説明

複数針偏平縫いミシンおよび飾り縫目

【課題】 装飾性に富む新規な縫い目も形成できる複数針偏平縫いミシンを提供し、三本の針糸が布表面側で所定の間隔を置いて配されているのを容易に確認することができるようにする。
【解決手段】 上下動する針と、生地積載面上で水平に揺動するスプレッダとをミシンアームに具備し、飾り糸を縫目の上面に供給して飾り模様を縫い付けるように構成してなる複数針偏平縫いミシンにおいて、ミシンアームに固定されスプレッダ上方で第1長孔および第2長孔を並設した固定糸案内と、スプレッダに並設され飾り糸に係合する二つの鉤部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地の表面に装飾性を持たせるよう構成される複数針偏平縫いミシンとそのミシンによって形成される飾り縫目に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の複数針偏平縫いミシンとして、上下動する針と、生地積載面上で水平に揺動するスプレッダとをミシンアームに有するものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】実開平6−46678号公報(第2頁、第1図)
【0004】
また上記特許文献1のミシンによって形成される飾り縫目の一例として、三本の針糸、一本のルーパ糸および飾り糸を備えたものが知られている(例えば、非特許文献1の「表示記号605のステッチ」を参照。)。図4に示されるように、三本の針糸1,2,3は布の針側(布表面側)で所定の間隔を置いて配されている。各針糸のループ1L,2L,3Lは飾り糸Zの飾りループと布、さらにルーパ糸4の三つに分かれたループ4a,4b,4cを通り抜けてルーパ糸4の他の一つのループ4eと他糸ルーピングしている。なおルーパ糸4は布の裏面側に配される。
【0005】
【非特許文献1】「JISステッチ形式の分類と表示記号 JIS L 0120−1984」、昭和59年7月1日 制定、日本規格協会 発行、p.24−25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記飾り縫目に関しては縫製品のデザインの一部として近年需要が高まってくると共により装飾性に富む飾り縫目が要望され、多種の飾り縫目を形成できる複数針偏平縫いミシンの出現が待望されていた。また表示記号605のステッチにおいては、布表面側を遠隔して眺めると飾り糸の飾りループの影響で縫目ラインの横幅しか把握することができず、非特許文献1の「表示記号602のステッチ」と誤認してしまうことがあった。つまり飾り縫目が三本針のミシンで形成されたものなのか或いは二本針のミシンで形成されたものなのかを見誤ってしまうことがあった。
従って、本発明の課題は、装飾性に富む新規な縫い目も形成できる複数針偏平縫いミシンを提供することを第1の目的とし、三本の針糸が布表面側で所定の間隔を置いて配されているのを容易に確認することができる飾り縫目の提供も併せて目指している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、上下動する三本の針と、生地積載面上で水平に揺動するスプレッダとをミシンアームに具備し、飾り糸を縫目の上面に供給して飾り模様を縫い付けるように構成してなる複数針偏平縫いミシンにおいて、ミシンアームに固定されスプレッダ上方で第1長孔および第2長孔を並設した固定糸案内と、スプレッダに並設され飾り糸に係合する二つの鉤部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また所定の間隔を置いて配された三本の針糸、そして一本のルーパ糸および二本の飾り糸を備え、針糸のループが布表面側に既に渡っている飾り糸の飾りループと布、さらにルーパ糸の三つに分かれたループとを通り抜けてルーパ糸の他の一つのループと他糸ルーピングする飾り縫目において、一方の飾り糸の飾りループが布表面側で各針糸ループに挿通され、他方の飾り糸の飾りループが布表面側で中央の針糸ループと右側の針糸ループに挿通されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願請求項1に係る発明によれば、第1長孔および第2長孔を並設した固定糸案内と、スプレッダに並設される二つの鉤部とを備えているので、二本の飾り糸を縫目の上面に供給することができる。また針の上下動に伴うスプレッダの水平揺動によって、一方の飾り糸の飾りループを布表面側で各針糸ループに挿通し、他方の飾り糸の飾りループを布表面側で中央の針糸ループと右側の針糸ループに挿通することができ、装飾性に富む新規な縫い目を形成できる。
【0010】
本願請求項2に係る発明によれば、一方の飾り糸の飾りループが布表面側で各針糸ループに挿通され、他方の飾り糸の飾りループが布表面側で中央の針糸ループと右側の針糸ループに挿通されているので、布表面側を遠隔して眺めた場合においても三本の針糸が布表面側で所定の間隔を置いて配されているのを容易に確認することができ、その結果、対象となる飾り縫目が三本針のミシンで形成されたものなのか否かを確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を基づいて説明する。図1に示されるように、本発明に係る飾り縫いミシンはモータに連結された下軸10を有する。ミシンアームMAより下方に突出する針棒11は下端に針株12を有し、針糸用の針13,14,15と飾り糸用の可動糸案内16は針株12に取着されている。可動糸案内16は中途で手前に折れ曲がって「く」字状になっており、その下端部は飾り糸挿通用の目孔を有している。スプレッダ17はミシンアームMAより下方に突出する揺動軸(図示せず)に固定されており、その先端は二つの鉤部17a、17bを備えている。固定糸案内18はミシンアームMAに固定され、その下端は第1長孔18aと第2長孔18bを備えている。
【0012】
モータの動作に伴って下軸10が回転すると、針株12に取着された針13,14,15は針棒11と共に上下に往復運動する。その際、スプレッダ17は水平に揺動するこことなる。スプレッダ17がミシンベッドMBの生地積載面上で左方に揺動すると、先端側の鉤部17aは飾り糸5を捕捉し、中途の鉤部17bは飾り糸6を捕捉する。なお図示していないが針糸1,2,3は針13,14,15に各別に挿通されており、ミシンベッドMB内は下軸10の回転に連動して進退するルーパを備えている。
【0013】
その後、上死点を経て降下する左針13は固定糸案内18の第1長孔18aからスプレッダー鉤部17aに至る飾り糸5の後方を通過する。この時、左針13と同様に降下する中針14は固定糸案内18の第1長孔18aからスプレッダー鉤部17aに至る飾り糸5および固定糸案内18の第2長孔18bからスプレッダー鉤部17bに至る飾り糸6の後方を通過する。なお右針15は降下時に固定糸案内18の第1長孔18aからスプレッダー鉤部17aに至る飾り糸5および固定糸案内18の第2長孔18bからスプレッダー鉤部17bに至る飾り糸6の手前を通過することとなる。図2に示されるように、布Wは押え金19によってミシンベッドMBの生地積載面に押圧され、針13,14,15の先端部は降下途中で布Wを上方より貫通する。
【0014】
本発明に係る飾り縫いミシンによって形成される飾り縫目は三本の針糸1,2,3、一本のルーパ糸4および二本の飾り糸5,6を備えている。三本の針糸1,2,3は布Wの表面側で所定の間隔を置いて配されている。各針糸のループ1L,2L,3Lは飾り糸5,6の飾りループと布W、さらにルーパ糸4の三つに分かれたループ4a,4b,4cを通り抜けてルーパ糸4の他の一つのループ4eと他糸ルーピングしている。なおルーパ糸4は布Wの裏面側に配される。
【0015】
各飾り糸5,6について詳述すると飾り糸5は図3に示されるように、布Wの表面側で水平に渡る飾りループ5a,5bを左右に形成している。左方の飾り糸ループ5aは左側および中央の針糸ループ1L,2Lに挿通され、右方の飾り糸ループ5bは右側の針糸ループ3Lに挿通されている。また飾り糸6も布Wの表面側で水平に渡る飾りループ6a,6bを左右に形成している。左方の飾り糸ループ6aは中央の針糸ループ2Lに挿通され、右方の飾り糸ループ6bは右側の針糸ループ3Lに挿通されている。つまり一方の飾り糸5の飾りループは布Wの表面側で各針糸ループ1L,2L,3Lに挿通され、他方の飾り糸6の飾りループは布Wの表面側で中央の針糸ループ2Lと右側の針糸ループ3Lに挿通されている。
【0016】
本実施の形態においては、可動糸案内の目孔は二本の飾り糸に共用されていたが、これに限定されるわけでなく、例えば可動糸案内の形状を逆Y字状にして各下端部に専用の目孔を設けるようにしてもよい。なお本実施の形態においては詳述しなかったが、飾り糸5,6の配色を各別に変更すると装飾性がより富んだものとなる。また本実施の形態で非特許文献1の「表示記号605のステッチ」を形成する場合、飾り糸は一本でその糸経路は可動糸案内16の目孔より固定糸案内18の第1長孔18aを経てスプレッダ17の鉤部17a傍らに沿わせるようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る飾り縫いミシンを示した正面図である。
【図2】同ミシンの要部を示した説明図である。
【図3】本発明に係る飾り縫目を示した斜視図で、右方の図は布表面を示し、左方の図は布裏面の要部を示している。
【図4】従来の飾り縫目を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1,2,3 針糸
1L,2L、3L 針糸のループ
4 ルーパ糸
5,6 飾り糸
5a,5b,6a,6b 飾りループ
17 スプレッダ
18 固定糸案内
18a,18b 長孔
MA ミシンアーム
W 布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下動する三本の針と、生地積載面上で水平に揺動するスプレッダとをミシンアームに具備し、飾り糸を縫目の上面に供給して飾り模様を縫い付けるように構成してなる複数針偏平縫いミシンにおいて、
ミシンアームに固定されスプレッダ上方で第1長孔および第2長孔を並設した固定糸案内と、
スプレッダに並設され飾り糸に係合する二つの鉤部とを備えたことを特徴とする複数針偏平縫いミシン。
【請求項2】
所定の間隔を置いて配された三本の針糸、そして一本のルーパ糸および飾り糸を備え、
針糸のループが布表面側に既に渡っている飾り糸の飾りループと布、さらにルーパ糸の三つに分かれたループとを通り抜けてルーパ糸の他の一つのループと他糸ルーピングする飾り縫目において、
一方の飾り糸の飾りループが布表面側で各針糸ループに挿通され、他方の飾り糸の飾りループが布表面側で中央の針糸ループと右側の針糸ループに挿通されていることを特徴とする飾り縫目。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−50482(P2011−50482A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200567(P2009−200567)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000113229)ペガサスミシン製造株式会社 (52)
【Fターム(参考)】