説明

複合金属合金の製造方法及び複合金属成形品の製造方法

【課題】強化材添加に伴って実施する混練時間を短縮することができる製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】図(a)において、Mg材料に無数のカーボンナノ材料をまぶしたような形態の混合体13を準備し、Al−Mn合金材料12B又はZn材料12Cに無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13B又は混合体13Cを準備する。(b)において、加熱手段21を備える溶解炉20に、混合体13、混合体13B及び混合体13Cを同時又は順次投入して、溶解する。これで、複合金属合金の溶湯22を、得ることができる。
【効果】溶解工程では金属材料は完全に溶融状態にする。溶融状態であれば、半溶融状態に比較して、速やかにカーボンナノ材料を溶湯に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化材としてカーボンナノ材料を添加したMg合金又はAl合金の製造方法及びこの方法で得たMg合金又はAl合金を用いて実施する複合金属成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノファイバと称する特殊な炭素繊維が強化材料として注目を浴び、その活用方法が提案されている。カーボンナノファイバは、六角網目状に配列した炭素原子のシートを筒状に巻いた形態のものであり、直径が1.0nm(ナノメートル)〜150nmであり、ナノレベルであるため、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブなど(以下、カーボンナノ材料という)と呼ばれる。なお、長さは数μm〜100μmである。
【0003】
このカーボンナノ材料は微細であるため、凝集しやすく、母材となるマトリックス金属に、均一に混合させることが難しい材料である。
【0004】
そこで、半溶融状態にした低融点金属材料に、セラミック材料又はカーボンナノ材料を混合して複合化する技術が提案された(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−238422公報(請求項1)
【特許文献2】特開2004−136363公報(請求項1)
【0005】
特許文献1の技術は、同文献の請求項1で示されるように「強化材を混合させた金属材を半溶融状態に加熱溶解させて撹拌混合した後、さらに液相状態に加熱溶融させて撹拌混合し、その後再び半溶融状態に戻して撹拌混合した後に凝固させるようにした複合金属部材の製造方法。」を要旨とする。
【0006】
特許文献2の技術は、同文献の請求項1で示されるように「溶融した低融点金属材料を液相と固相とが共存してチクソトロピー性状を有する半溶融状態に冷却し、その状態で低融点金属材料とカーボンナノ材とを混練して複合材料となし、その複合材料を加熱手段を備えた金属成形機によりチクソトロピー性状を保持して金型に射出充填し、該金型により複合金属製品に成形してなることを特徴とするカーボンナノ材と低融点金属材料との複合成形方法。」を要旨とする。
【0007】
すなわち、特許文献1の技術は、半溶融状態の金属材に、強化材(セラミック材料)を混合することを特徴とする。
また、特許文献2の技術は、半溶融状態の低融点金属材料に、強化材(カーボンナノ材)を混練することを特徴とする。
何れも、金属材料が半溶融状態であるため、添加した強化材の移動が制限され、強化材同士の凝集を阻止することができる。この結果、強化材を金属材料に均一に分散させることができる。
【0008】
しかし、金属材料が半溶融状態であるため、添加した強化材の移動速度が小さくて、金属材料の隅々まで移動させるには、時間が掛かる。
また、この種の処理は、金属材料が酸化することを防止するために、撹拌はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で実施する。撹拌時間が延びると、不活性ガスが金属材料中に巻き込まれる危険性が増大し、製品の品質低下を招く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、強化材添加に伴って実施する混練時間を短縮することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る複合金属合金の製造方法は、合金の母材を構成するMg材料又はAl材料と、このMg材料又はAl材料に添加する少なくとも1種の合金材料と、前記Mg材料又はAl材料に添加するカーボンナノ材料とを準備する材料準備工程と、
前記Mg材料又はAl材料と前記合金材料の少なくとも一方に、前記カーボンナノ材料を混合することで混合体を得る混合工程と、
この混合体及び残余の材料を、一括して溶解する溶解工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る複合金属合金の製造方法は、混合工程と溶解工程との間に、混合体を焼結して焼結体を得る焼結工程を追加したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る複合金属合金の製造方法では、カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料を使用することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る複合金属合金の製造方法では、金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で前記炭化物形成金属を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得ることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る複合金属合金の製造方法では、炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る複合金属成形品の製造方法は、請求項1〜5のいずれか1項記載の複合金属合金の製造方法で製造した複合金属合金を、直接金属成形機に供給し、半溶融状態で金型のキャビティにより成形することを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る複合金属成形品の製造方法は、請求項1〜5のいずれか1項記載の複合金属合金の製造方法で製造した複合金属合金を、冷却して固体の複合金属材料を得る工程と、この固体の複合金属材料を金属成形機に供給し、半溶融状態まで加熱して金型のキャビティにより成形する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、溶解工程の前に、金属材料にカーボンナノ材料を混合する混合工程を置いた。溶解工程では、カーボンナノ材料は金属材料に付着した形態で溶湯中を移動する。この結果、カーボンナノ材料の凝集現象を抑制しながら、金属材料を溶解することができるようになった。
【0018】
溶解工程では金属材料は完全に溶融状態にする。溶融状態であれば、半溶融状態に比較して、速やかにカーボンナノ材料を溶湯に分散させることができる。
短い時間で溶解工程は終えることができるため、溶湯に不活性ガスが巻き込む度合いは少なく、製品の品質を高めることができる。
【0019】
請求項2に係る複合金属合金の製造方法は、混合工程と溶解工程との間に、混合体を焼結して焼結体を得る焼結工程を追加した。
粉末であれば飛散が問題になるが、本発明により焼結体にすれば、飛散を防止することができ、保管時の安全性を向上させることができる。
【0020】
さらには、焼結体ではカーボンナノ材料が移動する心配はなく、カーボンナノ材料の凝集現象を確実に抑制することができる。
また、混合体を焼結して焼結体を得ることで、表面積を減少させることができる。表面が小さければ酸化などを抑制することができ、品質の劣化を防止することができる。
【0021】
請求項3に係る複合金属合金の製造方法では、カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料を使用することを特徴とする。カーボンナノ材料は濡れ性が低いが、炭化物形成元素は濡れ性が高い。このような炭化物形成元素を表面に付着させた金属付着カーボンナノ材料を使用することで、カーボンナノ材料の濡れ性を高めることがでる。
【0022】
請求項4に係る複合金属合金の製造方法では、金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で前記炭化物形成金属を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得ることを特徴とする。炭化物形成金属は炭素と化合物を生成し、この化合物が接合作用を発揮するため、炭化物形成金属をカーボンナノ材料に強固に結合することができる。
【0023】
請求項5に係る複合金属合金の製造方法では、炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする。Si、Tiともに、真空下で蒸着可能な融点の金属であり、溶融マトリックス金属との濡れ性も良好である。Si、Tiともに入手が容易であり、特にSiは安価であるため、本発明方法を広く普及させる上で、好適である。
【0024】
請求項6に係る複合金属成形品の製造方法では、濡れ性の高い複合金属材料を用いて、複合金属成形品を製造する。得られる複合金属成形品の機械的特性や熱的特性を高めることができる。
そして、本発明は、複合金属材料を直接金属成形機に供給するため、生産効率が高まり、生産性を高めることができ、特に多量生産に好適である。
【0025】
請求項7に係る複合金属成形品の製造方法でも、濡れ性の高い複合金属材料を用いて、複合金属成形品を製造する。得られる複合金属成形品の機械的特性や熱的特性を高めることができる。
そして、本発明は、複合金属材料を固体の形態で保存し、必要なときに固体の複合金属材料を金属成形機に供給するため、生産の自由度が高まり、特に少量生産に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
なお、本発明に係る金属合金は、Mg合金又はAl合金であれば種類は問わない。多数の合金中、以下の説明では、ASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)を例に挙げる。JISで規定されるMDC1Dの化学成分は次表のとおりである。
【0027】
【表1】

【0028】
すなわち、MDC1Dは、9質量%程度のAlと0.5質量%以下のMnと1.0質量%以下のZnを合金材料とし、残余の90質量%程度のMgを母材として構成されるマグネシウム合金である。
【0029】
90質量%程度のMg材料(母材材料)と、9質量%程度のAlと0.5質量%以下のMnと1.0質量%以下のZnを合金材料と、適量のカーボンナノ材料とを出発材料とした、複合金属合金の製造方法を以下に説明する。
【0030】
図1は本発明の母材材料を処理対象する混合工程及び焼結工程の説明図である。
(a):繊維径(平均値)が10nm〜200nmのカーボンナノ材料11を準備するとともに、粒径(平均値)が200μmの粉末状のMg材料12を準備する。
【0031】
(b):予備混合を実施する。予備混合は、容器に適量のカーボンナノ材料11及びMg材料12とを入れ、容器を振ることで実施してもよい。
【0032】
(c):メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11及びMg材料12を本格的に混練する。メカニカルアロイ法は、JIS Z2500に規定される「高エネルギアトライタやボールミルによる固相状態での合金化の方法」、又はJIS H7004で規定されるメカニカルアロイング法「数種類の原料粉末を高エネルギーミルで機械的に撹拌、混合、粉砕し、固相反応によって、合金状態を実現する方法」を指す、広義の機械的混合方法である。周知の方法であるから、装置や原理の説明は省略する。
【0033】
(d):以上により、カーボンナノ材料11の凝集を解くとともに、Mg材料12に無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13を得る。すなわち、以上に述べた(a)が準備工程、(b)〜(c)が、混合工程に相当する。
【0034】
(e):焼結装置の下パンチ14にダイス15をセットし、このダイス15に混合体13を充填する。焼結装置は、通電加熱式焼結装置やホットプレスが好適である。
(f):上パンチ16をダイス15に挿入し、Mgの焼結温度(500℃程度)に保ちながら、混合体13を押し固める。
(e)これで、カーボンナノ材料を含むMgの焼結体17を得ることができる。
以上に述べた(e)及び(f)が、焼結工程に相当する。
【0035】
図2は本発明の合金材料を処理する混合工程及び焼結工程の説明図である。
(a):繊維径(平均値)が10nm〜200nmのカーボンナノ材料11を準備するとともに、合金材料として粒径(平均値)が200μmの粉末状のAl−Mn合金材料12Bを準備し、合金材料として粒径(平均値)が200μmの粉末状のZn材料12Cを準備する。Al−Mn合金材料12Bは、90質量%がAlで10質量%がMnであるMn系アルミニウムが好適である。
【0036】
(b):カーボンナノ材料11とAl−Mn合金材料12Bとの組み合わせで予備混合を実施する。また、カーボンナノ材料11とZn材料12Cとの組み合わせで予備混合を実施する。
【0037】
(c):メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11とAl−Mn合金材料12Bとを本格的に混練する。また、メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11とZn材料12Cとを本格的に混練する。
【0038】
(d):以上により、カーボンナノ材料11の凝集を解くとともに、Al−Mn合金材料12B又はZn材料12Cに無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13B又は混合体13Cを得る。すなわち、以上に述べた(a)が準備工程、(b)〜(c)が、混合工程に相当する。
【0039】
(e):焼結装置の下パンチ14にダイス15をセットし、このダイス15に混合体13B又は混合体13Cを充填する。
(f):上パンチ16をダイス15に挿入し、Al−Mnの焼結温度(500℃程度)又はZnの焼結温度(300℃程度)に保ちながら、混合体13を押し固める。
(e)これで、カーボンナノ材料を含むAl−Mn焼結体17Bや、カーボンナノ材料を含むZn焼結体17Cを得ることができる。
以上に述べた(e)及び(f)が、焼結工程に相当する。
【0040】
図3は本発明に係る溶解工程から複合金属成形品を得る工程までの説明図である。
(a)に示すMg焼結体17、Al−Mn焼結体17B及びZn焼結体17Cが、この図での出発材料となる。
(b)において、加熱手段21を備える溶解炉20に、Mg焼結体17、Al−Mn焼結体17B及びZn焼結体17Cを同時又は順次投入して、溶解する。これで、複合金属合金の溶湯22を、得ることができる。この溶湯22は、プラグ手段23を上昇させることで、溶解炉20から取り出すことができる。
【0041】
(c)において、撹拌手段25を備えた高温槽26に、溶湯22を移し、十分に撹拌する。なお、(b)に示した溶解炉20にバブリング撹拌機構が付属されているときには、溶解炉20内で撹拌が行える。この場合は、(c)に示した高温槽26を省くことができる。
【0042】
(d)において、溶湯22を、一旦冷却して、固形の複合金属合金27を得る。又は、想像線で示すようにポンプ手段28で溶湯22を高温槽26から汲み出す。
【0043】
(e)において、固形の複合金属合金27を、金属射出機31へ供給する。この金属射出機31では、固形の複合金属合金27を混練しながら半溶融状態にし、射出作用で、金型32のキャビティ33へ供給する。凝固に必要な時間が経過した後に、金型32を開くことで、(f)に示す複合金属成形品35を得ることができる。
【0044】
または、(e)において、ポンプ手段28で汲み上げられた溶湯22を、直接金属射出機31へ供給する。この金属射出機31では、溶湯22を混練しながら半溶融状態にし、射出作用で、金型32のキャビティ33へ供給する。凝固に必要な時間が経過した後に、金型32を開くことで、(f)に示す複合金属成形品35を得ることができる。
【0045】
さらには、複合金属成形品35に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を、施すことで金属組織の微細化を行い、機械的強度等の性質を向上させることができる。
【0046】
(d)で、ポンプ手段28を介した方式は「直接法」と呼び、固形の複合金属合金27を介した方式は「間接法」と呼ぶことができる。
直接法は生産能力が高く、低コストでカーボンナノ複合金属成形品を製造することができるが、材料換え等が難しいため、少品種多量生産に適している。
間接法は生産能力の点では落ちるが、生産の自由度は高く、多品種少量生産に好適である。
【0047】
次に、本発明の変更例を説明する。
図4は図3の変更実施例図である。図3に対し(a)を変更した。
すなわち、図4(a)において、カーボンナノ材料を含むMgの焼結体17(図1(g)参照)と、合金材料としてAl−Mn合金のインゴット37と、合金材料としてZnのインゴット38とを準備する。インゴット37、38は合金材料の単純な鋳造品であるため、製造方法は省略する。
(b)〜(f)は図3の説明と同一であるから、ここでは省略する。
【0048】
次に、本発明の別実施例を説明する。
図5は図1の別実施例図である。
(a):繊維径(平均値)が10nm〜200nmのカーボンナノ材料11を準備するとともに、粒径(平均値)が200μmの粉末状のMg材料12を準備する。
【0049】
(b):予備混合を実施する。予備混合は、容器に適量のカーボンナノ材料11及びMg材料12とを入れ、容器を振ることで実施してもよい。
【0050】
(c):メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11及びMg材料12を本格的に混練する。
【0051】
(d):以上により、カーボンナノ材料11の凝集を解くとともに、Mg材料12に無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13を得る。すなわち、以上に述べた(a)が準備工程、(b)〜(c)が、混合工程に相当する。
【0052】
図6は図2の別実施例図である。
(a):繊維径(平均値)が10nm〜200nmのカーボンナノ材料11を準備するとともに、合金材料として粒径(平均値)が200μmの粉末状のAl−Mn合金材料12Bを準備し、合金材料として粒径(平均値)が200μmの粉末状のZn材料12Cを準備する。Al−Mn合金材料12Bは、90質量%がAlで10質量%がMnであるMn系アルミニウムが好適である。
【0053】
(b):カーボンナノ材料11とAl−Mn合金材料12Bとの組み合わせで予備混合を実施する。また、カーボンナノ材料11とZn材料12Cとの組み合わせで予備混合を実施する。
【0054】
(c):メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11とAl−Mn合金材料12Bとを本格的に混練する。また、メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料11とZn材料12Cとを本格的に混練する。
【0055】
(d):以上により、カーボンナノ材料11の凝集を解くとともに、Al−Mn合金材料12B又はZn材料12Cに無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13B又は混合体13Cを得る。すなわち、以上に述べた(a)が準備工程、(b)〜(c)が、混合工程に相当する。
【0056】
図7は図3の別実施例図である。
(a)において、Mg材料に無数のカーボンナノ材料をまぶしたような形態の混合体13(図5(d)参照)を準備し、Al−Mn合金材料12B又はZn材料12Cに無数のカーボンナノ材料11をまぶしたような形態の混合体13B又は混合体13C(図6(d)参照)を準備する。
(b)において、加熱手段21を備える溶解炉20に、混合体13、混合体13B及び混合体13Cを同時又は順次投入して、溶解する。これで、複合金属合金の溶湯22を、得ることができる。この溶湯22は、プラグ手段23を上昇させることで、溶解炉20から取り出すことができる。
【0057】
(c)において、撹拌手段25を備えた高温槽26に、溶湯22を移し、十分に撹拌する。なお、(b)に示した溶解炉20にバブリング撹拌機構が付属されているときには、溶解炉20で撹拌が行える。この場合は、(c)に示した高温槽26を省くことができる。
【0058】
(d)において、溶湯22を、一旦冷却して、固形の複合金属合金27を得る。又は、想像線で示すようにポンプ手段28で溶湯22を高温槽26から汲み出す。
【0059】
(e)において、固形の複合金属合金27を、金属射出機31へ供給する。この金属射出機31では、固形の複合金属合金27を混練しながら半溶融状態にし、射出作用で、金型32のキャビティ33へ供給する。凝固に必要な時間が経過した後に、金型32を開くことで、(f)に示す複合金属成形品35を得ることができる。
【0060】
または、(e)において、ポンプ手段28で汲み上げられた溶湯22を、直接金属射出機31へ供給する。この金属射出機31では、溶湯22を混練しながら半溶融状態にし、射出作用で、金型32のキャビティ33へ供給する。凝固に必要な時間が経過した後に、金型32を開くことで、(f)に示す複合金属成形品35を得ることができる。
【0061】
次に、図1(a)などに示したカーボンナノ材料11の改良技術を説明する。
図8は本発明に係る準備のためにカーボンナノ材料を表面処理するときの説明図である。
(a):カーボンナノ材料41を準備する。例えば10g。このカーボンナノ材料41は、図1(a)などに示すカーボンナノ材料11と同じであってもよいが、便宜上、符号を変えた。
(b):炭化物形成元素としてのSi粉末42を準備する。例えば1g。
【0062】
(c):乳鉢43にカーボンナノ材料41及びSi粉末42を入れ、15分〜30分間乳棒44で混合する。
(d):得られた混合物45を、アルミナ製容器46に入れ、アルミナ製蓋47を被せる。この蓋47は非密閉蓋を採用することで、容器46の内部と外部との通気を可能にする。
【0063】
(e):密閉炉体51と、炉体51内部を加熱する加熱手段52と、容器46を載せる台53、53と、炉体51内部を真空にする真空ポンプ54とを備える真空炉50を準備し、この真空炉50に容器46を入れる。
【0064】
真空炉50における加熱条件及び圧力条件は次図で説明するが、真空下で加熱することで、混合物45中のSi粉末が蒸発する。この蒸気は泡立つように容器46と蓋47とで形成する空間を撹拌する。このような作用をバブリング撹拌と呼ぶ。このバブリング撹拌によりカーボンナノ材料がほぐれ、ほぐれたカーボンナノ材料の表面にSi蒸気が接触し、化合物を形成し、Siの微粒子となって付着する。
【0065】
図8をまとめると、カーボンナノ材料51に、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む金属粉末42を混合する工程と、得られた混合物45を真空炉50に入れ、高温真空下で金属粉末42を蒸発させ、この蒸気をカーボンナノ材料41の表面に付着させる蒸着処理工程と、からなる。
【0066】
図9はSiに対応する炉温及び炉内圧力のグラフであり、横軸は時間、縦軸は炉温と炉内圧力である。
開始〜5時:6×10−3Paの真空度で、5時間かけて炉温を室温から300℃まで上昇させる。
【0067】
5時〜9時:5.3×10−3〜2.1×10−2Paの真空度で、4時間かけて炉温を300℃から1400℃まで上昇させる。
9時〜19時:2.1×10−2Paの真空度、1400℃の条件で10時間保持する。
【0068】
Siの融点は1427℃であるから、融点直下の温度(1350〜1400℃)に保持し、Siをこの温度での飽和蒸気圧状態に保つ。1350℃では飽和蒸気圧は1.3×10−3Pa程度になり、1400℃では飽和蒸気圧は2.1×10−2Pa程度になる。この程度の真空度は真空炉で容易に達成できるため、処理温度は1350〜1400℃が適当である。ただし、1350℃は蒸発速度が低く、1400℃は蒸発速度が高いため、実施例では1400℃とした。
【0069】
次に、Siと炭素の化合物であるSiC(炭化けい素)について説明する。SiCの標準生成自由エネルギーは、1400℃で−39.6kJ/molであり、この条件を満たすことは可能であるから、Si蒸気がカーボンナノ材料の炭素に反応してSiCになると考えられる。
【0070】
そこで、混合物を半密閉された容器に入れ、Si粉末を蒸発させれば、バブリング撹拌が発生し、カーボンナノ材料にSiの微粒子が付着させることができる。
なお、保持時間が10時間と長いのは、十分撹拌し反応させることを目的とした。勿論、混合比や処理量などの条件によって、保持時間を増減することは差し支えない。
【0071】
19時以降:加熱手段は停止するが、1.1×10−3Paの真空度は保ちながら、炉冷を実施する。炉冷は、製品を極めて徐々に冷却する手法である。
【0072】
図10は本発明方法で製造した金属付着カーボンナノ材料の拡大図であり、金属付着カーボンナノ材料55は、凝集していないカーボンナノ材料41と、このカーボンナノ材料41の表面に均等に付着した多数のSi微粒子56とからなる。これらのSi微粒子56は、炭素と反応して化合物を生成する元素であるSiを結晶化させたものであることは既に述べたとおりである。
【0073】
さらに、Si微粒子56は炭化物であるSiCを介してカーボンナノ材料41に付着していることが重要となる。カーボンナノ材料41自身は濡れ性が悪い。したがって、単なるSi微粒子であれば接合強度が不足する虞れがある。この点、カーボンナノ材料41の表面にSi微粒子を付着させることで、界面にSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料41にSi微粒子56を強固に付着させることができる。
【0074】
以上に述べた金属付着カーボンナノ材料55を、図1(a)に示すカーボンナノ材料11と置き換え、この金属付着カーボンナノ材料55とMg材料12とを適量混合すればよい。図2(a)、図5(a)、図6(a)においても同様である。
【0075】
なお、詳細な説明は省略するが、炭化物形成金属(金属炭素と反応して化合物を生成する元素)としてのSiをTiに換えても同様の機械的強度向上効果を得ることができた。さらに、炭化物形成として、Si及びTiの他、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)が採用できる。
ただし、Si、Tiはともに入手が容易であり、特にSiは安価であるため、本発明方法を広く普及させる上で、好適である。
【0076】
また、母材の金属材料は、融点が約650℃であるMg、Mg合金の他、融点が約660℃であるAl、Al合金が好適である。
Mg、Mg合金、Al、Al合金は軽量金属であり、この金属にカーボンナノ材料を含めて機械的強度を高めることで、軽量で且つ強度、熱伝導性及び耐摩耗性に優れた構造材料を提供することができる。
【0077】
以上の説明に基づいて本発明は次のようにまとめることができる。
第1の発明は、図1(a)、図2(a)、図4(a)、図5(a)、図6(a)を参照して、合金の母材を構成するMg材料又はAl材料と、このMg材料又はAl材料に添加する少なくとも1種の合金材料と、前記Mg材料又はAl材料に添加するカーボンナノ材料とを準備する材料準備工程と、
図1(b)〜(c)、図2(b)〜(c)、図5(b)〜(c)、図6(b)〜(c)を参照して、前記Mg材料又はAl材料と、合金材料の少なくとも一方に、前記カーボンナノ材料を混合することで混合体を得る混合工程と、
図3(b)、図4(b)、図7(b)を参照して、混合体及び残余の材料を、一括して溶解する溶解工程と、からなることを特徴とする複合金属合金の製造方法である。
【0078】
第2の発明は、図1(e)〜(f)、図2(e)〜(f)を参照して、前記混合工程と溶解工程との間に、前記混合体を焼結して焼結体を得る焼結工程を追加したことを特徴とする。
【0079】
第3の発明では、図10に示されるように、カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料を使用することを特徴とする。
【0080】
第4の発明では、図8〜図9に示されるように、金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で前記炭化物形成金属を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得ることを特徴とする。
【0081】
第5の発明では、炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする。
【0082】
第6の発明は、図3(c)〜(e)、図4(c)〜(e)、図7(c)〜(e)に示されるように、第1〜第5の何れかの発明で製造した複合金属合金を、直接金属成形機に供給し、半溶融状態で金型のキャビティにより成形することを特徴とする複合金属成形品の製造方法を提供する。
【0083】
第7の発明は、図3(c)〜(e)、図4(c)〜(e)、図7(c)〜(e)に示されるように、第1〜第5の何れかの発明で製造した複合金属合金を、冷却して固体の複合金属材料を得る工程と、この固体の複合金属材料を金属成形機に供給し、半溶融状態まで加熱して金型のキャビティにより成形する工程とからなることを特徴とする複合金属成形品の製造方法を提供する。
【0084】
尚、第1〜第5の発明から、第6の発明又は第7の発明に移行する間に、複合金属合金を、半溶融状態に保って撹拌する工程を加えてもよい。この工程を加えることで、カーボンナノ材料の一層の分散化を図ることができる
【0085】
また、合金材料は、目的とする複合金属合金から要求される添加元素で決定されるため、Al−MnやZnに限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、射出成形に用いるMg合金又はAl合金であって、カーボンナノ材料を添加したMg合金又はAl合金の製造方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の母材材料を処理対象する混合工程及び焼結工程の説明図である。
【図2】本発明の合金材料を処理する混合工程及び焼結工程の説明図である。
【図3】本発明に係る溶解工程から複合金属成形品を得る工程までの説明図である。
【図4】図3の変更実施例図である。
【図5】図1の別実施例図である。
【図6】図2の別実施例図である。
【図7】図3の別実施例図である。
【図8】本発明に係る準備のためにカーボンナノ材料を表面処理するときの説明図である。
【図9】Siに対応する炉温及び炉内圧力のグラフである。
【図10】本発明方法で製造した金属付着カーボンナノ材料の拡大図である。
【符号の説明】
【0088】
11…カーボンナノ材料、12…母材材料としてのMg材料、12B…合金材料としてのAl−Mn材料、12C…合金材料としてのZn材料、17、17B、17C…焼結体、20…溶解炉、27…固形の複合金属合金、31…金属射出機、35…複合金属成形品、37、38…合金材料としてのインゴット、50…真空炉、55…金属付着カーボンナノ材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金の母材を構成するMg材料又はAl材料と、このMg材料又はAl材料に添加する少なくとも1種の合金材料と、前記Mg材料又はAl材料に添加するカーボンナノ材料とを準備する材料準備工程と、
前記Mg材料又はAl材料と前記合金材料の少なくとも一方に、前記カーボンナノ材料を混合することで混合体を得る混合工程と、
この混合体及び残余の材料を、一括して溶解する溶解工程と、からなることを特徴とする複合金属合金の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程と溶解工程との間に、前記混合体を焼結して焼結体を得る焼結工程を追加したことを特徴とする請求項1記載の複合金属合金の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料を使用することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の複合金属合金の製造方法。
【請求項4】
前記金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で前記炭化物形成金属を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得ることを特徴とする請求項3記載の複合金属合金の製造方法。
【請求項5】
前記炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の複合金属合金の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の複合金属合金の製造方法で製造した複合金属合金を、直接金属成形機に供給し、半溶融状態で金型のキャビティにより成形することを特徴とする複合金属成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の複合金属合金の製造方法で製造した複合金属合金を、冷却して固体の複合金属材料を得る工程と、この固体の複合金属材料を金属成形機に供給し、半溶融状態まで加熱して金型のキャビティにより成形する工程とからなることを特徴とする複合金属成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−239050(P2007−239050A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64635(P2006−64635)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】