説明

複合多孔質フィルムの製造方法

【課題】シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を併せ持ち、かつ通気性、熱・寸法安定性、表面平滑性、充放電特性、耐久性等が高い複合多孔質フィルムを安定的に提供する。
【解決手段】通気性のある多孔質膜の少なくとも片面に、エレクトロスピニング法により、ポリイミド溶液をノズルまたは針から吐出させて、ポリイミド繊維の不織布を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池内において、正・負極を隔離させ電解液内の電解質あるいは特定のイオンを選択的に透過させる隔膜として利用される多孔質フィルムの製造方法、多孔質フィルム、および該多孔質フィルムを使用した電池用セパレータや電解コンデンサー隔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
小型、軽量、高エネルギー密度などの特徴を活用し、2次電池はモバイル電子機器やハイブリット自動車・電気自動車等への幅広い展開が期待されている。2次電池の中でも最も高エネルギー密度を有するリチウム2次電池は、Liイオンを含有する遷移金属との複合酸化物からなる正極、Liイオンを吸着・脱離する炭素系材料から構成される負極、Liイオン系電解質と有機溶剤からなる電解液、正・負極を隔離するセパレータから構成される。
【0003】
ここで、電池用セパレータに求められる特性は、
(1)正負極を直接接触させないように隔離すること
(2)回路内の部分短絡時に生ずる過電流時の電池回路を遮蔽(シャットダウン)すること
(3)電解液を保持した状態では、良好な電解質・イオン透過を有すること
(4)化学的・電気的・力学的安定性を有すること
等が挙げられる。
【0004】
特に、シャットダウン機能は電池回路が暴走することを防止する役目として、電池使用時の安全性を高める為にも重要である。セパレータの材料として主に使用されるポリオレフィン製微多孔膜は、電気回路の短絡時に発生する熱温度上昇により、溶融現象を誘起し、その結果、微多孔が閉塞することにより、シャットダウン機構を果たしている。
【0005】
さらに、シャットダウン後のセパレータの形状保持も重要となる。これは、微孔閉塞後も溶融化が進行すると、セパレータ全体の形状が失われてしまう(メルトダウン)ことになり、電極の短絡が発生する危険性を誘発することを防ぐ為である。
【0006】
当問題を解決するために、2次電池用セパレータ材料として、シャットダウン機能と形状保持機能を分担させた、高融点材料と低融点材料の複合材料がいくつか提示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、アラミド繊維をスラリー化し、ポリエチレンフィルム上に塗布した複合体シートが提示されており、特許文献2には、ポリイミド系樹脂溶液をグラビアロールまたはスクリーン印刷法により、ポリオレフィン上に塗布した複合多孔質膜が提示されている。
【0008】
しかし、上記文献に記載の技術では、
(1)高融点材料による耐熱形状保持機能層の形成には、溶液コーティングに代表される塗付・担持法では厚み及び内部構造制御を行うことが困難であり、基材のポリオレフィン製微多孔膜より通気性が悪化することが多い。
(2)高融点材料による耐熱形状保持機能層は、分子エネルギー的に剛直な成分から構成される為、フレキシブル性に富む低融点材料であるポリオレフィン製微多孔膜と複合化したフィルムは反りが生じやすい。
(3)溶液塗布法においては、溶媒除去によるプロセスの煩雑さや、それに伴う表面層の平滑性が失われる。
(4)高融点材料による耐熱形状保持機能層分の膜厚が増えることで、電解質やイオンの伝導性低下・界面抵抗の上昇が生じる為、結果として電池のエネルギー密度や充放電効率が低下する。
(5)高融点材料と低融点材料の接着性不十分による低耐久性や界面抵抗の更なる上昇が生じる可能性がある。
といった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−264029号公報
【特許文献2】特開2006−155914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を併せ持ち、かつ通気性、熱・寸法安定性、表面平滑性、充放電特性、耐久性等が高い複合多孔質フィルムを安定的に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1.通気性のある多孔質膜の少なくとも片面に、エレクトロスピニング法により、ポリイミド溶液をノズルまたは針から吐出させて、ポリイミド繊維の不織布を積層する積層工程を含むことを特徴とする、複合多孔質フィルムの製造方法。
【0012】
2.前記積層工程の前に、前記通気性のある多孔質膜の表面に、純水の静的接触角が1°以上100°以下となるように親水化処理を施す工程を含むことを特徴とする上記1記載の方法。
【0013】
3.前記積層工程の前に、前記通気性のある多孔質膜の表面に、接着性層を付与する処理を施すことを特徴とする上記1記載の方法。
【0014】
4.前記積層工程の後に、積層面に対して垂直応力を付加する工程を含む上記1〜3のいずれかに記載の方法。
【0015】
5.前記積層面に対して垂直応力を付加する工程において、ピンチロールまたは圧力プレスを用いることを特徴とする上記4に記載の方法。
【0016】
6.前記積層工程において、前記ポリイミド繊維の繊維直径が0.1μm以上3.0μm未満となるように積層することを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の方法。
【0017】
7.前記積層工程において、ポリイミド繊維の不織布の厚みが0.1〜50μmとなるように積層することを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の方法。
【0018】
8.前記通気性のある多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の方法。
【0019】
9.前記積層工程に用いる通気性のある多孔質膜の膜厚みが5〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする上記1〜8のいずれかに記載の方法。
【0020】
10.上記1〜9のいずれかに記載の方法により製造された複合多孔質フィルム。
【0021】
11.上記10に記載の複合多孔質フィルムを用いた蓄電池用セパレーター。
【0022】
12.200℃における耐熱時間が10分以上であることを特徴とする上記11に記載の蓄電池用セパレーター。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、電池用セパレーター等において、シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を付与する複合多孔質フィルムの製造方法を提供する。具体的には、エレクトロスピニング法により通気性のある多孔質膜の少なくとも片面にポリイミド繊維の不織布を積層する。該方法により得られる複合多孔質フィルムは、良好な物性及び熱・寸法安定性を有し、かつ、その形状から良好な透気性及び極細繊維形状由来のフレキシブル性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】エレクトロスピニングに用いた装置図である。
【図2】実施例1により得られる複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真である。
【図3】実施例2により得られる複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真である。
【図4】実施例3により得られる複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真である。
【図5】実施例4により得られる複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
<複合多孔質フィルムの製造方法>
まず、本発明の複合多孔質フィルムの製造方法について説明する。本発明の複合多孔質フィルムの製造方法は、通気性のある多孔質膜(多孔質膜については後述する)の少なくとも片面に、エレクトロスピニング法により、ポリイミド繊維の不織布を積層させる積層工程を含むことを特徴とする。
【0027】
エレクトロスピニング法は、高分子材料から形成されるナノオーダー径の極細繊維製造法として知られている。本発明において、エレクトロスピニング法は、特に限定されないが、例えば、図1のような装置を用いて行われる。図1のシリンジ2に充填したポリイミド溶液に高電圧を印加し(図1においてはスピナレット1に高圧電源3の可変電圧を接続している)、一方、ステンレス製支持体4を接地し、その上に多孔質膜5を置く。帯電されたポリイミド溶液の溶媒の気化が進行するにつれて、帯電電荷距離が狭まり、結果としてクーロン力が大きくなる。ポリイミド溶液の表面張力より該クーロン力が勝った段階で、ポリイミド溶液は延伸され、当現象が爆発連鎖的に進行することにより、ナノオーダー径の極細繊維が形成される。これが、ランダムに多孔質膜5の上に堆積され不織布が形成される。このとき、多孔質膜全面に塗布されるようにスピナレット1およびステンレス製支持体4を動かすことが好ましい。
【0028】
エレクトロスピニング法を用いるときは、通常、導電基板上に直接極細繊維を堆積させるが、本発明においては、絶縁体である多孔質膜上にポリイミド繊維の不織布を積層できる。これは、後述するように、本発明に用いる多孔質膜が、薄い膜であるため、ノズルと導電基板間の通電性が失われないことによると思われる。
【0029】
また、ノズルから吐出されて基板に接地到達するまでのわずかな時間に大方の溶媒は気化する。しかし、エレクトロスピニング法では溶媒の蒸気圧が大きく関与し、基板上でも微量の溶媒を含有している。この残存している溶媒により、紡糸されたナノ繊維物が再溶解したり接着したりすることを防ぐため、溶媒を除去することが必要となる。これに関し、系内の温度を高めるという方法があるが、この方法によると、爆発引火の危険性や熱乱気流による繊維形成方向の統一性が図れないという問題が生じる。
【0030】
一方、本発明においては多孔質体を担持基材として用いるため、毛細管現象により多孔質膜に溶媒が吸引され、形状を損なうことなく極細繊維を担持することが可能であり、最終的な溶媒除去も担持逆面側から吸引等により容易に除去可能である。したがって系内の温度を高めるという作業が不要であり、上記のような問題がない。
【0031】
本発明において、エレクトロスピニング装置に用いるポリイミド溶液の濃度は、3重量%〜50重量%、好ましくは5重量%〜30重量%であり、ポリイミド溶液の粘度は、0.1ポイズ〜300ポイズであり、好ましくは3ポイズ〜100ポイズである。
【0032】
本発明において、エレクトロスピニング法により紡糸する際の温度は、0℃〜100℃が好ましく、15℃〜40℃が更に好ましい。
【0033】
本発明において、エレクトロスピニング法により紡糸する際の湿度は、0%〜60%が好ましく、0%〜30%が更に好ましい。
【0034】
本発明において、エレクトロスピニング法により紡糸する際の印加電圧は、1kV〜500kVが好ましく、5kV〜100kVが更に好ましい。エレクトロスピニングによって得られる繊維は、一般に印加電圧が高いほど細くなる。しかし、電圧差が500kVを越えると、電極間での短絡、漏電、放電現象などが発生し易くなるので、好ましくない。逆に、電圧が1kV未満になるとエレクトロスピニング現象の発生が困難なために好ましくない。
【0035】
本発明において、エレクトロスピニング法により紡糸する際のノズルと導電基板間の距離は、1cm〜100cmが好ましく、5cm〜30cmが更に好ましい。
【0036】
本発明において、エレクトロスピニング法により担持されるポリイミド繊維の積層体は、製造条件により担持量や繊維径の制御が可能であるが、電池用セパレータとして用いた場合の空孔内物質移動抵抗の低減や力学的強度の維持の観点から、ポリイミド繊維の直径は、好ましくは0.1μm以上3μm未満であり、より好ましくは0.3μm以上2μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以上1μm以下である。多孔質膜上のポリイミド繊維の担持量は、0.01〜1mg/cmであり、0.1〜0.5mg/cmであることが好ましい。そして、該ポリイミド繊維の不織布の厚みは、好ましくは0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは0.1μm〜20μmであり、更に好ましくは0.1μm〜5μmである。ポリイミド層が薄すぎるとメルトダウン防止効果が不十分となり、厚すぎると電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0037】
本発明により積層されたポリイミド層を構成する繊維は、上記のように極細繊維であるため、本発明の複合多孔質フィルムは、従来の方法により製造された複合多孔質フィルムに比べて、剛直高分子であるポリイミドを用いてもフレキシブル性に富み、反りが起こりにくい。また、最小0.1μmの厚みのポリイミド層を形成することも可能であることから、本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、電池のエネルギー密度や充放電効率が高い製品の製造が可能となる。
【0038】
また、エレクトロスピニング法による積層工程の前に、基材の多孔質膜の表面処理を行うことにより、高融点材料であるポリイミド繊維の不織布と低融点材料であるポリオレフィン等からなる多孔質膜の接着性を高め、耐久性を向上させたり界面抵抗を低減させたりすることができる。具体的には、例えば、多孔質膜をプラズマ放電法等による表面処理を施すことにより親水化を促し、表面エネルギーを低下させ、ポリイミド溶液とのアフィニティを高めることが可能となる。親水化の程度は、特に限定されないが、好ましくは純水の静的接触角1°以上100°以下、さらに好ましくは1°以上90°以下となるように施される。
【0039】
さらに、エレクトロスピニング法による積層工程の前に、多孔質膜に接着層を付与する処理を施し、ポリイミド繊維の不織布と多孔質膜の接着強度を高めることも可能である。接着層の材料は特に限定されないが、耐熱性を損なうことがなく、多孔質膜の通気性悪化を最小限に抑制できるよう低量で効果が発揮できるものが望ましい。例えば、ポリフッ化ビニリデン溶液やその他プライマー溶液を用いることができる。さらに、ポリイミド溶液内に該接着性成分を混入させ、紡糸することもできる。
【0040】
また、多孔質膜上にポリイミド繊維の不織布を積層させた後、ピンチロールあるいは圧力プレスなどの物理的手法により積層面に対して垂直応力を付加する工程にてポリイミド繊維と多孔質膜を圧着させ、密着性を高めることが可能である。
【0041】
なお、本発明のポリイミド繊維の不織布を構成する繊維は前述のとおり極細繊維であるため、従来より平滑性が高いポリイミド層の形成が可能であるが、必要に応じて後プロセスなどによりさらに平滑性を高めることも可能である。例えば、プラズマエッチング法を用いることによりナノオーダーの平滑性を高めることもできる。
【0042】
次に、本発明の製造に用いるポリイミドと多孔質膜について説明する。
【0043】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、電池における内部短絡発生時の安全性確保の観点より、210℃以上の融点を有することが好ましい。さらに、本発明の複合多孔質フィルムの製造方法は、エレクトロスピニング法によることから、用いるポリイミドは溶媒に可溶性であることが好ましい。
【0044】
また、ポリイミドもしくはポリイミド前駆体、共重合体の分子量は特に制限は無いが、数平均分子量が10000以下だと分子間の絡み合いが少ない為に粒子状物が形成されやすくなるため好ましくなく、2000000以上だと溶液が物理ゲル化して流動性が損なわれる為に好ましくない。
【0045】
本発明に用いるポリイミドは公知の方法で製造することができる。具体的には、
(1)酸成分とジアミン成分とを溶媒中で加熱脱水する方法、または、
(2)酸成分とジアミン成分とからポリイミド前駆体を製造し、ポリイミド前駆体を脱水剤を用いてイミド化するか、ポリイミド前駆体をさらに加熱してイミド化する方法により製造することができる。
【0046】
酸成分及びジアミン成分は公知のものを用いることができる。
【0047】
酸成分としては、
ピロメリット酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3’,2,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン―3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等を挙ることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0048】
特に酸成分として、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から選ばれるテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。より好ましくはs−BPDAを含み、必要によりa−BPDA、BTDA、ピロメリット酸二無水物等を含むものである。
【0049】
ジアミン成分としては、
p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン(TDA)、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4、4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3
−ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0050】
ジアミン成分としては、上記芳香族ジアミン以外に、脂肪族系、脂環式系、シリコン含有のジアミンなどのジアミンを、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。
【0051】
さらに、ジアミンの代わりにまたはジアミンと共に、上記ジアミン化合物から誘導されるジイソシアネート化合物を使用することもできる。以下の記載において、これらジイソシアネート化合物もジアミン成分に含まれるものとして記載する。
【0052】
ジイソシアネート化合物としては、脂肪族又は芳香族の各種ジイソシアネートが挙げられ、入手しやすいものとして下記のものが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9−ノナメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート等のアルカンジイソシアネートや、
【0053】
1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート等のシクロアルカンジイソシアネートや、
【0054】
2,2’−ジエチルエーテルジイソシアネート、2,2’−ジエチルスルフィドジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート−ビウレット体、2−イソシアノエチルチオ−1,3−イソシアノプロパンや、イソホロンジイソシアネート、1,4−ジチアン−2,5−ジイソシアネート、テトラヒドロチオフェン−2,5−ジイソシアネート等のヘテロ原子を有するシクロアルカンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0055】
また、芳香族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、3,3’−メチレンジトリレン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
上記ジアミン成分のうち、特に、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,4−トルエンジアミン(TDA)を用いることが好ましい。
【0057】
酸成分とジアミン成分の好ましい組合せの一例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と2,4−トルエンジアミン(TDA)、s−BPDAとTDI、BTDAとTDI等が挙げられる。
【0058】
ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対する酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が3〜50重量%程度、好ましくは5〜20重量%にするのが好適である。
【0059】
ポリイミドを調製するときの有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
ポリイミド調整溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子や有機微粒子などの微粒子などを加えてもよい。
【0061】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ジアミン成分のアミノ基数(ジイソシアネート化合物の場合は、イソシアネート基)に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0062】
また、化学イミド化を意図する場合には、通常、脱水閉環剤と有機アミンを組み合わせた化学イミド化剤をポリイミド前駆体溶液中に含有させる。脱水閉環剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、および無水シュウ酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水吉草酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸二無水物等の酸無水物が挙げられ、有機アミンとしては、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明に用いるポリイミドを溶解する溶媒としては、ポリイミドを20〜60質量%、より好ましくは30〜56質量%、さらに好ましくは36〜50質量%溶解できる溶媒が好ましい。具体的には、例えば、フェノ−ル、クレゾ−ル、キシレノ−ル、ベンゼン環に2個の水酸基を有するカテコ−ル、レゾルシンなどのカテコ−ル類、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、3−ブロモフェノ−ル、4−ブロモフェノ−ル、2−クロロ−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノ−ル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類、スルホラン、γ−ブチロラクトンなどのケトン類、ジグライム、トリグライムなどのエーテル類などから適宜選択して用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いることが簡便で好ましいが、必要なら2種以上を併用してもよい。
【0064】
<多孔質膜>
本発明に用いる多孔質膜は、特に制限されないが、本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、セパレータの熱閉塞温度は、高すぎると内部短絡発生時の安全性確保が困難になり、低すぎると通常使用範囲での温度領域で無孔化する可能性があるため電池の利便性を損なう。このため、電池の特性、使用環境に合わせて設定されるが、特定の用途において熱閉塞温度は130〜140℃となるように設定されることが好ましい。また、本発明の複合多孔質フィルムを用いたセパレータの破膜温度は、従来の多孔質膜のみからなるセパレータの温度を上回るが、高い温度まで無孔化を維持するには、多孔質膜単独でも、170℃以上の無孔化維持温度を有することが好ましい。
【0065】
このような特性を満たすために、本発明の多孔質膜は、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、好ましくは積層多孔質膜であり、好ましくは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層と120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層とを有する。
【0066】
多孔質膜は、好ましくはポリオレフィン系材料から構成される。150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリプロピレン(PP)で形成され、120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリエチレン(PE)で形成されることが好ましい。最も好ましくは、PP/PE/PPの順に積層された多孔質膜である。また、多孔質膜は、該ポリオレフィン系材料が積層された不織布であってもよい。
【0067】
多孔質膜の膜厚は、使用される電池の種類にもよるが、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0068】
また、多孔質膜は、製造条件によっても多少異なるが、適切な通気度(ガス透過速度)を有することが必要であり、ガーレー値は10〜1000秒/100ccであることが好ましく、10〜600秒/100ccであることがより好ましく、30〜600秒/100ccであることが更に好ましい。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低すぎると電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。
【0069】
多孔質膜を電池セパレータとして用いる場合には、電池セパレータとしての性能を損なわない程度において、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤等に代表される樹脂添加剤、接着剤及び無機物からなる補強剤が含まれても良い。
【0070】
本発明に用いられる多孔質膜の製造方法は、特に限定されないが、ポリオレフィン積層多孔質膜の場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特開平7−307146号公報または特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。
【0071】
<複合多孔質フィルム>
次に、上記製造方法により製造された複合多孔質フィルムの特徴について説明する。本発明の複合多孔質フィルムには、多孔質膜と、この多孔質膜の少なくとも一方の面にポリイミド繊維の不織布が積層されている。
【0072】
ポリイミド繊維の不織布は、多孔質膜の片面に積層されていればよいが、用途によっては、多孔質膜の両面にポリイミド繊維が積層された構造であってもよい。
【0073】
本発明の複合多孔質フィルムのガーレー値は、特に限定されないが、10〜1000秒/100c、好ましくは10〜600秒/100cc、更に好ましくは30〜600秒/100ccである。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低すぎると電解液の保持性が悪くなる、電池内部の反応の不均一性が高まるなどの現象が起こる可能性があり好ましくない。
【0074】
従来のように、ポリイミド溶液を基材の多孔質膜上に塗布してポリイミド層を担持させる方法は、該層の厚みや内部構造制御を行うことが困難であり、多孔質膜のみのときより通気性が悪化することが多い。しかし、本発明のエレクトロスピニング法を用いる方法によると、ポリイミド繊維の繊維経や担持量を制御できるため、上記のように通気性の高いポリイミド繊維の不織布の製造が可能であり、該ポリイミド繊維の不織布の積層による通気性の悪化は、従来の方法に比べて小さく、50秒/100cc以下に抑制できる。
【0075】
本発明の複合多孔質フィルムの膜厚みは、特に限定されないが、5〜300μm、好ましくは10〜100μm、更に好ましくは10〜50μmである。膜厚みが薄すぎると、メルトダウン防止効果が不十分となり、膜厚みが厚すぎると電池セパレータとして使用したとき、電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0076】
本発明の複合多孔質フィルムにおいて、電池用セパレータとしての機能を確保するため、後述する熱閉塞温度は、130℃〜140℃であることが好ましく、200℃における耐熱時間が10分以上であることが好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
後述する参考例、実施例および比較例における測定方法は下記のとおりである。
【0079】
<ポリイミド溶液の粘度測定>
参考例において、ポリイミド溶液の粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)参考例で調製したポリイミド溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製、高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式、コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリアミック酸溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、さらに2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
【0080】
<ポリオレフィン製多孔質膜および複合多孔質フィルムの評価>
(1)膜厚
ポリオレフィン製多孔質膜及び作製した複合多孔質フィルムの厚みは、接触式厚み計により測定した。また、エレクトロスピニング法により堆積させたポリイミド繊維層の厚みは、複合多孔質フィルムの厚みからポリオレフィン製多孔質膜の厚みの差分より算出した。
(2)ポリイミド繊維径
堆積させたポリイミド繊維の直径及びその高次構造は、電子顕微鏡(SEM)観察により行った。
(3)気体透過性
JIS P8117に準じて測定した。測定装置としてB型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料の膜を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締付け、内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し、ガーレー値とした。
(4)200℃耐熱時間(分)
光学顕微鏡(キーエンス製、VH−Z75)ステージ上にサンプル加熱セル(LinKAM製、HFS−91)を取付け、ホットステージ顕微鏡とした。直径22mmの円形カバーガラス、直径5mmの孔を開けたテフロン(登録商標)シート、TD2mm×MD8mmに切り出した試料サンプルの順に重なるように耐熱性粘着テープ(住友スリーエム製、ポリイミドテープ5413)で固定し、耐熱性試験サンプルを作製した。その際、試料サンプル中央が孔中心上になるように試料サンプルのMD方向両端5mmを固定した。該耐熱性試験サンプルをサンプル加熱セル中央部に設置し、25℃から200℃まで100℃/分で加熱し、200℃に到達後、30分間温度をキープした。試料サンプル両端が観察視野に入るようにして、試料サンプルの径時変化を観察した。その際、200℃温度キープを始めたところから観察視野中に欠損を確認するまでの時間を200℃耐熱時間とした。
(5)水接触角(度)
接触角測定装置(KRUSS製)を用い測定を行った。試料表面に3μLの水滴を滴下し、そのときの試料表面と液滴のなす角度を滴下から1分間10秒毎に測定し、平均を水接触角とした。
(6)接着性
複合フィルムを10×10mmに切り出して浸漬溶媒プロピレンカーボネートとジエチルカーボネートを重量比で1:1で混合した溶液中に1時間浸漬後、アセトンにて脱溶媒後に室温で乾燥し、光学顕微鏡にて複合膜の接着状態を観察・確認した。フィルム間の剥離が全く見られなかった場合を◎、剥離箇所が観察部位の2%以下とほとんど見られなかったものを○、10%以上であった場合を△、10%以上もしくは観察試料作製の過程で剥離したものを×とした。
【0081】
<ポリイミド溶液の調製>
ポリイミドの合成は、攪拌モーター,窒素導入管,冷却管を備えたDean−Stark分留管をセットした三つ口フラスコオイルバスを用いて行った。
【0082】
(参考例1)
2,4−トルエンジアミン(TDA)9.15g(0.075mol)をNメチル−2−ピロリドン(NMP)74.8gに攪拌溶解した。次に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)22.05g(0.075mol)を投入し、NMP50gを加え、一昼夜室温下、溶解し反応させた。さらに反応溶液にピリジン1.19g(0.015mol)と無水シュウ酸0.675g(0.0075mol)、トルエン20mLを添加し、185℃まで昇温した。トルエンとの共沸により、分留管に水分が分取されることを確認し、水分の溜去が無くなった時点で、トルエンを排出し、そのままイミド化反応を6時間継続し、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液は、加温状態のままで、熱ろ過を行いポリイミド溶液Aを得た。溶液粘度は430ポイズであった。
【0083】
(参考例2)
参考例1で得たポリイミド溶液をNMPで希釈して10重量%のポリイミド溶液Bを得た。溶液粘度は40ポイズであった。
【0084】
(参考例3)
参考例1で得たポリイミド溶液をNMPで希釈して5重量%のポリイミド溶液Cを得た。溶液粘度は3ポイズであった。
【0085】
(参考例4)
2,4−トルエンジアミン(TDA)9.15g(0.075mol)をNメチル−2−ピロリドン(NMP)74.8gに攪拌溶解した。次に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)21.94g(0.0746mol)を投入し、NMP50gを加え、一昼夜室温下、溶解し反応させた。さらに反応溶液にピリジン1.19g(0.015mol)と無水シュウ酸0.675g(0.0075mol)、トルエン20mLを添加し、185℃まで昇温した。トルエンとの共沸により、分留管に水分が分取されることを確認し、水分の溜去が無くなった時点で、トルエンを排出し、そのままイミド化反応を6時間継続し、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液は、加温状態のままで、熱ろ過を行いポリイミド溶液を得た。溶液粘度は120ポイズであった。この溶液をNMPで希釈して10重量%のポリイミド溶液Dを得た。溶液粘度は18ポイズであった。
【0086】
<エレクトロスピニング法による複合多孔質フィルムの作製>
以下の実施例におけるポリオレフィン製多孔質膜および得られた複合多孔質フィルムの測定結果を表1に示す。
【0087】
(実施例1)
図1に示されるエレクトロスピニング装置内のシリンジ内へ、参考例2で作製したポリイミド溶液Bを挿入した。シリンジ先端に18G(内径0.9mm)の金属針を取り付け、金属針可動式冶具(スピナレット)に高圧電源の可変電圧器を接続し、30kVの直流電圧を印加し、エレクトロスピング法による紡糸を実施した。
【0088】
金属針から紡糸される対面に位置するステンレスターゲット基材上に、ポリオレフィン製微多孔膜(商品名ユーポア(宇部興産(株)製:膜厚25μm、ガーレー値530秒/100ml)をテープで密着固定し、白色ポリイミド繊維を堆積させた。金属針とポリオレフィン製多孔質膜基板との距離は15cmとした。所定時間後、電圧印加及び溶液供給を停止させ、室温雰囲気中で乾燥させることにより複合多孔質フィルムを回収した。
【0089】
得られた複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真を図2に示す。
【0090】
(実施例2)
原料溶液にポリイミド溶液Cを用いた以外は実施例1と同様の工程でポリイミド繊維を多孔質膜上に堆積させた後、室温下で最大荷重圧0.3kg/cmでピンチロールにより積層面に対して垂直応力を付加する工程にてポリイミド繊維とポリオレフィン製微多孔膜を圧着させ、複合多孔質フィルムを得た。得られた複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真を図3に示す。
【0091】
(実施例3)
ポリオレフィン製多孔質膜を1.2wt%ポリフッ化ビニリデン溶液に浸漬させた。膜が透明化した後、膜を引き上げ過剰な塗液を除去し、50℃で一昼夜真空乾燥させた。ポリフッ化ビニリデンの担持量は0.05mg/cm、透気度は540秒/ccAirであった。以下は実施例1と同様の工程により複合多孔質フィルムを得た。得られた複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真を図4に示す。
【0092】
(実施例4)
参考例4で作製したポリイミド溶液Dを用いる以外は実施例1と同様の工程により複合多孔質フィルムを得た。
【0093】
SEM観察より、ポリイミド繊維積層物内に凝集物が多く点在していることを確認した。得られた複合多孔質フィルムのポリイミド繊維堆積層表面のSEM写真を図5に示す。
【0094】
(比較例1)
参考例1で作製したポリイミド溶液Aを図1に示されるエレクトロスピニング装置内のシリンジ内へ挿入した。シリンジ先端に18G(内径0.9mm)の金属針を取り付けた。金属針から紡糸される対面に位置するステンレスターゲット基材上に、ポリオレフィン製微多孔膜(商品名ユーポア(宇部興産(株)製:膜厚16μm、ガーレー値290秒/100ml)をテープで密着固定した。金属針・ポリオレフィン製微多孔膜基板距離は15cmとした。金属針可動式冶具(スピナレット)に高圧電源の可変電圧器を接続し、30kVの直流電圧を印加し、エレクトロスピング法による紡糸を試みた。しかしながら、金属針の先端からのポリイミド液状物の噴射は安定せず、数分で針の先端に固形物が堆積、付着してしまい、ポリイミド繊維を堆積させて複層多孔質フィルムを得ることは出来なかった。
【0095】
(比較例2)
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層セパレータ(商品名ユーポア(宇部興産(株)製:膜厚25μm、ガーレー値530秒/100ml)について、耐熱性の評価を行った。その結果、200℃耐熱時間は7分であった。
【0096】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、多孔質フィルムの耐熱性を高めることが出来、電解液などの液体の吸液速度を向上させることが出来る為に、産業的に非常に有益である。また、エレクトロスピニングによる複層化プロセスは簡便であり既存のセパレータフィルム製造工程への追加が容易であり、工業的に有益である。また、本発明により製造される複合多孔質フィルムは電池用、例えばリチウムイオン二次電池用のセパレータとして、有利に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0098】
1 スピナレット
2 シリンジ(ポリイミド溶液供給用)
3 高圧電源
4 ステンレス製支持体
5 多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性のある多孔質膜の少なくとも片面に、エレクトロスピニング法により、ポリイミド溶液をノズルまたは針から吐出させて、ポリイミド繊維の不織布を積層する積層工程を含むことを特徴とする、複合多孔質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記積層工程の前に、前記通気性のある多孔質膜の表面に、純水の静的接触角が1°以上100°以下となるように親水化処理を施す工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記積層工程の前に、前記通気性のある多孔質膜の表面に、接着性層を付与する処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記積層工程の後に、積層面に対して垂直応力を付加する工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記積層面に対して垂直応力を付加する工程において、ピンチロールまたは圧力プレスを用いることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記積層工程において、前記ポリイミド繊維の繊維直径が0.1μm以上3.0μm未満となるように積層することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記積層工程において、ポリイミド繊維の不織布の厚みが0.1〜50μmとなるように積層することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記通気性のある多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記積層工程に用いる通気性のある多孔質膜の膜厚みが5〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により製造された複合多孔質フィルム。
【請求項11】
請求項10に記載の複合多孔質フィルムを用いた蓄電池用セパレーター。
【請求項12】
200℃における耐熱時間が10分以上であることを特徴とする請求項11に記載の蓄電池用セパレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207149(P2011−207149A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78902(P2010−78902)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】