説明

親水性非イオン物質含有量の測定装置および測定方法

【課題】オンラインの測定が可能で、特に繰り返し測定した場合であっても、短時間かつ高精度に水中の親水性非イオン物質の含有量を測定できる親水性非イオン物質含有量の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の親水性非イオン物質含有量の測定方法は、親水性非イオン物質を含有する試料水および純水を含む混合液をイオン交換体31に供給する工程と、イオン交換体31から流出した流出液を測定試料として、親水性非イオン物質を質量分析計40により定量する工程と、混合液をイオン交換体31に供給した後に、イオン交換体に吸着したイオンを脱着させる脱着液をイオン交換体31に供給する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の尿素等の親水性非イオン物質の含有量を測定するための測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中には、尿素等の親水性非イオン物質が含まれることがあり、水の用途によっては、その含有量の監視が要求されることがある。水中の尿素の含有量の測定方法としては、比色分析法が知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】日本薬学会編「衛生試験法・注解 2000」、金原出版、2000年、p.810〜811
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、比色分析法では、測定試料にたんぱく質が含まれていると、正の誤差を生じるため、精度が低くなるという問題を有していた。また、定量の下限値が100μg/L程度であり、それより低い濃度での測定が困難であった。
また、尿素等の親水性非イオン物質は水との親和性が高いことから、水から完全分離することが困難であり、その上、親水性非イオン物質を選択的に吸着できる吸着剤がないため、容易に濃縮できなかった。そのため、比色分析において、親水性非イオン物質を含む水溶液を濃縮する際には、濃縮時間が長くなり、その結果、濃縮工程を含めた全工程の時間が10時間以上にも及んだ。
また、水質の監視は、オンラインで測定できることが求められるが、フローインジェクション比色分析によるオンラインの自動測定が実用化されているのみである。
【0004】
ところで、精度が高く、オンラインで測定できる測定方法としては、質量分析計を用いる方法が知られている。しかし、親水性非イオン物質にイオンが共存している場合には、質量分析計によっても、正確に親水性非イオン物質含有量を求めることはできなかった。
そこで、質量分析計により測定する前に、あらかじめイオン交換体によりイオンを吸着させて捕捉することが考えられるが、繰り返し測定すると、測定精度が低下する傾向にあった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、オンラインの測定が可能で、特に繰り返し測定した場合であっても、短時間かつ高精度に水中の親水性非イオン物質の含有量を測定できる親水性非イオン物質含有量の測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 純水を供給する純水供給部と、
該純水供給部から供給された純水中に、親水性非イオン物質を含有する試料水を混合して混合液を得る試料水混合部と、
前記混合液が通されるイオン交換体と、
該イオン交換体から流出した流出液を測定試料として親水性非イオン物質を定量する質量分析計と、
前記イオン交換体に吸着したイオンを脱着させる脱着液を前記イオン交換体に供給する脱着液供給部とを具備することを特徴とする親水性非イオン物質含有量の測定装置。
[2] イオン交換体が陽イオン交換体であることを特徴とする[1]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
[3] イオン交換体が陰イオン交換体であることを特徴とする[1]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
[4] 親水性非イオン物質が尿素である[2]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
[5] 親水性非イオン物質を含有する試料水および純水を含む混合液をイオン交換体に供給する工程と、
前記イオン交換体から流出した流出液を測定試料として、親水性非イオン物質を質量分析計により定量する工程と、
混合液をイオン交換体に供給した後に、イオン交換体に吸着したイオンを脱着させる脱着液を前記イオン交換体に供給する工程とを有することを特徴とする親水性非イオン物質含有量の測定方法。
[6] イオン交換体として陽イオン交換体を用いることを特徴とする[5]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。
[7] イオン交換体として陰イオン交換体を用いることを特徴とする[5]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。
[8] 親水性非イオン物質が尿素である[6]に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の親水性非イオン物質含有量の測定装置および測定方法によれば、オンラインの測定が可能で、特に繰り返し測定した場合であっても、短時間かつ高精度に水中の親水性非イオン物質の含有量を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<親水性非イオン物質含有量の測定装置>
本発明の親水性非イオン物質含有量の測定装置の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の親水性非イオン物質含有量の測定装置(以下、測定装置と略す。)を示す。この測定装置1は、試料水に含まれる親水性非イオン物質の含有量を測定する装置である。
この測定装置1において測定対象になる親水性非イオン物質としては、例えば、尿素等の窒素含有化合物、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン等のケトン類、ジメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。
【0008】
本実施形態例における測定装置1は、純水を供給する純水供給部10と、純水供給部10から供給された純水中に、親水性非イオン物質を含有する試料水を混合して混合液を得る試料水混合部20と、混合液が通されるイオン交換体31をカラムとして備える液体クロマトグラフ30と、液体クロマトグラフ30から流出した流出液を測定試料として親水性非イオン物質を定量する質量分析計40と、液体クロマトグラフ30に脱着液を供給する脱着液供給部50と、液体クロマトグラフ30の下流側かつ質量分析計40の上流側に設置され、流出液の流路を切り換える流路切換弁60とを具備する。
また、測定装置1は、純水供給部10を試料水混合部20に接続する第1の配管71および第2の配管72と、試料水混合部20を液体クロマトグラフ30に接続する第3の配管73と、液体クロマトグラフ30を流路切換弁60に接続する第4の配管74と、流路切換弁60を質量分析計40に接続する第5の配管75と、脱着液供給部50を第2の配管72に接続する第6の配管76と、流路切換弁60に接続され、流出液を測定装置1から排出するための第7の配管77とを具備する。
【0009】
測定装置1を構成する純水供給部10は、純水が充填された純水タンク11と、純水タンク11から純水を試料水混合部20に供給するための純水供給用ポンプ12とを具備する。このような純水供給部10では、純水タンク11中の純水を純水供給用ポンプ12によって試料水混合部20に供給できるようになっている。
【0010】
試料水混合部20は、純水供給部10によって供給された純水に試料水を注入する手段を有する。その注入は自動であってもよいし、手動であってもよい。
また、試料水混合部20は、水を取り扱う設備に接続されて、水を取り扱う設備から採取された試料水を注入できるようになっている。
【0011】
液体クロマトグラフ30としては、公知の高速液体クロマトグラフを用いることができる。
液体クロマトグラフ30が備えるイオン交換体31は、質量分析計40における親水性非イオン物質のイオン化方法に応じて適宜選択する。すなわち、質量分析計40にて、親水性非イオン物質がイオン化して正イオンになる場合には、試料水中に陽イオンが共存すると測定精度が低下するため、イオン交換体31として陽イオン交換体を用いる。陽イオン交換体としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基等の酸基を有する樹脂などが挙げられる。
一方、質量分析計40にて、親水性非イオン物質がイオン化して負イオンになる場合には、試料水中に陰イオンが共存すると測定精度が低下するため、イオン交換体31として陰イオン交換体を用いる。陰イオン交換体としては、例えば、4級アンモニウム基を有する樹脂などが挙げられる。
また、イオン交換体としては、例えば、イオン交換樹脂、シリカゲルイオン交換体、モノリス状有機多孔質イオン交換体等を用いることができる。
【0012】
質量分析計40としては特に限定されない。例えば、質量分析を行う際のイオン化方法は、大気圧化学イオン化法、高速電子衝突法、エレクトロスプレーイオン化法などのいずれであってもよい。
また、分析部は、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型のいずれであってもよい。
【0013】
脱着液供給部50は、脱着液が充填された脱着液タンク51と、脱着液タンク51から純水を試料水混合部20に供給するための脱着液供給用ポンプ52とを具備する。このような脱着液供給部50では、脱着液タンク51中の脱着液を脱着液供給用ポンプ52によって試料水混合部20に供給できるようになっている。
ここで、脱着液は、イオン交換体31に吸着したイオンをイオン交換体31から脱着させて溶離させる液である。イオン交換体が陽イオン交換体である場合の脱着液としては、ギ酸、酢酸等の有機酸の水溶液、塩酸、硫酸等の鉱酸などを用いることができる。中でも、測定装置の腐食を抑制できることから、ギ酸、酢酸がより好ましい。
また、イオン交換体が陰イオン交換体である場合の脱着液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニウム塩等のアルカリの水溶液などを用いることができる。
【0014】
流路切換弁60は、第4の配管74を通過した流出液の流路を、第5の配管75および第7の配管77の一方に切り換えるためのものである。なお、流出液が第7の配管77に通された場合には、測定装置1から排出するようになっている。
【0015】
<親水性非イオン物質含有量の測定方法>
次に、上記測定装置1を用いた親水性非イオン物質含有量の測定方法(以下、測定方法と略す。)について説明する。
本実施形態例における測定方法では、まず、純水供給部10の純水タンク11から純水供給用ポンプ12により純水を、第1の配管71および第2の配管72を介して、試料水混合部20に供給する。
このときに供給する純水は、質量分析計40に試料水を送り込むためのキャリアの役割を果たすものである。また、純水としては、測定精度を高める点では、親水性非イオン物質が含まれないものを使用することが好ましい。
【0016】
次いで、試料水混合部20にて、純水に試料水を注入し、混合して混合液を得る。
次いで、その混合液を、第3の配管73を介して液体クロマトグラフ30に供給し、イオン交換体31に通過させる。このとき、混合液中に含まれるイオンをイオン交換体31によって吸着させて捕捉する。
【0017】
次いで、液体クロマトグラフ30のイオン交換体31から流出した流出液を、第4の配管74を介して、あらかじめ第4の配管74と第5の配管75とが連通するように流路が切り換えられた流路切換弁60に供給し、第5の配管75を介して質量分析計40に供給する。そして、質量分析計40にて、混合液を測定試料として親水性非イオン物質を定量する。
【0018】
その後、純水供給部10からの純水の供給を停止すると共に、流路切換弁60の流路を、第4の配管74と第7の配管77が連通するように切り換える。
次いで、脱着液供給部50の脱着液タンク51から脱着液供給用ポンプ52により脱着液を、第6の配管76、第2の配管72、試料水混合部20および第3の配管73を介して、液体クロマトグラフ30に供給する。これにより、イオン交換体31に脱着液を通過させて、イオン交換体31に吸着したイオンを脱着させて再生させる。イオンを含んだ脱着液は、第4の配管74、流路切換弁60および第7の配管77を介して測定装置1から排出させる。
【0019】
次いで、脱着液供給部50からの脱着液の供給を停止すると共に、流路切換弁60の流路を、第4の配管74と第5の配管75が連通するように切り換える。
上記の一連の工程を所定の間隔で繰り返し行うことにより、所定の間隔で親水性非イオン物質含有量を測定することができる。
【0020】
以上説明した測定装置1および測定方法では、試料水に親水性非イオン物質と共に含まれるイオンを、液体クロマトグラフ30のイオン交換体31によって捕捉できるため、質量分析計40では、イオンが共存しない測定試料で親水性非イオン物質の含有量を測定できる。しかも、混合液をイオン交換体31に通した後に、脱着液供給部50によって脱着液をイオン交換体31に供給するため、イオン交換体31に吸着したイオンを脱着させることができる。その結果、繰り返し測定する場合には、再生されたイオン交換体31に混合液を通すことができるため、充分にイオンを捕捉することができ、測定精度の低下を防止できる。これらのことから、上記測定装置1および測定方法によれば、繰り返し測定しても親水性非イオン物質の含有量を高精度に測定できる。
また、上記測定装置1および測定方法では、試料水濃縮操作がないため、短時間に測定できる。
さらに、上記測定装置1および測定方法では、試料水混合部20に水を取り扱う設備を接続することにより、オンラインで測定できる。
【0021】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。
例えば、上記実施形態例では、流路切換弁60を具備して流出液の流路を切り換えていたが、流路切換弁60を具備せずに流出液の全てを質量分析計40に送っても構わない。
また、上記実施形態例では、イオン交換体31が液体クロマトグラフ30に備えられていたが、液体クロマトグラフ30に備えられていない単体のものであっても構わない。例えば、固相抽出カラム、イオン交換樹脂を充填したカラム等であってもよい。
【0022】
上述した測定装置および測定方法は、半導体、液晶などの電子部品の製造に使用する水の設備、水道水用の浄水場、医療用水の製造設備、発電所における微量の親水性非イオン物質の監視に好適に利用できる。
また、水中の親水性非イオン物質を分解する装置における分解量の監視に利用できる。
【実施例】
【0023】
上記測定装置1を用いて、表1に示す試料水の尿素含有量を、以下のように測定した。
まず、純水供給部10の純水タンク11から純水供給用ポンプ12により純水を、第1の配管71および第2の配管72を介して、試料水混合部20であるオートサンプラーに流量0.2mL/分で供給した。
次いで、試料水混合部20にて、純水に試料水を注入して混合液を調製した。次いで、その混合液を、第3の配管73を介して液体クロマトグラフ30(アジレントテクノロジー社製Agilent1100)に供給し、イオン交換体31(陽イオン交換樹脂、東ソー(株)製IC−Cation、内径4.6mm×長さ50mm)に通過させた。
次いで、液体クロマトグラフ30のイオン交換体31から流出した流出液を、第4の配管74を介して、あらかじめ第4の配管74と第5の配管75とが連通するように流路が切り換えられた流路切換弁60に供給した。さらに、第5の配管75を介して質量分析計40(アプライドバイオシステムズ社製API 3200QTRAP LC/MS/MSシステム)に供給して、尿素を定量した。測定結果を表1に示す。
【0024】
純水の供給開始から10分後に、純水供給部10からの純水の供給を停止すると共に、流路切換弁60の流路を、第4の配管74と第7の配管77とが連通するように切り換えた。
次いで、脱着液供給部50の脱着液タンク51から脱着液供給用ポンプ52により脱着液である0.1質量%のギ酸水溶液を液体クロマトグラフ30に供給し、イオン交換体31に脱着液を通過させた。イオンを含んだ脱着液は、第7の配管77を介して測定装置1から排出させた。
次いで、純水の供給開始から15分後に、脱着液供給部50からの脱着液の供給を停止すると共に、流路切換弁60の流路を、第4の配管74と第5の配管75とが連通するように切り換えた。そして、再び、純水供給部10の純水タンク11から純水供給用ポンプ12により純水を試料水混合部20であるオートサンプラーに供給した。
はじめの純水の供給開始から20分後には、試料水混合部20を流れる液が、脱着液から純水に置換されたことを確認した。よって、この測定装置1における測定時間は20分であった。
【0025】
【表1】

【0026】
上記測定方法では、ギ酸によってイオン交換体が再生されているから、2回目以降の測定でも、1回目と同様の測定精度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の親水性非イオン物質含有量の測定装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 測定装置(親水性非イオン物質含有量の測定装置)
10 純水供給部
11 純水タンク
12 純水供給用ポンプ
20 試料水混合部
30 液体クロマトグラフ
31 イオン交換体
40 質量分析計
50 脱着液供給部
51 脱着液タンク
52 脱着液供給用ポンプ
60 流路切換弁
71 第1の配管
72 第2の配管
73 第3の配管
74 第4の配管
75 第5の配管
76 第6の配管
77 第7の配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水を供給する純水供給部と、
該純水供給部から供給された純水中に、親水性非イオン物質を含有する試料水を混合して混合液を得る試料水混合部と、
前記混合液が通されるイオン交換体と、
該イオン交換体から流出した流出液を測定試料として親水性非イオン物質を定量する質量分析計と、
前記イオン交換体に吸着したイオンを脱着させる脱着液を前記イオン交換体に供給する脱着液供給部とを具備することを特徴とする親水性非イオン物質含有量の測定装置。
【請求項2】
イオン交換体が陽イオン交換体であることを特徴とする請求項1に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
【請求項3】
イオン交換体が陰イオン交換体であることを特徴とする請求項1に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
【請求項4】
親水性非イオン物質が尿素である請求項2に記載の親水性非イオン物質含有量の測定装置。
【請求項5】
親水性非イオン物質を含有する試料水および純水を含む混合液をイオン交換体に供給する工程と、
前記イオン交換体から流出した流出液を測定試料として、親水性非イオン物質を質量分析計により定量する工程と、
混合液をイオン交換体に供給した後に、イオン交換体に吸着したイオンを脱着させる脱着液を前記イオン交換体に供給する工程とを有することを特徴とする親水性非イオン物質含有量の測定方法。
【請求項6】
イオン交換体として陽イオン交換体を用いることを特徴とする請求項5に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。
【請求項7】
イオン交換体として陰イオン交換体を用いることを特徴とする請求項5に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。
【請求項8】
親水性非イオン物質が尿素である請求項6に記載の親水性非イオン物質含有量の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−257773(P2009−257773A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103738(P2008−103738)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】