説明

複合光学素子の製造方法

【課題】樹脂層の偏肉を小さくして内部応力の小さいヒケのない複合光学素子を提供する。
【解決手段】複合光学素子の製造方法は、基材レンズに第1の紫外線硬化型樹脂11を吐出する第1の吐出工程と、第1の紫外線硬化型樹脂11に紫外線200を照射し硬化させる第1の照射工程と、硬化した第1の紫外線硬化型樹脂11の表面にさらに第2の紫外線硬化型樹脂12を吐出する第2の吐出工程と、金型15を第2の紫外線硬化型樹脂12に近接しこれを拡げる引き延ばし工程と、拡げた第2の紫外線硬化型樹脂12に紫外線200を照射し硬化させる第2の照射工程とを有する。そして、第1の照射工程は、第1の紫外線硬化型樹脂11が吐出された基材レンズを所定の周速度で回転させながら行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子基材とエネルギー硬化型樹脂とが界面で接合されて形成される複合光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスなどの基材レンズにエネルギー硬化型樹脂などの樹脂層を形成して、加工が困難な非球面レンズ(複合光学素子)を成形する製造方法が公知である。
例えば特許文献1には、金型の成形面に必要量のエネルギー硬化型樹脂を吐出し、この吐出した樹脂に基材レンズを近接させて樹脂を拡げ、所望の樹脂厚となった時点で近接を停止して樹脂を硬化させ、金型から離型するという技術が開示されている。
【0003】
ここで、必要量のエネルギー硬化型樹脂とは、吐出した樹脂に基材レンズを近接させて所望の樹脂厚となった時点で、エネルギー硬化型樹脂の外径が光学有効径以上になるのに必要な樹脂量のことである。
【0004】
しかし、複合光学素子は一般に非球面レンズである。このため、複合光学素子の樹脂層は均肉ではなく、光軸の中心から周辺に行くに従い肉厚が変化する(以下、「偏肉」という)。この偏肉により、以下のような問題が生じる。
【0005】
この偏肉は、金型の成形面と基材レンズとの間に樹脂が介在している硬化前の状態においても生じている。この状態で、エネルギーを照射し樹脂を硬化させると、樹脂層の厚い部分と薄い部分の硬化収縮量が異なり、その差が硬化後の樹脂層の内部応力となる。この内部応力が、成形面の転写精度の低下や温度耐久性の低下などを引き起こす。
【0006】
これを抑えるには、偏肉を小さくしなければならないため、設計の自由度が制限されてしまう。
これを解決すべく、例えば特許文献2及び特許文献3に記載の技術が提案されている。
【0007】
特許文献2では、基材レンズの樹脂層形成面の形状を、樹脂層の所望形状と同一又は近似の形状とする技術である。
また、特許文献3では、金型に樹脂を吐出し硬化させて第1の樹脂層を形成し、その後、第2の樹脂層を介して第1の樹脂層と基材レンズを複合化する技術である。
【0008】
具体的には、図7Aに示すように、金型115に形成されたキャビティ116に該キャビティ116と略同体積の樹脂を充填し、これを硬化させて第1の樹脂層111を形成する。次いで、この第1の樹脂層111に同材質の樹脂を少量滴下し(第2の樹脂層112)、その上に基材レンズ110を載置して硬化させていた。
【特許文献1】特開昭63−95912号公報
【特許文献2】特開昭63−157103号公報
【特許文献3】特開平 6−254868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2では、所望の樹脂形状と近似の形状を有する基材レンズを用いることで、偏肉を小さくすることが可能である。しかしながら、光学性能に影響を及ぼす基材レンズと樹脂の界面の形状を自由に選択することができない。このため、設計の自由度が制限されるという課題があった。
【0010】
また、特許文献3では、金型115と接していない側の第1の樹脂層111のA面は、大気開放されているためほぼ平面となる。従って、第2の樹脂層112を均肉にするためには、基材レンズ110の第2の樹脂層112との接触面をほぼ平面又は曲率半径の大きな曲面にしなければならない。しかし、これでは基材レンズ110の設計の自由度が制限されてしまう。
【0011】
そこで、図7Bに示すように、基材レンズ110の設計の自由度を大きくすべく、キャビティ116と略同体積ではない第1の樹脂層111を形成したとする。すると、第1の樹脂層111は破線部のようになり、中心樹脂厚は薄くなる。しかし、第2の樹脂層112の偏肉が大きくなり、内部応力が大きくなってしまう。
【0012】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、樹脂層の偏肉を小さくして内部応力の小さいヒケのない複合光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明は、
光学素子基材又は金型に第1の樹脂を吐出する第1の吐出工程と、
前記第1の樹脂に硬化エネルギーを照射し硬化させる第1の照射工程と、
硬化した前記第1の樹脂の表面にさらに第2の樹脂を吐出する第2の吐出工程と、
前記光学素子基材又は前記金型を前記第2の樹脂に近接し該第2の樹脂を拡げる引き延ばし工程と、
拡げた前記第2の樹脂に硬化エネルギーを照射し硬化させる第2の照射工程と、を有し、
前記第1の照射工程は、前記第1の樹脂が吐出された前記光学素子基材又は前記金型を所定の周速度で回転させながら又は回転させた後に行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記第1の照射工程後の前記第1の樹脂の中心樹脂厚をt
前記光学素子基材を除く成形後の前記第1及び第2の樹脂の中心樹脂厚をt
としたときに
>t≧t/2
の関係を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記第1の照射工程は、前記第1の樹脂が吐出された前記光学素子基材又は前記金型を回転させる周速度を変えて行うことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記の複合光学素子の製造方法において、
前記第1及び第2の樹脂は紫外線硬化型樹脂からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂層の偏肉を小さくして内部応力の小さいヒケのない複合光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1A〜図1Eは、第1の実施形態の複合光学素子1の製造工程を示している。
【0019】
図1Aは、光学素子基材としての基材レンズ10の断面を示している。
この基材レンズ10は、ガラス(硝材 BSL7 (株)オハラ製)で構成されている。この基材レンズ10は、光学機能面10aと光学機能面10bとを有する両凹レンズ形状をなしている。光学機能面10a、10bは凹状の球面又は非球面をなしている。
【0020】
また、基材レンズ10は、外径D=20mm、光学機能面10aの近似曲率半径ρ=25mm、光学機能面10bの近似曲率半径ρ=38mm、光学有効径D=15mm、中心Oを通る中心肉厚t=1mmである。
【0021】
なお、基材レンズ10は、例えば対向配置された不図示の金型内にガラス素材を配置して加圧成形し、冷却することで得られる。また、圧縮成形以外にも、切削加工や研磨加工等により得ることができる。また、ガラス素材の代わりに透明な合成樹脂を用いて、射出成形により得ることもできる。
【0022】
本実施形態では、図1Bに示すように、基材レンズ10(光学機能面10a)に、第1の樹脂としての微量の未硬化の紫外線硬化型樹脂11を吐出する(第1の吐出工程)。なお、基材レンズ10に紫外線硬化型樹脂11を吐出するのは、樹脂が流れないように凹面に吐出するためである。従って、後述するように(図5A参照)、基材レンズが凸面の場合は金型に紫外線硬化型樹脂11を吐出する。
【0023】
基材レンズ10への紫外線硬化型樹脂11の吐出重量WはW≒38mgとした。
次に、図1Cに示すように、樹脂が吐出された基材レンズ10を、その光軸の中心Oを回転軸として2回転/secの速度(120rpm)で回転させる。これにより、未硬化の紫外線硬化型樹脂11に遠心力が作用し、紫外線硬化型樹脂11は吐出時の径よりも大きく拡げられる。これと同時に、吐出された紫外線硬化型樹脂11は、空気との接触面側は凹面に形成される。
【0024】
そして、基材レンズ10を回転させながら、基材レンズ10を通して紫外線ランプ14により硬化エネルギーとしての紫外線100を照射する(第1の照射工程)。すなわち、光学機能面10aと反対側の光学機能面10b側から紫外線100を照射する。なお、光学機能面10a側から紫外線100を照射してもよい。こうして、吐出された紫外線硬化型樹脂11を硬化させる。
【0025】
このときの硬化条件は、紫外線照度LがL=20±2mW/cmの略均一な照度分布をもつ紫外線を8秒間照射した。
照射後の紫外線硬化型樹脂11は、ほぼ硬化収縮を完了し、中心の樹脂厚tがt≒0.4mmとなっている。また、固化した状態で空気に触れている面は酸素による硬化阻害で未硬化樹脂が薄膜状に残っている。
【0026】
すなわち、紫外線硬化型樹脂11は、基材レンズ10を回転させながら紫外線100を照射することで硬化する。この場合、紫外線硬化型樹脂11の基材レンズ10と接触していない側の面は、遠心力で凹面となる。
【0027】
さらに、この紫外線硬化型樹脂11の硬化収縮は、基材レンズ10と接触していない側の面は拘束されていないため自由収縮する。こうして、紫外線硬化型樹脂11は、硬化後の樹脂内部の応力が非常に小さい状態で硬化することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、略均一な照度分布を有する紫外線を照射した場合について説明したが、必ずしも均一な照度分布である必要はない。例えば、紫外線硬化型樹脂11の厚い部分と薄い部分とを同じような硬化速度にするために、紫外線100の周辺照度を下げてもよい。また、紫外線照度Lも前述した値に限定するものではない。
【0029】
次に、図1Dに示すように、硬化した紫外線硬化型樹脂11の凹状の表面に、第2の樹脂としての紫外線硬化型樹脂12を吐出する(第2の吐出工程)。なお、紫外線硬化型樹脂11が完全に硬化するまで待つ必要はなく、形状が維持できる程度に硬化した時点で第2の吐出を行えばよい。また、紫外線硬化型樹脂11と紫外線硬化型樹脂12とは同一の材質を用いている。
【0030】
このときの紫外線硬化型樹脂12の吐出量は、最終的に必要な樹脂量(略98mg)から第1の吐出工程で塗布した量(略38mg)を引いた量である。本実施形態では、重量Wは、W≒60mgとした。
【0031】
次に、図1Eに示すように、この第2の吐出工程の後、所望の光学面形状を成形面15aとして有する金型15を、光学機能面10a側から基材レンズ10に近接させる。このときの成形面15aの光学面形状は、凸形状で近似曲率半径がρ=45mmの非球面形状である。この状態で、金型15の成形面15aの中心と基材レンズ10の光軸の中心Oを一致させつつ、金型15を光軸方向と略平行に近接させる。
【0032】
こうして、成形面15aを押圧して第2の吐出工程で塗布した紫外線硬化型樹脂12を拡げて引き延ばす。そして、紫外線硬化型樹脂11、12を加えた樹脂層の中心樹脂厚tが所望の樹脂厚となったところで金型15の押圧を停止する。本実施形態では、中心樹脂厚tはt=0,8mmである。
【0033】
その後、光学機能面10b側から基材レンズ10を通して紫外線ランプ24により硬化エネルギーとしての紫外線200を照射する(第2の照射工程)。これにより、紫外線硬化型樹脂12を硬化させる。
【0034】
この第2の照射工程では、紫外線照度LがL=が20±2mW/cmのほぼ均一な照度分布をもつ紫外線を20秒間照射した。その後、紫外線照度LがL=が100±5mW/cmのほぼ均一な照度分布をもつ紫外線を90秒間照射した。
【0035】
このとき、第2の照射工程で硬化すべき樹脂層(紫外線硬化型樹脂12)は、第1の照射工程で硬化した樹脂層(紫外線硬化型樹脂11)があるため、紫外線硬化型樹脂12の樹脂厚分布は均肉に近くなっている。このため、樹脂厚差(偏肉)による硬化収縮量の差が小さくなり、樹脂の内部応力が小さくなるという利点を有している。
【0036】
本実施形態では、第1吐出で基材レンズ10に吐出された紫外線硬化型樹脂11は、基材レンズ10を回転させながら、第1照射により、吐出された紫外線硬化型樹脂11は硬化するが、第1照射により得られた樹脂層の基材レンズ10と接触していない側の面は、回転しながら硬化したことにより遠心力で凹面となる。更に、この際発生する紫外線硬化型樹脂11の硬化収縮は、基材レンズ10との接触面と反対側が拘束されていないため自由収縮し、硬化後の樹脂内部の応力が非常に小さい状態で硬化することができた。
【0037】
そして、第1吐出で基材レンズ10に吐出された紫外線硬化型樹脂11の樹脂量と、基材レンズ10を回転させる周速度は、第1照射によって硬化された紫外線硬化型樹脂11の中心部の厚さtが、最終的に複合光学素子として必要な樹脂厚tの1/2と概ね等しくなるように設定されている。
【0038】
その後、第2吐出によって必要量の樹脂を吐出し、所望面形状を有する金型15により、第2吐出で塗布された紫外線硬化型樹脂12を、所望樹脂厚tになるまで押し延ばし、第2照射により硬化させた。
【0039】
第2照射で硬化すべき紫外線硬化型樹脂12は、第1照射にて硬化した紫外線硬化型樹脂11があるため、その樹脂厚分布は均肉に近くなっている。このため、樹脂厚差による硬化収縮量の差が小さくなり、紫外線硬化型樹脂12の内部応力が小さくなる。
【0040】
さらに、第1の照射工程後の紫外線硬化型樹脂11の中心樹脂厚をt、基材レンズ10を除く成形後の紫外線硬化型樹脂11、12の中心樹脂厚をt、としたときに
>t≧t/2
の関係を有するときに、樹脂の内部応力がより小さくなることがわかった。
【0041】
さらに、図1Fに示すように、第2の照射工程の後、金型15から基材レンズ10及び樹脂層17(紫外線硬化型樹脂11+紫外線硬化型樹脂12)を離型し、複合光学素子1を得た。
【0042】
なお、本実施形態では、第1の照射工程は、紫外線硬化型樹脂11が吐出された基材レンズ10を所定の周速度で回転させながら行う場合について説明したが、これに限らない。例えば、第1の照射工程を、基材レンズ10を所定の周速度で回転させた後に行ってもよい。すなわち、基材レンズ10を所定の周速度で回転させた後に停止させ、吐出された紫外線硬化型樹脂11が凹面に形成されているうちに(形状が元に戻る前に)、第1の照射を行ってもよい。
【0043】
図2は、成形された複合光学素子1の樹脂厚分布を示している。
本実施形態の複合光学素子1は、中心樹脂厚tがt=0.8mm、有効径部の樹脂厚t(図2参照)がt≒0.2mmである。このように、所望の複合光学素子1における樹脂厚分布は、偏肉が極めて大きく、急激な樹脂厚変化があることがわかる。
【0044】
これを、例えば従来の製造方法で成形したとすると、中心樹脂厚(0.8mm)と周辺樹脂厚(0.2mm)との差が大きいため、硬化中に樹脂層17が金型15から剥離するいわゆるヒケが中心付近に発生してしまう。
【0045】
本実施形態では、基材レンズ10の光学機能面10aに吐出された紫外線硬化型樹脂11を回転させながら硬化させているため、この硬化した紫外線硬化型樹脂11が凹面形状となっている。これにより、紫外線硬化型樹脂12の樹脂層分布は、より均一な厚さとすることができる。
【0046】
また、本実施形態において、第1の照射工程での回転数は、樹脂の粘度や基材レンズ10の形状によって適正な回転数が異なる。また、このときの回転数を、紫外線硬化型樹脂11の硬化後の表面の凹形状が、紫外線硬化型樹脂12の樹脂厚分布がより均一になるように設定するものであるため、回転数は前述した速度に限定されない。
【0047】
そして、少なくとも、紫外線硬化型樹脂11の硬化後の厚さtが、所望の複合光学素子1の樹脂層の厚さtに対し、t>t≧t/2となるような回転数と、第1の吐出工程で吐出する紫外線硬化型樹脂11の樹脂量とを選択すればよい。
【0048】
本実施形態によれば、樹脂層17(図1F参照)の偏肉が大きくても、内部応力の非常に小さい樹脂層を得ることができるとともに、金型成形面の転写精度や温度耐久性の良好な複合光学素子1を得ることができる。
[第2の実施の形態]
図3A及び図3Bは、第2の実施の形態の複合光学素子の製造方法を示している。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0049】
本実施形態では、基材レンズ10を回転させながら紫外線100による第1照射を行う工程において、基材レンズ10の回転数を変化させる点が第1の実施の形態と相違している。
【0050】
具体的には、前述した図1Cにおいて、基材レンズ10をその光軸の中心Oを回転軸として2.5回転/secの速度(150rpm)で3sec間回転させる。その後、紫外線100の第1照射時に、基材レンズ10の回転数を2回転/secの速度(120rpm)に下げる。また、回転数を下げた状態で光学機能面10b側から基材レンズ10を通して紫外線100を照射する。
【0051】
すなわち、本実施形態では、紫外線100の第1照射時に基材レンズ10の回転数を遅くした点に特徴を有する。
図3Aに示すように、通常、基材レンズ10に紫外線硬化型樹脂11を吐出した状態では、その紫外線硬化型樹脂11の最外周部は基材レンズ10に対して接触角θを有している。
【0052】
この接触角θは、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11とのヌレ性により、紫外線硬化型樹脂11の最外周部の輪郭に引いた接線と基材レンズ10との間に生じる角度である。この状態は、基材レンズ10の回転中における紫外線硬化型樹脂11の最外周部においても同様である。
【0053】
すなわち、接触角θを有した状態で、紫外線硬化型樹脂11に紫外線100を照射(第1照射)して硬化させた後に、さらに紫外線硬化型樹脂12を第2吐出したとする。すると、基材レンズ10と紫外線硬化型樹脂11の最外周部との間にエアポケット18が生じてしまう。
【0054】
そして、この接触角θを有する紫外線硬化型樹脂11の最外周部の上から紫外線硬化型樹脂12が広がる際に、前述したエアポケット18を気泡として巻き込みやすくなる。
この気泡は、光学素子の外観上も性能上も問題となる。
【0055】
本実施形態では、紫外線100の第1照射時に基材レンズ10の回転数を遅くすることで、吐出された紫外線硬化型樹脂11の遠心力が低下する。これにより、紫外線硬化型樹脂11は光軸の中心O側に移動しようとする。このとき、基材レンズ10の表面は紫外線硬化型樹脂11の中心方向への移動によりヌレた状態となる。
【0056】
このため、図3Bに示すように、紫外線硬化型樹脂11の最外周部の輪郭に引いた接線と基材レンズ10との接触角θは、最初の接触角θよりも小さくなる。これにより、紫外線硬化型樹脂12を吐出(第2の吐出工程)する際に、該紫外線硬化型樹脂12による気泡の巻き込みをなくすことができる。
【0057】
これに対し、比較例として、第1吐出の紫外線硬化型樹脂11の樹脂量を、第1吐出後の該紫外線硬化型樹脂11の中心厚さが0.7mmとなるように設定した。そして、基材レンズ10を回転させずに紫外線100の第1照射を行った。
【0058】
その後、紫外線硬化型樹脂12の第2吐出を行い、図1Eと同様に、金型15により樹脂層(紫外線硬化型樹脂11+紫外線硬化型樹脂12)を形成し、さらに紫外線200の第2照射によって樹脂層を硬化させた後、離型を行って複合光学素子1を得た。
【0059】
図4は、このときの第2照射時の樹脂厚分布を示す。
これによれば、図2の場合と比較して、紫外線硬化型樹脂12の偏肉が大きく、樹脂厚の急激な変化が見られる。
【0060】
比較例の第2照射時には、厚肉部付近に偏肉の影響と思われる樹脂収縮時に発生する金型15の転写不良(ヒケ)が発生した。また、樹脂厚が急変している部位の金型形状の転写性が著しく悪くなった。
【0061】
本実施形態では、第1照射時に基材レンズ10の回転数を変化させた(遅くした)ことで、吐出された紫外線硬化型樹脂11の遠心力を低下させた。これにより、本実施形態によれば、紫外線硬化型樹脂12を吐出する際に、該紫外線硬化型樹脂12による気泡の巻き込みをなくすことができた。
【0062】
よって、きわめて高品位の複合光学素子を得ることができた。
[第3の実施の形態]
図5A〜図5Dは、第3の実施形態の複合光学素子の製造工程を示している。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付して説明する。
【0063】
本実施形態では、図5Aに示すように、所望の光学面形状を成形面25aとして有する金型25に、エネルギー硬化型樹脂としての紫外線硬化型樹脂11を吐出する(第1の吐出工程)。
【0064】
この成形面25aは、凹形状で近似曲率半径ρ=14.5mm、光学有効径φ=10mm、非球面形状を有している。
本実施形態における第1吐出の紫外線硬化型樹脂11の吐出重量WはW≒20mgとした。
【0065】
次に、図5Bに示すように、紫外線硬化型樹脂11が吐出された金型25を、金型25の中心Oを回転軸として4回転/sec(240rpm)の速度で3秒間回転させる。その後、回転数を2回転/sec(120rpm)に下げ、金型25の成形面25aの上方から紫外線100を照射することで紫外線硬化型樹脂11を硬化させた(第1の照射工程)。
【0066】
このときの硬化条件は、紫外線照度LがL=20±2mW/cmの略均一な照度分布を持つ紫外線を10秒間照射した。照射後の紫外線硬化型樹脂11は、ほぼ硬化収縮を完了し固化した状態で、中心の樹脂厚tがt≒0.5mmとなっている。また、空気に触れている面は酸素による硬化阻害で未硬化樹脂が薄膜状に残っている。
【0067】
本実施形態では、ほぼ均一な照度分布を有する紫外線100を第1照射で照射しているが、必ずしも照度分布は均一である必要はない。例えば、紫外線硬化型樹脂11の層の厚い部分と薄い部分を同じような硬化速度にするために、紫外線100の周辺照度を下げてもよい。また、第1照射で照射した以上の照度分布をもつ紫外線100を用いてもよい。
【0068】
次に、図5Cに示すように、第1照射後の紫外線硬化型樹脂11の硬化層に、第1吐出した樹脂と同じ材質の紫外線硬化型樹脂12を吐出する(第2の吐出工程)。このときの吐出量は、最終的に複合光学素子1として必要な樹脂量(略43mg)から第1吐出で塗布した量(略20mg)を引いた量で、本実施形態の場合は、重量WはW≒23mgである。
【0069】
次に、図5Dに示すように、第2吐出後、球面研磨した基材レンズ20を、金型25の成形面25aの中心Oと基材レンズ20の光軸とを一致させつつ、光軸と平行方向に金型25に近接させる。この基材レンズ20は、ガラス(硝材 BAL42 (株)オハラ製)で構成されている。この基材レンズ20は、外径φ=14mm、成形面曲率半径ρ=38.5mm、凹メニスカス形状である。
【0070】
なお、基材レンズ20は、前述したように、例えば対向配置された不図示の金型内にガラス素材を配置して加圧成形し、冷却することで得られる。また、圧縮成形以外にも、切削加工や研磨加工等により得ることができる。また、ガラス素材の代わりに透明な合成樹脂を用いて、射出成形により得ることもできる。
【0071】
こうして、基材レンズ20を押圧して第2吐出で吐出した紫外線硬化型樹脂12を拡げていき、所望の樹脂厚となったところで基材レンズ20の押圧を停止する。
本実施形態では、複合光学素子1の基材レンズ20を除く中心樹脂厚tはt=0.7mmである。
【0072】
その後、基材レンズ20の上方から紫外線ランプ34により紫外線300を照射することで、紫外線硬化型樹脂12を硬化させる(第2の照射工程)。
本実施形態では、紫外線照度LがL=20±2mW/cmの略均一な照度分布を持つ紫外線300を20秒間照射した。その後、紫外線照度LがL=100±5mW/cmの略均一な照度分布を持つ紫外線300を90秒間照射した。
【0073】
次に、図5Eに示すように、紫外線300の第2照射後、金型25から樹脂層17(紫外線硬化型樹脂11+紫外線硬化型樹脂12)を離型し、基材レンズ20及び樹脂層17からなる複合光学素子1を得た。
【0074】
本実施形態における複合光学素子1の樹脂厚分布は、図6に示すように、中心樹脂厚tがt=0.7mm、有効径部の樹脂厚tがt≒0.25mmである。
これを、従来の製造方法で成形したとすると、中心樹脂厚(0.7mm)と周辺樹脂厚(0.25mm)の差が大きいため、硬化中に樹脂部が金型25から剥離するいわゆるヒケが中心付近に発生してしまう。
【0075】
本実施形態によれば、樹脂層17の偏肉を小さくして内部応力の非常に小さい複合光学素子1を得ることができた。また、金型成形面25aの転写精度や温度耐久性の良好な複合光学素子1を得ることができた。
【0076】
なお、第1〜第3の実施の形態において、基材レンズ20又は金型25に紫外線硬化型樹脂11を吐出してから回転させる場合について説明したがこれに限らない。例えば、基材レンズ20又は金型25を回転させながら紫外線硬化型樹脂11を吐出してもよい。
【0077】
この場合は、基材レンズ20又は金型25と紫外線硬化型樹脂11との間に気泡が入り込むおそれがあるが、偏肉をなくすという効果は維持できる。
また、第1〜第3の実施の形態においても、基材レンズ20又は金型25に吐出される樹脂として紫外線硬化型樹脂11を用いたが、熱可塑硬化性樹脂などの他のエネルギー硬化性樹脂でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1A】第1の実施の形態における基材レンズの断面を示す図である。
【図1B】同上の第1の吐出工程を示す図である。
【図1C】同上の第1の照射工程を示す図である。
【図1D】同上の第2の吐出工程を示す図である。
【図1E】同上の引き延ばし工程と第2の照射工程を示す図である。
【図1F】同上の成形された複合光学素子の外観を示す図である。
【図2】同上の成形された複合光学素子の樹脂厚分布を示す図である。
【図3A】第2の実施の形態の複合光学素子の製造方法を示す図である。
【図3B】第2の実施の形態の複合光学素子の製造方法を示す図である。
【図4】比較例の複合光学素子の樹脂厚分布を示す図である。
【図5A】第3の実施の形態における第1の吐出工程を示す図である。
【図5B】同上の第1の照射工程を示す図である。
【図5C】同上の第2の吐出工程を示す図である。
【図5D】同上の引き延ばし工程と第2の照射工程を示す図である。
【図5E】同上の成形された複合光学素子の外観を示す図である。
【図6】同上の成形された複合光学素子の樹脂厚分布を示す図である。
【図7A】従来の複合光学素子の製造方法を示す図である。
【図7B】従来の複合光学素子の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 複合光学素子
10 基材レンズ
10a 光学機能面
10b 光学機能面
11 紫外線硬化型樹脂
12 紫外線硬化型樹脂
14 紫外線ランプ
15 金型
15a 成形面
17 樹脂層
18 エアポケット
20 基材レンズ
24 紫外線ランプ
25 金型
25a 成形面
34 紫外線ランプ
100 紫外線
200 紫外線
300 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子基材又は金型に第1の樹脂を吐出する第1の吐出工程と、
前記第1の樹脂に硬化エネルギーを照射し硬化させる第1の照射工程と、
硬化した前記第1の樹脂の表面にさらに第2の樹脂を吐出する第2の吐出工程と、
前記光学素子基材又は前記金型を前記第2の樹脂に近接し該第2の樹脂を拡げる引き延ばし工程と、
拡げた前記第2の樹脂に硬化エネルギーを照射し硬化させる第2の照射工程と、を有し、
前記第1の照射工程は、前記第1の樹脂が吐出された前記光学素子基材又は前記金型を所定の周速度で回転させながら又は回転させた後に行う
ことを特徴とする複合光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の照射工程後の前記第1の樹脂の中心樹脂厚をt
前記光学素子基材を除く成形後の前記第1及び第2の樹脂の中心樹脂厚をt
としたときに
>t≧t/2
の関係を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の照射工程は、前記第1の樹脂が吐出された前記光学素子基材又は前記金型を回転させる周速度を変えて行う
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の樹脂は紫外線硬化型樹脂からなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合光学素子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図2】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2009−248483(P2009−248483A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100528(P2008−100528)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】