説明

親水性シリカ膜樹脂成形品及びその製造方法

【課題】金型成形時に表面に平滑な非晶質(スキン)層が形成されにくい樹脂成形品であり、しかもその表面への平滑で親水性のシリカ/ポリスチレン膜の形成により油性の異物が付着しにくく絶縁などの電気特性にも優れた親水性シリカ膜樹脂成形品を提供することにある。
【解決手段】ポリシラザン溶液とポリスチレンやポリメタクリル酸メチル等をキシレンに溶解した溶液との混合溶液中に樹脂成形体を浸漬し、高温湿潤下で熱処理することで樹脂成形体表面にシリカ/ポリスチレン複合膜が形成され、平滑な親水性表面を持ったシリカ膜樹脂成形品が製造される。樹脂成形品は自動車用ワイヤハーネスのコネクタ部材などに適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性シリカ膜樹脂成形品に関し、さらに詳しくは、自動車用ワイヤーハーネスに使用されるコネクタのコネクタハウジングのような樹脂製品に好適に用いられる親水性シリカ膜の表面コーティング層が形成された樹脂成形品及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用ワイヤハーネスは、信号や電力を送る電線同士あるいは電線と各種電子機器間を接続するコネクタ、あるいは、電線を結束したり保護する保護材や電線で送られてくる信号を分配するジャンクションボックスなどから構成される。
【0003】
またワイヤハーネスのコネクタには、内導体端子と外導体端子との電気絶縁と相互間の位置決めのため合成樹脂製のコネクタハウジングが使われ、車体内での各使用部位に適した樹脂材料が使用されている。例えば、コネクタに使用される樹脂材料としては、所謂エンジニアリングプラスチックスやスーパーエンジニアリングプラスチックスと称されるもの、例えばポリアミド系(ナイロン66、ナイロン6等)、ポリカーボネイト系、ポリアセタール系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系、芳香族ナイロン系、シンジオクタチックポリスチレン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリフェニレンエーテル系、液晶ポリマー及びこれらを芳香族(アロイ)化した各種樹脂が挙げられる。そしてこれらの材料には、無機添加剤を配合しない非強化品もあるが、ガラス繊維や炭素繊維(チョップドファイバー)を配合して繊維強化したもの、あるいはタルクなどの無機添加剤を配合して材料強化したものなども知られている。
【0004】
そして自動車の用途に使用されるコネクタハウジングは射出成形や射出圧縮成形、あるいはインサート成形によって量産し、成形後のハウジングには、成形後に熱処理が必要な場合を除いて、特別な処理を施すことをせず、所定温度や湿度環境下で保管後、内外導体端子やリテーナ等を挿入組付けする工程を経てコネクタ製品に仕上げられる。
【0005】
しかしながら、タルクのような無機添加剤を配合した樹脂成形品あるいは、ガラス繊維などで繊維強化した樹脂成形品は無機添加剤のサイズ(粒径)や繊維長さによっては樹脂成形品の表面に凹凸ができる。特に金型内での樹脂の流れ方向によっては繊維がそのまま、あるいはその一端が表面に浮き出たり、無機添加剤が表面に浮き出たりすることがある。
【0006】
コネクタハウジング表面に非晶質(スキン)層が存在すれば、高電界での電界ストレスや電気的リークが回避され、あるいは表面抵抗率の低下や耐トラッキング特性の低下が回避できることも見出されているが、ガラス繊維やカーボン繊維を配合した樹脂成形品は、金型温度を高く設定する必要があるため、充分な厚さの非晶質(スキン)層が形成されない。
【0007】
そして、このように無機添加物や強化繊維の飛び出しなどによる微小な凹凸が存在する樹脂成形品の場合には、コネクタハウジングなどの用途では高電界を印加した時に凸部の電界ストレスが高まりリークしやすくなるとともに、表面抵抗率が低下し、耐トラッキング特性も低下するという問題が生じる。
【0008】
また、樹脂の種類によっては表面が疎水性のものもあり、油性の異物が付着しやすい状態にあるが、このような樹脂成形品の場合には電気伝導性の異物の付着は表面抵抗率を低下させリーク電流を増加させるという問題も生じる。
【0009】
一方樹脂成形品の表面に各種性膜をコーティングする技術がいろいろと提案されている。例えば、特許文献1にはポリシロキサン系の硬化性シリコーン樹脂コーティング剤が金属又は金属酸化物表面の塗工性に優れ、硬化後の平滑性、撥水性及び離型性に優れているとして提案されている。ただし表面は疎水性を呈するものである。
【0010】
また特許文献2にはシリカ微粒子を水やアルコール類などの極性溶媒中に分散させ、その極性溶媒中でそのシリカ微粒子をアミノ基含有シランカップリング剤により表面処理(カチオン化)して分散安定性が付与された変性シリカ分散液が提案されている。これを樹脂などの表面にコーティング剤として使用すれば、透明性が高く、平滑なコーティング層を形成されるというものである。
【0011】
さらに特許文献3には、ポリオレフィン樹脂などの樹脂表面を紫外線やプラズマ照射により活性化し、その状態でアクリル酸、メタクリル酸系などの親水性ビニルモノマーをグラフト重合し、親水性のコーティング層を得る技術が開示されている。樹脂表面の湿潤性による染色性や印刷性の向上、あるいは樹脂製カテーテルやコンタクトレンズなどに血液や組織液などとのなじみ性が改善されるとするものである。
【0012】
また特許文献4には、半導体集積回路などの製造に際して、その下地上にポリシラザンを塗布し、得られたポリシラザン膜に熱処理あるいは紫外線照射を施した後、吸水処理を施してシリコン酸化膜に変性する技術が開示されている。半導体集積回路の製造工程における酸化プラズマ処理での酸化を受けにくく、絶縁膜としての使用が可能で、フラットディスプレイの平坦化膜としての使用も可能というものである。
【0013】
さらに特許文献5には、ポリシラザン又はその変性物を主成分とする塗膜を基材表面に形成し、その塗膜を硬化処理した後、アンモニウム塩を含有する高温水で処理することにより、樹脂基板などの表面に緻密なシリカ質セラミック膜を成形するとした技術が開示されている。
【0014】
そして特許文献6には、そのポリシラザン含有コーティング液の組成として、無機あるいは有機のポリシラザンがトリメチレンビスなどの触媒を無機ポリシラザン純分に含有された物が、プラスチック製品などの表面にコーティングされることにより緻密な皮膜が形成され、親水効果等により耐食性、耐酸化性、帯電防止性などが得られるとすることが開示されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−253207号公報
【特許文献2】特開2004−75459号公報
【特許文献3】特開平10−60142号公報
【特許文献4】特開平7−45605号公報
【特許文献5】特開2003−347294号公報
【特許文献6】特開2004−155834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような各種のコーティング処理技術をもってしても、樹脂成形品の材料強度を充分に維持しつつ表面を平滑化し、かつ親水性とし、しかも樹脂表面が非晶質(スキン)層で覆われることによってコネクタハウジングなどの用途に高電界での電界ストレスや電気的リークが無く、表面抵抗率や耐トラッキング特性の低下も生じないという樹脂成形品については開発も提案もされたことは無かった。
【0017】
本発明者は、種々実験を重ねた結果、樹脂成形体の表面にシリカ膜をコーティングし表面を親水化するとともに、ポリスチレンと複合化したシリカ/ポリスチレン膜によって表面を平滑化することで、表面に凹凸のでき易い無機添加剤を配合した樹脂成形品あるいは、ガラス繊維などで繊維強化した樹脂成形品にも良好な電気的絶縁性を付与することができる親水性シリカ膜樹脂成形品とその製造方法を発明した。
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、特に金型成形時に表面にスキン層が形成され難い樹脂成形体表面への親水性シリカ膜の形成により、油性の異物が付着しにくく絶縁などの電気特性にも優れた親水性シリカ膜樹脂成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために本発明に係る親水性シリカ膜樹脂成形品は、請求項1に記載のように、親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜が樹脂成形体の表面にコーティングされてなることを特徴とすることを要旨とする。
【0020】
本発明に適用される樹脂成形体としては、例えば前述のエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックと称されるものが一般的に挙げられるが、更に本発明の趣旨からして、非晶質系樹脂のみならず、非晶質系樹脂に結晶性樹脂を配合したもの、あるいは結晶性樹脂単独のものなどに適用される。例えば、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトル共重合体、ゴム強化ポリスチレン、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、ABS樹脂、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等のメタクリル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリカーボネイト、ポリフェニレンエーテルあるいはポリスチレン等を配合した変成ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂等が好適なものとして挙げられる。さらに、これらの樹脂にタルクなどの無機物やガラス繊維、炭素繊維などを配合して樹脂材料の強度を高めたものにも当然に適用できる。
【0021】
またこの場合、請求項2に記載のように、前記樹脂成形体が自動車用ワイヤハーネスのコネクタ部材に適用されることが望ましい。このような用途は、特に樹脂製品表面が親水性を有していて、高電界環境におけるリーク電流の回避、トラッキング特性の維持等の電気特性が要求される。
【0022】
そして請求項3に記載のように、本発明の親水性シリカ膜樹脂成形品は、ポリシラザンとポリスチレンの混合溶液を樹脂成形体の表面に塗布するか、又は樹脂成形体をポリシラザンとポリスチレンの混合溶液に浸漬し、大気中で乾燥することにより製造されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の親水性シリカ膜樹脂成形品によれば、成形時に表面に凹凸のでき易い無機添加剤やガラス繊維などを配合して強化した樹脂成形品であっても、その樹脂成形品表面にコーティングされた親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜によって、表面が平滑及び親水性となり、油性の異物の付着を防ぐことができる。
【0024】
この場合、請求項2に記載の親水性シリカ膜樹脂成形品によれば、自動車用ワイヤハーネスのコネクタ部材の表面にコーティングされた親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜によって、該コネクタの表面は親水化されるとともに平滑化されるので、高電界を印加した時の電界ストレスを抑制し、油性異物の付着による表面抵抗の低下によるリーク電流を抑え、耐トラッキング性や電気絶縁性を向上させることができる。
【0025】
また、請求項3に記載の親水性シリカ膜樹脂成形品の製造方法によれば、ポリシラザンとポリスチレン又はポリメタクリル酸メチルなどを溶解したキシレンなどの溶液との混合液を用いることにより、比較的低温での加熱処理で、多様な形状及び材質の樹脂成形体に、十分な厚みを持った、平滑で親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜をコーティングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明に係る親水性シリカ膜樹脂成形品について詳細に説明する。初めに図1は本発明の親水性シリカ膜樹脂製品が自動車用ワイヤハーネスのコネクタハウジングに適用された例を分解斜視図で示したものである。
【0027】
図1に示した自動車用ワイヤハーネス10はツイストペア線の例で示すが、電線W,Wの端末に信号受渡し用の内導体端子12a,12bが接続され、所定の誘電率を有する合成樹脂製の2極型誘電体ハウジング14内に装着される。そして該誘電体ハウジング14の外側に前記内導体端子12a,12bを電磁的に遮蔽する外導体端子シェル16に一体的に設けられる二股状のバレル18により電線W,Wが挾着保持される。そして前記誘電体ハウジング14の反対側端面に形成される挿入孔20a,20bに相手側コネクタ22のオス型信号用端子24a,24bが挿入され、電気信号的に接続される。そして更にその外側にコネクタハウジング26が装着され、全体が一体的にアセンブルされた状態に構成されている。
【0028】
このような構成のワイヤハーネスの例えば、コネクタハウジングに本発明が好適に適用されるものであり、本発明は親水性のシリカ/ポリスチレン膜がコネクタハウジングのような樹脂成形体の表面にコーティングされてなるものである。
【0029】
そのコーティング方法としては、例えば、ポリシラザン(出発物質)の溶液を塗布したり、ハウジングを溶液にディッピングすることでコーティングする方法がある。ポリシラザンは大気中の水と反応しシリカを生成するが、膜厚を1μm程度までしか厚くできない。そこで、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチルなどを溶解したキシレンなどの溶液と混合し樹脂塗膜と複合化することで、コーティング膜を25μm程度まで厚くすることが可能となる。
【0030】
ポリスチレンを溶解した5重量%以下のキシレン溶液とポリシラザン溶液を95/5以上の割合で混同し、該コネクタの端子間に塗布するか、あるいはハウジングを溶液に浸漬する。キシレンを除去するために乾燥後、高温湿潤下で熱処理することでポリスチレンとシリカからなるコーティング膜が形成され、平滑な親水性表面をもったハウジングが製造される。
【0031】
ポリシザラン溶液は、低温で硬化反応するものが望ましく、例えばクラリアントジャパン(株)製の「低温硬化タイプL110」がある。
【0032】
そしてこのように上記の溶液中にハウジングをディッピングあるいは塗布し、室温以上でキシレン除去後、120℃で30分以上硬化反応後、80℃以上で相対湿度60%RH以上の高温湿潤下で2〜5時間反応させることで、ポリスチレンとポリシラザンの複合膜が表面にコーティングされる。コーティングされた表面は親水化されるとともに平滑になり、油性異物の付着が少なくなり耐トラッキング特性や電気絶縁性が高まる。
【実施例1】
【0033】
ポリフェニレンスルフィドを用いた2極のコネクタハウジングにディッピングによってシリカ/ポリスチレン複合膜をコーティングした。コーティングに用いた溶液は市販の低温硬化用ポリシラザン溶液(L110)と0.5重量%のポリスチレンを溶解したキシレン溶液を50/50で混合したものを用いた。溶液にコネクタハウジングを1秒間浸漬し、速やかに取り出したのち50℃の空気循環式恒温器中で1時間加熱し、キシレンを除去した。
【0034】
キシレン除去後、80℃95%RHの恒温恒湿槽にハウジングを投入し、4時間保持しポリシラザンを硬化反応させた。その結果ハウジング表面には透明塗膜が形成されていた。
【0035】
この塗膜により、ハウジング表面を親水性とすることができ、油性異物の付着を抑えることができる。
【0036】
また、電解液滴下方式(適合規格IEC Pub.112)を用いて耐トラッキング性試験を用い、該コネクタの耐トラッキング性を測定したところ、コーティング前が150Vであったのが320Vまで向上していた。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0038】
例えば上記実施例において、ポリシラザン溶液とポリスチレンを溶解したキシレン溶液の混合液にハウジングをディッピングしたが、この他にも樹脂成形体の形状、大きさ及びコーティング範囲に応じて、スプレーコート、スピンコート等の適宜方法で塗布することが可能である。
【0039】
また、ポリスチレン以外にキシレンに溶ける樹脂、例えばα−メチルスチレン等を用いてキシレン溶液とし、ポリシラザン溶液と混合して樹脂成形体をコーティングすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る親水性シリカ膜樹脂成形品によれば、樹脂成形体の表面に親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜がコーティングされるものであるから、樹脂成形品としての材料強度を充分に維持しつつ表面が平滑であって、かつ親水性を有し、しかも高電界での電界ストレスや電気的リークが無く、表面抵抗率や耐トラッキング特性の低下も生じないという諸特性が得られ、したがってこのようにシリカ/ポリスチレン複合膜でコーティングされた樹脂成形体は、自動車用ワイヤハーネスのコネクタ部材等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の親水性シリカ膜樹脂成形品の適用例として自動車用ワイヤハーネス用コネクタを分解して示した図である。
【符号の説明】
【0042】
10 自動車用ワイヤハーネス
12a,12b 内導体端子
14 コネクタハウジング
16 外導体シェル
26 コネクタハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性のシリカ/ポリスチレン複合膜が樹脂成形体の表面にコーティングされてなることを特徴とする親水性シリカ膜樹脂成形品。
【請求項2】
前記樹脂成形体が自動車用ワイヤハーネスのコネクタ部材であることを特徴とする請求項1に記載の親水性シリカ膜樹脂成形品。
【請求項3】
ポリシラザンとポリスチレンの混合溶液を樹脂成形体の表面に塗布するか、又は樹脂成形体をポリシラザンとポリスチレンの混合溶液に浸漬し、大気中で乾燥するようにしたことを特徴とする親水性シリカ膜樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89674(P2006−89674A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279229(P2004−279229)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】