説明

複合材料およびその製造方法

【課題】グラファイト粒子を用い、平面方向のみならず、厚さ方向においても高い熱伝導率を得ることができる複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】一面の所定領域に発熱部材と接合される接合領域を有し、接合領域を底面とし、一面から他面に向かって厚さ方向に延びる柱を仮想柱50aとしたとき、グラファイト粒子20の少なくとも一部を、一面に対する法線と、当該法線をグラファイト粒子20の表面に当該表面に対する法線方向に投影してできる仮想線との成す角度が30°以下となり、かつ、当該グラファイト粒子20の表面を含み、一面の平面方向に延びる平面を仮想面20aとすると、当該仮想面20aが仮想柱50a内を通過する状態で配向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面および裏面を有する板状のグラファイト粒子を含んでなる複合材料およびその製造方法に関し、特に発熱部品と放熱部材との間に配置され、発熱部品から発生する熱を放熱部材に伝熱するものとして利用されると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、発熱部品で発生する熱をヒートシンク等の放熱部品を利用して放熱する場合、発熱部品と放熱部品との間に複合材料を配置し、複合材料を介して発熱部品から発生する熱を放熱部材に伝熱することが知られている。
【0003】
複合材料としては、熱伝導率が高いものを用いることが好ましく、近年では、高い熱伝導率を有する、例えば、気相成長炭素繊維(VGCF)や、カーボンナノチューブ等の炭素繊維がマトリックス材に含有されてなるものが注目されている。
【0004】
しかしながら、炭素繊維の高い熱伝導率は、その結晶構造における六角網構造(以下、グラファイト構造という)と平行な方向において実現される。すなわち、炭素繊維は、グラファイト構造が繊維の長さ方向に延びているため、炭素繊維の長さ方向においては高い熱伝導率を得ることができるが、炭素繊維の太さ方向においては高い熱伝導率を得ることができない。言い換えると、炭素繊維は、長さ方向の一軸方向においてのみ高い熱伝導率を得ることができる。
【0005】
このため、炭素繊維をそのままマトリックス材に含有するのではなく、一方向に延びる複数の炭素繊維と、当該一方向と垂直方向に延びる複数の炭素繊維とを平織りして炭素繊維布を構成し、炭素繊維布をマトリックス材に含有してなる複合材料が知られている。炭素繊維布では、一方向と当該一方向と垂直な方向に炭素繊維が配置されるため、平面方向において高い熱伝導率を得ることができるためである。例えば、特許文献1には、マトリックス材中に、このような炭素繊維布を、表面から裏面まで厚さ方向に延びる配向基準軸を中心として炭素繊維布の表面(裏面)を配向基準軸と平行にすると共に、放射状に延びるように配置することが開示されている。
【0006】
このような複合材料では、炭素繊維布の表面(裏面)が配向基準軸に対して平行となるように配置されているため、複合材料の厚さ方向において高い熱伝導率を得ることができ、また、炭素繊維布が配向基準軸を中心として放射状に配置されているため、複合材料の平面方向において高い熱伝導率を得ることができる。
【0007】
しかしながら、このような炭素繊維は、繊維長の比較的短いものでは高い熱伝導率のものが得られているが、織布に加工できるような繊維長の長いものでは、熱伝導率が400〜800W/mKのものしか得られていない。そのため、特許文献1で用いられている炭素繊維布は、グラファイト構造が平面方向に延びており、平面方向の熱伝導率が1500W/mKであるグラファイト粒子と比較すると、熱伝導率が低い。このため、最近では、グラファイト構造が平面方向に延びている板状のグラファイト粒子をマトリックス材に含有してなる複合材料が製造されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、板状のグラファイト粒子を用い、グラファイト粒子の表面を複合材料の一面と平行に配置した複合材料が開示されている。このような複合材料では、グラファイト粒子の表面(裏面)が複合材料の一面と平行に配置されていることにより、平面方向の熱伝導率を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−347616号公報
【特許文献2】国際公開第2009/051094号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2の複合材料では、平面方向において高い熱伝導率を得ることができる板状のグラファイト粒子が複合材料の一面とほぼ平行に配置されているため、複合材料の平面方向において高い熱伝導率を得ることができるものの、厚さ方向においては高い熱伝導率を得ることはできないという問題がある。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、板状のグラファイト粒子を用い、平面方向のみならず、厚さ方向においても高い熱伝導率を得ることができる複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、マトリックス材(10)と、マトリックス材(10)中に配置され、表面および表面と反対の裏面を有し、当該表面および裏面に沿ってグラファイト構造が延びている板状のグラファイト粒子(20)と、を含み、グラファイト粒子(20)が全体の20〜90体積%を占めて構成されていると共に、一面および一面と反対側の他面を有し、一面が発熱部材と接合される複合材料において、次のことを特徴としている。
【0013】
すなわち、一面の所定領域に発熱部材と接合される接合領域を有し、接合領域を底面とし、一面から他面に向かって厚さ方向に延びる柱を仮想柱(50a)としたとき、グラファイト粒子(20)の少なくとも一部が、一面に対する法線と、当該法線をグラファイト粒子(20)の表面に当該表面に対する法線方向に投影してできる仮想線との成す角度が30°以下とされ、かつ、当該グラファイト粒子(20)の表面を含み、一面の平面方向に延びる平面を仮想面(20a)とすると、当該仮想面(20a)が仮想柱(50a)内を通過する状態で配向されていることを特徴としている。
【0014】
このような複合材料では、グラファイト粒子(20)は表面(裏面)の平面方向において高い熱伝導率を得ることができるので、グラファイト粒子(20)の少なくとも一部を複合材料の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となる状態で配向することにより、平面方向のみならず、厚さ方向においても高い熱伝導率を得ることができる。また、仮想面(20a)が仮想柱(50a)を通過する状態で配向されていることにより、複合材料の接合領域に発熱部品を接合したとき、発熱部品から発生する熱をグラファイト粒子(20)を介して平面方向および厚さ方向に効果的に伝達することができる。
【0015】
例えば、請求項2に記載の発明のように、グラファイト粒子(20)の表面および裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、グラファイト粒子(20)全体において、表面と裏面との間の長さに対する平面長さの比であるアスペクト比の平均を5〜100とすることができる。
【0016】
また、請求項3に記載の発明のように、グラファイト粒子(20)全体において、平面長さの平均を10μm以上1000μm以下とすることができる。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明のように、表面と、一面に対する法線との成す角度が30°以下とされ、かつ、仮想面(20a)が仮想柱(50a)内を通過する状態で配向されているグラファイト粒子(20)を、グラファイト粒子(20)全体の75%以上とすることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、請求項1に記載の発明にかかる複合材料を製造することが特徴となっている。具体的には、グラファイト粒子(20)と添加物とを混練して混合物(30)を準備する混合工程と、混合物(30)に対して加圧加工する工程を含み、グラファイト粒子(20)の少なくとも一部を、法線と、仮想線との成す角度が30°以下となり、かつ、仮想面(20a)が仮想柱(50a)に相当する部分を通過する状態で配向させた配向成型体(33)を形成する配向成型体形成工程と、を含むことを特徴としている。
【0019】
例えば、請求項6に記載の発明のように、配向成型体形成工程では、混合物(30)をプレス加工することにより、押圧力が印加される方向と垂直である第1面(32a)と、第1面(32a)と対向すると共に第1面(32a)に対して傾斜している第2面(32b)とを有し、第1面(32a)と第2面(32b)との間の間隔が狭くなる側の端部にて仮想柱(50a)に相当する部分の一部を構成する中間成型体(32)を形成し、複数の混合物(30)からそれぞれ当該中間成型体(32)を複数形成する工程と、複数の中間成型体(32)の第1面(32a)と第2面(32b)とをそれぞれ接合することにより配向成型体(33)を形成する工程と、を含むことができる。
【0020】
また、請求項7に記載の発明のように、配向成型体形成工程では、複数の混合物(30)を押出成型して、押出方向と平行である第1面(32a)と、第1面(32a)と対向すると共に第1面(32a)に対して傾斜している第2面(32b)とを有し、第1面(32a)と第2面(32b)との間の間隔が狭くなる側の端部にて仮想柱(50a)に相当する部分の一部を構成する中間成型体(32)を形成し、複数の混合物(30)からそれぞれ当該中間成型体(32)を複数形成する工程と、複数の中間成型体(32)の第1面(32a)と第2面(32b)とをそれぞれ接合することにより配向成型体(33)を形成する工程と、を含むことができる。
【0021】
さらに、請求項8に記載の発明のように、配向成型体形成工程では、混合物(30)を押出成型して、仮想柱(50a)に相当する部分(50b)と、一面および他面と垂直となる第1面(33a)と、一面および他面と垂直であって、第1面(33a)に対して傾斜しており、かつ第1面(33a)との間の間隔が狭くなる側の端部が仮想柱(50a)に相当する部分(50b)側となる第2面(33b)と、を構成する複数の貫通孔(34)と、を有する配向成型体(32)を形成することもできる。
【0022】
そして、請求項9に記載の発明のように、請求項5ないし8に記載の発明において、配向成型体形成工程の後、配向成型体(33)にマトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことができる。
【0023】
また、請求項10に記載の発明のように、請求項6または7に記載の発明において、配向成型体形成工程では、中間成型体(32)を形成した後、中間成型体を乾燥させると共に、脱脂して当該中間成型体(32)に空隙を形成する工程を行い、配向成型体形成工程の後、配向成型体(33)の空隙を含む領域にマトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことができる。
【0024】
さらに、請求項11に記載の発明のように、請求項8に記載の発明において、配向成型体形成工程の後、配向成型体(33)を乾燥させると共に、脱脂して当該配向成型体(33)に空隙を形成する工程を行い、配向成型体形成工程の後、配向成型体(33)の空隙を含む領域にマトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことができる。
【0025】
また請求項12に記載の発明のように、混合工程では、グラファイト粒子(20)および添加物に加えて、マトリックス材配置工程を行うときの処理温度よりも融点の高い純金属または合金を混練して混合物(30)を準備し、マトリックス材配置工程では、マトリックス材(10)として純金属または合金を用いることができる。このような製造方法では、グラファイト粒子(20)が純金属または合金と強固に接合するため、純金属または合金を介して、グラファイト粒子(20)とマトリックス材(10)との親和性を向上させることができる。
【0026】
また、請求項13に記載の発明のように、グラファイト粒子(20)の表面および裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、グラファイト粒子(20)全体において、表面と裏面との間の長さに対する平面長さの比であるアスペクト比の平均が5〜100であるものを用いることができる。
【0027】
そして、請求項14に記載の発明のように、グラファイト粒子(20)の表面および裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、グラファイト粒子(20)全体において、平面長さの平均が10μm以上1000μm以下とされているものを用いることができる。
【0028】
これら請求項13および14のような製造方法では、配向成型体形成工程においてグラファイト粒子(20)を一方向に配向させやすく、また、混合工程においてグラファイト粒子(20)自体が破壊されることを抑制することができる。
【0029】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態における複合材料の斜視模式図である。
【図2】複合材料の厚さ方向の熱伝導率と、複合材料の一面に対する法線と仮想線との成す角度との関係をシミュレーションにより調べた結果を示す図である。
【図3】配向成型体の製造工程を示す図である。
【図4】(a)は本発明の第2実施形態にかかる中間成型体を製造する押し出し機の断面構成を示す図であり、(b)は(a)に示す金型の平面図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかる配向成型体の平面図である。
【図6】(a)は図5に示す配向成型体を製造する押し出し機の断面構成を示す図であり、(b)は(a)に示す金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態における複合材料を示す斜視模式図であり、この図に基づいて説明する。なお、この複合材料は、発熱部品とヒートシンクとの間に配置され、発熱部品にて発生する熱をヒートシンクに伝熱するものとして利用されると好適である。
【0032】
図1に示されるように、複合材料50は、マトリックス材10と、マトリックス材10中に配置される板状のグラファイト粒子20とを含んで構成されている。そして、マトリックス材10が全体の80〜10体積%を占めると共にグラファイト粒子20が全体の20〜90体積%を占めて構成されており、一面および当該一面と反対側の他面を有している。なお、特に限定されるものではないが、複合材料50は、例えば、一面に半導体機器等の発熱部品が接合され、他面に放熱部材としてのヒートシンクが接合される。
【0033】
グラファイト粒子20は、表面および当該表面と反対の裏面を有し、当該表面および裏面に沿ってグラファイト構造が延びている板状のものであり、後述する配向成型体形成工程のとき、詳しくは中間成型体形成工程のときに一定の方向に配向させることが容易な形状とされている。本実施形態のグラファイト粒子20の具体的な形状について以下に説明する。なお、以下では、グラファイト粒子20の表面および裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さをグラファイト粒子20の平面長さとして説明する。
【0034】
グラファイト粒子20は、グラファイト粒子20全体において、表面と裏面との間の長さ、つまり厚さに対する平面長さの比であるアスペクト比の平均が5〜100とされている。グラファイト粒子20全体のアスペクト比の平均が5未満の場合には、後述する中間成型体形成工程において、グラファイト粒子20を一方向に配向させることが困難になるためである。より良好な配向状態を得るためには、グラファイト粒子20全体のアスペクト比の平均が20以上であることが好ましい。また、グラファイト粒子20全体のアスペクト比の平均を大きくするほど、中間成型体形成工程においてグラファイト粒子20を配向させることがより容易になる傾向があるが、アスペクト比の平均が過大になると、後述の混合工程において、グラファイト粒子20自体が破壊されてしまうおそれがある。その結果、中間成型体形成工程において、グラファイト粒子20の配向性が低下するおそれがある。したがって、グラファイト粒子20全体のアスペクト比の平均は、100以下であることが好ましく、より好ましくは50以下であるのがよい。
【0035】
また、グラファイト粒子20は、グラファイト粒子20全体において、平面長さの平均が10μm以上1000μm以下とされている。グラファイト粒子20全体の平面長さの平均が10μm未満の場合には、後述の中間成型体形成工程において、グラファイト粒子20を一方向に配向させることが困難になるためである。より良好な配向状態を得るためには、グラファイト粒子20全体の平面長さの平均が10μm以上であることが好ましく、より好ましくは30μm以上であるのがよく、さらに好ましくは100μm以上であるのがよい。また、グラファイト粒子20全体の平面長さの平均が大きくなるほど、中間成型体形成工程においてグラファイト粒子20を配向させることがより容易になる傾向があるが、平面長さの平均が過大になると、後述の混合工程において、可塑性および保形性に優れた混合物が得られないおそれがある。その結果、中間成型体形成工程において、グラファイト粒子20の配向性が低下するおそれがある。したがって、グラファイト粒子20全体の平面長さの平均は、1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下であるのがよい。
【0036】
次に、グラファイト粒子20の配向状態について説明する。
【0037】
本実施形態では、複合材料50の一面のうち発熱部材と接合される接合領域を底面とし、当該底面を含み、一面から他面に向かって厚さ方向に延びる柱を仮想柱(以下、単に仮想柱という)50aとしたとき、グラファイト粒子20の全体のうちの75%以上が、次のように配向されている。すなわち、複合材料50の一面に対する法線と、当該法線をグラファイト粒子20の表面に当該表面に対する法線方向に投影してできる仮想線(以下、単に仮想線という)との成す角度が30°以下とされ、かつ、当該グラファイト粒子20の表面を含み、複合材料50における一面の平面方向に延びる平面を仮想面(以下、単に仮想面という)20aとすると、当該仮想面20aが仮想柱50a内を通過する状態で配向されている。なお、複合材料50に接合される発熱部材は、例えば、1辺を10mmとする正方形状の実装領域を有する半導体機器等であり、当該実装領域が複合材料50と接合される場合には、仮想柱50aは1辺を10mmとする四角柱となる。
【0038】
図2は、複合材料50の厚さ方向の熱伝導率と、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度との関係をシミュレーションにより調べた結果を示す図である。なお、図2中では、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が0°、言い換えると複合材料50の一面に対する法線と仮想線とが平行である場合の熱伝導率を100としている。
【0039】
図2に示されるように、複合材料50の厚さ方向の熱伝導率は、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が大きくなるにつれて低下し、特に複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°を超える角度から急激に低下している。したがって、本実施形態では、グラファイト粒子20の全体のうち75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下なる状態で配向されている。
【0040】
なお、厚さ方向の熱伝導率としては、従来のように複合材料の平面方向と平行な方向にグラファイト粒子を配置する場合と比較すれば、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が45°程度でも十分効果が得られる。しかしながら、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が45°以下とすると、角度が変動したときの熱伝導率の変動が大きく、複合材料50間での厚さ方向に対する熱伝導率の違いが大きくなる。このため、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度を30°以下とすることにより、複合材料50間の厚さ方向の熱伝導率の違いを抑制することができる。そして、より好ましくは、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が20°以下であるのがよい。
【0041】
また、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下であるグラファイト粒子20の割合が75%を下回ると、グラファイト粒子20の低熱伝導方向の影響が大きくなり、複合材料50の熱伝導率がマトリックス材10となる材料単体の熱伝導率を下回ってしまうおそれがある。このため、本実施形態では、グラファイト粒子20の全体のうちの75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となる状態で配向されている。さらに、より好ましくは、グラファイト粒子20の全体のうちの90%以上が複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となる状態で配向されるのがよい。
【0042】
マトリックス材10は、例えば、熱伝導率が高い銅やアルミニウム等の純金属が用いられる。また、熱膨張率や機械的強度等の他の特性も考慮する必要がある場合には、例えば、銅の合金またはアルミニウムの合金が用いられる。
【0043】
さらに、本実施形態では、複合材料50は、相対密度が95%以上とされている。95%以上の相対密度とは、複合材料50中に熱伝導を阻害する空隙がほとんど存在しないことである。すなわち、複合材料50中に空隙が存在する場合と比較して、熱伝導率や機械的強度等の特性を向上させることができる。
【0044】
なお、相対密度は、グラファイト粒子20およびマトリックス材10の体積%および真密度から演算される理想密度に対する実際の比を意味するものであり、相対密度=(実際の密度)/(理想密度)で演算される。また、理想密度は、理想密度=(グラファイト粒子の真密度)×(グラファイト粒子の体積%)/100+(マトリックス材の真密度)×(マトリックス材の体積%)/100により演算されるものである。
【0045】
ここで、実際の密度の測定方法について簡単に説明する。実際の密度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、アルキメデス法が用いられる。具体的には、まず、複合材料50の乾燥時の重量(乾燥重量)を測定し、その後、複合材料50を水に浸漬し、複合材料50の重量(含水重量)を測定する。続いて、含水重量と乾燥重量との差から、複合材料50に存在する空隙の体積を算出すると共に、複合材料50のうち空隙を除いた部分の体積を算出する。次に、複合材料50の乾燥重量を全体積(空隙の体積と空隙を除いた部分の体積との合計)で除算することにより、複合材料50の実際の密度が算出される。
【0046】
次に、このような複合材料50の製造方法について説明する。
【0047】
まず、上記平均アスペクト比および平均平面長さを有するグラファイト粒子20からなる粉末、水、バインダを用意した後、これらを混練して混合物を準備する混合工程を行い、自由に変形させることができると共に保形性を有する混合物を準備する。この工程では、例えば、65重量%のグラファイト粒子20と、30重量%の水と、5重量%のバインダとを混合して混合物を形成することができる。なお、本実施形態ではバインダが本発明の添加物に相当しており、バインダとしては、例えば、セルロース等を用いることができる。
【0048】
その後、混合物に対して加圧加工を含む工程を行い、グラファイト粒子20の全体のうち75%以上を、複合材料50を製造したときの一面に対する法線と、仮想線との成す角度が30°以下となり、かつ、仮想面20aが仮想柱50aに相当する部分を通過する状態で配向させた配向成型体33を形成する配向成型体形成工程を行う。図3に、本実施形態にかかる配向成型体の製造工程を示す。なお、仮想柱50aに相当する部分とは、後述する図3(f)の工程において、マトリックス材10が含浸されることにより仮想柱50aとなる部分のことを意味する。また、図3(a)〜(d)では、グラファイト粒子20を省略して示してある。
【0049】
まず、図3(a)および(b)に示されるように、混合物30を第1部材40および第2部材41によりプレスして平板状に圧延する。このとき、例えば、混合物の厚さが10mm以下であり、かつ、(圧延前の混合物の厚さ)/(圧延後の混合物の厚さ)で表される圧延率が10以上となるように圧延することにより、プレス方向とグラファイト粒子20の表面とをほぼ垂直にすることができる。グラファイト粒子20の表面または裏面にプレスによって押圧力が印加され、表面または裏面がプレス方向と垂直になろうとするためである。なお、圧延前の混合物30の厚さとは、当該混合物30のうちプレス方向と平行な方向であって、最も厚い部分の厚さのことである。次に、図3(c)に示されるように、平板状の混合物30を複数積層して圧着し、積層混合物31を形成する。
【0050】
その後、図3(d)に示されるように、まず、成型面42aを有する上型部材42および成型面43aを有する下型部材43を有する金型を用意する。本実施形態では、上型部材42の成型面42aが下型部材43の成型面43aに対して傾斜していると共に、下型部材43の断面形状が上型部材42側に開口部を有するコの字状とされている。また、上型部材42と下型部材43とを嵌合したとき、上型部材42と下型部材43とで囲まれる空間により三角柱が形成されるようになっている。
【0051】
そして、下型部材43に積層混合物31を配置した後、積層混合物31に対してプレス加工することにより、図3(e)に示されるように、押圧力が印加される方向と垂直である第1面32aと、当該第1面32aと対向すると共に第1面32aに対して傾斜している第2面32bとを有し、第1面32aと第2面32bとの間の間隔が狭くなる側の端部にて仮想柱50aに相当する部分の一部を構成する中間成型体32を形成する。なお、本実施形態では、第1面32aは上型部材42の成型面42aに押圧されることにより形成される面であり、第2面32bは下型部材43の成型面43aに押圧されることにより形成される面である。
【0052】
また、積層混合物31をプレス加工するとき、上型部材42から積層混合物31に印加される押圧力は成型面42aに対して垂直となるため、積層混合物31のうち上型部材42側に位置する部分のグラファイト粒子20は、表面(裏面)が上型部材42の成型面と平行になろうとする。同様に、下型部材43から混合物30に印加される押圧力も成型面43aに対して垂直となるため、積層混合物31のうち下型部材43側に位置する部分のグラファイト粒子20は、表面(裏面)が下型部材43の成型面43aに対して平行になろうとする。このため、仮想面20aは、第1面32aと第2面32bとの間の間隔が狭くなる側の端部、つまり仮想柱50aに相当する部分の一部を通過する状態で配向されることになる。なお、この工程では、中間成型体32は配向成型体の一部を構成するものであるため、複数の積層混合物31からそれぞれ中間成型体32を形成する。
【0053】
また、金型としては、上型部材42の成型面42aと下型部材43の成型面43aとのなす角度が5〜45°であるものを用いることが好ましく、より好ましくは10〜30°であるものを用いるのがよい。上型部材42の成型面42aと下型部材43の成型面43aとのなす角度が45°より大きいと、仮想面20aが第1面32aと第2面32bとの間の間隔が狭くなる側の端部を通過する状態に十分配向されない可能性があるためである。また、上型部材42の成型面42aと下型部材43の成型面43aとの成す角度が5°より小さいと、後述する配向成型体33を構成するために必要な中間成型体32の数が増え、工程が煩雑化するとともに、中間成型体32同士の接合部分が増えて熱伝導率が低下するおそれがあるためである。
【0054】
続いて、図示しないが、中間成型体32に対して、残留水分を揮発させる乾燥工程と、バインダを除去する脱脂工程とを行い、中間成型体32に空隙を形成する。乾燥工程は、例えば、大気中100℃で24時間保持することにより行うことができ、脱脂工程は、例えば、大気中400℃で5時間保持することにより行うことができる。
【0055】
その後、図3(f)に示されるように、複数の中間成型体32の第1面32aと第2面32bとを、例えば、ポリビニルアルコール系接着剤等を用いて、それぞれ接合することにより配向成型体33が製造される。
【0056】
なお、本実施形態では、各中間成型体32は同一形状の三角柱状とされているため、配向成型体33の中心部分に仮想柱50aに相当する部分が構成されることになるが、もちろん、中間成型体32の形状を適宜変更することにより、仮想柱50aに相当する部分が構成される領域を変更することが可能である。また、必須工程ではないが、配向成型体33を任意の形状に切断すると共に切断位置を適宜変更することによっても、仮想柱50aに相当する部分が構成される領域を変更することが可能である。
【0057】
次に、上記工程により製造された配向成型体33に対してマトリックス材10を含浸するマトリックス材配置工程を行う。具体的には、配向成型体33に対して溶湯鍛造を行うことにより、マトリックス材10を配置する。例えば、マトリックス材10として、アルミニウムを選択した場合、窒素雰囲気下において、750℃に加熱溶融したアルミニウム溶湯に配向成型体33を沈め、100MPaの圧力を印加することにより、配向成型体33の空隙部等にアルミニウム溶湯を含浸させることができる。
【0058】
その後、配向成型体33にマトリックス材10を含浸させたものを冷却し、適宜切断することにより、図1に示す複合材料50が製造される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の複合材料50では、グラファイト粒子20の全体のうちの75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている。このため、複合材料50の平面方向に加えて厚さ方向の熱伝導率も向上させることができる。また、複合材料50の接合領域に発熱部品を接合したとき、発熱部品から発生する熱は、複合材料50における接合領域に伝達された後、グラファイト粒子20を介して平面方向に伝達されると共に、厚さ方向にも伝達される。すなわち、このような複合材料50では、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されているため、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されていない複合材料50と比較して、発熱部品から伝達される熱を効果的に平面方向および厚さ方向に伝達することができる。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態における複合材料50の製造方法は、第1実施形態に対して中間成型体32の製造工程を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図4(a)は、本実施形態にかかる中間成型体32を製造する押し出し機の断面構成を示す図であり、図4(b)は図4(a)に示す金型の平面図である。
【0061】
図4(a)に示されるように、本実施形態では、押し出し機44を用いて中間成型体32を形成する。具体的には、押し出し機44は、円筒状の射出孔45と、射出孔45と連通する収容部46と、射出孔45と収容部46との間に位置し、射出孔45に向かって先細り形状とされたテーパ部47と、射出孔45に備えられ、開口部48aが三角形状とされた金型48とを備えた構成とされている。
【0062】
また、金型48としては、例えば、開口部48aが以下の形状であるものを用いることができる。すなわち、開口部48aのうち、中間成型体32の第1面32aを構成する部分48bと第2面32bを構成する部分48cのうち最も離れている部分の長さTが10mm以下であり、かつ、射出孔45の直径をRLとしたとき、RL/T≧1.5であり、かつ、第1面32aを構成する部分48bと第2面32bを構成する部分48cとが交差する頂角から最も離れた部分の長さをLとしたとき、1≦RL/L≦1.2であるものを用いることができる。
【0063】
そして、本実施形態では、このような押し出し機44を用いて中間成型体32を形成している。すなわち、混合物30を準備した後、当該混合物30を収容部46に配置し、収容部46に配置した混合物30を押圧して金型48を通過させることにより、三角柱状の中間成型体32を形成する。
【0064】
本実施形態では、収容部46に配置された混合物30は、テーパ部47を通過する際に、グラファイト粒子20の表面(裏面)が押出方向と平行になろうとする。そして、金型48、より詳しくは開口部48aをグラファイト粒子20が通過する際に、仮想面20aが第1面32aと第2面32bとの間の間隔が狭くなる側の端部を通過するようにグラファイト粒子20が配向された中間成型体32が製造される。
【0065】
このような製造方法としても、グラファイト粒子20の全体の75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている複合材料50を製造することができ、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態における複合材料50の製造方法は、第2実施形態に対して配向成型体33の製造工程を変更したものであり、その他に関しては第2実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図5は、本実施形態にかかる配置向成型体33の平面図である。
【0067】
図5(a)に示されるように、本実施形態の配向成型体33は、中心部分に位置する仮想柱50aに相当する部分50bと、複合材料50を製造したときの一面および他面と垂直となる第1面33aと、当該一面および他面と垂直となり、かつ第1面33aに対して傾斜しており、第1面33aとの間の間隔が狭くなる側の端部が仮想柱50aに相当する部分50b側となる第2面33bと、を構成する貫通孔34を複数有する構成とされている。言い換えると、本実施形態の配向成型体33は、第1、第2面33a、33bを構成する円弧を有し、開口部が扇形状とされた貫通孔34を複数有している。このような配向成型体33は以下のように製造される。
【0068】
図6(a)は図5に示す配向成型体33を製造する押し出し機の断面構成を示す図、図6(b)は図6(a)に示す金型の断面図である。なお、図6(b)は図6(a)のA−A断面に相当しており、図6(a)中の金型48は図6(b)のB−B断面に相当している。
【0069】
まず、図6(a)、(b)に示されるように、押し出し機として、上記第2実施形態の押し出し機44に対して金型48が以下のものを用意する。すなわち、金型48として、図6(b)に示されるように、開口部48aが、仮想柱50aを構成する部分50bを形成する第1穴49aと、第1穴49aと連通され、放射状に延び、第1、第2面33a、33bを構成すると共に、仮想柱50aに相当する部分50bから延設される部分を形成する第2穴49bと、各第2穴49bと連通され、第1、第2穴49a、49bを囲む第3穴49cとを有するものを用意する。第2穴49bは、具体的には、対向する壁面同士はそれぞれ第1面32aを構成する壁面、または第2面32bを構成する壁面であり、対向する壁面の間隔Tが5mm以下とされている。
【0070】
そして、このような押し出し機44を用意し、混合物30を準備した後、当該混合物30を収容部46に配置する。その後、収容部46に配置した混合物30を押圧して金型48を通過させることにより、上記構造の配向成型体33が製造される。
【0071】
本実施形態では、収容部46に配置された混合物30は、テーパ部47を通過する際に、グラファイト粒子20の表面(裏面)が押出方向と平行になろうとする。そして、金型48、より詳しくは開口部48aをグラファイト粒子20が通過する際に、グラファイト粒子20が上記のように配向された配向成型体33が製造される。
【0072】
なお、このような配向成型体33のうち、金型48の第3穴49cを通過することにより形成される部分、言い換えると配向成型体33の外縁部分は、マトリックス材配置工程を行う際に当該配向成型体33の形状を保持するためにのみ必要な部分である。そして、配向成型体33のうち第3穴49cを通過することにより形成される部分では、グラファイト粒子20は仮想面20aが仮想柱50aを構成する部分50bを通過する状態で配向されない。このため、マトリックス材配置工程を行った後に第3穴49cを通過することにより形成される部分を含む部分を適宜切断して除去することにより、グラファイト粒子20全体における75%以上の仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている複合材料50が製造される。
【0073】
このような製造方法としても、グラファイト粒子20の全体の75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている複合材料50を製造することができ、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(他の実施形態)
上記第1〜第3実施形態では、グラファイト粒子20と、水と、バインダとを混練して混合物30を準備する例について説明したが、さらに純金属や合金からなる金属粉末を混練して混合物30を準備するようにしてもよい。例えば、47重量%のグラファイト粒子20と、30重量%のTi粉末と、20重量%の水と、3重量%のバインダとを混合して混合物30を得ることができる。このような混合物30を用いて配向成型体33を形成した後、当該配向成型体33にマトリックス材10を含浸した場合には、例えば、マトリックス材10としてCuを採用した場合、Tiがグラファイト粒子20と強固に接合することにより、グラファイト粒子20とマトリックス材10との親和性を向上させることができる。なお、金属粉末してはもちろんTiの他にNi、Cr、Mo、W、Fe、V、Co、Zr、Mg、Cu、Si等を採用することができ、マトリックス材10との親和性を考慮して選択することが好ましい。ただし、添加する金属粉末の融点が、マトリックス材10を含浸するときの処理温度よりも高くなるように、添加する金属粉末の種類を選択する必要がある。
【0075】
同様に、混合工程の前に、グラファイト粒子20に、金属、セラミックまたは樹脂等をコーティングしてもよい。この場合も、コーティングする材料をマトリックス材10との親和性を考慮して選択することにより、グラファイト粒子20とマトリックス材10との親和性を向上させることができる。
【0076】
また、上記第1実施形態では、積層混合物31をプレスすることにより三角柱状の中間成型体32を形成する工程について説明したが、例えば、第1面32aと第2面32bとを有する多角柱状の成型体を形成し、その後、当該成型体を切断等することにより三角柱状の中間成型体32を形成することもできる。すなわち、上記第1実施形態では、下型部材43の断面形状が上型部材42側に開口部を有するコの字状とされており、上型部材42と下型部材43とを嵌合したとき、上型部材42と下型部材43とで囲まれる空間により三角柱が形成されるようになっているものを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、上型部材42および下型部材43の形状は適宜変更可能である。例えば、下型部材43として、成型面43aの端部にコの字状を構成する側壁を備えていないものを用いることができる。この場合は、各中間成型体32として、第1面32aと第2面32bとの間の間隔が広くなる側の端部の外側の部分に上型部材42および下型部材43にてプレスされない部分を有するものが構成される。このため、当該部分を適宜切断等することにより、上記図3(e)の中間成型体32を形成するようにしてもよい。
【0077】
さらに、上記第1実施形態では、積層混合物31をプレス加工して中間成型体32を形成する工程について説明したが、例えば、上記図3(b)の工程にて混合物30を平板状とした後、当該平板状の混合物30を上記図3(d)の金型に配置してプレス加工することにより、三角柱状の中間成型体32を形成することもできる。
【0078】
また、上記図3(b)および(c)の工程を行わず、混合物30を上記図3(d)の金型に配置し、当該混合物30をそのままプレス加工することにより三角柱状の中間成型体32を形成することもできる。この製造工程では、混合物30をプレス加工する段階で、上型部材42から混合物30に印加される力は成型面42aに対して垂直となるため、混合物30のうち上型部材42側に位置する部分のグラファイト粒子20は、表面(裏面)が上型部材42の成型面と平行になろうとする。また、下型部材43から混合物30に印加される力も成型面42aに対して垂直となるため、混合物30のうち下型部材43側に位置する部分のグラファイト粒子20は、表面(裏面)が下型部材の成型面に対して平行になろうとする。このため、グラファイト粒子20は、仮想面20aが第1面32aと第2面32bとの間の間隔が狭くなる側の端部を通過する状態で配向される。
【0079】
さらに、上記第1、2実施形態では、中間成型体32に対して乾燥工程と脱脂工程とを行った後配向成型体33を製造したが、例えば、中間成型体32に対して脱脂工程を行わずに、接着して配向成型体33を製造し、該配向成型体33に対して脱脂処理を行ってもよい。また、この場合には該配向成型体33に対して脱脂処理を行わずに溶湯鍛造を行ってもよい。脱脂工程を行わずに溶湯鍛造を行った場合には、溶湯鍛造時に配向成型体33に空隙が形成されると共に、当該空隙を含む位置にマトリックス材10が配置される。
【0080】
また、脱脂工程を行う代わりにバインダ炭化処理を行うことによっても、配向成型体33に空隙を形成することができる。もちろん、脱脂工程に続いてバインダ炭化処理を行うこともできる。なお、バインダ炭化処理は、例えば、窒素雰囲気中800℃で2時間保持することにより行うことができる。
【0081】
そして、上記第1〜第3実施形態の中間成型体32に対して、または、配向成型体33に対して、複合材料50を製造したときの一面および他面と垂直となり、一面から他面に向かって貫通する複数の貫通孔を形成することもできる。このような貫通孔を形成した場合には、マトリックス材配置工程において、配向成型体33の外壁側からだけでなく、形成した貫通孔の壁面からもマトリックス材10が浸入するので、空隙内へのマトリックス材10の充填を短時間で行うことができる。
【0082】
また、上記第3実施形態において製造される配向成型体33の貫通孔34に、さらに混合物30を充填しても良い。例えば、以下のようにして配向成型体33の貫通孔34内に混合物30を充填することができる。すなわち、図6(a)の押し出し機において、金型48の代わりに射出孔45に配向成型体33を配置し、押出成型により貫通孔34内に混合物30を押し込む。このとき、収容部46に配置された混合物30は、テーパ部47を通過する際に、グラファイト粒子20の表面(裏面)が押出方向と平行になろうとする。そして、配向成型体33に形成された貫通孔34にて構成される第1、第2面33a、33bに沿ってグラファイト粒子20が充填される際に、仮想面20aが第1、第2面33a、33bの間隔が狭くなる側の端部を通過する状態で配向される。
【0083】
さらに、上記第1〜第3実施形態では、マトリックス材10として金属材料を採用した場合のマトリックス材配置工程として溶湯鍛造法を用いた例を説明したが、金属溶湯を配向成型体33の空隙に充填できればこの方法に限定されるものではなく、例えば、一般的な鋳造法を用いることもできる。
【0084】
また、マトリックス材10としては、金属材料に限定されるものではなく、例えば、樹脂材料を用いることもできる。マトリックス材10として樹脂材料を用いた場合には、上記マトリックス材配置工程において、液体状態の樹脂を配向成型体33の空隙に充填した後に硬化させればよい。そして、上記第1〜第3実施形態の混合工程において、グラファイト粒子20と、液体状態の樹脂材料だけを混合して混合物30を準備し、配向成型体形成工程を実施した後に樹脂材料を硬化させて複合材料を得ることもできる。この場合は、樹脂材料が本発明の添加物に相当することになる。
【0085】
さらに、上記第2実施形態では、開口部48aが三角形状である金型48を用いた例について説明したが、例えば、開口部48aが扇形状である金型48を用いることもできる。
【0086】
また、上記第1、第2実施形態において、配向成型体33は、中間成型体32同士の全ての接合界面が強固に接着されていなくても良く、上記マトリックス材配置工程において最終的に一体の複合材料となるように配置されていれば良い。例えば、各中間成型体32はそれぞれ接着されていなくてもよいし、複数の中間成型体32を接合することにより構成される合成中間形成体を複数個製造し、当該合成中間成型体をそれぞれ接着せず、所定の位置関係に並べただけでもよい。このように、中間成型体32の全てを接着しないような場合には、例えば、治具を用いて中間成型体32の位置関係が変更しないようにしながらマトリックス材配置工程を行えばよい。
【0087】
さらに、上記第1、第2実施形態では、配向成型体33にマトリックス材配置工程を行う例について説明したが、例えば、中間成型体32にマトリックス材配置工程を行うこともできる。すなわち、複数の中間成型体32に対して上記マトリックス材配置工程を実施して複数の中間複合材料を形成し、この中間複合材料同士を適宜接合したり、切断したりすることにより、上記第1実施形態の複合材料50を製造するようにしてもよい。
【0088】
また、上記第1実施形態では、グラファイト粒子20の全体のうち75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている複合材料50の製造方法について説明したが、例えば、圧延後の平板の厚さを薄くしたり、圧延率を大きくすることにより、さらに、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となるグラファイト粒子20を多くすることができる。例えば、グラファイト粒子20の全体のうちの90%以上を複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となるように配向させるには次のようにすればよい。すなわち、例えば、上記図3(a)の工程において、圧延後の平板状の厚さを2mm以下とし、かつ圧延率を30以上とし、上型部材42の成型面42aと下型部材43の成型面43aとのなす角度が10〜20°となる金型を用いればよい。
【0089】
同様に、上記第2実施形態において、グラファイト粒子20の全体のうち90%以上を複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となるように配向させるには次のようにすればよい。例えば、金型48として、中間成型体32の第1面32aを構成する部分48bと第2面32bを構成する部分48cのうち最も離れている部分の長さTが8mm以下であり、かつ、RL/T≧5であり、かつ、RL/L=1であり、第1面32aを構成する部分48bと第2面32bを構成する部分48cとの成す角度が10〜20°であるものを用いればよい。
【0090】
さらに、上記第3実施形態において、グラファイト粒子20の全体のうち90%以上を複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となるように配向させるには次のようにすればよい。すなわち、例えば、金型49として、第2穴49bにおける対向する壁面Tを1mm以下とすればよい。
【0091】
また、上記第1〜第3実施形態では、グラファイト粒子20の全体のうちの75%以上が、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配向されている複合材料について説明したが、例えば、次のような複合材料50とすることもできる。すなわち、従来のように複合材料の平面方向と平行な方向にグラファイト粒子を配置する場合と比較すれば、グラファイト粒子20の少なくとも一部を、複合材料50の一面に対する法線と仮想線との成す角度が30°以下となり、仮想面20aが仮想柱50aを通過する状態で配置してなる複合材料50とすれば、平面方向のみならず、厚さ方向の熱伝導率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
10 マトリックス材
20 グラファイト粒子
20a 仮想面
50 複合材料
50a 仮想柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス材(10)と、前記マトリックス材(10)中に配置され、表面および前記表面と反対の裏面を有し、前記表面および前記裏面に沿って六角網構造が延びている板状のグラファイト粒子(20)と、を含み、前記グラファイト粒子(20)が全体の20〜90体積%を占めて構成されていると共に、一面および前記一面と反対側の他面を有し、前記一面が発熱部材と接合される複合材料において、
前記一面の所定領域に前記発熱部材と接合される接合領域を有し、前記接合領域を底面とし、前記一面から前記他面に向かって厚さ方向に延びる柱を仮想柱(50a)としたとき、
前記グラファイト粒子(20)の少なくとも一部が、前記一面に対する法線と、当該法線を前記グラファイト粒子(20)の表面に当該表面に対する法線方向に投影してできる仮想線との成す角度が30°以下とされ、かつ、当該グラファイト粒子(20)の表面を含み、前記一面の平面方向に延びる平面を仮想面(20a)とすると、当該仮想面(20a)が前記仮想柱(50a)内を通過する状態で配向されていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記グラファイト粒子(20)の前記表面および前記裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、前記グラファイト粒子(20)全体において、前記表面と前記裏面との間の長さに対する前記平面長さの比であるアスペクト比の平均が5〜100とされていることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記グラファイト粒子(20)の前記表面および前記裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、前記グラファイト粒子(20)全体において、平面長さの平均が10μm以上1000μm以下とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記表面と、前記一面に対する法線との成す角度が30°以下とされ、かつ、前記仮想面(20a)が前記仮想柱(50a)内を通過する状態で配向されているグラファイト粒子(20)は、グラファイト粒子(20)全体の75%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の複合材料。
【請求項5】
マトリックス材(10)と、前記マトリックス材(10)中に配置され、表面および前記表面と反対の裏面を有する板状のグラファイト粒子(20)と、を含み、前記グラファイト粒子(20)が全体の20〜90体積%を占めて構成されていると共に、一面および前記一面と反対側の他面を有し、前記一面が発熱部材と接合され、
前記一面の所定領域に前記発熱部材と接合される接合領域を有し、前記接合領域を底面とし、前記一面から前記他面に向かって厚さ方向に延びる柱を仮想柱(50a)としたとき、
前記グラファイト粒子(20)の少なくとも一部が、前記一面に対する法線と、当該法線を前記グラファイト粒子の表面に当該表面に対する法線方向に投影してできる仮想線との成す角度が30°以下とされ、かつ、当該グラファイト粒子(20)の表面を含み、前記一面の平面方向に延びる平面を仮想面(20a)とすると、当該仮想面(20a)が前記仮想柱(50a)内を通過する状態で配向されてなる複合材料の製造方法であって、
前記グラファイト粒子(20)と添加物とを混練して混合物(30)を準備する混合工程と、
前記混合物(30)に対して加圧加工する工程を含み、前記グラファイト粒子(20)の少なくとも一部を、前記法線と、前記仮想線との成す角度が30°以下となり、かつ、前記仮想面(20a)が前記仮想柱(50a)に相当する部分を通過する状態で配向させた配向成型体(33)を形成する配向成型体形成工程と、を含むことを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記配向成型体形成工程では、前記混合物(30)をプレス加工することにより、押圧力が印加される方向と垂直である第1面(32a)と、前記第1面(32a)と対向すると共に前記第1面(32a)に対して傾斜している第2面(32b)とを有し、前記第1面(32a)と前記第2面(32b)との間の間隔が狭くなる側の端部にて前記仮想柱(50a)に相当する部分の一部を構成する中間成型体(32)を形成し、複数の前記混合物(30)からそれぞれ当該中間成型体(32)を複数形成する工程と、複数の前記中間成型体(32)の前記第1面(32a)と前記第2面(32b)とをそれぞれ接合することにより前記配向成型体(33)を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記配向成型体形成工程では、複数の前記混合物(30)を押出成型して、押出方向と平行である第1面(32a)と、前記第1面(32a)と対向すると共に前記第1面(32a)に対して傾斜している第2面(32b)とを有し、前記第1面(32a)と前記第2面(32b)との間の間隔が狭くなる側の端部にて前記仮想柱(50a)に相当する部分の一部を構成する中間成型体(32)を形成し、複数の前記混合物(30)からそれぞれ当該中間成型体(32)を複数形成する工程と、複数の前記中間成型体(32)の前記第1面(32a)と前記第2面(32b)とをそれぞれ接合することにより前記配向成型体(33)を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記配向成型体形成工程では、前記混合物(30)を押出成型して、前記仮想柱(50a)に相当する部分(50b)と、前記一面および前記他面と垂直となる第1面(33a)と、前記一面および前記他面と垂直となり、かつ前記第1面(33a)に対して傾斜しており、前記第1面(33a)との間の間隔が狭くなる側の端部が前記仮想柱(50a)に相当する部分(50b)側となる第2面(33b)と、を構成する複数の貫通孔(34)と、を有する配向成型体(32)を形成することを特徴とする請求項5に記載の複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記配向成型体形成工程の後、前記配向成型体(33)にマトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1つに記載の複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記配向成型体形成工程では、前記中間成型体(32)を形成した後、前記中間成型体を乾燥させると共に、脱脂して当該中間成型体(32)に空隙を形成する工程、を行い、
前記配向成型体形成工程の後、前記配向成型体(33)の前記空隙を含む領域に前記マトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことを特徴とする請求項6または7に記載の複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記配向成型体形成工程の後、前記配向成型体(33)を乾燥させると共に、脱脂して当該配向成型体(33)に空隙を形成する工程、を行い、
前記配向成型体形成工程の後、前記配向成型体(33)の前記空隙を含む領域に前記マトリックス材(10)を含浸するマトリックス材配置工程を行うことを特徴とする請求項8に記載の複合材料の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程では、前記グラファイト粒子(20)および添加物に加えて、前記マトリックス材(10)配置工程を行うときの処理温度よりも融点の高い純金属または合金を混練して混合物(30)を準備し、
前記マトリックス材配置工程では、前記マトリックス材(10)として純金属または合金を用いることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1つに記載の複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記グラファイト粒子(20)の前記表面および前記裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、前記グラファイト粒子(20)全体において、前記表面と前記裏面との間の長さに対する前記平面長さの比であるアスペクト比の平均が5〜100であるものを用いることを特徴とする請求項5ないし12のいずれか1つに記載の複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記グラファイト粒子(20)の前記表面および前記裏面のうち平面方向の長さが最も長い部分の長さを平面長さとしたとき、前記グラファイト粒子(20)全体において、平面長さの平均が10μm以上1000μm以下とされているものを用いることを特徴とする請求項5ないし13のいずれか1つに記載の複合材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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