説明

複合酸化物粉末及びその製造方法、複合酸化物粉末を用いたセラミック組成物並びにそれを用いたセラミック電子部品

【課題】粒子径が小さく、しかも、結晶性の良いチタン酸バリウム等の複合酸化物粉末を製造する。
【解決手段】チタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを混合した原料粉末を焼成する際に炭酸ガスが発生する間の少なくとも一部の期間、炭酸ガスが原料粉末に吸着しないように、気体を流して原料粉末を流動させながら焼成する。得られた複合酸化物粉末は微粒子であっても高い結晶性を有し、微粒子化に伴って生じる結晶性の低下を抑制することができる。具体的には、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であり、しかも、優れた結晶性を有するチタン酸バリウム等の複合酸化物粉末が製造できる。また、この複合酸化物粉末を焼結させたセラミック組成物を用いると、小型化等を満足するセラミック電子部品、特に積層セラミック電子部品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の金属元素と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、鉛から選ばれる少なくとも一種の金属元素とを含む複合酸化物粉末及びその製造方法に関する。更に、本発明は前記の複合酸化物粉末を焼結したセラミック組成物、それを用いたセラミック電子部品、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛等の複合酸化物粉末は焼結体の原料として用いられ、複合酸化物粉末をバインダと混合した後、シート成形法や印刷法等の方法を用いて基板上に粉末層を形成させ、次いで、焼結させて焼結体(以下、セラミック組成物ということもある)としている。そのセラミック組成物は、優れた誘電性、圧電性さらには半導性を有することから、コンデンサ、電波フィルター、着火素子、サーミスター等の電気・電子工業用材料として用いられている。
【0003】
セラミック組成物は、セラミック電子部品として種々の電気機器・電子機器に組み込まれて使用されている。近年の電気機器・電子機器の小型化、軽量化、高性能化、多機能化に伴い、このようなセラミック電子部品に対する性能要求は更に厳しくなっている。コンピュータ等の集積回路に用いられる積層セラミックコンデンサを例にとると、このコンデンサは前記のセラミック組成物の薄層と内部電極が交互に多数積み重ねられ、電気的に並列接続された構造をとっているため、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化等の要求に伴い、セラミック組成物の薄層化、高誘電率化が一段と望まれている。このため、セラミック組成物の原材料である複合酸化物粉末の微粒子化、高結晶性化の性能要求、更には均質化、高分散化等の品質要求も益々顕著になっている。また、積層セラミックコンデンサの内部電極には白金、パラジウム、銀等の貴金属材料が用いられていたが、銅、ニッケル等の廉価な卑金属材料への転換が図られており、これに伴い、複合酸化物粉末に対して、一層低温で焼結でき、さらに、低酸素分圧の雰囲気下で焼結させても半導体化せず、耐還元性を有するものが嘱望されている。
【0004】
チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の金属元素と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、鉛から選ばれる少なくとも一種の金属元素とを含む複合酸化物粉末を製造するには、各元素の酸化物や炭酸塩を混合し、電気炉やロータリーキルンを使用して焼成するいわゆる固相合成法、各元素のシュウ酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるシュウ酸塩法、各元素のクエン酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるクエン酸塩法、各元素の水溶液とアルカリ水溶液とを混合し、水熱処理した後、濾過し、洗浄し、乾燥するいわゆる水熱合成法などの方法があって、それぞれの方法において、複合酸化物粉末の微粒子化、高結晶性化等の改良研究が行われている。研究の主眼は、複合酸化物粉末の微粒子化に伴って生じる結晶性の低下を抑制する点にある。例えば、固相合成法においては、加熱分解によって酸化バリウムを生成するバリウム化合物と、X線回折法によって求めたルチル化率が30%以下でありかつBET法によって求めた比表面積が5m2/g以上である純度99.8重量%以上の二酸化チタンとを、混合し、全圧力が1×103Pa以下の圧力下で焼成すると、微粒であり、正方晶性が高いチタン酸バリウム粉末が得られることを記載している(特許文献1参照)。また、比表面積が10m2/g以上の金属酸化物粉末と金属炭酸塩粉末とを混合し、得られた混合粉末を2×103Pa以下の酸素分圧下において焼成すると、粒子径が0.03〜0.2μmと小さく、正方晶性(テトラゴナリティ)の指標となる結晶格子のc軸とa軸との比(c/a軸比)が1.0033以上と大きく、十分な強誘電性を示す、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物が得られることを記載している(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−255552
【特許文献2】特開2001−316114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1、2に記載の方法では、微粒子であり、結晶性の高い複合酸化物粉末が得られる。しかし、原料粉末を減圧下あるいは真空下で焼成するために、焼成の間あるいは各製造ロット間で一定減圧の圧力に保つことが難しく、圧力変動が生じることによって複合酸化物粉末の性能、品質にばらつきが生じるという問題がある。例えば、複合酸化物粉末の粒子径や結晶性にばらつきが生じ、更には格子欠陥が生じるという欠点も想定されている。また、用いる金属酸化物のルチル化率、比表面積、純度等に制限があり、使用できるものが限られていること、減圧下あるいは真空下での圧力に耐えられる高価な装置が必要であること、その装置は大型化が困難であり、小規模での製造方式になることなどのために、高いランニングコストがかかるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、粒子径が小さく、しかも、結晶性の良いチタン酸バリウム粉末を製造する方法を鋭意研究した。その結果、二酸化チタンと炭酸バリウムの混合物を大気圧下で焼成したものと減圧下あるいは真空下で焼成したものを比較すると、同程度の粒子径を基準とすると大気圧下で焼成したものは結晶性が低く、この原因として焼成の際に発生した炭酸ガスが何らかの悪影響を及ぼしているのではないかと考えた。
二酸化チタンと炭酸バリウムの反応は以下の(1)〜(3)の反応が起こると言われており、二酸化チタンと炭酸バリウムの混合物を熱分析(TG)すると、図1に示すような曲線を描き、500℃前後から二酸化チタンと炭酸バリウムの反応が起こり炭酸ガスを発生して重量減少が起こる。大気圧下で焼成した場合は、(1)、(2)の反応において発生した炭酸ガスの多くが電気炉やロータリーキルン等の焼成装置内に留まっているため、残留する炭酸ガスがチタン酸バリウム粉末の結晶性に悪影響を及ぼすと考えられる。具体的には(2)の反応で生成した反応生成物(BaTiO)は強アルカリ性であるため弱酸性ガスである炭酸ガスを吸着し易く、しかも、(2)の逆反応が生じると(3)の反応が促進し難くなり結晶成長のために供給されるBaTiOが不十分になるばかりか、BaTiOも生じる可能性がある。かかる考えは、炭酸ガスを焼成装置内に流すとチタン酸バリウム粉末の結晶性が低くなったことから確認されたと考える。
BaCO+TiO→BaTiO+CO↑・・・(1)
BaCO+BaTiO→BaTiO+CO↑・・・(2)
BaTiO+TiO→2BaTiO・・・(3)
【0008】
本発明者らは、上記の知見を基に、更に研究した結果、大気圧程度の圧力下でも焼成工程で発生する炭酸ガスの悪影響を少なくするために気体を流して原料粉末を流動させながら焼成することによって、チタン酸バリウム粉末の結晶性を高めることができ、前記の特許文献1、2に記載の減圧下あるいは真空下で焼成したものと比べても同程度の結晶性が得られること、減圧下あるいは真空下で行う必要がなく、大気圧程度あるいは気体通気のために大気圧よりも少し高めの圧力下で行うことができることから、装置等の制約が少なく均一条件による焼成が可能であり、得られる複合酸化物粉末の品質にばらつきが少ないこと、しかも、このように通常の焼成装置を用いることができるので廉価に製造することができることなどを見出し、本発明を完成した。
更に、この方法はチタン酸バリウムの製造に限定されずチタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを含む原料粉末を焼成する方法であって焼成の際に炭酸ガスが発生する反応においても適用でき、良好な結果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも、チタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを混合した原料粉末を焼成して複合酸化物粉末を製造する方法であって、原料粉末の焼成によって炭酸ガスが発生する間の少なくとも一部の期間、気体を流して原料粉末を流動させながら焼成することを特徴とする複合酸化物粉末の製造方法、
(2)原料粉末を造粒した造粒粉体を用いることを特徴とする(1)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(3)原料粉末のスラリーを噴霧乾燥して造粒することを特徴とする(2)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(4)原料粉末を粉砕した後、造粒した造粒粉体を用いることを特徴とする(1)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(5)10〜1000μmの大きさを有する造粒粉体を用いることを特徴とする(2)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(6)少なくとも、チタンの酸化物とバリウムの炭酸塩とを混合した原料粉末を用いることを特徴とする(1)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(7)比表面積が20m2/g以上であるチタンの酸化物を用いることを特徴とする(6)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法、
(8)原料粉末の焼成によって炭酸ガスが発生する間、気体を流して原料粉末を流動させながら焼成することを特徴とする(1)項に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
(9)請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であることを特徴とする複合酸化物粉末、
(10)請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であることを特徴とするチタン酸バリウム粉末、
(11)前記のチタン酸バリウムのc/a軸比が1.007〜1.010である(10)項に記載のチタン酸バリウム粉末、
(12)少なくとも(9)項に記載の複合酸化物粉末又は(10)項に記載のチタン酸バリウム粉末を焼結したセラミック組成物、
(13)(12)項に記載のセラミック組成物と、前記のセラミック組成物を挟んで対向するように設けられた電極とを備える、セラミック電子部品、
(14)(12)項に記載のセラミック組成物を含む複数の層と、前記セラミック組成物の層間に形成された電極とを備える、積層セラミック電子部品、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、チタン酸バリウム等の複合酸化物粉末を製造する方法において、焼成工程の際に発生する炭酸ガスが原料粉末に吸着しないように、炭酸ガスが発生する間は気体を流して原料粉末を流動させながら焼成する方法である。本発明の方法により得られた複合酸化物粉末は微粒子であっても高い結晶性を有し、微粒子化に伴って生じる結晶性の低下を抑制することができる。しかも、装置、材料等による制約が少なく同一条件による焼成が可能であることから、得られる複合酸化物粉末の品質のばらつきが同一製造ロット内で少なく、更には各製造ロット間でも少なく、均質のものが得られる。
具体的には、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であり、しかも、優れた結晶性を有する複合酸化物粉末、たとえばチタン酸バリウム粉末が簡便、かつ、容易に得られ、特に、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であり、かつ、c/a軸比が1.007〜1.010の範囲の優れた正方晶性を有するチタン酸バリウム粉末が得られる。
また、前記の複合酸化物粉末が微粒子であることから低温焼結性が改善され、焼結体としたときの充填率を高めることができ、誘電性や圧電性等の特性を改善することができる。また、高い結晶性、均質性を有することから耐還元性も改善される。このため、本発明の方法による複合酸化物粉末を焼結したセラミック組成物を用いると、その優れた特性を利用して、小型化、軽量化、高性能化、多機能化を満足するセラミック電子部品、特に積層セラミック電子部品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、少なくとも、チタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを混合した原料粉末やそれを造粒した造粒粉体(以下、原料粉末と造粒粉体をあわせて原料粉末等という場合がある)を焼成装置にて焼成する複合酸化物粉末を製造する方法であって、原料粉末等を室温から所定温度に昇温し所定時間保持する焼成工程の際に、炭酸ガスが発生する少なくとも一部の期間、好ましくは全ての期間、気体を流して原料粉末等を流動させながら焼成する。このようにして焼成することにより、気体が原料粉末等のより近傍を通るようになって発生する炭酸ガスの少なくとも一部を焼成装置の外に効率的に排気することができる。また、原料粉末を造粒して得られた造粒粉体を用いることにより、流動性を改善でき通気する気体との接触が良くなり、発生した炭酸ガスを有効に排気できる。
【0012】
本発明に用いる原料粉末は、少なくとも、チタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを混合した混合粉末である。金属酸化物は、通常の固相合成法で用いられるものを例外なく用いることができ、具体的にはチタン、ジルコニウムの酸化物、あるいは、チタン、ジルコニウムのそれぞれの水和酸化物、含水酸化物、水酸化物といわれるものを含み、それらから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。特に好ましいのは二酸化チタン、二酸化ジルコニウムである。微粒子の金属酸化物を用いると複合酸化物粉末の微粒子化に有効であるため好ましく、例えば、微粒子の指標として比表面積で表すと20m2/g程度以上が好ましく、30m2/g程度以上がより好ましく、50m2/g程度以上が更に好ましい。なお、酸化チタンを主剤(50重量%以上を占める成分をいう)とする場合において、ジルコニウムを添加剤(50重量%未満の成分をいう)として用いる際には、酸化ジルコニウムを用いても良いし、そのほかのジルコニウム化合物を用いても良く、反対に酸化ジルコニウムを主剤とする場合は酸化チタンやそのほかのチタン化合物を添加剤として用いても良い。酸化物以外の化合物の形態は特に限定されず塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が使用できる。
【0013】
また、金属炭酸塩は、通常の固相合成法で用いられるものを例外なく用いることができ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩を複合酸化物粉末の組成に応じて適宜選択することができる。また、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム又は鉛の金属元素の塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の水可溶性塩の水溶液に炭酸アルカリ、炭酸アンモニウム等の炭酸化合物を添加したり、あるいは、炭酸ガスを吹き込んだりして、中和して得られるものを用いても良い。金属炭酸塩は比較的柔らかく、酸化チタンや酸化ジルコニウムとの混合過程でこれらの粒子によって粉砕され易いものの、金属炭酸塩の粒子径が複合酸化物粉末の特性にも影響するため、微粒子の金属炭酸塩を用いると複合酸化物粉末の微粒子化に有効であるため好ましい。例えば、微粒子の指標として比表面積で表すと5m2/g程度以上が好ましく、10m2/g程度以上がより好ましく、20m2/g程度以上が更に好ましい。なお、炭酸バリウムを主剤(50重量%以上を占める成分をいう)とする場合において、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム又は鉛の金属元素を添加剤(50重量%未満の成分をいう)として用いる際には、これらの金属元素は炭酸塩の形態でも、そのほかの化合物の形態でもよい。炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムまたは炭酸鉛のいずれかを主剤とする場合も添加剤は同様に炭酸塩でも、炭酸塩以外の化合物の形態でもよい。炭酸塩以外の化合物の形態は特に限定されず塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、酸化物等が使用できる。
【0014】
前記の金属酸化物と金属炭酸塩とを混合して原料粉末とする。両方の混合量は目的とする複合酸化物粉末に応じて適宜設定することができる。例えば、一般式ABO型で表されるペロブスカイト型構造を有する複合酸化物粉末を製造するには、金属炭酸塩の金属原子(A)は、金属酸化物の金属原子(B)に対する原子比で表して好ましくは0.9〜2.0の範囲、より好ましくは0.95〜1.05の範囲、更に好ましくは1.000〜1.035の範囲となるように混合する。前記の原子比が0.9より小さいと所望の組成の複合酸化物粉末が得られ難く、余剰の成分が複合酸化物に残存して誘電性や圧電性等の特性を損ない易いため好ましくない。また、ポリチタン酸バリウム、具体的にはBaTi、BaTi、BaTi11、BaTi20、BaTi1330、BaTi1740等のTi/Baの原子比Xが2以上の組成式を有するチタン酸バリウムを製造するには、その所定の原子比Xに対して、(X×0.95)〜(X×1.05)の範囲となるように金属酸化物と金属炭酸塩を混合するのが好ましい。
混合の際に、セラミック組成物の必要とされる特性に応じて、添加剤として例えばランタン、セリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム等の希土類元素やホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、イットリウム、タングステン、ビスマス等の元素を適宜加えても良い。これらの添加剤は、酸化物であっても炭酸塩であっても良く、そのほかの化合物であっても良い。添加量は目的に応じ適宣、設定される。
【0015】
混合は金属酸化物と金属炭酸塩とがある程度均一に混合される程度であれば良く、混合度は適宜調整することができる。混合方法としては、乾式混合、湿式混合のいずれでも良く、例えば、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機などを用いることができる。また、混合の前に圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いて、金属酸化物と金属炭酸塩それぞれを混合前に粉砕しても良く、また、粉砕の際に同時に混合しても良い。原料粉末が微細であるほど、得られる複合酸化物粉末は微粒子となり易いため、原料粉末を粉砕するのが好ましく、粉砕機としては例えば、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル等の湿式粉砕機を好適に用いることができる。混合状態が、湿式粉砕機等を用いて湿潤状態あるいは懸濁状態(スラリー状態)にある場合は、必要に応じてろ別し、乾燥し、粉砕しても良い。
【0016】
このようにして得られた原料粉末は必要に応じて、適度な粒度にするために造粒するのが好ましく、転動造粒、流動層造粒、噴流層造粒、撹拌造粒、解砕造粒、圧縮造粒、押出し造粒、液滴固化造粒等の通常の方法によって造粒することができる。湿式粉砕機等を用いて懸濁状態(スラリー状態)である場合にはスプレードライヤー等を用いて噴霧乾燥して乾燥造粒するのが好ましい。噴霧乾燥による造粒は、原料粉末の飛散や不均一な気体接触を防ぐだけでなく、造粒粉体の粒度が比較的揃っているため、均一な流動状態が期待でき、好ましい。造粒粉体の平均粒度は流動可能な大きさ、あるいは、飛散の程度を考慮して任意に調整することができ、例えば、1〜10000μm程度であれば良く、5〜3000μm程度であれば飛散がより少ないので好ましく、10〜1000μm程度であればより好ましく、20〜500μm程度であれば更に好ましい。造粒粉体は球状、略球状、板状、立方体状、直方体状、棒状や、粉末内部に空間を有する中空状等どのような形状であっても良いが、流動し易い形状が好ましく、例えば球状、略球状、中空状等の形状が好ましい。なお、粉砕、混合、造粒の際に、原料粉末等に界面活性剤、樹脂、分散剤等の有機化合物を必要に応じて配合することもできる。造粒の際、特に噴霧乾燥の際に樹脂を添加すると、結合剤として作用して造粒粉体の粒度を調整するほかに、樹脂が焼成の際に分解して生成した空隙により多孔質となって造粒粉体内部の炭酸ガスの放出を図ることにもなるため好ましい。使用される材料は特に限定されず、目的に応じて適宣、選択し、必要量を使用する。例えば、樹脂としては水系アクリル樹脂、水系メラミン樹脂、水系ウレタン樹脂等を用いることができ、原料粉末等に対して1〜20重量%程度を添加するのが好ましい。
【0017】
次に、前記の原料粉末等を焼成装置に仕込み、室温から所定の焼成温度に達するまで昇温を開始すると、通常その途中の温度領域から金属酸化物と金属炭酸塩との反応あるいは有機化合物の分解等に伴って炭酸ガスが発生する。原料粉末等を流動させて、炭酸ガスの吸着を防ぐと共に炭酸ガスを排気するために気体の通気は、炭酸ガスの発生開始温度領域から発生終了温度領域までの少なくとも一部の期間、好ましくは全ての期間にわたって行う。また、必要に応じて昇温開始の段階から気体を通気しても良く、発生終了以降では焼成終了まで気体を通気しても良く、更には、得られた複合酸化物粉末を取り出す温度に冷却するまでの間、気体を通気しても良い。これらの炭酸ガス発生前、発生終了以降の段階では気体の通気によって原料粉末等を流動させても良いし、原料粉末等を固定層、半固定層の状態としても良い。炭酸ガスの発生開始温度は、使用する金属酸化物、金属炭酸塩の種類、組成や添加剤等によって異なるが、原料粉末等を熱分析すると炭酸ガスの発生開始温度、発生終了温度を把握することができる。例えば、酸化チタンと炭酸バリウムを混合した原料粉末の炭酸ガスの発生開始温度は図1から約500℃程度になると考えられるため、室温から500℃程度までは気体を通気しなくても良いが、炭酸ガス発生開始温度の約50℃低い温度まで昇温した段階、すなわち約450℃程度に達した段階から気体を通気するのが好ましい。一方、発生終了温度は約850℃程度になると考えられるため、約500〜850℃の間は気体を通気するのが好ましい。それ以降の所定の焼成温度に達するまでの間、焼成の間、その後の冷却の間はいずれも気体を通気しなくても良いが、引き続き気体を通気してもかまわない。室温から焼成温度に達するまでの昇温速度は適宜設定することができ、炭酸ガスが発生する温度領域で一旦0.5〜5時間程度保持して、その後、焼成温度まで昇温しても良い。焼成温度、焼成保持時間は複合酸化物粉末に応じて適宜設定することができるが、例えば500〜1100℃程度であれば良く、焼成時間は例えば0.5〜10時間程度保持すれば良い。なお、焼成が終了した後は、取り出し温度まで冷却するが、冷却の速度は適宜設定することができ、徐々に冷却しても急速に冷却しても良い。
【0018】
使用する焼成装置は、通常の固相合成法等で用いられる焼成炉やそのほかの無機化学分野、特にセラミックス分野で用いられる加熱炉を用い、原料粉末等を流動させながら焼成できるものであればどのような装置でも用いることができる。一般的には、流動層焼成炉を用いるのが好ましい。炭酸ガスが発生する際の流動状態の調整は、原料粉末等の粒度と通気する気体の流速(流量)等で行うことができる。流動層焼成炉内の原料粉末等は、均一流動層(完全流動層)を形成するような流動状態が好ましく、一方、流動層内に気泡が生じる濃厚流動層の状態であっても本発明の効果が得られるため差し支えない。あるいは、原料粉末等の一部が固定層を形成し、残部が流動している状態であっても本発明の効果が得られればかまわない。粉末の状態では流動し難く、気体の通気孔ができて原料粉末の一部分のみしか気体に接触しない事態が生じたり、反対に気体の浮力によって原料粉末が飛散し焼成できなかったりするため、原料粉末を適度な粒度に造粒して用いるのが好ましい。気体の通気量は焼成装置の形状や原料粉末等の仕込み量などによって異なるため、一概には規定できないが、あまり多量の気体を通気すると原料粉末等が飛散してしまうので、結晶性の向上と飛散量との兼ね合いを考慮して本発明の効果が得られる適当な通気量で行う。例えば、50〜100μmに造粒した造粒粉体を使用した場合(造粒粉体の見掛け比重が1g/cm3の場合)、室温では流動層焼成炉内の分散板位置でのガス線速度は0.9cm/秒から流動を開始し、1.7cm/秒で均一流動状態となり、更に10cm/秒を超えると濃厚流動層の状態となるため、ガス線速度1.7〜10cm/秒程度が特に好ましい。
【0019】
通気する気体としては、通常の流動層焼成炉等の焼成装置に使用される気体を用いることができるが、炭酸ガスが含まれていると複合酸化物粉末の結晶性等に影響するため好ましくなく、炭酸ガス含有量が少ない気体あるいは炭酸ガスを含まない気体を選ぶ必要がある。このため、炭酸ガス含有量が0〜0.5容積%の気体を用いるのが好ましく、より好ましくは炭酸ガス含有量が0〜0.1容積%であり、更に好ましくは炭酸ガス含有量が0〜0.05容積%である。このような気体として例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、空気、酸素、合成空気、乾燥空気(ドライエアー)、圧縮空気等を用いることができ、これから選ばれる一種又は二種以上の気体を使用することができる。空気、合成空気、乾燥空気(ドライエアー)、圧縮空気には約400ppm程度の少量の炭酸ガスが含まれているものの、この程度の量では影響はないことを確認した。しかも、空気、合成空気、乾燥空気(ドライエアー)、圧縮空気を用いると、焼成の際に原料粉末が還元され難いため、均質な複合酸化物粉末が得られ易く好ましい。通気する気体は、焼成装置に導入する前に予め加熱すると焼成装置の急激な温度低下を防ぐことができるため好ましい。また、通気する気体によって発生する炭酸ガスの少なくとも一部を焼成装置の外に排気できるが、一方、通気する気体を循環使用することもでき、その際の循環気体中の炭酸ガス含有量は前記の範囲にするのが好ましい。
【0020】
前記の方法によって、微粒子であり、しかも、結晶性の高い複合酸化物粉末、特にチタン酸バリウム粉末が製造できる。具体的にはチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、カルシウム変性チタン酸バリウム、希土類元素変性チタン酸バリウム等のペロブスカイト型構造を有する化合物、Ti/Baの原子比が2以上の組成式を有するポリチタン酸バリウムなどが挙げられる。複合酸化物粉末の粒子径としては好ましくは0.01〜0.3μmの範囲のもの、より好ましくは0.02〜0.3μmの範囲のもの、更に好ましくは0.03〜0.3μmの範囲のもの、最も好ましくは0.05〜0.3μmの範囲のものが得られる。また、得られた複合酸化物粉末の結晶性は、X線回折測定を行い、ある結晶面による回折ピークのピーク高さ又は半値幅より評価するが、より精密にはX線回折データを基にリートベルト解析を行って判断する。特にチタン酸バリウム粉末の場合は、結晶格子のc軸とa軸との比(c/a軸比)から判断するが、c/a軸比が大きいほど、正方晶系チタン酸バリウムの結晶性が高くなる。具体的には本発明の方法によればc/a軸比を1.0033以上にすることができ、より好ましくは1.0033〜1.011の範囲、更に好ましくは1.006〜1.011の範囲、更に好ましくは1.006〜1.010の範囲、最も好ましくは1.007〜1.010の範囲とすることができる。結晶性が低い複合酸化物粉末、特に1.0033未満のチタン酸バリウム粉末では、電子部品として用いるのに強誘電性が不足するため、c/a軸比を大きくするには、更なる熱処理を必要とし、粒成長を招く結果となる。正方晶チタン酸バリウムのc/a軸比の理論値はa=3.994、c=4.038の値からc/a=1.011と算出され、一方、立方晶チタン酸バリウムのc/a軸比は1.000である。
【0021】
複合酸化物粉末は必要に応じて粉砕しても良い。粉砕機としては圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いることができ、その中でも圧密粉砕機を用いるのが好ましい。圧密粉砕機とは、圧縮作用と摩砕作用とを兼ね備えた粉砕機のことであり、複合酸化物粉末を圧密粉砕機に入れて粉砕すると、圧縮作用によりフレーク状に圧密されると同時に、摩砕作用により細かく粉砕される。圧密粉砕機としては、例えば、擂潰機、エッジランナー、ローラーミル、フレットミルを用いることができる。
【0022】
また、複合酸化物粉末に必要に応じて添加剤を混合しても良い。添加剤としては、セラミック組成物の必要とされる特性に応じて、例えばランタン、セリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム等の希土類元素やホウ素、アルミニウム、ケイ素、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、イットリウム、タングステン、ビスマス等の元素を適宜用いても良い。また、焼結の際に粒子成長やセラミック組成物の電気特性を制御するための添加剤として例えば、ホウ素、ビスマスのほかに、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、ニオブ等の遷移金属、更にはケイ素、アルミニウム等の元素の化合物を挙げることができる。このような添加剤は、複合酸化物粉末の粉砕の段階に添加しても良く、粉砕後に混合しても良い。あるいは、複合酸化物粉末の焼結工程の任意の段階で添加しても良い。添加量は必要量を適宜設定することができる。混合機は、通常、無機化学分野、特にセラミックス分野で用いられる混合機、あるいは電子材料の分野において用いられる混合機を用いることができる。なお、粉砕、混合の際に、界面活性剤、樹脂、分散剤等の有機化合物を添加することもできる。このようにしてセラミック組成物原料を調製することができる。
【0023】
少なくとも複合酸化物粉末を含む前記のセラミック組成物原料は、焼結させてセラミック組成物として、例えばセラミック電子部品の材料として好適に用いられる。セラミック電子部品は、セラミック組成物と、このセラミック組成物を挟んで対向するように設けられた電極とを備える。また、セラミック電子部品として、積層セラミック電子部品は、セラミック組成物を含む複数の層と、前記セラミック組成物の層間に形成された電極とを備えたものである。具体的な積層セラミック電子部品は積層セラミックコンデンサであって、複数の積層されたセラミック組成物層(誘電体層)と、これらセラミック組成物層間の特定の界面に沿って形成された内部電極とを含む、積層体を備えたものである。積層体の内部には、内部電極としての第1の内部電極と第2の内部電極とが交互に配置され、第1の内部電極は第1の外部電極に電気的に接続されるように、第2の内部電極は同様に第2の外部電極に電気的に接続されるように、各端縁を積層体の端面に露出させた状態でそれぞれ形成する。電極としては、例えば、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅等の金属あるいはそれらの合金を用いることができる。積層セラミック電子部品のセラミック組成物の各層の厚みは可能な限り薄いほうが良く、1μm以下であることが好ましい。
【0024】
セラミック組成物やセラミック電子部品は、従来の方法を用いて製造することができる。セラミック組成物は例えば、少なくとも複合酸化物粉末を含むセラミック組成物原料をバインダと混合した後、加圧成形して所定形状のグリーンペレットに形成したり、あるいは、シート成形法や印刷法等の方法を用いて基板上に所定厚みのグリーンシートを形成し、次いで、焼結させる。セラミック電子部品は例えば、前記のグリーンペレットの両面に電極用金属を配合したペースト等を印刷あるいは塗布し、焼結する方法、あるいは、前記のグリーンシートを形成し、次いで、その上に内部電極用金属を配合したペースト等を印刷あるいは塗布し、それを複数回繰り返した後に焼結させる方法などを用いることができる。焼結条件はセラミック組成物原料の焼結度に応じて適宜設定することができるが、焼結温度は例えば、1000〜1500℃程度が好ましく、1100〜1300℃程度がより好ましい。焼結時間もセラミック組成物原料の組成に応じて適宜設定することができるが、0.5〜10時間程度が好ましい。焼結の際の雰囲気は、酸素、空気、合成空気、乾燥空気(ドライエアー)、圧縮空気等の酸素含有ガスでも良いが、電極用金属が酸化されない雰囲気が好ましく、非酸化性のガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等を好適に用いることができ、また、水素、一酸化炭素、アンモニア等の還元性ガスも好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0026】
実施例1
市販の二酸化チタン(比表面積190m/g)と炭酸バリウム(比表面積30m/g)をバリウム/チタンの原子比が1.000になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式粉砕混合した。得られた二酸化チタンと炭酸バリウムの混合スラリーに水系アクリル樹脂(8重量%)を添加し、スプレードライヤーによって乾燥、造粒した。造粒粉体の平均粒子径は50μmであった。
次いで、造粒粉体を縦型の小型流動層焼成炉に投入し、流動用ガスとして乾燥空気(炭酸ガス400ppm程度含有)をガス線速度1.73cm/秒で通気して前記の造粒粉体を流動させながら、室温から900℃に昇温し、1時間保持して焼成し、本発明のチタン酸バリウム粉末(試料A)を得た。なお、乾燥空気の通気は昇温開始から試料取り出しまでの焼成全工程の間行い、乾燥空気の通気により、造粒粉体を流動させ、発生した炭酸ガスを流動層焼成炉の系外に排出した。
【0027】
実施例2
前記の実施例1において、焼成温度を950℃とすること以外は実施例1と同様にして、本発明のチタン酸バリウム粉末(試料B)を得た。
【0028】
実施例3
前記の実施例1において、焼成温度を1000℃とすること以外は実施例1と同様にして、本発明のチタン酸バリウム粉末(試料C)を得た。
【0029】
比較例1
実施例1と同様にしてスプレードライヤーによって造粒粉体(平均粒子径は50μm)を得、次いで、得られた造粒粉体を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を固定床電気炉に置いて大気中(空気を吹き込むことなく)で室温から850℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料D)を得た。
【0030】
比較例2
実施例1と同様にしてスプレードライヤーによって造粒粉体(平均粒子径は50μm)を得、次いで、造粒粉体を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を雰囲気制御が可能な固定床電気炉に置いて減圧下(10Pa〜100Pa)で室温から900℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料E)を得た。
【0031】
比較例3
市販の二酸化チタン(比表面積190m/g)と炭酸バリウム(比表面積30m/g)をバリウム/チタンの原子比が1.000になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式粉砕混合し、次いで、混合スラリーを蒸発乾燥し、乳鉢で粉砕して原料粉末とした。
次いで、得られた原料粉末を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を固定床電気炉に入れて大気中(空気を吹き込むことなく)で室温から800℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料F)を得た。
【0032】
比較例4
前記の比較例3において、焼成温度を850℃とすること以外は比較例3と同様にして、チタン酸バリウム粉末(試料G)を得た。
【0033】
比較例5
比較例3と同様にして原料粉末を得、次いで、得られた原料粉末を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を雰囲気制御が可能な固定床電気炉に置いて減圧下(10Pa〜100Pa)で室温から900℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料H)を得た。
【0034】
比較例6
比較例3と同様にして原料粉末を得、次いで、得られた原料粉末を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を雰囲気制御が可能な固定床電気炉に入れて窒素ガス(窒素ガス純度99.999容積%)を流量4リットル/分で吹き込みながら室温から875℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料I)を得た。なお、窒素ガスの通気は昇温開始から試料取り出しまでの焼成全工程の間行い、窒素ガスの通気により、発生した炭酸ガスを固定床電気炉の系外に排出した。
【0035】
比較例7
比較例3と同様にして原料粉末を得、次いで、得られた原料粉末を20mmの厚みになるように50ccの坩堝に入れ、この坩堝を雰囲気制御が可能な固定床電気炉に入れ炭酸ガス(炭酸ガス純度99.5容積%以上)を流量4リットル/分で吹き込んで室温から800℃に昇温し、5時間保持して焼成し、チタン酸バリウム粉末(試料J)を得た。なお、炭酸ガスの通気は昇温開始から試料取り出しまでの焼成全工程の間行った。
【0036】
このようにして異なる焼成処理によって得られた試料A〜Jのチタン酸バリウム粉末を簡易BET法によって比表面積a(m/g)を測定し、粉末を球体と仮定し式1よりその平均粒子径d(μm)とした。
式1・・・d=(6/ρ)/a
ただし、ρは比重であり、チタン酸バリウム粉末の場合はρ=5.90を用いる。
またX線回折法で得られたデータを用い、リートベルト解析を行なって正方晶チタン酸バリウムの格子定数aとcを求め結晶性評価(正方晶性)c/a軸比を算出した。
この結果から、本発明のチタン酸バリウム粉末は、真空中(減圧下)の焼成と同等程度の粒子径、c/a軸比を有し、優れた正方晶性(テトラゴナリティ)を有すること、一方、固定床焼成装置を用いた大気中、窒素ガス通気下、炭酸ガス通気下での焼成に比べて、同程度の粒子径を基準とすると優れたc/a軸比を有することがわかった。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜3に記載の実験を数回行った結果、得られたチタン酸バリウム粉末の品質にばらつきが少ないことを確認した。また、本発明ではチタン酸バリウムのほかに、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、カルシウム変性チタン酸バリウム、希土類元素変性チタン酸バリウム等のペロブスカイト型構造を有する化合物、Ti/Baの原子比が2以上の組成式を有するポリチタン酸バリウム等も同様に製造できることを確認した。更に、得られた複合酸化物粉末を焼結してセラミック組成物を得、それを用いてセラミック電子部品とした場合でも、本発明の優位性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の複合酸化物粉末は微粒子であって高い結晶性を有するため、それを焼結させることによって誘電性や圧電性等の優れた特性を有するセラミック組成物を簡便、かつ、容易に製造することができる。そのセラミック組成物は、セラミック電子部品、特に積層セラミック電子部品に使用すると、小型化、軽量化、高性能化、多機能化等を満足することができると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】二酸化チタンと炭酸バリウムとの原料粉末の熱分析による重量減少を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、チタン及び/又はジルコニウムの金属酸化物と、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属炭酸塩とを混合した原料粉末を焼成して複合酸化物粉末を製造する方法であって、原料粉末の焼成によって炭酸ガスが発生する間の少なくとも一部の期間、気体を流して原料粉末を流動させながら焼成することを特徴とする複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項2】
原料粉末を造粒した造粒粉体を用いることを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項3】
原料粉末のスラリーを噴霧乾燥して造粒することを特徴とする請求項2に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項4】
原料粉末を粉砕した後、造粒した造粒粉体を用いることを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
10〜1000μmの大きさを有する造粒粉体を用いることを特徴とする請求項2に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、チタンの酸化物とバリウムの炭酸塩とを混合した原料粉末を用いることを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項7】
比表面積が20m2/g以上であるチタンの酸化物を用いることを特徴とする請求項6に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項8】
原料粉末の焼成によって炭酸ガスが発生する間、気体を流して原料粉末を流動させながら焼成することを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であることを特徴とする複合酸化物粉末。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、粒子径が0.01〜0.3μmの範囲であることを特徴とするチタン酸バリウム粉末。
【請求項11】
前記のチタン酸バリウムのc/a軸比が1.007〜1.010である請求項10に記載のチタン酸バリウム粉末。
【請求項12】
少なくとも請求項9に記載の複合酸化物粉末又は請求項10に記載のチタン酸バリウム粉末を焼結したセラミック組成物。
【請求項13】
請求項12に記載のセラミック組成物と、前記のセラミック組成物を挟んで対向するように設けられた電極とを備える、セラミック電子部品。
【請求項14】
請求項12に記載のセラミック組成物を含む複数の層と、前記セラミック組成物の層間に形成された電極とを備える、積層セラミック電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127265(P2008−127265A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316818(P2006−316818)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000237075)富士チタン工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】