複素係数フィルタ、周波数変換器及び通信システム
【課題】広帯域においてイメージ抑圧比を改善できるトランスバーサル型複素係数フィルタ、周波数変換器、並びに通信システムを提供する。
【解決手段】M個(Mは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器とから成る二式のFIRフィルターを実部及び虚部フィルタとして含み、入力信号は入力端子で二分岐されて一方は実部フィルタに入力され、他方はT/2なる遅延を経て虚部フィルタに入力されることにより複素信号処理が行われ非対称周波数特性によるイメージ抑圧を利用して信号帯域の広帯域化を可能とするトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【解決手段】M個(Mは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器とから成る二式のFIRフィルターを実部及び虚部フィルタとして含み、入力信号は入力端子で二分岐されて一方は実部フィルタに入力され、他方はT/2なる遅延を経て虚部フィルタに入力されることにより複素信号処理が行われ非対称周波数特性によるイメージ抑圧を利用して信号帯域の広帯域化を可能とするトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素係数フィルタ、周波数変換器及び通信システムに関し、特に、通信システムにおいてイメージ信号を抑圧する複素係数フィルタ、それを用いた周波数変換器、及びそれらを用いた通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーヘテロダイン方式の導入により、長距離かつ大容量通信が可能となり、これまで幹線系をはじめとして無線通信システムに広く用いられてきた。この方式においては、無線周波数(RF:Radio Frequency)帯の受信信号が、一旦中間周波数(IF:Intermediate Frequency)帯に変換された後、ベースバンドに変換される。
【0003】
この場合、RF帯における希望波を選択する帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)及びIF帯において急峻な減衰特性を有するBPFを用いる2重のフィルタリングにより、イメージ妨害信号を除去する。これまでの通信方式は、信号周波数帯は比較的狭帯域であったので、イメージ妨害信号の除去は比較的容易であった。
【0004】
ところで、近年、携帯無線機器の急速な拡大により、無線通信システムのマルチバンド化及び広帯域化が要求されている。このような無線通信システムにおいてイメージ抑圧を行うために、抵抗とキャパシタ網から構成され、複素係数フィルタであるポリフェーズフィルタ(Poly-phase Filter)を用いる技術開示例がある(特許文献1)。この開示例においては、直交する2個のIF信号の位相及び振幅をポリフェーズフィルタにより補正する。このようにして、広帯域においてイメージ信号を抑圧しようとしている。
【特許文献1】特許3、492、560号公報 しかしながら、ポリフェーズフィルタは抵抗及びキャパシタにより構成されているので、帯域が狭く挿入損失が大となる。システム要求を満たす高減衰量と広帯域を実現するためにフィルタに多段とすると、挿入損失が増大する。この結果、システム要求を満たすイメージ抑圧比を得る事が困難となる。
【0005】
そこで、マルチバンド化及び広帯域化された通信システムにおいて、イメージ妨害信号を除去する方式としてダイレクトコンバージョン(Direct Conversion)方式が開発された。この方式においては、従来と比べてIF信号の周波数が小であるLow−IF方式と、実質的にゼロであるZero−IF方式が用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、広帯域においてイメージ抑圧比を改善できるトランスバーサル型複素係数フィルタ、これを用いた周波数変換器、及びこれらを用いた通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、M個(但しMは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器と、を含み、実数信号は入力端子で分岐されて1番目の遅延器に入力されると共に1番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目の遅延器出力は2番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び前記2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、j(但し、jは整数かつ2≦j≦M−2)番目の遅延器の出力は(j+1)番目の遅延器緒及び(j+1)番目の係数乗算器へ入力され、(j+1)番目の係数乗算器の出力および(j−1)番目の加算器の出力はj番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器の出力が入力されたM番目の係数乗算器の出力と(M−2)番目の加算器の出力とは(M−1)番目の加算器へ入力された後実部信号として出力される第1フィルタ部と、(M−1)個の係数乗算器と、直列接続された(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−2)個の加算器と、を含み、前記入力端子で分岐された前記実数信号は遅延時間T/2秒である1番目の遅延器に入力され、前記1番目の遅延器の出力は遅延時間がT秒である2番目の遅延器及び1番目の係数乗算器へ入力され、前記2番目の遅延器の出力は3番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、遅延時間がT秒であるk(但し、kは整数かつ3≦k≦M−2)番目の遅延器の出力は(k+1)番目の遅延器及びk番目の係数乗算器へ入力され、k番目の係数乗算器の出力及び(k−2)番目の加算器の出力は(k−1)番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器出力は(M−1)番目の係数乗算器へ入力され、前記(M−1)番目の係数乗算器の出力と(M−3)番目の加算器の出力とは(M−2)番目の加算器へ入力された後虚部信号として出力される第2フィルタ部と、を備え、前記第1及び第2フィルタ部において、両端部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、
圧電材料を含む基板と、前記基板上に形成され、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する送信電極と、前記基板上に形成され、前記送信電極からの表面波を受け、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する第1受信電極及び第2受信電極と、を備え、前記送信電極、第1受信電極、前記第2受信電極は遅延時間T秒を有するようなフィンガ部のピッチを有しており、前記第2受信電極のフィンガ部は前記第1受信電極より一組少なく、かつ遅延時間がT/2秒異なるようにフィンガ部が内側に向かってずらして配置されており、前記第1受信電極からは実部信号が出力され、前記第2受信電極からは虚部信号が出力され、前記第1受信電極及び前記第2受信電極において、両端部に配置されたフィンガ部の交差割合を表わすタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置されたフィンガ部のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【0009】
以上に説明したトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたLow−IFまたはゼロIF方式においては、イメージ抑圧が容易となる。この方式はダイレクトコンバージョンと呼ばれスーパーヘテロダイン方式のように2重のフィルタリングが不要であり、システム簡素化及びマルチバンド化や広帯域化に適している。また、受信機におけるダウンコンバージョンのみならず送信機におけるアップコンバージョンにも適用できる。この結果、マルチバンド及び広帯域携帯無線通信などに広く適用できる。
【0010】
さらに、フィルタの構成を簡素化できるメリットが大きい。すなわち、中央部近傍のタップ係数の絶対値を1.0とすることは、係数乗算器の簡素化を可能とするのでディジタル回路構成による集積回路の規模を縮小と消費電力の低減が可能となる。また、中央部近傍の電極フィンガ部の電極交差率を1.0とすることによりSAW(弾性表面波)フィルタの挿入損失を小さくでき、電極パターンの設計も簡単になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、広帯域においてイメージ抑圧比を改善できるトランスバーサル型複素係数フィルタ、これを用いた周波数変換器、及びこれらを用いた通信システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態につき説明する。
図1は、本発明の第1具体例にかかるトランスバーサル型複素係数フィルタ10をディジタル回路により構成するブロック図である。
ディジタル回路によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10は実部側トランスバーサルフィルタ12及び虚部側トランスバーサルフィルタ14を含み、共通の入力端子Aから信号がそれぞれのトランスバーサルフィルタへ分岐される。実部側トランスバーサルフィルタ12からの実部信号はその出力端子Bから取り出され、虚部側トランスバーサルフィルタ14からの虚部信号はその出力端子Cから取り出される。各トランスバーサルフィルタは、遅延器16と、加算器22と、係数乗算器20とを少なくとも含んでいる。
【0013】
遅延器16は、1クロックすなわち1周期(T秒)だけの遅延時間を生じさせる機能を有し、例えばDフリップフロップなどを用いる事ができる。加算器222及び係数乗算器20は論理回路にて構成できる。そしてトランスバーサルフィルタの入力端子Aと加算器22との間に配置される係数乗算器20、及び各遅延器の出力と加算器22との間を接続する係数乗算器20をタップと呼ぶことにする。なお、係数の絶対値が1.0である係数乗算器は、遅延器出力端子と加算器の一つの入力端子とをマイナス(図1に例示される)またはプラス極性で接続する接続線と等価であるが、本明細書においてはこれもタップに包含されるものとする。
【0014】
例えば図1に例示される実部側トランスバーサルフィルタ12において、第1タップは係数a1を有する係数乗算器20であり、第2タップは係数a2を有する係数乗算器20である。両係数乗算器20の入力側の間には遅延時間T秒を有する第1の遅延器16が挿入される。そして両係数乗算器からの出力が第1の加算器22により加算される。本具体例において3番目以降の係数は1とする。そして出力端子Bから2番目の係数は再びa2とされ、出力端子Bへ接続される係数は再びa1とされる。
【0015】
図1に例示される虚部側トランスバーサルフィルタ14において、入力端子Aに接続された遅延時間(T/2)秒を有する第1の遅延器16の出力側と係数b1を有する係数乗算器20と第2の遅延器16とに接続される。この場合、第1タップは第1の係数乗算器20である。第2タップは遅延時間T秒を有する遅延器16の出力と加算器22との直接接続である。第2タップ以降は係数1.0とされ、最後の遅延器16からの出力は第1タップと同様に係数b1を有する係数乗算器22を経て出力端子Cへと出力される。
【0016】
実部側において、係数乗算器20の数(すなわちタップ数)がM個(Mは5以上の整数)、遅延器16が(M−1)個、加算器22が(M−1)である。虚部側において、係数乗算器20の数(すなわちタップ数)が(M−1)個、遅延器16が(M−1)個、加算器22が(M−2)個である。本具体例においては、実部側トランスバーサルフィルタの入力側の最初の2個及び出力側の2個の係数の絶対値が1より小であるようにそれぞれ指定され、これに対応した係数乗算器20が、合計4個配置される。それ以外の係数の絶対値を1としたタップの構成は容易である。
【0017】
また、虚部側トランスバーサルフィルタ14においては、最初と最後の係数がb1と指定されこれに対応した係数乗算器20が、合計2個配置される。それ以外の係数の絶対値が1であるタップ構成は容易である。
【0018】
次に、|a1|=0.5、|a2|=0.5、|b1|=0.48として設計したディジタル回路により構成されたトランスバーサル型複素係数フィルタ10のシミュレーション結果につき説明する。
図2(a)は、タップ数11とした場合の、タップ係数配置を表わす。図2(b)は、フィルタ振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
シミュレーションには、MathWorks社のMATLABを用いている。なお、本具体例にかかるディジタル複素係数フィルタ10の特性を太線で表わしている。細線はいわゆるトランスバーサル型複素係数SAWフィルタの特性であるが、後に詳細に説明をする。
【0019】
まず、実部側では、第1タップにおいてa1=−0.5、第2タップにおいてa2=0.5、第3タップ以降第9タップまで絶対値が1で符号がマイナス、プラスを交互に繰り返す。第10タップはa2=0.5、第11タップはa1=−0.5とする。一方、虚部側では、b1=−0.48、第2タップ以降第9タップまで絶対値が1で符号がプラス、マイナスを交互に繰り返す。最後はb1=0.48とする。この場合、好ましくは|b1|=(|a1|+|a2|)×(0.4〜0.6付近の任意値)と選択できる。なお、符号は、加算器に入力される信号の極性を表わしプラスは加算、マイナスは減算を表す。図1及び図2(a)に例示されるように、タップから加算される信号の極性はプラス、マイナスが交互に繰り返される。
【0020】
図2(b)において、横軸は正規化周波数であり縦軸はフィルタを通過する信号の振幅をデシベル(dB)で表わしている。通過帯域の中心周波数は1周期であるTより定まり、本図においては0.5の点により表わされ、この点の振幅はほぼゼロであり減衰が小であることを示している。一方、イメージ周波数を表わす正規化周波数−0.5において、振幅は約―53dBであり、希望波に対して充分に減衰させる事ができている。すなわち、図2(a)に例示される簡単なフィルタ構成によりイメージ抑圧ができる。
【0021】
次に、係数a1、a2、b1の数値を変化させた場合の振幅の周波数特性につき説明する。
図3は、第1具体例の変形例1であり、図4は変形例2を説明するグラフ図である。まず変形例1においては、図3(a)に例示するように、a1及びa2の数値は第1具体例と同様に共に0.5とする。虚部側の係数b1を少し大とし0.5とする。図3(b)は、その振幅の周波数特性である。正規化周波数が0.5で表される希望波周波数近傍の通過帯域特性は、第1具体例とほぼ同様であり低挿入損失にできている。一方、−0.5で表されるイメージ周波数においては振幅がマイナス100dB以上とできており、イメージ信号の減衰量を大とできている。しかし、高減衰量である帯域は第1具体例と比べて狭くなっている。
【0022】
次に、変形例2においては、図4(a)に例示するように、a1=−0.2,a2=0.8,|b1|=0.49とする。図4(b)は、その振幅特性である。希望波近傍の通過帯域特性は、第1具体例とほぼ同様であり低挿入損失にできている。一方、イメージ周波数においては振幅が約マイナス58dBであり第1具体例よりやや大とできている。また、高減衰量である帯域は第1具体例よりやや広くできている。
【0023】
図5は、イメージ近傍における減衰量のb1依存性を表すグラフ図である。
実線によりa1=−0.5、a2=0.5とし、b1を変化させたときの減衰量を表す。また、破線によりa1=−0.2、a2=0.8とし、b1を変化させたときの減衰量を表す。|b1|=0.5において減衰量が無限大となり、|b1|がこれより大であってもこれより小であっても減衰量は低下する。
【0024】
第1具体例及びその2個の変形例で説明したように、a1、a2、b1を変化させることにより、主にイメージ周波数近傍において振幅及びその周波数特性急峻性を制御できる。この結果、この3個のパラメータを選択することにより対象とする通信システムの仕様に適応したフィルタを実現できる。
【0025】
次に、第1比較例にかかるディジタルトランスバーサル型複素係数フィルタにつき説明する。一般には、希望波周波数が高い場合及び多値変調方式の場合、イメージ抑圧比を上げようとして、タップ数を増加し係数をタップごとに少しずつ変化させるトランスバーサルフィルタを設計する。
図6は、タップ数が41であり、係数が漸近的に変化する第1比較例の構成を表わす。上部には、実部側のタップ係数の配列を表わし、下部には虚部側のタップ係数の配列を表わす。
【0026】
図7は、この第1比較例における振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。実線が第1比較例の特性を表わす。イメージ周波数である−0.5の点において、振幅はマイナス70デシベル以上ありイメージ抑圧が可能である。しかしながら、タップ数が41と多く、全てのタップの係数をそれぞれに設計する必要がある。これに加えてディジタル回路を構成するには多数の乗算器が必要となり、回路規模及び消費電力の増大を生じる。ディジタル回路を集積回路により実現しようとすると、より困難となる。これに対して本具体例においては、絶対値が1である係数を有するタップが中央部近傍に配置されているので、回路規模の簡素化と消費電力の低減が実現できる。
【0027】
次に、第2比較例にかかるディジタルトランスバーサル型複素係数フィルタにつき説明する。
図7における一点鎖線は、一定係数からなり11タップを有する振幅特性を表わす。この場合、実部側係数は、(−1、1、−1、1、−1、1、−1、1、−1,1、−1)であり、虚部側係数は、(−1、1、−1,1、−1,1、−1、1、−1,1)とする。イメージ周波数における振幅は約マイナス30デシベルである。このままでもイメージ抑圧効果を有するが、希望波周波数が高い場合や多値変調方式の場合には抑圧比が充分ではない。
【0028】
図6に例示されるように、フィルタ端部近傍においてはタップ係数が小であるために回路を実現するのが困難となる。しかもタップ係数が0.2以下と小であるタップ数が20以上と2分の1以上を占めている。本発明者による検討結果によれば、イメージ周波数近傍において振幅特性を改善するためにタップ端部の影響が中央部付近より小であることが判明した。この結果、第1具体例におけるように実部側の両端部でそれぞれ2個、虚部側の両端部でそれぞれ1個の係数のみを1とは異なる値に設定するだけで図2(b)に例示されるようにイメージ周波数近傍においてイメージ信号を抑圧できることを見出した。
【0029】
以上においては、複素係数フィルタとして図1に例示されるディジタル回路構成によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10を具体例として説明してきた。しかしこれを弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタにより実現することができる。以下、トランスバーサル型複素係数SAWフィルタによる第2具体例について説明する。SAWフィルタは、TV及び通信機器において、RF帯におけるBPF,LPF(Low Pass Filter)、HPF(High Pass Filter)などに広く用いられる。また、IF−BPFとしても広く用いられる。
【0030】
SAWを伝搬する媒質としては、リチウムタンタレート(LiTaO3)、リチウムナイオベート(LiNbO3),水晶などの圧電材料を用いることができる。微細加工技術の進展により3GHzを越える周波数帯においても十分な性能が得られる様になっている。
【0031】
図8は、図1に例示されている回路構成とほぼ等価なトランスバーサル型複素係数SAWフィルタ50の要部を表す模式平面図である。第1具体例の入力端子Aに相当する入力端子Dは送信電極56の正電極部561に接続される。また、負電極562は接地に接続される。正電極部561及び負電極部562はフィンガ部58を含み、これらは互いに交差しており、入力信号により圧電効果を生じてSAWを励振する。フィンガ部58は、多数であっても良い。
【0032】
伝搬されたSAWは再び電気信号に戻されたのち、実部側トランスバースフィルタを構成する実部受信電極52の正電極部521を経由して、第1具体例の出力端子Bに相当する出力端子Eへと伝搬される。実部受信電極52を構成する負電極部522は接地へと接続されている。このように、互いに交差するフィンガ部58を有する正電極部521及び負電極部522を含んだ実部受信電極52が構成される。図8に例示されるフィンガ部58は、図1に例示されるようなタップ係数を有する。フィンガ部が100%重なり合えばタップ係数は1.0であり、重ならないならばタップ係数はゼロとなる。実部受信電極52は遅延時間がT秒となるような間隔を有したフィンガ部58をSAW伝搬方向に多数配列した構成とされる。
【0033】
また、それぞれの受信電極の各タップを構成するフィンガ部において、正電極と接続しているフィンガが送信電極56に近い側に配置された次のフィンガ部58においては、負電極部と接続しているフィンガが送信電極に近い側に配置される。このような交互に繰り返される配列
は、a1及びa2の符号がプラスマイナスを交互に繰り返すことに対応している。
【0034】
同様に、虚部側トランスバーサルフィルタ14を構成する虚部受信電極54を構成する正電極部541を経由して、第1具体例の出力端子Cに相当する出力端子Fへと伝搬される。虚部受信電極54を構成する負電極部542は接地へと接続されている。この場合もフィンガ部58のピッチは遅延時間がT秒となるように設定される。なお、虚部受信電極56のフィンガ部は実部受信電極52より一組少なく、遅延時間がT/2秒だけ内側にずらして配置されている。これは、図1に例示されたディジタル回路構成と同じ作用をする。
【0035】
図2(a)で表された|a1|=|a2|=0.5,|b1|=0.48なるタップ係数を有する複素係数SAWフィルタである第2具体例の振幅の周波数特性を、図2(b)における細線により表した。第1具体例とほぼ同様に、希望波周波数において、挿入損失をゼロとできており、イメージ周波数近傍において振幅をマイナス55デシベルとできている。他の帯域においては、全く同一な周波数特性ではないが、減衰量の大きい箇所がさらに増えるので、イメージ以外の別の雑音も除去でき、フィルタ特性がより向上する。同様に、図4及び図5においても第2具体例の変形である複素係数SAWフィルタは、ディジタル回路構成によるトランスバーサル複素係数フィルタと同様な特性であることが例示される。
【0036】
さらに、第1比較例であるディジタル回路構成によるトランスバーサル複素係数フィルタと同様な係数を有するトランスバーサル複素係数SAWフィルタが構成できる。
図9は、そのうちの実部受信電極を表す模式平面図である。このような電極パターンは重なり合い部分の包絡線の形状からアポダイズ電極と呼ばれる。なお、周波数が高くなるとフィンガの幅及びピッチ(遅延時間Tと対応する)が小となる。この例においては、各フィンガ部間におけるSAWの不要反射などによる特性低下を防止するために、フィンガ部は2本一組で構成されている。
【0037】
このような電極構成において、フィンガ部数が41組と多く、面積が大となる。また、全てのフィンガ部の係数をそれぞれに設計する必要がある。これらに加えて、受信電極の両端部では重なり合いが小である。この結果、その部分の音響的励振効果が小さくなり、フィルタの挿入損失が大きくなる。
【0038】
これに対して、第2具体例においてはa1、a2,b1と3種類の係数を決定するのみで、図2(b)に例示されるようなイメージ抑圧に充分な振幅の周波数特性を得る事ができる。さらに、|b1|=(|a1|+|a2|)×(0.4〜0.6付近)の関係で示されるようにb1の係数は適正な大きさに選択できる。また、係数が1でない領域は、両端部に限定されている。従って、電極の音響的励振効果の小さい部分が最小限にできるので、フィルタの挿入損失が小さくなる。また、サイズも縮小できる。
【0039】
第1及び第2具体例においては、従来から応用されてきた各種フィルタ回路よりも簡単な回路構成のためにフィルタ設計が非常に簡単となる。また、トランスバーサル型フィルタであればディジタル回路及びアナログ回路のいずれにも適用できるので、応用範囲は極めて広い。さらに、最低3個のタップ係数絶対値を設計するだけで、イメージ抑圧比を優先する場合、あるいは2ヶ所でのイメージ信号除去など、用途に応じてフィルタの減衰特性を選択できるという効果がある。
【0040】
次に、このような簡素化された複素係数フィルタを用いることにより、イメージ抑圧が可能となる作用について詳細に説明する。まず図10は、ダイレクトコンバージョン方式におけるマルチバンドまたは広帯域通信のイメージ妨害を説明する模式図である。図10(a)は実数RF信号を表す。中心周波数fcを有する希望波は、マルチバンドまたは広帯域システムを構成する自システム信号として表す。この自システム信号に対するイメージ信号がマイナスfcを中心にして存在する。また、自システム信号の近傍に、他システム信号やノイズが存在する。例えば、図10(a)では自システム信号よりやや低い周波数帯に存在し、これが折り返されたものがイメージ信号の近傍(本図におけるイメージ信号の右側)に存在する。図10(a)に破線で例示された通過帯域特性を有するRF−BPFでは他システム信号または雑音を除去することが困難である。
【0041】
図10(b)は、例えばLow−IF方式の場合の周波数変換器による実数ローカル信号による周波数変換(ダウンコンバージョン)後の信号を表す。Low−IF方式のIF周波数(fc−fL)はスーパーへテロダイン方式と比べて低く選択され、例えば数MHz以下の範囲で選択される。図10(b)において(fc−fL)信号と(fc+fL)信号とは周波数の差が大きいので(fc−fL)のみを取り出すことは容易となる。また自システム信号から変換された希望波(fc−fL)は他システム信号または雑音のイメージ信号(−fc+fL)と重なり、また自システム信号のイメージとも重なる。このイメージ妨害により通信品質が大幅に低下する。
【0042】
図11は、本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いた受信機の構成例の一つを表すブロック図である。アンテナ60により信号を受信し、LNA(Low Noise Amplifier:低雑音増幅器)62にて増幅し、第1具体例のディジタル回路構成または第2具体例のSAWのトランスバーサル型複素係数フィルタ10によりフィルタリングを行う。その後、ダウンコンバータとしての周波数変換器64、復調器66を経て復調が完了する。復調器66は、変調波信号をベースバンドへ復調する。なお、複素係数フィルタ10をディジタル回路で構成する場合には、破線で例示されるA/D変換器68をLNA62とトランスバーサル型複素係数フィルタ10との間に挿入する。
【0043】
図12は、本発明による複素係数フィルタを用いてイメージ抑圧を行う作用につき説明する模式図である。図12(a)はフィルタリング前の実数RF信号を表す。中心周波数fcを有する希望波は、マルチバンドまたは広帯域システムを構成する自システム信号として表す。この自システム信号に対するイメージ信号がマイナスfcを中心にして存在する。また、自システム信号の近傍に、他システム信号やノイズが存在する。例えば、図12(a)では自システム信号よりやや低い周波数帯に存在し、これが折り返されたものがイメージ信号近傍(本図においてはイメージの右側)に存在する。本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10は、fcを中心とした自システム信号を通過させ、マイナスfcを中心としたイメージ信号を阻止する帯域特性を有する。
【0044】
図12(b)は、複素係数フィルタによるフィルタリング後の複素数RF信号を表す。自システム信号は殆ど減衰することなく周波数変換器へ入る。一方、イメージ信号は複素係数フィルタ10による大きな減衰のために通過を阻止される。他システム信号またはノイズは通過帯域の端部に位置しており、若干減衰しながらも通過して自システム信号の近傍に存在する。一方、他システム信号またはノイズのイメージはイメージ信号と同様に大きな減衰のために通過を阻止される。すなわち、複素係数フィルタ10を通過した段階で、イメージ信号を殆ど除去できる。
【0045】
図12(c)は、例えばLow−IF方式の場合の周波数変換器による実数ローカル信号による周波数変換(ダウンコンバージョン)後の信号を表す。Low−IF方式のIFのIF周波数(fc−fL)はスーパーへテロダイン方式と比べて低く、例えば数MHz以下の範囲で選択される。図12(c)において(fc−fL)信号と(fc+fL)信号とは周波数の差が大きいので(fc−fL)のみを取り出すことは容易となる。また自システム信号から変換された希望波(fc−fL)は他システム信号または雑音のイメージ信号(−fc+fL)と重なりうるが、このイメージ信号は複素係数フィルタにより図11(b)に例示されるように充分抑圧されているので受信性能は低下しない。なお、ゼロIF方式においてもほぼ同様な作用で説明できる。Low−IF及びゼロIF方式はダイレクトコンバージョン方式と呼ばれ、マルチバンド化及び広帯域化に適している。
【0046】
ここで、トランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いたダイレクトコンバージョン方式を従来のスーパーヘテロダイン方式と比較して説明する。
図13は、主として狭帯域通信システムに用いられるスーパーヘテロダイン方式のブロック図である。アンテナ60からの信号は、まずRF−BPFに入り所望の周波数を選択する。この後LNA62で増幅された信号と、局部発振器65からのローカル信号とはミキサ66で乗算されてIF帯に変換される。
【0047】
図14は、図13に例示されたブロック図の各段階における信号を表す模式図である。図14(a)は、RF段における実数信号であり、中心周波数fcの近傍に自システム信号が存在し、そのやや低い周波数帯に他システム信号または雑音が存在する。そして破線で表される通過特性を有するRF−BPF70では、この他システム信号または雑音が十分には除去できない。また、マイナスfcの近傍には、これらが折り返されたイメージが存在する。
【0048】
図14(b)は、IF段における実数信号であり、局部発振器65からの局発信号(ローカル信号)とfcとがミキサ66において乗算されて中心周波数fIFを有するIF信号を生じる。この場合、他システム信号または雑音も周波数変換された後、fIF近傍に発生する。また、これらが折り返されたイメージがマイナスfIF近傍に生じる。狭帯域かつ急峻な減衰特性を有するIF−BPF72を選択することにより、図14(b)における周波数変換された他システム信号または雑音成分を除去することができる。なお、スーパーヘテロダイン方式におけるIF周波数は、一般には数十から数百MHzと高い。このようにRF−BPF70とIF−BPF72との2重のフィルタリングによりイメージ抑圧がなされる。
【0049】
しかしながら、無線通信システムにおけるマルチバンド化及び広帯域化を実現するには、より広帯域と急峻な減衰特性を有するIF−BPFが必要である。しかし、このようなIF−BPFの実現は極めて困難である。また、マルチバンド及び広帯域携帯無線機器においては、端末回路の簡素化、小型化が重要であるがスーパーヘテロダイン方式においてこれを実現することは困難である。
【0050】
これと比較して、図11に例示されるダイレクトコンバージョン方式においては、RF−BPFが不要であり、信号は実質的にはRF−BPFを経由せずにトランスバーサル型複素係数フィルタ10へ入る。さらに、IF信号の周波数はスーパーヘテロダイン方式と比較して低いか実質的には存在しないので、広帯域かつ急峻な減衰特性を有するIF−BPFが不要である。このようにして、本具体例のトランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いたダイレクトコンバージョン方式の通信システムでは、2重のフィルタリングを必要とせずにイメージ信号抑圧が可能となり、システムも簡素化できる。
【0051】
図15は、Low−IF方式によるシングルコンバージョン型のダウンコンバータの要部であるIF生成部84及びベースバンド生成部108の一例を表すブロック図である。第1具体例及び第2具体例のようなトランスバーサル型複素係数フィルタ10における実部側トランスバーサルフィルタ12には実信号が端子Aから入力され、複素数信号の実部が出力される。一方、虚部側トランスバーサルフィルタには実信号が端子Aから入力され、複素数信号の虚部が出力される。実部と虚部とは90度の位相差を有する。
【0052】
局部(ローカル)発振器80は、RF信号とIF信号との差の周波数を有しており、実部がCOS波を、虚部がSIN波よりなる複素ローカル信号を出力する。なお、ゼロIF方式においてはRF信号と同一周波数を有するローカル信号を用いる。全複素ミキサ82を構成するミキサ86は、実部側トランスバーサルフィルタ12の出力と複素ローカル信号の実部とを乗算し減算器90の正の入力端に入力する。ミキサ94は、実部側トランスバーサルフィルタ12の出力と複素ローカル信号の虚部とを乗算しその結果を加算器96の一方の入力端に入力する。
【0053】
ミキサ88は、虚部側トランスバーサルフィルタ14の出力と複素ローカル信号の実部とを乗算し加算器96に他方の入力端に出力する、またミキサ92は、虚部側トランスバーサルフィルタ14の出力と複素ローカル信号の虚部とを乗算しその結果を減算器90の負の入力端に入力する。
【0054】
減算器90はミキサ86の出力信号からミキサ92の出力信号を減算し複素数信号の実部としてその結果を端子Gへ出力する。また、加算器96はミキサ88の出力信号とミキサ94の出力信号とを加算し複素数信号の虚部としてその結果を端子Hへ出力する。
【0055】
ベースバンド生成部108は、BPF100、101と、AGCアンプ102、103と、A/D変換器104、105と、局部発信器122と、全複素ミキサ130と、インバランス補正器120と、LPF116,117とから構成される。
【0056】
BPF101、102は、入力される複素数信号に対して、正負のIF信号の周波数を中心とした所定の帯域を通過させ複素数信号を出力する。AGCアンプ102、103は、端子Lに入力した電圧に応じてゲインを制御する。
【0057】
A/D変換器104,105は、AGCアンプのアナログ出力をディジタル信号へ変換し、複素数信号出力をインバランス補正器120へと入力する。A/D変換により、後段の復調器においてディジタル信号処理が可能となる。
【0058】
インバランス補正器120は、補償値メモリ106と、乗算器118とから構成され、2個のA/D変換器における出力信号振幅差及び位相差(インバランス)をディジタル的に補正する。この結果、目的とする帯域においてイメージ抑圧をより良好にできる。この補償値メモリ106には、2個のA/D変換器よりも前のアナログ信号処理部の振幅比及び位相差(補償値)があらかじめ記憶されている。乗算器118は、A/D変換器105の出力信号と補償値メモリ106から入力した補償値とを乗算し、その結果を出力する。
【0059】
局部発振器122は、IF信号と等しい周波数を有し、複素ローカル信号を出力する。全複素ミキサ130は全複素ミキサ82と同一構成であるので、ほぼ同様の作用により端子J及び端子Kにおいて周波数ゼロの成分を含むベースバンド信号が複素数信号として得られる。このようなダウンコンバータにより、マルチバンド化及び広帯域化された携帯無線通信の受信機において、イメージ抑圧が可能となる。
【0060】
これまでは、受信機すなわちダウンコンバージョンの場合につき説明を行った。しかし本発明はこれに限定されずに、送信機すなわちアップコンバージョンであっても同様にイメージ抑圧ができる。以下に、トランスバーサル型複素係数フィルタを用いたアップコンバータにつき説明する。
図16は、そのブロック図である。ベースバンド信号は変調器130により変調後、アップコンバータである周波数変換器132により複素ローカル信号によりアップコンバートされ、トランスバーサル型複素係数フィルタ134へ入力される。その後出力増幅器(PA)138により増幅されて、送信用のアンテナ140から信号が送信される。なお、トランスバーサル型複素係数フィルタ134がディジタル回路からなるディジタルフィルタである場合には、PA138とトランスバーサル型複素係数フィルタ134との間にD/A変換器136を挿入する。
【0061】
図17は、アップコンバージョンの場合におけるイメージ妨害発生の仕組みを説明する模式図である。図17(a)が複素数信号のベースバンド信号である。周波数変換器132により実数信号であるローカル信号とミキサで乗算された後、図17(b)のように、中心周波数fc近傍に希望波およびイメージ妨害信号が存在する。これらが折り返されたイメージがマイナスfc近傍に存在する。
【0062】
図18は、本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタ134を用いてイメージ抑圧を説明する模式図である。ベースバンド段の複素数信号は、アップコンバートされる。フィルタリング前のRF段において希望波とイメージ妨害波が中心周波数fc近傍に、イメージ信号がマイナスfc近傍に存在する。
【0063】
本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ134は破線のような通過特性を有しており、RF段においてマイナスfc近傍のイメージ信号は減衰量が大であるためにイメージ信号を極めて小とできる。この結果、イメージ抑圧が可能となりイメージ影響の少ない実数信号である送信出力を得る事ができる。
このアップコンバータ及びこれを用いた送信機は、マルチバンド及び広帯域である携帯無線通信システムなどに適している。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明した。しかし、本発明は以上の具定例に限定されるものではない。トランスバーサル型複素係数フィルタを構成する回路素子、SAW材料、電極などの形状、サイズ、配置などに関して当業者が各種設計変更を行ったものでも、要旨を逸脱しない限り本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1具体例にかかるディジタル回路構成のトランスバーサル型複素係数フィルタのブロック図である。
【図2】図2(a)第1具体例におけるタップ係数配置を表わす模式図であり、図2(b)はその振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図3】第1具体例の変形例1であり、図3(a)はタップ係数配置を表わす模式図であり、図3(b)はその振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図4】第1具体例の変形例2であり、図4(a)はタップ係数を表す模式図であり、図4(b)はその振幅の周波数特性を表すグラフ図である。
【図5】イメージ信号近傍において、第1具体例及び変形例の係数b1と振幅の周波数特性との関係を表すグラフ図である。
【図6】第1比較例のタップ係数配置を表す模式図である。
【図7】第1比較例における振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図8】本発明の第2具体例にかかるトランスバーサル型複素係数SAWフィルタの模式平面図である。
【図9】トランスバーサル型複素係数SAWフィルタにおける実部受信電極の模式平面図である。
【図10】ダイレクトコンバージョン方式におけるイメージ妨害を説明する図であり、図10(a)はダイレクトコンバージョンにおける実数RF信号であり、図10(b)は周波数変換後信号である。
【図11】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式の受信機のブロック図である。
【図12】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタによるイメージ抑圧の作用を説明する模式図であり、図12(a)はフィルタリング前の実数RF信号であり、図12(b)はフィルタリング後の複素数RF信号であり、図12(c)は周波数変換後信号である。
【図13】スーパーヘテロダイン方式の受信機要部を表すブロック図である。
【図14】図14(a)はスーパーへテロダイン方式における実数信号を表し、図14(b)はIF段における実数信号を表し、図14(c)は最終段実数信号を表す図である。
【図15】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式のダウンコンバータの要部を表すブロック図である。
【図16】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式のアップコンバータの構成を表すブロック図である。
【図17】アップコンバージョンにおけるイメージ妨害を説明する模式図である。
【図18】ダイレクトコンバージョン方式アップコンバータにおいて、本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタによるイメージ抑圧の作用を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0066】
10 トランスバーサル型複素係数フィルタ
2 実部側トランスバーサルフィルタ
14 虚部側トランスバーサルフィルタ
16 遅延器
20 係数乗算器
22 加算器
50 トランスバーサル型複素係数SAWフィルタ
58 フィンガ部
64 周波数変換器
132 周波数変換器
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素係数フィルタ、周波数変換器及び通信システムに関し、特に、通信システムにおいてイメージ信号を抑圧する複素係数フィルタ、それを用いた周波数変換器、及びそれらを用いた通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーヘテロダイン方式の導入により、長距離かつ大容量通信が可能となり、これまで幹線系をはじめとして無線通信システムに広く用いられてきた。この方式においては、無線周波数(RF:Radio Frequency)帯の受信信号が、一旦中間周波数(IF:Intermediate Frequency)帯に変換された後、ベースバンドに変換される。
【0003】
この場合、RF帯における希望波を選択する帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)及びIF帯において急峻な減衰特性を有するBPFを用いる2重のフィルタリングにより、イメージ妨害信号を除去する。これまでの通信方式は、信号周波数帯は比較的狭帯域であったので、イメージ妨害信号の除去は比較的容易であった。
【0004】
ところで、近年、携帯無線機器の急速な拡大により、無線通信システムのマルチバンド化及び広帯域化が要求されている。このような無線通信システムにおいてイメージ抑圧を行うために、抵抗とキャパシタ網から構成され、複素係数フィルタであるポリフェーズフィルタ(Poly-phase Filter)を用いる技術開示例がある(特許文献1)。この開示例においては、直交する2個のIF信号の位相及び振幅をポリフェーズフィルタにより補正する。このようにして、広帯域においてイメージ信号を抑圧しようとしている。
【特許文献1】特許3、492、560号公報 しかしながら、ポリフェーズフィルタは抵抗及びキャパシタにより構成されているので、帯域が狭く挿入損失が大となる。システム要求を満たす高減衰量と広帯域を実現するためにフィルタに多段とすると、挿入損失が増大する。この結果、システム要求を満たすイメージ抑圧比を得る事が困難となる。
【0005】
そこで、マルチバンド化及び広帯域化された通信システムにおいて、イメージ妨害信号を除去する方式としてダイレクトコンバージョン(Direct Conversion)方式が開発された。この方式においては、従来と比べてIF信号の周波数が小であるLow−IF方式と、実質的にゼロであるZero−IF方式が用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、広帯域においてイメージ抑圧比を改善できるトランスバーサル型複素係数フィルタ、これを用いた周波数変換器、及びこれらを用いた通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、M個(但しMは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器と、を含み、実数信号は入力端子で分岐されて1番目の遅延器に入力されると共に1番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目の遅延器出力は2番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び前記2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、j(但し、jは整数かつ2≦j≦M−2)番目の遅延器の出力は(j+1)番目の遅延器緒及び(j+1)番目の係数乗算器へ入力され、(j+1)番目の係数乗算器の出力および(j−1)番目の加算器の出力はj番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器の出力が入力されたM番目の係数乗算器の出力と(M−2)番目の加算器の出力とは(M−1)番目の加算器へ入力された後実部信号として出力される第1フィルタ部と、(M−1)個の係数乗算器と、直列接続された(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−2)個の加算器と、を含み、前記入力端子で分岐された前記実数信号は遅延時間T/2秒である1番目の遅延器に入力され、前記1番目の遅延器の出力は遅延時間がT秒である2番目の遅延器及び1番目の係数乗算器へ入力され、前記2番目の遅延器の出力は3番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、遅延時間がT秒であるk(但し、kは整数かつ3≦k≦M−2)番目の遅延器の出力は(k+1)番目の遅延器及びk番目の係数乗算器へ入力され、k番目の係数乗算器の出力及び(k−2)番目の加算器の出力は(k−1)番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器出力は(M−1)番目の係数乗算器へ入力され、前記(M−1)番目の係数乗算器の出力と(M−3)番目の加算器の出力とは(M−2)番目の加算器へ入力された後虚部信号として出力される第2フィルタ部と、を備え、前記第1及び第2フィルタ部において、両端部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、
圧電材料を含む基板と、前記基板上に形成され、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する送信電極と、前記基板上に形成され、前記送信電極からの表面波を受け、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する第1受信電極及び第2受信電極と、を備え、前記送信電極、第1受信電極、前記第2受信電極は遅延時間T秒を有するようなフィンガ部のピッチを有しており、前記第2受信電極のフィンガ部は前記第1受信電極より一組少なく、かつ遅延時間がT/2秒異なるようにフィンガ部が内側に向かってずらして配置されており、前記第1受信電極からは実部信号が出力され、前記第2受信電極からは虚部信号が出力され、前記第1受信電極及び前記第2受信電極において、両端部に配置されたフィンガ部の交差割合を表わすタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置されたフィンガ部のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタが提供される。
【0009】
以上に説明したトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたLow−IFまたはゼロIF方式においては、イメージ抑圧が容易となる。この方式はダイレクトコンバージョンと呼ばれスーパーヘテロダイン方式のように2重のフィルタリングが不要であり、システム簡素化及びマルチバンド化や広帯域化に適している。また、受信機におけるダウンコンバージョンのみならず送信機におけるアップコンバージョンにも適用できる。この結果、マルチバンド及び広帯域携帯無線通信などに広く適用できる。
【0010】
さらに、フィルタの構成を簡素化できるメリットが大きい。すなわち、中央部近傍のタップ係数の絶対値を1.0とすることは、係数乗算器の簡素化を可能とするのでディジタル回路構成による集積回路の規模を縮小と消費電力の低減が可能となる。また、中央部近傍の電極フィンガ部の電極交差率を1.0とすることによりSAW(弾性表面波)フィルタの挿入損失を小さくでき、電極パターンの設計も簡単になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、広帯域においてイメージ抑圧比を改善できるトランスバーサル型複素係数フィルタ、これを用いた周波数変換器、及びこれらを用いた通信システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態につき説明する。
図1は、本発明の第1具体例にかかるトランスバーサル型複素係数フィルタ10をディジタル回路により構成するブロック図である。
ディジタル回路によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10は実部側トランスバーサルフィルタ12及び虚部側トランスバーサルフィルタ14を含み、共通の入力端子Aから信号がそれぞれのトランスバーサルフィルタへ分岐される。実部側トランスバーサルフィルタ12からの実部信号はその出力端子Bから取り出され、虚部側トランスバーサルフィルタ14からの虚部信号はその出力端子Cから取り出される。各トランスバーサルフィルタは、遅延器16と、加算器22と、係数乗算器20とを少なくとも含んでいる。
【0013】
遅延器16は、1クロックすなわち1周期(T秒)だけの遅延時間を生じさせる機能を有し、例えばDフリップフロップなどを用いる事ができる。加算器222及び係数乗算器20は論理回路にて構成できる。そしてトランスバーサルフィルタの入力端子Aと加算器22との間に配置される係数乗算器20、及び各遅延器の出力と加算器22との間を接続する係数乗算器20をタップと呼ぶことにする。なお、係数の絶対値が1.0である係数乗算器は、遅延器出力端子と加算器の一つの入力端子とをマイナス(図1に例示される)またはプラス極性で接続する接続線と等価であるが、本明細書においてはこれもタップに包含されるものとする。
【0014】
例えば図1に例示される実部側トランスバーサルフィルタ12において、第1タップは係数a1を有する係数乗算器20であり、第2タップは係数a2を有する係数乗算器20である。両係数乗算器20の入力側の間には遅延時間T秒を有する第1の遅延器16が挿入される。そして両係数乗算器からの出力が第1の加算器22により加算される。本具体例において3番目以降の係数は1とする。そして出力端子Bから2番目の係数は再びa2とされ、出力端子Bへ接続される係数は再びa1とされる。
【0015】
図1に例示される虚部側トランスバーサルフィルタ14において、入力端子Aに接続された遅延時間(T/2)秒を有する第1の遅延器16の出力側と係数b1を有する係数乗算器20と第2の遅延器16とに接続される。この場合、第1タップは第1の係数乗算器20である。第2タップは遅延時間T秒を有する遅延器16の出力と加算器22との直接接続である。第2タップ以降は係数1.0とされ、最後の遅延器16からの出力は第1タップと同様に係数b1を有する係数乗算器22を経て出力端子Cへと出力される。
【0016】
実部側において、係数乗算器20の数(すなわちタップ数)がM個(Mは5以上の整数)、遅延器16が(M−1)個、加算器22が(M−1)である。虚部側において、係数乗算器20の数(すなわちタップ数)が(M−1)個、遅延器16が(M−1)個、加算器22が(M−2)個である。本具体例においては、実部側トランスバーサルフィルタの入力側の最初の2個及び出力側の2個の係数の絶対値が1より小であるようにそれぞれ指定され、これに対応した係数乗算器20が、合計4個配置される。それ以外の係数の絶対値を1としたタップの構成は容易である。
【0017】
また、虚部側トランスバーサルフィルタ14においては、最初と最後の係数がb1と指定されこれに対応した係数乗算器20が、合計2個配置される。それ以外の係数の絶対値が1であるタップ構成は容易である。
【0018】
次に、|a1|=0.5、|a2|=0.5、|b1|=0.48として設計したディジタル回路により構成されたトランスバーサル型複素係数フィルタ10のシミュレーション結果につき説明する。
図2(a)は、タップ数11とした場合の、タップ係数配置を表わす。図2(b)は、フィルタ振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
シミュレーションには、MathWorks社のMATLABを用いている。なお、本具体例にかかるディジタル複素係数フィルタ10の特性を太線で表わしている。細線はいわゆるトランスバーサル型複素係数SAWフィルタの特性であるが、後に詳細に説明をする。
【0019】
まず、実部側では、第1タップにおいてa1=−0.5、第2タップにおいてa2=0.5、第3タップ以降第9タップまで絶対値が1で符号がマイナス、プラスを交互に繰り返す。第10タップはa2=0.5、第11タップはa1=−0.5とする。一方、虚部側では、b1=−0.48、第2タップ以降第9タップまで絶対値が1で符号がプラス、マイナスを交互に繰り返す。最後はb1=0.48とする。この場合、好ましくは|b1|=(|a1|+|a2|)×(0.4〜0.6付近の任意値)と選択できる。なお、符号は、加算器に入力される信号の極性を表わしプラスは加算、マイナスは減算を表す。図1及び図2(a)に例示されるように、タップから加算される信号の極性はプラス、マイナスが交互に繰り返される。
【0020】
図2(b)において、横軸は正規化周波数であり縦軸はフィルタを通過する信号の振幅をデシベル(dB)で表わしている。通過帯域の中心周波数は1周期であるTより定まり、本図においては0.5の点により表わされ、この点の振幅はほぼゼロであり減衰が小であることを示している。一方、イメージ周波数を表わす正規化周波数−0.5において、振幅は約―53dBであり、希望波に対して充分に減衰させる事ができている。すなわち、図2(a)に例示される簡単なフィルタ構成によりイメージ抑圧ができる。
【0021】
次に、係数a1、a2、b1の数値を変化させた場合の振幅の周波数特性につき説明する。
図3は、第1具体例の変形例1であり、図4は変形例2を説明するグラフ図である。まず変形例1においては、図3(a)に例示するように、a1及びa2の数値は第1具体例と同様に共に0.5とする。虚部側の係数b1を少し大とし0.5とする。図3(b)は、その振幅の周波数特性である。正規化周波数が0.5で表される希望波周波数近傍の通過帯域特性は、第1具体例とほぼ同様であり低挿入損失にできている。一方、−0.5で表されるイメージ周波数においては振幅がマイナス100dB以上とできており、イメージ信号の減衰量を大とできている。しかし、高減衰量である帯域は第1具体例と比べて狭くなっている。
【0022】
次に、変形例2においては、図4(a)に例示するように、a1=−0.2,a2=0.8,|b1|=0.49とする。図4(b)は、その振幅特性である。希望波近傍の通過帯域特性は、第1具体例とほぼ同様であり低挿入損失にできている。一方、イメージ周波数においては振幅が約マイナス58dBであり第1具体例よりやや大とできている。また、高減衰量である帯域は第1具体例よりやや広くできている。
【0023】
図5は、イメージ近傍における減衰量のb1依存性を表すグラフ図である。
実線によりa1=−0.5、a2=0.5とし、b1を変化させたときの減衰量を表す。また、破線によりa1=−0.2、a2=0.8とし、b1を変化させたときの減衰量を表す。|b1|=0.5において減衰量が無限大となり、|b1|がこれより大であってもこれより小であっても減衰量は低下する。
【0024】
第1具体例及びその2個の変形例で説明したように、a1、a2、b1を変化させることにより、主にイメージ周波数近傍において振幅及びその周波数特性急峻性を制御できる。この結果、この3個のパラメータを選択することにより対象とする通信システムの仕様に適応したフィルタを実現できる。
【0025】
次に、第1比較例にかかるディジタルトランスバーサル型複素係数フィルタにつき説明する。一般には、希望波周波数が高い場合及び多値変調方式の場合、イメージ抑圧比を上げようとして、タップ数を増加し係数をタップごとに少しずつ変化させるトランスバーサルフィルタを設計する。
図6は、タップ数が41であり、係数が漸近的に変化する第1比較例の構成を表わす。上部には、実部側のタップ係数の配列を表わし、下部には虚部側のタップ係数の配列を表わす。
【0026】
図7は、この第1比較例における振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。実線が第1比較例の特性を表わす。イメージ周波数である−0.5の点において、振幅はマイナス70デシベル以上ありイメージ抑圧が可能である。しかしながら、タップ数が41と多く、全てのタップの係数をそれぞれに設計する必要がある。これに加えてディジタル回路を構成するには多数の乗算器が必要となり、回路規模及び消費電力の増大を生じる。ディジタル回路を集積回路により実現しようとすると、より困難となる。これに対して本具体例においては、絶対値が1である係数を有するタップが中央部近傍に配置されているので、回路規模の簡素化と消費電力の低減が実現できる。
【0027】
次に、第2比較例にかかるディジタルトランスバーサル型複素係数フィルタにつき説明する。
図7における一点鎖線は、一定係数からなり11タップを有する振幅特性を表わす。この場合、実部側係数は、(−1、1、−1、1、−1、1、−1、1、−1,1、−1)であり、虚部側係数は、(−1、1、−1,1、−1,1、−1、1、−1,1)とする。イメージ周波数における振幅は約マイナス30デシベルである。このままでもイメージ抑圧効果を有するが、希望波周波数が高い場合や多値変調方式の場合には抑圧比が充分ではない。
【0028】
図6に例示されるように、フィルタ端部近傍においてはタップ係数が小であるために回路を実現するのが困難となる。しかもタップ係数が0.2以下と小であるタップ数が20以上と2分の1以上を占めている。本発明者による検討結果によれば、イメージ周波数近傍において振幅特性を改善するためにタップ端部の影響が中央部付近より小であることが判明した。この結果、第1具体例におけるように実部側の両端部でそれぞれ2個、虚部側の両端部でそれぞれ1個の係数のみを1とは異なる値に設定するだけで図2(b)に例示されるようにイメージ周波数近傍においてイメージ信号を抑圧できることを見出した。
【0029】
以上においては、複素係数フィルタとして図1に例示されるディジタル回路構成によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10を具体例として説明してきた。しかしこれを弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタにより実現することができる。以下、トランスバーサル型複素係数SAWフィルタによる第2具体例について説明する。SAWフィルタは、TV及び通信機器において、RF帯におけるBPF,LPF(Low Pass Filter)、HPF(High Pass Filter)などに広く用いられる。また、IF−BPFとしても広く用いられる。
【0030】
SAWを伝搬する媒質としては、リチウムタンタレート(LiTaO3)、リチウムナイオベート(LiNbO3),水晶などの圧電材料を用いることができる。微細加工技術の進展により3GHzを越える周波数帯においても十分な性能が得られる様になっている。
【0031】
図8は、図1に例示されている回路構成とほぼ等価なトランスバーサル型複素係数SAWフィルタ50の要部を表す模式平面図である。第1具体例の入力端子Aに相当する入力端子Dは送信電極56の正電極部561に接続される。また、負電極562は接地に接続される。正電極部561及び負電極部562はフィンガ部58を含み、これらは互いに交差しており、入力信号により圧電効果を生じてSAWを励振する。フィンガ部58は、多数であっても良い。
【0032】
伝搬されたSAWは再び電気信号に戻されたのち、実部側トランスバースフィルタを構成する実部受信電極52の正電極部521を経由して、第1具体例の出力端子Bに相当する出力端子Eへと伝搬される。実部受信電極52を構成する負電極部522は接地へと接続されている。このように、互いに交差するフィンガ部58を有する正電極部521及び負電極部522を含んだ実部受信電極52が構成される。図8に例示されるフィンガ部58は、図1に例示されるようなタップ係数を有する。フィンガ部が100%重なり合えばタップ係数は1.0であり、重ならないならばタップ係数はゼロとなる。実部受信電極52は遅延時間がT秒となるような間隔を有したフィンガ部58をSAW伝搬方向に多数配列した構成とされる。
【0033】
また、それぞれの受信電極の各タップを構成するフィンガ部において、正電極と接続しているフィンガが送信電極56に近い側に配置された次のフィンガ部58においては、負電極部と接続しているフィンガが送信電極に近い側に配置される。このような交互に繰り返される配列
は、a1及びa2の符号がプラスマイナスを交互に繰り返すことに対応している。
【0034】
同様に、虚部側トランスバーサルフィルタ14を構成する虚部受信電極54を構成する正電極部541を経由して、第1具体例の出力端子Cに相当する出力端子Fへと伝搬される。虚部受信電極54を構成する負電極部542は接地へと接続されている。この場合もフィンガ部58のピッチは遅延時間がT秒となるように設定される。なお、虚部受信電極56のフィンガ部は実部受信電極52より一組少なく、遅延時間がT/2秒だけ内側にずらして配置されている。これは、図1に例示されたディジタル回路構成と同じ作用をする。
【0035】
図2(a)で表された|a1|=|a2|=0.5,|b1|=0.48なるタップ係数を有する複素係数SAWフィルタである第2具体例の振幅の周波数特性を、図2(b)における細線により表した。第1具体例とほぼ同様に、希望波周波数において、挿入損失をゼロとできており、イメージ周波数近傍において振幅をマイナス55デシベルとできている。他の帯域においては、全く同一な周波数特性ではないが、減衰量の大きい箇所がさらに増えるので、イメージ以外の別の雑音も除去でき、フィルタ特性がより向上する。同様に、図4及び図5においても第2具体例の変形である複素係数SAWフィルタは、ディジタル回路構成によるトランスバーサル複素係数フィルタと同様な特性であることが例示される。
【0036】
さらに、第1比較例であるディジタル回路構成によるトランスバーサル複素係数フィルタと同様な係数を有するトランスバーサル複素係数SAWフィルタが構成できる。
図9は、そのうちの実部受信電極を表す模式平面図である。このような電極パターンは重なり合い部分の包絡線の形状からアポダイズ電極と呼ばれる。なお、周波数が高くなるとフィンガの幅及びピッチ(遅延時間Tと対応する)が小となる。この例においては、各フィンガ部間におけるSAWの不要反射などによる特性低下を防止するために、フィンガ部は2本一組で構成されている。
【0037】
このような電極構成において、フィンガ部数が41組と多く、面積が大となる。また、全てのフィンガ部の係数をそれぞれに設計する必要がある。これらに加えて、受信電極の両端部では重なり合いが小である。この結果、その部分の音響的励振効果が小さくなり、フィルタの挿入損失が大きくなる。
【0038】
これに対して、第2具体例においてはa1、a2,b1と3種類の係数を決定するのみで、図2(b)に例示されるようなイメージ抑圧に充分な振幅の周波数特性を得る事ができる。さらに、|b1|=(|a1|+|a2|)×(0.4〜0.6付近)の関係で示されるようにb1の係数は適正な大きさに選択できる。また、係数が1でない領域は、両端部に限定されている。従って、電極の音響的励振効果の小さい部分が最小限にできるので、フィルタの挿入損失が小さくなる。また、サイズも縮小できる。
【0039】
第1及び第2具体例においては、従来から応用されてきた各種フィルタ回路よりも簡単な回路構成のためにフィルタ設計が非常に簡単となる。また、トランスバーサル型フィルタであればディジタル回路及びアナログ回路のいずれにも適用できるので、応用範囲は極めて広い。さらに、最低3個のタップ係数絶対値を設計するだけで、イメージ抑圧比を優先する場合、あるいは2ヶ所でのイメージ信号除去など、用途に応じてフィルタの減衰特性を選択できるという効果がある。
【0040】
次に、このような簡素化された複素係数フィルタを用いることにより、イメージ抑圧が可能となる作用について詳細に説明する。まず図10は、ダイレクトコンバージョン方式におけるマルチバンドまたは広帯域通信のイメージ妨害を説明する模式図である。図10(a)は実数RF信号を表す。中心周波数fcを有する希望波は、マルチバンドまたは広帯域システムを構成する自システム信号として表す。この自システム信号に対するイメージ信号がマイナスfcを中心にして存在する。また、自システム信号の近傍に、他システム信号やノイズが存在する。例えば、図10(a)では自システム信号よりやや低い周波数帯に存在し、これが折り返されたものがイメージ信号の近傍(本図におけるイメージ信号の右側)に存在する。図10(a)に破線で例示された通過帯域特性を有するRF−BPFでは他システム信号または雑音を除去することが困難である。
【0041】
図10(b)は、例えばLow−IF方式の場合の周波数変換器による実数ローカル信号による周波数変換(ダウンコンバージョン)後の信号を表す。Low−IF方式のIF周波数(fc−fL)はスーパーへテロダイン方式と比べて低く選択され、例えば数MHz以下の範囲で選択される。図10(b)において(fc−fL)信号と(fc+fL)信号とは周波数の差が大きいので(fc−fL)のみを取り出すことは容易となる。また自システム信号から変換された希望波(fc−fL)は他システム信号または雑音のイメージ信号(−fc+fL)と重なり、また自システム信号のイメージとも重なる。このイメージ妨害により通信品質が大幅に低下する。
【0042】
図11は、本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いた受信機の構成例の一つを表すブロック図である。アンテナ60により信号を受信し、LNA(Low Noise Amplifier:低雑音増幅器)62にて増幅し、第1具体例のディジタル回路構成または第2具体例のSAWのトランスバーサル型複素係数フィルタ10によりフィルタリングを行う。その後、ダウンコンバータとしての周波数変換器64、復調器66を経て復調が完了する。復調器66は、変調波信号をベースバンドへ復調する。なお、複素係数フィルタ10をディジタル回路で構成する場合には、破線で例示されるA/D変換器68をLNA62とトランスバーサル型複素係数フィルタ10との間に挿入する。
【0043】
図12は、本発明による複素係数フィルタを用いてイメージ抑圧を行う作用につき説明する模式図である。図12(a)はフィルタリング前の実数RF信号を表す。中心周波数fcを有する希望波は、マルチバンドまたは広帯域システムを構成する自システム信号として表す。この自システム信号に対するイメージ信号がマイナスfcを中心にして存在する。また、自システム信号の近傍に、他システム信号やノイズが存在する。例えば、図12(a)では自システム信号よりやや低い周波数帯に存在し、これが折り返されたものがイメージ信号近傍(本図においてはイメージの右側)に存在する。本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ10は、fcを中心とした自システム信号を通過させ、マイナスfcを中心としたイメージ信号を阻止する帯域特性を有する。
【0044】
図12(b)は、複素係数フィルタによるフィルタリング後の複素数RF信号を表す。自システム信号は殆ど減衰することなく周波数変換器へ入る。一方、イメージ信号は複素係数フィルタ10による大きな減衰のために通過を阻止される。他システム信号またはノイズは通過帯域の端部に位置しており、若干減衰しながらも通過して自システム信号の近傍に存在する。一方、他システム信号またはノイズのイメージはイメージ信号と同様に大きな減衰のために通過を阻止される。すなわち、複素係数フィルタ10を通過した段階で、イメージ信号を殆ど除去できる。
【0045】
図12(c)は、例えばLow−IF方式の場合の周波数変換器による実数ローカル信号による周波数変換(ダウンコンバージョン)後の信号を表す。Low−IF方式のIFのIF周波数(fc−fL)はスーパーへテロダイン方式と比べて低く、例えば数MHz以下の範囲で選択される。図12(c)において(fc−fL)信号と(fc+fL)信号とは周波数の差が大きいので(fc−fL)のみを取り出すことは容易となる。また自システム信号から変換された希望波(fc−fL)は他システム信号または雑音のイメージ信号(−fc+fL)と重なりうるが、このイメージ信号は複素係数フィルタにより図11(b)に例示されるように充分抑圧されているので受信性能は低下しない。なお、ゼロIF方式においてもほぼ同様な作用で説明できる。Low−IF及びゼロIF方式はダイレクトコンバージョン方式と呼ばれ、マルチバンド化及び広帯域化に適している。
【0046】
ここで、トランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いたダイレクトコンバージョン方式を従来のスーパーヘテロダイン方式と比較して説明する。
図13は、主として狭帯域通信システムに用いられるスーパーヘテロダイン方式のブロック図である。アンテナ60からの信号は、まずRF−BPFに入り所望の周波数を選択する。この後LNA62で増幅された信号と、局部発振器65からのローカル信号とはミキサ66で乗算されてIF帯に変換される。
【0047】
図14は、図13に例示されたブロック図の各段階における信号を表す模式図である。図14(a)は、RF段における実数信号であり、中心周波数fcの近傍に自システム信号が存在し、そのやや低い周波数帯に他システム信号または雑音が存在する。そして破線で表される通過特性を有するRF−BPF70では、この他システム信号または雑音が十分には除去できない。また、マイナスfcの近傍には、これらが折り返されたイメージが存在する。
【0048】
図14(b)は、IF段における実数信号であり、局部発振器65からの局発信号(ローカル信号)とfcとがミキサ66において乗算されて中心周波数fIFを有するIF信号を生じる。この場合、他システム信号または雑音も周波数変換された後、fIF近傍に発生する。また、これらが折り返されたイメージがマイナスfIF近傍に生じる。狭帯域かつ急峻な減衰特性を有するIF−BPF72を選択することにより、図14(b)における周波数変換された他システム信号または雑音成分を除去することができる。なお、スーパーヘテロダイン方式におけるIF周波数は、一般には数十から数百MHzと高い。このようにRF−BPF70とIF−BPF72との2重のフィルタリングによりイメージ抑圧がなされる。
【0049】
しかしながら、無線通信システムにおけるマルチバンド化及び広帯域化を実現するには、より広帯域と急峻な減衰特性を有するIF−BPFが必要である。しかし、このようなIF−BPFの実現は極めて困難である。また、マルチバンド及び広帯域携帯無線機器においては、端末回路の簡素化、小型化が重要であるがスーパーヘテロダイン方式においてこれを実現することは困難である。
【0050】
これと比較して、図11に例示されるダイレクトコンバージョン方式においては、RF−BPFが不要であり、信号は実質的にはRF−BPFを経由せずにトランスバーサル型複素係数フィルタ10へ入る。さらに、IF信号の周波数はスーパーヘテロダイン方式と比較して低いか実質的には存在しないので、広帯域かつ急峻な減衰特性を有するIF−BPFが不要である。このようにして、本具体例のトランスバーサル型複素係数フィルタ10を用いたダイレクトコンバージョン方式の通信システムでは、2重のフィルタリングを必要とせずにイメージ信号抑圧が可能となり、システムも簡素化できる。
【0051】
図15は、Low−IF方式によるシングルコンバージョン型のダウンコンバータの要部であるIF生成部84及びベースバンド生成部108の一例を表すブロック図である。第1具体例及び第2具体例のようなトランスバーサル型複素係数フィルタ10における実部側トランスバーサルフィルタ12には実信号が端子Aから入力され、複素数信号の実部が出力される。一方、虚部側トランスバーサルフィルタには実信号が端子Aから入力され、複素数信号の虚部が出力される。実部と虚部とは90度の位相差を有する。
【0052】
局部(ローカル)発振器80は、RF信号とIF信号との差の周波数を有しており、実部がCOS波を、虚部がSIN波よりなる複素ローカル信号を出力する。なお、ゼロIF方式においてはRF信号と同一周波数を有するローカル信号を用いる。全複素ミキサ82を構成するミキサ86は、実部側トランスバーサルフィルタ12の出力と複素ローカル信号の実部とを乗算し減算器90の正の入力端に入力する。ミキサ94は、実部側トランスバーサルフィルタ12の出力と複素ローカル信号の虚部とを乗算しその結果を加算器96の一方の入力端に入力する。
【0053】
ミキサ88は、虚部側トランスバーサルフィルタ14の出力と複素ローカル信号の実部とを乗算し加算器96に他方の入力端に出力する、またミキサ92は、虚部側トランスバーサルフィルタ14の出力と複素ローカル信号の虚部とを乗算しその結果を減算器90の負の入力端に入力する。
【0054】
減算器90はミキサ86の出力信号からミキサ92の出力信号を減算し複素数信号の実部としてその結果を端子Gへ出力する。また、加算器96はミキサ88の出力信号とミキサ94の出力信号とを加算し複素数信号の虚部としてその結果を端子Hへ出力する。
【0055】
ベースバンド生成部108は、BPF100、101と、AGCアンプ102、103と、A/D変換器104、105と、局部発信器122と、全複素ミキサ130と、インバランス補正器120と、LPF116,117とから構成される。
【0056】
BPF101、102は、入力される複素数信号に対して、正負のIF信号の周波数を中心とした所定の帯域を通過させ複素数信号を出力する。AGCアンプ102、103は、端子Lに入力した電圧に応じてゲインを制御する。
【0057】
A/D変換器104,105は、AGCアンプのアナログ出力をディジタル信号へ変換し、複素数信号出力をインバランス補正器120へと入力する。A/D変換により、後段の復調器においてディジタル信号処理が可能となる。
【0058】
インバランス補正器120は、補償値メモリ106と、乗算器118とから構成され、2個のA/D変換器における出力信号振幅差及び位相差(インバランス)をディジタル的に補正する。この結果、目的とする帯域においてイメージ抑圧をより良好にできる。この補償値メモリ106には、2個のA/D変換器よりも前のアナログ信号処理部の振幅比及び位相差(補償値)があらかじめ記憶されている。乗算器118は、A/D変換器105の出力信号と補償値メモリ106から入力した補償値とを乗算し、その結果を出力する。
【0059】
局部発振器122は、IF信号と等しい周波数を有し、複素ローカル信号を出力する。全複素ミキサ130は全複素ミキサ82と同一構成であるので、ほぼ同様の作用により端子J及び端子Kにおいて周波数ゼロの成分を含むベースバンド信号が複素数信号として得られる。このようなダウンコンバータにより、マルチバンド化及び広帯域化された携帯無線通信の受信機において、イメージ抑圧が可能となる。
【0060】
これまでは、受信機すなわちダウンコンバージョンの場合につき説明を行った。しかし本発明はこれに限定されずに、送信機すなわちアップコンバージョンであっても同様にイメージ抑圧ができる。以下に、トランスバーサル型複素係数フィルタを用いたアップコンバータにつき説明する。
図16は、そのブロック図である。ベースバンド信号は変調器130により変調後、アップコンバータである周波数変換器132により複素ローカル信号によりアップコンバートされ、トランスバーサル型複素係数フィルタ134へ入力される。その後出力増幅器(PA)138により増幅されて、送信用のアンテナ140から信号が送信される。なお、トランスバーサル型複素係数フィルタ134がディジタル回路からなるディジタルフィルタである場合には、PA138とトランスバーサル型複素係数フィルタ134との間にD/A変換器136を挿入する。
【0061】
図17は、アップコンバージョンの場合におけるイメージ妨害発生の仕組みを説明する模式図である。図17(a)が複素数信号のベースバンド信号である。周波数変換器132により実数信号であるローカル信号とミキサで乗算された後、図17(b)のように、中心周波数fc近傍に希望波およびイメージ妨害信号が存在する。これらが折り返されたイメージがマイナスfc近傍に存在する。
【0062】
図18は、本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタ134を用いてイメージ抑圧を説明する模式図である。ベースバンド段の複素数信号は、アップコンバートされる。フィルタリング前のRF段において希望波とイメージ妨害波が中心周波数fc近傍に、イメージ信号がマイナスfc近傍に存在する。
【0063】
本発明によるトランスバーサル型複素係数フィルタ134は破線のような通過特性を有しており、RF段においてマイナスfc近傍のイメージ信号は減衰量が大であるためにイメージ信号を極めて小とできる。この結果、イメージ抑圧が可能となりイメージ影響の少ない実数信号である送信出力を得る事ができる。
このアップコンバータ及びこれを用いた送信機は、マルチバンド及び広帯域である携帯無線通信システムなどに適している。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明した。しかし、本発明は以上の具定例に限定されるものではない。トランスバーサル型複素係数フィルタを構成する回路素子、SAW材料、電極などの形状、サイズ、配置などに関して当業者が各種設計変更を行ったものでも、要旨を逸脱しない限り本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1具体例にかかるディジタル回路構成のトランスバーサル型複素係数フィルタのブロック図である。
【図2】図2(a)第1具体例におけるタップ係数配置を表わす模式図であり、図2(b)はその振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図3】第1具体例の変形例1であり、図3(a)はタップ係数配置を表わす模式図であり、図3(b)はその振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図4】第1具体例の変形例2であり、図4(a)はタップ係数を表す模式図であり、図4(b)はその振幅の周波数特性を表すグラフ図である。
【図5】イメージ信号近傍において、第1具体例及び変形例の係数b1と振幅の周波数特性との関係を表すグラフ図である。
【図6】第1比較例のタップ係数配置を表す模式図である。
【図7】第1比較例における振幅の周波数特性を表わすグラフ図である。
【図8】本発明の第2具体例にかかるトランスバーサル型複素係数SAWフィルタの模式平面図である。
【図9】トランスバーサル型複素係数SAWフィルタにおける実部受信電極の模式平面図である。
【図10】ダイレクトコンバージョン方式におけるイメージ妨害を説明する図であり、図10(a)はダイレクトコンバージョンにおける実数RF信号であり、図10(b)は周波数変換後信号である。
【図11】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式の受信機のブロック図である。
【図12】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタによるイメージ抑圧の作用を説明する模式図であり、図12(a)はフィルタリング前の実数RF信号であり、図12(b)はフィルタリング後の複素数RF信号であり、図12(c)は周波数変換後信号である。
【図13】スーパーヘテロダイン方式の受信機要部を表すブロック図である。
【図14】図14(a)はスーパーへテロダイン方式における実数信号を表し、図14(b)はIF段における実数信号を表し、図14(c)は最終段実数信号を表す図である。
【図15】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式のダウンコンバータの要部を表すブロック図である。
【図16】本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いたダイレクトコンバージョン方式のアップコンバータの構成を表すブロック図である。
【図17】アップコンバージョンにおけるイメージ妨害を説明する模式図である。
【図18】ダイレクトコンバージョン方式アップコンバータにおいて、本発明のトランスバーサル型複素係数フィルタによるイメージ抑圧の作用を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0066】
10 トランスバーサル型複素係数フィルタ
2 実部側トランスバーサルフィルタ
14 虚部側トランスバーサルフィルタ
16 遅延器
20 係数乗算器
22 加算器
50 トランスバーサル型複素係数SAWフィルタ
58 フィンガ部
64 周波数変換器
132 周波数変換器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個(但しMは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器と、を含み、実数信号は入力端子で分岐されて1番目の遅延器に入力されると共に1番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目の遅延器出力は2番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び前記2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、j(但し、jは整数かつ2≦j≦M−2)番目の遅延器の出力は(j+1)番目の遅延器緒及び(j+1)番目の係数乗算器へ入力され、(j+1)番目の係数乗算器の出力および(j−1)番目の加算器の出力はj番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器の出力が入力されたM番目の係数乗算器の出力と(M−2)番目の加算器の出力とは(M−1)番目の加算器へ入力された後実部信号として出力される第1のフィルタ部と、
(M−1)個の係数乗算器と、直列接続された(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−2)個の加算器と、を含み、前記入力端子で分岐された前記実数信号は遅延時間T/2秒である1番目の遅延器に入力され、前記1番目の遅延器の出力は遅延時間がT秒である2番目の遅延器及び1番目の係数乗算器へ入力され、前記2番目の遅延器の出力は3番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、遅延時間がT秒であるk(但し、kは整数かつ3≦k≦M−2)番目の遅延器の出力は(k+1)番目の遅延器及びk番目の係数乗算器へ入力され、k番目の係数乗算器の出力及び(k−2)番目の加算器の出力は(k−1)番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器出力は(M−1)番目の係数乗算器へ入力され、前記(M−1)番目の係数乗算器の出力と(M−3)番目の加算器の出力とは(M−2)番目の加算器へ入力された後虚部信号として出力される第2のフィルタ部と、
を備え、
前記第1及び第2のフィルタ部において、両端部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項2】
前記第1のフィルタ部において1,2、(M−1)、M番目のタップ係数の絶対値は1.0より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であり、
前記第2のフィルタ部において1、M番目のタップ係数の絶対値は1.0より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴とした請求項1記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項3】
前記第2のフィルタ部における1番目及び(M−1)番目のタップ係数の絶対値は、前記第1のフィルタ部における1番目と2番目のタップ係数の絶対値の和に0.4から0.6を乗じた範囲内であることを特徴とした請求項1または2に記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項4】
圧電材料を含む基板と、
前記基板上に形成され、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する送信電極と、
前記基板上に形成され、前記送信電極からの表面波を受け、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する第1の受信電極及び第2の受信電極と、
を備え、
前記送信電極、第1の受信電極、前記第2の受信電極は遅延時間T秒を有するようなフィンガ部のピッチを有しており、前記第2の受信電極のフィンガ部は前記第1の受信電極より一組少なく、かつ遅延時間がT/2秒異なるようにフィンガ部が内側に向かってずらして配置されており、前記第1の受信電極からは実部信号が出力され、前記第2の受信電極からは虚部信号が出力され、
前記第1及び前記第2の受信電極において、両端部に配置されたフィンガ部の交差割合を表わすタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置されたフィンガ部のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項5】
前記第1の受信電極において、両端部のそれぞれの2組におけるフィンガ部のタップ係数の絶対値は1より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であり、
前記第2の受信電極において、両端部のそれぞれの1組におけるフィンガ部のタップ係数の絶対値は1より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴とした請求項4記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項6】
前記第2の受信電極における1番目及び(M−1)番目のタップ係数の絶対値の和は、前記第1の受信電極における1番目と2番目のタップ係数の絶対値に0.4から0.6を乗じた範囲内であることを特徴とする請求項4または5に記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いた周波数変換器。
【請求項8】
請求項7記載の周波数変換器を用いた通信システム。
【請求項1】
M個(但しMは5以上の整数)の係数乗算器と、直列接続され遅延時間T秒を有する(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−1)個の加算器と、を含み、実数信号は入力端子で分岐されて1番目の遅延器に入力されると共に1番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目の遅延器出力は2番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び前記2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、j(但し、jは整数かつ2≦j≦M−2)番目の遅延器の出力は(j+1)番目の遅延器緒及び(j+1)番目の係数乗算器へ入力され、(j+1)番目の係数乗算器の出力および(j−1)番目の加算器の出力はj番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器の出力が入力されたM番目の係数乗算器の出力と(M−2)番目の加算器の出力とは(M−1)番目の加算器へ入力された後実部信号として出力される第1のフィルタ部と、
(M−1)個の係数乗算器と、直列接続された(M−1)個の遅延器と、直列接続された(M−2)個の加算器と、を含み、前記入力端子で分岐された前記実数信号は遅延時間T/2秒である1番目の遅延器に入力され、前記1番目の遅延器の出力は遅延時間がT秒である2番目の遅延器及び1番目の係数乗算器へ入力され、前記2番目の遅延器の出力は3番目の遅延器及び2番目の係数乗算器へ入力され、前記1番目及び2番目の係数乗算器の出力は1番目の加算器へ入力され、遅延時間がT秒であるk(但し、kは整数かつ3≦k≦M−2)番目の遅延器の出力は(k+1)番目の遅延器及びk番目の係数乗算器へ入力され、k番目の係数乗算器の出力及び(k−2)番目の加算器の出力は(k−1)番目の加算器へ入力され、(M−1)番目の遅延器出力は(M−1)番目の係数乗算器へ入力され、前記(M−1)番目の係数乗算器の出力と(M−3)番目の加算器の出力とは(M−2)番目の加算器へ入力された後虚部信号として出力される第2のフィルタ部と、
を備え、
前記第1及び第2のフィルタ部において、両端部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置された係数乗算器のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項2】
前記第1のフィルタ部において1,2、(M−1)、M番目のタップ係数の絶対値は1.0より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であり、
前記第2のフィルタ部において1、M番目のタップ係数の絶対値は1.0より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴とした請求項1記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項3】
前記第2のフィルタ部における1番目及び(M−1)番目のタップ係数の絶対値は、前記第1のフィルタ部における1番目と2番目のタップ係数の絶対値の和に0.4から0.6を乗じた範囲内であることを特徴とした請求項1または2に記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項4】
圧電材料を含む基板と、
前記基板上に形成され、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する送信電極と、
前記基板上に形成され、前記送信電極からの表面波を受け、正電極部を構成するフィンガ部と負電極部を構成するフィンガ部とが互いに交差する第1の受信電極及び第2の受信電極と、
を備え、
前記送信電極、第1の受信電極、前記第2の受信電極は遅延時間T秒を有するようなフィンガ部のピッチを有しており、前記第2の受信電極のフィンガ部は前記第1の受信電極より一組少なく、かつ遅延時間がT/2秒異なるようにフィンガ部が内側に向かってずらして配置されており、前記第1の受信電極からは実部信号が出力され、前記第2の受信電極からは虚部信号が出力され、
前記第1及び前記第2の受信電極において、両端部に配置されたフィンガ部の交差割合を表わすタップ係数の絶対値は1より小であり、中央部に配置されたフィンガ部のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴としたトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項5】
前記第1の受信電極において、両端部のそれぞれの2組におけるフィンガ部のタップ係数の絶対値は1より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であり、
前記第2の受信電極において、両端部のそれぞれの1組におけるフィンガ部のタップ係数の絶対値は1より小であり、それ以外のタップ係数の絶対値は実質的に1であることを特徴とした請求項4記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項6】
前記第2の受信電極における1番目及び(M−1)番目のタップ係数の絶対値の和は、前記第1の受信電極における1番目と2番目のタップ係数の絶対値に0.4から0.6を乗じた範囲内であることを特徴とする請求項4または5に記載のトランスバーサル型複素係数フィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載のトランスバーサル型複素係数フィルタを用いた周波数変換器。
【請求項8】
請求項7記載の周波数変換器を用いた通信システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−143072(P2007−143072A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337593(P2005−337593)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】
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