説明

複数の単セルバッテリパックを有する電動工具

【課題】 二次電池が有効に利用される電動工具を提供する。
【解決手段】 電動工具は、工具本体と、工具本体に対して着脱可能な複数のバッテリパックと、工具本体に装着された複数のバッテリパックの放電を制御するコントローラを備えている。各々のバッテリパックは、二次電池セルの特性を示す特性データを記憶する記憶装置を有する。コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの記憶装置にアクセス可能であり、記憶装置に記憶されている特性データに基づいて、複数のバッテリパックの放電を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の二次電池を電源とする電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電動工具が開示されている。この電動工具は、工具本体と、工具本体に着脱可能なバッテリパックを備えている。バッテリパックは、工具本体に着脱可能なハウジングと、ハウジング内に収容された複数の二次電池セルを有しており、電動工具の電源として工具本体へ電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,414,337号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリパックを電源とする電動工具では、電動工具の定格電圧に応じたバッテリパックが使用される。例えば、定格電圧が14.4ボルトの電動工具では、公称電圧が14.4ボルトのバッテリパックが使用され、定格電圧が18ボルトの電動工具では、公称電圧が18ボルトのバッテリパックが使用される。言い換えれば、定格電圧が14.4ボルトの電動工具に、公称電圧が18ボルトのバッテリパックは使用することができず、定格電圧が18ボルトの電動工具に、公称電圧が14.4ボルトのバッテリパックは使用することができない。従って、定格電圧が14.4ボルトの電動工具を使用するユーザが、定格電圧が18ボルトの電動工具へ買い換えた場合、そのユーザは公称電圧が18ボルトのバッテリパックを併せて購入しなければならない。そして、公称電圧が14.4ボルトのバッテリパックについては、内部の二次電池セルになんら問題がないとしても、定格電圧が18ボルトの電動工具に使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するために、本技術では、電動工具が複数の二次電池セルを電源とする場合、従来のように、複数の二次電池セルを単一のバッテリパックに収容しない。それに代えて、各々の二次電池セルを、工具本体に着脱可能なバッテリパックに、それぞれ収容する構成とする。この構成によると、単一の二次電池セルを収容する各々のバッテリパックを、定格電圧が異なる電動工具の間で、共通に使用することが可能となる。例えば、定格電圧が14.4ボルトの電動工具を使用するユーザが、定格電圧が18ボルトの電動工具へ新たに買い換えたとする。この場合、ユーザは、不足する3.6ボルト分のバッテリパックのみを購入し、これまで使用してきた14.4ボルト分のバッテリパックと併せて、定格電圧が18ボルトの電動工具に使用することができる。
【0006】
上記した単一の二次電池セルは、ニッケル水素電池セルであってもよいし、リチウムイオン電池セルであってもよいし、他の種類の二次電池セルであってもよい。バッテリパックが単一のリチウムイオン電池セルを収容する場合、そのバッテリパックの公称電圧は3.6ボルトとなる。従って、定格電圧が14.4ボルトの電動工具は、四つのバッテリパックによって駆動することができ、定格電圧が18ボルトの電動工具は、五つのバッテリパックによって駆動することができる。即ち、14.4ボルトの電動工具を使用するユーザが、定格電圧が18ボルトの電動工具へ買い換える場合、このユーザは一つのバッテリパックを買い足せばよく、既に所有する四つのバッテリパックを引き続き使用することができる。なお、ユーザは、単一のリチウムイオン電池セルを内蔵するバッテリパックに代えて、単一のニッケル水素電池セル(公称電圧1.2ボルト)を内蔵する三つのバッテリパックを買い足してもよい。
【0007】
上記した技術に基づいて、下記する電動工具を実現することができる。この電動工具は、工具本体と、工具本体に対して着脱可能な複数のバッテリパックと、工具本体に装着された複数のバッテリパックの放電を制御するコントローラを備えている。そして、各々のバッテリパックは、ハウジングと、ハウジングに収容された単一の二次電池セルを有することを特徴とする。
【0008】
上記した構成の電動工具が広く普及することで、ユーザは、定格電圧が異なる複数の電動工具に、複数のバッテリパック(二次電池セル)を共通に使用することが可能となる。その結果、各々の二次電池セルは、その寿命が尽きるまで、十分に使用されることになり、無駄に廃棄される二次電池セルの減少を期待することができる。
【0009】
上記した電動工具は、バッテリパックの有効利用を促進するために、二次電池セルの特性が互いに異なるような、様々なバッテリパックを使用可能であることが好ましい。この場合、コントローラは、バッテリパックに内蔵された二次電池セルの特性に応じて、バッテリパックの放電を制御することが好ましい。そのことから、本技術の一実施形態では、各々のバッテリパックが、二次電池セルの特性を示す特性データを記憶する記憶装置を有することができる。この場合、コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの記憶装置にアクセス可能とし、記憶装置に記憶されている特性データに基づいて、複数のバッテリパックの放電を制御するように構成することができる。
【0010】
ここで、前記した記憶装置には、二次電池セルの特性として、例えば、二次電池セルの上限電圧、二次電池セルの下限電圧、二次電池セルの最大放電電流、二次電池セルの最大充電電流、二次電池セルの上限温度、二次電池セルの下限温度、二次電池セルの容量、といった特性値の少なくとも一つを記憶させるとよい。
【0011】
本技術の一実施形態では、各々のバッテリパックの記憶装置が、少なくとも、二次電池セルの下限電圧を記憶していることが好ましい。この場合、コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの出力電圧を測定可能であるとともに、少なくとも一つのバッテリパックの出力電圧の測定値が、そのバッテリパックの記憶装置に記憶された下限電圧を下回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することが好ましい。この構成によると、バッテリパック(二次電池セル)の過放電が防止され、バッテリパック(二次電池セル)の劣化や損傷を抑制することができる。
【0012】
上記した実施形態では、コントローラが、工具本体の最大入力電圧を記憶しており、各々のバッテリパックの出力電圧の測定値の合計値が、工具本体の最大入力電圧を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することが好ましい。この構成によると、工具本体に過大な電圧が供給されることを防止して、工具本体のモータや他の電気要素の損傷することを防止することができる。
【0013】
本技術の他の一実施形態では、各々のバッテリパックの記憶装置が、少なくとも、二次電池セルの上限放電電流を記憶していることが好ましい。この場合、コントローラは、工具本体に装着された複数のバッテリパックによる放電電流を測定可能であるとともに、放電電流の測定値が、少なくとも一つのバッテリパックの記憶装置に記憶された上限放電電流を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することが好ましい。この構成によると、バッテリパック(二次電池セル)の過電流が防止され、バッテリパック(二次電池セル)の劣化や損傷を抑制することができる。
【0014】
上記した実施形態では、コントローラが、工具本体の最大入力電流を記憶しており、放電電流の測定値が、工具本体の最大入力電流を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することが好ましい。この構成によると、工具本体に過大な電流が供給されることを防止して、工具本体のモータや他の電気要素の損傷を防止することができる。
【0015】
本技術の他の一実施形態では、各々のバッテリパックが、二次電池セルの温度を測定する温度測定素子をさらに有するとともに、各々のバッテリパックの記憶装置が、少なくとも、二次電池セルの上限温度を記憶していることが好ましい。この場合、コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの温度測定素子に接続可能であるとともに、少なくとも一つのバッテリパックの温度測定素子による測定値が、そのバッテリパックの記憶装置に記憶された上限温度を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することが好ましい。この構成によると、バッテリパック(二次電池セル)の過熱が防止され、バッテリパック(二次電池セル)の劣化や損傷を抑制することができる。
【0016】
上記した各実施形態において、コントローラは、一旦複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限した後は、工具本体のメインスイッチがオフされるまで、その禁止又は制限を継続することが好ましい。この構成によると、バッテリパックの放電の禁止又は制限が、ユーザが意図しないタイミングで解除されてしまい、工具本体が突然に動き出すといったことを防止することができる。
【0017】
本技術に係る電動工具では、複数のバッテリパックが、パックホルダを介して電動工具に着脱可能に構成されてもよい。この場合、パックホルダは、工具本体に着脱可能であり、かつ、複数のバッテリパックにも着脱可能な構成とするとよい。パックホルダを用いることで、従来の電動工具の工具本体、即ち、複数の二次電池セルを有する単一のバッテリパックを使用する工具本体を、単一の二次電池セルを有する複数のバッテリパックによって使用することが可能となる。
【0018】
本技術に係る電動工具では、コントローラの少なくとも一部を、前記工具本体に内蔵させることができる。あるいは、コントローラの少なくとも一部を、前記したパックホルダに内蔵させることもできる。本技術に係る一実施形態では、コントローラの一部が、前記工具本体に内蔵されており、コントローラの他の一部が、パックホルダに内蔵されている。そして、工具本体に内蔵されたコントローラの一部と、パックホルダに内蔵されたコントローラの他の一部は、通信可能に接続されるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1の電動工具を示しており、ここで、三つのバッテリパックは工具本体に取り付けられている。
【図2】図2は、実施例1の電動工具を示しており、ここで、三つのバッテリパックは工具本体から取り外されている。
【図3】図3は、工具本体を図2中のIII−III方向から見た図であり、バッテリ取付部の内部構造を示す。
【図4】図4は、図2中のIV−IV線における断面図であり、バッテリ取付部の内部構造を示す。
【図5】図5は、バッテリパックの外観を示す斜視図。
【図6】図6は、図5中のVI−VI面における断面図であり、バッテリパックの内部構造を示す図。
【図7】図7は、実施例1の電動工具の回路構成を示す回路図である。
【図8】図8は、実施例1の変形例であって、五つのバッテリパックを電源とする電動工具を示す。
【図9】図9は、実施例2の電動工具を示しており、ここで、バッテリホルダは工具本体に取り付けられ、三つのバッテリパックはパックホルダに取り付けられている。
【図10】図10は、実施例2の電動工具を示しており、ここで、パックホルダは工具本体から取り外され、三つのバッテリパックはパックホルダから取り外されている。
【図11】図11は、パックホルダを図10中のXI−XI方向から見た図であり、バッテリ取付部の内部構造を示す。
【図12】図12は、図10中のXII−XII線における断面図であり、バッテリ取付部の内部構造を示す。
【図13】図13は、実施例2の電動工具の回路構成を示す回路図である。
【図14】図14は、実施例2の電動工具の回路構成の変形例を示す回路図である。
【図15】図15は、実施例2の電動工具の回路構成の他の変形例を示す回路図である。
【図16】図16は、実施例2の変形例であって、五つのバッテリパックを電源とする電動工具を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例1)
図面を参照して、実施例1の電動工具10について説明する。図1、図2は、電動工具10の外観を示している。図1、図2に示すように、電動工具10は、工具本体12と、複数のバッテリパック100を備えている。工具本体12には、工具が着脱可能な工具ホルダ14と、ユーザによって操作されるメインスイッチ16と、ユーザによって保持されるグリップ18が設けられている。また、工具本体12には、工具ホルダ14を駆動するモータ50(図7参照)や回路基板22が収容されている。
【0021】
工具本体12には、三つのバッテリ取付部30が設けられている。三つのバッテリ取付部30は、グリップ18の端部に位置している。各々のバッテリ取付部30には、一つのバッテリパック100を着脱可能に構成されている。工具本体12には、各々のバッテリ取付部30からバッテリパック100を排出させる排出部材24が設けられている。図3、図4に示すように、各々のバッテリ取付部30には、正極入力端子32、負極入力端子34、第1通信端子36、第2通信端子38、第3通信端子40が設けられている。これらの各端子は、回路基板22からバッテリ取付部30まで伸びている。
【0022】
図5、図6に示すように、バッテリパック100は、ハウジング102と、ハウジング102に収容された単一の二次電池セル110を備えている。ハウジング102は、柱形状を有しており、工具本体12のバッテリ取付部30に着脱可能な形状を有している。二次電池セル110は、リチウムイオン電池セルであり、その公称電圧は3.6ボルトである。従って、バッテリパック100の公称電圧も3.6ボルトである。一方、工具本体12の定格電圧は、10.8ボルトとなっている。
【0023】
バッテリパック100は、正極出力端子122、負極出力端子124を有している。正極出力端子122は、ハウジング102の一方の端部に配置されており、二次電池セル110の正極110aに電気的に接続されている。負極出力端子124は、ハウジング102の他方の端部に配置されており、二次電池セル110の負極110bに電気的に接続されている。正極出力端子122と負極出力端子124はそれぞれ、ハウジング102内に収容されているとともに、ハウジング102に形成された開口を通じて外部に露出している。
【0024】
バッテリパック100は、回路基板112を有している。回路基板112は、ハウジング102内に収容されている。回路基板112には、記憶装置(EEPROM)114、サーミスタ116、第1通信端子126、第2通信端子128、第3通信端子130が設けられている。サーミスタ116は、二次電池セル110の温度を測定するための素子であり、二次電池セル110の近傍に配置されている。サーミスタ116は、二次電池セル110の温度に応じて、その抵抗値を変化させる。第1通信端子126と第2通信端子128と第3通信端子130のそれぞれは、ハウジング102に形成された開口を通じて外部に露出している。
【0025】
記憶装置114は、二次電池セル110の特性を示す特性データを記憶している。この特性データには、二次電池セル110の上限電圧、二次電池セル110の下限電圧、二次電池セル110の最大放電電流、二次電池セル110の最大充電電流、二次電池セル110の上限温度、二次電池セル110の下限温度、二次電池セル110の容量、といった特性値が含まれている。
【0026】
図7は、電動工具10の電気的な構成を示す回路図である。図7に示すように、バッテリパック100では、第1通信端子126が回路基板112の記憶装置114に接続されており、第2通信端子128が回路基板112の接地端子(図示省略)に接続されており、第3通信端子130がサーミスタ116に接続されている。
【0027】
工具本体12は、モータ50、電力供給回路52、メインスイッチ検出回路54、コントローラ60、第1マルチプレクサ62、第2マルチプレクサ64、バッファ回路66、アンプ回路68を備えている。電力供給回路52は、正極入力端子32と負極入力端子34とモータ50を、電気的に接続している。
【0028】
三つのバッテリパック100を工具本体12へ装着すると、バッテリパック100の正極出力端子122は、工具本体12の正極入力端子32に電気的に接続され、バッテリパック100の負極出力端子124は、工具本体12の負極入力端子34に電気的に接続される。工具本体12内では、電力供給回路52が、三つのバッテリパック100を、モータ50へ直列に接続する。即ち、三つの二次電池セル110が、モータ50に対して直列に接続される。
【0029】
電力供給回路52には、メインスイッチ16が設けられている。それにより、ユーザがメインスイッチ16をオン操作すると、電力供給回路52は電気的に閉鎖(接続)され、ユーザがメインスイッチ16をオフ操作すると、電力供給回路52は電気的に開放(切断)される。また、メインスイッチ16は可変速スイッチであり、ユーザによるオン操作の操作量に応じて、速度指令信号を出力する。メインスイッチ16の速度指令信号は、コントローラ60へ入力される。
【0030】
電力供給回路52には、FET(電界効果トランジスタ)58が設けられている。FET58のゲートは、コントローラ60に接続されている。コントローラ60は、FET58をオンオフすることによって、電力供給回路52を電気的に開閉することができる。詳しくは後述するが、コントローラ60は、FET58を制御することによって、三つのバッテリパック100の放電を禁止及び制限することができる。
【0031】
電力供給回路52には、シャント抵抗70が設けられている。シャント抵抗70は、電力供給回路52に流れる電流を測定するための抵抗素子である。電力供給回路52に流れる電流は、二次電池セル110による放電電流であって、かつ、モータ50に供給される電流である。シャント抵抗70に生じた電圧は、アンプ回路68を通じて、コントローラ60へ入力される。コントローラ60は、シャント抵抗70に生じた電圧に基づいて、電力供給回路52に流れる電流を測定することができる。
【0032】
三つのバッテリパック100の第1通信端子126は、工具本体12の三つの第1通信端子36へそれぞれ接続される。工具本体12の三つの第1通信端子36は、第1マルチプレクサ62を介して、コントローラ60に接続されている。この構成により、コントローラ60は、バッテリパック100の記憶装置114へアクセス可能となっており、記憶装置114に記憶されている特性データを取得することができる。また、コントローラ60は、バッテリパック100の記憶装置114に、データの書き込み行うこともできる。
【0033】
三つのバッテリパック100の第2通信端子128は、工具本体12の三つの第2通信端子38へそれぞれ接続される。工具本体12の三つの第2通信端子38は、工具本体12内で接地されている。この構成により、全てのバッテリパック100の回路基板112は、工具本体12のコントローラ60と同じ電位に接地される。
【0034】
三つのバッテリパック100の第3通信端子130は、工具本体12の三つの第3通信端子40へそれぞれ接続される。工具本体12の三つの第3通信端子40は、第1マルチプレクサ62を介して、コントローラ60に接続されている。この構成により、コントローラ60は、三つのバッテリパック100のサーミスタ116にそれぞれ接続して、各々のバッテリパック100の二次電池セル110の温度を測定することができる。
【0035】
バッファ回路66は、第2マルチプレクサ64を介して、各々のバッテリ取付部30の正極入力端子32及び負極入力端子34へ接続されている。バッファ回路66は、一つのバッテリ取付部30の正極入力端子32及び負極入力端子34へ選択的に接続され、正極入力端子32と負極入力端子34の間の電圧に応じた信号を出力する。バッファ回路66の出力信号は、コントローラ60へ入力される。コントローラ60は、第2マルチプレクサ64を制御し、バッファ回路66の出力信号を受信することで、各々のバッテリパック100(即ち、二次電池セル110)の出力電圧を測定することができる。
【0036】
メインスイッチ検出回路54は、メインスイッチ16のオンオフを検出するための回路である。図7に示す回路構成により、メインスイッチ検出回路54は、メインスイッチ16がオフされている間、コントローラ60へハイレベルの電圧信号(Vcc)を出力し、メインスイッチ16がオンされている間は、コントローラ60へローレベルの電圧信号(GND)を出力する。コントローラ60は、メインスイッチ検出回路54の出力信号に基づいて、メインスイッチ16のオンオフを検出することができる。
【0037】
本実施例の電動工具10では、コントローラ60が、工具本体12に装着された三つのバッテリパック100の放電を制御する。コントローラ60は、工具本体12に装着された各々のバッテリパック100の記憶装置114にアクセス可能であり、記憶装置114に記憶されている特性データに基づいて、三つのバッテリパック100の放電を制御することができる。以下、コントローラ60が実行する放電制御の主要例を説明する。
【0038】
コントローラ60は、バッファ回路66を用いて各々のバッテリパック100の出力電圧を測定し、少なくとも一つのバッテリパック100の出力電圧の測定値が、そのバッテリパック100の記憶装置114に記憶された下限電圧を下回る場合に、FET58をターンオフしてバッテリパック100の放電を禁止することができる。それにより、バッテリパック100(二次電池セル110)の過放電が防止され、バッテリパック100(二次電池セル110)の劣化や損傷を抑制することができる。なお、コントローラ60は、バッテリパック100の放電を完全に禁止せず、FET58を断続的にオフすることによって、バッテリパック100の放電を部分的に制限してもよい。
【0039】
加えて、コントローラ60は、工具本体12の最大入力電圧を記憶しており、各々のバッテリパック100の出力電圧の測定値の合計値が、工具本体12の最大入力電圧を上回る場合に、FET58を断続的にオフすることによって、バッテリパック100の放電を部分的に制限することができる。即ち、コントローラ60は、FET58をPWM制御することによって、三つのバッテリパック100から工具本体12へ供給される電圧を、工具本体12の最大入力電圧以下とすることができる。それにより、工具本体12に過大な電圧が供給されることを防止して、モータ50やメインスイッチ16等の損傷を防止することができる。なお、コントローラ60は、FET58を完全にターンオフし、バッテリパック100の放電を禁止してもよい。
【0040】
コントローラ60は、シャント抵抗70を用いて三つのバッテリパック100による放電電流を測定し、放電電流の測定値が、少なくとも一つのバッテリパック100の記憶装置114に記憶された上限放電電流を上回る場合に、FET58をターンオフしてバッテリパック100の放電を禁止(中止)することができる。この構成によると、バッテリパック100(二次電池セル110)の過電流が防止され、バッテリパック100(二次電池セル110)の劣化や損傷を抑制することができる。なお、コントローラ60は、バッテリパック100の放電を完全に禁止せず、FET58を断続的にオフすることによって、バッテリパック100の放電を部分的に制限してもよい。
【0041】
加えて、コントローラ60は、工具本体12の最大入力電流を記憶しており、放電電流の測定値が、工具本体12の最大入力電流を上回る場合に、FET58をターンオフしてバッテリパック100の放電を禁止(中止)することができる。それにより、工具本体12の電力供給回路52に過大な電流が供給されることを防止して、モータ50やメインスイッチ16等の損傷を防止することができる。なお、コントローラ60は、バッテリパック100の放電を完全に禁止せず、FET58を断続的にオフすることによって、バッテリパック100の放電を部分的に制限してもよい。
【0042】
コントローラ60は、各々のバッテリパック100のサーミスタ116に接続し、少なくとも一つのバッテリパック100のサーミスタ116による測定値が、そのバッテリパック100の記憶装置114に記憶された上限温度を上回る場合に、FET58をターンオフしてバッテリパック100の放電を禁止することができる。それにより、バッテリパック100(二次電池セル110)の過熱を防止して、バッテリパック100(二次電池セル110)の劣化や損傷を抑制することができる。なお、コントローラ60は、バッテリパック100の放電を完全に禁止せず、FET58を断続的にオフすることによって、バッテリパック100の放電を部分的に制限してもよい。
【0043】
上記したように、コントローラ60は、バッテリパック100(二次電池セル110)の電圧、電流、温度に応じて、バッテリパック100の放電を禁止又は制限することができる。ここで、コントローラ60は、一旦バッテリパック100の放電を禁止又は制限した後は、メインスイッチ検出回路54によってメインスイッチ16のオフが検出されるまで、その放電の禁止又は制限を継続するように構成されている。それにより、バッテリパック100の放電の禁止又は制限が、ユーザが意図しないタイミングで解除されてしまい、工具本体12が突然に作動するといったことを防止する。
【0044】
上述した電動工具10では、工具本体12の定格電圧が10.8ボルトであり、バッテリパック100の公称電圧が3.6ボルトであるので、三つのバッテリパック100が使用されている。当然ではあるが、工具本体12の定格電圧は10.8ボルトに限定されるものではなく、使用するバッテリパック100の数も三つに限定されない。例えば、図8に示す電動工具11のように、工具本体12の定格電圧を18ボルトとし、使用するバッテリパック100の数を五つとすることもできる。
【0045】
ここで、定格電圧が10.8ボルトの電動工具10と、定格電圧が18ボルトの電動工具11の間で、ユーザはバッテリパック100を共通に使用することができる。従って、ユーザは、所有するバッテリパック100を有効に使用することができる。例えば、定格電圧が10.8ボルトの電動工具10を使用するユーザが、定格電圧が18ボルトの電動工具11へ買い換えたとする。この場合、ユーザは、不足する二つのバッテリパック100のみを購入し、これまで使用してきた三つのバッテリパック100と併せて、定格電圧が18ボルトの電動工具11に使用することができる。そして、内部の二次電池セル110が完全に劣化したものから順に、バッテリパック100を買い換えていくことができる。
【0046】
(実施例2)
図面を参照して、実施例2の電動工具200について説明する。図9、図10は、実施例2の電動工具200の外観を示している。図9、図10に示すように、電動工具10は、工具本体212と、複数のバッテリパック100と、パックホルダ214を備えている。実施例1の電動工具10と比較して、実施例2の電動工具200では、三つのバッテリパック100が、パックホルダ214を介して、工具本体212に着脱される構成となっている。以下では、実施例2の電動工具200について詳細に説明するが、実施例1の電動工具10と共通する構成については、同一の参照番号を付すことによって説明を省略する。
【0047】
工具本体212には、一つのバッテリ取付部216が設けられている。一方、パックホルダ214の上面には、工具コネクタ218が設けられている。パックホルダ214の工具コネクタ部218は、工具本体212のバッテリ取付部216に着脱可能となっている。パックホルダ214の下面には、三つのバッテリ取付部30が設けられている。図11、図12に示すように、パックホルダ214のバッテリ取付部30は、実施例1で説明した工具本体12のバッテリ取付部30と同じ構成を有している。各々のバッテリ取付部30は、一つのバッテリパック100を着脱可能となっている。なお、工具本体212のバッテリ取付部216には、パックホルダ214に代えて、複数の二次電池セルを単一のハウジングに収容する従来のバッテリパックを取り付けることもできる。
【0048】
図13は、電動工具200の電気的な構成を示す回路図である。工具本体212は、モータ50、電力供給回路52の一部、工具コントローラ220、記憶装置222を備えている。工具コントローラ220は、メインスイッチ16に接続されており、メインスイッチ16が出力する速度指令信号が、工具コントローラ220に入力される。記憶装置222は、工具本体212の特性データを記憶している。この特性データには、工具本体212の最大入力電圧、工具本体212の最大入力電流が含まれる。
【0049】
加えて、工具本体212は、正極入力端子232、負極入力端子234、第1通信端子236、第2通信端子238、第3通信端子240、第4通信端子242を備えている。これらの端子は、工具本体212のバッテリ取付部216に配置されている。正極入力端子232及び負極入力端子234は、モータ50へ電気的に接続されている。第1通信端子236は、メインスイッチ16のモータ50側に接続されている。第2通信端子238は、工具コントローラ220へ電気的に接続されている。第3及び第4通信端子240、242は、記憶装置222へ電気的に接続されている。
【0050】
パックホルダ214は、電力供給回路52の一部、メインスイッチ検出回路54、コントローラ60、第1マルチプレクサ62、第2マルチプレクサ64、バッファ回路66、アンプ回路68を備えている。電力供給回路52には、FET58及びシャント抵抗70が設けられている。
【0051】
加えて、パックホルダ214は、正極出力端子252、負極出力端子254、第1通信端子256、第2通信端子258、第3通信端子260、第4通信端子262を備えている。これらの端子は、パックホルダ214の工具コネクタ218に配置されている。正極出力端子252は、電力供給回路52を介して、正極入力端子32へ電気的に接続されている。負極出力端子254は、電力供給回路52を介して、負極入力端子34へ電気的に接続されている。第1通信端子256は、メインスイッチ検出回路54へ電気的に接続されている。第2通信端子258及び第3通信端子260は、コントローラ60へ電気的に接続されている。第4通信端子262は、パックホルダ214の回路の接地電位に接続されている。
【0052】
図13に示すように、パックホルダ214を工具本体212へ取り付けると、パックホルダ214の各端子252、254、256、258、260、262が、工具本体212の対応する端子232、234、236、238、240、242へ、電気的に接続される。それにより、パックホルダ214のコントローラ60は、工具本体212の工具コントローラ220及び記憶装置222と、通信可能に接続される。パックホルダ214のコントローラ60と、工具本体212の工具コントローラ220及び記憶装置222は、協業して、実施例1で説明したコントローラ60と同じように機能する。
【0053】
ただし、本実施例の電動工具200では、パックホルダ214のコントローラ60が、工具本体212の記憶装置222にアクセスし、工具本体212の特性データ(最大入力電圧及び最大入力電流)を取得する。そして、取得する工具本体212の特性データに基づいてFET58をオンオフし、バッテリパック100の放電を制御する。そのことから、パックホルダ214及び複数のバッテリパック100は、特定の工具本体212に限られず、複数の工具本体212において共通に使用することができる。
【0054】
実施例2の電動工具200において、図13に示す回路構成は、適宜変形することができる。例えば図14に示すように、FET58を工具本体212へ配置し、そのFET58の制御は、工具コントローラ220によって行うように構成してもよい。あるいは、図15に示す回路構成へ変更してもよい。この回路構成では、パックホルダ214のコントローラ60が、バッテリパック100の出力電圧や放電電流といった指標の測定を行い、その測定値に基づいて、バッテリパック100の放電を禁止又は制限を指令する信号を出力する。この信号は、通信端子258、238を通じて、工具本体212の工具コントローラ220へ送信される。工具コントローラ220は、パックホルダ214のコントローラ60からの信号を受けて、FET58をターンオフするといった、バッテリパック100の放電を禁止又は制限する処理を行う。この構成によると、工具本体212とパックホルダ214の間の通信端子の数を削減することができる。
【0055】
上述した電動工具10では、工具本体212の定格電圧が10.8ボルトであり、バッテリパック100の公称電圧が3.6ボルトであるので、三つのバッテリパック100が使用されている。当然ではあるが、工具本体212の定格電圧は10.8ボルトに限定されるものではなく、使用するバッテリパック100の数も三つに限定されない。例えば、図16に示す電動工具201のように、工具本体212の定格電圧を18ボルトとし、使用するバッテリパック100の数を五つとすることもできる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0057】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0058】
10、11、200、201:電動工具
12、212:工具本体
50:モータ
60:コントローラ
100:バッテリパック
102:ハウジング
110:二次電池セル
114:記憶装置
116:サーミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体と、
工具本体に対して着脱可能な複数のバッテリパックと、
工具本体に装着された複数のバッテリパックの放電を制御するコントローラを備え、
各々のバッテリパックは、ハウジングと、ハウジングに収容された単一の二次電池セルを有することを特徴とする電動工具。
【請求項2】
各々のバッテリパックは、二次電池セルの特性を示す特性データを記憶する記憶装置を有し、
前記コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの記憶装置にアクセス可能であり、前記記憶装置に記憶されている特性データに基づいて、複数のバッテリパックの放電を制御することを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
各々のバッテリパックの記憶装置は、少なくとも、二次電池セルの下限電圧を記憶しており、
前記コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの出力電圧を測定可能であるとともに、少なくとも一つのバッテリパックの出力電圧の測定値が、そのバッテリパックの記憶装置に記憶された下限電圧を下回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することを特徴とする請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記コントローラは、工具本体の最大入力電圧を記憶しており、各々のバッテリパックの出力電圧の測定値の合計値が、工具本体の最大入力電圧を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することを特徴とする請求項3に記載の電動工具。
【請求項5】
各々のバッテリパックの記憶装置は、少なくとも、二次電池セルの上限放電電流を記憶しており、
前記コントローラは、工具本体に装着された複数のバッテリパックによる放電電流を測定可能であるとともに、放電電流の測定値が、少なくとも一つのバッテリパックの記憶装置に記憶された上限放電電流を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記コントローラは、工具本体の最大入力電流を記憶しており、放電電流の測定値が、工具本体の最大入力電流を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することを特徴とする請求項5に記載の電動工具。
【請求項7】
各々のバッテリパックは、二次電池セルの温度を測定する温度測定素子をさらに有し、
各々のバッテリパックの記憶装置は、少なくとも、二次電池セルの上限温度を記憶しており、
前記コントローラは、工具本体に装着された各々のバッテリパックの温度測定素子に接続可能であるとともに、少なくとも一つのバッテリパックの温度測定素子による測定値が、そのバッテリパックの記憶装置に記憶された上限温度を上回る場合に、複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限することを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記コントローラは、一旦複数のバッテリパックの放電を禁止又は制限した後は、工具本体のメインスイッチがオフされるまで、その禁止又は制限を継続することを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項9】
前記工具本体に着脱可能なパックホルダをさらに備え、
前記複数のバッテリパックは、パックホルダに対して着脱可能であり、パックホルダを介して前記工具本体に着脱可能であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項10】
前記コントローラの少なくとも一部は、前記工具本体に内蔵されていることを特徴とする請求項9に記載の電動工具。
【請求項11】
前記コントローラの少なくとも一部は、前記パックホルダに内蔵されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の電動工具。
【請求項12】
前記コントローラの一部は、前記工具本体に内蔵されており、
前記コントローラの他の一部は、前記パックホルダに内蔵されており、
前記工具本体に内蔵されたコントローラの一部と、前記パックホルダに内蔵されたコントローラの他の一部は、通信可能に接続されることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の電動工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−35398(P2012−35398A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180527(P2010−180527)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】