説明

複合体材料、複合体材料の製造方法、電極構造体及び蓄電デバイス

【課題】高容量かつサイクル特性の良好な新規なリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタの負極として適用可能な複合体材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する炭化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記炭化金属の少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物である複合体材料およびその製造方法。前記炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物が5重量%以上80重量%以下含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンと炭化金属あるいは窒化金属とからなる複合体材料、その製造方法、該複合体材料を有する電極構造体及び該電極構造体を備えた蓄電デバイスに関する。本発明の複合体材料は、リチウム二次電池やリチウムイオンキャパシタなどの蓄電デバイス用電極材料として用いられうる。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンや携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のポータブル機器の発達、更には電気自動車化等に伴い、これらの機器の電源用途で、小型・軽量で高性能な二次電池の開発が急務となっている。
【0003】
このような小型・軽量で高性能な二次電池としては、充電時の反応で、リチウムイオンを層間から放出するリチウムインターカレーション化合物を正極物質に、リチウムイオンを炭素原子で形成される六員環網状平面の層間にインターカレート出来る黒鉛などに代表されるカーボン材料を負極に用いた、ロッキングチェア−型のいわゆる「リチウムイオン電池」(単に「リチウム二次電池」ともいわれる。本明細書等では「リチウム二次電池」と記載する。)の開発が進み、実用化されて一般的に使用されている。
【0004】
近年、カーボン材料を負極に用いた二次電池よりも高容量の二次電池を開発検討がなされている。シリコンやスズなど、リチウムと合金化する金属を主成分とする材料は、高容量かつ高エネルギー密度でリチウムイオンを吸蔵、脱離することが出来るため、負極材料として有望である。特に、シリコンはその理論容量が約4200mAh/gにも達し、カーボン材料と比較して約10倍大きいことが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの金属材料はカーボン材料に比べてそのサイクル特性が劣るため、完全な実用化には至っていない。
これらのリチウムを吸蔵放出できる金属材料のサイクル特性がカーボン材料と比較して劣る原因は、充放電によるリチウムイオンの挿脱入に伴い、金属材料粒子の体積が大きく変化する為である事が知られている。この体積変化により、金属材料粒子にクラックが入り、粒子が微紛化する。そのため、金属材料粒子同士の接触の低下、更には金属材料粒子が電極から脱離し、内部抵抗の増大と、蓄電容量の低下が起き、結果としてサイクル特性が低下する。
【0006】
上記のサイクル特性の低下という問題を解決することを目的として、炭素材料をマトリクスに用い、シリコンを炭素マトリクス中に分散させた構造体が提案されている。(非特許文献1)。炭素自身はLiを挿入しても大きな体積膨張を示さないこと、軟らかいマトリクスがシリコンの体積変化を吸収すること、から、電極内での機械的歪みを緩和して電極の崩壊を防ぐ効果があると考えられる。
【0007】
更に、シリコン粒子の電極からの脱離を強く防ぐ方法として、一酸化シリコンを800℃以上で焼成したときに起きる一酸化シリコンの不均化反応を利用して、シリカ粒子表面と微細化されたシリコンとからなる電極材料を得る方法も開示されている(特許文献1)。
【0008】
特許文献1によれば、この方法で合成した電極材料は、SiO相がSiと強固に結合し、微細化されたSiを保持するバッファーとして粒子構造を維持するため、良好なサイクル特性を示す、とされている。
【特許文献1】特開2004−119176号公報
【非特許文献1】Journal of Power Sources 125,206,(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の各文献から、為マトリクスにシリコン粒子を分散、固定化することによって、シリコン粒子の体積変化を緩和し、シリコン粒子の微紛化、電極からの脱離が防止され、サイクル特性の向上を図ることができると考えられる。更に、本発明者らはシリコン負極活物質を観察し解析することによって、以下のこともサイクル特性の低下の原因であると推察した。
【0010】
充電時に、シリコン粒子上の電界強度が不均一で強度の大きい部分に、よりリチウムの析出が起こりやすく、シリコン格子内にリチウムの拡散が不均一に起こるために、シリコン粒子の不均一な膨張が起きると考えられる。その結果、シリコン粒子の電極からの脱離、電極材料層の崩壊が進行すると考えられる。
【0011】
そうだとすると、マトリクス中にシリコン粒子を均一に分散させ、かつ、リチウムイオンの挿脱入反応をシリコン粒子表面で均一に進行させることが、シリコン粒子の体積変化を緩和し、シリコン粒子の微紛化、電極からの脱離を防ぎ、サイクル特性を向上するために有効であると考えられる。
【0012】
このような本発明者らの考察を踏まえると、サイクル特性の向上という課題を解決するには、上記各文献の技術では不十分であるといえる。例えば、炭素マトリクスを用いる方法で、仮に、炭素に高分散状態でシリコン粒子を分散したとしても、炭素とシリコン粒子との相互作用は比較的弱いため、シリコン粒子の移動、凝集という現象が容易に生じてしまう。このため、充放電を繰り返す度にリチウムイオンの挿脱入反応がシリコン粒子表面で均一に進行しなくなり、結果としてシリコン粒子が不均一な体積変化を起こし、シリコン粒子の微紛化が起こる。
【0013】
また、特許文献1に記載される構造体では、炭素マトリクスを用いた場合と比較すると分散したシリコン粒子は凝集しにくいが、マトリクスとなっているシリカ自身が充放電時にリチウムイオンと反応し、酸化リチウムを負極中に形成させる要因となる。そのため初回充電効率が小さいという課題が残るとともに、シリカマトリクスの存在比率が大きいと負極全体の容量が低減してしまうという課題も残った。
【0014】
つまり、シリコン粒子がマトリクス内にて高分散状態を保ち、かつマトリクス自身がリチウムイオンと不活性である構造体を作製するという課題は完全には解決してはいない。この課題を解決する手法が確立すれば、金属材料へのリチウムイオンの挿脱入反応が均一に進行し、負極材の体積変化を緩和し、充放電の繰り返しによる容量低下の少ない、高容量のリチウムイオン二次電池を作製することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明は、シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する炭化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記炭化金属の少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物であることを特徴とする複合体材料である。
【0016】
ここで、前記炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物が、5重量%以上80重量%以下含まれることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する窒化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記窒化金属の少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物であることを特徴とする複合体材料である。
【0018】
ここで、前記窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物が、5重量%以上80重量%以下含まれることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明は、以上に挙げた複合体材料と、集電体とを少なくとも有することを特徴とする電極構造体である。
また、本発明は、前記電極構造体と、該電極構造体に対向する電極構造体と、を少なくとも有する蓄電デバイスである。
【0020】
また、本発明は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と炭化シリコンとを反応させることにより炭化シリコンを脱炭素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物を有する炭化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする複合体材料の製造方法である。
【0021】
また、本発明は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と窒化シリコンとを反応させることにより窒化シリコンを脱窒素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物を有する窒化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする複合体材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭化金属層あるいは窒化金属層がシリコン粒子間の凝集を妨げ、充放電時のリチウムの挿脱入反応がシリコン表面で均一に進行し、不均質なシリコンの膨張を抑えることが可能となる。その結果、蓄電デバイスの充放電のサイクル特性が向上する。
【0023】
また、本発明に用いられる炭化金属層あるいは窒化金属層として良導体材料を用いることにより、導電性確保のために必要な、炭素材料に代表される導電補助材の使用を大きく削減することが可能である。従って、負極中の活物質の存在比が高くなり、高容量の電極を作製することが可能となる。
【0024】
さらに、本発明に係る製造方法によれば、炭化金属層あるいは窒化金属層とシリコン粒子との界面にはシリコン酸化物層などの不純物が殆ど存在しないようにすることができる。そのため、初回充電における不可逆容量の元となる酸化リチウムのシリコン表面での生成も起こらず、導電性も良好に保つことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る複合体材料は、シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する炭化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記炭化金属の少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物であることを特徴とする。
【0026】
前記炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物が5重量%以上80重量%以下含まれることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る複合体材料は、シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する窒化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記窒化金属の少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物であることを特徴とする。
【0028】
前記窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物が5重量%以上80重量%以下含まれることが好ましい。
【0029】
本発明に係る電極構造体は、上記の複合体材料と、集電体とを少なくとも有することを特徴とする。
本発明に係る蓄電デバイスは、上記の電極構造体と、該電極構造体に対向する電極構造体と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0030】
本発明に係る複合体材料の製造方法は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と炭化シリコンとを反応させることにより炭化シリコンを脱炭素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物を有する炭化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする。
【0031】
また、本発明に係る複合体材料の製造方法は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と窒化シリコンとを反応させることにより窒化シリコンを脱窒素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物を有する窒化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする。
【0032】
(複合体材料)
本発明に係る複合体材料は、シリコン粒子の表面の少なくとも一部に炭化金属あるいは窒化金属からなる被覆層を有するものである。
【0033】
ここで、被覆層(炭化金属あるいは窒化金属)の少なくとも一部はシリコン粒子の表面と密着している。被覆層は、シリコン粒子の表面のなるべく広い範囲にわたって(たとえば80%以上)存在することが好ましく、シリコン粒子の表面のすべてを被覆層が覆っていることが好ましい。また、被覆層(炭化金属あるいは窒化金属)にシリコン粒子が包摂されている状態となっていることが好ましい。
【0034】
被覆層を構成する炭化金属は一種類であっても複数種類であってもよいが、この炭化金属の中の少なくとも一種は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物である。なお、ここで、「炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物」という概念は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属と、他の金属又は半金属と、の複合炭化物を含む。
【0035】
炭化金属が複数種類存在する場合、そこに含まれる全ての金属は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満であることが好ましい。
【0036】
また、炭化金属が複合炭化物である場合も、そこに含まれる全ての金属は、炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満であることが好ましい。
【0037】
被覆層中には炭化シリコンが含まれていても構わないが、その含有量は少ないほうが好ましい。たとえば、被覆層全体の5重量%以下が好ましい。
以上の点は、炭化金属に代えて窒化金属を被覆層に用いた場合も同様である。
【0038】
すなわち、被覆層を構成する窒化金属は一種類であっても複数種類であってもよいが、この窒化金属の中の少なくとも一種は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物である。なお、ここで、「窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物」という概念は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属と、他の金属又は半金属と、の複合窒化物を含む。
【0039】
窒化金属が複数種類存在する場合、そこに含まれる全ての金属は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満であることが好ましい。
【0040】
また、窒化金属が複合窒化物である場合も、そこに含まれる全ての金属は、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満であることが好ましい。
【0041】
被覆層中には窒化シリコンが含まれていても構わないが、その含有量は少ないほうが好ましい。たとえば、被覆層全体の5重量%以下が好ましい。
なお、炭化金属と窒化金属とからなる被覆層を形成することも可能である。
【0042】
なお、本明細書において、「金属」という場合、その存在状態は問わず、原子状態で存在する場合、イオン状態で存在する場合、分子の一部として存在する場合のすべてを含む。
【0043】
炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の例としては、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、バナジウムを挙げることができるが、これらに限られるものではない。これらの中では、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、バナジウムがより好ましい金属である。
【0044】
また、窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の例としては、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0045】
リチウムイオンの挿脱入による不均一な体積変化及びそれに伴う粒子の微粉化を抑制するという観点からは、前記シリコン粒子の粒径は5μm以下であることが好ましい。また、同様の観点から、前記シリコン粒子の粒径は50nm以下であることがより好ましく、1nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。粒径を10nm以下とすることにより、リチウムイオンのシリコンへの挿脱入による体積変化からもたらされる機械的なストレスによって生じるシリコン原子の再配列を防止し、10nm程度の大きさのドメインの形成を防止することができると考えられるからである。さらに、粒径1nm以上10nm以下の粒子を高分散状態にすることが好ましい。
【0046】
本発明におけるシリコンと炭化金属あるいは窒化金属とからなる複合体材料中に、シリコンは20重量%以上95重量%以下含まれていることが好ましく、50重量%以下95重量%以下含まれていることがより好ましい。
【0047】
本発明におけるシリコンと炭化金属あるいは窒化金属とからなる複合体材料中に、炭化金属は5重量%以上80重量%以下含まれていることが好ましく、5重量%以上50重量%以下含まれていることがより好ましい。
【0048】
シリコンの含有量と炭化シリコン金属あるいは窒化金属の含有量とをこのような範囲にすることにより、シリコンの優れた容量を活かしつつ、シリコン粒子同士の凝集を効果的に抑制することができる。
【0049】
また、被覆層を構成する炭化金属あるいは窒化金属は電気抵抗率の低いものであることが好ましい。より具体的には、抵抗率が、500μΩ・m以下であることが好ましく、200μΩ・m以下であることがさらに好ましい。こういった観点から好ましい例としては、炭化チタン、炭化タンタル、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどを挙げることができる。
【0050】
(複合体材料の製造方法)
本発明に係る粒子と該シリコン粒子少なくとも一部に存在する炭化金属あるいは窒化金属からなる被覆層とを有する複合体材料の製造方法としては、種々の方法が考えられる。
【0051】
そのような方法としては、乳鉢や、ボールミルなどを用いたシリコンと炭化金属あるいは窒化金属の物理的混合などによる製造方法や、シリコンの合金と炭素を混合し、不活性ガス雰囲気にて焼成し、シリコン粒子と炭化金属あるいは窒化金属からなる被覆層とを有する複合体を製造する方法を挙げることができる。同様にシリコン粒子の表面を金属や酸化金属で被覆した後に表面の金属を炭化あるいは窒化する方法も可能である。
【0052】
もっとも、種々の方法の中で、前述したような、シリコンと被覆層(炭化金属あるいは窒化金属)が密着し、被覆層(炭化金属あるいは窒化金属)にシリコンが包接されているような状態を作り出すために好適な方法と考えられるのは、以下に示すような、炭化シリコンの脱炭素化あるいは窒化シリコンの脱窒素化を用いた製造方法である。
【0053】
まず、炭化シリコンあるいは窒化シリコンを用意する。ここで用いる炭化シリコン、窒化シリコンはどのように製造してもよい。一般的には、シリカと炭素を混合し、不活性ガス雰囲気下、1200度以上の高温で焼成することにより、炭化シリコンを製造することができる。また、籾殻などのバイオマスを不活性雰囲気下にて焼成する方法によっても、炭化シリコンは製造することも可能である。なお、炭素粉末と炭化シリコンの複合体の状態の材料も、本発明の製造方法の原料である炭化シリコンとして用いることが可能である。また、窒化シリコンの製造方法としては、金属珪素を、窒素ガスを含む雰囲気下、1000度から1500度の温度で加熱窒化する方法が知られている。
【0054】
前記炭化シリコンあるいは窒化シリコンの形状は塊状でも良いが、処理時間を考えると粉末である事が好ましい。その場合、粒径は50μm以下であることが好ましい。反応後に得られるシリコン粒子のサイズが小さいほうがリチウムイオンのシリコン粒子への挿脱入反応が均一に進行するので、前記炭化シリコンあるいは窒化シリコンの粒径は5μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、炭化シリコンあるいは窒化シリコンとして、シリコン粒子の表面に設けられた炭化シリコン層あるいは窒化シリコン層を用いても良い。例えば、シリコンと高分子材料とを焼成することによって、炭化シリコン層を表面に有するシリコン粒子を得、その炭化シリコン層に後述する脱炭素化反応を施しても良い。
【0056】
炭化シリコンの脱炭素化を用いた製造方法を用いて複合体を製造する方法は、炭化シリコンから炭素を引き抜く反応を用いている。この反応は下の式(1)で表される。
【0057】
【化1】

【0058】
式(1)中の、Mは炭化金属であり、金属Mはその炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応以下である元素を示す。したがってMは炭化シリコンより熱力学的に安定に存在する炭化物である。したがって、炭化シリコンの脱炭素化には炭化反応におけるギブスの自由エネルギーが炭化シリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー以下の値である金属を少なくとも一種類用いる必要がある。
【0059】
代表的な金属Mとしては、前述した炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の例であるアルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、バナジウムなどが挙げられる。
【0060】
式(1)の反応は、炭化シリコンと金属Mが接触した界面より起こり、温度および時間を調節することにより反応が炭化シリコン深部へと進行する。従ってこの工程を行うことにより、シリコン粒子1個を炭化金属によって包接することが可能であり、形成した炭化金属層がシリコン粒子間の凝集を妨げる事が可能となる。
【0061】
炭化シリコンを脱炭素化し炭化金属からなる被覆層を形成する反応は、不活性ガス雰囲気下にて加熱して行うことが好ましい。このとき、炭化シリコンと金属Mとは均一に混合した状態で加熱処理する事が好ましい。
【0062】
この均一な状態の混合物を作成する工程として、粉砕、混合を機械的に行っても良い。例えば、乳鉢、遊星ボールミル、アトライタ、振動ミル、ジェットミル、ビーズミルなどを使用して混合するとよい。炭化シリコンと金属Mとの間の密着性を増すために、混合した試料を加圧し、塊状にしても良い。また、スパッタ法を用いて基板に炭化シリコンおよび金属Mを蒸着させ、それにより均一に混合する方法を使用しても良い。
【0063】
本発明において、不活性ガス雰囲気下にて加熱して炭化シリコンを脱炭素化し、炭化金属で被覆する反応温度は、金属Mが融解する温度以上とすることが好ましい。金属Mを液体にすることにより、炭化シリコンとの密着性を向上させ、炭化シリコンの脱炭素化をより速く進行させることができる。
【0064】
炭化シリコンと金属Mの混合比は、炭化シリコン中の炭素と生成した炭化金属M中の炭素量とが化学量論的に等量以上になるようにすることが好ましい。前記化学量論的に等量を超える炭化金属を加えると、反応をより速く進行させることができる。
【0065】
なお、金属Mに代えて、金属Mを含有する化合物を用いることも可能である。この場合、当該化合物中の元素がシリコンと反応してシリコン化合物を作らないようなものを選択することが望ましい。
【0066】
炭化シリコンを脱炭素化して製造したシリコンと炭化金属とかなる複合体材料中のシリコン/炭化金属の組成比を調節するために、反応後の試料を化学的に洗浄し、炭化金属を溶脱する処理を行っても良い。洗浄用の溶媒には水、塩酸水溶液などが好適に用いられる。
【0067】
また、同様にして、洗浄により、不純物である未反応の金属をシリコンと炭化金属とからなる複合体材料中から取り除く処理を行っても良い。
窒化シリコンの脱炭素化を用いた製造方法を用いて複合体を製造する方法は、窒化シリコンから窒素を引き抜く反応を用いている。この反応は下の式(2)で表される。
【0068】
【化2】

【0069】
式(2)中の、Mは窒化金属であり、金属Mはその窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応以下である元素を示す。したがってMは窒化シリコンより熱力学的に安定に存在する窒化物である。したがって、窒化シリコンの脱窒素化には窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー以下の値である金属を少なくとも一種類用いる必要がある。
【0070】
代表的な金属Mとしては、前述した窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の例であるアルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブなどが挙げられる。
【0071】
式(2)の反応は、窒化シリコンと金属Mが接触した界面より起こり、温度および時間を調節することにより反応が窒化シリコン深部へと進行する。従ってこの工程を行うことにより、シリコン粒子1個を窒化金属によって包接することが可能であり、形成した窒化金属層がシリコン粒子間の凝集を妨げる事が可能となる。
【0072】
窒化シリコンを脱窒素化し窒化金属からなる被覆層を形成する反応は、不活性ガス雰囲気下にて加熱して行うことが好ましい。このとき、窒化シリコンと金属Mとは均一に混合した状態で加熱処理する事が好ましい。
【0073】
この均一な状態の混合物を作成する工程として、粉砕、混合を機械的に行っても良い。例えば、乳鉢、遊星ボールミル、アトライタ、振動ミル、ジェットミル、ビーズミルなどを使用して混合するとよい。窒化シリコンと金属Mとの間の密着性を増すために、混合した試料を加圧し、塊状にしても良い。また、スパッタ法を用いて基板に窒化シリコンおよび金属Mを蒸着させ、それにより均一に混合する方法を使用しても良い。
【0074】
本発明において、不活性ガス雰囲気下にて加熱して窒化シリコンを脱窒素化し、窒化金属で被覆する反応温度は、金属Mが融解する温度以上とすることが好ましい。金属Mを液体にすることにより、窒化シリコンとの密着性を向上させ、窒化シリコンの脱炭素化をより速く進行させることができる。
【0075】
窒化シリコンと金属Mの混合比は、窒化シリコン中の窒素と生成した窒化金属M中の窒素量とが化学量論的に等量以上になるようにすることが好ましい。前記化学量論的に等量を超える窒化金属を加えると、反応をより速く進行させることができる。
【0076】
なお、金属Mに代えて、金属Mを含有する化合物を用いることも可能である。この場合、当該化合物中の元素がシリコンと反応してシリコン化合物を作らないようなものを選択することが望ましい。
【0077】
窒化シリコンを脱窒素化して製造したシリコンと窒化金属とかなる複合体材料中のシリコン/窒化金属の組成比を調節するために、反応後の試料を化学的に洗浄し、窒化金属を溶脱する処理を行っても良い。洗浄用の溶媒には水、塩酸水溶液などが好適に用いられる。
【0078】
また、同様にして、洗浄により、不純物である未反応の金属をシリコンと窒化金属とからなる複合体材料中から取り除く処理を行っても良い。
【0079】
(電極構造体)
本発明に係る電極構造体は、集電体と電気化学反応でリチウムイオンを貯蔵・放出可能な活物質からなる材料を有するから形成される電極材料層とからなる電極構造体において、該活物質からなる材料が上記の複合体材料であることを特徴とする。
【0080】
なお、厳密にいえば、複合体材料中のシリコン粒子部分が活物質である。
前記電極材料層が複合体材料と結着剤から成ることが好ましい。
前記電極材料層が複合体材料と導電補助剤と結着剤から成ることが好ましい。
【0081】
集電体からの電極材料層の剥離を防止するという観点からは、リチウムイオン挿入時の膨張を小さくすることが好ましく、そのためには、電極材料層の密度は3.0g/cm以下であることが好ましい。また、充放電効率の向上、電池の放電時の電圧降下の抑制をするという観点からは、電極材料層の抵抗を小さくすることが好ましく、そのためには、電極材料層の密度は0.5g/cm以上とすることが好ましい。
前記電極材料層の厚さは、1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0082】
(電極構造体の製造方法)
本発明の電極構造体(たとえば、蓄電デバイスの負極に用いる電極構造体)は、以下の手順で作製する。
【0083】
(1)本発明の複合体材料に、導電補助材粉末、結着剤を混合し、適宜、結着剤の溶媒を添加し、混練して、スラリーを調製する。
(2)前記スラリーを集電体上に塗布し電極材料層(活物質層)を形成し、乾燥し、電極構造体を形成する。さらに必要に応じて、100から300℃の範囲で減圧乾燥し、プレス機で電極材料層の密度と厚みを調整する。
【0084】
(3)上記(2)で得られた電極構造体を、蓄電デバイスのハウジングにあわせて適宜切断して、電極形状を整え、必要に応じて、電流取り出しの電極タブを溶接して、負極を作製する。
【0085】
上記(2)の塗布方法としては、例えば、コーター塗布方法、スクリーン印刷法が適用できる。また、溶剤を添加することなく、上記活物質の粉末材料と導電補助材、結着剤とを集電体上に加圧成形して電極材料層を形成することも可能である。
【0086】
電極材料層(活物質層)中の導電補助材としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの非晶質炭素,黒鉛構造炭素,カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのカーボン材料、ニッケル、銅、銀、チタン、白金、コバルト、鉄、クロムなどを用いることができる。上記カーボン材料は、電解液を保持でき、比表面積も大きいことことから、より好ましい。上記導電補助材の形状として、好ましくは、球状、フレーク状、フィラメント状、繊維状、スパイク状、針状などから選択される形状を採用することができる。さらに、異なる二種類以上の形状の粉末を採用することにより、電極材料層形成時のパッキング密度を上げて電極構造体のインピーダンスを低減することができる。上記導電補助材としての平均粒子(二次粒子)サイズは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0087】
本発明の負極の集電体は、充電時の電極反応で消費する電流を効率よく供給する、あるいは放電時の発生する電流を集電する役目を担っている。特に電極構造体を二次電池やキャパシタなどの蓄電デバイスの負極に適用する場合、集電体を形成する材料としては、電気伝導度が高く、且つ、蓄電デバイスの電極反応に不活性な材質が望ましい。好ましい材質としては、銅,ニッケル,鉄,ステンレススチール,チタン,白金,アルミニウムから選択される一種類以上の金属材料から成るものが挙げられる。より好ましい材料としては、安価で電気抵抗の低い銅が挙げられる。また、比表面積を高めたアルミニウム箔も用いることができる。集電体の形状は、一般的には板状であるが、この“板状”とは、厚みについては実用の範囲上特に限定されるものではなく、厚み約5μmから100μm程度の“箔”といわれる形態をも包含する。また、板状であって、例えばメッシュ状、スポンジ状、繊維状をなす部材、パンチングメタル、表裏両面に三次元の凹凸パターンが形成されたメタル、エキスパンドメタル等を採用することもできる。上記三次元の凹凸パターンが形成された板状あるいは箔状金属は、例えば、マイクロアレイパターンあるいはラインアンドスペースパターンを表面に設けた金属製もしくはセラミック製のロールに圧力をかけて、板状あるいは箔状の金属に転写することで、作製できる。特に、三次元の凹凸パターンが形成された集電体を採用した蓄電デバイスは、充放電時の電極面積あたりの実質的な電流密度の低減、電極層との密着性の向上、機械的強度の向上といった利点があり、その結果、充放電の電流特性の向上と充放電サイクル寿命の向上という効果がある。
【0088】
負極の活物質層中の結着剤の材料としては、ポリ四フッ化エチレン,ポリフッ化ビリニデン等のフッ素樹脂,ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリイミド前駆体(ポリイミド化前のポリアミック酸、あるいはポリイミド化が不完全なもの)、スチレン−ブタジエンラバー、吸水性を低減した変性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリレート系樹脂−カルボキシメチルセルロース等の有機高分子材料が挙げられる。ポリイミド前駆体(ポリイミド化前のポリアミック酸、あるいはポリイミド化が不完全なもの)を用いる場合は、電極層の塗工後に熱処理を150から300℃の範囲で施してポリイミド化を進行させるがよい。
【0089】
充放電の繰り返しでも活物質の結着を維持し、より大きな電気量を蓄える負極の性能を発揮する上で、電極材料層中の上記結着剤の含有量は、2から20重量%が好ましく、5から10重量%がより好ましい。
【0090】
なお、本発明の電極構造体を適用し得る蓄電デバイスの例としては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタを挙げることができる。その場合、本発明の電極構造体を、それに対向する電極(対極)との間に、高分子電解質膜などからなるセパレータを挟んだような蓄電デバイスとすることができる。本発明の電極構造体を用いた蓄電デバイスの製造方法としては、公知の種々の方法を採用することができる。
【実施例】
【0091】
以下、脱炭素反応を用いた本発明の好適な実施例を挙げて、より具体的に説明する。
実施例1
本発明に係るシリコンと炭化アルミニウムとからなる複合体材料の合成の実施例を説明する。
【0092】
炭化シリコン(アルドリッチ社製、粒径100nm以下)とアルミニウム(高純度化学社製、粒径3μm)を炭化シリコン:アルミニウムのモル比が3:4になるように重量を調整し、これらを混合した粉末を遊星ボールミルにて混合、粉砕する。ボールミルの容器及びボールはジルコニア製のものを用い、500rpm、アルゴン雰囲気の条件下で、1時間混合を行う。得た粉末を錠剤成型器にて加圧して、ペレットを作成する。作成したペレットを管状炉に入れ、ヘリウム雰囲気下で800度、一時間焼成を行う。焼成後の生成物を電気炉から取り出し、遊星ボールミルにて生成物の粉砕を行い、粉末状の試料を得る。
得られた生成物のX線回折分析を行い、シリコン及び炭化アルミニウムの生成を確認する。また、SEM−EDXにより原子分布をマッピングし、シリコン及びアルミニウムの分布がサブミクロンオーダーで均一であることを確認する。さらに、XPS分析を行い、シリコンに起因するピークが殆ど観察されないことを確認する。それにより、生成物表面は少なくとも10nm以上の厚みで炭化アルミニウムにより被覆されていること(すなわち、本発明の複合体材料が得られていること)を確認する。
【0093】
実施例2
実施例1で得たシリコンと炭化アルミニウムとからなる複合体材料を結着剤及び導電補助材と共に集電体に集積し、蓄電材料用電極を作成する例を説明する。
【0094】
前記シリコンと炭化アルミニウムとからなる複合体材料、人造黒鉛、アセチレンブラックを質量比で60:30:2で混合し、遊星ボールミルにて300rpm、30分間混合する。次いで、バインダーとしてポリアミドイミドを全体の質量比で8%添加し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを添加して、遊星ボールミルで300rpm、10分間混合し、電極活物質層を形成するためのスラリーを調製する。得られたスラリーを、アプリケーターを用いて、厚み10μmの銅箔上に、塗布した後、110℃で1時間乾燥の上、さらに減圧下150℃で乾燥して、銅箔の集電体上に厚みが約20μmで密度が約1.6g/cmの電極活物質層を形成した電極構造体を得る。
【0095】
<セルの評価>
上記実施例2で作成した電極構造体(以下、単に「電極」という)を用い、二極式セルを組み立て、電極の評価を行う。各電極は150℃減圧条件下にて乾燥し、露点−60度以下のドライエリアでセルの組み立てを行う。対極には金属リチウムを用い、セパレータとして厚み17μmで気孔率40%のミクロポア構造のポリエチレンフィルムを挟み、ポリエチレン/アルミニウム箔/ナイロン構造のアルミラミネートフィルムをポケット状にした電槽に、電極(作用極)/セパレータ/リチウム極(対極)を挿入し、電解液を滴下し、上記電槽からリードを出した状態で、電槽の開口部分のラミネートフィルムを熱溶着して、評価セルを作製する。なお、上記電解液には、十分に水分を除去したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを、体積比3:7で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム塩(LiPF)を1M(モル/リットル)溶解して得られた溶液を使用した電解液に1mol/dm過塩素酸リチウムプロピレンカーボネート溶液を用いる。このようにして作成したセルの充放電試験を行う。充電電流密度は、活物質の単位重量あたりで50mA/gに固定し、放電電流密度は50mA/gで測定を行う。
【0096】
電気化学的なリチウムの挿入量は、上記作製したセルのリチウム極を負極に、作製した各作用極を正極として、セルの電圧がゼロボルト(0V)になるまで、放電させることによって、評価する。すなわち、放電した電気量をリチウムが挿入するのに利用された電気量とする。
【0097】
作製した電極におけるリチウム挿入量とリチウム脱離量は、作用極の電極活物質層重量当たりの電気量(mAh/g)として求め、、初回充放電による不可逆容量を算出する。更に、10回充放電を繰り返した後の容量を測定する。10回充放電を繰り返した後の容量を二回目時の容量と比較して、サイクル劣化を抑制することができたことを確認する。
【0098】
実施例3
本発明に係るシリコンと炭化チタンとからなる複合体材料の合成の実施例を説明する。
炭化シリコン(アルドリッチ社製、粒径100nm以下)とチタン(高純度化学社製、粒径38μm以下)を炭化シリコン:チタンのモル比が1:1になるように重量を調整し、これらを混合した粉末を遊星ボールミルにて混合、粉砕する。ボールミルの容器及びボールはジルコニア製のものを用い、500rpm、アルゴン雰囲気の条件下で、4時間混合を行う。得た粉末を錠剤成型器にて加圧して、ペレットを作成する。作成したペレットを黒鉛坩堝に入れ、ヘリウム雰囲気下で1800度、一時間焼成を行う。焼成後の生成物を電気炉から取り出し、遊星ボールミルにて生成物の粉砕を行い、粉末状の試料を得る。
【0099】
得られた生成物のX線回折分析を行い、シリコン及び炭化チタンの生成を確認する。また、SEM−EDXにより元素分布をマッピングし、シリコン及びチタンの分布がサブミクロンオーダーで均一であることを確認する。さらに、XPS分析を行い、シリコンに起因するピークが殆ど観察されないことを確認する。それにより、生成物表面は少なくとも10nm以上の厚みで炭化チタンにより被覆されていること(すなわち、本発明の複合体材料が得られていること)を確認する。
【0100】
実施例4
実施例3で得たシリコンと炭化チタンとからなる複合体材料を結着剤及び導電補助材と共に集電体に集積し、蓄電材料用電極を作成する例を説明する。
【0101】
前記シリコンと炭化チタンとからなる複合体材料およびアセチレンブラックを用いた点を除いて、実施例2と同様にして電極構造体を作成する。得られる電極構造体は、銅箔の集電体上に厚みが約20μmで密度が約1.8g/cmの電極活物質層を形成した電極構造体である。
【0102】
<セルの評価>
上記実施例4で作成した電極構造体(電極)を用い、二極式セルを組み立て電極の評価を行う。セルの組み立て方法および、電極の評価方法は実施例1と同様の手法にて行う。それにより、サイクル劣化を抑制することができたことを確認する。
【0103】
比較例1
本発明に係るシリコンと炭化チタンとからなる複合体材料と比較すべき比較例として、シリコンと炭化チタンの混合物を合成し、生成物を活物質とした電極の評価を行う。
【0104】
シリコンと炭化チタンの混合物の合成例を以下に説明する。
シリコン(高純度化学社製)をビーズミルで粉砕し、平均粒径200nmとした試料と、炭化チタン(高純度化学社製、粒径2−5μm)をシリコン:炭化チタンのモル比が1:1になるように重量を調整し、これらを混合した粉末を遊星ボールミルにて混合、粉砕する。ボールミルの容器及びボールはジルコニア製のものを用い、500rpm、アルゴン雰囲気の条件下で、4時間混合を行う。
【0105】
得られた生成物のX線回折分析を行い、シリコン及び炭化チタンの生成を確認する。また、SEM−EDXにより元素分布をマッピングした結果、シリコン及びチタンの分布はサブミクロンオーダーでは均一であることを確認する。XPS分析を行い、シリコン及びチタンに起因するピークが観察する。それにより、実施例3の負極材と比較してシリコン表面の表面が炭化チタンで被覆されている割合とはいえず、生成物はシリコンと炭化チタンの単純な混合物であることを確認する。
【0106】
このようにして得たシリコンと炭化チタンの混合物を結着剤及び導電補助材と共に集電体に集積し、蓄電材料用電極を作成する合成例を説明する。
このようにして得た前記シリコンと炭化チタンの混合物を用いた点を除いて、実施例4と同様にして電極構造体を作成する。
【0107】
<セルの評価>
上記比較例1で作成した電極を用い、二極式セルを組み立て電極の評価を行う。セルの組み立て方法および、電極の評価方法は実施例1と同様の手法にて行う。それにより、サイクル劣化の抑制が不十分であることを確認する。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る複合体材料は、高容量かつサイクル特性の良好な新規なリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタの負極として適用可能な材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する炭化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記炭化金属の少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物であることを特徴とする複合体材料。
【請求項2】
前記炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物が5重量%以上80重量%以下含まれることを特徴とする請求項1に記載の複合体材料。
【請求項3】
シリコン粒子と該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在する窒化金属からなる被覆層とを有する複合体であって、前記窒化金属の少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物であることを特徴とする複合体材料。
【請求項4】
前記窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物が5重量%以上80重量%以下含まれることを特徴とする請求項3に記載の複合体材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の複合体材料と、集電体とを少なくとも有することを特徴とする電極構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の電極構造体と、該電極構造体に対向する電極構造体と、を少なくとも有することを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項7】
炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と炭化シリコンとを反応させることにより炭化シリコンを脱炭素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が炭化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの炭化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の炭化物を有する炭化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする複合体材料の製造方法。
【請求項8】
窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属又は該金属を含有する化合物と窒化シリコンとを反応させることにより窒化シリコンを脱窒素化して、シリコン粒子と、該シリコン粒子の表面の少なくとも一部に存在し少なくとも一種が窒化反応におけるギブスの自由エネルギーがシリコンの窒化反応におけるギブスの自由エネルギー未満である金属の窒化物を有する窒化金属からなる被覆層と、を有する複合体を形成することを特徴とする複合体材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−149462(P2009−149462A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327895(P2007−327895)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】