例えば、MS、RA、シェーグレン症候群、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、若年性関節リウマチ、強直性 脊椎炎、MG、水疱性 類天疱瘡、天疱瘡、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、ハシモト病、悪性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病、及び、アジソン病等を含む。
【0138】
他の実施形態において、本発明は、免疫優性MHCエピトープを同定する方法を指向する。本発明のマルチ抗原足場複合体で細胞を処理した後、該処理された細胞のMHCクラスI及びIIと会合する該抗原ペプチドが回収され得、該ペプチドは免疫優性エピトープを同定するために解析される(但し、免疫優性エピトープとは、特定の細胞のMHC分子においてより頻繁に提示されるエピトープ)。MHCエピトープ含有抗原ペプチドを同定する一つの方法は、T細胞の場合には、酸又は塩基でペプチドを溶出することである。MHC分子と会合するペプチドは、抗原提示細胞上、及び、CTLにより溶解される細胞上に存在する。溶出されたペプチドはHPLCのような精製法を用いて分離し、そして個々のフラクションはそのMHC結合活性、例えばCTL溶解に対する標的を感作する能力、が調べられる。抗原ペプチドを同定するもう一つの方法は、前記細胞からMHC抗原複合体を切り出し、MHC分子から抗原を溶出し、そして、質量分析で抗原を単離することである。フラクションがMHCペプチド含有と同定された場合、更なる精製がなされシークエンス解析を受ける。ペプチド配列は、直列型質量分析を使用しての決定も可能である。それから、正しい配列及びペプチドが同定されたことを実証するために、合成ペプチドが調製され得、そして、MHC結合活性が試験され得る。MHCペプチド複合体からペプチドを溶出・回収する技術は、例えば、Falk et al. (1990) Nature 348:248-251、Elliot et al. (1990) Nature 348:195-197、Falk et al. (1991)の上記文献において記載されている。
【0139】
投与及び免疫応答の評価
本発明の更にもう一つの態様によれば、本発明の組成物は、抗原足場複合体、抗原足場複合体含有組成物、及び、本発明の方法を用いて刺激及び/又は生成される細胞を含有する組成物、並びに、それらの混合物を含むが、本書に記載された状態を治療するための薬物の調製において使用される。本発明の前記組成物は、医薬的に許容し得る組成物として投与される。抗原足場複合体は、本書に記載したような医薬の及び/又は免疫刺激性の剤と組み合わせて投与され得、また、生理的に許容し得る担体と結合され得る。前記組成物は、任意の好適な方法、静脈内、非経口的、又は、局所的、を含むがこれらに限定されない方法により投与されてよい。前記組成物は、大量瞬時投与若しくは連続的注入による単一用量での、又は、用量滴定のために選択された時間間隔に渡る幾つかの用量での投与が可能である。
【0140】
ある実施形態において、抗原足場複合体は、フリーの抗原及びアジュバント若しくは他の免疫刺激剤を含む組成物と結合して投与される。例えば、前記複合体は、フリーの抗原ペプチドとアジュバントの乳濁液と共に投与される。そのような場合、フリーの抗原ペプチドは、前記投与された複合体において使用された、同一の混合抗原であってよい。
【0141】
本書で使用される場合、「医薬的に許容し得る賦形剤」には、組成物の活性成分と組み合わせた時に、該成分が対象の免疫系で破壊的反応無しに生物学的活性を保持するような、任意の物質を含む。種々の医薬的に許容し得る賦形剤が当業者に周知されている。
【0142】
模範的な医薬的に許容し得る賦形剤には、無菌の、水性又は非水性の、溶液又は懸濁液が含まれる。含まれるものの例としては、生理食塩水及び緩衝媒体を含めた、リン酸緩衝食塩溶液、水、アルコール/水溶液、乳濁液、又は、懸濁液のような標準的医薬賦形剤があるがこれらに限定されない。非経口的溶媒には塩化ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖、ブドウ糖と塩化ナトリウム、乳酸リンゲル又は固形油を含む。静脈内溶媒は、リンガーブドウ糖に基づく補充剤のような、液体栄養補充剤、及び、電解質補充剤等を含む。そのような賦形剤を含む組成物の製剤化は、周知の常套的手法により成される(例えば、レミントンの製薬科学、第18版、Mack出版を参照)。
【0143】
あらゆる免疫原性組成物について、免疫学的に効果的な量及び特定の抗原足場複合体又は抗原足場複合体で処理された細胞の投与方法は、投与される個体の条件及び当業者に明白な他の要因に基づいて変化させられ得る。考慮されるべき因子は、免疫原性、抗原足場複合体がアジュバント又は免疫刺激剤と共に投与されるか否か、投与経路及び投与されるべき免疫化用量の総数、治療されるべき疾病の段階及び重篤度、レシピエント個体の体重及び一般的健康、並びに、処方する医師の判断を含む。そのような因子は技術分野で知られており、そして、当業者は過度の試行無しにそのような決定をすることも知られている。物質の「有効な量」又は「十分な量」は、有益な又は望ましい結果(臨床結果を含む)を及ぼすのに十分な量であり、そして、そのような「有効な量」はそれが適用されるべき状況(文脈)に依存している。有効な量は、1又はそれ以上の投与で投与され得る。
【0144】
好適な用量範囲は、抗原への免疫応答の所望の調節を実現する範囲である。一般に、用量は、抗原足場複合体全体の量より、むしろ、患者に投与される抗原の量により決定される。抗原足場複合体の有用な用量範囲は、送達される抗原の量で規定され、例えば、凡そ以下の何れかからでよい:用量当たり0.01μgから1000μg、用量当たり0.1μgから100μg、及び、用量当たり1.0μgから10μg。一般に、初期免疫(治療的又は予防的投与のための)の用量範囲は凡そ、1.0μgから100μg、用量当たり1.0μgから50μg、及び、用量当たり1.0μgから10μg以下の何れかからで;続く追加免疫の用量は凡そ、1.0μgから100μg、用量当たり1.0μgから50μg、及び、用量当たり1.0μgから10μg以下の何れかからで;測定による個体の反応及び状態(例えば、個体中を循環する細胞のCTL活性)に依存して数週間から数ヶ月追加免疫管理が行われる。非経口投与における好適な容量は、注射部位当たり、凡そ0.1から1.0mlである。各患者に与えられる絶対量は、生物的利用能、クリアランス速度、及び、経路投与のような薬理学的性質に依存する。
【0145】
生体外処理細胞の投与に関しては、典型的には、凡そ10−1010細胞が、50μlから1リットル、1mlから1リットル、10mlから250ml、50mlから150ml、そして典型的には100mlの容量中にて投与され得る。前記容量は、投与される細胞の型、治療される疾患、及び、投与経路に依存する。
【0146】
前記組成物及び/又は細胞の単回又は多数回投与が、治療担当医師によって選択される用量レベル及び様式で実行され得る。
【0147】
特定の抗原足場複合体投与の有効な量及び方法は、個々の患者及び疾病の段階、並びに、当業者に明白な因子に基づいて、変えられ得る。特定の適用において有用な投与経路は、当業者には明白である。投与経路は、局所的、真皮性、経皮性、経粘膜性、上皮性、非経口的、胃腸の、及び、鼻咽頭の、及び、経気管支性及び経肺胞性を含む肺の経路を含むがこれらに限定されるものではない。各患者に与えられる絶対量は、生物的利用能、クリアランス速度、及び、経路投与のような薬理学的性質に依存する。
【0148】
本書で記述しているように、APCs及びAPCsが高濃度で存在する組織は、抗原足場複合体の好ましい標的である。ゆえに、APCsが相対的に高濃度で存在する哺乳動物の皮膚及び/又は粘膜への抗原足場複合体の投与は、好ましい。
【0149】
本発明は、生理学的に認容し得る植込錠、軟膏、クリーム、リンス、及び、ゲルを含むがこれらに限定されない局所使用に適した抗原足場複合体を、提供する。局所投与は、例えば、送達系の中で分散するこう薬又は絆創膏による、切開又は開放創傷中への送達系の直接投与による、或いは、対象部位に向いた経皮投与装置による。抗原足場複合体がそこで分散するクリーム、リンス、ゲル、又は、軟膏は、局所軟膏としての使用に好適である。
【0150】
好ましい経皮投与の経路は、少なくとも侵襲性の経路である。これらの方法において好ましいのは、経皮性透過、上皮性投与、及び、皮下注射である。これらの方法のうち上皮性投与は、皮内組織中にAPCsがより高濃度に存在することが予想されるので好ましい。
【0151】
経皮的投与は、抗原足場複合体を皮膚に浸透させ且つ血流に入れられる能力を有する、クリーム、リンス、ゲル等の適用によって達成される。経皮投与に好適な組成物は、直接皮膚に適用されるか又は経皮性の道具(いわゆる「パッチ」)のような保護的担体に組み込まれた、医薬的に許容し得る懸濁液、油、クリーム、及び、軟膏を含むがこれらに限定されない。好適なクリ−ム、軟膏等は、例えば、医師の机上の参考書(Desk Reference)中に見出し得る。経皮的浸透において、イオン注入は好適な方法である。イオン注入の浸透は、市販のパッチを用いて達成し得る(該パッチは、その生成物を無傷の皮膚を介して数日又はそれ以上の間、持続的に送達する)。この方法の使用は、相対的に多くの濃度における医薬組成物のコントロールされた浸透を可能とし、併用薬剤の注入を許容し、吸収促進剤の同時使用を可能とする。
【0152】
経皮的浸透については、低頻度超音波送達も好適な方法である。Mitragotri et al. (1995) Science 269:850-853。低頻度超音波(凡そ1MHz)の適用が、医薬組成物(高分子量の組成物を含む)の通常のコントロールされた送達を許容する。
【0153】
上皮投与は、本質的に、刺激への免疫応答を惹起するのに十分な、表皮の最外側層の機械的又は化学的刺激に関わる。とりわけ、前記刺激は、刺激部位へAPCsを引き付けるのに十分であるべきである。模範的な機械刺激法は、多重的な非常に細い直径の短いクシ(tine)を利用するもので、該クシは、クシの末端から移入された抗原足場複合体を取り込むことにより、皮膚を刺激して刺激部位へAPCsを引き付けるために使用され得る。例えば、Pasteur Merieux(Lyon、France)によって製造されたMONO-VACC旧式ツベルクリン検査(装置)は、抗原足場複合体の導入に好適な装置である。
【0154】
抗原足場複合体の上皮投与のもう一つの好適な方法は、皮膚の最外層細胞を刺激する化学薬品の使用によるものであり、これにより、該部位へAPCsを引き付けるのに十分な免疫応答を惹起する。一例として、NAIRの商標でNoxemaによって市販されている局所脱毛クリームで使用されているサリチル酸のようなkeratinolytic agentがある。このアプローチは、粘膜での上皮性投与を達成するためにも使用し得る。化学的刺激薬を機械的刺激と組み合わせて適用することも可能である(例えば、MONO-VACC型クシは化学的刺激薬で被覆されても(効果が)生じるであろう)。抗原足場複合体は、化学的刺激薬を含むか又はそれと共投与されてもよい担体中に懸濁され得る。
【0155】
非経口的投与経路は、電気的(イオン注入)、又は、中心静脈系への直接注入(direct injection into a central venous line)、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮内、若しくは、皮下注射のような直接注入を含むがこれらに限定されない。非経口投与に好適な抗原足場複合体製剤は、一般に、米国薬局方水又は注射用水中に製剤化されており、そして、更にpH緩衝液、塩、増量剤、防腐剤、及び、他の医薬的に許容し得る賦形剤を含んでいてもよい。非経口的注入用抗原足場複合体は、注入用の生理的食塩水及びリン酸緩衝食塩水のような医薬的に許容し得る無菌等張液中に製剤化されていてもよい。
【0156】
胃腸からの投与経路は、経口摂取及び直腸を含むがこれらに限定されない。本発明の胃腸からの投与に好適な抗原足場複合体製剤は、医薬的に許容し得る粉末、経口摂取のための丸剤若しくは液体、及び、直腸投与のための座薬を含むがこれらに限定されない。当業者には明白であろうが、丸薬又は座薬は、組成物のための原体を提供するために、澱粉のような医薬的に許容し得る固体を、更に含むであろう。
【0157】
鼻咽頭の及び肺への投与は、吸入によって達成され、そして、鼻腔内、経気管支性及び経肺胞経路のような送達経路を含む。本発明に含まれる吸入による投与に好適な抗原足場複合体製剤は、エアロゾルを形成する懸濁液、並びに、乾燥粉末吸入送達系のための粉末形状を含むがこれらに限定されるものではない。抗原足場複合体製剤の吸入による投与のための好適な装置は、アトマイザ(噴霧器)、気化器、噴霧器、及び、乾燥粉末吸入送達装置を含むがこれらに限定されない。
【0158】
抗原足場複合体又は抗原足場複合体で処理された細胞への免疫応答の解析(定性及び定量の双方)は、技術分野で既知の任意の方法―CD4+T細胞若しくはCD8+CTLsのような特定のリンパ球集団の活性化の測定、IFN‐γ、IFN‐α、IL‐2、IL‐4、IL‐5、IL‐10若しくはIL‐12のようなサイトカインの産生の測定、及び/又は、抗原特異的抗体産生の測定(特異的抗体のサブクラスの測定を含む)を含むがこれらに限定されない―により成し得る。T細胞増殖応答の測定は、例えば、技術分野で周知のBrdU取り込み測定を通して実行され得る。CD4+T細胞のような特定の型のリンパ球数の測定は、蛍光活性化細胞の選別(FACS)により達成され得る。クロム放出アッセイのような細胞障害性及びCTLアッセイは、技術分野で既知の方法により実行され得る。サイトカイン濃度は、例えば、ELISAにより測定され得る。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA及びELISPOT)を含む特異的抗体反応の測定は、技術分野で周知されている。これらのアッセイ及び免疫原に対する免疫応答を評価するための他のアッセイは、技術分野で周知されている。例えば、Current Protocols in Immunology(1991、Coliganらによる編集)を参照。
【0159】
用語「共投与(co-administration)」が本書で使用される場合、免疫応答を調節するために、少なくとも二つの異なる物質の時間的に十分に密接した投与を意味する。好ましくは、共投与は、少なくとも二つの異なる物質の同時投与を意味する。
【0160】
本書で使用される場合、「個体(individual)」は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。哺乳動物は、ヒト、農場の動物、スポーツ用の動物、げっ歯類、及び、ペットを含むがこれらに限定されるものではない。
【0161】
本書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び、「the」は、他にことわりが無いのであれば複数形の言及を含む。例えば、「a」標的細胞は、1つ以上の標的細胞を含む。
【0162】
本書で使用される場合、用語「含む(comprising)」及びその同族語(cognate)は、それらを包括するという意味(inclusive sense)で使用される;すなわち用語「含む(including)」及びその相当する同族語(cognate)と等価である。
【0163】
本書で提供される例は、本発明を説明するためのもので本発明を限定するものではない。なお、ここに、まとめとして、本発明の好ましい実施の形態を示す。
(形態1)
抗原及び免疫刺激性分子(免疫刺激剤)の付着を考慮した多くの部位を含み、多様な抗原及び一つ以上の免疫刺激性分子が結合された多価足場分子(足場分子)であって、
ここで、各抗原はMHCI又はMHCII拘束であるエピトープを含み、
少なくとも幾つかの抗原は互いに異なり、かつ
前記免疫刺激性分子はサイトカイン、ケモカイン又はD型免疫刺激性オリゴヌクレオチドで、なおかつ、
前記抗原はクラスI及びクラスIIの両エピトープを集合的に提供する、
多価足場分子(足場分子)。
(形態2)
前記足場分子は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、フィコール、ポリアルギニン、アガロース、デキストラン、若しくはポリリジン、又はそれらの誘導体を含む形態1に記載の足場分子。
(形態3)
前記抗原は、癌細胞上で発現されるタンパク質またはペプチドである形態1に記載の足場分子。
(形態4)
前記ペプチド抗原は、切断部位を含むリンカーで足場分子と結合し、かつ、該リンカーはプロテソーム及びエンドソームプロテアーゼのための基質を含む形態3に記載の足場分子。
(形態5)
前記免疫刺激性分子はTLR−3、TLR−9、若しくはCD40のためのリガンド、又はIL―1、IL―2である形態1に記載の足場分子。
(形態6)
前記足場分子がさらに樹状細胞表面と結合する標的化リガンドを含む形態1に記載の足場分子。
(形態7)
形態1〜6のいずれかの多様な足場分子を含んでなり、それらの混合物も含む組成物。
(形態8)
さらにアジュバントを含む形態7の組成物。
(形態9)
個体のT細胞免疫応答を刺激する方法で、又は、個体の感染を処置若しくは防御する方法で、又は個体の癌を処置若しくは防御する方法(ここで、該方法は前記組成物の有効量が個体に投与されることを含む)で使用するための形態7の組成物。
(形態10)
個体の癌を処置する方法で使用するための形態7に記載の組成物であって、
該方法は:
(a)前記個体から単離した樹状細胞又はその前駆細胞を含む細胞集団を培養して樹状細胞の増殖及び成熟を刺激する工程、
(b)前記樹状細胞と前記組成物を接触させる工程、ここで前記抗原は癌細胞上で発現されるタンパク質又はペプチドであり、
(c)前記細胞集団からCD25+/CD4+細胞を除去する工程、及び
(d)CD25+/CD4+細胞を含まない前記細胞集団を、前記癌細胞に対するT細胞応答を刺激するための有効量、前記個体に投与する工程、
を含むことを特徴とする組成物。
(形態11)
個体の自己疾患を処置する方法で使用するための形態7に記載の組成物であって、
該方法は:
(a)前記個体から単離した樹状細胞又はその前駆細胞を含む細胞集団を培養して樹状細胞の増殖及び成熟を刺激する工程、
(b)前記樹状細胞と前記組成物を接触させる工程、ここで前記抗原は自己抗原であり、
(c)細胞集団からCD25+/CD4+細胞を回収する工程、及び
(d)前記CD25+/CD4+細胞を、自己免疫疾患の症状を抑制するための有効量、前記個体に投与する工程、
を含むことを特徴とする組成物。
(形態12)
抗原集団における免疫優性抗原エピトープを同定する方法で使用するための形態7に記載の組成物であって、
(a)樹状細胞集団を前記組成物の足場分子と接触する工程、
(b)(処理された)細胞集団を回収する工程、
(c)(処理された)細胞集団の表面から抗原を溶出する工程、及び
(d)溶出された抗原を精製する工程、
を含むことを特徴とする組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15又はそれ以上の異なる抗原を含む抗原足場複合体であって、それぞれの抗原は少なくとも1つのMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープを含むことを特徴とする抗原足場複合体。
【請求項2】
前記複合体が、100又はそれ以上の異なる抗原を含む請求項1に記載の抗原足場複合体。
【請求項3】
前記複合体が、足場分子に結合した抗原を含む請求項1に記載の抗原足場複合体。
【請求項4】
前記足場分子が、アガロース、デキストラン、若しくはポリリジン又はそれらの誘導体を含む請求項3に記載の抗原足場複合体。
【請求項5】
前記抗原は、ペプチド抗原である請求項1〜4何れか記載の抗原足場複合体。
【請求項6】
少なくとも1つのMHCクラスIエピトープを含む前記抗原ペプチドは、前記抗原ペプチドのカルボキシ末端に追加の疎水性アミノ酸残基又は追加の塩基性アミノ酸残基をさらに含む請求項5に記載の抗原足場複合体。
【請求項7】
少なくとも1つのMHCクラスIエピトープを含む前記抗原ペプチドは、凡そ1〜3個の追加のリジン残基をさらに含む請求項5に記載の抗原足場複合体。
【請求項8】
前記抗原ペプチドは、追加のアラニン−プロリン配列をさらに含む請求項5に記載の抗原足場複合体。
【請求項9】
前記抗原ペプチドは、タンパク分解性基質を含むリンカーで足場分子と結合する請求項5に記載の抗原足場複合体。
【請求項10】
前記リンカーは、プロテオソーム又はエンドソームプロテアーゼの基質を含む請求項9に記載の抗原足場複合体。
【請求項11】
前記複合体は、リポソームに封入された抗原又はマイクロキャリア粒子と結合した抗原を含む請求項1に記載の抗原足場複合体。
【請求項12】
前記複合体がさらに標的化リガンドを含む請求項1又は11に記載の抗原足場複合体。
【請求項13】
前記標的化リガンドが、樹状細胞表面分子と結合する請求項12に記載の抗原足場複合体。
【請求項14】
前記標的化リガンドが、ランゲリン、DEC−205、DC−SIGN、TLR−3リガンド及びTLR−9リガンドからなる群より選択される分子と結合する請求項13に記載の抗原足場複合体。
【請求項15】
D型免疫賦活性オリゴヌクレオチドをさらに含む請求項1に記載の抗原足場複合体。
【請求項16】
前記複合体が、MAGE−A3又はチロシナーゼからの抗原ペプチドを含む請求項1に記載の抗原足場複合体。
【請求項17】
多数の抗原足場複合体を含む組成物であって、当該組成物は前記複合体に結合した15又はそれ以上の異なる抗原を含み、それぞれの抗原は少なくとも1つのMHCクラスI又はMHCクラスIIエピトープを含むことを特徴とする組成物。
【請求項18】
前記組成物は100又はそれ以上の抗原を含む請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
さらにアジュバント又は免疫賦活剤を含む請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜16何れか記載の抗原足場複合体と、医薬的に許容し得る賦形剤とを含む組成物。
【請求項21】
請求項20の組成物を投与することを特徴とする個体のT細胞免疫応答を刺激する方法。
【請求項22】
請求項1〜15何れか記載の抗原足場複合体を投与することを含む個体の感染症の治療方法であって、前記抗原が感染性病原体抗原であり、前記複合体が前記感染性病原体に対するT細胞応答を刺激するために有効量投与されることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項1〜15何れか記載の抗原足場複合体を投与することを含む感染性病原体に対する個体のワクチン接種方法であって、前記抗原が感染性病原体抗原であり、前記複合体が前記感染性病原体に対するT細胞応答を刺激するために有効量投与されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1〜16何れか記載の抗原−足場複合体を投与することを含む癌の免疫になるように個体にワクチン接種する方法であって、前記抗原が癌細胞上で発現され、前記複合体が前記癌細胞に対するT細胞応答を刺激するために有効量投与されることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項1〜16何れか記載の抗原足場複合体を投与することを含む個体の癌の治療方法であって、前記抗原が癌細胞上で発現され、前記複合体が前記癌細胞に対するT細胞応答を刺激するために有効量投与されることを特徴とする方法。
【請求項26】
個体の癌の治療方法であって、
(a)前記個体から樹状細胞又はその前駆細胞を含む細胞集団を単離する工程、
(b)前記細胞集団を培養して樹状細胞の増殖及び成熟を刺激する工程、
(c)前記樹状細胞と請求項1〜16何れか記載の抗原足場複合体を接触させる工程、ここで前記抗原は癌細胞上で発現され、
(d)前記細胞集団からCD25+/CD4+細胞を除去する工程、及び
(e)CD25+/CD4+細胞を含まない前記細胞集団を、前記癌細胞に対するT細胞応答を刺激するための有効量を前記個体に投与する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
個体の自己免疫疾患の治療方法であって、
(a)前記個体から樹状細胞又はその前駆細胞を含む細胞集団を単離する工程、
(b)前記細胞集団を培養して樹状細胞の増殖及び成熟を刺激する工程、
(c)前記樹状細胞と請求項1〜14何れか記載の抗原足場複合体を接触させる工程、ここで前記抗原は自己抗原であり、
(d)前記細胞集団からCD25+/CD4+細胞を回収する工程、及び
(e)CD25+/CD4+細胞を、自己免疫疾患の症状を抑制するための有効量を前記個体に投与する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
抗原集団における免疫優性エピトープを同定する方法であって、
(a)樹状細胞集団と請求項1〜15何れか記載の抗原足場複合体を接触させる工程、
(b)前記細胞集団を回収する工程、
(c)前記細胞集団の表面から抗原を溶出する工程、及び
(d)溶出された抗原を精製する工程、
を含むことを特徴とする方法。

【公開番号】特開2011−231111(P2011−231111A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109512(P2011−109512)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2006−525420(P2006−525420)の分割
【原出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(506074347)デンドリセラピューティクス、インク. (2)
【Fターム(参考)】