説明

複合繊維の製造方法

【課題】引張強度の強い複合繊維を製造することを目的とする。
【解決手段】複合繊維の製造方法であって、(a)樹脂繊維10を準備する工程と、(b)前記樹脂繊維10の表面または内部に触媒200を添加する工程と、(c)前記樹脂繊維10を、不活性雰囲気中で炭素系原料ガスを加えて1000度から1400度にて加熱することによって、前記樹脂繊維10中にカーボンナノチューブ300を生長させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを利用した複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素繊維と比較して10倍以上の引張強度を有している。カーボンナノチューブを製造する方法として、例えば、特許文献1に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−288636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一般にカーボンナノチューブは、紡糸して繊維を作成することが困難である。また、カーボンナノチューブの紡糸繊維ができたとしても、カーボンナノチューブの紡糸繊維は、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブの継ぎ目で切れ易いため、カーボンナノチューブの紡糸繊維の引張強度は、カーボンナノチューブ単体よりも弱くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも1つを解決し、引張強度の強い複合繊維を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
複合繊維の製造方法であって、(a)樹脂繊維を準備する工程と、(b)前記樹脂繊維の表面または内部に触媒を添加する工程と、(c)前記樹脂繊維を、不活性雰囲気中で炭素系原料ガスを加えて1000度から1400度にて加熱することによって、前記樹脂繊維中にカーボンナノチューブを生長させる工程と、を備える、複合繊維の製造方法。
この適用例によれば、樹脂繊維内にカーボンナノチューブを生長させることが可能となるため、引張強度の強い複合繊維を製造することが可能となる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の複合繊維の製造方法において、前記触媒は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニッケルコバルト(NiCo)、ニッケル鉄(NiFe)のいずれかである、複合繊維の製造方法。
カーボンナノチューブを生長させるためには、これらの触媒を用いることが好ましい。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の複合繊維の製造方法において、さらに、(d)前記樹脂繊維を硝酸溶液に浸す工程と、(e)前記複合繊維に対して物理的な外力を加えることによって、前記複合繊維から前記触媒を除去する工程と、を備える、複合繊維の製造方法。
この適用例によれば、硝酸溶液を用いて触媒を樹脂繊維から遊離させ、樹脂繊維に対して物理的外力を加えることにより、触媒を取り除くことが可能となる。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、複合繊維の製造方法の他、複合繊維、炭素繊維の引張強度強化方法等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭素繊維中にカーボンナノチューブを生長させる工程を示す説明図である。
【図2】ナノ触媒を製造する工程の一例を示す説明図である。
【図3】炭素繊維にナノ触媒を含有させる工程の一例を示す説明図である。
【図4】CVD法によるカーボンナノチューブの生長の原理の一例を示す説明図である。
【図5】カーボンナノチューブが生長した状態の一例を示す説明図である。
【図6】複合繊維から触媒を除去する工程を示す説明図である。
【図7】触媒を除去する原理を模式的に示す説明図である。
【図8】複合繊維中のカーボンナノチューブの含有量と複合繊維の引張強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、炭素繊維中にカーボンナノチューブを生長させる工程を示す説明図である。図1(a)の工程では、炭素繊維10を準備する。炭素繊維10としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)を用いて作成された炭素繊維や、石油ピッチ、石炭ピッチから作成された炭素繊維を用いることが可能である。本実施例では、PANを用いる場合について説明する。PANは、2−プロペンニトリル(アクリロニトリル)を、ラジカル重合させることにより生成される鎖状高分子化合物である。炭素繊維10は、PANの分子鎖100を、例えば紡糸することにより製造することが可能である。炭素繊維10は、PANの分子鎖100とPANの分子鎖100の間に細長い空隙110を多数有し、多孔体である。
【0013】
図1(b)の工程では、炭素繊維10の表面の空隙110あるいは、炭素繊維の内部の空隙110に、触媒200を添加する。例えば、微細(1μm以下)な触媒200(以下「ナノ触媒200」とも呼ぶ。)を生成し、炭素繊維10の表面に添加し、あるいは炭素繊維10の内部に包有させる。ナノ触媒200の生成と包含については後述する。ここで、触媒としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニッケルコバルト(NiCo)、ニッケル鉄(NiFe)のいずれかを用いることが可能である。
【0014】
図1(c)の工程では、触媒を包有させた炭素繊維を不活性なガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオンや窒素)で満たしたチャンバー(図示せず)に入れ、炭素を含む原料ガスを供給する。次いで、チャンバー内の温度を1000℃から1400℃に加熱する。これにより、触媒200から炭素繊維10の空隙110に沿ってカーボンナノチューブ300が生長する。ここで、炭素を含む原料ガスとして、例えば、アセチレンを用いることが可能である。また、炭素を含む原料ガスとして、一酸化炭素と水素の混合ガス、あるいはベンゼンを用いてもよい。なお、本実施例では、炭素繊維10としてPANを用いているが、炭素繊維10を構成する分子鎖に水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、カルボニル基(C=O)を含む場合には、還元雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0015】
図1(d)の工程では、触媒を除去する。触媒の除去工程については後述する。
【0016】
図2は、ナノ触媒を合成する工程を示す説明図である。図2(a)に示す工程では、基板400上に硝酸第二鉄(Fe(NO3)3)の粉末を塗布する。基板400としては、例えば、石英基板を用いることが可能である。次に、図2(b)に示す工程では、硝酸第二鉄を50℃以上に加熱して、熱分解させて、ナノ触媒200を得る。通常の熱分解では(1)式のように分解され、還元雰囲気下では(2)式のように分解される。
4Fe(NO3)3 → 2Fe2O3 + 3O2 + 12NO2 (1)
Fe(NO3)3 + 3H2 → Fe + 3H2O + 3NO2 (2)
【0017】
図3は、炭素繊維にナノ触媒を含有させる工程の一例を示す説明図である。図3(a)に示す方法では、ナノ触媒200が塗布された基板ローラー410上に炭素繊維10を接触させる。このとき、炭素繊維10をねじりながら回転させて引っ張る。基板ローラー410上に付着したナノ触媒200は、炭素繊維10中に取り込まれる。
【0018】
また、図3(b)に別の方法を示す。この方法では、炭素繊維10をねじりながら回転させて引っ張る。このとき、炭素繊維10に対して、例えばスプレーを用いて、ナノ触媒200を吹き付ける。これにより、ナノ触媒200は、炭素繊維10中に取り込まれる。
【0019】
図4は、CVD法によるカーボンナノチューブの生長の原理の一例を示す説明図である。図4(a)に示す工程では、チャンバー(図示せず)の中に配置された基板400上に触媒200を配置する。ここで、高温に加熱しつつ、炭素源であるアセチレンを加える。図4(b)に示す状態では、アセチレンは、触媒200の表面に溶け込み、触媒200表面を拡散する。次に、炭素原子は、図4(c)に示すように、触媒200の表面に半球状キャップ305を形成する。半球状キャップ305は、フラーレンの様な炭素の5員環、6員環を有し、半球状キャップ305の開いている側が触媒200と接触している。この半球状キャップ305の開いている端部に、触媒200に溶けた炭素が供給されることにより、カーボンナノチューブ300が生長していく。図4(d)、図4(e)は、カーボンナノチューブ300が段々と生長していく状態を示す。カーボンナノチューブ300は、このように、触媒200の表面が生長点となって、生長していく。
【0020】
図5は、カーボンナノチューブが生長した状態の一例を示す説明図である。図5(a)は、カーボンナノチューブ300が炭素繊維10中に生長した場合、図5(b)は、カーボンナノチューブ300が炭素繊維10の外で生長した場合を示している。炭素繊維10中に生長する場合には、PANの分子鎖100により、カーボンナノチューブ300の先端部が側面方向へ移動することが妨げられる。すなわち、カーボンナノチューブ300が生長すると、カーボンナノチューブ300の先端部は炭素繊維10の空隙110の中を縫うように移動する。その結果、PANの分子鎖100の間に、真っ直ぐなカーボンナノチューブ300が生長する。これにより、PANの分子鎖100と、カーボンナノチューブ300の分子鎖は、ほぼ平行となる。このとき、複合繊維20のPANの分子鎖100と、カーボンナノチューブ300の分子鎖とが、分子レベルで紡糸されたような構造となるので、複合繊維20の引張強度は、極めて強くなる。なお、図5(b)に示すように、カーボンナノチューブ300が、炭素繊維10の外で生長する場合には、カーボンナノチューブ300は、PANの分子鎖100による拘束がないので、曲がってしまう。
【0021】
図6は、複合繊維から触媒を除去する工程を示す説明図である。触媒除去装置600は、硝酸槽610と、小ローラー620と、触媒回収皿630と、中和槽640と、巻取ローラー650とを備える。硝酸槽610は、例えば希硝酸溶液を含んでいる。複合繊維20を硝酸槽610に浸す。次に、複合繊維20に対し、小ローラー620を用いて、弾性変形をさせたり、振動させたり、張力の加減を行う。これにより、触媒200は、触媒回収皿630に回収される。中和槽640は、例えばアルカリを含んでいる。触媒200が除去された複合繊維20は、中和槽640により中和される。中和された複合繊維20は、巻取ローラー650により、巻き取られる。
【0022】
図7は、触媒を除去する原理を模式的に示す説明図である。図7(a)は、硝酸に浸す前の状態を示している。この状態では、触媒200とカーボンナノチューブ300とは、結合している。図7(b)は、複合繊維20を硝酸に浸した状態を示している。複合繊維20が硝酸溶液に浸されると、触媒200とカーボンナノチューブ300との接触部302において、硝酸が、カーボンナノチューブの不完全な6員環や、アモルファスのカーボンを溶解する。また、硝酸は、触媒200の表面を溶解する。この結果、触媒200とカーボンナノチューブ300との結合が外れる。なお、濃硝酸を用いると、触媒200の材質によっては、表面に不動態が生じるので、希硝酸を用いることが好ましい。図7(c)は、複合繊維20に対する、弾性変形、振動、張力の加減が行われた状態を示している。これにより、触媒200は、複合繊維20の内部を移動する。複合繊維20の外側に出た触媒200は、触媒回収皿630に落下する。
【0023】
図8は、複合繊維中のカーボンナノチューブの含有量と複合繊維の引張強度との関係を示すグラフである。カーボンナノチューブ(CNT)の含有量が増えると、複合繊維20の引張強度が大きくなる。例えば、カーボンナノチューブを40重量パーセント含む複合繊維の引張強度は、カーボンナノチューブを全く含まない炭素繊維の引張強度に比べて約4倍である。
【0024】
以上、本実施例によれば、引張強度の強い複合繊維20を製造することが可能となる。また、本実施例によれば、紡糸の難しいカーボンナノチューブ300を含む複合繊維を容易に製造することが可能となる。
【0025】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0026】
10…炭素繊維
20…複合繊維
100…PANの分子鎖
110…空隙
200…触媒(ナノ触媒)
300…カーボンナノチューブ
302…接触部
305…半球状キャップ
400…基板
410…基板ローラー
600…触媒除去装置
610…硝酸槽
620…小ローラー
630…触媒回収皿
640…中和槽
650…巻取ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合繊維の製造方法であって、
(a)樹脂繊維を準備する工程と、
(b)前記樹脂繊維の表面または内部に触媒を添加する工程と、
(c)前記樹脂繊維を、不活性雰囲気中で炭素系原料ガスを加えて1000度から1400度にて加熱することによって、前記樹脂繊維中にカーボンナノチューブを生長させる工程と、
を備える、複合繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複合繊維の製造方法において、
前記触媒は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ニッケルコバルト(NiCo)、ニッケル鉄(NiFe)のいずれかである、複合繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複合繊維の製造方法において、さらに、
(d)前記複合繊維を硝酸溶液に浸す工程と、
(e)前記複合繊維に対して物理的な外力を加えることによって、前記複合繊維から前記触媒を除去する工程と、
を備える、複合繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−174396(P2010−174396A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17435(P2009−17435)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】