説明

親水性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法

【課題】 アルミニウム合金の意匠性を確保しながら、耐食性に優れ、かつ、親水性能を長期にわたって維持できる新規表面処理方法の提供を目的とする。
【解決手段】 アルミニウム合金1に対して陽極酸化皮膜2を形成する工程と、次に水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬する工程と、その後に二酸化珪素皮膜7を形成する工程を含み、チタン皮膜層4のチタンとしての付着量が10〜150mg/mの範囲であり、二酸化珪素皮膜7が0.1〜2.0μmの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金に施される表面処理であって、陽極酸化皮膜および二酸化珪素皮膜により表面硬度が高く、かつ親水特性を重視した光触媒性能をもつ、耐食性に優れたアルミニウム合金を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金からなる部材は、軽量、加工性が良いなどの優れた特徴があり、アルミサッシ等の建築材料、車両、機械部品、各種電機製品の筐体等に幅広く使用されている。
特に自動車やビル・住宅建材分野などの金属部材、特に高所で風雨に曝される場所に設置される部材の様なメンテナンスフリーとしたい部材においては、汚れ防止機能の付与などに注目が集まっており、親水特性に優れた光触媒機能を付与した自己浄化(セルフクリーニング)部材が求められている。
【0003】
従来、アルミニウム合金部材に光触媒を塗布する方法が有望視されており、例えば特開2002−285357号公報や特開2002−285036号公報のように、二酸化チタン溶液を塗布、加熱して二酸化チタン皮膜を得る方法が知られているが、部材との密着性が弱いことから、温度変化による膨張収縮によって剥離してしまうなどの不具合がある。
この様な問題に対し、有機質の下地を備えることで密着性を改善する方法も考えられるが、光触媒機能により有機物を分解してしまうことから、屋外での長期使用は困難であった。
【0004】
また、特開平10−195694号公報に記載のように、酸化チタンゾル中に陽極酸化処理品を浸漬することで、陽極酸化皮膜の細孔内に担持され、1μmの半導体粒子からなる光触媒膜を得る方法もあるが、実際には、均一な膜をえることが困難であり、効果としては不十分であった。
【0005】
また、特開2001−329396号公報に記載のように、アルミニウム合金部材に陽極酸化処理を施し、チタン化合物を含む熱水中に浸漬することで、光触媒機能を得る方法あるが、この方法ではチタン皮膜過多になり、粉吹きが発生することから意匠性を損なってしまう点と、チタン皮膜が封孔処理を阻害してしまい陽極酸化皮膜の耐食性能が低下してしまう恐れがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−285357号公報
【特許文献2】特開2002−285036号公報
【特許文献3】特開平10−195694号公報
【特許文献4】特開2001−329396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景技術に有する技術的課題に鑑みて、アルミニウム合金の意匠性を確保しながら、耐食性に優れ、かつ、親水性能を長期にわたって維持できる新規表面処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の技術的要旨は、アルミニウム合金の表面処理方法として、アルミニウム合金に対して陽極酸化皮膜を形成する工程と、次に水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬する工程と、その後に二酸化珪素皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
ここで、チタンとしての付着量は10〜150mg/mの範囲がよく、チタン濃度として5〜300mg/Lの範囲、pHを2.5〜5.0の範囲、温度を10〜50℃の範囲に調整した水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に0.5〜10分間の範囲で浸漬するのがよい。
更に封孔処理を行い、ポリシラザン溶液を塗布および乾燥させて二酸化珪素皮膜を形成するのがよく、二酸化珪素皮膜は0.1〜2.0μmの範囲がよい。
【0009】
アルミニウム合金に、陽極酸化処理すると、多孔性の酸化皮膜を形成する。
本発明においては、水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬すると、模式図を図1に示すように、アルミニウム1に形成した陽極酸化皮膜2のバリアー層3を含めて、ポアー(微細孔)5にチタン皮膜層4を形成することが断面解析等により明らかになった。
このように、電解孔中に酸化チタンが充填されることで、陽極酸化皮膜そのものの耐食性が向上した。また、表面に露出しているチタン皮膜層6によって、親水性、光触媒性を付与した。
【0010】
水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬する工程の後に、封孔処理を行い、ポリシラザン溶液を塗布し、乾燥させると、模式図を図2に示すように、二酸化珪素皮膜(シリカ膜)7が形成されて、複合皮膜となった。
このシリカ膜によって、耐腐食性、親水性が向上した。また、光を照射することで、電子、正孔が光励起される。その極性によって、表面に水との反応によってできた水酸基が吸着し、親水性がさらに向上した。
【0011】
ここで、チタン化合物は、水溶性のフッ化物又はリン酸化合物であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、アルミニウム合金の表面に、多孔質性の陽極酸化皮膜を形成した後に、酸化チタン層と二酸化珪素からなる複合皮膜が形成させていることにより、表面が親水性に維持できるとともに、自己清浄(セルフクリーニング)機能が長期に維持されることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アルミニウム合金素材の表面仕上げ後、脱脂洗浄、エッチング、化学研磨、電解研磨およびスマット除去等の前処理に続いて、謡曲酸化処理を行い、水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬した後、封工処理を行い、トップコートを行う構成となっている。
【0014】
本発明の表面処理方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金に施される陽極酸化皮膜に封孔処理等を行う前に、フッ化物等を主成分とする水溶液に浸漬・洗浄させることで、陽極酸化皮膜に無数に存在する電解孔内、バリアー層上に皮膜を形成し、さらに封孔処理後に二酸化珪素皮膜を形成することで親水性能を有し、耐食性等の皮膜性能を格段に向上させる。
【0015】
陽極酸化処理は、電解液でアルミニウムを陽極として電圧を加えて酸化皮膜を得る方法であり、アルミニウム合金の表面に多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、意匠性と耐食性等の皮膜性能を確保することが目的である。
従って、通常はアルミニウム合金の表面を、必要に応じてバフ研磨等を行った後に脱脂洗浄し、アルカリエッチング又は化学研磨を行い、酸洗処理を施す。これを陽極にして、グラファイト等を陰極にし、直流又はパルス波形にて電解される。
【0016】
ここで用いられる電解液としては、硫酸・シュウ酸・リン酸・芳香族スルホン酸などが広く知られている。
陽極酸化処理の後に、必要に応じて、電解着色処理や染色処理を施してもよい。光触媒性能を付与することから、無機系顔料を使用することが望ましい。
陽極酸化処理後に行うチタン化合物を含有する水溶性も浸漬する処理は、陽極酸化皮膜に無数に存在する電解孔内(ポアー)、バリアー層にチタンを主成分とする化成皮膜を形成する。
【0017】
チタン化合物としては、水溶性のフッ化物又はリン酸化合物がよく、チタンを含む水溶性錯フッ化物、リン化合物を主成分とするものである。陽極酸化皮膜に生成する皮膜量としてチタンの付着量が10〜150mg/mとなるように、好ましくは20〜100mg/mとなるように水溶液の濃度や処理条件(処理温度、浸漬時間)を調整して処理を行う。
皮膜量が10mg/m未満の場合、光触媒効果が僅かであり、親水性付与によるセルフクリーニング効果も得られない。
また、皮膜量が150mg/m以上になると、陽極酸化皮膜表面に過剰のチタンが析出し、不均一な外観となり、経済的にも不利である。
【0018】
ここで用いる水溶液中の主成分としては、シュウ酸チタンカリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化チタンアンモニウム((NHTiF)、チタンフッ化水素酸(HTiF)、リン酸チタンなどであり、水溶液の濃度としては、チタン濃度として、5〜300mg/L、好ましくは10〜200mg/Lである。
水溶液のpHは、皮膜の生成状態等に影響を及ぼす。つまりpHが低すぎると皮膜生成が促進されすぎる為、処理ムラになりやすく、pHが高い場合は水溶液中のチタンが析出してしまい、液組成が崩れてしまうため、pHは2.5〜5の範囲が望ましい。
【0019】
処理温度は10〜50℃で好ましくは15〜45℃である。浸漬時間としては0.5〜10分で好ましくは1〜8分である。いずれも条件範囲外の条件で処理を行うと得られる皮膜量が少なくなったり、過多になり均一な皮膜が得られなかったりなどの不具合が生じる。
フッ化物等を主成分とする水溶液での浸漬・洗浄処理後は、水洗にて表面を洗浄すればよいが、その後温風や80℃程度の湯洗処理を行って、表面を乾かしてもよい。
【0020】
封孔処理については、陽極酸化皮膜に無数に存在する電解孔内、バリアー層上に形成したチタン皮膜のさらに表層部に、封孔処理によって水和物層を形成することを目的とする為、酢酸ニッケル等を含有する市販の陽極酸化皮膜用封孔処理剤を用いる方法でよい。
【0021】
二酸化珪素皮膜を形成する方法については、ポリシラザン溶液の塗布方法については特に限定はせず、スプレーコーティング法やフローコーティング法、ロールコーティング法などにより塗布し、80℃の乾燥炉で乾燥させることによって、2μm以下の二酸化珪素皮膜を形成し、基材に固定することができる。
二酸化珪素皮膜を厚膜にした場合、チタン皮膜を完全に覆ってしまうことになり、光触媒機能を維持できなくなるとともに、二酸化珪素皮膜にクラックが生じてしまうことから、皮膜厚さは2μm以下、好ましくは1μm以下が良い。
【実施例】
【0022】
アルミニウム合金A6063−T5(JIS)の押出形材(55mm×200mm×2mm)を、弱アルカリ性脱脂剤(FC−315:日本パーカライジング製)の50g/L溶液により60℃×5分間の脱脂処理を行い、水洗した。
アルカリエッチングは100g/Lの水酸化ナトリウム溶液に50℃×3分浸漬し、水洗後、15%硝酸溶液にてスマット除去を施した。
その後、150〜200g/Lの硫酸水溶液を用い、電流密度100A/mで陽極酸化処理を行うことにより皮膜厚さ10μmの陽極酸化皮膜を形成させた。
【0023】
次に、チタンフッ化水素酸を主成分としたCT−3753(日本パーカライジング製)を用い、チタン濃度100g/L、アンモニア水にてpHを3〜3.5に調整した水溶液中で浸漬処理を行った。
浸漬処理条件としては、処理温度は30℃、浸漬時間は5分としたところ、チタン皮膜量60mg/mを得た。
【0024】
浸漬処理後、陽極酸化皮膜をニッケル系封孔処理剤(DX−200:奥野製薬製)の7g/L溶液にて封孔処理を行った。
封孔処理条件としては、90℃×20分浸漬とした。この様に行ったものを実施例1とした。
トップコートは、ポリシラザン溶液を主成分としたNP140(クラリアントジャパン製)を1%としたものを用い、フローコーティング法および80℃×2hrの乾燥により厚さ0.5μmの皮膜を得た。
【0025】
比較例としては、酸化処理後に行う浸漬処理において、チタンフッ化水素酸を主成分とした水溶液の濃度や浸漬処理条件を変更し、その他は実施例1と同じとした。比較例1は、濃度5mg/L、処理温度10℃×時間0.3分とし、皮膜量5mg/mを得た。比較例2は、濃度300mg/L、処理温度70℃×時間10分とし、皮膜量170mg/mを得た。
また、比較例3として、チタン皮膜を形成する所までは、実施例1と同じとし、封孔処理後に行うトップコートを行わないものとした。
【0026】
実施例1および比較例1〜3の評価結果を、表1示す。
表中、外観は処理ムラ無しを○、処理ムラ有りを×として評価した。
親水性は、紫外線を24時間照射し、水を滴下しその接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−X)により測定し、紫外線照射後の水滴の接触角にて評価した。接触角は、10度以下がよい。
分解性能は、マジックインクの分解試験にて評価した。光源としてBLB(FL6BLB 6W TOSHIBA)を用い、強度1mW/cmで48時間、光を照射し、マジックインクの退色ありを○、退色なしを×とした。
【0027】
耐食性は、キャス試験(JIS Z 2371)に基づく方法で、48時間噴霧試験した後でレイティングナンバー(R.N)評価し、8.5以上を○、それ以下を×とした。
表1に示すように、本発明に係る表面処理をしたものは、外観意匠、光触媒特性、耐食性に優れている。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明における処理方法の模式図(封孔後)を示す。
【図2】本発明における処理方法の模式図(トップコート後)を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 アルミニウム
2 陽極酸化皮膜
3 バリアー層
4、6 チタン皮膜層
5 微細孔(ポアー)
7 二酸化珪素皮膜(シリカ膜)
8 封孔部(水和物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金に対して陽極酸化皮膜を形成する工程と、次に水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に浸漬する工程と、その後に二酸化珪素皮膜を形成する工程を含み、チタンとしての付着量が10〜150mg/mの範囲であり、二酸化珪素皮膜が0.1〜2.0μmの範囲であることを特徴とする親水性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
アルミニウム合金に対して陽極酸化皮膜を形成する工程と、
次に、チタン濃度として5〜300mg/Lの範囲、pHを2.5〜5.0の範囲、温度を10〜50℃の範囲に調整した水溶性のチタン化合物を含有する水溶液に0.5〜10分間の範囲で浸漬する工程と、
その後に、封孔処理を行い、ポリシラザン溶液を塗布および乾燥させる工程を含むことを特徴とする親水性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項3】
チタン化合物は、水溶性のフッ化物又はリン酸化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の親水性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314840(P2007−314840A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146193(P2006−146193)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【Fターム(参考)】