説明

複数の均一化レンズを備えるイオン注入装置および複数の均一化レンズの選択方法

【課題】イオンビームの低エネルギー化が進んだ場合においても、半導体基板に対して十分に均一な電流密度分布を有するイオンビームを照射することを主たる目的としている。
【解決手段】このイオン注入装置は、所望のエネルギーを有するリボン状のイオンビームを半導体基板に照射する為にリボン状のイオンビームを加速あるいは減速させる加減速器と、リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布を均一に制御する為の第1の均一化レンズおよび第2の均一化レンズと、半導体基板が配置される処理室と、処理室内に配置されリボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の測定を行うビーム電流計測器とを備えている。そして、処理室側からリボン状のイオンビームの経路を見た時、第2の均一化レンズ、加減速器、第1の均一化レンズの順に、イオンビームの経路に沿って配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、リボン状のイオンビームの長辺方向におけるイオンビームの電流密度分布が均一となるように制御する為の均一化レンズを複数有するイオン注入装置に関する。更には、複数の均一化レンズの使い分けの手法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオン注入装置には、シリコン等の半導体基板に所望のエネルギーを有するイオンビームを照射させる為に、イオンビームを加速あるいは減速させる機能を有する加減速器が備えられている。また、デバイスの製作にあたっては、半導体基板全面に渡って均一な特性を有するデバイスを製作することが望まれる。その為、イオン注入装置には半導体基板に照射されるイオンビームの電流密度分布を均一に制御する為の均一化レンズが備えられている。
【0003】
一般に、イオンビームは空間電荷効果の影響で発散する。イオンビームの発散の度合いは、イオンビームの飛行距離が長くなるほど、イオンビーのエネルギーが低くなるほど、顕著となる。イオンビームが十分に発散してしまうと、ウェハに照射されるイオンビームのビーム径が大きくなって目的箇所へのビーム照射利用効率を下げると共に、ビーム径内での各イオン粒子の進行方向の角度が拡がり、照射時の基板への入射角度も拡がる。その為、設定角度から或る角度幅を持って入射角が悪化する。換言すれば、電流密度分布の均一性が悪化する。これを改善する為に、低いエネルギーのイオンビームを扱うイオン注入装置では、出きるだけ半導体基板が配置される処理室と近い位置に加減速器を設置し、半導体基板にイオンビームが照射される直前にイオンビームのエネルギーを低くしていた。
【0004】
また、イオン注入装置で取り扱うイオンビームのエネルギー範囲は広い。例えば、電流のイオン注入装置では、取り扱うイオンビームのエネルギーの範囲は、数keV〜数百keVに及ぶ。なお、ここで言うエネルギーは、半導体基板に照射されるイオンビームのエネルギーをさす。高いエネルギーを有するイオンビームを偏向させる場合は、強い電界や強い磁界が必要となる。一方、低いエネルギーを有するイオンビームの場合は、弱い電界や弱い磁界で良い。電界や磁界を発生させる為のレンズの駆動源として、通常は直流電源が、場合によっては交流電源が用いられる。均一化レンズで取り扱うイオンビームのエネルギーが広範囲に及ぶ場合には、この電源の電圧も広範囲に設定できるようなものを使用する必要がある。
【0005】
一方で、広範囲に渡って電圧の設定が出来るような電源は高価であるので、あまり使用したくないという要望もある。その為、従来のイオン注入装置では、イオンビームが通過する経路において、加減速器の上流側に均一化レンズを配置し、加減速器にてイオンビームのエネルギーの変換が行われる前のイオンビーム(エネルギーの範囲が広域でないイオンビーム)に対して、均一化制御を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−97975号公報(段落0275−0276、段落0228−0229、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体基板に形成される回路パターンは、年々、微細化の一途をたどっている。それに伴って、半導体基板の表面から浅い位置にイオンを注入することが重要となっている。半導体基板表面からどれぐらいの位置にイオンが注入されるのかは、イオンビームのエネルギーに依存している。半導体基板に照射されるイオンビームのエネルギーが低いほど、半導体基板表面から浅い位置にイオンが注入される。
【0008】
今後、微細化が進むことで、更なるイオンビームの低エネルギー化が求められた場合、従来のイオン注入装置では半導体基板全面に渡って均一な特性を有するデバイスを製作することが困難になる。その理由としては、従来のイオン注入装置では、加減速器と半導体基板との間にイオンビームの均一化制御を行う為の均一化レンズが存在していない。これまでは、加減速器と半導体基板との間の物理的な距離に応じて、多少のイオンビームの発散があったにしろ、デバイスの製作にあたって、イオンビームの電流密度分布の均一性は許容範囲内であった。しかしながら、加減速器でイオンビームがこれまで以上に低いエネルギーに変換されると、更にイオンビームは発散することになり、最終的には許容出来る範囲を超えてしまう。
【0009】
この為、従来のイオン注入装置では、イオンビームの低エネルギー化が進んだ場合、半導体基板に対して十分に均一な電流密度分布を有するイオンビームを照射させることが出来ないという課題があった。
【0010】
そこでこの発明は、イオンビームの低エネルギー化が進んだ場合においても、半導体基板に対して十分に均一な電流密度分布を有するイオンビームを照射することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この本発明に係るイオン注入装置は、所望のエネルギーを有するリボン状のイオンビームを半導体基板に照射する為に前記リボン状のイオンビームを加速あるいは減速させる加減速器と、前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布を均一に制御する為の第1の均一化レンズおよび第2の均一化レンズと、前記半導体基板が配置される処理室と、前記処理室内に配置され前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の測定を行うビーム電流計測器と、を備えたイオン注入装置において、前記処理室側から前記リボン状のイオンビームの経路を見た時、前記第2の均一化レンズ、前記加減速器、前記第1の均一化レンズの順に、イオンビームの経路に沿って配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1つの局面によれば、イオンビームの低エネルギー化が進んだ場合においても、半導体基板に対して十分に均一な電流密度分布を有するイオンビームを照射させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】イオンビームの斜視図である。
【図3】ビーム電流計測器の平面図である。
【図4】均一化レンズの斜視図である。
【図5】ビーム電流計測器によって計測されたY軸方向に沿った電流密度分布である。
【図6】図5に全体のビーム電流密度の平均値と所定範囲を追記した図である。
【図7】図5に所定範囲と各グループでのビーム電流密度の平均値を追記した図である。
【図8】均一化レンズによる制御を示すフローチャートである。
【図9】イオンビームのエネルギーによる均一化レンズの使い分け方法を示すフローチャートである。
【図10】イオンビームの電流量による均一化レンズの使い分け方法を示すフローチャートである。
【図11】他の様態における均一化レンズの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す平面図である。この図1において、Z軸方向はイオン
ビーム2の進行方向をいう。
【0015】
このイオン注入装置では、イオン源1より射出されたイオンビーム2は、Z軸方向と互いに直交するX軸方向とY軸方向において長さを有しており、それぞれの長さを比較した場合、X軸方向よりもY軸方向の方が長い形状のイオンビームである。このような形状のビームは、リボンビームもしくはシートビーム、長尺ビームとも呼ばれている。なお、図1では、便宜上、イオンビーム2の軌跡としてその中心軌道のみを記載している。
【0016】
より詳細には、このようなイオンビームは、図2に示すように、Y軸方向に沿って長さBH(具体的には、約300〜500mm)を有し、Y軸と直交するX軸方向に長さBW(具体的には、約80〜100mm)を有する。
【0017】
イオンビーム2はイオン源1より射出された後、質量分析マグネット3、分析スリット4を通過する。これによって、半導体基板8に注入されるべきイオン種の選別が行われる。この半導体基板8は、具体的には、シリコンウェハや半導体素子が表面に形成されているガラス基板である。
【0018】
質量分析されたイオンビーム2は、第1の均一化レンズ5、加減速器6、第2の均一化レンズ7を通過した後、処理室9内に配置された半導体基板8に照射される。
【0019】
イオンビーム2が処理室9内に配置された半導体基板8に照射されている間、半導体基板8の全面にイオンビーム2を照射させるために、図示されない駆動機構によって、半導体基板8はX軸と平行なWの方向に往復走査させられる。この往復走査の際、半導体基板8は完全にイオンビーム2が半導体基板8上に照射されない領域まで移動させられる。なお、イオン注入装置のセットアップ時等の半導体基板8に対してイオン注入処理が実施されない間も、半導体基板8をイオンビーム2が照射されない位置に図示されない駆動機構によってイオンビームが通過する経路から半導体基板8は退避させている。
【0020】
処理室9内において、半導体基板8の下流側には、イオンビーム2の中心軌道が通る位置にビーム電流計測器10が配置されている。このビーム電流計測器10は、複数のファラデーカップから構成されている。
【0021】
ビーム電流計測器10の一例は、図3に示されている。ここではビーム電流計測器10は16個のファラデーカップ12から構成されており、各ファラデーカップ12はY軸に沿って配列されている。これによって、半導体基板8にイオンビーム2が照射されていない間、つまりはイオン注入処理の途中あるいは装置のセットアップ等によるイオン注入処理の未実施時に、ビーム電流計測器10にイオンビーム2が照射され、イオンビーム2の長辺方向におけるビーム電流密度分布計測が可能となる。なお、このビーム電流計測器10のY軸方向の寸法は、処理室内で想定される設計上のイオンビーム2のY軸方向の寸法を十分にカバー出来るように設定されている。
【0022】
ビーム電流計測器10で計測されたビーム電流密度分布のデータは、図1の制御装置11に送信され、送信されたデータを基に制御装置11が第1の均一化レンズ5あるいは第2の均一化レンズ6を制御し、イオンビーム2の均一化制御が実施される。
【0023】
ここで、制御装置11による均一化制御の手法を説明する。
【0024】
図4に、第1の均一化レンズ5、第2の均一化レンズ6の一例を示す。ここでは、均一化レンズとして電界レンズを用いている。この電界レンズには、イオンビーム2をX軸方向から挟むように設けられた電極A13、電極B14からなる電極対15がイオンビームの長辺方向に沿って9個配列されている。
【0025】
この例では、9個の電極対15をイオンビームの進行方向(Z方向)から挟むとともに、X軸方向においてイオンビーム2と干渉しない位置に遮蔽板16が配置されている。この遮蔽板16は、電気的に接地されており、隣接する加減速器6からの電界が均一化レンズ側に漏れ出すのを防止する為に設けられている。なお、加減速器6に隣接していない側の均一化レンズの遮蔽板16はイオンビーム2が均一化レンズを構成する電極対15に衝突して、電極対の電位が変化してしまうのを防止する為に設けられている。処理室側に位置する均一化電極の遮蔽板は、均一化電極からの汚染物が処理室側へ流出するのを防止する役割を果たしている。
【0026】
電極A13と電極B14は図示されない導体によって電気的に接続されている。また、9個の電極対のそれぞれは、個別の直流電源に接続されている。そしてそれぞれの電極対15に印加される電圧の値を異ならせることによって、電極対間に電界を発生させることが出来る。この電界により、イオンビームをその進行方向であるZ軸方向からいくらかY軸方向に向けて偏向させることが出来る。
【0027】
この例では、イオンビームは正の電荷を有するものとする。この時、均一化レンズの電極対15のY軸方向において上から1番目の電極対に負の電圧を印加し、その他の電極対を接地しておく。そうすると、上から1番目と2番目の電極対間を通過する一部のイオンビームは、電極対間に発生した電界によってZ方向からいくらか1番目の電極対側へ偏向させられる。つまり、この偏向により1番目と2番目の電極対間を通過する一部のイオンビームはZ方向に対して角度をもつことになる。その他の電極対の部分では、電界が発生していないので、その他の電極対間を通過するイオンビームの偏向は生じない。このようにして、均一化レンズでは局所的なイオンビーム(イオンビーム全体の内、電界が発生している部分を通過する一部分のイオンビーム)の偏向を達成することが出来る。
【0028】
電極対にどのような電圧を印加するのかは、電流密度分布の測定結果に応じて変更される。図4の例では均一化レンズを構成する電極対15を9個としているので、Y軸方向において電極対間の空間は8個存在することになる。一方、図3のビーム計測器を構成する16個のファラデーカップを、隣り合うファラデーカップどうしを一組のグループとして、グループA〜Hの8個のグループに分け、前述の各電極対間に形成された8個の空間にそれぞれ対応させる。
【0029】
図5〜7はビーム電流計測器10によって計測されたビーム電流密度分布である。図の横軸にはビーム電流計測器10でグループ分けされたグループA〜Hに対応する領域が示されており、縦軸にはイオンビーム電流密度が示されている。
【0030】
図5〜7と図8に示す均一化制御のフローチャートと併せて説明する。
【0031】
図8の均一化制御のフローチャートでは、まずA〜Hまでの各グループで計測されたビーム電流密度の平均値(AVE A〜H)と全体のビーム電流密度(A〜Hまでの全グループで計測された電流密度の総和)の平均値(AVE TOTAL)をそれぞれ求める。
【0032】
次に、図8のフローにおいて、各グループでの平均値が所定範囲内にあるかどうかの判定が行われる。仮に、所定範囲内にあれば、均一性が所望の条件を満たすとして、フローは終了する。なお、ここで言う所定範囲内とは、予めイオン注入装置のオペレーターにより設定される値で、所望されるイオンビームの電流密度分布の均一性の程度に応じて決定される。具体的には、所定範囲は全体のビーム電流密度の平均値を基準として設定される。
【0033】
この部分の処理をより詳細に説明する為に、図6と図7を参照する。図6では、全体のビーム電流密度の平均値(AVE TOTAL)を二点鎖線で示すとともに、全体のビーム電流密度の平均値に対しての所定範囲は実線で示している。図7ではA〜Hまでの各グループで計測されたビーム電流密度の平均値(AVE A〜H)を一点鎖線で示している。なお、図7において、グループEおよびFにおけるビーム電流密度の平均値が所定範囲から外れていることがわかる。
【0034】
次に、図8のフローにおいて、所定範囲を満たさなかったグループの電流密度の平均値を抽出する作業が行われる。以降、説明をよりわかり易くするために、一例として具体的な数字を用いて説明する。イオンビーム全体の電流密度の平均値を200、所定範囲を全体の平均値から5%の範囲(190〜210)とし、グループD〜Gでの平均値をそれぞれ195、215、225、200とする。なお、単位は省略する。
【0035】
図7の計測結果によると、所定範囲外となる為、グループEおよびFの平均値データが抽出される。次に抽出されたグループの平均値が所定範囲の上限を超えているかどうかを判定する。この場合、いずれのグループにおいても上限を超えている。
【0036】
次に、対象となるグループの平均値(この場合、グループEとグループFとの平均値)とそれに隣り合うグループの平均値との比較が行われる。まず、グループEを対象に見ると、グループEと隣り合うグループはグループDとFであり、それぞれの平均値は、グループEが215、グループDが195、グループFが225である。次にそれぞれの差を計算し、比較を行う。グループEとグループDの差(215−195)は20、グループEとグループFの差(215−225)は−10となる。一方、グループFを対象に見ると、グループFと隣り合うグループはグループEとGであり、グループFとグループEの差(225−215)は10、グループFとグループGの差(225−200)は25となる。
【0037】
この結果を踏まえて、イオンビームの局所的な偏向を実施する。具体的には、グループEに対応する均一化レンズの電極対間に形成される空間からグループDに対応する均一化レンズの電極対間に形成される空間に向けてイオンビームの局所的な偏向が達成されるように、各電極対に対して適当な電圧を印加させる。これと同時にグループFに対応する均一化レンズの電極対間に形成される空間からグループGに対応する均一化レンズの電極対間に形成される空間に向けて、イオンビームの局所的な偏向が達成されるように、各電極対に対して適当な電圧を印加させる。この均一化制御によって、全体に渡り電流密度の平均化が行われる。なお、その他の電極対間には、イオンビームの局所的な偏向を生じさせないように、電極対間の電位差がゼロになるように適当な電圧が印加されている。
【0038】
均一化制御の結果、再度、それぞれのグループの平均値が所定範囲内に入ったかどうかの確認がなされる。この際、所定範囲外であれば、再び前述の均一化制御が行われる。
【0039】
均一化制御にあたって各電極対に印加する電圧を適当な電圧としたが、これについて詳述しておく。
【0040】
均一化レンズの電極対間に同じ強さの電界を発生させたとしても取り扱うイオンビームのエネルギーによってイオンビームの偏向量は異なる。その為、イオンビームのエネルギー、電極対間に発生させる電位差(電界の強さ)およびイオンビームの局所的な偏向量についての関係を、実際の均一化制御の前に、実験を行うことで予め調べておき、調べた結果をデータテーブルの形で制御装置11に記憶させておく。
【0041】
また、電界を発生させる電位差の値が分かっていても、具体的に電極対へ印加される電圧値は無数に選択出来てしまう。よって、イオンビームの偏向が必要のない部分に設けられた電極対は必ず接地(0V)されるようにしておき、この値を電位差に応じた電圧を印加する際の基準値とする。こうして基準値が設定されると、それをもとに、電位差の値に従って、それぞれの電極対に対して適切な電圧の印加が可能となる。但し、ここでは便宜上、0Vという数値を選択したが、他の値でも構わない。
【0042】
一方で、イオン注入処理の実施前に、イオン注入装置のオペレーターによって設定されたイオンビームのエネルギーの値を、オペレーターが設定を行った段階で、インターフェース等を介して制御装置へ送信されるようにしておく。また、制御装置に対して直接に入力されるようにしておいても良い。
【0043】
さらに、ビーム電流計測器によって測定されたビーム電流密度のデータ(図5〜7に記載されるデータ)もイオン注入処理の実施前あるいは実施中に、適宜、制御装置へ送信されるようにしておく。
【0044】
また、均一化制御を行う場合、全体の電流密度を平らにさせる為に、均一化制御が繰り返されるに従って、イオンビームの偏向量を徐々に少なくなるように設定されることが考えられる。このようにすることで、制御の度に、常に大きな偏向量をもってイオンビームの遷移が行われる為に制御が収束しないといった問題や常に小さな偏向量をもってイオンビームの遷移が行われることで制御に時間を要するといった問題を解消することが出来る。
【0045】
より具体的には、1回目、2回目、3回目・・・といったように均一化制御の回数毎にイオンビームの偏向量が徐々に小さくなるように、例えば2回目の偏向量は1回目の偏向量よりも数%小さくするといった予め決められた規則を用いて、制御装置に設定しておく。ここで言う均一化制御の回数は、最初に所定範囲内に個々のグループの平均値が入っているかどうかの判断を行ってから、再び同じ判断が行われるまでの一連の流れを1回とカウントしている。そして、何回目の均一化制御であるかは、均一化制御の開始から数えて何回のカウントがなされたかで決定される。
【0046】
こうすることで、実際の均一化制御の際、ビーム電流計測器によって測定された結果とイオン注入装置のオペレーターによって設定されたイオンビームのエネルギーの値をもとにして、適宜、制御装置に予め記憶されているエネルギー、偏向量、電圧値からなるデータテーブルから制御装置が適当な値を読み出し、それをもとに均一化レンズによる均一化制御の自動化が実現できる。
【0047】
なお、均一化制御は手動で行っても良い。その場合は、ビーム電流計測器10によって得られる計測結果をイオン注入装置のオペレーターがモニターしながら、均一化レンズの各電極対に印加する電圧の設定値を調節することで行われる。
【0048】
次に、第1の均一化レンズ5と第2の均一化レンズ7との使い分けについて説明する。これらの均一化レンズは半導体基板8に照射されるイオンビーム2のエネルギー、ビーム電流計測器10で計測されるビーム電流量によって使い分けがなされる。
【0049】
まずは、イオンビーム2のエネルギーによる使い分けについて説明する。
【0050】
半導体基板8に照射されるイオンビーム2のエネルギーが高い場合、加減速器6でイオンビームは加速される。この為、第2の均一化レンズ7を通過するイオンビームのエネルギーは高くなる。第2の均一化レンズ7を使用して均一化制御を行う場合、強い電界を発生させる為の高電圧に対応した電源が必要となる。
【0051】
このような高電圧の印加が可能な電源を用いることで一応のところイオンビームを局所的に偏向させ、イオンビームの均一化制御を行うことも出来るが、やはり高いエネルギーのイオンビームは偏向させ難いので、低いエネルギーのイオンビームに対しての制御と比べて制御が難しくなり、均一化制御を行う際の効率が低下する。
【0052】
同じイオンビームの偏向量を達成させる場合、高いエネルギーのイオンビームは、低いエネルギーのイオンビームと比較してより広い範囲の電圧値が求められる。エネルギー大きさにもよるが、例えば、低いエネルギーのイオンビームをZ軸方向に対してY軸方向に向けて0〜10度偏向させる場合、均一化レンズの電極対に印加する電位差が0〜数Vで済む。これに対して、高いエネルギーのイオンビームの場合には、0〜数千Vといった広い範囲が必要とされる。
【0053】
一方で、加減速器6を通過する前のイオンビーム2に対して均一化制御を実施することは従来から行われているように簡単である。これは取り扱うイオンビーム2のエネルギーが比較的低いからである。その為、半導体基板8に高いエネルギーのイオンビーム2を照射させる場合には、高いエネルギーに変換される前のイオンビーム2に対して均一化制御を行うことが均一化制御の効率の点からも望ましい。よって、半導体基板8に高いエネルギーのイオンビームを照射する場合には、加減速器6の上流側の第1の均一化レンズ5を用いて均一化制御を行う。
【0054】
反対に、半導体基板8に低いエネルギーのイオンビーム2を照射する場合には、第1の均一化レンズ5を用いて均一化制御を行うことは難しい。これは低いエネルギーのイオンビーム2は空間電荷効果の影響を受けやすく、半導体基板8に到達するころには、もはやイオンビーム2としては発散してしまい、均一化制御が難しくなるからである。
【0055】
これについて詳述すると、空間電荷効果によりイオンビーム2全体の外形は広がる。一方、マクロな視点で見た場合、つまりイオンビーム2の個々の部分に着目すると、空間電荷効果の影響をうけてイオンビーム2はあらゆる方向に進行している。どのような方向にイオンビーム2が進行するのかは、着目している部分のイオンビーム2の電荷の状態、イオンビーム経路中に存在する残留ガスの濃度あるいは残留ガスから電離される電子の量等の状況に依存する。これらの状況は、時間的に変化する。よって、空間電荷効果によってイオンビームの一部がどのような方向に進行するかを予想するということは非常に困難である。
【0056】
半導体基板8に照射されるイオンビーム2のエネルギーが低い場合に、第1の均一化レンズ5を用いて均一化制御を実施する場合を考える。第1の均一化レンズ5から半導体基板8までの間には加減速器が存在している為、第1の均一化レンズ5から半導体基板8までの物理的な距離は遠い。よって、第1の均一化レンズ5で制御されたイオンビーム2は半導体基板8に到達するまでに空間電荷効果の影響を強く受けてしまう。
【0057】
イオンビーム2の個々の部分を見た場合に、半導体基板8に到達するイオンビーム2は第1の均一化レンズ5で制御された進行方向とは異なる方向に進んでしまうことになるので、均一化制御によって十分に電流密度分布が均一なイオンビーム2を半導体基板8に照射させることが出来ない。
【0058】
よって、本発明では、半導体基板8に照射されるイオンビーム2が低いエネルギーを有する場合には、第2の均一化レンズ7を用いて均一化制御を実施している。この様な使い分けをすることで、広範囲に電圧を設定出来る高価な電源が不要となる。さらには、第2の均一化レンズ7と半導体基板8との距離が近い。その為、空間電荷効果による影響がさほど発生しないので、十分に電流密度分布が均一なイオンビーム2を半導体基板8に照射させることが出来るといった点で従来技術と比較して有利となる。
【0059】
なお、X軸方向における電流密度分布の均一性は、この実施例において問題とならない。本実施例では半導体基板をX軸と平行なWの方向にイオンビームを横切るように走査しているので、X軸方向における電流密度分布が均一でなかったとしても、Y軸方向でのビーム電流密度分布の均一性が保たれれば、半導体基板の全面に対して均一なイオン注入が可能となる。
【0060】
これまでに説明した均一化レンズの使い分けの具体例を図9に示す。
【0061】
空間電荷効果の影響は、イオンビーム経路の距離とエネルギーに依存することについて述べてきた。ここでは、その点に着目して、均一化レンズの使い分けを行っている。
【0062】
図9に示すフローチャートでは、まず半導体基板8に照射されるイオンビーム2のエネ
ルギーの設定を行う。これについてはイオン注入装置のオペレーターが適宜行う。次に設定されたエネルギー(便宜上、最終エネルギーと呼ぶ)と予め設けられている所定のエネルギー(便宜上、基準エネルギーと呼ぶ)との比較を行う。
【0063】
基準エネルギーは各イオン注入装置の構成に依存して設定される。このように設定される理由は、各イオン注入装置で加減速器と半導体基板までの距離が一定ではない為、同じエネルギーを有するイオンビームを取り扱う場合でも空間電荷効果の影響が異なってくるからである。なお、この基準エネルギーは、高いエネルギーと低いエネルギーの境界のエネルギーを意味しており、イオン注入装置を用いた実験や設計者の経験則から決定される値である。
【0064】
比較の結果、最終エネルギーが基準エネルギーよりも小さければ、最終エネルギーは低いエネルギーであるので、加減速器6の下流側に設けられた第2の均一化レンズ7を用いて均一化制御が実施される。反対に、最終エネルギーが基準エネルギーよりも大きければ、最終エネルギーは高いエネルギーであるので、加減速器6の下流側に設けられた第1の均一化レンズ5を用いて均一化制御が実施される。
【0065】
図9に示されるフローチャートに示される判定機能を制御装置11に設けておいても良い。その場合、予め制御装置11に基準エネルギーの値を記憶させておく。後は、イオン注入装置のオペレーターが、最終エネルギーの設定を行った際に、適宜、その情報が制御装置11にユーザーインターフェースを介して入力されるようにしておく。そうすると、使用する均一化レンズの選択判断と選択された均一化レンズを用いての均一化制御の実施とを、全て自動化して行うことが出来る。
【0066】
一方、イオン注入装置のオペレーターが手動で行うことも可能である。予め基準エネルギーの値を求めておき、最終エネルギーを設定する際に、適宜、オペレーターが比較を行って使用する均一化レンズを選択すれば良い。
【0067】
エネルギーの値に基づいて均一化レンズの使い分けを行う方法について説明したが、ビーム電流計測器によるビーム電流値(ビーム電流量)に基づいて均一化レンズの使い分けをしても良い。
【0068】
低いエネルギーのイオンビームは、空間電荷効果の影響を強く受ける為、高いエネルギーのイオンビームと比べると、イオンビームの外形が大きく広がってしまう。その為、複数のファラデーカップからなるビーム電流計測器10で計測されるビーム電流量に着目すると、低いエネルギーのイオンビームの電流量は高いエネルギーのイオンビームの電流量よりも小さくなる。つまり、低いエネルギーのイオンビームではその外形が広がってしまう為、ビーム電流計測器からはみ出てしまう。その為、全てのイオンビームに対しての計測が出来ないので、ビーム電流量は減少する。
【0069】
この場合における具体的な手法は、図10に従って行われる。ビーム電流量の場合もエネルギーの場合と同じく、予め実験を行って基準となる所定のビーム電流量を決定しておく。そして、実際にビーム電流計測器で測定されたビーム電流量と所定のビーム電流量との比較を行い、適宜、使用する均一化レンズの選択を行う。
【0070】
このビーム電流量を用いた選択方法の場合もエネルギーを用いた選択方法の場合と同様に、制御装置で行うようにしても良いし、オペレーターの判断に任せても良い。
【0071】
なお、これまでイオンビームのエネルギーとイオンビーム電流量に基づいて均一化レンズを使い分ける手法を述べてきたが、例えば、イオンビーム全体の広がり角度を用いても同様に均一化レンズの使い分けを行うことが出来る。何故なら、これらのパラメーターは半導体基板に照射されるイオンビームに対して空間電荷効果の影響がどの程度現れるかを示すものである。よって、本発明で着目すべきパラメーターは、イオンビームのエネルギーや電流量に限られず、イオンビームのエネルギーの違いによって半導体基板に照射されるイオンビームに対しての空間電荷効果の影響度を示すその他のパラメーターであっても構わない。
【0072】
<その他の実施形態>
前述の実施形態に限らず、次のような形態を採用しても良い。
【0073】
第1の均一化レンズ5と第2の均一化レンズ7は、異なる部材であってもよいが、制御性の観点から同一の部材を用いるのが望ましい。また、一例として図4に示される静電レンズアレイからなる電界レンズを用いるものを挙げたが、これに限らず、従来からビーム電流密度の均一化に用いられている磁界レンズを使用しても構わない。
【0074】
また、均一化レンズとしては、より細かな制御を行う為に図11に示すようなレンズを使用しても良い。図11のレンズは、Z方向に図2に示した2つの均一化レンズを配置するとともに、片方のレンズの電極対間に、もう片方のレンズの電極対が配置されるようにY軸方向にずらして配置された均一化レンズである。このような均一化レンズを用いれば、
均一化制御の精度を向上させることが出来る。
【0075】
さらに、ビーム電流計測器10として、処理室内に配置され、Y軸方向に沿って複数のファラデーカップが配列されたものを一例として挙げたが、これに限られない。例えば、ビーム電流計測器を1つのファラデーカップで構成する。これと組み合わせて、ビーム電流計測器をY軸方向に沿って移動可能な駆動機構を設けることで、同等の機能を有するビーム電流計測器が実現できる。
【0076】
その上、低いエネルギーのイオンビームを取り扱う場合、イオンビームの外形が広がってしまう。これによって、半導体基板に達するまでにイオンビームがイオン注入装置を構成する部材等に衝突し、消滅してしまう可能性もある。その為、低いエネルギーを有するイオンビームに対しては、第2の均一化レンズで均一化制御を実施する前に、第1の均一化レンズ5で、一旦、イオンビームの外形を狭めるような制御を行うようにしておいても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 イオン源
2 イオンビーム
3 質量分析マグネット
4 分析スリット
5 第1の均一化レンズ
6 加減速器
7 第2の均一化レンズ
8 基板
9 処理室
10 ビーム電流測定器
11 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のエネルギーを有するリボン状のイオンビームを半導体基板に照射する為に前記リボン状のイオンビームを加速あるいは減速させる加減速器と、 前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布を均一に制御する為の第1の均一化レンズおよび第2の均一化レンズと、 前記半導体基板が配置される処理室と、 前記処理室内に配置され前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の測定を行うビーム電流計測器と、を備えたイオン注入装置において、 前記処理室側から前記リボン状のイオンビームの経路を見た時、前記第2の均一化レンズ、前記加減速器、前記第1の均一化レンズの順に、イオンビームの経路に沿って配置されていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記第1の均一化レンズと前記第2の均一化レンズとが、同一の構成を有する均一化レンズであることを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記半導体基板に照射される前記リボン状のイオンビームのエネルギーの値と基準となるエネルギーの値とを比較することによって、前記第1の均一化レンズと前記第2の均一化レンズのいずれを用いて前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の均一化制御を行うかを判定する機能を有した制御装置を備えていることを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記ビーム電流測定器により測定されたビーム電流量と基準となるビーム電流量の値を比較することによって、前記第1の均一化レンズと前記第2の均一化レンズのいずれを用いて前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の均一化制御を行うかを判定する機能を有した制御装置を備えていることを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項5】
所望のエネルギーを有するリボン状のイオンビームを半導体基板に照射する為に前記リボン状のイオンビームを加速あるいは減速させる加減速器と、 前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布を均一に制御する為の第1の均一化レンズおよび第2の均一化レンズと、 前記半導体基板が配置された処理室と、 前記処理室内に配置され前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の測定を行うビーム電流計測器を備え、 前記処理室側からイオンビームの経路を見た時、前記第2の均一化レンズ、前記加減速器、前記第1の均一化レンズの順番に配置されているイオン注入装置において、 前記リボン状のイオンビームの長辺方向における電流密度分布の均一制御を行うにあたり、前記半導体基板に照射されるイオンビームのエネルギーあるいはイオンビームの電流量に応じて、前記第1の均一化レンズと前記第2の均一化レンズとを使い分けることを特徴とする均一化レンズの選択方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−18578(P2011−18578A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162803(P2009−162803)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】