説明

複合糖材成形品及びその製造方法

【課題】 本発明は、廃棄処理において環境負荷が極めて少なく、効率的、低コスト、かつ安全性が高く、さらには構造体としての強度が大きく、安定性が高く、また加工精度が高い、任意形状の汎用成形品となる、複合糖材成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 結晶水が除去された無水糖類と多糖類水溶物との混合により水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として乾燥、固形化させた複合糖材成形品及びその製造方法であり、これにより上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶水が除去された無水糖類と多糖類水溶物を混合して得られる水溶性複合糖材を基本材料(基材)とする複合糖材成形品、及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、結晶水が除去された無水マルトースまたは無水糖類と、プルラン水溶物または多糖類水溶物を組み合わせて混合して得られる、水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般の成形品について、世の中の要請に従うと、廃棄処理方法を念頭に入れた原料素材、すなわち環境に優しい基材の開発が必要になっている。大半の成形品の基材はプラスチックなどの石油系であるので、燃焼以外の方法で消失させることは極めて困難である。しかも燃焼時に発生する廃棄ガスは大きな環境問題となっている。要するに、成形品の基材としては、廃棄後、可能な限り自然に消失することが理想であると言える。例えば、生分解性プラスチックとして代表的なものにポリ乳酸の成形品がある。この成形品は確かに微生物によって侵食され、長期間が経てば消失されるので、廃棄処理において良好な基材である。しかしながら、微生物による侵食にかなり長期間を要するため、この成形品を微生物により完全に消失させることは、現実の環境対策として考えると非効率的、かつ高コストであると言わざるを得ない。また、石油系及び生分解性プラスチック系成形品ともに、難消化性のために、万一、人が誤ってそれらを口から体内に入れた場合、非常に危険であり、安全性の面からみても問題がある。
【0003】
他方、廃棄処理が容易な素材として、我々に最も身近で安全なものに糖類がある。従来より糖類の成形は、飴細工のような伝統芸的な技巧はあったが、科学的な観点から任意形状の汎用成形品として技術開発した例は未だ存在しない。また近年では、角砂糖等のような簡易な形状の糖類の成形品はあったが、これは耽美品としての形状であって、機能を持たせるほど加工精度の高い成形品ではなかった。
【0004】
このような開発状況下、糖類を基材とする汎用成形品以外の例としてではあるが、マルトースのような糖質のみを主成分素材とした微細針を集合化させたマイクロパイルがある(例えば、特許文献1参照)。これは確かに廃棄処理が容易で、かつ安全性の高い微細針としての成形品ではあるが、マルトースのような糖質のみを主成分素材にしているため、吸湿性が高く、かつ構造体としての強度も小さく、安定性にも欠けるという点で問題があった。それ故に、マルトースのような糖質のみでは微細針のような微細成形品には適さないだけでなく、任意形状の汎用成形品にも適応できないという解決が困難な問題があった。
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上に述べた従来技術による成形品では、石油系成形品の場合には廃棄処理に多大な環境負荷をかけたり、生分解性プラスチック系成形品の場合には非効率的かつ高コストであったり、更には安全性の面で問題があったり、またマルトースのような糖質のみを主成分素材とする微細針の場合には吸湿性が高く、かつ構造体としての強度も小さく、安定性にも欠け、加工精度が低く、任意形状の汎用成形品には不適であるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有していた様々な問題を解決しようとするものであり、廃棄処理において環境負荷が極めて少なく、効率的、低コスト、かつ安全性が高く、さらには、吸湿性が高くても構造体としての強度が大きく、安定性が高く、また加工精度が高い、任意形状の汎用成形品となる、複合糖材成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、課題を解決するための手段として、
(1)結晶水が除去された無水糖類と多糖類水溶物を混合して得られる水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品、並びに、
(2)結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定形状の成形物と成し、前記成形物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品、並びに、
(3)結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定の金型に充填して成型物と成し、前記成型物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品、並びに、
(4)前記無水糖類が無水マルトースであることを特徴とする前記(1)から(3)いずれかの水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品、並びに、
(5)前記多糖類水溶物がプルラン水溶物であることを特徴とする前記(1)から(4)いずれかの水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品、並びに、
(6)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を、歯車形状または開放部を有する形状に加工した部品により、組み立て構成される水溶性複合糖材の機械駆動体、並びに、
(7)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を、ねじ形状に加工した部品により、組み立て構成される水溶性複合糖材の機械部品、並びに、
(8)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を、プルラン薄膜シート上に積層または付着させることにより製作した水溶性の厚膜複合糖材シート、並びに、
(9)前記(8)の厚膜複合糖材シートを、前記シートに対して垂直方向に切断加工して製作した部品により、組み立て構成される水溶性構造体、並びに、
(10)前記(8)の厚膜複合糖材シートを、パイプ状または円柱状に加工したことを特徴とする水溶性のパイプ構造体または円柱構造体、並びに、
(11)前記(8)の厚膜複合糖材シートの複数枚同士を水で接着させた後に、乾燥して得られる水溶性の袋状またはケース状の組み立て構造体、並びに、
(12)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする玩具、並びに、
(13)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする食品用ケース、並びに、
(14)前記(1)から(5)いずれかの複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする乾燥剤成形品、並びに、
(15)結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定形状の成形物と成し、前記成形物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品の製造方法、並びに、
(16)結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定の金型に充填して成型物と成し、前記成型物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品の製造方法、並びに、
(17)前記無水糖類が無水マルトースであることを特徴とする前記(15)または(16)の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品の製造方法、並びに、
(18)前記多糖類水溶物がプルラン水溶物であることを特徴とする前記(15)から(17)いずれかの水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品の製造方法、
としたものである。
【0008】
以上の課題解決手段による作用は、使用する糖類を結晶水の除去により無水糖類とし、これを多糖類水溶物と混合することにより、アモルファス(非結晶)構造を有し、粘性を有する水溶性複合糖材を生成させ、この形状の自由度が高い複合糖材を基材とし、これを所定形状の成形物と成した後、この成形物を乾燥して固形化させれば任意形状の製作が可能な糖類の汎用成形品を製造することが可能となる。また、この水溶性複合糖材はアモルファス構造を有することによって粒界の発生を防ぐことができ、この複合糖材を基材とし、これを所定形状の成形物と成した後、この成形物を乾燥して固形化させれば加工精度の高い複合糖材成形品を製造することが可能となる。さらには、この複合糖材を基材として所定の形状の金型に充填して成型物と成した後、この成型物を乾燥して固形化させれば任意形状の製作が可能な糖類の汎用成形品を製造することが可能となる。また、結晶水が除去された無水糖類の粉末を多糖類水溶物と混合することにより、粉末のため多糖類水溶物との混合が容易となり、粘性を有する水溶性複合糖材の生成がより容易となり、これを基材とする複合糖材成形品が製造し易くなる。尚、無水糖類と多糖類水溶物が混合して得られる水溶性複合糖材については、この基材を所定の時間だけ放置することにより、多糖類水溶物中の水分を無水糖類が無水物化している為に取り込み易くなるが、この時の体積変化は極めて少なく、形状の安定した複合糖材成形品ができる。ちなみに、上記の水分の取り込みにより、複合糖材中の無水糖類が結晶化して固形化するが、複合糖材中に混在する多糖類がその無水糖類の結晶化を阻むために、複合糖材中の無水糖類の結晶化はごく一部にとどまるので、複合糖材全体としてはアモルファス構造となる。また、本発明による複合糖材は、無水糖類と多糖類水溶物とが微細構造的に複合化してなる糖材料であり、機能的にはそれら無水糖類と多糖類水溶物の複合効果を有するものである。
【0009】
また、無水糖類として無水マルトースを用いた場合、低分子量かつ無水物であるために多糖類水溶物との混合がし易く、容易に水溶性複合糖材が得られ、これを基材とする複合糖材成形品をより容易に製造することが可能となる。さらには、多糖類水溶物としてプルラン水溶物を用いた場合、プルランが水に対する溶解性、安定性に優れているために、無水マルトースに代表される無水糖類との混合がし易く、容易に粘性を有する水溶性複合糖材が得られ、これを基材とする複合糖材成形品を製造できる。
【0010】
次に、本発明では、高精度の微細加工を必要としない、任意形状の汎用成形品を製造するので、粒界を有する無水結晶マルトースに代表される無水結晶糖類を用いることができる。また、そのような汎用成形品であっても、粒界を有しない無水非結晶マルトースなどの無水非結晶糖類を用いることも可能である。尚、結晶マルトースのような結晶糖類を成形するには、室温場において体積変形は起こらないが、成形が可能な柔軟状態にするためには100℃前後の高温場に保持する必要がある。一方、プルランでは乾燥して固形化すると、水分が蒸発して体積の減少が変形をもたらす問題があるものの、プルラン水溶物は粘性状態であるので、自由な形状に室温場で成形することができる。すなわち、本発明の課題解決手段による作用では、無水結晶マルトースまたは無水非結晶マルトースなどの無水結晶または無水非結晶糖類を、室温場で任意形状に成形可能なプルクン水溶物と混合して、室温で自由な形状で、かつ加工精度の高い成形をも可能な水溶性複合糖材を製造することができ、さらにはそれを基材として任意形状の汎用成形品を製造することが可能となる。その複合糖材を所定の時間だけ混合、または放置することにより、この複合糖材中の無水マルトースが水分を取り込み、混在するプルランにより一部で結晶化して固形化が行われるものの、複合糖材全体としてはアモルファス構造を有することになり、その後、この複合糖材は乾燥して固形化するのである。この時、体積変化が極めて少ない成形品ができるが、これは水溶性であるので下水に溶かし込んで容易に廃棄できる、すなわち廃棄処理が容易な環境問題対応型成形品となるのである。尚、本発明では無水糖類と多糖類水溶物を用いるので、人に対しても安全、すなわち、人が誤って複合糖材成形品を飲み込んでも、体内では水と接触して溶解し、その溶解物も糖類であるから体内に吸収されても安全である。
【0011】
そして、本発明の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品は、廃棄処理において効率的かつ低コストであり、さらには、吸湿性が高くても構造体としての強度が大きく、安定性、安全性が高く、加工精度も高い、任意形状の汎用成形品となるのである。その任意形状の汎用成形品としては、(a)複合糖材を歯車形状または開放部を有する形状に加工した部品により組み立て構成される水溶性複合糖材の機械駆動体、(b)複合糖材をねじ形状に加工した部品により組み立て構成される水溶性複合糖材の機械部品、(c)プルラン薄膜シート上に複合糖材を積層または付着させることにより製作した水溶性の厚膜複合糖材シート、(d)厚膜複合糖材シートをそのシートに対して垂直方向に切断加工して製作した部品により組み立て構成される水溶性構造体、(e)厚膜複合糖材シートをパイプ状または円柱状に加工したことを特徴とする水溶性のパイプ構造体または円柱構造体、(f)厚膜複合糖材シートの複数枚同士を水で接着させた後に、乾燥して得られる水溶性の袋状またはケース状の組み立て構造体、(g)複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする玩具、(h)複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする食品用ケース、(i)複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする乾燥剤成形品、などがある。尚、前記(i)の乾燥剤成形品は、乾燥剤として使用し易い形状であれば任意形状の成形品で良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合糖材を基材とする複合糖材成形品は、水溶性のために廃棄処理において環境負荷が極めて少なく、効率的かつ低コストで安全性が高く、さらには、吸湿性が高くても構造体としての強度が大きく、安定性が高く、加工精度も高い、任意形状の汎用成形品となるものである。
【0013】
本発明により、水溶性複合糖材を基材として、多目的で、環境問題対策型の汎用成形品や乾燥剤成形品が製作でき、その汎用成形品の使用後の廃棄は、水溶性であるので、温水または常温水に入れることによって下水に流し込むことができ、簡単に廃棄できるので、廃棄処理コストの低減は極めて効果的である。さらには、人が誤ってそれら汎用成形品や乾燥剤成形品を摂食したとしても、それらの基材が水溶性複合糖材であるために、体内で溶解し、体内で吸収されても安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明における水溶性複合糖材を基材とする任意形状の汎用複合糖材成形品の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
本発明において用いる無水糖類としては、単糖類ではグルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース(脳糖)などの無水物、二糖類では、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオース、トレハロースなどの無水物があげられ、その他には三糖類、四糖類などのオリゴ糖の無水物、さらにはキシリトール、マルチトール、還元水飴などの糖アルコールの無水物などがあげられるが、水溶性糖類であれば特には限定されない。特に、製品としての実績が高く(品質が安定し、製品の入手が容易など)、低温溶解性、糖類中で比較的低分子量で多糖類水溶物との混合が容易などの点から、無水マルトースを用いることが好ましい。ちなみに、無水マルトースに代表される無水糖類には結晶物と非結晶物とがあるが、これは無水糖類の結晶水の除去方法に依存するが、特には加熱方法(加熱速度、加熱温度、加熱時間など)に強く影響される。本発明では、加工精度は高いものの、精度の高い微細加工までも必要としない、任意形状の汎用成形品であるので、無水結晶糖類が十分に使用できる。
【0016】
本発明において用いる多糖類水溶物としては、デキストラン、プルラン、デキストリンなどの水溶性多糖類の水溶物が好適に用いられ、水溶性多糖類であれば特に限定されないが、水溶性、製品実績、低コストの点から、プルラン水溶物を用いることが好ましい。この多糖類水溶物の濃度は、5から90重量%の範囲が好ましく、さらには10から50重量%の範囲がより好ましい。その理由は、5重量%以下では多糖類の濃度が低すぎ、逆に言えば水の濃度が高すぎて無水糖類との混合が非効率で乾燥に多大なエネルギーと時間を要し、固形化が困難になるからであり、90重量%以上では多糖類の濃度が極めて高くなり、粘性が大きくなりすぎて無水糖類との混合が極めて困難となるからである。
【0017】
本発明においては、無水糖類と多糖類との混合重量比は、1:0.05から50の範囲が好ましく、さらには1:0.1から10がより好ましく、これらの範囲を満たすように、上記の多糖類水溶物濃度を考慮しつつ、無水糖類と多糖類水溶物との混合重量比を定めれば良い。上記の無水糖類と多糖類との混合重量比の理由は、0.05以下では多糖類の濃度が低すぎてその特徴が現れないからであり、50以上では多糖類の濃度が高すぎて無水糖類の特徴が現れなくなるからである。尚、上記の無水糖類と多糖類水溶物との混合により得られる、粘性を有する水溶性複合糖材は、その粘性状態としては、それらの種類と混合比により、水飴状から粘土状まで広い範囲のものまで好適であるが、オイル状、グリース状、ワックス状などの粘性または粘着性の無いサラサラの水液状態では、乾燥に多大なエネルギーと時間を要するために非効率であり、成形品の基材としての使用が極めて困難となる。
【0018】
本発明では、100から110℃程度に加温して十分に結晶水が除去された無水マルトースと、粘性状態(水飴状から粘土状)になる程度に水分を加えたプルラン水溶物を混合して粘性を有する水溶性複合糖材をつくり、それを基材として所定の形状に成形し、その成形物を室温場で数時間放置することにより、乾燥、固形化させ、マルトースが結晶化して形状変化が極めて少ない水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品を得ることが好ましい。また、加熱温度は、用いる糖類の物性に応じて無水物化し易い最適温度を実験で決めれば良く、加熱時間も同様に最適時間を実験で決めれば良い。尚、無水マルトースはプルラン水溶物と混合し易くするために粉末化するほうが好ましい。さらには、前記の粘性を有する水溶性複合糖材を所定の形状の金型に充填することによって成形した後、所定の時間だけ放置することにより乾燥、固形化させることが好ましい。この場合、金型に充填後、圧力成型を行っても良い。
【0019】
本発明では、複合糖材を基材とする駆動可能な機械の場合、これをケーキ等の食品上に配置し、食することが十分に可能である。例えば、ケーキ上に複合糖材を基材とする成形部品から構成されたメリーゴーランドを設置した場合、このメリー・ゴーランドをも安全に食することができる。この複合糖材を基材とする機械駆動体では、メリーゴーランドの例のように、回転軸、回転駆動部、ねじ止め部などには、複合糖材を歯車形状または開放部を有する形状に加工した部品により組み立て構成される機械駆動体が好適に用いられ、また同材をねじ形状に加工した部品により組み立て構成される機械部品が好適に使用される。
【0020】
本発明では、従来100μmm以下の薄膜糖材シートしか存在しなかったが、プルラン薄膜シート上に本発明の複合糖材を積層または付着させることにより、2mm以上の厚膜複合糖材シートを好適に製作することができる。この厚膜複合糖材シートは、その安全性を活かして食品保護シートや医療器具保護シートへの応用もでき、また1mm以下の厚膜複合糖材シートであれば薬の保護シートへの応用も好適である。また、その厚膜複合糖材シートに対して垂直方向に切断加工して製作した部品により組み立て構成される水溶性構造体を、例えば、厚みが要求される食品保護シート、医療器具保護シート、薬保護シート、さらには医療機器の包装用パッケージへ応用することも好適である。これらの廃棄は容易であり、下水などにそのシートやパッケージを流すだけである。これにより、病院等から排出されるパッケージの処理が非常に簡便になり、コスト低減、安全性の向上、等々の問題が解決できる。
【0021】
本発明では、前記の厚膜複合糖材シートをパイプ状または円柱状に加工したことを特徴とする水溶性のパイプ構造体または円柱構造体を好適に製作することが可能であり、例えば、それらは工場配管模型の配管部品や神殿模型の柱部品などへの応用も好適であり、これら模型の全部品が本発明の複合糖材を基材としているのであれば、これらを摂食したとしても十分に安全である。
【0022】
本発明では、前記の厚膜複合糖材シートの複数枚同士を水で接着させた後に、乾燥して得られる水溶性の袋状またはケース状の組み立て構造体を好適に製作することが可能であり、例えば、それらは安全性が要求される粉薬用包装袋やカプセル用ケースなどへの応用も好適である。
【0023】
本発明では、現在市販の玩具の素材である石油系樹脂の代替品として、本発明の複合糖材を基材として使用しても良く、この基材を成形加工した玩具の製造が好適である。この水溶性複合糖材を基材とする玩具は、安全な糖類系素材で作られでいるので、この玩具を子供が誤って食べても体内で溶解し、体内で安全に吸収できるという特徴がある。また、この複合糖材を基材とする玩具は、例えば、種々に組み合わせて遊ぶことのできるブロック玩具、知恵の輪のような知育玩具、その他にも乗り物の形をした乗り物玩具、動物の形をした動物玩具など、様々な形状の玩具への応用が好適である。
【0024】
本発明では、前記の複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする食品用ケースを製作することも好適に可能であり、例えば、乾燥したスナック菓子やせんべいなどのおかき用のケースなどへの応用が好適であり、誤ってこれらのケースの一部を摂食したとしても安全であり、さらには廃棄処理も容易であり、下水などにその食品用ケースを流すだけである。
【0025】
本発明では、複合糖材を基材とする安全な乾燥剤を好適に製作することが可能となる。すなわち、本発明に用いる無水糖類や多糖類水溶物は、一般に吸湿性を有するものであり、この吸湿機能を利用して乾燥剤とすることが好適である。例えば、無水糖類に無水マルトースを、多糖類水溶物にプルラン水溶物を用いる場合、無水マルトースの吸湿特性は非常に優れているので、それらの複合糖材は乾燥剤としての機能も優れているのである。また、この複合糖材を基材とする乾燥剤成形品は、ハンガー状、球状、袋状、シート状などの任意形状に成型できるだけでなく、その安全性を利用して食品用、薬用の乾燥剤としても好適である。尚、代表的な乾燥剤であるシリカゲルが、その廃棄処理が難しく、環境問題への影響も懸念されるのに対し、この乾燥剤成形品は、その水溶性を利用して下水に流し込めるという環境にも優しい、非常に簡便な廃棄処理法が適用できる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
マルトース15gを110℃で2時間加熱することにより結晶水を除去し、室温での冷却凝固により固形の無水マルトースを製作し、そのマルトース固形物を定法(乳棒と乳鉢)により粉末化した。一方、粉末のプルランを水に溶解させて30重量%のプルラン水溶物33.3gを作製し、上記の無水マルトース粉末10gとプルラン水溶物33.3gを室温場で混合し、柔軟な水飴状の粘性のある水溶性複合糖材を作製した。この時の無水マルトースとプルランの混合重量比は50重量%:50重量%であり、すなわち1:1であるが、この複合糖材を基材として任意形状の汎用成形品の作製が可能となり、さらには金型を用いれば加工精度の高い汎用成形品の作製が可能となった。そこで、その基材を枡形状の金型に流し込み充填することにより、厚さ2mmのシート状に成形し、これを24時間大気放置して乾燥、固形化させて、図1に示される硬い厚膜複合糖材シートを製造した。
【実施例2】
【0028】
実施例1で製造した厚さ2mmの複合糖材シートを2枚用意し、2枚のシートの片面を各々水分で湿らせた。この湿らせた面は粘着性を有し、これらの面同士を合わせると、2枚のシートはしっかりと面同士が接着し、その後に乾燥、固形化させて、図2に示される厚さ4mmの厚膜複合糖材積層シートを製造した。
【実施例3】
【0029】
厚さ30μmの薄膜プルランシートを用意し、その上に実施例1で製造した柔軟な水飴状の粘性のある水溶性複合糖材を厚さ2mmで塗布することにより、その後に乾燥、固形化させて均一厚さの厚膜複合糖材シートを製造した。そのシート断面の概略図を示したものが図3である。
【実施例4】
【0030】
マルトース30gを105℃で3時間加熱することにより結晶水を除去し、室温での冷却凝固により固形の無水マルトースを製作し、そのマルトース固形物を定法(乳棒と乳鉢)により粉末化した。一方、粉末のプルランを水に溶解させて20重量%のプルラン水溶物25gを作製し、上記の無水マルトース粉末20gとプルラン水溶物25gを室温場で混合し、柔軟な水飴状の粘性のある水溶性複合糖材を作製した。この時の無水マルトースとプルランの混合重量比は80重量%:20重量%であり、すなわち1:0.25であるが、この複合糖材を基材として、ブリック(レンガ状の直方体)形状の金型に流し込み充填し、これを24時間大気放置して乾燥、固形化させて、図4に示される非常に硬い小型のブリックを製造した。この小型ブリックを組み立てることにより、様々な形状の構造体の作製が可能となった。
【実施例5】
【0031】
実施例4で作製した粘性のある水溶性複合糖材(無水マルトースとプルランの混合重量比が80重量%:20重量%)を基材として、歯車形状の金型に流し込み充填し、これを24時間大気放置して乾燥、固形化させて、図5に示される非常に硬い歯車を製造した。この歯車は非常に強固であり、機械機能を満足したものであった。
【実施例6】
【0032】
実施例2で製造した厚さ4mmの複合糖材(無水マルトースとプルランの混合重量比が50重量%:50重量%)積層シートを6枚(内1枚は蓋)を用意し、その内の5枚を使用して、水で各々の端部を濡らして端部同士を接着させた後、24時間大気に放置して乾燥、固形化させて、医薬品や乾燥食品を保管するための複合糖材を基材とする強固な複合糖材ケース(密閉可能)を製造した。一方、実施例4で作製した水溶性複合糖材を基材として厚さ4mmの複合糖材シートを製造し、これを乾燥剤シートとして上記の密閉ケースの底部に配置し、乾燥剤内封複合糖材ケースを製造した。そのケースの要部断面の概略図を示したものが図6である。この乾燥剤内封複合糖材ケースは、複合糖材が有する吸湿機能により、乾燥を必要とする医薬品や食品などを乾燥状態にしておく機能を有する乾燥機能付の密閉ケースとなった。
【実施例7】
【0033】
実施例4で作製した柔軟な水飴状の粘性のある複合糖材を基材として、ブロック玩具形状の金型を用いて成形し、その成形物を24時間大気放置して乾燥、固形化させて水溶性複合糖材を基材とする図7に示されるブロック玩具を製造した。また、上記と同様に、乗り物玩具形状の金型を用いて成形し、その成形物を上記と同様に乾燥、固形化させて水溶性複合糖材を基材とする乗り物玩具を製造した。これらのブロック玩具、乗り物玩具ともに、水溶性複合糖材を基材としているので、これらの玩具を子供が万一誤って食べても安全な玩具を製造することができた。
【実施例8】
【0034】
実施例1で作製した粘性のある水溶性複合糖材(無水マルトースとプルランの混合重量比が50重量%:50重量%)を基材として、実施例4で用いたブリック型の金型に流し込み、これを24時間大気放置して乾燥、固形化させて、小型のブリック状乾燥剤を製造した。このブリック状乾燥剤をあられの入った菓子缶に入れ、適当に缶の蓋の開閉を行って一ヶ月経過したが、この複合糖材が有する乾燥機能により、菓子缶内のあられはカビも生えず、さらっとした状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明による複合糖材成形品及びその製造方法は、廃棄処理において環境負荷が極めて少なく、効率的、低コスト、かつ安全性が高く、さらには、吸湿性が高くても構造体としての強度が大きく、安定性が高く、また加工精度が高い、任意形状の汎用成形品を要する分野へ利用され得るものであり、包装材料、ケース部品材料、機械部品材料、玩具材料、乾燥剤材料など各種材料を基材とする成形品分野へ広く利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1で製造した厚膜複合糖材シートを示す外形図である。
【図2】実施例2で製造した厚膜複合糖材積層シートを示す外形図である。
【図3】実施例3で製造した厚膜複合糖材シートの断面を示す概略図である。
【図4】実施例4で製造した複合糖材ブリックを示す外形図である。
【図5】実施例5で製造した複合糖材歯車を示す外形図である。
【図6】実施例6で製造した乾燥剤内封複合糖材ケースの要部断面を示す概略図である。
【図7】実施例7で製造した複合糖材ブロック玩具を示す外形図である。
【符号の説明】
【0037】
1 厚膜複合糖材シート
2 厚膜複合糖材積層シート
3 厚膜複合糖材層
4 薄膜プルランシート
5 複合糖材ブリック
6 複合糖材歯車
7 複合糖材ケース
8 乾燥を要する医薬品、食品など
9 複合糖材乾燥剤シート
10 複合糖材ブロック玩具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水が除去された無水糖類と多糖類水溶物を混合して得られる水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品。
【請求項2】
結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定形状の成形物と成し、前記成形物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品。
【請求項3】
結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定の金型に充填して成型物と成し、前記成型物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品。
【請求項4】
前記無水糖類が無水マルトースであることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品。
【請求項5】
前記多糖類水溶物がプルラン水溶物であることを特徴とする請求項1から4いずれか一項記載の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品。
【請求項6】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を、歯車形状または開放部を有する形状に加工した部品により、組み立て構成される水溶性複合糖材の機械駆動体。
【請求項7】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を、ねじ形状に加工した部品により、組み立て構成される水溶性複合糖材の機械部品。
【請求項8】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を、プルラン薄膜シート上に積層または付着させることにより製作した水溶性の厚膜複合糖材シート。
【請求項9】
請求項8記載の前記厚膜複合糖材シートを、前記シートに対して垂直方向に切断加工して製作した部品により、組み立て構成される水溶性構造体。
【請求項10】
請求項8記載の前記厚膜複合糖材シートを、パイプ状または円柱状に加工したことを特徴とする水溶性のパイプ構造体または円柱構造体。
【請求項11】
請求項8記載の前記厚膜複合糖材シートの複数枚同士を水で接着させた後に、乾燥して得られる水溶性の袋状またはケース状の組み立て構造体。
【請求項12】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする玩具。
【請求項13】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする食品用ケース。
【請求項14】
請求項1から5いずれか一項記載の前記複合糖材を基材として成形加工したことを特徴とする乾燥剤成形品。
【請求項15】
結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定形状の成形物と成し、前記成形物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品の製造方法。
【請求項16】
結晶水が除去された無水糖類の粉末と多糖類水溶物との混合により粘性を有する水溶性複合糖材を得た後、前記複合糖材を基材として所定の金型に充填して成型物と成し、前記成型物を乾燥、固形化させた複合糖材成形品の製造方法。
【請求項17】
前記無水糖類が無水マルトースであることを特徴とする請求項15または16記載の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品の製造方法。
【請求項18】
前記多糖類水溶物がプルラン水溶物であることを特徴とする請求項15から17いずれか一項記載の水溶性複合糖材を基材とする複合糖材成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−238908(P2007−238908A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103613(P2006−103613)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(506114045)有限会社エレガフィ (1)
【Fターム(参考)】