説明

複雑な幾何学形状を有する部品を検査するための多周波画像処理

【課題】複雑な幾何学形状を有する部品における小さな亀裂及び他の異常を検出する。
【解決手段】多周波渦電流信号からデータを収集することを含めた渦電流検査を含む。生検査画像の信号対雑音比を向上するために、位相解析を使用して多周波データが組合わされる。その後、通常はエッジ効果信号により隠蔽されると考えられる縁部34の亀裂及び他のきずと関連する信号を分離することを目的として、渦電流きず信号の周波数成分と相関するために、時空間フィルタを使用して画像が再処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、渦電流を使用して構成要素を検査する方法に関し、特に、画像処理の使用によって、渦電流を使用して構成要素を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流検査は、ガスタービンエンジン構成要素の表面の割れ目又はきずを検出するために一般に使用されている技術である。渦電流技術は、被検査材料の中に渦電流が誘起される電磁誘導の原理に基づく。渦電流プローブが被試験構成要素に近接するように移動された場合、プローブのコイルにおいて発生される交番磁界により、試験標本の中に渦電流が誘導される。被試験標本の表面又はその付近に切れ目又は亀裂が存在することにより、渦電流の流れに変化が生じる。渦電流の変化は二次磁界を発生する。二次磁界は渦電流プローブコイル又は渦電流プローブのセンサコイルにより受取られる。コイルは変化した二次磁界を電気信号に変換し、この信号はストリップチャートに記録されてもよい。そこで、渦電流装置の操作担当者は、ストリップチャートに記録された信号を監視し且つ読取ることにより、きずを検出し、その大きさを知ることができる。電気信号が所定の電圧閾値を超えた場合、きず又は欠陥が検出される。
【0003】
現在の渦電流検査方法は、被検査構成要素が穴又は平坦な板などの単純な幾何学形状を有する場合には十分に機能する。しかし、被試験構成要素が高圧又は低圧タービンディスク、ファンディスク、高圧圧縮機ディスクのダブテール溝穴、あるいは歯車の歯などの複雑な幾何学形状を有する場合には、縁部並びに凸形領域、凹形領域及び平坦な領域の間の遷移のような構成要素の複雑な形状が渦電流信号に寄与してしまうため、欠陥と幾何学形状による影響とを識別することが困難になる。
【0004】
そのような複雑な幾何学的特徴は、特定の関心亀裂又は関心きずから発生する信号より大きな渦電流信号を発生する可能性がある。そのため、特に部品の合否を判定するための基礎として信号振幅を使用する場合には、例えば、亀裂又は継目と幾何学的縁部信号とを識別することが困難になる。
【0005】
この問題を解決しようとする試みの1つが米国特許第5,345,514号公報(特許文献1)に記載される。この方法は、部品において繰返される同一の幾何学形状からリアルタイム画像を作成する。それらの画像のうちいくつかが収集された後、画像を隣接特徴から減算する減算処理が開始される。これにより、隣接特徴に共通する主要縁部信号は減少するが、単一の部品の中における特徴間の幾何学的変化に起因する信号は排除されない。唯一つの特徴を検査する場合、減算すべき繰返し画像が存在しないため、この方法は機能しない。
【0006】
従来の単一プローブ渦電流検査は、関連信号と非関連信号とを識別するか又は周波数スペクトルの複数の異なる部分から信号を取除く数多くのフィルタリング技術を利用していた。しかし、それらの技術は、いずれも、縁部信号又は他の幾何学形状信号を十分に減少又は排除できていなかった。
【特許文献1】米国特許第5,345,514号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0229833号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
幾何学形状に関連する有意味信号を識別でき、亀裂及び被試験部品の保全性に関する他の重要な情報を表わす偽信号から有意味信号を削除又は識別できる渦電流検査の方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、部品を検査する方法が開示される。方法は、非平坦面を有する部品を提供することと、渦電流装置を提供することと、2つの異なる位相で部品の表面に関する多周波データを収集することと、多周波データを使用して表面の生検査画像を形成することと、位相解析により生検査画像を強調することと、時空間フィルタを使用して強調画像を再処理することとから成る。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、部品を検査する方法は、縁部を有する部品を提供することと、渦電流装置を提供することと、渦電流プローブを使用して、被検査部品に関して少なくとも2つの異なる周波数で少なくとも2つの位相の位相データを収集することと、第1の位相データを複数の画素を有する第1の単一の多周波位相画像に組合わせることと、第2の位相データを複数の画素を有する第2の単一の多周波位相画像に組合わせることと、第1の多周波位相画像及び第2の多周波位相画像の各々を前処理することと、相関特徴を生成するために各前処理画像に対して時空間相関を実行することと、第1の位相のバイナリ画像及び第2の位相のバイナリ画像を生成するために各前処理位相画像の相関特徴に対して閾値処理演算を実行することと、単一の画像を生成するために生成されたバイナリ画像を組合わせることとから成る。
【0010】
本発明の一実施形態は、関連表示からの渦電流信号を損なうことなく、縁部を含めた複雑な幾何学形状を有する部品を検査できる。また、データを収集及び処理するために必要な時間量を最小限に抑え、表示を適正に評価できるので、他の検査方法と比較して検査の感度を著しく向上できる。
【0011】
本発明の別の実施形態は、欠陥検出を阻止又は隠蔽する可能性のある渦電流信号の望ましくない面を減少又は排除することにより検査感度を改善する。亀裂が発生しやすい応力が集中する場所として知られているが同時に欠陥を隠蔽する信号の面を最も生じやすい領域でもある縁部に至るまで、その縁部を含めた重大な構成要素の特徴を検査する能力が向上することは、特に有益である。
【0012】
本発明の実施形態による方法は、部品の幾何学的特徴に起因して発生する望ましくない信号、縁部信号及び他の任意の検査関連雑音を抑制するために基準信号を必要としない。これにより、検査の速度及び信頼性が向上すると共に、検査のための基準標本が利用できないようなケースにも検査処理を適用できるようになる。更に、本発明の方法は、検査された特徴とその付近の基準特徴との間の固有の変化と関連する誤差を排除する。
【0013】
本発明の実施形態は、PC利用ワークステーション又はそれに類似するマイクロプロセッサ利用プラットフォームにおいて実現可能であり、関連する渦電流検査はリアルタイムで実行及び処理される。
【0014】
欠陥特性の表示が向上することにより、90/50検出確率を他の方法より小さい表示寸法範囲まで拡張できる。
【0015】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の原理を例示する添付の図面と関連して以下の実施形態の更に詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
2つ以上の図面に同様の部分が示される場合、明確にするため、その部分は同一の図中符号を使用して示されるものとする。
【0017】
本発明の実施形態は、医療装置、自動車産業、航空機産業、又は非破壊評価が実施される他の任意の用途を含めた多様な異なる適用用途で使用するための渦電流画像撮影に基づく検査に関する。
【0018】
本発明の実施形態は、縁部又は他の望ましくない幾何学形状の影響、あるいは望ましくない汚染の影響と関連する渦電流信号の特性を識別する。数学的にモデル化されたシグネチャは、部品のきずに起因する渦電流信号の特性を表す。モデルは、プローブの幾何学形状、検査速度及びきずの形状などのパラメータを入力することにより渦電流信号をシミュレートする。渦電流きず信号の形状及び周波数成分を知ることにより、関連のない渦電流信号を識別及び区別することができる。
【0019】
幾何学形状、汚染、材料又は表面に関連する雑音に起因する他のどの非関連信号周波数よりも渦電流きず信号周波数に近い周波数成分と相関するために、時空間フィルタが適用される。大部分の非関連信号周波数を抑制するために自動化閾値処理アルゴリズムが使用され、フィルタパラメータと十分に相関する残りの信号周波数は渦電流きず信号に類似する。しかし、関連するきず信号が依然として見落とされる場合、すなわち「真否定(True Negative)」が起こる場合、あるいは非関連表示が真の表示として識別される場合、すなわち「偽肯定(False Positive)」が起こる場合もある。
【0020】
「真否定」は、通常、他の背景情報に対する信号強度がフィルタパラメータと相関するには不十分である場合、すなわち信号対雑音比(SNR)が低い場合に起こる。「真否定」を最小限にするために、本発明の実施形態は多周波位相解析方式を導入して、複数の周波数から収集されたデータを組合わせることにより、生検査画像データのSNRを向上する。画像データは、その後、表示識別のために時空間フィルタを使用して処理される。
【0021】
「偽肯定」は、通常、検査雑音により強力な表示が発生している場合又は雑音パターンがきずパターンの特性を示すために使用されるフィルタパラメータと無作為に一致する場合に起こる。偽コール減少アルゴリズムは、識別領域のシグネチャパターン解析に基づいて、そのような痕跡信号を排除する。信号処理技術は、望ましくない特徴と関連する信号を排除し、関連する表示のみを残す。
【0022】
識別された関連表示の特性を示すため及び/又は大きさを示すために、伝達関数が使用されてもよい。伝達関数は識別された表示から取出される異なる特徴を入力として受取り、関連きずの寸法尺度を出力として戻す。
【0023】
図1は、非平坦部品の検査を実行する検査システム20の一例を示した図である。本明細書中で使用される用語「部品」は、物品、構成要素、構造、試験標本などを含む本発明の方法により任意の被検査物体を含むが、物体はそれらに限定されない。「非平坦部品」は、被検査部品の領域の表面が平坦ではないそのような物体である。すなわち、非平坦部品は縁部、輪郭又は他の非平坦な表面特徴を有する。図1の非平坦「部品」はディスクの中のダブテール配列を示す。
【0024】
検査システム20は渦電流プローブ22、渦電流計器24、アナログ/デジタル(A/D)変換器25、プロセッサ26及びディスプレイ28を含み、それらは全てケーブルなどにより互いに通信する。そのような検査システム20の物理的構成は、本明細書中で説明される改良点を除いて、当該技術において周知である。渦電流プローブ22は、この場合にはディスクである非平坦部品32を検査するために非平坦部品32に渦電流を誘導し、その結果発生する渦電流応答信号を測定するように構成される。そのような渦電流プローブは当該技術において周知である。
【0025】
渦電流プローブ22は固定されていてもよいが、非平坦部品32に対して移動されるのが好ましい。非平坦部品32に対する渦電流プローブ22の移動は手動操作により実現されてもよく、自動化方式で実現されてもよい。渦電流プローブ22はスキャナ30に任意に装着されるが、スキャナ30に装着されるのが好ましい。スキャナ30は固定された非平坦部品32に対して渦電流プローブを位置決め及び移動する。(あるいは、非平坦部品32が移動され、渦電流プローブ22は固定されてもよい。)オプションであるスキャナ30は任意の種類であってもよいが、通常はプロセッサ26により制御される多軸数値制御装置である。図1に示される一実施形態においては、スキャナ30は、特定の種類の非平坦部品32に対して必要に応じて渦電流プローブ22の並進運動及び回転を実現する。スキャナ30は非平坦部品32に対して渦電流プローブ22を精密に位置決めし、段階的ラスタ方式で渦電流プローブ22を移動する。
【0026】
図2に示されるように、非平坦部品32は、非平坦面35の一例として非平坦縁部34を有し、検査は縁部34又はその付近で実行される。本明細書中で使用される場合、「(ある場所)又はその付近で」は、非平坦部品32の任意の異常を示す渦電流応答信号(すなわち、関心信号)の信号対雑音比が非平坦部品32の非平坦面35、この場合には非平坦縁部34の渦電流応答信号(すなわち、雑音)により減少されることを意味する。「異常」は、渦電流技術により背景雑音を超えて検出可能であり且つ本発明の方法により信号対雑音比を改善できるような関心特徴である。異常の例には亀裂、亀裂の始まり、表面又はその付近の包有物、表面又はその付近の粒子、多孔構造及び空隙などがある。非平坦縁部34が存在することにより、渦電流応答信号の中に雑音が発生し、本発明の方法は渦電流応答信号の信号対雑音比を改善する。
【0027】
輪郭又は縁部34を有する非平坦部品32の種類は多数ある。図1及び図2の例においては、非平坦部品32はタービンディスク36であり、被検査非平坦面35はタービンディスク36の外周部に沿って形成されたディスク溝穴38の一部である。溝穴38は縁部34を有する。他の種類の非平坦面は、例えば、非平坦部品の前面と側面との間の機械加工又は鋳造された縁部、エーロフォイルの前縁部(タービンブレード又は羽根など)、エーロフォイルの後縁部、エーロフォイルのブレード根元部、ファスナ穴又は大きな孔などの意図的に製造された穴、並びに冷却穴などの開口部を含む。本発明の方法においては、渦電流プローブ22は、被検査非平坦部品32の種類に対して動作可能である任意の構成を有してもよい。通常、渦電流プローブ22の物理的構成及び電気的特性は非平坦部品32の種類ごとに最適化される。
【0028】
使用中に負荷が加わった場合、縁部34に関連する応力集中が起こる。その結果、図2に示される亀裂40のような異常は、まず、縁部34又はその付近で始まる。亀裂40は表面縁部亀裂として示されるが、表面縁部付近の亀裂、あるいは表面下縁部亀裂又は表面下縁部付近の亀裂であってもよい。渦電流検査システム20は早期段階でそのような亀裂40を検出するために使用される。分解可能な大きさに達した後に検出されれば、周知の技術を使用して亀裂40を修理でき、亀裂40の修理が不可能である場合には、非平坦部品32は廃棄される。縁部34と関連する渦電流応答信号の中に存在する雑音は、亀裂40の存在を隠蔽しようとする。
【0029】
図3は、本発明の方法の一実施形態のステップを示す。ステップ100において、縁部34を有する非平坦部品32が提供される。ステップ110において、渦電流プローブ22、渦電流計器24、プロセッサ26及び好ましくはディスプレイ28を含む渦電流装置が提供される。図1及び図2に示されるように、渦電流プローブ22は非平坦部品32に隣接して位置決めされる。一般に、渦電流プローブ22が交番周波数電流によって駆動される場合、渦電流プローブ22のコイルに交番磁界が発生される。一実施形態においては、プローブ22は単一のコイルを有する。別の実施形態においては、プローブ22は2つのコイルを有する。交番磁界に応答して、非平坦部品32の中で渦電流が発生される。亀裂40(異常の一例)の存在によって妨害されない限り、渦電流の形態は規則的である。渦電流は二次磁界を発生する。二次磁界は、渦電流プローブコイル又は渦電流プローブの他の種類のセンサにより渦電流応答信号として測定される。測定された渦電流応答信号は電気的出力に変換され、電気的出力は渦電流計器24に供給され、更に解析のためにプロセッサ26に供給される。
【0030】
本発明の方法においては、ステップ120で、渦電流プローブ22は2つ以上の周波数で駆動される。例として、1対の2つの周波数f及びfを使用するが、他の周波数対f...fが更に選択されてもよい。渦電流プローブ22は全ての周波数によって同時に駆動されるのが好ましいが、それらの周波数によって順次駆動されてもよい。選択される周波数は、渦電流検査システムにおいて動作可能である任意の2つ以上の周波数であってもよい。使用される特定の周波数の選択が、探索される異常の大きさ及び種類、非平坦部品の幾何学形状、非平坦部品の製造材料、渦電流信号特性並びに他の考慮事項などの事項によって左右されることは理解されるであろう。
【0031】
プロセッサ26は、以下に説明されるように、渦電流計器24の出力、従って、渦電流プローブ22の出力を解析するように構成される。
【0032】
ステップ130において、渦電流コイルを駆動又は励起している周波数の各々に対して2つの異なる位相でチャネルデータを収集するために、渦電流プローブ22は非平坦部品32の非平坦面35に沿って一連のステップを経て走査される。一実施形態においては、渦電流コイルを駆動又は励起している周波数の各々に対して2つの異なる位相(例えば、垂直(V)及び水平(H))のチャネルデータを収集するために、渦電流プローブ22はV方向42に一連の個別のステップを経て徐々に走査され、その後、H方向44に割出される(尚、表面をほぼ完全に走査できるのであれば、走査が水平方向で割出しが垂直方向であってもよいことが理解されるであろう)。次に、新たな割出し場所において垂直方向42の各ステップが繰返される。非平坦部品32の非平坦面35の所望の領域の走査が実現されるまで、この処理は繰返される。この走査処理は、プロセッサ26のプログラム制御下でスキャナ30により管理される。
【0033】
前述のように、渦電流プローブ22からのアナログ渦電流信号はA/D変換器25によりデジタル信号に変換される。デジタル信号はプロセッサ26により格納され、各非平坦面35の走査動作が終了した後、組合わされて2次元デジタル画像を生成する。各二次元画像は図7に示されるような多数の画像要素、すなわち画素54を含む。通常、画素54は一様な列及び行を成して配列され、X‐Y行列形構造を形成する。各画素は、特定の画素54又は画素群により表現される非平坦面35上の場所における渦電流信号に対応するグレイスケール強さ(Iij)を有する。従って、画像を構成する画素54のグレイスケール強さの変化は、誘導された渦電流によって起こる局所的変化の結果である。縁部、凸面、凹面及び平坦面の間の遷移、他の表面異常、並びにきず又は欠陥などの構成要素の幾何学形状の変化は、渦電流信号に局所的変化を引起こす。その結果、部品の幾何学形状が変化する場所、あるいは欠陥又はきずが位置する場所に対応する画像中の場所において2次元デジタル画像を構成する画素のグレイスケール強さ(Iij)に差が発生する。
【0034】
ステップ140において、複数の周波数からのHチャネルデータは1つの多周波H画像に組合わされる。この画像はディスプレイ28に表示されてもよい。同様に、複数の周波数からのVチャネルデータは1つの多周波V画像に組合わされる。多数の周波数のデータの混合は、インピーダンス平面におけるH成分及びV成分の位相回転及びスケーリングにより実現される。この画像混合ステップの目的は、亀裂40からの最小検出可能特徴の信号対雑音比(SNR)を改善することである。従って、この混合の出力は、異なる周波数からの有効H成分及び有効V成分をそれぞれ表現する2つの別個の画像であり、それらの画像におけるSNRは個別の周波数と比較して改善されている。本明細書中で使用される場合、「SNR」は次のように定義される。
【0035】
【数1】

式中、ROIは関心領域であり、BCKは背景又は雑音を表現する領域である。
【0036】
図5は、2つの位相において1対の周波数の各々に対して収集された画像(H1、H2、V1及びV2)及び位相ごとの組合わせ多周波画像(H_MF及びV_MF)を示す。単一周波数H画像及び単一周波数V画像の各々に特徴的な異常シグネチャ(この場合、実際の検査画像からのチェッカーボードパターンが示される)が現れているが、画像には著しく大きな雑音(例えば、各画像を横断して水平方向に線として伸びるグレイスケールの変化)が付随する。多周波画像は多少の残留雑音(例えば、チェッカーボードパターンの付近の変異領域)を依然として有しており、関連表示を十分に識別し且つその特性を検出するためには更に処理してそれらの雑音を排除しなければならないが、多周波画像においては、単一周波数画像の各々に存在していた当初の雑音の大半は減少されている。
【0037】
通常、ステップ150において、各画像を雑音及びアーティファクトの除去に関して改善するために、多周波H画像及び多周波V画像の各々は1つ以上のフィルタを適用することにより前処理されるが、この前処理は不可欠ではない。これは、低周波成分として現れる縁部を評価し且つそれらを除去するために適切な低域フィルタを使用することを含んでもよい。スペックル雑音を除去するために、ぶれ防止フィルタ又は他の雑音除去フィルタが適用されてもよい。計装から発生する可能性のある高周波雑音を除去するために、高域フィルタが使用されてもよい。以上挙げたフィルタの動作のうち1つ以上が完了した後に残留するアーティファクトを除去するのを助けるために、適切な平滑化フィルタが使用されてもよい。平滑化フィルタは画像中に存在する重大な欠陥特性も回復できる。前処理の出力は、雑音及びアーティファクトを除去するためにそれぞれ強調され、それにより、以後の解析に更に適合する関連する残留表示を強調した多周波H画像及び多周波V画像である。
【0038】
前処理ステップに続いて、ステップ160においては、関心対象である異常シグネチャの周波数特性に合わせて調整されたパラメータを含むように設計されたフィルタによる時空間相関解析を使用して、多周波H画像及び多周波V画像はそれぞれ画像処理される。時空間フィルタのパラメータは検査パラメータから計算される。以前のステップにより得られた解体画像から、この解析は、材料雑音、汚染又は幾何学形状の変化などの原因による非関連信号を除去するので、関連表示からの渦電流信号のみが提示される。すなわち、前処理された各多周波画像は、対象検査の種類に関連する特定のパラメータに照らして空間及び時間に関して解析され、相関特徴が生成される。
【0039】
時空間解析は2つのステップで実現されてもよい。まず、生画像は異なる周波数成分を含むいくつかの画像に解体される。元の生画像は2レベル処理によって処理され、その結果、5つの周波数成分が生成される。第1の成分は低域畳み込みであり、次の2つの成分は水平方向の高帯域及び中帯域の結果であり、残る2つは垂直方向の高帯域及び中帯域の結果である。5つの解体画像から、部品の幾何学的特徴に関連する周波数成分が取除かれ、以後の処理のために関連情報のみが残される。第2に、渦電流きず信号に関連する周波数成分によって画像が再構成される。5つの処理済み成分のうち、一般にきず検出に際して画像を再構成するために実際に使用される成分はごくわずかである。再構成画像は、縁部信号が除去されてきず信号のみが残された画像であり、それによりSNRは更に改善される。
【0040】
ステップ170において、自動化閾値処理演算は、H多周波画像及びV多周波画像の各々に対する時空間解析の結果得られた相関特徴に対して実行される。この演算は潜在欠陥領域を分割する。選択される閾値は、解析される画像の統計に基づいて提供される信号の種類に適応される。一実施形態においては、閾値選択処理は図4に示される下記のサブステップにおいて実現される。
【0041】
ステップ172において、信号閾値を小さな増分ずつ変化させることにより、対象画像の画素の総数に対する画像の閾値処理された画素の数の比(R)が計算される。例えば、信号値{S1, S2,……Sn}で計算された比の値の集合に対してR = {R1, R2,……Rn}と設定する。従って、任意の信号値に関する比Rを次の式に従って定義できる。
【0042】
比=閾値処理された画素の数/画素の総数
次に、ステップ174において、2つの連続する比の値の差、すなわち、Ri-j = {R1 - R2, R2 - R3,……Rn-1 - Rn}が計算される。この比の差は、信号増分が余分な画素を追加しない場合は0である。比における大きな小数変化は、信号の小さな差が多数の画素を閾値処理値に追加させたことを示す。
【0043】
ステップ176において、小数点の集合D = {D1-2, D2-3,……D(n-1)-n}に対して、比の差の小数位値が記録される。尚、Dはステップ174で計算された差の第1の有効桁を表す整数である。例えば、R1 - R2 = 0.00067である場合、第1の有効小数位値であるD1-2 =4である。同様に、R - R =0.00325である場合には、D1-2 =3である。小数位値は画素変化の割合(%)を示す。
【0044】
Di-(i+1) =0である場合、セグメンテーション処理を補助するD(i-1)-iと置き換えられてもよい。
【0045】
ステップ178において、アプリケーションドメインの知識から、信号レベルの重大な変化を指定する特定の小数値d∈{D}が定義される。報告される閾値は、小数位値「d」が初めて現れる信号レベルに相当する信号値Siである。閾値を選択するための決定基準「d」をアプリケーションに基づいてカスタム化できる。
【0046】
従って、閾値処理演算は識別領域から背景領域を除去することを含む。識別領域は、前処理ステップにおいて識別された領域である。一般に、背景領域は0のグレイスケール値により表現され、識別領域は1のグレイスケール値により表現される。従って、2つ以上の識別領域の間の距離がステップ172〜178において判定された選択閾値より小さい場合、ギャップ充填が実行される。ギャップ充填は、2つの識別関心領域の間の画像中の背景領域のグレイスケール値を変化させる技術である。従って、ステップ170の出力はH及びVの各々に対するバイナリ閾値処理画像である。
【0047】
図3に戻って説明する。ステップ180において、H及びVからの2つのバイナリ画像の和集合及び積集合を計算することにより、選択的領域重ね合せ処理を経て2つのバイナリ画像は単一のバイナリ画像に組合わされる。このステップにおいては、識別領域のうちいくつかの領域が潜在欠陥領域として識別されるために必要な基準に適合しない場合、それらの領域を以後の処理から取除くことができる。このステップの出力は、種々のハイライト領域から構成される単一のバイナリ画像である。
【0048】
単一のバイナリ画像が生成されたならば、ステップ190において、バイナリ画像中のハイライト関心領域はトリミング又はプルーニングされ、矩形に近似されてもよい。その後、ステップ200において、偽コール、すなわち「偽肯定」を減少するために、各識別領域は特徴的異常シグネチャであるチェッカーボードパターンに対して試験される。図6は、2つの異常40を例示する単一のバイナリ画像を示す本発明の生成画像を示す。異常40のうち一方は水平画像又は垂直画像のいずれにおいても雑音によって明らかではなかった。
【0049】
ステップ210において、更に対象となる識別チェッカーボード領域の各々から、最大信号振幅、画素数、含まれるエネルギー、エントロピー及び信号のシグネチャを表現する他の属性などの特徴が計算されてもよい。一実施形態においては、識別領域の各々に対して異常寸法の推定を提供するために、それらの特徴のうち1つ以上を含む伝達関数(例えば、A‐hat関数)が使用されてもよい。信号特性及び閉じた形状の寸法に基づいて、特徴は1次元又は2次元のいずれであってもよい。一実施形態においては、偽きず領域を抑制するために、閉じた形状の寸法が使用される。上記の特徴を使用するA‐hat値を使用して、きずの特性を表示できる。一実施形態においては、きずを特徴付けるパラメータはエネルギー及びエントロピーのような特徴により表される。従って、A‐hat値は識別領域の最大振幅、最小振幅、エネルギー、エントロピー、画素及び位相の関数として計算されてもよい。
【0050】
ステップ220において、識別された異常は特徴及び寸法推定と共に報告されてもよいが、異常の存在は任意の時点で報告されてもよいことが理解されるであろう。特徴及び寸法推定は被検査部品に関して重要である。通常、追加処理ステップの実行後まで、それらは未知である。
【0051】
本発明の実施形態に従った方法は、きずを検出し且つその特性を表示するために基準部品又は基準画像を必要としない。従って、方法は検査時間を大幅に短縮し、リアルタイムアプリケーションにより適する。小さなきずを検出するために本発明の方法を使用できる。方法は、他の方法より小さい異常寸法の範囲まで広がるように90/50検出確率(POD)を増加する。すなわち、ある大きさの異常の90%を50%の信頼性をもって検出できる。重要な点は、方法が従来は識別及び解析が困難であった縁部のきずを高い信頼性で検出でき、その特徴を表示できることである。
【0052】
本明細書は実施形態を例示し且つ説明するが、本発明の範囲から逸脱せずに種々の変更を実施でき、実施形態の要素が等価の要素と置き換えられてもよいことは当業者には理解されるであろう。更に、本発明の本質的範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために数多くの変形が実行されてもよい。従って、本発明は、本発明を実施するために最良であると考えられる態様として開示された特定の実施形態に限定されてはならず、本発明は添付の特許請求の範囲の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】縁部を有する非平坦部品に使用される渦電流検査システムを概略的に示した図である。
【図2】被検査ダブテール形状を示した図1の領域2の詳細図である。
【図3】本発明を実施するための方法の一実施形態を示したフローチャートである。
【図4】本発明を実施するための方法のサブルーチンの一実施例を示したフローチャートである。
【図5】本発明を実施するための方法に従って生成された単一周波数水平画像及び単一周波数垂直画像並びに多周波水平画像及び多周波垂直画像を示した図である。
【図6】本発明を実施するための方法に従って生成された組合わせ画像を示した図である。
【図7】個々の画素を示した2次元デジタル画像の一部を示した図である。
【符号の説明】
【0054】
20…渦電流検査システム、22…渦電流プローブ、32…非平坦部品、34…非平坦縁部、35…非平坦面、40…亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品を検査する方法において、
縁部(34)を有する部品(32)を提供することと;
渦電流装置(20)を提供することと;
渦電流プローブ(22)を使用して、被検査部品(32)に関して少なくとも2つの異なる周波数で少なくとも2つの位相の位相データを収集することと;
第1の位相データを複数の画素を有する第1の単一の多周波位相画像に組合わせることと;
第2の位相データを複数の画素を有する第2の単一の多周波位相画像に組合わせることと;
前記第1の多周波位相画像及び前記第2の多周波位相画像の各々を前処理することと;
相関特徴を生成するために、各前処理位相画像に対して時空間相関を実行することと;
第1の位相のバイナリ画像及び第2の位相のバイナリ画像を生成するために、各前処理位相画像の前記相間特徴に対して閾値処理演算を実行することと;
単一の画像を生成するために生成された前記バイナリ画像を組合わせることとから成る方法。
【請求項2】
生成された前記単一の画像の一部をプルーニングすることを更に含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
生成された前記単一の画像における異常シグネチャを識別することを更に含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
異常寸法を評価することを更に含む請求項3記載の方法。
【請求項5】
異常特徴を識別するレポートを生成することを更に含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2つの位相の位相データを収集することは、水平チャネルデータ及び垂直チャネルデータを収集することを含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
単一の位相における2つの周波数のデータを収集することは同時に起こる請求項1記載の方法。
【請求項8】
閾値処理演算は、
画像の画素の総数に対する閾値処理された画素の比を異なる信号値で計算することと;
連続する信号値比の差を計算することと;
差ごとに小数位値を記録することと;
小数値閾値を定義することとを含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
前処理は、低域フィルタ、ぶれ防止フィルタ、高域フィルタ、平滑化フィルタ又はそれらの組合せを適用することを含む請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記位相データは2つの異なる位相に対して収集され、第1の位相に対して収集されるデータは第2の位相に対して収集されるデータと同一の周波数を使用して収集される請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164613(P2008−164613A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338449(P2007−338449)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】