複合体形成系
本発明は、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成する複合体形成系に関する。本発明はさらに、複合体形成系を作り出す方法および複合体形成系の使用にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、SNARE複合体を基礎とする分子足場を形成するための複合体形成系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
真核細胞内では、小胞融合として知られている過程において、小胞が膜と融合する。例えば、小胞は、細胞原形質膜またはエンドソームもしくはリソソームなどの他の細胞コンパートメントと融合することができる。小胞融合の最も研究された形態は、シナプス後ニューロンの神経インパルスの伝搬を引き起こすように神経伝達物質を放出するための神経細胞のシナプス前膜とシナプス小胞のドッキングである。
【0003】
小胞融合の過程はSNAREタンパク質(SNARE)によって媒介されており、それらは酵母や哺乳動物細胞では60を超えるメンバーから成る巨大タンパク質スーパーファミリーである。SNAREは、小さいが、豊富にあり、そして大部分が膜結合タンパク質である。それらは構造とサイズで大きく異なるが、それらはすべて、SNARE複合体と呼ばれる密な4本ヘリックス束への集合を可能にするSNAREモチーフと呼ばれるそれらのサイトゾルドメイン内のセグメントを共有する。SNAREモチーフは、長さが約60〜70アミノ酸であると考えられているが(Jahn RおよびScheller RH)、このことは十分に規定されていない。SNARE複合体は3種類のタンパク質:シンタキシンおよびSNAP−25(これらは細胞膜に常在している);ならびにシナプトブレビン(小胞結合膜タンパク質またはVAMPとも呼ばれる)(これは小胞膜にアンカーされている)、で構成されることもある。
【0004】
ニューロンのエキソサイトーシスにおいて、シンタキシンとシナプトブレビンは、それらのC末端ドメインによってそれらのそれぞれの膜にアンカーされているが、SNAP−25は、数個のシステインが連結しているパルミトイル鎖を介して原形質膜につなぎ留められている。コアSNARE複合体は4本のαヘリックス束であって、そこでは、1本のαヘリックスがシンタキシンによってもたらされ、1本のαヘリックスがシナプトブレビンによってもたらされ、そして2本のαヘリックスがSNAP−25によってもたらされる。このSNARE複合体は、非常に安定していることが分かっている。小胞融合にかかわる分子機構の略図を図1に示している。
【発明の概要】
【0005】
発明者らは、SNARE複合体とその形成がさまざまな適用に使用できることを見出した。そのために、本発明の基礎は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分(cargo moieties)、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成する複合体形成系である。
【0006】
本発明の種々の態様において、先の複合体形成系に更なる制限を加えることができる。本発明はさらに、先の複合体形成系を使用した安定なSNARE複合体を作製する方法、ならびに先の複合体形成系と得られた安定なSNARE複合体の使用に関する。
【0007】
本発明の詳細な説明
以下の説明は、本発明の多くの異なった実施形態を提示する。しかしながら、記載したほとんどすべての制限、好ましい特徴および変形形態は、それらがすべて先に記載した複合体形成系に基づいている限り、本発明の他の実施形態に適切であることは、当業者にはすぐに分かるであろう。
【0008】
一態様において、本発明では分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し;かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである。
【0009】
本発明の他の態様において、複合体形成系が、50アミノ酸未満の長さであるポリペプチドヘリックスをたった2本しか持たないとは限らない。
本発明は、異なった機能単位を形成する安定した複合体の制御された集合を可能にする。安定した複合体を持つ利点は、複合体が解離するリスクなしに比較的厳しい条件でそれを使用できるという点である。これは、1もしくは複数のカーゴ部分が結合されている(単数もしくは複数の)ヘリックスが複合体の一部のままで残るので、確実に1もしくは複数のカーゴ部分が複合体の残った部分から解離しないようにすることを意味する。
【0010】
先に示したように、複合体形成系は、安定したSNARE複合体の形成に基づいている。そのため、本発明の4本のポリペプチドヘリックスには、それらが安定したSNARE複合体を形成する限り、ある程度の任意の配列を持つことができる。
【0011】
ニューロンでは、以下のタンパク質:SNAP−25;シンタキシン;およびシナプトブレビン、からSNARE複合体が形成される。これらのタンパク質、および他のSNAREタンパク質は、SNARE複合体を形成するのに関与するタンパク質の一部であるSNAREモチーフまたはSNAREドメインを含んでいる。これらのSNAREドメインまたはモチーフが、SNARE複合体を形成するために一緒に詰め込まれるヘリックスである。一般的に、SNAREタンパク質の一部だけが、SNARE複合体形成にかかわるが;SNAREタンパク質全体ではない。例えば、シンタキシンには、ヘッドドメインとしても知られているC末端膜貫通ドメイン、SNAREドメインおよびN末端調節ドメインがある。明らかに、SNAREドメインだけがSNARE複合体を形成するのに関与する。
【0012】
「SNAREモチーフ」や「SNAREドメイン」といった用語は、当業者にとって周知である。さらに、さまざまな異なったSNAREタンパク質のSNAREモチーフやSNAREドメインもまた当業者に周知である(Jahn R and Scheller RH(2006);Sieber et al.(2006);Besteiro(2006))。
【0013】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質、すなわち、SNAPタンパク質;シンタキシン;およびシナプトブレビンもしくはその相同体、のSNAREドメインまたはモチーフに基づいている。そのため、一実施形態において、複合体形成系は:SNAPタンパク質のSNAREモチーフに由来する2本のポリペプチドヘリックス;シンタキシンのSNAREモチーフに由来する1本のポリペプチドヘリックス;およびシナプトブレビンもしくはその相同体のSNAREモチーフに由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり;ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成する。本発明のヘリックスは、SNAREタンパク質からのSNAREモチーフまたはドメインと同じ長さである必要があるとは限らない。本発明の他のヘリックスと複合体を形成するときに、それが安定したSNARE複合体をまだ形成できている限り、それは長さがもっと短くてもよい。
【0014】
2本のポリペプチドヘリックスがそれに由来するSNAPタンパク質は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるSNAPタンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなSNAPタンパク質を知っている。例えば、SNAPタンパク質は、SNAP−25A、SNAP−25B、SNAP−23(シンデット(syndet)としても知られている)、またはSNAP−29であり得る。好ましくは、SNAPタンパク質はα−SNAPではない。好ましくは、SNAPタンパク質は、SNAP−25、すなわち、SNAP−25AまたはSNAP−25Bである。SNAPタンパク質は2つのSNAREモチーフを含んでいる。そのため、2本のポリペプチドヘリックスが、特定のSNAPタンパク質内の2つのSNAREモチーフに由来することもある。あるいは、2本のポリペプチドヘリックスが、異なったSNAPタンパク質に由来することもある。好ましくは、それらは同じSNAPタンパク質に由来する。
【0015】
ポリペプチドヘリックスがそれに由来するシンタキシン・タンパク質は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるシンタキシン・タンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなシンタキシン・タンパク質を知っている。例えば、シンタキシン・タンパク質は、シンタキシン1A、シンタキシン1B、シンタキシン2(エピモルフィン(epimorphin)としても知られている)、シンタキシン3およびシンタキシン4、シンタキシン5、シンタキシン6、シンタキシン7、シンタキシン8、シンタキシン10、シンタキシン11、シンタキシン13、シンタキシン17またはシンタキシン18から選択され得る。好ましくは、シンタキシン・タンパク質は、シンタキシン1Aまたは3である。
【0016】
ポリペプチドヘリックスがそれに由来するシナプトブレビン・タンパク質またはその相同体は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるシナプトブレビン・タンパク質またはその相同体であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなシナプトブレビン・タンパク質とその相同体を知っている。シナプトブレビンは、小胞結合膜タンパク質(VAMP)ファミリーのメンバーである。他のVAMPタンパク質がSNARE複合体を形成できることは知られているので、そのため、ポリペプチドヘリックスを得ることができる基礎を提供するのに好適であり得る。一実施形態において、シナプトブレビンの相同体は、SNARE複合体の一部を形成できるVAMPタンパク質である。そういったVAMPタンパク質は、当業者に周知である。シナプトブレビン・タンパク質またはその相同体は、シナプトブレビン1、シナプトブレビン2、シナプトブレビン3(セルブレビンとしても知られている)およびシナプトブレビン7(TI−VAMPとしても知られている)から選択され得る。好ましくは、ポリペプチドヘリックスは、シナプトブレビン・タンパク質に由来する。好ましくは、シナプトブレビン・タンパク質は、シナプトブレビン1、2または3である。
【0017】
SNAREタンパク質の起源である生物体は、SNARE複合体が利用されているあらゆる好適な生物体であることができる。例えば、そのタンパク質は:哺乳動物、例えばヒトなど、霊長動物、齧歯動物;魚類;および無脊椎動物、例えばハエなどが起源であり得る。任意に、SNAREタンパク質は酵母由来であってもよい(Rossi G et al.(1997))。SNAREタンパク質の起源である生物体は、複合体形成系の適用によって決まることもある。例えば、医療応用のためには、SNAREタンパク質はヒト起源であることが好ましい。
【0018】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質に由来する。SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質のSNAREモチーフまたはドメインのヘリックスは、通常長さが約60〜70アミノ酸である。先に示したとおり、本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNAREタンパク質のSNAREモチーフまたはSNAREドメインに由来する。「由来する」という用語は、ポリペプチドヘリックスの配列が、それが安定したSNARE複合体を形成することができるようなSNAREドメイン/モチーフの配列またはその一部と実質的に同じであることを意味する。好ましくは、ポリペプチドヘリックスの配列は、選択されたSNAREドメイン/モチーフまたはその一部の配列と少なくとも約80%の配列同一性を有するべきである。より好ましくは、配列同一性は、少なくとも約85%、そしてよりいっそう好ましくは少なくとも約90%であるべきである。一実施形態において、配列同一性は、少なくとも約95%、少なくとも約98%であり得るか、または100%でさえあり得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、選択されたSNAREドメイン/モチーフまたはその一部の配列と異なっていることがポリペプチドヘリックスの配列にとって望ましいこともある。これは、タンパク質の発現、タンパク質の精製または下流適用に関して有益であり得る。例えば、そして限定することなしに、これには、精製できるようにするための配列のいずれかの末端におけるヒスチジン残基の付加、または表面またはカーゴへのペプチドの機能性結合のための追加のリジンまたはシステイン残基の組み込みが含まれ得る。
【0019】
2つのSNAP由来ヘリックスは、配列番号1、2、5、6、24、41、48、49、50、51、64および65から選択される配列を含み得る。
シンタキシン由来ヘリックスは、配列番号3、7、9、25、32、33、34、35、36、37、38、46、47、60、61、62および66から選択される配列を含み得る。
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスは、配列番号4、8、27、28、29、30、31、42、43、44、45、52、53、67、68および69から選択される配列を含み得る。
さらに、SNAREタンパク質に由来するヘリックスは、先の配列から成ることができる。
加えて、本発明のヘリックスは、配列番号1〜9、12〜15および18〜69から選択される配列を含み得るか、またはそれらから成ることができる。
【0020】
それぞれのポリペプチドヘリックスは、それが他のヘリックスと相互作用して安定したSNARE複合体を形成するために十分に長くなくてはならない。実際には、このことは、ポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体の形成を可能にするのに十分に長いSNAREモチーフ/ドメイン部に由来しなければならないことを意味する。安定したSNARE複合体の形成を可能にするのに十分に長いポリペプチドヘリックスか否かを試験することは、比較的に単純であり、そして十分に当業者の能力の範疇にある。これは、ポリペプチドヘリックスを他の3本のポリペプチドヘリックスと複合体形成させ、そして得られたSNARE複合体が悪条件下で解離するか否か調べるために試験することによって行うことができる。悪条件は、一般に、タンパク質複合体やタンパク質−タンパク質相互作用の解離を引き起こす条件である。そういった条件は当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、そういった悪条件は、複合体を強い界面活性剤または破壊性の界面活性剤(disrupting detergent)に晒すことであり得る。一実施形態において、SNARE複合体は、それが変性SDS濃度(>0.02%)の存在下で実施されるSDS−PAGEを使用することによって安定しているか否かを測定するために試験されることができる。もし複合体がその構成要素に分かれるようにゲル中のSDSによって解離されるのであれば、このSNARE複合体は安定していないかもしれない。しかしながら、SDS−PAGEゲルを通して移動させ、そして、例えばクーマシー染色を使用するなどして検出できたときに、SNARE複合体が解離せずに、単一の実体として残っているのであれば、それは安定していると見なされることができる。そのため、一実施形態において、SNARE複合体がSDSを使用しても解離しないのであれば、安定していると見なされることができる。好ましくは、SNARE複合体は、約2%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルサンプルバッファーを使用した場合でも安定している。より好ましくは、SNARE複合体は、約0.1%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルを使用した場合でも安定している。これは、約0.1%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルを使用して行われることができる。
【0021】
あるいは、SNARE複合体の安定性は、ビーズ・プルダウン法によって確かめられる。もし複合体形成系の一成分が化学量論的様式ですべての相互作用パートナーを沈降させるのであれば、SNARE複合体が安定していると見なされる。ビーズ・プルダウン法は、当業者に周知である(Rickman C. et al.(2004))。
タンパク質−タンパク質相互作用の表面プラズモン共鳴測定もまた、使用され、そして当業者に周知である(Karlsson & Falt(1997))。表面プラズモン共鳴法を使用した場合、当業者が表面プラズモン共鳴シグナルの減少によって証明される解離を観察しなければ、SNARE複合体が安定していると見なされる。
【0022】
SNARE複合体が安定しているか否かを測定する別の方法は、複合体の解離定数を測定することである。これは複合体からの1本のヘリックスの解離に関する解離定数である。安定したSNARE複合体は、10-7M未満の解離定数を有するはずである。特定の実施形態において、安定したSNARE複合体は、10-8、10-9、10-10、10-11、10-12、10-13、10-14、または10-15M未満の解離定数を有するべきである。複合体形成系が使用される適用によって、異なった解離定数を有することが有益である可能性がある。そのため、いくつかの実施形態において、解離定数は、10-7M〜10-11Mまたは10-7M〜10-10Mであり得る。あるいは、解離定数は、抗体解離定数(6〜10×10-8M)に匹敵し得る。
SNARE複合体形成はさらに、完全に形成されたSNARE複合体に結合するコンプレキシンに結合することによって評価されることもできる(Hu et al.(2002))。
【0023】
一実施形態において、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約25アミノ酸である。そういったヘリックスを使用したSNARE複合体は、溶液中で形成できる。しかしながら、それらはSDS抵抗性でない可能性がある。好ましくは、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約30または約35アミノ酸である。より好ましくは、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約40アミノ酸である。そういったヘリックスを使用して形成されたSNARE複合体は、ほとんどの場合、SDS抵抗性である。あるいは、ポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約45アミノ酸であり得る。
【0024】
一実施形態において、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも1本が、50アミノ酸未満の長さである。この利点は、長さが50アミノ酸未満のポリペプチドを人工的に製造することの方がずっと容易であるという点である。50アミノ酸未満であるポリペプチドヘリックスは、いずれのポリペプチドヘリックスでもあり得る。好ましくは、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が、50アミノ酸未満の長さである。好ましくは、それらは、シンタキシンおよびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスである。
【0025】
代替の実施形態において、ポリペプチドヘリックスのうちの3または4本が、50アミノ酸未満の長さであり得る。そういった実施形態において、あらゆるヘリックスの組み合わせが、50アミノ酸未満の長さであり得る。発明者らは、それぞれのSNAREタンパク質のSNAREモチーフの最小ペプチド配列で高親和性の安定した4本ヘリックス束SNARE複合体を形成するのに十分であることを驚いたことに見出した。このことは、ペプチドの製造の容易さに関して有利である。さらに、各最小配列はカーゴを運搬できるので、それは機能性を保持している。
【0026】
2本のポリペプチドヘリックスが50アミノ酸未満の長さである場合には、好ましくは、それは、50アミノ酸未満の長さである、シンタキシンに由来するヘリックスおよびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスである。
【0027】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、ほぼ同じ長さであっても、異なる長さであってもよい。例えば、一実施形態において、それらはすべて約45アミノ酸の長さであり得る。あるいは、ポリペプチドヘリックスは異なった長さであり得る。
【0028】
本発明の一実施形態において、シンタキシンに由来するポリペプチド、および/またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドは、膜または脂質二重層へのSNARE複合体の固定化を可能にする膜結合配列をさらに含み得る。そういった膜結合配列は、当業者に周知である。例えば、シンタキシンとシナプトブレビンの天然配列は、タンパク質が小胞や細胞膜に結合できるようにする膜貫通部分を含んでいる(Kasai and Akagawa(2001)およびLaage et al.(2000))。そのため、一実施形態において、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスは、該ポリペプチドヘリックスを膜または脂質二重層に固定するためのシンタキシン膜貫通ドメインに由来する膜結合配列をさらに含み得る。同様に、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスは、該ポリペプチドヘリックスを膜または脂質二重層に固定化するためのシナプトブレビンもしくはその相同体の膜貫通ドメインに由来する膜結合配列をさらに含み得る。
【0029】
安定したSNARE複合体は、通常タンパク質複合体およびタンパク質−タンパク質相互作用の解離を引き起こす悪条件下でも分離しないものである。これは、例えばSDS−PAGE、ビーズ・プルダウン法、固定化されたタンパク質の表面プラズモン共鳴法、解離定数またはコンプレキシン結合を使用して計測することができる。このことについては、先にさらに詳細に議論している。
【0030】
SNARE複合体はよく研究され、そして当業者に周知であるので、当業者は、特定のタンパク質が本発明における使用に好適であるかどうか、そして安定したSNARE複合体を形成するように本発明のポリペプチドヘリックスを作り出すために、どのようにこれらのタンパク質およびそれらの配列を操作するかを確立することができるであろう。
【0031】
1もしくは複数のカーゴ部分は、当業者がポリペプチドヘリックスに結合させたい可能性があるあらゆる成分であり得る。1もしくは複数のカーゴ部分は、複合体形成系の中のヘリックスの末端に結合させるのが好ましい。カーゴ部分は、小分子、小分子、ポリペプチド、タンパク質、核酸または誘導体を含む重合体、および粒子またはナノ粒子から選択され得る。例えば、カーゴ部分は、以下のとおりであり得る:
【0032】
1.小分子、または小分子を含む重合体、例えば以下のものなど:
−アフィニティータグ、例えばビオチン;
−治療薬、例えば毒素または薬物;
−更なる/下流の架橋、重合および更なる誘導体化のための反応基、例えばアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、グアニジン基、フェノール基、チオエーテル基、イミダゾール基、インドール基など;
−更なる修飾形態に好適な自発的反応基、例えばSH基を架橋するためのマレイミドもしくは誘導体、または架橋するのに好適なその他の化学物質;
−表面に直接結合させるための分子、例えば金属面への結合のためのSH含有分子;
【0033】
−造影試薬、例えばUV、VIS、IR、ラマン、NMR、MRI、PET、X線または他の造影法のための蛍光または吸収性の成分;
−生物学的関連リガンド、例えば受容体結合性/標的化に関するもの;
−生物学的関連基質、例えばリン酸化または他のPTM部位;
−生物学的関連分子、例えば脂質または炭水化物;
−保護基または分子、例えばPEG;
−金属キレート化化合物;
【0034】
2.ポリペプチドまたはタンパク質、例えば以下のものなど:
−結合ペプチド、ホルモン、毒素など;
−機能性部位、例えばプロテアーゼ消化部位、を含むポリペプチドまたはタンパク質;
−標的化機能性ペプチド、例えば異なったオルガネラの標的化、(トランスフェクションのための)核標的化、(薬物送達のための)細胞内標的化などのためのもの;
−ペプチド親和性タグ、例えばFlag、Myc、VSV、HA、6xHis、8xhis、ポリ−Hisなど;
【0035】
−タンパク質−タンパク質相互作用を形成することができるポリペプチドまたはタンパク質、例えばPDZ、SH2/3;
−抗体、抗体フラグメント、抗体模倣物、RNAもしくはペプチド・ベースのアプタマー、または別のアフィニティー試薬(タンパク質性または非タンパク質性のもの);
−酵素、例えば研究、診断(一部の適用のために複合体形成系が酵素を固定化するために使用できる)および治療への適用のためのもの、プロモーター、ポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、または他の修飾酵素を含めた核酸合成または増幅のためのもの;
【0036】
3.核酸または誘導体、例えば以下のものなど:
−検出、固定化、ハイブリダイゼーション、合成プライマー、合成および増幅、標識化、シグナル検出およびシグナル増幅、転写ならびに翻訳のためのDNA、RNA、またはPNA;そして
【0037】
4.粒子またはナノ粒子、例えば以下のものなど:
−強磁性粒子またはナノ粒子(分離のためのもの);
−デンドリマー(標識化のためのもの);
−金属粒子またはナノ粒子、例えば染色もしくは標識化のための金または銀;
−半導体粒子またはナノ粒子、例えば標識化および検出のための量子ドット;
−重合体マイクロまたはナノ粒子、例えば樹脂、ゲルなど;
−カーボンナノチューブまたはナノワイヤー。
【0038】
一実施形態において、多数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックス末端に結合させることができる。ポリペプチドヘリックス末端に結合させることができるカーゴ部分の数は、ヘリックスにいくつの遊離末端が存在しているかによるであろう。例えば、複合体形成系が4つの別々のポリペプチドヘリックスを含む場合には、該ヘリックスは8つの遊離末端(それぞれのヘリックスの各末端に1つずつ)を持つであろう。そのため、8つの遊離末端のそれぞれにカーゴ部分を結合させることが可能である。このことは、1、2、3、4、5、6、7または8個のカーゴ部分をヘリックスの遊離末端に結合させることができることを意味する。一部のヘリックスに遊離末端がない場合には、例えばヘリックスのうちの2本が1本になっているかまたは1本のヘリックスが基材に結合されているのであれば、遊離末端の数は少なくなる。このことは、ヘリックス末端に結合できるカーゴ部分の数を少なくするであろう。一実施形態において、2個以上のカーゴ部分をヘリックス末端に結合することができる。
【0039】
特定の実施形態において、第1のカーゴ部分を第1のヘリックス末端に結合させ、そして第2のカーゴ部分を第2のヘリックス末端に結合させる。そういったある実施形態において、第1および第2のカーゴ部分は、同じヘリックスまたはヘリックス含有成分に一緒に結合させるべきでない。それらは、別個のヘリックスまたはヘリックス含有成分に結合させるべきである。例えば、2つのカーゴ部分を、2つの単一の独立したヘリックスに結合させることができる。
【0040】
シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと連結されている場合(後でより詳細に記載する)、第1および第2のカーゴ部分を共に、この二重らせん成分に結合させるべきでない。代わりに、第1のカーゴ部分をシナプトブレビン/シンタキシン融合タンパク質に結合させることができ、そして第2のカーゴ部分をSNAPタンパク質に由来するヘリックスのうちの一方に結合させることができる。
【0041】
複合体形成系の4本のポリペプチドヘリックスが一体化して、2本のヘリックス含有成分(後で詳細に記載する)を形成している場合、第1のカーゴ部分は第1のヘリックス含有成分に結合させるべきであり、そして第2のカーゴ部分は第2のヘリックス含有成分に結合させるべきである。
【0042】
一実施形態において、第1のカーゴ部分は、酵素的または造影成分である。他の実施形態において、第2のカーゴ部分は、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体に対して複合体形成系を標的化するためのリガンドである。好ましくは、同じ実施形態において、第1のカーゴ部分は、酵素的または造影成分であり、そして第2のカーゴ部分は、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体に対して複合体形成系を標的化するためのリガンドである。
【0043】
酵素的作用物質または造影剤は、あらゆる好適な作用物質であり得る。造影剤は、ヘリックスに結合でき、そしてヘリックスの位置を画像化できるようにするあらゆる作用物質、例えばGFP蛍光タグ、蛍光標識ペプチド、およびMRI造影剤、である。酵素的作用物質は、酵素またはその機能部のいずれかであることができる。一実施形態において、酵素的作用物質または造影剤は酵素的作用物質である。具体的な実施形態において、酵素的作用物質は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる。ボツリヌス毒素の軽鎖の機能は、エンドペプチダーゼとしての機能である。そのため、ボツリヌス毒素の軽鎖の機能部は、エンドペプチダーゼ活性を保持する部分である。好ましくは、酵素的作用物質はボツリヌス毒素の軽鎖を含んでなる。ボツリヌス毒素の軽鎖は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであり得る。A、B、C、D、E、FおよびG型の7つの異なる型のボツリヌス毒素が存在する。好ましくは、軽鎖はボツリヌス毒素AまたはE型からのものであり、そしてより好ましくは、軽鎖はボツリヌス毒素A型からのものである。
【0044】
好ましくは酵素的作用物質は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部(translocation portion)を含んでなる。ボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、それに付随している軽鎖が小胞から細胞のサイトゾル内に放出されるようにする。当業者は、「ボツリヌス毒素の重鎖の転座部」という用語が何を意味するか容易に理解し、そしてそれはまた、転座ドメインと呼ばれることもある。ボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであり得る。好ましくは、転座部は、ボツリヌス毒素AまたはE型、そしてより好ましくはボツリヌス毒素A型からのものである。軽鎖またはその機能部および転座部は、同じであるかまたは異なるボツリヌス毒素からのものであることができる。好ましくは、軽鎖またはその機能部および転座部は、同じボツリヌス毒素からのものである。軽鎖またはその機能部および転座部は、任意の好適な方法で連結されていてもよい。好ましくは、それらは、天然に存在するボツリヌス毒素のように、ジスルフィド結合形成を介して連結されている。ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部がアミノ酸鎖間のペプチド結合によって連結されているのであれば、好ましくは、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部とボツリヌス毒素の重鎖の転座部の間のアミノ酸配列に、2つの部分の間のアミノ酸配列の開裂を引き起こすようにプロテアーゼによって認識されるニッキング部位が存在する。一実施形態において、ニッキング部位は、トロンビンによって開裂されることができるトロンビン部位である。ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、SNAPタンパク質に由来するポリペプチドヘリックスのうちの一方に結合され得る。
【0045】
ボツリヌス毒素の軽鎖の配列は、配列番号70に示されている配列を含み得る。
ボツリヌス毒素の重鎖の転座部の配列は、配列番号71に示されている配列を含み得る。
【0046】
カーゴ部分がリガンドである場合には、それは、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体、に対して複合体形成系を標的化するための好適なリガンドのいずれかである。当業者にとって、そういったリガンドは周知である。例えば、リガンドは、細胞表面受容体に結合することを可能にし得る。そういったリガンドには、神経ペプチド、例えばサブスタンスP、神経ペプチドYおよびVIPなど、増殖因子、例えばNGFやBDNFなど、ならびにホルモン、例えば下垂体ホルモン(例えばACTH、TSH、PRL、GH、エンドルフィン、FSH、LH、オキシトシン、ADHおよびAVP)、GNRHおよびCGRPなどを含むことができた。特定の実施形態において、リガンドは、ソマトスタチン・ペプチドであるか、またはソマトスタチン・ペプチドがソマトスタチン受容体に結合できるようにするその機能部である。他の実施形態において、リガンドは、サブスタンスPペプチドであるか、またはサブスタンスPペプチドがニューロキニン受容体に結合できるようにするその機能部であり得るか、あるいは、AVPペプチドであるか、またはAVPペプチドがAVP受容体に結合できるようにするその機能部であり得る。代替の実施形態において、リガンドは、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部であってもよい。ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部は、ニューロンのガングリオシドの認識に関与し、そしてシナプス小胞受容体であるSV2Cに結合し、そして毒素が細胞内に取り込まれるようにする。「ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部」という用語は、当業者に容易に理解されるであろうし、また受容体結合ドメインとも呼ばれている。受容体結合部は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであることができる。好ましくは、受容体結合部は、ボツリヌス毒素AまたはE型からのものであり、そしてより好ましくは、受容体結合部は、ボツリヌス毒素A型からのものである。一実施形態において、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに結合させる。
【0047】
ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部の配列は、配列番号72に示されている配列を含み得る。
本発明はさらに、治療法および/または診断での使用のための先の複合体を提供する。治療法および/または診断の正確な性質は、リガンドと酵素的作用物質/造影剤の素性によるであろう。
【0048】
第1のカーゴ部分が第1のヘリックスの末端に結合され、そして第2のカーゴ部分が第2のヘリックス末端に結合されている一実施形態において、第1のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる酵素的作用物質およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部であり、そして第2のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部であるリガンドである。代替の実施形態において、第1のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる酵素的作用物質およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部であり、そして第2のカーゴ部分は、ソマトスタチン・ペプチドまたはその機能部であるリガンドである。
【0049】
1もしくは複数のカーゴ部分は、ヘリックス末端に直接連結されていても、リンカーを介して結合されていてもよい。好適なリンカーは当業者に周知である。例えば、これは、化学的に行われ得るか、またはカーゴ部分がタンパク質またはポリペプチドであれば、遺伝子組み換えによって行われ得る。カーゴ部分は、リンカーを介して結合させることもできる。そういったリンカーは当業者に周知である。
【0050】
4本のポリペプチドヘリックスは、それらがSNARE複合体を形成するまではどのような形であっても一体化されない4本の別々のヘリックスであり得る。一実施形態において、複合体形成系が3つの別個の成分を含んでなるように(以下、三成分系とも呼ばれる)、ヘリックスのうちの2本が一体化され得る。前記2本のヘリックスは、その2本のヘリックスが同じ安定したSNARE複合体に集合できる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。前記2本のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。2本のヘリックスは、リンカーを介して一体化され得る。「連結」という用語は、ヘリックスの線状結合を意味する(これは「ジッパリング(zippering)」と同様の平行方向で起こるヘリックスの結合とは対照的である)。2本のヘリックスが一体化することは、複合体形成系を簡素化するのに役立つ。いずれの2本のヘリックスも一体化され得る。一実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、一体化される。この利点は、そのタンパク質内に2本のポリペプチドSNAREヘリックスを含んでなる完全長SNAPタンパク質、例えば完全長SNAP−25タンパク質が使用できるという点である。あるいは、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結され得る。
【0051】
他の実施形態において、2本のヘリックスが一体化されていると同時に、他の2本のヘリックスもまた一体化されている。これは、2つの別個の成分を含んでなる複合体形成系(以下、二成分系とも呼ばれる)を作り出し、そして系をさらに簡素化する。二組のヘリックスは、それらが安定したSNARE複合体を形成し続けられる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。例えば、二組のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。一組または双方のヘリックスは、リンカーを介して一体化され得る。あらゆるヘリックスの組み合わせでも、一体化されて、二組の2本のヘリックスを形成できる。好ましくは、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが一体化され、そしてシンタキシンとシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスが一体化される。このことは、完全長SNAPタンパク質、例えばSNAP−25などを使用できるようにする。
【0052】
代替の二成分系では、ヘリックスのうちの3本を一体化できる。3本のヘリックスは、それらが第4のヘリックスと安定したSNARE複合体を形成し続けられる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。例えば、3本のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。3本のヘリックスを、2本のヘリックスまたは3本のヘリックスすべての間のリンカーと一体化し得る。いずれの3本のヘリックスも一体化し得る。好ましくは、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、第3のヘリックス、すなわち、シンタキシンに由来するヘリックスまたはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックス、と共に一体化される。特定の実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される。代替の実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される。一実施形態において、カーゴ部分を、第4の単一のヘリックスに結合させる、例えばSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される場合には、シンタキシンに結合させる。
【0053】
これらの二成分系が抗体−抗原相互作用に類似した親和性適用に使用できる二成分試薬であることは、当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、FLAGエピトープを着目のタンパク質に結合させ、そしてその同族抗体によって認識されることができるのと同程度に、シンタキシン由来タグを着目のタンパク質に結合させ、そしてSNAP−25とシナプトブレビン・ヘリックスから成る三重らせん構築物によって認識させることができる。三重らせんSNARE構築物と単独のSNAREタグとの相互作用の親和性は、タンパク質の固定化できる程度であり得るか、他の適用のために可逆的であり得る。三重らせん構築物が抗体よりも安価に構築できるので、このことは有利である。
【0054】
シンタキシン3のヘッドドメインがSNARE集合からそのSNAREモチーフを保護することが知られているが、特定の界面活性剤および/または脂質はSNARE集合のためにシンタキシンを「開状態にする」ことができる(Darios and Davletov(2006);Rickman and Davletov(2005))。そのため、シンタキシン由来ヘリックスがそれに結合しているシンタキシン・ヘッドドメインを持っている一実施形態において、その系は、界面活性剤、好ましくは弱い界面活性剤、例えば安定したSNARE複合体の形成を可能にするようにシンタキシン分子を開状態にするオクチルグルコピラノシドなど、をさらに含んでなる。これは、シンタキシンSNAREモチーフを制御することを可能にし、そのため、SNARE複合体の形成の調整を可能にする。
【0055】
さらに、前記の系は、シンタキシン3のヘッドドメインがシンタキシンに由来するポリペプチドに結合されているかどうかにかかわらず、界面活性剤をさらに含み得る。発明者らは、界面活性剤の存在が、本発明のSNARE複合体の集合の促進を助長することを見出した。好ましくは、その界面活性剤は弱い界面活性剤である。一部の集合は、界面活性剤の不存在下でも起こるが、界面活性剤の存在がSNARE複合体のより効果的な集合を促進する。好ましくは、界面活性剤は、界面活性剤がミセルを形成し始める濃度である臨界ミセル濃度(CMC)を超える濃度にて存在する。好ましくは、界面活性剤には、7〜12個の炭素原子の長さを有する炭素鎖がある。好ましくは、界面活性剤は、Triton X−100でもThesitでもない。好適な界面活性剤は、MEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10、およびzwittergent 3-12から成る群から選択できる。好ましくは、界面活性剤はオクチルグルコピラノシドである。界面活性剤、そして特に弱い界面活性剤を含んでなる系の利点は、SNARE複合体の制御された、より速い集合を可能にする点である。他のタンパク質の相互作用が界面活性剤によって乱されるので、界面活性剤の存在はさらにSNARE複合体の形成が優先的に助長できた。
【0056】
一実施形態において、ヘリックスのうちの1本は、基材上に固定化されることができる。好ましくは、ヘリックスは基材上に固定化される。ヘリックスはいずれの好適な方法でも固定化でき、そしてそういった方法は当業者に周知である。ヘリックスは、リンカーを介して固定化することもできる。基材は、ヘリックスを固定化するのに好適なあらゆる基材であることができる。例えば、基材は、表面、マトリックス、ビーズ、量子ドット、樹脂、ガラス、金属、重合体、顕微鏡用スライド、アレイまたはナノチューブ、例えばカーボンナノチューブなどであり得る。一実施形態において、基材上に固定化されたヘリックスには、カーゴ部分が結合されない。
【0057】
他の実施形態において、複合体形成系は、コンプレキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスをさらに含むことができる。ポリペプチドヘリックスそこから得られるコンプレキシンタンパク質は、SNARE複合体に結合できるあらゆるコンプレキシンタンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体に結合できるさまざまなコンプレキシンタンパク質を知っている。例えば、コンプレキシンタンパク質は、哺乳動物のコンプレキシン1またはコンプレキシン2アイソフォームから選択され得る。コンプレキシンタンパク質に由来するヘリックスの他の望ましい特徴および特性(例えばサイズ)は、他のヘリックスに関するものと同じである。コンプレキシンに由来するヘリックスは、任意に1または2個のカーゴ部分を運搬し得る。また、コンプレキシン部分は形成されたSNARE複合体に結合するだけなので、それはまた集合した複合体を特異的に精製するのに使用することもできる。
【0058】
コンプレキシンに由来するヘリックスは、配列番号63に示されている配列を含むこともできる。コンプレキシンに由来するヘリックスは、この配列から成ることもできる。
【0059】
本発明の代替の実施形態は、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたSNARE複合体に向けられる。この実施形態において、分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成することができ、そしてここで、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結される。
【0060】
本発明のこの実施形態は、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結される、先に記載の三成分系に向けられる。50アミノ酸未満の長さのヘリックスを含む複合体形成系の制限および望ましい特徴に関する先の記載のほとんどすべてが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含む先の系に対しても同じように適切であることは、当業者にはすぐに分かる。例えば、また、この系のSNAPタンパク質に由来する2本のヘリックスもまた、二成分系を生じるように先に記載のとおり一体化され得る。当業者は、ヘリックスのうちの2本が、50アミノ酸未満の長さである必要がないことを理解するであろう。
【0061】
先に記載の2つの二成分系に向けられる本発明の他の実施形態において、分子足場を形成するための複合体形成系が提供されるが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスが一体化されて、2本のヘリックス含有成分を形成する。
【0062】
先に記載のとおり、二成分系を2つの方法で形成することができる。まず1つ目は、それぞれ2本のヘリックスを含んでなる2つの成分を形成するように、ヘリックスのうちの2本を一体化することができ、そして他の2本のヘリックスを一体化することができる。あるいは、ヘリックスのうちの3本を、1本の残ったヘリックスとSNARE複合体を形成できる3本のヘリックスを含む成分を得るように、一体化することができる。
50アミノ酸未満の長さであるヘリックスを含む複合体形成系についての前記の制限のほとんどすべてが、二成分を含む先の系に対しても同じように適切である。どのパーツが二成分系に適切であるかは、当業者には明らかである。例えば、二成分系は、50アミノ酸未満の長さである2本のヘリックスを持つ必要はない。
【0063】
他の実施形態において、本発明は、2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するための複合体形成系を提供するが、その複合体形成系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす。
【0064】
「二成分化合物」という用語は、2つのパーツが一つにまとまったとき、化合物がその機能を果たすことができるような、2つの別個の成分(カーゴ部分)から作られた化合物を意味する。化合物の機能は、化合物の2個の別個のパーツの機能または素性に依存するであろう。好ましくは、第1のカーゴ部分には第1の機能があり、そして第2のカーゴ部分には第2の機能がある。先に述べたように、第1のカーゴ部分は酵素的または造影機能を有することができ、第2のカーゴ部分は標的化機能を有することができる。これは、酵素的または造影成分がその機能を果たすことができる特定の位置を化合物の標的とすることを可能にする。
【0065】
一実施形態において、二成分化合物は、異なるユニットから形成されるポリペプチドであり得る。そのポリペプチドは、異なるユニットから形成される毒素であり得る。好適な毒素は、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンである。どのペプチドや毒素が本発明の系での使用に好適であるかは、当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、ボツリヌス毒素は、3つの異なる部分:受容体結合部;転座部;および酵素部、から作られている。そのため、それらが複合体形成系によって一つにまとめられたとき、機能性ボツリヌス毒素を形成するように、酵素部と転座部で一つの部分(カーゴ部分)を形成でき、そして受容体結合部で第二の部分(カーゴ部分)を形成できる。同様に、それらが一つにまとめられたとき、機能性毒素が形成されるように、破傷風、リシンおよびジフテリア毒素は、2つのパーツに切り離されることができる。
【0066】
一実施形態において、第1のカーゴ部分には第1の機能があって、第2のカーゴ部分には第2の機能があって、そしてそれが一つにまとめられたとき、完全機能性ペプチド、例えば毒素を形成する。異なるユニットから形成され、そして先に記載の方法で使用できるペプチドの選択は、十分に当業者の能力の範疇にある。例えば、US2009/0035822には、別個のパーツからの機能性タンパク質の形成が記載されている。
【0067】
ジフテリア毒素、破傷風毒素、およびリシンは、治療法、例えば新生物疾患の処置で使用できる。そのため、これらのポリペプチドにかかわる複合体形成系は、治療法および新生物疾患の処置に使用できる。それらはさらに、対象に複合体形成系を含んでなる組成物の有効量を投与することを含む治療法で使用できる。
【0068】
本発明はさらに、2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するためのSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスと、シナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスとを一つに結合して、安定したSNARE複合体を形成することを含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす。
【0069】
別の特定の実施形態において、本発明は、ボツリヌス毒素を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる複合体形成系を提供する。
【0070】
本発明のこの実施形態は、ボツリヌス毒素を別個のパーツで作り出すことができ、その結果、製造工程中の完全な毒素に関連するあらゆるリスクも回避できる、SNARE複合体集合の特定の適用に向けられる。その後、2つのパーツが、SNARE複合体の形成を使用して組み合わせれて、機能性ボツリヌス毒素を形成する。
本発明はさらに、先に記載した複合体形成系の使用を提供する。さらに、本発明は、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患や身体状態の処置における使用、さらに処置における使用のための先に記載した複合体形成系を提供する。
【0071】
ボツリヌス毒素Aの使用は多年にわたり医学および美容療法のために広く使用されてきたので、当業者は、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態を十分に認識するであろう(例えばJankovic(2004)Botulinum in clinical practice. J Neurol Neurosurg Psychiatry 75 951-957を参照のこと)。特に、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態のいくつかは:発汗過多、唾液分泌過多、ジストニア、胃腸障害、泌尿器疾患、顔面けいれん、斜視、脳性麻痺、吃音、慢性緊張型頭痛、涙液分泌過剰、多汗症、下咽頭収縮筋のけいれん、痙性膀胱、疼痛、片頭痛、および例えばしわ取り、額のしわ取りなどの美容整形術から成る群から選択される。
【0072】
治療法をさらに提供するが、その方法は、対象に先に記載した複合体形成系の有効量を投与することを含んでなる。
本発明はさらに、ボツリヌス毒素を形成するためのSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成することを含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる。
この方法は、一つに結合させるべきボツリヌス毒素の2つのパーツをもたらし、こうして完全機能性ボツリヌス毒素を作り出す。
【0073】
さらに、本発明は、ボツリヌス毒素を形成するための成分を提供するが、その成分には:SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスが含まれ、ここで、ポリペプチドヘリックスにはボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなるカーゴ部分を結合される。また、ボツリヌス毒素を形成するための成分も本発明によって提供されるが、その成分は:SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスにはボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるカーゴ部分を結合させる。
【0074】
加えて、本発明は、先の成分の使用、ならびにSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス:シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス:およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるキットの使用を提供する。
【0075】
ボツリヌス毒素に関連する先に記載した実施形態が更なる制限を含んでなり、そして本発明の他の態様および実施形態に関して他のところに記載した制限がこれらのボツリヌス毒素の実施形態に同じように適切であることは、当業者に理解されるであろう。
【0076】
界面活性剤に関連する1つの特定の実施形態において、本発明は分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;そして
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、そしてここで、該SNARE複合体が界面活性剤の存在下で形成される。
【0077】
先に記載した複合体形成系に関連するさまざまな特徴および制限は、本発明のこの実施形態に対しても同じように適切である。
以前、アラキドン酸がMunc18の存在下でSNARE複合体形成を可能にすることが示された(Rickman C and Davletov B(2005))。Munc18はSNARE複合体形成の負の調節因子であると考えられている。発明者らは、Munc18の不存在下、界面活性剤がより良好なSNARE複合体形成を可能にするという驚くべき発見をした。好ましくは、界面活性剤の存在に関連する系において、その系はMunc18タンパク質を含んでいない。前記の系はMunc18を含まない系である。
【0078】
本発明はさらに、Munc18の不存在下、SNARE複合体の集合を促進するための界面活性剤の使用も提供する。好ましくは、前記界面活性剤は弱い界面活性剤である。好ましくは、前記界面活性剤は合成界面活性剤である。一実施形態において、界面活性剤には、7〜12個の炭素原子の炭素鎖長がある。
先に記載した本発明のすべての実施形態は、単一の安定したSNARE複合体がそのSNARE複合体に結合している1もしくは複数のカーゴ部分により作り出される複合体形成系に関連する。これは多くの適用、例えば診断に有用である。前記の系にはさらに、標識タンパク質の親和性精製、タンパク質もしくは細胞の固定化、または標識タンパク質の識別(ELISA、ウエスタンブロット)のためのタグ付与用途における適用がある。基材上へのカーゴの固定化は、診断およびマイクロアレイ用途において役に立つ。SNARE複合体の安定性がマイクロ流体または連続フロー用途におけるカーゴの固定化に特に役に立つであろうことは、当業者にはすぐに分かるであろう。更なる用途を以下に記載する:
【0079】
溶液中での用途:
−コンビナトリアル集合、ポリ−、ホモ−、およびヘテロ−オリゴマー化を含めた遺伝子組み換えによる親和性試薬の構築;
−機能性カーゴの標的を定めた送達、例えばカーゴと標的シグナルや内在性シグナルとの集合のための、例えば薬物送達(薬物=小分子、核酸、タンパク質);
【0080】
−タンパク質分子、タンパク質分子を含む分子複合体、タンパク質分子を含む細胞、組織、臓器、および生物体のタグ付与および標識化。
−二成分化合物の構築に関する、例えば機能タンパク質、酵素、因子、補因子、(およびその他の機能タンパク質)、FRET標識、二成分無機化合物および小分子、二成分有機化合物;
−自己集合構築物の表面上へのタンパク質の集合後固定化のための自己集合タンパク質構築物とタンパク質を含むより複雑な集合体(例えば胞子)。
【0081】
固体表面用途:
−アレイ、表面固定化;
−免疫アッセイ(例えばELISA)ウェルプレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−BIAコアおよび他のSPR(表面プラズモン共鳴法)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−QCM(水晶振動子マイクロバランス)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
【0082】
−MALDI質量分析プレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロ流体器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−毛細管電気泳動の表面修飾とタンパク質固定化;
−クロマトグラフィーカラムおよび固定化媒体(例えばビーズ)の表面修飾とタンパク質固定化;
−走査型プローブ顕微鏡法の表面およびチップ修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ熱量測定の器具センサーの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ粒子の表面修飾;
−固体表面(例えば金メッキしたガラススライド)、薄膜、ワイヤー(例えばナノワイヤー)、およびナノチューブの表面修飾。
【0083】
他の用途:
−ナノバイオテクノロジー、例えば自己集合「接着剤」ベースの生分解性タンパク質と表面の接着;
−タンパク質ベースの繊維および重合体;
−組織足場と再生医療。
【0084】
さらに、本発明は、先に記載した複合体形成系の実施形態のいずれかの使用、そして特に、先に記載した用途のいずれかにおけるものを提供する。例えば、本発明は、診断における複合体形成系の使用、例えばアレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、または熱量測定器具などを提供する。例えば、複合体形成系は、抗体を基材に固定化するためにアレイで使用することもできる。
【0085】
一実施形態において、本発明は、その上に安定したSNARE複合体を固定化した装置を提供するが、そのSNARE複合体は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、前記の装置は、アレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、および熱量測定器具から選択される。
【0086】
本発明はさらに、1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成することを含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分を該ポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで:
(i)シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結するか;
(ii)該ポリペプチドヘリックスを一体化して、2本のヘリックスを含む成分を形成するか;または
(iii)該ポリペプチドヘリックスのうち少なくとも2本が、50アミノ酸未満の長さである。
【0087】
本発明の系および制限に関連する先の記載は、先の方法に対しても同じように適切である。
本発明はさらに、ポリペプチドがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するヘリックスを含んでなる成分であって、そしてここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるものを提供する。一実施形態において、前記の2本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できるように一体化されることもできる。あるいは、前記の2本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できないよう一体化されることもできる。この代替の実施形態において、2本のヘリックスは、異なる安定したSNARE複合体に集合できなくてはならない。シンタキシンに由来するヘリックスとシナプトブレビンまたはその相同体に由来するヘリックスを含んでなる本発明の2ヘリックス成分は、配列番号12、13、14、および73に示した以下の配列:
【0088】
シンタキシン3(1−260)/シナプトブレビン2(1−84)(ヘッドドメインとリンカーを含むシンタキシン)−配列番号12
シンタキシン3(195−253)/シナプトブレビン2(1−84)(ヘッドドメインを含まないがリンカーを含むシンタキシン)−配列番号13
シンタキシン3(1−253)/シナプトブレビン2(29−84)(ヘッドドメインを含みリンカーが無いシンタキシン)−配列番号14
シンタキシン3(195−253)/シナプトブレビン2(29−84)(ヘッドドメインを含まずリンカーも無いシンタキシン)−配列番号73、
のうちの1つを含み得る。
【0089】
シンタキシンに由来するヘリックスとシナプトブレビンまたはその相同体に由来するヘリックスを含んでなる本発明の2ヘリックス成分は、先の配列のうちの1つから成ることもできる。
前記2ヘリックス成分は、ポリペプチドヘリックスに連結された1もしくは複数のカーゴ部分をさらに含んでなることもできる。
【0090】
本発明はさらに、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスとシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる成分であって、ここで、3本のヘリックスが三重らせん成分を形成するように一体化され、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる成分を提供する。一実施形態において、第3のヘリックスは、シナプトブレビンに由来する。他の実施形態において、3本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できるように、一体化され得る。
【0091】
SNAP−25ヘリックスとシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスとを含んでなる本発明の三重らせん成分は、配列番号15を含んでなることもできる。さらに、前記三重らせん成分は、この配列から成ることもできる。
【0092】
あるいは、3本のヘリックスは、2本のSNAPヘリックスが同じ安定したSNARE複合体に集合できるが、第3のヘリックスが該2本のヘリックスと同じ安定したSNARE複合体に集合できないように、一体化されることもできる。この代替の実施形態において、第3のヘリックスは、2本のSNAPヘリックスと異なる安定したSNARE複合体に集合できるようにすべきである。三重らせん成分は、ポリペプチドヘリックスに結合した1もしくは複数のカーゴ部分をさらに含んでなることもできる。
【0093】
さらに、本発明は、例えば分子足場を形成するための安定したSNARE複合体を形成するような先の成分の使用を提供する。
本発明は、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含んでなる成分を含んでなるキットであって、そしてここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるキットをさらに提供する。
【0094】
前記キットは、シンタキシン/シナプトブレビンに由来するヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなることもできる。2本のSNAPヘリックスを一体化し得る。
【0095】
代替の実施形態において、本発明は、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスおよびシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる成分を含んでなるキットであって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるキットを提供する。
【0096】
前記キットは、第4のSNAREタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含むこともできる。そのため、前記三重らせん成分が2本のSNAP由来ヘリックスおよびシナプトブレビンもしくは相同体由来ヘリックスを含んでなるのであれば、キットは、連結されたSNAP/シナプトブレビン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるシンタキシンに由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含み得る。あるいは、三重らせん成分が2本のSNAP由来ヘリックスおよびシンタキシン由来ヘリックスを含んでなるのであれば、キットは、連結されたSNAP/シンタキシン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含み得る。
【0097】
本発明のキットは、該キットと使用するのに好適な試薬をさらに含み得る。
キットのヘリックスおよびSNARE複合体の更なる特徴は、先に記載したとおりのものである。
【0098】
複合体形成系はさらに、SNARE複合体の多量体を形成するのに使用されることもできる。これは、一体化された複数のSNARE複合体である。一実施形態において、ヘリックスのうちの2本が、同じ複合体として安定したSNARE複合体を形成できないような方法で一体化される。しかしながら、2本のヘリックスは、異なるSNARE複合体ではあるがそれらが安定したSNARE複合体をそれぞれ形成できるような方法で一体化されるべきである。これは、2本のヘリックスが同じSNARE複合体で正しい立体構造をとることができないように、いずれの種類のリンカーも用いずにヘリックスを直接一体化することによって行われ得る。代わりに、そういった2本らせん連結構築物の各ヘリックスは、3本の他のポリペプチドヘリックスと複合体を形成して、2つの安定したSNARE複合体を形成できる。その2本のヘリックスは、任意の好適な方法、例えば遺伝子組み換え手段または化学的カップリングによって、一体化できる。例えば、SNAPタンパク質に由来する2本のヘリックスが一体化され、そしてシンタキシンおよびシナプトブレビンに由来する2本のヘリックスが、同じSNARE複合体に集合できないような制限された様式で連結される二成分系を採用すること。シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質から開始すると、SNAP融合タンパク質はシンタキシン・ヘリックスと複合体を形成するであろう。別のシンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質からのシナプトブレビン・ヘリックスは、次いで、SNAP−シンタキシン複合体に結合して、4本らせんSNARE複合体を形成するであろう。この複合体には、そこから突出したシンタキシン・ヘリックスおよびシナプトブレビン・ヘリックス、すなわち、それぞれのシンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質から一本ずつが存在するであろう。これらの単一ヘリックスの突出が、更なるSNARE複合体の形成の基礎となることができる。そのため、SNARE複合体の多量体が形成される。先の例において、SNAPヘリックスは一体化される必要はない。さらに、安定したSNARE複合体を形成するためにそれらの両方が同じ複合体に集合できない限り、あらゆる2本のヘリックスを、系が機能するように一体化できた。
【0099】
本発明はさらに、先の系によって作り出される多量体も提供する。
あるいは、多量体は、系の反応条件を制御することによって形成できる。系のヘリックスのうちの2本が一体化されなければならない。これは、任意の好適な方法で行われることができる。2本のヘリックスが、先の例のようにいずれかの方法で制限される必要はないが、しかし、所望であれば、それらを制限することもできる。前記の系は、連結された2本のヘリックスの一方と同じSNAREタンパク質に由来する単一のヘリックスをさらに含んでなる。例えば、シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質を含んでなる系では、その系は、単一のシンタキシン・ヘリックスをさらに含んでなる。多量体を作り出すために、単一のシンタキシン・ヘリックスを溶液中に導入する。この単一のヘリックスは、先に述べたように、溶液中で遊離していても、基材上に固定化されていてもよい。SNAPタンパク質に由来する2本のヘリックス(連結されていても、連結いなくてもよい)が、溶液中に加えられる。これらはシンタキシン・ヘリックスに結合して、シンタキシン−SNAP三重らせん複合体を形成する。この後、シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質が溶液中に加えられる。この融合タンパク質からのシナプトブレビン・ヘリックスは、三重らせん複合体に結合して、安定したSNARE複合体を形成する一方で、シンタキシン・ヘリックスは結合しないままで残り、そしてSNARE複合体から突出するであろう。先のとおり繰り返して同じステップを経ることによって、このシンタキシン突出は、更なるSNARE複合体を形成するために使用され、こうして多量体が作り出される。先の系はヘリックスが特定の順序で加えられることを必要とするので、特定のステップ後に、好ましくない分子が存在しないことを確実にする必要があり得る。これは、例えば単一のシンタキシン・ヘリックスを固定化し、そしてそれぞれの結合ステップ後に洗浄を実施することによって行われることができる。本発明はさらに、先の系によって作り出される多量体も提供する。
【0100】
さらに、本発明は、一体化された複数の安定したSNARE複合体を含んでなる多量体を提供するが、ここで、各SNARE複合体は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、あるSNARE複合体からのヘリックスが、別のSNARE複合体からヘリックスに連結されて、それらのSNARE複合体を一体化し、かつ、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる。
【0101】
本発明の多量体は線状であることができる。それが線状であれば、各SNARE複合体は、両側で他の2つのSNARE複合体に結合されて、一連のビーズに似た長い線状鎖を形成する。こうして、SNARE複合体内の2本のヘリックスが、2つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合される。明らかに、鎖の末端のSNARE複合体は、1本のポリペプチドヘリックスによって他の1つのSNARE複合体にしか結合されない。
【0102】
あるいは、前記多量体は分岐していてもよい。これは、例えばシナプトブレビン由来ヘリックスに2本のシンタキシン由来ヘリックスが任意の順序で連結されることによって行われ得る。この三重連結された構築物からのシナプトブレビン由来ヘリックスは、シンタキシン/SNAP由来三重らせん中間体に結合して、結合しないまま残っていた2本のシンタキシン由来ヘリックスとSNARE複合体を形成する。SNAP由来ヘリックス、例えばSNAP−25、が加えられた場合には、2つの連結シンタキシン/SNAP−25中間体が形成される。「定常状態の」シナプトブレビン−シンタキシン(2本らせん)由来構築物の添加によって、2つのシンタキシン由来ヘリックスが突出している2つの連結SNARE複合体を形成する。これは、更なる伸長のための2つの分岐を導入する。こうして、3本のヘリックスを連結することで、(線状重合に使用される連結された2本のヘリックスとは対照的に)分岐が可能になる。こうして、多量体を分岐させるのであれば、多量体内のあるSNARE複合体を、線状鎖のように2つの他のSNARE複合体に結合させるよりむしろ3つの他のSNARE複合体に結合させて、分岐点を形成させる。SNARE複合体内のヘリックスのうちの3本を、分岐点において3つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合させる。
【0103】
多量体は、それぞれヘリックスの末端に結合させたカーゴ部分を持つことができる。多量体は、ヘリックスの末端で多量体に結合した複数のカーゴ部分を持つことができる。一実施形態において、多量体は、各SNARE複合体上にカーゴ部分を持ち得る。多量体は、各SNARE複合体に結合させた複数のカーゴ部分を持ち得る。多量体が複数のカーゴ部分を持つのであれば、これらは、同じであっても、異なっていてもよい。それぞれの洗浄ステップ後に異なるカーゴを保有するSNAREドメインを提供することによって、複数のカーゴの付加および規則配列を制御できる。
【0104】
本発明はさらに、多量体を作り出す方法を提供するが、その方法は以下のステップ:
1)第1のSNAREヘリックスに由来する第1のポリペプチドヘリックスを提供し;
2)第2および第3のポリペプチドヘリックスを、第1のポリペプチドヘリックスに結合させて、三重らせん中間複合体を形成し、ここで、第2および第3のポリペプチドヘリックスが第2および第3のSNAREヘリックスに由来し;
3)第4のポリペプチド・ヘリックスを3本ヘリックス束に結合させて、安定したSNARE複合体を形成させ、ここで、第4のポリペプチドヘリックスが第4のSNAREヘリックスに由来し、そしてここで、第4のポリペプチドヘリックスが第1のSNAREヘリックスに由来する第5のポリペプチドヘリックスに連結され;そして
4)ステップ2)および3)を繰り返して、多量体を形成する、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる、
を含んでなる。
【0105】
複合体形成系、多量体、およびさまざまな制限に関連する先の記載もまた、先の方法に適切である。
ステップ2)および3)は、必要な長さの多量体を作り出すのに必要なのと同じ回数だけ繰り返すことができる。
【0106】
先の方法は、第1、第2、第3、および第4のSNAREヘリックスに言及する。先に記載のように、SNARE複合体は4本のヘリックスから形成される。これらのヘリックスのうちの2本はSNAPタンパク質によってもたらされ、1本はシンタキシンによってもたらされ、そして1本はシナプトブレビンもしくはその相同体によってもたらされる。そのため、先の方法において、これらの4本のヘリックスは、特に決まった順番はなく、第1、第2、第3および第4のSNAREヘリックスである。これは、4本のヘリックスがSNARE複合体に使用される限り、特定のヘリックスの素性が重要でないからである。任意に、SNARE複合体はまた、先に記載のようにコンプレキシンに結合されることもできる。
【0107】
一実施形態において、第1のヘリックスはシンタキシン由来ヘリックスであり;第2のヘリックスはSNAP由来ヘリックスであり;第3のヘリックスはSNAP由来ヘリックスであり;第4のヘリックスはシナプトブレビン由来ヘリックスであり;そして第5のヘリックスはシンタキシン由来ヘリックスである。
【0108】
4本のヘリックスが順不同でSNARE複合体に使用されるという事実により、第5のポリペプチドヘリックスは、最初のポリペプチドヘリックスと同じSNAREヘリックスに由来する必要はない。同様に、前記方法のステップとして、多量体の状態での第2、第3、第4、第5、第6のSNARE複合体などの形成が繰り返される場合、第2、第3および第4のポリペプチドヘリックスが、第1のSNARE複合体内の第2、第3および第4のポリペプチドヘリックスと同じSNAREヘリックスに由来する必要性はない。唯一の要件は、4つのSNAREヘリックスのすべてが、安定したSNARE複合体を形成するように各SNARE複合体に対応するということである。
【0109】
先の方法が多段階プロセスを伴うので、それらが安定したSNARE複合体を形成する限り、これは、第1ステップと比較して、その後の反復ステップで異なるポリペプチドヘリックスを導入する可能性を認める。例えば、ステップの最初のサイクルでは、SNAPタンパク質に由来するポリペプチドヘリックスのうちの1つが、完全長SNAP−25ヘリックスであり得るのに対し、ステップの次のサイクルでは、このポリペプチドヘリックスが45アミノ酸の長さのSNAP−25ヘリックスであり得る。重要な態様は、4つのSNAREヘリックスすべてがSNARE複合体に対応するように、両ポリペプチドヘリックスが同じSNAREヘリックス、例えば特定のSNAPヘリックスに由来することである。
【0110】
得られた多量体がそこに結合させたカーゴ部分を持つように、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる。これは、その方法で使用される前にカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させることによって行うことができる。好ましくは、カーゴ部分をポリペプチドヘリックス末端に結合させる。複数のカーゴ部分を多量体内に導入できる。これは、先の方法を使用することで多量体内にその後組み込まれる多くのポリペプチドヘリックスにカーゴ部分を結合させることによって行うことができる。前記カーゴ部分は同じであっても、異なっていてもよい。
【0111】
方法をより簡単にするために、第1、第2、第3、および第4のSNAREヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持されることが望ましい。そのため、例えば第1のSNARE複合体が生じるステップの最初のサイクルでは、第1のSNAREヘリックスがシンタキシンであれば、第2および第3のSNAREヘリックスはSNAPタンパク質に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスはシナプトブレビンもしくはその相同体である、そして更なるSNARE複合体を生じるステップのその後のサイクルでは、第1のSNAREヘリックスは常にシンタキシンであり、第2および第3のSNAREヘリックスは常にSNAPタンパク質に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスは常にシナプトブレビンまたはその相同体である。
【0112】
さらに、第2、第3、第4および第5のポリペプチドヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持されることが望ましい。そのため、例えば第1のSNARE複合体を生じるステップの最初のサイクルでは、第2および第3のSNAREヘリックスはSNAPタンパク質に由来し、第4のSNAREヘリックスはシナプトブレビンSNAREヘリックスに由来し、かつ、第5のポリペプチドヘリックスはシンタキシンに由来する、そして更なるSNARE複合体を生じるステップのその後のサイクルでは、(次のSNARE複合体で第1のヘリックスを形成する)第5のポリペプチドヘリックスは常にシンタキシンであり、第2および第3のSNAREヘリックスは常にSNAP−25に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスは常にシナプトブレビンSNAREヘリックスである。
【0113】
一実施形態において、第2と第3のポリペプチドヘリックスは、それらが同じSNARE複合体で一緒に集合できるように一体化される。好ましくは、第2および第3のポリペプチドヘリックスは、完全長SNAPタンパク質、例えばSNAP−25である。
ポリペプチドヘリックスの固有性がその後のステップのすべてで同じであり、かつ、第2と第3のポリペプチドヘリックスが一体化されるとき、このことは、2つのビルディングブロックだけを使用した急速な多量体形成を可能にする。
【0114】
他の実施形態において、第1のポリペプチドヘリックスが基材上に固定化される。好適な基材は、当業者に周知であり、そして先に議論されている。
前記方法は、あらゆる非結合ヘリックスを取り除くために、それぞれの結合ステップ後の洗浄ステップをさらに含み得る。このことは、これらの非結合ヘリックスがその後のステップで多量体の形成を妨害できないことを確実にする。好ましくは、前記方法によって形成された多量体は、洗浄ステップが使用される前に固定化される。
【0115】
前記方法は、多量体に分岐を導入するために変更され得る。こうするために、第1のSNAREヘリックスに由来する第6のポリペプチドヘリックスが、第2、第3、第4または第5のポリペプチドヘリックスのうちの1つに連結されて、それによって別の安定したSNARE複合体が形成されるヘリックスを提供する。一実施形態において、第6のポリペプチドヘリックスは、第2または第3のポリペプチドヘリックスに連結される。代替の実施形態において、第6のポリペプチドヘリックスは、第4または第5のポリペプチドヘリックスに連結される。このことは、2つの更なるSNARE複合体が特定のSNARE複合体に由来することを可能にし、その結果、その多量体に分岐を導入する。
【0116】
これは、先に述べたように、例えばシナプトブレビン由来ヘリックスを2本のシンタキシン由来ヘリックスに順不同で連結することによって行うことができる。あるいは、シンタキシン・ヘリックスは(第2および第3のヘリックスである)SNAP−25に連結されて、起源となるSNARE複合体からの第2のSNARE複合体の形成を開始させるので、起源となるSNARE複合体を他の3つのSNARE複合体全部に結合させて、分岐点を形成することを意味している。
【0117】
さらに、多重分岐は、SNARE複合体の他のヘリックスに連結される第6のヘリックスに加えて、更なるヘリックスを特定のSNARE複合体に導入することによって導入できる。例えば、シナプトブレビン由来ヘリックスを、3本以上のシンタキシン由来ヘリックスに順不同で連結できる。あるいは、2本以上のシンタキシン・ヘリックスは(第2および第3のヘリックスである)SNAP−25に連結されて、起源となるSNARE複合体からの第3、第4のSNARE複合体などの形成を開始させることができるので、起源となるSNARE複合体を4つ以上の他のSNARE複合体全部に結合させて、多重分岐点を形成することを意味している。
【0118】
必要とする数の分岐を、1か所の特定の点にて、そして多量体の全長にわたって多量体内に導入できる。
本発明はさらに、先の方法によって作り出した多量体も提供する。
先に記載した多量体は、多くの用途、例えば診断、および以下に記載した用途において有用である:
【0119】
溶液中での用途:
−コンビナトリアル集合、ポリ−、ホモ−、およびヘテロ−オリゴマー化を含めた遺伝子組み換えによる親和性試薬の構築;
−機能性カーゴの標的を定めた送達、例えばカーゴと標的シグナルや内在性シグナルとの集合のための、例えば薬物送達(薬物=小分子、核酸、タンパク質);
−タンパク質分子、タンパク質分子を含む分子複合体、タンパク質分子を含む細胞、組織、臓器、および生物体のタグ付与および標識化。
−多元化合物の構築に関する、例えば機能タンパク質、酵素、因子、補因子、(およびその他の機能タンパク質)、FRET標識、多元無機化合物および小分子、多元有機化合物;
−自己集合構築物の表面上へのタンパク質の集合後固定化のための自己集合タンパク質構築物とタンパク質を含むより複雑な集合体(例えば胞子)。
【0120】
固体表面用途:
−アレイ、表面固定化;
−免疫アッセイ(例えばELISA)ウェルプレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−BIAコアおよび他のSPR(表面プラズモン共鳴法)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−QCM(水晶振動子マイクロバランス)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
【0121】
−MALDI質量分析プレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロ流体器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−毛細管電気泳動の表面修飾とタンパク質固定化;
−クロマトグラフィーカラムおよび固定化媒体(例えばビーズ)の表面修飾とタンパク質固定化;
−走査型プローブ顕微鏡法の表面およびチップ修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ熱量測定の器具センサーの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ粒子の表面修飾;
−固体表面(例えば金メッキしたガラススライド)、薄膜、ワイヤー(例えばナノワイヤー)、およびナノチューブの表面修飾。
【0122】
他の用途:
−ナノバイオテクノロジー、例えば自己集合「接着剤」ベースの生分解性タンパク質と表面の接着;
−タンパク質ベースの繊維および重合体;
−組織足場と再生医療。
ここでは、例証のみを目的として、図面を参照して、本発明を詳細に説明する:
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】神経伝達物質放出における小胞融合を駆動する分子機構の略図である。コアSNARE複合体は、シナプトブレビン、シンタキシン、およびSNAP−25によってもたらされる4本のα−ヘリックスによって形成されている。シナプトタグミンは、カルシウムセンサーとして機能し、小胞融合中にSNAREジッピング(zipping)を緊密に調整している。
【図2】束状または線状多量体として不可逆的かつ部位選択的様式で多機能ユニットの結合の略図である。矢印は結合足場を表す;機能ユニットは幾何学的図形で表されている。
【図3A】少なくとも80アミノ酸の長さを有する4つのポリペプチドからできている4本らせんSNARE束を示す(Button et al., 1998)。
【図3B】40と45アミノ酸のペプチドの設計に使用したSNAREモチーフを示している。網掛け部分が疎水性層であり、濃い灰色で強調した中心層がある。
【図4】45アミノ酸のポリペプチドが不可逆的なSNARE複合体を形成できが(パネルA)、その一方で40アミノ酸のペプチドができない(パネルB)ことを示すSDS−PAGEゲルである。簡潔にするために、発明者らはこの集合体をTetriCS(四本らせんコンビナトリアル足場)と呼ぶ。
【図5】ストレプトアビジンが非常に特異的な様式でグルタチオン・ビーズまたはニッケル・ビーズのいずれかに結合した45aaのTetricsペプチドに結合することができたことを示すグラフである。
【図6】2本のSNAREヘリックスを持つ完全長のSNAP−25分子(第1−206アミノ酸)、ならびに別個のシンタキシンおよびシナプトブレビンSNAREヘリックスを含んでなる三成分SNARE束の略図である。
【図7】40(パネルA)および45aa(パネルB)のペプチドの両方がSNAP25Bと集合できるので、三成分系において、完全長のSNAP−25への不可逆的結合には40aaの長さのペプチドで十分であることを実証するSDS−PAGEゲルを示している。
【図8】ビーズ上のGST−SNAP25単体を用いた対照反応がごくわずかな結合しか示さないのに対して、それぞれMycタグおよびSタグを持つ40aaのシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの添加が、グルタチオン・ビーズへの抗Myc抗体およびSタンパク質の両方の強固な結合によって証明される三成分複合体の形成につながることを示すグラフである。
【図9】固定化されたSNAP25Bへの40aaのシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの結合を示すセンソグラム(sensogram)である。抗myc抗体(Myc)は、シンタキシン−mycエピトープに結合するが、0.1%のSDSで溶出できる。結合したシンタキシン/シナプトブレビン・ペプチドは、SDSによって分離できない。
【図10】2つのSNAREヘリックスを持つSNAP−25分子とシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質を含んでなる二成分SNARE束の略図である。
【図11】灰色の矢印によって示されるラット・シンタキシン1A SNAREモチーフ(第195−254アミノ酸)の、ラット・シナプトブレビン2SNAREモチーフ(第25−84aa)との結合を示す略図である。
【図12】シンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質とラットSNAP−25Bの不可逆的な複合体への素早い集合を示すSDS−PAGEゲルである。
【図13】ラット・シナプトブレビン2配列1−84を短い一続きのアミノ酸を介して融合させたラット・シンタキシン3のヘッドドメインおよびSNAREモチーフ(第1−260アミノ酸)を示す略図である。
【図14A】オクチルグルコピラノシドが、シンタキシン3分子を「開状態にする」ことができて、二成分集合体の形成を可能にすることを示すSDS−PAGEゲルである。
【図14B】オクチルグルコピラノシド界面活性剤が、CMC(臨界ミセル濃度−この界面活性剤に関して、CMCは0.6%である)を超える濃度にて密なSNARE複合体の集合を促進することを示すSDS−PAGEゲルである。一部の集合は界面活性剤の不存在下で行われるが、効果的な集合には、二成分集合の形成を可能にするために、シンタキシン3分子を「開状態にする」ための洗剤、オクチルグルコピラノシドを必要とする。
【図15】シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質(*)の結合、およびシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質とCM5チップ上に固定化されたSNAP−25の間の集合に関する独特な抵抗を示す表面プラズモン共鳴センソグラムである。2MのNaCl(1)、グリシン pH2.5(2)、1%のSDS(3)、0.1MのNaOH(4)、0.1Mのリン酸(5)を使用した洗浄では、二成分捕獲試薬を壊すことができない。注記、ステップ3を2度繰り返した。
【図16A】3本らせん分子(黒色)と第4のヘリックス(灰色)を含んでなる二成分SNARE束の略図である。
【図16B】40および45aaのシンタキシン1Aペプチドの両方が、SNAP−25Bおよびシナプトブレビン2(SNAP−25B(22−206)/Syb2(1−84))で構成される3本らせん融合タンパク質と集合できることを示して、二成分系において、不可逆的SNARE複合体の形成には、40aaの長さのペプチドで十分であることを実証するSDS−PAGEゲルである。注記、SDS抵抗性複合体は、おそらくそのコンパクトな構造のためSDSゲル内で3本らせんタンパク質より速く移動する。
【図17】GST−SNAP25が、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つセファロースビーズに非常に特異的な様式で結合することを示すSDS−PAGEゲルである。注記、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質がBrCN−セファロースビーズに共有結合されおり、そのためSDS−PAGEゲル上で溶出および可視化できない。レーン1−zwittergent 3-08を使用して作られた細菌抽出物。レーン2−シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つビーズにより精製したGST−SNAP−25。
【図18】SNAREタンパク質によって形成された無限長の強固な線状多量体の形態の超分子デバイスの略図である。
【図19】SNAREタンパク質を使用した長い線状多量体を形成する工程の略図である。
【図20】(A)ビーズに結合したシンタキシン3−シナプトブレビン2融合およびSNAP−25の両方の量の段階的な増加を示すクーマシー染色ゲル。注記、ビーズへの付加に使用されるGST−シンタキシン3の量が一定のままであるが、一方で結合したSNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の量には漸増がある。結合材料の量を示すために、サンプルを煮沸して、集合のSDS抵抗性の性質を破壊した。(B)パネルAと同様だが、サンプルをSDS−PAGE前に煮沸しなかった。注記、追加の重合ステップと合致しているSDS抵抗性重合体の分子量の増加。
【図21】SNAREタンパク質から形成された分岐多量体の略図である。
【図22】シナプトブレビン2残基(29−84)(リンカーなし)に直接的融合させたシンタキシン残基(1−253)から形成された融合構築物の略図である。
【図23】簡単な混合によって溶液中でSNARE束が多量体化できることを示すSDS−PAGEゲルである。
【図24】SNAREタグ付与が、神経終末へのHc介在量子ドットの送達を可能にすることを示している。a.BoNT/AのHc部とLcHN部のSNARE結合を示す図解。個々のサブユニットは、構造モデルと同じように示されている(出典Lacy et al, 1998)。b.ボツリヌス神経毒素(Hc)のSV2C結合部とストレプトアビジン・コートした量子ドットの結合のためのSNAREタグ付与スキームを示す図解。ビオチン(星印)−シンタキシン・ペプチド(青色)は、量子ドットのSNAREタグ付与を可能にするが、HcはシナプトブレビンSNAREモチーフ(紫色)に融合される。SNAP25(緑色と赤色)はHcへのQ−ドットの結合を可能にする。c.Hc−シナプトブレビン、SNAP25およびビオチン化シンタキシン3ペプチドの、SDS抵抗性複合体であるHc−SNARE−ビオチンへの不可逆的な集合を示すクーマシー染色したSDSゲル。d.Hc−SNARE−Q−ドットは、培養海馬ニューロンの軸索伸長時にシナプス小胞マーカーであるシナプトフィジンの免疫染色によって証明されるシナプス結合を示している。集合中のSNAP25の脱落は、シナプス末端へのQ−ドットの標的化を妨げる。
【図25】SNAREタグ付与がBoNT/Aの個々のパーツの、単一の分子実体への段階的な集合を可能にすることを示している。a.LcHNとBoNT/AのHc成分のジスルフィド結合およびSNAREタグ付与の位置を示す略図。b.SNAP25でタグ付与したLcHNは、精製され、そして50mMのジチオスレイトール(DTT)での処理の後にLcとHN−SNAP25に分解され得る。クーマシー染色したSDSゲル。c.クーマシー染色し、そして蛍光的に像を得たSDSゲルによって証明されるように、シンタキシン3ペプチドの付加により、シナプトブレビンでタグ付与したHcと結合し得る、SNAP25でタグ付与したLcHN。
【図26】SNARE結合ボツリヌス神経毒素が、シナプス局在性を示し、そしてそのシナプス内標的を開裂することを示している。a.フルオレセイン標識LcHN−SNARE−Hcは、海馬ニューロンの軸索伸長部に結合する。抗シナプトフィジン抗体を用いた免疫染色で、培養海馬ニューロンのシナプス前末端を明らかにする。b.天然のBoNT/Aに類似した様式での集合した神経毒によるシナプス内SNAP25の開裂を示す免疫ブロット。
【図27】SNARE結合ボツリヌス神経毒素が、神経伝達物質放出を阻害することを示している。a.分離したラット脳神経終末(シナプトソーム)からのグルタミン酸放出に関する蛍光分析測定は、LcHN−SNARE−HcとBoNT/Aの間の同程度の阻害を示している。毒素とのシナプトソームの1時間のインキュベーションに続いて、リアルタイム・グルタミン酸放出グラフ(上のパネル)および用量依存性グラフ(下のパネル、35mMのKClおよび2mMのCaCl2での15分間の刺激後に評価した)を得た。b.15分間の刺激後に評価されるとおり、個々のSNAREタグ付与した神経毒のパーツは、シナプトソームとの1時間のインキュベーション後に、グルタミン酸放出を妨げることはない。c.LcHN−SNARE−Hcによるマウス横隔膜の等尺性収縮の用量依存的阻害を示すグラフ。エラーバーはSEM;n=3を表す。
【図28】LcHnをシンタキシン(195−253)でタグ付与したが、Hcをシナプトブレビン(25−84)でタグ付与したことを示している。2つのボツリヌスのパーツを、SNAP−25の存在下で混合し、そして毒素形成をクーマシー染色したSDS−ゲル上で可視化した。
【図29】パネルAからのLcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHc毒素との1時間のインキュベーション後に、ラット脳シナプトソームからのグルタミン酸放出の遮断を評価したことを示している。
【図30】海馬ニューロンに対してパネルAからの毒素LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcAの適用後の触媒パートLcの神経細胞内標的の開裂を、抗SNAP−25抗体を使用した免疫ブロッティングによって評価したことを示している。再集合した毒素は、SNAP−25を開裂する際に天然ボツリヌス神経毒素(BoNT/a)と類似した活性を有する。注記、このニューロン・アッセイにおいて、LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcAが、LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcDより効果的である。
【図31】ソマトスタチン・ペプチドAc−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OHを持つシナプトブレビン40アミノ酸モチーフのSNAREタグ付与が、ソマトスタチン−量子ドットの作成を可能にすることを示している。ストレプトアビジン・コートした量子ドットを、ビオチン化シンタキシン・ペプチドと共にインキュベートし、次いでソマトスタチン−シナプトブレビンおよびSNAP−25と混合した。集合したソマトスタチン−Q−ドットを培養海馬ニューロンに適用し、そしてそれらの神経性細胞への侵入を、Q−ドットの蛍光発光と、たくさんの神経細胞内タンパク質を標識する抗SNAP−25抗体を用いた対比染色によって可視化した。
【図32】ソマトスタチン・ペプチドを用いたシナプトブレビン40アミノ酸モチーフのSNAREタグ付与が、LcHnシンタキシン3およびSNAP−25との混合後に機能性ソマトスタチン−ボツリヌス構築物の作成を可能にすることを示している。LcHnシンタキシン3−SNAP25−シナプトブレビン・ソマトスタチン(SS−LcHN)の活性を、集合した毒素の20時間の適用後の培養海馬ニューロンにおけるSNAP−25の開裂によって評価した。
【図33】N末端切断のあるSNAREモチーフを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図34】C末端切断のあるSNAREモチーフを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図35】内部メチオニンが非易酸化性(non-oxidizable)ノルロイシンに置き換えられているシンタキシンSNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図36】さまざまな異なるSNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示す多くのSDSゲルである。
【図37】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図38】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図39】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図40】神経ペプチドがSNAREペプチドのうちの1つと複合体形成した場合の、安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図41】アルギニン/バソプレッシンペプチド(AVP)がシンタキシン・ペプチドのN末端またはC末端と複合体形成した場合の、安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図42】40個未満のアミノ酸しか含まないSNAREペプチドを使用した安定した複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図43】SNAREペプチドに対するタンパク質のマレイミドベースの架橋を示すSDSゲルである。
【図44】TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)基材に関する650nmにおける吸光度を示している。
【図45】発光を示すフィルムの一部である。
【図46】原文説明なし。
【図47】原文説明なし。
【実施例】
【0124】
序論
機能ユニットの制御された、不可逆的な、非化学的結合のためにSNARE由来ポリペプチドで作られた束状または線状形状の足場。
【0125】
発明者らは、簡単な混合によって機能性または構造ユニットを結合する方法を開発した。自己集合によるナノメートルサイズの明確に定義された、機能性超分子構造の創出は、生命生物科学、薬学およびナノ技術においてプログラムされた作業を実施するための手段を提供する。具体的には、本発明は、図2に示されている束状または線状多量体の不可逆的かつ部位選択的様式での複数の機能ユニットの制御された結合に関する、まだ満たされていない要求に関する。この新技術の核心部は、タンパク質ドメインの結合に関するSNAREタンパク質、および実際には任意の想定される化学物質の特有の性質の活用にある。本来は、これらのタンパク質は、シンタキシン、SNAP−25、およびシナプトブレビンで構成された三部分複合体(VAMP−小胞結合膜タンパク質としても知られている)を形成することによって原形質膜への小胞の融合を駆動する。このSNARE複合体は、SNAP−25からの2本のヘリックス、シンタキシンからの1本のヘリックスおよびシナプトブレビンからの1本のヘリックスを含んでなり;それぞれのヘリックスの長さが〜60−70アミノ酸である(Jahn and Scheller(2006))4本らせんのコイルドコイル束である(図3)。この4本ヘリックス束は、SDS中でさえ異常に安定している−SNARE集合の不可逆的性質の直接的な指標である(Hu, K et al., 2002)。
【0126】
リガンドと他の官能基の二量体化、オリゴマー化、多量体化のために、これまでさまざまなストラテジーが用いられてきた。このうち、小さな(<5kDa)ペプチドの化学的架橋(Pillai et al., 2006;Tweedle, 2006)、トランスグルタミナーゼ触媒ヘテロ二量化(Tanaka et al., 2004)、およびビオチン化リガンドの四量体ストレプトアビジン結合(Leisner et al., 2008)が、機能ユニットを結合に関するいくつかの例を示している。加えて、コイルドコイルは、タンパク質工学、生物工学、生体材料、基礎研究および薬学を含めたさまざまな用途におけるオリゴマー化のためのデザイン雛型として相当な興味を引いた(Engel and Kammerer, 2000;O'Shea et al., 1993;Scherr et al., 2007)。有用なオリゴマー化ドメインの例は、平行なコイルドコイル・ホモ二量体を形成する33残基と46残基のホモ五量体コイルドコイルCOMPccを含んでなるGCN4のロイシンジッパーである(Engel and Kammerer, 2000)。さまざまな用途のためのコイルドコイルの選択は、いくつかの特徴:コイルドコイル・ポリペプチドの長さ、それらの溶解性、ホモまたはヘテロ・オリゴマー化を可能にするそれらの能力;およびコイルドコイルの濃度、すなわち、定常および不利な条件下で解離に耐える能力、に依存する。
【0127】
SNAREコイルドコイル束の独特の性質、例えばヘテロ四量体化やSNARE集合の不可逆的性質などは、利用に関してまだ考慮されていない。SNARE束の使用の核となる概念は、異なるカーゴ(蛍光、放射性、免疫、化学的、親和性など)の組み合わせを運ばなければならない診断的/治療的/生物工学的タンパク質を生じさせる手段に関する。発明者らは、異なる個々の成分から自己集合が可能な、明確に定義された、組織化されたヘテロ四量体超分子構造の製造のための、シンタキシン、SNAP−25およびシナプトブレビン・タンパク質ベースの遺伝子操作されたポリペプチドの使用を提案した。発明者らは、最初に、四および三成分束の最小限のコアを規定し;2番目に、発明者らは、不可逆的結合のための二成分捕捉系を説明し;そして3番目に、発明者らは、線状多量体を製造する上でのSNARE束の有用性を示している。
【0128】
実施例1:四成分束
発明者らは、短縮型SNAREヘリックスが、四成分束としての機能ユニットの集合に使用できることを示している。短縮型SNAREヘリックスの使用は、合成経路を介したSNAREペプチドへの化学物質の付加に不可欠である。現在のところ、ペプチド合成は、〜50アミノ酸については十分信頼でき、かつ、金銭的にも実現可能である。そのため、SNAREヘリックスが短縮されるのであれば、更なるペプチド配列または他の化学物質の付加を可能にする上で有利であろう。単一SNAREモチーフを短縮することが不可逆的なSNARE集合の崩壊に通じることが知られている(Hao et al., 1997)。発明者らは、(1)4本のヘリックスすべての45アミノ酸ペプチドへの切断でも、安定した4本ヘリックス複合体がまだ可能なままであること、および(2)さまざまな官能基がこれらのペプチドのいずれの末端にも付加できることが分かった。このことが、(リガンドのアレイの提示、または受容体の多量体化が所望される)親和性試薬とキットまたは多価治療薬を含めたさまざまな用途に向けた束における多価複合体の簡単な製作を可能にする。4本の個別のヘリックスの遊離末端は、合成または遺伝子組み換え手段によって、望ましい空間的な組み合わせによる最大8つの別個のものの付加に使用できる。
簡潔にするために、発明者らは、不可逆的なヘテロオリゴマータンパク質複合体を4本ヘリックスコンビナトリアル足場(TetriCS)と呼ぶ。
【0129】
発明者らは、40個または45個のアミノ酸のいずれかを含むTetriCSペプチドを合成した。
40アミノ酸(aa):
ラット・SNAP25Aヘリックス1(第28−67アミノ酸)ビオチン含有:
STRRMLQLVEESKDAGIRTLVMLDEQGEQLDRVEEGMNHIGSGGG−ビオチン(配列番号1)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・SNAP25Aヘリックス2(第149−188アミノ酸)6−ヒスチジン標識含有:
NLEQVSGIIGNLRHMALDMGNEIDTQNRQIDRIMEKADSNGSGGGHHHHHH(配列番号2)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0130】
ラット・シンタキシン・1A(第201−240アミノ酸)6−ヒスチジン標識およびシステイン含有:
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAGSGGGHHHHHHC(配列番号3)
(40アミノ酸のシンタキシン配列がボールド体);
ラット・シナプトブレビン−2(アミノ酸31−70)モノクローナル抗体認識のためのSタグエピトープ含有:
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALGSKETAAAKFERQHMDS(配列番号4)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0131】
平行して、発明者らは、45アミノ酸の長さのTetriCSペプチドを試験した:
ラット・SNAP25Aヘリックス1(第28−72アミノ酸)ビオチン含有:
ビオチン−STRRMLQLVEESKDAGIRTLVMLDEQGEQLDRVEEGMNHINQDMKC(配列番号5)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・SNAP25Aヘリックス2(第149−193アミノ酸)システインおよび6−ヒスチジン標識含有:
CNEMDENLEQVSGIIGNLRHMALDMGNEIDTQNRQIDRIMEKADSNKTRIDGGHHHHHH(配列番号6)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0132】
ラット・シンタキシン・1A(第201−245アミノ酸)N末端抗体エピトープおよびシステイン含有:
Ac−AEDAEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号7)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・シナプトブレビン2(第31−75アミノ酸)抗体認識のためのN末端エピトープ含有:
MSATAATVPPAAPAGEGGPPAPPPNLTSNRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGAS(配列番号8)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体)。
【0133】
40または45アミノ酸ペプチドを、20℃にて60分間インキュベートし、そしてそれらの集合をSDS−PAGEによって分析した。図4は、45アミノ酸Tetricsペプチドが不可逆的なSNARE複合体を形成することができた(パネルA)一方で、40アミノ酸ペプチドがそうでなかった(パネルB)ことを示している。
【0134】
集合体の機能性をプルダウン実験で試験した。発明者ら、機能ユニットとして、GSTタグ付与したシナプトブレビン(45アミノ酸SNARE配列、細菌において遺伝子組み換えにより作製した)、SNAP−25のヘリックス1に化学的に結合させたビオチンおよびSNAP−25のヘリックス2に結合させた6−ヒスチジン・タグを使用した。発明者らは、グルタチオン・ビーズ(GST結合について)またはニッケル・ビーズ(6−ヒスチジン・タグの結合について)へのTetriCS集合体の結合と、それに続く蛍光ストレプトアビジン(ビオチンへの結合について)の結合を試験した。図5は、ストレプトアビジンが、グルタチオンまたはニッケル・ビーズのいずれかに非常に特異的な様式で結合した45aa TetriCSに結合できたことを示している。
【0135】
これらの結果は、45aa TetriCSペプチドがさまざまな官能基の結合に、それらの機能特性を損ねることなしに使用できることを示している。4つのTetricsペプチドには8つの遊離末端があるので、8つの異なる基を結合することが可能である。よって、TetriCSは、所定の作用を実施する適当に設計された分子成分から構築した構造的に組織化されていて、機能的に統合されている系と規定される機能性超分子デバイスの開発を可能にする(Lehn, 2007)。
【0136】
実施例2:三成分束
8つ未満の基を結合させるべき場合では、簡易型TetriCS集合を持っていることは有用である。実際、既に2つのSNAREヘリックスを持つ完全長SNAP−25分子(第1−206アミノ酸)を利用することが可能である(図6を参照のこと)。
そのため、発明者らは、先に記載した40、45aaラット・シンタキシン1Aおよびシナプトブレビン2ペプチドが完全長のラットSNAP−25Bと不可逆的な集合体を形成できるかどうか試験した。図7は、40(パネルA)と45aa(パネルB)ペプチドの両方がSNAP25Bと集合できることを示し、そして三成分系において、40aa長のペプチドでも完全長のSNAP−25への不可逆的結合に十分であることを実証している。
【0137】
発明者らは、以下のものを含有する40aa Tetrics集合体の機能性を試験した:
(i)完全長のラットSNAP25B(第1−206アミノ酸)システイン84、85、90、92のアラニンへの置換を含む。これは、SNAP−25の発現と精製に役立つことが知られている(Fasshauer et al., 1999)。
(ii)合成シンタキシン−mycペプチド(40アミノ酸のシンタキシン配列がボールド体)
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHA−GSGEQKLISEEDLC(配列番号9)。
(iii)合成シナプトブレビン−Sタグペプチド(40アミノ酸のシナプトブレビン配列がボールド体)
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−GSKETAAAKFERQHMDS(配列番号4)。
【0138】
GST融合SNAP−25のグルタチオン・ビーズへの結合に続いて、集合した三成分TetriCSが蛍光抗Myc抗体および蛍光S−タンパク質に結合する能力によって、集合体の機能性を試験した(図8)。ビーズ上の単独のGST−SNAP−25を用いた対照反応はわずかな結合しか示さなかったが、その一方で、40aaシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの付加は、抗Myc抗体およびS−タンパク質の両方のグルタチオン・ビーズへの強固な結合によって証明されるように、三成分TetriCSの形成をもたらした。
【0139】
発明者らは、40aa合成ペプチドが単一の不可逆的な複合体内でさまざまなタグの集合を可能にするとの結論を下した。その三成分系は、2つ短いポリペプチドとSNAP−25分子との自己集合セットを意味し、そしてタンパク質の簡単な6通りの多機能タグ付与を可能にする。
【0140】
次に、発明者らは、厳しい処理に耐える40aa三成分TetriCSの能力を試験するために表面プラズモン共鳴法を使用した。発明者らは、Biacore CM5チップにGSTタグ付与SNAP−25Bを化学的に結合させ、続いて40aaシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドを結合させ、次いで抗体を結合させた。図9は、ペプチドの結合が安定しており、かつ、チップの表面への抗myc抗体の結合を可能にすることを示している。0.1%のSDSの添加では、抗体は外れたが、固定化したSNAP−25からペプチドは外れなかった。
【0141】
実施例3:二成分束
発明者らはさらに、不可逆的なSNARE集合体を二成分系に簡素化した。二成分の親和性ベースのツールは、すべての基礎研究の基礎となり、そして薬物および診断法の開発において非常に貴重である(Uhlen, 2008)。用途には、親和性クロマトグラフィー、マイクロアレイ技術、マイクロプレート・ベースのスクリーン、および多くのバイオテクノロジー工程が含まれる。これらの用途で成功を収める主な要因は、固体表面または三次元マトリックスのいずれかにおいて規定された配向でタンパク質の堅く、不可逆的な固定化に依存する。いくつかの最近の総説は、既存の固定化技術の多くの不都合を明らかにした(Kohn, 2009; Tomizaki et al., 2005)。例えば、化学的なタンパク質カップリングの場合には、当業者は不可逆的な表面固定化を実現できるが、生成物は、配向性の問題や化学修飾のため無機能の状態である可能性もある。対照的に、タンパク質をさまざまなタグ(GST、Hisタグ、抗mycおよび他の抗体認識エピトープ)を使用した部位選択性の方法により対応する表面(グルタチオン、金属、抗体で覆われたもの)に結合させることが可能であるが、しかし、これらの場合のすべてで、固定化は永久的でない(既存のペプチド親和性タグのすべては解離する)および/または非常に高価である(抗体ベースの親和性表面)。明らかなことには、理想的な固定化技術は、標的タンパク質の不可逆的なカップリングと部位選択的配向の両方を可能にするべきであり、加えて、現在の抗体ベースのアプローチに比べてかなり安くなくてはいけない。別個には、機能性配向での2つのタンパク質の不可逆的な結合は、それらが不可逆的に結合するペプチドを伴って発現されれば、可能になる。
【0142】
二成分系のために、発明者らは2本らせんSNAP−25と一緒に、新たに設計したシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質を使用した(図10を参照のこと)。
【0143】
第一の実施形態において、発明者らは、図11で例示されるように、ラット・シンタキシン1A SNAREモチーフ(第195−254アミノ酸)をラット・シナプトブレビン2SNAREモチーフ(第25−84aa)と結合させた。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL(配列番号10)、小さい矢印)は、ハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。
【0144】
発明者らは、融合タンパク質を精製したが、それにはSNAP−25とのSNARE複合体の形成を妨げるシンタキシン1モチーフを介して凝集する傾向があることが分かった。次に、発明者らは、シナプトブレビン2とラット・シンタキシン3の融合を生じさせた。このキメラ内で、発明者らは、短い一連のアミノ酸を介してラット・シンタキシン3のSNAREモチーフ(第195−253アミノ酸)をラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合させた。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL)は、シンタキシン3とシナプトブレビン2の間の機能ユニットの挿入を可能にするハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。ラットSNAP−25Bと混合した場合、このシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質は、図12で例示されるように、不可逆的な複合体に素早く集合した。
【0145】
次のキメラにおいて、発明者らは、短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合されたラット・シンタキシン3のヘッドドメインとSNAREモチーフの両方(第1−260アミノ酸)を使用した(図13を参照のこと)。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL(配列番号10))は、シンタキシン3とシナプトブレビン2の間の機能ユニットの挿入を可能にするハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。
【0146】
シンタキシン3のヘッドドメインはSNARE集合からSNAREモチーフを保護するが、特定の脂質はSNARE集合のためにシンタキシンを「開状態にする」ことができると知られている(Darios and Davletov, 2006;Rickman and Davletov, 2005)。発明者らによる未発表の研究は、オクチルグルコピラノシドと呼ばれる弱い界面活性剤が、シンタキシン3分子を「開状態にする」こともできると示した。よって、発明者らは、シンタキシンSNAREモチーフを制御でき、かつ、制御された様式でSNARE複合体を形成できる。図14Aは、SDSゲルにおいて試験されるような制御された二成分集合の一例を示している。発明者らはさらに、他の界面活性剤または類似した脂質化合物、例えばMEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10およびzwittergent 3-12などには同じ効果があることがわかった。
【0147】
表面プラズモン共鳴実験は、さまざまな破壊剤(disrupting agents)に対するこの二成分集合の優れた抵抗性を実証した(図15)。
代替の二成分系として、発明者らは、一つの小さいタグを含む二成分親和性試薬を作り出したが、その試薬では、短いシンタキシン・ヘリックス(<5kDa)が図16Aに図式的に示した新たに設計した三重らせんSNARE融合タンパク質(〜27−31kDa)に不可逆的に結合できる。このキメラにおいて、発明者らは、2本のSNAP−25SNAREヘリックス(第22−206アミノ酸)をシナプトブレビン2配列のSNAREモチーフ1−84に融合した。SNAP−25とシナプトブレビン配列の間のリンカーGSGSEQKLISEEDLG(配列番号11)は、mycタグエピトープを持つ。先に記載したシンタキシンの40または45アミノ酸ペプチドと混合した場合、三重らせん融合タンパク質は、図16Bに例示されるように、素早く不可逆的な複合体に集合した。
【0148】
これらの二成分系は、現在の親和性タグに対する有用な代替手段である(Terpe, 2003)。二成分捕捉系の両方のタグは、細菌において発現され、そして部位選択的様式で、遺伝子組み換え製造のために任意のタンパク質に容易に付加される−これは、ビオチン/ストレプトアビジンまたは類似した非常に高い親和性の系と異なっている(ビオチンをタンパク質の一部として発現させることはできない)。高度に希釈した溶液からの迅速な捕獲は、二成分親和性試薬の不可逆的性質のため現在可能であるが−他のそういった系は現在存在しない。必要な場合には、二成分系内のタグのいずれかを、ビーズ、チップ、マイクロアレイプレートの表面に化学的に結合でき、そして官能基の化学的または遺伝子組み換えによる導入によって修飾できる。
【0149】
細菌抽出物からのタンパク質の精製のために二成分系を使用する例として、発明者らは、最初に、短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84(前記)に融合したラット・シンタキシン3のSNAREモチーフ(第195−253アミノ酸)を含む2本らせん融合タンパク質を、BrCN−セファロースビーズに固定化した。発明者らはさらに、SNAP−25Bにグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)と呼ばれる酵素を融合させ、そして大腸菌において後者の融合タンパク質を発現させた。2%の界面活性剤(zwittergent 3-08と呼ばれるもの)を使用した細菌細胞膜の崩壊後に、細菌抽出物を、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を含有するセファロース・ビーズ上に投入した。洗浄後に、ビーズをSDS−PAGEとクーマシー染色によって分析した。図17は、GST−SNAP25が、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つセファロース・ビーズに非常に特異的な様式で結合することを示している。
【0150】
実施例4:制御された線状重合反応
束形状での複数の基の結合に加えて、SNAREタンパク質はまた、図18で示されるような無限長の強固な線状多量体の形態で高度な超分子デバイスを生じさせる可能性も提供する。
そういった方向性において、発明者らの集合は、生体材料が新規線状超分子構造を生じるように分子単位で集合する、独特なアプローチを意味する(応用の可能性の総説について(Hinman et al, 2000;Lehn, 2007;Ryadnov and Woolfson, 2003; Zhang, 2003))。
【0151】
この場合、発明者らは、二成分系のために先に記載したシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質を使用した(短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合したラット・シンタキシン3(第1−260アミノ酸))。しかしながら、溶液中でSNAP−25とシンタキシン3−シナプトブレビン2融合体を混合する代わりに、発明者らは、重合反応を開始するのにヘッドドメインを含む単独のシンタキシン3ポリペプチド(GSTに融合した第1−260アミノ酸)を伴った固体支持体を使用した。発明者らは、最初に、GSTタグを介してグルタチオン・ビーズにGST−シンタキシン3分子単体を固定化した。次いで、発明者らは、0.8%のオクチルグルコピラノシドの存在下で、シンタキシン3/SNAP−25二成分複合体の形成を可能にするSNAP25B分子(第1−206アミノ酸)を加えた。結合していないSNAP−25を取り除くためのビーズ洗浄後に、発明者らはシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質を加えた。2つのビルディングブロックを加えるこの工程を、必要な回数だけ繰り返した。その工程を図19に示す。
【0152】
図20Aは、先の工程の経過と共にシンタキシン3−シナプトブレビン2融合体とSNAP−25の両方の量が段階的に増加することを示している。ビーズへの結合に使用されるGST−シンタキシン3の量が一定のままであるのに対して、結合したSNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の量は漸増する。結合した物質の量を示すため、集合体のSDS抵抗性の性質を乱すために、サンプルを煮沸した。図20Bは、サンプルをSDS−PAGE前に煮沸しなかったとき、追加の重合ステップに沿ったSDS抵抗性重合体の分子量の増大を示している。
【0153】
先の工程においてステップごとに制御されているので、望ましい位置に必要なカーゴを、個別のSNAP−25またはシンタキシン3−シナプトブレビン融合タンパク質に任意の重合ステップで加えることが可能である。SNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビンは、さまざまの分子構造の制御された製作のためのビルディングブロックである。用途には、機能性化したナノ繊維、複数のリガンドマイクロアレイ、スーパー分子酵素集合体、新しい電子デバイスおよびバイオテクノロジーや薬学における使用のための生体材料の製作が含まれる(応用の可能性の総説について(Zhang, 2003))。
【0154】
先に記載のように、シンタキシン−シナプトブレビン−シンタキシンまたはSNAP25−シンタキシン融合タンパク質を使用して、図21で示されるように特定の地点にて線状足場内の分岐を形成することも可能である。
最終的に、発明者らは、表面上ではなく、溶液中で2つの成分を単純に混合することによって線状重合体を作ることの可能性を探った。発明者らは、2つのSNAREタンパク質間のリンカー領域を取り除いたシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の修飾型を利用した。この融合構築物には、シナプトブレビン2残基(29−84)に直接融合したシンタキシン3残基(1−253)がある。図22を参照のこと。
【0155】
発明者らは、ラットSNAP−25B(第1−206aa)と融合タンパク質とを混合し、そして60分間の反応をSDSゲル電気泳動によって分析した。図23は、SNARE束が溶液中での簡単な混合によって多量体化できることを示している。
そのため、先に記載した二成分系は、溶液中での多量体化が可能であり、それは1〜4個のタンパク質機能ドメインを線状の形状で結合する方法を提供する。加えて、完全にSDS抵抗性の線状重合体のタンパク質ベースの製作は、ジョロウグモの多成分系集合体または現在のコイルドコイル・ナノ繊維より優れた特性を有する生分解性繊維の構築に使用できる。総説について、Hinman et al., 2000;Ryadnov and Woolfson, 2003を参照のこと。
【0156】
実施例1−4で使用したポリペプチドの配列(対応する図面の表示つき):
Syx3(1−260)/Syb2(1−84)(図13、14および20)(ヘッドドメインとリンカーを含むシンタキシン)−配列番号12
Syx3(195−253)/Syb2(1−84)(図12および17)(ヘッドドメインは無いがリンカーを含むシンタキシン)−配列番号13
Syx3(1−253)/Syb2(29−84)(図22)(ヘッドドメインを含むがリンカーが無いシンタキシン)−配列番号14
SNAP−25B(20−206)/Syb2(1−84)(図16B)−配列番号15
【0157】
実施例5:SNAREタグ付与は、ボツリヌス神経毒素の段階的な集合を可能にする
概要
好適なビルディングブロックの制御された結合によるナノメートルサイズの規定された、機能性超分子構造の創出は、医学と応用技術に新展望を提供し得る。現在の結合ストラテジーは、制限がある化学的方法に頼ることが多く、そして組み換え技術のすべての利点を得ることができていない。ここで、発明者らは、遺伝子組み換えおよび合成の機能ユニットの不可逆的な結合のための万能タグとして、細胞内膜の融合を駆動するための安定した4本ヘリックス複合体を形成する3つのSNAREタンパク質を利用した。発明者らは、SNAREタグ付与が、機能性超分子である医学用毒素、BOTOXとして一般的に知られているボツリヌス神経毒素A型の段階的な製造を可能にすることを示している。受容体結合領域とシナプトブレビンSNAREモチーフとの融合は、ニューロン内への、SNAP25でタグ付与したボツリヌス神経毒素の作用パーツの送達を可能にした。データは、SNAREタグ付与毒素が、その神経細胞内分子標的を開裂し、そして神経伝達物質の放出を阻害することができたことを示している。これらの結果は、SNARE4本ヘリックス・コイルドコイルが、さまざまなビルディングブロックの機能性ナノマシンへの制御された結合を可能にすることを実証している。
【0158】
序論
分子生物学とタンパク質の遺伝子組み換え製造の出現が科学を変革した。組み換えポリペプチド、タンパク質の機能性フラグメントおよび全酵素の使用は、薬剤、診断、ナノ技術、および消費者バイオ産業において現在広まっている。組み換え技術の明らかな成功にもかかわらず、タンパク質サイズは、単一の機能ユニットとしてより高性能なタンパク質を作り出すための障害のままで残っている。個々のタンパク質にというよりむしろ、超分子ユニットに複数の機能を組み合わせることで、我々はこのボトルネックを克服することが可能になると考えている。明らかに、ナノファクトリーまたはナノマシンの構築に関するこうした目的の達成は、要求に応じて、かつ、高精度でさまざまな機能ユニットを結合できる我々の能力に大きく依存する。この有望な分野における現在の取り組みが数十年間前に発明された結合技術:ビオチン−ストレプトアビジン対合、抗体−エピトープ認識、アミノ基およびスルホヒドリル基による化学的結合、にまだ頼っていることは、驚くべきことである。これらのアプローチは、組み換えタンパク質の化学修飾の必要性または抗体ベースの技術の複雑さのため制限していることが多い。最近開発された「クリック」化学反応がこれらの問題のいくつかに対処しているが、無機化合物に頼っているままであり、そして所定の超分子集合体への組み換えタンパク質の結合はこれまで達成されなかった。DNAの自己集合またはポリペプチドのオリゴマー化に基づく代替アプローチはさらに、多機能の遺伝子組み換え集合を設計する際にそれらの制限を受ける。ここで、発明者らは、機能ユニットへの組み換えポリペプチドの不可逆的な結合を達成するために、20年近く前に発見されたSNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体)タンパク質集合の使用の可能性を探った。
【0159】
SNAREタンパク質は、ヘテロメリック4本ヘリックスコイルドコイルを形成することによってあらゆる真核細胞内で細胞膜の融合を駆動している。脳由来SNARE複合体は、3つのタンパク質:シナプトブレビン、シンタキシンおよびSNAP25、から成る。シンタキシンとシナプトブレビンがそれぞれ単一のヘリックスをもたらすのに対して、SNAP25は2本のヘリックスをもたらして、四量体コイルドコイルを形成する。4つのSNAREモチーフは、55アミノ酸の長さであり、8つの特徴的なヘプタデ(heptade)反復を持つ。脳のSNARE複合体は、その安定性が並はずれており、カオトロピック試薬、強い界面活性剤、プロテアーゼ、および高温に対して抵抗性を示している。発明者らは、組み換えタンパク質にSNAREを融合することで超分子実体の制御された構築が可能になるかどうか調査することを決めた。
【0160】
多機能分子の例として、発明者らは、「認識、トラフィッキング、アンフォールディング、転座、再フォールディングおよび触媒作用を兼ね備えたナノマシン」と記述したボツリヌス神経毒素に注目した。ボツリヌス神経毒素A型、(BoNT/A)は、微量(1pMの濃度)の局所注入により非常に長い間神経筋麻痺を引き起こす能力のため、すばらしい医学的重要性があると証明された(Montecucco, C. et al.(2009))。BoNT/Aは、3つの主なモジュールから成る150kDaタンパク質である:ジスルフィド架橋を介して、いわゆる重鎖に連結されている50kDaの触媒パート(軽鎖、Lc)、そして該重鎖は、結果としてN末端の50kDaの転座パート(HN)とC末端50kDaのパート(Hc)からできており、後者は神経性ガングリオシドとシナプス小胞受容体SV2Cの認識に関与している(Mahrhold, S. et al.(2006)およびDong, M. et al.(2006))。その3つの主なモジュールは、X線モデルにおいて別個の構造ユニットとして認識される(出典、Lacy et al.(1998)、図24a)。前記触媒パートは、シナプスサイトゾル内にあるとき、優れた特異性でその神経細胞内標的であるSNAP25をタンパク質分解するので、神経伝達の長時間遮断につながる(Schiavo, G. et al.(1993)およびBlasi, J. et al.(1993))。SNAP25のC端末側終端からの9つのアミノ酸のBoNT/A介在除去は、シンタキシンとシナプトブレビンを用いたSNARE集合の安定性を低下させない(Hayashi, T. et al.(1994))。
【0161】
結果
発明者らは、最初に、SV2結合パート(Hc)をシナプトブレビンに融合させ(図24b)、そしてこの融合体が量子ドット(Q−ドット)を神経終末内に運ぶことができるか否かを試験した。Hc−シナプトブレビン融合体は、SNAP25、およびストレプトアビジンでコートしたQ−ドットへの結合のためにビオチンで標識した52アミノ酸シンタキシン3ペプチドとSNARE複合体を形成することができた。我々は、シンタキシン1よりむしろシンタキシン3SNAREモチーフを使用することを選んだ。なぜならば、シンタキシン1にはホモオリゴマー化する傾向があるためである。図24cは、Hc−シナプトブレビン融合体が、修飾シンタキシン3モチーフがあったとしても、SNAP25の存在下で不可逆的な(SDS抵抗性の)SNARE複合体を形成することができたことを示している。ビオチン化シンタキシン・ペプチドと前もって結合させたQ−ドットを、SNAP25の存在下でHc−シナプトブレビンと共にインキュベートし、そして神経終末内へのQ−ドットの送達をマウスに由来する海馬ニューロンの培養物において評価した。Q−ドット保有Hc−SNAREは、小胞タンパク質のシナプトフィジンでの染色によって確認されるように、シナプス接触点に蓄積した(図24d)。これは、BoNT/Aの標的化パートがそのシナプス受容体をまだ認識でき、かつ、SNAREタグとの遺伝子組み換え融合後に大きなカーゴを保有することができることを示している。
【0162】
次に、発明者らは、酵素パート、転座パートおよびSNAP25の融合体を調製した(図25a)。我々は、酵素パート(Lc)と転座パート(HN)の間に(天然のトリプシン感受性部位の代わりに)トロンビン開裂を導入し、単離手順中に、ジスルフィド結合によってまだ結合されたままであるこれらの2つのパート間の開裂を容易にする。LcHN−SNAP25融合体をE.コリにおいて首尾よく発現させ、そして均質に精製することができた。ジチオスレイトールで処理した場合に、この融合体は重要なジスルフィド結合の機能性を示す2つのパートに分かれた(図25b)。次いで、我々は、SNAREタグがLcHNパートとHcパートの単一体への集合を可能にするか否かを試験した。図25cは、シンタキシン・ペプチドの存在下では、2つの遺伝子組み換え融合体の組み合わせが、SDSゲルによって証明されるとおり、新規分子実体LcHN−SNARE−Hcの60分以内に出現につながったが、シンタキシン・ペプチドの不存在下ではそうならなかったことを示している。再集合BoNTの標的化の視覚化に役立つように、我々は、シンタキシン・ペプチドのフルオレセイン標識バージョンを使用し、そして実際にLcHN−SNARE−Hcが蛍光タンパク質として可視化できた(図25c)。
【0163】
LcHN−SNARE−Hcが培養海馬ニューロンに適用された場合、蛍光分子が小胞マーカーであるシナプトフィジンと共に有意な程度まで共局在化し、BoNT/Aの天然標的への結合を示した(図26a)。重要なことに、抗SNAP25抗体で処理したニューロンの免疫ブロッティングは、ニューロンが天然のBoNT/A分子で処理されたときと同じ様式で、SNAP25が開裂を受けたことを実証した(図26b)。これは、酵素パートがシナプス小胞内へのLcHN−SNARE−Hcの侵入時に首尾よく神経サイトゾル内に放出されたことを示している。神経伝達物質放出に対するLcHN−SNARE−Hcの効果を試験するために、我々は多重因子の同時比較を可能にする96ウェル・グルタミン酸放出試験を使用した(Darios, F. et al.(2009))。図27aは、LcHN−SNARE−Hcが天然のBoNT/Aに類似した用量依存性を有する、単離した脳の神経終末からのグルタミン酸のカルシウムおよびKCl依存性放出を阻害することができたことを示している。中枢神経終末からのグルタミン酸放出の阻害の程度は、以前に得た値とよく一致し(McMahon, H. T. et al.,(1992))そしてすべての中枢シナプスがBoNT/Aに対するSV2C受容体を保有するわけではないことを示唆している(Dong, M. et al.,(2006))。重要なことに、結合シンタキシン・ペプチドの不存在下でのSNAREタグ付与LcHNとHcとの混合では不活性な分子が得られ、遺伝子組み換えパーツの機能性実体への結合において、完全なSNARE集合が重要な要因であることを裏付けている(図27b)。LcHN−SNARE−Hcのジチオスレイトールでの処理が、集合毒素を不活性したので、LcとHNの間のジスルフィド結合の機能性を示唆している(図27b)。最後に、我々は、筋肉を麻痺させるLcHN−SNARE−Hcの能力を試験した。我々は、単離したマウス横隔膜上にいくつかの濃度の集合神経毒を適用し、そして横隔神経の麻痺応答を試験した。振幅が初期値の50%まで減少するのに必要な時間(麻痺半減期)を測定した。図27cは、LcHN−SNARE−Hcが、ナノモル未満の濃度(190pM)にて72分以内に横隔膜筋を麻痺させることを示している。結合シンタキシン・ペプチドの不存在下では、麻痺は観察されなかった(データ未掲載)。
【0164】
ここで、発明者らは、SNAREタグ付与が、BOTOXとして一般的に知られている医学用毒素、BoNT/Aの段階的な集合を可能にすることを実証した(Davletov, B. et al.(2005))。神経筋ジャンクションの遮断におけるLcHN−SNARE−Hcの有効性は天然のBoNT/Aより低かったが(Mahrhold, S. et al.(2006))、これは、長い神経筋ジャンクション内で遠方の活性領域に到達することに関して拡張型毒素の能力が低いか、または有効性低下につながる横隔膜筋における大量のシナプス前末端によるかのいずれかで説明できる。しかしながら、ニューロン間のシナプス接触との関連において、我々は、LcHN−SNARE−Hcと天然神経毒の間に類似した有効性を観察した。神経筋ジャンクションではなく、ニューロン間シナプスの阻害に対するそういった優先的効果は、筋を麻痺させる副作用を避ける疼痛阻害治療の開発に有利であり得る。我々の観察の意味はたくさんあるが、ここでいくつかを列挙する。一つ目に、安全な方法で細菌によるマルチモジュール型医学用毒素の活性形態を発現することが、現在可能である;実際には、我々の「ロッキング(locking)」ペプチドの使用は、追加的な安全機能を可能にする。また、造影剤や将来的な治療薬を提供するために、SNARE対応物でそれらにタグ付与することによって、SNAREタグ付与Hcパートを利用することも可能である(Binz, T et al.(2009))。さらに、抗ボツリヌス血清を作製する場合に、より強い免疫応答を引き出すためにHcパートをオリゴマー化することも可能である(Webb, R. P. et al.(2007))。LcHNパートのSNAREタグ付与はさらに、特定の神経内分泌細胞に対するBoNT/Aの有効成分の容易な再標的化を可能にするであろう(Dolly, J. O. et al.(2009))。ここで、当業者は、対応するSNAREタグ付与リガンドを作製することによって神経ペプチドまたは増殖因子受容体を標的化できる。そういったSNAREタグ付与は、特定のニューロンのサブセットをサイレンス化するのに最も有益な(単数もしくは複数の)組み合わせを見つけ出す目的を有するさまざまな機能ユニットの簡便なコンビナトリアル混合を可能にする(Foster, K. A.(2009))。
【0165】
発明者らは、洗練された「ナノマシン」の例としてBoNT/Aを使用したが、SNAREタグ付与が、高度に制御された様式において、多くの更なる超分子集合を構築する際に使用できることは明らかである。好適なビルディングブロックの制御された結合によるナノメートルサイズの十分に定義された、機能性超分子構造の創出は、多くの分野に新展望を提供すると思われる(Lehn, J. M.(2007))。ボツリヌス神経毒素の集合時のビオチンとフルオレセインの取り込みによって証明されるように、比較的短いSNAREモチーフは、遺伝子組み換えによって作り出されたポリペプチドと無機分子の両方の組み合わせを可能にする。SNAREコイルドコイルの最大の利点は、最大8つの異なる機能の結合を可能にしているそのヘテロ四量体の性質である。この能力は、将来的な医学と応用技術においてこれから利用される。
【0166】
方法
プラスミドとタンパク質反応。すべてのタンパク質を、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合体としてE.コリのBL21菌株で発現させた。LcHN−SNAP25の発現のためのプラスミドを、以下のとおり作製した:BoNT/AのLc(第1−449アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、そしてpGEX−KGベクターでSmaIおよびEcoRI制限部位内に挿入した(Guan, K. L. et al.(1991))。BoNT/Aの転座ドメインHN(第450−872アミノ酸、ATG Biosynthetics、Germany製)のコドン最適化cDNAを、軽鎖の3末端に挿入した。トロンビン開裂部位(アミノ酸LVPRGS(配列番号16))を、軽鎖とBoNT/Aの転座ドメインの間に挿入した。最後に、ラットSNAP25B(第1−206aa)のcDNAをHNの3’末端に挿入した。Hc−Sybの発現を可能にするプラスミドを、以下のとおり作製した:ラット・シナプトブレビン(第25−84アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、そしてpGEX−KGベクターのBamHIとEcoRI部位の間に挿入した。BoNT/A重鎖(第876−1296アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、シナプトブレビンの3’末端に挿入した。シンタキシンSNAREモチーフ(第200−250アミノ酸)のペプチドを、ビオチンまたはフルオレセインのいずれかと共に化学的に合成した(Peptide Synthetics、UK)。GSTに融合したタンパク質を、グルタチオン・セファロース・ビーズ(GE Healhcare、USA)により精製し、そしてトロンビンを使用して20mMのHepes、pH7.3、100mMのNaCl中にビーズから溶出した。SNAREタグ付与タンパク質をシンタキシン・ペプチドと22℃にて1時間混合することによって、超分子複合体を集合させた。
【0167】
神経の造影と免疫ブロッティング。マウス抗シナプトフィジン抗体(クローン7.2)はSynaptic Systems製であり、そしてマウス抗SNAP25抗体(クローンSMI81)はSternberger Monoclonals製である。ストレプトアビジン共役Q−ドット525は、Invitrogen製である。海馬ニューロンの初代培養を、記載のとおり調製し(Darios、F.ら(2009))、そして7〜10日後にインビトロにおいて使用した。ニューロンを、SNAREタグ付与または天然の毒素に2時間晒し、4%のPFAで固定化し、次いで抗シナプトフィジン抗体で免疫染色した。蛍光発光を、Nikon Eclipse蛍光顕微鏡に連動させたRadiance Confocalシステム(Zeiss/Bio-Rad;Hemel Hempstead, Herts.、U.K.)により観察した。あるいは、ニューロンを、集合毒素または天然のBoNT/Aと共に20時間インキュベートし、60mMのTris、pH6.8、2mMのMgCl2、2%のSDS、ベンゾナーゼ(Novagen、250U/ml)中で溶解し、そしてSNAP25開裂を抗SNAP25抗体を使用した免疫ブロッティングによって分析した。
【0168】
神経伝達物質放出の遮断。ラット脳シナプトソームを、記載のとおり新たに単離した(Darios, F. et al.(2009))。シナプトソーム(0.5mg/mlのタンパク質)を、指示した濃度のLcHN−SNARE−Hcを含むバッファーA(mM単位で132のNaCl、5のKCl、20のHEPES、1.2のNaH2PO4、1.3のMgCl2、0.15のNa2EGTA、1のMgSO4、5のNaHCO3、10のD−グルコース)中、37℃にて1時間インキュベートした。
【0169】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(15ユニット/ml、Sigma)および3mMのNADP(Sigma)を含有する等量のバッファーAを10分間かけて加えた。グルタミン酸放出を、2mMのCaCl2の存在下、KCl(35mM)の添加によって誘発し、そして蛍光発光を追って観察した(Exc.340nm、Em.460nm)(Darios, F. et al.(2009)およびMcMahon, H. T. et al.(1992))。Phrenic Nerve半横隔膜アッセイを、先に記載のように実施した(Mahrhold, S. et al.(2006))。マウス横隔神経を、Naval Medical Research Institute(NMRI)マウスから得た。横隔神経を、5〜25mAにて1Hzの周波数、0.1msのパルス幅で連続的に刺激した。等尺性収縮を、力変換器を使用して変換し、そしてVitroDat Onlineソフトウェア(FMI GmbH)で記録した。初期値の50%まで振幅が減少するのに必要な時間(麻痺半減期)を測定した。
【0170】
追加情報
ボツリヌス神経毒素は、自然が作り出した中で最も強力な毒素である。これらの毒素は、持続的な麻痺と死亡を引き起こすようにクロストリジウム属(Clostridium)細菌によって産生される。ここ30年間にわたり、ボツリヌス・ファミリーの一部のメンバー、例えばBOTOXとしても知られているボツリヌス神経毒素A型(BoNT/A)を、医学および美容目的のためにうまく利用してきた。これらの毒素は、神経筋ジャンクションをサイレント化し、そして多くのタイプのニューロンからの神経伝達物質放出を遮断できる。実際に、脳以外の人体のあらゆる部分がBOTOXによって処置できる。神経筋ジャンクションの麻痺は可逆的なので、筋の持続的な緩和には3〜4カ月毎の反復注射を必要とする。BoNT/Aは、横紋筋だけではなく、平滑筋についても神経支配を遮断する。さらに、発汗、唾液分泌および他のタイプの分泌を制御する自律神経系のコリン作動性ジャンクションは、神経筋ジャンクションのようにBOTOXに対して感受性がある。そのため、BOTOXベースの処置は、最近、みごとなまでにずらりと並んでいる、ジストニアから胃腸や尿の障害までの100近い病状を含むまでに拡大した。
【0171】
臨床医学におけるBoNT/Aの有効性が、ボツリヌス・ファミリーの他のメンバーへの着目の高まりにつながった。比較研究では、BoNTs(A−G)の7つの免疫学的に異なる抗原型の中で、BoNT/Aが最も長い麻痺効果を有することが実証されたので、そのため、神経障害の処置において特にBoNT/Aの有用性が実証された。すべてのBoNTsは、150kDaの分子量を有する単一のポリペプチド鎖として細菌によって合成される。細菌の死滅と溶解に続いて、毒素は、細菌のプロテアーゼによって「切れ目が入れられて」、ジスルフィド結合によってつなぎとめられている50kDaの軽鎖と100kDaの重鎖を生じる。ジスルフィド結合によってまだ結合されている2本の鎖は、トランスサイトーシスによって小腸上皮細胞を横断し、血流に入り、そして最終的に末梢のコリン作動性神経終末に結合する。
【0172】
BoNTsの強烈な毒性は、末梢神経終末がBoNTsの高親和性受容体として機能できる分子を保有することを示している。実際、いくつかのシナプス小胞タンパク質が、BoNTsの受容体として機能することが示された。重鎖が神経終末へのBoNTsの結合に関与するとはいえ、軽鎖は、小胞融合機構を攻撃する強力なエンドペプチダーゼなので、そのため神経終末の内側に入らなければならない。BoNTsは、小胞エンドサイトーシス経路を乗っ取ることによってこの役割を達成する。リサイクリング小胞内部のpHが下がるに従って、BoNTsは大きな立体構造変化を受ける。これは、部分的に折り畳まれていない軽鎖がサイトゾル内に滑り込むことによって、重鎖の転座パート(HNとして知られている)が小胞膜を横切る推定チャンネルを形成することを可能にする。サイトゾル内への侵入により、ジスルフィド結合の還元で軽鎖が重鎖から解放される。
【0173】
BoNT軽鎖は、小胞融合を媒介し、それにより経伝達物質放出する3つのSNAREタンパク質の多くのアイソフォームを攻撃する強力なエンドペプチダーゼである。BoNT/AおよびBoNT/EがSNAP−25をタンパク質分解し、BoNTsのB、D、FおよびGがシナプス小胞上のVAMPを開裂することが現在知られている。BoNT/Aによって9つのアミノ酸まで短縮されたSNAP−25は、原形質膜のシンタキシンおよび小胞のシナプトブレビンと相互作用する能力を維持しているが、正常な小胞融合工程を媒介することはできない。ボツリヌス神経毒素(BoNTs)に関する詳細は、以下で見出すことができる:Davletov, B., Bajohrs, M. and Binz, T., Trends Neurosci 28, 446-452(2005);Johnson, E.A.(1999)Annu Rev Microbiol 53, 551-575;Jankovic, J.(2004)J Neurol Neurosurg Psychiatry 75(7), 951-957;Aoki, K,R. and Guyer, B.(2001)Eur J Neurol 8 Suppl 5, 21-29;Simpson, L.L.(2004)Annu Rev Pharmacol Toxicol 44,167-193;Dolly, O.(2003)Headache 43 Suppl 1, SI6-24;およびMontecucco, C. and Schiavo, G.(1993)Trends Biochem Sci 18(9), 324-327。BoNT/A(BOTOX)の完全な配列情報は、Binz, T. et al.(1990)JBiol Chem 265(16), 9153-9158に公表された。
【0174】
再標的化ストラテジー:
これまで、BoNTsの恩恵は、神経筋疾患や自律神経系の障害の処置に限定されてきた。しかしながら、BoNTsはさらに、中枢ニューロンの神経伝達物質放出も遮断できるので、実験神経科学や高次脳機能を扱う将来の神経学においてそれらを利用することを可能にさせる。脳切片、培養ニューロンおよびシナプトソームに関する研究は、BoNTsがアセチルコリンだけではなく、グルタミン酸、グリシン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、ATPおよびさまざまな神経ペプチドなどの神経伝達物質の放出も止めることができること実証した(Ashton et al.(1988)、Capogna, M. et al.(1997)、Sanchez-Prieto, J. et al.(1987)、Verderio, C. et al.(2004)、Luvisetto, S. et al.(2004)、およびCostantin, L. et al.(2005))。BoNTsの軽鎖は、天然では、それらのパートナー重鎖によって送達されるが、リポソームや遺伝子組み換え融合構築物などの代替の送達手段もまた効果的である(de Paiva, A. et al.(1990)、Chaddock, J.A. et al.(2004)、およびDuggan, M.J. et al.(2002))。BoNT/A軽鎖を伴ったレクチンの遺伝子組み換えキメラは、最近、侵害受容求心神経または背根神経節内へのBoNT/A軽鎖の送達を可能にした(Chaddock, J.A. et al.(2004))。重要なことに、送達有効性は、軽鎖がGFP蛍光標識に融合されるのであれば、容易に追跡できるので、サイレント化細胞のマーキングを可能になる。BoNTsの重鎖がシナプスを標的化し、そして神経終末にそれらの軽鎖を輸送する能力は、神経生物学で利用できる別のツールを提供する(Goodnough, M.C. et al.(2002)およびBade, S. et al.(2004))。BoNT重鎖を使用したさまざまな分子、特に酵素の送達は、シナプス生理学の操作のために実現可能であり得る。実際に、BoNT/Dが遺伝子組み換えにより結合させた酵素を神経終末に送達できることが最近実証された(Bade, S. et al.(2004))。
【0175】
発明者らは、以下の2つのパーツ:
転座ドメイン(HN)を含む軽鎖(LC)、ここで、転座ドメインはそのC末端にSNAREタグ(シンタキシン、SNAP−25またはシナプトブレビン)を保有する;および
そのN末端にSNAREタグ(シンタキシン、SNAP25またはシナプトブレビン)を保有する重鎖(HC成分)の受容体結合パート、
から毒素を再結合させることによって機能性ボツリヌス神経毒素を得ることが可能であることを示した。
【0176】
SNAREタグは、機能ユニットの不可逆的な結合を可能にする。
これらの2つのパーツ(LCHNおよびHC)は、健康を損なう恐れなしに、タンパク質産生菌株において別個に産生されことができる。各パートは、安全な方法によって精製できる。2つのパーツが混合される場合、それらは、活性な神経毒を1時間以内に生じる。前記神経毒は、晒されたニューロンにおいてその分子標的であるSNAP−25を開裂し、そして神経終末からの神経伝達物質放出を遮断することもできる。
【0177】
SNAREタグを伴ったLCHNパートは機能性であるので(すなわち、SNAP−25神経開裂および神経伝達物質放出の遮断が観察される)、LCHN/リガンド部分の不可逆的な集合のためにSNAREタグを伴ったリガンドを加えることによって、特定のニューロンまたは内分泌細胞にこの作用パーツを向けることが可能である。一例は、SNAREタグに結合したソマトスタチン・ペプチドである。意図した細胞へのリガンドの結合は、その後の軽鎖の放出を伴った該細胞内へのLCHNの転送と、それによる、その後の神経伝達物質またはホルモン放出の停止を伴ったSNAP−25の損傷をもたらすことができる。
【0178】
SNAREタグを伴ったHC成分は機能性であるので(すなわち、LCHN/SNAREタグ付与体の結合後の神経伝達物質放出の遮断の観察)、ニューロン内への他の酵素または造影部分の送達にSNAREタグ付与HCパートを使用することが可能である。必要な受容体を保有する特定の細胞内に薬物、造影試薬などを送達するために、SNAREタグを伴った他の受容体結合化合物(例えばソマトスタチン神経ペプチド)を使用することもまた可能である。
【0179】
SNAREモチーフでタグ付与したLCHNの配列およびSNAREモチーフでタグ付与したHCの配列を以下に示す:
BoNT/A軽鎖(第1−449aa)、転座ドメイン(第449−872aa)およびSNAREタンパク質をコードするcDNAを、分子生物学技術によって融合した。トロンビン部位LVPR−GS(配列番号17)を、BoNT/Aの軽鎖(LC)と転座ドメイン(HN)の間に挿入して、トリプシンによって毒素の天然のニッキングを模倣した(先の配列内に「−」で表した)。GSTに融合したタンパク質を記載のように精製した。そのタンパク質を、トロンビンを使用してビーズから20mMのHepes、pH7.3、100mMのNaCl中に溶出した。シナプトブレビン2(25−84)BoNT/A Hc(876−1296)の場合には、0.8%のオクチルグルコシドが溶出緩衝液中に存在していた。溶出後に、我々は以下の配列を有するタンパク質を得た:
【0180】
LcHN−SNAP25:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−SNAP25B(CからA)−配列番号18
LcHN−Syx:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−Syx3(195−253)−配列番号19
LcHN−Syb:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−Syb2(1−96;WWK−AAA)−配列番号20
【0181】
Syb−HcA:Syb2(25−84)BoNT/A Hc(876−1296)−配列番号21
Syb HcD:Syb2(25−84)BoNT/D Hc(863−1276)−配列番号22
ナノロッキングHcA:Syx3(195−253)Syb2(1−84)BoNT/A Hc(876−1296)−配列番号23
SNAP25B(CからA)−配列番号24
シンタキシン3(195−253)−配列番号25
【0182】
細菌による産生(すべて上記)によって得られた組み換えタンパク質に加えて、以下の合成ペプチドもまた使用した:
Syx3ペプチド(45aa、52aa−FITC)
ソマトスタチン−シナプトブレビン・ペプチド
ソマトスタチン−シンタキシン・ペプチド
ソマトスタチン・ペプチド−配列番号26
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH。
【0183】
触媒パートを受容体結合部に結合させるために、発明者らは、1つのSNAREタンパク質に融合させた作用パート(LcHN−Syx、LcHN−SNAP25またはLcHN−Syb)を、第2のSNAREタンパク質を含む受容体結合パートと一緒に1時間混合した。集合を、第3のSNAREパートナーの添加によってロックした。組み合わせの例を、以下の表中に示す:
【0184】
【表1】
【0185】
実施例6
以下の実施例は、SNAREモチーフのN端末側終端を切断することによって安定したSDS抵抗性複合体を得る可能性を示す:
シナプトブレビン2の完全なSNAREモチーフ(N末端からC末端):
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号27)
シナプトブレビン2のSNAREモチーフのN末端切断である以下の合成シナプトブレビン・ペプチドを試験した:
1)FITC−Ahx−AQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号28)(49個のアミノ酸);
【0186】
2)FITC−Ahx−DIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号29)(42個のアミノ酸);
3)FITC−Ahx−DKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号30)(35個のアミノ酸);および
4)FITC−Ahx−KLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号31)(27個のアミノ酸)。
【0187】
図33は、シナプトブレビンSNAREモチーフは、42個のアミノ酸まで削減されることができるので、それでもまだシンタキシン1(stx1)およびSNAP25(S25)と共にSDS抵抗性複合体を形成することを示している。35アミノ酸シナプトブレビンSNAREモチーフもまた、複合体を形成するが、それはゲル電気泳動中に「融解する」。
【0188】
実施例7
シンタキシンSNAREモチーフの短縮によって例示されるように、SNAREモチーフはさらに、NおよびC末端の両方から削減することも可能である。加えて、内部残基の置換は、オーダーメイドの適用のためのSNARE集合に寛容である。
【0189】
シンタキシン1の完全なSNAREモチーフ:
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVERAVSDTKKA(配列番号32)。
【0190】
以下の合成シンタキシン・ペプチドを試験した:
1)FITC−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVERA−Ahx−KK−NH2(配列番号33)(47個のアミノ酸);
2)Ac−HHHHHH−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号34)(45個のアミノ酸);
3)EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAGSGGGHHHHHHC(配列番号35)(40個のアミノ酸);
【0191】
4)Flu−GGEIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMID(配列番号36)(31個のアミノ酸);
5)EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESTGEMIDRIEYNVEHA−NH2(配列番号37)(40個のアミノ酸);および
6)Bio−NSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号38)(39のアミノ酸)。
【0192】
結果を図34に示す。40個のアミノ酸を持つシンタキシン1は、複合体形成に十分である。両末端から短縮され、そしてN末端にビオチンと更なる修飾に有用な追加のシステインを保有する39アミノ酸ペプチドは、SDSゲルにより示されるような安定した複合体を形成する。注記、シンタキシンの内部リジン(K204)をアルギニンと置き換えることが可能であり、それでもSNAP25およびシナプトブレビンと共に強い複合体形成が維持できる。そういった置換は、ペプチド修飾または表面上への固定化のためにリジンがNまたはC末端上に付加されるべきであれば、有利である。
【0193】
シンタキシンSNAREペプチドの安定バージョンを得るために、すべての内部メチオニンを非易酸化性ノルロイシンで置き換えることもまた可能である:
野生型(Met)−FITC−Ahx−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2(配列番号39)
ノルロイシン・ペプチド−FITC−Ahx−EIIKLENSIRELHDnFnDnAnLVESQGEnIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2(配列番号40)。
【0194】
図35のSDSゲルは、匹敵する集合体が、SNAP−25、シナプトブレビン45aaペプチド、および前記の2本のシンタキシン・ペプチドから作製できることを示している。
【0195】
実施例8
SNAREモチーフの多くの組み合わせが、複合体形成系に利用できる。図36に示したSDSゲルで可視化されているように、安定したSDS抵抗性複合体の例およびそれらの融解温度(Tm)を、遺伝子組み換えシンタキシン1および3、SNAP23およびSNAP25、ならびにVAMPs2、4、5、7および8でできたSNARE複合体について提供する。
最も強固な複合体(より高い融解温度、Tm)は、シンタキシン1、VAMP2およびSNAP25またはSNAP23のいずれかを用いて得られる。
【0196】
細菌により産生され、そしてここで使用した追加のSNAREアイソフォームのアミノ酸配列は、以下のとおりである:
SNAP−23−配列番号41
VAMP4−配列番号42
VAMP5−配列番号43
VAMP7−配列番号44
VAMP8−配列番号45。
【0197】
実施例9A
複合体形成系は、3つの別個の短縮型ポリペプチドSNAREモチーフを結合させる。
グルタチオン−S−トランスフェラーゼに融合した遺伝子組み換えシナプトブレビン(VAMP2)は、40および45アミノ酸シンタキシン1ならびにSNAP25ペプチドと結合できる。SNAP25ペプチドを、ヘリックス1(S25H1)やヘリックス2(S25H2)と示す。
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
S25H1 45aa:配列番号48;
S25H1 40aa:配列番号49;
S25H2 45aa:配列番号50;および
S25H2 40aa:配列番号51。
結果を図37に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0198】
実施例9B
遺伝子組み換えS25H2タンパク質は、40および45アミノ酸シンタキシン1、VAMP2、ならびにS25H1ペプチドと結合できる。
S25H1 45aa:配列番号48;
S25H1 40aa:配列番号49;
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
Syb2 45aa:配列番号52;および
Syb2 40aa:配列番号53。
結果を図38に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0199】
実施例9C
遺伝子組み換えS25H1タンパク質は、40および45アミノ酸シンタキシン1、VAMP2、ならびにS25H2ペプチドと結合できる。
S25H2 45aa:配列番号50;
S25H2 40aa:配列番号51;
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
Syb2 45aa:配列番号52;および
Syb2 40aa:配列番号53。
結果を図39に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0200】
実施例10
神経ペプチドの複合体形成は、さまざまな組み合わせで達成できる。
以下のペプチドを使用して例を提供する:
シンタキシン・タグ−ソマトスタチン:(配列番号54)
Ac−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHA−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH
ブレビン・タグ−ソマトスタチン:(配列番号55)
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH
【0201】
シンタキシン・タグ−サブスタンスP:(配列番号56)
Ac−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−Ahx−Ahx−RPKPQQFFGLM−NH2
ブレビン・タグ−サブスタンスP:(配列番号57)
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGAS−Ahx−Ahx−RPKPQQFFGLM−NH2。
【0202】
これらのペプチドを組み合わせることで、図40で例示されるような代替の安定した組み合わせを提供する。図40において、レーン1および2:ブレビン・タグ−サブスタンスPを、SNAP25の存在下でシンタキシン・タグ−ソマトスタチンと混合した。安定した複合体は、サブスタンスPとソマトスタチンの両方を含んでいる(ヘテロ二量体ペプチド)。レーン3および4:ブレビン・タグ−ソマトスタチンを、SNAP25の存在下でシンタキシン・タグ−ソマトスタチンと混合した。安定した複合体は、2つのソマトスタチンを含んでいる(ホモ二量体ペプチド)。注記、レーン1および3は、タグ付与した神経ペプチドを使用した安定した複合体を示した。
【0203】
実施例11
神経ペプチドは、細胞表面受容体への結合やペプチドの転座に影響を及ぼし得る異なる配向で、他の機能性基、例えばボツリヌス神経毒素パーツなどと結合できる。この実施例では、以下の配列を使用した:
45aaシンタキシン・モチーフ−アルギニン/バソプレッシン・ペプチド(AVP)(配列番号58)
Ac−AEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVER−Ahx−Ahx−CYFQNCPRG−NH2
アルギニン/バソプレッシン・ペプチド−45aaシンタキシン・モチーフ(配列番号59)
CYFQNCPRG−Ahx−Ahx−AEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2
【0204】
これらのペプチドをボツリヌス毒素AのLcHnパートと組み合わせることで、図41のSDSゲルで可視化された代替の安定した組み合わせを提供する。
レーン1および2:シンタキシン−AVPを、SNAP−25の存在下でLcHn−ブレビンと共に60分間インキュベートした。安定した複合体は、LcHn−SNARE−AVPを含んでいる(AVPはSNAREリンカーのC端末側終端に存在する)。
レーン3および4:AVP−シンタキシンを、SNAP−25の存在下でLcHn−ブレビンと共に60分間インキュベートした。安定した複合体は、LcHn−AVP−SNAREを含んでいる(AVPはSNAREリンカーのN端末側終端に存在する)。
【0205】
実施例12
40より短いペプチドでも、まだ安定した複合体を形成できる(しかしSDS抵抗性ではない)。使用した配列:
ビオチン−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQG−NH2(配列番号60)−27aaシンタキシン1ペプチド
ビオチン−Ahx−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMID−NH2(配列番号61)−31aaシンタキシン・ペプチド
ペプチドの結合を、グルタチオン・ビーズ上に固定化したGST−SNAP25リンカー・シナプトブレビン・タンパク質(三重らせん構築物)を使用したプルダウン実験において観察した。結合は25℃にて30分間であり、それに続いてバッファーA(20mMのHEPES、100mMのNaCl)中で洗浄する。タンパク質とペプチドをSDSゲル上で可視化した(42図)。ビーズに結合したビオチン化ペプチドを、SDSゲルの底に見ることができる。
【0206】
実施例13
SNAREペプチドは、そのタンパク質を遺伝子組み換えによって発現できないときに、タンパク質を化学的に架橋することができる。そのペプチドはSNARE複合体を形成するそれらの能力を保有し、そして修飾タンパク質はそれらの活性を保有する。使用される配列:
45aaシンタキシン1ペプチド
Ac−AEDAEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号62)
【0207】
先のペプチドをMaleimide-Horse Radish Peroxidaseに架橋した(Sigma-Aldrich Co.)。
図43は、マレイミド・ベースの架橋を示しているSDSゲルである。
架橋シンタキシン−HRPは、グルタチオン・ビーズ上に固定化されたGST−三重らせん(Snap25−ブレビン、S−B)に結合できる。結果を、図44および45に示す。図44は、TMB基材の650nmにおける吸光度を示している。図45は、フィルム上で発光により可視化したものの発光を示している。注記、GST−三重らせん(S−B)を含まない対照グルタチオン・ビーズが、シンタキシン−HRPのバックグラウンド結合のみを示す。
【0208】
実施例14
29アミノ酸コンプレキシン1ペプチドは、SNARE集合と相互作用できる。このペプチドは、その固定化後の精製、またはSNAREベースの集合における追加担体として使用できる。
コンプレキシンペプチド:
Ac−ERKAKYAKMEAEREVMRQGIRDKYGIKKGSGSGGIKVAV−NH2(配列番号63)。
【0209】
図46は、Ni2+ビーズ上に固定化されたタンパク質を追跡することによるコンプレキシン・ペプチドのプルダウンを示すSDSゲルである。
A.完全長HIS−SNAP25(SNARE複合体なし)
B.完全長HIS−SNAP25+完全長シンタキシン1+完全長シナプトブレビン2
C.完全長HIS−SNAP25+完全長シンタキシン1+シナプトブレビン2 45aaペプチド
D.完全長HIS−SNAP25+シンタキシン1 45aaペプチド+完全長シナプトブレビン2
E.完全長HIS−SNAP25+シンタキシン1 45aaペプチド+シナプトブレビン2 45aaペプチド。
特に、レーンEは、1つの組み換えタンパク質が3つの合成ペプチド(そのうち1つがコンプレキシン・ペプチドである)と結合する生成物を表す。
【0210】
実施例15
SNARE集合は、血清の存在下で達成できる。特定の用途では、SNAREベースの薬剤は、血液中への注射後に新たに相互作用が求められるであろう。FITC蛍光タグを持つ45アミノ酸シンタキシン1ペプチドを、100%の仔ウシ血清の存在下、グルタチオン・ビーズ上に固定化したGST−三重らせんタンパク質(シナプトブレビンに結合させたSNAP−25、SBタンパク質)への結合について試験した。結果を図47に示す。注記、ビーズ上の三重らせんタンパク質の存在が、血清存在下でのシンタキシン蛍光ペプチドのプルダウンをもたらす。縦軸は相対蛍光単位を表す。
参考文献:
【0211】
【化1】
【0212】
【化2】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、SNARE複合体を基礎とする分子足場を形成するための複合体形成系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
真核細胞内では、小胞融合として知られている過程において、小胞が膜と融合する。例えば、小胞は、細胞原形質膜またはエンドソームもしくはリソソームなどの他の細胞コンパートメントと融合することができる。小胞融合の最も研究された形態は、シナプス後ニューロンの神経インパルスの伝搬を引き起こすように神経伝達物質を放出するための神経細胞のシナプス前膜とシナプス小胞のドッキングである。
【0003】
小胞融合の過程はSNAREタンパク質(SNARE)によって媒介されており、それらは酵母や哺乳動物細胞では60を超えるメンバーから成る巨大タンパク質スーパーファミリーである。SNAREは、小さいが、豊富にあり、そして大部分が膜結合タンパク質である。それらは構造とサイズで大きく異なるが、それらはすべて、SNARE複合体と呼ばれる密な4本ヘリックス束への集合を可能にするSNAREモチーフと呼ばれるそれらのサイトゾルドメイン内のセグメントを共有する。SNAREモチーフは、長さが約60〜70アミノ酸であると考えられているが(Jahn RおよびScheller RH)、このことは十分に規定されていない。SNARE複合体は3種類のタンパク質:シンタキシンおよびSNAP−25(これらは細胞膜に常在している);ならびにシナプトブレビン(小胞結合膜タンパク質またはVAMPとも呼ばれる)(これは小胞膜にアンカーされている)、で構成されることもある。
【0004】
ニューロンのエキソサイトーシスにおいて、シンタキシンとシナプトブレビンは、それらのC末端ドメインによってそれらのそれぞれの膜にアンカーされているが、SNAP−25は、数個のシステインが連結しているパルミトイル鎖を介して原形質膜につなぎ留められている。コアSNARE複合体は4本のαヘリックス束であって、そこでは、1本のαヘリックスがシンタキシンによってもたらされ、1本のαヘリックスがシナプトブレビンによってもたらされ、そして2本のαヘリックスがSNAP−25によってもたらされる。このSNARE複合体は、非常に安定していることが分かっている。小胞融合にかかわる分子機構の略図を図1に示している。
【発明の概要】
【0005】
発明者らは、SNARE複合体とその形成がさまざまな適用に使用できることを見出した。そのために、本発明の基礎は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分(cargo moieties)、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成する複合体形成系である。
【0006】
本発明の種々の態様において、先の複合体形成系に更なる制限を加えることができる。本発明はさらに、先の複合体形成系を使用した安定なSNARE複合体を作製する方法、ならびに先の複合体形成系と得られた安定なSNARE複合体の使用に関する。
【0007】
本発明の詳細な説明
以下の説明は、本発明の多くの異なった実施形態を提示する。しかしながら、記載したほとんどすべての制限、好ましい特徴および変形形態は、それらがすべて先に記載した複合体形成系に基づいている限り、本発明の他の実施形態に適切であることは、当業者にはすぐに分かるであろう。
【0008】
一態様において、本発明では分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し;かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである。
【0009】
本発明の他の態様において、複合体形成系が、50アミノ酸未満の長さであるポリペプチドヘリックスをたった2本しか持たないとは限らない。
本発明は、異なった機能単位を形成する安定した複合体の制御された集合を可能にする。安定した複合体を持つ利点は、複合体が解離するリスクなしに比較的厳しい条件でそれを使用できるという点である。これは、1もしくは複数のカーゴ部分が結合されている(単数もしくは複数の)ヘリックスが複合体の一部のままで残るので、確実に1もしくは複数のカーゴ部分が複合体の残った部分から解離しないようにすることを意味する。
【0010】
先に示したように、複合体形成系は、安定したSNARE複合体の形成に基づいている。そのため、本発明の4本のポリペプチドヘリックスには、それらが安定したSNARE複合体を形成する限り、ある程度の任意の配列を持つことができる。
【0011】
ニューロンでは、以下のタンパク質:SNAP−25;シンタキシン;およびシナプトブレビン、からSNARE複合体が形成される。これらのタンパク質、および他のSNAREタンパク質は、SNARE複合体を形成するのに関与するタンパク質の一部であるSNAREモチーフまたはSNAREドメインを含んでいる。これらのSNAREドメインまたはモチーフが、SNARE複合体を形成するために一緒に詰め込まれるヘリックスである。一般的に、SNAREタンパク質の一部だけが、SNARE複合体形成にかかわるが;SNAREタンパク質全体ではない。例えば、シンタキシンには、ヘッドドメインとしても知られているC末端膜貫通ドメイン、SNAREドメインおよびN末端調節ドメインがある。明らかに、SNAREドメインだけがSNARE複合体を形成するのに関与する。
【0012】
「SNAREモチーフ」や「SNAREドメイン」といった用語は、当業者にとって周知である。さらに、さまざまな異なったSNAREタンパク質のSNAREモチーフやSNAREドメインもまた当業者に周知である(Jahn R and Scheller RH(2006);Sieber et al.(2006);Besteiro(2006))。
【0013】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質、すなわち、SNAPタンパク質;シンタキシン;およびシナプトブレビンもしくはその相同体、のSNAREドメインまたはモチーフに基づいている。そのため、一実施形態において、複合体形成系は:SNAPタンパク質のSNAREモチーフに由来する2本のポリペプチドヘリックス;シンタキシンのSNAREモチーフに由来する1本のポリペプチドヘリックス;およびシナプトブレビンもしくはその相同体のSNAREモチーフに由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり;ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成する。本発明のヘリックスは、SNAREタンパク質からのSNAREモチーフまたはドメインと同じ長さである必要があるとは限らない。本発明の他のヘリックスと複合体を形成するときに、それが安定したSNARE複合体をまだ形成できている限り、それは長さがもっと短くてもよい。
【0014】
2本のポリペプチドヘリックスがそれに由来するSNAPタンパク質は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるSNAPタンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなSNAPタンパク質を知っている。例えば、SNAPタンパク質は、SNAP−25A、SNAP−25B、SNAP−23(シンデット(syndet)としても知られている)、またはSNAP−29であり得る。好ましくは、SNAPタンパク質はα−SNAPではない。好ましくは、SNAPタンパク質は、SNAP−25、すなわち、SNAP−25AまたはSNAP−25Bである。SNAPタンパク質は2つのSNAREモチーフを含んでいる。そのため、2本のポリペプチドヘリックスが、特定のSNAPタンパク質内の2つのSNAREモチーフに由来することもある。あるいは、2本のポリペプチドヘリックスが、異なったSNAPタンパク質に由来することもある。好ましくは、それらは同じSNAPタンパク質に由来する。
【0015】
ポリペプチドヘリックスがそれに由来するシンタキシン・タンパク質は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるシンタキシン・タンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなシンタキシン・タンパク質を知っている。例えば、シンタキシン・タンパク質は、シンタキシン1A、シンタキシン1B、シンタキシン2(エピモルフィン(epimorphin)としても知られている)、シンタキシン3およびシンタキシン4、シンタキシン5、シンタキシン6、シンタキシン7、シンタキシン8、シンタキシン10、シンタキシン11、シンタキシン13、シンタキシン17またはシンタキシン18から選択され得る。好ましくは、シンタキシン・タンパク質は、シンタキシン1Aまたは3である。
【0016】
ポリペプチドヘリックスがそれに由来するシナプトブレビン・タンパク質またはその相同体は、SNARE複合体の一部を形成できるあらゆるシナプトブレビン・タンパク質またはその相同体であることができる。当業者は、SNARE複合体の一部を形成できるさまざまなシナプトブレビン・タンパク質とその相同体を知っている。シナプトブレビンは、小胞結合膜タンパク質(VAMP)ファミリーのメンバーである。他のVAMPタンパク質がSNARE複合体を形成できることは知られているので、そのため、ポリペプチドヘリックスを得ることができる基礎を提供するのに好適であり得る。一実施形態において、シナプトブレビンの相同体は、SNARE複合体の一部を形成できるVAMPタンパク質である。そういったVAMPタンパク質は、当業者に周知である。シナプトブレビン・タンパク質またはその相同体は、シナプトブレビン1、シナプトブレビン2、シナプトブレビン3(セルブレビンとしても知られている)およびシナプトブレビン7(TI−VAMPとしても知られている)から選択され得る。好ましくは、ポリペプチドヘリックスは、シナプトブレビン・タンパク質に由来する。好ましくは、シナプトブレビン・タンパク質は、シナプトブレビン1、2または3である。
【0017】
SNAREタンパク質の起源である生物体は、SNARE複合体が利用されているあらゆる好適な生物体であることができる。例えば、そのタンパク質は:哺乳動物、例えばヒトなど、霊長動物、齧歯動物;魚類;および無脊椎動物、例えばハエなどが起源であり得る。任意に、SNAREタンパク質は酵母由来であってもよい(Rossi G et al.(1997))。SNAREタンパク質の起源である生物体は、複合体形成系の適用によって決まることもある。例えば、医療応用のためには、SNAREタンパク質はヒト起源であることが好ましい。
【0018】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質に由来する。SNARE複合体を形成するSNAREタンパク質のSNAREモチーフまたはドメインのヘリックスは、通常長さが約60〜70アミノ酸である。先に示したとおり、本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、SNAREタンパク質のSNAREモチーフまたはSNAREドメインに由来する。「由来する」という用語は、ポリペプチドヘリックスの配列が、それが安定したSNARE複合体を形成することができるようなSNAREドメイン/モチーフの配列またはその一部と実質的に同じであることを意味する。好ましくは、ポリペプチドヘリックスの配列は、選択されたSNAREドメイン/モチーフまたはその一部の配列と少なくとも約80%の配列同一性を有するべきである。より好ましくは、配列同一性は、少なくとも約85%、そしてよりいっそう好ましくは少なくとも約90%であるべきである。一実施形態において、配列同一性は、少なくとも約95%、少なくとも約98%であり得るか、または100%でさえあり得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、選択されたSNAREドメイン/モチーフまたはその一部の配列と異なっていることがポリペプチドヘリックスの配列にとって望ましいこともある。これは、タンパク質の発現、タンパク質の精製または下流適用に関して有益であり得る。例えば、そして限定することなしに、これには、精製できるようにするための配列のいずれかの末端におけるヒスチジン残基の付加、または表面またはカーゴへのペプチドの機能性結合のための追加のリジンまたはシステイン残基の組み込みが含まれ得る。
【0019】
2つのSNAP由来ヘリックスは、配列番号1、2、5、6、24、41、48、49、50、51、64および65から選択される配列を含み得る。
シンタキシン由来ヘリックスは、配列番号3、7、9、25、32、33、34、35、36、37、38、46、47、60、61、62および66から選択される配列を含み得る。
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスは、配列番号4、8、27、28、29、30、31、42、43、44、45、52、53、67、68および69から選択される配列を含み得る。
さらに、SNAREタンパク質に由来するヘリックスは、先の配列から成ることができる。
加えて、本発明のヘリックスは、配列番号1〜9、12〜15および18〜69から選択される配列を含み得るか、またはそれらから成ることができる。
【0020】
それぞれのポリペプチドヘリックスは、それが他のヘリックスと相互作用して安定したSNARE複合体を形成するために十分に長くなくてはならない。実際には、このことは、ポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体の形成を可能にするのに十分に長いSNAREモチーフ/ドメイン部に由来しなければならないことを意味する。安定したSNARE複合体の形成を可能にするのに十分に長いポリペプチドヘリックスか否かを試験することは、比較的に単純であり、そして十分に当業者の能力の範疇にある。これは、ポリペプチドヘリックスを他の3本のポリペプチドヘリックスと複合体形成させ、そして得られたSNARE複合体が悪条件下で解離するか否か調べるために試験することによって行うことができる。悪条件は、一般に、タンパク質複合体やタンパク質−タンパク質相互作用の解離を引き起こす条件である。そういった条件は当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、そういった悪条件は、複合体を強い界面活性剤または破壊性の界面活性剤(disrupting detergent)に晒すことであり得る。一実施形態において、SNARE複合体は、それが変性SDS濃度(>0.02%)の存在下で実施されるSDS−PAGEを使用することによって安定しているか否かを測定するために試験されることができる。もし複合体がその構成要素に分かれるようにゲル中のSDSによって解離されるのであれば、このSNARE複合体は安定していないかもしれない。しかしながら、SDS−PAGEゲルを通して移動させ、そして、例えばクーマシー染色を使用するなどして検出できたときに、SNARE複合体が解離せずに、単一の実体として残っているのであれば、それは安定していると見なされることができる。そのため、一実施形態において、SNARE複合体がSDSを使用しても解離しないのであれば、安定していると見なされることができる。好ましくは、SNARE複合体は、約2%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルサンプルバッファーを使用した場合でも安定している。より好ましくは、SNARE複合体は、約0.1%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルを使用した場合でも安定している。これは、約0.1%のSDSを含有するSDS−PAGE用のゲルを使用して行われることができる。
【0021】
あるいは、SNARE複合体の安定性は、ビーズ・プルダウン法によって確かめられる。もし複合体形成系の一成分が化学量論的様式ですべての相互作用パートナーを沈降させるのであれば、SNARE複合体が安定していると見なされる。ビーズ・プルダウン法は、当業者に周知である(Rickman C. et al.(2004))。
タンパク質−タンパク質相互作用の表面プラズモン共鳴測定もまた、使用され、そして当業者に周知である(Karlsson & Falt(1997))。表面プラズモン共鳴法を使用した場合、当業者が表面プラズモン共鳴シグナルの減少によって証明される解離を観察しなければ、SNARE複合体が安定していると見なされる。
【0022】
SNARE複合体が安定しているか否かを測定する別の方法は、複合体の解離定数を測定することである。これは複合体からの1本のヘリックスの解離に関する解離定数である。安定したSNARE複合体は、10-7M未満の解離定数を有するはずである。特定の実施形態において、安定したSNARE複合体は、10-8、10-9、10-10、10-11、10-12、10-13、10-14、または10-15M未満の解離定数を有するべきである。複合体形成系が使用される適用によって、異なった解離定数を有することが有益である可能性がある。そのため、いくつかの実施形態において、解離定数は、10-7M〜10-11Mまたは10-7M〜10-10Mであり得る。あるいは、解離定数は、抗体解離定数(6〜10×10-8M)に匹敵し得る。
SNARE複合体形成はさらに、完全に形成されたSNARE複合体に結合するコンプレキシンに結合することによって評価されることもできる(Hu et al.(2002))。
【0023】
一実施形態において、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約25アミノ酸である。そういったヘリックスを使用したSNARE複合体は、溶液中で形成できる。しかしながら、それらはSDS抵抗性でない可能性がある。好ましくは、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約30または約35アミノ酸である。より好ましくは、本発明のポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約40アミノ酸である。そういったヘリックスを使用して形成されたSNARE複合体は、ほとんどの場合、SDS抵抗性である。あるいは、ポリペプチドヘリックスは、長さが少なくとも約45アミノ酸であり得る。
【0024】
一実施形態において、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも1本が、50アミノ酸未満の長さである。この利点は、長さが50アミノ酸未満のポリペプチドを人工的に製造することの方がずっと容易であるという点である。50アミノ酸未満であるポリペプチドヘリックスは、いずれのポリペプチドヘリックスでもあり得る。好ましくは、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が、50アミノ酸未満の長さである。好ましくは、それらは、シンタキシンおよびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスである。
【0025】
代替の実施形態において、ポリペプチドヘリックスのうちの3または4本が、50アミノ酸未満の長さであり得る。そういった実施形態において、あらゆるヘリックスの組み合わせが、50アミノ酸未満の長さであり得る。発明者らは、それぞれのSNAREタンパク質のSNAREモチーフの最小ペプチド配列で高親和性の安定した4本ヘリックス束SNARE複合体を形成するのに十分であることを驚いたことに見出した。このことは、ペプチドの製造の容易さに関して有利である。さらに、各最小配列はカーゴを運搬できるので、それは機能性を保持している。
【0026】
2本のポリペプチドヘリックスが50アミノ酸未満の長さである場合には、好ましくは、それは、50アミノ酸未満の長さである、シンタキシンに由来するヘリックスおよびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスである。
【0027】
本発明の4本のポリペプチドヘリックスは、ほぼ同じ長さであっても、異なる長さであってもよい。例えば、一実施形態において、それらはすべて約45アミノ酸の長さであり得る。あるいは、ポリペプチドヘリックスは異なった長さであり得る。
【0028】
本発明の一実施形態において、シンタキシンに由来するポリペプチド、および/またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドは、膜または脂質二重層へのSNARE複合体の固定化を可能にする膜結合配列をさらに含み得る。そういった膜結合配列は、当業者に周知である。例えば、シンタキシンとシナプトブレビンの天然配列は、タンパク質が小胞や細胞膜に結合できるようにする膜貫通部分を含んでいる(Kasai and Akagawa(2001)およびLaage et al.(2000))。そのため、一実施形態において、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスは、該ポリペプチドヘリックスを膜または脂質二重層に固定するためのシンタキシン膜貫通ドメインに由来する膜結合配列をさらに含み得る。同様に、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスは、該ポリペプチドヘリックスを膜または脂質二重層に固定化するためのシナプトブレビンもしくはその相同体の膜貫通ドメインに由来する膜結合配列をさらに含み得る。
【0029】
安定したSNARE複合体は、通常タンパク質複合体およびタンパク質−タンパク質相互作用の解離を引き起こす悪条件下でも分離しないものである。これは、例えばSDS−PAGE、ビーズ・プルダウン法、固定化されたタンパク質の表面プラズモン共鳴法、解離定数またはコンプレキシン結合を使用して計測することができる。このことについては、先にさらに詳細に議論している。
【0030】
SNARE複合体はよく研究され、そして当業者に周知であるので、当業者は、特定のタンパク質が本発明における使用に好適であるかどうか、そして安定したSNARE複合体を形成するように本発明のポリペプチドヘリックスを作り出すために、どのようにこれらのタンパク質およびそれらの配列を操作するかを確立することができるであろう。
【0031】
1もしくは複数のカーゴ部分は、当業者がポリペプチドヘリックスに結合させたい可能性があるあらゆる成分であり得る。1もしくは複数のカーゴ部分は、複合体形成系の中のヘリックスの末端に結合させるのが好ましい。カーゴ部分は、小分子、小分子、ポリペプチド、タンパク質、核酸または誘導体を含む重合体、および粒子またはナノ粒子から選択され得る。例えば、カーゴ部分は、以下のとおりであり得る:
【0032】
1.小分子、または小分子を含む重合体、例えば以下のものなど:
−アフィニティータグ、例えばビオチン;
−治療薬、例えば毒素または薬物;
−更なる/下流の架橋、重合および更なる誘導体化のための反応基、例えばアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、グアニジン基、フェノール基、チオエーテル基、イミダゾール基、インドール基など;
−更なる修飾形態に好適な自発的反応基、例えばSH基を架橋するためのマレイミドもしくは誘導体、または架橋するのに好適なその他の化学物質;
−表面に直接結合させるための分子、例えば金属面への結合のためのSH含有分子;
【0033】
−造影試薬、例えばUV、VIS、IR、ラマン、NMR、MRI、PET、X線または他の造影法のための蛍光または吸収性の成分;
−生物学的関連リガンド、例えば受容体結合性/標的化に関するもの;
−生物学的関連基質、例えばリン酸化または他のPTM部位;
−生物学的関連分子、例えば脂質または炭水化物;
−保護基または分子、例えばPEG;
−金属キレート化化合物;
【0034】
2.ポリペプチドまたはタンパク質、例えば以下のものなど:
−結合ペプチド、ホルモン、毒素など;
−機能性部位、例えばプロテアーゼ消化部位、を含むポリペプチドまたはタンパク質;
−標的化機能性ペプチド、例えば異なったオルガネラの標的化、(トランスフェクションのための)核標的化、(薬物送達のための)細胞内標的化などのためのもの;
−ペプチド親和性タグ、例えばFlag、Myc、VSV、HA、6xHis、8xhis、ポリ−Hisなど;
【0035】
−タンパク質−タンパク質相互作用を形成することができるポリペプチドまたはタンパク質、例えばPDZ、SH2/3;
−抗体、抗体フラグメント、抗体模倣物、RNAもしくはペプチド・ベースのアプタマー、または別のアフィニティー試薬(タンパク質性または非タンパク質性のもの);
−酵素、例えば研究、診断(一部の適用のために複合体形成系が酵素を固定化するために使用できる)および治療への適用のためのもの、プロモーター、ポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、または他の修飾酵素を含めた核酸合成または増幅のためのもの;
【0036】
3.核酸または誘導体、例えば以下のものなど:
−検出、固定化、ハイブリダイゼーション、合成プライマー、合成および増幅、標識化、シグナル検出およびシグナル増幅、転写ならびに翻訳のためのDNA、RNA、またはPNA;そして
【0037】
4.粒子またはナノ粒子、例えば以下のものなど:
−強磁性粒子またはナノ粒子(分離のためのもの);
−デンドリマー(標識化のためのもの);
−金属粒子またはナノ粒子、例えば染色もしくは標識化のための金または銀;
−半導体粒子またはナノ粒子、例えば標識化および検出のための量子ドット;
−重合体マイクロまたはナノ粒子、例えば樹脂、ゲルなど;
−カーボンナノチューブまたはナノワイヤー。
【0038】
一実施形態において、多数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックス末端に結合させることができる。ポリペプチドヘリックス末端に結合させることができるカーゴ部分の数は、ヘリックスにいくつの遊離末端が存在しているかによるであろう。例えば、複合体形成系が4つの別々のポリペプチドヘリックスを含む場合には、該ヘリックスは8つの遊離末端(それぞれのヘリックスの各末端に1つずつ)を持つであろう。そのため、8つの遊離末端のそれぞれにカーゴ部分を結合させることが可能である。このことは、1、2、3、4、5、6、7または8個のカーゴ部分をヘリックスの遊離末端に結合させることができることを意味する。一部のヘリックスに遊離末端がない場合には、例えばヘリックスのうちの2本が1本になっているかまたは1本のヘリックスが基材に結合されているのであれば、遊離末端の数は少なくなる。このことは、ヘリックス末端に結合できるカーゴ部分の数を少なくするであろう。一実施形態において、2個以上のカーゴ部分をヘリックス末端に結合することができる。
【0039】
特定の実施形態において、第1のカーゴ部分を第1のヘリックス末端に結合させ、そして第2のカーゴ部分を第2のヘリックス末端に結合させる。そういったある実施形態において、第1および第2のカーゴ部分は、同じヘリックスまたはヘリックス含有成分に一緒に結合させるべきでない。それらは、別個のヘリックスまたはヘリックス含有成分に結合させるべきである。例えば、2つのカーゴ部分を、2つの単一の独立したヘリックスに結合させることができる。
【0040】
シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと連結されている場合(後でより詳細に記載する)、第1および第2のカーゴ部分を共に、この二重らせん成分に結合させるべきでない。代わりに、第1のカーゴ部分をシナプトブレビン/シンタキシン融合タンパク質に結合させることができ、そして第2のカーゴ部分をSNAPタンパク質に由来するヘリックスのうちの一方に結合させることができる。
【0041】
複合体形成系の4本のポリペプチドヘリックスが一体化して、2本のヘリックス含有成分(後で詳細に記載する)を形成している場合、第1のカーゴ部分は第1のヘリックス含有成分に結合させるべきであり、そして第2のカーゴ部分は第2のヘリックス含有成分に結合させるべきである。
【0042】
一実施形態において、第1のカーゴ部分は、酵素的または造影成分である。他の実施形態において、第2のカーゴ部分は、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体に対して複合体形成系を標的化するためのリガンドである。好ましくは、同じ実施形態において、第1のカーゴ部分は、酵素的または造影成分であり、そして第2のカーゴ部分は、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体に対して複合体形成系を標的化するためのリガンドである。
【0043】
酵素的作用物質または造影剤は、あらゆる好適な作用物質であり得る。造影剤は、ヘリックスに結合でき、そしてヘリックスの位置を画像化できるようにするあらゆる作用物質、例えばGFP蛍光タグ、蛍光標識ペプチド、およびMRI造影剤、である。酵素的作用物質は、酵素またはその機能部のいずれかであることができる。一実施形態において、酵素的作用物質または造影剤は酵素的作用物質である。具体的な実施形態において、酵素的作用物質は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる。ボツリヌス毒素の軽鎖の機能は、エンドペプチダーゼとしての機能である。そのため、ボツリヌス毒素の軽鎖の機能部は、エンドペプチダーゼ活性を保持する部分である。好ましくは、酵素的作用物質はボツリヌス毒素の軽鎖を含んでなる。ボツリヌス毒素の軽鎖は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであり得る。A、B、C、D、E、FおよびG型の7つの異なる型のボツリヌス毒素が存在する。好ましくは、軽鎖はボツリヌス毒素AまたはE型からのものであり、そしてより好ましくは、軽鎖はボツリヌス毒素A型からのものである。
【0044】
好ましくは酵素的作用物質は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部(translocation portion)を含んでなる。ボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、それに付随している軽鎖が小胞から細胞のサイトゾル内に放出されるようにする。当業者は、「ボツリヌス毒素の重鎖の転座部」という用語が何を意味するか容易に理解し、そしてそれはまた、転座ドメインと呼ばれることもある。ボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであり得る。好ましくは、転座部は、ボツリヌス毒素AまたはE型、そしてより好ましくはボツリヌス毒素A型からのものである。軽鎖またはその機能部および転座部は、同じであるかまたは異なるボツリヌス毒素からのものであることができる。好ましくは、軽鎖またはその機能部および転座部は、同じボツリヌス毒素からのものである。軽鎖またはその機能部および転座部は、任意の好適な方法で連結されていてもよい。好ましくは、それらは、天然に存在するボツリヌス毒素のように、ジスルフィド結合形成を介して連結されている。ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部がアミノ酸鎖間のペプチド結合によって連結されているのであれば、好ましくは、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部とボツリヌス毒素の重鎖の転座部の間のアミノ酸配列に、2つの部分の間のアミノ酸配列の開裂を引き起こすようにプロテアーゼによって認識されるニッキング部位が存在する。一実施形態において、ニッキング部位は、トロンビンによって開裂されることができるトロンビン部位である。ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部は、SNAPタンパク質に由来するポリペプチドヘリックスのうちの一方に結合され得る。
【0045】
ボツリヌス毒素の軽鎖の配列は、配列番号70に示されている配列を含み得る。
ボツリヌス毒素の重鎖の転座部の配列は、配列番号71に示されている配列を含み得る。
【0046】
カーゴ部分がリガンドである場合には、それは、特定の標的、例えば特定の細胞型または特定の受容体、に対して複合体形成系を標的化するための好適なリガンドのいずれかである。当業者にとって、そういったリガンドは周知である。例えば、リガンドは、細胞表面受容体に結合することを可能にし得る。そういったリガンドには、神経ペプチド、例えばサブスタンスP、神経ペプチドYおよびVIPなど、増殖因子、例えばNGFやBDNFなど、ならびにホルモン、例えば下垂体ホルモン(例えばACTH、TSH、PRL、GH、エンドルフィン、FSH、LH、オキシトシン、ADHおよびAVP)、GNRHおよびCGRPなどを含むことができた。特定の実施形態において、リガンドは、ソマトスタチン・ペプチドであるか、またはソマトスタチン・ペプチドがソマトスタチン受容体に結合できるようにするその機能部である。他の実施形態において、リガンドは、サブスタンスPペプチドであるか、またはサブスタンスPペプチドがニューロキニン受容体に結合できるようにするその機能部であり得るか、あるいは、AVPペプチドであるか、またはAVPペプチドがAVP受容体に結合できるようにするその機能部であり得る。代替の実施形態において、リガンドは、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部であってもよい。ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部は、ニューロンのガングリオシドの認識に関与し、そしてシナプス小胞受容体であるSV2Cに結合し、そして毒素が細胞内に取り込まれるようにする。「ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部」という用語は、当業者に容易に理解されるであろうし、また受容体結合ドメインとも呼ばれている。受容体結合部は、あらゆるボツリヌス毒素からのものであることができる。好ましくは、受容体結合部は、ボツリヌス毒素AまたはE型からのものであり、そしてより好ましくは、受容体結合部は、ボツリヌス毒素A型からのものである。一実施形態において、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに結合させる。
【0047】
ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部の配列は、配列番号72に示されている配列を含み得る。
本発明はさらに、治療法および/または診断での使用のための先の複合体を提供する。治療法および/または診断の正確な性質は、リガンドと酵素的作用物質/造影剤の素性によるであろう。
【0048】
第1のカーゴ部分が第1のヘリックスの末端に結合され、そして第2のカーゴ部分が第2のヘリックス末端に結合されている一実施形態において、第1のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる酵素的作用物質およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部であり、そして第2のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部であるリガンドである。代替の実施形態において、第1のカーゴ部分は、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部を含んでなる酵素的作用物質およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部であり、そして第2のカーゴ部分は、ソマトスタチン・ペプチドまたはその機能部であるリガンドである。
【0049】
1もしくは複数のカーゴ部分は、ヘリックス末端に直接連結されていても、リンカーを介して結合されていてもよい。好適なリンカーは当業者に周知である。例えば、これは、化学的に行われ得るか、またはカーゴ部分がタンパク質またはポリペプチドであれば、遺伝子組み換えによって行われ得る。カーゴ部分は、リンカーを介して結合させることもできる。そういったリンカーは当業者に周知である。
【0050】
4本のポリペプチドヘリックスは、それらがSNARE複合体を形成するまではどのような形であっても一体化されない4本の別々のヘリックスであり得る。一実施形態において、複合体形成系が3つの別個の成分を含んでなるように(以下、三成分系とも呼ばれる)、ヘリックスのうちの2本が一体化され得る。前記2本のヘリックスは、その2本のヘリックスが同じ安定したSNARE複合体に集合できる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。前記2本のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。2本のヘリックスは、リンカーを介して一体化され得る。「連結」という用語は、ヘリックスの線状結合を意味する(これは「ジッパリング(zippering)」と同様の平行方向で起こるヘリックスの結合とは対照的である)。2本のヘリックスが一体化することは、複合体形成系を簡素化するのに役立つ。いずれの2本のヘリックスも一体化され得る。一実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、一体化される。この利点は、そのタンパク質内に2本のポリペプチドSNAREヘリックスを含んでなる完全長SNAPタンパク質、例えば完全長SNAP−25タンパク質が使用できるという点である。あるいは、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結され得る。
【0051】
他の実施形態において、2本のヘリックスが一体化されていると同時に、他の2本のヘリックスもまた一体化されている。これは、2つの別個の成分を含んでなる複合体形成系(以下、二成分系とも呼ばれる)を作り出し、そして系をさらに簡素化する。二組のヘリックスは、それらが安定したSNARE複合体を形成し続けられる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。例えば、二組のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。一組または双方のヘリックスは、リンカーを介して一体化され得る。あらゆるヘリックスの組み合わせでも、一体化されて、二組の2本のヘリックスを形成できる。好ましくは、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが一体化され、そしてシンタキシンとシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスが一体化される。このことは、完全長SNAPタンパク質、例えばSNAP−25などを使用できるようにする。
【0052】
代替の二成分系では、ヘリックスのうちの3本を一体化できる。3本のヘリックスは、それらが第4のヘリックスと安定したSNARE複合体を形成し続けられる限り、あらゆる好適な方法で一体化され得る。例えば、3本のヘリックスは、遺伝子組み換え手段によって一体化され得るか、または化学的にカップリングされ得る。3本のヘリックスを、2本のヘリックスまたは3本のヘリックスすべての間のリンカーと一体化し得る。いずれの3本のヘリックスも一体化し得る。好ましくは、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、第3のヘリックス、すなわち、シンタキシンに由来するヘリックスまたはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックス、と共に一体化される。特定の実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される。代替の実施形態において、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスが、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される。一実施形態において、カーゴ部分を、第4の単一のヘリックスに結合させる、例えばSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと共に一体化される場合には、シンタキシンに結合させる。
【0053】
これらの二成分系が抗体−抗原相互作用に類似した親和性適用に使用できる二成分試薬であることは、当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、FLAGエピトープを着目のタンパク質に結合させ、そしてその同族抗体によって認識されることができるのと同程度に、シンタキシン由来タグを着目のタンパク質に結合させ、そしてSNAP−25とシナプトブレビン・ヘリックスから成る三重らせん構築物によって認識させることができる。三重らせんSNARE構築物と単独のSNAREタグとの相互作用の親和性は、タンパク質の固定化できる程度であり得るか、他の適用のために可逆的であり得る。三重らせん構築物が抗体よりも安価に構築できるので、このことは有利である。
【0054】
シンタキシン3のヘッドドメインがSNARE集合からそのSNAREモチーフを保護することが知られているが、特定の界面活性剤および/または脂質はSNARE集合のためにシンタキシンを「開状態にする」ことができる(Darios and Davletov(2006);Rickman and Davletov(2005))。そのため、シンタキシン由来ヘリックスがそれに結合しているシンタキシン・ヘッドドメインを持っている一実施形態において、その系は、界面活性剤、好ましくは弱い界面活性剤、例えば安定したSNARE複合体の形成を可能にするようにシンタキシン分子を開状態にするオクチルグルコピラノシドなど、をさらに含んでなる。これは、シンタキシンSNAREモチーフを制御することを可能にし、そのため、SNARE複合体の形成の調整を可能にする。
【0055】
さらに、前記の系は、シンタキシン3のヘッドドメインがシンタキシンに由来するポリペプチドに結合されているかどうかにかかわらず、界面活性剤をさらに含み得る。発明者らは、界面活性剤の存在が、本発明のSNARE複合体の集合の促進を助長することを見出した。好ましくは、その界面活性剤は弱い界面活性剤である。一部の集合は、界面活性剤の不存在下でも起こるが、界面活性剤の存在がSNARE複合体のより効果的な集合を促進する。好ましくは、界面活性剤は、界面活性剤がミセルを形成し始める濃度である臨界ミセル濃度(CMC)を超える濃度にて存在する。好ましくは、界面活性剤には、7〜12個の炭素原子の長さを有する炭素鎖がある。好ましくは、界面活性剤は、Triton X−100でもThesitでもない。好適な界面活性剤は、MEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10、およびzwittergent 3-12から成る群から選択できる。好ましくは、界面活性剤はオクチルグルコピラノシドである。界面活性剤、そして特に弱い界面活性剤を含んでなる系の利点は、SNARE複合体の制御された、より速い集合を可能にする点である。他のタンパク質の相互作用が界面活性剤によって乱されるので、界面活性剤の存在はさらにSNARE複合体の形成が優先的に助長できた。
【0056】
一実施形態において、ヘリックスのうちの1本は、基材上に固定化されることができる。好ましくは、ヘリックスは基材上に固定化される。ヘリックスはいずれの好適な方法でも固定化でき、そしてそういった方法は当業者に周知である。ヘリックスは、リンカーを介して固定化することもできる。基材は、ヘリックスを固定化するのに好適なあらゆる基材であることができる。例えば、基材は、表面、マトリックス、ビーズ、量子ドット、樹脂、ガラス、金属、重合体、顕微鏡用スライド、アレイまたはナノチューブ、例えばカーボンナノチューブなどであり得る。一実施形態において、基材上に固定化されたヘリックスには、カーゴ部分が結合されない。
【0057】
他の実施形態において、複合体形成系は、コンプレキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスをさらに含むことができる。ポリペプチドヘリックスそこから得られるコンプレキシンタンパク質は、SNARE複合体に結合できるあらゆるコンプレキシンタンパク質であることができる。当業者は、SNARE複合体に結合できるさまざまなコンプレキシンタンパク質を知っている。例えば、コンプレキシンタンパク質は、哺乳動物のコンプレキシン1またはコンプレキシン2アイソフォームから選択され得る。コンプレキシンタンパク質に由来するヘリックスの他の望ましい特徴および特性(例えばサイズ)は、他のヘリックスに関するものと同じである。コンプレキシンに由来するヘリックスは、任意に1または2個のカーゴ部分を運搬し得る。また、コンプレキシン部分は形成されたSNARE複合体に結合するだけなので、それはまた集合した複合体を特異的に精製するのに使用することもできる。
【0058】
コンプレキシンに由来するヘリックスは、配列番号63に示されている配列を含むこともできる。コンプレキシンに由来するヘリックスは、この配列から成ることもできる。
【0059】
本発明の代替の実施形態は、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたSNARE複合体に向けられる。この実施形態において、分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成することができ、そしてここで、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結される。
【0060】
本発明のこの実施形態は、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結される、先に記載の三成分系に向けられる。50アミノ酸未満の長さのヘリックスを含む複合体形成系の制限および望ましい特徴に関する先の記載のほとんどすべてが、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含む先の系に対しても同じように適切であることは、当業者にはすぐに分かる。例えば、また、この系のSNAPタンパク質に由来する2本のヘリックスもまた、二成分系を生じるように先に記載のとおり一体化され得る。当業者は、ヘリックスのうちの2本が、50アミノ酸未満の長さである必要がないことを理解するであろう。
【0061】
先に記載の2つの二成分系に向けられる本発明の他の実施形態において、分子足場を形成するための複合体形成系が提供されるが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスが一体化されて、2本のヘリックス含有成分を形成する。
【0062】
先に記載のとおり、二成分系を2つの方法で形成することができる。まず1つ目は、それぞれ2本のヘリックスを含んでなる2つの成分を形成するように、ヘリックスのうちの2本を一体化することができ、そして他の2本のヘリックスを一体化することができる。あるいは、ヘリックスのうちの3本を、1本の残ったヘリックスとSNARE複合体を形成できる3本のヘリックスを含む成分を得るように、一体化することができる。
50アミノ酸未満の長さであるヘリックスを含む複合体形成系についての前記の制限のほとんどすべてが、二成分を含む先の系に対しても同じように適切である。どのパーツが二成分系に適切であるかは、当業者には明らかである。例えば、二成分系は、50アミノ酸未満の長さである2本のヘリックスを持つ必要はない。
【0063】
他の実施形態において、本発明は、2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するための複合体形成系を提供するが、その複合体形成系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす。
【0064】
「二成分化合物」という用語は、2つのパーツが一つにまとまったとき、化合物がその機能を果たすことができるような、2つの別個の成分(カーゴ部分)から作られた化合物を意味する。化合物の機能は、化合物の2個の別個のパーツの機能または素性に依存するであろう。好ましくは、第1のカーゴ部分には第1の機能があり、そして第2のカーゴ部分には第2の機能がある。先に述べたように、第1のカーゴ部分は酵素的または造影機能を有することができ、第2のカーゴ部分は標的化機能を有することができる。これは、酵素的または造影成分がその機能を果たすことができる特定の位置を化合物の標的とすることを可能にする。
【0065】
一実施形態において、二成分化合物は、異なるユニットから形成されるポリペプチドであり得る。そのポリペプチドは、異なるユニットから形成される毒素であり得る。好適な毒素は、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンである。どのペプチドや毒素が本発明の系での使用に好適であるかは、当業者にはすぐに分かるであろう。例えば、ボツリヌス毒素は、3つの異なる部分:受容体結合部;転座部;および酵素部、から作られている。そのため、それらが複合体形成系によって一つにまとめられたとき、機能性ボツリヌス毒素を形成するように、酵素部と転座部で一つの部分(カーゴ部分)を形成でき、そして受容体結合部で第二の部分(カーゴ部分)を形成できる。同様に、それらが一つにまとめられたとき、機能性毒素が形成されるように、破傷風、リシンおよびジフテリア毒素は、2つのパーツに切り離されることができる。
【0066】
一実施形態において、第1のカーゴ部分には第1の機能があって、第2のカーゴ部分には第2の機能があって、そしてそれが一つにまとめられたとき、完全機能性ペプチド、例えば毒素を形成する。異なるユニットから形成され、そして先に記載の方法で使用できるペプチドの選択は、十分に当業者の能力の範疇にある。例えば、US2009/0035822には、別個のパーツからの機能性タンパク質の形成が記載されている。
【0067】
ジフテリア毒素、破傷風毒素、およびリシンは、治療法、例えば新生物疾患の処置で使用できる。そのため、これらのポリペプチドにかかわる複合体形成系は、治療法および新生物疾患の処置に使用できる。それらはさらに、対象に複合体形成系を含んでなる組成物の有効量を投与することを含む治療法で使用できる。
【0068】
本発明はさらに、2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するためのSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスと、シナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスとを一つに結合して、安定したSNARE複合体を形成することを含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす。
【0069】
別の特定の実施形態において、本発明は、ボツリヌス毒素を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる複合体形成系を提供する。
【0070】
本発明のこの実施形態は、ボツリヌス毒素を別個のパーツで作り出すことができ、その結果、製造工程中の完全な毒素に関連するあらゆるリスクも回避できる、SNARE複合体集合の特定の適用に向けられる。その後、2つのパーツが、SNARE複合体の形成を使用して組み合わせれて、機能性ボツリヌス毒素を形成する。
本発明はさらに、先に記載した複合体形成系の使用を提供する。さらに、本発明は、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患や身体状態の処置における使用、さらに処置における使用のための先に記載した複合体形成系を提供する。
【0071】
ボツリヌス毒素Aの使用は多年にわたり医学および美容療法のために広く使用されてきたので、当業者は、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態を十分に認識するであろう(例えばJankovic(2004)Botulinum in clinical practice. J Neurol Neurosurg Psychiatry 75 951-957を参照のこと)。特に、神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態のいくつかは:発汗過多、唾液分泌過多、ジストニア、胃腸障害、泌尿器疾患、顔面けいれん、斜視、脳性麻痺、吃音、慢性緊張型頭痛、涙液分泌過剰、多汗症、下咽頭収縮筋のけいれん、痙性膀胱、疼痛、片頭痛、および例えばしわ取り、額のしわ取りなどの美容整形術から成る群から選択される。
【0072】
治療法をさらに提供するが、その方法は、対象に先に記載した複合体形成系の有効量を投与することを含んでなる。
本発明はさらに、ボツリヌス毒素を形成するためのSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成することを含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる。
この方法は、一つに結合させるべきボツリヌス毒素の2つのパーツをもたらし、こうして完全機能性ボツリヌス毒素を作り出す。
【0073】
さらに、本発明は、ボツリヌス毒素を形成するための成分を提供するが、その成分には:SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスが含まれ、ここで、ポリペプチドヘリックスにはボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなるカーゴ部分を結合される。また、ボツリヌス毒素を形成するための成分も本発明によって提供されるが、その成分は:SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスにはボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるカーゴ部分を結合させる。
【0074】
加えて、本発明は、先の成分の使用、ならびにSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス:シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス:およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるキットの使用を提供する。
【0075】
ボツリヌス毒素に関連する先に記載した実施形態が更なる制限を含んでなり、そして本発明の他の態様および実施形態に関して他のところに記載した制限がこれらのボツリヌス毒素の実施形態に同じように適切であることは、当業者に理解されるであろう。
【0076】
界面活性剤に関連する1つの特定の実施形態において、本発明は分子足場を形成するための複合体形成系を提供するが、その系は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;そして
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、そしてここで、該SNARE複合体が界面活性剤の存在下で形成される。
【0077】
先に記載した複合体形成系に関連するさまざまな特徴および制限は、本発明のこの実施形態に対しても同じように適切である。
以前、アラキドン酸がMunc18の存在下でSNARE複合体形成を可能にすることが示された(Rickman C and Davletov B(2005))。Munc18はSNARE複合体形成の負の調節因子であると考えられている。発明者らは、Munc18の不存在下、界面活性剤がより良好なSNARE複合体形成を可能にするという驚くべき発見をした。好ましくは、界面活性剤の存在に関連する系において、その系はMunc18タンパク質を含んでいない。前記の系はMunc18を含まない系である。
【0078】
本発明はさらに、Munc18の不存在下、SNARE複合体の集合を促進するための界面活性剤の使用も提供する。好ましくは、前記界面活性剤は弱い界面活性剤である。好ましくは、前記界面活性剤は合成界面活性剤である。一実施形態において、界面活性剤には、7〜12個の炭素原子の炭素鎖長がある。
先に記載した本発明のすべての実施形態は、単一の安定したSNARE複合体がそのSNARE複合体に結合している1もしくは複数のカーゴ部分により作り出される複合体形成系に関連する。これは多くの適用、例えば診断に有用である。前記の系にはさらに、標識タンパク質の親和性精製、タンパク質もしくは細胞の固定化、または標識タンパク質の識別(ELISA、ウエスタンブロット)のためのタグ付与用途における適用がある。基材上へのカーゴの固定化は、診断およびマイクロアレイ用途において役に立つ。SNARE複合体の安定性がマイクロ流体または連続フロー用途におけるカーゴの固定化に特に役に立つであろうことは、当業者にはすぐに分かるであろう。更なる用途を以下に記載する:
【0079】
溶液中での用途:
−コンビナトリアル集合、ポリ−、ホモ−、およびヘテロ−オリゴマー化を含めた遺伝子組み換えによる親和性試薬の構築;
−機能性カーゴの標的を定めた送達、例えばカーゴと標的シグナルや内在性シグナルとの集合のための、例えば薬物送達(薬物=小分子、核酸、タンパク質);
【0080】
−タンパク質分子、タンパク質分子を含む分子複合体、タンパク質分子を含む細胞、組織、臓器、および生物体のタグ付与および標識化。
−二成分化合物の構築に関する、例えば機能タンパク質、酵素、因子、補因子、(およびその他の機能タンパク質)、FRET標識、二成分無機化合物および小分子、二成分有機化合物;
−自己集合構築物の表面上へのタンパク質の集合後固定化のための自己集合タンパク質構築物とタンパク質を含むより複雑な集合体(例えば胞子)。
【0081】
固体表面用途:
−アレイ、表面固定化;
−免疫アッセイ(例えばELISA)ウェルプレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−BIAコアおよび他のSPR(表面プラズモン共鳴法)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−QCM(水晶振動子マイクロバランス)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
【0082】
−MALDI質量分析プレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロ流体器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−毛細管電気泳動の表面修飾とタンパク質固定化;
−クロマトグラフィーカラムおよび固定化媒体(例えばビーズ)の表面修飾とタンパク質固定化;
−走査型プローブ顕微鏡法の表面およびチップ修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ熱量測定の器具センサーの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ粒子の表面修飾;
−固体表面(例えば金メッキしたガラススライド)、薄膜、ワイヤー(例えばナノワイヤー)、およびナノチューブの表面修飾。
【0083】
他の用途:
−ナノバイオテクノロジー、例えば自己集合「接着剤」ベースの生分解性タンパク質と表面の接着;
−タンパク質ベースの繊維および重合体;
−組織足場と再生医療。
【0084】
さらに、本発明は、先に記載した複合体形成系の実施形態のいずれかの使用、そして特に、先に記載した用途のいずれかにおけるものを提供する。例えば、本発明は、診断における複合体形成系の使用、例えばアレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、または熱量測定器具などを提供する。例えば、複合体形成系は、抗体を基材に固定化するためにアレイで使用することもできる。
【0085】
一実施形態において、本発明は、その上に安定したSNARE複合体を固定化した装置を提供するが、そのSNARE複合体は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、前記の装置は、アレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、および熱量測定器具から選択される。
【0086】
本発明はさらに、1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法を提供するが、その方法は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成することを含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分を該ポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで:
(i)シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結するか;
(ii)該ポリペプチドヘリックスを一体化して、2本のヘリックスを含む成分を形成するか;または
(iii)該ポリペプチドヘリックスのうち少なくとも2本が、50アミノ酸未満の長さである。
【0087】
本発明の系および制限に関連する先の記載は、先の方法に対しても同じように適切である。
本発明はさらに、ポリペプチドがシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するヘリックスを含んでなる成分であって、そしてここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるものを提供する。一実施形態において、前記の2本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できるように一体化されることもできる。あるいは、前記の2本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できないよう一体化されることもできる。この代替の実施形態において、2本のヘリックスは、異なる安定したSNARE複合体に集合できなくてはならない。シンタキシンに由来するヘリックスとシナプトブレビンまたはその相同体に由来するヘリックスを含んでなる本発明の2ヘリックス成分は、配列番号12、13、14、および73に示した以下の配列:
【0088】
シンタキシン3(1−260)/シナプトブレビン2(1−84)(ヘッドドメインとリンカーを含むシンタキシン)−配列番号12
シンタキシン3(195−253)/シナプトブレビン2(1−84)(ヘッドドメインを含まないがリンカーを含むシンタキシン)−配列番号13
シンタキシン3(1−253)/シナプトブレビン2(29−84)(ヘッドドメインを含みリンカーが無いシンタキシン)−配列番号14
シンタキシン3(195−253)/シナプトブレビン2(29−84)(ヘッドドメインを含まずリンカーも無いシンタキシン)−配列番号73、
のうちの1つを含み得る。
【0089】
シンタキシンに由来するヘリックスとシナプトブレビンまたはその相同体に由来するヘリックスを含んでなる本発明の2ヘリックス成分は、先の配列のうちの1つから成ることもできる。
前記2ヘリックス成分は、ポリペプチドヘリックスに連結された1もしくは複数のカーゴ部分をさらに含んでなることもできる。
【0090】
本発明はさらに、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスとシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる成分であって、ここで、3本のヘリックスが三重らせん成分を形成するように一体化され、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる成分を提供する。一実施形態において、第3のヘリックスは、シナプトブレビンに由来する。他の実施形態において、3本のヘリックスは、それらが同じ安定したSNARE複合体に集合できるように、一体化され得る。
【0091】
SNAP−25ヘリックスとシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するヘリックスとを含んでなる本発明の三重らせん成分は、配列番号15を含んでなることもできる。さらに、前記三重らせん成分は、この配列から成ることもできる。
【0092】
あるいは、3本のヘリックスは、2本のSNAPヘリックスが同じ安定したSNARE複合体に集合できるが、第3のヘリックスが該2本のヘリックスと同じ安定したSNARE複合体に集合できないように、一体化されることもできる。この代替の実施形態において、第3のヘリックスは、2本のSNAPヘリックスと異なる安定したSNARE複合体に集合できるようにすべきである。三重らせん成分は、ポリペプチドヘリックスに結合した1もしくは複数のカーゴ部分をさらに含んでなることもできる。
【0093】
さらに、本発明は、例えば分子足場を形成するための安定したSNARE複合体を形成するような先の成分の使用を提供する。
本発明は、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含んでなる成分を含んでなるキットであって、そしてここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるキットをさらに提供する。
【0094】
前記キットは、シンタキシン/シナプトブレビンに由来するヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなることもできる。2本のSNAPヘリックスを一体化し得る。
【0095】
代替の実施形態において、本発明は、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスおよびシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる成分を含んでなるキットであって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できるキットを提供する。
【0096】
前記キットは、第4のSNAREタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含むこともできる。そのため、前記三重らせん成分が2本のSNAP由来ヘリックスおよびシナプトブレビンもしくは相同体由来ヘリックスを含んでなるのであれば、キットは、連結されたSNAP/シナプトブレビン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるシンタキシンに由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含み得る。あるいは、三重らせん成分が2本のSNAP由来ヘリックスおよびシンタキシン由来ヘリックスを含んでなるのであれば、キットは、連結されたSNAP/シンタキシン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できるシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含み得る。
【0097】
本発明のキットは、該キットと使用するのに好適な試薬をさらに含み得る。
キットのヘリックスおよびSNARE複合体の更なる特徴は、先に記載したとおりのものである。
【0098】
複合体形成系はさらに、SNARE複合体の多量体を形成するのに使用されることもできる。これは、一体化された複数のSNARE複合体である。一実施形態において、ヘリックスのうちの2本が、同じ複合体として安定したSNARE複合体を形成できないような方法で一体化される。しかしながら、2本のヘリックスは、異なるSNARE複合体ではあるがそれらが安定したSNARE複合体をそれぞれ形成できるような方法で一体化されるべきである。これは、2本のヘリックスが同じSNARE複合体で正しい立体構造をとることができないように、いずれの種類のリンカーも用いずにヘリックスを直接一体化することによって行われ得る。代わりに、そういった2本らせん連結構築物の各ヘリックスは、3本の他のポリペプチドヘリックスと複合体を形成して、2つの安定したSNARE複合体を形成できる。その2本のヘリックスは、任意の好適な方法、例えば遺伝子組み換え手段または化学的カップリングによって、一体化できる。例えば、SNAPタンパク質に由来する2本のヘリックスが一体化され、そしてシンタキシンおよびシナプトブレビンに由来する2本のヘリックスが、同じSNARE複合体に集合できないような制限された様式で連結される二成分系を採用すること。シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質から開始すると、SNAP融合タンパク質はシンタキシン・ヘリックスと複合体を形成するであろう。別のシンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質からのシナプトブレビン・ヘリックスは、次いで、SNAP−シンタキシン複合体に結合して、4本らせんSNARE複合体を形成するであろう。この複合体には、そこから突出したシンタキシン・ヘリックスおよびシナプトブレビン・ヘリックス、すなわち、それぞれのシンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質から一本ずつが存在するであろう。これらの単一ヘリックスの突出が、更なるSNARE複合体の形成の基礎となることができる。そのため、SNARE複合体の多量体が形成される。先の例において、SNAPヘリックスは一体化される必要はない。さらに、安定したSNARE複合体を形成するためにそれらの両方が同じ複合体に集合できない限り、あらゆる2本のヘリックスを、系が機能するように一体化できた。
【0099】
本発明はさらに、先の系によって作り出される多量体も提供する。
あるいは、多量体は、系の反応条件を制御することによって形成できる。系のヘリックスのうちの2本が一体化されなければならない。これは、任意の好適な方法で行われることができる。2本のヘリックスが、先の例のようにいずれかの方法で制限される必要はないが、しかし、所望であれば、それらを制限することもできる。前記の系は、連結された2本のヘリックスの一方と同じSNAREタンパク質に由来する単一のヘリックスをさらに含んでなる。例えば、シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質を含んでなる系では、その系は、単一のシンタキシン・ヘリックスをさらに含んでなる。多量体を作り出すために、単一のシンタキシン・ヘリックスを溶液中に導入する。この単一のヘリックスは、先に述べたように、溶液中で遊離していても、基材上に固定化されていてもよい。SNAPタンパク質に由来する2本のヘリックス(連結されていても、連結いなくてもよい)が、溶液中に加えられる。これらはシンタキシン・ヘリックスに結合して、シンタキシン−SNAP三重らせん複合体を形成する。この後、シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質が溶液中に加えられる。この融合タンパク質からのシナプトブレビン・ヘリックスは、三重らせん複合体に結合して、安定したSNARE複合体を形成する一方で、シンタキシン・ヘリックスは結合しないままで残り、そしてSNARE複合体から突出するであろう。先のとおり繰り返して同じステップを経ることによって、このシンタキシン突出は、更なるSNARE複合体を形成するために使用され、こうして多量体が作り出される。先の系はヘリックスが特定の順序で加えられることを必要とするので、特定のステップ後に、好ましくない分子が存在しないことを確実にする必要があり得る。これは、例えば単一のシンタキシン・ヘリックスを固定化し、そしてそれぞれの結合ステップ後に洗浄を実施することによって行われることができる。本発明はさらに、先の系によって作り出される多量体も提供する。
【0100】
さらに、本発明は、一体化された複数の安定したSNARE複合体を含んでなる多量体を提供するが、ここで、各SNARE複合体は:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、あるSNARE複合体からのヘリックスが、別のSNARE複合体からヘリックスに連結されて、それらのSNARE複合体を一体化し、かつ、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる。
【0101】
本発明の多量体は線状であることができる。それが線状であれば、各SNARE複合体は、両側で他の2つのSNARE複合体に結合されて、一連のビーズに似た長い線状鎖を形成する。こうして、SNARE複合体内の2本のヘリックスが、2つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合される。明らかに、鎖の末端のSNARE複合体は、1本のポリペプチドヘリックスによって他の1つのSNARE複合体にしか結合されない。
【0102】
あるいは、前記多量体は分岐していてもよい。これは、例えばシナプトブレビン由来ヘリックスに2本のシンタキシン由来ヘリックスが任意の順序で連結されることによって行われ得る。この三重連結された構築物からのシナプトブレビン由来ヘリックスは、シンタキシン/SNAP由来三重らせん中間体に結合して、結合しないまま残っていた2本のシンタキシン由来ヘリックスとSNARE複合体を形成する。SNAP由来ヘリックス、例えばSNAP−25、が加えられた場合には、2つの連結シンタキシン/SNAP−25中間体が形成される。「定常状態の」シナプトブレビン−シンタキシン(2本らせん)由来構築物の添加によって、2つのシンタキシン由来ヘリックスが突出している2つの連結SNARE複合体を形成する。これは、更なる伸長のための2つの分岐を導入する。こうして、3本のヘリックスを連結することで、(線状重合に使用される連結された2本のヘリックスとは対照的に)分岐が可能になる。こうして、多量体を分岐させるのであれば、多量体内のあるSNARE複合体を、線状鎖のように2つの他のSNARE複合体に結合させるよりむしろ3つの他のSNARE複合体に結合させて、分岐点を形成させる。SNARE複合体内のヘリックスのうちの3本を、分岐点において3つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合させる。
【0103】
多量体は、それぞれヘリックスの末端に結合させたカーゴ部分を持つことができる。多量体は、ヘリックスの末端で多量体に結合した複数のカーゴ部分を持つことができる。一実施形態において、多量体は、各SNARE複合体上にカーゴ部分を持ち得る。多量体は、各SNARE複合体に結合させた複数のカーゴ部分を持ち得る。多量体が複数のカーゴ部分を持つのであれば、これらは、同じであっても、異なっていてもよい。それぞれの洗浄ステップ後に異なるカーゴを保有するSNAREドメインを提供することによって、複数のカーゴの付加および規則配列を制御できる。
【0104】
本発明はさらに、多量体を作り出す方法を提供するが、その方法は以下のステップ:
1)第1のSNAREヘリックスに由来する第1のポリペプチドヘリックスを提供し;
2)第2および第3のポリペプチドヘリックスを、第1のポリペプチドヘリックスに結合させて、三重らせん中間複合体を形成し、ここで、第2および第3のポリペプチドヘリックスが第2および第3のSNAREヘリックスに由来し;
3)第4のポリペプチド・ヘリックスを3本ヘリックス束に結合させて、安定したSNARE複合体を形成させ、ここで、第4のポリペプチドヘリックスが第4のSNAREヘリックスに由来し、そしてここで、第4のポリペプチドヘリックスが第1のSNAREヘリックスに由来する第5のポリペプチドヘリックスに連結され;そして
4)ステップ2)および3)を繰り返して、多量体を形成する、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる、
を含んでなる。
【0105】
複合体形成系、多量体、およびさまざまな制限に関連する先の記載もまた、先の方法に適切である。
ステップ2)および3)は、必要な長さの多量体を作り出すのに必要なのと同じ回数だけ繰り返すことができる。
【0106】
先の方法は、第1、第2、第3、および第4のSNAREヘリックスに言及する。先に記載のように、SNARE複合体は4本のヘリックスから形成される。これらのヘリックスのうちの2本はSNAPタンパク質によってもたらされ、1本はシンタキシンによってもたらされ、そして1本はシナプトブレビンもしくはその相同体によってもたらされる。そのため、先の方法において、これらの4本のヘリックスは、特に決まった順番はなく、第1、第2、第3および第4のSNAREヘリックスである。これは、4本のヘリックスがSNARE複合体に使用される限り、特定のヘリックスの素性が重要でないからである。任意に、SNARE複合体はまた、先に記載のようにコンプレキシンに結合されることもできる。
【0107】
一実施形態において、第1のヘリックスはシンタキシン由来ヘリックスであり;第2のヘリックスはSNAP由来ヘリックスであり;第3のヘリックスはSNAP由来ヘリックスであり;第4のヘリックスはシナプトブレビン由来ヘリックスであり;そして第5のヘリックスはシンタキシン由来ヘリックスである。
【0108】
4本のヘリックスが順不同でSNARE複合体に使用されるという事実により、第5のポリペプチドヘリックスは、最初のポリペプチドヘリックスと同じSNAREヘリックスに由来する必要はない。同様に、前記方法のステップとして、多量体の状態での第2、第3、第4、第5、第6のSNARE複合体などの形成が繰り返される場合、第2、第3および第4のポリペプチドヘリックスが、第1のSNARE複合体内の第2、第3および第4のポリペプチドヘリックスと同じSNAREヘリックスに由来する必要性はない。唯一の要件は、4つのSNAREヘリックスのすべてが、安定したSNARE複合体を形成するように各SNARE複合体に対応するということである。
【0109】
先の方法が多段階プロセスを伴うので、それらが安定したSNARE複合体を形成する限り、これは、第1ステップと比較して、その後の反復ステップで異なるポリペプチドヘリックスを導入する可能性を認める。例えば、ステップの最初のサイクルでは、SNAPタンパク質に由来するポリペプチドヘリックスのうちの1つが、完全長SNAP−25ヘリックスであり得るのに対し、ステップの次のサイクルでは、このポリペプチドヘリックスが45アミノ酸の長さのSNAP−25ヘリックスであり得る。重要な態様は、4つのSNAREヘリックスすべてがSNARE複合体に対応するように、両ポリペプチドヘリックスが同じSNAREヘリックス、例えば特定のSNAPヘリックスに由来することである。
【0110】
得られた多量体がそこに結合させたカーゴ部分を持つように、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる。これは、その方法で使用される前にカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させることによって行うことができる。好ましくは、カーゴ部分をポリペプチドヘリックス末端に結合させる。複数のカーゴ部分を多量体内に導入できる。これは、先の方法を使用することで多量体内にその後組み込まれる多くのポリペプチドヘリックスにカーゴ部分を結合させることによって行うことができる。前記カーゴ部分は同じであっても、異なっていてもよい。
【0111】
方法をより簡単にするために、第1、第2、第3、および第4のSNAREヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持されることが望ましい。そのため、例えば第1のSNARE複合体が生じるステップの最初のサイクルでは、第1のSNAREヘリックスがシンタキシンであれば、第2および第3のSNAREヘリックスはSNAPタンパク質に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスはシナプトブレビンもしくはその相同体である、そして更なるSNARE複合体を生じるステップのその後のサイクルでは、第1のSNAREヘリックスは常にシンタキシンであり、第2および第3のSNAREヘリックスは常にSNAPタンパク質に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスは常にシナプトブレビンまたはその相同体である。
【0112】
さらに、第2、第3、第4および第5のポリペプチドヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持されることが望ましい。そのため、例えば第1のSNARE複合体を生じるステップの最初のサイクルでは、第2および第3のSNAREヘリックスはSNAPタンパク質に由来し、第4のSNAREヘリックスはシナプトブレビンSNAREヘリックスに由来し、かつ、第5のポリペプチドヘリックスはシンタキシンに由来する、そして更なるSNARE複合体を生じるステップのその後のサイクルでは、(次のSNARE複合体で第1のヘリックスを形成する)第5のポリペプチドヘリックスは常にシンタキシンであり、第2および第3のSNAREヘリックスは常にSNAP−25に由来し、かつ、第4のSNAREヘリックスは常にシナプトブレビンSNAREヘリックスである。
【0113】
一実施形態において、第2と第3のポリペプチドヘリックスは、それらが同じSNARE複合体で一緒に集合できるように一体化される。好ましくは、第2および第3のポリペプチドヘリックスは、完全長SNAPタンパク質、例えばSNAP−25である。
ポリペプチドヘリックスの固有性がその後のステップのすべてで同じであり、かつ、第2と第3のポリペプチドヘリックスが一体化されるとき、このことは、2つのビルディングブロックだけを使用した急速な多量体形成を可能にする。
【0114】
他の実施形態において、第1のポリペプチドヘリックスが基材上に固定化される。好適な基材は、当業者に周知であり、そして先に議論されている。
前記方法は、あらゆる非結合ヘリックスを取り除くために、それぞれの結合ステップ後の洗浄ステップをさらに含み得る。このことは、これらの非結合ヘリックスがその後のステップで多量体の形成を妨害できないことを確実にする。好ましくは、前記方法によって形成された多量体は、洗浄ステップが使用される前に固定化される。
【0115】
前記方法は、多量体に分岐を導入するために変更され得る。こうするために、第1のSNAREヘリックスに由来する第6のポリペプチドヘリックスが、第2、第3、第4または第5のポリペプチドヘリックスのうちの1つに連結されて、それによって別の安定したSNARE複合体が形成されるヘリックスを提供する。一実施形態において、第6のポリペプチドヘリックスは、第2または第3のポリペプチドヘリックスに連結される。代替の実施形態において、第6のポリペプチドヘリックスは、第4または第5のポリペプチドヘリックスに連結される。このことは、2つの更なるSNARE複合体が特定のSNARE複合体に由来することを可能にし、その結果、その多量体に分岐を導入する。
【0116】
これは、先に述べたように、例えばシナプトブレビン由来ヘリックスを2本のシンタキシン由来ヘリックスに順不同で連結することによって行うことができる。あるいは、シンタキシン・ヘリックスは(第2および第3のヘリックスである)SNAP−25に連結されて、起源となるSNARE複合体からの第2のSNARE複合体の形成を開始させるので、起源となるSNARE複合体を他の3つのSNARE複合体全部に結合させて、分岐点を形成することを意味している。
【0117】
さらに、多重分岐は、SNARE複合体の他のヘリックスに連結される第6のヘリックスに加えて、更なるヘリックスを特定のSNARE複合体に導入することによって導入できる。例えば、シナプトブレビン由来ヘリックスを、3本以上のシンタキシン由来ヘリックスに順不同で連結できる。あるいは、2本以上のシンタキシン・ヘリックスは(第2および第3のヘリックスである)SNAP−25に連結されて、起源となるSNARE複合体からの第3、第4のSNARE複合体などの形成を開始させることができるので、起源となるSNARE複合体を4つ以上の他のSNARE複合体全部に結合させて、多重分岐点を形成することを意味している。
【0118】
必要とする数の分岐を、1か所の特定の点にて、そして多量体の全長にわたって多量体内に導入できる。
本発明はさらに、先の方法によって作り出した多量体も提供する。
先に記載した多量体は、多くの用途、例えば診断、および以下に記載した用途において有用である:
【0119】
溶液中での用途:
−コンビナトリアル集合、ポリ−、ホモ−、およびヘテロ−オリゴマー化を含めた遺伝子組み換えによる親和性試薬の構築;
−機能性カーゴの標的を定めた送達、例えばカーゴと標的シグナルや内在性シグナルとの集合のための、例えば薬物送達(薬物=小分子、核酸、タンパク質);
−タンパク質分子、タンパク質分子を含む分子複合体、タンパク質分子を含む細胞、組織、臓器、および生物体のタグ付与および標識化。
−多元化合物の構築に関する、例えば機能タンパク質、酵素、因子、補因子、(およびその他の機能タンパク質)、FRET標識、多元無機化合物および小分子、多元有機化合物;
−自己集合構築物の表面上へのタンパク質の集合後固定化のための自己集合タンパク質構築物とタンパク質を含むより複雑な集合体(例えば胞子)。
【0120】
固体表面用途:
−アレイ、表面固定化;
−免疫アッセイ(例えばELISA)ウェルプレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−BIAコアおよび他のSPR(表面プラズモン共鳴法)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−QCM(水晶振動子マイクロバランス)器具の表面修飾とタンパク質固定化;
【0121】
−MALDI質量分析プレートの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロ流体器具の表面修飾とタンパク質固定化;
−毛細管電気泳動の表面修飾とタンパク質固定化;
−クロマトグラフィーカラムおよび固定化媒体(例えばビーズ)の表面修飾とタンパク質固定化;
−走査型プローブ顕微鏡法の表面およびチップ修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ熱量測定の器具センサーの表面修飾とタンパク質固定化;
−マイクロおよびナノ粒子の表面修飾;
−固体表面(例えば金メッキしたガラススライド)、薄膜、ワイヤー(例えばナノワイヤー)、およびナノチューブの表面修飾。
【0122】
他の用途:
−ナノバイオテクノロジー、例えば自己集合「接着剤」ベースの生分解性タンパク質と表面の接着;
−タンパク質ベースの繊維および重合体;
−組織足場と再生医療。
ここでは、例証のみを目的として、図面を参照して、本発明を詳細に説明する:
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】神経伝達物質放出における小胞融合を駆動する分子機構の略図である。コアSNARE複合体は、シナプトブレビン、シンタキシン、およびSNAP−25によってもたらされる4本のα−ヘリックスによって形成されている。シナプトタグミンは、カルシウムセンサーとして機能し、小胞融合中にSNAREジッピング(zipping)を緊密に調整している。
【図2】束状または線状多量体として不可逆的かつ部位選択的様式で多機能ユニットの結合の略図である。矢印は結合足場を表す;機能ユニットは幾何学的図形で表されている。
【図3A】少なくとも80アミノ酸の長さを有する4つのポリペプチドからできている4本らせんSNARE束を示す(Button et al., 1998)。
【図3B】40と45アミノ酸のペプチドの設計に使用したSNAREモチーフを示している。網掛け部分が疎水性層であり、濃い灰色で強調した中心層がある。
【図4】45アミノ酸のポリペプチドが不可逆的なSNARE複合体を形成できが(パネルA)、その一方で40アミノ酸のペプチドができない(パネルB)ことを示すSDS−PAGEゲルである。簡潔にするために、発明者らはこの集合体をTetriCS(四本らせんコンビナトリアル足場)と呼ぶ。
【図5】ストレプトアビジンが非常に特異的な様式でグルタチオン・ビーズまたはニッケル・ビーズのいずれかに結合した45aaのTetricsペプチドに結合することができたことを示すグラフである。
【図6】2本のSNAREヘリックスを持つ完全長のSNAP−25分子(第1−206アミノ酸)、ならびに別個のシンタキシンおよびシナプトブレビンSNAREヘリックスを含んでなる三成分SNARE束の略図である。
【図7】40(パネルA)および45aa(パネルB)のペプチドの両方がSNAP25Bと集合できるので、三成分系において、完全長のSNAP−25への不可逆的結合には40aaの長さのペプチドで十分であることを実証するSDS−PAGEゲルを示している。
【図8】ビーズ上のGST−SNAP25単体を用いた対照反応がごくわずかな結合しか示さないのに対して、それぞれMycタグおよびSタグを持つ40aaのシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの添加が、グルタチオン・ビーズへの抗Myc抗体およびSタンパク質の両方の強固な結合によって証明される三成分複合体の形成につながることを示すグラフである。
【図9】固定化されたSNAP25Bへの40aaのシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの結合を示すセンソグラム(sensogram)である。抗myc抗体(Myc)は、シンタキシン−mycエピトープに結合するが、0.1%のSDSで溶出できる。結合したシンタキシン/シナプトブレビン・ペプチドは、SDSによって分離できない。
【図10】2つのSNAREヘリックスを持つSNAP−25分子とシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質を含んでなる二成分SNARE束の略図である。
【図11】灰色の矢印によって示されるラット・シンタキシン1A SNAREモチーフ(第195−254アミノ酸)の、ラット・シナプトブレビン2SNAREモチーフ(第25−84aa)との結合を示す略図である。
【図12】シンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質とラットSNAP−25Bの不可逆的な複合体への素早い集合を示すSDS−PAGEゲルである。
【図13】ラット・シナプトブレビン2配列1−84を短い一続きのアミノ酸を介して融合させたラット・シンタキシン3のヘッドドメインおよびSNAREモチーフ(第1−260アミノ酸)を示す略図である。
【図14A】オクチルグルコピラノシドが、シンタキシン3分子を「開状態にする」ことができて、二成分集合体の形成を可能にすることを示すSDS−PAGEゲルである。
【図14B】オクチルグルコピラノシド界面活性剤が、CMC(臨界ミセル濃度−この界面活性剤に関して、CMCは0.6%である)を超える濃度にて密なSNARE複合体の集合を促進することを示すSDS−PAGEゲルである。一部の集合は界面活性剤の不存在下で行われるが、効果的な集合には、二成分集合の形成を可能にするために、シンタキシン3分子を「開状態にする」ための洗剤、オクチルグルコピラノシドを必要とする。
【図15】シンタキシン−シナプトブレビン融合タンパク質(*)の結合、およびシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質とCM5チップ上に固定化されたSNAP−25の間の集合に関する独特な抵抗を示す表面プラズモン共鳴センソグラムである。2MのNaCl(1)、グリシン pH2.5(2)、1%のSDS(3)、0.1MのNaOH(4)、0.1Mのリン酸(5)を使用した洗浄では、二成分捕獲試薬を壊すことができない。注記、ステップ3を2度繰り返した。
【図16A】3本らせん分子(黒色)と第4のヘリックス(灰色)を含んでなる二成分SNARE束の略図である。
【図16B】40および45aaのシンタキシン1Aペプチドの両方が、SNAP−25Bおよびシナプトブレビン2(SNAP−25B(22−206)/Syb2(1−84))で構成される3本らせん融合タンパク質と集合できることを示して、二成分系において、不可逆的SNARE複合体の形成には、40aaの長さのペプチドで十分であることを実証するSDS−PAGEゲルである。注記、SDS抵抗性複合体は、おそらくそのコンパクトな構造のためSDSゲル内で3本らせんタンパク質より速く移動する。
【図17】GST−SNAP25が、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つセファロースビーズに非常に特異的な様式で結合することを示すSDS−PAGEゲルである。注記、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質がBrCN−セファロースビーズに共有結合されおり、そのためSDS−PAGEゲル上で溶出および可視化できない。レーン1−zwittergent 3-08を使用して作られた細菌抽出物。レーン2−シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つビーズにより精製したGST−SNAP−25。
【図18】SNAREタンパク質によって形成された無限長の強固な線状多量体の形態の超分子デバイスの略図である。
【図19】SNAREタンパク質を使用した長い線状多量体を形成する工程の略図である。
【図20】(A)ビーズに結合したシンタキシン3−シナプトブレビン2融合およびSNAP−25の両方の量の段階的な増加を示すクーマシー染色ゲル。注記、ビーズへの付加に使用されるGST−シンタキシン3の量が一定のままであるが、一方で結合したSNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の量には漸増がある。結合材料の量を示すために、サンプルを煮沸して、集合のSDS抵抗性の性質を破壊した。(B)パネルAと同様だが、サンプルをSDS−PAGE前に煮沸しなかった。注記、追加の重合ステップと合致しているSDS抵抗性重合体の分子量の増加。
【図21】SNAREタンパク質から形成された分岐多量体の略図である。
【図22】シナプトブレビン2残基(29−84)(リンカーなし)に直接的融合させたシンタキシン残基(1−253)から形成された融合構築物の略図である。
【図23】簡単な混合によって溶液中でSNARE束が多量体化できることを示すSDS−PAGEゲルである。
【図24】SNAREタグ付与が、神経終末へのHc介在量子ドットの送達を可能にすることを示している。a.BoNT/AのHc部とLcHN部のSNARE結合を示す図解。個々のサブユニットは、構造モデルと同じように示されている(出典Lacy et al, 1998)。b.ボツリヌス神経毒素(Hc)のSV2C結合部とストレプトアビジン・コートした量子ドットの結合のためのSNAREタグ付与スキームを示す図解。ビオチン(星印)−シンタキシン・ペプチド(青色)は、量子ドットのSNAREタグ付与を可能にするが、HcはシナプトブレビンSNAREモチーフ(紫色)に融合される。SNAP25(緑色と赤色)はHcへのQ−ドットの結合を可能にする。c.Hc−シナプトブレビン、SNAP25およびビオチン化シンタキシン3ペプチドの、SDS抵抗性複合体であるHc−SNARE−ビオチンへの不可逆的な集合を示すクーマシー染色したSDSゲル。d.Hc−SNARE−Q−ドットは、培養海馬ニューロンの軸索伸長時にシナプス小胞マーカーであるシナプトフィジンの免疫染色によって証明されるシナプス結合を示している。集合中のSNAP25の脱落は、シナプス末端へのQ−ドットの標的化を妨げる。
【図25】SNAREタグ付与がBoNT/Aの個々のパーツの、単一の分子実体への段階的な集合を可能にすることを示している。a.LcHNとBoNT/AのHc成分のジスルフィド結合およびSNAREタグ付与の位置を示す略図。b.SNAP25でタグ付与したLcHNは、精製され、そして50mMのジチオスレイトール(DTT)での処理の後にLcとHN−SNAP25に分解され得る。クーマシー染色したSDSゲル。c.クーマシー染色し、そして蛍光的に像を得たSDSゲルによって証明されるように、シンタキシン3ペプチドの付加により、シナプトブレビンでタグ付与したHcと結合し得る、SNAP25でタグ付与したLcHN。
【図26】SNARE結合ボツリヌス神経毒素が、シナプス局在性を示し、そしてそのシナプス内標的を開裂することを示している。a.フルオレセイン標識LcHN−SNARE−Hcは、海馬ニューロンの軸索伸長部に結合する。抗シナプトフィジン抗体を用いた免疫染色で、培養海馬ニューロンのシナプス前末端を明らかにする。b.天然のBoNT/Aに類似した様式での集合した神経毒によるシナプス内SNAP25の開裂を示す免疫ブロット。
【図27】SNARE結合ボツリヌス神経毒素が、神経伝達物質放出を阻害することを示している。a.分離したラット脳神経終末(シナプトソーム)からのグルタミン酸放出に関する蛍光分析測定は、LcHN−SNARE−HcとBoNT/Aの間の同程度の阻害を示している。毒素とのシナプトソームの1時間のインキュベーションに続いて、リアルタイム・グルタミン酸放出グラフ(上のパネル)および用量依存性グラフ(下のパネル、35mMのKClおよび2mMのCaCl2での15分間の刺激後に評価した)を得た。b.15分間の刺激後に評価されるとおり、個々のSNAREタグ付与した神経毒のパーツは、シナプトソームとの1時間のインキュベーション後に、グルタミン酸放出を妨げることはない。c.LcHN−SNARE−Hcによるマウス横隔膜の等尺性収縮の用量依存的阻害を示すグラフ。エラーバーはSEM;n=3を表す。
【図28】LcHnをシンタキシン(195−253)でタグ付与したが、Hcをシナプトブレビン(25−84)でタグ付与したことを示している。2つのボツリヌスのパーツを、SNAP−25の存在下で混合し、そして毒素形成をクーマシー染色したSDS−ゲル上で可視化した。
【図29】パネルAからのLcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHc毒素との1時間のインキュベーション後に、ラット脳シナプトソームからのグルタミン酸放出の遮断を評価したことを示している。
【図30】海馬ニューロンに対してパネルAからの毒素LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcAの適用後の触媒パートLcの神経細胞内標的の開裂を、抗SNAP−25抗体を使用した免疫ブロッティングによって評価したことを示している。再集合した毒素は、SNAP−25を開裂する際に天然ボツリヌス神経毒素(BoNT/a)と類似した活性を有する。注記、このニューロン・アッセイにおいて、LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcAが、LcHnSyx3−SNAP25−シナプトブレビンHcDより効果的である。
【図31】ソマトスタチン・ペプチドAc−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OHを持つシナプトブレビン40アミノ酸モチーフのSNAREタグ付与が、ソマトスタチン−量子ドットの作成を可能にすることを示している。ストレプトアビジン・コートした量子ドットを、ビオチン化シンタキシン・ペプチドと共にインキュベートし、次いでソマトスタチン−シナプトブレビンおよびSNAP−25と混合した。集合したソマトスタチン−Q−ドットを培養海馬ニューロンに適用し、そしてそれらの神経性細胞への侵入を、Q−ドットの蛍光発光と、たくさんの神経細胞内タンパク質を標識する抗SNAP−25抗体を用いた対比染色によって可視化した。
【図32】ソマトスタチン・ペプチドを用いたシナプトブレビン40アミノ酸モチーフのSNAREタグ付与が、LcHnシンタキシン3およびSNAP−25との混合後に機能性ソマトスタチン−ボツリヌス構築物の作成を可能にすることを示している。LcHnシンタキシン3−SNAP25−シナプトブレビン・ソマトスタチン(SS−LcHN)の活性を、集合した毒素の20時間の適用後の培養海馬ニューロンにおけるSNAP−25の開裂によって評価した。
【図33】N末端切断のあるSNAREモチーフを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図34】C末端切断のあるSNAREモチーフを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図35】内部メチオニンが非易酸化性(non-oxidizable)ノルロイシンに置き換えられているシンタキシンSNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図36】さまざまな異なるSNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示す多くのSDSゲルである。
【図37】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図38】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図39】短縮型SNAREペプチドを使用した安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図40】神経ペプチドがSNAREペプチドのうちの1つと複合体形成した場合の、安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図41】アルギニン/バソプレッシンペプチド(AVP)がシンタキシン・ペプチドのN末端またはC末端と複合体形成した場合の、安定したSDS抵抗性複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図42】40個未満のアミノ酸しか含まないSNAREペプチドを使用した安定した複合体の形成を示すSDSゲルである。
【図43】SNAREペプチドに対するタンパク質のマレイミドベースの架橋を示すSDSゲルである。
【図44】TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)基材に関する650nmにおける吸光度を示している。
【図45】発光を示すフィルムの一部である。
【図46】原文説明なし。
【図47】原文説明なし。
【実施例】
【0124】
序論
機能ユニットの制御された、不可逆的な、非化学的結合のためにSNARE由来ポリペプチドで作られた束状または線状形状の足場。
【0125】
発明者らは、簡単な混合によって機能性または構造ユニットを結合する方法を開発した。自己集合によるナノメートルサイズの明確に定義された、機能性超分子構造の創出は、生命生物科学、薬学およびナノ技術においてプログラムされた作業を実施するための手段を提供する。具体的には、本発明は、図2に示されている束状または線状多量体の不可逆的かつ部位選択的様式での複数の機能ユニットの制御された結合に関する、まだ満たされていない要求に関する。この新技術の核心部は、タンパク質ドメインの結合に関するSNAREタンパク質、および実際には任意の想定される化学物質の特有の性質の活用にある。本来は、これらのタンパク質は、シンタキシン、SNAP−25、およびシナプトブレビンで構成された三部分複合体(VAMP−小胞結合膜タンパク質としても知られている)を形成することによって原形質膜への小胞の融合を駆動する。このSNARE複合体は、SNAP−25からの2本のヘリックス、シンタキシンからの1本のヘリックスおよびシナプトブレビンからの1本のヘリックスを含んでなり;それぞれのヘリックスの長さが〜60−70アミノ酸である(Jahn and Scheller(2006))4本らせんのコイルドコイル束である(図3)。この4本ヘリックス束は、SDS中でさえ異常に安定している−SNARE集合の不可逆的性質の直接的な指標である(Hu, K et al., 2002)。
【0126】
リガンドと他の官能基の二量体化、オリゴマー化、多量体化のために、これまでさまざまなストラテジーが用いられてきた。このうち、小さな(<5kDa)ペプチドの化学的架橋(Pillai et al., 2006;Tweedle, 2006)、トランスグルタミナーゼ触媒ヘテロ二量化(Tanaka et al., 2004)、およびビオチン化リガンドの四量体ストレプトアビジン結合(Leisner et al., 2008)が、機能ユニットを結合に関するいくつかの例を示している。加えて、コイルドコイルは、タンパク質工学、生物工学、生体材料、基礎研究および薬学を含めたさまざまな用途におけるオリゴマー化のためのデザイン雛型として相当な興味を引いた(Engel and Kammerer, 2000;O'Shea et al., 1993;Scherr et al., 2007)。有用なオリゴマー化ドメインの例は、平行なコイルドコイル・ホモ二量体を形成する33残基と46残基のホモ五量体コイルドコイルCOMPccを含んでなるGCN4のロイシンジッパーである(Engel and Kammerer, 2000)。さまざまな用途のためのコイルドコイルの選択は、いくつかの特徴:コイルドコイル・ポリペプチドの長さ、それらの溶解性、ホモまたはヘテロ・オリゴマー化を可能にするそれらの能力;およびコイルドコイルの濃度、すなわち、定常および不利な条件下で解離に耐える能力、に依存する。
【0127】
SNAREコイルドコイル束の独特の性質、例えばヘテロ四量体化やSNARE集合の不可逆的性質などは、利用に関してまだ考慮されていない。SNARE束の使用の核となる概念は、異なるカーゴ(蛍光、放射性、免疫、化学的、親和性など)の組み合わせを運ばなければならない診断的/治療的/生物工学的タンパク質を生じさせる手段に関する。発明者らは、異なる個々の成分から自己集合が可能な、明確に定義された、組織化されたヘテロ四量体超分子構造の製造のための、シンタキシン、SNAP−25およびシナプトブレビン・タンパク質ベースの遺伝子操作されたポリペプチドの使用を提案した。発明者らは、最初に、四および三成分束の最小限のコアを規定し;2番目に、発明者らは、不可逆的結合のための二成分捕捉系を説明し;そして3番目に、発明者らは、線状多量体を製造する上でのSNARE束の有用性を示している。
【0128】
実施例1:四成分束
発明者らは、短縮型SNAREヘリックスが、四成分束としての機能ユニットの集合に使用できることを示している。短縮型SNAREヘリックスの使用は、合成経路を介したSNAREペプチドへの化学物質の付加に不可欠である。現在のところ、ペプチド合成は、〜50アミノ酸については十分信頼でき、かつ、金銭的にも実現可能である。そのため、SNAREヘリックスが短縮されるのであれば、更なるペプチド配列または他の化学物質の付加を可能にする上で有利であろう。単一SNAREモチーフを短縮することが不可逆的なSNARE集合の崩壊に通じることが知られている(Hao et al., 1997)。発明者らは、(1)4本のヘリックスすべての45アミノ酸ペプチドへの切断でも、安定した4本ヘリックス複合体がまだ可能なままであること、および(2)さまざまな官能基がこれらのペプチドのいずれの末端にも付加できることが分かった。このことが、(リガンドのアレイの提示、または受容体の多量体化が所望される)親和性試薬とキットまたは多価治療薬を含めたさまざまな用途に向けた束における多価複合体の簡単な製作を可能にする。4本の個別のヘリックスの遊離末端は、合成または遺伝子組み換え手段によって、望ましい空間的な組み合わせによる最大8つの別個のものの付加に使用できる。
簡潔にするために、発明者らは、不可逆的なヘテロオリゴマータンパク質複合体を4本ヘリックスコンビナトリアル足場(TetriCS)と呼ぶ。
【0129】
発明者らは、40個または45個のアミノ酸のいずれかを含むTetriCSペプチドを合成した。
40アミノ酸(aa):
ラット・SNAP25Aヘリックス1(第28−67アミノ酸)ビオチン含有:
STRRMLQLVEESKDAGIRTLVMLDEQGEQLDRVEEGMNHIGSGGG−ビオチン(配列番号1)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・SNAP25Aヘリックス2(第149−188アミノ酸)6−ヒスチジン標識含有:
NLEQVSGIIGNLRHMALDMGNEIDTQNRQIDRIMEKADSNGSGGGHHHHHH(配列番号2)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0130】
ラット・シンタキシン・1A(第201−240アミノ酸)6−ヒスチジン標識およびシステイン含有:
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAGSGGGHHHHHHC(配列番号3)
(40アミノ酸のシンタキシン配列がボールド体);
ラット・シナプトブレビン−2(アミノ酸31−70)モノクローナル抗体認識のためのSタグエピトープ含有:
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALGSKETAAAKFERQHMDS(配列番号4)
(40アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0131】
平行して、発明者らは、45アミノ酸の長さのTetriCSペプチドを試験した:
ラット・SNAP25Aヘリックス1(第28−72アミノ酸)ビオチン含有:
ビオチン−STRRMLQLVEESKDAGIRTLVMLDEQGEQLDRVEEGMNHINQDMKC(配列番号5)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・SNAP25Aヘリックス2(第149−193アミノ酸)システインおよび6−ヒスチジン標識含有:
CNEMDENLEQVSGIIGNLRHMALDMGNEIDTQNRQIDRIMEKADSNKTRIDGGHHHHHH(配列番号6)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
【0132】
ラット・シンタキシン・1A(第201−245アミノ酸)N末端抗体エピトープおよびシステイン含有:
Ac−AEDAEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号7)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体);
ラット・シナプトブレビン2(第31−75アミノ酸)抗体認識のためのN末端エピトープ含有:
MSATAATVPPAAPAGEGGPPAPPPNLTSNRRLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGAS(配列番号8)
(45アミノ酸のSNARE配列がボールド体)。
【0133】
40または45アミノ酸ペプチドを、20℃にて60分間インキュベートし、そしてそれらの集合をSDS−PAGEによって分析した。図4は、45アミノ酸Tetricsペプチドが不可逆的なSNARE複合体を形成することができた(パネルA)一方で、40アミノ酸ペプチドがそうでなかった(パネルB)ことを示している。
【0134】
集合体の機能性をプルダウン実験で試験した。発明者ら、機能ユニットとして、GSTタグ付与したシナプトブレビン(45アミノ酸SNARE配列、細菌において遺伝子組み換えにより作製した)、SNAP−25のヘリックス1に化学的に結合させたビオチンおよびSNAP−25のヘリックス2に結合させた6−ヒスチジン・タグを使用した。発明者らは、グルタチオン・ビーズ(GST結合について)またはニッケル・ビーズ(6−ヒスチジン・タグの結合について)へのTetriCS集合体の結合と、それに続く蛍光ストレプトアビジン(ビオチンへの結合について)の結合を試験した。図5は、ストレプトアビジンが、グルタチオンまたはニッケル・ビーズのいずれかに非常に特異的な様式で結合した45aa TetriCSに結合できたことを示している。
【0135】
これらの結果は、45aa TetriCSペプチドがさまざまな官能基の結合に、それらの機能特性を損ねることなしに使用できることを示している。4つのTetricsペプチドには8つの遊離末端があるので、8つの異なる基を結合することが可能である。よって、TetriCSは、所定の作用を実施する適当に設計された分子成分から構築した構造的に組織化されていて、機能的に統合されている系と規定される機能性超分子デバイスの開発を可能にする(Lehn, 2007)。
【0136】
実施例2:三成分束
8つ未満の基を結合させるべき場合では、簡易型TetriCS集合を持っていることは有用である。実際、既に2つのSNAREヘリックスを持つ完全長SNAP−25分子(第1−206アミノ酸)を利用することが可能である(図6を参照のこと)。
そのため、発明者らは、先に記載した40、45aaラット・シンタキシン1Aおよびシナプトブレビン2ペプチドが完全長のラットSNAP−25Bと不可逆的な集合体を形成できるかどうか試験した。図7は、40(パネルA)と45aa(パネルB)ペプチドの両方がSNAP25Bと集合できることを示し、そして三成分系において、40aa長のペプチドでも完全長のSNAP−25への不可逆的結合に十分であることを実証している。
【0137】
発明者らは、以下のものを含有する40aa Tetrics集合体の機能性を試験した:
(i)完全長のラットSNAP25B(第1−206アミノ酸)システイン84、85、90、92のアラニンへの置換を含む。これは、SNAP−25の発現と精製に役立つことが知られている(Fasshauer et al., 1999)。
(ii)合成シンタキシン−mycペプチド(40アミノ酸のシンタキシン配列がボールド体)
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHA−GSGEQKLISEEDLC(配列番号9)。
(iii)合成シナプトブレビン−Sタグペプチド(40アミノ酸のシナプトブレビン配列がボールド体)
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−GSKETAAAKFERQHMDS(配列番号4)。
【0138】
GST融合SNAP−25のグルタチオン・ビーズへの結合に続いて、集合した三成分TetriCSが蛍光抗Myc抗体および蛍光S−タンパク質に結合する能力によって、集合体の機能性を試験した(図8)。ビーズ上の単独のGST−SNAP−25を用いた対照反応はわずかな結合しか示さなかったが、その一方で、40aaシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドの付加は、抗Myc抗体およびS−タンパク質の両方のグルタチオン・ビーズへの強固な結合によって証明されるように、三成分TetriCSの形成をもたらした。
【0139】
発明者らは、40aa合成ペプチドが単一の不可逆的な複合体内でさまざまなタグの集合を可能にするとの結論を下した。その三成分系は、2つ短いポリペプチドとSNAP−25分子との自己集合セットを意味し、そしてタンパク質の簡単な6通りの多機能タグ付与を可能にする。
【0140】
次に、発明者らは、厳しい処理に耐える40aa三成分TetriCSの能力を試験するために表面プラズモン共鳴法を使用した。発明者らは、Biacore CM5チップにGSTタグ付与SNAP−25Bを化学的に結合させ、続いて40aaシンタキシンおよびシナプトブレビン・ペプチドを結合させ、次いで抗体を結合させた。図9は、ペプチドの結合が安定しており、かつ、チップの表面への抗myc抗体の結合を可能にすることを示している。0.1%のSDSの添加では、抗体は外れたが、固定化したSNAP−25からペプチドは外れなかった。
【0141】
実施例3:二成分束
発明者らはさらに、不可逆的なSNARE集合体を二成分系に簡素化した。二成分の親和性ベースのツールは、すべての基礎研究の基礎となり、そして薬物および診断法の開発において非常に貴重である(Uhlen, 2008)。用途には、親和性クロマトグラフィー、マイクロアレイ技術、マイクロプレート・ベースのスクリーン、および多くのバイオテクノロジー工程が含まれる。これらの用途で成功を収める主な要因は、固体表面または三次元マトリックスのいずれかにおいて規定された配向でタンパク質の堅く、不可逆的な固定化に依存する。いくつかの最近の総説は、既存の固定化技術の多くの不都合を明らかにした(Kohn, 2009; Tomizaki et al., 2005)。例えば、化学的なタンパク質カップリングの場合には、当業者は不可逆的な表面固定化を実現できるが、生成物は、配向性の問題や化学修飾のため無機能の状態である可能性もある。対照的に、タンパク質をさまざまなタグ(GST、Hisタグ、抗mycおよび他の抗体認識エピトープ)を使用した部位選択性の方法により対応する表面(グルタチオン、金属、抗体で覆われたもの)に結合させることが可能であるが、しかし、これらの場合のすべてで、固定化は永久的でない(既存のペプチド親和性タグのすべては解離する)および/または非常に高価である(抗体ベースの親和性表面)。明らかなことには、理想的な固定化技術は、標的タンパク質の不可逆的なカップリングと部位選択的配向の両方を可能にするべきであり、加えて、現在の抗体ベースのアプローチに比べてかなり安くなくてはいけない。別個には、機能性配向での2つのタンパク質の不可逆的な結合は、それらが不可逆的に結合するペプチドを伴って発現されれば、可能になる。
【0142】
二成分系のために、発明者らは2本らせんSNAP−25と一緒に、新たに設計したシンタキシン/シナプトブレビン融合タンパク質を使用した(図10を参照のこと)。
【0143】
第一の実施形態において、発明者らは、図11で例示されるように、ラット・シンタキシン1A SNAREモチーフ(第195−254アミノ酸)をラット・シナプトブレビン2SNAREモチーフ(第25−84aa)と結合させた。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL(配列番号10)、小さい矢印)は、ハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。
【0144】
発明者らは、融合タンパク質を精製したが、それにはSNAP−25とのSNARE複合体の形成を妨げるシンタキシン1モチーフを介して凝集する傾向があることが分かった。次に、発明者らは、シナプトブレビン2とラット・シンタキシン3の融合を生じさせた。このキメラ内で、発明者らは、短い一連のアミノ酸を介してラット・シンタキシン3のSNAREモチーフ(第195−253アミノ酸)をラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合させた。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL)は、シンタキシン3とシナプトブレビン2の間の機能ユニットの挿入を可能にするハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。ラットSNAP−25Bと混合した場合、このシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質は、図12で例示されるように、不可逆的な複合体に素早く集合した。
【0145】
次のキメラにおいて、発明者らは、短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合されたラット・シンタキシン3のヘッドドメインとSNAREモチーフの両方(第1−260アミノ酸)を使用した(図13を参照のこと)。シンタキシンとシナプトブレビン配列の間の短い一連のアミノ酸(GILDSMGRLELKL(配列番号10))は、シンタキシン3とシナプトブレビン2の間の機能ユニットの挿入を可能にするハイブリッドプラスミドの多重クローニング部位のためである。
【0146】
シンタキシン3のヘッドドメインはSNARE集合からSNAREモチーフを保護するが、特定の脂質はSNARE集合のためにシンタキシンを「開状態にする」ことができると知られている(Darios and Davletov, 2006;Rickman and Davletov, 2005)。発明者らによる未発表の研究は、オクチルグルコピラノシドと呼ばれる弱い界面活性剤が、シンタキシン3分子を「開状態にする」こともできると示した。よって、発明者らは、シンタキシンSNAREモチーフを制御でき、かつ、制御された様式でSNARE複合体を形成できる。図14Aは、SDSゲルにおいて試験されるような制御された二成分集合の一例を示している。発明者らはさらに、他の界面活性剤または類似した脂質化合物、例えばMEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10およびzwittergent 3-12などには同じ効果があることがわかった。
【0147】
表面プラズモン共鳴実験は、さまざまな破壊剤(disrupting agents)に対するこの二成分集合の優れた抵抗性を実証した(図15)。
代替の二成分系として、発明者らは、一つの小さいタグを含む二成分親和性試薬を作り出したが、その試薬では、短いシンタキシン・ヘリックス(<5kDa)が図16Aに図式的に示した新たに設計した三重らせんSNARE融合タンパク質(〜27−31kDa)に不可逆的に結合できる。このキメラにおいて、発明者らは、2本のSNAP−25SNAREヘリックス(第22−206アミノ酸)をシナプトブレビン2配列のSNAREモチーフ1−84に融合した。SNAP−25とシナプトブレビン配列の間のリンカーGSGSEQKLISEEDLG(配列番号11)は、mycタグエピトープを持つ。先に記載したシンタキシンの40または45アミノ酸ペプチドと混合した場合、三重らせん融合タンパク質は、図16Bに例示されるように、素早く不可逆的な複合体に集合した。
【0148】
これらの二成分系は、現在の親和性タグに対する有用な代替手段である(Terpe, 2003)。二成分捕捉系の両方のタグは、細菌において発現され、そして部位選択的様式で、遺伝子組み換え製造のために任意のタンパク質に容易に付加される−これは、ビオチン/ストレプトアビジンまたは類似した非常に高い親和性の系と異なっている(ビオチンをタンパク質の一部として発現させることはできない)。高度に希釈した溶液からの迅速な捕獲は、二成分親和性試薬の不可逆的性質のため現在可能であるが−他のそういった系は現在存在しない。必要な場合には、二成分系内のタグのいずれかを、ビーズ、チップ、マイクロアレイプレートの表面に化学的に結合でき、そして官能基の化学的または遺伝子組み換えによる導入によって修飾できる。
【0149】
細菌抽出物からのタンパク質の精製のために二成分系を使用する例として、発明者らは、最初に、短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84(前記)に融合したラット・シンタキシン3のSNAREモチーフ(第195−253アミノ酸)を含む2本らせん融合タンパク質を、BrCN−セファロースビーズに固定化した。発明者らはさらに、SNAP−25Bにグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)と呼ばれる酵素を融合させ、そして大腸菌において後者の融合タンパク質を発現させた。2%の界面活性剤(zwittergent 3-08と呼ばれるもの)を使用した細菌細胞膜の崩壊後に、細菌抽出物を、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を含有するセファロース・ビーズ上に投入した。洗浄後に、ビーズをSDS−PAGEとクーマシー染色によって分析した。図17は、GST−SNAP25が、シンタキシン3/シナプトブレビン2融合タンパク質を持つセファロース・ビーズに非常に特異的な様式で結合することを示している。
【0150】
実施例4:制御された線状重合反応
束形状での複数の基の結合に加えて、SNAREタンパク質はまた、図18で示されるような無限長の強固な線状多量体の形態で高度な超分子デバイスを生じさせる可能性も提供する。
そういった方向性において、発明者らの集合は、生体材料が新規線状超分子構造を生じるように分子単位で集合する、独特なアプローチを意味する(応用の可能性の総説について(Hinman et al, 2000;Lehn, 2007;Ryadnov and Woolfson, 2003; Zhang, 2003))。
【0151】
この場合、発明者らは、二成分系のために先に記載したシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質を使用した(短い一連のアミノ酸を介してラット・シナプトブレビン2配列1−84に融合したラット・シンタキシン3(第1−260アミノ酸))。しかしながら、溶液中でSNAP−25とシンタキシン3−シナプトブレビン2融合体を混合する代わりに、発明者らは、重合反応を開始するのにヘッドドメインを含む単独のシンタキシン3ポリペプチド(GSTに融合した第1−260アミノ酸)を伴った固体支持体を使用した。発明者らは、最初に、GSTタグを介してグルタチオン・ビーズにGST−シンタキシン3分子単体を固定化した。次いで、発明者らは、0.8%のオクチルグルコピラノシドの存在下で、シンタキシン3/SNAP−25二成分複合体の形成を可能にするSNAP25B分子(第1−206アミノ酸)を加えた。結合していないSNAP−25を取り除くためのビーズ洗浄後に、発明者らはシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質を加えた。2つのビルディングブロックを加えるこの工程を、必要な回数だけ繰り返した。その工程を図19に示す。
【0152】
図20Aは、先の工程の経過と共にシンタキシン3−シナプトブレビン2融合体とSNAP−25の両方の量が段階的に増加することを示している。ビーズへの結合に使用されるGST−シンタキシン3の量が一定のままであるのに対して、結合したSNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の量は漸増する。結合した物質の量を示すため、集合体のSDS抵抗性の性質を乱すために、サンプルを煮沸した。図20Bは、サンプルをSDS−PAGE前に煮沸しなかったとき、追加の重合ステップに沿ったSDS抵抗性重合体の分子量の増大を示している。
【0153】
先の工程においてステップごとに制御されているので、望ましい位置に必要なカーゴを、個別のSNAP−25またはシンタキシン3−シナプトブレビン融合タンパク質に任意の重合ステップで加えることが可能である。SNAP−25およびシンタキシン3−シナプトブレビンは、さまざまの分子構造の制御された製作のためのビルディングブロックである。用途には、機能性化したナノ繊維、複数のリガンドマイクロアレイ、スーパー分子酵素集合体、新しい電子デバイスおよびバイオテクノロジーや薬学における使用のための生体材料の製作が含まれる(応用の可能性の総説について(Zhang, 2003))。
【0154】
先に記載のように、シンタキシン−シナプトブレビン−シンタキシンまたはSNAP25−シンタキシン融合タンパク質を使用して、図21で示されるように特定の地点にて線状足場内の分岐を形成することも可能である。
最終的に、発明者らは、表面上ではなく、溶液中で2つの成分を単純に混合することによって線状重合体を作ることの可能性を探った。発明者らは、2つのSNAREタンパク質間のリンカー領域を取り除いたシンタキシン3−シナプトブレビン2融合タンパク質の修飾型を利用した。この融合構築物には、シナプトブレビン2残基(29−84)に直接融合したシンタキシン3残基(1−253)がある。図22を参照のこと。
【0155】
発明者らは、ラットSNAP−25B(第1−206aa)と融合タンパク質とを混合し、そして60分間の反応をSDSゲル電気泳動によって分析した。図23は、SNARE束が溶液中での簡単な混合によって多量体化できることを示している。
そのため、先に記載した二成分系は、溶液中での多量体化が可能であり、それは1〜4個のタンパク質機能ドメインを線状の形状で結合する方法を提供する。加えて、完全にSDS抵抗性の線状重合体のタンパク質ベースの製作は、ジョロウグモの多成分系集合体または現在のコイルドコイル・ナノ繊維より優れた特性を有する生分解性繊維の構築に使用できる。総説について、Hinman et al., 2000;Ryadnov and Woolfson, 2003を参照のこと。
【0156】
実施例1−4で使用したポリペプチドの配列(対応する図面の表示つき):
Syx3(1−260)/Syb2(1−84)(図13、14および20)(ヘッドドメインとリンカーを含むシンタキシン)−配列番号12
Syx3(195−253)/Syb2(1−84)(図12および17)(ヘッドドメインは無いがリンカーを含むシンタキシン)−配列番号13
Syx3(1−253)/Syb2(29−84)(図22)(ヘッドドメインを含むがリンカーが無いシンタキシン)−配列番号14
SNAP−25B(20−206)/Syb2(1−84)(図16B)−配列番号15
【0157】
実施例5:SNAREタグ付与は、ボツリヌス神経毒素の段階的な集合を可能にする
概要
好適なビルディングブロックの制御された結合によるナノメートルサイズの規定された、機能性超分子構造の創出は、医学と応用技術に新展望を提供し得る。現在の結合ストラテジーは、制限がある化学的方法に頼ることが多く、そして組み換え技術のすべての利点を得ることができていない。ここで、発明者らは、遺伝子組み換えおよび合成の機能ユニットの不可逆的な結合のための万能タグとして、細胞内膜の融合を駆動するための安定した4本ヘリックス複合体を形成する3つのSNAREタンパク質を利用した。発明者らは、SNAREタグ付与が、機能性超分子である医学用毒素、BOTOXとして一般的に知られているボツリヌス神経毒素A型の段階的な製造を可能にすることを示している。受容体結合領域とシナプトブレビンSNAREモチーフとの融合は、ニューロン内への、SNAP25でタグ付与したボツリヌス神経毒素の作用パーツの送達を可能にした。データは、SNAREタグ付与毒素が、その神経細胞内分子標的を開裂し、そして神経伝達物質の放出を阻害することができたことを示している。これらの結果は、SNARE4本ヘリックス・コイルドコイルが、さまざまなビルディングブロックの機能性ナノマシンへの制御された結合を可能にすることを実証している。
【0158】
序論
分子生物学とタンパク質の遺伝子組み換え製造の出現が科学を変革した。組み換えポリペプチド、タンパク質の機能性フラグメントおよび全酵素の使用は、薬剤、診断、ナノ技術、および消費者バイオ産業において現在広まっている。組み換え技術の明らかな成功にもかかわらず、タンパク質サイズは、単一の機能ユニットとしてより高性能なタンパク質を作り出すための障害のままで残っている。個々のタンパク質にというよりむしろ、超分子ユニットに複数の機能を組み合わせることで、我々はこのボトルネックを克服することが可能になると考えている。明らかに、ナノファクトリーまたはナノマシンの構築に関するこうした目的の達成は、要求に応じて、かつ、高精度でさまざまな機能ユニットを結合できる我々の能力に大きく依存する。この有望な分野における現在の取り組みが数十年間前に発明された結合技術:ビオチン−ストレプトアビジン対合、抗体−エピトープ認識、アミノ基およびスルホヒドリル基による化学的結合、にまだ頼っていることは、驚くべきことである。これらのアプローチは、組み換えタンパク質の化学修飾の必要性または抗体ベースの技術の複雑さのため制限していることが多い。最近開発された「クリック」化学反応がこれらの問題のいくつかに対処しているが、無機化合物に頼っているままであり、そして所定の超分子集合体への組み換えタンパク質の結合はこれまで達成されなかった。DNAの自己集合またはポリペプチドのオリゴマー化に基づく代替アプローチはさらに、多機能の遺伝子組み換え集合を設計する際にそれらの制限を受ける。ここで、発明者らは、機能ユニットへの組み換えポリペプチドの不可逆的な結合を達成するために、20年近く前に発見されたSNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体)タンパク質集合の使用の可能性を探った。
【0159】
SNAREタンパク質は、ヘテロメリック4本ヘリックスコイルドコイルを形成することによってあらゆる真核細胞内で細胞膜の融合を駆動している。脳由来SNARE複合体は、3つのタンパク質:シナプトブレビン、シンタキシンおよびSNAP25、から成る。シンタキシンとシナプトブレビンがそれぞれ単一のヘリックスをもたらすのに対して、SNAP25は2本のヘリックスをもたらして、四量体コイルドコイルを形成する。4つのSNAREモチーフは、55アミノ酸の長さであり、8つの特徴的なヘプタデ(heptade)反復を持つ。脳のSNARE複合体は、その安定性が並はずれており、カオトロピック試薬、強い界面活性剤、プロテアーゼ、および高温に対して抵抗性を示している。発明者らは、組み換えタンパク質にSNAREを融合することで超分子実体の制御された構築が可能になるかどうか調査することを決めた。
【0160】
多機能分子の例として、発明者らは、「認識、トラフィッキング、アンフォールディング、転座、再フォールディングおよび触媒作用を兼ね備えたナノマシン」と記述したボツリヌス神経毒素に注目した。ボツリヌス神経毒素A型、(BoNT/A)は、微量(1pMの濃度)の局所注入により非常に長い間神経筋麻痺を引き起こす能力のため、すばらしい医学的重要性があると証明された(Montecucco, C. et al.(2009))。BoNT/Aは、3つの主なモジュールから成る150kDaタンパク質である:ジスルフィド架橋を介して、いわゆる重鎖に連結されている50kDaの触媒パート(軽鎖、Lc)、そして該重鎖は、結果としてN末端の50kDaの転座パート(HN)とC末端50kDaのパート(Hc)からできており、後者は神経性ガングリオシドとシナプス小胞受容体SV2Cの認識に関与している(Mahrhold, S. et al.(2006)およびDong, M. et al.(2006))。その3つの主なモジュールは、X線モデルにおいて別個の構造ユニットとして認識される(出典、Lacy et al.(1998)、図24a)。前記触媒パートは、シナプスサイトゾル内にあるとき、優れた特異性でその神経細胞内標的であるSNAP25をタンパク質分解するので、神経伝達の長時間遮断につながる(Schiavo, G. et al.(1993)およびBlasi, J. et al.(1993))。SNAP25のC端末側終端からの9つのアミノ酸のBoNT/A介在除去は、シンタキシンとシナプトブレビンを用いたSNARE集合の安定性を低下させない(Hayashi, T. et al.(1994))。
【0161】
結果
発明者らは、最初に、SV2結合パート(Hc)をシナプトブレビンに融合させ(図24b)、そしてこの融合体が量子ドット(Q−ドット)を神経終末内に運ぶことができるか否かを試験した。Hc−シナプトブレビン融合体は、SNAP25、およびストレプトアビジンでコートしたQ−ドットへの結合のためにビオチンで標識した52アミノ酸シンタキシン3ペプチドとSNARE複合体を形成することができた。我々は、シンタキシン1よりむしろシンタキシン3SNAREモチーフを使用することを選んだ。なぜならば、シンタキシン1にはホモオリゴマー化する傾向があるためである。図24cは、Hc−シナプトブレビン融合体が、修飾シンタキシン3モチーフがあったとしても、SNAP25の存在下で不可逆的な(SDS抵抗性の)SNARE複合体を形成することができたことを示している。ビオチン化シンタキシン・ペプチドと前もって結合させたQ−ドットを、SNAP25の存在下でHc−シナプトブレビンと共にインキュベートし、そして神経終末内へのQ−ドットの送達をマウスに由来する海馬ニューロンの培養物において評価した。Q−ドット保有Hc−SNAREは、小胞タンパク質のシナプトフィジンでの染色によって確認されるように、シナプス接触点に蓄積した(図24d)。これは、BoNT/Aの標的化パートがそのシナプス受容体をまだ認識でき、かつ、SNAREタグとの遺伝子組み換え融合後に大きなカーゴを保有することができることを示している。
【0162】
次に、発明者らは、酵素パート、転座パートおよびSNAP25の融合体を調製した(図25a)。我々は、酵素パート(Lc)と転座パート(HN)の間に(天然のトリプシン感受性部位の代わりに)トロンビン開裂を導入し、単離手順中に、ジスルフィド結合によってまだ結合されたままであるこれらの2つのパート間の開裂を容易にする。LcHN−SNAP25融合体をE.コリにおいて首尾よく発現させ、そして均質に精製することができた。ジチオスレイトールで処理した場合に、この融合体は重要なジスルフィド結合の機能性を示す2つのパートに分かれた(図25b)。次いで、我々は、SNAREタグがLcHNパートとHcパートの単一体への集合を可能にするか否かを試験した。図25cは、シンタキシン・ペプチドの存在下では、2つの遺伝子組み換え融合体の組み合わせが、SDSゲルによって証明されるとおり、新規分子実体LcHN−SNARE−Hcの60分以内に出現につながったが、シンタキシン・ペプチドの不存在下ではそうならなかったことを示している。再集合BoNTの標的化の視覚化に役立つように、我々は、シンタキシン・ペプチドのフルオレセイン標識バージョンを使用し、そして実際にLcHN−SNARE−Hcが蛍光タンパク質として可視化できた(図25c)。
【0163】
LcHN−SNARE−Hcが培養海馬ニューロンに適用された場合、蛍光分子が小胞マーカーであるシナプトフィジンと共に有意な程度まで共局在化し、BoNT/Aの天然標的への結合を示した(図26a)。重要なことに、抗SNAP25抗体で処理したニューロンの免疫ブロッティングは、ニューロンが天然のBoNT/A分子で処理されたときと同じ様式で、SNAP25が開裂を受けたことを実証した(図26b)。これは、酵素パートがシナプス小胞内へのLcHN−SNARE−Hcの侵入時に首尾よく神経サイトゾル内に放出されたことを示している。神経伝達物質放出に対するLcHN−SNARE−Hcの効果を試験するために、我々は多重因子の同時比較を可能にする96ウェル・グルタミン酸放出試験を使用した(Darios, F. et al.(2009))。図27aは、LcHN−SNARE−Hcが天然のBoNT/Aに類似した用量依存性を有する、単離した脳の神経終末からのグルタミン酸のカルシウムおよびKCl依存性放出を阻害することができたことを示している。中枢神経終末からのグルタミン酸放出の阻害の程度は、以前に得た値とよく一致し(McMahon, H. T. et al.,(1992))そしてすべての中枢シナプスがBoNT/Aに対するSV2C受容体を保有するわけではないことを示唆している(Dong, M. et al.,(2006))。重要なことに、結合シンタキシン・ペプチドの不存在下でのSNAREタグ付与LcHNとHcとの混合では不活性な分子が得られ、遺伝子組み換えパーツの機能性実体への結合において、完全なSNARE集合が重要な要因であることを裏付けている(図27b)。LcHN−SNARE−Hcのジチオスレイトールでの処理が、集合毒素を不活性したので、LcとHNの間のジスルフィド結合の機能性を示唆している(図27b)。最後に、我々は、筋肉を麻痺させるLcHN−SNARE−Hcの能力を試験した。我々は、単離したマウス横隔膜上にいくつかの濃度の集合神経毒を適用し、そして横隔神経の麻痺応答を試験した。振幅が初期値の50%まで減少するのに必要な時間(麻痺半減期)を測定した。図27cは、LcHN−SNARE−Hcが、ナノモル未満の濃度(190pM)にて72分以内に横隔膜筋を麻痺させることを示している。結合シンタキシン・ペプチドの不存在下では、麻痺は観察されなかった(データ未掲載)。
【0164】
ここで、発明者らは、SNAREタグ付与が、BOTOXとして一般的に知られている医学用毒素、BoNT/Aの段階的な集合を可能にすることを実証した(Davletov, B. et al.(2005))。神経筋ジャンクションの遮断におけるLcHN−SNARE−Hcの有効性は天然のBoNT/Aより低かったが(Mahrhold, S. et al.(2006))、これは、長い神経筋ジャンクション内で遠方の活性領域に到達することに関して拡張型毒素の能力が低いか、または有効性低下につながる横隔膜筋における大量のシナプス前末端によるかのいずれかで説明できる。しかしながら、ニューロン間のシナプス接触との関連において、我々は、LcHN−SNARE−Hcと天然神経毒の間に類似した有効性を観察した。神経筋ジャンクションではなく、ニューロン間シナプスの阻害に対するそういった優先的効果は、筋を麻痺させる副作用を避ける疼痛阻害治療の開発に有利であり得る。我々の観察の意味はたくさんあるが、ここでいくつかを列挙する。一つ目に、安全な方法で細菌によるマルチモジュール型医学用毒素の活性形態を発現することが、現在可能である;実際には、我々の「ロッキング(locking)」ペプチドの使用は、追加的な安全機能を可能にする。また、造影剤や将来的な治療薬を提供するために、SNARE対応物でそれらにタグ付与することによって、SNAREタグ付与Hcパートを利用することも可能である(Binz, T et al.(2009))。さらに、抗ボツリヌス血清を作製する場合に、より強い免疫応答を引き出すためにHcパートをオリゴマー化することも可能である(Webb, R. P. et al.(2007))。LcHNパートのSNAREタグ付与はさらに、特定の神経内分泌細胞に対するBoNT/Aの有効成分の容易な再標的化を可能にするであろう(Dolly, J. O. et al.(2009))。ここで、当業者は、対応するSNAREタグ付与リガンドを作製することによって神経ペプチドまたは増殖因子受容体を標的化できる。そういったSNAREタグ付与は、特定のニューロンのサブセットをサイレンス化するのに最も有益な(単数もしくは複数の)組み合わせを見つけ出す目的を有するさまざまな機能ユニットの簡便なコンビナトリアル混合を可能にする(Foster, K. A.(2009))。
【0165】
発明者らは、洗練された「ナノマシン」の例としてBoNT/Aを使用したが、SNAREタグ付与が、高度に制御された様式において、多くの更なる超分子集合を構築する際に使用できることは明らかである。好適なビルディングブロックの制御された結合によるナノメートルサイズの十分に定義された、機能性超分子構造の創出は、多くの分野に新展望を提供すると思われる(Lehn, J. M.(2007))。ボツリヌス神経毒素の集合時のビオチンとフルオレセインの取り込みによって証明されるように、比較的短いSNAREモチーフは、遺伝子組み換えによって作り出されたポリペプチドと無機分子の両方の組み合わせを可能にする。SNAREコイルドコイルの最大の利点は、最大8つの異なる機能の結合を可能にしているそのヘテロ四量体の性質である。この能力は、将来的な医学と応用技術においてこれから利用される。
【0166】
方法
プラスミドとタンパク質反応。すべてのタンパク質を、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合体としてE.コリのBL21菌株で発現させた。LcHN−SNAP25の発現のためのプラスミドを、以下のとおり作製した:BoNT/AのLc(第1−449アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、そしてpGEX−KGベクターでSmaIおよびEcoRI制限部位内に挿入した(Guan, K. L. et al.(1991))。BoNT/Aの転座ドメインHN(第450−872アミノ酸、ATG Biosynthetics、Germany製)のコドン最適化cDNAを、軽鎖の3末端に挿入した。トロンビン開裂部位(アミノ酸LVPRGS(配列番号16))を、軽鎖とBoNT/Aの転座ドメインの間に挿入した。最後に、ラットSNAP25B(第1−206aa)のcDNAをHNの3’末端に挿入した。Hc−Sybの発現を可能にするプラスミドを、以下のとおり作製した:ラット・シナプトブレビン(第25−84アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、そしてpGEX−KGベクターのBamHIとEcoRI部位の間に挿入した。BoNT/A重鎖(第876−1296アミノ酸)のcDNAをPCRによって増幅し、シナプトブレビンの3’末端に挿入した。シンタキシンSNAREモチーフ(第200−250アミノ酸)のペプチドを、ビオチンまたはフルオレセインのいずれかと共に化学的に合成した(Peptide Synthetics、UK)。GSTに融合したタンパク質を、グルタチオン・セファロース・ビーズ(GE Healhcare、USA)により精製し、そしてトロンビンを使用して20mMのHepes、pH7.3、100mMのNaCl中にビーズから溶出した。SNAREタグ付与タンパク質をシンタキシン・ペプチドと22℃にて1時間混合することによって、超分子複合体を集合させた。
【0167】
神経の造影と免疫ブロッティング。マウス抗シナプトフィジン抗体(クローン7.2)はSynaptic Systems製であり、そしてマウス抗SNAP25抗体(クローンSMI81)はSternberger Monoclonals製である。ストレプトアビジン共役Q−ドット525は、Invitrogen製である。海馬ニューロンの初代培養を、記載のとおり調製し(Darios、F.ら(2009))、そして7〜10日後にインビトロにおいて使用した。ニューロンを、SNAREタグ付与または天然の毒素に2時間晒し、4%のPFAで固定化し、次いで抗シナプトフィジン抗体で免疫染色した。蛍光発光を、Nikon Eclipse蛍光顕微鏡に連動させたRadiance Confocalシステム(Zeiss/Bio-Rad;Hemel Hempstead, Herts.、U.K.)により観察した。あるいは、ニューロンを、集合毒素または天然のBoNT/Aと共に20時間インキュベートし、60mMのTris、pH6.8、2mMのMgCl2、2%のSDS、ベンゾナーゼ(Novagen、250U/ml)中で溶解し、そしてSNAP25開裂を抗SNAP25抗体を使用した免疫ブロッティングによって分析した。
【0168】
神経伝達物質放出の遮断。ラット脳シナプトソームを、記載のとおり新たに単離した(Darios, F. et al.(2009))。シナプトソーム(0.5mg/mlのタンパク質)を、指示した濃度のLcHN−SNARE−Hcを含むバッファーA(mM単位で132のNaCl、5のKCl、20のHEPES、1.2のNaH2PO4、1.3のMgCl2、0.15のNa2EGTA、1のMgSO4、5のNaHCO3、10のD−グルコース)中、37℃にて1時間インキュベートした。
【0169】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(15ユニット/ml、Sigma)および3mMのNADP(Sigma)を含有する等量のバッファーAを10分間かけて加えた。グルタミン酸放出を、2mMのCaCl2の存在下、KCl(35mM)の添加によって誘発し、そして蛍光発光を追って観察した(Exc.340nm、Em.460nm)(Darios, F. et al.(2009)およびMcMahon, H. T. et al.(1992))。Phrenic Nerve半横隔膜アッセイを、先に記載のように実施した(Mahrhold, S. et al.(2006))。マウス横隔神経を、Naval Medical Research Institute(NMRI)マウスから得た。横隔神経を、5〜25mAにて1Hzの周波数、0.1msのパルス幅で連続的に刺激した。等尺性収縮を、力変換器を使用して変換し、そしてVitroDat Onlineソフトウェア(FMI GmbH)で記録した。初期値の50%まで振幅が減少するのに必要な時間(麻痺半減期)を測定した。
【0170】
追加情報
ボツリヌス神経毒素は、自然が作り出した中で最も強力な毒素である。これらの毒素は、持続的な麻痺と死亡を引き起こすようにクロストリジウム属(Clostridium)細菌によって産生される。ここ30年間にわたり、ボツリヌス・ファミリーの一部のメンバー、例えばBOTOXとしても知られているボツリヌス神経毒素A型(BoNT/A)を、医学および美容目的のためにうまく利用してきた。これらの毒素は、神経筋ジャンクションをサイレント化し、そして多くのタイプのニューロンからの神経伝達物質放出を遮断できる。実際に、脳以外の人体のあらゆる部分がBOTOXによって処置できる。神経筋ジャンクションの麻痺は可逆的なので、筋の持続的な緩和には3〜4カ月毎の反復注射を必要とする。BoNT/Aは、横紋筋だけではなく、平滑筋についても神経支配を遮断する。さらに、発汗、唾液分泌および他のタイプの分泌を制御する自律神経系のコリン作動性ジャンクションは、神経筋ジャンクションのようにBOTOXに対して感受性がある。そのため、BOTOXベースの処置は、最近、みごとなまでにずらりと並んでいる、ジストニアから胃腸や尿の障害までの100近い病状を含むまでに拡大した。
【0171】
臨床医学におけるBoNT/Aの有効性が、ボツリヌス・ファミリーの他のメンバーへの着目の高まりにつながった。比較研究では、BoNTs(A−G)の7つの免疫学的に異なる抗原型の中で、BoNT/Aが最も長い麻痺効果を有することが実証されたので、そのため、神経障害の処置において特にBoNT/Aの有用性が実証された。すべてのBoNTsは、150kDaの分子量を有する単一のポリペプチド鎖として細菌によって合成される。細菌の死滅と溶解に続いて、毒素は、細菌のプロテアーゼによって「切れ目が入れられて」、ジスルフィド結合によってつなぎとめられている50kDaの軽鎖と100kDaの重鎖を生じる。ジスルフィド結合によってまだ結合されている2本の鎖は、トランスサイトーシスによって小腸上皮細胞を横断し、血流に入り、そして最終的に末梢のコリン作動性神経終末に結合する。
【0172】
BoNTsの強烈な毒性は、末梢神経終末がBoNTsの高親和性受容体として機能できる分子を保有することを示している。実際、いくつかのシナプス小胞タンパク質が、BoNTsの受容体として機能することが示された。重鎖が神経終末へのBoNTsの結合に関与するとはいえ、軽鎖は、小胞融合機構を攻撃する強力なエンドペプチダーゼなので、そのため神経終末の内側に入らなければならない。BoNTsは、小胞エンドサイトーシス経路を乗っ取ることによってこの役割を達成する。リサイクリング小胞内部のpHが下がるに従って、BoNTsは大きな立体構造変化を受ける。これは、部分的に折り畳まれていない軽鎖がサイトゾル内に滑り込むことによって、重鎖の転座パート(HNとして知られている)が小胞膜を横切る推定チャンネルを形成することを可能にする。サイトゾル内への侵入により、ジスルフィド結合の還元で軽鎖が重鎖から解放される。
【0173】
BoNT軽鎖は、小胞融合を媒介し、それにより経伝達物質放出する3つのSNAREタンパク質の多くのアイソフォームを攻撃する強力なエンドペプチダーゼである。BoNT/AおよびBoNT/EがSNAP−25をタンパク質分解し、BoNTsのB、D、FおよびGがシナプス小胞上のVAMPを開裂することが現在知られている。BoNT/Aによって9つのアミノ酸まで短縮されたSNAP−25は、原形質膜のシンタキシンおよび小胞のシナプトブレビンと相互作用する能力を維持しているが、正常な小胞融合工程を媒介することはできない。ボツリヌス神経毒素(BoNTs)に関する詳細は、以下で見出すことができる:Davletov, B., Bajohrs, M. and Binz, T., Trends Neurosci 28, 446-452(2005);Johnson, E.A.(1999)Annu Rev Microbiol 53, 551-575;Jankovic, J.(2004)J Neurol Neurosurg Psychiatry 75(7), 951-957;Aoki, K,R. and Guyer, B.(2001)Eur J Neurol 8 Suppl 5, 21-29;Simpson, L.L.(2004)Annu Rev Pharmacol Toxicol 44,167-193;Dolly, O.(2003)Headache 43 Suppl 1, SI6-24;およびMontecucco, C. and Schiavo, G.(1993)Trends Biochem Sci 18(9), 324-327。BoNT/A(BOTOX)の完全な配列情報は、Binz, T. et al.(1990)JBiol Chem 265(16), 9153-9158に公表された。
【0174】
再標的化ストラテジー:
これまで、BoNTsの恩恵は、神経筋疾患や自律神経系の障害の処置に限定されてきた。しかしながら、BoNTsはさらに、中枢ニューロンの神経伝達物質放出も遮断できるので、実験神経科学や高次脳機能を扱う将来の神経学においてそれらを利用することを可能にさせる。脳切片、培養ニューロンおよびシナプトソームに関する研究は、BoNTsがアセチルコリンだけではなく、グルタミン酸、グリシン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、ATPおよびさまざまな神経ペプチドなどの神経伝達物質の放出も止めることができること実証した(Ashton et al.(1988)、Capogna, M. et al.(1997)、Sanchez-Prieto, J. et al.(1987)、Verderio, C. et al.(2004)、Luvisetto, S. et al.(2004)、およびCostantin, L. et al.(2005))。BoNTsの軽鎖は、天然では、それらのパートナー重鎖によって送達されるが、リポソームや遺伝子組み換え融合構築物などの代替の送達手段もまた効果的である(de Paiva, A. et al.(1990)、Chaddock, J.A. et al.(2004)、およびDuggan, M.J. et al.(2002))。BoNT/A軽鎖を伴ったレクチンの遺伝子組み換えキメラは、最近、侵害受容求心神経または背根神経節内へのBoNT/A軽鎖の送達を可能にした(Chaddock, J.A. et al.(2004))。重要なことに、送達有効性は、軽鎖がGFP蛍光標識に融合されるのであれば、容易に追跡できるので、サイレント化細胞のマーキングを可能になる。BoNTsの重鎖がシナプスを標的化し、そして神経終末にそれらの軽鎖を輸送する能力は、神経生物学で利用できる別のツールを提供する(Goodnough, M.C. et al.(2002)およびBade, S. et al.(2004))。BoNT重鎖を使用したさまざまな分子、特に酵素の送達は、シナプス生理学の操作のために実現可能であり得る。実際に、BoNT/Dが遺伝子組み換えにより結合させた酵素を神経終末に送達できることが最近実証された(Bade, S. et al.(2004))。
【0175】
発明者らは、以下の2つのパーツ:
転座ドメイン(HN)を含む軽鎖(LC)、ここで、転座ドメインはそのC末端にSNAREタグ(シンタキシン、SNAP−25またはシナプトブレビン)を保有する;および
そのN末端にSNAREタグ(シンタキシン、SNAP25またはシナプトブレビン)を保有する重鎖(HC成分)の受容体結合パート、
から毒素を再結合させることによって機能性ボツリヌス神経毒素を得ることが可能であることを示した。
【0176】
SNAREタグは、機能ユニットの不可逆的な結合を可能にする。
これらの2つのパーツ(LCHNおよびHC)は、健康を損なう恐れなしに、タンパク質産生菌株において別個に産生されことができる。各パートは、安全な方法によって精製できる。2つのパーツが混合される場合、それらは、活性な神経毒を1時間以内に生じる。前記神経毒は、晒されたニューロンにおいてその分子標的であるSNAP−25を開裂し、そして神経終末からの神経伝達物質放出を遮断することもできる。
【0177】
SNAREタグを伴ったLCHNパートは機能性であるので(すなわち、SNAP−25神経開裂および神経伝達物質放出の遮断が観察される)、LCHN/リガンド部分の不可逆的な集合のためにSNAREタグを伴ったリガンドを加えることによって、特定のニューロンまたは内分泌細胞にこの作用パーツを向けることが可能である。一例は、SNAREタグに結合したソマトスタチン・ペプチドである。意図した細胞へのリガンドの結合は、その後の軽鎖の放出を伴った該細胞内へのLCHNの転送と、それによる、その後の神経伝達物質またはホルモン放出の停止を伴ったSNAP−25の損傷をもたらすことができる。
【0178】
SNAREタグを伴ったHC成分は機能性であるので(すなわち、LCHN/SNAREタグ付与体の結合後の神経伝達物質放出の遮断の観察)、ニューロン内への他の酵素または造影部分の送達にSNAREタグ付与HCパートを使用することが可能である。必要な受容体を保有する特定の細胞内に薬物、造影試薬などを送達するために、SNAREタグを伴った他の受容体結合化合物(例えばソマトスタチン神経ペプチド)を使用することもまた可能である。
【0179】
SNAREモチーフでタグ付与したLCHNの配列およびSNAREモチーフでタグ付与したHCの配列を以下に示す:
BoNT/A軽鎖(第1−449aa)、転座ドメイン(第449−872aa)およびSNAREタンパク質をコードするcDNAを、分子生物学技術によって融合した。トロンビン部位LVPR−GS(配列番号17)を、BoNT/Aの軽鎖(LC)と転座ドメイン(HN)の間に挿入して、トリプシンによって毒素の天然のニッキングを模倣した(先の配列内に「−」で表した)。GSTに融合したタンパク質を記載のように精製した。そのタンパク質を、トロンビンを使用してビーズから20mMのHepes、pH7.3、100mMのNaCl中に溶出した。シナプトブレビン2(25−84)BoNT/A Hc(876−1296)の場合には、0.8%のオクチルグルコシドが溶出緩衝液中に存在していた。溶出後に、我々は以下の配列を有するタンパク質を得た:
【0180】
LcHN−SNAP25:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−SNAP25B(CからA)−配列番号18
LcHN−Syx:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−Syx3(195−253)−配列番号19
LcHN−Syb:BoNT/A Lc(1−449)Thrombin HN(449−872)−Syb2(1−96;WWK−AAA)−配列番号20
【0181】
Syb−HcA:Syb2(25−84)BoNT/A Hc(876−1296)−配列番号21
Syb HcD:Syb2(25−84)BoNT/D Hc(863−1276)−配列番号22
ナノロッキングHcA:Syx3(195−253)Syb2(1−84)BoNT/A Hc(876−1296)−配列番号23
SNAP25B(CからA)−配列番号24
シンタキシン3(195−253)−配列番号25
【0182】
細菌による産生(すべて上記)によって得られた組み換えタンパク質に加えて、以下の合成ペプチドもまた使用した:
Syx3ペプチド(45aa、52aa−FITC)
ソマトスタチン−シナプトブレビン・ペプチド
ソマトスタチン−シンタキシン・ペプチド
ソマトスタチン・ペプチド−配列番号26
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH。
【0183】
触媒パートを受容体結合部に結合させるために、発明者らは、1つのSNAREタンパク質に融合させた作用パート(LcHN−Syx、LcHN−SNAP25またはLcHN−Syb)を、第2のSNAREタンパク質を含む受容体結合パートと一緒に1時間混合した。集合を、第3のSNAREパートナーの添加によってロックした。組み合わせの例を、以下の表中に示す:
【0184】
【表1】
【0185】
実施例6
以下の実施例は、SNAREモチーフのN端末側終端を切断することによって安定したSDS抵抗性複合体を得る可能性を示す:
シナプトブレビン2の完全なSNAREモチーフ(N末端からC末端):
RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号27)
シナプトブレビン2のSNAREモチーフのN末端切断である以下の合成シナプトブレビン・ペプチドを試験した:
1)FITC−Ahx−AQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号28)(49個のアミノ酸);
【0186】
2)FITC−Ahx−DIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号29)(42個のアミノ酸);
3)FITC−Ahx−DKVLERDQKLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号30)(35個のアミノ酸);および
4)FITC−Ahx−KLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLA(配列番号31)(27個のアミノ酸)。
【0187】
図33は、シナプトブレビンSNAREモチーフは、42個のアミノ酸まで削減されることができるので、それでもまだシンタキシン1(stx1)およびSNAP25(S25)と共にSDS抵抗性複合体を形成することを示している。35アミノ酸シナプトブレビンSNAREモチーフもまた、複合体を形成するが、それはゲル電気泳動中に「融解する」。
【0188】
実施例7
シンタキシンSNAREモチーフの短縮によって例示されるように、SNAREモチーフはさらに、NおよびC末端の両方から削減することも可能である。加えて、内部残基の置換は、オーダーメイドの適用のためのSNARE集合に寛容である。
【0189】
シンタキシン1の完全なSNAREモチーフ:
EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVERAVSDTKKA(配列番号32)。
【0190】
以下の合成シンタキシン・ペプチドを試験した:
1)FITC−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVERA−Ahx−KK−NH2(配列番号33)(47個のアミノ酸);
2)Ac−HHHHHH−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号34)(45個のアミノ酸);
3)EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAGSGGGHHHHHHC(配列番号35)(40個のアミノ酸);
【0191】
4)Flu−GGEIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMID(配列番号36)(31個のアミノ酸);
5)EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESTGEMIDRIEYNVEHA−NH2(配列番号37)(40個のアミノ酸);および
6)Bio−NSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号38)(39のアミノ酸)。
【0192】
結果を図34に示す。40個のアミノ酸を持つシンタキシン1は、複合体形成に十分である。両末端から短縮され、そしてN末端にビオチンと更なる修飾に有用な追加のシステインを保有する39アミノ酸ペプチドは、SDSゲルにより示されるような安定した複合体を形成する。注記、シンタキシンの内部リジン(K204)をアルギニンと置き換えることが可能であり、それでもSNAP25およびシナプトブレビンと共に強い複合体形成が維持できる。そういった置換は、ペプチド修飾または表面上への固定化のためにリジンがNまたはC末端上に付加されるべきであれば、有利である。
【0193】
シンタキシンSNAREペプチドの安定バージョンを得るために、すべての内部メチオニンを非易酸化性ノルロイシンで置き換えることもまた可能である:
野生型(Met)−FITC−Ahx−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2(配列番号39)
ノルロイシン・ペプチド−FITC−Ahx−EIIKLENSIRELHDnFnDnAnLVESQGEnIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2(配列番号40)。
【0194】
図35のSDSゲルは、匹敵する集合体が、SNAP−25、シナプトブレビン45aaペプチド、および前記の2本のシンタキシン・ペプチドから作製できることを示している。
【0195】
実施例8
SNAREモチーフの多くの組み合わせが、複合体形成系に利用できる。図36に示したSDSゲルで可視化されているように、安定したSDS抵抗性複合体の例およびそれらの融解温度(Tm)を、遺伝子組み換えシンタキシン1および3、SNAP23およびSNAP25、ならびにVAMPs2、4、5、7および8でできたSNARE複合体について提供する。
最も強固な複合体(より高い融解温度、Tm)は、シンタキシン1、VAMP2およびSNAP25またはSNAP23のいずれかを用いて得られる。
【0196】
細菌により産生され、そしてここで使用した追加のSNAREアイソフォームのアミノ酸配列は、以下のとおりである:
SNAP−23−配列番号41
VAMP4−配列番号42
VAMP5−配列番号43
VAMP7−配列番号44
VAMP8−配列番号45。
【0197】
実施例9A
複合体形成系は、3つの別個の短縮型ポリペプチドSNAREモチーフを結合させる。
グルタチオン−S−トランスフェラーゼに融合した遺伝子組み換えシナプトブレビン(VAMP2)は、40および45アミノ酸シンタキシン1ならびにSNAP25ペプチドと結合できる。SNAP25ペプチドを、ヘリックス1(S25H1)やヘリックス2(S25H2)と示す。
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
S25H1 45aa:配列番号48;
S25H1 40aa:配列番号49;
S25H2 45aa:配列番号50;および
S25H2 40aa:配列番号51。
結果を図37に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0198】
実施例9B
遺伝子組み換えS25H2タンパク質は、40および45アミノ酸シンタキシン1、VAMP2、ならびにS25H1ペプチドと結合できる。
S25H1 45aa:配列番号48;
S25H1 40aa:配列番号49;
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
Syb2 45aa:配列番号52;および
Syb2 40aa:配列番号53。
結果を図38に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0199】
実施例9C
遺伝子組み換えS25H1タンパク質は、40および45アミノ酸シンタキシン1、VAMP2、ならびにS25H2ペプチドと結合できる。
S25H2 45aa:配列番号50;
S25H2 40aa:配列番号51;
Syx1 45aa:配列番号46;
Syx1 40aa:配列番号47;
Syb2 45aa:配列番号52;および
Syb2 40aa:配列番号53。
結果を図39に示すが、その中で、+の印を付けたレーンはSDS中で煮沸したサンプルを含み、そして−の印を付けたレーンはSDS中で煮沸していないサンプルを含む。
【0200】
実施例10
神経ペプチドの複合体形成は、さまざまな組み合わせで達成できる。
以下のペプチドを使用して例を提供する:
シンタキシン・タグ−ソマトスタチン:(配列番号54)
Ac−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHA−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH
ブレビン・タグ−ソマトスタチン:(配列番号55)
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADAL−Ahx−Ahx−AGCKNFFWKTFTSC−OH
【0201】
シンタキシン・タグ−サブスタンスP:(配列番号56)
Ac−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−Ahx−Ahx−RPKPQQFFGLM−NH2
ブレビン・タグ−サブスタンスP:(配列番号57)
Ac−RLQQTQAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGAS−Ahx−Ahx−RPKPQQFFGLM−NH2。
【0202】
これらのペプチドを組み合わせることで、図40で例示されるような代替の安定した組み合わせを提供する。図40において、レーン1および2:ブレビン・タグ−サブスタンスPを、SNAP25の存在下でシンタキシン・タグ−ソマトスタチンと混合した。安定した複合体は、サブスタンスPとソマトスタチンの両方を含んでいる(ヘテロ二量体ペプチド)。レーン3および4:ブレビン・タグ−ソマトスタチンを、SNAP25の存在下でシンタキシン・タグ−ソマトスタチンと混合した。安定した複合体は、2つのソマトスタチンを含んでいる(ホモ二量体ペプチド)。注記、レーン1および3は、タグ付与した神経ペプチドを使用した安定した複合体を示した。
【0203】
実施例11
神経ペプチドは、細胞表面受容体への結合やペプチドの転座に影響を及ぼし得る異なる配向で、他の機能性基、例えばボツリヌス神経毒素パーツなどと結合できる。この実施例では、以下の配列を使用した:
45aaシンタキシン・モチーフ−アルギニン/バソプレッシン・ペプチド(AVP)(配列番号58)
Ac−AEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVER−Ahx−Ahx−CYFQNCPRG−NH2
アルギニン/バソプレッシン・ペプチド−45aaシンタキシン・モチーフ(配列番号59)
CYFQNCPRG−Ahx−Ahx−AEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVE−NH2
【0204】
これらのペプチドをボツリヌス毒素AのLcHnパートと組み合わせることで、図41のSDSゲルで可視化された代替の安定した組み合わせを提供する。
レーン1および2:シンタキシン−AVPを、SNAP−25の存在下でLcHn−ブレビンと共に60分間インキュベートした。安定した複合体は、LcHn−SNARE−AVPを含んでいる(AVPはSNAREリンカーのC端末側終端に存在する)。
レーン3および4:AVP−シンタキシンを、SNAP−25の存在下でLcHn−ブレビンと共に60分間インキュベートした。安定した複合体は、LcHn−AVP−SNAREを含んでいる(AVPはSNAREリンカーのN端末側終端に存在する)。
【0205】
実施例12
40より短いペプチドでも、まだ安定した複合体を形成できる(しかしSDS抵抗性ではない)。使用した配列:
ビオチン−Ahx−EIIRLENSIRELHDMFMDMAMLVESQG−NH2(配列番号60)−27aaシンタキシン1ペプチド
ビオチン−Ahx−EIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMID−NH2(配列番号61)−31aaシンタキシン・ペプチド
ペプチドの結合を、グルタチオン・ビーズ上に固定化したGST−SNAP25リンカー・シナプトブレビン・タンパク質(三重らせん構築物)を使用したプルダウン実験において観察した。結合は25℃にて30分間であり、それに続いてバッファーA(20mMのHEPES、100mMのNaCl)中で洗浄する。タンパク質とペプチドをSDSゲル上で可視化した(42図)。ビーズに結合したビオチン化ペプチドを、SDSゲルの底に見ることができる。
【0206】
実施例13
SNAREペプチドは、そのタンパク質を遺伝子組み換えによって発現できないときに、タンパク質を化学的に架橋することができる。そのペプチドはSNARE複合体を形成するそれらの能力を保有し、そして修飾タンパク質はそれらの活性を保有する。使用される配列:
45aaシンタキシン1ペプチド
Ac−AEDAEIIKLENSIRELHDMFMDMAMLVESQGEMIDRIEYNVEHAVDYVEC(配列番号62)
【0207】
先のペプチドをMaleimide-Horse Radish Peroxidaseに架橋した(Sigma-Aldrich Co.)。
図43は、マレイミド・ベースの架橋を示しているSDSゲルである。
架橋シンタキシン−HRPは、グルタチオン・ビーズ上に固定化されたGST−三重らせん(Snap25−ブレビン、S−B)に結合できる。結果を、図44および45に示す。図44は、TMB基材の650nmにおける吸光度を示している。図45は、フィルム上で発光により可視化したものの発光を示している。注記、GST−三重らせん(S−B)を含まない対照グルタチオン・ビーズが、シンタキシン−HRPのバックグラウンド結合のみを示す。
【0208】
実施例14
29アミノ酸コンプレキシン1ペプチドは、SNARE集合と相互作用できる。このペプチドは、その固定化後の精製、またはSNAREベースの集合における追加担体として使用できる。
コンプレキシンペプチド:
Ac−ERKAKYAKMEAEREVMRQGIRDKYGIKKGSGSGGIKVAV−NH2(配列番号63)。
【0209】
図46は、Ni2+ビーズ上に固定化されたタンパク質を追跡することによるコンプレキシン・ペプチドのプルダウンを示すSDSゲルである。
A.完全長HIS−SNAP25(SNARE複合体なし)
B.完全長HIS−SNAP25+完全長シンタキシン1+完全長シナプトブレビン2
C.完全長HIS−SNAP25+完全長シンタキシン1+シナプトブレビン2 45aaペプチド
D.完全長HIS−SNAP25+シンタキシン1 45aaペプチド+完全長シナプトブレビン2
E.完全長HIS−SNAP25+シンタキシン1 45aaペプチド+シナプトブレビン2 45aaペプチド。
特に、レーンEは、1つの組み換えタンパク質が3つの合成ペプチド(そのうち1つがコンプレキシン・ペプチドである)と結合する生成物を表す。
【0210】
実施例15
SNARE集合は、血清の存在下で達成できる。特定の用途では、SNAREベースの薬剤は、血液中への注射後に新たに相互作用が求められるであろう。FITC蛍光タグを持つ45アミノ酸シンタキシン1ペプチドを、100%の仔ウシ血清の存在下、グルタチオン・ビーズ上に固定化したGST−三重らせんタンパク質(シナプトブレビンに結合させたSNAP−25、SBタンパク質)への結合について試験した。結果を図47に示す。注記、ビーズ上の三重らせんタンパク質の存在が、血清存在下でのシンタキシン蛍光ペプチドのプルダウンをもたらす。縦軸は相対蛍光単位を表す。
参考文献:
【0211】
【化1】
【0212】
【化2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、かつ、ここで、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと一体化している、前記複合体形成系。
【請求項2】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、上記4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、かつ、ここで、上記ポリペプチドヘリックスは一体化して、2つのヘリックス含有成分を形成する、前記複合体形成系。
【請求項3】
前記ヘリックスのうちの2本が、両ヘリックスが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項1に記載の系。
【請求項4】
他の2本のヘリックスが、両ヘリックスが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項3に記載の系。
【請求項5】
前記ヘリックスのうちの3本が、3本のヘリックスすべてが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項2に記載の系。
【請求項6】
前記のSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと:シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックス;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスのいずれかとが一体化している、請求項5に記載の系。
【請求項7】
前記ヘリックスのうちの1本が、基材上に固定化されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の系。
【請求項8】
前記SNAPタンパク質が、SNAP−25である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の系。
【請求項9】
前記ポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンに由来する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の系。
【請求項10】
各ヘリックスが、少なくとも約40アミノ酸の長さである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の系。
【請求項11】
前記ポリペプチドヘリックスのそれぞれの配列が、該ポリペプチドヘリックスを得たタンパク質またはタンパク質の一部の配列と少なくとも約80%の同一性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の系。
【請求項12】
ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部、およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含むカーゴ部分を含んでなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の系。
【請求項13】
ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部、またはソマトスタチン・ペプチドもしくはその機能部を含むカーゴ部分を含んでなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の系。
【請求項14】
別個のヘリックスまたはヘリックス含有成分に結合させた第1および第2のカーゴ部分を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含み、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部またはソマトスタチン・ペプチドもしくはその機能部を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の系。
【請求項15】
前記第2のカーゴ部分が、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含む、請求項14に記載の系。
【請求項16】
SNARE複合体に結合できるコンプレキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の系。
【請求項17】
界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の系。
【請求項18】
前記界面活性剤が、MEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10およびzwittergent 3-12から選択される、請求項17に記載の系。
【請求項19】
前記界面活性剤が、オクチルグルコピラノシドである、請求項17または18に記載の系。
【請求項20】
前記ヘリックスのうちの2本が、両ヘリックスが同一のNARE複合体に集合できないように一体化している、請求項1または2に記載の系。
【請求項21】
前記ヘリックスのうちの2本が一体化している、請求項1または2に記載の系であって、そしてここで、一体化された2本のヘリックスのうちの1本と同一のタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる前記系。
【請求項22】
前記単一ポリペプチドヘリックスを、基材上に固定化する、請求項21に記載の系。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の系によって作り出される多量体。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項25】
診断における、請求項1〜22のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項26】
その上に安定したSNARE複合体を固定化した装置であって、該SNARE複合体が、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、アレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、および熱量測定器具から選択される前記装置。
【請求項27】
1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分を該ポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで:
(i)シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結するか;または
(ii)該ポリペプチドヘリックスを一体化して、2本のヘリックス含有成分を形成する前記方法。
【請求項28】
分子足場を形成するための成分であって、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含み、ここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記成分。
【請求項29】
配列番号12、13、14および73から選択される配列を含む、請求項28に記載の成分。
【請求項30】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる分子足場を形成するための成分であって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記成分。
【請求項31】
配列番号15の配列を含んでなる、請求項30に記載の成分。
【請求項32】
請求項28〜31のいずれか1項に記載の成分の使用。
【請求項33】
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含む成分を含んでなるキットであって、ここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記キット。
【請求項34】
シンタキシン/シナプトブレビン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できる、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる、請求項33のキット。
【請求項35】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含む成分を含んでなるキットであって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記キット。
【請求項36】
シナプトブレビンもしくはその相同体またはシンタキシンのいずれかである第4のSNAREタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含んでなり、ここで、単一ポリペプチドヘリックスが三重らせん成分と安定したSNARE複合体を形成できる、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、そしてここで、該SNARE複合体が界面活性剤の存在下で形成される前記複合体形成系。
【請求項38】
前記系が、Munc18タンパク質を含まない、請求項37に記載の系。
【請求項39】
Munc18タンパク質の不存在下、SNARE複合体の集合を促進するための界面活性剤の使用。
【請求項40】
一つに連結された複数の安定したSNARE複合体を含んでなる多量体であって、ここで、各SNARE複合体が、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、あるSNARE複合体からのヘリックスが、別のSNARE複合体からヘリックスに連結されて、それらのSNARE複合体を一体化し、かつ、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる前記多量体。
【請求項41】
あるSNARE複合体からの3本のヘリックスを、3つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合させた分岐をさらに含んでなる、請求項40の多量体。
【請求項42】
以下のステップ:
1)第1のSNAREヘリックスに由来する第1のポリペプチドヘリックスを提供し;
2)第2および第3のポリペプチドヘリックスを、第1のポリペプチドヘリックスに結合させて、三重らせん複合体を形成し、ここで、第2および第3のポリペプチドヘリックスが第2および第3のSNAREヘリックスに由来し;
3)第4のポリペプチドヘリックスを、3本ヘリックス束に結合させて、安定したSNARE複合体を形成させ、ここで、第4のポリペプチドヘリックスが第4のSNAREヘリックスに由来し、そしてここで、第4のポリペプチドヘリックスが、第1のSNAREヘリックスに由来する第5のポリペプチドヘリックスに連結され;そして
4)ステップ2)および3)を繰り返して、多量体を形成する、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる、
を含んでなる多量体を作り出す方法。
【請求項43】
前記第2、第3、第4および第5のポリペプチドヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記第2および第3のポリペプチドヘリックスを、それらが同一のSNARE複合体に一緒に集合できるように一つに連結する、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
前記第1のポリペプチドヘリックスを、基材上に固定化する、請求項42〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
すべての非結合ヘリックスを取り除くために、それぞれの結合ステップ後に洗浄ステップをさらに含む、請求項42〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
第1のSNAREヘリックスに由来する第6のポリペプチドヘリックスを使用することによって多量体内に分岐を導入する、ここで、第6のポリペプチドヘリックスを第2、第3、第4または第5のポリペプチドヘリックスのうちの1本に結合させる、請求項42〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項42〜47のいずれか1項に記載の方法によって作り出される多量体。
【請求項49】
2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;そして
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす前記複合体形成系。
【請求項50】
前記二成分化合物が、毒素である、請求項49に記載の複合体形成系。
【請求項51】
前記毒素が、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンから選択される、請求項50に記載の複合体形成系。
【請求項52】
前記毒素が、ボツリヌス毒素である、請求項51に記載の複合体形成系。
【請求項53】
以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる、請求項52に記載の複合体形成系。
【請求項54】
請求項49〜53のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項55】
治療法における使用のための、請求項50〜53のいずれか1項に記載の複合体形成系。
【請求項56】
前記毒素が、新生物疾患の処置における使用のためのジフテリア毒素およびリシンから選択される、請求項51に記載の複合体形成系。
【請求項57】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態の処置における使用のための、請求項52または53に記載の複合体形成系。
【請求項58】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態が、発汗過多、唾液分泌過多、ジストニア、胃腸障害、泌尿器疾患、顔面けいれん、斜視、脳性麻痺、吃音、慢性緊張型頭痛、涙液分泌過剰、多汗症、下咽頭収縮筋のけいれん、痙性膀胱、疼痛、片頭痛、および例えばしわ取り、額のしわ取りなどの美容整形術から成る群から選択される、請求項57に記載の複合体形成系。
【請求項59】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態を処置する方法であって、請求項52または53に記載の系を含んでなる組成物の有効量の投与を含んでなる前記方法。
【請求項60】
2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するためのSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす前記方法。
【請求項61】
前記二成分化合物が、毒素である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記毒素が、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンから選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記毒素が、ボツリヌス毒素である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる、請求項63に記載のボツリヌス毒素を形成するための方法。
【請求項65】
SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスには、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなるカーゴ部分を結合させる、ボツリヌス毒素を形成するための成分。
【請求項66】
SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスには、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるカーゴ部分を結合させる、ボツリヌス毒素を形成するための成分。
【請求項67】
請求項65または66に記載の成分の使用。
【請求項68】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるキット。
【請求項69】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである前記複合体形成系。
【請求項70】
1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、を含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである前記方法。
【請求項1】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、かつ、ここで、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスと一体化している、前記複合体形成系。
【請求項2】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、上記4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、かつ、ここで、上記ポリペプチドヘリックスは一体化して、2つのヘリックス含有成分を形成する、前記複合体形成系。
【請求項3】
前記ヘリックスのうちの2本が、両ヘリックスが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項1に記載の系。
【請求項4】
他の2本のヘリックスが、両ヘリックスが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項3に記載の系。
【請求項5】
前記ヘリックスのうちの3本が、3本のヘリックスすべてが同一の安定したSNARE複合体に集合できるように一体化している、請求項2に記載の系。
【請求項6】
前記のSNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと:シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックス;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスのいずれかとが一体化している、請求項5に記載の系。
【請求項7】
前記ヘリックスのうちの1本が、基材上に固定化されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の系。
【請求項8】
前記SNAPタンパク質が、SNAP−25である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の系。
【請求項9】
前記ポリペプチドヘリックスが、シナプトブレビンに由来する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の系。
【請求項10】
各ヘリックスが、少なくとも約40アミノ酸の長さである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の系。
【請求項11】
前記ポリペプチドヘリックスのそれぞれの配列が、該ポリペプチドヘリックスを得たタンパク質またはタンパク質の一部の配列と少なくとも約80%の同一性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の系。
【請求項12】
ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部、およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含むカーゴ部分を含んでなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の系。
【請求項13】
ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部、またはソマトスタチン・ペプチドもしくはその機能部を含むカーゴ部分を含んでなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の系。
【請求項14】
別個のヘリックスまたはヘリックス含有成分に結合させた第1および第2のカーゴ部分を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含み、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部またはソマトスタチン・ペプチドもしくはその機能部を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の系。
【請求項15】
前記第2のカーゴ部分が、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含む、請求項14に記載の系。
【請求項16】
SNARE複合体に結合できるコンプレキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の系。
【請求項17】
界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の系。
【請求項18】
前記界面活性剤が、MEGA8、C−HEGA10、C−HEGA11、HEGA9、ヘプチルグルコピラノシド、オクチルグルコピラノシド、ノニルグルコピラノシド、zwittergent 3-08、zwittergent 3-10およびzwittergent 3-12から選択される、請求項17に記載の系。
【請求項19】
前記界面活性剤が、オクチルグルコピラノシドである、請求項17または18に記載の系。
【請求項20】
前記ヘリックスのうちの2本が、両ヘリックスが同一のNARE複合体に集合できないように一体化している、請求項1または2に記載の系。
【請求項21】
前記ヘリックスのうちの2本が一体化している、請求項1または2に記載の系であって、そしてここで、一体化された2本のヘリックスのうちの1本と同一のタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる前記系。
【請求項22】
前記単一ポリペプチドヘリックスを、基材上に固定化する、請求項21に記載の系。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか1項に記載の系によって作り出される多量体。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項25】
診断における、請求項1〜22のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項26】
その上に安定したSNARE複合体を固定化した装置であって、該SNARE複合体が、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、アレイ、アッセイ、マイクロ流体デバイス、SPR器具、QCM器具、質量分析計、電気泳動器具、クロマトグラフィーカラム、走査型プローブ顕微鏡、および熱量測定器具から選択される前記装置。
【請求項27】
1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一つに結合させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分を該ポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで:
(i)シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結するか;または
(ii)該ポリペプチドヘリックスを一体化して、2本のヘリックス含有成分を形成する前記方法。
【請求項28】
分子足場を形成するための成分であって、シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含み、ここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記成分。
【請求項29】
配列番号12、13、14および73から選択される配列を含む、請求項28に記載の成分。
【請求項30】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含んでなる分子足場を形成するための成分であって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記成分。
【請求項31】
配列番号15の配列を含んでなる、請求項30に記載の成分。
【請求項32】
請求項28〜31のいずれか1項に記載の成分の使用。
【請求項33】
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスに連結されたシンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスを含む成分を含んでなるキットであって、ここで、連結された2本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記キット。
【請求項34】
シンタキシン/シナプトブレビン由来ヘリックスと安定したSNARE複合体を形成できる、SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスをさらに含んでなる、請求項33のキット。
【請求項35】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックスと、シンタキシンに由来するポリペプチドヘリックスまたはシナプトブレビンに由来するポリペプチドヘリックスのいずれかを含む成分を含んでなるキットであって、ここで、3本のヘリックスが一体化されて、三重らせん成分を形成し、そしてここで、該連結された3本のヘリックスが安定したSNARE複合体の一部を形成できる前記キット。
【請求項36】
シナプトブレビンもしくはその相同体またはシンタキシンのいずれかである第4のSNAREタンパク質に由来する単一ポリペプチドヘリックスをさらに含んでなり、ここで、単一ポリペプチドヘリックスが三重らせん成分と安定したSNARE複合体を形成できる、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、そしてここで、該SNARE複合体が界面活性剤の存在下で形成される前記複合体形成系。
【請求項38】
前記系が、Munc18タンパク質を含まない、請求項37に記載の系。
【請求項39】
Munc18タンパク質の不存在下、SNARE複合体の集合を促進するための界面活性剤の使用。
【請求項40】
一つに連結された複数の安定したSNARE複合体を含んでなる多量体であって、ここで、各SNARE複合体が、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、あるSNARE複合体からのヘリックスが、別のSNARE複合体からヘリックスに連結されて、それらのSNARE複合体を一体化し、かつ、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる前記多量体。
【請求項41】
あるSNARE複合体からの3本のヘリックスを、3つの異なるSNARE複合体内のヘリックスに結合させた分岐をさらに含んでなる、請求項40の多量体。
【請求項42】
以下のステップ:
1)第1のSNAREヘリックスに由来する第1のポリペプチドヘリックスを提供し;
2)第2および第3のポリペプチドヘリックスを、第1のポリペプチドヘリックスに結合させて、三重らせん複合体を形成し、ここで、第2および第3のポリペプチドヘリックスが第2および第3のSNAREヘリックスに由来し;
3)第4のポリペプチドヘリックスを、3本ヘリックス束に結合させて、安定したSNARE複合体を形成させ、ここで、第4のポリペプチドヘリックスが第4のSNAREヘリックスに由来し、そしてここで、第4のポリペプチドヘリックスが、第1のSNAREヘリックスに由来する第5のポリペプチドヘリックスに連結され;そして
4)ステップ2)および3)を繰り返して、多量体を形成する、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させる、
を含んでなる多量体を作り出す方法。
【請求項43】
前記第2、第3、第4および第5のポリペプチドヘリックスの固有性が反復ステップにおいて維持される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記第2および第3のポリペプチドヘリックスを、それらが同一のSNARE複合体に一緒に集合できるように一つに連結する、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
前記第1のポリペプチドヘリックスを、基材上に固定化する、請求項42〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
すべての非結合ヘリックスを取り除くために、それぞれの結合ステップ後に洗浄ステップをさらに含む、請求項42〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
第1のSNAREヘリックスに由来する第6のポリペプチドヘリックスを使用することによって多量体内に分岐を導入する、ここで、第6のポリペプチドヘリックスを第2、第3、第4または第5のポリペプチドヘリックスのうちの1本に結合させる、請求項42〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項42〜47のいずれか1項に記載の方法によって作り出される多量体。
【請求項49】
2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;そして
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす前記複合体形成系。
【請求項50】
前記二成分化合物が、毒素である、請求項49に記載の複合体形成系。
【請求項51】
前記毒素が、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンから選択される、請求項50に記載の複合体形成系。
【請求項52】
前記毒素が、ボツリヌス毒素である、請求項51に記載の複合体形成系。
【請求項53】
以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成でき、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる、請求項52に記載の複合体形成系。
【請求項54】
請求項49〜53のいずれか1項に記載の複合体形成系の使用。
【請求項55】
治療法における使用のための、請求項50〜53のいずれか1項に記載の複合体形成系。
【請求項56】
前記毒素が、新生物疾患の処置における使用のためのジフテリア毒素およびリシンから選択される、請求項51に記載の複合体形成系。
【請求項57】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態の処置における使用のための、請求項52または53に記載の複合体形成系。
【請求項58】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態が、発汗過多、唾液分泌過多、ジストニア、胃腸障害、泌尿器疾患、顔面けいれん、斜視、脳性麻痺、吃音、慢性緊張型頭痛、涙液分泌過剰、多汗症、下咽頭収縮筋のけいれん、痙性膀胱、疼痛、片頭痛、および例えばしわ取り、額のしわ取りなどの美容整形術から成る群から選択される、請求項57に記載の複合体形成系。
【請求項59】
神経シナプスの阻害によって緩和される疾患または身体状態を処置する方法であって、請求項52または53に記載の系を含んでなる組成物の有効量の投与を含んでなる前記方法。
【請求項60】
2つのカーゴ部分を含んでなる二成分化合物を形成するためのSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、SNARE複合体の形成が二成分化合物の形成を引き起こす前記方法。
【請求項61】
前記二成分化合物が、毒素である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記毒素が、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、破傷風毒素およびリシンから選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記毒素が、ボツリヌス毒素である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
以下のステップ:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、
を含んでなり、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、ここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなる、請求項63に記載のボツリヌス毒素を形成するための方法。
【請求項65】
SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスには、ボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなるカーゴ部分を結合させる、ボツリヌス毒素を形成するための成分。
【請求項66】
SNAPタンパク質;シンタキシン;またはシナプトブレビンもしくはその相同体に由来するポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、ポリペプチドヘリックスには、ボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるカーゴ部分を結合させる、ボツリヌス毒素を形成するための成分。
【請求項67】
請求項65または66に記載の成分の使用。
【請求項68】
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;およびシナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、ここで、第1のカーゴ部分を第1のヘリックスに結合させ、かつ、第2のカーゴ部分を第2の別個のヘリックスに結合させ、そしてここで、第1のカーゴ部分がボツリヌス毒素の軽鎖またはその機能部およびボツリヌス毒素の重鎖の転座部を含んでなり、かつ、第2のカーゴ部分がボツリヌス毒素の重鎖の受容体結合部を含んでなるキット。
【請求項69】
分子足場を形成するための複合体形成系であって、以下の:
SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス;
シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス;
シナプトブレビンもしくはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックス;および
該ポリペプチドヘリックスに結合させた1もしくは複数のカーゴ部分、
を含んでなり、ここで、4本のポリペプチドヘリックスが安定したSNARE複合体を形成し、かつ、ここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである前記複合体形成系。
【請求項70】
1もしくは複数のカーゴ部分を保有するSNARE複合体を形成する方法であって、以下のステップ:SNAPタンパク質に由来する2本のポリペプチドヘリックス、シンタキシンに由来する1本のポリペプチドヘリックス、およびシナプトブレビンまたはその相同体に由来する1本のポリペプチドヘリックスを一体化させて、安定したSNARE複合体を形成する、を含み、ここで、1もしくは複数のカーゴ部分をポリペプチドヘリックスに結合させ、そしてここで、ポリペプチドヘリックスのうちの少なくとも2本が50アミノ酸未満の長さである前記方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【公表番号】特表2013−501771(P2013−501771A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524293(P2012−524293)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051336
【国際公開番号】WO2011/018665
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051336
【国際公開番号】WO2011/018665
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】
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